降圧薬2

著者:石川太朗

発行:幻冬舎

出版:2016年7月

目次は”降圧薬1”を参照ください。

第3章 有酸素運動、健康体操、ヨガ…… 血圧数値を劇的に改善する「運動法」

一 有酸素運動の血圧改善効果

●有酸素運動は薬以上の効果を示す!

図3-1 血圧状態ごとの有酸素運動による血圧低下量

画像出展:「降圧薬の真実」

 

・正常血圧の人に比べ、高血圧および高血圧前症の人は有酸素運動による効果は大きい(収縮血圧:マイナス8.3mmHg/拡張期血圧:マイナス5.2mmHg)。[“平均”は“正常血圧”の人も含めた数値です]

●血圧を下げるポイントは運動の「強度」

表3-1 運動強度と血圧の関係

画像出展:「降圧薬の真実」

 

・表を見ると、低強度の運動では血圧を下げるのは難しく、中強度または高強度の運動でないと効果は期待できない。

高強度の運動は高血圧の人にとってリスクが高いので行ってはいけない。

1.参考となる論文:1993年発行の「Clinical and Experimental Pharmacology and Physiology」誌に掲載された“Crossover comparison between the depressor effects of low and high work-rate exercise in mild hypertension

図3-2 強度別の有酸素運動中の血圧変動

画像出展:「降圧薬の真実」

 

・日本で行われた研究で、高強度の有酸素運動のリスクを示している。

・黒丸が高強度、白丸が中強度の運動である。高強度の有酸素運動を行うと、安静時の収縮血圧(150mmHg弱)が一気に50mmHgも上がってしまい危険である。一方、中強度の場合の上昇は10mmHg程度と上昇は少ない。

高血圧の人は有酸素運動を中強度で行うことが望ましい。中強度の運動とは余剰心拍数の40~60%で行う運動である。

40歳、脈拍70の人の余剰心拍数:114~136

①220-年齢(この数値は最大心拍数の推定値)…220-40=180

②最大心拍数(180)-脈拍(70)=予備心拍数(110)

③運動強度40%の心拍数は、脈拍に予備心拍数の40%を足したもの…70+110×0.4=114

④運動強度60%の心拍数は、脈拍に予備心拍数の60%を足したもの…70+110×0.6=136

表によると、50歳、心拍数(脈拍)70の人の“適切な心拍数”は、110~130である。

表3-2 適切な心拍数(20~65歳)

画像出展:「降圧薬の真実」

 

●週30分の運動は、「日本一の薬」を超える!

・週150分未満の運動と血圧改善効果についての研究

1.参考となる論文:2003年発行の「American Journal of Hypertension」誌に掲載された“How much exercise is required to reduce blood pressure in essential hypertensives: a dose-response study

図3-3 運動時間と血圧の変化の関係

画像出展:「降圧薬の真実」

 

・日本人を対象とした研究である。

週30~60分の運動でも、収縮期血圧:マイナス7mmHg/拡張期血圧:マイナス6mmHg程度の効果が期待できる。※左から2番目の棒グラフ

・この論文には運動の仕方にも言及されており、それによると、運動を週1回まとめて行っても、週5回以上に小分けに行っても効果は特に変わらないということである。[ただし、運動強度は中強度(余剰心拍数40~60%)が前提となる]

●ウェイトトレーニングと血圧の関係

・『ウェイトトレーニングが筋力や筋肉量の向上に役立つことは、広く知られています。ダイエットにも有効であり、最近流行となっています。なお、私はボディビルの大会出場のために27㎏の減量に成功しましたが、その際、運動はウェイトトレーニングしか行いませんでした。

また、ウェイトトレーニングが肩こり、腰痛、膝の痛みにも効果的であることも有名だと思います。事実、私のわずか10分ほどの説明で、「明らかに良くなった」、「痛み止めの注射がいらなくなった」、「月1万円もかかっていた病院、薬代が1か月で0円になった」と驚くべき効果をあげた患者さんがたくさんいます。これは私の腕が特別に良いというのではなく(それなりに研究はしてきましたが)、適切なウェイトトレーニングを行えば薬以上の効果が出るという科学的事実がそのまま表れたに過ぎません。

他にも、血糖値の改善、骨密度の改善、様々な疾患に対するリハビリテーションの一環として役立つことも示されています。

このように健康に役立つウェイトトレーニングですが、実は血圧にも効果的なのです!実際、海外の高血圧に関する医学専門誌ではウェイトトレーニングを高血圧の人に役立つエクササイズとして紹介しています。

表3-5 ウェイトトレーニングによる血圧の変化

画像出展:「降圧薬の真実」

 

 

・このデータから低強度の場合、収縮期血圧:マイナス5.8mmHg/拡張期血圧:マイナス4.7mmHgの効果が期待できる。

・低強度のウェイトトレーニングとは、ギリギリ挙げられる最大重量の30~40%とされているが、危険を冒して最大重量を計測する必要はない。1セット20回以上、余裕をもって反復できる重量であれば、40%を超えることはないので安全にウェイトトレーニングができる。頻度は週2、3回。なお、20回以上できる負荷であっても、決して頑張るようなことがあってはならない。また、トレーニング中は呼吸を止めてはいけない。息を止めると急に血圧が上がり危険である。

三 血圧改善効果のあるその他の運動

●とてもお手軽な握力運動

・健康番組にも紹介された有名な方法である。

1.参考となる論文:2010年発行の「Journal of Hypertension」誌に掲載された“Isometric handgrip exercise and resting blood pressure: a meta-analysis of randomized controlled trials

握力を鍛えるだけの運動であるが、その効果は驚くべきものである。収縮期血圧:マイナス13.4mmHg/拡張期血圧:マイナス7.8mmHg程度の効果が期待できる。

・実験期間は8~10週間であり、効果は3か月以内に出ている。

・方法

①最大筋力の30~40%程度の軽いグリッパー(握力を鍛える器具)を2分間握る。

②1~3分間休む。

③ ①②を4回繰り返す。

④ ①②③を週3回行う。3日連続より、月・水・金のように1日空けた方が効果は出やすい。

1.参考となる論文:2015年発行の医学雑誌「Lancet」誌に掲載された“Prognostic value of grip strength: findings from the Prospective Urban Rural Epidemiology(PURE) study

握力は健康を測る指標として非常に重要であることが示されている。

・驚くべきことに血圧よりも重要であるとされている。

・『樹上生活を行ってきた私たちのご先祖の中で、握力のない者は木にうまく上ることができず、肉食獣に食べられてしまったことが予想されます。そして現代においても握力のない者は健康を失うリスクが高いことが示されてしまいました。握力の重要性は霊長類にとって不変の法則なのかもしれません。』 

●動かずにできるアイソメトリック運動で血圧が改善する!?

・力を入れて握り続ける握力運動はアイソメトリック運動(等尺性運動)というが、握力に限らずアイソメトリック運動で血圧を下げることができる。

1.参考となる論文:2015年発行の医学雑誌「Mayo Clinic Proceedings」誌に掲載された“Isometric exercise training for blood pressure management: a systematic review and meta-analysis

研究によると、収縮期血圧:マイナス6.77mmHg/拡張期血圧:マイナス3.96mmHgの効果があったとされている。

アイソメトリック運動

画像出展:「降圧薬の真実」

 

 

第5章 ケース別に学ぶ「運動」と「食事」の最適な組み合わせ方

四 医師とともに薬を減らすには

●降圧薬の減量、中止に向けて目標値を決める

・これまでの内容から「血圧とリスク」「降圧薬の効果」から、目標となる数値の目安をまとめた。

図1-6 降圧薬の使用と血圧レベルと脳卒中発症リスクの関係

画像出展:「降圧薬の真実」

 

 

・『この数値を一つの根拠として、降圧薬の減量、中止を医師に申し出るタイミングを見計らってください。なお、「中止」とは「通常量の降圧薬を1種類やめる」という意味です。』

・『ただし、75歳以上の方は、収縮期血圧120mmHg未満、拡張期血圧80mmHg未満 で健康リスクが高くなる恐れがあるので、もしこの数値になったなら、即座に薬の減量、中止を申し出てください。今飲んでいる量の降圧薬は、お金の無駄だけではすまない恐れがあるのです。』

●医師にどのように切り出すか?

生活習慣を改め、血圧が十分に下がりました。毎日血圧を測り、家での血圧も安定しています。それでは私たちからどのように薬の減量、中止を医師に切り出せば良いのでしょうか?

ここはやはり正々堂々と、「自分なりに勉強して生活習慣の改善に取り組んできました。以前に比べ、血圧はかなり下がったと思います。薬を一度減らしてみてもらえませんでしょうか? 数値が悪化するならまた戻してくれて構いませんので」と発言しましょう。

このように生活習慣改善に積極的である姿勢をとれば医師も減らしやすくなるはずです。減らしたことにより血圧に問題が出るならば戻しても良いということを話し、医師が薬を減らしやすくするように持ち込むわけです。この表現なら医師と衝突する心配もなく切り出すことができるはずです。

金銭負担が気になることも併せて盛り込んでも良いでしょう。ほとんどの医師は金銭負担を考慮する人格を持っています。金銭負担が減れば助かるのはあなたの財布だけではありません。国全体の財政が助かるのです。

もちろん、ふらつき、めまい、脱力感がある。拡張期血圧70mmHg未満であるなど健康に悪影響を及ぼす恐れがあるならば即座に減量を申し出るべきです!

医師に申し出るのは勇気が必要かもしれません。しかし、ほとんどの医師もわかっています。必要以上に血圧を下げる必要がないことを。薬の効果は実はそれほど大きなものではないことを。そして、最初は高かった血圧がしっかりと改善しているのは薬のおかげではなく、あなたの努力の成果であることを……。きっと良い返事が返ってくると思います。

降圧薬1

著者:石川太朗

発行:幻冬舎

出版:2016年7月

慢性腎不全で高血圧の薬を飲んでいる患者さまの担当医が代わり、高血圧の薬がすべて替わるということがありました。

なお、当院では患者さまの血圧と脈拍を測定していますが(手首で測る血圧計で、ベッドに仰向けになった状態で測るため座位に比べ低めに出ると思います)、この患者さまの血圧は収縮期血圧130前後、拡張期血圧65前後であり、個人的には降圧薬でうまくコントロールされているという印象を持っていました。そのため、何故、薬を替えられたのか不思議に思いました。

下記は処方されていた降圧薬の前と後です。

■前

・ニフェジピン(Ca拮抗薬)

・シルニジピン(Ca拮抗薬)

・アムロジピン(Ca拮抗薬)

・アイミクス(長時間作用型ARB/持続性Ca拮抗薬配合剤) 

 ※アイミクスは、イルベサルタンとアムロジピンの配合剤

・ルプラック(ループ利尿薬)

■後

・アムロジピン(Ca拮抗薬)

・イルアミクス(長時間作用型ARB/持続性Ca拮抗薬配合剤) 

 ※イルアミクスはアイミクスのジェネリック薬剤

・イルベサルタン(長時間作用型ARB)

・トリクロルメチアジド(チアジド系降圧利尿剤)

・フロセミド(ループ利尿薬)

この中で非常に気になったのは、“イルベサルタン”という薬です。

ネットで調べたのは、KEGGというサイトです。このサイトに頼ったのは、①検索上位のサイトであったこと。②母体が信頼できると思ったこと。③非常に詳しく説明されていたこと。 の3点です。 

KEGG: Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes

『KEGG は分子レベルの情報から細胞、個体、エコシステムといった高次生命システムレベルの機能や有用性を理解するためのリソースです。とくにゲノムをはじめとしたハイスループットデータの生物学的意味解釈に広く利用されています。また KEGG MEDICUS では医薬品添付文書など社会的ニーズの高いデータとの統合も行われています。

そして、“イルベサルタン”に書かれていた中で特に気になった部分は次の内容です。

KEGGのページ(左をクリックしてください)

●『両側性腎動脈狭窄のある患者又は片腎で腎動脈狭窄のある患者においては、イルベサルタンによる腎血流量の減少や糸球体ろ過圧の低下により急速に腎機能を悪化させるおそれがあるので、治療上やむを得ないと判断される場合を除き、使用は避けること。

●『高カリウム血症の患者においては、イルベサルタンにより高カリウム血症を増悪させるおそれがあるので、治療上やむを得ないと判断される場合を除き、使用は避けること。また、腎機能障害、コントロール不良の糖尿病等により血清カリウム値が高くなりやすい患者では、高カリウム血症が発現するおそれがあるので、血清カリウム値に注意すること。』

特に注目したのは『片腎で腎動脈狭窄のある患者』という点です。これは、この患者さまは片腎のため、万一、腎動脈狭窄があるとすれば、『治療上やむを得ないと判断される場合を除き、使用は避けること』に該当することになります。

ご参考1:こちらの”倉敷中央病院 心臓病センター 循環器内科”さまのサイトに、腎動脈狭窄の原因と結果などが詳しく紹介されていました。 

腎動脈狭窄症の原因とその結果

『腎動脈の狭窄の頻度は、軽症なものも含めると意外に多く、高齢者をランダムに血管エコーでスクリーニングすると6%前後に狭窄を持つ人がいるといわれています。55歳以上の亡くなった方を解剖した研究では、15%に腎動脈に狭窄があったと報告されています。

腎動脈が細くなる原因として、その90%以上は加齢に伴う動脈硬化です。残りの10%弱は比較的若年者に見られる、動脈硬化によらない腎動脈狭窄症で、細くなった場所の顕微鏡による観察から、線維筋性異形成症と呼ばれています。』

ご参考2イルベサルタンなどのARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)には腎保護作用があるとされています。こちらの”大森病院 腎センター”さまのサイトに、腎保護作用についての説明がされています。イルベサルタンは腎保護作用があるという点から中長期的には腎臓にとっても良い薬のようです。

『糸球体にかかる圧力のことを「糸球体内圧」と呼びます。降圧薬の中にこの糸球体内圧をさげる薬があります。「アンギオテンシン変換酵素阻害薬:ACE‐I」や「アンギオテンシン受容体拮抗薬:ARB」といわれる薬は全身の血圧を下げる働きとともに糸球体内圧を特別にさげる働きがあります。

糸球体内圧が低下するのでろ過される血液が減ることがあり、腎臓の働きとしては低下してしまうこともあります。しかし中長期的にみて腎臓への負担を減らすことになり、結果として腎臓を長持ちさせることができます。

現在ではデータの蓄積により、腎臓病をもつ高血圧患者さんへの第1選択薬として積極的に使用されるようになりました。』

長い前置きになってしまいましたが、今回、高血圧の薬(降圧薬)について詳しく知りたいと思った経緯は、上記のようなことがあったためです。

そして、購入した本は、薬剤師であり、ご自身が薬に頼らず血圧を下げられた経験をお持ちの石川太朗先生が書かれた『降圧薬の真実』でした。

ブログは、最初に“あとがき”の一部をご紹介しています。これは、石川先生がこの本を書かれた理由を知ることができるためです。次いで目次をすべて書き出していますが、その中の黒字がブログで取り上げた項目です。

あとがき

『高血圧はいわば国民病ともいえる病であり、血圧を下げる方法として、薬、食事、サプリメントに関するたくさんの情報があります。

その一方で、「降圧薬は一生飲み続けなければならないのか」という疑問に対しては具体的な答えを見つけるのが難しいのが実情です。事実、私は大型書店の専門書コーナー、母校の京都大学附属図書館をはじめ、東京大学附属図書館、慶応義塾大学信濃町メディアセンターなどのいろいろなところで資料を探してみましたが、満足のいく答えを示した本を見つけることができませんでした。

私は薬剤師なので、しばしばこの、「降圧薬は一生飲まなければならないのか」という質問を受けてきました。自身の体験から、生活習慣を改善すれば降圧薬を飲まないですむことは理解していましたが、それに対して具体的な説明ができない状態でした。これは薬のスペシャリストとしていかがなものかと思い、調べようとしたのが本書の執筆を始めたきっかけです。』

目次

はじめに

第1章 疑惑だらけの「降圧薬」治療

一 血圧の薬は死ぬまでやめられない?

●氾濫する情報に踊らされる高血圧患者たち

●医師自身も騙されている?

●半分以上の人はやめられる!科学的に証明されている!

●まとめ

二 そもそも「高血圧」とは何か?

●高血圧の分類

●なぜ血圧が高いといけないのか

●自分の「最適数値」を目指そう

●下げれば下げるほど良いのか?

●下げすぎの危険性とは?

●「薬で下げる」は危険?

●降圧薬を飲んでも、脳卒中のリスクは高いままである。

●まとめ

三 製薬企業と降圧薬の知られざる関係

●降圧薬は製薬企業のドル箱市場

●一つの薬が1000億円以上売れる!

●世界一の企業の論文不正事件

●日本一の企業も不誠実

●まとめ

四 降圧薬の効果を知る

●降圧薬によって、数値はどれだけ下がるのか?

●「日本一の薬」の効果とは?

●平均値はわずか「マイナス5.5~マイナス9.1mmHg」!

●まとめ

五 トクホの効果を知る

●トリペプチド 薬以上の効果があるように見えるが……

●トクホの効果は塩1g!?

●トクホで血圧の数値を改善できるのか

●まとめ

第2章 降圧薬に頼らずとも、血圧を下げる方法はないのか

一 薬の減量、中止は可能なのか

●医師はなぜ処方しつづけるのか

●第一段階は「薬の減量」

●「家で血圧を測る」メリットとは

●まとめ

二 生活習慣が変われば血圧は下がる

●『高血圧治療ガイドライン2014』によると……

三 減量のすすめ

●体重90㎏、BMI35の大学1年生

●適正体重を維持すれば、降圧薬はやめられる

●まとめ

第3章 有酸素運動、健康体操、ヨガ…… 血圧数値を劇的に改善する「運動法」

一 有酸素運動の血圧改善効果

●有酸素運動は薬以上の効果を示す!

●血圧を下げるポイントは運動の「強度」

●週30分の運動は、「日本一の薬」を超える!

●血圧が高い人ほど効果的

●温水プールのエクササイズで平均35mmHg以上の改善!?

●まとめ

二 ウェイトトレーニングは高血圧の人にも役立つ

●ウェイトトレーニングと血圧の関係

●実践 初心者向けエクササイズ

●まとめ

三 血圧改善効果のあるその他の運動

●とてもお手軽な握力運動

●動かずにできるアイソメトリック運動で血圧が改善する!?

●健康体操の驚くべき効果!

●気軽にできるヨガ

●マッサージを受けるだけで血圧は下がる!

●まとめ

第4章 正しい「食事法」と「生活習慣」で「適正血圧」の基盤を固める

一 食事でどれだけ血圧が下がるのか?

●減塩効果を正しく理解する

●「お酒はほどほど」 が鉄則

●血圧を下げる成分がある!

●血圧を下げる「DASH」食とは

●カリウムの効果

●マグネシウムの効果

●カルシウムの効果

●食物繊維の効果

●DASH食の真の血圧改善効果!

●魚の油を摂取すると……

●その他の安価で有用な成分

●ビタミンCが効くのは美容面だけではない!

●乳酸菌は血圧も下げる

●トマトの驚くべき効果

●トクホを超える緑茶の力!

●まとめ

二 血圧に悪しき四つの習慣

●「痛み止め」は血圧を上げる

●炭水化物と清涼飲料水は要注意!

●たばこは「百害あって一利なし」

●「漢方薬だから大丈夫」の落とし穴

●まとめ

三 モデルケース

●30代男性

●20代男性

●40代女性

第5章 ケース別に学ぶ「運動」と「食事」の最適な組み合わせ方

一 「時間はあるけどお金はない人」編

●運動/食事

二 「お金はあるけど時間はない人」編

●運動/食事

三 「お金も時間もない人」編

●運動/食事

四 医師とともに薬を減らすには

●降圧薬の減量、中止に向けて目標値を決める

●医師にどのように切り出すか?

あとがき

第1章 疑惑だらけの「降圧薬」治療

一 血圧の薬は死ぬまでやめられない?

●半分以上の人はやめられる!科学的に証明されている!

・降圧薬をやめた後、再び必要になるかどうかを研究した論文が存在する。

1.「高血圧治療ガイド2014」(日本高血圧学会):この治療ガイドによると『軽度高血圧、若年者、塩分摂取制限を行っている人、適正体重の維持ができている人、他に特に合併症のない方などがやめられる可能性が高い』と示されている。

2.2001年発行の「American Journal of Hypertension」誌に掲載された“A systematic review of predictors of maintenance of normotension after withdrawal of antihypertensive drugs”という論文がある。研究内容は次の通りである

・降圧薬服用中であるが、正常血圧で安定している患者を対象にしている。

・医師の判断のもとに服用を中止し、その後、降圧薬が再び必要になるかどうかについて調べている。

表1-1 降圧薬中止後の生活習慣改善別の成功率

画像出展:「降圧薬の真実」

 

・この表は薬の服用中止後に「生活習慣を改善したかどうか」、「薬の再処方が必要だったか」を示している。

・表右端の[成功率]とは、その生活習慣改善の有無における薬が不要になった人の割合を表している。

・このデータによると、体重の減量や減塩などの努力により半分以上の人は降圧薬が不要になった。

・年齢と成功率に関係は見られなかった。

●下げすぎの危険性とは?

血圧が下がりすぎると脳梗塞を起こすリスクが高まる。特に高齢者ではそのリスクが高い。

1.参考となる論文:2011年発行の「Geriatrics & Gerontology International」誌に掲載された“Practitioner’s trial on the efficacy of antihypertensive treatment in elderly patients with hypertension Ⅱ(PATE-hypertension Ⅱ study) in Japan

・日本で行われた試験。

カンデサルタン服用において、正常血圧の人のリスクを1とすると、75歳以上の心血管疾患発症リスクは、収取期血圧120mmHg未満は3.40、160mmHg以上は2.90であった。つまり、高い血圧より、低い血圧の方が危険であるという驚くべき結果であった。

・『この論文は、医療系の大学には必ずといっても良いほど置いている著名な医学雑誌「医学のあゆみ」(医歯薬出版)でも紹介された論文であり、医師たちの多くは下げすぎの危険性を理解しているはずなのです。』

拡張期血圧が低すぎるのは収縮期血圧以上に恐ろしく、心臓発作や脳卒中のリスクになることが多くの論文で指摘されている。

2.参考となる論文:2013年発行の「International Journal of Hypertension」誌に掲載された“Low Diastolic Blood Pressure as a Risk for All-Cause Mortality in VA Patients” 

図1-2 拡張期血圧と死亡リスクの関係

画像出展:「降圧薬の真実」

 

・45歳以上の病院患者のデータ(実線が死亡率)

・拡張期血圧が75mmHgから低くなるほど死亡リスクが高くなる。

・『低い拡張期血圧は衰弱や動脈硬化の結果でもあります。病院に行かなくても良いような健康な人には当てはまらないかもしれません。しかし、血圧の薬を使っている人にとっては当てはまる恐れが高いのです。

3.参考となる論文:2015年発行の「Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry」誌に掲載された“Meta-analysis of modifiable risk factors for Alzheimer’s disease” 

図1-3 アルツハイマー型認知症のリスクファクター

画像出展:「降圧薬の真実」

 

拡張期血圧が低すぎることは認知症の大きなリスクファクターである。

・この論文は5000人以上と参加者が多く、グレードⅠと研究の質も高い。

拡張期血圧70mmHg未満[左から2番目の棒グラフ]の人の発症リスクは1.87倍で重度の喫煙(1.96倍)についで、第2位となっており、収縮期血圧160mmHg以上[右から2番目の棒グラフ]の発症リスクより顕著に高い。

4.参考となる論文:2012年発行の「Archives of internal medicine」誌に掲載された“Rethinking the association of high blood pressure with mortality in elderly adult:the impact of frailty”

・降圧薬の害について書かれた論文である。

・通常の歩行ができる人は収縮期が低いほど死亡率が低いが、歩行速度が遅い人の場合は血圧と死亡率に関連は見られない。

・歩行困難な人では血圧を下げると死亡率が高くなり、薬を飲んでいる人ではより顕著になる。

●降圧薬を飲んでも、脳卒中のリスクは高いままである。

・この考え方を指示した論文が、日本人を対象とした大規模な研究で明らかになっている。

1.参考となる論文:2009年発行の「Journal of Hypertension」誌に掲載された“Stroke risk and antihypertensive drug treatment in the general population: the Japan arteriosclerosis longitudinal study

・この研究は、11,371人の日本人を対象として東北大学大学院によって行われた。

・追跡期間は9.5年、40~89歳の人を対象として脳卒中のリスクを調べた。

図1-5 血圧レベルと脳卒中発症リスクの関係

画像出展:「降圧薬の真実」

 

 

このグラフは、薬の使用の有無を考慮に入れていないデータである。

・左端(下部)の【至適血圧】の脳卒中発症リスクを1とした場合のリスクが黒の■になる。

※【至適血圧】:収縮期血圧120未満/拡張期血圧80未満。

※【正常血圧】:収縮期血圧120~129/拡張期血圧80~84。

※【正常高血圧】:収縮期血圧130~139/拡張期血圧85~89。

※【Ⅰ度高血圧】:収縮期血圧140~159/拡張期血圧90~99。

※【Ⅱ度高血圧】:収縮期血圧160~179/拡張期血圧100~109。

※【Ⅲ度高血圧】:収縮期血圧180以上/拡張期血圧110以上。

・この薬の使用を考慮に入れていないグラフでは、血圧を下げるほど脳卒中のリスクは下がる。

図1-6 降圧薬の使用と血圧レベルと脳卒中発症リスクの関係

画像出展:「降圧薬の真実」

 

 

このグラフは、薬の使用の有無で分けたデータである。

・左の図は降圧薬不使用の場合で、血圧が高いほど脳卒中のリスクは高まる。

・右の図は降圧薬使用の場合で、血圧と脳卒中のリスクに相関関係は統計学的にも認められない。特に注目すべきは、薬を服用し、血圧が【至適血圧】になっている場合、脳卒中の発症リスクが4.1倍と激増している点である。

「血圧は低ければ低いほど健康に良い」という主張は、降圧薬を服用している人には当てはまらない。

表1-5 降圧薬の使用、性別、血圧レベル別の脳卒中リスク

画像出展:「降圧薬の真実」

 

 

・この表が具体的な数値で見たリスク比である。

・男女に関係なく、薬を服用していると脳卒中のリスクは高まる。

・特に男性では、薬で【正常血圧】、【正常高血圧】に抑えても、6.69~15.30倍ととんでもなく高い。

・脳卒中の発症リスクだけを考えると、「【Ⅲ度高血圧】でもない限り、降圧薬を使うのは意味がない」という主張までできてしまう。

・このデータは年齢、過体重、喫煙、飲酒、糖尿病、コレステロール値、脂質異常症治療薬使用の有無で調整されているものなので精度は高い。

・合併症がある場合、降圧薬に血圧を下げる以外の効果を期待していることがあるため、減薬や中止は難しい可能性がある。(いずれにしても、降圧薬の減薬や中止は医師の判断が必須である)

四 降圧薬の効果を知る

●「日本一の薬」の効果とは?

最初に、第1章 疑惑だらけの「降圧薬」治療 一つの薬が1000億円以上売れる から、降圧薬の売上ランキングをご紹介します。なお、降圧薬はベスト100の中に、1位の「ディオバン」をはじめ、計11種類の薬がランクインしており、降圧薬がいかに大きな市場となっていることが分かります。

表1-8 降圧薬の売上ランキング

画像出展:「降圧薬の真実」

 

 

・日本で最もよく使われている降圧薬はカルシウム拮抗薬(CCB)であり、次はアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)である。

・CCB(代表的なCCBはアムロジン[成分名:アムロジピン])とARB(代表的なARBはディオバン[成分名:バルサルタン])を比較したデータは次の通り。血圧の状態や個人差による違いはあるが、十分に参考になる。

表1-10 エックスフォージ配合剤の血圧降下作用

画像出展:「降圧薬の真実」

 

 

・CCB[アムロジピン]の方がARB[バルサルタン]より降圧効果は高い。

・バルサルタン単体(⑦⑧)は薬の量を半減させてもほとんど変わらない。収縮期血圧:ー5.1⇒ー4.9、拡張期血圧:ー3.9⇒ー3.6。

●平均値はわずか「マイナス5.5~マイナス9.1mmHg」!

1.参考となる論文:2003年発行の「British Medical Journal」誌に掲載された“Value of low dose combination treatment with blood pressure lowering drugs: analysis of 354 randomised trials” 

・対象となった患者数は、のべ56,000人、これほど大規模で信頼性の高い論文はない。

表1-12 降圧薬と血圧降下量の関係

画像出展:「降圧薬の真実」

 

 

・降圧薬を通常量用いるとその種類を問わず、血圧に対する効果は、①収縮期血圧:マイナス9mmHg ②拡張期血圧:マイナス5mmHg 程度である。

薬の量を半分あるいは倍増しても平均すると、①収縮期血圧:1.9mmHg ②拡張期血圧:1mmHg 程度しか変わらない。さらに、半減(通常量の4分の1)させても同様に大きくは変わらない。これは、薬を減らすことが難しくないという理由でもある。

『個人差もありますし、急に中止すると血圧が急に変動する薬もそんざいするので、薬の量の調節を自己判断で行ってはいけません。』

たんぱく質と糖質の制限

今回のブログは北里大学研究所病院腎臓内科・内分泌代謝内科の部長と糖尿病センターのセンター長を兼任されている山田悟先生が”MedicalTribune”に寄稿された“蛋白質制限食は有効かもしれないが命がけ?!/揺れ動くガイドラインの推奨という2019年11月の記事がきっかけです。このメディカルトリビューン社さまの記事を読むには、会員登録が必要なためご紹介できないのですが、2013年に米国糖尿病学会(ADA)が栄養勧告を改訂した折(ADA2013)、いくつか受けた衝撃の1つが、蛋白質制限食の意義を否定したことであった。という内容に目が点になってしまい、調べてブログにアップしたいと考えました。

「メディカルトリビューン社は、医学新聞『Medical Tribune』を1968年に創刊して以来、メディアカンパニーとして国内外の最新医学・医療情報を提供してまいりました。」とのことです。

そこで、山田先生の著書の中から“たんぱく質”のことが書かれている、『カロリー制限の大罪』という本を見つけ、拝読させていただくことにしました。

著者:山田悟

出版:幻冬舎

発行:2017年6月

山田先生はロカボ(ローカーボハイドレート)という“緩やかな糖質制限”による食事法を推奨されています。“ロカボ”に関しては、以下のホームページをご覧ください。

「おいしく楽しく適正糖質」それがロカボです。

糖質は三大栄養素の「炭水化物」に含まれていて、血糖値を上げる原因になっています。適正な糖質摂取を心がけることで血糖上昇を抑えることができます。』

ブログは、最初に「おわりに」の中の冒頭と最後の部分をご紹介しています。これは、先生がロカボを推奨するようになった経緯と、読者に伝えたいとされるメッセージが出ているためです。

続いて、目次を書き出していますが、黒字がブログで取り上げた項目です。

おわりに

『「ヘルス・リテラシー」という言葉があります。リテラシーとは、ものを読み書きする力のことだそうで、ヘルス・リテラシーとなると、巷にあふれる健康情報の中から適切なものを取捨選択して、効果的に利用する個人の能力ということになるそうです。

ここ数年での栄養学の大転換は、実は医療従事者のヘルス・リテラシーに大いなる疑念をつきつけています。

私自身が10年前まで糖尿病の患者さんに強く推奨していたのが、カロリー制限であり、脂質制限でした。しかし、私が指導したカロリー制限で、ご自身の大切な喜寿のお祝いの会を台無しにしてしまった患者さんのお声を聴き、あるいは、私がおすすめした脂質制限食で、まったく高脂血症が改善できずに泣き出した患者さんのお顔を拝見するうちに、私自身、そうしたゴールデンスタンダードの食事法への疑念をいだくようになり、何が本当に適切な食事法なのかを追い求めるようになりました。 

『本書は、健康的な食事法に関心のある一般の方と、当たり前・言い伝えの栄養学ではなく、科学としての栄養学を学びたいと思っている医療従事者の方々が読んでくださることを願いながら執筆してきました。それが今回、一つ一つのデータに参考文献をつけた理由です。

一般の読者の皆様におかれては、ぜひ、「当たり前」に流されることなく、「正しい」と「当たり前」を区別していただきたいと思います。

そして、医療従事者の読者におかれては、私が師から教わった言葉をお伝えしようと思います。

「人間は未来永劫、真実をつかむことはできない。観察された事実をもとに真実を想像することしかできない。円錐を横から見れば三角形、上から見れば円形。それらは、いずれも事実だが、いずれも真実ではない

目次

第1章 カロリー制限の意義を考える

パート1 私自身のカロリー制限

・一日1600kcalを目指して

・カロリー計算を断念

・突然、気持ちが切れる

・カロリー制限は“理想的な餅”?

パート2 アンチエイジングに対するカロリー制限

・正反対の結論を出した2つの研究

・合同研究でも食い違った検証結果

・カロリー制限をして増えた病態とは

パート3 肥満に対するカロリー制限

・日本肥満学会のカロリー制限の基準

・“カロリー制限最良”論には科学的根拠がなかった

・カロリー制限は短期では有効だが……

パート4 糖尿病に対するカロリー制限

・すべての糖尿病患者にカロリー制限を推奨する日本

・日本人を対象にした研究はたった3件

・明らかな矛盾

・多くの日本人糖尿病患者は肥満ではない

・カロリー制限により糖尿病の種々の病態は改善されるか?

パート5 糖尿病治療のカロリー制限設定は妥当か?

・一日約2300kcalが標準と定められた

・「水を飲んでも太る」は本当?

・糖尿病治療のためのカロリー設定値を確認する

パート6 カロリー制限の安全性はどうか?

・カロリー制限の有効性を証明するはずだった研究の結果

・やる気のある被験者が次々脱落

・カロリー制限で減量できなかった少女ザル

・恐ろしい低栄養リスク

第2章 脂質制限の意義を考える

パート1 油を制限したら何に効くのか?

・脂質制限が有効だと思っていた私

・糖質制限に脂質制限を加えたがる人

パート2 高脂血症に対する脂質制限

・油を制限しても高脂血症予防はできなかった

・高悪玉コレステロール血症は食事や運動では改善しない

パート3 肥満症に対する脂質制限

・油を制限したら代謝が低下

・異なるホルモンの影響が想像される

パート4 糖尿病に対する脂質制限

・脂質は血糖上昇と負の相関だった

・食後血糖の上昇を抑える脂質+たんぱく質

パート5 脂質の質をどう考えるか?

・脂質摂取量の上限を撤廃したアメリカ

・脂肪酸の構造と分類

・日本人が動物性脂質を積極的に摂るべき理由

・健康を増進させる一価不飽和脂肪酸&オメガ3多価不飽和脂肪酸

・評価が分かれるオメガ6多価不飽和脂肪酸

・トランス脂肪酸は要注意

・認知症の予防効果が期待される中鎖脂肪酸

・油をたくさん食べるとどうなる?

第3章 三大栄養素比率を考える

パート1 カロリーを把握する難しさ

・正確なカロリー計算は可能か?

・カロリー計算は当てずっぽう

パート2 三大栄養比率はどのようにして決定されるのか?

・「正しい栄養バランス」の違和感

・PFCバランスはこうして決められた

・たんぱく質と油―撤廃された上限

パート3 カロリーや栄養素バランスは考えなくてもよい

・緩やかな糖質制限はカロリー制限にもなる

・現代人の運動量では消費しきれない糖質

第4章 ケトン体の意義を考える

パート1 ケトン体を出させる薬のものすごい効果

・SGLT2阻害薬

・死亡率が32%も減少

・ケトン体が臓器を元気にする?

・ケトン体仮説への反論

パート2 なぜ、ケトン体に負のイメージがあったのか

・ケトン体産生食と減量効果

・ケトン体と悪玉コレステロールの関係

・極端な食事制限が血管内皮機能を低下させる

・ケトアシドーシスと心臓死

・ケトン体と胎児の奇形の問題

パート3 結局ケトン体はいいのか悪いのか

・ケトン体についての結論

・てんかん治療のためのケトン体産生食

・サプリメントとオイル

・ロカボとケトン体

・ケトジェニックダイエットについて

第5章 ロカボの意義を考える

パート1 糖質過多で起こる肥満と糖尿病

・そもそも糖質とは

・なぜ太るのか?

・インスリン分泌能力

・恐ろしい高血糖

・糖尿病に根治療法はない

・老化と糖化

・AGEや酸化ストレスが起こすこと

パート2 ロカボという万能選手

・緩やかな糖質制限

・ロカボを実践するとこうなる

・とにかく「満腹」を目指せ

・脳のために甘いものを、は迷信

・カロリーのことはきっぱり忘れてよし

・ロカボでおなかいっぱいに

パート3 スポーツとロカボ

・アスリートの食事をどう考えるか

・カーボローディングで食後高血糖に

・ファットアダプテーションへの切り替えタイミング

・プロポーションが問われるスポーツと階級制スポーツ

・エネルギー利用可能性

・東京オリンピックに向けて

第6章 ロカボの普及で世界が変わる

パート1 ロカボの取り組み最新情報

・ロカボ先進都市・神戸

・行政も後押し

・東京が動き出した・大丸有の取り組み 三菱地所

・企業がぞくぞくと商品開発

・栄養成分表示の現状

・2015年の大転換

パート2 ロカボが目指す社会

・ロカボで社会はこう変わる

・医療費、社会保障費の大幅削減に

第7章 常識・非常識を考える

パート1 食品編

・果実

・異性化糖

・スムージー

・黒い食べ物

・白くない砂糖

・甘味料

・ビール

パート2 食べ方編

・グルテンフリー

・食べ順

・絶食

パート3 その他の問題編

・腸内フローラ

・たんぱく質の量

・たんぱく質の質

・サプリメント

・薬

・日本人と欧米人

パート4 油編

・基本的な油の働き

・役に立つ油

・基本的にすべての油がOK

・危険な油は

・さまざまな油に対する見解

最終章 栄養学「正しい」と「当たり前」

・科学的検証

・エビデンス

・おわりに

・参考文献

第3章 三大栄養素比率を考える

パート2 三大栄養比率はどのようにして決定されるのか?

・たんぱく質と油―撤廃された上限

2013年、アメリカ糖尿病学会は、「たんぱく質を制限しても、腎機能の保護にはつながらない」、「理想的な三大栄養素比率など存在しない」と断言している。そして、脂質についても、今のアメリカの食事摂取基準は「そもそも油の摂取量は、栄養学的な関心事項ではない」としている。

参考文献の記載をたどると、下記のサイトに行きつきます。なお、日本語訳は山田先生の寄稿、“蛋白質制限食は有効かもしれないが命がけ?!” の中に書かれていた内容を拝借しました。 

■For people with diabetes and diabetic kidney disease (either micro- or macroalbuminuria), reducing the amount of dietary protein below the usual intake is not recommended because it does not alter glycemic measures, cardiovascular risk measures, or the course of glomerular filtration rate (GFR) decline. (A)

腎症のある糖尿病患者が蛋白質摂取を一般人未満に制限することは推奨されない。なぜならば、それは血糖管理、心血管疾患リスク、糸球体濾過量(GFR)低下になんら変化を与えないからである。(A)

アメリカ糖尿病学会では内容を毎年見直しているとのことです。そこで、色々と探していると、またまた新たな記事を見つけました。こちらは2019年のお話です。

第12回 米国糖尿病学会の2019年版診療ガイドライン速報 糖尿病・代謝 能登 洋(聖路加国際病院)” こちらの記事もm3という会員登録が必要なサイトの記事のため、ご紹介することはできないのですが、元々はアメリカ糖尿病学会のものなので、そちらをお伝えします。

『m3.com 〔エムスリー〕 は、29万人以上の医師が登録する日本最大級の医療従事者専用サイトです。』とのことです。

■For people with nondialysis-dependent CKD, dietary protein intake should be approximately 0.8 g/kg body weight per day (the recommended daily allowance). For patients on dialysis, higher levels of dietary protein intake should be considered. B 

透析していないCKDの患者さまの場合、食事によって1日あたり約0.8 g / kg体重(60㎏の人は1日48g)のたんぱく質摂取が推奨されています。一方、透析中の患者さまの場合は、食事によって高レベルのたんぱく質摂取を考慮する必要があります。B [意訳しています]

国内ではたんぱく質摂取はどんな状況なのだろうかと思い、調べてみたところとてもユニークなサイトを発見しました。 

監修をされているのは下記の先生方です。

廣村桂樹、池内秀和(群馬大学医学部附属病院腎臓・リウマチ内科)

齊賀桐子(群馬大学医学部附属病院・栄養管理部)

川島崇(群馬県医師会)

高橋さつき、岡美智代(群馬大学大学院保健学研究科

このページの“スタート”をクリックすると、「6 食事の留意点とコツ」というページがあります。

この中から“慢性腎臓病のステージG3a、G3b、G4、G5 たんぱく質制限についてわかります”をクリック頂くと、2ページ目に、“2.体に合ったたんぱく質摂取量は、どのくらいなの?”が出てきます。ここでご自分のステージと身長を入力すると、“標準体重”と“たんぱく質摂取量”が表示されるのですが、G3aの場合、たんぱく質制限は0.8~1.0g/kg/日となっています。つまり、このサイトではG3aの場合は1日の摂取すべきたんぱく質は体重1kgあたり、0.8~1.0gを推奨しているということです(お伝えしたいことは、細かいのですが、0.8gではなく0.8~1.0gというところです)。

以上のことから、アメリカ糖尿病学会においても、たんぱく質の摂取はとてもデリケートな問題で、今後も、医学の進歩と伴に変わっていくかもしれません。

また、求められていることは、病気の進行度合いと推奨摂取量を考慮しながら、ひとり一人に適したたんぱく質摂取の計画と管理を行うこと。そして、特に注目すべきは、透析中の患者さまの場合は、高レベルのたんぱく質摂取を考える必要があるという点です。

第4章 ケトン体の意義を考える

パート2 なぜ、ケトン体に負のイメージがあったのか

・ケトアシドーシスと心臓死

●インスリンを出せないⅠ型糖尿病の人の中に、まれに肝臓が無制限にケトン体をつくり続けてしまうことがあり、次第に体が酸性化し重篤な意識障害につながる。このような状態をケトアシドーシスという。

●ケトン体産生食には問題を指摘する症例と問題ないとする症例が混在しており、はっきりしたことは分かっていない。

ケトン体産生食の是非について、以前ブログ“ケトン体エンジン”の時にご紹介させて頂いた、宗田哲男先生の『ケトン体が人類を救う』には次のような分かりやすい説明がされていました。 

『火事(アシドーシス)で現場に駆けつけたら、ケトン体がたくさんあった。そこで火事の原因をケトン体に違いないとして「ケトアシドーシス」という名前を付けた。インスリンが不足してブドウ糖をエネルギーにできない火事の現場で、ケトン体は自らがエネルギーとなって、必死に体を助けていた。ケトン体は火事を消そうとしていた消防士だったにもかかわらず、その後もずっと犯人にされてしまった。「糖尿病ケトアシドーシス」とは、本来「インスリン不足高血糖制御不能状態」というべきであって、ケトン体とは何も関係ない。インスリンを投与して高血糖を抑えればケトン体は消えるが、これは消防士が引き上げて、正常任務に戻ったのであり、「ケトン体さんご苦労様でした」というべきところです。』

この『病気がみえるvol3 糖尿病・代謝・内分泌』の図をみると、「よし、糖をつくるぞ!」(図中央)とはりきる肝臓が、筋に働きかけ“糖新生”によりグルコースを、また脂肪組織に働きかけ“β酸化(脂肪酸の代謝経路)”によりケトン体の産生を高めています。

そして、この図で起きていることが何かを見てみると、原因(最上段のボックス)によって引き起こされることは、一つは“インスリン拮抗ホルモンの亢進”(右側)、もう一つは“インスリンの絶対的欠乏”(左側)であり、宗田先生がご指摘されている『「糖尿病ケトアシドーシス」とは、本来「インスリン不足高血糖制御不能状態」というべきであって、ケトン体とは何も関係ない。』

というご指摘と一致していることが分かります。この図を見る限り、ケトン体は悪者ではなく、インスリン不足でブドウ糖をエネルギーにできないという火事の現場に駆けつけた、責任感の強い消防士のように思えます。

第5章 ロカボの意義を考える

パート1 糖質過多で起こる肥満と糖尿病

・そもそも糖質とは

●糖質は多糖類、オリゴ糖類、二糖類、単糖類、糖アルコールという5種類に分類される。

●単糖類はブドウ糖や果糖のように1個だけで存在するもの。

●二糖類は砂糖、ショ糖、麦芽糖など、単糖類が2つ結合したもの。

●多糖類は結合が数百~数万個以上であり、代表格はでんぷんである。

●「糖類」とは単糖類と二糖類の総称であり、いずれも甘さが特徴である。

糖アルコールは自然界にある成分をもとに、人工的に作り出されたもの

●糖アルコールにはトレハロース、パラチノース、キシリトール、エリスリトールなどがある。

糖アルコールの中には血糖値をほとんど上げないものもある。

・なぜ太るのか?

