量子論1

なぜ、量子論という超難解なものに興味を持ったのかというと、それはブログ“がんと自然治癒力8”で勉強させていただいた、ブルース・リプトン先生の「思考のすごい力」という本に因ります。

 

著者:ブルース・リプトン

出版:PHP研究所

発行:2009年1月

この本の第四章は次の通りです。

第四章 量子物理学が生物学・医学を変える日は近い

 量子物理学と縁なく過ごしてきたわたし

 ニュートン力学では超常現象を解明できない

 物質はエネルギーでできている

 人間の生体内システムは重複的

 製薬会社の駒となっている医師たち

 電磁エネルギーが生体調整に深い影響を与える

 代替医療の研究が進まないわけ

 エネルギー波を治療に活用する

大袈裟ですが、私の背中を押したのは以下の4つです。また、キーワードは“エネルギー”であり、そして“量子論と東洋医学の類似性??”という期待のような思いを含んだ好奇心です。

『原子が宇宙で最も小さい粒子であるという概念は捨て去られた。一つの原子はさらに小さな粒子から構成されていることがわかった。これだけでも驚天動地の大発見だが、さらに、原子がX線や放射線など、さまざまな「奇妙なエネルギー」を放出していることが明らかになり、大騒ぎになった。』

『ニュートン的で物質偏重主義である旧来の概念から抜け出せない研究者たちは、健康や病気にエネルギーの振動が果たす役割をまったく無視している。』

『何千年も前、西洋の科学者が量子物理学の法則を発見するより遥か以前に、アジア人は健康と幸福に寄与する第一の要因として、エネルギーを尊んできた。』

『東洋医学では、身体はエネルギーの経路(経絡)が複雑に列をなしたものと定義される。中国の鍼灸療法で用いられる人体の経絡図には、電気配線図にも似たエネルギーのネットワークが描かれている。中国医学の医師は、鍼などを用いて患者のエネルギー回路をテストするわけだが、これはまさに電気技師がプリント基板を「トラブルシュート」して電気的な「病変」を発見しようとするのと同じやり方だ。』

読んだ本は、「思考のすごい力」の中で紹介されていた2冊を含め、全部で4冊です。

 

著者:H.R. パージェル

出版:地人選書

発行:1983年11月

※ブログ内の青色『』は「量子の世界」からの引用になります。

原書のタイトルが気になり、調べてみたところ“THE COSMIC CODE”でした。

著書:「分子生物学入門

著者:セント=ジェルジ・アルベルト

出版:廣川書店

発行:1964年9月

ジェルジ・アルベルト先生は、ビタミンCの発見などにより、1937年度ノーベル生理学医学賞を受賞されました。

写真は本書の中に掲載されているものです。また、この「分子生物学入門」の内容は極めて高度であり、タッチできるものではありませんでしたが、唯一、お伝えできる、お伝えしたいことは以下の文章の中の太字部分です。

 『私の研究歴は組織学にはじまりましたが細胞形態学が与え得る生命についての知識に満足できず私は生理学に転じました。そこで生理学があまりにも複雑であることを見い出し私は薬理学の分野に転向いたしました。それは薬理学の対象の一つである薬物の性質が比較的に単純なものであると思われたからであります。しかしながら薬理学が決して単純なものでないことを知った私は次に細菌学の世界に踏み込んだのであります。ここでなおも細菌の複雑さを知らされた私は次第に分子レベルの問題に興味をひかれ化学や物理化学の研究をするようになったのであります。この経験を生かして私は筋肉の研究をはじめることを企てました。その後20年間にわたる研究の結果、筋肉の問題を理解するためには量子力学の法則に支配されている電子のレベルまで掘り下げる必要があるという結論に到達しました。

 

著者:佐藤勝彦

出版:PHP文庫

発行:2000年4月

※ブログ内の赤色『』は「量子論を楽しむ本」からの引用になります。

 

監修:和田純夫

出版:ニュートンプレス

発行:2018年7月

※ブログ内の緑色『』は「13歳からの量子論のきほん」からの引用になります。

※上部に”常識が通じない! ミクロの世界の物理法則”とあります。

 

 

今回の“量子論1”は、自分自身の関心事に対して、できる限り分かりやすくまとめることを目標としました。一方、次回の“量子論2”では、H.R. パージェルの著書「量子の世界」を中心に全体像をつかむという点に重きを置きました。

相対性理論といえばアインシュタインですが、量子論といえば誰なのか? その答えは、ニールス・ボーアとその仲間達ということになります。

画像出典:「量子論を楽しむ本」


左の絵の中に、“シュレーディンガーの猫”と書かれたイラストが出ています。簡単にご説明すると、量子力学の基本となる方程式(“シュレーディンガー方程式”)を編み出したシュレーディンガーが、ボーア達が確立した“コペンハーゲン解釈”という考えに反旗を翻し、提示した宿題であり、“シュレーディンガーの猫”と命名されました。右の絵はその内容です。なお、この宿題は現在もクリアできず、“コペンハーゲン解釈”が完全なものに至っていない大きな理由の一つとなっています。

 

ニールス・ヘンリク・ダヴィド・ボーア(1885年10月7日 - 1962年11月18日)

ボーアは1922年にノーベル物理学賞を受賞されています。

画像出典:「ウキペディア

1.量子論と東洋医学

ボーアは量子論が明らかにした物質観・自然観の特徴を“相補性”という概念で説明していますが、ボーアはこの“相補性”を表すシンボルとして古代中国の「陰陽思想」を象徴する“太極図”を好んで用いたとのことです。このことは、「量子論を楽しむ本」の中に書かれていました。 

 

画像出典:「量子論を楽しむ本」

ボーアは相補性を表すシンボルとして古代中国の「陰陽思想」を象徴する太極図を好んで用いました。陰と陽という対立する「気」が絡み合い、相互作用をおこなうことで、すべての自然現象や人間活動が決まるとする陰陽思想は、まさに量子論の描く世界像と同じと言えます。ボーアは自分の紋章の一部に太極図を描いたほどでした。

量子論はこのように、中国思想などの東洋思想と相通じる部分を持つために、その観点から関心を持つ人も多くいます。東洋思想の柱に「一元論」があり、これは近代科学の根底にある「二元論」と対立する概念です。物と心、自然と人間などを分けて取り扱うのが二元論であり、これらを不可分なものとみなすのが一元論です。客観的事実を否定した量子論は、自然と観測者を分けて考える二元論的な世界観を退け、観測対象である自然と観測する私たちとを一つのセットとして考える、一元的な自然観を示すのです。

東洋医学そのものではありませんが、ボーアがその大元になっている陰陽思想への関心が高かったという事実の発見は、驚きでもあり、うれしい気持ちになります。

 

写真はQingYang gong templeという寺院にある彫刻です。中央が太極図、まわりは十二支です。

画像出典:「ウキペディア

2.量子論とは

1)アイザック・ニュートンと決定論

 

この画像は“山賀 進のWeb siteさまの“ニュートン略伝”から拝借しました。

量子論と対極にあるのは、アイザック・ニュートンの理論です。また、そのニュートン力学の考えをさらに発展させたのが、ピエール・ラプラスの「未来はきまっている」という考えです。まずは、量子論と比較する目的で「古典論」とされている、ニュートン力学と決定論について触れたいと思います。

 

 

画像出典:「13歳からの量子論のきほん」

量子論が誕生する以前、あらゆる物体の運動は、「ニュートン力学」で説明できると考えられていました。ニュートン力学はイギリスの天才科学者アイザック・ニュートンが打ち立てた理論で、物体が力を受けてどのように運動するかを説明する理論といえます。

ボールの遠投を考えましょう。空気抵抗などは無視できるとします。ボールを投げた瞬間の速さと向き、高さが厳密にわかれば、地面に落ちる位置はニュートン力学によって厳密に計算できます。つまり「ボールの落下地点は、投げる瞬間に決まっている」といえるわけです。

サイコロの出る目が予測できないのは、サイコロを投げた瞬間の状態を厳密に知ることが困難だからです。投げた速さ、角度、高さなど、すべての条件が厳密にわかれば、出る目は計算できます。つまり、「サイコロの出る目も、投げる瞬間に決まっている」といえるでしょう。

フランスの科学者ピエール・ラプラスは、ニュートン力学の考えをさらに発展させて、次のように考えました。

「仮に、宇宙のすべての物質の現在の状態を厳密に知っている生物がいたら、その生物は宇宙の未来のすべてを完全に予言することができるだろう。つまり、未来は決まっていることになる」。この仮想的な生き物は、「ラプラスの魔物」と呼ばれています。

ラプラスのような考え方は、量子論が登場するまでは、物理学者の間で一般的だったようです。未来を予言することができないのは、人間の能力に限界があるためであって、実際には未来は決まっている。そう考えるわけです。

しかし量子論の登場によって、この考え方は正しくないことがわかりました。量子論によると、仮にラプラスの魔物が宇宙のすべての情報を知ることができたとしても、未来がどうなるかを予言することは原理的に不可能だからです。

たとえば電子は、運動方向を正確に決めると位置が不確かになり、位置を正確に決めると運動方向が不確かになります。電子の位置と運動方向を、同時に正確に決めることは不可能なのです。

このようにミクロの世界では、電子一つをとってみても、未来の予言は不可能です。つまり、未来はきまっていないようなのです!

2)量子論が生まれた理由

 

野球のボール vs 原子」の大きさの違いは、「地球 vs ビー玉」の大きさの違いと同じくらいだそうです。

画像出典:「13歳からの量子論のきほん」

あらゆる物質は、「原子」からできていることがわかっています。19世紀末ごろになって、原子がかかわる現象を詳しく調べてみると、ミクロな世界は私たちが日常生活で目にする世界とはまったくちがうことがわかってきました。ミクロな物質は、私たちの常識では説明できない、摩訶不思議なふるまいをするのです。そこで、新しい理論が必要になりました。それが「量子論」です。量子論とは「非常に小さなミクロな世界で、物質を構成する粒子や光などがどのようにふるまうかを解き明かす理論」といえます。

3)量子論と日常生活の関係


こちらの絵も「13歳からの量子論のきほん」からのものです。量子論はミクロの世界で顕著ですが、実はミクロの世界だけの話ではありません。

量子論は、原子や電子といったとても小さいものがどのようにふるまうかを説明する、物理学の大理論です。現代の物理学は、一部の例外をのぞいて、すべて量子論という土台の上に築かれているといっても過言ではありません。量子論以前の物理学は、「古典論」とよばれます。原子より小さいようなミクロな世界は、古典論では説明がつかず、量子論という新しい理論が生まれたのです。

では量子論は、私たちが日常目にする世界(マクロな世界)とは、無関係なのでしょうか。実は量子論は、ミクロな世界であろうと、マクロは世界であろうと、自然界のすべてのサイズで適用できます。ただ、マクロな世界では、量子論の効果がほとんど見られなくなります。量子論が「ミクロな世界の物理法則」といわれるのは、量子論の効果が目立ってあらわれるのが、ミクロな世界だからなのです。

ただし、ミクロな世界もマクロな世界も、量子論だけですべてがこと足りるというわけではありません。たとえば、マクロな世界の物体の運動に量子論を適用すると、計算量が膨大になってしまいます。そこで実用上は、計算が楽な古典論が使われます。マクロな世界では、量子論による計算結果と古典論による計算結果が、ほとんど同じになるのです。

なおマクロな世界にも、量子論を使わないと説明できない現象はあります。「金属(導体)」「絶縁体」「半導体」の性質のちがいや、「超流動」や「超電導」といった現象です。

量子論であつかうミクロな世界の現象は、日常ではほとんど見ることができないので、量子論に慣れるのはむずかしいといえます。「人間が知覚できる世界は非常に特殊で限られている」という事実を、忘れないようにする必要があるでしょう。

この「ミクロとマクロ」、「古典論と量子論」の関係性をつかむことは重要と考えますので、専門的ですが、以下に「量子の世界」の“第五章 不確定性と相補性”から一部を引用させて頂きます。

なお、ポイントは「例えば細菌サイズであっても、不確定さは10億分の1しかないため、ニュートン力学でも問題ない誤差であるが、原子サイズになると不確定さは100分の1と高くなるため、いよいよニュートン力学では難しくなってくる」というような内容です。

いろいろな対象に対して、ハイゼンベルクの関係式がどの程度の意味をもつかのだいたいの感じをつかむためには、その対象のサイズと代表的な運動量を掛け合わせたものを、ブランク定数h―量子効果が重要となる目安―と比較してみるとよい。飛んでいるテニスボールについて言えば、量子論による不確定さはおよそ1000万×10億×10億×10億分の1(10のマイナス34乗)に過ぎないことがわかる。したがって、テニスボールは十分な高精度で古典物理学の決定論的法則に従っていると言ってよい。細菌でさえ、その効果はおよそ10億分の1(10のマイナス9乗)の程度で、量子世界を全く経験することはないのだ。だが結晶中の原子になると我々は量子世界の入口まで迫っていくことになり、不確定さが100分の1(10のマイナス2乗)になる。ついに原子の中を動き回る電子に至っては量子的不確定性が完全に支配的となり、我々は不確定性原理と量子力学を支配者とする正真正銘の量子世界に足を踏み入れることになるのだ。

実は、今回「ハイゼンベルクの関係式」を調べていて、大きな修正が起きていたことを知り大変驚きました。それは以下の記事です。なお、この修正は上記の内容(物質の大きさと法則の関係性)に大きな影響を与えるものではないと思われます。

【クローズアップ科学】ノーベル賞「重力波」に陰の立役者 名大・小澤正直特任教授、物理学の定説覆す理論で貢献 2017.10.8 10:00

“~ 量子力学を象徴するとされてきたハイゼンベルクの不確定性原理を表す不等式の破れ(欠陥)を正した「小澤の不等式」でも世界的に知られている。ハイゼンベルクの不等式は「物体の位置を正確に測ろうとすると、測定によって起こる運動量の乱れが大きくなる」ことを表す。測定誤差がゼロだと、運動量が無限大になるので、そのような測定はできないと考えられてきた。これに対して、小澤氏が2003年に発表した不等式は、誤差ゼロの測定が可能であることを示す。量子の世界の「不確かさ」には測定に伴う誤差や運動量の乱れと、測定とは関係なく量子が本来的に持っている位置や運動量の「揺らぎ」がある。小澤氏は、2つの「不確かさ」がきちんと区別されないまま80年にわたり定着していたハイゼンベルクの不等式の間違いを正し、完全な式を提示した。 ~”

4)量子論の二つの重要事項

●「波と粒子の二面性」:“電子や光は、波と粒子の性質をあわせもつ”

●「状態の共存(重ね合わせ)」:“一つの電子は、箱の左右に同時に存在できる”

これについてはここでは触れません。その代わり、勇気づけてくれる一文をご紹介します。それは「量子の世界」の“第九章 波を作る”の冒頭(添書き)に書かれているものです。

量子力学が本当に理解できている人はまずいないだろう、と言って私は間違っていないと思う。諸君はもしできるなら、「だが、どうしてそんなことがありうるのだろうか」と自分自身に問い続けるのはやめた方がよい。なぜならますます深みにはまって、袋小路をさまようのが落ちで、そこから出口を見つけて出てきた人はまだいないのだから。どうして量子力学ではそうなるのかは、誰もわかってはいないのだ。

なお、この文章は、リチャード・フィリップス・ファインマンの言葉です。ファインマンは、経路積分という新しい量子化の手法を考案し、この成果により1965年にノーベル物理学賞を受賞された物理学者です。

5)“コペンハーゲン解釈”とは

現在、解決できない宿題(既出の“シュレーディンガーの猫”の件など)はあるものの、量子論の代表的な解釈は“コペンハーゲン解釈”と呼ばれているものです。以下はネット上にあった「知恵蔵」による解説です。

『コペンハーゲン解釈は、N.ボーアやW.ハイゼンベルクらの立場に沿うもので、正統派解釈とされる。この見方では、量子世界の物理状態は重ね合わさり、波を形づくっているが、観測された瞬間に波はしぼみ、1つの状態に落ち着く(波束の収縮)。どの状態が観測されるかは、波の振幅をもとに確率論的に予想できる。収縮の原因として、測定する側(環境)が測定される側に乱れを起こすことなどが考えられている。』

一方、「量子論を楽しむ本」の中の説明は以下の通りです。

波の収縮」と「確率解釈」を二本の柱として、私たちに見られる前の電子と見られた後の電子のようすを理解しようとするこの解釈方法を、コペンハーゲン解釈と呼びます。

また、「13歳からの量子論のきほん」の説明は次のようなものです。


観測すると、電子の波が瞬時にちぢむ!? “とがった波”が、粒子のようにみえる

一つの電子は「波と粒子の二面性」をもちます。この矛盾したような事実は、どう解釈したらよいのでしょうか。コペンハーゲンを中心に活躍したデンマークの物理学者のニールス・ボーア(1885~1962)らは、「コペンハーゲン解釈」とよばれる解釈を提案しました。

コペンハーゲン解釈によると、電子は観測していないときは、波の性質を保ちながら空間に広がっています。しかし、光を当てるなどして電子を観測すると、波が瞬時にちぢみ、1か所に集中した“とがった波”になります(波の収縮)。このような波が、粒子のように見えるというのです。

電子は、観測すると、観測前に波として広がっていた範囲内のどこかに出現します。しかしどこに出現するかは、確率的にしかわかりません。このような解釈をすれば、電子などの「波と粒子の二面性」を矛盾なく説明できると、ボーアらは考えたのです。 


電子は、“分身”しながら広範囲に存在している 電子の波を、発見確率をあらわす波と考える

電子の波とは、いったいどんな意味をもつものなのでしょうか?

先にご紹介したように、観測前の電子は、波のように空間に広がっています。これをあえて粒子的な描像で考えると、「一つの電子が、漫画などにえがかれる分身の術をしている忍者のごとく、あちこちに同時に存在している」といったイメージになります。

電子が発見される確率は、電子の波の“山の頂上”または“谷の底”で最大になり、電子の波が軸と交わっているところでゼロになっています。このように電子の波を、電子の発見確率をあらわす波と考えるのが、量子論の標準的な解釈となっている「コペンハーゲン解釈」です。

電子の波を数学的にあらわしたものは、「波動関数」とよばれています。電子の波動関数が原子の中などで、どのような形をとるかを導くための量子論の基礎方程式を、「シュレーディンガー方程式」といいます。

3.おさらい

この“おさらい”は、「量子論を楽しむ本」の中にある“ミクロの世界の物理法則が明らかになる”の内容です。量子論を理解する上で、量子論を古典派と推進派の両面から理解することが重要ではないかと考えました。

ミクロの世界の物理法則が明らかになる

さて、3章(見ようとすると見えない波)でもさまざまな話をしてきました。最後は例によってこの章のポイントをおさらいしておきましょう。

原子中の電子の軌道半径がとびとびの値に限られるというボーアの量子条件の根拠を示すために、ド・ブロイは電子を波であると考えて、その波長を求めた。

シュレーディンガーは電子の波を表すシュレーディンガー方程式を導き、電子の「とびとび」のエネルギー状態などの説明に成功した。

しかしシュレーディンガー方程式が示す波動関数ψ(プサイ)、すなわち電子の波(これは複素数の波である)の正体はわからなかった。

④ボルンは波動関数ψそのものが何を表すのかを考えずに、代わりにψの絶対値の二乗が、電子をその場所に発見する確率に比例することを見いだした(「波動関数の確率解釈」)。

ボーアたちは、観測される前の電子はさまざまな位置にいる状態が「重ね合わせ」になっているが、私たちが電子を観測したとたんに「波の収縮」が起きて電子は一ヶ所で発見されると考えた(「コペンハーゲン解釈」)。

こうして1920年代に、原子中の電子が示す不思議な現象をきちんと説明できる理論を、私たちはついに手にすることになりました。そしてその結果わかったのは「電子などミクロの世界は、私たちが知っていた物理法則とはまったく違うルールに支配されていたのだ」ということです。

その新たなルールの第一は、シュレーディンガー方程式に代表される波動力学(量子力学)です。ミクロの世界の物質は、それを「波である」と考えることでふるまい(動きやエネルギー)などを求めることができるのです。

そしてもう一つのルールが「確率」です。私たちが電子を発見する場所は、サイコロを振って決められるかのように、確率的に決定されるというのです。

このおさらい①~⑤を眺めると、古典派と推進派の違いは、波動関数の正体にこだわり歩を止めたアインシュタインやシュレーディンガーなどの古典派(決定論[ニュートン以来の物理学の大前提]を尊重)と、波動関数の正体を明らかにすることを先送りし、波動関数の存在を前提として量子論の開拓を積極的に進めていったボーアたちの推進派、という構図が思い浮かびます。

付記

「量子論を楽しむ本」の第3章“見ようとすると見えない波”と聞いて思い出したのは、壺と顔の絵です。調べてみるとそれは『ルビンの壺』と呼ばれていました。「壺に集中すると顔に気づかず、顔に集中すると壺に気づかない」というものです。もちろん、これは量子論の“波の収縮”とは全く無関係ですが、ちょっと面白いのでアップしました。 

不安障害2

今回は、前回の”不安障害1”の続きになります。

 

著者:水島広子

出版:技術評論社

初版発行:2010年10月

第8章 身近な人との不安とのつきあい方

不安障害の人に接する基本姿勢

 解決できる不安と感じるしかない不安を区別する

●『一般に、不安の強い人をめぐって混乱している状況を見ると、周りの人が本人の不安を解決しようとしてしまっている、ということが多いものです。「心配しない方がいいよ」というものも含めて、さまざまなアドバイスを与えているのです。

実は、アドバイスには大きな問題があります。アドバイスというのは、現状はよくないから変えるべきだ、というメッセージをもともと含んでいるものです。

●『感じるしかない不安を前に混乱している人は、自分の不安にも不安を感じているものです。自分が不安であることも不安だという状態の人に向かってアドバイスをしてしまうと、自分が不安であることへの不安がますます強くなってしまいます。「やっぱりこのままではいけないんだ」と思ってしまうのです。』(”感じるしかない不安”については、”不安障害1”の中の第1章にある”解決すべき不安と感じるしかない不安”を参照ください)

●『そもそも「感じるしかない不安」を感じているわけですから、「心配しない方がいいよ」と言われても、どだい無理な話なのです。』

 気持ちをよく聴き肯定する

●『「こんなときには不安になるよね」と、不安を肯定してあげるのが最も適切な対処です。聴いてあげることは重要です。感じるしかない不安は、原則として、安全な環境で表現するとだんだん落ち着いてくるものだからです。安全でない環境というのは、自分の不安が不適切だと思われるような環境のことです。すぐにアドバイスされてしまうような環境は、「あなたの不安は不適切だからすぐに変えなさい」と言われているのと同じことになってしまいます。

「治療者」ではなく「支え役」を引き受ける

 治療は専門家に任せる

●『治療者は、専門知識に基づいて事態を改善していく役割、そして、身近な人はそれを支える役割を果していただきたいのです。

●『本人が焦ったり、その中で挫折する自分を責めたりしてしまうようだったら、「ゆっくりやろうね」「まだまだ無理しなくて大丈夫」と安心させてあげるのです。

●『引きこもっているケースなどでは、本人にハッパをかけないと本当に一生引きこもったままになるのではないかと思われることもありますが、ハッパをかけても解決にはなりません。ハッパのかけ方によっては、やはり心の傷や対人不信につながります。もちろん、治療的な刺激を与えることはプラスになりますが、その方針を考えるのも、専門性のある治療者の仕事です。』

 受診の勧め方

●『受診を勧める際には、いくつか注意したい点があります。不安障害の方は、不安の基本レベルが高くなっていますので、普通だったら不安に思わないようなことにでも不安を感じやすい状態になっています。「これは不安障害だから病院に行った方がいいよ」とだけ言ってしまうと、「不安障害」「病院」という言葉に反応し、「私はそんなにおかしいの?」「これからどうなってしまうの?」「病院だなんて、そんな怖いところ…」と、どんどん不安が燃え上がることにもなってしまいます。』

●『情報を提供する自分が落ち着いているかどうかに注目するとよいでしょう。自分の不安を投げかけるような形で情報提供してしまうと、本人はさらに不安になってしまいます。

●『本人がどう思っているのかという気持ちを必ず聞きます。何であれ変化は不安を喚起するものですが、安心できる環境で気持ちを話せれば不安は軽くなるからです。』

 

画像出展:「正しく知る不安障害」

身近な人がパニック発作を起こしたら

 まず自分が落ち着くこと

●『一緒にいる人がパニック発作を起こしたら、まず自分が落ち着きましょう。自分がパニックになってしまうと事態がややこしくなります。「どんな不安発作も、30分程度でおさまるのだ」という原点に戻りましょう。そして、それを少しでも早くスムーズにするためには、安心と呼吸だということを思い出してください。』

●『一緒にゆっくり呼吸してあげるのもよいでしょう。「ゆっくり吸って―」「吐いて―」と、呼吸のペースをとってあげるのです。』

●『パニック発作は、時間がたてば必ずおさまります。むしろ、一緒にいる人が不安になってそれを本人にも伝染させてしまうと、それが次の刺激になって不安がもっとひどくなる、ということにもなります。』

 

画像出展:「正しく知る不安障害」

「怒り」という名の不安に対処する

 怒っている人は困っている人

●『何かで困って、「どうしよう」と不安になると、相手に怒りをぶつけてしまうのです。これは、「八つ当たり」と呼ばれるものと同じ現象です。自分の不安を不安として引き受けることは、案外勇気とエネルギーを要するものです。自分の不安を引き受けて向き合うよりも、それを相手への怒りとしてぶつけてしまった方が楽だと感じる人は多いのです。』

 反撃しないで安心させてあげる

●『相手の攻撃を攻撃として受け止めずに、本来の不安として受け止めてあげることです。これは、相手のためというよりも、自分のためだと思ってください。表面的には口汚く攻撃している人でも、本当のところはただ不安なだけなのだ、という目で見てみると、見え方が明らかに変わると思います。』

不安の土俵に乗らない

 不安障害の不安はそのままの次元では解決しない 

● 『不安障害の人に対応する上で重要なのは、相手の不安の土俵にのらないということです。不安障害の人の不安を、そのままの次元で解決できることはまずないと思ってください。』

第9章 怖れを手放す

不安を単なる感情に戻す

 感情としての不安と、心の姿勢としての怖れ

●『不安障害が治るということは、不安を、単なる感情という本来の立場に戻してあげることです。』

●『不安障害の最中には、不安は自分の人生を支配する巨大な存在になっています。自分の全存在が、不安によって振り回されているのです。この、「化け猫」ならぬ、「不安のお化け」が不安障害です。不安は、なぜ「不安のお化け」になってしまったのでしょうか。細かく見れば、それは、本書で述べてきたような悪循環によってどんどん大きくなった、と言えるわけですが、さらに大きな目で見ると、不安は「怖れ」を吸収すると「お化けになるのだと言えます。』

●『痛みは、それが単なる感覚である限りは、ただの痛みです。でも、「痛みとは怖ろしいものだ」と、「怖れ」が加わると、「痛みのお化け」になって、生活を支配することにもなってしまいます。例えば、いつもいつも痛みのことばかり気にするようになってしまう、という状況を考えていただくとよいと思います。不安についても全く同じことで、単なる感情である限りは、ただの不安なのですが、不安を怖れてしまうと、「不安のお化け」になるのです。

 不安をコントロールしようとしない

●『不安を怖れないということは、本書で述べてきたように、不安に関してコントロール感覚を持つということです。重要なのは、「不安をコントロールする」ではないということです。不安は、状況の意味づけを教えてくれる感情ですから、必要なときには出てきます。そうやって不安が出てくることも含めて、受け入れることができれば、コントロール感覚を持つことができますし、不安に対する怖れを手放すことができた、と言えるでしょう。』

●『不安をコントロールしようとしてしまうことの何が問題なのかというと、そもそも不安は状況に応じて出てくる感情なので本当にコントロールすることができないということもありますが、さらに重要なのは、不安をコントロールしようとする姿勢が、怖れの姿勢だからです。

現在に生きる

 安心は現在にしかない

●『不安が強いとき、私たちは現在のありのままを経験していません。現実に「不安」というモヤがかかったようになっていて、実際に見ているのは、モヤを通した現実どころか、場合によってはモヤしか見ていないということもあるのです。モヤの中にこそ不安障害を維持する悪循環があります。』

●『認知療法は、モヤをよく観察して、所詮はモヤに過ぎないということを知るための治療法です。また、対人療法は、モヤの向こうにある現実とやりとりをして、モヤを晴らしていく治療法です。』

●『安心は現在にのみあります。未来には常に未知の要素がありますので、そこには100パーセントの安心はありません。でも、今現在に集中することができると、そこには不安の入り込む余地がなくなるのです。』

自分の歩みにコントロール感覚を持つ

 「前向き」よりも「後ろ向き」がよい

●『「前よりも後ろを向く」というやり方がお勧めです。どういうことかと言うと、「まだできていないこと」ではなく、「ここまでにできるようになったこと」を見るということです。

具体的には、未来のことはできるだけ考えないようにし、目の前のことだけをやる。そして、未来のことが不安になってきたら、病気に取り組む前の自分や、一年前の自分などと比較して、「こんなによくなったんだ」ということを感じてみるのです。前頁で「現在に生きる」ことをお勧めしたのに、過去を振り返るというのは矛盾していると思われるでしょうか。これは、過去を振り返っているようでいて、実は現在の自分の力に気づくやり方です。』

 人と比較したくなったときは

●『人と自分を比較するときには、私たちは、人の「よさそうな部分」や自分の「だめな部分に目が行ってしまうものです。特に、不安が強いときには、自分の不安を刺激するような形で見てしまいます。そんなときにも、比較対象を「他人」にするのではなく、「過去の自分」にしましょう。一番状態が悪かった頃の自分と比べてみるのです。すると、自分が、決められた道の上を着々と歩んできたことがわかると思います。これからもこの道を進んでいけばよいだけであって、「他人」に目がくらんでこの道から落ちてしまうことが最も問題なのだということに気づいていくでしょう。』

不安障害1

高齢の患者さまの中には、「ちょっと心配しすぎではないかな」と思うことがたまにあります。もちろん、高齢ゆえに多くの不安材料が存在していることは十分に想像できます。

誰もが抱くような強い不安感と病的な不安障害との差はどんなものなのか、これを知ることは必要だろうと思い、いくつかあった候補の中から、今回の本を選択しました。

ブログは大項目(章)、中項目の目次のご紹介に引き続き、各章にある小項目の中で特にお伝えしたい小項目を選び、その一部を記述していますが、不安障害1(「はじめに」から「第4章」まで)と不安障害2(「第8章」「第9章」)に分けています(「第5章 不安と認知」「第6章 不安と行動」「第7章 不安とトラウマ」には触れていません)。なお、後者の不安障害2は次週になります。 

 

著者:水島広子

出版:技術評論社

初版発行:2010年10月

目次

はじめに

第1章 不安とは何か

不安は何のためにあるのか

解決すべき不安と感じるしかない不安

パーソナリティと不安

不安のさまざまな表現型

第2章 不安障害とは何か

不安障害という病気

なぜ不安障害になるのか

不安障害を維持する悪循環

不安障害を病気として扱うことの意義

不安障害の治療

第3章 不安と身体

不安のときに身体に起こること

パニック障害

呼吸に注意して身体感覚をコントロールする

身体からのメッセージを受け止める

不安に強い身体作り

第4章 不安と対人関係

対人関係に対する不安

社交不安障害

社交不安障害を維持する悪循環

不安をコントロールするコミュニケーション

相手の事情を考える

第5章 不安と認知

不安の時に頭の中で起こっていること

認知療法

バイロン・ケイティの「ワーク」

第6章 不安と行動

不安と回避の悪循環

強迫性障害

行動療法

第7章 不安とトラウマ

PTSDは不安障害

トラウマによる離断をつなぐ

人との関係の中でトラウマを位置づける

第8章 身近な人との不安とのつきあい方  ※次週

不安障害の人に接する基本姿勢

「治療者」ではなく「支え役」を引き受ける

身近な人がパニック発作を起こしたら

「怒り」という名の不安に対処する

不安の土俵に乗らない

第9章 怖れを手放す  ※次週

不安を単なる感情に戻す

現在に生きる

自分の歩みにコントロール感覚を持つ

不安障害から学ぶ

あとがき

はじめに 不安障害へのコントロール感覚を見につけよう

 不安障害の中にある二種類の不安

●『不安障害のときには不安がとても高まっているのですが、不安障害の方たちの苦しみは、病気本来の症状としての不安だけにあるわけではありません。むしろ、「自分に何が起こっているのかわからない」「自分がこのままどうなってしまうのかわからない」といった、「不安障害という未知なもの」に対する不安に苦しめられている要素も大きいのです。その二種類の不安は区別されることなく混ざり合って互いに増幅し合い、「とにかく不安」という苦しい状態が作り出されてしまいます。』