●あらゆる糖質は基本的に体内でブドウ糖に変換される。

●血糖値とは血液中のブドウ糖の濃度のことである。

●食後、血糖値が上がると膵臓からインスリンというホルモンが速やかに分泌され、全身の臓器にブドウ糖を送り込み、エネルギーとして利用できるように働く。通常であれば、これによって血糖値は下がるため問題はない。

●血糖値の正常値は食前で70~110㎎/㎗、食後で70~140㎎/㎗で、通常は食後の血糖値上昇は30㎎/㎗程度である。

40歳を越えるとインスリンの分泌が緩慢になるため、健常者でも跳ね上がるようになる。特に糖質摂取の多い人は異常な数値までに上がったり、乱高下したりするようになる。

●血糖値が180㎎/㎗くらいまで上昇すると、後からインスリンが過剰に分泌されるようになり、食後、一過的に血糖値が大きく下がる人もいる。

血糖値の大きな上下動は、動脈硬化症や認知機能の低下をもたらす。

●食後高血糖は体を傷め(これを「糖毒性」という)、さらにインスリン分泌を遅くする。この結果、高インスリン血症により肥満が進む。

食後高血糖は時間経過とともに悪化し、疲弊したインスリン分泌細胞は、やがてインスリンの分泌が困難になり糖尿病になっていく。

・インスリン分泌能力

●生物にとって糖質は最も効率の良いエネルギー源である。

●運動量が多かった昔の人は、体内に取り込んだ糖質を1日の活動で消費していた。[現代のように糖質が潤沢な食糧事情でもなかったと思います]

●文明が高度に発達し、体を動かす機会が少なった現代人は、体の中で糖質がダブつきやすくなっている。

●2015年、サッポロビールが実施した「食習慣と糖に関する20~60代男女1000人の実態調査」によると、現代の日本人が1日に摂取する糖質量の平均は、男性309g、女性332gとなっている。この摂取量はあまりに多すぎて、ほとんどの人は1日の活動では消費しきれるものではない。そして、エネルギーとして使われず余ったブドウ糖は、インスリンによって脂肪に変換され、体の中に溜め込まれる。

体に余分な脂肪が増えるとインスリンの効きが悪くなり、それをカバーするために、体は更にたくさんのインスリンを分泌する悪循環に陥る。

●膵臓はインスリンを作るのに疲れ、分泌量が減る。そして、血糖値がコントロールできなくなって、慢性的な高血糖である糖尿病を発症する。

・恐ろしい高血糖

●糖尿病の恐ろしい点は三大合併症である。これは高血糖により毛細血管が傷むことにより、腎臓、目、神経の障害を引き起こすものである。

●腎臓が傷むと人口透析に至り、目は網膜症によって失明の恐れがある。神経障害は起立性低血圧や尿失禁、EDを引き起こす。

糖尿病患者の中で様々なガン患者が増えているという事実があるが、インスリン自体がガン細胞を増殖させているのではないかと言われている。なお、この傾向は食後高血糖(糖尿病予備軍)にも当てはまる。

●糖尿病は、動脈硬化のリスクを上げ、心臓病や脳卒中などの脳血管障害と脚の障害を起こしやすくする。

・糖尿病に根治療法はない

●人間の糖尿病の根治治療はまだ見つかっていない。[1994年、マウスに抗CD3抗体という物質を投与することによって、インスリン分泌細胞を再生させ、高血糖を長期的に改善させることに成功した]

現在は、食生活の改善と運動習慣によって食後血糖の上昇に歯止めをかけるしか道はない。

・老化と糖化

●肥満、糖尿病以外にも糖質が関わっている身体の現象があるが、それは老化である。

●わかりやすい老化現象には、皮膚のシミや白髪、体の不調、認知機能の低下などがあるが、いずれも糖質が深く関わっている。

糖質の多い食事により高血糖の状態になると、体の中で糖化反応(グリケーション)が起こる。これは体の中のたんぱく質に余分な糖がくっつき、たんぱく質が劣化してAGEs(糖化最終生成物)を生成する反応である。

・AGEや酸化ストレスが起こすこと

AGEsが蓄積すると肌や髪、骨などに含まれるコラーゲン分断が起こり、全身の老化が進行する。そして、体調不良や糖尿病、高血圧、ガン、動脈硬化など様々な病気を引き起こす。

血糖の激しい上下動によって、酸化ストレスが引き起こされる。酸化ストレスは老化や細胞のガン化に関わる。

●血糖の上下動の大きさと認知症の低さには、相関があるとされている。

第7章 常識・非常識を考える

パート1 食品編

・果実

●糖質の中で特に注意すべきものは果物やハチミツの甘さのもとになっている果糖である。

●果糖は体内に入ると肝臓で20%だけブドウ糖に変換され、残りは果糖のまま血中をめぐる。血糖値とは血中のブドウ糖の量を測ったものなので、果糖は血糖値をあまり上昇させない。そのため糖質制限をしている人も果物は食べても問題ないと考えがちである。

果糖の問題は非常に中性脂肪に変わりやすいため、肥満や脂肪肝につながりやすい糖質であることである。太りやすさの観点では果糖は砂糖やお米よりも危険である。

●果糖は直接的に肝臓のブドウ糖合成を促進する。また、ブドウ糖よりも糖化を起こしやすく、臓器障害や動脈硬化を増やす原因になっているという論文も出ており、果糖にも注意しなければならない。

●果物には食物繊維も多く、ビタミン、ミネラルも豊富な食材なので、量に注意して摂取するようにする。

・甘味料

『糖アルコールや人工甘味料は、ロカボを実践する上では絶対にはずせない食材ですが、安全性を心配して、手に取ることを躊躇する人もいまだ多いようです。しかし、実はそのほとんどが偏見や誤解によるものです。

日本でよく使われているエリスリトールは、果物の発酵食品から抽出されるなどした天然由来の甘味料で、糖アルコールに分類されます。摂取すると小腸で吸収され血中へ移動し、そのまま尿で排泄されるためエネルギーにはならず、血糖値も上がりません。アメリカの食品医薬品局FDA、ヨーロッパの医薬品庁EMAともに、摂取する上限量を設定する必要がない、極めて安全な食品に分類しています。

また、アスパルテーム、スクラロースなどの人工甘味料は、アメリカやヨーロッパの許認可庁によるデータで一日に摂取できる上限が定められているものの、その量は缶ジュースにしておよそ15~25本。通常の食生活ではおよそ摂ることがない数値に上限が設定されていますので、普通に使用するならまったく安全と言ってもいいでしょう。』

パート3 その他の問題編

・腸内フローラ

●人間の腸内には100種類以上、数にして約100兆個にものぼる細菌が棲んでいる。

●小腸の終わりにある回腸から大腸にかけては、腸内細菌が種類ごとにまとまり、腸の壁面にびっしりと生息している。その様子が種ごとに群生するお花畑のようであることから、「腸内フローラ」と呼ばれている。

腸内細菌はこれまで考えられていた以上に頑健で、なかなか変化しないことが分かってきた。

●2015年、イスラエルの研究グループは、食品の血糖値が上がらない食べ方をすることによって、善玉菌が増えるというデータを発表した。

※こちらは”参考文献”に紹介されていた”データ”です。

Personalized Nutrition by Prediction of Glycemic Responses

・たんぱく質の量

高齢者ほど肉や魚をしっかり食べる必要がある。若い人は一食あたり10gほどのたんぱく質で食後の筋肉合成ができるが、高齢者は20gほどの量が必要になってくるからである。これは肉なら100g程度にあたる。

・たんぱく質の質

●たんぱく質を摂る時に注目すべきは、必須アミノ酸の含有量である。

●アミノ酸とはたんぱく質の構成要素で、アミノ酸が少数結合したものをペプチド、多数結合したものをたんぱく質と呼ぶ。

●一部の特殊なものを除き、たんぱく質は20種類のアミノ酸が結合して作られている。

まとめ

摂りすぎ厳禁の糖質。一方、たんぱく質の摂取量は微妙です。透析患者さまの場合は高レベルなたんぱく質摂取を考慮することが求められています。透析に至っていない患者さまについては、医師と相談し推奨の上限値を意識することが、分子整合栄養医学の面からも重要であるように思います。

※分子整合栄養医学についてはブログ“分子整合栄養医学1”を参照ください。

ゴースト血管

手先や足先の痺れを訴える患者さまは、主に中高年の方に時々みられます。硬くなった筋肉が血管や神経を圧迫しているのが原因ではないかと考え、気になる筋肉や絞扼しやすい箇所に刺鍼するのですが、症状の緩和は末端の指先に近くなるほど難しいという実感があります。

そんな中、“ゴースト血管”はテレビの健康番組で知りました。この“ゴースト血管”を詳しく知ることは、手先や足先の痺れに対する鍼治療の参考になるのではないかと考え、“ゴースト血管”の名付け親である高倉伸幸先生が書かれた本を購入しました。 

血管のゴースト化を進める元凶は、糖化(コゲ)」と「酸化(サビ)」のようです。

著者:高倉伸幸

出版:毎日新聞社

発行:2019年2月

ブログは第5章(「ゴースト血管をつくらない33のメソッド」)および、「ゴースト血管にまつわるアレコレQ&A」には触れていません。取り上げているのは、目次の黒字の部分ですが、特に重要と思ったところをまとめました。

目次

はじめに

あなたのゴースト血管化をチェック!

第1章 人は毛細血管とともに老いる

・生命に大きな影響を与える毛細血管

・血管は縦横無尽に体内を走っている

・それぞれの血管のミッション

・毛細血管の運搬法

・毛細血管はホルモンの情報を伝達する

・毛細血管は免疫にはたらく

・毛細血管は体のバランスを保つ

・毛細血管はなぜゴースト化するのか

・Column@高倉Lab がん治療にも応用される「アンジオクラインシグナル」

第2章 ゴースト血管と病気

・血管がゴースト化すると全身に悪影響が!

・重い便秘はゴースト血管のせい?

・毛細血管の減少が肝硬変の原因に!?

・腎機能の低下はゴースト血管が招く

・ゴースト血管が糖尿病の原因に!?

・ゴースト血管と肺の病気

・アトピー性皮膚炎も血管病!?

・過剰な毛細血管がリウマチを悪化させる

・骨粗しょう症もゴースト血管が原因

・ゴースト血管で失明に?

・認知症の原因はゴースト血管だった!

・血管がゴースト化すると抗がん剤が効かない!?

・Column@高倉Lab がん細胞を増殖させる「がん幹細胞」

第3章 ゴースト血管と老化

・体内の37兆個の細胞に「老化」というイベントが起こる

・「糖化」は体のコゲ

・「酸化」は体のサビ

・毛細血管が少ないと老けて見える!?

・毛細血管と肌の深い関係

・毛細血管の減少が薄毛の原因に!

・更年期は毛細血管のダメージから起きる

・Column@高倉Lab 毛細血管がよみがえる「血管新生」のしくみ

第4章 人は毛細血管とともに若返る

・毛細血管は何歳からでも改善できる

・血流をよくすればゴースト化は防げる

・免疫力を上げると毛細血管を維持できる

・毛細血管も自律神経の影響を受けている

・リンパ管は毛細血管のサポーター

・Column@高倉Lab 脳は記憶で傷を修復する!?

第5章 ゴースト血管をつくらない33のメソッド

血管力を上げる簡単メソッドを生活習慣に

Ⅰ 血液の質をよくする

メソッド1 バランスのよい食事を心がける

Ⅱ 「どう食べるか」も重要

メソッド2 食事は腹八分

メソッド3 一気に食べない

メソッド4 一気に飲むのも危険

メソッド5 少量に分けて栄養摂取

メソッド6 糖質はほどほどに

Ⅲ 血管をしなやかにする

メソッド7 うまみ成分を生かす

メソッド8 お酢を活用する

メソッド9 油は選んで使う

メソッド10 スパイスを上手に使う

メソッド11 カリウムを多く摂る

Ⅳ 自律神経のバランスを保つ

メソッド12 呼吸を整える

メソッド13 片鼻呼吸法で副交感神経を活性化

メソッド14 ゆっくりバスタイム

Ⅴ 血流をアップする

メソッド15 運動を習慣化する

メソッド16 1日1回だけしっかり運動する

メソッド17 「ながら」で運動する

メソッド18 かかと上げを習慣に

メソッド19 かかと上げ・応用編

Ⅵ 下半身を鍛えて血流を上げる

メソッド20 スクワットが効く!

メソッド21 ステーショナリーランジで筋トレ

Ⅶ 血管に刺激を与える

メソッド22 血管マッサージで血管を刺激する

Ⅷ ぐっすり眠って血管を修復する

メソッド23 体内時計をリセットする

メソッド24 メラトニンの原料を摂る

メソッド25 夜は光の刺激に注意する

Ⅸ タイツー(Tie2)を活性化する

メソッド26 シナモンを摂取する

メソッド27 シナモン+ショウガで血管の状態を整える

メソッド28 シナモン+バナナで簡単デザート

メソッド29 料理にもシナモンを

メソッド30 注目の食材・ヒハツを摂る

メソッド31 ヒハツを料理に使う

メソッド32 春の山菜・ウコギを摂る

メソッド33 ルイボスティーを飲む

ゴースト血管にまつわるアレコレQ&A

おわりに

第1章 人は毛細血管とともに老いる

それぞれの血管のミッション

動脈

・動脈の直径は1~30mm、弾力性があり、内膜・中膜・外膜の三層構造である。内側には薄い細胞の層である「血管内皮細胞」が敷き詰められていて、ここからNO(一酸化窒素)が分泌されていると、しなやかな血管を維持することができる。

静脈

・血管外に出たリンパ球(白血球)は主にリンパ管を通って静脈に戻る。

・静脈も動脈と同じ三層構造だが、血管の壁はかなり薄い。

・静脈には部分的に内側がひだ状になった弁があり、これにより血流が逆流することを防いでいる。

筋肉や体の動きによって、静脈内の血液の流れは変わる。 

毛細血管

毛細血管は約0.01mm。全長は数千~数万Km。全身の血管の95~99%が毛細血管

・臓器や筋肉などに合わせた形状をしている。まっすぐに、あるいは放射状や蜘蛛の巣状になって、全身に張り巡らせている。

・毛細血管の壁から通過して組織に入った酸素が拡散される距離は、およそ50μm(髪の毛の20分の1程度)。つまり、100μmに1本の割合で毛細血管がないと酸素は行き渡らない。

毛細血管は血管内皮細胞の一層でできている。 

画像出展:「ゴースト血管をつくらない33のメソッド」

「『毛細血管がないと酸素が行き渡らない』となると、どうなるんだっけ?」というとても基本的な疑問が浮かんでしまい検索したところ、高倉先生が解説をされている素晴らしいサイトを見つけました。記事の題名は”【ゴースト血管とは】毛細血管減少の改善・再生に役立つ食事と運動はコレ!”です。ちなみに、私の疑問の回答は”細胞の老化が始まる”というものでした。

毛細血管の運搬法

・毛細血管の内径は約5μm、赤血球の直径は約8μm。このため赤血球が毛細血管を通るとき、毛細血管の内壁と赤血球の表面はこすれ合う。これにより赤血球の酸素や血漿中の栄養が血管内皮細胞の隙間から押し出されて、外側の細胞に届けられる。

毛細血管内の圧力は外側よりも高いため、外側に向かって勢いよく物質が出ていき、外の組織にサーッと吸収されていく(拡散)。 

画像出展:「ゴースト血管をつくらない33のメソッド」

上の図は毛細血管と赤血球がこすれ合っている状態。下の図は赤血球の中の酸素や栄養が外に拡散している様子です。

毛細血管は免疫にはたらく

がんや異物、細菌が侵入すると、血管内皮細胞が反応して、リンパ球に対する接着因子を分泌。ローリングしながら移動し血管内皮細胞同士の微かな隙間を見つけて、壁細胞の後ろに隠れる。その後、壁細胞同士の間を通って血管外に出ていく。これは免疫を担って出ていく白血球につられて外に漏れる血液成分を、最小限にするためのしくみである。

画像出展:「ゴースト血管をつくらない33のメソッド」

左の図の3つの●は”細菌や異物”です。

上段の図は、免疫細胞の白血球が接着因子によって血管内皮細胞にくっつき、ローリングしている状態です。

中段は、壁細胞の後ろに隠れた状態です。

そして、下段は、壁細胞同士のわずかな隙間から、他の血液成分の漏れを最小限にしながら、白血球が細菌や異物の攻撃のために出動していく様子です。

毛細血管は体のバランスを保つ

・毛細血管には体温を維持する働きもあるが、その調節は自律神経が行っている

外気温に対応して自律神経は血液量に関わる筋肉をコントロールする。血液の流れ(血流)は血液の温度低下を防ぎ、体温維持に貢献している。

毛細血管はなぜゴースト化するのか

・毛細血管は加齢により、壁細胞の変性と消滅、それに伴う血管内皮細胞の機能の衰えが起こる。また、内皮細胞と壁細胞の接着を促すアンジオポエチン1というたんぱく質の分泌も減る。これらにより、壁細胞の内皮血管細胞からの離脱が起こりやすくなり、毛細血管は劣化していく。

画像出展:「ゴースト血管をつくらない33のメソッド」

高血糖は毛細血管の劣化を加速させる。体内で過剰な糖質とたんぱく質が結びつく変化を「糖化といい、体内に焦げのような物質「AGE(Advanced Glycation End Products=終末糖化産物)」を発生させる。このAGEは老化の要因の一つである。

血糖値が高くなるとAGEが発生し、毛細血管の血管内皮細胞の受容体がAGEを取り込む。すると「活性酸素が大量に発生し、壁細胞にダメージを与える。

・高血圧や脂質異常症によっても血管はダメージを受け、弾力性が失われる。これも毛細血管の老化といえる。

毛細血管のゴースト化は薬効を十分に浸透させることができないため、病気の治癒率を下げる。

・毛細血管の数は加齢で減少する。皮膚では60~70代の人は、20代の約40%も減少するという報告もある。

第2章 ゴースト血管と病気

腎機能の低下はゴースト血管が招く

・腎臓病の中で最も多いといわれる慢性糸球体腎炎は、糸球体の炎症によってたんぱく尿や血尿が続く病気で、むくみやめまい、高血圧などの症状がある。

・原因には糸球体のゴースト化も考えられる。これは高血糖などにより糸球体の血管内皮細胞を取り巻く壁細胞が剥がれて、漏れてはいけないタンパク質などを排出してしまうという病態である。

ゴースト血管が糖尿病の原因に!?

・糖尿病は尿に糖が出ることが問題ではなく、血液中の血糖値が高い状態のまま続くことに問題がある。つまり、糖尿病は血液や血管にかかわる病気である。

ゴースト血管と肺の病気

・肺の毛細血管は、他の臓器と異なり壁細胞がかなり少なく、血管内皮細胞への接着も少ない。もともと少ないところに、壁細胞の減少が起こると、ダメージもかなり大きくなる。

・肺胞を覆っている毛細血管がゴースト化すると、血管内皮細胞に異物が侵入するリスクが高まり、炎症を起こしやすくなる。マクロファージという炎症性細胞の侵入が多いと、少量のウィルスや細菌にも反応し炎症を生じてしまう。

アトピー性皮膚炎も血管病!?

アトピー性皮膚炎では体内に異常な毛細血管が増加していることが明らかになった

・血管新生により誕生した未成熟な毛細血管(血液成分が漏れやすい)により、炎症細胞のマクロファージが活性化する。すると肥満細胞が反応してヒスタミンが放出されやすくなり、知覚細胞が常に刺激されて異常な痒みが起こる。

・ヒスタミンは血管の漏れも誘導するため、炎症状態が継続してしまう。

過剰な毛細血管がリウマチを悪化させる

・関節リウマチの関節の腫れと痛みは、免疫異常によって誤って自分自身の細胞や組織を攻撃し、それによって炎症が起こるためである。

・免疫異常は血管新生による未成熟な毛細血管が関わっていることが判明した。

炎症を止めるために血管新生が起こるが、壁細胞と血管内皮細胞の接着がゆるい未成熟な血管のため、血液成分が漏れる。その状態のまま血管新生は止まらず、さらに毛細血管が増え続け、炎症も続いてしまう。

認知症の原因はゴースト血管だった!

・アルツハイマー病は脳にアミロイドβというたんぱく質が蓄積することが原因とされてきたが、近年解明されたアルツハイマー病のメカニズムは、血液脳関門を形成している毛細血管のゴースト化(血管内皮細胞の機能低下)が、大きな原因であるとされている

・毛細血管の壁細胞が失われることで、血管内皮細胞から血液成分が漏れやすくなる。

かつて悪玉とされたアミロイドβは、脳細胞にとって必要な物質だった。必要とされる分泌がないと血管障害の原因となる。しかし血管がゴースト化すると、アミロイドβの回収・排出が滞り脳内にアミロイドβが過剰に蓄積してしまう。

・アルツハイマー病の引き金は、タウというたんぱく質が異常リン酸化して蓄積し、シナプスに障害を与えることである。シナプスの連動が悪くなり、神経伝達が抑制されて脳機能が低下する。

・タウによる神経への毒性化が始まるのはアミロイドβの蓄積から10年ほどかかるため、アミロイドβの蓄積を病気発症のトリガーとして、この時期に脳の毛細血管を活性化させるような、認知症予防薬の開発も進められている。

血管がゴースト化すると抗がん剤が効かない!?

・がん細胞の増殖のメカニズムを研究する中で、がんとゴースト血管との関係性を発見した。

・細胞は酸素や栄養を使って、細胞内のミトコンドリアがエネルギーを産生するが、がん細胞は酸素が乏しくてもミトコンドリアを介さずに、エネルギーを産生する。

・がんの毛細血管はゴースト血管である。がんの毛細血管には壁細胞は若干あるが、ほとんど血管内皮細胞に接着していない。これは未成熟な血管で伸びることができず団子状になる。このため、酸素や薬剤を運ぶことはできない。

・がん細胞が増殖している組織は低酸素のため、酸素を必要とする放射線治療の効果もあまり期待できない。

がん細胞のゴースト血管(未成熟な毛細血管)を正常な血管に戻せれば、抗がん剤ががん細胞に行き渡ることになる。また、酸素が十分な状態になれば放射線治療も効くようになる。 

第3章 ゴースト血管と老化

「糖化」は体のコゲ

糖化とは食事から摂った余分なブドウ糖が、体内のたんぱく質と結びついて細胞を劣化させることであり、高血糖の血液を運ぶうちに血管の組織はもろくなり、炎症が起こりやすくなる。

糖化はAGE(終末糖化産物)という、「体の焦げ」を作る。毛細血管の壁細胞はAGEによってダメージを受け消滅すると、毛細血管はゴースト化するが、AGEは一度蓄積すると、何十年も分解されずに全身の老化を加速させるので要注意である。

「酸化」は体のサビ

・「酸化」は「糖化」とともに老化を進めるもう一つの原因である。

・活性酸素が体内に過剰に発生すると全身が酸化し、錆びた状態になる。

・活性酸素は体内で生まれ、消えていくもので、細菌やウィルスが体内に侵入すると、活性酸素が反応し破壊してくれる。

もっとも悪性の強い活性酸素のヒドロキシラジカルは、人間の体内の脂質、特にリン脂質に影響を及ぼし、過酸化脂質を発生させる。これが老化やがんなどの病気の原因になると考えられている。

活性酸素の主な発生原因は、大気汚染、強い紫外線、たばこやアルコール、化学薬品や食品添加物、ストレスなどである。

毛細血管、特に壁細胞は活性酸素に非常に弱いので、ダメージを受けやすく、それが毛細血管のゴースト化につながる。

私たちの体内にはSOD(Superoxide Dismutase)という抗酸化酵素が分泌され、過剰な活性酸素を消去してくれるが、加齢とともにSODは減っていく。

更年期は毛細血管のダメージから起きる

・更年期障害の原因は卵巣にエストロゲン分泌の指令を出していた脳の視床下部が、突然分泌ができなくなった状態にパニックになり、以前より数倍の指令を出すために、異常な発汗やめまいが起こるといわれている。

・視床下部は消化機能や自律神経、体温調節などをコントロールする器官のため、それらの調節もできなくなってしまう。 

第4章 人は毛細血管とともに若返る

毛細血管は何歳からでも改善できる

皮膚に傷がつき少し出血したような場合、止血後、好中球やマクロファージなどの炎症細胞が集まり、ダメージを受けた組織を再構築する。その後、線維芽細胞が移動して、場所(細胞外マトリックス)を確保し、血管新生が起こる。この時、必ず毛細血管は伸びているが、傷を治すという緊急事態では毛細血管の伸び方が通常より早い(マウスの実験では、通常の20~40倍だった)。

ケガをしたり、炎症が起こった場合、ダメージを受けた毛細血管が誘導する炎症反応でVEGF(血管内皮成長因子)などの物質を分泌する。それら[VEGFなど]の物質が既存の血管から新しい血管をつくるように促す。

・血管新生は毛細血管の重要な機能の一つだが、がんや過剰な活性酸素などの環境下では、血管内皮細胞と壁細胞が接着していない未成熟な毛細血管ができることもあり、それらは病気の原因につながる。

ゴースト血管は「血管伸長」という機能が残っていれば回復できる。そのためにはゴースト血管に血液を大量に届ける必要があるが、これには質のよい血液がしなやかな血管にスムーズに流れることが重要である。

血流をよくすればゴースト化は防げる

・試験管内の実験では、流れのない状態で血管内皮細胞を培養していると、血管内皮細胞同士の接着がルーズになるが、そこに血液の流れを送りこむと、流れに沿って血管内皮細胞が整列をはじめ、真っすぐできれいな接着が誘導される。これは、血管内皮細胞には血流を認識する受容体があるため、血液が流れると細胞内にシグナルが入り、細胞を接着させる因子を活性化させるからである。

免疫力を上げると毛細血管を維持できる

・免疫にはたらく白血球のうち、外敵と戦うT細胞にはキラーT細胞と、マクロファージや樹状細胞からの情報によってリンパ球に命令を出すヘルパーT細胞がある。このヘルパーT細胞は、血管の中だけでなく血管の周囲にも存在している。さらに、この細胞がないと毛細血管は未成熟になるという論文が2017年に『Nature』に発表された。

毛細血管も自律神経の影響を受けている

・毛細血管とその上流になる細動脈の先にある前毛細血管括約筋が、交感神経が優位になると収縮。これにより、末梢の毛細血管に流れる血液が少なくなり酸素が運ばれなくなる。

・過度な緊張やストレスにより、この状態が続くと毛細血管のゴースト化が加速する。 

画像出展:「ゴースト血管をつくらない33のメソッド」

前に『自律神経は血液量に関わる筋肉をコントロールする』という記述がありましたが、まさにこのことですね。

まとめ

1.血管のゴースト化の主犯は、「糖化」と「酸化」

●糖化はAGE(終末糖化産物)という、「体の焦げ」を作る。毛細血管の壁細胞はAGEによってダメージを受け消滅すると、毛細血管はゴースト化する。

●毛細血管、特に壁細胞は活性酸素に非常に弱いので、ダメージを受けやすく、それが毛細血管のゴースト化につながる。

「糖化」と「酸化」は血管のゴースト化を防ぐためのキーワードです。前者は糖質を摂りすぎないこと、後者は暴飲暴食、喫煙を避けること、良い睡眠や適度な運動などを通じ、強いストレスを溜めこまないことが特に重要です。

2.鍼による手指、足趾に対する局所治療について

今まで、手指や足趾の痺れに対し、患部に直接刺鍼することは避けてきました。これはこれらの部位への刺鍼は痛みをともなうのと、効果に疑問を持っていたためです。

しかし、下記のように、皮膚や毛細血管へのダメージに対する炎症反応は、血管新生や毛細血管の成長促進につながるものなので、施術に組み入れる価値はあると思います。また、血流を高めるという狙いでは、患部の上流の硬くなった筋肉や絞扼ポイントも大切だと思います。

●皮膚に傷がつき少し出血したような場合、好中球やマクロファージなどの炎症細胞が集まり、ダメージを受けた組織を再構築する。その後、血管新生が起こる。この時、必ず毛細血管は伸びているが、傷を治すという緊急事態では、毛細血管の伸び方が通常より早い。

●ケガをしたり、炎症が起こった場合、ダメージを受けた毛細血管が誘導する炎症反応でVEGF(血管内皮成長因子)などの物質を分泌する。それらが既存の血管から新しい血管をつくるように促す。

●ゴースト血管は「血管伸長」という機能が残っていれば回復できる。そのためにはゴースト血管に血液を大量に届ける必要があるが、これには質のよい血液がしなやかな血管にスムーズに流れることが重要である。

●血管内皮細胞には血流を認識する受容体があるため、血液が流れると細胞内にシグナルが入り、細胞を接着させる因子を活性化させる。 

顎関節症

顎関節症は線維筋痛症と同じように以前から気になっていました。それは、不定愁訴を追っていくと顎関節症は一つの可能性として、よく登場してくるためです。また、何となくモヤモヤした印象を持っていたのですが、考えてみると、それは歯科医なのか整形外科医なのかどちらが診る疾患なのかよく分からないというのが理由だったように思います。

検索してみると、顎関節症の書籍は思ったほど多くなく、選んだのは『噛み締めの謎を解く!』という本でした。これはタイトルに付随して、“歯科医が解明した姿勢の歪み・発症のメカニズム”という見出しが気になったためです。

なお、今回は顎関節症の概要や現状を把握すること、鍼灸治療に反映できるものを見つけることが目標です。

ブログは目次の中の黒字の項目をご紹介していますが、「はじめに」は冒頭のみです。内容は要点と感じた個所の要約と、そのまま抜き出した引用(『』で括っています)とが混在しています。 

著者:尾﨑勇

出版:現代書林

発行:2017年5月

 

はじめに

第1章 歯科最大の謎―噛み締めのメカニズム

第1項 あなたの噛み締め度チェック

第2項 歯科最大の謎―噛み締めのメカニズム

①正しい姿勢とはどのような姿勢? 良い噛み合わせとは?

②姿勢を保つ反射の働き

③口元の異常が肩や腰、膝へと伝わっていく

④“あご”が小さくなると頭の位置がずれる?

⑤押し上げ回転と押し下げ回転

⑥7つの姿勢分類と噛み締め型

⑦身体を正面から見た時の姿勢の歪みについて

第2章 噛み締めが引き起こすさまざまな症状

第1項 噛み締めが引き起こす顎関節症

①顎関節症の実態

②女性が男性の2~3倍、顎関節症になりやすい理由

③なぜ口が開かない? 目安は40ミリ

④開口時に起こる関節音(クリック音)

⑤顎関節症のさまざまな症状

●気がつくと噛み締めている

●顎関節が痛い

●あごにひっかかり感がある

●噛むと歯が痛い

●歯ぎしりをする(ブラキシズム)

●ほとんどの人は左側の「噛み締め」

第2項 噛み締めが引き起こす頭痛

①子供にも広がる噛み締めからの頭痛

②緊張性頭痛(非血管性頭痛)と割り箸対処法

●「緊張性頭痛」の治療方針

③片頭痛(血管性頭痛)と女性の患者数

●“こめかみ”周囲に起こる片頭痛の成因

第3項 噛み締めが全身に引き起こすさまざまな不定愁訴

①眼の症状

●細い眼、眼が乾く、三白眼、左右の眼の大きさの違い

②耳の症状

③口、喉の症状―噛み合わせと気道の圧迫

●舌のもつれ・発音障害

●口の中が乾く・口臭がある。舌がしびれる、舌痛

④鼻の症状

●蓄膿症との関係

⑤首のコリ・首が回らない

●首が回らない症状

⑥指先のちりちり感

⑦左右の肩の高さの違い・左右の骨盤の高さの違い

⑧腕が上がりにくく、肩に痛みが起こる(四十肩・五十肩)

⑨自律神経失調症ほか

⑩睡眠時無呼吸症候群と噛み締め

●睡眠時の無呼吸と噛み締めのメカニズム

●無呼吸を招きやすい仰向け寝

●横向き寝で気道を確保する

●呼吸がしやすいうつ伏せ寝

第4項 クリニックでの実際の症例

①症例1 顔が下を向いてしまった男子中学生の患者さん

②症例2 顔が左右非対称だった30代女性の患者さん

第3章 自宅で症状の改善を図るために

第1項 自分の身体の現状をチェック…触診とあごの位置

第2項 マッサージとストレッチを行う

①立っている姿勢で首のストレッチ

②寝転がって肩と骨盤の高さを整える

③日常の生活習慣を変えていく

④片頭痛と緊張性頭痛の対処法

⑤顎関節症・口周辺の対処法

第3項 具体的な運動療法と訓練

①骨盤を押し下げ回転にする運動療法

②股関節、膝、足の不調の対処法

●足のマメ、足の裏の痛み

③舌の訓練

おわりに 

はじめに

あごの関節が痛くて口が開かない、顎関節にひっかかり感があり口が開けにくい、口を開けたり閉じたりすると「カックン」または「ポン」と音がする、下あごを自由に動かすことができない、噛みにくい、噛む筋肉が痛い……。

このような症状を顎関節症と言います。顎関節症はいつも強く噛み締めている状態、慢性的な「噛み締め」が原因で起こります。しかしなぜ「噛み締め」が起きるのか、本人も知らず知らずに「噛み締め」を続けてしまう状態がどのようなメカニズムで起きるのか、実は歯科界の最大の謎となっています。そして「噛み締め」が原因で顎関節症を患った患者さんの多くが、首や肩に頑固なコリなどの症状を訴え、「頭痛がする」、「手足がしびれる」、「精神的な落ち込みがひどい」などの全身的な症状を訴えます。

これまでの長年の治療で、「噛み合わせ」の治療を終えて顎関節の痛みが消え、口が正常に開くようになると、患者さんが訴えていた首のコリも消え、慢性的に感じていた苦痛に改善がみられることがわかってきました。こうした経験から噛み合わせが身体全体に及ぼす影響を無視できないと考え、「噛み締め」がなぜ起こるのか、そのメカニズムを解き明かす研究に20年以上取り組んできました。』

第1章 歯科最大の謎―噛み締めのメカニズム

第2項 歯科最大の謎―噛み締めのメカニズム

②姿勢を保つ反射の働き

・重い指令塔を身体のてっぺんに載せて2本足で立つというとても不安定な構造であるが、視覚や聴覚、あちこちの関節に加わる力や反射などさまざまな感覚や機能をフル稼働させてバランスをとり姿勢を保持している。

・「反射」は姿勢を維持するために特に重要な役割を担う。頭が傾いた時、頭を支える首の筋肉が緊張したり弛緩したりして、頭の傾きを修整する。

・反射は複数あるが、とくに「姿勢反射」は、噛み合わせと深く関連している。身体が揺らぎながら良い姿勢を維持できるエリアを青くし、これを超えてバランスを崩したり倒れたりするエリアを赤く塗ると図3のようなイメージになる。

・『青ゾーンでは、頭は傾くことなく平衡を保ちながら身体が揺らいでいます。そしてこの範囲で身体が揺らぐときは、上下の歯は接触することなく安静位空隙が保たれていると考えます。安静位空隙とは車のハンドルの遊びのようなものです。この“遊びの空間”が確保されているために、上あごから筋肉という紐で吊るされたような構造の下あごも、身体の揺れに合わせて一緒にブランコのように揺れることができます。下あごは身体の動きを感知するセンサーの役割を果たし、姿勢を制御しているというのが、本書の核心になります。

画像出展:「噛み締めの謎を解く!」

 

画像出展:「柔整ホットニュース

上から2段目の、”延髄・橋に関する反射”の右カッコ内に書かれた“緊張性迷路反射”は、耳石器官が関り頭部を調整します。一方、“緊張性頚反射”は頚部の伸張度に応じて四肢の緊張を変化させるもので、非対称性と対称性に分けられますが、いずれも生後4週間から8週間に最も顕著に見られ、原始反射と呼ばれています。

③口元の異常が肩や腰、膝へと伝わっていく

あごの痛みを訴えて診察に来る患者さんは、ほとんど身体に歪みがあって姿勢が崩れています。そして首や肩、腰などに痛みを抱えています。患者さんの姿勢は、いったいいつ、どのようにして崩れてしまうのでしょうか?

その発端は、私は“口元”にあると考えています。口を開けたり閉じたり、話したり、食べ物を飲み込んだりする一連の動きは絶妙なタイミングで調和しています。ちょっとでもずれるとしゃべっているときにつばが飛び散りやすかったり、食べ物が口からこぼれやすかったり、頬っぺたや唇の裏側を噛んでしまい、その傷がもとで口内炎になったりします。そして口周辺と身体の筋肉はつながっているため、患者さんの口元で始まった歪みが、筋肉を伝わって全身に波及していくことがわかってきました。

●口元に起きた異常が全身に波及する流れ

1.食べものの咀嚼や飲み込み、話をしたり息をしたりするときに使う噛む筋肉、舌の筋肉、喉の筋肉などは、口やあご周辺で独立しているのではなく、それぞれが連携し調和しながら動き、首や肩、胸の筋肉とつながり、全身の動きとつながっている。

2.口やあごなど口元に異常が起きると、食べ物を飲み込んだり、話をしたり、とくに呼吸する機能に支障が出る。

3.生命の維持に重要な呼吸機能を守るため、司令塔(=頭部)は台車(=首から下の身体)に、「口とつながっている筋肉に力を入れて引っ張ったり、伸ばしたりして、呼吸が楽にできるようにしろ!」と命令する。あごや頭部の位置をずらしながら、呼吸が楽になる姿勢を見つけると、たとえ頭の位置が身体の重心からずれていたとしても、その状態をキープ7するよう命令する。このため口元や首周辺の筋肉は、常に力が入った状態で固定化する。(図7)  

画像出展:「噛み締めの謎を解く!」

4.口元や首の筋肉が常に緊張・収縮すると、その筋肉につながっている胸、背中の筋肉、それにつながっている腰、臀部の筋肉へと緊張が全身に伝わっていく。身体の筋肉の力が抜けていて、筋肉が緊張と弛緩を繰り返しながら頭が落ちないようにバランスをとる正常な姿勢から、常に筋肉がこわばっている状態に身体が変化し、身体のゆらぎが失われて姿勢が固定化する。

5.筋肉の緊張が定常化した箇所で、コリや痛みが発生する。こうして口元の異常が全身のコリや痛みなどの不定愁訴につながっていく。 

『このような流れで口元の異常が全身に及んでいます。逆にこうした流れで生じた頭痛や肩こりなどの不定愁訴は、口元の異常を治せば解消するというのが私の治療方針になります。』

第2章 噛み締めが引き起こすさまざまな症状

第1項 噛み締めが引き起こす顎関節症

①顎関節症の実態

顎関節症は原因の究明も治療法も確立しておらず、顎関節症の治療を行っても健康保険の対象となる部分は少ない。そのため収入につながらない。これが立ち遅れている一因でもある。

・顎の関節が痛い、口が開かない、口の開け閉めで音がする、顎や舌が動かしづらい、顎に引っ掛かり感がある、これらは顎関節症の症状である。これらの原因は主に「噛み締め」状態が長期間、絶え間なく続くためである。

②女性が男性の2~3倍、顎関節症になりやすい理由

男女の身体の使い方の違いに原因があると考えている。

・特にスカートやハイヒールをはいた時など、多くの女性は綺麗な姿勢を意識するため、骨盤は強い押し上げ回転となる。一方、女性はあごの発育が小さく口の中が狭いため、気道を広げるために頭は押し下げ回転傾向にある。つまり、骨盤と頭の回転はいつも逆向きとなり、腰椎や頚椎に歪みを発生させる。そして、それが「噛み締め⇒顎関節症」につながる。 

画像出展:「噛み締めの謎を解く!」

左は、顎は押し下げ傾向にあるにもかかわらず、意図的に骨盤を押し上げるケース。右は、骨盤が押し下げ傾向にあるにもかかわらず、噛み締めのために顎を引いているケース。これらの無理な姿勢が繰り返されて、腰椎や頚椎に歪み(赤曲線)がうまれていく。

⑤顎関節症のさまざまな症状

●気がつくと噛み締めている

・傾いた頭は姿勢反射によって平衡状態に戻されるが、気道確保などの理由で姿勢反射が働かず、首が曲がったままの状態が続くと、首にスイッチがある頸反射が働き続け、顔を上げ下げする筋肉が収縮する。また、首の筋肉に連動して噛む筋肉が緊張し続け、本人が気づかないうちに「噛み締め」がおきる。 

●顎関節が痛い

・低い冠やブリッジ、低い義歯の装着、奥歯を抜いたままの放置などによって、奥歯の高さが低くなると、噛み締めの力は、本来は受け止めるべき奥歯ではなく、下あごの顎関節頭と関節円板で受けとることになる。顎関節頭は円板の後方にずれ落ち、噛み締める力は顎関節頭から直接、鰐関節窩に伝わり、圧迫し、傷つけ、噛むたびに顎関節が痛む。 

顎関節の構造です。この画像は大阪市にある「MDC(モリサキデンタルクリニック)」さまから拝借しました。

 

●あごにひっかかり感がある

・口を開ける時に感じる“あごの引っかかり感”は、顎関節頭が関節円板の後方に滑り落ちている状態で起きる。大きく口を開ける時に顎関節頭は前方に滑走するが、関節円板が移動を妨げると、“あごがひっかかるような”感じを覚える。

口を開け閉めした時の様子です。この画像は函館市の「みはら歯科矯正クリニック」さまから拝借しました。

 

 

●噛むと歯が痛い

・しっかりと嚙合わせる事ができないと訴える人は、上下の歯を接触させながら前後左右に下顎をスライドできない。正しい噛み合わせは、上下の歯列に噛む力が均等に伝わる。噛み締めの圧力が偏り続けると圧力よって歯槽骨と歯の間にある歯根膜を圧迫して炎症を起こし痛みがおこる。この状態を早期接触による咬合痛という。

●歯ぎしりをする(ブラキシズム)

・歯ぎしりは大学や研究機関においても未だに、原因が突き止められていない。

・身体の歪みが解消されない状態が続くと、身体に起こった筋肉の緊張状態を解放するため、無意識に左右の噛む筋肉を交互に緊張させていると考えている。

・歯ぎしりは通常は60~80㎏の噛み締めの力が、ライオンや虎と同じ200~250㎏に及ぶ人もいる。

・歯ぎしりが続くと咬耗や歯周病の進行を止めることは難しい。

・歯ぎしりは蓄積したストレスを発散させ、全身の硬直状態を緩和する行為かもしれない。しかし、度が過ぎた噛み締めや歯ぎしりは治療が必要になる。

・噛み締めや歯ぎしりは、全身の筋肉の緊張と密接に関係している。口元の噛み合わせの治療だけでは改善が望めない場合、運動療法によって身体が硬直しないよう、正しい身体の使い方を身につける必要がある。

●ほとんどの人は左側の「噛み締め」

・噛み締めは、どちらか片方に偏っている人がほとんどである。そして、来院される患者さんの9割ほどは左である。なお、原因は諸説あり明確なことは分からない。

第2項 噛み締めが引き起こす頭痛

①子供にも広がる噛み締めからの頭痛

噛み合わせの歪みは必ず首に伝わり、その痛みが首から上に向かう場合は頭痛など頭部を中心とした痛み(不定愁訴)を引き起こす。一方、首から下に向かう場合は、肩、背中、腰などを中心とした痛みを引き起こす。

・顎関節症で、慢性的な頭痛をもっている患者さんはほとんど成人だったが、最近では小学生など年齢や性別に関わらず、頭痛に悩む患者さんが増えてきた。

・日本人の3人に1人が慢性的な反復性頭痛をもち、寝込んでしまうほどの痛みを経験した人が34%、国民の約1割は頭痛により日常生活に支障があるという報告もある。

・慢性頭痛は緊張性頭痛と片頭痛が代表的。前者は人口の約8%、後者は約20~30%といわれている。

②緊張性頭痛(非血管性頭痛)と割り箸対処法

・「緊張性頭痛」は、奥歯の噛み合わせの高さが十分ではなく、気道を確保するために頭を押し下げ回転がかかる傾向の強い人が、職場のストレスなどで身体中の筋肉を緊張させた時に、とくに強い筋力を持つ背中の筋肉が収縮して骨盤を押し上げ回転させてしまうことで、引き起こされていると考えている。