 人間の健康に必要な「コントロール感覚」

●『自分が事態をコントロールできている、という感覚は安心と自信をもたらすものです。日々の生活の中であまり意識することはないかもしれませんが、「いつも通りに暮らしていればだいたい大丈夫」「まあ、何とかなるだろう」というような感覚は、コントロール感覚を反映したもので、健康に暮らしていくためには必要なものです。』

 「不安障害への不安」は解消できる

●『病気についてよく学び、そこで起こっていることの意味を知ることは、大きなコントロール感覚につながります。苦しい症状は続くとしても、それがしょせんは症状にすぎないということを知るだけでも、実はかなりのコントロール感覚がもたらされます。』

 不安との主従関係を逆転させる

●『不安に対してコントロール感覚を身につけていくためには、不安という感情の機能をよく知ることが大切です。』

●『不安を感じたとしても、その不安に支配されなくなるのであれば、そして、その不安をプラスに生かしていくことができれば、世界の見え方が今とは全く変わることでしょう。』

第1章 不安とは何か

不安は何のためにあるのか

 感情には役割がある

●『感情は、「この状況が自分の心にとってどういう意味を持つか」を教えてくれるものなのです。』

 悲しみや怒りの役割

●『身体の怪我と同じように、心の傷も、安静にして大事にする時間が必要です。実際に、この時期に悲しまなかった人は後でうつ病になったりするのです。』

●『心の病になる人の多くは、怒りとのつきあい方が苦手です。怒りは「よくない感情」だと思ってしまうので、感じることも、表現することも、抑制してしまうのです。すると自分にとって不利な状況が改善されず、ストレスがたまっていき、何らかの病気になることもあります。』

 感情とのつきあい方の目標

●『状況の意味を教えてくれ、結果として適切な対処を可能にしてくれる感情は、私たちに自然に備わった自己防衛能力であると言えます。』

●『「悲しみや怒りを感じない人になろう」という目標を立ててしまうと、「熱いものに触っても感じない人になろう」と言っているのと同じくらいおかしなことになってしまうのです。』

●『感情をよく見つめて、状況の意味を学び、その中で自分がすべきことを考えられるようになる、ということが目標になります。

 不安の役割

●『「不安」は「安全が確保されていない」ということを知らせてくれる感情です。この先の安全が確保されていないので、不安を感じるのです。未知のものに不安を感じるのはそれが理由です。ですから、不安は安全確保のために重要な役割を果たします。』

 

『例えば、真っ暗闇で山道を歩いていたら、すさまじい不安を感じるでしょう。それこそ一寸先がどうなっているかわからないからです。』

画像出展:「正しく知る不安障害」

解決すべき不安と感じるしかない不安

 解決すべき不安

●『人との関係の中で、「あの人は私の言ったことを誤解したのではないか?」と思うととても不安になります。「自分の言ったことをきちんと理解して受け入れてくれた」という安全が確保されていないからです。このようなときには、相手に確認してみることで安全を確保することができます。』

 感じるしかない不安

●『新しい土地に引っ越すようなときには、どれほど準備しても不安をゼロにすることはできないでしょう。それは、新しい土地はやはり未知のものだからです。準備でカバーできる領域は限られていて、あとは、そのときになってみないとわからないことが残ります。そのような不安は、感じるしかない不安だということになります。』

 当たり前の不安

●『感じるしかない不安に対して、悪循環から抜け出すにはどうしたらよいかというと、不安であるということを「当然のこと」として受け入れるのが一番です。』

●『「新しい土地に引っ越すのだから、不安なのは当たり前」と思えれば、それ以上の意味はなくなります。』

●『「気にしないようにする」という対処法も軽い不安には有効ですが、不安がある程度以上の強い場合には逆効果になります。なぜかと言うと、「気にしないようにしよう」と思っても結局不安が出てきてしまい、状況をコントロールできない自分がますます不安になってしまうからです。』

 不安はストレスだと認める

●『不安に駆られているとき、私たちは「何とかしなければ」と焦ってしまうので、普段以上に動き回ってしまうのです。身体が動けずに固まっている場合でも、頭の中は大忙しです。ただでさえストレスの高まる時期なのに、さらに自分で負荷をかけてしまうので、結果として心身が受け取るストレスの量は相当なものになります。』

 自分の不安を周りの人と共有する

●『「当たり前の不安」を乗り越えていくためには、周りの人たちに、自分が今どういう不安を抱えていて、何に気をつけて生きているのか、その上でどういう協力をしてほしいのかを伝えて、理解したり共感したりしてもらうことが必要です。これは、事態をスムーズにするだけでなく、対人関係の質も向上させることになるでしょう。感情を打ち明け合ったときに人は最もつながりを感じるからです。また、自分が間違いなく相手の役に立てているという感覚は、人間にとって深い満足感につながるものです。』

不安を感じたときに、安全確保のためにできることがあれば、できるだけやってみる。それでも残る不安は、「当たり前の不安」として認める。そして、自分にとってストレスのかかる時期だということを認識して、普段よりも無理せず余裕をもって暮らすように心がける。さらに、それを周りの人に伝えて、理解を深めてもらい、協力してもらう。こんなふうにできれば、不安が立派に役割を果たしたと言えるでしょう。』

パーソナリティと不安

 人間の性格(パーソナリティ)の構造

●『不安はもともとのレベルにかなり個人差があります。』

 

『現在、精神医学の研究でよく用いられるものにクロニンジャーという米国人精神医学者が提唱した「七因子モデル」があります。』

『七因子モデルは、遺伝的な影響が強い四因子と、環境的な影響が強い三因子に分けて分類しているところに特徴があります。』

『基本的な「性格」は変えられないけれども適応力は上げられる、といったところでしょうか。』

画像出展:「正しく知る不安障害」

 不安を感じやすいパーソナリティ

●『不安と直接関係のあるパーソナリティ特性は、遺伝的な影響が強い因子の一つである「損害回避」と呼ばれているものです。文字通り、困ったことにならないように物事を避ける傾向のことで、一般的な概念としては、「心配性」「慎重」などが近いと思います。不安障害の人は、この「損害回避」が高いことが知られています。』

 「損害回避」を生かせる人と振り回される人

●『後天的な影響が強いパーソナリティ特性です。三つのパーソナリティー特性の中でも、特に「自己志向」が、さまざまな不安障害と関係することがわかっています。』

●『「自己志向」が高い人を、普通の言葉で言うと、「自分をしっかり持っている人」「安定した自信がある人」という感じになるでしょうか。』

●『「損害回避」が高く、「自己志向」が低い人は、不安に振り回されるようになってしまいます。自らの「損害回避」が知らせてくれる不安に対して、「こんなに不安でどうしよう」とパニックになってしまうのです。すると、本来は自らの特徴にすぎない「損害回避」に人生を振り回されるようになってしまいます。やりたいか、やりたくないか、ではなく、不安を基準に物事を決めるようになってしまい、自分の人生がかなり制限されて感じます。』

 不安に振り回されると「自己志向」が下る

●『不安に振り回された結果として、事態をコントロールできない自分にますます安心できなくなる。つまり、ますます「自己志向」が下る、という方向性です。』

 「自己志向」は高めることができる

●『自分が不安にうまく対処できるという自信をもつことは、「自己志向」を高めることにほかならないからです。』

 パーソナリティ特性から見る不安とのつきあい方

『以上のことをまとめると、生まれつき「損害回避」が高い人は、不安が強い人だといえますし、不安になりやすい人だと言えます。しかし、だから不安障害になるというわけではなく、後天的な要素、特に「自己志向」が低いと、不安に振り回されて不安障害になる、ということだと思います。』

不安のさまざまな表現型

 不安は不安として表現されるだけではない

●『不安は不安として対処するのが最もうまくいきます。』

 他人に過干渉になる

●『過干渉は、不安を反映したものであることが多いのです。』

 イライラする

●『イライラしている人も、それが不安の表現型であることが多いものです。』

●『自分自身の不安に築いていないことが多く、「自分をイライラさせる相手が悪い」と思っていることが多いのです。』

 攻撃的になる・暴力をふるう

●『ドメスティック・バイオレンス(DV:家庭内暴力)も、要は自らの不安に向き合えていないということがほとんどです。』

 

 原因不明の身体症状が出る

●『不安を不安として感じたり、表現できないと、めまい、頭痛、胸の苦しさ、しびれなど、身体症状に表れることがあります。』

 

画像出展:「正しく知る不安障害」

 

画像出展:「正しく知る不安障害」

 

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第2章 不安障害とは何か

不安障害という病気

 不安障害とは

●『不安を主症状とした病気のグループを「不安障害」と呼んでいます。』

 パニック障害

●『動悸、発汗、震え、息苦しさ、窒息感、胸部不快感、めまいなどを伴うパニック発作(強い不安発作)が予期しないときに繰り返し起こり、また発作が起こったらどうしようという恐怖のために行動パターンが変わってしまう病気です。』

 社交不安障害(社会不安障害、社会恐怖)

●『人との関りにおいて、自分が人からどう思われるかということについての不安が強すぎる病気です。』

 強迫性障害

●『「~したらどうしよう」「~するのではないか」という考え(強迫観念)が頭に浮かび、その不安に苦しめられるというのが強迫性障害の本質です。』

 全般性不安障害

●『多くのことについての、過剰でコントロールできない不安や心配が、起こる日の方が起こらない日よりも多いという状態が六カ月以上続いているという病気です。』

 健康な不安と病的な不安の違い

●『手を洗わないとばい菌に汚染されるというのは、間違っていません。そして、実際に、健康な人たちも同じ目的で洗っています。強迫性障害の人とどこが違うのかというと、「そこまでは気にしない」というところです。つまり、不安障害の人が抱く不安は、「わかるけれども、そこまで気にしていたら生活が成り立たないでしょう」という性質のものなのです。』

●『不安障害の不安は、病気の症状ですので、コントロールできないところも特徴の一つです。』

なぜ不安障害になるか

 きっかけが明らかでない不安障害

●『不安障害の中でも、社交不安障害や強迫性障害は、いつ始まったかが特定できない場合も多く、「気づいたらなっていた」という人も少なくありません。』

 きっかけが明らかな不安障害

●『パニック障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、いつ始まったかを特定することができるのが一般的です。』

 子どもを不安障害にしないために

●『不安障害の人の家族に不安障害が起こりやすいということは、すべてが遺伝のためとは言えません。不安の強い人は、不安の強い子育てをするでしょうから、そこからも影響を受けることになります。』

●『子ども自身の不安にもよく耳を傾け、批判するのではなく一緒に対処してあげるようにすれば、「自己志向」はやはり高まるでしょう。その際、「代わってあげる」という過保護な対処ではなく、子どもが自分自身の力で安心して取り組めるようにしてあげることが必要です。

不安障害を維持する悪循環

 不安と思考の悪循環 

 

画像出展:「正しく知る不安障害」

 不安と回避の悪循環

●『不安障害の人は、自分の不安を刺激するような状況を避けるようになります。この「回避」は、不安障害の重要な症状の一つです。回避によって、日常生活がままならなくなったり、自分にとって明らかに有利なことや必要なことすら避けるようになったりしてしまうからです。

回避は、短期的にはよい選択に見えるかもしれませんが、長い目で見ると逆効果です。回避してホッとすると、「次の避けなければ」という思いが強まるからです。これは、実際に怖い思いするのと同じような効果を生み、「この状況は怖ろしいのだ」という信念を心身に植え付けます。

また、そのような状況を回避し続けている限り、「慣れる」こともあり得ません。実際に何が起こるのか、という現実観察もできないのです。

そして、人間は、何かを回避し続けている自分によい気持ちを持つことはありません。特に、周りからは理解してもらえないテーマの回避は、隠したくなります。隠すこともストレスですし、そんな自分はだめだという気持ちが強まります。自分はだめだという気持ちは、不安に対して前向きに取り組むことを難しくします。ですから、不安と回避も、終わりのない悪循環に陥ってしまうのです。』

 不安障害の治療

 対人関係療法

●「対人関係療法では、身近な人間関係と症状との関連に注目して治療を進める。発症のきっかけになった対人関係上の出来事や変化は何か、発症してから、症状によって身近な人間関係がどのような影響を受けているか、また、身近な人間関係によって症状がどのように影響を受けているか、ということに注目していきます。強迫性障害以外の不安障害に対して、効果が示されてきています。

第3章 不安と身体

不安のときに身体に起こること

 「修理」が必要なのはセンサー

●『「闘争か逃避か」反応が起こらない身体になったらよいのに、と思われるかもしれません。しかし、問題は「闘争か逃避か」反応にあるのではありません。その状況を「脅威」ととらえてしまうところに問題の本質があるのです。

「闘争か逃避か」反応は、火災報知器のサイレンのようなものです。ここで修理が必要なのは、センサーです。魚を焼いただけなのに火事だとみなしてサイレンが鳴ってしまっているのです。魚を焼いた程度ではセンサーが働かないように、修理すればよいのです。サイレンそのもの(「闘争か逃避か)反応」を鳴らなくしてしまうと、本当の火災のときに困ってしまいます。』

 パニック障害

 「苦しさ」と「意味づけ」の混同

●『どんな人にもパニック発作は起こり得ますし、特に初回のパニック発作はどんな人にとっても本当に怖ろしく感じられるものです。それまでに全く経験のない、異常な体験だからです。しかし、パニック発作で死ぬこともなければ、気が狂ってしまうわけでもない、ということは事実として残ります。この事実を前に、「パニック発作は苦しいけれど、命に関わるわけではないから」と考えることができれば、パニック障害にはなりません。パニック発作の苦しさと、その意味づけが、うまく区別されているのです。

パニック障害の人も、それまでのパニック発作で「最悪の事態」にならなかったことは認めています。しかし、次の発作が起こると、「今度こそは最悪の事態になるのではないか」と考えてしまうのです。この思考は強い不安を生みますから、もちろんパニックもひどくなります。そして、「こんなにひどい状態なのだから、やはり今度こそは最悪の事態になるのだ」とさらに思うという悪循環に陥ってしまうのです。

ここでは、パニック発作そのものの苦しさと、その意味づけが混同されていると言えます。そして、パニック障害の悪循環から脱するためには、この二つを区別していくことが重要です。これは、パニック発作に対してコントロール感覚を持つということに他なりません。パニック発作そのものはコントロールできなくても、それがなぜ起こるのか、どう対処することが最も適切なのか、ということを知れば、コントロール感覚を持つことができ、パニック障害を治すこともできます。』  

呼吸に注意して身体感覚をコントロールする

 呼吸は自律神経に影響を与える

●『呼吸というは面白いもので、自律神経にコントロールされる部分と、自律神経をコントロールする部分があります。』

●『自分の意思で細く長く呼吸すると、副交感神経優位の状態、つまり、リラックス状態を作り出すことができます。』

 過呼吸のときに起こること

●『精神的な要因による過呼吸で死ぬことや後遺症を残すことは決してなく、どんなに強い発作でも、時間とともに必ず軽快していきます。身体はまたきちんとバランスをとって、通常の状態に戻るようにできているからです。』

●『パニック発作のときには、「息苦しい」と感じる人が多く、呼吸が足りないと感じられるものですが、実際には呼吸しすぎの状態になっていることがほとんどです。そもそも、「闘争か逃避か」反応のときに呼吸数が増えるのは、すぐに走って逃げられるように酸素吸入量を増やすためですが、私たちは不安反応が起こったときに必ずしも走って逃げるわけではないので、そんなに酸素は必要ないのです。すると、酸素が余った状態が作られてしまい、それが過呼吸の症状につながっていきます。』

●『パニック発作は、過呼吸によって誘発することができるということが知られています。治療の場以外では試さないでいただきたいのですが、過呼吸を続けると、パニック発作が起こるのです。「脅威」を認識すると「闘争か逃避か」反応で過呼吸になるというのも一つの事実ですが、同時に、過呼吸によって不安反応が誘発されているという側面もあるのです。』

 呼吸をコントロールする

『一分間に十二回以上呼吸をしていたらおそらく過呼吸です。』という記述が本書にはあります。

そこで、自分自身の呼吸回数を数えてみたところ、16回だったので「え、過呼吸ってこと?」と疑問に思い、ネット検索から日本呼吸器学会のサイトを見つけ確認しました。すると、そこには約12回~20回が一般的、25回以上を“頻呼吸”と言い、“過呼吸”とは呼吸の深さが増加することと書かれていました。

また、同サイトには病名としての“過換気症候群”の説明の中に「肺や心臓の検査を行っても異常が認められず、何も認めないにもかかわらず発作的に息苦しくなって呼吸が速くなるような状態をきたすことがあります。このことを過換気と呼びます。」とありました。つまり、正常とは言えない呼吸には“頻呼吸”“過呼吸”というものがあり、我々が日常的に耳にする”過呼吸”の現在の正式名は”過換気”であり、病名としては”過換気症候群”であるということが分かりました。 

『換気とは、呼吸運動によって空気を肺胞へと運ぶ働きのことです。呼吸は、無意識な状況で規則正しく1分間に約12から20回行われています。呼吸が速いとは、1分間に25回以上行われる状況で、「頻呼吸」と言います。「過呼吸」とは、呼吸回数に変化はないが、呼吸の深さが増加することを言います(通常、呼吸回数も多くなると考えられています)。』

 筋肉の緊張をコントロールする

●『呼吸のコントロールと共に、筋肉の緊張をコントロールする筋リラクセーション法を覚えると、さらに効果が増します。リラクセーション法にもいろいろありますが、力を抜こうとしてもかえって緊張してしまう人の場合には、まず筋肉に力を入れてから抜く、という方法をとるとリラックスしやすいです。なお、息を吐くときに筋肉はゆるみます。筋肉を弛緩させるときには、息を同時に吐くと、リラックス効果が高まります。』

身体からのメッセージを受け止める

 症状よりも先にストレスに気をつけるように

●『パニック発作は心身のストレスのもとに現れるということをお話ししましたが、睡眠不足や過労、かぜ、二日酔いなどはパニック発作を起こしやすい状況を作ります。このようなときには、「パニック発作が起こってしまった」というところに注目するよりも、「パニック発作が起こりやすいコンディションにあったのだ」というところに注目した方がはるかに有益です。』

不安に強い身体作り

 定期的に運動する

●『「闘争か逃避か」反応に襲われて苦しくなってしまったときには、とりあえず身体を動かすことによって抜け出すこともできます。』

 食べ物に気をつける

●『低血糖もパニックの引き金になります。ダイエット中の低血糖からパニック発作を起こす人もいますので、パニック発作を起こしている人は基本的にダイエットは避けるべきです。健康上の理由で体重を減らす必要がある場合は、医師の指導のもとで行ったほうがよいでしょう。』 

 

画像出展:「正しく知る不安障害」

 

画像出展:「正しく知る不安障害」

第4章 不安と対人関係

対人関係に対する不安

 対人関係に対するコントロール感覚

●『自分が周りの人とうまくいっているという感覚と、自分が周りの人に受け入れられているという感覚が持てると、心の健康度は大幅に高まります。そのときに感じる「自分に何があっても、人の関係の中で何とかなるだろう」という感覚が対人関係に対するコントロール感覚ということになります。』

 対人関係療法

●『対人関係療法は、身近な対人関係と症状との関連に注目していく治療法です。そこで目指していくことは、対人関係に対するコントロール感覚を高めて、症状を改善していくことです。』

 「役割期待のずれ」というものの見方

●『あらゆる対人ストレスを、「役割期待のずれ」と見ることができます。「ずれ」は、自分が相手に期待したことをやってもらえないときだけでなく、相手が自分に期待していることが、自分がやりたくないことだったりできないことだったりする場合にも生じます。

対人ストレスを「役割期待のずれ」として見ると、解決も可能になりますし、何よりもコントロール感覚を持つことができます。

 コミュニケーションに注目する

●『役割期待は、それを伝え合うコミュニケーションが貧弱だとずれてしまいます。

不安が強い人は特に要注意なのですが、不安のあまり、曖昧なコミュニケーションをしてしまうと、それだけずれる可能性が高くなります。自分の気持ちと、相手にやってもらいたいことを、直接、純粋に伝えるコミュニケーションが最も効果的です。』

 「役割の変化」という視点

●『不安障害の発症のきっかけには「それまでのやり方から切り離されて、自分のやり方を見失う」というテーマが共通していますが、これは、対人関係療法で「役割の変化」として治療の焦点とされるものです。変化に伴う感情や、身近な対人関係の変化に注目して治療を進めていきます。』

社交不安障害

 社会不安障害という病気

●『社交不安障害の本質は、人からネガティブな評価を受けることへの不安だと言えます。』

●『社交不安障害のもう一つの特徴は、そんな自分をネガティブな目で見ているというところにあります(子どもの場合を除く)。自分は「気にしすぎ」だと思っているのです。そう思っているからこそ、ますます自分がだめに思えて、人の評価が気になる、ということになります。』

社交不安障害を維持する悪循環

 身体反応による悪循環

●『社交不安障害では、不安に直面する状況で、不安反応が起こります。「闘争か逃避か」反応が起こるのです。すると、胸がドキドキしたり、声がうわずったり、手が震えたりします。これらは、もともと「恥ずかしい思いをするのではないだろうか」という不安を抱えている人にとっては、不安を強めることにほかなりません。声がうわずったり、手が震えたりすることは「恥ずかしい」ことだからです。これが、社交不安障害を維持する一つの悪循環になります。』

 「自分」に注目することによる悪循環

●『人前で話すときには多くの人が緊張しますが、場数を踏んでいくとだんだん慣れてきます。毎回不安を維持するというのは、案外エネルギーを使うものなので、人間は基本的には慣れる体質になっています。 ~中略~ 社会不安障害の人の場合は、そうはいきません。常に、人前で話すときの「自分」に目が向いていますので、観察するのは常に「自分」です。もちろん相手の反応もよく見ていますが、常に、「自分の話し方をどう思っているか」というポイントに絞られてしまうので、相手の事情などは視野の外になってしまいます。』

 センサーを修理して悪循環から脱する

●『社会不安のセンサーを修理するためには、現実の人と触れ合う必要があります。社会不安障害は、人とのやりとりにおける不安障害のように見えますが、実際にはそこに現実の「やりとり」はほとんどありません。社会不安障害の人は「他人」を気にしていますが、そこで見ているのは「自分の話し方をどう思っているか」という部分だけであり、いろいろな事情を抱え、いろいろな気持ちを持って生きている相手そのものではありません。

実際に相手とやりとりをして、受け入れられる体験をしたり、相手にもいろいろな事情があることを知ったりすることによって、だんだんと「脅威」のセンサーが修正されてきます。

 自分の「対人関係の常識」を見直してみる

●『社会不安障害になると、自分自身をさらけ出すことができなくなるため、ますます「本当の人間関係」を学ぶ機会が減ってしまいます。治療の中で、実際に人とのやりとりをしていくと、外面の評価以外の人間関係の要素を体験していくことができます。社会不安障害の治療とは、自分の「他人関係の常識」を見直していくプロセスだ、と位置づけておくと、新たなチャレンジをしやすくなります。』

不安をコントロールするコミュニケーション

  自分のコミュニケーションのクセを知る

●『自分のクセを知るために、「コミュニケーション分析」という技法を使ってみましょう。不安やストレスにつながったやりとりを振り返って、それぞれが何と言ったのかを、シナリオのように再現してみるのです。そのセリフを言ったとき、自分はどんなふうに思っていたか、何を伝えたかったのかも書いてみます。そして、その言い方で相手にそれが伝わっただろうか、と考えてみます。そして、今度は相手の立場に立って、他の解釈がないかを考えてみます。

不安が強い人の場合、コミュニケーションの量も少ないと思いますが、それでも書いてみるといろいろなことがわかります。』

 「ずれ」を作らないコミュニケーション

●『不安が強い人は特に、直接的な表現をするのが怖いと思いますので、安全なコミュニケーションのコツを紹介しましょう。それは、「私」を主語にして、気持ちを中心に話す、ということです。「私は、不安であることをわかってもらえないと思うと、ますます不安になるの」と言えば、相手を怒らせる心配はまずないでしょう。これはすべてが、自分側の話であることが明確になっているからです。

ところが、同じことでも、「あなたは本当に人の不安に鈍感なのね」と言ってしまうと、相手は怒りだすかもしれません。少なくとも、役割期待の調整のために前向きに協力してくれることにはならないでしょう。』

相手の事情を考える

●『不安が強いときには、私たちは一般に、自分のことしか目に入らなくなります。そして、何でも自分に関連づけるようになります。例えば社会不安障害のときには、「相手がネガティブな反応をした」イコール「私がだめな人間だからだ」ということになります。このような認識はもちろん、大変なストレスと対人不安を作り出します。 ~中略~ 不安障害になると、自分以外の人は完璧であるかのような気になることもありますが、実際には完璧な人などいないという当たり前のことを思い出す必要があります。』

ステロイドコントロール

ステロイドコントロール」は代々木時代(日本伝統医学研修センター)に恩師の相澤先生から教えて頂きました。「ステロイドもどんどん進化しており、ステロイドコントロールを理解した医師が処方するのであれば、たいへん優れた薬である」という主旨だったように記憶しています。

今回、その「ステロイドコントロール」がどんなものかを知るため、図書館から1冊の本を借りてきました。本当は川合眞一先生が2017年に出版された『ステロイド療法の極意』が読みたかったのですが、残念ながら埼玉県内には所蔵している図書館がなかったため、少し古い『ステロイドのエビデンス』を借りて勉強することにしました。なお、[ ]は私による追記になります。

 

著者:川合眞一

発行:羊土社

初版発行:2015年12月

ブログは“序”と“目次(大項目のみ)”に続いて、第1章、第5章、第10章から以下の題目の内容をご紹介しています。また、簡単ですが最後に“感想”を加えさせて頂きました。

●ステロイド漸減法や維持療法にエビデンスはあるか?

●ネフローゼ症候群に対するステロイド療法のエビデンスは?

●アトピー性皮膚炎に対するタクロリムス軟膏とステロイド外用剤の比較は?

●アトピー性皮膚炎に対するステロイド外用剤のランクと使用期間に関するエビデンスは?

ステロイドは多くの診療科で使われるきわめて有用な薬であり、Henchが1948年に関節リウマチの治療に使って以来70年になろうとしている。翌年には全身性エリテマトーデスに使われ、さらに他領域も含む多くの疾患に使われるようになった。この間に十分な臨床的エビデンスが形成されてきた疾患もあるが、その高い有効性故に経験的に使用されてきた領域も少なくない。そのため、どこまでがエビデンスに基づいた使用であり、どの疾患のどんな症状に対する治療が経験的な使用であるかなどの臨床的な情報は、必ずしも十分に臨床医の知るところとなっていない。

そこで、こうした情報をクリニカルクエスチョンの形で項目を挙げ、それに応える形の本書を企画した。読者の皆様には、ステロイドで何らかの疑問が生じたときに調べる手段として、また、全体を読んでいただき、ステロイドのことを学んでいただくためにも利用していただきたいと願っている。

なお、本書のタイトルおよび本文には、グルココルチコイドの略称としてステロイドを使わせていただいた。国際的には学術論文で使われるのはグルココルチコイドが最も一般的で、コルチコステロイド(副腎皮質ステロイド)が次に続く、一方、ステロイドを使っている論文や教科書は世界では少ないが、わが国では治療薬を示す用語として最も一般的に使われていることから、本書ではステロイドとさせていただいた。』

第1章 リウマチ膠原病疾患

第2章 呼吸器疾患

第3章 循環器疾患

第4章 消化器疾患

第5章 腎疾患

第6章 神経疾患

第7章 血液疾患

第8章 内分泌疾患・代謝疾患

第9章 整形外科疾患

第10章 皮膚疾患

第11章 周産期医療

第12章 小児科

第13章 眼科疾患

第14章 耳鼻咽喉科疾患

第15章 集中治療

第16章 周術期

第17章 副作用・相互作用

第1章 リウマチ膠原病疾患

ステロイド漸減法や維持療法にエビデンスはあるか?

クリニカルクエスチョン

ステロイド療法は、一般に一定の用量で初期治療をした後、漸減するとされている。しかし、その漸減法は医療機関によってさまざまである。このステロイド漸減法や、さらにはその後の維持量投与についてのエビデンスはあるのだろうか。

エビデンスの実際

1)初期治療の期間と漸減法

ステロイドの初期治療の後で、ステロイドの漸減や維持量投与が必要な理由としては2つ考えられる。まず、ステロイドは本来内因性のホルモンであるため、外分泌能は低下する。そのため、急に中止すると副腎不全を合併する可能性がある。他の理由としては、漸減することや維持量投与により疾患活動性の再燃を防ぐことが期待されるためである。

専門家意見の集約ではあるが、ステロイド漸減法を調査した報告がある。重症臓器障害を有する全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)患者の初期用量(体重70㎏の女性と仮定)は、集約された意見の中央値でプレドニゾロン換算で60㎎/日を2週間継続し、中等症SLE患者では同じく35㎎/日を1週間継続するという結果であった。この結果をわが国のSLE患者(体重50㎏と仮定)に外挿すると、重症例でおおむね45㎎/日を2週間、中等症例でおおむね25㎎/日を1週間投与が平均的ということになる。ただ、ステロイド初期用量については医師の間でも大きな違いがあることから、わが国の実態がどうであるかについては不明である。さらには、理想的なステロイドの初期用量が何㎎であるべきかについても明確な根拠はない。

初期治療後のステロイド漸減法は、1~2週ごとに10%程度漸減するのが従来は一般的であったが、この漸減法も経験に基づいて決められたものである。表1の重症例では、1週ごとに中央値で5~10㎎、中等症患者では5㎎の減量が始まり、その後の漸減速度もおおむね1週ごとに約10~20%であった。この調査の前提はステロイドの単独治療ではないわけだが、近年の、より早めの減量という臨床実態を示している。

 

画像出展:「ステロイドのエビデンス」

2)維持量

Harrison内科学書には、PSL[プレドニゾロン]5~10㎎/日の連日投与または10~20㎎の隔日投与を通常行う維持投与として紹介されている。これに対し表1では重症例でも11週以降、中等症例は6週以降にステロイドを中止するとした医師が少なくない。ただし、この調査でも維持量を継続しているとした医師もおり、維持量の是非については専門医間でも一定していないことがわかる。

わが国で本間らが行った1,407例のSLE[全身性エリテマトーデス]の調査では、PSL5㎎/日未満あるいは中止した例の生命予後は、5~10㎎/日で維持していた例よりも有意に悪かった。また、Walshらは、抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody:ANCA)関連血管炎における再燃にかかわる因子を検討したところ、ステロイド中止例の再燃率が43%であったのに対し、維持投与例では14%と有意に再燃率が低かった。

これらの成績を合わせると、膠原病での実際的な対応としては、ステロイド漸減後も低用量を続けた方が長期管理にはよいことが示唆される。ただし、ステロイドの長期投与はほぼ全例に何らかの副作用を惹起することを考慮すると、患者の病態が数年安定していた場合などは、ストロイドの中止を検討すべきであろう。

エビデンスの使い方

以上述べてきたように、ステロイドの漸減法や維持量投与には明確なエビデンスがない。最近のより低用量の初期用量と早めの漸減を考慮すると、初期投与は2週間とし、その後はおおむね1週ごとに約10%の減量というのが現実的であろう。また、今後も検討が必要ではあるが、維持量投与は再燃率を若干下げる可能性がある。ただし、副作用を減らすという観点もあり、維持量投与を行う場合にもプレドニゾロン換算で5~10㎎/日、できれば5㎎/日以下をめざすことが望まれる。

Point

●ステロイドの漸減法には明確なエビデンスはないが、最近では初期治療2週間の後、おおむね1週間ごとに10%ほど減量することを勧めたい。

●維持量投与による再燃抑制効果については、観察研究によればプレドニゾロン換算で5~10㎎/日の投与は若干有用である可能性がある。

●維持量投与を行う場合でも、副作用予防の観点からは、疾患が安定していればプレドニゾロン換算で5㎎/日以下または中止をめざすのがよい。

第5章 腎疾患

ネフローゼ症候群に対するステロイド療法のエビデンスは?