・頭と骨盤が逆向きに回転し、腰椎や頚椎に生じた歪みが発端となって全身に起きる不定愁訴のうちの一つの症状ととらえている。

画像出展:「噛み締めの謎を解く!」

緊張性頭痛に関して、特に左のケースが重要なようです。

画像出展:「Therapist Circle

“背中の筋肉”は脊柱起立筋群と呼ばれており、姿勢を維持する“抗重力筋”に該当します。

 抗重力筋には筋紡錘が多いためにうっ血しやすい

抗重力筋には筋紡錘(筋肉の長さを認識するための受容器[センサー])が多いという特徴があります。こちらの記事は「インナーマッスル腹筋でシェイプアップ!!」さまのものです。

画像出展:「鍼灸は効くのか、なぜ効くのかの10講」(全日本鍼灸学会)(PDF4枚)

筋紡錘には交感神経が入ってきているため、ストレスに反応しやすく血管を収縮、血流を悪化させ筋肉を硬くします。

 

③片頭痛(血管性頭痛)と女性の患者数

・片頭痛は片側あるいは両方のこめかみから眼のあたりにかけて、脈を打つように「ズキン、ズキン」と痛むのが特徴である。痛みは4時間~72時間ほど続く。女性は男性の約3倍、比較的若い層(10~40代)に起こる。

・片頭痛は血管性頭痛とも呼ばれ、脳や頭の血管が収縮していた状態から急激に拡張したりする時に、心臓の拍動と同じリズムで痛みが起きる。

“こめかみ”周囲に起こる片頭痛の成因

・噛み締めと鱗状縫合の働きが密接にかかわっていると考えている。ストレスの多い生活によって強い噛み締め状態が長時間続き、噛む筋肉が収縮して硬直している状態が長く続くと、鱗状縫合は閉じたままの状態が続く。ストレスから解放されると、全身の筋肉が弛緩して噛み締めや食いしばりからも解放され、噛み締めによって長期間閉じていた側頭部にある鱗状縫合が突然開き、鱗状縫合に接していた血管の周囲は急激に減圧となって、血管が膨らんだり周囲にひっぱられ、血管を取り巻く神経は引きちぎられて傷つき、拍動を伴った激しい頭痛が発現する。

・『ストレスから開放されたことでセロトニンの消失による血管の膨張と、噛み締めの解消による鱗状縫合の弛緩という、身体の中でただ一ヵ所、2つの膨張要素が重なって三叉神経の損傷が起きるため、こめかみにだけ痛みが出現するというのが私の考えです。この考えについては、今後、脳外科や整形外科、耳鼻科の先生たちとともに検証を進めていきたいと考えています。

まだ私の研究が初期のころ、スプリント装置の装着や、冠を被せる噛み合わせの治療を施して急に「噛み締め」を解放させたときに、患者さんに激しい片頭痛が起きて治療を中断する事が何度もありました。』

鱗状縫合は側頭部中央付近の側頭骨と頭頂骨の間にある縫合です。この画像は兵庫県西宮市の「まつうら歯科クリニック」さまから拝借しました。

 

 

こちらの図は「三叉神経痛.Com」さまから拝借しました。

 

 

第3項 噛み締めが全身に引き起こすさまざまな不定愁訴

①眼の症状

・片頭痛とともに眼の奥に激しい痛みを感じることがある。眼窩の骨は下あごの外側にある咬筋と側頭筋、そして下あごの内側にある翼突筋と結びついている。翼突筋は下あごを前方に押し出す働きがあり、左側に「噛み締め」がある時は、左の咬筋と側頭筋が収縮して下あごを左奥に引っ張り、下あごは左側に移動する。一方、右側の翼突筋も収縮し、足場としている眼の裏側にある骨を歪ませる。そのために左に噛み締めがある人は、右の眼の奥に痛みが起こると考えられる。

こちらの図は「PROTECT GUM」さまから拝借しました。各筋肉の詳しい説明は「筋肉.guide」さまのものです。

②耳の症状

・耳の痛みや難聴等の耳の症状は、噛み締めにより、顎関節頭が額関節窩後壁を直接圧迫し、薄い骨で隔てた外耳道を圧迫するために起こる。

・応急措置としては硬直した噛む筋肉をマッサージするのが効果的だが、本格的な治療は噛み合わせを支える奥歯の高さを回復させる歯科治療が必要になる。

・耳鳴りに関しては、顎関節治療によって消えた患者さんもいれば、続いている患者さんもあり、顎関節症との関係ははっきりしていない。

③口、喉の症状―噛み合わせと気道の圧迫

・顎関節症は「身体と噛み合わせの役割」をよく理解していないと、治すのは容易ではなく、かえって症状を悪化させてしまう場合もある。

・特に問題が多いのは、顎が小さい患者さんの歯並びを矯正する時に、歯が並ぶスペースをつくるために、噛み合わせにとって最も重要な小臼歯を抜歯(便宜抜歯)することである。

●舌のもつれ・発音障害

・低い噛み合わせを急に高くすると、口の中が広がることにより、舌の位置が定まらず発音や嚥下機能に障害が起きたり、さまざまな違和感があらわれたりすることがある。

●口の中が乾く・口臭がある。舌がしびれる、舌痛

・噛み締め状態が続くと、筋肉の硬直のために血流が悪化し、唾液腺の働きが弱まり口の中が乾き、唾液による自浄作用の低下により細菌が滞り、口臭などの原因にもなる。また、血流の問題は舌痛や舌のしびれを起こすこともある。

舌に歯の圧痕がつく症状は慢性的な「噛み締め」によるものである。 

画像出展:「噛み締めの謎を解く!」

顎関節症が疑われる時に、舌の外側に歯の圧痕を確認することは良い方法だと思います。

④鼻の症状

・アレルギー性鼻炎などの耳鼻科的疾患がないにもかかわらず、鼻で息がしにくいと感じる状態は、口の中に舌が収まるスペースが不足しているために舌が喉に落ち込んで、軟口蓋が押し上げられている状態が考えられる。

⑤首のコリ・首が回らない

・噛む筋肉と首の筋肉は連動している。「片寄った噛み癖」、「片寄った噛み締め」がある人は、首の動きが悪い、首こりがある、疲れてくると首が痛い、首をマッサージすると激しい痛みがあるなど、首を中心とした症状を訴える。このような患者さんは、首の後方、第1~第3頸椎周囲がほとんど硬直している。強く押すと神経に触ったかのような激しい痛みを訴える。そしてこの痛みは、噛み合わせの治療を施すと消える。

⑥指先のちりちり感

・指先がチリチリと痺れ、フライパンなどがしっかりもてない症状は、頸椎5、6、7番目の後方から腕の指に神経が出ているが、この部位の筋肉が長期に渡って硬直し、血流が悪くなって疲労性老廃物が蓄積した状態になると、指先にしびれたような感覚が起こる。

⑦左右の肩の高さの違い・左右の骨盤の高さの違い

・噛む筋肉の収縮により、左肩が上がり[左側を強く噛み続けると]、相対的に右肩が下がる。左肩は背中側に引っ張られ、右肩は下がりながら身体の前側に引っ張られ、左右の肩の高さに違いが生まれる。さらに骨盤は左側が下がり、右骨盤は上がって右膝は伸びてロック状態になる。

画像出展:「噛み締めの謎を解く!」

上記で紹介されているケースは左の図のAEになります。

⑨自律神経失調症ほか

・噛み締めがあり身体の筋肉が収縮し続けているような人は、筋肉の緊張状態が続き、交感神経が優位に働いて身体を休める事ができなくなる。

・頸反射は睡眠中であっても身体の筋肉を収縮させているために交感神経を興奮させ、なかなか寝つかれない身体の状況を作り、眠りを浅くし、睡眠不足のために疲れが溜まり常にイライラする。

・首には自律神経が通っており、首の筋肉が緊張し続ける事で正常な自律神経の働きを乱す可能性も考えられる。

・頸反射によって首の筋肉の収縮が後頭部周囲の頸椎に集中すると、頸椎に沿うようにして脳に血液を送っている椎骨動脈が圧迫される。脳に血液を送らなければならない時、高血圧を引き起こす可能性が考えられる。

まとめ(鍼灸治療で考えること)

1.顎関節症は長期に渡る過度なストレスが関係している。

2.鍼灸治療の対象は筋肉と自律神経系である。

●筋肉を緩める

・局所…側頭筋、咬筋、外側翼突筋

・全身…後頚部、腰背部、腹部(腸腰筋など)

●自律神経系を調整する

・本治…脈診から判断したツボおよび“全身調整穴”による施術

・特効穴…内ネーブル4点(長野式で用いられているツボ。お臍の際に4ヵ所雀啄+置鍼。花粉症で使われる)※ブログ”花粉症と自律神経”の最後の付記に説明があります。

付記:日本顎関節学会(さいたま市)

色々検索しているときに、「日本顎関節学会」という学会を見つけました。

このサイトには“専門医・指導医一覧”というページがあります。埼玉県は専門医がさいたま市に一つ、指導医が春日部市に一つありました。

さいたま市の場所は北区宮原町です。

専門医は部長の鈴木茂先生になります。

スペイン風邪と新型コロナ2

著者:速水 融

発行:2006年2月

出版:藤原書店

目次は”スペイン風邪と新型コロナ1”参照ください。

第6章 統計の語るインフルエンザの猖獗

画像出展:「日本を襲ったスペイン・インフルエンザ」

“この恐ろしき死亡率を見よ 流感の恐怖時代襲来す”

全国の状況

-死亡者数の合計

『スペイン・インフルエンザは、大正七(1918)年の「春の先触れ」の後、本格的には、同年10月に始まる「前流行」として、さらに翌大正八(1919)年12月に始まる「後流行」として、二度、日本を襲った。われわれの計算では「前流行」の「インフルエンザ死亡者」は26万647人、「後流行」は18万6673人合計45万3152人で、この数は、従来言われてきたどの死亡者数よりも多い。これは、従来用いられてきた「流行性感冒」の数値から離れ、「日本帝国死因統計」に戻り、「超過死亡[インフルエンザが流行していなかったと想定したときの死亡者数と範囲を統計学的な手法を使って推定し、実際の死亡者数と比較することでインフルエンザによる死亡者数を推定したもの “国立感染症研究所 感染症疫学センター”より]」の考え方に基づいて死亡者数を計算し直した結果である(「流行性感冒」にも超過死亡に近い見方をしている箇所があるが)。』 

-月別の死亡者数

画像出展:「日本を襲ったスペイン・インフルエンザ」

月別インフルエンザ死亡者数(全国)〔1918年―1920年〕

・「前流行」の死亡者数は急速に増大し、大正七(1918)年11月だけで13万人以上を記録し、5月にほぼ終息した。

・このグラフは「前流行」と「後流行」の二つの山があったことを示している。それぞれのピークは大正七(1918)年11月と大正九(1920)年1月で、前者が13万人強、後者が8万弱であった。

-年齢別死亡率

画像出展:「日本を襲ったスペイン・インフルエンザ」

年齢別インフルエンザ死亡者率(全国・男女別)〔1918年―1920年〕

・5歳を過ぎると死亡率は低下するが、15~19歳層から上昇し、男子では30~34歳層、女子では25~29歳層をピークにあとは次第に下降している。このように通常ならば年齢別死亡率の低い層が逆に高いというのが、スペイン・インフルエンザの特徴だった。

地方ごとの状況

-府県別インフルエンザ死亡者数(上)

-府県別インフルエンザ死亡率(下)

画像出展:「日本を襲ったスペイン・インフルエンザ」

府県別インフルエンザ死亡者数(前流行・後流行・合計)

画像出展:「日本を襲ったスペイン・インフルエンザ」

府県別インフルエンザ死亡率(前流行・後流行・合計)

・人的被害は地方差が顕著であったが、この差は、猖獗を極めた時期、都市の存在、軍隊との関係、置かれた自然条件などからもたらされた。

第8章 国内における流行の諸相

神奈川県

-与謝野晶子が感じた「死の恐怖」 

画像出展:「日本を襲ったスペイン・インフルエンザ」

こちらの”死の恐怖”は2度目の投稿。1度目の投稿の題名は”感冒の床から”。

 

『ところで【新報】は、この時期全盛時代で、発行部数15万部、東京発行のどの新聞より県下で広く読まれていた。そして評論家として与謝野晶子からしばしば寄稿を受けていた。流行性感冒に関し、与謝野は二度の論評を掲載している。

第一回は、「前流行」のさなか、大正七(1918)年11月10日で、「感冒の床から」と題し、その伝染性の強さから説き起こし、自分の一人の子どもが小学校で感染したら家族全員に伝染したことを述べ、ついで、日本の対応の遅さに怒りをぶつけている。政府はなぜ早くから、伝染防止のため、「大呉服店、学校、興行物、大工場、大展覧会等、多くの人間の密集する場所の一時的休業を命じなかったのでせうか」。一方では、警視庁の衛生係ではなるべく人ごみに出るなと警告していることを挙げている。このような政府における意志の不統一は多くの国民を危険にさらしているのだ、と気焔(キエン)をあげている。彼女が我慢ならなかったのは、「日本人に共通した目前主義や便宜主義[問題の根本的な部分にはふれないで、何とか済ませてしまおうとする態度]の性癖」であった。あとは折からの大戦終結に向けての意見なのでここでは省略する。

第二回は「後流行」のさなか、大正九(1920)年1月25日で、「死の恐怖」と題し、かなり悲観的、達観的な筆致になっている。死とは何か、から始まり、今回の流行性感冒によって自分が死ぬとしても、最後まで子ども達のために生きたい、それには予防をし、注射を受け、全力を注いで生きるべく努め、「生」への欲を高揚させること、その後なら「人事を尽くした」のだから、運命とあきらめることもできる、としている。「君しにたまふことなかれ」は有名な晶子の詩であるが、ここではそれを自分に向けたかのように感じられる。

終章 総括・対策・教訓

総括

-なぜ忘却されたか?

・『大正中期、日本は、精神的にも、社会的にも、物質的にも大きな曲がり角にあった。海外から入ってくる社会主義思想と、それに対抗する日本の伝統に立つべしとする考え方とかが正面から衝突し、ひとびと、とくにインテリ層は、自分の位相をはっきりさせる必要に迫られていた。「米騒動」に象徴される社会運動は、これに都市の労働運動も加わり、騒々しさを増していった。日本の工業生産額が、農業生産額を上回ったのも、まさにこの時期のことであった。電力生産量が増え、一般家庭に電灯が行きわたり、夜の生活が一変した。夜なべ仕事や読書が従来よりはるかに容易にできるようになった。

日本は、大した犠牲も払わずに第一次世界大戦の戦勝国となり、国際聯(連)盟の理事国にさえなったのである。日本の国際的地位が上がるとともに、日本の大陸侵出が本格的に始まり、内戦中で有効な対抗手段を持たなかった中国へは、要求、借款、資本進出が相ついだ。これに対して、大戦中または大戦直後のヨーロッパ諸国は、自国の再建に忙殺され、ひとりアメリカのみが日本のアジア侵出を警戒し、そのことに対する日本の対応が、結局、その後の太平洋戦争をもたらす素因となるのである。

国内政治では、男子に限られていたとはいえ、制限付きで普通選挙法が治安維持法と抱き合わせのような形で施行され、大学令によって、私立大学も大学の仲間入りをした。識字率の上昇は、大衆に文字文化を伝え、雑誌、書籍の発行点数が非常な勢いで上昇した。

・『関東大震災による死亡者は、最近の調査で約10万人とかなり減ったが、物的被害の大きさはスペイン・インフルエンザの比ではない。この二つの事件を並べると、人的被害と物的被害が対照的であることに気づく。スペイン・インフルエンザによって、日本の景観は少しもかわらなかったが、関東大震災は、東京・横浜を中心に焼野原を作りだした。本書を記すにあたって、スペイン・インフルエンザ流行期の写真を探したが、ほとんど見つからなかったのも、スペイン・インフルエンザが「絵にはならなかった」からであろう。

ともかく関東大震災の一撃によって、スペイン・インフルエンザは記憶の片隅に追いやられてしまった。さらに、昭和期に入ると、日中戦争、太平洋戦争とスペイン・インフルエンザより、もう一桁多い戦死者や一般市民の犠牲者を出す出来事があいつぎ、その思い出は忘却のなかに薄らいでしまった。ようやく、90年近くを経て、いま、再び新型インフルエンザの到来の危険が叫ばれるようになり、スペイン・インフルエンザが人々の話題に登場するようになったのである。』

対策

-人々はインフルエンザにどう対したか?

・『未曽有の大量の死者をもたらしたスペイン・インフルエンザに対し、政府や医学界は何も対策を講じなかったのか。答えはイエスでもあり、ノーでもある。イエスというのは、政府や地方自治体、警察、医学界、病院は、予防ワクチンの注射を勧め、通告を出して、マスクの使用、うがいや手洗いの励行、人ごみをさけることなどを、繰り返し促していた。小学校や中学校では、罹患者が出れば休校となった。こういった注意は、すでに述べてきたように、現在でもわれわれが唯一とり得る対処法であり、呼吸器系の感染症対策の基本である。軍隊が演習を中止したり、鉄道や通信は人手不足で機能を低下させたが、全面ストップにはならなかった。何とかやりくりして、最悪の事態を回避した。何の準備もなかった当時のことを考慮すれば、これには「天晴れ」印を付したいくらいである。スペイン・インフルエンザによる死亡者数が、人口の0.8パーセントでとどまったのも、いく分かはこういった対策が効いたのかもしれない。

しかし、そういった対策は、決して徹底されていたわけではなく、すべてに効果があったわけでもなかった。興業の閉鎖は関東州だけで、他のところではなされなかった。神仏に救いを求めて殺到する満員電車の乗客には、車内での罹患の危険が非常に高かったにもかかわらず、何の規制も加えられなかった。新聞にも、同様の注意が府県、著名な医者の談話として終始掲載され、具体的に、予防ワクチン注射の予定も発表されているが、これはスペイン・インフルエンザ自身に対してなんら効果はなかった。』

新型コロナ感染対策

画像出展:「AFP●BBNews

特集:新型コロナウイルス感染症「COVID-19」”から拝借しました。

 

問題解決の王道は「早期発見、早期対応」です。そして、対策が自分自身で解決できる範囲(ヒト・モノ・カネ)を超える場合は、速やかに上司に相談し、問題解決できる立場(役職)の人を巻き込むことが肝要です。もし、躊躇すれば問題解決のゴールは遠くなります。

これは、私が営業で学んだことです。

政府の感染対策は1年経った今も有事対応には至らず、失敗を恐れて蓋をしてしまったかのようで、根本解決のための積極的な対策は見えてきません。手綱を握りつつ、多くは地方自治体や保健所に丸投げしているようにみえます。うまくいって当たり前、失敗したら厳しい政権批判につながる難しい舵取りのコロナ感染対策からは距離を置き、失敗が少なく英断も不要、多くの国民から評価を得られやすい施策に税金を優先的に投入しているのではないかと勘ぐってしまいます。ちなみに平成30年版厚生労働白書によると、医療関係従事者数は3,206,055人です。一方、日本の有権者数(令和元年の参院選)は、106,587,860人なので、この数字を使って計算すると医療関係従事者は有権者の約3%にすぎないということが分かります。

また、注力している“Go toキャンペーン”にはブレーキがついていないことが発覚し、あらためて危機意識の低さに愕然としてしまいます。アクセルとブレーキを使い分けられない日本政府が、東京オリンピック・パラリンピックを開催することはとても不安です。 

溜まっていた政府への不満と愚痴を書いてしまい申し訳ありません。ただ、アクセル(経済活性化)が非常に重要であることに疑う余地はなく、「本当のところ、どうすべきなのだろう?」という疑問から、まずはうまく対応している国を中心にデータを取ってみてはと思い、調べたところworldometer”という素晴らしいサイトがあることを知りました。そして何はともあれ、情報収集(集計)を始めることにしました。

なお、”worldometer"と共に、ロイターさまの”COVID-19 Gloval tracker”も興味深いサイトです。 

日本(2.891)以外で注目した国は、東アジアが“韓国(1.964)”、“台湾(0.029)”、東南アジアが“フィリピン(8.497)”、“ベトナム(0.036)”、“タイ(0.093)”、“シンガポール(0.494)”、オセアニアが“オーストラリア(3.561)”、“ニュージーランド(0.500)”、欧州が“ドイツ(36.510)”、“スウェーデ(88.386)”、“フィンランド(10.389)”の計11の国です。国名の後ろの( )の数字は、2021年1月5日時点の“人口10万人当たりの累積死亡者数”です。グラフは死亡者数が2桁のスウェーデン、ドイツ、フィンランドを除く9カ国としました。

集計は昨年8月4日からですが、今年の年末まで集計し、約1年半のデータにGDPや失業率などの経済指標を加えて、感染対策と経済対策の関係性について見てみたいと思っています。

参考:「worldometer」

 

今回のブログでは、第2波(第2の山)が大きくなった、日本、フィリピン、オーストラリアの3国に絞り、2021年1月5日までの155日間を対象に人口10万人当たりの、“新規感染者数”・“累積死亡者数”・“累積検査数”をグラフ化しました。以下の表は3カ国ですが、これは12カ国から抜粋したものです。(こんな感じで集計していますということで貼り付けました) 

参考:「worldometer」

 

参考:「worldometer」

”Go to イート”および”Go to トラベル”東京参加は10月1日です。「人が動けばウィルスも動く」だと思います。やはり、ブレーキは必須です。

 

参考:「worldometer」

日本、フィリピンとも明らかに増加傾向です。日本が増え始めた11月5日~1月5日までの2カ月間で両国を比べてみると、日本2.03フィリピン1.25倍となっています。日本は今が最も大事な時期だと思います。

 

 

参考:「worldometer」

このグラフでは日本とフィリピンの差が分かりずらいのですが、2021年1月5日/2020年8月4日の検査数は、日本3,986/672(5.93倍)フィリピン6,230/1,474(4.22倍)と両国も増えていますが、積極的な検査をしているオーストラリアとの差は大きなものです。

日本と検査実態が似ているフィリピンの第2次対策の予算の概要は以下の通りです。こちらは、JETROさまの”フィリピンで新型コロナ対策法第2弾が可決”から拝借しました。

総額1,655億ペソ(約3,641億円、1ペソ=約2.2円)、内訳は予備費(255億ペソ)を除いたものです。

なお、フィリピンの大卒初任給は日本円で約5万円とのことなので、日本の約1/4になります。そのため、投入金額の規模感は4倍の約1兆4500億円程度になります。また、フィリピンのGDPは神奈川県の2824億ドル(”米国個別株とETF【銘柄分析400】”より)を少し上回る規模のようですので、神奈川県が1兆円を超える対策をうったというイメージです。太字は主に医療に関わる予算ですが、合計すると305億ぺソとなり全体の23.3%になります。

日本はこの後、ご紹介するのですが、フィリピンは日本に比べると予算の用途が明確です。日本は、「緊急対応策第2弾」では、“感染拡大防止策と医療提供体制の整備:486億円”、「第1次補正予算の概要」では“新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(仮称)〔1,490億円〕”内訳も付いているものの、具体的にどのような対策をとって問題解決を図ろうとしているのか、予算からは日本政府の根本解決の強い意志は伝わってきません。これは、与謝野晶子先生がスペイン・インフルエンザのパンデミックの時に指摘されていたと同じように、新型コロナ対策も、目前主義・便宜主義な予算化と言わざるを得ません。

●政府系金融機関への資金注入(394億7,000万ペソ)

●農業・漁業従事者向け補助(240億ペソ)

医療従事者の雇用経費および福利厚生費用(135億ペソ)

●失業者などに労働機会を提供して収入を補助する「キャッシュ・フォー・ワーク・プログラム」(130億ペソ)

●公共交通の運転手などへの補助(95億ペソ)

●危機的な状況にある個人向け補助(60億ペソ)

感染者の接触履歴調査員雇用費(50億ペソ)

医療隔離施設の建設や政府系病院の拡張(45億ペソ)

新型コロナウイルス感染者の隔離関連経費(45億ペソ)

●観光産業向け補助(40億ペソ)

●遠隔教育推進費用の補助(40億ペソ)

医療用防護服などの調達費用(30億ペソ)

参考:「フィリピンで新型コロナ対策法第2弾が可決

緑色は”観光産業向け補助”です。”医療従事者の雇用経費および福利厚生費用”の約3割となっています。

 

日本の新型コロナ対策に関しては財務省のサイトにある“令和2年度補正予算(第1号及び第2号)の概要について”が参考になります。

以下に気になる箇所をチェックしながら書き出しました。 

1.緊急対応策第1弾

・政府チャーター機による帰国者の生活支援やワクチン等の研究開発の加速などを盛り込んだ、予備費103億円を含む総額153億円の対応策を2月13日に取りまとめた。(予備費を除く金額は、50億円)

2.緊急対応策第2弾

・新たな助成金など学校の臨時休業に伴って生じる課題への対応や、雇用調整助成金の特例措置の拡大などを盛り込んだ、予備費2,715億円を含む総額4,308億円の対応策を3月10日に取りまとめた。(予備費を除く金額は、1,293億円)

内訳

1)感染拡大防止策と医療提供体制の整備(11.28%):486億円―PCR検査強化10億円(0.23%)、治療薬開発加速28億円(0.64%)など

2)学校臨時休業に伴って生じる課題対応(57.14%):2462億円―保護者支援で1750億円、学童クラブ体制強化等470億円など。

3)事業活動継続縮小や雇用への対応(27.66%):1192億円―雇用調整金特例措置の拡大374億円、資金繰り支援782億円。

4)事態の変化に即応した緊急措置など(3.89%):168億円。

特に“PCR検査強化10億円(0.23%)”と“治療薬開発加速28億円(0.64%)”を足しても対策費の1%にも満たないという現実に唖然としてしまいました。

3.第1次補正予算の概要

1)新型コロナウイルス感染症緊急経済対策関係経費(25兆5,655億円)

(ア)感染拡大防止策と医療提供体制の整備及び治療薬の開発(1兆8,097億円):7.07%

(イ)雇用の維持と事業の継続(19兆4,905億円):76.2%

(ウ)次の段階としての官民を挙げた経済活動の回復(1兆8,482億円):7.22%

(エ)強靭な経済構造の構築(9,172億円):3.58%

(オ)新型コロナウイルス感染症対策予備費(1兆5,000億円) 

まず、“Go toキャンペーン”ですが、上記の(ウ)に含まれています。予算規模は16,794億円です。“新型コロナウイルス感染症緊急経済対策関係経費”に占める割合は6.56%になります。

次に、“感染拡大防止策と医療提供体制の整備及び治療薬の開発(1兆8,097億円)”の内訳ですが、以下のようになります。

新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(仮称) 〔1,490億円〕

PCR検査機器整備病床・軽症者等受入れ施設の確保人工呼吸器等の医療設備整備応援医師の派遣への支援等

・ 医療機関等へのマスク等の優先配布 〔953億円〕人工呼吸器・マスク等の生産支援〔117億円〕

・ 幼稚園、小学校、介護施設等におけるマスク配布など感染拡大防止策〔792億円〕、全世帯への布製マスクの配布〔233億円〕(合計:2,095億円)

アビガンの確保〔139億円〕産学官連携による治療薬等の研究開発〔200億円〕国内におけるワクチン開発の支援〔100億円〕国際的なワクチンの研究開発等〔216億円〕

新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金(仮称)〔10,000億円〕

新型コロナウイルス感染症への対応として必要な、以下を目的とした事業であれば、原則として使途に制限はありません。Ⅰ.感染拡大の防止 Ⅱ.雇用の維持と事業の継続 Ⅲ.経済活動の回復 Ⅳ.強靭な経済構造の構築"

最も気になる“新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(仮称)”は1,490億円なので、「感染拡大防止策と医療提供体制の整備及び治療薬の開発(1兆8,097億円)」の8.23%です。また、“産学官連携による治療薬等の研究開発”200億円は、1.10%、“国内におけるワクチン開発の支援”100億円は0.55%となり、気になる3つの分野への支援は、1兆8,097億円の約10%でした。“新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金(仮称)”に1兆円〔10,000億円〕が予定されていますが、主な用途が「感染拡大の防止・雇用の維持と事業の継続・経済活動の回復・強靭な経済構造の構築」となっているので、予算の約55%を占める“地方創生臨時交付金”のうち、どれ程が医療系に回るのか分かりません。もし、1兆円の多くが経済活動に注がれるならば、「感染拡大防止策と医療提供体制の整備及び治療薬の開発(1兆8,097億円)」は名ばかりの予算になってしまいます。

4.第2次補正予算の概要

1)新型コロナウイルス感染症対策関係経費(31兆8,171億円)

(ア)雇用調整助成金の拡充等(4,519億円):1.42%

(イ)資金繰り対応の強化(11兆6,390億円):36.5%

(ウ)家賃支援給付金の創設(2兆242億円):6.36%

(エ)医療提供体制等の強化(2兆9,892億円):9.39%

新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金として2兆2,370億円(7.03%)

・医療用マスク等の医療機関等への配布のための経費として4,379億円(1.37%)

・ワクチン・治療薬の開発等の経費として2,055億円(0.64%)

・等々

(オ)その他の支援(4兆7,127億円):14.8%

・新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金の拡充のための経費2兆円(6.28%)

・低所得のひとり親世帯への追加的な給付のための経費1,365億円(0.42%)

・持続化給付金の対応強化のための経費1兆9,400億円(6.09%)

・等々

(カ)新型コロナウイルス感染症対策予備費(10兆円):31.4%

・新型コロナウイルス感染症の第2、3波の可能性が排除できない中、今後の長期戦を見据え、事態の急変に対して臨機応変に対応するための万全の備えとして、新型コロナウイルス感染症対策予備費に追加的に10兆円を計上している。

第1次補正予算の時に7.07%だった“感染拡大防止策と医療提供体制の整備及び治療薬の開発”は、第2次補正予算では”医療提供体制等の強化”9.39%と増額されていましたが、フィリピンの23.3%の半分以下です。もっともっと増額されても良いと思いますが、大事なことは目標と計画です。

このためには、新型コロナ感染対策を“有事”と位置づけ、高い危機意識と危機管理、目標・役割・責任を全うする”七人の侍”のような精鋭(感染対策、経済対策、都道府県連系等)を首相直下に配置、そして鬼気迫るリーダーシップの元、感染拡大阻止のための”ロードマップ”を作り、”覚悟ある決断力””状況に応じた柔軟な修正力”をもって、”国民の先頭”に立って新型コロナに立ち向かっていくような、肝の据わった推進力が必要です。なお、これは脱目前主義・脱便宜主義と言えると思います。

最後に、新型コロナ感染対策は有事であり、”ヒト・モノ・カネ”をダイナミックに動かす必要があるため、この問題のオーナーは各知事(地方自治体)ではなく、”日本政府”であると考えます。

付記1:2021年1月3日朝刊の新聞記事

こちらは、ちょっとマニアックな「埼玉新聞」です。

”勝負の3週間”が空振りに終わり、大晦日に東京、神奈川、千葉、埼玉で新規感染者数の最多を更新、”緊急事態宣言”が要請されました。

「進むも地獄、進まぬも地獄だ」。自民党関係者は首相の心境をこう推し量った。再発例すれば感染防止の遅れを認めることになる。一方、発令に慎重姿勢を貫けば医療逼迫の政治責任を一身に背負いかねないためだ。

⇒国民不在!!!

付記2:新型コロナに関するニュース

昨年6月より、気になったニュースの見出しをリストアップしています。ご興味あればクリックしてください。”衛生管理”のページの下のほうにあります。

スペイン風邪と新型コロナ1

まさか生きているうちにパンデミックに遭遇するとは思ってもみませんでした。

前回のパンデミックは約100前の“スペイン風邪(インフルエンザ)”でした。「どんな状況だったんだろう?」という思いからネット検索し、スペイン風邪が日本に広がり始めたのは大正七(1918)年10月であることを知ったのですが、これには少し驚きました。というのは、102歳になっている母親の誕生月が1918年10月だったためです。当時は赤ん坊、今は認知症の高齢者のため、2度に渡ってその脅威に怯える必要はなかったのですが、歴史的には2度のパンデミック経験者ということになります。あらためて、長生きの凄さを実感します。

そんな背景もあり、スペイン風邪の実態を知りたいと思い、見つけたのが今回の本です。 

著者:速水 融

発行:2006年2月

出版:藤原書店

目次の黒字箇所を取り上げていますが、長くなったので前半、後半の2つに分けました。

新型コロナについては後半の最後に、日本を含めた12カ国の日々のデータ(10万人当たりの、“新規感染者数”・“累積死亡者数”・“累積検査数”など)の中から、第2波(フィリピンは第1波の第2の山というべきかもしれません)が大きかった日本、フィリピン、オーストラリアの3カ国について比較しています。

以下は本の表紙の裏側に書かれていたものです。簡潔でとても分かりやすいので最初にお伝えします。

『昨今、「新型インフルエンザ」の脅威が取り沙汰されている。現在、そのウィルスは幸いまだトリからヒトへの感染でとどまっている。しかし、いつそれがヒトからヒトへの感染に変わり、ジェット機時代のおかげで、瞬く間に世界中に広がるか分からない。1918年の人々にとっては、スペイン・インフルエンザがまさに「新型インフルエンザ」だった。世界で第一次大戦の4倍(4000万人)、国内では内地に限っても、関東大震災の5倍近く(45万人)の人命を奪った。これは20世紀最悪の人的被害であり、記録のある限り人類の歴史始まって以来最大でもある。しかし、この史上最悪のインフルエンザは、人々の記録から忘れ去られ、これを論じた著作は日本で一冊も書かれてこなかった。

筆者の願いは、とにかく「スペイン・インフルエンザ」に晒された人々の悲鳴を聞き、状況を知ってほしいという一言に尽きる。当時の人々は、そのような事態に直面して、どう対応したのか、政府は何らかの手を打ったのか、そして、なぜ忘れ去られたのか。将来「天災」のようにやって来るであろう新型インフルエンザに対する備えは、過去の歴史を知ることから始めなければならない。

目次

序章 “忘れられた”史上最悪のインフルエンザ

第1章 スペイン・インフルエンザとウィルス

◆なぜ「スペイン・インフルエンザ」か?

◆インフルエンザ・ウィルスの構造と特徴

◆新型インフルエンザ発生のメカニズム

◆ウィルス発見をめぐるドラマ

◆ワクチンも「タミフル」も万能ではない

第2章 インフルエンザ発生―1918年(大正7)年春~夏

◆三月 アメリカ

-⁻記録に残る最初の患者

-第一次世界大戦の戦況とインフルエンザの発生

-無視された「春の先触れ」

◆四月-七月 日本

-台湾巡業中の力士の罹患

-ウィルスはどこから来たか?

-軍隊での罹患者の増大

◆五月-六月 スペイン

-800万人が罹患

-「スペイン・インフルエンザ」という名称の誕生

◆七月-八月 西部戦線

-西部戦線の異状

-『京城日日新聞』のスク-プ

-両軍の動きを鈍らせたインフルエンザ

-軍隊から市民への感染拡大

◆「先触れ」は何だったのか?

-アメリカ西部の兵営を起点に拡散

-予防接種的な役割を演じる

-三週間で世界中に

第3章 変異した新型ウィルスの襲来-1918(大正7)年8月末以降

◆アメリカ

-港町で変異したウィルス

-欧州派兵とウィルス

-ディベンズ基地で猛威をふるったウィルス

-米軍戦没者の8割はインフルエンザによる病死か?

-当時の状況を描写した詩文

-文字に記されたインフルエンザと体制への憎悪

-アメリカ国内での感染の拡がり

-流行は1918年に限らない

-少なめに算出された死亡者数

-パニックに陥ったアメリカ社会

-戦勝気分に酔うその足元で

-貧富の違いによる被害の違い

◆イギリス

-最大の被害をもたらした第二波は6週間でイングランド全土に

-突出した壮年層の死亡者数

-三つの流行拡大のパタ-ン

◆フランス

-アメリカ軍、フランス軍、イギリス軍の順に感染拡大

-「アポリネ-ル症候群」

◆補遺

第4章 前流行-大正七(1918)年秋~大正八(1919)年春

◆本格的流行始まる

-前流行と後流行

-従来の記録よりも多い実際の死亡者数

-スペイン・インフルエンザ・ウィルスはいつ日本に襲来したのか?

-軍隊、学校が流行の起点に

-三週間のうちに全国に拡大

◆九州地方

-初期の報道-「ブタ・コレラ」、海外の状況

-罹患者の急増

-都市から周辺部への拡大

◆中国-四国地方

-10月末以降、死亡記事が急増

-「予防心得」、氷の欠乏、医療体制の不備、新兵の罹患

-比較的軽かった中国地方での被害?

◆近畿地方

-被害の大きかった京都、大阪、神戸

-地域によって異なる流行の再発

◆中部地方

-大都市より中小都市、郡部で蔓延

-11月に入り、死者増加

-後になるほど悪性を発揮

-被害が大きかったのは製糸業地帯

-「鶏の流行感冒」

-人口1000名中、970名罹患、70名死亡の村も

-生命保険加入推進のチャンス

◆関東地方

-新聞は意図的に報じなかった

-初発以来数十万人が罹患

-インフルエンザと鶏卵の不足

-記録に残された五味淵医師の奮闘

-前年秋を乗り切った人々が罹患

-東京府・東京市の対応

-報道にみる被害の実態

◆北海道・奥羽地方

-他地方より遅れた初発、その後の状況の悪化

-鉄道が伝染経路に

-郡部で長引く流行

-被害が比較的軽かったと言われる北海道

-一村全滅の例も

◆小括

第5章 後流行―大正八(1919)年春~大正九(1920)年春

◆後流行は別種のインフルエンザか?

-前流行と後流行の症状の違い

-前流行と後流行の間の状況

◆九州地方

-後流行の初発

-「予防の手なし」

◆中国・四国地方

-罹患者の二割が死亡

-地獄絵を見るような10日間

-軍隊内での流行

◆近畿地方

-最大の死亡者を出した地域

-年が改まり、死者がさらに増大

◆中部地方

-抗体をもたない初年兵に多い罹患

-二月に死者増大のピーク

-郡部で猛威をふるう

◆関東地方

-初めは軍隊から

-地獄の三週間

-一割強の死者

-鉱山町での大きな被害

◆北海道・奥羽地方

-軍隊が流行の発生源

-秋田県で最小、福島県で最大の被害

-交通の要衝地での感染拡大

-北海道での惨状

◆小括

 

第6章 統計の語るインフルエンザの猖獗

◆国内の罹患者数と死亡者数

-低く見積もられた『流行性感冒』における患者数と死亡者数 

-超過死亡(excess death)による試算

◆全国の状況

-死亡者数の合計

-月別の死亡者数

-死亡率の男女差

-年齢別死亡率

◆地方ごとの状況

-地方ごとの月別インフルエンザ死亡率

-都市のインフルエンザ死亡率

-府県別インフルエンザ死亡者数

-府県別インフルエンザ死亡率

第7章 インフルエンザと軍隊

◆「矢矧(ヤハギ)」事件

-最高級の資料

-上陸許可後に直ちに罹患

-緩慢な病勢進行と急速な感染拡大

-すでに罹患していた「明石」の乗組員

-マニラ到着直後の安堵

-死者続出の惨状

-階級による差

-症状に関する克明な記録

-同じように襲われた他の軍艦・商船

-「矢矧」の帰還

-ピーク後も未感染者に活動場所を見出すウィルス

◆海外におけるインフルエンザと軍隊

-地中海派遣艦隊を襲ったインフルエンザ

-シベリア出兵とインフルエンザ

◆国内におけるインフルエンザと軍隊

-陸軍病院の状況

-各師団の死亡者数

-海軍病院の状況

-新聞報道

◆小括

第8章 国内における流行の諸相

◆神奈川県

-豊富な資料

-流行の時期

-流行の初発

-死者の増大

-いったん終息、その後再発

-後流行の猛威

-与謝野晶子が感じた「死の恐怖」

-二つの貴重な統計

-僻地で高い罹患率

-都市部と農村部の違い

-郡部で罹患者死亡率の高かった後流行

-前流行と後流行の相関関係

-1920年1月における死者の激増

◆三井物産

-『社報』も語る死者の増大

-社員家族を襲った悲劇

◆三菱各社

-流行期に上昇している社員の死亡者数

-鉱山など生産現場に多い犠牲者

◆東京市電気局

-罹患者の多かった「春の先触れ」

◆大角力協会

-「角力風邪」

-「先触れ」で免疫を得た力士

◆慶応義塾大学

-民間における青年・壮年層の被害の実態

◆帝国学士院

-罹患と外出忌避による欠席者の増加

◆文芸界

-犠牲者

-文学作品

◆日記にみる流行

-原敬日記

-秋田雨雀日記

-善治日誌

第9章 外地における流行

◆樺太

-漁期に流行

-最も高い対人口死亡率

-先住民にも多くの死者

◆朝鮮

-内地と同時に流行

-死亡率の高い後流行

-行政は何をしたのか?

-免疫現象の確認

-統計資料の問題

-朝鮮での前流行の犠牲者は約13万人

-朝鮮での死者の累計は約23万人

-三・一運動とスペイン・インフルエンザ

◆関東州

-本地人により大きな被害

-関東州でも死亡率の高かった後流行

◆台湾

-台湾中に拡がり先住民も罹患

-台湾でも軍隊を起点に流行

-本地人と内地人(日本人)の間の被害の差

-死者は多いが、短期間で過ぎ去った流行

-先住民の被害

◆小括

終章 総括・対策・教訓

◆総括

-内地45.3万人、外地28.7万人、合計74万人の死者

-日本内地の総人口は減少せず/流行終息後の第一次「ベビーブーム」

-なぜ忘却されたか?

◆対策

-人々はインフルエンザにどう対したか?

-謎だった病原体

◆教訓

あとがき

資料1 五味淵伊次郎の見聞記

資料2 軍艦「矢矧」の日記

新聞一覧

図表一覧

第2章 インフルエンザ発生―1918年(大正七)年春~夏

四月-七月 日本

-台湾巡業中の力士の罹患

・『大正七年(1918)年の四月には、日本統治下の台湾で折から巡業中の大相撲(当時は「角力」と表記)力士が病気に罹り、三人が命を落とし、ほかの数名が入院するという事件が発生した。』 

画像出展:「日本を襲ったスペイン・インフルエンザ」

“不思議な熱病現はる”

『悪寒から始まり、発熱、四肢の倦怠感、腰痛、38度から40度に達する高熱、約5日間で快方に向かう、としている。』

 

4章 前流行-大正七(1918)年秋~大正八(1919)年春

画像出展:「日本を襲ったスペイン・インフルエンザ」

“太平洋を超て早くも日本へ”

『爆裂弾より恐ろしい西班牙(スパニッシュ)流行感冒 激烈なる流行速度』

 

本格的流行始まる

-前流行と後流行

・スペイン インフルエンザは、大正七(1918)年10月にはじまる流行を「前流行」、翌大正八(1919)年12月から始まる流行を「後流行」と呼ばれた。

-スペイン・インフルエンザ・ウィルスはいつ日本に襲来したのか?