クリニカルクエスチョン

ネフローゼ症候群は蛋白尿3.5g/日以上、血清アルブミン3.0g/dl以下で定義される症候群であるが、疾患は幅広く、おのおの治療法が異なるため、ここではネフローゼ症候群の代表疾患である微小変化型ネフローゼ症候群(minimal change nephrotic syndrome:MCNS)、巣状分節性糸球体硬化症(focal segmental glomerulosclerosis:FSGS)、膜性腎症(membranous nephropathy:MN)について下記クリニカルクエスチョン(CQ)として述べることとする。

●CQ1:微小変化型ネフローゼ症候群に対するステロイド療法は尿蛋白減少・腎機能低下抑制に推奨されるか。

●CQ2:巣状分節性糸球体硬化症に対するステロイド療法は尿蛋白減少・腎機能低下抑制に推奨されるか。

●CQ3:膜性腎症に対するステロイド単独療法は尿蛋白減少・腎機能低下抑制に推奨されるか。

一次性とは原因は不明で、腎臓に限局した障害です。”原発性”、”特発性”ともよばれます。一方、二次性は腎臓以外の原因により、腎障害を発症させるもので、”続発性”ともよばれます。

こちらのサイトにネフローゼ症候群の簡潔で分かりやすい説明が出ていました。

エビデンスの実際

ここでは、平成22年度の進行性腎障害に関する調査研究班による「ネフローゼ症候群診療指針」、2012年の糸球体腎炎のためのKDIGO(Kidney Disease Improving Global Outcomes:[国際腎臓病予後改善委員会])診療ガイドライン、「エビデンスに基づくネフローゼ症候群診療指針2014」に従って述べる。

「エビデンスに基づくネフローゼ症候群ガイドライン2014」では推奨グレードを、A(強い科学的根拠あり、行うよう強く勧められる)、B(科学的根拠があり、行うよう勧められる)、C1[科学的根拠はない(あるいは弱い)が、行うように勧められる]、C2[科学的根拠がなく(あるいは弱く)、行わないよう勧められる]、D(無効性あるいは害を示す科学的根拠があり、行わないよう勧められる)の5段階に分けて記載されている。

また、KDIGOのガイドラインでは、推奨レベルを1(推奨する)、2(望ましい)、推奨グレードなしの3つのグレードに分け、エビデンスの質をA(高い)、B(中等度)、C(低い)、D(最も低い)の4段階に分け記載されている。

1)微小変化型ネフローゼ症候群

●推奨グレードB:MCNSに対する経口ステロイドは、初回治療において尿蛋白減少に有効であり推奨する。

●推奨グレードC1:MCNSに対する経口ステロイド単独使用は、急性腎障害の悪化傾向に有効であり考慮される。

MCNSは、一次性ネフローゼ症候群の約40%を占め、ステロイドに対する反応性は良好であり、90%以上の症例で、不完全寛解Ⅰ型に至るが、約30~70%程度に再発がみられ、頻回再発やステロイド依存性を示す症例が存在することが知られている。

ステロイド治療に対するRCT[Randomized Controlled Trial:無作為化臨床試験]のうち、成人例の報告では、腎機能に差はみられなかったが、尿蛋白は有意に減らしてとしている。

2)巣状分節性糸球体硬化症

●推奨グレードC1:FSGSに対するステロイド療法は、初回治療において尿蛋白減少・腎機能低下抑制に有効であり推奨する。

FSGSは、ネフローゼ症候群の約8%を占め、腎生存率(透析非導入率)は、20年で33.5%と長期予後は膜性腎症よりも不良である。ネフローゼ症候群から脱しきれない症例の予後がきわめて不良であるのに対して、不完全寛解Ⅰ型以上まで改善した症例の予後は比較的良好であることから、尿蛋白1g/日未満をめざして積極的な治療を行う必要がある。

初期治療による尿蛋白減少および腎機能低下抑制のRCTはないが、観察研究が数多くある。それらの報告のうち、特に成人の場合では、初回治療において副腎皮質ステロイド療法による完全寛解20~50%台に達し、不完全寛解も合わせると50~60%台となる。

Troyanovは、ステロイドの治療効果を完全寛解(complete response:CR)、部分寛解(partial remission:PR)、治療抵抗性(non-responder:NR)に分けた腎予後の結果、CR>PR>NRの順に有意に腎生存率が長期であったことを報告している(図1)。腎機能予後の改善には、尿蛋白を減少させることが非常に重要である。

 

画像出展:「ステロイドのエビデンス」

※以下は本文には含まれていませんが、「寛解」に関する定義を把握する必要があると思いますので、掲載させて頂きます。“難治性ネフローゼ症候群( 成人例)の診療指針”より)

ネフローゼ症候群の治療効果判定基準(厚生省特定疾患ネフローゼ症候群調査研究班 による)

完全寛解:蛋白尿消失、血清蛋白の改善、および他の諸症状の消失が見られるもの

不完全寛解Ⅰ型:血清蛋白の正常化と臨床症状の消失が認められるが、尿蛋白が存続するもの

不完全寛解Ⅱ型:臨床症状は好転するが,不完全寛解Ⅰ型に該当しないもの

無効:治療に全く反応しないもの

効果判定は、尿蛋白、血清蛋白、および他の諸症状が最も改善した治療開始後の時点で実施するが、治療開始4 ~8 週以内に行われるのが通例である。 不完全寛解Ⅰ型とⅡ型の境界は、ネフローゼ症候群調査研究班の診断基準では明確に示されていないが、1日の尿蛋白が1g以下になった場合を不完全寛解Ⅰ型とするのが一般的である。

3)膜性腎症

●推奨グレードC1:MNに対する経口ステロイド単独治療は、支持療法と比較して腎機能低下抑制に有効である可能性があり推奨する。

MNには、自然寛解が得られる症例もあり、比較的腎予後が良好な疾患と思われがちである。しかし20年長期腎生存率は、約60%と決して良好とは言えない。蛋白尿の経過と腎予後との間に密接な関係があり、不完全寛解Ⅱ型およびネフローゼ症候群は、完全寛解と不完全寛解Ⅰ型と比較して、有意に予後不良である。よって、尿蛋白1g/日以上の蛋白尿が遷延し、腎不全に至るリスクが高い症例では、積極的な治療を行うべきと思われる。

MNに対して、ステロイド単独治療の有効性を無作為化前向き比較研究(RCT)で評価した論文は少ないが、Cattran、Cameronらの論文がある。Cattranらは6カ月間プレドニゾロン45㎎/㎡を隔日投与したステロイド単独治療群と無治療群によるRCTを実施している。その結果、両群を比較して、8年間の経過観察では蛋白尿の寛解率と腎機能低下速度には有意差はみられなかったとしている。Cameronらは、約50名ずつの症例をプレドニゾロン隔日6カ月間投与群と無治療群によるRCTを実施し、3年間の経過観察をしているが、やはり蛋白尿の寛解率と腎機能低下速度に関して、両群間に有意差はなかったと報告している。

Shiikiらの厚生労働省研究班によるわが国の膜性腎症1,066例の後ろ向き調査では、ステロイド単独治療群(357例)、ステロイド+シクロホスファミド併用群(257例)、支持療法群(161例)の3群間で寛解率、腎予後を比較検討している。最終観察時では3群間における完全寛解、不完全寛解、無効例の比率には有意差は認められなかった。しかし、末期腎不全に至る腎予後を比較すると、ステロイド単独治療群とステロイド+シクロホスファミド併用群は支持療法群より末期腎不全に至る症例が有意に少なかった。ただし、ステロイド単独治療群とステロイド+シクロホスファミド併用群の両者における腎予後の差は認められなかった。

エビデンスの使い方

1)微小変化型ネフローゼ症候群

通常プレドニゾロン(PSL)0.8~1㎎/㎏/日相当(最大60㎎/日)で開始され、成人の場合小児より反応性は緩徐であるものの、早ければ2~4週間程度で尿蛋白減少の効果が現れ、また腎機能低下抑制に有効であるとしている。その後は2~4週ごとに5~10㎎/日ずつ漸減し5~10㎎/日に達したら最少量で1~2年程度継続中止する。

再発例では、初回治療と同量・同投与期間の治療、あるいは初回治療より減量したプレドニゾロン20~30㎎/日を投与する。頻回再発例、ステロイド依存例、ステロイド抵抗性ではプレドニゾロンに加えて、免疫抑制薬を追加投与する。図2にMCNSの治療アルゴリズムを示す。

 

画像出展:「ステロイドのエビデンス」

※補足

シクロスポリン、ミゾリビン、シクロホスファミドは、いずれも、免疫抑制薬です。

 

2)巣状分節性糸球体硬化症

通常初期治療としてプレドニゾロン1㎎/㎏/日相当(最大60㎎/日)または隔日2㎎/日相当(最大120㎎/日)を少なくとも4週間投与することを推奨している。

再発例ではプレドニゾロン治療とシクロスポリンの併用を選択する。また頻回再発例、ステロイド依存例、ステロイド抵抗例ではシクロスポリン2.0~3.0㎎/㎏/日を副作用がない限り6カ月間使用し、少なくとも1年は使用、あるいはミゾリン150㎎/日を副作用がない限り2年間使用する。またはシクロホスファミド50~100㎎/日を副作用がない限り3カ月間使用可能とする。図3にFSGS治療アルゴリズムを示す。

 

画像出展:「ステロイドのエビデンス」

 

 

3)膜性腎症

ネフローゼ症候群診療指針では、「わが国では、ステロイド単独による寛解例が少なくないので、ステロイドを第一選択薬として考えるべきである。」とされているが、欧米ではステロイド単独治療の有効性は臨床試験において十分なエビデンスが得られておらず、KDIGO糸球体ガイドラインでは、二次性膜性腎症を除外したうえで、ネフローゼ症候群患者のみに初期治療(ステロイドを中心とした治療)を行うことを推奨している。

糸球体腎炎のためのKDIGO診療ガイドラインでは初期治療としてさらに以下のような状態では、ステロイド治療を考慮することを推奨している。

①少なくとも6カ月間の観察期間中に、降圧療法や抗蛋白尿治療(ステロイド以外の)を行っても、4g/日を超える尿蛋白が持続し、初期の蛋白尿の50%を超える蛋白尿が残る場合(1B)

②ネフローゼ症候群に関連する重篤な症状、機能障害を伴う症状、生命予後に関係する症状がある場合(1C)

③6~12カ月間に血清クレアチニン値(SCr)が診断時に比較して30%以上増加するが、eGFR25~30ml/分/1.73㎡以下にはならず、かつ、この変化が合併症では説明できない場合(2C)

初期治療としてステロイドと経口アルキル化薬[制癌剤]を各月ごとに交互に6カ月間くり返す治療を推奨している(1B)

ネフローゼ症候群診療指針では、「MNでのステロイドの初期投与は他のネフローゼ症候群と比較してやや少なく、ブレドニゾロン換算で0.6~0.8㎎/㎏/日の服用が妥当で、年齢や合併症を考慮して増減が必要である。」とされている。図4にMNの治療アルゴリズムを示す。

 

画像出展:「ステロイドのエビデンス」

 

 

KDIGO糸球体腎炎ガイドラインでは、「アルキル化薬と副腎皮質ステロイドによる治療に抵抗性の患者には、カルシニューリンインヒビター[免疫抑制薬]による治療を行うことが望ましい(2C)。」また、「再発例では、初期治療と同じ治療を再度行うことが望ましい(2D)。」とされている。

4)高齢者のネフローゼ症候群

高齢者ネフローゼ症候群に対して、副作用の発現に十分に注意して使用することを推奨する(ただし、高齢者ネフローゼ症候群に関しては、免疫抑制薬の有効性と安全性のバランスは十分に明らかでない)(推奨グレードC1)

POINT

●MCNS[微小変化型ネフローゼ症候群]に対して、ステロイド療法は寛解導入に有効性が高く、90%以上の反応率を示す。通常プレドニゾロン0.8~1㎎/㎏/日相当で開始し、その後は2~4週ごとに5~10㎎/日ずつ漸減し5~10㎎/日に達したら最少量で1~2年程度継続中止する。

●MCNS再発例では、初回治療と同量・同投与期間の治療、あるいは初回治療より減量したプレドニゾロン20~30㎎/日を投与する。MCNS頻回再発例、ステロイド依存例、ステロイド抵抗性でステロイドに加えて、免疫抑制薬を併用する。

●FSGS[巣状分節性糸球体硬化症]に対して、プレドニゾロン1㎎/㎏/日相当を少なくとも4週間の投与が推奨されているが、RCTによるエビデンスはない。

●ステロイド抵抗性のFSGSに対しては、免疫抑制薬を早期に併用し、すみやかなステロイドの減量を図るべきである。

●MN[膜性腎症]に対して、ステロイド療法は初期治療において有効であるが、ステロイド単独治療は無治療群と比較して尿蛋白減少効果に関して有意差を認めていない、自然寛解もありうるため、数カ月から半年間ステロイドなしで経過をみて、ネフローゼが続いている場合にステロイドを考慮するのが妥当と思われる。

●ステロイド抵抗性のMNには、免疫抑制薬の使用を検討する。

●高齢者に対しては、副作用の発現に十分に注意して使用する。

第10章 皮膚疾患

アトピー性皮膚炎に対するタクロリムス軟膏とステロイド外用剤の比較は?

クリニカルクエスチョン

アトピー性皮膚炎の治療において、皮膚炎を十分に制御できる抗炎症外用剤として有効性と安全性が十分に検討されているものには、ステロイド外用剤とタクロリムス軟膏がある。タクロリムス軟膏は、16歳以上の成人アトピー性皮膚炎患者には0.1%の製剤が使用されている。成人アトピー性皮膚炎の皮疹に対する効果は、どのランクのステロイド外用剤と匹敵するのだろうか。

エビデンスの実際

中等症から重症の成人(18歳以上)アトピー性皮膚炎患者972名を対象に、体幹・四肢に0.1%ヒドロコルチゾン酪酸エステル(ミディアム、Ⅳ群)を塗布する群と0.1%タクロリムス軟膏を塗布する群で、3カ月目の皮疹スコアを開始時のものと比較して少なくとも60%減少するか、をプライマリーエンドポイントとして比較した二重盲検無作為化試験では、0.1%タクロリムス軟膏群は0.1%ヒドロコルチゾン酪酸エステル群よりも高い効果を示した(72.6% vs 52.3%、P<0.001)。また、中等症以上の成人(16歳以上)アトピー性皮膚炎患者162名を対象にして国内で行われた二重盲検無作為化比較試験でも、0.1%タクロリムス軟膏は0.12%ベタメタゾン吉草酸エステル軟膏(ストロング、Ⅲ群)と同等の効果を示した。概括安全度評価で「安全」の評価は両群で同等だったが、塗布部位の刺激感の発現率は0.1%タクロリムス軟膏の方が有意に高かった。この刺激感は大部分の症例で皮疹の改善とともに発現しなくなった。

エビデンスの使い方

日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドラインでは、中等度までの紅斑、鱗屑、少数の丘疹、掻破痕などを主体とする成人アトピー性皮膚炎患者の中等症の皮疹には、ステロイド外用剤ならばストロングクラスまたはミディアムクラスを第一選択とすると記載されている。タクロリムス軟膏は、成人アトピー性皮膚炎の皮疹に対して、ストロングクラスと同程度の臨床効果を有することから、中等症の皮疹にはストロングまたはミディアムクラスのステロイド外用剤あるいはタクロリムス軟膏を用いるのが妥当となる。一方で、タクロリムス軟膏の外用初期には、一過性の灼熱感やほてり感などの刺激症状がしばしば出現し、皮疹が改善するとともに刺激症状は消失していくことが多い。しかもステロイド外用剤を長期に使用した際にみられる皮膚萎縮の副作用がタクロリムス軟膏にはみられない。これらを勘案して、実際の臨床ではまずステロイド外用剤で皮疹をある程度軽快させた後に、タクロリムス軟膏に切り替えて長期の寛解を維持する方策がとられることが多い。より重症の皮疹に対しては、まずベリーストロングクラス(Ⅱ群)のステロイド外用剤で皮疹を改善させたのちにタクロリムス軟膏に移行することが推奨されている。

POINT

●タクロリムス軟膏は、成人アトピー性皮膚炎の皮疹に対して、ストロングクラスと同程度の臨床効果を有する。

●ステロイド外用剤を長期に使用した際にみられる皮膚萎縮の副作用がタクロリムス軟膏にはみられない。

●実臨床ではまずステロイド外用剤である程度軽快させた後に、タクロリムス軟膏に切り替えて長期の寛解を維持する方策がとられることが多い。

こちらをクリック頂くと、『医師の視点で考えるアトピー性皮膚炎』というサイトにある“タクロリムス軟膏”に関する詳しい説明が確認できます。

アトピー性皮膚炎に対するステロイド外用剤のランクと使用期間に関するエビデンスは?

クリニカルクエスチョン

ステロイド外用剤は、アトピー性皮膚炎に対する薬物療法の主体である。ステロイド外用剤は、現在国内では5つのランクに分かれており(表1)、効果の高さと局所性の副作用の起こりやすさは一般的には並行する。アトピー性皮膚炎の皮疹に対するステロイドの効果とランク、局所性の副作用とステロイド外用剤のランクや使用期間に関するエビデンスはあるのだろうか?

 

画像出展:「ステロイドのエビデンス」

 

 

エビデンスの実際

1)アトピー性皮膚炎の皮疹に対する効果

ステロイド外用剤とプラセボ[偽薬]を比較した無作為化比較試験は20編を超え、ほとんどの試験でステロイド外用剤はプラセボよりも有効であることが示されている。一方で、0.2%吉草酸ヒドロコルチゾン〔米国の分類では0.1%ヒドロコルチゾン酪酸エステル(表1を参照:ミディアム、Ⅳ群)と同じランク〕などランクの低い一部のステロイド外用剤では、効果に統計学的な有意差が示されなかった。

2)ステロイド外用剤の局所性副作用

小児アトピー性皮膚炎患者に0.1%吉草酸ベタメタゾン軟膏(日本で販売されている0.12%ベタメタゾン吉草酸エステルはストロング、Ⅲ群)を1日2回、週3回18週間外用しても皮膚の菲薄化はみられなかった。健康ボランティアの前腕に0.05%クロベタゾールプロピオン酸エステルクリーム(ストロンゲスト、Ⅰ群)や0.1%ベタメタゾン吉草酸エステルクリームを1日2回、連日6週間外用したところ、皮膚の菲薄化がみられた。

エビデンスの使い方

ステロイド外用剤の選択に際しては、皮疹の経過に関する見通し、皮疹の重症度、皮疹の部位、患者の年齢などを勘案する必要があり、実際の診療ではアトピー性皮膚炎診療ガイドラインなどを参考にしてランクを決める。ほとんどのステロイド外用剤がアトピー性皮膚炎の皮疹に対して有効性を示した一方で、ランクの低い一部のステロイド外用剤では効果においてプラセボと有意な差がなかった。また、ある程度の強さをもつステロイド外用剤を連日長期間外用すると、皮膚萎縮などの局所性の副作用がみられる可能性がある。したがって、アトピー性皮膚炎の治療に際しては、皮疹の重症度や部位に応じて十分な効果が期待でき、かつ必要以上に強くない、適切な強さのステロイド外用剤を選択することの重要性がうかがわれる。

そして、適切なランクのステロイド外用剤を用いて皮疹を軽快させた後は、保湿剤を継続しつつ、ステロイド外用剤の外用回数を減らす、ランクを下げる、タクロリムス軟膏に切り替えるなど、外用部位に副作用が出現する可能性を減じながら寛解を維持する方策をとる。

一方、皮疹が軽快した後もステロイド外用剤やタクロリムス軟膏などの抗炎症外用剤を週2回程度継続するプロアクティブ療法の有効性が欧米を中心に報告されており、国内でも注目されている。

POINT

●ほとんどのステロイド外用剤がアトピー性皮膚炎の皮疹に対して有効性を示した一方で、ランクの低い一部のステロイド外用剤では効果にプラセボと有意な差がなかった。

●ある程度の強さをもつステロイド外用剤を連日長期間外用すると、皮膚萎縮などの局所性の副作用がみられる可能性がある。

●適切なランクのステロイド外用剤を用いて皮疹を軽快させた後は、ステロイド外用剤の外用回数を減らす、ランクを下げる、タクロリムス軟膏に切り替えるなど、外用部位に副作用が出現する可能性を減じながら寛解を維持する方策をとるのが肝要である。

感想

ステロイドコントロールとは、「患者さまの病状を正しく理解し、その上でステロイド外用剤の選択を行ない(強さ、部位などから)、また外用の期間、漸減、維持量(0gを含む)を病状の変化と副作用の両面を考慮しながら、必要な微調整を加え患者さまの最適な投薬法を見つける作業」ということではないかと思います。

また、腎臓病のネフローゼ症候群であれば免疫抑制薬があり、アトピー性皮膚炎であればタクロリムス軟膏という薬があるということも知りました。

鍼灸師として、これらの投薬に深入りすべきでないことは当然ですが、患者さまの直面している実態を理解するうえで、薬を知ることは大切な知識の一つであると思います。

追記

ステロイドとアトピー性皮膚炎について調べていて、興味深いサイトを見つけました。患者さまの症状によって対処は変わるものと思いますが、ステロイドコントロールの一例ということでご紹介させて頂きます。

こちらは環境再生保存機構さまのサイトに掲載されていた、”医療トピックス:アトピー性皮膚炎治療とセルフケアの最新動向”の中にあった図(アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2015の図を改変)です。

尿蛋白クレアチニン比(“尿TP/CRE比”)

先日、患者さまからの腎臓に関する検査値のお話の中で、全くノーマークだった重要な検査値があることを知りました。それは、尿蛋白クレアチニン比(尿TP/CRE比)というものです。

以下はネットで調べた内容になります。

尿蛋白クレアチニン比の利点

●尿検査(尿一般試験紙法)は被検者の健康状態により、尿が希釈あるいは濃縮されている場合には正確な評価が難しくなります。一方、尿蛋白クレアチニン比による計算式では、希釈尿や濃縮尿が補正されるメリットがあり、1日尿蛋白排泄量(g/日)ともよく相関するとされています。また、専門医への紹介基準や “CKD(慢性腎臓病) 重症度分類基準”などにも用いられています。

尿蛋白クレアチニン比の計算式

●尿TP/CRE比  “随時尿の尿蛋白定量結果(mg/dl)” ÷ “尿中クレアチニン濃度(mg/dl)

『内科プライマリ・ケア医の知っておきたい“ミニマム知識” =尿蛋白定量・クレアチニンクリアランスの考え方を身につけよう=』より

こちらは、2007年の日本内科学会雑誌 第96巻 第5号の掲載されていたもので、執筆者は横井内科医院院長の横井 徹先生です。内容は横井先生が内科医の先生方向けに書かれたものになっています。

ブログでは、“1.尿検査は試験紙法だけでとどめないで、尿蛋白持続陽性例では定量検査で「尿蛋白クレアチニン比」をチェック!”だけをご紹介していますが、太字は私の選択であり原文には太字はありません。なお、以下をクリック頂くと資料がダウンロードされます。

1.尿検査は試験紙法だけでとどめないで、尿蛋白持続陽性例では定量検査で「尿蛋白クレアチニン比」をチェック! 

『内科医なら誰でも尿検査、特に試験紙法による検尿は日常的に行っている。しかしこれからは、これだけで終わらないようにしたい。尿蛋白が+だから軽度、3+だから高度、というのは必ずしも正しくない。試験紙法は程度を濃度で分類しているため、蛋白の「尿中含有量」が同じでも希釈尿環境では+、濃縮尿環境では3+になることも多い。ここに、試験紙法で定性反応しかチェックしないことの盲点がある。 

一般に一日尿蛋白排泄 0.3~0.5g以上が数カ月間以上持続する場合、5~10 年単位で徐々に腎機能が低下してゆく慢性糸球体疾患が存在する可能性が高いと考えられる。そしてこのレベルの尿蛋白で一日尿量が2リットルある場合、一日0.5gの蛋白尿は単純計算で25mg/dlとなり試験紙法では±、高度の脱水で尿が 500mlにとどまる場合、100mg/dlとなり2+になり得る(一般に試験紙法において、+は30mg/dl以上、2+は100mg/dl以上、3+は300mg/dl以上が目安である)。すなわち、尿量が多いケースでは試験紙法で尿蛋白±程度であっても軽視できないわけである。 

この盲点を回避するために、尿蛋白定量が必要となる。しかし蓄尿が困難な環境で単に受診時採取した尿で「尿蛋白定量」をオーダーしてもmg/dl、「濃度」の単位でしか報告されない。これでは試験紙法と何らかわりはなく、無駄である。それに対して、随時尿の「尿蛋白クレアチニン比」はその人の一日尿蛋白排泄量(g/day)とほぼ等しいか、等しくなくともよく相関することが知られているのでこれを用いたい。尿蛋白クレアチニン比は、随時尿検体で尿蛋白定量結果(mg/dl)を尿中クレアチニン濃度(mg/dl)で除することで計算できる。これで0.3~0.5であれば、すなわち尿蛋白排泄0.3~0.5g/day程度と推定でき、できれば 1、2年以内には腎専門医へ紹介して欲しい(理由は前述のように進行性の慢性腎疾患の可能性が高いからである)。これよりも尿蛋白が多い場合、腎機能低下スピードはさらに速くなるのでもっと早めの紹介が必要である。さらに高度となるネフローゼ症候群のレベルになれば 1、2カ月以内の専門医紹介が必要なことが多い。蛋白尿が高度であればあるほど、できるだけ早期の治療介入が将来の腎機能低下を予防する一番の手段になるのでこの判断はたいへん重要である。 

なお、一過性に、ある程度以上の蛋白尿が出現することもある。体位性蛋白尿や発熱・感染など可逆性の原因に伴い一時的に出現するものであり、当然これらは腎実質性疾患ではないため、通常腎生検など精査の適応にならない。将来の持続性蛋白尿(すなわち何らかの腎実質性疾患)の前兆という可能性がゼロではないものの、腎疾患診療では蛋白尿が持続的に認められるようになってから精査する、という方針で臨んでも決して治療開始が遅くはならない。以上の理由から、尿蛋白クレアチニン比を計算するのは、ネフローゼ症候群のような高度の蛋白尿例を除き、通常は数カ月以上通常の試験紙法にて蛋白尿が持続している場合に行うとよい。』 

感想

今後、患者さまの血液や尿の検査結果表を拝見させて頂くときは、“CRE(クレアチニン)”、“eGFR(糸球体濾過値)”、“ALB(アルブミン)”に加え、11月に勉強した“尿中微量アルブミン”と今回勉強した“尿TP/CRE比”の5項目をチェックしていこうと思います。

心腎連関(腎交感神経)

先月のブログはいずれも「閃く経絡」という本からの題材でしたが、その中で「心」と「腎」の関係について取り上げたのが “閃く経絡(心と腎)” でした。

一方、現代医学の心臓と腎臓の関係、「心腎連関」とはどのようなものか詳しく知りたいと思い、何か良い本はないかと探してみました。そして見つけたのが医学雑誌『腎と透析vol.69 No.4』の “腎臓と心臓の連関メカニズム” という特集でした。この号は2010年10月発行なので最新ではありませんが、この特集のタイトルがドンピシャだったので、内容の難しさは気にせず思い切って購入しました。

 

出版:東京医学社

発行:2010年10月25日

目次は次の通りです。

特集 腎臓と心臓の連関メカニズム

序説

 慢性腎臓病と心腎連関

[総説]

 心腎連関の疫学

 Cardio-renal anemia症候群

 Cardiorenal syndromeの分類―Roncoの分類―

[心腎連関の発症メカニズム]

 心腎連関における交感神経系の役割

 心腎連関と内皮機能

 心腎連関とRAAS

 心腎連関と脂質代謝異常

 心腎連関と酸化ストレス―慢性腎臓病―

 心腎連関とサイトカイン―炎症との関わり―

[各種病態における心腎連関の病態、治療、診断]

 心疾患における腎機能障害とその治療

 高血圧患者における心腎連関の病態と治療

 腎疾患患者における心腎連関の病態と治療

 腎疾患患者の心不全の病態と治療

 腎疾患患者の冠動脈疾患の診断とその治療―内科的観点から―

 腎疾患患者の心血管外科手術

 腎疾患患者の適切な貧血治療

 糖尿病における心腎連関の病態と治療

[トピックス]

 心腎連関におけるアルブミン尿の意義 

 腎疾患患者の血管病変の診断と治療

目次そのままのまとめ方ですが、心腎連関のキーワードは以下のようなことと考えます。

1.心腎連関の発症

交感神経(交感神経活動亢進)

内皮機能(腎局所での血管内皮機能障害)

RAAS(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系:血圧調整)

酸化ストレス(活性酸素)

サイトカイン(炎症)

2.心腎連関と疾患

●高血圧

●糖尿病(糖尿病性腎症)

●脂質代謝異常

●貧血

RAASと血圧調整についてはこちらをご覧ください。

『昇圧系としてのレニン–アンジオテンシン系は単純、かつin vitro阻害評価系が簡便であったことから、食品機能学研究においても多くのACE阻害物質が評価されてきた。しかしながら、本系は昇圧/降圧代謝物が産生される血圧調節系であることが徐々に判明し、かつ代謝物量も各種の臓器疾病(腎不全や心血管障害など)と連動して変化するようである。

ブログでは、これらのキーワードの中から心腎連関の発症メカニズムとしての「交感神経」を取り上げたいと思います。これは鍼灸治療には自律神経を整えるという直接的な効果があり(後述)、心腎連関という関係性において、鍼灸の効果を考えてみたいと思ったためです。

まずは、特集「心腎連関の発症メカニズム」の最初に掲載されていた“心腎連関における交感神経系の役割”をご紹介させて頂きます。

なお、( )内は私が加筆したものです。

心腎連関における交感神経系の役割

東京大学医学部附属病院腎臓・内分泌内科 分子循環代謝病学講座 藤田 恵

はじめに

腎機能障害患者においては、心血管合併症が予後に大きく影響する。一方、交感神経活動が腎機能障害に関与していることが古くからいわれているが、腎機能障害患者における心血管合併症の発症・進展機序にも交感神経活動が関与している可能性が考えられる。腎機能障害・心血管合併症における交感神経活動の役割について、臨床スタディや動物実験の報告を踏まえ概説する。

腎機能障害における交感神経活動亢進

慢性腎臓病において交感神経活動の亢進が最初に示されたのは、1970~1980年代の血中カテコラミン値(カテコラミンとは、副腎や交感神経・脳細胞から分泌されるホルモンで、アドレナリン、ノルアドレナリン[ノルエピネフリン]、ドーパミンなど)の上昇を手がかりとした報告であった。また、腎不全患者において中枢神経抑制薬クロニジン(高血圧症治療剤)投与や自律神経遮断により降圧効果が増強していたという臨床スタディも、腎機能障害における交感神経活動の指標である筋交感神経活動を示した最初の報告は、透析患者において筋交感神経活動亢進を示した成績である。

軽度の腎機能障害患者でも交感神経活動亢進が報告されている。交感神経活動亢進は高血圧や肥満においても認められるが、末期腎不全患者では肥満や高血圧とは独立に交感神経活動亢進が認められるという報告がある。

交感神経活動亢進のメカニズム

上記のように腎機能障害で交感神経活動亢進が認められるが、その詳細なメカニズムについては不明な点が多い。Hausbergらは、交感神経活動亢進は尿毒症の結果起こるのではなく、腎障害初期に腎から中枢へ向かう求心性神経を介して起こる可能性があることを、腎移植患者を用いたスタディで示した。また、Campeseらの報告では、5/6腎摘ラットモデルで求心性神経の重要性が示された。

腎血管性高血圧で筋交感神経活動が亢進しており腎血管形成術(経皮的腎動脈形成術[PTRA]:動脈硬化を予防するため血管を拡張する治療)により、血圧や腎機能とともに交感神経活動が正常化することから、腎虚血は大きな因子と考えられている。また、虚血に伴って生じるアデノシンやレニン-アンジオテンシン系の関与や、末梢に加え中枢でのNOの関与も報告されており、腎機能障害においても関与している可能性が考えられる。いずれにしても、腎機能障害における交感神経活動亢進のメカニズムについては未解明な部分が多く、今後のさらなる研究が必要である。

交感神経活動亢進が及ぼす影響

交感神経活動亢進は高血圧の増悪に加え、腎臓、心血管に悪影響を及ぼす。交感神経活動亢進が動脈硬化を進展させるという報告は多数あり、実際、カテコラミンは血管壁の肥厚をもたらす。動脈硬化は当然、腎機能障害の増悪・進展につながる。また、ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)は心筋細胞の肥大にも寄与し、心交感神経活動は左心肥大に関与していると報告されている。さらに、交感神経活動亢進は不整脈の発症にもかかわっている。すなわち、腎機能障害において交感神経活動亢進は、血圧のみならず臓器障害に直接関与し、予後に影響を及ぼすのである。実際、血中ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)値が末期腎不全患者における生存率と心血管イベント発生率の予測因子となるとする報告もある。

交感神経活動抑制をターゲットとした治療

以上のように交感神経活動亢進は、腎機能障害において非常に重要な役割を果たしており、交感神経活動の抑制が予後改善に有効であると考えられる。実際、1型糖尿病患者や本態性高血圧患者で交感神経抑制薬モキソニジン(交感神経遮断抗高血圧薬)がアルブミン尿(後述)を改善した。動物実験でも交感神経抑制薬投与や腎徐神経が、交感神経抑制とともに腎機能改善効果を示した報告が多数認められる。近年、治療抵抗性高血圧に対し、カテーテルによる腎交感神経焼灼術(後述)を行い奏功したスタディが報告されており、今後の発展が期待される。

おわりに

交感神経活動は、腎機能障害、さらに、それに伴う心血管合併症の発症・進展において重要な役割を担っている。今回概説した内容をまとめた図(腎機能障害における交感神経活動の原因と結果)を示す。交感神経抑制により腎機能障害患者の予後改善が期待される。交感神経をターゲットとした新たな治療戦略が有効と考えられ、今後のさらなる発展が期待される。

 

脳の中に明記されている「NOS」とは「一酸化窒素合成酵素」になります。

(参考:”一酸化窒素合成酵素の構造と機能”)

 

画像出展:「腎と透析Vol.69」

整理するとポイントは以下になると思います。

●腎機能障害における交感神経活動亢進のメカニズムについては未解明な部分が多く、今後のさらなる研究が必要である。

●腎機能障害において交感神経活動亢進は、血圧のみならず臓器障害(動脈硬化、心筋肥大、不整脈)に直接関与し、予後に影響を及ぼす。

●交感神経活動亢進は、腎機能障害において非常に重要な役割を果たしており、交感神経活動の抑制が予後改善に有効であると考えられる。

また、交感神経抑制の方法として、「腎交感神経焼灼術」という治療法が出ていました。

そこで、この腎交感神経焼灼術について調べてみると、焼灼術、アブレーション、デナベーションという言葉が引っかかりましたが、アブレーションは「取り除くこと、切除すること」、デナベーションは「徐神経」という意味なので、これらはいずれも「腎交感神経焼灼術」を表すものだと思います。

こちらは、京都府立医科大学附属病院さまの高血圧患者さま向けの治験(腎デナベーション術)のパンフレットで、簡潔で分かりやすい説明に加え、検査項目や治験の方法についても書かれています。

こちらをクリックするとPDF資料が表示されます。

 

こちらは、岩手医科大学 環器医療センターさまのサイトです。すでに平成28年より腎デナベーションの治験を実施されているようです。

世界初「腎-脳-心臓」連関:腎臓から心臓を治療する 2017-08-22

『東北大学大学院医学系研究科循環器内科学分野の下川 宏明教授の研究グループは、冠動脈ステント治療後に治療部分近くに生じる冠攣縮反応に対して、カテーテルで腎動脈交感神経を除去する治療が有効であることを世界で初めて報告しました。

※PDF資料をダウンロードするボタンが記事の下にあります。

 

 

 

以上の資料やサイトを拝見すると、腎デナベーション術は、期待は高いがまだ熟成されたものではなく、これから発展していくものだと思います。

腎神経叢

末梢神経が網状になっている神経叢ですが、腎神経叢は腹大動脈神経叢の一つに位置付けられています。画像はいずれも「人体の正常構造と機能」からになります。


その他の情報

1.“血圧変化に反応する筋交感神経活動は、腎臓・心臓交感神経活動と相似である

この記事は2004年12月と古いものですが、重要な情報だと思います。

『筋交感神経活動は、循環調節の他、重要臓器、特に心臓や腎臓を支配する交感神経活動と相似なのかどうか確かめられていない。これは、ヒトのマイクロニューログラフィー法は四肢末梢神経など、体表浅部の神経にしか適用できないためである。従って、現在までに蓄積された筋交感神経活動に関する多くの知見は、筋交感神経活動に限定されるものか、交感神経活動一般の理解に資するものか、明かではない。』

 2.“延髄C1ニューロンを介する抗炎症作用:急性腎不全を例に

ここでは「急性ストレス」と「慢性ストレス」という考え方が土台になっています。

『我々の生活環境におけるストレスは、急性ストレスと慢性ストレスに大別されます。免疫系において、慢性ストレスは「悪」のイメージが強いのに対し、急性ストレスには「良」の部分があるといわれています。たとえば、日常の運動は心循環器系や呼吸器系に対して急性ストレスとなりますが、定期的に運動をすることで病気になりにくくなるということはよく知られています。急性ストレスに対する生理機能の維持には、自律神経や視床下部-下垂体-副腎系の応答が不可欠です。免疫系では、これらが産生するノルアドレナリン、アセチルコリンや糖質コルチコイドによって過度な炎症の亢進が抑えられることが知られています(図A)。』

『延髄C1ニューロンは拘束ストレスにより活性化し、自律神経や視床下部-下垂体-副腎系の制御の一部を担っています。興味深いことに、延髄C1ニューロンを特異的に除去すると、拘束ストレスによる急性腎不全の軽減効果が消失しました。一方、延髄C1ニューロンを光遺伝学の手法を用いて特異的に刺激すると、拘束ストレスと同様に急性腎不全の軽減作用が認められました。また、延髄C1ニューロン光刺激による急性腎不全の軽減効果は、迷走神経の切断および糖質コルチコイド受容体阻害薬の投与では消失せず、β2アドレナリン受容体阻害薬では消失したことから、交感神経を介していることが示唆されました。』

『自律神経を介する抗炎症作用としてCholinergic Anti-inflammatory Pathway(CAP)が知られています(図B 説明参照)。今回の研究で観察された拘束ストレスによる急性腎不全の軽減作用も、上記の結果からCAPを介していることがわかりました。今後は、この経路の分子メカニズムを明らかにすることで、疾患予防や医療費削減への貢献が期待されます。』

図の説明 (A)(B)

(A) 感染,外傷や虚血によりマクロファージが活性化し,TNF-αやIL-1βなどのサイトカインが放出される。これらサイトカインは,感覚神経の末端に結合し,そのシグナルは中枢へ運ばれる。反射的に,自律神経系(交感神経,迷走神経[副交感神経])や視床下部-下垂体-副腎系が活性化し,それらの系から放出されるノルアドレナリン,アセチルコリンやコルチコステロンが,マクロファージの過活動を抑制する。

(B) 急性拘束ストレスによる,Cholinergic Anti-inflammatory Pathway(CAP)を介した急性腎不全の軽減作用。CAPでは,コリンアセチルトランスフェラーゼ陽性脾臓メモリーT細胞のβ2アドレナリン受容体に脾交感神経からのノルアドレナリンが結合し,放出されたアセチルコリンが近接するマクロファージのα7ニコチン性受容体に結合することで,炎症性サイトカインの放出が制御される。 

画像出展:「日本神経科学学会」

3.”「急性ストレス」と「慢性ストレス」

ストレスケア・コムさまのサイトに2つのストレスの説明が出ていました。

 付記

今回のブログでは血液検査の“クレアチニン”、“eGFR(推定糸球体濾過量)”と同じくらい、尿検査の“微量アルブミン尿が非常に重要な検査項目であることを知りました。

なお、こちらのサイトには”微量アルブミン尿”に関する詳細な説明が出ています。

ページの最後に【科学も認めるはりのチカラ】という冊子(PDF版)が紹介されており、ここに鍼の自律神経に関する効果について説明がされています。

不整脈(心房細動)

今回は百寿者(母親)の事例ですが、趣旨は不整脈と薬について勉強したことをお伝えしたいというものです。

母親の不整脈は期外収縮と診断され、主治医の先生からは心配するものではないというお話でしたが、念のためワソランという薬を服用していました。

一方、数カ月前より食事回数がほぼ1日2食になってきたため、1日3回服用していた薬の見直しをすることにしました。特に年齢的な代謝機能の低下も考慮する必要があるだろうと思い、基礎代謝について調べてみると以下のようなサイトがあり、やはり加齢による基礎代謝低下は無視できないものと判断しました。そして、主治医の先生と相談し、薬の種類(ワソラン以外は慢性気管支炎などの気道に関わる薬2種)と量の双方から必須となるなものだけに絞り込んでいこうと考えました。

こちらのサイトは数値を入力すると基礎代謝量が計算されます。なお、計算式はハリス・ベネディクト方程式(改良版)だそうです。体重身長年齢の入力が必要です。

男性: 13.397×体重kg+4.799×身長cm−5.677×年齢+88.362

女性: 9.247×体重kg+3.098×身長cm−4.33×年齢+447.593

PAL(physical activity level)とは総エネルギー消費量を基礎代謝量で除した値で、身体活動量を示すものです。70歳以上も低下し続けることが確認できます。

画像出展:「e-ヘルスネット」厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト

 

主治医の先生には月1回診ていただいています。また、心電図検査は数カ月に1回行っています。診察時の脈診だけでなく、直近2、3回の心電図検査でも不整脈は出ていませんでした。もともと期外収縮は特に心配する必要のない不整脈という認識だったこともあり、ワソランは不要ではないかと考え、先生にご相談しました。その結果、「まずは薬を減らして様子をみましょう」ということになりました。

薬の量を減らすにあたり、今まで全くノーケアだったワソランについて調べてみたのですが、分かったことは、この薬は心房細胞・心房粗動、発作性上室性頻拍などの頻拍性不整脈および狭心症の治療薬であるという意外なものでした。

特に気になったのは、“心筋へのカルシウムの流入を阻害し心臓の拍動を遅らせる”という作用です(頻拍性不整脈に対する薬なので正しい作用ですが)。また、重大な副作用の中には次のような内容も含まれていました。

『重大な副作用は循環器障害であり、心不全(徐脈、動悸、息苦しい)、不整脈(洞停止、房室ブロック)、徐脈(脈拍数が少ない)、意識消失などを伴う場合は使用中止します。』 

実は半年前くらいに、血圧・心拍数低下、意識が朦朧とするという事態が一度だけですが起きていました。この時は、20分ほどベッドに横にし、その後再度測定したところ通常の数値に戻っていました。(これが薬の副作用によるものであるかどうかは不明です)

また、ワソランに関しては既に会員になっていた有償サイトの “アスクドクターズ” にも質問を出してみました。回答は「本当に期外収縮だとすれば、主治医に相談した方が良い」という主旨の指摘が複数ありました。

現在、ワソランの服用を止めて約2カ月が経過しましたが、脈に目立った変化は出ていません。一方、パルスオキシメーターによる酸素飽和度(SpO2)は、概ね91~93だった数値が93~95と感覚的には1.5~2ポイント程度改善されました。ただし、これがワソランの服用中止と関係しているのか、その関係性を証明するものは何もありません。仮にそうだったとしても、個人差があると思います。

下記の2つのサイトにワソランの詳しい説明が出ています。

 

ワソランは中央のフェニルアルキルアミン系に属しています。

画像出展:「お薬Q&A 〜Fizz Drug Information〜

 

 

カルシウムは、脳では記憶、神経では痛みを伝えるなどの役割を担っています。そして、血管や心臓ではカルシウムは「収縮」に関わっています。

画像出展:「役に立つ薬の情報~専門薬学 

私自身も数年前に一度、不整脈(期外収縮)になったことがあり、24時間心電図も経験しました。なお、この時の不整脈は1カ月程続き、いつのまにかなくなりました。原因は睡眠不足とストレスだったのではないかと推測します。

今回、私自身の今後のケアのためにも、不整脈を詳しく勉強してみることにしました。図書館から借りてきたのは、『その心房細動、治しますか?付き合いますか?』と『不整脈・心房細動がわかる本』の2冊ですが、ブログは後者の『不整脈・心房細動がわかる本』の内容がほとんどです。

 

こちらの本からは、心房細動の進行度のグラフ、そしてカテーテルアブレーションを説明したイラストなど、計4つを掲載させて頂いています。

著者:山根禎一

出版:中外医学社

第3版発行:2014年10月

 

 

 

著者:山根禎一

出版:講談社

発行:2018年9月

 

 

大項目は次の5つです。第4章以外の各章の中から書き出したい箇所を要約するかたちで列挙しています。

第1章 脈の乱れは普通のこと?

第2章 自分の不整脈の種類を確かめておこう

第3章 心房細動―ただちに危険はないが進行する

第4章 危険な不整脈―突然死を避けるために

第5章 期外収縮―治療しなくて大丈夫?

第1章 脈の乱れは普通のこと?

不整脈が起きるわけ:心臓を動かす電気信号が乱れると脈も乱れる

●心臓は電気信号の合図にしたがって収縮・拡張をくり返す。

●不整脈があるからといって、心臓そのものに問題があるとは限らない。

●心臓の動きをコントロールする電気信号は、さまざまな原因で乱れる。よって、不整脈はめずらしいことではない。 

 

 

画像出展:「不整脈・心房細動がわかる本」

 

 

一瞬の症状はだれにでも起きる普通のこと

●健康な人でも1日のうち数十回は、期外収縮が起きているといわれる。多い人では1日に数千、数万にのぼることもある。(拍動は1日約10万回)

●起きやすい症状

1.一瞬、咳き込んでしまう。

2.ふいにのどがクッと詰まったような感じがする。

3.心臓がドクンと飛び跳ねたような感じがする。

4.脈が抜ける/脈が飛ぶ。

 

 

画像出展:「不整脈・心房細動がわかる本」

 

 

持続する症状や、めまい・失神に要注意

●1分間の脈拍数が100回を超えている、あるいは50回に満たない。

●1日に何度も不快な症状に見舞われる。

●動悸が続く(安静にしてもおさまらない)。

●息苦しくなって気が遠くなる。

 

 

画像出展:「不整脈・心房細動がわかる本」

 

 

一部の不整脈は脳梗塞・心不全・突然死の原因に

●不整脈にはさまざまなタイプがあり、中には命にかかわるものもある。

 

 

画像出展:「不整脈・心房細動がわかる本」

 

 

コラム:「心臓神経症」といわれた人へ 

激しい動悸や胸痛があっても心臓に異常はない状態を「心臓神経症」という。

 

 

画像出展:「不整脈・心房細動がわかる本」

 

 

第2章 自分の不整脈の種類を確かめておこう

どう対応するかは不整脈の種類や原因しだい

●不整脈があっても、必ずしも治療が必要なわけではない。

●自分の状態に合わせて対応のしかたを決める

 

 

画像出展:「不整脈・心房細動がわかる本」

 

 

第3章 心房細動-ただちに危険はないが進行する

心房細動は年をとるほど増える少々危険な不整脈。

1.年齢とともに起きやすくなる。

2.脳梗塞の原因になったり、心不全につながったりするおそれがある。

3.少しずつ進行していく。

4.治療できる。

 

 

画像出展:「不整脈・心房細動がわかる本」

 

 

心房細動のしくみ

●心臓のつくりは2階建てで部屋は4つ、1階は“心室”、2階は“心房”。2階(心房)の左(向かって右)の部屋は肺から送られてくる血液、右(向かって左)の部屋は全身から戻ってくる血液、役割はいずれも血液の一時置き場。そして、心房全体がリズムよく収縮をくり返すことで、溜まった血液が1階の心室に流れ込んでいくというしくみ。

心房細動とは心房がぶるぶる震えるだけで、しっかり収縮できなくなった状態。 

 

 

画像出展:「不整脈・心房細動がわかる本」

 

 

年齢、体質、全身の状態などが関係する 

●心房細動は基本的には老化現象だが、それだけではない。

●年齢以外の要因

1.心臓の病気

2.肥満

3.生活習慣病

4.飲酒・喫煙

5.ストレス

6.遺伝的な体質

 

 

画像出展:「不整脈・心房細動がわかる本」

 

 

心不全との関係:心房細動が続くと心機能は低下していく 

●心房が働かないから増える心臓の負担

 

 

画像出展:「不整脈・心房細動がわかる本」

 

 

●心不全で起きやすい症状

1.息切れ/呼吸困難:血液の流れが停滞し、酸素不足の状態に陥りやすくなる。

2.手足のむくみ:余分な水分は末梢に溜まりやすい。冷えも生じやすい。

3.倦怠感:酸素・栄養が十分に行き渡らないため、疲れやすくなる。

4.体重増加:尿量が減少し、余分な水が体内にたまる。

 

 

画像出展:「不整脈・心房細動がわかる本」

 

 

三つの観点から、とるべき方針を決める

●年齢

1.30~40歳代

薬を一生飲み続けるより、根治を目指す治療(カテーテルアブレーション)がすすめられる。

2.50~60歳代

自分の希望、心房細動以外に抱えている病気の有無などを考慮し、何を優先するか検討する。

3.70歳以上

無理に根治は目指さず、脳梗塞の予防や症状の軽減をはかりながらつきあっていく。

●症状

1.特に困ったことはない:「年齢」と「進行度」で判断する。

2.強い症状に苦しんでいる:薬物療法で和らぐこともあるが、根治を目指すことを考える。

●進行度(進行するほど、根治を目指すのは難しくなる)

1.発作性:薬物療法でもカテーテルアブレーションでも、正常なリズムを取り戻しやすい。

2.持続性:薬物療法でよい状態を保てる人は2割程度に。

3.慢性:薬物療法でリズムの調整は難しい。

 『心臓細動は発作性心房細動から始まり、年間5.5%ずつ慢性心房細動へと進行してゆきます。そして、その進行は通常、クスリで抑えることは困難です。不整脈のクスリ(抗不整脈薬)は、一時的には心房細動の出現を起こさないようにすることはできても、治しているわけではありません。治っているように見えて、その陰で心房細動の本体は成長(増悪)していることも多いのです。一旦効いたクスリが徐々に効かなくなることもよくあります。その場合は、クスリの量を増やしたり種類を変えたりします。』

画像出展:「その心房細動、治しますか?付き合いますか?」

 『「カテーテルアブレーション」という言葉の意味するところは、カテーテルを用いて「心臓の中の不整脈の原因部位を焼灼して治すことです。カテーテルとは、長い管の先で、焼いて治す治療法」ということができます。図に示しているように、実際にはカテーテル先端と患者さんの背中に張ってある電極パッチとの間に高周波電流を流し、接している局所に熱を加える原理です。電子レンジの原理とも類似しており、目的とする部位だけに熱を加えることができるのです。』

画像出展:「その心房細動、治しますか?付き合いますか?」

 大きな分かれ道

『心房細動の患者さんは、必ずどこかで分かれ道に遭遇します。それは心房細動と(ずっと)付き合ってゆく道と、心房細動を治す道の2つです。心房細動と付き合ってゆく道とは、心房細動を放置するか、薬物治療を継続することです。本書の中でいろいろ紹介しているように、抗凝固薬、抗不整脈薬、心拍抑制薬などをずっと内服継続します。

一方、心房細動を治す道とは、手術を意味します。カテーテルアブレーション手術または外科手術を受けて、心房細動を根治させる道です。』

画像出展:「その心房細動、治しますか?付き合いますか?」

第5章期 期外収縮ー治療しなくて大丈夫

期外収縮とは:たまに起きるだけなら治療は必要なし

 

 

画像出展:「不整脈・心房細動がわかる本」

 

 

●対応の基本原則

1.原因となる病気の有無で方針は変わる。

2.生活習慣の改善が有効。

3.期外収縮だけなら基本は無治療

 

 

画像出展:「不整脈・心房細動がわかる本」

 

 

付記:高齢者と薬の副作用

こまめに副作用の検査を

『高齢者に薬を飲ませるときの注意は三つある。飲ませ方、飲む量、そして飲んでいる間の注意だ。

高齢者は、寝ている場合でも体を起こして薬を飲ませる。寝たまま飲んだり、水を使わないと、お年寄りは薬が肺に入ったり、のどや食道で薬が「途中下車」してしまい、肺炎や潰瘍などを引き起こす恐れもある。

薬は肝臓で代謝され、腎臓から尿に排泄されることが多い。そのため、一般に肝臓、腎臓が弱っている高齢者には特に注意が必要だ。検査で異常がなくても、高齢者は薬を排泄、解毒する仕組みが弱っていると考えてよい。

高齢者、とくに70歳を過ぎた人には、薬の量を成人の三分の二ぐらいに減らして飲ませる。副作用もなく効き目が悪ければ、普通の量にもどせばよい。

高齢者はいくつかの病気を持っていることが多く、いろいろな薬を一緒に飲んでいる。統計で調べると、飲んでいる薬の数が多いと副作用も出やすい。高齢者の間で薬の副作用が増えているのはこのためである。お年寄りは、副作用が出ても外部からわからないことがある。だから、薬を飲んでいる間は肝臓、腎臓の検査を中心に、健康人、成人よりも頻繁に検査することをすすめたい。

著者:水島裕

出版:講談社

発行:2001年2月 

ブログの冒頭で出てきた、抗不整脈薬の「ワソラン」は商品名であり、一般名としては「ベラパミル塩酸塩」といいます。下図の横棒グラフでは上から5番目です。これを見ると肝代謝が95%となっており、肝臓への負荷が高いことが分かります。

 『抗不整脈薬は基本的に心筋の膜表面にあるイオンチャネル(イオンの通り道)に対して働きます。それは主にナトリウムチャネル、カルシウムチャネル、カリウムチャネルの3種類です。これらのイオンの通過を抑制させることで効果を顕すわけですが、効き過ぎた場合には心筋の電気的バランスを破綻させ、致命的な不整脈(心室頻拍や心室細動)を生じさせる可能性があります。そのことから、抗不整脈薬は諸刃の剣と呼ばれています。抗不整脈薬の効き過ぎを起こす原因は主として、高齢と、内臓機能低下(腎臓、肝臓)です。体内に入った薬剤がきちんと代謝排泄されるかどうかは腎臓、肝臓の機能に依っています。そこで大切なのは、使用している薬剤が腎排泄型か、肝代謝型かを知っておくことです。』

画像出展:「その心房細動、治しますか?付き合いますか?

脈診・腹診・クレアチニン

今回のブログは2018年2月23日にアップした「慢性腎臓病が鍼治療で改善!」の続編というべきものです。この患者さまの当時のクレアチニン値は2.38でしたが、その後2.14、2.18と変化しました。そして5月の検査では、ついに2点台を下回り1.82という数値になりました。
患者さまが来院された最大の理由は、2点台前半で安定していたクレアチニン値が2ヵ月で3.64に急速に悪化したことでしたが、5月の検査値の1.82はその安定していた当時の数値をも下回るものでした。

下記はクレアチニン、eGFRの推移をグラフにしたものです。


当院では施術前、仰臥位(あお向け)での施術終了時、そして全ての施術終了時の計3回、脈診を行うと共に血圧と脈拍を計っています。

 

ムロン社製の手首で計測するタイプを使っています。

この患者さまの来院当初の脈の特徴は次の通りでした。
赤くしたところが病脈になっているもので、現在は全て中央の「平脈」に近づきつつあります。「沈」「硬」「実」の3つについては、いずれも脈診を行う鍼灸師の直観的な感じ方による判断のため、評価は主観的であり比較検討は困難です。一方、変化を客観的な数値で評価できるのは「脈拍」です。そこで、計27回の施術を9回ずつ3つのフェーズに分けて、脈拍数の状況をグラフにして、それぞれのフェーズの傾向を比較することにしました。

祖脈診です。

これ以外に緊張が強くピンと張った脈である「緊脈」があります。

 

脈診はこの写真のように、左右3本の指(示指、中指、薬指)を使って行うのが一般的です。なお、手指側から寸・関・尺といいます。

画像出展:「日本鍼灸医学(経絡治療基礎編)」

上記の表は、2017年11月25日の初診から2018年5月27日までの計27回の施術を対象にしており、1~9回(青色)10~18回(小豆色)19~27回(緑色)の3つの段階に分けて比較しています。また、「脈拍数」の数値が入ったボックスのうち、灰色にしたボックスは脈拍数が40台のものを示しています。

10~18回(小豆色)の中に、1回目の脈拍が80以上が2回ありますが、これは患者さま曰く、「遅れそうになったので急いできた。」とのお話でした。これを考慮すると「平均」の脈拍数の順位は逆転するかもしれません。

分かったこと

・脈拍数40台は最初の4回の施術では12回の計測中10回(83%)と顕著に多い。
・遅脉については5~10回程度の施術回数で改善が確認できる。
・この患者さまの平脉の脈拍数は55~60と思われる。
・鍼治療が患者さまの自然治癒力を活性化させたことにより、本来の平脉に戻ったと考えられる。

遅脉とは
代々木の日本伝統医学研修センターでは、遅脉は1分間の脈拍数が50回未満のものとされています。そして、その原因としてまず考えられることは「冷え」です。「冷え」ではない場合、もう一つの原因とされているのが「気不足大」というものです。これは「気」の中に「推動作用」とよばれる、生理的活動や新陳代謝をつかさどる働きがあり、この推動作用の機能低下によって遅脉になると考えます。特に後者の推動作用の低下を原因とする遅脉は注意が必要です。
一方、数脉(サクミャク)は遅脉に相対するもので、1分間の脈拍数が80回以上とされています。こちらの原因は「」、あるいは「気不足小」になります。気不足小の場合、気の不足を補おうとして推動作用が働き、脈が数(脈拍を増やす)になると考えます。つまり、「気不足」が原因と考えられる遅脉および数脉に関しては、推動作用自体に問題を抱えている遅脉の方がより深刻ということになります。

腹診
脈診とともに重視しているのが腹診です。理想は赤ちゃんのような柔らかく、ふっくらしたお腹です。特に注意したいのは硬さの状態や形状、部位などです。
患者さまに関しては、臍周辺および下部の面状の硬さや臍上方の線状の硬さなど、まだ完全には取れていませんが、来院時に比べるとかなり軟らかくなりました。

疑われる瘀血

瘀血は血が内邪により非生理化したもの、熱が血に入り込んで血が固まったものと考えられています。触診は手に角度をつけ、下腹部の奥の面状の硬結を探します。瘀血による硬結の場合、縁が感じられ左右非対称が特徴です。
なお、ウィキペディアさまでは、
瘀血について次のような説明がされていました。

『東洋医学では流れが悪く滞りがちな血液を「瘀血」と呼んでいる。(瘀とは停滞という意味で、文字通り血が滞ったり、血の流れが悪く、よどんだ状態を指す) ~以下省略』
瘀血が疑われる代表的な脈の特徴は「沈細硬」とされています。これは脈が沈み、細く、硬い脈ということです。患者さまに関しては細くはなかったのですが、沈み硬い脈、熱が内攻した陰実な脈でした。そして、腹診でもほぼ「瘀血」の特徴がみられました。以上の事から瘀血による病態と判断し、本治穴を肝と腎の水穴・金穴としました。

まとめ

今回の患者さまの場合、病状の指標となるクレアチニン値・eGFR値と共に脈、腹部が足並みを揃えて改善されています。これは患者さま自身の自然治癒力が強力なものだったからではないかと思われます。

また、患者さまからは食事・飲水と共に、十分な睡眠をとれるよう心掛け、改善されるというイメージをもって生活している。とのお話を頂きました。

糸球体疾患

「一次性ネフローゼ症候群」の患者さまにご来院頂いています。クレアチニン値は約半年間、3点台で安定していたとのことですが、直近2ヵ月で5点台に一気に上昇(悪化)しました。2回の鍼治療後に行われた血液検査ではクレアチニン値の上昇にブレーキをかけることはできませんでしたが、次回の血液検査までの1ヵ月、週1回の治療を継続することになりました。
今後、改善がみられ、患者さまから同意を頂くことができれば、ブログにアップしたいと考えています。

ネフローゼ症候群は、高度の蛋白尿を基本的な病態とし、浮腫、低蛋白血症、高コレステロール血症を呈する疾患群の総称です。また、一次性は原発性ということです。従って組織診断だけで治療方針が決まります。一方、二次性の場合は原因疾患の治療も必要になります。
「病気がみえる vol.8 腎・泌尿器」によると、一次性ネフローゼ症候群の代表的疾患として4つがあげられています。

 

出版:医療情報科学研究所

『腎疾患は、原因が明らかではなく腎臓に限局した病変がみられる一次性(原発性、特発性)と、腎臓以外の原因(全身性疾患、薬剤、妊娠など)に伴って腎障害が生じるに二次性(続発性)に大別できる。』


この中で患者さまの疾患は、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)というもので、難病に指定されています。また、上記の表(円グラフ)を見ると代表的な4つの中では、6.6%と最も少ない疾患と位置づけられています。
腎疾患は病変部に関しては、「糸球体疾患」、「尿細管・間質性疾患」、「腎血管系疾患」の3つに大別できますが、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)は「糸球体疾患」に含まれます。 

 

『糸球体疾患では、糸球体が様々な機序により障害され、蛋白尿や血尿、腎機能障害(糸球体濾過量[GFR]低下)をきたす。』

 

『糸球体疾患の成立には、免疫的機序、血行障害による血行力学的機序や脂質代謝異常、糖代謝異常などが関与する。多くは、免疫学的機序によるものであり、糸球体に免疫複合体(IC)や抗体(免疫グロブリン)、補体の沈着がみられる。

現在、腎臓病でご来院頂いている患者さまは、慢性腎不全であり「糸球体疾患」については、ほとんど知識がありませんでした。そこで今回は、「病気がみえる vol.8 腎・泌尿器」を題材に、「糸球体疾患」の概要を1枚の表にまとめながら、理解を高めるということを行いました。

なお、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)は下から3番目に出ています。

気になったこと
今回作成した表の中で、1つ注目したいものがあります。それが光学顕微鏡による組織診断で、細胞増殖も血管壁(係蹄壁)の肥厚もなく、顕微鏡像が正常とほとんど変わらない「微小糸球体病変」のところに記載されていた「生理的蛋白尿」という病態です。本には次のような解説が出ていました。
『腎臓に器質的な異常を認めないが、一過性あるいは可逆的に蛋白尿がみられることを生理的蛋白尿という。機能性蛋白尿は、激しい運動や発熱、ストレスなどによる蛋白尿で、血行動態の変化によって血漿蛋白の濾過量が増大することで蛋白尿が生じると考えられている。
体位性蛋白尿は、立位(起立性蛋白尿)や前彎位(前彎位蛋白尿)でみられる蛋白尿で、腎静脈の圧迫による腎のうっ血や腎血管の攣縮によるものと考えられている。
また、ネット検索により、以下のような図(「蛋白尿の鑑別診断」)がありました。なお、この図は日本臨床検査医学会にあった、「臨床検査のガイドライン2012」から拝借しました。

こちらの図(上段)にもあるように「生理的蛋白尿」は「病的蛋白尿」とは全く別のものとして位置づけられています。そして、過度な精神的ストレスは定常的に自律神経系および内分泌系に悪影響を及ぼします。

また、体位性蛋白尿の原因とされる腎静脈の圧迫は、腎静脈に流れ込む細静脈や毛細血管までに対象範囲を広げると、体位の問題だけでなく、筋肉の硬結や筋膜の柔軟性の欠如という筋肉・筋膜の問題も血管に物理的ストレスを与える要因になると思います。

病に対する不安はストレスを高め、かつ長期にわたります。運動機会の減少は筋肉、筋膜の状態を劣化させ、血液循環に悪影響を及ぼします。
もし、これらのことが実際に起こるとすれば、糸球体疾患の本態による蛋白尿に加え、生理的蛋白尿による要因も加算されてくる可能性もあると思います。そして、これは鍼刺激による物理的治療が糸球体疾患の蛋白尿の問題改善に寄与できる一つの狙いになるのではないかと考えます。