・日本へウィルスが襲来したのは、大正七年9月末から10月初頭の頃であったと考えられている。

-三週間のうちに全国に拡大

・『10月20日を過ぎると、この病気が「流行性感冒」であることが一般に知られるようになり、各新聞とも「流行性感冒猖獗(ショウケツ)」あるいは「死亡者続出」という見出しのもと、軍隊だけでなく、学校の休校、官庁や鉄道・通信機関従事者の欠勤状況についての記事が多くなってくる。全国紙、または準全国紙では、国外や国内の他の地方の状況についての記事が多かった。以下では、全国を六つの地方に分け、仮定した伝染経路にしたがって、西日本から始めるが、その前に、「流行性感冒」に掲載されている各府県の感冒初発の時期を図4-1の地図に示そう。最も早いのは福島・茨城・山梨・奈良の四県であるが、これはむしろ例外で、大部分の府県では9月下旬から10月中旬であった。ほぼ三週間のうちに、スペイン・インフルエンザは全国に拡がった、と言えるだろう』

画像出展:「日本を襲ったスペイン・インフルエンザ」

 

 

関東地方

-新聞は意図的に報じなかった

・東京については、10月24日の各紙で流行性感冒来襲を告げている。

10月25日以降、記事は事の重大性に気付いたごとく、深刻になってくる。

画像出展:「日本を襲ったスペイン・インフルエンザ」

 

 

画像出展:「日本を襲ったスペイン・インフルエンザ」

これ以降、「スペイン(西班牙)風邪」という呼称が一般化する。

 

 

・『10月中の市内の記事は、感冒流行、休校、遠足中止、職場の欠勤者についての報告、交通機関・通信等への影響等に関するものが多く、死亡についての記事は稀であった。しかし11月に入ると、死亡者の続出してきたことが「火葬場の満員 半数は流行性感冒」という見出しの記事(「都新聞」11月5日付け)から窺うことができる。曰く「……砂村、町屋、桐ケ谷、落合の四火葬場に毎日の如く運ばる運ばる病死者の数は殆ど枚挙に遑(イトマ)あらず、……火葬場は今や満員を告げ居りて三日以前に申込むにあらざれば応じきれぬ程の有様を呈し而も其病死者の半数以上は悪性感冒より肺炎、脳膜炎等を併発した結果なりと云う」。この段階では、各紙とも本文には東京市住民の死亡そのものについては何も伝えていないのに、火葬場が多忙なのは、スペイン・インフルエンザ・ウィルスが深く、静かに、東京市の住民に食い込んでいた結果であろう。』

・『この頃[1918年10月]を過ぎると、さすがに抑えきれなくなったのか、にわかに市内の死亡者に関する記事が目立つようになった。11月1日から4日までの4日間の死亡者は、本所区143名、浅草区137名、深川区97名、下谷区91名、牛込区46名とある(「都新聞」11月8日付)が、このうちどれだけが流行性感冒によるのかは判明しない。しかし、翌日の同紙の紙面では、11月になってからの5日間のうちにインフルエンザがらみの病因による死亡が全外の26パーセントに跳ね上がったことを「恐るべき実例」として衛生部長に語らせている。』

第5章 後流行―大正八(1919)年春~大正九(1920)年春 

画像出展:「日本を襲ったスペイン・インフルエンザ」

“遊びにもマスクの世の中

 

 

関東地方

-地獄の三週間

大正九(1920)年になると、スペイン・インフルエンザは牙をむいて東京市民に襲いかかってきた。各紙とも一斉にその状況を伝えている。三河島火葬場に運ばれた遺体は、元旦・59、二日・149、三日・196、四日・157、五日・164に達し、処理能力の1日155体を越えたため、焼残しの出る日も生じた(「都新聞」1月8日付)。そのすべてがインフルエンザによる死亡ではなかったとしても、この明らかに異常な状況は、インフルエンザがいかに猛威を振るったかを示している。「時事新報」は、流行前の大正六(1917)年1月8日の東京市の死亡者が156名であったのを、「本年1月7日の235名と比較」している(1月10日付)  

大正九(1920)年1月11日の「東京朝日新聞」に掲載された死亡広告も被害の大きさを物語っている。 

画像出展:「日本を襲ったスペイン・インフルエンザ」

 

 

 

正月明けで集中したとはいえ、これだけ黒枠広告が載るのは、やはりこの期間の流行性感冒による死亡者が多かったことの証明である。なかには、枢密顧問官芳川顕正伯爵、三村君平氏、秋山孝之輔夫人ら著名人の名も見られる。

しかし、本格的な殺戮は、1月中旬にやってきた。1月11日の「東京朝日新聞」第五面は、ほとんどが流行性感冒関連の記事で蔽われている。見出しのいくつかを取り出すと、「この恐ろしき死亡率を見よ 流感の恐怖時代襲来す 咳一つ出ても外出するな」、「市内一日の死亡者(流行性感冒による)百名に激増 一日以来の感冒患者総数実に九万人」、「元旦からの死亡者同区で二百五十名」、「流感悪化して工場続々閉鎖す」、「日に新患者六十名 第一師団の大恐慌」といった記事で、いよいよ地獄の三週間が始まった。』 

分子整合栄養医学2

著者:森谷宜朋

出版:幻冬舎

発行:2013年7月

目次は”分子整合栄養医学1”を参照ください。

 

Chapter5 細胞から整えてきれいな肌になる

栄養不足が老化の原因

●身体を構成している60兆個の細胞はタン白質・脂質・ミネラル・ビタミンなどの栄養素で成り立っているが、細胞の材料の大半を占める栄養素がタン白質である。

画像出展:「肉食女子の肌は、なぜきれいなのか?」

こちらは“プロテインスコア”の表です。プロテインスコアとは体内では合成できない9種類の必須アミノ酸のバランスを食品ごとに評価したものです。卵を先頭に上位を動物性の食品が上位を占めています。大豆、納豆、豆腐などはいずれも50台ですが、これは大豆がメチオニンとリジンという必須アミノ酸の含有量が少ないということのようです。

 

多すぎる活性酸素は老化を進行させる

・『ヒトの細胞は酸化に常にさらされています。なぜなら、ヒトは酸素を吸って生きているからです。ヒトの細胞は、酸素を利用してATPというエネルギーを作って生きているのですが、このエネルギーを作る過程でどうしても活性酸素が作られてしまうのです。少量の活性酸素は細菌を殺菌するなどで貢献してくれるのですが、問題は活性酸素が過剰に産生された場合。大量の活性酸素は役立つどころか、かえって細胞の酸化を引き起こしてしまいます。そしてどんな時に過剰な活性酸素が発生するかというと、たとえばマラソンやトライアスロンなどのハードな運動をした時です。

エネルギーを産生する時以外にも、活性酸素は体内で発生します。お酒を飲んでアルコールが分解されてできたアセトアルデヒド、あるいは喫煙なども活性酸素の発生源です。その他には、X線検査などで浴びる放射線や、ウィルスや細菌の感染などでも活性酸素が発生します。』

活性酸素がシミやしわ、がんや認知症の原因に

『活性酸素が大量に発生したり、活性酸素の処理がうまくいかなかったりすると、細胞を酸化させ傷つけてしまいます。というのは、細胞を覆う細胞膜にはコレステロールやリン脂質などの脂肪成分が多く、この脂肪成分が活性酸素によってダメージを受けやすいからなのです。

また、がんや認知症も活性酸素による一種と言えます。それは、活性酸素によって細胞の設計図であるDNAという遺伝子が傷つけられ、その修復が正しくなされないことが、がんの原因になるからです。認知症は、脳細胞が活性酸素によって多くダメージを受けたことを原因としています。』

甘いものは老化の原因

・甘いものなど、糖質が多く含むものを摂ると血糖値が高くなるが、多くなったブドウ糖は細胞や酵素などのタン白質にくっつき、タン白質の本来の機能を損ねてしまう。このブドウ糖がタン白質に結合する現象のことを「糖化」という。

・酵素には活性酸素を消去したり、代謝を促進したりする作用があるが、糖化してしまった酵素はこのような機能が十分に発揮できなくなる。そのためいろいろな病気の原因や老化の原因になる。

・糖化したタン白質は活性酸素を発生させる。さらに恐ろしいのは、糖化したタン白質は最終糖化産物(AGE)というものになり、これが活性酸素を大量に発生させてしまう。

腸を整えると美肌になる

・栄養素は主に小腸で吸収される。

小腸の主なエネルギー源はグルタミン酸というアミノ酸で、タン白質の中に多く含まれている。従って、タン白質摂取が少ないと小腸の働き低下につながる。

・小腸の粘膜は摂取する栄養の不足により働きが低下するが、粘膜上皮の維持(正常な分化)にはビタミンAが欠かせない。

・小腸の免疫活動は飲食物に含まれる外来抗原に対抗するためだが、腸管の粘膜には身体全体の量の半分以上のリンパ球が存在している。腸管免疫系とは、身体に必要な栄養素と病原性のある細菌を識別し、必要なものだけを取り込み、有害なものを排除するという仕組みである。

腸も自律神経を調節する

・ヒトの腸内には100種類を超える常在細菌が存在しており、その数は100兆個と言われ、重量にすると1㎏ほどになる。

・腸内細菌は他の菌と共生しているだけでなく、宿主であるヒトとも共生している。

・腸内細菌には乳酸菌のような善玉菌、ウェルシュ菌などの悪玉菌、大腸菌などの日和見菌があるが、善玉菌は、病原菌の感染を防ぐ、免疫を刺激する、自律神経のバランスを整える、ビタミンB群やビタミンKを作る、腸内の内容物の腐敗を防ぐなどの働きをしてくれる。

・日和見菌は、普段は善玉でも悪玉でもないが、体調が悪化すると悪玉菌として作用する。

・「第2の脳」とも言われる腸には1億個の神経細胞があり、脳の指令を受けず腸自身で判断することもある。

・自律神経は脳だけでなく、腸からも調節を受けているが、腸での自律神経の調整には腸内環境が良いことがとても重要になる。

腸内環境をよくすると冷え性も改善

・冷え性の原因は、鉄不足、筋肉量不足のほか、腸内環境の悪化も冷え性の原因となる。

腸内環境が悪化すると、自律神経の調節がうまく行われず、交感神経が緊張し、副交感神経が抑制されることにより血管が収縮する。これにより、皮膚の血管も収縮し、血流が悪化して手足が冷える。

・自律神経の安定は腸内の善玉菌が鍵を握っているが、善玉菌の増殖や悪玉菌の抑制にはラクトフェリンやオリゴ糖、食物繊維などのプレバイオティクスの補給が重要である。

・腸内環境が良くないと、小腸が異物を吸収してしまい皮膚のアレルギー症状を引き起こしたり、腸内細菌がビタミンB群をうまく作れず皮膚炎を起こしたりする。

頭痛の大半は鉄不足から

・女性の頭痛には鉄不足が関係していることが多い。分子整合栄養医学的には「月経のある女性であれば70 ng以上、閉経後の女性であれば125 ng以上が理想値」と考えており一般的な基準値は6~167ng[ナノグラム=10億分の1グラム])、隠れた鉄不足が問題である。

脳や神経と皮膚の深いつながり

・発生学的に見ると、皮膚は神経に近い存在で関係性は深い。神経の維持にはビタミンB群、神経の安定にはカルシウムが必要である。これらの栄養素を摂取し自律神経を安定させることは皮膚の健康にとっても重要である。

皮膚炎や湿疹の原因が副腎疲労症候群のことも

・人はストレスがかかると、副腎で抗ストレスホルモンである副腎皮質ホルモンを分泌して、ストレスに対抗するが、ストレス状態が長く続いたり、栄養不足が顕著になったりすると、副腎は疲労しホルモンをうまく分泌できなくなる。これにより、倦怠感、気分の落ち込み、睡眠障害、関節の痛みのほか、湿疹や皮膚炎が起きたり、太りやすくなるなどが起こる。

副腎は身体の中で最もビタミンC濃度が高い臓器であり、ビタミンCは副腎を元気にする栄養素だが、その他、タン白質、ビタミンB5、ビタミンEなども重要である。

Chapter6 お悩み別アドバイス

2.乾燥肌

肉を食べると、お肌の潤いが保てる

・肌の乾燥は表皮の一番上にある角層の水分不足が最大の原因だが、角層の水分にはケラチンが関与している。ケラチンは動物性タン白質に多く含まれている。また、角質細胞にはNMF(天然保湿因子)があり、肌の潤いを保っている。このNMFは半分以上がアミノ酸でできているが、さらにNMFが作られるためには表皮細胞が正常に分化するためのビタミンAも重要である。また、角質細胞と角質細胞の間にはセラミドやコレステロールなどの細胞間脂質があり、水分の層を挟み込んで保持している。以上のことから乾燥肌を防ぐには、タン白質、ビタミンA、脂質を摂ることが大切である。

4.しわ・たるみ

コラーゲンよりもビタミンC、アミノ酸、ヘム鉄を

・『しわの一番の原因は、紫外線によってできた活性酸素です。活性酸素によって真皮の大半を占めるコラーゲンのタン白質の立体構造が壊されると、その壊れた部分が凹んで、しわになります。コラーゲンを安定化させている基質も同様に、紫外線によってできる活性酸素で変性します。ですから、しわの予防のためにも紫外線対策が重要になります。』

・コラーゲンを作るための材料が不足したり、コラーゲンを作る線維芽細胞がきちんと機能しなかったりすると、しわになってしまう。

・コラーゲンを作る線維芽細胞がきちんと分裂するためには亜鉛が、正常に分化するためにはビタミンAが必要である。

13.更年期障害

副作用がない大豆イソフラボンがおすすめ

・『更年期障害は、卵巣機能が低下し、女性ホルモンの分泌が減少し始めるころから閉経までの期間に起こります。症状は、のぼせ・発汗・不眠・うつ・イライラ・めまい・頭痛・動悸など多岐にわたります。

更年期には、卵巣機能が低下してきて、卵巣からエストロゲンという女性ホルモンを分泌することがうまくできなくなります。そのため、卵巣からエストロゲンをしっかり分泌させようと、女性ホルモンの分泌を司る脳の視床下部が分泌命令を強めるのですが、卵巣機能が低下しているので、卵巣は脳の指令に応じた女性ホルモンをうまく分泌できません。その結果、命令を下した視床下部は混乱します。そのうえ、この視床下部には自律神経の中枢もあり、女性ホルモンをうまく分泌できないという混乱が自律神経のバランスにも影響を与えてしまいます。そうして、前述のようなさまざまな症状が生じるわけです。』

・婦人科ではホルモン補充療法を行う場合が多いが、アメリカでは乳がん・子宮がん・心筋梗塞といった動脈硬化・肝機能障害などの副作用が多く、ホルモン補充法は今では下火になっている。

・日本人は欧米人に比べて更年期障害の症状が軽いが、それは日本人の大豆摂取量が多いためではないかと考えられている。また、卵巣機能を高めるためにはビタミンEの補給が有効である。

副腎でも性ホルモンを作っていて、副腎機能が低下すると性ホルモンの分泌が低下し、更年期症状が出やすくなる。なお、副腎を元気にするのは、ビタミンC、タン白質、ビタミンEなどである。

・貯蔵鉄(脾臓や肝臓に蓄えられている鉄)の値が低い鉄欠乏性状態の女性は、より更年期障害の症状が出やすくなるので、鉄欠乏を改善することも大切になる。

エストロゲンの分泌が減ると骨粗鬆症も引き起こすので、カルシウムやマグネシウムの摂取も重要になってくる。

まとめ

以下の2つがポイントだと思います。

1.望ましい生活習慣(食事・睡眠・運動・禁煙)を心がけ、腸内環境をととのえるとともに、不要な活性酸素の発生を抑えること。

2.糖質をひかえ血糖値を維持する。これにより、摂取したタンパク質を亡きものにしてしまう糖化、さらに進んで大量の活性酸素をばらまく最悪の物質、AGE(最終糖化産物)を発生させないこと。

そして、特に栄養の偏りが気になる方、原因不明の体調不良がながく続いている方は、まずは今の食習慣を見直して頂くことをお勧めします。

付記:オーソモレキュラー栄養医学研究所

こちらは、分子整合栄養医学を推進されている団体です。埼玉県でONP(プロフェッショナル)または、ONE(エキスパート)が在籍されている医療機関は、川口市と北本市にそれぞれ1つありました。

 

 

分子整合栄養医学1

今回の“分子整合栄養医学”はブログ“線維筋痛症”の宿題です。そして、栄養に注目するのは、自然治癒力に深く関係していると考えているためです。

昔から自然治癒力という用語を深く考えず、当たり前のように使っていたのですが、ある時、「ところで、自然治癒力って何だ??」と気になったことがありました。考え出したキーワードは「恒常性の維持」と「代謝」です。そして、最終的に自然治癒力を「ストレス適応と栄養代謝」と定義しました(ご興味あれば、ブログ“がんと自然治癒力13”の後半を参照ください)。

ストレス」の元であるストレッサーは脳にアタックをかけます。これらのストレッサーに対処し、ダメージをできる限り小さくすることができれば、健康な状態を守ることができると思います。なお、ストレスへの対処に有効なものの代表は運動です。

一方、ダメージを負った心身に必要なものは、食事(栄養素)睡眠だと思います。「栄養代謝とは、しっかり食べ、しっかり休息をとり、酵素やホルモンなどが本来の働きをし、食べた物が無駄なく体の血肉になるというイメージです。

以上が、自然治癒力にとって「栄養」は非常に重要であると考える理由です。

画像出展:「痛みが全身に広がる病気をとことん治す」

医学の父と呼ばれているヒポクラテス(紀元前460~357年)は次のような言葉を残されています。

食べ物について知らない人が、どうして人の病気について理解できようか

著者:森谷宜朋

出版:幻冬舎

発行:2013年7月

一瞬、タイトルにギョギョとしてしまいましたが、よく見ると小さく、”細胞から整える分子整合栄養医学のすすめ”という副題がついており、実際、たいへん勉強になりました。

 

ブログで取り上げた項目を黒字にしていますが、『』で括られた文章は正しくお伝えしたいので引用させて頂きました。

Chapter3、4、7については触れていません。また、少し長くなったので2つに分けました。

はじめに

Chapter1 アンチエイジングのための分子整合栄養療法

「病気は薬で治すもの」と思い込んでいた勤務医時代

分子整合栄養医学との出合い

産後に精神不安定だった妻が劇的に快復

薬を使わないので副作用の心配がない

自然治癒力を取り戻す

「未病」を発見して治療

Chapter2 答えはすべて血液診断にある

栄養が足りなくなると、どうなるの?

健康は細胞から崩れ始める

体調が悪いのに、血液検査で「異常なし」が出る理由

基準値=正常値ではない

血漿レベルではなく、細胞レベルで濃度をチェック

胃粘膜の萎縮は胃の老化

ピロリ菌を除菌してアンチエイジング

病院の医師は火消し役、分子整合栄養医は修理役

Chapter3 若々しくきれいになるための肉食のすすめ

採食生活のさまざまな落とし穴

鉄不足はしわやたるみの原因に

適量の動物性食品をプラスする

現代人に多い栄養失調

主食は米にあらず

糖質・炭水化物を摂りすぎない

栄養価の高い旬の食材

タン白質を必ず毎日一定量摂る

低血糖症の人はおやつに豆類かゆで卵を

アルコールを飲む場合はナイアシンを補充

市販のサプリメントに頼らない

分子整合栄養医がすすめるダイエット

ダイエット中も、タン白質、ミネラル、ビタミンは摂取

断食をするとリバウンドしやすくなる

Chapter4 分子整合栄養医が斬る食にまつわるウソ・ホント

あなたの食理論はホントに正しい?

「菜食主義」は老化を抑える→ウソ

肉を食べると太る!→ウソ

コレステロールが高い人は、卵や肉を食べてはいけない→ウソ

貧血には、ほうれん草やひじきがよい→ウソ

皮下脂肪は余計なもの→ウソ

タン白質が不足すると、脚が短くなる→ホント

プロテインを飲むと、マッチョになる→ウソ

ビタミンCは、摂りすぎると尿に溶けて出ていく→ウソ

バターよりもマーガリンの方がヘルシー→ウソ

オリーブ油は身体にいい→ホント

心筋梗塞や脳梗塞の原因は、動物性脂肪である→ウソ

青魚と肉をバランスよく食べると、血管がきれいになる→ホント

胃酸は抑えるほどいい→ウソ

お酒を飲むなら焼酎か赤ワイン→ウソ

Chapter5 細胞から整えてきれいな肌になる

真のアンチエイジングは、身体全体がターゲット

皮膚は内臓の鏡

GPTの値が低すぎても「異常」

皮膚は排泄する臓器

理想なのは赤ちゃんの肌

美しい肌のために必要な栄養素

栄養不足が老化の原因

糖質や炭水化物を摂りすぎない

多すぎる活性酸素は老化を進行させる

活性酸素がシミやしわ、がんや認知症の原因に

甘いものは老化の原因

血糖を急上昇させない食事を

フレンチや会席料理の順番で食べる

タン白質をきちんと消化する胃を

ピロリ菌感染で胃は老化する

腸を整えると美肌になる

腸も自律神経を調節する

腸内環境をよくすると冷え性も改善

頭痛の大半は鉄不足から

脳や神経と皮膚の深いつながり

皮膚炎や湿疹の原因が副腎疲労症候群のことも

ストレスはシミも濃くする

最低限のスキンケア+栄養たっぷりの食事を!

Chapter6 お悩み別アドバイス

1.ニキビ・ふきでもの

・鉄不足、ビタミンB群不足、糖分の摂りすぎなどが原因

2.乾燥肌

・肉を食べると、お肌の潤いが保てる

3.シミ

・紫外線による活性酸素を防ぎ、消去する

4.しわ・たるみ

・コラーゲンよりもビタミンC、アミノ酸、ヘム鉄を

5.毛穴の開き

・コラーゲン減少による真皮のたるみが原因

6.赤ら顔

・腸内細菌の乱れが発症の一因

7.主婦湿疹(手荒れ)

・バリア機能の低下による炎症

8.薄毛・抜け毛

・タン白質や亜鉛不足

9.便秘・下痢

・便は健康のバロメーター

10.ダイエット

・タン白質を減らしたダイエットはリバウンドする

11.デトックス

・毒素は水でなく、よい脂肪で追い出す

12.月経前症候群(PMS)

・体内の過剰な水分蓄積や栄養バランスの乱れを直す

13.更年期障害

・副作用がない大豆イソフラボンがおすすめ

14.頭痛

・頭痛の原因は鉄不足にあり

Chapter7 栄養療法はオーダーメイド

栄養療法は健康や長寿につながる

「こんなにたくさん飲むの?」というほど摂取する

サプリメントに抵抗がある人は

自然治癒力を高める栄養療法

継続は力なり

あとがき

あなたには、この栄養素が足りない!

分子整合栄養療法でよく用いる栄養素

はじめに

分子整合栄養医学とは、「人間の身体は食べた栄養からできており、身体を構成する細胞に必要な分子(栄養素)の不足や乱れが病気や老化の原因になるため、細胞の分子濃度(栄養状態)を正常な状態に整え合わせることで、病気や老化を予防・治療する」というものである。そして、この分子整合栄養医学の理論に基づき、血液検査で不足栄養素をチェックし、治療用に開発された高濃度の栄養素を補充する治療のことを「分子整合栄養療法」という。

●慢性疾患は細胞の分子の乱れ=栄養欠損が原因である。そのため薬に加え、不足している栄養素を補充し、細胞の栄養濃度を正常に戻す必要がある。

●分子整合栄養療法が効果的な疾患は、貧血、アトピー性皮膚炎、ニキビ、湿疹、うつ、関節リウマチ、動脈硬化、不妊、月経不順、PMS(月経前症候群)、がん、認知症、肌の老化などのアンチエイジングなどである。

Chapter1 アンチエイジングのための分子整合栄養療法

「病気は薬で治すもの」と思い込んでいた勤務医時代

・『一般の人はもちろんのこと、医療関係者のほとんどが、病気は薬で治すものと思い込んでいます。かく言う私も勤務医時代はそう思っており、薬を処方してきました。

しかし、大きな病院に勤務し、内科医として薬物治療を行っていながらも、自分はほとんど患者さんを治せていないという無力感を抱いていたのです。特に胃がんや大腸がんの末期の患者さんは、いくら抗がん剤治療をしても、副作用に苦しんで、最終的には残念な結果に至るということの繰り返しでした。』

分子整合栄養医学との出合い

・『何かよい治療方法はないかと模索している時に出合ったのが、分子整合栄養医学です。

分子整合栄養医学は、ノーベル賞を2回受賞した天才生化学者ライナス・ポーリング博士らが提唱したもので、正式には“Orthomolecular Nutrition and Medicine”と言われます。その理論は次のようなものです。

身体の不調は、加齢、ストレス、遺伝素因、不適切な食生活、生活習慣、飲酒、喫煙等々のさまざまな原因が関与し、身体を構成する細胞の分子が本来あるべき正常な状態ではなくなることに起因するので、人間の身体の仕組みを細胞の分子レベルで解明し、不足している分子を至適量補給すれば、生体機能が向上し、人間が本来持っている自然治癒力が高まって病態が改善される

・ここでいう「分子」とは「栄養素」のことである。従って、「細胞の分子が本来あるべき正常な状態でなくなる」というのは、「細胞が栄養不足になる」ということである。そして、これが原因で身体が不調になる、つまり「病気は、栄養不足が原因である」ということである。

・栄養不足が病気の原因ならば、栄養不足を解消することが治療に至る一番の近道となる。

・栄養不足を解消する治療法とは、人間の身体の仕組みを細胞の分子レベルで解明し、不足している分子を至適量補給すること。つまり、細胞に不足している栄養素を探り、必要な栄養素を必要なだけ補給するというものである。

どんな栄養素が不足しているかという診断は、生化学的な理論に基づく詳細な血液検査によって行う。分子整合栄養医学では、病院で通常検査する項目以外にも多数検査する。また、検査で得られた数値を、ただ基準値に当てはめて正常か異常かを診るのではなく、生化学的な背景を考慮しながら、本来あるべき細胞濃度と照らし合わせて深く分析する。

画像出展:「日本オーソモレキュラー医学会

ライナス・ポーリング博士は、1954年度のノーベル化学賞と1962年度のノーベル平和賞を受賞されました。そのポーリング博士が60代になった時、体内の生化学物質が本来の機能を発揮できないことが原因で発生する病気に焦点を当て、これを治療する「オルソモレキュラー・メディスン(分子整合医学)」を提唱されました。

※”オーソモレキュラー栄養療法 導入医療機関一覧”をクリック頂くと、各都道府県で開業されている医療機関を見つけることができます。

自然治癒力を取り戻す

●分子整合栄養医学の最大の長所は元を断ち、根本的な治療をすることである。これは細胞の濃度を「本来あるべき状態」に戻し、個々の細胞を自然な働きへと向かわせることであり、根本原因の栄養不足が是正されれば、自然治癒力が働くようになる。つまり、必要な栄養素を口から摂取し、腸から吸収し、血液に取り込んで血流に乗せて、不足している場所まで運べば、あとは人間の身体が壊れかけた細胞を修復してくれるということである。

Chapter2 答えはすべて血液診断にある

体調が悪いのに、血液検査で「異常なし」が出る理由

●体調不良に伴って病院で行われる血液検査は保険適用内の検査で、目的は「治療のため」であり、検査項目は限られたものになっている。一方、健康診断の血液検査の項目も、血色素量(ヘモグロビン)、赤血球数、GOT、GPT、γ‐GTP、中性脂肪、HDLコレステロール、LDLコレステロール、空腹時血糖という範囲に限られたものであり、分子整合栄養医学的な検査項目と比較すると、2割程度の項目数にすぎない。これでは、未病や慢性疾患の原因を発見したり、さらに原因を突き止めたりすることはできない。

基準値=正常値ではない

●検査結果の数値は個人差があるので、継続して検査を行う必要がある。何度検査しても同じくらいの数値であれば、その数値が基準値から外れていても、それはその人の正常値であると考えられる。このように、血液検査の分析は経時的変化を診ることが極めて重要である。

●GPTは肝機能を診る検査である。この値が高いと「肝細胞が壊れている=炎症がある」と考えるが、値が低い場合は特に問題なしとなる。しかし、分子整合栄養医は異なる。酵素の多くはタン白質でできており、GPTはさらにビタミンB6を補酵素としているため、GPTが低い場合、分子整合栄養医はタン白質不足、ビタミンB6不足があると判断する。 

画像出展:「肉食女子の肌は、なぜきれいなのか?」

 

 

 

血漿レベルではなく、細胞レベルで濃度をチェック

●『たとえば鉄の過不足を診断する際に、現代医学では一般的にヘモグロビンや血清鉄の値が基準値内に収まっていれば、鉄欠乏はないと考えます。

しかし血清鉄とは、臓器やタン白質に貯蔵されている鉄(貯蔵鉄)がヘモグロビンの合成や組織での利用のために運ばれている状態のものです。したがってその値は運搬中の鉄量であり、体内にあるすべての鉄量を示すものではありません。むしろ、体内にある鉄の3分の2がヘモグロビンに、残りの大半が貯蔵鉄に含まれているので、血清鉄はほんのわずかな量でしかありません。しかも血清鉄は運搬中の鉄ですから、貯蔵鉄が少しくらい減ったところで、値は大きく変動しません。

体内で鉄が不足してくると、まず減るのが貯蔵鉄、次に減るのが血清鉄、そして最後はヘモグロビンが作れなくなって、鉄欠乏性貧血が起こります。したがって、鉄不足を初期段階で見つけるには、貯蔵鉄をチェックしなければなりません。逆に、血清鉄の値が基準値を下回っているようなら、すでに深刻な鉄不足です。

貯蔵鉄の値を示す項目が「フェリチン」です。フェリチンは鉄を貯蔵するタン白質で、身体の中の鉄の減少を、血清鉄よりも早く、そして正確に反映します。ですから、血清鉄の値が低くなくてもフェリチンの値が低い場合は鉄欠乏と診断すべきなのです。

このように、栄養素の過不足を判断するうえでは、血液中の液体成分に含まれる血漿レベルの濃度よりも、細胞レベルでの濃度を診る方が重要になります。にもかかわらず、医学者の多くは、血漿レベルでの濃度しか診ていないのです。 

線維筋痛症5

編者:リーダーズノート編集部

出版:リーダーズノート出版

発行:2014年7月

目次は”線維筋痛症4”を参照ください。

慢性痛にはセルフケアが重要

『「風を引いたら、みんなどうする?」と子供たちに聞く。10人中、10人が「薬を飲むー」と答える。明治国際医療大学の伊藤和憲准教授(臨床鍼灸学教室)は、これが日本の典型的な姿だと危惧する。医療保険の充実しない海外ではそうならない。「風呂にはいる。ハーブティーを飲む」そういった答えが返ってくる。幼少期の教育が大人になってからの痛みの対処法を決めると考える伊藤准教授は、日本の子供たちには、早期に、自分で身体をケアする教育が必要だと言う。「風を引いたら病院で薬をもらう」との発想のくりかえしでは、病気になったときに、自分では何もできない。』

・伊藤准教授は、鍼灸センター専門外来で線維筋痛症を担当されており、国内でもトリガーポイントの専門家として知られている。

・痛みは医療機関だけにまかせる受身的な治療ではうまくいかないことから、患者自らが痛みをコントロールするセルフケアを推奨し認知行動療法(痛み教育と考え方)、アロマテラピー、森林浴、ヨガ、ツボケア、笑い、運動の八つのプログラムによるセルフケアの効果の研究も行っている。

身体の機能を回復させる治療として数多くの東洋医学的アプローチがある中で、鍼治療のメリットについては、痛みがコントロールできること、副作用がほぼないこと、そして、治療中に患者と語り合えることの三つを挙げている。

鍼は、医師の治療や処方された薬を補っていく役割と位置づける。

・専門は筋肉のため、線維筋痛症や筋・筋膜疼痛症候群の患者との関りも多い。

・『「ストレスがかかると筋肉は硬くなり身体は丸まるんです。交感神経が高ぶる時は、体は丸まるようにできていて丸まる筋肉も決まっている。立ったり、バランスを取る抗重力筋はストレスに敏感。ほかの筋肉に比べ脳とのやり取りが密にあるわけです」 

・抗重力筋の中にある筋紡錘には交感神経が来ており、脳の影響を受けやすい。

交感神経が高ぶると、大胸筋、僧帽筋、肩甲挙筋、腓腹筋、ヒラメ筋などの筋肉が緊張しやすい。また同時に、目が乾いたり口が渇いたり、手足が冷えたり、不眠といった不定愁訴が起こってくる。

・『「私は選択的に、交感神経に影響のある筋肉のトリガーポイントを探して緩めてあげる。それが、副交感神経を優位にするんですね」鎮痛系に働く治療と、交感神経に働く治療と二つを合わせて治療する。それが伊藤准教授の考える鍼治療の理想。脳を介した痛みのメカニズム、自律神経を調節するための方法、局所の筋肉の対処という、立体的な医療概念からの話も魅力的だ。』

・線維筋痛症を含む慢性痛は、自分でも身体をメンテナンスしていかなければ治すのは難しい。そのためセルフケア医療への対策にも力を入れている。

鍼灸師は、痛みの専門家として、痛みに関する正しい知識を身につけ、ペインマネージャとして患者の痛みをトータルケアする必要がある。[注:このことは本に書かれていたものではありません。2014年冬に伊藤先生が講師をされた“トリガーポイントと鍼灸治療”というセミナーを受講したときに、最も印象に残ったことです。] 

画像出展:「痛みが全身に広がる病気をとことん治す」

伊藤先生の”セルフケア”のコラムを見つけました。

慢性痛患者のための セルフケアガイドブック” もありました。クリック頂くダウンロードされます(PDF24ページ)

機能回復、症状改善するポイントは血流にある

『身体の機能を高める=免疫力を高めるために、姫野医師のような「分子整合栄養医学」からのアプローチは極めて説得力を持っていた。また、伊藤准教授の説くセルフケアも重要に思えた。次に本書の取材班は、線維筋痛症の症状改善のために「血流」に焦点を当てて治療を行ってきた永田勝太郎医師を訪ねた。では、なぜ血流なのか。「どんなん病気でも、まず病院で血圧測りますよね。血圧が基本だからです。そして血圧は、血流、血行動態を表している」

血圧とは、心臓から出た血液が血管の中を流れ、全身をめぐり末梢にまで至り、再び心臓に戻ってくる過程、血行動態、すなわち血液循環の状態を表す数値。そして血圧は、心臓に収縮力と末梢の血管抵抗から成り立つものだ。

「この血行動態と線維筋痛症の痛みは、関係があるんです。たとえば、腕を強く押され続けると腕がしびれてくる。正座を続けると足がしびれ、痛む。それは神経を圧迫しているというよりも血液を途絶えさせているからです。血の流れを止めるとそこに発痛物質が溜まる。すると神経が刺激され、しびれたり痛くなる。結果的には神経だがもとは血流の問題です。だから血流、血圧の管理が重要」

・線維筋痛症は、筋痛がおもな症状で、筋は心臓から出る血液の約80%を使っている。

・筋の細胞は代謝してエネルギーを発生し老廃物をつくる。この老廃物には、痛みを発する物質であるカテコルアミンやサブスタンスP、ブラジキニン、セロトニン、ヒスタミン、プロスタグランジンなどが含まれており筋痛と深くかかわっている。

血流や血圧を正常化することは、老廃物を流し去り痛みから解放することを意味する。

『「私は、まず、血行動態を改善させたあと、温泉療法を試してもらう。線維筋痛症の患者さんは血圧が低いんですそしてこの疾患が女性に多いのは女性ホルモンが出ているから。ちなみに女性ホルモンは血管拡張剤でもあるから閉経前の女性は心筋梗塞にならないんですよ。温泉療法は、血圧の低い女性の血行動態を改善するんです」』

こちらは横浜市保土ヶ谷区にある“診療所スカイ”さまのサイトです。女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)について詳しくご説明されています。なお、血管については「血管では、血管拡張作用や抗動脈硬化作用を認めます」とのことも書かれています。

 

こちらは慶應義塾大学保健管理センターさまが2002年に発行された“エストロゲンと生活習慣”慶應保険研究(第20巻第1号、2002。PDF7ページ)です。こちらにも「エストロゲンは血管拡張に作用し、血管障害や動脈硬化を抑制する」とのことが記述されています。

湯あたりで、脳と身体をリセットする?

・永田医師が行う温泉療法は、症状などに合わせて数多くある。一例として、1日3回入浴。1回の入浴時間は最初は5分で徐々に増やしていく。入浴中、気分が悪くなったらすぐに出る。入浴中は温泉の中で、ゆっくりと自律訓練法を行う。この療法中は、入浴以外に何もしないこと。一日の終わりに、「からだへの気づき」と「こころへの気づき」の日記をつける。

・『「私の行っている療法は、温泉の温熱効果だけを期待するものではありません。温泉療法に心理療法(実存分析療法)を加えます。これは“温泉ロゴセラピー”と呼んでいて、究極の療法です」』

・温泉療法を行うと必ずといっていいほど「湯あたり」がある。湯あたりはこれまで温泉療法の副作用と考えられてきたが、永田医師は、この11年を振り返って検証すると、湯あたりがあったほうが効果が出ると考えている。

・湯あたりがひどいと、まず症状が悪化して痛みが全身に広がる。頭痛も出る。吐いて食事もできない。温泉は見るのも嫌になる。しかし、そういう状況を懸命に乗り越えると、ある日、ストンと落ちたように治る。

・脳波を調べてみると、湯あたりのあった患者ほど、脳波のアルファ波が減少し、シータ波やデルタ波が増加(座禅や瞑想しているときと同じ状況)する。

・心拍変動のスペクトル解析による自律神経系の反応は、湯あたり中は自律神経系に大きな乱れが生じるが、湯あたりのあとは交感神経の興奮はおさまり副交感神経の機能が高まる。これは音楽療法などによる効果と同様で、永田医師は、緊張から弛緩に移行した状態だと分析している。 

画像出展:「痛みが全身に広がる病気をとことん治す」

”日本自律訓練学会”という学会がありました。 

永田先生の“千代田国際クリニック”です。

機関誌『温泉』2019年冬号に掲載された。“ストレスと温泉”という投稿を見ることができます。

永田勝太郎先生のウェブサイト”というサイトもありました。

人間に本来備わっている自然治癒力を応用

・永田先生は在学中に「痛みをライフワークにする」ことを決意され、卒業後に心療内科、東洋医学、緩和医療、そして麻酔科に学ばれた。その後、高名なウィーン大学のヴィクトール・フランクル博士(実存分析学・人間学)と運命的に出会う。

・フランクル博士は、大戦中にアウシュヴィッツに収容された経験があり幸いにも生還したが、収容所では、死を前にして「譲りあう人と奪いあう人の姿」に直面し、その後の人生を「生きることの意味を問いつめる」ことに費やした学者である。

・『「ある患者さんが、痛みを取ってほしいと医者に頼んだ。さまざまな薬で痛みは7割取れたけれども、立てなくなってしまったという話があります。患者さんからすれば、痛みが取れたからいいだろうと言われていても納得できない。治療のエンドポイントはどこにあるか。それは、痛みの除去だけではないということです」

包括的、全体的な健康観にもとづいた全人医療を実践する立場から、西洋医学本位の治療に批判も呈する永田医師だが、温泉療法をはじめとして、人間に本来備わっている「自然治癒力」を応用する療法、生き方そのものから変えていこうとする哲学的なアプローチは、多くの専門家や患者から注目されている。 

こちらは、EARTHSHIP COUNSULTINGという、ヴィクトール・エミール・フランクル(Viktor Emil Frankl)のことが詳しく書かれたサイトです。

 

まとめ(鍼灸師として)

“線維筋痛症患者さまのペインマネージャになる”が目標です。そのための前提は線維筋痛症に対する知識と患者さまへの理解です。

特に“心”に向きあうことが第一です。その上で、“ストレス”を小さくすること、自律神経を整え、硬い筋肉をゆるめ血液の流れを良くすることに注力します。そして、低血圧であれば、その改善を目指します。

なお、「分子整合栄養医学」については、今後の宿題とさせて頂きます。

こちらのページは”参加医療機関マップ”です。埼玉県は3件(病院は2件、鍼灸院1件)、東京都は23件(病院は21件、鍼灸院は2件)で、姫野医師、永田医師も登録されていました。また、”学術集会”の冊子が閲覧できるページもありました。

線維筋痛症4

こちらは2冊目になりますが、最初に「はじめに」の冒頭部分をご紹介させて頂きます。

『本書、【痛みが全身に広がる病気をとことん治す】は、線維筋痛症をはじめとした、原因不明といわれる「慢性の痛み」の病気をテーマとして、患者の身に巻き起こる痛みや、これらの病気に対する研究、そしてさまざまな治療の方向性、多数の方法までも綿密にリポートするものだ。

こういった痛みの治療については、実は、これまでも危機感が示されてきた。厚生労働省の【慢性の痛み対策について】の中には、次のような指摘もある。

病態が十分に解明されておらず、診断も困難である。そのために、患者は適切な対応や治療を受けられないだけでなく、病状を周囲の人から理解されないことによる疎外感や精神的苦痛にも苦しんでいることが多い

「痛みを専門とする診療体制は十分に整備されていない。その背景には、痛みを対象とした診療が成り立つような制度や人材育成、教育体制が確立されておらず、痛みを理解し、痛みに苦しめられている者を社会全体で支えようとする意識が、十分に醸成されていないことが挙げられる」』

こちらは厚生労働省発行の資料です。クリック頂くと厚生労働省のページに移動します。下部にはPDF資料へのリンクもあります。

今後の慢性の痛み対策について

編者:リーダーズノート編集部

出版:リーダーズノート出版

発行:2014年7月

目次に続いて、ブログでご紹介するのは、【データで見る線維筋痛症】の一部と、最後の[身体の機能を高める]に関する箇所です。「身体の機能を高める」は自己治癒力/自然治癒力に関する内容で、特に栄養・血液・血流の三つに注目されており、鍼灸師の私には非常に興味深いものです。

目次

①痛みとたたかう患者たち -なぜ、こんなに痛いの?

[支えあう患者たち]

・ふつうの私が消えた日

・せめて病名がほしい

・月に電話相談160件

・さまざまな出会いが支えてくれた

・痛みをそらし、つき合っていく

[医師をめざす、患者のたたかい]

・これが……私たちの日常

・もはや身体や神経の損傷では説明できない

・周囲に理解されないことが一番つらい

・薬に頼りすぎる治療は問題

・医師として患者と向き合う

[共有されない痛み]

・妻には絶望しか残っていなかったのか

・厳しい寒冷地の気候もストレスに

・ドアノブも掴めない、食べ物を噛むこともできない

・薬だけで症状を和らげるのは難しい

・裁判所にも、わかってもらえない

・痛みと事故の因果関係が立証しにくい

データで見る線維筋痛症

◆発症年齢

◆疾病罹患がトリガーとなった各診療科別要因

◆臨床症状と重傷分類

◆発症から診断までの期間

◆障害者手帳の取得状況

◆臨床領域にみられる合併しやすい代表的疾患

◆リウマチ性疾患との鑑別診断の要点

②現代医療の壁に挑む -研究者たちの挑戦

[線維筋痛症診療ガイドライン]

・診療を避ける医師が多いことが問題

・大切なのは、三つの視点

・圧痛点を診るというスキル

・病気の概念が変わるというデメリット

・医師に病名が認知されてきた

[診断技術への挑戦]

・痛みは、測定できるのか?

・痛みを測定するペインビジョン

・脳SPECT検査

・PET解析

・「抗VGKC複合体抗体」の研究

[検体バンク]

・検体バンク構想

・世界中の研究者が使えるものに

・プロトタイプを分析

[メカニズム]

・カテプシンSと慢性の疼痛

・犯人の足跡、フットプリントを追え

・インターフェロン・ガンマは、強力なアクセル

・Cファイバーの脱落

 ・神経のどこかで混戦が起こっている

③最新治療を探る -痛み止め、病気を治すために

[薬で痛みを止める]

・専門薬、リリカの登場

・ほかの薬とは、まったく違う

・「すぐにリリカ」は、危険な発想

・急性か慢性かの判断が重要

・ノイロトロピンの活用

・ペインレスキュー

・徹底して、生活の質を上げる

[脳にアプローチする]

・脳に磁気を当てる「TMS治療」

・南国土佐で始まった治療

・先端治療へのチャレンジ

・脳の神経がうまく働いていない

・景色も表情も、見違えて見えた

・患者を支える

[認知行動療法]

・危険な「痛み」ではないことをわかってもらう

・医師と医療スタッフが新たな家族に

・痛みで何もできない状態からの回復

・痛みで眠れない人に、不眠認知行動療法

[歪みを治す]

・咬み合わせ調整で、痛みを除去する

・線維筋痛症と顎関節症の深い関係

・「バランス」という言葉に、もっと慎重になるべき

[身体の機能を高める]

・なぜこの病気は女性に多いのか?

・脳も身体も、実は深刻な栄養不足

・ビタミン、カルシウム、マグネシウムが必要なわけ

・自分の治す力を強めることが本来の医療

・慢性痛にはセルフケアが重要

・機能回復、症状改善するポイントは血流にある

・湯あたりで、脳と身体をリセットする?

・人間に本来備わっている自然治癒力を応用

データで見る線維筋痛症

発症年齢

画像出展:「痛みが全身に広がる病気をとことん治す」

発症から診断までの期間

画像出展:「痛みが全身に広がる病気をとことん治す」

障害者手帳の取得状況

画像出展:「痛みが全身に広がる病気をとことん治す」

臨床領域にみられる合併しやすい代表的疾患

画像出展:「痛みが全身に広がる病気をとことん治す」

以下の図は「線維筋痛症がよくわかる本」にあったものです。線維筋痛症の痛みの凄さが分かります。 


[身体の機能を高める]

おそらくほとんどの病気に有用なのは、身体の機能を高めること=自己治癒力を高めること。食事、睡眠、運動は、その基本だ。線維筋痛症もまた、身体の機能を高めることなしに、いかなる薬も効果を発揮しないに違いない。取材班は身体の機能を高める治療を探ることにした。』 

なぜこの病気は女性に多いのか?