なお、特に重要となる刺鍼ポイントは腎静脈近位の第12胸椎および第1腰椎下部脊柱際とその周辺の脊柱起立筋になります。

画像出展:「人体の正常構造と機能」


追記

週1回、計6回の施術の後に行った血液検査は、クレアチニン値の上昇が前月の1.18から0.61とほぼ半減されましたが、止めることはできませんでした。ご参考まで。

飲水の重要性

サラリーマン時代は風邪で会社を休むことはほとんどなかったのですが、小学生の頃は2ヵ月に1回ぐらい、熱を出して近所の医院にお世話になっていたように思います。その時、必ずお医者さんに言われていたのが、「水を飲んでいるか!?」というフレーズでした。
今回の本を読むまで、コーヒーを水分だと思っていた私が言うものおこがましいのですが、患者さまに「水分を摂っていますか?」とたずねると、「なるべく摂るようにしている。」という回答の方が「あまり意識していない。」より多いと思います。飲水が重要だということを、うまく患者さまにお話できれば良いのですが、残念ながら知識不足でした。
そこで、今回も本に頼ることにしました。図書館から借りてきたのが「知って納得! 水とからだの健康法」であり、ネットで購入したのが「病気を治す飲水法」です。後者は本文の中から重要と思う箇所をそのまま引用させて頂きました。

民間療法に理解が深かったとされる岡田道一博士は水の正しい飲み方として、次の3箇条を紹介されています。
1.朝起きたら、コップ2、3杯の生水を飲む。
2.1日中に合計10杯の水を飲む。
3.病気になったら、薬の前にまず水を飲む。
また、京都大学名誉教授で日本水質保健研究所所長などを務めた川端愛義先生は、水は自然の健康飲料だといい、正しい飲み方をすれば健康維持に効果を発揮すると述べています。そして、川端先生は、「生水美容説」を唱え、その中でいくつかの根拠を上げられています。

 

監修:佐巻健男

出版:小学館

1.水には人体の恒常性を維持する働きがある
人間の生理の基調にあるのは恒常性で、これがあるおかげで体温は常に36~37度を保っています。この恒常性は、水によって支えられています。また、ホルモン作用や酵素作用など、人体にとって大切な働きも水が重要な役割を持っています。美しさを根本で支え、保っているのが水、というわけです。
2.水には整腸作用がある
水は胃腸内の有毒・有害物質を排除して消化器の機能を調整する働きがあります。つまり、水には便秘にも下痢にも効力があるということです。美容の大敵といえば便秘です。水の整腸作用は、便秘を解消し美容に効果を上げるのです。
3.水は栄養を補給する
美容に必要な栄養やホルモンなどは本来、消化器を通して摂取され、体内でつくり出されるものです。それらが血液やリンパ液によって体中の組織に運ばれていくのです。そのためには、体内に十分な水分がなければなりません。いくら化粧をしても、体内の水分が不足すれば美しくはならないのです。つまり、水は内側からの化粧水なのです。
4.水は老廃物を排除する
人間のからだは食物と空気からエネルギーをとり、体内で必要な形に変えて活動しています。その過程では、つねに老廃物が生まれます。これらは速やかにからだの外に排出しなければ、美容はもとより健康をそこなうもとになってしまいます。水は汗や尿、あるいは便として、体内の老廃物を外に出し、健康と美容を保つために大いに役立っています。
5.水は肥満を予防する
水飲み法によって健康的なダイエットが実現可能です。

 

画像出展:「知って納得! 水とからだの健康法」

6.水は解毒作用を促進する
お酒を飲み過ぎたり、食べ過ぎたりしたとき、体内では解毒作用が行われます。このとき必要になるのが水の摂取です。水をとることで代謝活動が活発になり、しみ、そばかす、にきび、あるいはアトピー性皮膚炎のもとになる有毒物質の分解が進みます。健全な新陳代謝なしには肉体の若々しさも肌の美しさもあり得ません。この新陳代謝を調整するのが水なのです。要するに、いちばんの美容とは健康を保つことであり、そのために水は重要な役割をはたしているということです。

次の本は、今回購入したものです。著者の紹介などはブログの最後にある、訳者の林先生が書かれた『訳者あとがき』をご参照ください。

『関節痛、各種ヘルニア、アンギナ、喘息、うつ病、潰瘍、肥満、腫瘍、エイズに至るまで、元をたどれば、体細胞の内外の決定的水不足による代謝障害が原因であり、同一の原因にたどれる体内水不足の「叫び声」が痛覚となって現れ、もろもろの病名がつけられているというのです。その見事な説明がこの一冊に収められています。
収められている多くの治療レポートは、不安になっている病人に勇気を与えてくれるものです。細胞膜を通しての水の浸透メカニズムにおいて、水の分子だけが細胞内に浸透するため、治療に使うのは水道水で十分であると博士は説明しています。これも大切な点です。ペットボトルを買う必要はありません。飲みづらければ浄水器を付ければいいだけです。今日から水道水の蛇口をひねりましょう。』

著書:Fereydoon  Batmanghelidj(バトマンゲリジ)

原版の題名:Your Body's Many Cries for Water

訳者:林 陽

出版:中央アート出版

目次は次の通りですが、太字の項目には説明をつけています。

CONTENTS(目次)
各界の賛辞
序 薬で渇きを処理するな
CHAPTER1 なぜ薬で病気が治らないのか
 基本
 変えるべきパラダイム
 医学の誤診のもとを探る
CHAPTER2 新しいパラダイム
 ライフステージごとの水の制御
 理解を徹底させる
 その他の作用
CHAPTER3 消化不良痛
 結腸炎の痛み
 盲腸の痛み
 裂孔ヘルニア
 要約
CHAPTER4 リウマチ痛
 腰痛
 首の痛み
 胸の痛み
 頭痛
CHAPTER5 ストレスとうつ病
 水不足に関係する代償メカニズム
 エンドルフィン
 コルチゾン
 プロラクチン
 バソプレッシン
 アルコール
 RA(レニン・アンギオテンシン)系
CHAPTER6 高血圧
 高血圧の原因としての水不足
CHAPTER7 高コレステロール血症
 考慮すべき証言
CHAPTER8 肥満
 過食を定義し直す
 ダイエットソーダ
CHAPTER9 アレルギーと喘息
CHAPTER10 糖尿病
 インシュリン非依存性糖尿病
 トリプトファンと糖尿病
 インシュリン依存性糖尿病
CHAPTER11 エイズ
 エイズ研究の新展開
CHAPTER12 最も簡単な治療法
 快眠
 めまいの予防
 心臓発作の予防
 尿の色
 病気治療に役立てる方法
 塩ぬきダイエットの間違い
 医療制度と私たちの責任
 医療費の節減
 おわりに
訳者あとがき

CHAPTER1 なぜ薬で病気が治らないのか
基本
・『体のどんな働きも、水の流れに監視され、それと一体になっている。それで、「水管理」だけが、適切な量の水と水に乗って動く栄養素を最重要器官に真先に届かせる、唯一の手段になる。このメカニズムは天敵と捕食動物に対抗するためにますます強化された。それは生死をかけた究極のシステムであり、今の競争社会においても同じように働いている。
体内水分配において避けられないプロセスの一つが、あらかじめ決められた量以上の水を受け取らないように、特定部位が厳しく管理されることである。それは体のどの器官にもいえることだ。
水を充当する系の中で最も優先されるのは脳である。脳は体重全体の50分の1を占め、血液の18.20%を受け取っている。水の制御と供給をあずかる因子が活発になれば、水不足の警報が鳴りはじめる。それは冷却水の不足した車がオーバーヒートを起こすようなものだ。』
・『文明社会では、茶、コーヒー、アルコール、製造飲料が水の代わりになると考えられているが、この考えが致命的なミスを生んでいる。これらの飲料には確かに水が含まれているが、脱水成分も含まれている。それが飲料水分だけではなく、体に貯蔵されている水まで排除してしまうのである。』
医学の誤診のもとを探る
・『現時点では、喉の渇きが体の水不足の唯一受け止められている信号である。しかし、この信号は極度の水不足が発する最後のサインであり、喉の渇きを示さない段階で、すでに慢性水不足が起きているのである。ビタミンC欠乏から起きる懐血症、ビタミンB不足から起きる脚気、ビタミンD欠乏から起きるくる病、鉄不足が起こす貧血症等、どんな欠乏障害とも同じく、その症状をもっとも有効に治療する方法は、欠乏した成分を補うことである。慢性水不足の合併症が認められれば、その予防と初期療法はきわめて単純である。
この研究は、私が1987年の国際癌学会に講演者として招かれ、パラダイム転換の情報を提供する前から医師仲間に評価されていた。次のページに載せるベリー・ケンドラー博士の手紙は、慢性水不足を病の発生源とする科学的見解の正しさを確認している。大部分の変形性疾患の原因が慢性水不足にあることを説明するために、私は多くの文献を参照したが、彼はそれも調べている。
医学書を参照するとなれば、千ページを超える書物に目を通さなければならない。だが、人間の主だった病の理由を述べる段になれば、どの説明も同じである。「原因不明」の一語で、すべてが片づけられているのである。

 

画像出展:「病気を治す飲水法」

CHAPTER2 新しいパラダイム
その他の作用(水には溶媒と運搬以外にも多くの性質がある)
・『体のすべての代謝機能に欠かせない加水分解の働き。化学反応が頼っているのは水である。種子を発芽させ、新しい植物へ成長させるのにも似た生化学作用がそれである。』
・『細胞膜での働き。細胞膜に浸透する水の流れから電力(ボルト)がつくられ、ATP(アデノシン三燐酸)とGTP(グアノシン三燐酸)という、二大細胞バッテリーに蓄えられる。ATPとGTPは人体の化学的エネルギー源であり、特に神経伝達のさいに分子交換に使われる。』
・『細胞の構造を繋ぐ接着剤に似た働き。水はニカワのように細胞膜の固形部を結合し、高い体温の下でも「氷」のように固める作用を持っている。』
・『体内蛋白質と酵素は、あまり粘り気の無い溶液の中で、有効に働く。細胞膜に存在する受容器(受容点)も同じである。蛋白質と酵素は、粘り気の多い(水不足状態にある)溶液の中では有効に働かない。』
・『脳で生産された物質は、水に乗って、神経終末部の目標地点にたどり着き、情報の伝達に使われる。神経には、情報を梱包して流す「極微細管」と呼ばれる微細な水路が存在する。

 

画像出展:「病気を治す飲水法」

この非常に興味深い神経線維内の水路について、ネット検索したのですが水路として解説されたサイトを見つけることはできませんでした。しかしながら、東京大学で「研究のショーウィンドウ」とされる、UTokyo Researchの中に、「細胞内輸送の解明にかける思い」という記事があり、そこに出ていた図が、よく似ているのでお紹介させて頂きます。用語が微妙に違うのは原文を翻訳しているからかも知れません)

 

 細胞内輸送の解明にかける思い

『これまで、記憶や学習の研究では、シナプスの受容体や、電位を調節するイオンチャンネルなど、神経細胞の表面にあるものばかりが注目されていたのですが、実は、細胞内部の輸送も大きく効いていることがわかりました」と廣川特任教授は胸を張ります。

画像出展:「UTokyo Research」

このように、体のあらゆる機能を調節しているのは水である。体の溶媒たる水が、そこに含まれる溶質の働きを含め、体内のあらゆる機能を調節しているのである。この新しい科学的真理(パラダイム転換)を、未来のあらゆる医学研究の基礎とすべきなのである。』

CHAPTER3 消化不良痛
裂孔ヘルニア
・『水を飲むと、飲んだ量に応じて、モチリンと呼ばれるホルモンが分泌される。水を飲めば飲むほど、腸からモチリンが生産される。モチリンが腸に与える効果は、腸のリズミカルな収縮、上から下へと向かう蠕動運動を起こすことにあり、腸の中身を流す弁を、随時開閉することも含まれる。
このように、体内に十分な量の水があれば、すい臓は重炭酸液を生産し、胃の酸性物を受けとれるよう腸を準備できる。この理想的条件の下で、幽門は開き、胃の内容物を吐き出せるのだ。モチリンはこの働きを調節する中心的伝令である。』 (モチリンについてはブログ「便秘(大蠕動)」でも触れています)
・『重度の水不足合併症で、かなり誤解されているのが、過食症である。 ~中略~ 過食症の人は、食べものを胃にとどめられず、すぐに吐き出す抑えがたい衝動に駆られる。それで「非社交的症状」と呼ばれる。彼らの「空腹感」は、実際には、渇きの信号であり、吐きたくなる衝動は、先ほど説明した保護のメカニズムからくる。過食症の人が十分に水を補給し、食事をとる前に水を飲むようにすれば、この問題は解消する。

CHAPTER4 リウマチ痛
・『リウマチ関節炎とその痛みは、まずもって、患部の軟骨の表面が水不足に陥っている信号と見るべきである。関節痛は体の局所の渇きの信号であり、塩分の不足が一因を成していることもある。
関節の軟骨の表面には水分が多く含まれている。その潤滑機能のおかげで、関節が動くときに、対抗する面同士が自由に擦れ合う。骨細胞はカルシウムの層に浸っているが、軟骨細胞は水の豊富な基質に浸っている。軟骨の表面が擦れ合うと、細胞の一部が摩滅して剥がれ、骨表面の成長突起から新しい細胞が補充される。水の多い軟骨では摩滅する度合いは少ないが、水不足状態にある軟骨ではその割合が大きくなる。軟骨の再生と摩滅の割合が関節が有効に働く指標になる。
骨髄で活発に成長する血の細胞は、骨の中を通る水を軟骨に優先させる。血量を増やそうと血管を膨らませるときに、骨の硬い穴を通る支脈が十分に広がらないことがある。水と栄養を血管に頼る細胞には決まった割り当てがある。この状態で、より多くの水を運べるよう血が希釈されていなければ、軟骨に必要な血清を、関節嚢の血管から補給せざるを得なくなる。どの関節にもいえることだが、神経がつかさどるこの迂回メカニズムが痛みの信号を出す。
関節痛は関節が十分に水和されるまで圧力に耐えられない合図である。この種の痛みは飲む水の量を増やすことによって扱うべきである。そうすれば、一帯に流れる血は希釈され、軟骨に十分に水が行き渡り、骨に接する基礎から修復される。

画像出展:「病気を治す飲水法」

CHAPTER5 ストレスとうつ病
水不足に関係する代償メカニズム
・『水不足から起きてくる体内プロセスはストレスのそれと変わらない。水不足はストレスに等しいのである。ストレスが起きれば、それに関係する基本物質が体の貯蔵庫から引き出され、蓄えられている水も引き出される。水不足がストレスを、ストレスがさらに水不足を起こす悪循環がここにはじまる。
・『ストレス状態にあるといくつかのホルモンが過剰になる。体は「戦いか逃走か」の反応に向かって動き出し、危険な状態になる。体は人間の社会的変化とは無関係に、職場のストレスを含め、どんなストレス状態にあっても、「戦いか逃走か」の体制をとろうとする。ここで、いくつかの強いホルモンが分泌され、体がストレスからぬけ出すまで発動状態になる。その主なものが、エンドルフィン、コルチゾン解放因子、プロラクチン、バソプレッシン、レニン・アンギオテンシンだ。』
RA(レニン・アンギオテンシン)系
・『RA系は脳内ヒスタミンの発動に従属するメカニズムである。RA系は腎臓でも活発に動いているが、発動するのは体水量が減少したときである。RA系は水を保つために発動し、それに必要な塩分の吸収をうながす。水でもナトリウム(塩)でも、体に不足すれば、RA系が非常に活発になる。
RA系は、水とナトリウムが十分に使える量になるまで、毛細血管床と脈管系を収縮させる。それは血管系が淀みを起こさないためだ。測定可能なほど収縮が進めば「高血圧」と呼ばれる。血圧200で高いと思われるだろうか。私の診たイラン人は、高血圧の病歴がなかったが、政治犯収容所に送られたときに、血圧は300を超えていた。
ストレスが血管を縮ませる理由は簡単だ。人体の機能はすべてが絡み合っている。ストレスが起きれば、蛋白質、でんぷん(グリコーゲン)、脂肪などの貯蔵物質を出すために、水が使われる。その不足した水を補うために、RA系はバソプレッシン等のホルモンと力を合わせて、血管を収縮させる。
腎臓はRA系が活動する主な部位である。尿を生産し、余分な水素、カリウム、ナトリウム、老廃物を排出する責任を負っている。腎臓は、尿を生産するのに十分な水量に応じて、その働きを保つ必要がある。腎臓には尿を濃縮する力があるが、常時濃縮されていれば、腎臓を壊す原因になる。
・『腎臓障害は、長期的な水不足と塩分の欠乏により、RA系が発動している結果かもしれないのである。今まで、血管の収縮が体の水不足のサインと見られることはなかったが、いまや、体液のアンバランスを、移植も含む一部の腎臓疾患の主な原因と見なすべきときにきているのである。一度RA系が動き出せば、自然な停止装置が働くまで止むことはない。自然な停止装置の成分が水と若干の塩である。
・『コーヒー、紅茶、コーラを水の代用にしていればどうなるか。コーヒーと紅茶の天然刺激物には、大量のカフェインと、やや少ないセオフィリンが含まれている。これらは中枢神経系を刺激するだけではなく、腎臓に強い利尿作用を起こす水不足の因子である。コーヒー一杯には85mg、紅茶には約50mgのカフェインが含まれている。このように、カフェインは体内エネルギーを解放する力に作用する。その結果は誰でも知っているが、問題は体が望まないのに無理にエネルギーを解放することを知ることである。貯蔵エネルギーは減少し、一部のホルモンと神経伝達物質の働きが制御できなくなる。カフェインは、体の貯蔵エネルギーが低下するまで徹底的に作用する。』
・『カフェインはよい働きをすることもあるが、水の代用にばかりしていれば、水力エネルギーを生む力を体から奪ってしまうのである。カフェインのとりすぎは脳と体のATP貯蔵エネルギーを枯渇させる。これがコーラ世代の若者の注意散漫、コーヒー世代の大人に慢性疲労を起こす一因になっている。また、カフェインをとりすぎれば、心筋を刺激しすぎて疲労を起こす。』

下の資料は、こちらページの下段にある「ファイル」をクリックしたものです。

ダウンロード
日常生活の中におけるカフェイン摂取.pdf
PDFファイル 923.6 KB

CHAPTER6 高血圧
高血圧の原因としての水不足
・『水を十分に飲み、体の要求すべてに応じるようにしなければ、体内の水の一部が血管にとられ、一部の細胞が水不足になる。それまで緩んでいた血管床は、収縮し、閉鎖に追い込まれる。体の水が不足すれば、細胞内で66%、細胞外で26%、血液では8%水が失われる。血管が血を失わないためには管腔を閉じるしかない。あまり使われていない毛細血管を閉じることによりこのプロセスが始動する。毛細血管を常時開かせるにはどうすればよいのか、水を外部から補うしかない。
毛細血管床がどれほど働いているかが、そこに流れる血の量を決定する。筋肉を使えば使うほど、その部分の毛細血管も開き、血流も増大する。高血圧の患者に運動が最も欠かせない理由がそこにある。毛細血管床を常に開き、血の流れを円滑にする必要がある。血管床を閉ざすもう一つの原因が水不足である。飲んだ水は最後には細胞に入る。水は細胞の体積を内側から調節し、塩は細胞外の水の量を調節する。それは細胞を囲む海のようなものである。』 

画像出展:「病気を治す飲水法」

訳者あとがき(冒頭の部分になります)
『この本はイラン革命で政治犯収容所に送られた医師が、薬の得られない環境の中で三千人の患者を水だけで治療した経験を基礎に、医学、生理学の見地から、本格的に体内水代謝の複雑な機構と、水による各種疾患の治癒プロセスを解明し、世界に先がけて公表したものです。
著書のバトマンゲリジ博士は、イラン生まれの医師で、イギリスの大学で医学を学び、医師の資格を得ました。祖国にもどり、各地に診療所をつくる仕事に従事した頃に、イラン革命が勃発し、政治犯収容所で病人の世話をすることになりました。
薬が満足に手に入らない収容所の生活で、重い胃潰瘍の患者に水を飲ませただけで痛みが消えたのに、非常な驚きを感じます。「医師としていろいろな臨床の場に接してきたが、このようなことははじめてである。」と、回想しています。
博士はこのできごとを機に、三年間にのべ三千人を超える患者に、薬のかわりに水を処方し、痛みを消して治癒させることに成功しました。そして、この予想もしない経験に医療の重要な突破口を見い出し、アメリカで本格的研究に入ります。賛同する医師仲間を集めて、「シンプル・イン・メディシン財団」を創始、飲水による症状の解消と無用な医薬品の常用への抵抗運動を推進しました。
博士がまっ先にはたらきかけたのは、全米医師会と国立衛生研究所でした。しかし、製薬産業と切っても切れない仲である二つの機関が、博士の提案を受け入れるはずもありません。医師会に絶望した博士は、自費で財団から機関誌を刊行し、著書も次々に出して、国民に直接訴えかける仕事に着手しました。ペルシャ語版と英語版で製作に着手した記念すべき最初の一冊が本書です。~以下省略~』

こちらが、バトマンゲリジ先生(Fereydoon Batmanghelidj)です。

英語になりますが、”watercure”というサイトに多くの情報が掲載されています。

付記(2018年12月4日)ネフローゼ症候群における飲水の問題

腎臓病と飲水の関係を調べていて、ネフローゼ症候群の場合の注意点として飲水のことが書かれていた情報を見つけ、今回あらためて調べてみました。

参考としてのは「日本腎臓学会 ネフローゼ症候群診療指針」です。クリックして頂くと、”難病情報センター”の”一次性ネフローゼ症候群(指定難病222)”というページが表示されます。そして、このページの最下部の”10.  この病気に関する資料・関連リンク”の下に、このPDF資料をダウンロードさせるリンクが付いています。なお、この資料は100ページを超える大容量のものになります。

飲水に関しては14ページに出ており、その内容は以下の通りです。(青字がポイントです)

Ⅲ浮腫の治療および腎保護を 目的とした治療

 1 浮腫に対する治療

  2) 塩分制限・水分制限

水分制限:『水分制限の有用性に関しては明確ではない。十分な塩分制限下では、本来、厳密な水分制限は不要であるが、利尿薬使用下で低ナトリウム血症となる場合は制限が必要であると考える。

浮腫を増悪させないための水分制限は、食事中の水分を含む総水分量として前日尿量+500 mL

(不感蒸泄量−代謝水)がひとつの目安となる。実際には、毎日体重を測定したうえで,制限を

調整することが大切である。』

重症五十肩(肩関節周囲炎)

重症五十肩の患者さまに来院頂いています。初診のときに肩関節の可動域を確認させて頂いたところ、屈曲(腕を前に振り上げる)については何とか30°程度ありましたが、伸展(腕を後ろに振り上げる)も外転(腕を横に上げる)も、自力ではほとんど動かすことができませんでした。人とのすれ違いでは、肩が軽くぶつかっただけで激痛のためうずくまってしまうということです。夜間痛は最も何とかしたい痛みでしたが、仰臥位(あお向け)になっただけで肩がずれるような感じがあり辛いとのことでした。そのため、施術では肘から下を小さな枕に乗せて頂くようにしました。家事や日常生活では、シャツの着替え、洗濯物を干すこと、髪を後ろで結ぶことなどはひとりではできないため、家族の方に手伝ってもらっていたそうです。
痛みの強さなどから、亜脱臼や腱板損傷も考えられましたが、二つの病院でのX線による診断はいずれも五十肩とのことでした。

下記の4つの絵は、“「肩」に痛みを感じたら読む本”からの出展です。左上は前方の「屈曲」と後方の「伸展」ですが、それぞれ可動域は180°と60°と定義されています。右上は外側に開く「外転」と内側にクロスする「内転」を示しています。「外転」の可動域は180°です。

下段は「水平内転」・「水平外転」、および「内旋」・「外旋」の説明となっています。すべて、クリックして頂くと拡大されます。



左は肩関節、右は肩甲骨に関する動作です。

画像出展:「改訂版 ボディ・ナビゲーション」


初診は昨年10月後半、治療回数は4月末の段階で25回に達しており、成果については十分とは言い難いのですが、夜間痛はなくなり痛みは我慢できる程度に改善されたため、家事および日常生活に関しては、家族の方に手伝ってもらうことなく、すべてご自分でできるようになりました。
そして、今一番何とかしたいことは、バスや電車のつり革を握って体を支えられるようになることです。
四十肩、五十肩は何もしなくても1年程度で治癒すると言われていますが、この患者さまの状態を拝見した時、「本当にそうだろうか?どうやって自然治癒するのだろうか?」という疑問を持ちました。そこで、1冊は図書館、1冊は購入と2冊の本から学ぶことにしました。

最初に読んだ本は“肩が痛い、腕が上がらない 五十肩”です。ポイントになると考えた部分をまとめました。

 

監修:加藤文雄(西東京警察病院院長)

出版:NHK健康Qブック

早い人で3ヶ月~半年。長い人は1年ぐらい。運動制限が非常に強い人は、さらに長くかかる傾向がある(急性期[炎症期]1~2ヵ月ー慢性期[拘縮期]2~4ヵ月―回復期3~6ヵ月)。
ある日突然くることもあるし、じわじわくることもある。どちらかといえば後者がほとんど。
・痛みと同時に肩の腫れや熱っぽさを伴うこともある。痛む場所は肩から上腕にかけてが多い。

・初めは肩を動かすときに痛むだけだが、症状が進むと動かさなくても肩が疼くように痛み思うように腕が上がらなくなる。
時間がたつと炎症は治まってくるが、その過程で線維性の物質が出てきて、腱板の周囲が癒着し肩の動きが悪くなってしまう。
・原因ははっきりわかっていないが、腕を上げた状態で長時間の作業をしたあとに起こりやすい病気だということは言える樹木の手入れや大掃除で高い場所を拭き続けたあとに発症することがよくある。ものを持ち上げようとした瞬間や、テニス、ゴルフのスイングなどの最中に突然激痛におそわれ、それ以降、肩を動かすたびに痛むケースも多い。また、無理な姿勢をとったり、打ち身を起こしたことから五十肩になったという場合もある。
腱板は痛みやすい環境にある。線維組織は加齢とともにちょっとした力で傷ついて、炎症を引き起こしやすくなる。しかも、もともと血管が少ない部位で、いったん傷つくと修復されにくい性質がある。
・腱板の中でも棘上筋の腱板は構造的に炎症を起こしやすくなっている。腱板が炎症を起こすと、滑液包や関節の内部にも炎症が波及するのが五十肩の原因であろうと考えられている。
・重症のケースで、治療期間を短縮したい場合は手術を選択することもある。(関節鏡視下受動術) 

 

この絵は棘上筋の場合を説明したものです。

画像出展:“肩が痛い、腕が上がらない 五十肩”

 

本の中では、60°を超えて外転動作ができない五十肩を「重症」とされています。

画像出展:“肩が痛い、腕が上がらない 五十肩”

 

 

急性期のリハビリです。ここでは利用する重りにアイロンが使われています。

画像出展:“肩が痛い、腕が上がらない 五十肩”

 

 

「寝るとき」の姿勢が紹介されていました。

画像出展:“肩が痛い、腕が上がらない 五十肩”

もう1冊は、“「肩」に痛みを感じたら読む本”です。

 

著者:鈴木一秀

出版:幻冬舎

こちらの本は5つの章に分かれていますが、その5つは以下の通りです。
第1章 わずかな肩の痛みでも“手術”につながるリスクが潜む
第2章 知らないでは済まされない「肩」の基礎知識
第3章 手遅れになる前に、まずはチャック!「Yes/Noチャート」で“実は気づいていない重症度”を30秒診断
第4章 今すぐ実践!重症度別「肩治療&ケア」
第5章 早期に治して痛みのないアクティブライフを送る

この中で、今回のブログに取り上げたのは第1章と第2章に関する項目になります。こちらもブログに残しておきたいと思った個所の要点を書き出しています。

第1章 わずかな肩の痛みでも“手術”につながるリスクが潜む
肩の痛みを訴える人が低年齢化している
・現在も原因は不明であるが、その発症によって肩関節の組織に変性が起きてくること(退行変性)と、それによって肩関節の周囲に炎症が起きることが影響していると考えられている。
ほとんどの場合、1年前後で自然と治ってしまうが理由は解明されていない。
・自然治癒が期待される疾患のため、来院されることが少ないため患者数の把握が難しい。
・最近では30代で肩の痛みを訴える人が増えている。肩凝りは四十肩・五十肩の予備軍である。
・肩凝りは筋肉疲労によるが、四十肩・五十肩は関節の周囲で起こる炎症が原因の症状。両者を見極めるポイントの一つが肩を動かせるかどうかということ。
多くの場合、肩関節への負担が長期にわたって蓄積されることで炎症を引き起こすので、姿勢の問題やパソコンやスマホのように肩関節に負担を強いるような日常生活は将来的な発症につながるリスクになる。
・肩凝りと四十肩・五十肩は別物だが深く関わっているため、肩が痛くて腕が上がらなくても肩凝りと勘違いしている人も多く、肩凝りで医療機関を受診するのは気が引けると思って放置してしまうことが多い。
対処法を間違えると肩が硬くなって動かなくなる。
・[専業主婦Aさんの事例]:『~~中略~~ ところが、痛みは取れたものの、ずっと肩を動かさずにいたことで硬くなり、腕が上がりづらくなってしまったのです。洗髪やドライヤーをかけたり、エプロンを後ろで結ぶことができないなど、日常生活動作(ADL)に難儀するようになりました。それでも、五十肩がまだ完全には治っていないからだと思い込み、回復すれば腕が上がるようになると信じて、無理に動かして再発しないようにと不自由な生活を続けていました。
そんな生活が1年半ほど続いた頃、一向に良くなる気配がなく、むしろ肩が固まって完全に動かなくなったため、さすがに「これはおかしい」と感じて来院されました。
Aさんの話から、罹患期間が2年近くに及ぶことからMRIを撮って確認したところ、骨には異常がなく、確かに五十肩ではありました。しかし、拘縮を起こしている状態で、いわば五十肩の終末像といえる状態ですので、もはやリハビリだけで治すのは困難となり、年齢的なことを考えると手術をしたほうが良いとお勧めしました。
人生80年の時代ですから、Aさんの人生もまだ30年以上あります。残りの人生を有意義に過ごすためにも、ここは手術を受けるのがベストと考えたAさんは、手術を受けることにしたのです。
幸い、Aさんの場合は内視鏡による手術で済みましたので比較的負担も少なく、その後もリハビリのために通院し、半年後には肩の柔軟性が回復して腕が上がるようになりました。
Aさんは、ただの五十肩だと軽く見て対処法を間違えたために、手術をしなければならない事態にまで進んでしまいました。』
自然には治らない四十肩・五十肩がある
・四十肩・五十肩は、年齢に関係なく仕事の内容や生活習慣によっては、誰でも起こり得る疾患である。自然に治る人がいる一方、Aさんのように初期の段階で適切な治療を行なわないと、肩が固まって動かなくなるケースがある。
自然には治らない四十肩・五十肩には、腱板が部分的あるいは完全に断裂しているために、痛みが取れないケースがある。これはX線画像では軟部組織である腱の状態を正しく判断するのが難しいためである。従って、痛みが強い場合はMRI検査の実施が望ましい。また、腱板が損傷する原因の中には、四十肩・五十肩において、肩を動かさないと硬くなってしまうからと、痛みが残っているのに無理な運動を続けたことで症状が悪化し、ついには腱板が切れてしまうこともある。
肩関節の専門医は意外と少ない
・当院(麻生総合病院)には肩の痛みを訴えて受診する人が年間約1200名、その1割が腱板断裂である。罹患期間も2年以上という人が多い。
・日本肩関節学会に所属している肩関節の専門医は全国で1600人しかいない。
専門医でなかったり、MRI装置を持っていない場合はX線画像だけの判断となるため、腱板損傷を発見できず、通常の四十肩・五十肩と診断されることもある。