血液が患者を物語る。そして、栄養不足が症状を説明する。

『そう主張するのは、この病気の研究治療を20年以上続けてきた心療内科医の姫野友美医師。テレビ番組、雑誌にたびたび登場する「売れっ子」で、著書も多数。なぜこの疾患は女性患者が多いのか。分子整合栄養医学は線維筋痛症にどのように適用されるのか。東京都五反田の、ひめのともみクリニックに赴いた。白衣に着替えた姫野院長の解説もまた、テレビの健康番組のように歯切れよくわかりやすい。』

線維筋痛症をはじめ、女性に身体症状が出やすい理由。

1.月経、妊娠、出産、閉経など性周期に伴う内的環境の変化。女性ホルモンの変動は同時に自律神経の変動、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリン、アセチルコリンなどの神経伝達物質の変化をもたらし、免疫にも影響する。

2.男性と比べて筋肉量や循環血液量が少ないことによる血行動態の不良

3.月経や妊娠、出産によるたんぱく質や鉄分など栄養の喪失が心身に影響を与える。

4.男性よりセロトニンレベルが低く、ノルアドレナリンやカテコールアミンの制御不全を起こしやすい。

5.女性の脳の構造上、感情ストレスが大脳皮質を介し、大脳辺縁系視床下部径路を刺激しやすい

これらの身体的性質に加えて、女性特有のライフサイクル、社会的役割といった心理的社会的背景がストレスを増大させていると考えられる。

脳も身体も、実は深刻な栄養不足

『ここ、ひめのともみクリニックでは「分子整合栄養医学」を基本方針とし、心身症の患者に栄養指導の考え方はごくシンプルだ。

基本的に人間の身体は、すべて食べ物=栄養素という材料によって構成されており、どの栄養素が欠けても身体機能は失調状態に陥ります。不足している栄養素を本来あるべき至適量まで補充してあげれば、自らの自然治癒力は高まり、病気の進行を防ぎ、症状の改善、さらには病気の予防が可能となる。これが分子整合栄養医学の考え方です

・初診の患者全員に血液検査およびサプリメントドック[足りていない栄養素を確認し解析する]を行い、体内の代謝の状態、ビタミンやミネラルなどの栄養不足、血糖値の変動、さらに活性酸素の発生、酸化ストレスの進行具合などを明らかにする。

最も問題視するのは血糖の調節異常である低血糖。

・『「低血糖は痛みが増しますから。線維筋痛症の患者さん、片っぱしから調べてますけど、みんな甘いものが大好き。その理由はセロトニンが少ないからで、セロトニンを分泌させようと、チョコレートや甘いものに手が伸びるんです。ところが、それで一気に血糖値が上昇して、インシュリンが大量に分泌されて逆に低血糖を起こし、ノルアドレナリンを誘発する。それが筋肉や血管を収縮させるからさらに痛むのです」』

・脳は「大食漢」である。わずか5%の重さしかないのに、摂取した栄養の20%は脳で消費されている。常に低血糖の状態にあるならば、脳が正常に機能するために必要なブドウ糖の安定供給ができない状態ということである。いつまでも疲労感が拭えず、元気になれない理由はそこにある。

線維筋痛症患者に顕著なのが低血圧すなわち血行動態不良で、その原因の一つは鉄とたんぱく質の欠乏が考えられる。

・鉄分は閉経していない女性では、一度の月経で30ミリグラムも体外へと排出されてしまう。

・ピロリ菌は鉄欠乏の主要な原因の一つである。胃の粘膜を萎縮させるために、鉄やたんぱく質の吸収力が悪くなる。しかもピロリ菌の出す毒素を消去する際にビタミンCが消費されるので、活性酸素が消去できない。

・『現代人の深刻な栄養失調。姫野院長は鋭く指摘する。

・栄養失調は身体の機能を正常化するための栄養素が足りない状態である。ふくよかな人であっても、実態は栄養失調であることは少なくない。

・コンビニの加工食品は圧倒的なミネラル不足で、清涼飲料水やスイーツは24時間好きなだけ手に入る。

・品種改良を重ねた味も形もよい現代の野菜は、昔の品種に比べて栄養素が格段に少ない。ビタミンA含有量は50年前のわずか3分の1である。 

ビタミン、カルシウム、マグネシウムが必要なわけ

原因も正体も不明で、有力なバイオマーカーがない。ゆえに通常の血液検査ではなかなか異常が見られない。それが線維筋痛症の診断をいっそう難しくしている。

・『姫野院長の見立てでは、線維筋痛症は「活性酸素と炎症」である。あれだけ痛みがあるのに、異変が起きていないはずはない。そう言い切った。「線維筋痛症の異常(炎症)は、普通の血液検査では見えず、高感度CRP検査でないと出てこないんです。これでCRP[炎症時に体内に発生するC反応たんぱく質の血中量]0.05以上の数値が出たら、微小な慢性異常が存在すると判断します。ただ、まったくCRPが上がらない患者さんもいて、バイオマーカーは一つではありません。ほかには、たんぱく分画のアルファ2グロブリンが上昇することや、酸化ストレスで赤血球の膜が壊れて間接ビリルビンが上昇することなどによって判断します。

炎症には活性酸素が関わっていますから、うちでは抗酸化アプローチをかなり行います。たとえば高濃度ビタミンC。これも栄養療法の一環ですね」。』

・高濃度ビタミンC注射に含まれるビタミンCの量は25グラム。ここまで大量に経口服用すると下痢を起こすので、静脈注射でダイレクトに血中に入れる。この治療はビタミンC不足が招く疾患、線維筋痛症や慢性疲労症候群、リウマチなど免疫異常の症状改善、白内障や糖尿病の予防にも有効であるとされる。

線維筋痛症は筋肉の付着部などのスパズム(攣縮)という説があり、リリカやリボリトールなど、けいれんの原因となる興奮系の神経を抑える薬物を用いると症状が和らぐことが裏づけとなっている。

筋肉が痙攣を起こす原因はカルシウムとマグネシウム不足で、この二つの栄養素はストレス下に置かれると大量に尿から排出されるという性質がある。さらに、更年期を過ぎた女性はカルシウムの吸収力が衰える。線維筋痛症が40代以降の女性に好発するという傾向と一致する。

自分の治す力を強めることが本来の医療

基本、全患者に対して栄養療法を実施するが、痛みの強い患者にはトリガーポイントブロック、神経ブロックなどの対症療法も行う。

・『「線維筋痛症の原因と目される、下行性疼痛抑制系の機能不全では、セロトニンやノルアドレナリンが足りないという話がありますね。これを増やすためにサインバルタやトレドミンなどの抗うつ薬が処方されて、それはそれなりに効くわけです。ところが薬というのは、基本的にリサイクルなんです」』

・西洋の薬は、基本的に酵素を遮断するものである。線維筋痛症治療としても使われる抗うつ薬、SSRIやSNRIも、それぞれセロトニンとノルアドレナリンの再吸吸収を阻害する。

薬のリサイクルには限度がある。リサイクルし続けると物質は劣化していくので、だんだん薬が効かなくなる。薬の量が増え悪循環となる。

・『「逆に、フレッシュなセロトニンやノルアドレナリンを、自力で体内でどんどん作れたら、薬の利用効率だって上がる。最終的に、自分で必要なぶんだけをまかなえるようになれば、薬の利用効率だって上がる。』

・薬をやめたいが、患者にはやめどきがわからない。「薬を止めたら悪化しました」という患者の声はいくつもあった。

・『「当然ですよ。まだ、自分の中で十分な量を作れていないのだから。だから、うちでは栄養解析のデータで示してあげるんです。ここまで数値がそろってきたね、じゃあそろそろ薬をやめられるかなとか。患者さんにすれば、良くなりそうなめどが立つ。そうなると、自ら治療を提案するようになる。先生、私もっと鉄を増やして飲んでみます、たんぱく質摂るためお肉食べなきゃ、甘いもの控えます、だからお薬減らしていいですか、と。病は医者の言う通りにして治すものではなく、自分の中の治す力、自己治癒力を強めることが本来の医療。そう思いますね」。』

精神的なストレスによってカルシウムやマグネシウムは足りなくなる。活性酸素が増え、ビタミンCがどんどん消費される。ストレスを緩和するため、セロトニンも大量分泌しなくてはならない。すべては身体を正常で健康な状態に保とうとするゆえの作用である。

・『「身体の代謝の状態を分析してあげて、欠損部分を栄養素と補って治療してあげる。もちろん、鉄をはじめとするミネラルはたんぱく質と結びついて運ばれますから、食事も重要。しっかりたんぱく質、つまりお肉を取ってバランスを整えると、心も身体も見違えるほど元気になります。』

・痛みや症状に向きあうための心理療法、認知行動療法については、まず痛みを取り、脳に栄養を与えて機能を取り戻したあとの話ではないかと考えている。

・きちんと脳に必要分の栄養を入れてあげて、セロトニンやノルアドレナリン、ドーパミンが増えてくると、認知は自然に変わる可能性がある。 

画像出展:「痛みが全身に広がる病気をとことん治す」

線維筋痛症が書かれたページです。

健康未来予測ドック”(“サプリメントドック”は進化したようです)

線維筋痛症3

著者:今野孝彦

出版:保健同人社

発行:2011年3月

目次は”線維筋痛症1”を参照ください。

以下は既にご紹介済の薬品名と略語の表です。(画像出展:「線維筋痛症は改善できる」)


第3章 線維筋痛症の原因は?

神経伝達の障害

痛みを抑えるシステムの破たん

・線維筋痛症の疼痛は、鎮痛薬だけでなくモルヒネのような麻薬も効かない。

・疼痛は痛みを抑える仕組みが破たんし、その結果として激痛が起きる。

有効なのはセロトニン、ノルアドレナリンの作用を活発にする抗うつ薬や抗けいれん薬など。このことから、痛みを制御する仕組みの破たんから起きていると考えられている。

画像出展:「線維筋痛症は改善できる」

下記もセロトニンやノルアドレナリンによる“下行性抑制系”について説明されたものです。(画像出展:「線維筋痛症がよくわかる本」)


痛みの伝達ゲートは情動や気分の影響を受けやすい

・線維筋痛症の疼痛は、適度な運動をしたりストレスを除去したりすることで改善することがあるが、これを説明できる有力な理論がゲートコントロール理論である。これは痛みの刺激が脳へ伝わるのを阻止する神経線維が存在するという理論であるが、重要なことはゲートの開閉は中枢から下行性の影響を受け、人の情動や気分などがゲートの開閉を左右している点である。

検査でわかる重要な異常

髄液中のサブスタンスPという疼痛を起こす神経伝達物質の数値が高い。

※サブスタンスP:「タキキニンの一種で痛覚の伝達物質。三叉神経節、内頚神経節に含まれ、血管に広く存在し、硬膜の血管にも分布する。炎症にも関連し、軸索反射により放出されると紅斑(フレア)が出る。鍼灸ではこの作用を利用し、体質改善を促進したりしている。(ウィキペディアより)」

・髄液中のセロトニン、ノルアドレナリンの数値が低い。

・脳血流量の低下の可能性がある。

症状を引き起こすストレス

・線維筋痛症の症状が現れるしくみは、以下の図のように表すことができる。

・症状を起こす要因として明らかなのはストレスである。ストレスを起こす原因をストレッサと呼ぶ。 

画像出展:「線維筋痛症は改善できる」

画像出展:「線維筋痛症は改善できる」

第5章 線維筋痛症の治療法は?

その他の併用療法

薬物療法以外の治療法もあわせて導入する必要がある

線維筋痛症の治療は薬物療法だけでは不十分で、他の治療法の導入も必要である。そこで、再度、セロトニンについて考えてみる。

①セロトニン神経は、覚醒時に持続的なインパルス発射(セロトニン神経の活動化)があり、睡眠時に休止する。

②朝起きてセロトニン神経が十分に働かないと、症状(気分障害、疼痛、睡眠障害、起立困難やすぐしゃがむ)が現れる。また、ストレスがセロトニン神経の働きを抑制する。

③インパルス増強には、歩行、呼吸、咀嚼のリズム運動が必要。

上記を基に、今野先生は次のような治療方法を患者さんに選択してもらっている。

ウォーキング~運動浴(水温35度以上)

呼吸法~腹式呼吸

ヨガ~ストレッチング

咀嚼~ゆっくりリズミカルに

また、保湿により疼痛が軽減する(疼痛が増強する患者さんも10%位いる)患者さんには次の方法も勧めている。

保湿(使い捨てカイロ、下着の工夫)

②綿花灸(湿らせた綿花の上にもぐさを置き、疼痛部位周辺に行う灸―自然医療の権威である斑目医師が考案したもの)[台座灸(千年灸など)でも代用可能と思います]

③TENS(経皮的末梢神経電気刺激法)という小型の器械を使って、10分間ほど患部周囲に通電する。心臓ペースメーカーを使っていたり、保湿で疼痛が増強する患者さんには使えない。購入する前に医師に相談すべきである。

画像出展:「線維筋痛症は改善できる」

検索してみたところ、数千円~10万円台まであるようです。

適切な治療で3~5年以内に70%以上が症状の改善可能

・今野先生は定期的に通院されている患者さん(50名)と紹介されて来院された患者さん(13名)にアンケート調査をされました。アンケートの内容は1.線維筋痛症の治療開始(疼痛と診断からの年月)前後で、どの程度症状が改善しているか、2.一番効果的と思う薬は何か、3.治療院へ通院しているか、などであり、その結果は次の通りである。

-線維筋痛症の専門医での成績では、疼痛発症からの平均期間は7.6年だったが、疼痛発症からの期間に関係なく、線維筋痛症の治療開始後、平均3.6年以内には、治療前と比較して、改善が72%(著明改善と改善:42%、やや改善:30%)、変化なしは6%、悪化は22%だった。FIQの平均は59であった。

-一般医の治療成績では、疼痛発症からの平均期間は6.7年で、線維筋痛症の治療開始後、3.4年以内には、診断前より改善したのは22.5%、変化なしは15%、残りは悪化していました。FIQの平均は72.7でした。

-鍼灸、物理療法など、治療院へは54%の患者さんが通院していた。

疼痛をゼロにすることは不可能だが、専門医による適切な治療によって、治療開始から3~5年以内に、70%以上を改善させることができる。

・治療により改善した患者が使用している薬のうち、「最も効果があると感じている薬」は以下に通りである。

画像出展:「線維筋痛症は改善できる」

 

抗炎症薬の内訳はブレドニン、ノイロトロピン、非ステロイド性抗炎症薬がほぼ同じ割合で、プレドニンは主に脊椎関節炎タイプに用いられていた。抗けいれん薬は主にガバペンで、抗うつ薬はSNRI、SSRI、三環系抗うつ薬など多種類だった。ほとんどの患者さんは、これらの4種類の薬のいくつかを病型分類に沿って組み合わせて使用している。なお、薬を使用せず順調な経過をたどっている患者さんは、温泉療法ラクトフェリンのサプリメントなどを使っていた。

線維筋痛症の患者さんは「線維筋痛症に効く薬はない」と決めつけないで、「時間はかかるが、必ず自分に合う薬がある。薬の適切な組み合わせを早く見つけることで、厄介な疼痛から解放される」という気構えが必要である。 

疼痛の重症化を防ぐ対応

診断と治療の進め方

最後のまとめとして、線維筋痛症の診断・治療のステップがまとめられています。

①『第1の原則は、原因不明の局所的、または広範囲疼痛があるとき、疼痛を引き起こす原因を早く見出し、原因に対する集中的治療を行って疼痛を緩和することで、線維筋痛症に移行させないように努力することです。』

②『治療には、線維筋痛症の病型分類を参考にし、決してACRの圧痛点のみで線維筋痛症と診断して、画一的治療を行わないようにすることです。精神的ストレス、CRPS、脊椎関節炎など原因はさまざまなので、一人の医師では対処できません。その場合でも、ACR基準を盲信しないで、線維筋痛症に精通している医師が中心となって、チーム医療を行うことが望ましいでしょう。それには、患者さんの病気の詳細な経過を作成するのに中心になる医師が必要であり、そして過剰なぐらいの早い対応が必要だからです。』

③『「完璧な病歴」「理学所見」「画像診断」「血液検査」を参考に基礎疾患の有無を調べ、異常があればそれを治療します。異常があればそれを治療します。異常がなく、疼痛が持続するときは、まずは十分な量の非ステロイド性抗炎症薬、場合によってはステロイド(プレドニンで5~10mg)を短期間(長くても1か月以内)併用し、効果を判定します。治療的鑑別です。疼痛は患者さんにとってきわめて不快な症状なので、薬の効果の判定はそれほど難しくありません。そして、患者さんは薬の効果評価を正確に医師に伝える必要があります。この段階で疼痛が緩和されているときは、たとえACRの基準を満たしていても、線維筋痛症の診断は避けるべきでしょう。』

④『十分な量の非ステロイド性抗炎症薬、ステロイドにまったく反応しないとき、初めて、患者さんの疼痛は末梢性の疼痛でなく、中枢性の疼痛と判断できます。そして、中枢性の疼痛に対する治療が開始されることになります。気分障害が強い場合は、抗うつ薬のSNRIから、気分障害が強くないときは抗けいれん薬から、トラマドールを最初に用いる場合もあります。この段階でもう一度病歴の取り直し、さらに理学所見の取り直しを行う必要があります。そして、疼痛の重症度を評価します。可能であれば血中セロトニンの数値を測定します(自己負担で2000円ほどかかります)。』

⑤『患者さんは、治療開始後1~2年間は薬の変更、薬の副作用にとまどうかもしれませんが、原因の究明と本人に合った薬を探すために、時間と費用がかかることを理解し、治療に取り組んでいただきたいと思います。

線維筋痛症2

著者:今野孝彦

出版:保健同人社

発行:2011年3月

目次は”線維筋痛症1”を参照ください。

著者:今野孝彦

出版:保健同人社

発行:2011年3月

こちらの表は前回もご紹介していますが、「本書に登場する薬品名と解説」になります。

第2章 線維筋痛症の症状 

同じ病気の患者の経過を参考にする

共通の症状やストレスとなる原因を探る

こちらは“本文中に出てくる主な略語です。

著者:今野孝彦

出版:保健同人社

発行:2011年3月

症例1:夫の死をきっかけに片頭痛や顎関節症などを併発。その後に全身の疼痛

【経過】

・神経内科によって多発性神経炎(シェーグレン症候群による)に対するステロイド療法が行われたが、疼痛を緩和することはできなかった。

・リウマチ医によって線維筋痛症に対するパキシルとノイロトロピンの処方が行われたが、疼痛を緩和することはできなかった。

・この患者さんは、夫を交通事故で亡くし、その後3年間に6個のCSS(中枢過敏症候群)に属する症状・疾患(片頭痛、筋緊張性頭痛、子宮内膜症、顎関節症、筋・筋膜性疼痛症候群、こむら返り)を併発し、最終的に耐えがたい全身の疼痛(線維筋痛症の疼痛)が生じた症例である。

・当院では、セロトニン、ノルアドレナリンの賦活作用(活発にする作用)をもつ即効性の鎮痛薬であるトラマドールシロップを処方し、入院中にヘルパーの活用など家事援助を検討して導入した。

・入院時は移動するのに歩行器と車イスを使っていたが、現在は自立歩行ができるまでに改善し、家事が可能になっている。

症例3:手術後、局所の痛みが全身に。片頭痛やうつ病などを併発して全身の疼痛へ

【経過】

・ばね指の手術後に生じたCRPS(複合性局所疼痛症候群)に対して、適切な処置が行われず、7つのCSS(中枢過敏症候群)の症状・疾患(片頭痛、子宮内膜症、こむら返り、むずむず脚症候群、筋・筋膜性疼痛症候群、顎関節症、うつ病)を抱えることになった。

・入院後、痛みに対してトラマドール、筋のけいれんに対してガバペン、不安状態に対してパキシルを処方した結果、線維筋痛症の重症度を示すFIQは、80から63まで改善した。

・退院後は、ヘルパーを導入して夫の介護負担を軽減し、訪問看護師によるメンタル面の援助を受けて、在宅での生活を送っていたが、主治医が麻酔科の医師にかわると、除痛のためのトラマドールが麻薬に変更されて一日中眠い状態が続くようになり、疲れて寝たきりの生活になった。

・再び、主治医がかわり、入院によって麻薬からの離脱に取り組んだが、麻薬の中止までは長期入院を強いられた。

症例5:出産時の点滴でひじに血管痛。その激しい痛みが続き、全身の痛みへ

【経過】

・若い頃からCSS(中枢過敏症候群)の3つの症状・疾患(片頭痛、顎関節症、子宮内膜症)があったが、出産時に点滴の針を刺したところから生じたCRPS(複合性局所疼痛症候群)が放置されたため、線維筋痛症の疼痛が生じたものと判断した。

・母乳が中止されていたこと、疼痛がきわめて強いことから、トラマドールの服用を開始し、現在は子どもの世話を含めた家事も可能になっている。

症例7:家族の病歴(クローン病)などから、脊椎関節炎を基礎とした線維筋痛症

【経過】

・最初は一次性の線維筋痛症という診断で、疼痛に対する治療を中心としていたが、付着部痛が著しくなり、検査の結果、脊椎関節炎と診断した。レミケード、エンブレルを使ったものの効果がなく、トラマドールとリウマトレックスを併用したところ、職場復帰が可能なまでになった。

症例9:発熱、睡眠障害、関節痛、疲労感から、しだいに全身に自発痛

【経過】

・FIQは78から67、62、42と変動がある。疼痛に対して、応急的にノイロトロピンの点滴を受けているが、緊急入院などはなくなり、家事労働をこなしている。また社会的にも活発な活動をしているが、線維筋痛症への移行にはメンタル面のほうが強く関与していたと思われる。

線維筋痛症の中心症状

動かさないときでも起きる広範囲疼痛

線維筋痛症の疼痛部位は、原則として左右・上下対称であり、痛みの箇所が一か所に集中することはない。

線維筋痛症の疼痛は「自発痛」で、触れられることにより疼痛が増すのが特徴であり、場合によっては皮膚の発赤がみられる。

・線維筋痛症は、英語でfibromyalgiaというが、これは腱や靭帯の結合組織(fibro)と筋肉(myo)の疼痛(gia)という意味である。疼痛部位は関節ではないため、関節の腫れや疼痛を診察する方法では線維筋痛症を見つけることができない。

・線維筋痛症の疼痛の特徴の中には、音や光などによって疼痛が増すこともある。これをアロディニアという。

線維筋痛症の疼痛は、脳幹部の異常による中枢性疼痛と考えられており、抗うつ薬や抗けいれん薬が有効である。

睡眠や休息をとっても改善されない疲労

疲労も線維筋痛症の中心症状のひとつだが、線維筋痛症の疲労は睡眠や休息だけでは十分に改善されない。

脳波で確認しにくい睡眠障害

・線維筋痛症の睡眠障害は、入眠障害か早朝覚醒というタイプだが、これは睡眠にかかわる2つの脳波、レム波とノンレム波のバランスのくずれが関係しているといわれている。ただし、脳波に異常が確認できるのは30%以下である。

・睡眠時無呼吸症候群が関与する場合もある。

線維筋痛症の睡眠障害では、睡眠薬をできるだけ使用せず、疲れたら寝るという考えが大切である。睡眠薬が必要なときは、できるだけ少量にする。

線維筋痛症の共通症状

基礎疾患のない“むくみ”感

・線維筋痛症では「むくんでいる」と訴えることがあるが、実際には「むくんでいない」ことが多い。女性の患者さんには子宮内膜症など婦人科的疾患にかかったり、若い頃に手術を受けたりした患者さんが多くいるが、月経前の体重増加や更年期障害としての“むくみ”感を訴える場合もある。通常、むくみは心臓や腎臓に関わる病気が考えられるが、線維筋痛症の患者さんに見られる“むくみ”感の訴えには、こうした基礎疾患はほとんどない。

全身のしびれ、異常感覚

線維筋痛症の患者さんの多くは“しびれ”を訴える。その部位は全身であり、神経学的には説明がつかない。

下肢のしびれなど、局所だけでなく病歴と全身の状態や症状を参考にして判断する。

・安易に脊髄疾患と診断され、不要な手術により症状を急激に悪化させることがしばしばある。

・線維筋痛症に似た疾患に多発性硬化症があるが、全身症状と経過を参考にすることで鑑別することができる。

事故につながりやすい立ちくらみ、めまい

CVr-rなどの自律神経の検査で40%近くの患者さんに異常がみられる。立ちくらみやめまいの訴えが多いのはこのためと思われる。また、血圧が低く、起立性低血圧もみられる。

・立ちくらみ、めまいなどの自律神経障害の症状がある場合は、サポートタイプのパンティストッキングを使用することに加え、塩分の摂取などの食生活の見直しが必要である。

短期記憶障害は長く続くことはない

・短期記憶障害は、英語でFibrofog(fibro=線維筋痛症・fibromyalgia  fog=濃霧)と表現される。電話番号や相手の名前を覚えられない、忘れてしまうといった障害である。ただし、短期記憶障害の症状が長く続くことはないようである。

不安、ストレス、うつ状態などの精神症状

患者さんの多くは、気分障害など精神症状を持っている。海外の報告では線維筋痛症患者の20%にうつ状態、15%にパニック障害があるといわれているが、これは疼痛など線維筋痛症の様々な症状が、満足にコントロールできないことによる結果であると考えられる。一方、大うつ病(うつ状態でなく真性のうつ病)でも全身の疼痛が生じることがある。精神症状が線維筋痛症の症状として現れているのか、それとも大うつ病などの精神疾患なのか、慎重に診断することが重要である。その意味で、精神科医と線維筋痛症専門医との共同の対応が必要といえる。

線維筋痛症の関連症状・疾患

中枢の過敏状態(CSS)が引き起こす症状・疾患

著者:今野孝彦

出版:保健同人社

発行:2011年3月

慢性疲労症候群:何らかの感染を繰り返した結果、日常生活に支障をきたす非常に強い疲労感が、改善されないまま続く状態。

過敏性腸症候群:頻繁に下痢や便秘を繰り返したり、両方が交互に起きたりする。腸の疾患は検査では見つからず、ストレスなどが関係している。

筋緊張性頭痛:肩、首周辺の筋肉の疼痛に伴う頭痛で、姿勢などが関係する。

片頭痛:発作的に反復して起きる頭痛で原因は不明。発作を予期できるタイプと、できないタイプがある。

生理不順/子宮内膜症:生理不順は、生理前や生理中に、耐えられない下腹部痛や月経周期の乱れを繰り返し起こす状態。子宮内膜症は、子宮内膜と同じものが、子宮以外の場所にできてしまう病気。

うつ病:うつ状態ではなく、真性のうつ病(大うつ病)です。

外傷後ストレス症候群:心に深い傷を負うような出来事の後に強いストレスが残り、激痛や睡眠障害、さらにうつ状態になる

化学物質過敏症:シックハウス症候群などに代表される化学物質過敏状態である。同時に薬物、食品に対する過敏を伴う場合が多い。

こむら返り:ふくらはぎの痙攣。指、首、肩にも起きるが、この場合は「全身こむら返り病」と呼ぶ。

むずむず脚症候群:下肢の不快感を覚え、下肢を動かしたいという強い欲求が生じるもので、レストレス・レッグス症候群と呼ばれる。特に夜間に寝床につくと、下肢が「むずむずする」「虫がはっている」「ほてる」「ずきずきする」などと感じ、睡眠障害が起きる。下肢を動かすことでやわらぐ。

顎関節症:開口障害を主な症状とする疾患で、疼痛を伴うこともある。

筋筋膜性疼痛症候群:局所の強い疼痛を生じる疾患で、表2のような診断基準がある。

多彩な症状は根拠のある訴え

・過敏性腸症候群で20%、クローン病、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患の3%に線維筋痛症が合併する。

・婦人科で更年期障害と診断された患者さんに線維筋痛症の可能性がある。

・顎関節症の患者さんの15%に線維筋痛症がある。

線維筋痛症1

かなり前の話になりますが、著名な女性タレントの方が線維筋痛症になったというニュースが流れていました。

以前から線維筋痛症について関心は高かったものの、調べることはしていませんでした。そこで、このニュースをきっかけに、3冊の本を図書館から借りてきました。なお、じっくり拝読させて頂いたのは2冊です。今回も知らないことばかりだったため、長文になってしまいました。そこで、ブログを5つに分けることにしました。

著者:今野孝彦

出版:保健同人社

発行:2011年3月

著者である今野孝彦先生は線維筋痛症の専門外来を6年以上開業されています。「はじめに」に書かれている内容は、この難しい疾患を熟知されている先生が現場で積み上げられたものです。

はじめに

日本では、線維筋痛症の患者さんは約200万人に上ると推定されています。私が線維筋痛症の専門外来を開設してから6年以上経ちました。その診療実績をもとにして平成16年から毎年、北海道大学医学部・環境医学講座で医学部学生に「広範囲疼痛の臨床的アプローチ」と題して講義を行っています。

患者さんの痛みを患者さんと一緒に考え、痛みの研究に興味を持つ医師が一人でも多く出てほしいと願って講義を続けています。本書はその講義の内容を、患者さんはじめ、一般の方が理解できるようにアレンジしたものです。

線維筋痛症の患者さんの主症状は痛み(疼痛)です。受診する科はいろいろで、それぞれの科の専門医の対応も多様です。しかし、適切な対応は少なく、誤診、診療拒否、過剰診断・治療なども見られます。その原因は、疼痛に関する医学教育・医学体制の不備にあります。特に、画像診断、検査中心の日本の医療現場では、疼痛を訴える患者さんの診察は驚くほど画一的なものです。MRIやCT、多数の血液検査を行い、何とか画像、何とか検査で異常を見出そうとして、患者さんも医師も湯水のごとく投資しています。そして、行き着くところは、「何もない。精神科へ行ったら…」になります。

本来、医師はたくさんの画像診断や血液検査を行うよりも、まず患者さんの痛みの訴えに耳を傾けるべきです。何がこの強い疼痛を引き起こしているのかを、患者さんと一緒に考えることが一番大切だと思います。

本書は、35年間リウマチ医療に従事してきた一人の内科リウマチ医が、線維筋痛症専門外来を開設し、患者さんと一緒に悪戦苦闘し、疼痛と闘ってきた記録です。患者さんを中心に一人でも多くの医師、医療・福祉関係者が同じ土俵に上がり、疼痛に取り組む手がかりとなればと思います。

多くの線維筋痛症の患者さんが、診断・治療の遅れで毎日疼痛から悩まされ、社会的労働から疎外されて孤独な生活を強いられています。あふれる情報をもとに線維筋痛症であると自己判断し、たくさんのサプリメントに多額の投資をしている患者さんもいます。また、いまの状態のままでは容易に線維筋痛症へ移行してしまう線維筋痛症予備軍の方たち、そういうすべての方たちに読んでいただきたいと願っています。

さらに、気苦労の多い厄介な病気として、線維筋痛症の治療から目をそむけている医療従事者たちにも、ぜひ読んでほしいと思います。そうすれば、疼痛に苦しんでいる患者さんがいかに多く、適切な対応がなされていないか、適切な対応をすれば、かなりの疼痛患者さんが、苦しみから解放されるのだということが理解できると思います。

なお、本書では薬の名前はすべて商品名にしました。対応する薬品名、分類は164ページの表を参考にしてください。』

画像出展:「線維筋痛症は改善できる」

こちらがp164の表になります。

 

目次は下記の通りですが、ブログは第1章、第2章と第3章の一部、および第5章の中から「その他の併用療法」と「診断と治療の進め方(疼痛の重症化を防ぐ対応)」を取り上げています(黒字)。内容は要点と思った個所をまとめたものが大部分ですが、一部引用させて頂いたもの(『』でくくられています)もあります。

第1章 線維筋痛症とは?

患者が置かれている状況

●体の広範囲の痛みが3か月以上続く

●社会生活が困難になる

●多彩な原因に対して、現状は画一的な治療が行われている

第2章 線維筋痛症の症状

同じ病気の患者の経過を参考にする

症例1:夫の死をきっかけに片頭痛や顎関節症などを併発。その後に全身の疼痛

症例2:疼痛を起こす基礎疾患のない、精神的ストレス(離婚)を基礎にした全身の痛み

症例3:手術後、局所の痛みが全身に。片頭痛やうつ病などを併発して全身の疼痛へ

症例4:足親指の打撲の治療後、局所に痛みや腫れを生じ、数か月後には全身に疼痛

症例5:出産時の点滴でひじに血管痛。その激しい痛みが続き、全身の痛みへ

症例6:うつや顎関節症などがあるが、脊椎関節炎が基礎にある線維筋痛症

症例7:家族の病歴(クローン病)などから、脊椎関節炎を基礎とした線維筋痛症

症例8:かぜ症状を繰り返し、倦怠感もある慢性疲労症候群を基礎とした線維筋痛症

症例9:発熱、睡眠障害、関節痛、疲労感から、しだいに全身に自発痛

症例10:C型肝炎を持ち、子宮内膜症や筋緊張性頭痛の病歴があり、触れられただけで全身に激痛

線維筋痛症の中心症状

●動かさないときでも起きる広範囲疼痛

●睡眠や休息をとっても改善されない疲労

●脳波で確認しにくい睡眠障害

線維筋痛症の共通症状

●基礎疾患のない“むくみ”感

●全身のしびれ、異常感覚

●事故につながりやすい立ちくらみ、めまい

●短期記憶障害は長く続くことはない

●不安、ストレス、うつ状態などの精神症状

線維筋痛症の関連症状・疾患

●中枢の過敏状態(CSS)が引き起こす症状・疾患

●多彩な症状は根拠のある訴え

第3章 線維筋痛症の原因は?

神経伝達の障害

●痛みを抑えるシステムの破たん

●痛みの伝達ゲートは情動や気分の影響を受けやすい

●痛みの感受性が強く、回復に時間がかかる

●検査でわかる重要な異常

●症状を引き起こすストレス

セロトニンとの関係

●基礎疾患の有無で一次性と二次性に分けられる

●セロトニン神経の機能低下

第4章 線維筋痛症の関連疾患

病名が間違われる背景

●関連疾患との鑑別抜きに線維筋痛症の診療は進まない

脊椎関節炎(SPA)

●誤って線維筋痛症と診断されているケースが多い

●脊椎関節炎に気づかない医師がさまざまな病名をつけている

●脊椎関節炎にはさまざまな疾患がかかわっている

●脊椎関節炎の診断にはアキレス腱の超音波検査を組み合わせるとよい

●脊椎関節炎は関節リウマチに近い病気

複合性局所疼痛症候群(CRPS)

●何らかの手術後に発症することが多い

●早期診断、早期治療で多くは完治する

慢性疲労症候群

●日常生活に支障をきたす強い疲労感が改善されない

疼痛性障害

●心理的要因が疼痛を起こし、重症化させている

●疼痛の身体的原因を調べないところに問題がある

リウマチ疾患

●リウマチ性多発筋痛症は高齢者に多く、ステロイドが劇的に効く

●関節リウマチの寛解には線維筋痛症の有無が影響を与える

線維筋痛症診断の手順

●基礎疾患を探して分類する

第5章 線維筋痛症の治療法は?

薬物療法

●線維筋痛症には薬物療法が効く

●治療効果をみながら、オーダーメイドの治療を進める

症例1:メンタル面

症例2:メンタル面

症例3:CRPS(複合性局所疼痛症候群)タイプ

症例4:CRPS(複合性局所疼痛症候群)タイプ

症例5:CRPS(複合性局所疼痛症候群)タイプ

症例6:脊椎関節炎タイプ

症例7:脊椎関節炎タイプ

症例8:慢性疲労症候群タイプ

症例9:慢性疲労症候群タイプ

症例10:その他

●疼痛を改善すると、疲労、気分障害もコントロールできる

その他の併用療法

●薬物療法以外の治療法もあわせて導入する必要がある

●適切な治療で3~5年以内に70%以上が症状の改善可能

疼痛の重症化を防ぐ対応

●専門外来の医師の立場から線維筋痛症を考える

●診断と治療の進め方

第6章 線維筋痛症とのつき合い方

生活スタイルの工夫

●質のよい睡眠をとる

●食事は、不足しやすい栄養素を十分にとる

●喫煙は症状を悪化させる。禁煙を!

●天候の変動に備える

●疲労をためないように休息に努める

●家事などは体に負担のかからないような工夫が必要

患者さんの実例から学ぶ日常生活の工夫

●起床時の工夫

●就寝時の工夫、寝具の工夫

●食事の支度と後片付け、食事の仕方

●嗜好品

●口渇

●洗濯

●掃除

●入浴/浴室の工夫

●服装(着替えと寒さ対策)

●衛生、美容

●デスクワーク

●ストレッチ、運動

●日常動作の工夫

●リラックスするための工夫

患者さんの苦悩

●いま抱えている不安

●線維筋痛症を認めない医師

●以前の職場の環境と仕事

●何故この病気と闘ってこられたのか

●私にとって線維筋痛症とは

参考文献

あとがき

第1章 線維筋痛症とは?

患者が置かれている状況

体の広範囲の痛みが3か月以上続く

・広範囲疼痛とは、図1(1~6)のすべてに痛みがある場合である。

画像出展:「線維筋痛症は改善できる」

 

線維筋痛症は広範囲疼痛の約20%、人口の2%程度、日本では全人口のおよそ1.7%、約200万人と考えられる。

・米国リウマチ学会(ACR)が提唱した診断基準と日本人の患者にみられる痛みの部位

画像出展:「線維筋痛症は改善できる」

 

・痛みの評価は4kgの強さ(指で押して爪が白くなる程度)で圧迫したときに痛みがあるかどうか。

・線維筋痛症と診断されるのは、18か所の圧痛点のうち、11か所以上で痛みがあり、その痛みが3か月以上続いていることが診断基準となっている。

社会生活が困難になる

・日本の疫学調査によると、線維筋痛症の患者さんの平均年齢は51.5歳、発症年齢は43.8歳、罹患期間は7.4年、診断に要した時間は4.3年である。

・女性が8割を占めるため、女性ホルモンを含めたホルモンの影響が検討されたが、影響は見出されなかった。

今では、神経伝達物質のセロトニンの関与が考えられている。セロトニンは脳の中枢にあって、疼痛緩和やストレスと関係が深い物質で、女性のセロトニンの分泌は男性の4割程度と低いのも注目される理由である。

・線維筋痛症の主な症状は、①些細な刺激にも誘発・増悪される自発痛(何もしていないのに感じる痛み)、②早期覚醒や入眠障害などの睡眠障害、③休息で回復しない疲労、④抑うつ状態などの気分障害。なお、これらの症状は、天候(寒さや多湿など)、運動不足(活動の低下)、音や光などによって悪化する。

局所の保湿、休息、適度な運動、マッサージ、ストレッチングなどは症状を緩和させる。

・線維筋痛症で最も大きな問題は、社会的労働や家事労働などが十分に行えなくなることである。

多彩な原因に対して、現状は画一的な治療が行われている

・線維筋痛症の原因は多彩なため、それらをすべて取り除くことは一筋縄ではいかないが、症状を軽くすることはできる。

線維筋痛症の症状は、様々なストレスが加わると、脳の中枢にある疼痛を制御する場所の働きが低下することによって起きると考えられているので、症状を起こす原因となるストレスを見出して取り除けば症状を軽くすることができる。

線維筋痛症という病名に対する画一的な治療はなく、原因となるストレスの種類によって、一人ひとり異なるオーダーメイドの治療が必要である。

考える血管(pJAL5)

新型コロナとの闘いが続く中、毎日、多くの報道がされています。その中で危機感が強く伝わってくるのは、京都大学iPS細胞研究所所長の山中伸弥先生の言動です。そして、もうお一人、東京大学 先端科学技術研究センターがん・代謝プロジェクトのリーダーである児玉龍彦先生の参院・予算委員会でのお話も鬼気迫るものがありました。そして、“エピセンター(感染の震源地化)”という考え方に加え、“交叉免疫”という今まで聞いたことのない“免疫”に大変興味を持ちました。 

左は、「東京大学 アイソトープ総合センターさま」のサイトです。そして、“新型コロナウィルスへの血清IgM,IgG抗体の定量的かつ大量測定プロジェクト-紹介と研究参加のご案内”をクリック頂くと、このページから「参議院予算委員会提出資料」や「NHKクローズアップ現代+」などにアクセスできます。

 

残念ながら、児玉先生の著書の中に“交叉免疫”を題名にしたものを見つけることはできなかったのですが、『考える血管』というブルーバックス(講談社さまが発行している一般向け科学シリーズ)を見つけました。

申すまでもなく、血管は血液を各組織に届けるインフラであり、まさに体の中のライフラインです。血液に注目するのであれば、血管のことを良く知ることも重要だと思いました。

著者:児玉龍彦、浜窪隆雄

出版:1997年6月(初版)

発行:講談社

 

ブログは目次に続き、最初に「あとがき」をご紹介しているのですが、これは全体像をお伝えできることと、体の中の環境問題[ゴミ処理問題]という言葉がとても新鮮で印象に残ったからです。

その後、第2章 躍動する血管/4.平滑筋細胞を伝わる情報/“内皮細胞と平滑筋細胞の対話”と、第4章 詰まる血管/3.解明されたスカベンジャー受容体/“新しいパラダイム”に関して簡単にまとめています。

また、プロローグの表紙にあった、日本航空5便の機内で撮られた若き児玉先生と、大逆転の大発見となった、「スカベンジャー受容体遺伝子の発見」に関わるエピソードを加え、さらにエピローグの表紙(「脳のなかのスカベンジャー受容体」)も添付させて頂きました。 

目次

はじめに

プロローグ コレステロールをためる遺伝子

第1章 伸びる血管

1-1 血管がのびるとき

・人口60兆人の巨大都市

・撮影された二つの塊

・がんが血管を伸ばす

・血流が途絶えればがんは死ぬ

・がん根絶への課題

1-2 管構造の謎

・総延長、10万キロメートル

・内皮細胞の発見

・パイプをつくるメカニズム

・第四の説がもつ魅力

・二つの伸び方

・人工血管の苦悩

・求められる第二の性質

・脳の堅牢な血管構造

・細胞のなかを移動する袋

・二つの顔をもつ門番

1-3 血管を伸ばすもの

・クローニング競争

・細胞周期を再起動させるもの

・勝者になってこそ

・つかめない正体

・本命のVEGF[血管内皮増殖因子]

・一つの遺伝子がもつ二つの顔

・二つの遺伝子

・VEGF受容体

・ノックアウトマウス

・壊された遺伝子がもつ意味

・VEGF受容体ノックアウトマウス

・遅れたVEGFノックアウトマウス

・濃度勾配がはたす役割

・相互に依存する関係

・臓器のパートナー

・病気とのかかわり

・老いゆく血管細胞

・寿命を決める回数券[テロメア]

第2章 躍動する血管

2-1 コントロールされる血管

・柔軟で緊張した管

・血管を緊張させる細胞

・神経系による支配

・延髄に存在する指令センター

・残された謎

2-2 血圧を制御する物質

・発見は意外なところから

・マウスにあって、ラットにない

・レニン-アンギオテンシン系

・高血圧と動脈硬化の違い

・理由がわからないまま効く薬

・受容体とブロッカー

・二種類の受容体

2-3 内皮細胞のはたらき

・ダイナマイトが血管を拡げる

・ガスをつくる酵素

・史上最強の血管収縮ホルモン

・エンドセリンのパラドックス

2-4 平滑筋細胞を伝わる情報

・平滑筋細胞の収縮メカニズム

・カルシウムの動きを目で見る

・クロゴケグモの毒

・細胞内を伝わるシグナル

内皮細胞と平滑筋細胞の対話

・変身する平滑筋細胞

第3章 血管を彩る血球たち

3-1 血管にくっつく血球

・骨髄で誕生する

・拒絶する白血球

・家へ帰っていくリンパ球

・セレクチンの発見

・激流のなかで細胞をとらえる

・白血球を呼ぶ

・接着因子の出方

3-2 出血はどう止まるか

・細胞のかけら

・血小板のはたらき

・凝固因子のはたらき

・絶えず溶かされる血液

・権利は発見者に

3-3 がん転移のメカニズム

・がん治療最大の困難

・流れていくがん細胞

・接着因子がはたす役割

・ブルドーザー[がん細胞]を止められるか

第4章 詰まる血管

4-1 動脈硬化

・サイレント病の恐怖

・大食い細胞、マクロファージ

・ブラウンとゴールドシュタイン

・LDL受容体の重要度

・「キッチン・シンク」スタイル

・ある思いつきからの発見

・突然の中止

・投げかけられた疑問

・フラミンガムスタディ

・メガトライアル時代

・鍵を握るのはプラークの破壊

4-2 酸化されるLDL

・動脈硬化を進める遺伝子

・スカベンジャー仮説

・酸化LDLの発見

・酸化LDL説の誕生

・抗酸化剤プロブコールの効果

4-3 解明されたスカベンジャー受容体

・MITへ

・5フルオロウラシルのマジック

・スカベンジャー受容体とコラーゲン

・解明された謎

・戦う細胞のもう一つの顔

・動脈硬化とマクロファージ

新しいパラダイム

エピローグ 脳のなかのスカベンジャー受容体

おわりに

おわりに

『人間の体は、60兆個の細胞からなりたっている。分子生物学は、DNAを読めば人間の情報がわかると予言した。そして、「利己的な遺伝子」などという言葉に代表されるように、遺伝子が自立して機能をもつことを重視する生命観が形成されてきている。