四十肩五十肩では、特に肩があがらない症例(広範囲腱板断裂)に対してはリバース型人工肩関節置換術という最新の手術も行なっています。』

『肩関節に関する基礎および臨床研究の発表、連絡、提携及び研究の促進をはかり肩関節医学の進歩普及に貢献し、もって人類の福祉に寄与することを目的とする。』 

第2章 知らないでは済まされない「肩」の基礎知識
頼りない肩関節を補強しているインナーマッスル
・肩関節は広い可動域がもつが、骨格による支えはすくなく安定性に問題がある。そのため、その問題を回避するために活躍しているのが筋肉や腱、靭帯、関節包などの軟部組織である。深層にあって肩関節を安定させると共に、微妙な動きをコントロールしているのがインナーマッスルの棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋である。これらの筋肉の両端から出ている「腱(結合組織)」は、他の部分の腱よりも長く、板状をしているため腱板といわれているが、これらの4つの筋群は上腕骨を取り巻いているため、「ローテーターカフ(回旋筋腱板)」とも呼ばれている。

 

画像出展:「人体の正常構造と機能」

肩甲骨を前(腹側)から補強する「肩甲下筋」、後ろ(背側)から補強する「棘下筋」と「小円筋」、前後から補強する「棘上筋」のローテーターカフに「三角筋」を加えた5つの筋が治療の基本です。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

加齢に伴い腱板機能が劣化したり、姿勢や生活習慣の影響で肩甲骨機能が低下すると、肩関節の中が不安定になり、ちょっとした動作が関節包を刺激し傷つけ、炎症を起こすことがある。この状態がいわゆる四十肩・五十肩の痛みの強い時期になる。炎症が治まると傷ついた関節包は縮こまった状態で治癒するが、この時期が四十肩・五十肩の動かなくなった時期(拘縮期)になる。また、加齢によって皮膚の弾力性が失われ、たるみやシワができるように、肩の軟部組織も年齢とともに弱くなって傷つきやすくなる。ちょっとした刺激でも傷つき、狭い空間で炎症を起こして腫れる。そうなると、痛くて腕を上げることは困難になる。ときには弱くなったインナーマッスルが切れる、腱板断裂にいたる。
体の表面を覆っているアウターマッスル
アウターマッスルはインナーマッスルの筋群を覆って肩の強度を高めているおり、三角筋や僧帽筋などがある。
・日常生活では、肩を大きく動かす動作をすることは少ない。また、肩甲骨を支えて腕を引き上げる働きをしている僧帽筋は、腕の重さを支えるために、ある程度の力で常に収縮し緊張した状態にある。そのため血液循環が悪くなりがちであり、筋膜の癒着が起こりやすい。
四十肩・五十肩は関節包やインナーマッスルに起こる炎症であり、肩凝りはアウターマッスルに起こる血行不良と筋膜の癒着といえる。
筋肉が緊張するとなぜ血流が悪くなるか
筋線維が緊張すると、筋線維の1本1本が太く短くなって筋線維を包んでいる筋膜を圧迫し、筋肉はパンパンになる。このため筋膜の中では筋線維どうしの押し合いとなるが、その圧力で押しつぶされるのは筋線維の中を通っている血管や神経である。そのために血流が悪くなり筋肉は硬くなる。特に静脈の血管は力強い動脈とは異なり柔らかいパイプである。そのため、筋線維の圧力で簡単に押しつぶされ、うっ血を起こす。しかしながら、筋肉が緊張と弛緩を繰り返す場合においては、この圧迫と解放の連続は静脈に流れる血液を心臓に送り返す働きとなる。もし、緊張だけが一方的に続くと、新鮮な血液を送ることも、老廃物を回収することも困難になる。
炎症が起こるとなぜ痛みが生じるのか
・炎症が起こっている肩周囲には、免疫に関わるたくさんの細胞が集まっている。四十肩・五十肩の場合は、病原体が原因で起こる疾患ではないが、炎症が起きているところには異変を察知した免疫細胞が集まっており、治そうと働いている。この免疫に関わる細胞には色々な種類があり、それぞれに役割が異なる。中には、炎症や発熱を促す働きをしている細胞や、痛みを誘発する物質(発痛物質)を分泌させる細胞もある。その一方では、炎症や痛みに関わる物質を中和し、鎮静化させる働きを持った細胞もある。炎症が起きて痛いときには、それに関わる細胞が優位に働いており、炎症が治まり痛みが和らいできたときには鎮静化させる細胞が活発に働いているのである。つまり、炎症は一種の防御反応であり、治る過程で起こる現象ともいえる。

付記1「臨床家のためのトリガーポイントアプローチ」

トリガーポイントを広められた黒岩先生の著書である「臨床家のためのトリガーポイントアプローチ」の中に五十肩の治療に関する記述がありましたので、一部をご紹介させて頂きます。

 

著書:黒岩共一

出版:医道の日本社

・五十肩は、治療一回目に劇的改善が得られることがまれな難しい症状である。試行錯誤的刺鍼を繰り返した結果、治りにくい理由として言えることは、大量の責任トリガーポイントの広範囲な分布である。責任トリガーポイントの形成頻度の高い筋は三角筋、肩甲下筋であるが、慢性化・重症化して来院した患者であれば、肩甲間部、肩甲帯(特に腋窩後壁を走行する回旋筋群)、上肢、さらには前胸部の筋にも処置の必要な責任トリガーポイントが認められる。
五十肩の治療で最も重要なことは肩以上に頚と背中、特に大椎近傍の夾脊穴などの刺入である。これは夜間痛がある場合は必須である。(「大椎近傍の夾脊穴」とは、第7頚椎棘突起と第1胸椎棘突起間にあるのが大椎というツボですので、このツボの上[頚]と下[背中]にも刺鍼するということです)
五十肩で一番多いのは、自発性に肩の前方が痛むタイプである。腕を挙げたり(屈曲・外転)、内旋しても痛む、すなわち運動痛もある。増悪すれば夜間痛も発現し苦しむことになる。
本来はこの前部の痛みが三角筋トリガーポイントによるものか棘下筋からの関連痛かを鑑別する必要があるが、現実的にこの作業は非常に難しいため、臨床では拘らない。実際は、まず棘下筋を徹底的に攻めて棘下筋トリガーポイントを探すことである。そのためには、肩甲骨外縁とほぼ平行に内下方外上方に走る索状硬結と、その内側にある500円硬貨位の円盤状硬結を丁寧に触擦する。次に肩甲棘の外1/3あたり下縁から、三角筋粗面に向かって走る三角筋後部線維中の硬結とその中のトリガーポイントを検索する。この2つの硬結部のトリガーポイントに刺鍼して、肩の前の痛みが再現されたら、三角筋の後部線維、棘下筋を中心に治療する。もし、関連痛が起こらなかったり、関連痛が肩前面に放散しない場合には、三角筋の前部線維と肩甲下筋形成トリガーポイントを疑う必要がある。

 

最も多い、肩の前方が痛むタイプに関して、施術に迷ったならば、まず棘下筋に注目することを黒岩先生は推奨されています。

画像出展:「臨床家のためのトリガーポイントアプローチ」

付記2: fasciaリリース治療 (ブログ参照:「エコーガイド下fasciaリリース」)

注)当院ではエコー(超音波診断装置)を利用した治療は行っておりません。
Fascia(ファシア)とは、線維性結合組織の総称であり。皮膚、皮下組織、筋膜、腱、靭帯、脂肪体、腹膜、髄膜、骨膜すべてが含まれる。とされています。そして、fasciaリリース治療は原因となっている癒着部位に働きかけ解放するというものです。
 

 

画像出展:「Fasciaリリースの基本と臨床」

例えば、四十肩・五十肩は関節包周囲での癒着は可動域に制限をもたらしますが、それは上図のように筋膜どうしだけでなく、筋膜と骨膜、筋膜と浅筋膜(皮下組織)、腱と骨膜など様々な組織間で癒着が生じる可能性があります。 

エコーで画像を確認しながら鍼を使ってfasciaリリースを行っている先進的な鍼灸院はすでにありますが、より効果的な処置は、医師による注射(生理食塩水など)を用いる方法です。 

鍼はGrade2、注射はGrade3となっています。  画像出展:「Fasciaリリースの基本と臨床

下の写真は棘下筋に対するfasciaリリースを行っている様子です。いずれも「Fasciaリリースの基本と臨床」の画像です。クリックすると拡大されます。


課題は「fasciaリリース」を行っている整形外科がまだまだ極めて少ないことです。
埼玉県では羽生総合病院の和漢診療科などで行われています。以前からfasciaリリースに関心が高かったこともあり、疲れがたまってくると不穏なギックリ腰対策のため、昨年12月、約1時間の東北道をドライブし和漢診療科で治療を受けてきました。患部が腰部のため、残念ながらエコーに映し出された自分自身の画像を見ることはできませんでしたが、刺針時の痛みはほとんど無く、注射液が注入される感覚を体験できました。その後4ヵ月、気になるレベルの不穏な状態は発生していません。

『腰痛、膝痛、五十肩などの痛みに対して、最新の治療である「筋膜注射」や仙腸関節ブロックを行っている。』

なお、「fascia」と「トリガーポイント」をどう位置づけて理解したら良いのかについては、「Fasciaリリースの基本と臨床」の中で次のような説明がされています。

『トリガーポイントはあくまで生理学的に定義された用語(過敏となった侵害受容器)であり、治療“部位”検索としての解剖学的な位置を示す用語としては適切ではない。トリガーポイントが存在する場所は基本的にfasciaであると想定しているため、治療部位検索の上でトリガーポイントという用語は本書では用いていない。さらに、fasciaの異常(例:炎症性、mechanically-insensitive afferentsによる機械的痛覚過敏、滑走性・伸張性障害)による症状を包括するための概念としてもトリガーポイントだけでは不十分である。』

腸内フローラ(腸内細菌叢)

腸内フローラと腸内細菌叢は同じものですが、「細菌叢」とは「多種多様な細菌の集まり」ということです。
「専門学校時代に習ったかなぁ?」というのが感想でした。そこで、久々に生理学の教科書を広げたところ、次のような内容が別々に掲載されていたのを確認できました。
1.大腸内の消化と吸収―腸内細菌
大腸内には、大腸菌をはじめとして多数の細菌が常在している。腸内細菌は小腸で消化しきれなかったものを分解する。食物線維は腸内細菌の働きにより発酵されて、酪酸・酢酸やCO2、H2、メタンなどのガスを発生する。アミノ酸は腸内細菌によりインドール、スカトールなどを生成し、糞便臭の原因となる。
2.生体の防衛機構に働く組織と因子―生体表面のバリア
皮膚や粘膜表面には、病原性のない常在菌が細菌叢を形成しており、病原菌が生育しづらい環境に保たれている。

 

絵もありました。腸のところにも「常在菌の細菌叢」とありますが、やはり学んだ記憶がありません。

画像出展:「第2版 生理学」

一方、「人体の正常構造と機能」でも同じように調べてみたところ、次のような記述がありました。
腸内の常在細菌叢は、消化管粘膜免疫系の維持と制御に深く関っている。
これを見て、「腸内細菌」と「消化管粘膜免疫系」のそれぞれの働きを把握できていないこと。あやふやな知識がぐちゃぐちゃになっていることが分かりました。

消化管粘膜免疫系(腸管免疫系)について、ネット検索すると「ライフサイエンス 領域融合レビュー」という学術サイトの中に関連する記事がありました。専門的な内容ですが、その記事の「要約」の部分をご紹介させて頂きます。なお、「ライフサイエンス 領域融合レビューは、大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 ライフサイエンス統合データベースセンター から発信・公開される日本語コンテンツのひとつ」とのことです。
腸内細菌と腸管免疫  
要約:『消化管はユニークな免疫系を構築している。そこでは、強い炎症活性をもつ免疫細胞と同時に抑制能の強い免疫細胞がバランスよく生み出されている。これは、消化管がさまざまな微生物の侵入という危険につねにさらされているのと同時に、日常的に接する無害な食物や腸内フローラに対しては不必要に免疫応答しないよう制御される必要があるためである。こうしたバランスよく制御された消化管免疫系の構築において、腸内フローラが重要なはたらきをしていることが徐々に明らかになってきている。腸内フローラを構成する個々の細菌種は、それぞれ異なる様式により消化管免疫系に影響をあたえる。たとえば、セグメント細菌とよばれる消化管に常在する細菌はマウスの小腸の粘膜固有層においてTh17細胞の分化を強力に誘導する。一方で、クロストリジアに属する消化管に常在する細菌は制御性T細胞の数を増加させその機能を高める。そして、腸内フローラの細菌種の構成の異常は免疫の異常へとつながり、さまざまな疾患を誘発する。ここでは,腸内細菌に影響をうけて構築されているユニークな消化管免疫系について紹介する。』

今回、勉強のために参考にさせて頂いた本はこちらです。

 

著者:藤田紘一郎

出版:ワニブックス

「はじめに」に続いて、目次でもある「30の方法」をご紹介しています。その後、特にブログに残しておきたい要点を書き出しています。なお、目次で太字になっているところが、それぞれの要点の元になった「方法」です。

 

はじめに
『わずか数年の間に、腸内細菌をとりまく環境は激変しました。近年の遺伝子研究とコンピュータの発達を受けて、腸内細菌の大規模な遺伝子解析が行われたことが一つのきっかけとなっています。
以前は、腸内細菌の研究は、培養によって種類を特定する方法しかありませんでした。このとき、腸内細菌の数は500種類、100兆個と推定されていました。ところが、遺伝子解析によって、腸内細菌は3万種、1000兆個もいるとわかってきました。
また、かつては「善玉菌が腸によいことをして、悪玉菌が悪いことをする」と単純に語られていた腸の世界が、実は非常に複雑であり、体と心の状態を支配するほどの影響力を持っていることが明らかになってきたのです。

その影響力とは、私たち人間が感じているよりもすさまじいものです。健康も病気も腸からつくり出されるといっても過言ではないほどです。腸内細菌の乱れが起こす病気は、風邪や食中毒などの感染症にとどまらず、がんや肥満、動脈硬化症、糖尿病、脳卒中、心筋梗塞などの生活習慣病、認知症、うつ病、アレルギー疾患、自己免疫疾患にまで及んでいるのです。しかも、最近の研究では、自閉症などの発達障害や、パーキンソン病にまで関与している可能性が示されています。(以下省略)』

1.私たちの腸にすむ「もうひとりの自分」を意識せよ
2.あなたにはあなただけの腸内細菌叢があることを知ろう
3.病原体を退治する“免疫の武器”が腸内細菌の選別を行っている
4.腸内フローラは数日あれば変わる!生かすも枯らすも毎日の生活しだい
5.細菌を殺しては健康になれない!おおらかにつきあう気持こそ「菌活」「腸活」の基本
6.人類は細菌のおかげで立派な脳を持てた。うぬぼれてはいけない
7.がんやアレルギー、うつ病は人類の衰退を示す「退化病」
8.納豆な土壌菌の塊。毎日食べておけば腸内フローラも男性力も衰えない
9.食物繊維を食べていると、腸内細菌が善玉物質をつくり出す
10.「おデブ菌」をおとなしくさせれば、肥満は治る
11.食の好みは、腸内細菌に操られている。「酢玉ネギ」で腸内環境の改善を
12.食物繊維をエサにしていれば悪玉菌は悪さをしない
13.除菌活動に熱心になってくると感染症や食中毒にかかりやすくなる
14.免疫システムは腸内細菌にコントロールされている
15.土壌菌は食べなければいけない。ピロリ菌は除菌してはいけない。
16.酵素食品をとっても体内の酵素は増えない。腸内細菌が多くの消化酵素をつくり出す
17.サプリメントを飲んでも腸内細菌が働かなければビタミンは得られない
18.腸内細菌を増やし、小麦粉・牛乳を遠ざける食事療法で自閉症が改善される可能性
19.腸を鍛えればうつ病はよくなる!人の幸福感をつくるのは腸内細菌だ
20.イライラや不安、カッとなりやすい心は、汚れた腸からつくられる
21.認知症は「腸内細菌」と「水」で予防できる
22.腸にすむ「マイ乳酸菌」はオリゴ糖で増やせる
23.ヨーグルトは、菌が生きたまま腸に届かなくてもよい
24.医者に金を払うよりも味噌屋に払え
25.「白い炭水化物」は腸内細菌を疲れさせる
26.病気にならない体づくりには肉や油も必要だ
27.保存料、食品添加物、抗生物質は腸内細菌を減らし免疫力を低下させる
28.冷凍機キノコ、ニンニク酢、昆布酢で活性酸素の害を消す
29.腸に開いた穴を塞げば大人の食物アレルギーはよくなる
30.日本人の腸内フローラは世界で最低水準。毎日の大便チェックを状態改善に役立てよう

おわりに ~笑う者の腸には福来る~

1.私たちの腸にすむ「もうひとりの自分」を意識せよ
・腸内細菌は約2kg、腸内の壁にくっついている。
・米国では2007年から1億5000万ドル以上と5年間の歳月をかけ、国立衛生研究所が「ヒト・マイクロバイオーム・プロジェクト」を実行した。腸内細菌一つ一つのDNA配列の全般にわたる解読を目指した。マイクロバイオームとは「細菌叢」のことで、微生物の生態系を意味する。

・腸内細菌から見れば、人間は「宿主」になる。宿主とは寄生生物に寄生される側の生物のこと。私たちと腸内細菌は共生関係にある。 
・善玉菌と呼ばれる菌だけが体に必要なのではなく、悪玉菌も日和見菌もとても大事な働きを担っている。
・微生物の世界は壮大で複雑なため、有用なものを選び、不要なものは排除する、という選別を宿主ができるものではない。

2.あなたにはあなただけの腸内細菌叢があることを知ろう
・一卵性双生児や親子であっても、両者の類似性はさほど高くない。
・人間の遺伝子は20,000~25,000個。腸内細菌の遺伝子数は、3,300,000個にも上る。
生後わずか1年間のうちに、生涯にわたる腸内細菌の組成は決定づけられてしまう。母親の胎内は完全なる無菌状態。菌の洗礼は産道を通る時、そして外界に産み落とされた瞬間から、赤ちゃんは膨大な細菌を浴び、腸や皮膚、気道などで細菌たちが繁殖していくことになる。生後1年間で、赤ちゃんはまるでスポンジのように細菌を取り込んでいく。
・赤ちゃんがなんでもなめたがるのは、多種多様な細菌をとり込んで立派な腸内細菌叢をつくろうとする本能である。

3.病原体を退治する“免疫の武器”が腸内細菌の選別を行っている
・免疫の主な働きは、「感染からの防衛」「健康の維持と増進」「老化と病気の予防」。その免疫力のおよそ70%を腸がつくっている。
・腸が人体の免疫の大半を担うのは、病原体が腸から侵入するからである。腸は「内なる外」である。人の消化管は口から肛門まで9メートルにも及ぶ一本の管になっており、腸には多くの免疫組織が集まるようになった。

この絵をご覧になると、中央の消化管が「内なる外」(体内にあるようで、実は体の外側、皮膚と同じ位置づけ)であることがご理解いただけると思います。

画像出展:「イラスト解剖学」

・腸管の免疫では「自己」と「非自己」がたえず識別されている。食べたり飲んだりしたものも、腸にとっては外から侵入してきた非自己である。そこで、腸は食べたものを分解してブドウ糖やアミノ酸、脂肪酸などの最小粒子にし、非自己物質としての機能を失わせる。これが腸の行う「消化」の働きである。消化されたものは、腸管の表面を覆う上皮細胞から体内に吸収される。
・腸の上皮細胞の表面には粘液がある。この粘液には、消化された栄養素にまぎれて病原体が体内に侵入しないように殺菌物質やウィルスを不活化する物質が含まれている。また、「IgA抗体」という免疫物質も大量に存在している。
・抗体とは、特定の非自己物質にくっついて、その異物を排除する分子のことである。つまり、異物を退治するための武器だと考えるとよいだろう。私たちの免疫は、どんな異物に対してもぴったりの抗体をつくり出すことができるのである。
・これまで、IgA抗体は腸粘膜の中にあって、侵入してくる病原体を殺す物質と知られてきた。しかし、実際には腸内細菌の選別にも働くことが明らかにされた。
・IgA抗体は、腸の粘液でつくられる。また、母乳の中にも含まれる。とりわけ母乳が初めて出す初乳には、たくさんのIgA抗体がある。初乳の重要性は昔から伝えられていることであるが、それは生後まもない時期の感染症を防ぐためといわれてきた。ところが、初乳は細菌を腸にとり込むために必要だったのである。

4.腸内フローラは数日あれば変わる!生かすも枯らすも毎日の生活しだい
・体は自分ひとりだけのものではなく、1000兆個の腸内細菌たちと共有している。成人の体はおよそ60兆個の細胞から構成されているが、私たちの腸には、人体の全細胞より16倍以上もの数の細菌がすみついている。
・食生活が乱れて腸の状態が悪ければ腸内フローラは荒れる。体に悪さをする細菌が爆発的に増えてしまえば、優良な菌たちはとたんに数を減らす。ただし、腸内フローラには野生の花畑と決定的に違う点がある。腸内バランスはひとたび崩れても、野生の花畑ほど再生に多くの時を必要とはしない。細菌の増殖力は植物よりずっと強いからである。つまり、宿主が腸内フローラの乱れをいち早く察知して適正な努力を行えば、わずか数日間のうちに美しく整えられるのである。
消化のしくみは、はじめから腸内細菌との共生ありきで組み立てられている。腸だけの消化能力では、体が欲するように栄養素をとり入れることはできない。
・便のうち食べカスは5%、60%が水分で、20%が腸内細菌とその死骸、15%は腸粘膜細胞の死骸である。

免疫機能も腸内細菌との共同作業によって初めて成り立つものである。腸にたくさんの細菌がすむのは、病原体の侵入を防ぐためでもあるが、腸内細菌は縄張り争いをしながら腸の中に自分の生息場所を守っている。外から新たな細菌が侵入してくると、いっせいに攻撃してその排除に働くのである。しかも、腸内細菌は、腸にいる免疫細胞を活性化する力もある。つまり、免疫システムだけでは十分な免疫力を発揮できず、免疫力を高めるには腸内細菌を増やすことが大事なのである。

6.人類は細菌のおかげで立派な脳を持てた。うぬぼれてはいけない
・脳も腸から分化した臓器である。腸にはもともとニューロンなどの神経細胞が存在していた。また、心の状態を築くセロトニンやドーパミンなどは、脳内で分泌される神経伝達物質と思われているが、その起源は腸にある。腸内細菌が腸の多くの働きを肩代わりする中で、腸内細菌は仲間どうしでの情報伝達が必要になっていった。セロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質は、腸内細菌間の交流のために必然的に生まれたものだったのである。たとえば、「ビタミンを生成しましょう」「外敵が来たぞー!」などといった情報の伝達を、神経伝達物質を介して行っていたのである。

12.食物繊維をエサにしていれば悪玉菌は悪さをしない
・腸内細菌たちの大好物は水溶性の食物繊維

14.免疫システムは腸内細菌にコントロールされている
・マクロファージは「自己」と「非自己」を見極める力の特にたけている。

15.土壌菌は食べなければいけない。ピロリ菌は除菌してはいけない。
免疫力が低下すると、システムの統制をとれなくなり、免疫細胞は何が本当の「非自己」なのか見極められなくなる。
・ピロリ菌は日和見菌である。宿主の免疫力がしっかり働いている時には体に良い働きをする共生菌である。ピロリ菌が悪さを始めるのは、宿主がストレス過剰の状態にあって免疫力が低下しているときである。こうなると、ピロリ菌は胃を荒らす方に働いてしまう。細菌とはそもそもそういうものである。細菌自身は、自分が宿主にとって悪玉か善玉かなど考えていない。環境に応じて自分の居心地の良い環境を築こうと、せっせと働いているだけである。

17.サプリメントを飲んでも腸内細菌が働かなければビタミンは得られない
・私たちの腸はビタミン類を合成する機能を持っていない。食べたものからビタミン類を合成するのも腸内細菌たちの働きである。
・腸が元気ならば体が若返る理由の一つは、腸内細菌のビタミン合成力に隠されていたのである。
・ホルモンの一部も腸内免疫がつくっている。消化管ホルモンのセクレチン、コレシストキニン、インクレチンなど。
・強力な抗がん作用をもつエクオールも腸内細菌が大豆イソフラボンからつくり出す成分。ただし、このエクオールをつくれるのは、イソフラボンと相性のよい腸内細菌をもった人だけ。

 

画像出展:「腸内細菌を味方につける30の方法」

18.腸内細菌を増やし、小麦粉・牛乳を遠ざける食事療法で自閉症が改善される可能性
・自閉症の子どもは、そうでない子と比べて、腸内細菌の多様性が乏しいという報告がされている。

19.腸を鍛えればうつ病はよくなる!人の幸福感をつくるのは腸内細菌だ
・腸内フローラの組成は、生後だいたい1年間で決まってしまうが、腸にすみついた細菌たちの数はたえず変動している。たとえ乳児になんらかの問題により腸内フローラの多様性を十分に築けなかったとしても、今ある腸内細菌を増やす生活を送ることで、腸内環境は変わってくる。そうした変動が、脳や心の状態にまで影響を与えることがわかってきた。
・セロトニンとドーパミンはあわせて「幸せホルモン」と呼ばれるが、その原料となる前駆体は、実は腸でつくられている。そのため、腸内環境が悪化すると、幸せホルモンの分泌量は著しく減ってしまう。腸の健康は脳の健康であり、脳の健康は腸の健康である。生物にとってもっとも重要な臓器である腸と脳は、強く影響を及ぼしあいながら動いている。そうした両者の関係を「脳腸相関」という。
・トリプトファンからセロトニンの前駆体がつくられる際は、ビタミンB6が使われる。また、ドーパミンはフェニルアラニンという必須アミノ酸からドーパミンの前駆体になるまで葉酸やナイアシン、ビタミンB6が必要とされる。
・腸内細菌たちがつくり出した幸せホルモンの前駆体を、脳へと送り出しているのも腸内細菌である。

20.イライラや不安、カッとなりやすい心は、汚れた腸からつくられる
・九州大学の須藤信行教授らのグループは、系統的な研究により、人間の体は有害なストレスを受けたときに、「視床下部—下垂体—副腎」という流れを介して腸内細菌に悪影響を与えることを明らかにしている。有害なストレスを脳が察知すると、消化管の局所で「カテコラミン」が放出され、腸内フローラに直接的な影響を与えていることがわかったのである。カテコラミンとは、アドレナリンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質の総称である。これらはストレスホルモンとも呼ばれており、ストレスを感じると発生し、動悸や血圧の上昇、発汗、血糖の上昇、覚醒などの不安な変化を体に与える。須藤教授の研究では、このカテコラミンが腸内で発生すると、大腸菌の増殖が進み、腸管局所での病原性が高まることが認められた。カテコラミンが腸内細菌の病原性を強めさせる作用は、大腸菌以外の細菌でも観察されている。このように、不安や緊張によるストレスは、腸内細菌のバランスを著しく乱す。その乱れた腸内環境が脳へ情報を送ると、脳内ではストレスホルモンがつくり出される一方、セロトニンやドーパミンなどの幸せホルモンの量を減少させる。それによって脳が不安と緊張を増強させるという循環ができあがっているのである。

21.認知症は「腸内細菌」と「水」で予防できる
・人間の脳は、活性酸素の害を非常に受けやすい臓器である。人体を形づくる成分のうち、もっとも酸化しやすいのは脂質である。人間の脳は、約80%が水であるが、水分を除いた部分のうち、約60%が脂質からできている。その脂質が活性酸素に過剰にさらされ続けると、褐色の色素沈着を起こす。これが脳内で蓄積されてくると、「アミロイドβ」や「タウタンパク」などのゴミタンパクが大量につくり出され、さらに活性酸素を過剰に発生させるようになる。こうなってくると、脳の神経細胞が変性し、萎縮するようになるのである。つまり、活性酸素の過剰発生を防ぐことが最大の予防法といえる。

22.腸にすむ「マイ乳酸菌」はオリゴ糖で増やせる
・最近の研究により、腸にはその人特有の乳酸菌がすみついていることが明らかになった。

24.医者に金を払うよりも味噌屋に払え
・匂いが強いというのは、発酵力が高くて、菌が元気だという表れである。たくさんの種類の細菌が数多くいる発酵食品のほうが、腸内フローラの活性化には効果的である。

25.「白い炭水化物」は腸内細菌を疲れさせる
・たしかに白米や、白い小麦粉を使かったパンやうどんなどの麺類は、おいしいものである。しかし、そのおいしさは、腸が感じているのではなく、脳が感じるものである。脳がブドウ糖をとくに必要とするのは、とっさの判断やストレス時の反応など、瞬発的な活動をするときである。現代社会のようにストレスフルな状況にあると、脳はたえずブドウ糖を要求することになる。体が疲れているときにもブドウ糖を欲する。こうしたときにブドウ糖が入ってくるから、脳は「おししい」と感じるのである。ところが腸は白い炭水化物が大量に入ってくるのを嫌がる。

・小腸の直接の栄養源はグルタミン酸というアミノ酸の一種である。昆布やチーズ、緑茶、シイタケ、トマト、魚貝類に豊富な「うま味」成分である。

・大腸の栄養源は、腸内細菌が食物繊維を発酵させてつくる短鎖脂肪酸である。

・小腸も大腸も、白い炭水化物を必要としていないのである。それにもかかわらず、白い炭水化物が大量に入ってくると、腸はまっさきに消化吸収のために働かなければならない。脳がブドウ糖を執拗に欲するからである。

27.保存料、食品添加物、抗生物質は腸内細菌を減らし免疫力を低下させる
腸内細菌に特に悪影響を与える化学物質は防腐剤と抗生物質である。
・体に生じる風邪の症状は、免疫細胞が病原体を排除する際に起こる炎症である。

28.冷凍機キノコ、ニンニク酢、昆布酢で活性酸素の害を消す
過剰な活性酸素は腸内フローラにもダメージを与え、細菌数を大きく減らしてしまう。

29.腸に開いた穴を塞げば大人の食物アレルギーはよくなる
・腸内フローラが“いい子”に育てば、健康を増進する物質をどんどんつくり出すとともに、免疫力を高めてくれる。
・腸の消化吸収能力を超えて食べることも、腸内細菌に混乱を起こす元凶である。
・「人+腸内細菌」で人間である。

おわりに ~笑う者の腸には福来る~
腸内フローラを元気にする生活習慣
1.朝起きたら外に出て深呼吸をする
2.疲れない程度の適度な運動をする(朝のラジオ体操でもOK)
3.ぬるめのお風呂にゆっくり浸かって腸を温める
4.夜更かしをせず、寝室は真っ暗にして寝る
5.休日には自然の中に出かけていく
『腸内細菌によい生活習慣とは、宿主である私たちにとって楽しいこととわかります。楽しいという気持ちが腸内環境を整えてくれるのです。腸内細菌を人生の味方につけてください。より楽しく充実した人生を築くためのベストパートナーは、あなたのおなかの中にいるのです。

花粉症と自律神経

「適応疾患」内の「花粉症」でも触れているのですが、私の花粉症は30年以上前、会社の集合寮に入って3年目の1985年だったと思います。同期のS君がティッシュを持って歩いているのを見て、大笑いしていたら自分にも舞い降りたという予期せぬ出来事でした。長い間お世話になったアゼプチンという薬は、私には合っていたようです。症状は10が2程度に抑えることができていたため、それほど困ることはありませんでした。
一方、鍼灸師になったこともあり、一昨年の2016年からお臍の周囲に刺鍼する「内ネーブル4点」という長野式の花粉症治療を自らに行っています。
治療効果はアゼプチン服用時とほぼ同等、施術回数は月1回、計3回程度の回数です。ちなみに敵はスギ・ヒノキ。「花粉よ来るならこい!」という馬鹿げた対抗心と、人体実験を兼ねるという思いから、花粉シーズン中も訪問の仕事以外はマスクをせず、部屋の窓や洗濯物のとり込みもノーケア、車の運転中も窓全開で花粉と共に生活しています。
そして、問題の今年ですが、昼間はこの2年間同様、10が2程度で困ることはなかったのですが、自宅に帰ると、特に夜になると何とかしたいレベルで症状が表れました。以前から昼に比べると夜は症状が出やすい傾向はあったのですが、今年はその度合いが強くなっていました。感覚的には5程度という感じです。5程度というのは、「症状の強さと症状が表れる頻度」の2点から「こんなもんでは」と直観的に判断した値です。なお、今シーズンの施術回数は過去2年の3倍弱、7、8回くらいになったと思います。
原因を調べてみると、スギもヒノキも昨年より飛散量が多いようなので、これが一つの要因であるたことは確かです。そして、もう一つ気になる点がありました。それは介護に伴うストレス、特に睡眠の質の問題です。睡眠時間は6時間程度なのですが、夜中に数回起こされるということもめずらしくなく、そのため、このストレスと睡眠の質の問題も、症状を悪化させている原因ではないかと考えました。
そして、それを調べるため、新しい本ではないのですが、図書館から花粉症関連の本を3冊借りてきました。これらは共著の本を含め「スギ花粉症」を命名された(論文報告は1964年)斎藤洋三先生の本です。もう1冊は「ストレスと免疫」という題名の中古本を購入しました。また、ネット検索で見つけたサイトも参考にさせて頂きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