だが、60兆個もの細胞が集まった人間たちの見取り図が、遺伝子を読むだけですべてわかるのだろうか。本当は、細胞と細胞がどうかかわっているか、相互の関係を見ていくことが必要なのではないか。そこで本書では、血管の細胞たちを通じて、細胞がどのように全身のシステムとかかわるのかを明らかにしようと試みた。

筆者らは、動脈硬化と高血圧の研究者であり、はじめこれらは病気の原因となる遺伝子、その遺伝子によってコードされるたんぱく質を研究していた。ところがある遺伝子をクローリングしてみても、その体のなかでのはたらきは実はよくわからない。

動物は、どんなに多くの細胞からなるものでも、はじめは一個の受精卵からスタートする。そこで、出発点の精子や卵子の遺伝子を操作すれば遺伝子に異常をもつ動物をつくり出すことができる。第1章で紹介したノックアウトマウスがそれであり、このような実験から遺伝子のはたらきを探ろうとしていたのである。ところが、ここで予想外のことが起こった。

第2章で紹介した、血管を収縮させる因子であるエンドセリンというたんぱく質。試験管のなかで血管壁にエンドセリンをふりかけると血管は収縮する。動物にエンドセリンを注射すれば血圧が上昇する。

ところが、遺伝子を操作して、二個あるエンドセリン遺伝子のうち一個が壊れてエンドセリンが半分しか作れないマウスをつくると、予想とは逆に高血圧を起こすという結果になってしまったのである。

いくらマウスの遺伝子を改変しても、その結果がどうなるかはブラックボックスから出てくる結果しかわからないということだ。そこで、もういちど血管にもどってみた。血管を構成する細胞を中心に考えなおしてみたのが、本書なのである。

われわれは、まだ60兆個の細胞を解析する手だてをもっていない。そこで、あるまとまった細胞の種類に注目した。

血管の特徴は、細胞が集まってパイプのような管をつくり、血液を流すことである。このパイプをなすのが一層の内皮細胞であった。この内皮細胞のまわりには、血圧を保つために躍動する平滑筋細胞がある。これらの二つの細胞を調べ、さらに血管にくっつきパイプを越えて出入りする血球に注目していった。

遺伝子は細胞のなかではたらく。そのもっとも大切なはたらきは、一つの細胞が分裂して二つになること、つまり細胞の増殖をコントロールすることであろう。

血管でいちばん大切な内皮細胞の増殖をコントロールする因子は、血管のまわりにあって、酸素や栄養分のたりなくなった細胞が放出する。血管が、まわりの細胞との対話から出発していることがわかってきたのである。こうした対話の仕方をクロストークと呼んでいる。

動物が大きくなれば、血管も太く、長くなる。人間では総延長10万キロメートルにもなる。そうすると血液を配る圧力が必要になり、それを調節する細胞が平滑筋細胞なのである。運動をすると筋肉はたくさんの酸素を要求し、血液をたくさん必要とする。こうした場合の調節でも、運動する筋肉の細胞と、血管の細胞との対話がなければなりたたない。

従来、血管の細胞は、まわりの細胞や神経にいわれて命令されたままに動くように思われていたが、エンドセリンや一酸化窒素の発見から、むしろ血管の細胞が、周囲の細胞と相互に作用しつつ、「考えながら」行動することがわかってきた。

今日のわれわれにとって、もっとも大きな血管の問題は動脈硬化であろう。動脈硬化の研究においても、分子生物学による研究がはなばなしく繰り広げられてきた。コレステロールの研究で、若くしてノーベル賞を受賞したブラウンとゴールドシュタインはその象徴であった。

ブラウンとゴールドシュタインによって示唆された、血管にコレステロールがたまるメカニズムの解明も、遺伝子の重要性、つまり動脈硬化が細胞のDNAによって決められた運命というよりも、細胞の反応が重要な役割を果たす、むしろゴミ処理問題としてのおもむきを示してきた。

コレステロールをはこぶ複合体が、血管壁の骨組みをなすマトリックスたんぱく質にくっついて変性し、それを食べにきたマクロファージがいすわってしまって動脈硬化が進んでいく。このようなメカニズムは、その他の病気でも考えられはじめており、いわば、体のなかの環境問題が成人病の鍵になるようである。

人間の体のなかでは、細胞は裸で暮らしているというよりは、マンションの部屋がゴミでうもれ、ダイオキシンのような有害なものがあふれてしまうのが成人病であるのかもしれない。

こうしたパラダイムがアルツハイマー病や糖尿病、また、本書では紹介できなかった白内障や骨の病気でも登場してきている。』

内皮細胞と平滑筋細胞の対話 

血管の内皮細胞はただ単に血管の内側を埋めている敷石のような存在ではない。平滑筋細胞を収縮させるエンドセリンを分泌したり、アンギオテンシンを活性型に変換したり、また弛緩させるNOを放出したりと、縦横にはたらく実に機能的な細胞である。

●血管の内皮細胞はナトリウム利尿ホルモンやアデノシン、プラスタノイドといった平滑筋細胞の収縮を制御する物質を分泌する。

●血管の内皮細胞は平滑筋細胞の増殖を促すホルモンを分泌する。

●平滑筋細胞は内皮細胞に対して増殖因子を分泌している。このことから、血管を構成する細胞たちがお互いに情報の交換をしながら機能を果たしていることが予測される。

●『最近、アメリカのリジェネロン社のヤンコプーロスのグループから非常におもしろい仮説が提出された。彼らはアンギオポエチンと名付けた新しいたんぱく質を同定した。その仮説によれば平滑筋細胞の前身の細胞(前駆細胞)からこのアンギオポエチンが放出され、血管の内皮細胞がそれを受け取ると、こんどは内皮細胞がPDGF(血小板由来増殖因子)やHB-EGF(ヘパリン結合性内皮増殖因子)と呼ばれる因子を放出する。そして、このシグナルを受け取った前駆細胞が内皮細胞のまわりに集まってきて平滑筋細胞になるというのである。

このようにして、血管の細胞たちが、まるで対話をしているかのような双方向性のシグナルのやりとりをおこなっている姿が浮かび上がってきた。

本書の中で“仮説”とされた「平滑筋細胞→(アンギオポエチン)→内皮細胞→(PDGF)」というシグナル伝達について、検索してみたところ、本書から約10年後の2006年12月発行の科学雑誌に、これらの関係性について書かれたものがありました。このことから仮説ではないと考えます。

生体の科学 57巻6号 (2006年12月)

特集 血管壁 血管平滑筋の発生分化と特異的遺伝子発現

『血管系は管腔を一層に覆う血管内皮細胞(endothelial cells)とその外側を内皮細胞が産生した基底膜、その周辺を中膜形成する血管平滑筋細胞(smooth muscle cells)、毛細血管ではペリサイト(pericytes)などの周皮細胞からなる壁細胞で構成されている。中膜は収縮弛緩することで血圧や血流を調節している。これら血管系細胞群の発生分化、形成に関する細胞科学的な解析や関連する遺伝子の解析が進み、その過程の理解が飛躍的に進んできた。血管平滑筋の増殖を制御する代表的な因子は内皮細胞が発現するPDGF(platelet-derived growth factor)とそのレセプターであるが、チロシンキナーゼ型レセプターTie-1,Tie-2とそのリガンドである壁細胞が分泌するアンジオポエチン(angiopoietin)は内皮細胞と血管平滑筋細胞の接着や増殖などを調節している。

本総説では血管平滑筋細胞とは何か、特に発生における組織細胞の由来および成体における各種外部刺激による細胞形質変換について概説し、平滑筋の発生分化を牽引する血管平滑筋細胞特異的遺伝子発現がどのようなメカニズムで行われるのかを、典型的な平滑筋マーカーである血管平滑筋α-アクチン(Smooth muscle α-actin;SmαA)を例にして解説する。』

新しいパラダイム

『北教授によるプロブコールをもちいた実験などでは、LDLが動脈にたまっても酸化されさえしなければ、マクロファージが動脈に集まることはなく動脈硬化も起きない。コレステロールがたまること自体より、マクロファージが集まってしまうことが動脈硬化を悪化させる面が強いという。

動脈硬化とは、酸化されたLDLが不燃ゴミのように血管壁にたまり、やってきたゴミ処理工場のマクロファージが、自分では分解できないコレステロールを食べすぎることで泡沫細胞になり、過剰反応を起こしたり、壊れたりしてしまうという、体のなかの環境問題である

動脈硬化の予防と治療の方法

1.血液中のコレステロール濃度を下げる(従来からのリスクファクターの改善)。

2.LDLの酸化を抑える。

3.病変部へのマクロファージの集積を抑える。

4.マクロファージが血管壁から離脱するのを助ける。

プロローグ コレステロールをためる遺伝子

画像出展:「考える血管」

帰国のJAL5便のなかで取れた、動脈硬化にかかわるスカベンジャー受容体遺伝子のかけらは、「pJAL5」と命名された。さっそく観光ビザでアメリカにとんぼ返りし、遺伝子のすべての配列を決めた。つづけてコレステロールをためて細胞を泡沫のようにさせる実験を行い、論文をつくり上げた。わずか二ヵ月であった。この遺伝子に関する二つの論文は国際科学誌「ネイチャー」に掲載されることになり、その表紙を飾った。

この発見は、動脈硬化と老化の新たな研究の基礎となった。それだけではなく研究の進み方にもっと広い意味での文化をもたらした。たんぱく質の精製や遺伝子クローニングに明け暮れていた私の研究生活も別の方向へ転換をはじめた。

スカベンジャー受容体遺伝子の核心的な構造は、コラーゲンと呼ばれる、人体で最大量を占め、血管壁でももっとも多く存在するたんぱく質と同じ構造をしていた。この構造は、それまでには考えられなかったようなたくさんの種類の異物や老廃物を結合し、細胞のなかへ飲み込んでしまう。スカベンジャー受容体は、大食い細胞という名をもつマクロファージと呼ばれる細胞のみがもっていて、そのマクロファージがコレステロールを食べすぎることで泡沫細胞になり、動脈硬化を進めていくということがわかった。さらにスカベンジャー受容体に結合するゴミがたくさんありすぎると、マクロファージがこれを飲み込もうとしてもうまくいかず、ゴミのたまっているところにくっついたままになってしまうことがわかってきた。スカベンジャー受容体の発見は、体のなかのゴミ処理機構が動脈硬化という病気にかかわることを明らかにした。それと同時に、「老化の新しいパラダイム」を示すものでもあった。

さらに、脳の皮質のなかの動脈が、スカベンジャー受容体をもった新しい細胞に包まれていることが発見され、従来の血液脳関門に代わる脳の新しい血管構造モデルが生まれてきている。 

画像出展:「考える血管」

スカベンジャー受容体のクローニングを伝える「ネイチャー」1990年2月8日号、描かれているのは、スカベンジャー受容体の構造。

エピローグ 脳のなかのスカベンジャー受容体

画像出展:「考える血管」

間藤細胞 『脳の血管のまわりには、ゴミを食べて掃除する細胞がある。脳内のゴミをたくさん食べたこの細胞は、たまってきたゴミによって変性を受け、血管を圧迫し、狭くしていく。

この細胞は、1979年に間藤方雄先生によってFluorescent Granular Perithelial細胞として報告されたが、その後世界の研究者は、MATO(間藤)細胞の名で呼んでいる。

 

塩と高血圧5

著者:青木久三

出版:1984年4月(昭和59年)

発行:主婦の友社

注)出版が36年前の本なので最新の知見とは合わない部分があるかもしれません。

また、目次は”塩と高血圧1”を参照ください。

 

第四章 効き目に差をつける降圧剤の使い方 安易な服用はかえって危ない

降圧剤に関する無知と誤解があまりにも多すぎる

・これまで延べ何万人という多くの患者さんを治療してきた。そこで、いつも心配になるのは降圧剤の飲み方である。降圧剤は、場合によっては30年も40年も服用することが必要で、高血圧の人にとって大切な健康管理のための薬となるが、降圧剤についての誤解が非常に多くこちらの方がヒヤッとすることさえある。

・夕食後に服用すべき降圧剤を寝しなに飲むと、最も低くなる夜間睡眠中の血圧をさらに低下させることになるため、血液が滞って固まるというリスクが高まり、狭心症や脳卒中を誘発する懸念を高めてしまう。

・1日分の降圧剤をまとめて飲んでしまったり、飲み忘れた分を次の回にいっしょに飲んでしまうなども危険である。

降圧剤は強引に神経の作用を遮断したり、体内の水や塩を減らして血圧を下げる薬である。高血圧を根本的に治療する薬でもなければ、ましてや高血圧の予防薬でもない。親が高血圧だから自分もとりあえず飲んでおこうなどという考えも大変危険である。

降圧剤は、単に高い血圧を引き下げるだけの薬であると考えるべきである。

「降圧剤は一生服用しなければならない」というのは迷信にすぎない

・高血圧が軽症や中等症の人の中には、降圧剤を中止したり減量したりできる人がいる。

・長い間薬で血圧の上昇を抑えていると、体の仕組がこれに順応して血圧が上昇しにくくなり、中には降圧剤を必要としない人もいる。

・血圧が目標値に達し、しかも長期間安定している場合は、降圧剤の減量を試みるべきである。また、年齢や環境によって血圧も変化するため、それに応じた適量を知るためにも、一度減量して血圧の変化を観察することは有益である。

降圧剤はこんな人に使ってはいけない

・正常血圧より高いが、高血圧というほどでもないという境界域高血圧の人の中には、予防的に降圧剤を利用したいと思っている人がいるがこの考えは正しくない。

第一に、高血圧の人は正常血圧よりも多少高めの血圧が治療目標になる。これはその方がその人の体質に元々合っていると考えられるからである。正常血圧でなければ健康でないという考え方は誤りである。

第二に、境界域程度の高血圧であれば、日常生活に注意するだけで、十分に血圧を下げることは可能であり、副作用の危険をおかしてまで降圧剤を服用する必要はない。

第三に、境界域高血圧は二十代から三十代の人に多いため、降圧剤を使い始めると、50年も60年も服用することになり、未知の副作用が現れることも考えられる。

さらに恐ろしいのは、血圧が下がりすぎてしまうことである。高血圧の人は血圧を上昇させようとする力が強く働いているが、血圧を下げようとする力も働いている。つまり、上昇させようとする力と下降させようとする力、これに降圧剤が加わって、ちょうどよいバランスがとれるのである。ところが、血圧を上昇させる力がそれほど強くない人が降圧剤を服用すると、低血圧が起こる危険が出てくる。こうなると、血液を体の隅々まで運ぶことが難しくなり、手足の冷えや、立ちくらみ、めまい、無気などの症状が現われてくる。

・70歳以上の高齢者も降圧剤には危険が多い。高齢者は一般的に動脈硬化によって血管が硬くなり、収縮血圧が上昇する。しかし、同時に血圧を調節する機能も低下し、血圧が変動しやすくなる。

病院で測定すると収縮期血圧が180ミリあっても、家庭でリラックスしているときは、120ミリしかないというようなことも少なくない。このような高齢者に降圧剤を使用すると、脳や心臓、腎臓などに部分的に血液を送れなくなることがあり、かえって体の機能低下が起きたり、活力が低下して元気のない高齢者が出てきてしまう。

高齢者でも拡張期血圧が100ミリ以上、あるいは収縮期血圧が180ミリ以上ある人、また健康で活発に行動している人は、降圧剤による治療が必要である。この場合も、高齢者は薬を排泄する力や無毒化する力が衰えているので、普通より少なめに服用することが大切である。

降圧剤で正常血圧まで下げてしまうのは、大きな誤り 

画像出展:「減塩なしで血圧は下がる」

高血圧の人は、もともと高めの血圧の方が体に適していると考えられている。また正常血圧というのも、健康な人たちの平均血圧のことで、それにピッタリあてはまらなければ不健康という意味ではない。多少高めで全身の機能がちょうどよく働くという人もいる。

・血圧は年齢の増加に伴って上昇する。従って三十代では収縮期血圧の降圧目標は130ミリでも、八十代には180ミリでも大きな問題はない。

副作用がなく、血圧を即座に下げる薬が開発された

1950年代にレセルピン[交感神経の中枢と末梢に作用しノルアドレナリンを抑制し、心拍出量の低下と血管の拡張をもたらし血圧を下げる]や利尿剤が高血圧の治療に使用されるようになったが、これらの降圧剤の副作用は本態性高血圧症に“間接的”にしか作用できないからだと考えられる。高血圧を起こす原因そのものには対処せず、無理やり心臓の機能を低下させたり、血管を広げて、血圧を低下させるため、体にゆがみが生じてさまざまな障害を起こすと考えられる。

・当時、治療の主体となっていたのは心臓の仕事量を軽減させるβ遮断剤が使用されていたが、深刻な副作用として心臓の機能を低下させすぎて、心不全を起こす危険があった。

・カルシウム拮抗剤が開発されたのは1972年に入ってからであるが、この薬は本態性高血圧症の治療薬として開発されたわけではなく、狭心症の特効薬として心臓の冠動脈を広げるという目的で開発された。

カルシウム拮抗剤は、ドイツと日本の協同研究によって追試が重ねられる中、カルシウム拮抗剤で高血圧の人の血圧が低下したという報告があった。そこで、遺伝性高血圧ネズミを使ってカルシウム拮抗剤の効果を実験したところ、すべてのネズミの血圧が低下した。さらに本態性高血圧の治療に応用したところ、やはりすべての患者さんの血圧がすみやかに下降し、しかも副作用が全くといって良いほど少ないことが分かった。

なぜこの薬は、こんなにすばらしい効果を発揮するのか

・カルシウム拮抗剤で心配になるのは、体の他の部分への影響である。手足の骨格筋や胃腸の筋肉もやはり、カルシウムイオンの濃度によって伸び縮みしているので、これらの筋肉に対しても収縮を抑制するという懸念がある。しかしながら、幸いにもカルシウム拮抗剤は、血管の筋肉だけに特別に作用する性質をもっているため、この懸念点は排除できる。 

従来の降圧剤より、ここがこれだけすぐれている

従来の降圧剤の副作用には、無理に血圧を下げることにより、血液の流れを悪くし人体各部の血液不足を起こすことがある。このため血液不足による病気、たとえば脳卒中や狭心症、心筋梗塞、腎臓機能の低下などを起こす危険があった。

・カルシウム拮抗剤は本態性高血圧症の原因に直接働きかける薬である。しかも、血管の異常に対してだけ特異的に作用する性質を持っている。そのため、血管に異常のない正常血圧の人がカルシウム拮抗剤を飲んでも、血圧はほとんど下降しない。

本態性高血圧症の人は、生まれつき血管筋肉細胞の膜にカルシウムイオンの通路が多く、そのために細胞内のカルシウムイオン濃度が異常に高くなっている。これが血管の内腔を狭くし血圧を上げる原因となっている。

カルシウム拮抗剤は、この余分な細胞膜の通路をふさぎ、細胞内のカルシウムイオン濃度を低下させることによって血圧を下げる。

・カルシウム拮抗剤は、本態性高血圧症の人の血管の仕組みを正常に近づけて血圧を下げるため、従来の降圧剤のように不必要な働きをすることが非常に少なく、そのため副作用の心配も少ない。

カルシウム拮抗剤の効きめを最も高める使い方

・カルシウム拮抗剤には血圧を低下させるだけではなく、高血圧による合併症を防止・治療する働きもある。

狭心症、あるいは前胸部から左胸部にかけて、しめつけられるような圧迫感のある人:『カルシウム拮抗剤は本来狭心症の治療薬ですから、こうした症状を伴う高血圧の人にはうってつけです。ただ、前述[カルシウム拮抗剤には、ジルチアゼムとニフェジピンという二つの系統があるということ]のように種類によって心拍数に与える影響が異なるため、心拍数が70回以上の人はジルチアゼム、69回以下の人はニフェジピンを用います。どちらの場合も、起床時に寝床で服用すると、睡眠中に狭くなっていた血管が広がり、効果的です。』

脳の血液不足や腎機能の低下が心配な人:『高血圧では、血管が狭くなり血液が流れにくくなるため、血液不足で脳や腎臓の働きが低下します。カルシウム拮抗剤は、血管を広げて流れる血液の量が増加しますから、これらの病気を予防し、また一度低下した機能を回復させるためにも効果があります。』

不整脈のある人:『不整脈は、心臓が拍動するペースが狂う病気で、たいていは心臓の血液不足が原因で起こります。また、高血圧による心肥大や狭心症に合併して現れることもあります。そのいずれの不整脈にもよく効くのが、ジルチアゼムです。これは、ジルチアゼムによって血管が広がるため、心臓が血液を送り出す作業が楽になり、そのために不整脈も治るのではないかと考えられています。これに対してニフェジピンのほうは、逆に心拍数を増加させる作用があるため、不整脈を治す力も少ないとされています。』

緊急事態を招いた重症高血圧でも、この薬を使えば簡単に危機を脱出できる

・重症高血圧の人は、ニフェジピンにプロプラノロールというβ遮断剤を加えるとより効果的である。これはβ遮断剤によって、ニフェジピンの降圧作用が強化される上に、ニフェジピンによる心拍数の増加が防止できるからである。

第五章 高血圧の不安を一掃する早わかり相談 この知識であなたの血圧対策は万全なものとなる

実のところ塩はどの程度とればよいのでしょう?

・適切な食塩の摂取量は一日10~15g(15gは発汗の多い夏場や運動時)。

高血圧の人にとって最も大切な食事の注意を教えてください

高血圧の人に限らず大切なことは、各栄養素を体に必要な量だけとることである。特に高血圧の人にとって欲しいのがタンパク質である。タンパク質は高血圧で弱った血管や心臓を丈夫にする栄養素である。体内に入ったタンパク質は心臓や血管の筋肉となり、その柔軟性(伸縮性)を高める。従って、血圧が少々上昇しても、心臓は元気に収縮し血管も伸びて破れにくくなり、さらに、血管が柔軟に広がり血圧は低下する。

※慢性腎臓病の患者さまは、一般的にタンパク質摂取制限を求められます。

高血圧の人が、ぜひ避けなければならない食品は何ですか?

・高血圧の人が避けなければならない食べ物はない。ただし、特定の食品を過食したり、逆に食べないことはよくない。特に高血圧の人が注意してほしいのは、糖質と脂質の過食であり、その際、過食かどうかは体重が「身長マイナス110」kgが目安となる。必要以上の摂取は脂肪組織(ぜい肉)になる。

・脂肪組織は腹ばかりでなく、血管壁や心臓の壁にも蓄えられ、その結果、血管が狭くなって血圧が上昇する。一方、心臓の動きが鈍くなって血圧を十分に送り出すことができなくなる。これらによって、脳卒中や心臓発作を起こす可能性が高くなる。

・血液の中の中性脂肪が増加すると、血液はドロドロの状態になり、血液が流れにくくなってますます血圧は上昇する。

血圧が高い人がやってはいけない健康法はありますか

高血圧の人にとって良くないのは、過度な肉体労働と精神労働である。こうした労働は、一時的であっても血圧を上昇させて心臓病や脳卒中の発作の引き金になる。また、過労を繰り返していると、血圧を高血圧の状態に固定してしまう。

・ジョギングやマラソン、水泳、スキーなどは血圧を著しく上昇させ、心臓の負担を大きくするので危険である。

・瞬発力の必要なスポーツは急激に血圧を上昇させる。バーベルなど重い器具を持ち上げると、一瞬にして150ミリの収縮期血圧が、300ミリにまで上昇してしまう。その拍子に血管が破裂することさえある。ゴルフやテニス、バドミントンにも同じ危険が伴う。

散歩のような軽い運動は、血管を広げて血圧を下げる作用があり高血圧の人に適している。ただし、寒さは血圧を上げるので、冬は室内を歩くか、日差しのある場所を選んで、暖かい時間に外に出て散歩すると良い。

万能降圧剤のように思えるカルシウム拮抗剤に欠点はないのですか?

・カルシウム拮抗剤は、従来の降圧剤に比べると、格段に副作用や欠点の少ない薬だが、薬である以上副作用はある。ニフェジピンというカルシウム拮抗剤は降圧効果の強力な、重症高血圧の特効薬だが、軽症の高血圧にニフェジピンを普通量使用すると、血圧が下がりすぎたり、立ちくらみ、めまい、頭痛、顔のほてりなどを起こすことがある。また、70歳以上の高血圧の人に使うと、足に浮腫みが起きることがある。これはニフェジピンが毛細血管まで広げて血管壁の網目を大きくし、そこから血液の液体成分が血管の外に出てしまうからである。浮腫みはこの液体成分が組織にたまるために起こる。一方、ジルチアゼムというカルシウム拮抗剤には、心拍数をやや低下させる作用がある。従って、拍動、つまり脈拍が少ない(1分間に60回以下)人にこの薬を大量に使うと、除脈発作を起こす危険がある。

カルシウム拮抗剤は日本でも広く使われているのでしょうか?

・カルシウム拮抗剤は、現在[1984年以前]日本で一番多く使われている降圧剤の一つである。

塩を減らさなければいけない高血圧のタイプを教えてください

・『減塩が必要な高血圧は、食塩過食性高血圧と腎臓の機能不全によって起こった高血圧です。高血圧の90%以上は本態性高血圧症ですが、残りの10%は二次性高血圧といって、他の病気や明らかな臓器障害があって起こる高血圧です。食塩過食性高血圧も、腎臓の機能不全によって起こる高血圧も、二次性高血圧の一つで、数の上では非常にわずかです。食塩過食性高血圧では、遺伝(副遺伝子)によって食塩に対する強い感受性が受け継がれ、食塩を過剰摂取したときのみ高血圧が起こります。食塩に対する感受性が強い人の場合には、過食した食塩が血管の筋肉細胞の中にカルシウムイオンを引き込んでしまいます。そのために、食塩を過食すると細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇して、血管が収縮し、血圧が上昇してしまうのです。一方、腎臓に障害がある人も、これと同じメカニズムで高血圧が起こります。つまり、食塩が尿の中にうまく排泄されないために食塩が体内に蓄積され、細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇するのです。だから、一日に摂取する食塩の量を5~8gに減らせば、血圧が下がります。』

高血圧家系の人は、何歳ごろから、どのような点に注意すればよいでしょう?

・『本態性高血圧症の家系の人は、20歳ごろから徐々に血圧が上昇し、四十代で確定高血圧になります。いわばいちばんの働きざかりに高血圧になるわけです。しかし、じょうずに降圧剤を利用し、日常ちょっとした心がけをすれば、健康な人と全く変わらない生活ができます。本態性高血圧症の人は、、三十代で血圧がやや高め(境界域高血圧)になり、精神的刺激や肉体労働で正常血圧の人よりも血圧が大きく上昇します。しかし、血管や心臓は健康ですから、三十代の高血圧は良性といえます。この時期には、正常圧で健康な人よりも一割程度多く休息をとってください。過労気味のときには、レジャーも中止して十分休息をとり、ボディビルや、全力疾走が必要なスポーツは避けます。また、肥満やアルコールの多飲、喫煙は血圧の上昇に拍車をかけますから、節制してください。四十代は血圧が急速に上昇する時期で、過労で胸が重くなるなど、高血圧による自覚症状も現われてきます。血圧に注意して降圧剤を利用し、十分な休養をとりましょう。ただし、60歳を越えれば高血圧も峠を越し、心臓病や脳卒中などの発作が起こりにくくなるので、普通の人と同じ生活が送れます。』

酒とタバコは、やはり百害あって一利なしなのでしょうか?

・アルコールは少量であれば、精神的緊張をやわらげる、ストレスを解消するといった効果をもたらすこともあるが、血管に対しては毒として働く。それゆえ、アルコール類は飲まないほうが健康によい。アルコールは血管の筋肉を障害し、血圧を調節する神経を麻痺させるからである。

・タバコは害しかない。タバコは全身の血行を悪くするだけでなく、心臓の働きまで低下させる。タバコに含まれるニコチンは血管を収縮させて血のめぐりを悪くする。

タバコには大量の二酸化炭素が含まれるため、血液中の酸素が減少して全身が酸素不足に陥る。これだけでも酸素不足による脳や心臓の発作を起こしやすくなるが、そのうえタバコは心臓の機能を低下させ、心臓を支配する神経を麻痺させる。高血圧とタバコの害が相まって不整脈が現われ、ますます心臓発作が起こりやすくなる。高血圧の人にとってタバコはとりわけ恐ろしい毒物である。

健康にいいと言われるカルシウム剤も高血圧の原因になりますか?

・カルシウムをとりすぎても血圧は上昇しない。摂ったカルシウムの大半は骨に沈着し、血液のカルシウムイオンになるのはごく一部である(0.1%程度)。たとえ、血液中のカルシウムイオンの数が増加しても、血管細胞に到達するまでにいくつもの関所が待ち構えていて、細胞内にカルシウムイオンが入れないように目を光らせている。

塩と高血圧4

著者:青木久三

出版:1984年4月(昭和59年)

発行:主婦の友社

注)出版が36年前の本なので最新の知見とは合わない部分があるかもしれません。

また、目次は”塩と高血圧1”を参照ください。

 

第三章 血圧はこの方法で下げなさい あなたのやり方では高血圧は治らない

動物性タンパク質を十分とると狭心症や脳卒中も防げる

・血管壁は筋肉細胞と結合織からなり、伸び縮みするのは筋肉細胞であり、筋肉細胞を形作っているのはタンパク質である。

・筋肉細胞は老化し、再生され、世代交代(新陳代謝)をどんどん繰り返している。筋肉細胞の寿命は約1ヵ月なので、若い細胞を作るためには、質のよいタンパク質を十分に摂らなければならない。筋肉を作る材料が不足すれば、老化したボロボロの細胞だけになり、動脈硬化を進行させてしまう。

・血管だけではなく、心臓もまた心筋と呼ばれる筋肉が伸び縮みして、血液を毎日10万回近く体内に送り出しているため、心筋梗塞や狭心症の予防とその修復にも、動物性タンパク質は欠かせない。

・『事実、青白い顔をしていた患者さんたちが、動物性のタンパク質を十分にとるようになってから、皮膚の色つやが見違えるほどよくなり、狭心症や心筋梗塞も改善していくのを、私は毎日のように経験しています。

みんなが敵視する肉は、実は血圧が高い人にも必要な栄養食

血管をしなやかに、かつ強靭に保つための第一条件は、タンパク質を十分に補充することであるが、一番良いタンパク質は人間の体を構成しているタンパクに近い動物性タンパク質である。タンパク質を摂らないと細胞の新生を障害し、体の老化を促進してボケを早め、やがては心臓と血管を崩壊させてしまう。

・人間の体を作るタンパク質は、人間以外のどの生物のタンパク質とも違う「人間タンパク質」である。この人間タンパク質は、食物からとったタンパク質を分解して取り出したアミノ酸と、体内で合成されたアミノ酸から作られる。

・体内で合成できないアミノ酸は、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニールアラニン、スレオニン、トリプトファン、バリンの8つで、これらは必須アミノ酸と呼ばれ、1つでも欠けると人間タンパク質はできない。[現在はヒスチジンを加え、計9つとなっています]

必須アミノ酸は植物性タンパク質より動物性タンパク質に多く含まれている。なお、食肉としては赤身肉やヒレ肉など、脂肪を含んでいない肉が対象になる。

水を十分に飲むと脳卒中にも心筋梗塞にもなりにくい

体内には、体重の約12分の1(50kgの人なら約4.2l)の量の血液が流れている。血液成分の45%は赤血球を中心とした血球成分で、残りの55%は血清と呼ばれる液体成分だが、血清1dl中には、タンパク質7g、糖質100mg,脂質500mg、微量のミネラルが含まれており、血液はもともと粘っこい液体である。

血圧の粘度を減らす方法は二つある。一つは血清中の余分の脂肪(主として中性脂肪)を減らすこと。脂肪を減らすには標準体重にすることである。もう一つの方法は、水を飲んで血液中に占める水の割合を増すことである。飲料水や食物として胃の中に入った水は、胃や腸で吸収されて血管腔に入いる。水は胃壁や血管壁というフィルターを通して血液中に入るが、それら壁は血液の水分量を正確に調整しているので、血液が水で薄まりすぎるような心配はない。

寝しなに水を飲めば、明け方に多い心臓発作が防げる

・消防庁の統計によると、心臓発作がいちばん多発するのは冬で、次いで夏の順である。冬は寒さによる血圧の上昇、夏は発汗により血液がドロドロになりがちになるというのが原因である。

・発作の時間帯はいずれも明け方である。明け方に発作が集中するのは睡眠中の状態に危険が潜んでいるからである。

睡眠中、心臓は収縮回数と心拍出量を減らし、送り出す血液の量を低下させる。血管も流れている血液が少ないために血管の幅をせばめて休んでいる。一方、血液は夕食により栄養を仕込んでいるがこれを取り込むべき細胞は休息中であり、さらに睡眠中はコップ一杯分の汗をかくため、血液は一日中で最も濃く、ドロドロした状態になっている。

・寝しなに飲む一杯の水は、濃厚な血液を薄め、さらに血液量を増やして睡眠中の血液の流れをスムーズにしてくれる。さらに、就寝前に10分程度の軽い運動を行えば発作の防止に効果的である。これは運動によって血管が広がり血液が流れやすくなり、新陳代謝により血液から栄養素が細胞に取り込まれるため血液が流れやすくなるからである。

十時と三時のお茶は、高血圧の人に欠かせない大切な健康法

・寝しなの水が、明け方の発作を防ぐが、それと同様に起床後の一杯の水も重要である。夜の間に発汗や尿の生成で血漿中の水分は減少するためである。飲水で血液が増えると血管が広がるため血液の流れがスムーズになる。

・体内に入った水は、尿や汗となって体外に出ていくため、早ければ2時間、遅くても3時間で体外に排泄される。7時に飲んだとすると、10時と昼食後の3時に水分の補給を行うことが大切である。

高齢者は老化現象によって、誰もがある程度の動脈硬化が起きている。そこを流れる血液も若い人に比べ、赤血球や白血球などの固形成分の占める割合が高くなっている。さらに尿素や尿酸など栄養素を使ったあとの残りカスの排泄も悪くなるため、どうしても血液が濃くなってしまう。

・飲水はイライラした神経を沈める。また、胃液を薄めるため胃を守る働きも持っている。

起き抜けのラジオ体操を実行すれば、一日じゅう血圧を低く保てる

画像出展:「減塩なしで血圧は下がる」

・「目が覚める」、つまり脳神経細胞が活動を始めると、私たちは体全体が眠りから覚めたような気になる。しかし、各自器官には少しずつ眠りから覚める時間のズレがあり、これが心筋梗塞や脳卒中の引き金になっている。

・心臓発作が最も起こりやすい時間帯は明け方だが、これに次いで多いのが朝、家を出て駅の階段を駆け上がったときやラッシュアワーの混雑の中で心臓発作を起こすことが多い。この原因は、血管と心臓の目覚める時間の違いからきている。起床後、心臓は即座に活発な活動しはじめるが、血管は目覚めが遅いため心臓から押し出されてくる血液量に適応して血管を広げることができない。その結果、血圧が上昇して血管の破裂や心臓の酸欠状態が起こるのである。

・若い頃は血管も弾力に富み、体の順応力も旺盛なので目覚めの違いもそれほど大きなものではないが、40歳を越えると体内の反射神経が鈍くなるため、目覚めのズレが大きくなり発作のリスクが高まる。

・起床後の10分程のラジオ体操は心臓の動きをなめらかにし、かつ血管を目覚めさせ、体全体の発進準備をとなる。

血圧が高めの人は、昼休みに碁や将棋をしてはいけない

・ゆっくり落ち着いて食べれば正常圧を保てる人でも、慌しい食事は簡単に血圧を20ミリから30ミリ上げ、高血圧にしてしまう。

・食後の休みもとらないでジョギングなどの運動を行えば、食べたものの消化吸収のために胃に送る血液が増加することに加え、運動を行うために手足に大量の血液を供給する必要があり、心臓は猛烈な勢いで酷使されることになる。

・囲碁や将棋、あるいはゲームなど勝負にこだわってくると、その気分は高揚し交感神経を刺激して、血圧を上げる物質(ノルアドレナリン)を分泌させる。その結果、収縮期血圧が150ミリの人なら、勝負どころで200ミリ、また拡張期血圧が100ミリなら130ミリまで上昇する。

・血圧がより高い場合、血圧の上がり方はより大きくなり、脳出血や狭心症を起こすリスクは高まる。横になったり、のんびり散歩することは血圧を下げるには良い方法だが、大きなあくびをしたりため息をつくだけでも血圧対策にはなる。

体重を5キロ減らすだけで高血圧が治ることがある

・『自らの体験から話しますと、私は体重を7kg減らしたおかげで、上昇傾向にあった血圧を正常値にまで下げることができました。以後その体重を維持しているため、一度も血圧は上がったことがありません。体重を減らすことは、私に限らず太った人すべてに共通する強力な血圧降下策です。

・40歳を過ぎた人の心臓と血管は中古のエンジンとゴムホースのようなものである。このような車を長く乗り続けるためには、積荷を減らすのが良い方法である。積荷とは自分の体重のことだが、この荷物は重い上に大量のガソリン、すなわち血液が必要になる。一方、脂肪濃度が高くなった血液はドロドロになり血圧を上昇させる。

高血圧の人でも眠っている間の血圧は低いことを知ってほしい

・問題ないとされている「正常血圧」とはどのような血圧値なのか。病院で計測する血圧は判断する血圧としては不適当である。

・脳卒中や心臓発作などの病変とよく比例する血圧は、基礎血圧といわれるものである

基礎血圧は早朝目覚めた直後に蒲団の中で測定される血圧のことである。あるいは、やや空腹時に暗く静かで快適な室温の部屋の中で、約1時間横になった後に測定した血圧はこの基礎血圧に近い値を示す。

・正常血圧の人より高血圧の人の方が睡眠中に血圧が大きく下がる。これは高血圧の人にとって睡眠と休養が血圧を下げる最も効果の高い治療法ということを意味している。

【メモ】慢性腎臓病では、なぜタンパク制限が必要なのか ?

タンパク質が中高年の健康維持にとても重要なのは良く理解できたのですが、例えば、慢性腎臓病の場合はタンパク制限が求められます。その意味では、高血圧の予防に腎臓はとても重要な臓器といえます。

なお、慢性腎臓病においてタンパク制限が必要な理由は以下の通りでした。

これは”東京女子医科大学病院 腎臓内科”さまのホームページに書かれていたものです。

食事蛋白は老廃物の一種である窒素代謝物を作ります。正常の腎機能であれば、それを処理するのに十分な糸球体があります。しかし腎機能が低下していると、残った糸球体1つ1つがその能力を超えて処理をしようとします(糸球体過剰濾過)。この状態糸球体過剰濾過]は長くは続かず、徐々にそれぞれの糸球体の濾過機能も落ちてきてしまうと考えられています。その負担を軽減するために行われるのが食事蛋白の摂取制限です。

塩と高血圧3

著者:青木久三

出版:1984年4月(昭和59年)

発行:主婦の友社

注)出版が36年前の本なので最新の知見とは合わない部分があるかもしれません。

また、目次は”塩と高血圧1”を参照ください。

 

第二章 高血圧は塩が原因ではなかった 突き止められた血圧を上げるメカニズム

 「高血圧=塩」の神話はいかにして作られたか

・『高血圧、即、減益という連想は、今ではもう一般の人たちの頭にこびりついてしまったようです。減塩食をいくら食べても血圧が下がらないにもかかわらず、塩に対するイメージはなかなか変わらないようです。いったい、高血圧の原因が塩であるというこの誤った常識はどのようにして作られたのでしょうか。

すでにふれたように、アメリカの高血圧学者であるメーネリーは、1953年、普通の20~30倍という高食塩食を10匹のネズミに食べさせて、そのうち4匹のネズミを高血圧にすることに成功しました。これが、「高血圧=食塩」説の発端となった実験です。しかし、これだけで常識が作られたわけではありません。その後の研究や実験、あるいは人情などが相まって、この説をどんどんふくらませていったのです。』

・アメリカ人のトビアンやガイトンは、食塩を排泄する腎臓の機能が低下すると、高血圧が起こるという報告をしたが、この実験結果も食塩の体内蓄積が高血圧を起こすという論理につながり、食塩はしだいに悪者に仕立てられていった。

・日本人も「高血圧=塩」という説を裏付ける役割を果たした。アメリカの高名な高血圧学者であったダールは、戦後日本で高血圧患者が多いことに注目し、食塩の摂取量と高血圧の発生率を調べた。対象に選ばれたのは東北地方と南日本で、その結果、食塩摂取量の多い東北地方で、圧倒的に高血圧発生率が高いことがわかった。

・一日14gの塩をとっている南日本の高血圧発生率が20%強であるのに対し、一日27g~28gをとる東北地方では、40%近い発生率で高血圧患者がいたと報告されている。

・ダールは日本での、「食塩摂取量が増加すればそれだけ高血圧の発生率が高くなる」という調査結果を確かめるため、アメリカに戻ってネズミで実験を始め。高食塩食で血圧が上がるネズミどうしを何代にもわたって交配させ、食塩によって血圧が上昇するネズミの家系を作ったのである。同時に高食塩食で血圧が上がらないネズミも同じように交配させ、いくら食塩を食べても血圧が上がらない家系を完成させた。

・『現在からみれば、ここで食塩によって血圧が上昇する人と、全く変化しない人がいることが判明したわけですが、当時の研究者たちの受けとり方は違いました。本態性高血圧症の人はすべて食塩で血圧が上昇する家系だ、と彼らは考えたのです。

一方、医学的に食塩水を人の静脈に注射して、一日に30gの塩を体内に注入すると、収縮期血圧が10~20ミリ上昇することもわかりました。事ここにいたって、「高血圧=食塩」説は、世界の注目を集めるところとなったのです。

この説はまた、一般に受け入れられやすいという点でも、神話としての要素を備えていました。まず普通の人にも理解しやすかったことと、また減塩食が実際的で家庭でも高血圧の治療として実行しやすかったことです。さらに、遺伝によって発病する高血圧を減塩で治せるという点でも魅力的でした。

このように、いろいろな要素が「高血圧=塩」の神話を作り出しては支えてきたのです。

しかし、10年ほど前から、この説を実際の高血圧治療に応用したところ、思ったほどの効果がないどころか、過剰な食塩制限による塩なし病まで生まれ、今日では世界中が食塩説に疑問を抱くようになっています。こうしてようやく、「高血圧=食塩」の神話は過去のものとなったのです。』

一匹のネズミが従来の誤った学説を放逐した

画像出展:「減塩なしで血圧は下がる」

・ 『今から二十数年前の1959年、私はネズミを使って高血圧の研究を行うために、ある特殊な血圧測定器を作っていました。ネズミの血圧は人間の血圧とたいへんよく似ているため、血圧の研究にはネズミがもってこいの動物です。ネズミの血圧を測定する器具は、すでに1938年にイギリスで開発されていましたが、その器具はあまり実用的ではなく、精度を高めようとして私も苦心していたのです。

ところが、その最中に偶然にも、私はあるネズミとの運命的な出会いをしました。大げさに言えば、この出会いがそれまでの高血圧の歴史を変えることになったのです。

・血圧測定器の精度を再確認するため、京都大学動物センターから分けてもらった10匹のネズミを、1匹ずつ計器の中に入れ、血圧を測定していたところ奇妙なことに気がついた。10匹のネズミの中に、140ミリと170ミリをいつも示すネズミがいた。つまり、わずか10匹のネズミの集団の中に、正常血圧のネズミにまじって境界域高血圧のネズミと高血圧のネズミがいたことになる。

高血圧のネズミどうしを交配すれば、遺伝性の高血圧家系ができると直感した。遺伝性の高血圧は、人間でいえば本態性高血圧症にあたる。いちばん血圧が高かったオスとメスを繰り返し交配し、三世代目にはオスもメスも100%高血圧になった。中には収縮期血圧300ミリ以上のネズミや自然に脳出血を起こすものも現れた。こうして、1963年に遺伝性高血圧ネズミ、正式には高血圧自然発症ラット(SHR)が完成した

 【メモ】ネズミと研究者による偉業

思わず、”ネズミの血圧計”に反応してしまいました。また、いくつかの興味深い発見もありました。

画像出展:「株式会社ソフトロン

画像出展:「京都大学大学院 松田研究室

SHR開発記念碑「人類への贈物」 

 『高血圧は現代社会で最も多い病態で、三大死因の一つ、脳卒中や、寝たきり、認知症の主要因である。ヒトと類似の高血圧、脳卒中を自然発症する高血圧自然発症ラット(SHR)、脳卒中易発症ラット(SHRSP)は20世紀後半(1963年、1973年)岡本耕造名誉教授・青木久三博士はじめ、京都大学医学部病理学教室の多くの共同研究者の尽力により開発された。 このモデル動物のおかげで、高血圧・脳卒中など成人血管病の病因、病態解明も進み、多くの降圧剤が世界中で新たに開発され、栄養などで脳卒中の予防が可能であることも実証された。 脳卒中を必発する遺伝子を保有していても、その遺伝子を検出し、遺伝子の発現を制御して疾患の発症を予知し予防する、「病む人なき未来医学」の夢がここに誕生したのである。』

画像出展:「株式会社星野試験動物飼育所

高血圧自然発症ラット(SHR)です。

画像出展:「The National BioResource Project for the Rat in Japan

こちらは、高血圧自然発症ラット(SHR)、ではなく、脳卒中易発症ラット(SHRSP)でした。

食塩を減らしても血圧が下がらない場合が多いことが証明された

画像出展:「減塩なしで血圧は下がる」

・『「高血圧=塩」という説が治療に応用されたとき、第一に疑問になった点は、一日10gの減塩食ではほとんどの高血圧の人の血圧が下がらないという事実でした。そこで、食塩説を立証するために、一日1~2gという厳しい減塩食が実施されました。しかし、これでわかったことは、血圧が下がるどころか、過度の減塩食がかえって塩なし病を起こすことだったのです。

高血圧症の患者さんに、一日5gという減塩食を実施してもそれで血圧が下がったのは、10人に1人あるかないかでした。実は、減塩食では遺伝性高血圧が治らないことは、すでに1971年に私の実験で明らかにされていたのです。

遺伝性高血圧ネズミは、人間の本態性高血圧症に相当しますから、それを使った実験で減塩食の効果を判断することができます。』

遺伝性高血圧ネズミを四つのグループに分ける。

①普通の食塩摂取量の10倍の高食塩食

②通常の食塩を含む標準食

③通常の三分の一の低食塩食

④10倍の高食塩食と飲料水として1%の食塩水

それぞれ30週間与えて経過をみた。低食塩食、標準食、高食塩食では、ほとんど血圧に変化はなく、むしろ、標準食グループのほうが低食塩食グループよりも血圧が低かった。唯一、高食塩食に1%の食塩水を飲料水として与えたグループだけが、収縮期血圧が180ミリから220ミリ程度に上昇し死に至った。実際には、このグループのネズミは40~50倍の食塩水を無理やり食べさせられていたことになる。これだけ大量の食塩を30週間毎日食べていれば、体液のバランスがひどく崩れ、ネズミは高ナトリウム血症(血液中のナトリウム値が異常に高くなった状態)と腎不全を起こす。従って、このネズミの死因は高血圧ではなく、食塩の異常摂取による全身状態の悪化が原因である。

この実験によって、遺伝性高血圧ネズミの血圧は、食塩の摂取量に関係がないこと、さらにかなりの高食塩食でも水を十分に飲み、尿を排泄できれば、血圧は上昇しないことがはっきりした。

血圧はこのような仕組みで調節されている

画像出展:「減塩なしで血圧は下がる」

この絵を拝見し、筋肉による細動脈の収縮は血流にこれ程までに大きな影響を及ぼしているということを知りました。

・血管はいつも拡張と収縮を繰り返しているが、最大拡張時の血管は最大収縮時の5倍に広がる。

・血管の収縮と拡張は、動脈の壁にある筋肉(血管平滑筋)の伸び縮みによって営まれている。

・血管平滑筋が収縮時の1.7倍の長さに伸びるだけで、内腔は5倍に広がる。これは血管平滑筋が40%縮むと内腔が5分の1にまで減少するというでもある。つまり、血管はほんの少し筋肉の収縮率を変えるだけで簡単に動脈の太さを変え、血圧を調節することができるということである。

・青木先生が行った流体力学による計算では、血管平滑筋の伸びが1%少ないと100ミリの血圧は113ミリに、それが3%だと152ミリに上昇する。このように筋肉の収縮は血圧に対して大きな影響を与えるのである。したがって、血管平滑筋に1~3%余分に収縮する性質があるとすると、簡単に高血圧になってしまう。

・動脈は大動脈に始まり、中動脈、小動脈、細動脈と枝分かれして徐々に細くなっている。このうち大動脈には筋肉は少なく、自ら太さを調節することはできない。これに対して、自ら拡張と収縮を行い、血管の太さを決めているのは直径100μmほどの細動脈である。この細動脈には大動脈の1000倍もの筋肉があり、その収縮によって血圧は決定されている。したがって、本態性高血圧症の原因は細動脈に潜んでいるのである。

血管の太さを調整し、血圧を調節する物質がわかった

細動脈の筋肉が収縮しやすい性質を持っていると、収縮期には必要以上に血管が細くなる。また、拡張期には十分血管が広がらないために、いつも血圧が高くなるのである。

・本態性高血圧症の原因と考えられる細動脈の内腔の大きさは数種類の命令系統によって調節されている。

・血管自身にはゴムのように、一度伸びれば自動的にもとに戻ろうとする性質がある。

・胃が食べ物によって膨らむと、その圧力を感じて消化運動を始めるように、血管の壁にも血液中の圧力を感じとって、血管の太さを調節する機能が備わっている。さらに、血管の壁は血液中の化学物質をキャッチして、血管の太さを変える働きももっている。このように動脈壁の筋肉自身、神経、血液中の化学物質などによって、血管の太さは四重にも五重にも見張られていおり、それによって血管の太さが厳重に調節され、血圧が正常に保たれる仕組みになっている。それにも関らず、血管が細くなりすぎて血圧が上昇したのが高血圧である。

細動脈に関しては、前週のブログ”塩と高血圧2”の最後に追記した”【メモ】血管の筋肉にある自動血圧調整機能?”を参照ください。

生まれつき高血圧になりやすい人は血管の細胞膜に異常がある

画像出展:「減塩なしで血圧は下がる」

・細胞内への物質の取り込みは、細胞を包む細胞膜によって調節されている。このことから、遺伝性高血圧ネズミはこの細胞膜になんらかの障害があり、そのために細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇して血管筋肉が常に収縮気味と考えられる。これを人間にあてはめると、本態性高血圧症の人は、血管筋肉内細胞の細胞膜に生まれつき障害があり、そのために血圧になると考えることができる。 

高血圧の人は、もともと血管の筋肉が収縮しやすい

・今までの内容を整理すると、血圧を決めているのは細動脈の内腔の太さで、この太さは血管の壁にある筋肉によって調節されている。そしてこの筋肉の収縮と伸展はカルシウムイオンの濃度で決定され、また、この濃度を調節しているのは細胞膜であるということである。

塩と高血圧2

著者:青木久三

出版:1984年4月(昭和59年)

発行:主婦の友社

注)出版が36年前の本なので最新の知見とは合わない部分があるかもしれません。

また、目次は”塩と高血圧1”を参照ください。

 

第一章 塩をとっても血圧は上がらない 血圧対策の常識が変わった

塩は高血圧とほとんど無関係であることが判明した 

画像出展:「減塩なしで血圧は下がる」 

・減塩食には100mmHgの血圧を1~2mmHg下げる程度の力しかない。

無理な減塩食は心身に深刻な害を与えている。

・塩は1953年頃から高血圧の原因として考えられるようになった。

・青木先生は1959年に普通食で高血圧を発病するネズミを発見し、これらの高血圧ネズミを交配させ、普通のエサで遺伝的に高血圧になるネズミの家系(高血圧自然発症ラット:SHR)を完成させた。

人間の場合、遺伝によって受け継がれる高血圧を、本態性高血圧症と呼んでいる。これらは高血圧自然発症ラットと同様に、摂取する食塩の量を減らしても血圧を下げることはできない

10人に1人程度の割合で、二次性高血圧の人がいる。こちらも遺伝とは切り離せないが、原因は腎臓の障害やホルモンの分泌異常、肥満しやすい体質によるものである。

食塩が原因の高血圧は、塩を排泄する腎機能が弱という性質が遺伝することによる二次性高血圧の1つである。この場合には原因である塩の摂取を制限すれば、血圧を下げることができる

問題はほとんどの医師が、食塩を本態性高血圧症の原因と考えているということである。

減塩のしすぎはかえって体に異常をきたす

・「減塩すれば血圧は下がる」という考え方は、日本だけでなく世界中に広まっている。

・減塩しょうゆや減塩みそなどの減塩食信仰が新しい病気、塩なし病を生み出していることはあまり知られていない。

・世界的に著名な学者であるイギリスのピッカリング博士は、「減塩をしすぎて死亡した人の数と食塩の摂りすぎによって死亡した人の数は、どちらが多いかわからない」と述べ、減塩食信仰の行きすぎを嘆いている。

・塩はナトリウムと塩素という二種類の元素でできた化学物質である。いずれも体を構成する重要な成分であり、生命活動を営む大切な物質として働いている。

ビタミンの欠乏は特定の「病気」を起こすだけだが、塩の欠乏は「生命」を奪うことになる。塩の摂取量を減らしすぎると体の細胞に障害が起きる。

・二年も三年も厳しい減塩食を続けていると、全身の倦怠感、無力感、食欲不振、いつもイライラして落ち着かない、やる気が起こらない、根気が続かない、ボケ、壮年性・老年性認知症などの病状が現われてくる。

細胞が細胞の形を維持しているのは、ナトリウムイオン、すなわち塩のおかげである。もし、細胞内の塩が二分の一になると、細胞内のイオン濃度が低下するため、細胞内の水はほとんど全部外に流れ出し、細胞はつぶれてしまう。

浸透圧が生体で適切に保たれているのは、塩がうまく働いているからである。その働きを維持するためには、食塩を1日8~10gとる必要がある。

・極度の減塩が血圧を上げる場合もある。これは外から塩が入ってこないために、塩不足によって腎臓が障害され、血圧を上げる物質が腎臓などで作り出されるためである。

塩を減らさなければいけない人は意外に少ない

画像出展:「減塩なしで血圧は下がる」 

・『私の診療経験からいって、減塩食で高血圧が治る人、つまり塩が原因の高血圧である食塩過食性高血圧は、100人のうちせいぜい二人か三人にすぎません。

確かに食塩には、1日30gか40gずつくらい非常に大量にとりつづければ、収縮期血圧(最大血圧)を10~20ミリほど上げる作用があります。ですから、微弱ながら塩には血圧を上げる働きはあるのですが、普通は血圧を正常に維持しようとする生体の力が働き、塩が昇圧作用を発揮しないうちに、尿や汗となって体外に排泄されます。ところが、食塩に敏感な体質の人では、食塩を少しとりすぎても、昇圧作用が強く現れ、血圧が上がってしまうのです。この塩による血圧上昇のメカニズムは次のように考えられています。

食べ物から摂取された塩は、ナトリウム(ナトリウムイオン)となって血液中に入り込み、全身に供給されますが、このとき、血管壁の筋肉細胞の中にも一部のナトリウムが入り込みます。筋肉も細胞の集まりですから、細胞の周囲には細胞外液が満たされていて、大量の食塩をとると、この細胞外液にナトリウムがどんどん増加します。』

・細胞外液と細胞中の細胞内液を一定の濃度に保つために、細胞の膜にはナトリウム-カリウムポンプという特別なナトリウムのくみ出し装置がついている。

・ナトリウム-カリウムポンプの働きで細胞内のナトリウムを外にくみ出し、細胞の内と外を一定のナトリウムイオン濃度に保っているが、細胞外液にナトリウムが増えすぎると、ポンプが働かなくなってナトリウムが細胞の中に増えてしまう。そのため、増えたナトリウムを細胞外へ運び出すために、カルシウムイオンの力を借りることになる。

・細胞外のカルシウム(カルシウムイオン)を細胞内へ運び込むときに生じる力によって、ナトリウム-カリウムポンプは細胞内のナトリウムを細胞外へくみ出す。その結果、今度はカルシウム(カルシウムイオン)が細胞内に増加する。実はこのカルシウムこそが、血圧を上げる真犯人である。カルシウムは血管の筋肉を収縮させ、血管を細く、狭くする。そして、狭くなった血管を血液が通過するために、より強い圧力が必要になり、その結果、血圧が高くなるという仕組みである。

減塩が必要な体質かどうかを知るチェックポイント

・本態性高血圧症は、普通自覚症状があまりなく、気がつかないうちにじわじわと血圧が上がり、60歳くらいを境に老化によって血圧が低下するまで続く。つまり40年から50年にわたる長期の病気である。

本態性高血圧症は遺伝的な素質に基づいて発病する病気であり、かなり若いときから体内では高血圧の準備が始まっている。一般的には十代、二十代に発症前期といって高血圧の準備段階に入り、三十代になるとその徴候が現われはじめる。その頃になると、収縮血圧が140~150ミリ、拡張期血圧が90ミリ程度に上昇する。さらに、四十代から五十代にかけて、高血圧が進み完全な高血圧症になる。

・自覚症状によって本態性高血圧を判断することは困難で、手がかりは本態性高血圧症が遺伝による病気で、減塩食では血圧は低下しないことである。一方、食塩過食性高血圧では、摂取する食塩の量で血圧は上下する。

治療が必要な高血圧の人は案外多くない

・血圧が少し高い程度ですべて人が、降圧剤を飲まなければならないということではない。高血圧の薬は長く服用するため、薬の種類、量、服用法を慎重に考える必要がある。

高血圧の人に薬物療法が必要かどうかを決定する目安となるのは、当然血圧値であるが、特に拡張期血圧(最小血圧)が治療の指針となる。この理由は、高血圧による害である動脈硬化や心肥大、さらに脳出血のような病気は主に拡張期血圧の上昇によって引き起こされるからである。

・1983年の国際高血圧学会会議とWHO(世界保健機構)との合同会議でも、治療を必要とする高血圧は拡張期血圧が95ミリ以上であり、収縮期血圧は参考にとどめるべきであることが正式に明らかにされた。

画像出展:「日本高血圧学会」 

こちらは2019年7月に更新された“血圧の分類”です。1983年に高血圧とされた拡張期血圧95mmHgという数値は、2019年7月の診察室血圧のⅠ度高血圧(90~99)のほぼ中間値になっていますので、ほぼ同等ということになります。

 

血圧は通常、1日の間に収縮期血圧で40ミリ、拡張期血圧で30ミリ程上下するため、1回に3分以上かけて3回以上血圧を測定し、そのうち1番低いもの、あるいは3分以上安静にした後、安定した時点の血圧を3回以上測定し、その平均値をとらなければならない。この方法で測定し、拡張期血圧が106ミリ以上であるときは迷わずに治療が開始される。90ミリ~105ミリの人は、1ヵ月以内にもう二回、血圧の測定を受ける。そして二回、二日間とも最も低い測定値が100ミリ以上であったときに初めて治療が開始となる。拡張期血圧が99ミリ以下の人は、少なくとも急いで治療を開始する必要はないが、管理を怠ることは非常に危険である。拡張期血圧が90~99ミリの人は、生活療法(軽い減塩食、標準体重にするための減量、適度の運動など)を続け、拡張期血圧が95ミリ以上3ヵ月続いていたら、降圧治療を始める。この3ヵ月間を通じて常に拡張期血圧が90~95ミリであった人は、もう3ヵ月間状態を観察し、この間に拡張期血圧が95ミリ以上に上昇し、しかもそれが続くようであれば、薬を使用することも考えなければならない。いずれにしても、90~99ミリの人は定期的に血圧を測定することが大切である。

中年からジョギングを始めるとかえって危険なことが多い

画像出展:「減塩なしで血圧は下がる」 

これを見ると、激しい運動の血流の変化には3つのタイプがあるのが分かります。

1.変化しないものー脳

2.増えるものー筋肉、皮膚、心臓

3.減るものー内臓、腎臓

・激しい運動を行うと筋肉への1分間の血流量は平常時の1200mlが約10倍になる。また、心臓の血流量も普段の250mlが3倍になる。これだけの血圧を全身に送り込むには血圧は顕著に上昇する。例えば、5分間走ると正常血圧の人でも収縮期血圧(最大血圧)が120ミリから160ミリに、拡張期血圧(最小血圧)が70ミリから100ミリまで上昇するが、高血圧の人は血圧の変動幅も大きいため、運動による血圧の上昇はもっと大きくなる。収縮期血圧160ミリ、拡張期血圧100ミリの高血圧の人は、5分間の運動でそれぞれ、220ミリと140ミリに上昇する。

60歳を過ぎてからの高血圧は心配しなくてよい 

画像出展:「減塩なしで血圧は下がる」

左が”収縮期血圧(最大血圧)、右が拡張期血圧(最小血圧)です。

拡張期血圧最小血圧)は収縮血圧(最大血圧)に比べ血圧上昇による死亡指数への影響が大きいこと。また、50才以上(青木先生の見解は60歳を過ぎるとさらに差がつくとのことです)の死亡率は低くなることが分かります。 

・高齢者の血管は弾性が低下する。一方、血管壁の弱体化を補うために結合織が増え、血管壁は厚くなる。また、供給される血液の量が少なくなるため、血管の収縮・拡張を行っている筋肉も衰えてくる。このように動脈硬化に陥った血管では、心臓の収縮期に血液が送り込まれてきても、血管がうまく内腔を広げることができず、血圧が上がってしまうのである。したがって、高齢者に起こる高血圧は収縮期高血圧であり、一種の老化現象として起こるものであり、学者によって高血圧の範囲に入れないこともある。

・収縮期血圧が160ミリ以上になると、30歳から50歳の人では、死亡率が正常圧の人の3倍になるが、60歳以上になると死亡率は1.1倍程度まで下がる。この統計からも60歳以上の収縮期血圧は老化現象であり、あまり心配はないといえる。しかし収縮期血圧が180ミリを超えると治療対象になる。これは180ミリを超えると血管の筋肉にある自動血圧調節機能が活動を停止するためである。さらに老化は血圧をコントロールする分泌などに狂いが生じ、容易に、しかも大幅に血圧は変化するため注意を要する。

メモ血管の筋肉にある自動血圧調整機能?

ここで私は「”血管の筋肉にある自動血圧調整機能”とは何だろう?」と思い、調べてみることにしました。その結果、これかなというものが2つありました。

左のイラストは東邦大学さまの”心筋ー心臓は電気とカルシウムイオンで動いている”から拝借したものです。

ここでは、血管の筋肉(血管平滑筋)を考える上では「細動脈」が重要であり、また、血圧の調整機能という視点で考えた場合、自律神経(交感神経)の働きを理解する必要があると考えたため、引用させて頂きました。細動脈 arteriole は各臓器に血液を供給するやや細い動脈です。平滑筋層が発達しており、それが適度に収縮することで緊張を保ち、血管の断面積つまり血流に対する抵抗の大きさが調節されています。したがって細動脈平滑筋層の緊張度を変化させる物質は、臓器間での血流の分配を変化させると共に、血圧に影響を与えることになります。血圧を規定する主要な因子は単位時間に心臓から送り出される血液の量(心拍出量 cardiac output )と細動脈全体としての抵抗(末梢血管抵抗 peripheral vascular resistance )です。心拍出量と末梢血管抵抗の積が血圧になります。細動脈は交感神経により調節されていて、交感神経が興奮すると伝達物質のノルアドレナリンが血管平滑筋に作用して収縮を起こし、血管抵抗が増大します。ノルアドレナリンは心拍出量も増大させるため、この両方の効果により血圧が上昇します。この他多くの生体内物質や薬物が細動脈平滑筋に作用して血流、血圧に影響を与えます。

細動脈の最も内側の血液に接している面は、一層の内皮細胞 endothelial cell で覆われています。内皮細胞は様々な生理活性物質を分泌して血管壁を保護しています。内皮細胞には収縮機能はありませんが、血管平滑筋に作用して収縮や弛緩を起こさせる様々な物質を分泌し、局所血流や血圧の制御に関与しています。

もう一つは、PDFの資料(7ページ)で、タイトルは”血圧,心拍数,心機能および血液量の調節”です。クリック頂くとダウンロードされます。

細小動脈平滑筋の緊張を調節するメカニズムはいろいろある。平滑筋自体の収縮が内在リズムで行われるだけでなく、血圧上昇時に動脈平滑筋が伸展される圧力弛緩という現象と、逆に血圧上昇による動脈の伸展に反応して、平滑筋が収縮する作用であるが、後者は血圧が上昇しても血流量がほとんど変わりないための自己調節といわれるものである。このような局所性調節のもうひとつは、組織におけるヒスタミンやブラディキニンなど血管拡張性物質の産生である。動脈収縮による組織血流減少によって、その局所で血管拡張性物質を作り、それが動脈収縮を打ち消す作用をするといわれている。

塩と高血圧1

昨年夏、母親が定期的に行っている血液検査で、軽い“低ナトリウム血症”と診断されました。この頃、母親は時々頭痛を訴えていました。更に、たまにですが「気持ちが悪い(嘔気)」と発するときもありました。

水分には気を遣っていましたが、塩についてはノーマークでした。また、塩というと血圧と腎臓病との関係から、“減塩”を意識し、実際、減塩醤油や減塩味噌を使っていました。塩といえば、「減らすべきもの」という先入観を持っていました。

塩は腎臓病患者さまにとって要注意とされていますが、特に中高年の腎臓病の患者さまの場合、高血圧の薬を服用されている方が多く、以前から“高血圧”については詳しく知る必要があると感じていました。

このような経緯から、今回は“塩と高血圧”をテーマとしたのですが、最初に拝読したのが『塩を変えれば体は良くなる!?』という、まさに塩について詳しく説明されている本でした。そして、この本の中で青木久三先生を知り、青木先生の著書の中から、一般の人向けに書かれた『減塩なしで血圧は下がる』という本で勉強させて頂くことにしました。

高血圧に詳しくない私にとっては非常に勉強になったですが、ご注意頂きたいのはこの本の出版が昭和59年(1984年)4月と36年前に書かれた本であるという点です。最新の知見とは合わない部分もあるかもしれません。少なくとも、日本高血圧学会が発表している”高血圧治療ガイドライン”とは差があります。 

 

 

画像出展:「日本心臓財団

下記の図は、“降圧剤を使用するときの年齢別降圧目標”になります。

青木先生は、前提として「高血圧の人は正常血圧まで下げることを目標としない」というお考えですが、その理由は次の三つです。

1.無理な降圧は体への負担が大きく、血圧低下に伴う血液不足によるリスクが大きくなる。

2.高血圧の人は、もともと高めの血圧の方が体に適している。

3.降圧剤が増えれば、それだけ副作用のリスクが高まる。

画像出展:「減塩なしで血圧は下がる」

著者:青木久三

出版:1984年4月(昭和59年)

発行:主婦の友社

 

減塩を否定する本のため、目次の中には「どうなんだろう?」と疑問に思う項目も多く、そのため、青木久三先生のプロフィールを目次の前にご紹介することにしました。

また、私にとっては新鮮なお話ばかりで、ブログがかなり長いものになってしまったため、5つに分割することにしました。

ブログは要点と感じた部分をまとめる形式が大部分ですが、正確にお伝えしたいと思った個所は、そのまま引用させて頂きました(『』括られています)。また、目次の中の灰色の項目に関しては触れていません。

著者ご紹介

昭和8年名古屋市に生まれる。昭和33年名古屋市立大学医学部を卒業後、京都大学大学院をへて、名古屋市立大学医学部第二内科入局。昭和39年から約3年間、アメリカ・クリーブランドクリニックの研究所で、高血圧の世界的権威ページ博士より指導を受ける。次いで、昭和43年から1年間、米国文部厚生省(NIH)の主任研究員を委嘱され、現在、名古屋市立大学医学部助教授[1984年時点]

昭和57年には、高血圧学会のノーベル賞といわれる高血圧学会賞を米国心臓学会より受賞。現在[1984年時点]、日本高血圧学会評議員、米国心臓学会高血圧誌編集委員。国際高血圧学会所属。

専門は、内科学、循環器病学、高血圧病学。

主な著書に「高血圧の臨床―本態性高血圧症と二次性高血圧―」「本態性高血圧症とその治療」、「Ca拮抗剤の基礎と臨床」(共著)、「Ca拮抗剤の最近の知見」(共著)、「臨床心臓病学」(共著)がある。この他、ネイチャー、サイエンスをはじめとする外国の学術誌に英語の論文も多数発表。

米国心臓学会 高血圧学会賞:失礼だと思いましたが、ちょっと調べてみました。下記のページをスクロールして頂くと、”1982”のところに、3人の先生の氏名が出ています。青木先生は、Kyuzo Aoki, MDです。

 ”CIBA Award for Hypertension Research 1996

目次

第一章 塩をとっても血圧は上がらない 血圧対策の常識が変わった

塩は高血圧とほとんど無関係であることが判明した

減塩のしすぎはかえって体に異常をきたす

塩を減らさなければいけない人は意外に少ない

こんな人は塩を気にする必要はない

減塩が必要な体質かどうかを知るチェックポイント

治療が必要な高血圧の人は案外多くない

食事からとるコレステロールを気にするのは無意味で大きな誤り

貝やイカはコレステロールを上げるどころか逆に下げることがわかった 

人気のリノール酸は逆に血管を傷め、動脈硬化によくない

動脈硬化によいと評判のビタミンEにひそむ重大な死角

中年からジョギングを始めるとかえって危険なことが多い

60歳を過ぎてからの高血圧は心配しなくてよい

塩よりも肥満のほうが血圧を上げていることを忘れてはいないか

第二章 高血圧は塩が原因ではなかった 突き止められた血圧を上げるメカニズム

高血圧の専門医もまちがう高血圧の本当の意味

これだけはまず知っておいてほしい高血圧の基礎知識

高血圧があなどりがたい重大な成人病であると言われる理由

「高血圧=塩」の神話はいかにして作られたか

一匹のネズミが従来の誤った学説を放逐した

食塩を減らしても血圧が下がらない場合が多いことが証明された

高血圧の遺伝は「メンデルの法則」を抜きに考えられない

血圧はこのような仕組みで調節されている

血管の太さを調整し、血圧を調節する物質がわかった

生まれつき高血圧になりやすい人は血管の細胞膜に異常がある

突き止められた血圧を調節する細胞膜の仕組み

高血圧の人は、もともと血管の筋肉が収縮しやすい

第三章 血圧はこの方法で下げなさい あなたのやり方では高血圧は治らない

高血圧と心臓病の危機を脱した私の体験から話そう

動物性タンパク質を十分とると狭心症や脳卒中も防げる

みんなが敵視する肉は、実は血圧が高い人にも必要な栄養食

血圧の高い人にはまるごと食べられる卵や小魚が最高の治療食

水を十分に飲むと脳卒中にも心筋梗塞にもなりにくい

寝しなに水を飲めば、明け方に多い心臓発作が防げる

十時と三時のお茶は、高血圧の人に欠かせない大切な健康法

起き抜けのラジオ体操を実行すれば、一日じゅう血圧を低く保てる

朝晩散歩する習慣をつけるかどうかで高血圧の合併症予防にこれだけ差がつく

血圧が高めの人は、昼休みに碁や将棋をしてはいけない

体重を5キロ減らすだけで高血圧が治ることがある

血圧の重い人が重い荷物を持つのは非常に危険

階段の駆け上がりは、高血圧の人には絶対にすすめられない

血圧はちょっとしたことで大いに変動する

高血圧の人でも眠っている間の血圧は低いことを知ってほしい

私がすすめる高血圧の人のための特効献立

第四章 効き目に差をつける降圧剤の使い方 安易な服用はかえって危ない

降圧剤に関する無知と誤解があまりにも多すぎる

「降圧剤は一生服用しなければならない」というのは迷信にすぎない

降圧剤はこんな人に使ってはいけない

降圧剤で正常血圧まで下げてしまうのは、大きな誤り

これだけは知っておきたい降圧剤の種類と副作用

降圧剤は一種類から始めるのが理想的

副作用がなく、血圧を即座に下げる薬が開発された

なぜこの薬は、こんなにすばらしい効果を発揮するのか

従来の降圧剤より、ここがこれだけすぐれている

降圧剤の副作用は、カルシウム拮抗剤をいっしょに使えば防止できる

カルシウム拮抗剤の効きめを最も高める使い方

緊急事態を招いた重症高血圧でも、この薬を使えば簡単に危機を脱出できる

降圧剤は、高血圧の程度でこのように使い分けよ  

第五章 高血圧の不安を一掃する早わかり相談 この知識であなたの血圧対策は万全なものとな

実のところ塩はどの程度とればよいのでしょう?

高血圧の人にとって最も大切な食事の注意を教えてください

高血圧の人が、ぜひ避けなければならない食品は何ですか?

血圧が高い人がやってはいけない健康法はありますか

万能降圧剤のように思えるカルシウム拮抗剤に欠点はないのですか?

カルシウム拮抗剤は日本でも広く使われているのでしょうか?

降圧剤を山ほどもらってきます。やはり全部飲むべきでしょうか?

飲み忘れた降圧剤を、次回にいっしょに飲んでもかまいませんか?

塩を減らさなければいけない高血圧のタイプを教えてください

高血圧家系の人は、何歳ごろから、どのような点に注意すればよいでしょう?

酒とタバコは、やはり百害あって一利なしなのでしょうか?

健康にいいと言われるカルシウム剤も高血圧の原因になりますか?

脳とストレス8(まとめ)

著者:ブルース・マキューアン、エリザベス・ノートン・ラズリー

監修:星恵子

訳:桜内篤子

出版:早川書房

発行:2004年9月

目次については“脳とストレス1”を参照ください。

 

最後に、まとめとして7つのブログを見直すことにしました。とは言っても、内容は個人的に特に重要と感じた個所を、多少言い回しを変えて、あらためて列挙したものであり、特に新鮮味はありません。

●ストレスは厳しい状況のもとで人間の体を守ってくれるが、慢性的に作動すると有害になり、病気を悪化させる。

●ストレス反応のしくみ

1.脳にある視床下部が腎臓の上にある副腎体に警鐘を鳴らす。

2.ストレスホルモンの第一陣、アドレナリンを分泌し緊急反応で対応する。

3.脳はエンドルフィンという鎮痛作用をもつ物質を出し、危機においても機能できるようにする。

4.脳は防衛機構の第二陣、視床下部‐下垂体‐副腎軸(略してHPA軸)という先鋭部隊を動員する。

・視床下部は副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)という物質を放出し、CRFは下垂体から副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を分泌、ACTHが副腎を刺激すると、第二の主要ストレスホルモンであるコルチゾールが血液に放出される。

画像出典:「ストレスに負けない脳」

5.コルチゾールは適量であれば、アドレナリン放出によって使い果たされたエネルギーを補充し、私たちを活動的にさせる。免疫に関しても短期的には、コルチゾールは怪我や感染から体を守る白血球を、侵略された場所に送り込む。また、コルチゾールのチェック・アンド・バランス(抑制と均衡)の機能が、免疫反応が活発になりすぎることによっておこる湿疹やアレルギー、および免疫が健康な細胞を攻撃する自己免疫疾患を防ぐ。そして免疫活動がもう十分だと知らせるのもコルチゾールの働きである。しかし、コルチゾールが長期にわたり適量を超えた量が分泌されると様々な弊害を生む。そして、これが慢性ストレスの問題につながる。

・ブドウ糖を取り込むインスリンの働きが抑えられてしまう

・脂肪が増え、とりわけ、健康に悪いとされる腹部にたまる。

・筋肉のタンパク質を減らして脂肪に変える働きを促し、その結果、骨のミネラルが減る。

・コルチゾールが多すぎると免疫機能を抑えるため、感染症にかかりやすくなる。

・ストレスホルモン(アドレナリン、コルチゾール)は血圧を上げる。

●アロスタティック負荷(ストレス反応が私たちの体に逆襲するような状態)は、体がアドレナリンやコルチゾールに長い間さらされることから起こるが、これは、ストレス自体が長く続くか、ストレスがなくなっても体が順応できないか、ストレス反応を解除するプロセスが機能しないかのいずれかの理由が考えられる。

●うつ病ではコルチゾールが慢性的に上昇していることが多い。

●コルチゾール過剰分泌説によれば、海馬にコルチゾールがあふれると海馬が疲労し消耗して、HPA軸が正常に機能しなくなり、認知機能も損なわれる。

●海馬はストレス反応の停止に関係している。要するに、海馬が損傷を受けると、ストレスがなくなったと認知する能力が衰え、ストレス反応を止められなくなり、その結果ストレスがさらに高まるという結果をもたらす。

●ストレス反応が不十分で、ストレスホルモン、とりわけコルチゾールの分泌が不足しても、体は疲労し消耗する(下部表参照)。 

画像出典:「ストレスに負けない脳」

●コルチゾールが不足していると、危害を与えないようなものに対しても体が過剰に反応してしまうことがある。アレルギーはこの過程から起こる現象のひとつである。

●高脂肪の食事は動脈硬化を加速し、コルチゾールの分泌を増やす。そしてコルチゾールが増加すると、体脂肪が蓄積しやすくなり、心血管病変や脳卒中、糖尿病の危険因子となる。

ストレスに見舞われたとき、散歩やスポーツクラブでの運動で発散すれば、ストレスにうち勝つ確率を高めることができる。運動は体脂肪の蓄積を防ぎ、心血管病変を未然に防ぎ、慢性的な痛みやうつ状態を軽減する。また、人と積極的につきあったり、他人の助けを借りることによっても自分を守ることができる。

●自律神経は原始的な脳である脳幹と、体のほかの部分を神経回路によってつないでいる。神経回路は目、唾液腺、喉頭、心臓、肺、胃、腸、腎臓、生殖器など、いろいろな器官にはりめぐらされている。

●自律神経は関連しあう三つの働きから成っている。まず、交感神経がいわば電源を入れる。外界からの刺激を受ける諸器官から脳につながる自律神経求心路のネットワークが、体中からメッセージを聞き取るマイクロホンのような役目をはたす。そして最後に副交感神経が、もとの状態に戻す働きをする。

●交感神経と副交感神経が交互に働くことにより、心臓は驚くほど臨機応変に対応する。心臓を落ち着かせるのは副交感神経、とりわけ迷走神経の働きであり、「迷走神経のブレーキ」とスティーブン・ポージスが呼んでいる制御のメカニズムがうまく作動しなくなると問題が生じる。

●睡眠不足は交感神経を興奮させ、迷走神経のブレーキをききにくくするため、血圧の上昇などストレスによる弊害を受けやすく、それが心筋梗塞の引き金となったりする。また睡眠をとれなかった翌日の晩、コルチゾールが高くなる傾向がある。これが進むと腹部の脂肪沈着や心疾患につながっていく。 

画像出典:「ストレスに負けない脳」

●急性ストレスの場合、免疫細胞が血液から出て、皮膚やリンパ節などの“監視”場所につくのをコルチゾールが促進する。感染の徴候がみつからなければ、免疫細胞は血流中に戻る。そして、ストレスが無くなったり、うまく処理されると、コルチゾールは危険が去ったことを免疫細胞に知らせる。そして最後にコルチゾールは、ストレスによってコルチゾールが過剰になった場合、視床下部に直接働きかけ、いわゆる負のフィードバックによって自らコルチゾールの生成を止めるのである。

●危険な出来事に関する記憶は瞬時に形成され、瞬時に思い出せる。それらは扁桃体というところで、記憶の砦の番人である海馬と密接に協力して形成される。こうした出来事が強烈な記憶として残るように、海馬には記憶形成を助けるストレスホルモン、コルチゾールのレセプターがたくさんある。しかしこのために、海馬はコルチゾールが過剰に分泌されたり慢性的に高いと損傷を受けやすく、その結果、記憶をはじめとする認識、つまり“思考のプロセス”が悪影響を受ける。

これといったストレスがなくても、不健康な生活を送っていれば視床下部-下垂体-副腎軸(HPA軸)がうまく機能しなくなり、コルチゾール値が上昇する。そして危機が訪れたとき、どのような対処方法を選択するかによっては、慢性ストレスと同じくらい体に悪い影響を生物学的に与えうる。

実はアロスタシスがなるべく保護的に働くように効果的で簡単な方法がある。それは、運動、ヘルシーな食事、快眠、少量から適度のアルコール、禁酒などだ。どれも昔から体にいいと言われていたようなことばかりだ。最新の科学が、昔からの知恵の正しさを裏づけているのである。

●2002年のはじめ、米国国立衛生研究所(NIH)は糖尿病予防プログラムの結果を発表した。プログラムの一環として行った積極的な生活習慣の改善によって、3000人を越える被験者の糖尿病になるリスクが激減した。生活習慣の改善とは、要するに低脂肪の食事をとり、週150分の運動(30分ずつを5回)を行っただけである。大半の人が選んだ運動はウォーキングであった。

ただ歩くだけの運動が、心疾患を防ぐもっとも有効な方法のひとつであることを、多くの研究が裏づけている。22500人以上の高齢男性を対象に行った調査では、歩く距離に比例して心疾患の発症率が下がった。さらに72000人を越える中年女性を調べた大がかりな調査では、たとえ中年から始めたとしても、ウォーキングが心疾患になるリスクを著しく低下させることがわかった。どちらも長期間にわたる調査であったことが重要である。

●脅威やプレッシャーをしばらく感じていると、人間の体はエネルギーの不足だと思いこむ。そして、ストレス反応が自動的に作動する。つまり糖質コルチコイドが上昇し、ストレスによる症状が現われる前に、エネルギーをグリコーゲンや脂肪として長期貯蔵せよという信号を肝臓に送る。さらに糖質コルチコイドはエネルギーが切れないよう、脳に働いて食欲をもたらす。ストレスが私たちに空腹感を感じさせるのは、生物学の皮肉のひとつである。臀部、大腿部の肥満はさほど健康に悪くないが、腹部型肥満は糖尿病および心疾患の危険因子なので要注意である。腹部の肥満がよくない理由は、腹部の脂肪がすぐ脂肪酸になり、それがコルチゾールの放出を促し、体のインスリン抵抗性の原因となることだ。

●高脂肪食品はコルチゾールの生成を促し、それが体脂肪、とくに腹部における蓄積を促進する。これが動脈硬化やインスリン抵抗性につながり(このふたつは相互に危険因子である)心臓病や糖尿病になる危険性が高まる。

真の意味でのアロスタシスは、病気による攻撃をくい止める以上の働きをする。つまり、アロスタシスがうまく機能するよう、生活を変えること―運動や健全な食生活を心がけ、家族や友だちとの交流を大事にする―によって、病気になるのを防ぐことができる。それは積極的に体や脳に備わっている機能を強化し、体に栄養を与え、筋力を増強し、気分を落ち着かせ、そして体を守ることだ。このプロセスが今解明されつつある。専門的には同化促進作用と呼ばれるが、私はポジティブ・ヘルスと呼ぶことにする。

●ポジティブ・ヘルスとは、アロスタシスがアロスタティック負荷(ストレス反応が私たちの体に逆襲するような状態)になるのを防ぎ、一時的にアロスタティック負荷に陥ってもそれから回復させる、体本来の能力を発揮させるシステムや物質を指す。ポジティブ・ヘルスを担うものとしては、副交感神経の回復効果やコルチゾールのチェック・アンド・バランス(抑制と均衡)の作用など、アロスタシスそのもののしくみもある。体にはそのほかに、アロスタティック負荷に陥った場合でも、持ち直す働きがあり、それらが、おもに脳の研究を通して明らかになりつつある。一部の神経ペプチドのなかに、ポジティブ・ヘルスの鍵があることが明らかになりつつある。その可能性がある物質のひとつがオキシトシンであり、もうひとつがプロラクチンである。

●エストロゲンは脳にさまざまな働きをする。働きの多くは互いに関連しており、たいていが脳のポジティブ・ヘルスに貢献するものである。エストロゲンは神経細胞を刺激して新しいシナプスの形成を促し、シナプスを刺激して新たな枝を生えさせる。さらに新しい神経細胞の成長を促進し、フリーラジカルの破壊的効果から細胞を守る。エストロゲンが脳に及ぼす好ましい影響のうち、とくに注目に値するのは記憶を保護する能力である。エストロゲンの研究といえば、生殖にかかわっている確率が高い視床下部と下垂体に集中していたが、記憶との関連性が浮上してからは、海馬や大脳皮質など、記憶にかかわる脳の多くの部位にエストロゲン・レセプターがみつかった。エストロゲンと関連ホルモンが脳のこれらの部位で、記憶にたずさわる複数の作用を行なっていることが現在わかっている。

●エストロゲンが心臓の平滑筋細胞を守ることはかなりわかっている(閉経後に女性の心筋梗塞が急増するのはこのためかもしれない)

●重いうつ病は、外的な要因に由来するのではなく、脳内化学物質の均衡が崩れたことによって発症し、高齢者ではとくにその均衡が崩れやすい。

病気を予防するためには、多くの病院が実践しているように、総合的な健康(ウィルネス)を目指し、ポジティブ・メンタルヘルスをおろそかにしないことが、長い目で見ればいちばんいい方法だろう。

多くの病院が実践している総合的な健康”とは、統合医療に近いものではないかと思います。これについては“がんと自然治癒力2”を参照ください。最後の付記に、”米国の統合医療”という簡単なスライドを付けています。

脳とストレス7

著者:ブルース・マキューアン、エリザベス・ノートン・ラズリー

監修:星恵子

訳:桜内篤子

出版:早川書房

発行:2004年9月

目次については“脳とストレス1”を参照ください。

 

アロスタシスと予防医学

『医者が患者を診るときにアロスタティック負荷の前触れを見逃さないようにすること。

世の中には、いまだに感情が健康に及ぼしうる影響を軽視している医師が少なくない。アロスタシスとアロスタティック負荷の考えを受け入れるということは、精神状態が体に与える影響をはっきりと認めることである。そしてそれは、これまで心身症として片づけられることが多かったいろいろな症状を新しい視点で見ることを意味する。

ストレスによってあらわれる症状は心と体が一緒になってつくりだすという意味ではまさに心身症的だ。しかし体に現われた症状を心身症と呼ぶとき、そこには“病は気から”とか、さらには“立ち直れないはずがない。元気を出せ!”という意味合いが込められていることが多い。幸い、このような意味合いで心身症という言葉が使われることは最近減った。数年前に胃潰瘍から見つかった、ヘリコバクター・ピロリ菌は、心と体がともにかかわる好例で、病気をアロスタシスの観点からとらえることができることを示した。病気の生物学的原因にこだわっていた科学者たちは、ピロリ菌の発見が心と体を結びつけようとする動きに水をさすものだと喜んだ。しかし生物学的なメカニズムを見つけたからといって、胃潰瘍がストレスによるものであることを否定することにはならない。むしろ、ほとんどの人がピロリ菌をもっているのに、なぜ特定の人がこの細菌に反応したのかという疑問を提起する。もしピロリ菌が胃潰瘍の直接の原因なら、もっと多くの人が胃潰瘍にかかっているはずで、ピロリ菌が力を発揮して胃潰瘍を発症させるのは、アロスタシスがアロスタティック負荷に変わったときなのかもしれない。

どの人がアロスタティック負荷型の病気になりやすいかを判断するひとつの方法は、これまでにわかっている生理的な危険因子をチェックすることだ。アロスタティック負荷の目安としては、血圧や、ウェスト/ヒップ比、血中コレステロール値、数日間の糖代謝を示す糖化ヘモグロビン、一晩畜尿した尿中のコルチゾールやノルアドレナリン(ノルエピネフリン)などがある。マッカーサー財団の健康プログラムに携わっている研究者の協力を得て、ロックフェラー大学の研究グループがそのような尺度を使って調査した結果、アロスタティック負荷のスコアが高かった人に、二年半後に認知機能と記憶の衰えが見られ、調査開始時は心血管病変の症状が見られなかった人にそれが発現していることがわかった。各人に心臓病や糖尿病などの兆候がないか調べるより、これらの目安をチェックするほうが、病気を予防するには有効かもしれない。とくに現在症状が出ていない人や、家族にそれらの病気にかかった人がいない場合には有効だ。