著者:斎藤洋三

出版:主婦と生活社

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

著書:斎藤洋三、佐藤紀男

出版:少年写真新聞


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

著者:斎藤洋三、井出 武、村山貢司

出版:化学同人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

著者:星 恵子

出版:講談社


ブログは、花粉症がおこる仕組みや自律神経との関係、制御性B細胞についても少し触れています。

1.花粉症のおこる仕組み
アレルギー反応も免疫反応も体内でのしくみは同じです。いずれも「抗原抗体反応」といわれているものです。この反応が体にとって都合のよいように働く場合を「免疫」といいます。人が病気から体を守るために欠かすことができないシステムです。

ところが、体を守るための抗原抗体反応が、からだにとって都合の悪い結果をおこすことがあります。これが「アレルギー」反応です。
「抗原」とは異物、花粉症であれば「花粉」です。一方、「抗体」とは白血球(リンパ球)の中のB細胞(他にT細胞、NK細胞がある)から産生・放出されるタンパク質です。体内に侵入した異物に結合します。タンパク質名としては免疫グロブリン(immunoglobulin) と呼ばれ、「Ig」と略されます。抗原抗体反応に関与している抗体は、IgE、IgM、IgA、IgG、IgDの5種類あるのですが、花粉症にかかわる抗体はIgEであり、それ以外のIgMIgAIgGIgDの4つの抗体は免疫として働きます。なお、無害な花粉に対してIgE抗体がつくられるのはアレルギー体質の人だけです。

 

左が【免疫】、右が【アレルギー】です。いずれも【抗原抗体反応】になります。

画像出展:「花粉症」

出版:少年写真新聞

花粉が目、鼻、口から侵入するとその粘膜に花粉がとりつき粘膜の中に溶けだします。粘膜に溶けだした抗原は、白血球の一つであるマクロファージ(食細胞)にとりこまれ、異種タンパク質の異物として認識されます。この情報がT細胞を介してB細胞に伝えられると、花粉抗原に対するIgE抗体がつくりだされます。また、IgE抗体肥満細胞と結合しやすい性質があり、肥満細胞の表面にIgE抗体が付着し蓄積されます。そして、再び侵入してきた花粉抗原IgE抗体と反応すると、細胞からアレルギー症状を起こす化学伝達物質(ヒスタミン、ロイコトリエンなど)が放出されます。
化学伝達物質であるヒスタミンやロイコトリエンは、「ケミカル・メディエーター」ともいわれるもので、これらが神経や血管を刺激することによって、花粉症のさまざまな症状が引き起こされます。まず最初にヒスタミンが働き、それから少し遅れてロイコトリエンが作用を再現します。

 

画像出展:「花粉症」

出版:少年写真新聞

花粉が目や鼻の粘膜に付着し、水分を吸収すると花粉の中から抗原が溶け出し、肥満細胞の表面に付いているIgE抗体と結合します。(下左図)
肥満細胞からアレルギー症状をおこす化学伝達物質が放出され、それが神経や血管を刺激して、症状が現れます。(下右図) 

図はいずれも、「花粉症」からの出展ですが、中央の見開き部分が見にくくなっています。(すみません)


以下は症状に着目して説明されたものになります。内容はかなり専門的です。なお、下に図を添付しました。
くしゃみの発現には、ケミカルメディエーターのヒスタミンが重要な働きをしています。ヒスタミンは鼻粘膜の知覚神経である三叉神経終末のヒスタミン受容体と結合して、求心性インパルスを脳幹のくしゃみ中枢へ伝えます。そして中枢からの遠心性インパルスは脊髄神経、舌咽神経、迷走神経、顔面神経などを介して呼吸筋、咽頭筋、顔面筋などに伝わり、爆発的な呼気としてのくしゃみが起こります。くしゃみは生理的にも異物を呼気により体外へ排除しようとする生体防御反射で、下気道(気管、気管支)の咳反射に相当します。
鼻水もヒスタミンの作用で起こります。ヒスタミンによって三叉神経終末が刺激されて、分泌中枢にインパルスが伝えられ、遠心性に分泌神経(副交感神経)に伝わり、副交感神経からのアセチルコリンの分泌を促します。このアセチルコリンが神経伝達物質となって鼻腺細胞のムスカリン受容体に作用して、鼻汁分泌を起こします。
普通の人では花粉を吸いこんでも花粉は粘液膜に付着して、上皮細胞の線毛運動でベルトコンベア式に咽頭へと送られ、痰と一緒に排出されるだけです。これに対し、花粉症の人では入ってきた花粉を早く鼻の外へ流し出そうとして多量の鼻水をだします。これも生体防御反射ですが、花粉症の人にはつらい防御反射となります。
鼻づまりはヒスタミンやロイコトリエンなどが直接に鼻粘膜血管系に作用し、海綿静脈洞の拡張によるうっ血、血管透過性亢進作用による組織の浮腫などにより、鼻粘膜が全体として腫脹することで起こります。
眼の結膜も血管系、リンパ組織に富み、涙液によって覆われています。異物が侵入すると、まばたきと涙によって洗い流しだします。鼻と同様に異物に対する防御反射機構です。結膜におけるⅠ型アレルギー反応も、鼻粘膜におけるのと同様に、結膜表層の肥満細胞での抗原抗体結合によって始まります。そして肥満細胞から遊離したヒスタミンが知覚神経である三叉神経終末を刺激してかゆみを起こし、また血管系への直接作用で結膜の充血、浮腫を起こします。涙腺からの涙液分泌もヒスタミンの作用で反射的に起こり、流涙となります。

 

画像出展:「花粉症の科学」

出版:化学同人

下の棒グラフは2004年のものですが、花粉症患者へのインターネットによるアンケートの集計結果です。

 

「のどの症状」が少ないのは意外でした。というのも、私にとって最も気になるのが、のどの症状だったからです。

画像出展:「花粉症の科学」

出版:化学同人

 

耳のかゆみ、消化不良・食欲不振などの症状が出ることもあるようです。

画像出展:「花粉症」

出版:少年写真新聞

2.花粉症と自律神経
1)花粉症と自律神経はどう関係するか
自律神経には交換神経と副交感神経があり、お互いに拮抗しながら、さまざまな身体機能を、私たちの意思とは関係なく、自律的にコントロールしています。
鼻の自律神経は、特に分泌腺と血管に分布していますが、分泌腺にきているのは、自律神経のうち副交感神経だけです。鼻にアレルギー反応が起きたとき、症状を出現させる役割を果たします。まず、ヒスタミンが鼻の知覚神経を刺激すると、その刺激は自律神経の中枢を経由して副交感神経に伝わります。そして、副交感神経が緊張することによって、鼻の分泌腺から鼻水が出るようになるのです。
知覚神経は粘膜や皮膚などにも分布しています。そこに冷たい空気が触れたりすると、その刺激が反射路に伝わって、やはり鼻水やくしゃみが出るようになります。
血管には交感神経と副交感神経が分布しています。鼻でアレルギー症状が起きると、交感神経が働きにくくなり、逆に副交感神経が緊張して、鼻粘膜の血管は拡張します。それによって、うっ血が起き、鼻づまりの原因となるのです。
2)全身の自律神経のバランスも症状に影響する
自律神経のバランスは昼夜で逆転し、活動的な昼間は交感神経が優位に働き、安静にしている夜間の睡眠時は副交感神経が優位になります。夜半に鼻づまりが起きやすくなかなか解消しないのは、交感神経が働きにくくなっているために鼻粘膜の血管が拡張し、鼻にうっ血が起きているからです。
また、花粉症など鼻のアレルギーを持っている人は、朝の起きがけに、くしゃみと鼻水が発作的に起こることがあります。モーニング・アタックと呼ばれる症状です。これはアレルギー反応ではなく、夜間の副交感神経の状態から、昼間の交感神経優位の状態に変わるとき、自律神経のバランスがくずれるために起ります。
3)体の反射現象
くしゃみ、鼻水、鼻づまり、涙などは、人間の体にそなわった反射現象だといえます。しかし、これがむやみに出ても困るので、さらに上位中枢の抑制機構が設けられています。誰でも年をとると涙もろくなり、鼻水などが出やすくなりますが、それは上位中枢からの抑制機構がゆるんでしまうためだと考えられます。
花粉症の症状で困っているときでも、精神的に非常に緊張すると、症状が抑えられることがあります。たとえば、花粉症の俳優さんが、舞台の上ではくしゃみ一つしないのに、幕が降りたとたん一気に症状がぶり返すというようなことがあります。アナウンサーなどテレビに出る人も同様で、出演中は症状が抑えられるといいます。

4)情動のパターンと自律神経機能の関係
 この表は現在も活用されている、山下格先生が作成されたものです。山下先生は北海道大学医学部精神医学教室第五代教授を務められ、2014年12月にご逝去されました。
ここでは「ストレスと免疫」に記述された表に関する説明分をそのままご紹介させて頂きます。

 

画像出展:「ストレスと免疫」

出版:講談社

『一番目のパターンは、驚きや恐怖、憤怒などで交感神経の機能の亢進によるものです。
第二のパターンは、持続的な不安や緊張、怒り、興奮などの情動変化で、このパターンは、情動が比較的持続するのが特徴です。たとえば、ストレスが加わると、胃酸の分泌が亢進したり、消化管の動きが活発になり、これが持続すると胃粘膜にびらんや潰瘍が形成されることがあります。
このような消化管の異常は副交感神経の機能亢進によって起こると考えられています。しかし、不安や怒りなどは交感神経の亢進によるもので、ここでは、交感神経と副交感神経系の両者の興奮が同時に起きていることになります。
三番目のパターンですが、これは一番目、二番目のパターンと、次の第四番目のパターンとの中間に位置するもので、緊張などから解放されて、休息や平安といったような気分になることを意味します。
生命を維持していくうえで、交感神経が絶えず一定の緊張を保つことは必要ですが、とりたてて危険であるとか恐怖に陥った状態でない場合には、相対的に副交感神経が優位の状態に保たれると考えられます。したがって、他のパターンに移り変わる前段階の状態として、この第三のパターンが存在することが考えられます。
第四のパターンは、失望、抑うつ、悲哀、憂愁といった情動のものです。これは交感神経、副交感神経、両者がともに抑制された状態です。
抑うつ状態や失望したときなどは、胃酸の分泌が減り、消化管の動きも弱くなり、これにともなって食べたものの通過時間も長くなります。さらに、悲しみが強くなったり悲観すると、心拍数の低下ならびに血圧の低下もみられます。』

こちらの病院では、山下先生の表に基づき、独自に調査された結果を拝見することができます。

まとめ
今回のブログは、「夜間、花粉症の症状が出てくるのは何故か」、「ストレス、特に睡眠の質は花粉症の症状悪化の原因になっているのではないか」という疑問が発端でした。そして、私なりの結論は次のようなものです。
1)夜間、花粉症の症状が出てくるのは何故か
これは、免疫機能が副交感神経で優位になるのと同様に、免疫と似て非なる「アレルギー」の花粉症も副交感神経が優位になる時、つまり表に照らし合わせれば「平安、休息」が優位になる時に症状が亢進することを意味しており、夜間や自宅でくつろいでいる時に花粉症の症状が出てくるのはこのためと考えます。
2)ストレス、特に睡眠の質は花粉症の症状悪化の原因になるのではないか
表を見ると、「持続的な不安、緊張、怒り、興奮」に関しては交感神経だけでなく、副交感神経も強く関わっていることが分かります。この事実は大きな驚きでした。介護に伴うストレスや睡眠の質の問題は「不安、イライラ、緊張」が主なものになると思いますので、表にある四つの情動に含まれます。したがって、ストレスや睡眠の質の問題は、花粉症の症状を悪化させる要因になると考えます。

なお、ストレスや睡眠が花粉症の症状に影響を与えることは、本やサイトにも出ていました。

 

こちらは、花粉症対策です。(1)は「皮膚を鍛えておく」、(2)は「運動を積極的に行う」となっています。

画像出展:「花粉症」

出版:少年写真新聞

●睡眠が不足するとホルモンのバランスが乱れ、免疫力が落ちます。免疫力が落ちると、花粉などのアレルゲンの侵入に対して体が過剰反応するのです。

●ストレスも睡眠不足と同様に免疫力を落とすため、花粉に対する体の過剰反応が起きやすくなります。

副交感神経が優位なときは、体の免疫力は上がります。しかし、副交感神経が優位な状態が長く続くと、白血球のなかのリンパ球が過剰に分泌されてしまいます。そうなると免疫が過剰になってしまい、この過剰な反応がアレルギー症状の正体です。「花粉症」などのアレルギー症状が過多に出るのは、「副交感神経が優位な状態」が続いていることが考えられます。アレルギーの原因物質をなるべく排除するだけでなく、交感神経を優位に働かせながら、副交感神経とのバランスを保つことが、「花粉症」と上手くつきあうコツといえるでしょう。

3.制御性B細胞
こちらは「ライフサイエンス領域レビュー」に掲載されていた『馬場義裕(大阪大学免疫学フロンティア研究センター 分化制御研究室).免疫反応を抑制するB細胞:制御性B細胞領域融合レビュー, 5, e002 (2016)』のご紹介となります。

『2015年でB細胞の発見からちょうど50年がたつ。抗体を産生するリンパ球として同定されたことからもわかるように、B細胞は液性免疫において中心的な役割をはたす.また、T細胞に対する抗原の提示やサイトカインの分泌により免疫反応を制御することもB細胞の重要な役目である。これらのはたらきにより、B細胞は病原体の感染に対し生体防御の一翼を担う一方で、自己免疫疾患、炎症、アレルギーの原因となったり病態を悪化させたりすることが知られている.しかし,それとは逆に,免疫反応を抑制するB細胞として制御性B細胞の存在が明らかにされ注目されている。』

付記

お臍の周囲の4ヵ所に刺鍼する「内ネーブル4点」は長野式に基くものですが、その長野潔先生の著書である「鍼灸臨床 わが三十年の軌跡 -東西両医学融合への試み-」の中に記述がありましたので、その内容をご紹介させて頂きます。
ネーブル周囲四点の刺鍼とアレルギー性疾患
『ネーブル周囲四点の刺鍼は、当院では五年間、五回に亘り研修したボストン(アメリカ)在住の松本岐子氏の発想によるものである。彼女は筆者の扁桃原病説からヒントを得た類推的発想によるネーブル周囲四点の刺鍼によって、アレルギー性疾患に対して好成績を挙げている。
筆者(長野潔先生)もこの方法を追試したところ、予想以上の成果をみることができた。この四点の刺鍼はアレルギー性疾患のみならず、自律神経の全身的調節や、諸種の痛みに対して有効であることが実証された。
この刺鍼が何故効くのか。これは筆者(長野潔先生)の、あくまでも推論の域を出ないものであるが、ひとつは、この部が門脈のうっ血の起こりやすい場所であり、この部に刺鍼をすることにより、胃、小腸、大腸、膵臓、胆のう、脾臓から栄養を持った血液を充分肝臓に送ることができるということである。このことは肝臓の賦活作用を促し、二次的に粘膜下のリンパ組織を活性化し、抗体産生を増大させることによってアレルギー性疾患に著効を奏するのではないだろうか。例えば鼻水、鼻づまり、眼瞼の痒み等刺鍼にその症状が消失してゆくことが多いからである。
事実、ネーブル周囲四点を刺鍼することによって、それまで激しかった症状が劇的に消失することが多い。』

慢性疼痛と心療内科

高齢の患者さまの中には、「この慢性疼痛は心因性なのではないか?」と思うことがたまにあります。しかしながら、心因性の疼痛にはどんな特徴や傾向があるのかなど、ほとんど理解できていなかったこともあり、軽々に心因性を原因と考えることはできませんでした。

そこで、まずは何か1冊本を読んでみようと思い、ネット検索していると、作家の夏樹静子先生がご自身の凄まじい慢性疼痛の闘病を綴った「腰痛放浪記 椅子がこわい」という本があることを知りました。「これかなぁ。」と思いつつ、さらに調べていくと、夏樹先生のその慢性疼痛を完治させた心療内科の医師、平井英人先生ご自身も本を出されていることを知りました。そして、30年以上のキャリアをお持ちであることも分かりました。こうして、『慢性疼痛―「こじれた痛み」の不思議』を購入することに決めました。

 

著者:平木英人

出版:筑摩書房

ブログでは、心因性の慢性疼痛の特徴や傾向を理解することと、心療内科がどんな診療科なのかを知ることを目的とています。内容は全て本書に従うもので、重要と思う個所を抜き出し、列挙する形式のため断片的になっています。

慢性疼痛の治療
1.一般的な痛みのメカニズム
外因性の痛み刺激(切り傷、打撲、炎症など)が侵害受容器に入ることで信号が発生し、脊髄内にある知覚神経を伝わって脊髄後角、シナプス、ニューロン、脊髄視床路を順に通って大脳皮質の視床に到達し、認識されます。痛みが脳に認識されると、それに対する反応として副腎髄質からアドレナリンが分泌され、血管の収縮筋肉の緊張が生じます。この反応で局所的な乏血が起こります。この乏血が起こると組織内の酸素が足りなくなるため、今度は内因性の発痛物質が生じます。こうなると、外因性の痛み刺激が消えても痛みを感じるようになるのです。

画像出展:「疼痛コントロールのABC」日本医師会

2.心が痛がっているとは
痛みの解明に取り組んでいる米ノースウェスタン大学(シカゴ)生理学バニア・アプカリアン教授(A. Vania Apkarian)らが行った研究で、慢性疼痛患者の脳MRIを撮影しながら痛み刺激を与えたところ、通常の痛み刺激で活性化するはずの大脳皮質の視床ではなく、思考や感情を司る前頭葉の部分が活性化するのが分かりました。特に前頭葉のなかでも前部―ストレスや不安など、ネガティブな感情を司る部分でした。
この知見に対し、1000例近い慢性疼痛患者を診療されてきた平木先生は、「通常の痛み止めが効かない」という単純な事実からしても、慢性疼痛には何かしら通常の痛みのルートとは別のルートが存在すると考えていた。よってこの研究結果は腑に落ちるものであるとお話されています。

3.螺旋階段をのぼるように
薬物治療を先行させながらその効果をみつつ、「ある時期」がきたらその患者さんに合った指導を少しずつ並行して進めていきます。この「ある時期」というのは、患者さんが訴える症状の表現が少し変わってきたころです。何かしらの手ごたえを少し感じ始めたときともいえます。
たとえば、それまで「まだ痛いです」「ちっとも変りません」「痛くて何もできません」といっていた人が、「痛みはまだありますが、少し動けています」「ときどき痛みがやわらぐときがあります」というようになるなど、痛みに対するグチが減ったとき。そうしたかすかな心の変化をとらえて、新たな技法を導入するとっかりとするのです。
また、この第一の段階では、症状には「波」があることがこの病気の特徴であると教えることも重要です。一直線に治癒に向かって進むのではなく、波打ちながら、よかったり悪かったりしながら治っていくことを教えます。「まだ治らないのか」と焦らせないということです。患者さんは、よかったり悪かったりを繰り返すと、堂々めぐりでいっこうに治療が進まないと感じるものです。
しかし、治療は螺旋階段をのぼるようなものです。本人は同じところを回っているように思えても、外で見ている第三者には、少しずつ上へと昇っていく姿がみえています。螺旋階段も、上っている本人はずいぶん上までいってから下を眺めて、初めて「高いところまできた」と実感します。
治療も同じイメージです。ずいぶん進んでから「ああ、以前よりはよくなっているなと実感するものなのです。

4.自律訓練法のコツ
心理療法には自律訓練法、交流分析、行動療法という三本柱があります。それでも効果が十分でないときに加えるかたちで用いられるのが森田療法絶食療法(後述)という特殊な技法です。
とくに慢性疼痛の患者さんに対しては、積極的に「自律訓練法」を習得するようにすすめています。
自律訓練法は世界的によく知られたリラクゼーションの技法で、17世紀にヨーロッパで試みられた催眠療法の流れを汲むものです。催眠によるトランス状態(理性が弱まっている状態)が病気を治すというこの療法は、当時盛んに脚光を浴びましたが、奇術・魔術的なイメージが強く、強い批判も浴びてそれ以上発展しませんでした。その後フロイトらが催眠療法をもう一度研究し、トランス状態が平衡を作り出すことを明らかにしていったのです。
自律訓練法は自らトランス状態に入るもので、自己催眠法とも呼ばれ、1932年にドイツの精神科医シュルツによって開発されました。日本には1952年に紹介されましたが、以来急速に広まり、いまでは心療内科の必須の技法のひとつとなっています。
ベッドに仰向けになったり椅子に座ったりした姿勢で目をつぶり、「両腕が重たい」「両腕が暖かい」・・・・・・など「公式」を繰り返し唱えるという、自己催眠による治療技法です。
自律訓練法は、スポーツ選手や一部の教育現場でも取り入れられているリラクゼーションの方法です。正しく行われれば効果絶大で、成績の向上や人間関係の改善につながります。一見、心療内科とは無関係に思える病気も改善するなど幅広い適応があります。それだけ、あらゆる病気にとって「心身相関」の存在感は大きいともいえますが。
その実際は非常に簡単で、子どもでもマスターできる方法なのですが、本や雑誌、通信販売のDVDを買って自己流でやろうとしても、なかなか身につきません。独学ではなく、きちんとした指導者のもとで習得されることが近道です。

絶食療法は入院して個室で行います。訓練された看護師らスタッフによるチーム医療も必要です。患者さんには二週間のあいだ、外部との連絡を完全に絶ち、病院内の一室に籠もっていただく必要があります。治療前の検査や治療後の経過観察を含めると、一か月半から二か月ほど入院していただくことになります。

この「絶食」という状態は、何もしないようでいて、人間の身体にすさまじいストレスを与えます。
人間の体のエネルギー代謝には、ブドウ糖を燃料とするグルコース代謝と、脂肪酸を燃料とするケトン体代謝の二通りがあります。普通に食事をする生活では、身体はグルコース代謝を中心に動いており、ケトン体代謝が働くことはありません。
絶食に入ると、糖分の摂取が途絶されるために、グルコース代謝が枯渇して、ケトン体代謝にスイッチされます。脂肪を燃焼してエネルギーとして使うのです。この状態になると人間の身体はホメオスタシス(生体恒常性:身体を環境に適応させ、状態を一定に保とうとする力)の作用でインスリンの分泌がコントロールされ、血糖値が下げ止まります。食物を摂取しなくても低血糖になることはありません。空腹は当初はありますが徐々に感じなくなります。身体の状態は維持されますが、代謝やホルモン系が変動することによって、自律神経系や免疫系にも影響が及びます。
絶食によりケトン体代謝に入った身体では、脳内でα波が著明に増加し、生体恒常性(ホメオスタシス)の状態に入ります。この状態で過ごす絶食期には、前半は自己対峙の結果としての意識の変性(変化)が、後半には心理的な退行(抵抗の放棄など)や被暗示性の亢進(医師の話を素直に受け入れるなど)が起こってきます。
この状態のなかで、患者は極限状態や嫌悪刺戟を乗り越え、新たな自信と喜びをつかみます。また、自己洞察を深め、認識が変わっていくなかで、症状が変わり始めます。そして、代謝系の変化というストレスが、情動を司る自律神経系や関連する内分泌系、免疫系の再調整を促すのです。
こうした絶食療法の奏功メカニズムは、ハーバード医科大学のジョージ・ F・カーヒル (George F. Cahill Jr.) 博士によって解明されました。

画像出展:「慢性疼痛ーこじれた痛みの不思議」

5.自分自身の心で治していける 
慢性疼痛のほとんどすべての患者さんには、共通の心理があります。まず、「自分こそが世界で一番苦しんでいる」「この痛みはいつ治るのだろうか」「なにかいい方法はないだろうか」「このままで本当に治るのだろうか」という不安と疑念です。
それから毎朝起きるたびに「今日の腰の具合はどうかな?」と、腰に意識を集めて点検します。病状に固着すればするほど、局所の神経は過敏になりますから、わずかな症状や痛みもキャッチしがちになります。その結果として「ああ、今日もまた痛い」と感じ、また、痛みにとらわれるという悪循環に陥るのです。
痛みゼロを求めれば求めるほど、「まだ治らない」「まだ残っている」「まだまだ……」という思いは強くなります。無間地獄(むけんじごく:最悪の地獄という意味)に入ってしまうのです。痛みの共存とは、言うは易く行うは難しで、本当に体得することは難しいことです。
くすりだけで治すと、効果は薬効の時間に限られます。患者さんによっては、くすりが切れるとまた痛みだすのではと、くすりが切れる前から不安がり、痛みを増幅させて、くすりの量がどんどんと多くなっていく人もいるでしょう。しかし、薬物療法と心理療法を併用して行うことによって、くすりである程度治したあとは、自分自身の心で治していけるようになるのです。

6.ステイ・アクティブ
痛いけれど痛いまま帰って、普段の生活をする。そうしているうちに痛みが減っていく―。
森田療法や絶食療法という日本古来の心理療法が示すこの結論は、実は興味深いことに、近年、米国整形外科学会(AAOS)で提唱されている最新の治療概念、「ステイ・アクティブ」とも通底するのです。
なかでも、森田療法とステイ・アクティブとは、考え方が驚くほど似ています。米国発の「ステイ・アクティブ」とは、日常生活で行動ができる状態に身体があるのなら、アクティブ(行動的)でいられるのならばそれでよい、それを第一目標にし、患者には行動させよう。痛いからといって、「鎮痛剤を飲んで安静にしておけ」という昔ながらの考え方は捨てようという発想です。
なぜ安静にしていてはダメなのでしょうか。それは、痛みの悪循環に陥らないようにするためです。
慢性疼痛の患者さんは、一般に痛みに敏感です。器質的な痛みではなく、自分の心が100倍にも1000倍にも増幅させた「修飾された痛み」に敏感なのです。その修飾された痛みにとらわれて、ちょっとした体調の変化も痛みに結びつけ、膨らませて苦しみます。
また、痛いのだから安静にしていなければと長期間寝たり起きたりの生活を続けていると、筋力低下や体力不足になり、気分転換のためにちょっとした運動や旅行をしただけで筋肉痛になりやすくなります。
さらには過食と運動不足から肥満し、実際に筋や関節に負担がかかるようになる人もいます。運動不足が、身体の神経系に存在する疼痛を抑制する機能を低下させることにもなります。廃用症候群といって、心肺機能が低下したり、骨粗鬆症が進行したり、筋を傷めやすくなったり、落ち込みやすくなるなど精神的に弱ってきたりもします。その結果、家庭不和や社会生活不適応といった状態が生まれます。これが痛みの悪循環です。
痛いのに動けば余計悪くなるではないか、という患者さんに向け、AAOS(米国整形外科学会)はとくに腰痛患者に対してこう述べています。
「腰痛を発症したばかりの急性期には運動はすべきではありませんが、すでに慢性化した痛みの場合には、運動によって全身の筋肉を鍛えることでむしろ痛みが和らぎます。さらには症状の悪化を予防することになります。急性期にも寝ているのではなく、起きて動き回りましょう。ベッドに寝て運動不足でいると回復が遅くなります」
痛くても痛いなりに動きなさい、といっているのです。
言葉や言い回し、またその意味の深さにおいて、いささかの差はありますが、このステイ・アクティブの概念と、森田療法の「あるがまま」という考え方は、根本理念で通底しているように見えるのです。

7.心因性の慢性疼痛患者の心得
平木先生が私案として、心因性の慢性疼痛患者の心得なるものを8つ挙げられています。ポイントは、頑張らない、焦らない、進み続けるということです。
①「ステイ・アクティブ」を目標とすること
②毎日の疼痛記録はやめること
③根性論で頑張ろうとしないこと
④自律訓練法をマスターすること
⑤「あるがまま」を実践すること
⑥すっかり治そうと焦らないこと
⑦治りたいがための悪あがきはしないこと
⑧薬物治療の場合、症状が改善されてきたら、できるだけ長く服薬を続け、その後徐々に減量し、早々の中止や中断をしないこと

8.悩みを相談する人の心理
多くの場合、問題をかかえている本人は、「うまい策があるわけではないし、この人が解決できるものでもない」ということを頭の隅で無意識に分かっていると思います。恋の悩みも経済的なトラブルでも家庭内の問題でも、健康問題でも、悩みの相談の心理とはそのようなものです。
分かっていながら、誰かに、どうしてもいわずにはいられない。ただ聞いてほしいというのが、悩みを訴える人の本心だと思います。つまり、相談を受けた方の役割で重要なのは、なにかもっともらしいアドバイスをしようと努力することではありません。
その人がどれほど悩んでいるか、苦しんでいるかということを、温かく共感をもって理解、共有しようという態度が、いちばん大切なのです。共感し、共有しようという態度を感じられることによって、苦しんでいる人は心の負担が軽くなります。
それが患者さん本人の自己解決力のアップにつながり、物事を客観的にみることができる余裕につながり、最終的に自分なりの解決法を見出していくのです。

9.心因性疼痛障害を疑うヒント
六か月(三か月とも)以上続く慢性の痛み
少なくとも二か所以上の医療機関での精密検査で、痛みに相当する病変が見あたらない
一般的な鎮痛剤が効かない、効きにくい
痛み方が独特で、周囲の人になかなか理解してもらえない
これまでに1000人以上の慢性疼痛患者さんを診療してきた平木先生のご経験に基づくキーワードです。慢性疼痛があって、これらの項目にあてはまるならば、一度はその原因として心因性を考えてみる必要があると思います。

心療内科
1.患者さんの多くは、「心因性」という診断に納得しない傾向がある。ここには「こんな激痛が心因であるはずがない」という強い思い込みも要因である。
2.日本で最初に心療内科という診療科を掲げたのは、九州大学医学部の池見酉次郎先生で、1963年に講座として、「心療内科」を冠するようになった。(看板を出せる標榜科として認められたのは1996年であり、30年以上先だった)
3.平木先生が一般内科に加えて心療内科を併設されたのは1983年であり、個人病院として心療内科を設置した例としては、全国でも最初に近いほうだった。
4.治ったかどうかは、患者さんの言葉のニュアンスから医師が判断する。平木先生のクリニック では痛みの評価を5点満点の六段階評価で表現してもらっている。同じ2点でも「だいぶよくなってきたけれど、まだ痛い。2点くらいは痛みがあります」という人と、「もうだいぶよくなってきて、2点くらいの痛みはあるけど何とかやっています」という人がいる。同じ2点でも前者はまだまだ時間がかかり、後者はそろそろ卒業というほどにニュアンスは異なる。患者さんの話を聞かないと点数だけでは判断できない。
5.心療内科のカルテは他の診療科とは少し異なる。カルテは日本語で書かれ、患者さんの言ったこと、医師が言ったこと、一言一句そのまま記載する。
6.診察の中でお話を聞きながら受ける第一印象がとても大事である。患者さんの痛みの背景に何があるのか。その物語が、患者さんの口から医師に話されること、そして医師と患者がともに物語への認識を深めていくことから、治療が始まっていく。
7.各種心理テストを行っている。その分析結果は病気を理解するのに参考になるが、診察で病歴を聞きながら、問診を行い、その中で性格傾向や心理状態、不安やうつなどを把握することが大切である。
8.人体図へのマーク」「痛さの程度の数値化」「痛みの言語化という患者さん自身による三段階の作業を通して、患者さんの痛みが明らかになっていく。
9.処方した薬が効かず、頑固な痛みを抱えた難治性の患者さんの場合、あらためて時間をとって面接し、生い立ちから現在までの人生、家族関係、趣味、宗教、恋愛観、結婚観、職場での問題、家庭内の問題などを、手順に従って、より詳しくうかがっていく。そこに、本人もはっきりとは気付いていない何らかの、痛みを生じるに至った「物語」が多々潜んでいることが多い。