しかし実際は、アロスタティック負荷の検査を多くの人に実施するのはむずかしい。まず、医師がどの患者に検査を勧めるかを判断しなければならない。検査によっては保険がきかないし、一人あたりの診察時間が非常に短い現況では、患者が最初に接した医師が検査の必要性を見極めるのは困難だ。

さらにむずかしいのは、アロスタティック負荷が高い患者にどのように説明するかだ。まさか「もっとリラックスした生活に切り替えないと脳に損傷を受けるかもしれませんよ」とは言えない。もちろん先に述べたような生活習慣の改善を勧めることはできる。睡眠とバランスのとれた食生活、日常的な運動などの重要性はすべての人が理解すべきだ。しかし、自分の生活を変える意思のある人は、もともと健全かつ現実的な見方ができる人で、自分の健康は自分でコントロールできると考えている人が多い。問題は、ストレスがかかるとスナックをやたらに食べたりお酒をたくさん飲んだり、暇がないという口実で運動をせず、生活を変えても大した効果はないとあきらめている人、つまりアロスタティック負荷の悪影響をもっとも受けやすい人たちをどうするかだ。今日の医療では、たとえ必要性があっても、医者が患者の生活を変えることはむずかしいストレス軽減プログラムや総合的(身体的、精神的、社会的)な健康を目指すウェルネス・プログラムを実施している病院などもある。これは好ましい第一歩で、身体および精神の健康に大いに役立つ可能性がある。

アロスタティック負荷に脅かされている人たちが、もっともその弊害に身をさらしている事実は変わらない。アメリカで蔓延している2型糖尿病がいい例だ。2型糖尿病の罹患者には、子どもや老人、社会経済的に低い層の人々、エスニック・マイノリティーが少なくない。これだけ多くの人がストレス性疾患にかかりやすい現状を思えば、アロスタティック負荷の問題は、いまや大きな公衆衛生の問題として取りくまなければならない。』

高齢者とストレス

『高齢者が、アロスタティック負荷から体を守る手だてがもっとも提供され、うつ病やアルコール依存症など、負荷を増大させる病気の治療をもっと受けられるようにすること。

アロスタティック負荷と加齢による脳の変化が密接につながっていることから、高齢者はとくにストレスに弱く、うつ病になりやすい。ストレスが直接うつ病につながるわけではないが、60歳を越える女性の脳を画像検査で調べると、過去に重度のうつ病になっていた人では、海馬委縮が多く見られた。やはり海馬を損傷させる慢性的なコルチゾール値(アロスタティック負荷の主要な指標のひとつ)も、必ずではないにせよ、うつ病患者に見られる。ロバート・サポルスキーが示したように、海馬の老化が、ストレス反応をうち切る海馬の機能を弱め、それがさらなるコルチゾールの生成とそれによる脳の損傷をもたらす。高齢者がとくにアロスタティック負荷になりやすいのはそのためだ。

アロスタティック負荷や海馬の疲労と消耗が原因かどうかは別として、うつ病は多くの高齢者が抱える問題である。米国国立精神保健研究所によれば、65歳以上の3400万人のアメリカ人のうち、200万人以上が何ららかの抑うつに悩まされているという。高齢者の自殺率もほかの年齢層に比べて高い。65歳以上の人口は全人口の13パーセントにすぎないが、自殺による死亡率はそのうちの20パーセントを占める。いちばん高いのは85歳以上の白人男性だ(1996年には10万人に1人で、これは全人口における比率の6倍だった)。

このように高齢者の自殺率が高い理由は、老いに対する社会の姿勢にもあるかもしれない。一般的にうつ病は過少報告されたり、診断されないことが多い。したがって高齢者のうつ病もこれまであまり問題にされてこなかった。若さを重んじる文化のなかにいると、65歳以上の人がうつになるのは当然と思われがちだが、それはけっして普通ではないのである。まず病的なうつ病と単なる失望感や落ち込みを区別する必要がある(病的なうつ病は高齢者でも治療できる)。たしかに高齢者は、孤立や健康問題、収入減、失業、活力の減退、コントロールの喪失など、“憂うつになる”状況と闘っていることが多い。しかしそうした状況に置かれた高齢者がすべてうつ病になるわけではない。重いうつ病は、外的な要因に由来するのではなく、脳内化学物質の均衡が崩れたことによって発症し、高齢者ではとくにその均衡が崩れやすいのである。

高齢に伴う諸問題が即、うつ病の原因になるわけではないし、同じ問題を抱えていても気分障害にならない人も少なくないが、それらの問題がうつ病と関係が深いことは確かであるから、解決に向けて取り組まなければならない。さらに、高齢者は、生化学的にも知覚的にもうつ病を悪化させるものの影響を受けやすい。アルコール依存症だったり薬を服用していたり、持病があったり、不安をはじめとする精神障害などを抱えていることが多いからである。これらの要因は複合的だが、アロスタシスの考え方を適用すれば、もっとわかりやすい。まず、生化学的に何が起きているのか見極める必要がある。アロスタティック負荷の中心にうつ病があるなら、それをまず治療すべきだ。次に、不利な状況に置かれているのだからうつ病になってもしかたがないと片づけるのではなく、生活を切り替えてアロスタシスの均衡を取り戻す機会としてとらえるべきだ。

高齢化が進み、多くの高齢者が介護施設に暮らし、しかも重い健康問題を抱え、自分の生活をコントロールできないという状況のなかで、果たしてそのような生活の切り替えが可能かどうかはわからない。いずれにせよ、高齢者のような特定のグループがアロスタティック負荷になりやすいのであれば、なおさら公衆衛生問題としてアロスタシスにとりくむ必要があるということだ。』

ポジティブ・メンタルヘルス

『身体の健康と同じように、心の健康も、単なる病気の不在だけではないと認識すること。

人との強い絆は、人生の試練から自分を守る非常に強力な防塞となる。ウィスコンシン州の長期研究の結果から、リフとシンガーは、“回復力の強かった”女性のグループを調査した。彼女たちの中には、親がアルコール依存症だったり、親が死んだりするなど、決して幸福とは言えない子ども時代を送った人もいた。しかし安定した結婚生活や教育、やりがいのある仕事、適応力のおかげで、ポジティブ・ヘルスをとりもどしていたのだ。このような回復過程を心理学的にも神経生物学的にももっと解明する必要がある。このような回復力こそ、メンタルヘルスそのものだ。

健全な精神的姿勢は回復力と対処能力にとってもっとも重要な因子のひとつである(いや、もっとも重要な因子かもしれない)。なぜなら体がどのようなアロスタティック反応で応じるかがそれにかかっているからだ。生活習慣を変える意志と行動力は精神的姿勢に左右される。したがって、なるべく多くの人が望ましいアロスタシスを維持できるようにするには、ポジティブ・メンタルヘルスをもっと理解しなければならない。そしてメンタルヘルスを、単に精神的な病気の不在ととらえるのではなく、身体的な健康とともにいちばん理想的な状態へと近付けるべきだ。

世界保健機構(WHO)は、早くも1948年には、メンタルヘルスを精神病(あるいは、さらに否定的なとらえ方をすれば“精神異常”)の不在以上のものだと提唱していた。しかしそれから50年以上経った今でも、あまり状況は進展していない。それどころか、“異常”な状態でさえ十分な治療ができていないのが現状だ。うつ病も不安もほとんど見逃されるか放っておかれている。たとえばある調査によれば、自殺した高齢者のうち20パーセントは自殺の日に、40パーセントが一週間以内に、70パーセントは一カ月以内に医師を訪れている。たとえば医師が問題を認めて治療しようとしても、薬の費用は保険でカバーされるが、心理療法士が勧めるような治療法(そのほうが長期的にはもっと効果がある場合がある)は保険がきかないため、なかなか勧められないことが多い。

病気に気づいた場合にのみ治療がなされるという現状のなかで、すべての人にポジティブ・メンタルヘルスを推進するようなシステムをつくるにはどうしたらいいのだろうか。アロスタシスの考えを役立てるには、まさにそのようなシステムが不可欠である。これは大きな問題で、簡単な解決法などない。将来、精神的、身体的に具合がよくないと自負したとき、最初に開業医や病院の内科で診てもらうのではなく、臨床心理士を訪れるようになるかもしれない。そのような日が近く訪れることはないだろうが、ポジティブ・メンタルヘルスを推進するためには、次のようなことが求められる。

まず、感情と健康の関係をもっと科学的に解明しなければならない。敵愾心などの“ネガティブ”な感情と高血圧症などの関係を探るのも第一歩となるだろう。しかし、病気を予防するためには、多くの病院が実践しているように、総合的な健康(ウィルネス)を目指し、ポジティブ・メンタルヘルスをおろそかにしないのが、長い目で見ればいちばんいい方法だろう。シンガーとリフは、ストレス下で被験者が発揮した回復力についての生物学的解明にとりくんでいるところだ。

さらにシンガーらは、ポジティブ・メンタルヘルスを示す人の性格的特徴もつきとめようとしている。カール・ユングやエイブラハム・マスロウなどいろいろな心理学者が書いたものをもとに、彼らはポジティブ・ヘルスに恵まれた人、つまりストレスや逆境や老化にうまく対処している人には、共通の特徴があるという結論に達した。これらの特徴には、自己受容能力、積極的な人間関係、自立性、または他人の意見や容認にふりまわされず、自分の規律で自分の生活を調整できる能力、幸せをもたらす環境を選んだりつくりだす能力、生きがいをもつこと、自分が着実に成長しているという実感などが含まれる。さまざまな哲学的、科学的な考えを参考にした結果、リフとシンガーは、健康的で好ましい生活について「目標をもち、自分の潜在的能力を活かすよう努力し、ほかの人との深い絆を大事にし、周囲からの要求や機会に上手に対処し、自己主導性を発揮し、自尊心をもつこと」だとしている。』

【ご参考】:”総合的(身体的、精神的、社会的)な健康を目指すウェルネス・プログラム”とは

下記の図と表は”がんと自然治癒力13(まとめ)”から持ってきたものです。上段左は日本の医療の現状です。皆保険制度という素晴らしい制度が提供されている一方で、西洋医学に限定した医療になっています。右は米国の状況ですが、代替医療を取り入れ統合医療としての医療サービスを目指しています。

中段左は増え続ける”日本におけるガンの死亡率”。右は減り続ける”米国におけるガンの死亡率”です。統合医療としての取り組みが死亡率の低下に関係しているのは可能性は極めて高いと思います(統計情報や米国の統合医療に関しては”がんと自然治癒力2”を参照ください)

下段は内閣府のホームページにあった”世界の高齢化率の推移”という折れ線グラフです。日本ほどではありませんが、米国でも高齢化は進んでいます。



内閣府のホームページにあった”世界の高齢化率の推移”の表です。2015年で見ると、日本は26.6%、米国は14.8%となっています。

脳とストレス6

著者:ブルース・マキューアン、エリザベス・ノートン・ラズリー

監修:星恵子

訳:桜内篤子

出版:早川書房

発行:2004年9月

目次については“脳とストレス1”を参照ください。

 

9 ポジティブ・ヘルスとは?

『アロスタシスの考え方が役に立つのは、人生のさまざまな問題に直面したとき、袋小路に追いつめられたような気分から自分を切り離せることだ。健康とは、医学的には単に病気の不在だと考える傾向がある。脳の指令によって体が適応し、活性化するしくみを認めている人でさえ、病気に対しては防衛的にとらえがちだ。真の意味でのアロスタシスは、病気による攻撃をくい止める以上の働きをする。つまり、アロスタシスがうまく機能するよう、生活を変えること―運動や健全な食生活を心がけ、家族や友だちとの交流を大事にする―によって、病気になるのを防ぐことができるのだ。それは積極的に体や脳に備わっている機能を強化し、体に栄養を与え、筋力を増強し、気分を落ち着かせ、そして体を守ることだ。このプロセスが今解明されつつある。専門的には同化促進作用と呼ばれるが、私はポジティブ・ヘルスと呼ぶことにする。

ポジティブ・ヘルスとは、アロスタシスがアロスタティック負荷になるのを防ぎ、一時的にアロスタティック負荷に陥ってもそれから回復させる、体本来の能力を発揮させるシステムや物質を指す。ポジティブ・ヘルスを担うものとしては、副交感神経の回復効果やコルチゾールのチェック・アンド・バランス(抑制と均衡)の作用など、アロスタシスそのもののしくみもある。体にはそのほかに、アロスタティック負荷に陥った場合でも、持ち直す働きがあり、それらが、おもに脳の研究を通して明らかになりつつある。』 

写真をクリック頂くと、日本ポジティブ心理学協会さまのサイトに移動します。

なお、写真はFacebookから拝借しました。

麻薬のような体内物質エンドルフィン

『体内にあるアヘンに似た物質、エンドルフィン(エンケファリンとも呼ばれる)が発見されたのは1970年代である。エンドルフィンのいちばん明快な役割は、緊急反応の一環としてストレスがもたらした痛みを抑えることだ。エンドルフィンが動員されるのは、よほどの緊急事態だ。そうでないときに痛みの感覚をなくすとかえって危険だからだ。したがって、エンドルフィンそのものがポジティブ・ヘルスに貢献するわけではないが、その発見を機に進んだ研究がポジティブ・ヘルスの理解を高めることになった。

動物はアロスタティック負荷に苦しんでいるとき痛みをあまり感じない。生き延びるためには闘うか、それとも逃げるしかないというとき、痛みでのたうちまわっている余裕などないからだ。痛みにのたうちまわるのは後回しだ。ストレスのもとにおかれた動物は、実際、いつもより痛みに鈍感になっていることが実験で判明している。人間の例では、北欧のバイキング伝説に、闘いのとき痛みや怪我をものともしなかった猛者たちの話がある。現代でも、自動車事故で両足を骨折しながら現場から自力で歩いた人の話や、激痛にもかかわらず戦い抜いた運動選手の話などを耳にする。このように知覚が通常とは異なる状態になるのは、脳におけるエンドルフィンの働きのおかげだ。鎮痛剤のなかでもいちばん効果的なのは、ケシを原料とするアヘンだが、それが脳と体に及ぼす劇的な効果も、エンドルフィンによって間接的に説明できる。』

脳がつくりだす薬 

『エンドルフィンとストレスと鎮痛作用の関係が明らかになったのは、1977年、ストレスが引き金となって下垂体がエンドルフィンの一種を生成することをロジャー・ギレマンがつきとめたときだ。

ストレス性の痛みの緩和にエンドルフィンが貢献することがわかってから、ポジティブ・ヘルスの考え方は変わった。しかしエンドルフィンの役割はポジティブ・ヘルスにおいて中心的ではない。なぜかというと、意図的であれ、無意識であれ、痛みを無視するのは危険だからだ。痛みがあるから、私たちは怪我や病気に気づき、しばらく患部をそっとしておこうと思うのだ。痛みを感じることができない状態だと、知らずに怪我を負っている危険性がつきまとう。したがってエンドルフィンが痛みに対する感覚を抑えるのは、あくまでも脳の緊急措置であって、回復のしるしではないのである。』

『エンドルフィンが緊急事態でなくても鎮痛、鎮痛効果を発揮する可能性はあるが、確固とした証拠に欠ける。針治療がエンドルフィン分泌の引き金となることを示唆する研究もあることにはある。それはともかく、エンドルフィンが発見されたおかげで、ポジティブ・ヘルスに貢献するほかの化学物質の発見につながった。これらのなかには、社会的なかかわりや人との絆によって分泌されるホルモンであるオキシトシンや、授乳中に放出され脳を落ち着かせる効果があるホルモン、プロラクチンなどが含まれる。これらの神経ホルモンは、1950年代や60年代に把握されていた従来の神経伝達物質の研究ではみつからず、エンドルフィンの発見をきっかけにみつかったのである。』

エンドルフィンを越えて

1930年代に、迷走神経が心拍を遅くするために使う化学物質としてアセチルコリンが発見されたことはすでに述べた。その後、アセチルコリンが脳の主要な神経伝達物質であることが明らかになった。1960年代末には、おもな神経伝達物質のほとんどが識別されていた。ノルアドレナリンセロトニンドーパミン、活動を速めるよう脳細胞に指示を出すグルタミン、逆に活動を遅くする信号を送るガンマアミノ酪酸(GABA)などである。脳で作用する神経伝達物質はこれで出そろったと考えた科学者もいた。

その頃、信号を送るしくみにはもっといろいろな物質がかかわっているのではないかという疑問がうまれていた。ジョフリー・ハリス卿は、脳が特殊なホルモンを使って内分泌系に影響を与えていると推測した。そして最初に明らかになったのが、ギルマンとシャリーがみつけた甲状腺刺激ホルモン放出因子だったのだ。緊急反応を始動させる副腎皮質刺激ホルモン放出因子は、1983年に、かつてギルマンの弟子だったソーク研究所のワイリー・ヴェールによって確認された。

これらの放出因子を探している過程で、それまでにみつかった基本的なもの以外にも神経伝達質が存在することがわかった。また放出因子の研究のおかげで、脳が微妙につくりだす物質を見分ける技術も開発された。1970年代半ば、ふたつの研究チーム(スコットランドのアバディーン大学のジョン・ヒューズとハンス・コスターリッツ、そしてジョンズ・ホプキンス大学のソロモン・スナイダーら)はこの技術を用いて、エンドルフィンの化学構造を明らかにした(スコットランドのチームはギリシア語の「頭の中」という意味の言葉からエンドルフィンでなく、エンケファリンと呼んだ)。エンドルフィンも放出因子も、神経ペプチドと呼ばれる種類の神経伝達物質だ。ペプチドとはアミノ酸の短い鎖で、それが組み合わさってタンパク質を構成する。一部の神経ペプチドのなかに、ポジティブ・ヘルスの鍵があることが明らかになりつつある。

その可能性がある物質のひとつがオキシトシン。この神経ペプチドは、社会的支援がガンや「絆のホルモン」のひとつである可能性がある。エモリー大学のラリー・ヤングとトーマス・インセルは、典型的なメスのラットが、自分の子を産むまで赤ちゃんラットを避けるが、オキシトシンが高まると母親に負けないくらい面倒見がよくなることを示した。オキシトシンの遺伝情報を暗号化する遺伝子だけを欠くマウス(そのように特定の遺伝子を欠くマウスをノックアウトマウスと呼ぶ)は、同じケージで育った仲間を判別できない。ヒトでは、オキシトシンが、ふれあいやぬくもりなどの快い刺激が引き金で分泌されたり、授乳しているときに母と子の脳に放出される。オキシトシンの効果は心理的なものに限られない。オスとメスのラットにオキシトシンを注射すると血圧、心拍数、コルチゾール値が最長数週間にわたり下がる。したがって社会的なかかわりがあるとストレスによる身体的および心理的悪影響をある程度かわせるのは、このオキシトシンのおかげかもしれない。

もうひとつ、ポジティブ・ヘルスに貢献するのがプロラクチンだ。女性の場合、下垂体からこのホルモンが放出されると乳が生産されるが、これは女性にかぎらず不安やストレスにうまく対処するために体に備わった物質であるようだ。2001年、ミュンヘンにあるマックス・プランク研究所のルズ・トルナーらは、プロラクチンを直接ラットの脳に注射してから、囲いのない高所など、隠れ場所が好きなラットにとって軽いストレスとなる状況に置いた。与えたプロラクチンの量が多ければ多いほど、ラットは不安を示さなかった。またプロラクチンはストレスホルモンの分泌量と視床下部-下垂体-副腎軸(HPA軸)の機能を下げた。ストレスのもとに置かれたとき血中のプロラクチンが高まり、海馬と扁桃体にプロラクチンとそのレセプターが存在することが立証されている。このことから、トルナーらが実験で行なったことと同じことが、脳で常に起きている可能性がある。つまり、プロラクチンがアロスタシスの機能を助ける自然の成分であるかもしれないのだ。

運動によって体を循環するプロラクチンの量が増えるとされるが、この上昇が神経系にどのような影響を及ぼすかはまだ定かでない。しかし血中のプロラクチンが、そのレセプターがある脳の部分に入り込むこと、プロラクチンがある種のアロスタティック負荷から体を守っているかもしれないことを裏づける証拠が次々にみつかっている。たとえばプロラクチンは動物のストレス性胃潰瘍を防ぐとされる。将来、オキシトシンやプロラクチンの働きを強化する薬ができれば、抗うつ剤や鎮痛剤より効率よくアロスタティック負荷を軽減することができるかもしれない。脳のオキシトシンを高める薬(オキシトシン作動薬)はすでに開発されつつあるし、プロラクチンを高める薬も近いうちにできるだろう。

エンドルフィンや神経ペプチドは、ストレスに耐えアロスタティック負荷を避けるのを助けてくれるが、いったんアロスタティック負荷になったときそこから抜け出すのを助けてくれる物質や働きもある。このなかには成長因子、神経細胞新生、そしてホルモンのエストロゲンがある。』

エストロゲンの働き

『私たちロックフェラー大学の研究者の多くにとって、脳にエストロゲンのレセプターを発見したことが、アロスタシス研究を始めるきっかけとなった。もっとも、当時はコルチゾールに関する発見の手がかりになるくらいにしか考えていなかった。私たちはエストロゲンを、あくまでも性的活動に影響を与えるものとして見ていたのである。この性ホルモン自体がアロスタシスの中心的役割を果たすとは思いもしなかった。しかしエストロゲンはまさにそのように重要なものだったのだ。生殖に果たす役割のほかに、エストロゲンは脳にさまざまな働きをする。働きの多くは互いに関連しており、たいていが脳のポジティブ・ヘルスに貢献するものだ。エストロゲンは神経細胞を刺激して新しいシナプスの形成を促し、シナプスを刺激して新たな枝を生えさせる。さらに新しい神経細胞の成長を促進し、フリーラジカルの破壊的効果から細胞を守る。エストロゲンが脳に及ぼす好ましい影響のうち、とくに注目に値するのは記憶を保護する能力だ。

この可能性が最初に明らかになったのは1970年代末に、内分泌学者のヴィクトリア・ルインと私が、卵巣を取り除いたラットにエストロゲンを与えた実験によってである。エストロゲン投与によって、前脳基底核におけるアセチルコリンを増加させる酵素が増えることがわかった。数年後、アルツハイマー病患者の脳の同じ部位にアセチルコリンをつくる神経細胞が大量に死んでいることが判明するまで、私たちは実験結果の重要性と記憶との関連性に気づかなかった。同じ頃行われた、別の方面の研究から、もうひとつの関連性が明らかになった。カナダのコンコーディア大学のバーバラ・シャーウィンが、卵巣を取り除いたためにエストロゲンをつくれなくなった女性たちの記憶力が衰えていることを発見したのだ。これらの研究により、エストロゲンとアセチルコリンと記憶の間に関連性があることが示唆された。

それまで、エストロゲンの研究といえば、生殖にかかわっている確率が高い視床下部と下垂体に集中していたが、記憶との関連性が浮上してからは、海馬や大脳皮質など、記憶にかかわる脳の多くの部位にエストロゲン・レセプターがみつかった。エストロゲンと関連ホルモンが脳のこれらの部位で、記憶にたずさわる複数の作用を行なっていることが現在わかっている。

エストロゲンは、やはり卵巣でつくられるプロゲステロン(黄体ホルモン)と連携して適応可塑性(これをシナプス再構築と呼ぶ)に貢献している可能性がある。これらのホルモンはチェック・アンド・バランスによって、海馬における神経細胞間の新たなつながりを調節している。とくに、活動を速める信号を受けとる“興奮性”シナプスの形成が、エストロゲンに似た働きをするホルモンのエストラジオールに影響されることが判明している。この過程には、グルタミン酸がNMDAレセプター(NメチルDアスパラギン酸という物質がその識別に使われることからそう呼ばれる)という特殊なレセプターを通じてかかわっている(エストロゲンは海馬の重要な神経細胞のなかでNMDAレセプターの形成を実際に誘引する。一方、プロゲステロンはこれらのシナプスを減少させる働きをする。ふたつのホルモンによる促進と抑制の働きを通じて、シナプス再構築が短期的にストレスの影響から脳を守るかもしれない)。』 

『エストロゲンはいろいろな作用を通じて脳を守っているようだ。プリンストン大学のパティマ・タナパットとエリザベス・グールドは、エストロゲンがメスのラットの、海馬の歯状回における神経細胞新生を刺激することを示した。オスの海馬の樹状突起にはストレス性委縮が見られたが、メスのラットにはそれに対する抵抗力があるようだった。アルツハイマー病では、エストロゲンが興奮毒性と呼ばれる矢つぎばやの細胞死から細胞を守っているようである。アルツハイマーの特徴には、前脳基底核におけるコリン作動性細胞死のほかに、脳におけるβアミロイドという有毒なタンパク質が蓄積することがある。エストロゲンはこのタンパク質の破壊的な作用から脳を守る働きがあるようである。

南カリフォルニア大学の神経学者ヴィクター・ヘンダーソンはアンリア・パガニーニ・ヒルと組んで、非常に興味深いヒトの研究を行なった。ヘンダーソンらは8000人を越える高齢の女性を調査した結果、エストロゲン補充療法を受けていた女性の方が受けていない人よりアルツハイマー病になる確率が、ずっと少ないことが判明した。しかもエストロゲンの投与量が多く、投与期間が長いほど、罹患率が低かった。コロンビア大学のリチャード・メイユーらも、閉経後エストロゲンを摂取した女性がアルツハイマー病になる確率が顕著に低く、なったとしても、摂取していない女性よりずっと遅く発症したことを確認した。ジョンズ・ホプキンス大学のクローディア・カワスらが行なったボルチモアでの長期老化研究でも注目に値する結果が出た。450人以上の年配の女性を最高16年間追跡したこの研究でも、エストロゲン補充療法を受けている女性ではアルツハイマー病にかかる確率が同じように低かったのである。』 

私たちを守る脳 

このように神経細胞新生を促進し海馬を防ぐことによって、エストロゲンはポジティブ・ヘルスに大いに貢献している。この貢献の過程と、アルツハイマー病におけるエストロゲンの役割を解明するために、エストロゲンの神経細胞周辺に及ぼす影響について研究しているところだ。これには、まず、脳細胞が環境からどのような影響を受けるのかについてもっと詳しく知る必要がある。

1960年代から70年代にかけて多くの発見があったが、それとは異質なエストロゲン・レセプターの発見も注目に値する。最初にみつかったレセプターは、細胞核のなかのDNAの近くに存在し、遺伝子情報が翻訳されるのを調節している。海馬の性による違いが生じるのも、この働きのせいだ。

しかし、エストロゲンの作用は瞬時に起こるので、それが遺伝子の発現に影響を与える暇はおそらくないだろう。樹状突起の再構築は、エストロゲンのこのすばやい作用によるのかもしれない。エストロゲンが心臓の平滑筋細胞を守ることはかなりわかっている(閉経後に女性の心筋梗塞が急増するのはこのためかもしれない)。エストロゲンの“非ゲノム”作用は、細胞核内ではなく、細胞の表面にあるレセプターを通して行なわれる。この分野の研究もまだ未知数だ。

ペンシルバニア大学のジェームズ・エイバーワインは、DNAの遺伝子情報を利用可能なタンパク質に変えるメッセンジャーRNAが、神経細胞の核だけでなく、軸索や樹状突起にもあり、それらは細胞核まで届かない局部的な信号によっても活性化されるのではないかと推測する。さらにエイバーワインは、細胞の先端に転写因子CREBが存在するのを発見した。このCREBは、細胞周辺の変化によって活性化されることがある。軸索も樹状突起に、遺伝子にもかかわる物質が存在するということは、次の可能性を示唆している。つまりストレスに対して、細胞核の指令センターを巻き込んで細胞全体を変える必要はなく、細胞表面にあるレセプターなど、結合にかかわる部分だけを変化させることで神経細胞が対応できるのかもしれないのである。エストロゲン・レセプターが神経細胞の末端部分にも見つかっていることから、私たちのグループは、エストロゲンとこうした局部的な働きの関係を調べている。軸索や樹状突起におけるこうした自主的な活動は、エストロゲンの保護的な作用によるのかもしれない。

エンドルフィン、成長因子、神経細胞新生、そしてエストロゲンはポジティブ・ヘルスの重要な因子である。この研究を通じて、脳が私たちをどのように守っているか理解を深めることができるだろう。最後の章では、それが示唆するものについて述べる。』

脳とストレス5

著者:ブルース・マキューアン、エリザベス・ノートン・ラズリー

監修:星恵子

訳:桜内篤子

出版:早川書房

発行:2004年9月

目次については“脳とストレス1”を参照ください。

 

8 ストレスに負けない生活

『本書で私はたびたび、アロスタシスが「体を保護するか危害を与えるか」のいずれかの働きをすることに触れた。読者はこの本を読むくらいだから、当然“保護”の部分をできるだけ伸ばし、“危害”をなるべく避けたいと思っているはずだ。まず言っておきたいのは、私たちはストレスでボロボロにならなくてすむということだ。言い換えればアロスタティック負荷を経験する必然性はないということだ。第二に、アロスタティック負荷の原因は、度重なる厄介な問題や過密スケジュールだけではない。これといったストレスがなくても、不健康な生活を送っていれば視床下部-下垂体-副腎軸(HPA軸)がうまく機能しなくなり、コルチゾール値が上昇するそして危機が訪れたとき、どのような対処方法を選択するかによっては、慢性ストレスと同じくらい体に悪い影響を生物学的に与えうる。しかも、追いつめられた人は、とかく高カロリーのものを食べ過ぎたり、アルコールを飲み過ぎたり、タバコに慰めを求めたり、徹夜で仕事をしたりするものだ。ちょっとしたストレスがだんだん積み重なり、その結果、アロスタティック負荷になる。

じつはアロスタシスがなるべく保護的に働くように効果的で簡単な方法がある。それは、運動、ヘルシーな食事、快眠、少量から適度のアルコール、禁酒などだ。どれも昔から体にいいと言われていたようなことばかりだ。最新の科学が、昔からの知恵の正しさを裏づけているのである。

こちらがHPA軸(視床下部-下垂体-副腎軸)を説明した図です。

画像出典:「ストレスに負けない脳」

ウォーキングの効果

2002年のはじめ、米国国立衛生研究所(NIH)は糖尿病予防プログラムの結果を発表した。プログラムの一環として行った積極的な生活習慣の改善によって、3000人を越える被験者の糖尿病になるリスクが激減した。生活習慣の改善とは、要するに低脂肪の食事をとり、週150分の運動(30分ずつを5回)を行っただけである。大半の人が選んだ運動はウォーキングであった。

2型糖尿病はアロスタティック負荷の一形態だ。肥満や心疾患、高レベルのコルチゾール値を伴うこのタイプの糖尿病の危険因子をもつ参加者に焦点を当てた。参加者はすべて肥満で、糖尿病に発展しやすい、耐糖能異常(血糖が効率よく利用されず血糖値が通常より高い状態)だった。さらに、その多くは2型糖尿病になる確率が平均より高いマイノリティ(アフリカ系、ヒスパニック系、アジア系、南太平洋系、アメリカ先住民)に属していた。そのほかの参加者には、両親が糖尿病だったり、60歳以上の人、妊娠時に糖尿病歴のある女性などがいた。

驚くべき結果が得られた。生活習慣改善グループの糖尿病発症率は58パーセントも下がり、血糖降下剤メトフォルミンを服用したグループの発症率は31パーセント減少した。言い換えれば、ウォーキングと健康的な食事が、最新の薬物治療のほとんど倍の効果をあげたのだ。これだけでもうれしくなる結果だが、今後、生活習慣に気をつける人が増えれば、糖尿病に関してさらにいい効果が期待できそうだし、とくにアロスタティック負荷を防ぐことができそうだ。

ただ歩くだけの運動が、心疾患を防ぐもっとも有効な方法のひとつであることを、多くの研究が裏づけている。2500人以上の高齢男性を対象に行った調査では、歩く距離に比例して心疾患の発症率が下がった。さらに72000人を越える中年女性を調べた大がかりな調査では、たとえ中年から始めたとしても、ウォーキングが心疾患になるリスクを著しく低下させることがわかった。どちらも長期間にわたる調査であったことが重要である。この調査のほうが、すでに特定の病気にかかっている患者の共通点を探す方法より正確だとされるからだ。

NIHが行なった糖尿病予防研究では、運動によって、ブドウ糖が筋肉に取りこまれる割合が高められた結果、インスリン抵抗性にうち勝ち、糖尿病を予防できたのだと考えられた。運動はまた、ストレス反応にも働きかけて私たちを守ってくれる可能性がある。たとえば免疫細胞にとっても運動はいい影響がある。8週間にわたりマウスを回し車で走れるようにした実験では、運動によってマクロファージやリンパ球など主な白血球細胞の活動が高まった。』

ストレス解消は食生活から

脅威やプレッシャーをしばらく感じていると、人間の体はエネルギーの不足だと思いこむ。そして、捕食者から逃げることと翌日の会議の準備をすることの違いを区別できずにストレス反応が自動的に作動する。結果は同じだ。つまり糖質コルチコイドが上昇し、ストレスによる症状が現われる前に、エネルギーをグリコーゲンや脂肪として長期貯蔵せよという信号を肝臓に送る。さらに糖質コルチコイドはエネルギーが切れないよう、脳に働いて食欲をもたらす。ストレスが私たちに空腹感を感じさせるのは、生物学の皮肉のひとつである。

しかも悪いことに、ストレスは、私たちが食べたものが脂肪になる速度を速め、脂肪がどこにつくかも左右するらしい。臀部、大腿部の肥満はさほど健康に悪くないが、腹部型肥満は糖尿病および心疾患の危険因子なので要注意だ。腹部の肥満がよくない理由は、腹部の脂肪がすぐ脂肪酸になり、それがコルチゾールの放出を促し、体のインスリン抵抗性の原因となることだ。コルチゾール過剰を伴う慢性ストレスでは脂肪が腹部など有害な場所に蓄積するのを促進するのである。ジェイ・カプランらは実験でサルの社会的環境を常に変えていると、そのストレスが腹部脂肪の蓄積を速めることを発見した。ヒトでも、ストレスを示唆するコルチゾールの高値が体脂肪の分布に影響を与える可能性がある。ある研究によれば、女性は普通臀部に脂肪がつくものでこれはあまり害がないが、ストレスとコルチゾールの上昇によって、臀部より健康に悪い腹部により多くの脂肪が蓄積されたという。

ストレスのあるなしにかかわらず、賢い食生活を送ることは、贅肉をなくして自分の容姿に自信がつくこと以上に重要である(それだけでも志気の向上になるが)。アロスタティック負荷に、好ましくない食生活が加わるとさらに悪い結果を招くからだ。食事で脂肪をとりすぎれば、当然ながら体脂肪も増えすぎる。さらに、高脂肪食品はコルチゾールの生成を促し、それが体脂肪、とくに腹部における蓄積を促進する。これが動脈硬化やインスリン抵抗性につながり(このふたつは相互に危険因子だ)心臓病や糖尿病になる危険性が高まる。肥満と心臓病と糖尿病は、それぞれがほかの病気へと導く危険因子になっているのである。』

コントロールのよい面と悪い面

『プラス思考によってストレス反応やHPA機能を変えられるだろうか。少なくとも適応性に欠けるような脳を修正することはできるはずだ。陽電子放出断層撮影法(PET)を最初に開発したカリフォルニア大学ロサンジェルス校のマイケル・フェルプスが1996年に行った研究は示唆に富んでいる。彼は強迫性障害(OCD)患者の脳を、10週間にわたる行動・認知療法の前後にPETでスキャンした。セラピー前は、動作をコントロールしている脳の部位におけるブドウ糖の取り込みに異常がみつかった。OCD患者は、本人は理不尽とわかっていながら特定の行為をくり返し、それから逃れなくなる。この異常な行動がOCDの特徴とされるが、セラピー後のPETスキャンでは、ブドウ糖の取り込みが目に見えて軽減されており、症状も改善されていた。しかも患者たちには何の薬も投与していない。10週にわたり思考と行動を修正しただけだ。これから判断すると私たちは思っていたより脳を自分でコントロールできるのかもしれない。』

私たちは自分たちの健康と病気(ストレス性のものもそうでないものも)についてできるかぎり理解し、医師と協力し、効果が認められた治療方法を用いながら、自分の健康をとりもどす方法をとるべきだ。この姿勢は、アルコール依存症自主治療協会がモットーとして採用した、60年前の神学者ライホールト・ニーバーの「神よ、変えることのできないものを受け入れる心の平和を、変えることのできるものを変える勇気を、そして変えられるものと変えられないものとを見分ける知恵を私にお与えください」という祈りに要約されている。自分がコントロールできる生活の部分を変えることで、予測できないことや不可避の事態にうまく対処できるのである』 

『ヒトにおいてもコントロールできているという感覚は動物と同じくらい重要である。たとえば、四章で紹介したように旧ソ連邦の崩壊後、心血管病変、アルコール依存症、自殺、暴力、その他の理由による死亡率が大幅に上昇した。もちろん、広範な社会的混乱のため、医療サービスも十分ではなかっただろう。救急車が迅速に患者を病院に運べなかったために、あるいは病院の設備が不十分であったために死んだ人のほうが多かったかもしれない。しかし社会的不安定が霊長類に与える影響を調べた研究の結果を踏まえれば、それまでの生活が崩壊したりアイデンティティがなくなってしまったことが、多くの人を病気にさせたということはありうる。またイギリスの公務員の調査は、職場においてコントロール感のないことが心血管病変と密接な関係にあることを裏づけた。

職場におけるコントロール感はストレス研究の重要なテーマだ。おそらくもっとも楽観的な結果が出たのは、スウェーデンのボルボの自動車工場で行われていた研究だろう。従業員たちは流れ作業に遅れないように気を使いながら単純作業を繰り返すのはストレスになると同時に退屈だった。そのため、仕事に対する強い不満が常習的な欠陥につながった。従業員には高血圧も多く見られた。

そこでボルボの経営陣は専門家の意見をもとに従業員をチームに再編し、作業を交代させたり、作業について前よりきちんと説明した。その結果、従業員の健康状態はよくなり、血圧も通常の範囲内に戻った。このように職場の環境を変えることによって、身体の健康状態を向上させることは可能なのである。

環境を変えられないとき、不満があってもどうしても仕事をやめられない事情があるとき、重病の家族の世話をしなければならないとき、このようなときこそ、生活習慣など変えられることは変えるべきだ。健全な食生活と習慣的な運動、家族や友人の支援の恩恵ははかりしれない。またこれらをとおして、自分の体は自分が守っているという、非常に大事なコントロール感も得られるのである。

脳とストレス4

著者:ブルース・マキューアン、エリザベス・ノートン・ラズリー

監修:星恵子

訳:桜内篤子

出版:早川書房

発行:2004年9月

目次については“脳とストレス1”を参照ください。

 

ストレスが体を守ることもある 

『あまりにも証拠に事欠かなかったために、ストレスが免疫反応を抑制するという考えが定着し、科学者たちはもっぱらその解明に励んだ。いちばん説得力があったのは、免疫系の活性化は代償が高い“ぜいたくな”反応であるため、台風を目前にしているときに家の増築などしないように、緊急の場合はそれが後回しにされるという説明だった。

しかしこれに納得しない科学者もいた。その一人が、ファーダウス・ダーバーだった。「あの頃ストレスは悪いという考えが主流だったが、私は納得できなかった」とダーバーは述べている。「進化の観点からすれば、生理的なストレス反応に否定的効果しかないというのはありえない。つまり、免疫反応がもっとも必要とされるときに、免疫を抑制するメカニズムが働くのはおかしいと思ったのだ」ダーバーはまた、免疫が代謝的に高くつくから後回しにされるという考えにも納得しなかった。なぜなら、危機のときに病気になってしまったら、免疫を動員するよりよっぽど高くつくからだ。もうひとつ矛盾することがあった。コルチゾールを軟膏や注射で体内に入れると、たしかに炎症を抑える作用が見られる。このように外部から大量にコルチゾールを投入するのと、元々血流に微量に含まれるコルチゾールでは、作用が異なるかもしれない。ダーバーは免疫系が、HPA軸を介して、アロスタティック負荷の間を揺れ動くのではないかと考えた。彼はロックフェラー大学の私たちの研究所に加わり、ストレスが免疫を強めるかもしれないという、当時の医学の常識に反する考えを裏づけるための研究にとりかかったのである。

まず、ダーバーはほとんどの臨床研究が急性ストレスでなく慢性ストレスを扱っていることに注目した。さらに、大半の研究では免疫活動を血液から判断していた。つまり強度のストレスを訴えていた患者の白血球は減り、ナチュラルキラー細胞の活動が低下しているのを確認したのだ。「白血球が少ないのは一見悪いことのように思える」とダーバーは認める。「しかし、ふたつの疑問が出てくる。循環血液中に白血球がないのは、破壊されたのか、破壊されていないとすればどこに行ったのか」

これらの疑問を解明しようとして行った一連の実験から、ダーバーはストレス反応は短期的には体を防御するが、長期化すると疲労と消耗をもたらすという考えに至った。実験により、たしかに急性ストレスは免疫に欠かせない白血球を大幅に減らしたが、それは回復可能であることがわかった。ストレスが無くなったとき、白血球はもとのレベルに戻ったのである。つまりそれらはストレスによって破壊されておらず、移動していただけだった。白血球が味方と敵を正確に識別するのも驚くべきことだが、その機動性もたいしたものだ。感染と闘う白血球は血流によって体中を循環する。指示が出ると、鼻の粘膜であろうが、怪我をした左足首であろうが、敵が侵入した場所にただちにかけつける。ダーバーは、白血球が傷害部位に現われるだけではないことを明らかにした。それまでの研究で白血球が見あたらなかったのは、それが循環血液から離れ、リンパ節や皮膚など、もっとも必要とされている組織や局所にくっついていたからであった。しかも、コルチゾールが血液中に放出されることがこのプロセスの引き金になっていたのである。急性ストレスによって白血球が血液から離れ、必要とされるところに移動するに違いないと考えたダーバーは、この移動を「ストレス性移動」と呼び、急性ストレスが実際に免疫活動を強化する例ととらえた。』

ストレスで動員される白血球 

『ダーバーが中心となって行なった遅延型過敏症(DTH)という免疫反応に関する一連の研究により、ストレスの好ましい役割が浮き彫りになった。DTHでは二種類の白血球、つまりマクロファージは我々にとって有害な細菌やウィルスなどの異物を食べ、有害なタンパク質の破片を敵情報として旗のようにかかげる。これを合図にヘルパーT細胞が活動を開始し、感染力のあるその外敵をやっつけるために、ほかの免疫細胞を招集する。また、ヘルパーT細胞は、別のリンパ球であるB細胞に働きかけて異物に対する抗体をつくらせる働きもある。敵が再び襲ってきたときに、これらの抗体が活性化して侵入を防ぐのである。DTHは特定の感染症や腫瘍に対して働く免疫反応だが、ウルシのかぶれなど、一部のアレルギー反応にも見られる。

この実験から、私たちは、短期的にはストレスとそれに伴うストレスホルモンの分泌が免疫能を強めることがあることを確認した。これは「一日一回の小競り合いは医者いらずの秘訣」というダーバーの博士論文の講演のタイトルに簡潔に言いあらわされている。

このストレスが三週間も続くと、免疫の抑制が見られはじめ、五週間になると、免疫細胞の移動もDTHの反応も大幅に弱まる。したがって、これらの実験結果は、長期的ストレスが免疫能を弱めるという、これまでの研究の結果をも裏づけている。しかし、ラットを一週間休ませると、再び回復し、免疫の低下は恒常的ではないとわかる。

これらの研究によって、アロスタシスとアロスタティック負荷の考え、つまりストレス反応が体を保護したり危害を与えたりするという考えが裏づけられた。ここでのコルチゾールの役割は明確だ。たとえば、コルチゾールの生成を妨げる薬をラットに投与すると、免疫細胞の機動力が損なわれる。また、ある化学物質を用いて免疫細胞のコルチゾール・レセプターを活性化すると、免疫細胞の機動力は、たとえ副腎を取りのぞいてコルチゾールの供給を断っても回復しうることがわかった。ダーバーは、具体的にコルチゾールが免疫細胞にどのように影響するかを調べている。これまでのところ、コルチゾールが細胞の接着分子を活性化し、それによって免疫細胞が移動した先の組織の血管につきやすくさせる可能性を示唆している。また、コルチゾールは接着分子を発現させる遺伝子を刺激する可能性もある。

こうしてコルチゾールが、免疫の働きに貢献する様子が、だいたいつかめたと思う。急性ストレスの場合、免疫細胞が血液から出て、皮膚やリンパ節などの“監視”場所につくのをコルチゾールが促進する。感染の徴候がみつからなければ、免疫細胞は血流中に戻る。そして、ストレスが無くなったり、うまく処理されると、コルチゾ