付記

時々勉強させて頂いているサイトで、偶然、「心療内科」に関するコラムを見つけましたので、ご紹介させていただきます。

「腎臓が寿命を決める」とは

現在、NHKでは『神秘の巨大ネットワーク 人体』という全8回のNHKスペシャルが放送されています。その初回となる、第1集は「“腎臓”が寿命を決める」というタイトルでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

NHKスペシャル「人体」取材班

出版:東京書籍


『「なぜ、腎臓を第1集に選んだのか?」
「人体」のメインディレクターとして、最も多く聞かれた質問です。じつは、番組をつくる前、全8回のラインナップを決めた段階から、ずっとこの質問をされていました。NHKスペシャルでもめったにない超大型シリーズ、その第1集は、特別な重要性を持っています。質問の裏には「本当に腎臓で大丈夫?」という意味が隠れていたと思います。脳や心臓といった、誰もが興味をもつスーパースターではなく、腎臓という“ちょっと地味”なキャラクターを主役に抜擢するのは、大きな賭けでした。
しかし、だからこそ、第1集で腎臓をやりたいと思いました。本書を読んでいただけば分かるとおり、腎臓は人体のネットワークの中で要となる存在です。「腎臓はじつは、スーパースターだった」そのことに驚き、納得してもらうことが、そのまま“人体は神秘の巨大ネットワークである”という、このシリーズのメインテーマを深く感じてもらうことに繋がると考えました。ネットワークという視点で人体を捉え直すことで、これまでの常識が大きく覆る、そんな劇的な瞬間を味わってもらいたいと思ったのです。
これは、書籍版第1巻の「あとがき」の冒頭部分です。
第1回のテレビ放送を拝見して、「“腎臓”が寿命を決める」というテーマは、私には今ひとつ消化できるものではありませんでした。「そうなのかなぁ?」という印象が残りました。そして、その時はそれ以上のことを考えることはなかったのですが、慢性腎不全の患者さまへの鍼治療の効果が明らかになったことで、今一度、NHKスペシャルの「“腎臓”が寿命を決める」を勉強しなおしたいという思いが強くなり、調べたところ書籍版が出ていることを知りました。

162ページのこの本は、前半の「プロローグ 神秘の巨大ネットワーク」と後半の「第1集“腎臓”が寿命を決める」に分かれています。目次は下記の通りですが、ブログは酸素をコントロールし、血液を管理し、寿命を決めるとされる腎臓の働きを詳しく知ることを目的にしています。

プロローグ
神秘の巨大ネットワーク 生命を支える「臓器同士の会話」
1.人体がここまで見えてきた! 驚異の技術革新
2.心臓からのメッセージががん治療に革命をもたらす! 
   ANP、発見と進化の物語(サイズ14)
3.“1滴の血液”で13種類のがんを早期診断
4.人体ネットワークの会話が人生を変える

 

番組では、「メッセージ物質」という言葉が使われています。テレビ放送の時は、この言葉が腑に落ちず混乱の原因となっていたように思うのですが、これは書籍版によって解決しました。以下はその説明個所です。
『「臓器同士の会話」がもたらすもの
腸の細胞が発するメッセージは、「臓器同士の会話」のほんの一例に過ぎない。いま、こうしたメッセージを伝える物質が、腸に限らず、全身のあらゆる臓器から放出されていることが明らかになってきた。
体を支えているだけだと思われがちな、「骨」。血液を全身に巡らせるための通路というイメージが強い、「血管」。現代では“やっかいもの”として扱われている「脂肪」までもが、全身に向けたメッセージを発しているという。
そうした、メッセージとなる物質には、古くから知られていた「ホルモン」や、その後に発見が相次いだ「サイトカイン」、さらに近年急速に研究が進む「マイクロRNA」など、非常にたくさんの種類がある。そこでNHKスペシャル「人体」では、これらの物資をまとめて「メッセージ物質」と呼ぶことにした。人体を「ネットワーク」として捉えるに至った背景には、多くの科学者たちによる、長年の研究の積み重ねがある。その全体像を俯瞰して見たいと考えたのだ。
そして、メッセージ物質の役割が明らかになるにつれて、医療の世界に起きた大きな変革にも注目する。メッセージ物質を人工的につくって投与したり、逆に、その作用を抑えたりすることで、これまで治療が困難とされてきた病気にも希望の光が差し込むようになった。
体の中で交わされる臓器たちの会話に、より一層耳を傾けることが重要になっている。メッセージ物質を理解することは、人体の神秘に迫ることであると同時に、病の克服という切実なテーマにも直結しているのだ。

後半部分の目次です。
第1集 “腎臓”が寿命を決める
1.金メダルの獲得を陰で支えた腎臓のメッセージ
   EPO精製への道
   EPO産生細胞の発見
2.腎臓の手術で重症の高血圧が治る! 大注目の最新治療
3.血液の管理者:腎臓
   腎臓の構造と働き
4.老化や寿命のカギを握る腎臓
5.腎臓を守れ! 命の現場

 

酸素をコントロールする
人間にとって生きるために最も必要な物質は酸素です。カーラーの救命曲線によると、心臓停止後3分で死亡率約50%となっています。このように酸素供給の完全停止は直ちに死に直結します。この重要な酸素の供給に関るメッセージ物質がEPO(エリスロポエチン)と呼ばれる物質です。私が専門学校で習ったときは、ホルモンとされていましたが、昨年(平成29年)3月発行の「病気がみえる vol.8 腎・泌尿器 第2版5刷」では、EPO(エリスロポエチン)は赤血球の「造血因子」と書かれています。
このEPOは腎臓から放出され、「酸素が欲しい」というメッセージを伝えますが、その存在は2008年、日本人研究者によって明らかにされました。そして、尿を運ぶ膨大な数の尿細管、その管と管の隙間、「間質」と呼ばれる部分にEPO産生細胞が存在していることが特定されました。

 

1981年にフランスのカーラー(Morley Cara)が作成した曲線。数値は目安とされています。

画像出展:「宇部・山陽・小野田消防局

 

中央に見えるのが糸球体。その糸球体は複雑に絡み合った毛細血管の塊のようです。周囲にあるホースのような管のほとんどは尿細管で、EPO産生細胞が存在する「間質」は管と管の間です。

画像出展:「人体 神秘の巨大ネットワーク」

『全身に酸素を行き渡らせるためのメッセージである、EPO。体内に酸素を取り込む「肺」や、血液を全身に巡らせる「心臓」ではなく、一見、酸素と関わりがなさそうな「腎臓」が、こうしたメッセージを出す役割を担っているのは、一体どうしてなのだろうか。』
これは本書の中で指摘されている疑問ですが、私も全くその通りだと思います。何故、腎臓なのか不思議です。
そして、その答えは次のようなものでした。
『腎臓の間質は、もともと酸素の供給量が高くなく、低酸素の状態にあります。また、隣にいる尿細管の細胞は尿をつくるためにたくさんのエネルギーが必要で、多くの酸素を消費することが分かっています。そのため、EPO産生細胞の周辺では急速に酸素濃度が下がりやすい。腎臓の中の、この場所は、体に酸素が足りなくなったときに、いち早く感知できる環境になっているのです。つまり、EPO産生細胞がいる場所は、全身の中でも最も酸素が不足しやすい場所であり、だからこそ、酸素の“見張り番”として働くのに最適だというわけだ。』

EPO産生細胞の場所(尿細管のすき間で赤・緑に光っているのがEPO産生細胞。赤色の細胞はEPOをつくっていないOFF(オフ)の状態で、緑色の細胞はEPOをつくっているON(オン)の状態を示す。)
画像出展:「人体 神秘の巨大ネットワーク」

『研究グループは、顕微鏡で観察するとEPO産生細胞が光って見えるように、栄光物質を組み込んだEPO遺伝子をマウスに導入した。すると、EPO産生細胞は尿細管と尿細管のすき間を埋める間質という組織で見つかった。EPOをつくっていたのは、糸球体や尿細管といった腎臓の主体をなす細胞ではないという事実は、世界中の研究者を驚かせた。

EPOによる赤血球の増産
腎臓は体内の酸素が不足していると、EPO(エリスロポエチン)を大量に出し始めます。そして、血液の流れに乗って全身に広がっていきます。
本書では貴重な写真だけでなく、CGによる絵が豊富に使われています。ここでは、EPOによる赤血球の増産の流れをCGのスライドショーでご紹介させて頂きます。下に解説が付いています。また、画像中央のマークをクリックすると停止します。

血液を管理する
『人間の血液の量は、体重の約13分の1(約7.7%)といわれる。体重60キログラムの人なら、血液4.6キログラム。血液1リットルの重さは約1キログラムなので、体の中には約4.6リットルの血液が流れている計算だ。
そして驚くべきことに、心臓が送り出す血液のおよそ4分の1は、2つでわずか300グラムほどの小さな腎臓に流れているのである。その血流量は、毎分800~1,200ミリリットルにもなる。なぜ、こんなにも多くの血液が腎臓に集まるのか。それは、誰もが知る腎臓の役割である「尿をつくる」ことの裏に隠されたもう1つの仕事に関係している。
尿は、体を巡る老廃物を含んだ汚れた血液からつくられる。老廃物を含んだ血液は腎臓に流れ込み、腎臓を通過する中できれいな血液と老廃物などを含む尿に分けられ、尿は体外へ出ていく。
この一連の腎臓の働きを見ると、つい尿の生成のほうへ目が行きがちだ。しかし、体にとって尿の生成と同じくらい、もしくはそれ以上に重要なのは、“きれいな血液”をつくることだ。
ここでいう“きれいな血液”とは、老廃物が除去されているということだけではない。血液中の塩分、カルシウム、カリウムといったさまざまな成分が、すべて適正な濃度になっていることが大切である。実は、これらをきめ細かく調節するのが腎臓の大きな役割だ。』

 

『腎臓は尿をつくるだけではなく、血液中の成分を調節するという重要な役割を担っている。』

画像出展:「人体 神秘の巨大ネットワーク」

 

『腎臓は塩分やカリウムなど、体に必要な成分を一定の割合に保つように管理・調節している。』

画像出展:「人体 神秘の巨大ネットワーク」

画像出展:「人体 神秘の巨大ネットワーク」

小さくて見ずらいですが、上の絵には番号が①~⑤までふられています。それについて説明します。

汚れた血液は腎動脈から腎臓に入り、輸入細動脈を経て糸球体を形成する毛細血管に流れ込む。
糸球体の毛細血管で、血液はろ過される。
血液中の小さな成分(老廃物や水分、ミネラルなど)は毛細血管の穴をすり抜け、ボーマン嚢の内側に入って尿の元となる。
残りの血液成分(赤血球やたんぱく質など)は輸出細動脈から出ていく。輸出細動脈は再び毛細血管となって尿細管に寄り添うように走行する。
体に必要な成分(水分やミネラルなど)が、尿細管で再吸収され、毛細血管に戻される。その後、尿細管周囲の毛細血管が集まって最終的に太い腎静脈となり、成分調節された“きれいな血液”が腎臓から出ていく。

『こうして行われる血液の成分調節は、実は、腎臓だけの判断で行っているわけではない。腎臓は、体中の臓器からのメッセージをしっかり聞き、情報を集める。例えば、カルシウムを調節する際には、喉の近くにある「副甲状腺」という小さな臓器や「骨」から出されたメッセージを受け取っている。これらの情報を基に、腎臓はポンプを制御して、原尿から再吸収する量を変化させているのだ。全身から情報を集め、体調や周囲の状況に応じて血液の成分を常に調整する。まさに、体の中に広がる巨大な情報ネットワークの要といえるだろう。

『腎臓は体中の臓器からのメッセージを分け隔てなく聞き、情報を集めて血液中の成分調節を行う人体ネットワークの要といえる臓器だ。』

画像出展:「人体 神秘の巨大ネットワーク」

『腎臓がろ過する原尿の量は1日約180リットルにもなる。人間の血液量が4~5リットルなので、腎臓は1日のうちに何度も血液のろ過を繰り返している。一方、1日に排泄される尿の量は1~2リットル。原尿の99%は尿細管で再吸収されていることになる。』

画像出展:「人体 神秘の巨大ネットワーク」

 

腎臓というと、まず「尿」、そして次に思い浮かぶのは、「ろ過」でした。今回、様々な臓器と会話しつつ、命のライフラインともいうべき血液成分をきめ細かく調節する「血液管理者」としての腎臓を認識できたことが、最大の収穫だったように思います。

寿命を決める
『日本人科学者が偶然生み出した不思議なマウスの研究から、私たちの寿命を大きく左右する、「ある物質」が明らかになった。その物質とは、リン。血液中のリン濃度が高すぎると老化が加速してしまう。そして、血液中のリン濃度を絶妙に調節しているのが腎臓だ。腎臓は他の臓器と連携しながらリンを調節し、寿命を決めていることが分かってきたのだ。
リンは生命維持に欠かせない栄養素で、魚介類や肉類、大豆などの食品に豊富に含まれている。リンが足りないと、骨軟化症、くる病などの病気の原因になるほか、呼吸不全、心機能低下を引き起こして生命に関わることもある。ところが、最新の研究では、血液中のリンが過剰になると、老化を加速させてしまうことが分かってきたのだ。』

 

上の図は、寿命と体の大きさの関係性を見たものです。これを見ると、体の大きさだけが寿命を決定しているものではないことが分かります。

 

下の図の横軸は、体の大きさではなく、血液中のリンの量によるものです。これにより寿命の長さに関係しているのは、血液中のリンの量であることが分かります。

画像出展:「人体 神秘の巨大ネットワーク」

血液中のリンの調節には、体を支える「骨」と、「腎臓」の会話が重要な役割を果たしている。骨の主成分は、リン酸カルシウム。リンもカルシウムも、体にとっては重要な栄養素であり、骨にはその貯蔵庫としての働きもある。それも、“ただためこんでいる”だけではない。骨は血液中のリン濃度を監視し、腎臓に報告する役割も果たしている。
そのために骨が出しているメッセージ物質がFGF23(線維芽細胞成長因子23)だ。骨は、血液中のリン濃度が高くなると、FGF23を盛んに放出する。いわば「リン、足りてますよ」というメッセージだ。腎臓にはFGF23を受け取る受容体がある。実は、この受容体をつくるための設計図となっているのが、クロトー遺伝子(老化抑制遺伝子)だったのだ。
「受容体はメッセージを受け取る郵便箱のようなものです。クロトー遺伝子が壊れたマウスの腎臓には郵便箱がないので骨からのメッセージが来ても受け取れない。その結果、腎臓がリンをうまく調節できなくなって、老化が加速してしまうのです」と黒尾博士は説明する。
腎臓が骨からのメッセージを受け取ることができれば、その情報に基づいて尿細管での再吸収量を変化させ、血液中のリン濃度を絶妙に調節することができる。逆に、メッセージを受け取れなくなると、謎の老化加速マウスのように血液中のリンが過剰となり、寿命が一気に縮んでしまうこともあるのだ。骨と腎臓の会話が、リンの濃度を決め、それがそのまま寿命にも大きな影響を与えている―。黒尾博士の研究から明らかになってきた、腎臓の新たな真実だ。』

 

骨からの「リン、足りてます」というメッセージにより、腎臓の尿細管の微絨毛にあるポンプが再吸収を停止すれば、寿命は正常ということです。画像出展:「人体 神秘の巨大ネットワーク」

 

付記1:EPO産生細胞とCKD(慢性腎臓病)
CKD(慢性腎臓病)では5段階あるステージの3(中程度)から、夜間多尿、血圧上昇、むくみ等に加え貧血(腎性貧血)が生じてくる可能性が高くなるとされていますが、これは腎臓の機能低下が進行するとEPOが作れなくなるためであると考えられています。
一方、EPO産生細胞は腎臓でみられる「線維化」という病態に深く関っていることも明らかになりました。さらにEPO産生細胞は善悪2つの顔をもっており、CKDの発症・進行を抑制する治療法の開拓に大きなヒントになると期待されています。下記はその詳細を説明した箇所です。
『腎臓病が慢性化する主な原因として、糖尿病や高血圧、慢性糸球体腎炎などが挙げられるが、原因疾患にかかわりなく、腎臓病が進行すると、線維化が生じ、腎臓の機能が損なわれていく。腎臓の線維化が生じる際、そのもとになる細胞は何なのか。
この研究で先鞭をつけたのは、京都大学大学院医学研究科の柳田素子博士の研究グループだった。柳田博士らは、東北大学で開発した遺伝子改変マウス(EPO産生細胞が蛍光を発するマウス)を用いた研究により、EPO産生細胞が硬い線維状の細胞、いわば「悪玉細胞」に変化することで腎臓の線維化が生じることを突き止めた。
一方、山本博士らは、遺伝子改変マウスを貧血状態にし、さらに尿管を縛って腎臓に炎症を誘発させるという実験を行った。すると、炎症でマウスの腎臓に線維化が起こり、線維成分であるコラーゲンが著明に増加するとともに、炎症性物資がさらに増加するという悪循環をきたした。しかも、高度な貧血で低酸素状態にあるにもかかわらず、EPOの産生力は大きく低下した。そしてこのとき、EPO産生細胞は「悪玉細胞」へと変化していた。
これらの研究により、腎臓に炎症のような有害刺激が加わると、EPO産生細胞が「善玉」から「悪玉」に変わってしまうことが分かった。悪玉化した細胞は「筋線維芽細胞」と呼ばれているが、このように細胞の持つ本来の特徴が大きく変化し、異なる性質を持った細胞になることを「形質転換」という。
EPO産生細胞が形質転換するだけでなく、さらに興味深い事実も判明した。尿管を縛って炎症を誘発させたマウスで、完全に線維化する前に縛りを解除したのである。すると驚いたことに、低下していたEPOの産生力が、正常マウスと同じレベルまで回復した。また、抗炎症薬のステロイドを投与すると、EPO産生細胞の産生力はさらに促進されたのだ。
つまり、炎症によりEPO産生細胞が「悪玉細胞」に変化して腎臓に障害をきたしても、炎症を抑制するとEPO産生細胞は本来の「善玉細胞」に復帰するというのである。
山本博士は、「EPO産生細胞は環境に応じて善悪両方向に変化することが分かりました。さらに、EPO産生細胞は高い回復力を持っており、炎症をコントロールしてEPO産生細胞の『善玉』の性質を維持していくことが、腎臓の線維化を抑えるには重要であることが示されました。これは慢性腎臓病の発症・進行を抑制する治療法を探索するうえで大きなヒントになると思います」と語る。
現在、腎臓病の進行を食い止めるためにEPO産生細胞の機能を回復させる治療法を探索されている。EPO産生細胞の発見から始まった研究は、さらなるステージに進もうとしている。』

『EPO産生細胞は低酸素状態になるとEPOをつくり始め、赤血球が増産される。一方、腎臓が障害されて炎症が起こると、EPO産生細胞は「悪玉細胞」に変化し、線維化が進行する。炎症を抑制すると、EPO産生細胞のEPO産生力は回復する。』

画像出展:「人体 神秘の巨大ネットワーク」

『EPO産生細胞が「悪玉細胞」に変化すると、EPOを産生する力が大きく減少する。同時に、線維化のもとになるコラーゲンやさらなる炎症を引き起こす物質が大量につくられる。』

画像出展:「人体 神秘の巨大ネットワーク」

病気の腎臓ではEPO産生細胞のEPO産生力は著しく衰えるが、炎症を抑えると本来の力が蘇った。

画像出展:「人体 神秘の巨大ネットワーク」

腎臓の炎症と慢性腎臓病の関係性を示す資料などは無いかネット検索したところ、「日本医療研究開発機構」さまのサイトに興味深い研究が発表されていました。

付記2:“腎”とは
経絡治療においては、“腎”は五臓(肝・心・脾・肺・腎)の中でも1、2位を争う最も重要な臓器と考えられています。ここでは、専門学校の教科書、東洋医学概論(東洋療法学校協会編)から、腎の中核ともいえる“腎精”についてご紹介させて頂きます。
“腎は、精を蔵し、生命力の根源である原気をもたらす。”
『父母から受け継いだ先天の精は、腎に内蔵されている。この精は、飲食物から造られる後天の精によって、常に補充されている。精は、生命力と、成長、生殖力の根源である。この精が、腎により活性化されたものが、原気(生命活動の原動力となるもの)である。人間は、腎の働きが盛んになるにつれて成長し、生殖能力を生みだす。腎精が充実していれば、原気も盛んで、活動的で、疾病にもかかりにくく、また、根気がいる細かい作業を、やり抜き通す力もわいてくる。そこで、「作強(サキョウ)の官、伎巧これより出づ」といわれる。腎気が衰えると原気がなくなり、活動が低下し、身体が冷える。また、生殖能力も低下し、疾病にかかりやすく、治りにくくなり、さまざまの老化現象を呈する。』
生命力・成長・生殖力・老化に深くかかわるとする東洋医学の“腎”は、現代医学の“腎臓”とは似て非なるものというイメージを持っていました。ところが、今回の勉強を通して、”腎臓”は尿をつくるだけではなく、酸素をコントロールし、血液を管理し、老化にかかわり寿命を決めるという極めて重要な働きを行っていることが分かりました。そして東洋医学の“腎”と現代医学の“腎臓”はかけ離れたものではないという新たな認識を持ちました。

腎臓リハビリテーション

過去ブログ、「CKD(慢性腎臓病)治療の最前線」の宿題になっていた「腎臓リハビリテーション」ですが、入手した情報をベースにまとめてみました。
参考とさせて頂いたのは、日本腎臓リハビリテーション学会さまの各種資料(保存期CKD患者に対する腎臓リハビリテーションの手引き、学会広報誌 腎臓リハ NEWS LETTER、施設紹介)と、日本腎臓リハビリテーション学会の理事長である上月正博先生が執筆された「CKDにおけるリハビリテーション(日本内科学会雑誌105巻7号)」になります。ブログはこれらの内容を組み合わせ、はり付けたようなものになっています。なお、上月先生の「CKDにおけるリハビリテーション」はダウンロードできるようにさせて頂きました。

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CKDにおけるリハビリテーション.pdf
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コペルニクス的転換
『腎臓病といえば、かつて安静にすることが治療の1つであった。しかし、CKD(chronic kidney disease)患者においても、身体活動の低下は心血管疾患による死亡のリスクであることや、軽い運動がCKDを悪化させないことが明らかになり、CKD患者にも運動療法が適用されるようになってきた。運動療法は腎臓リハビリテーション(腎臓リハ)の中核として考えられ、最近ではCKD患者における心大血管疾患発生予防効果や透析導入時期遅延効果の役割も期待されている。』
「CKD(慢性腎臓病)治療の最前線」の中では、「運動制限から運動療法へのコペルニクス的転換」との表現があり、「腎臓病=運動制限」が当たり前と思っていた私にも、これは大きな驚きでした。
 

画像出展:「保存期 CKD 患者に対する腎臓リハビリテーションの手引き」

腎臓リハビリテーションとは
『腎疾患や透析医療に基づく身体的・精神的影響を軽減させ、症状を調整し、生命予後を改善し、心理社会的ならびに職業的な状況を改善することを目的として、運動療法、食事療法と水分管理、薬物療法、教育、精神・心理的サポートなどを行う、長期にわたる包括的なプログラムである。腎臓リハの中核的役割を担う運動療法は、透析患者の運動耐容能改善、Protein Energy Wasting改善、たんぱく質異化抑制(「異化」とは分解すること。栄養状態の悪化によりエネルギーを作り出すための分解が進む)、QOL改善などをもたらす。さらに、最近になって、保存期CKD患者が運動療法を行うことで腎機能(糸球体濾過量:GFR)が改善するという報告が相次いでいる。腎臓リハにより、保存期CKD患者の腎機能改善や腎機能低下速度遅延が確実となれば、透析導入を先延ばしすることができ、多くのCKD患者にとって朗報となる可能性がある。2011年に日本腎臓リハビリテーション学会も設立され、CKD患者における腎臓リハのさらなる発展が期待される。』
なお、Protein Energy Wastingに関しては、「透析患者における protein-energy wasting(PEW)の評価」を参照頂ければと思いますが、「PEWは透析患者に対する低栄養状態の呼称として、海外では広く普及してきている。」とのことです。

CKD患者の抱える問題
『CKD発症あるいは腎障害進行のリスクファクターは、高血圧、糖尿病、脂質異常症、高齢などで、超高齢社会の我が国では今後ますますCKD患者数の増加が懸念される。CKDの進行に伴い、心血管疾患の発症率は加速的に高まる。』
心血管疾患との関係は非常に重要で、日本心臓リハビリテーション学会学術集会においては、2013年の第19回のシンポジウムでは「心臓と他臓器のコミュニケーション(臓器連関)を知る」が、続く第20回のシンポジウムでは「リハビリテーションの心腎連関:慢性腎臓病や透析患者への適応を考える」がテーマとなっています。

臓器連関の病態生理
脳を加えた、脳・心・腎の関係について書かれたものがありましたので、ご紹介させて頂きます。
『脳・心・腎の間には密接で、かつ、精巧な機能的連関があります。この連関には、細胞外液、すなわち、内部環境の恒常性と循環の維持が重要な役割を果たしています。しかし、いったん、脳・心・腎のいずれかが障害されると、この臓器連関により単一臓器の機能不全への進展のみならず、互いの臓器を障害していく負の連鎖を形成します。
腎臓は心臓から拍出された多くの血液量を受け、全身の血行動態に応じたさまざまな神経体液性因子に反応して体液量や電解質を調節し、その結果、心血管機能に影響を与えています。近年、心疾患患者の生命予後は腎機能により大きく影響を受ける一方、腎機能障害患者の主要な死因は心血管病であることが明らかにされ、心腎連関という概念で注目を集めています。心不全では交感神経系やレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系、バゾプレッシンなど神経体液性因子が活性化され、糸球体濾過量やナトリウム利尿の低下が生じ、体液が増加します。一方、心臓より分泌されるナトリウム利尿ペプチドは体液増加の阻止に作用します。また、糖・脂質のエネルギー代謝も脳・心・腎などの機能調節に関わっていることが明らかになっています。
このような臓器連関の病態生理を理解するとともに、各患者の主要疾患への検査や治療などが、他の臓器に与える影響を理解することはきわめて重要です。』

脳心腎・糖代謝連関における腎交感神経の役割

『脳・心血管疾患と腎臓病は密接に関連し、「脳 心腎連関」と呼ばれる概念が提唱されている。しかし、そのような臓器連関の臨床症状に頻繁に遭遇するものの、詳細な発症・進展メカニズムについてはほとんど明らかとなっていない。これに対し、交感神経と腎臓内レニン・アンジオテンシン系の活性化が、脳心腎連関の病態に深く関わっていることが、最近明らかとなってきている。例えば、心不全では心拍出量の低下による腎虚血のみならず、遠心性に腎交感神経が活性化されて糸球体輸入細動脈と輸出細動脈に分布する交感神経終末からカテコラミンが分泌され、腎血流の低下を招く。また、腎神経の活性化は、尿細管のα1 受容体、β2受容体の活性化を介し、ナトリウム再吸収を増加させて体内へのナトリウム貯留を生じ、さらに心不全を悪化させる。……』

心臓リハビリテーションと腎臓リハビリテーション
『2つのリハビリテーションの共通の効果として、最大酸素摂取量の増加、左心室収縮能の亢進、心臓副交感神経系の活性化、炎症の改善、不安・うつ・QOLの改善、ADLの改善、死亡率の低下などがあります。また、慢性腎臓病を伴う心筋梗塞患者にリハを行うと腎機能が改善したとの報告や、冠動脈バイパス術を受けた透析患者がリハを行うと全死亡率や心死亡率が大きく減少したとの報告もあります。超高齢社会では、このような心腎連関の病態生理とリハの効果や影響を理解することはきわめて重要です。』
心臓リハビリテーション」については、2017年5月にブログにアップしていましたので、こちらもご紹介させて頂きます。

腎臓リハビリテーションの運動療法
『運動処方の考え方としては、基本的には慢性心不全患者や高血圧患者の運動療法メニューに準じたものである。運動の種類としては、有酸素運動、レジスタンストレーニング、またはそれらを組み合わせたプログラムを推奨する。身体機能やADL 能力が低下している者は、バランストレーニングなどと適宜組み合わせて、個別のプログラムを作成することが望ましい。運動の負荷は、疲労の残らない強度で短時間、少ない回数から導入し、心拍数や自覚症状に基づいて徐々に強度時間、回数を増加させることが望ましい。また、自宅で行うことができるようなプログラムにすることも効果を上げるためには重要である。』

 

こちらの絵はストレッチングを含む準備体操となる「腎臓体操」と呼ばれるものです。

 

画像出展:「保存期CKD患者に対する腎臓リハビリテーションの手引き」

下の表はCKD患者に推奨されている運動処方です。

 

画像出展:「看護roo!(「保存期CKD患者に対する腎臓リハビリテーションの手引き」を一部改変)」
 

こちらは、CKD透析患者に対する運動療法による効果を示したものです。

 

画像出展:「CKDにおけるリハビリテーション」

「保存期CKD患者に対する腎臓リハビリテーションの手引き」には、運動療法の注意点、腎臓保護効果判定指標、更には日常生活での工夫について記述されていました。
運動療法の注意点
・関節痛など運動器障害や息切れ、胸痛など循環器障害の症状の出現や進展に注意する。
・尿毒症の症状の出現や進展に注意する。
・運動することで腎機能が低下していないかをチェックする。

腎臓保護効果判定指標
運動療法の介入前と介入後3ヵ月程度の成果としては、
1.血清クレアチニン又はシスタチンCの不変・低下
2.尿蛋白排泄量の軽減(20%以上)
3.血清クレアチニン推定GFR(eGFRcr)又は血清シスタチンC推定GFR(eGFRcys)の低下率の軽減(30%以上)(3では介入3 ヵ月前、介入開始時、介入後3ヵ月の3回の採血検査が必要)を目標とするため、これらの検査を必須とすることが望ましい。
日常生活での工夫

平成28年度診療報酬改定 「腎不全期患者指導加算」認定と今後の対応
平成28年度は、一定水準以上の成果を出している保険医療機関に対して糖尿病透析予防指導管理料に「腎不全期患者指導加算(月1回100点)」が設けられましたが、あくまで限定的なものであり、対象範囲を保存期CKD一般や透析患者に拡げていく必要があるとされています。以下は『腎臓リハ NEWS LETTER No5』(最下段がNo5になります)の内容の一部をご紹介させて頂きます。


『本年度、腎不全期の糖尿病性腎症の患者に運動指導を行い、一定水準以上の成果を出している保険医療機関に対して糖尿病透析予防指導管理料に「腎不全期患者指導加算(月1回100点)」が設けられました。算定要件として、腎不全期(eGFR 30mL/分/1.73m2 未満)の患者に対し、専任の医師が、当該患者が腎機能を維持する観点から必要と考えられる運動について、その種類、頻度、強度、時間、留意すべき点などについて指導し、また既に運動を開始している患者についてはその状況を確認し、必要に応じてさらなる指導を行います。施設基準の条件として、運動療法の介入前と介入後3ヵ月程度のアウトカムとして、1)血清クレアチニンもしくはシスタチンCの不変・低下、2)尿蛋白排泄量の軽減、3)血清クレアチニンもしくは血清シスタチンCによる推定GFRの低下率の軽減を確認する、の3条件のうちいずれか1つを満たす症例が5割を超えていることが必要です。

さらに、糖尿病透析予防指導管理料の算定要件に、保険者による保健指導への協力に関する事項を追加する。すなわち、保険者から保健指導を行う目的で情報提供などの協力の求めがある場合に、患者の同意を得て、必要な協力を行います。具体的な運動内容、禁忌、中止基準などに関しては、本学会ホームページの「保存期CKD患者に対する腎臓リハビリテーションの手引き」を参考にしてください。

本学会が要求してきた「慢性腎臓病運動療法料」は、本来は保存期糖尿病性腎症のみならず、保存期CKD一般や透析患者をも含む出来高のリハ料・運動療法料です。今回認定された腎不全期患者指導加算は、わずか4年の交渉で獲得に成功した成果であるとはいえ、認定された対象は糖尿病性腎症で腎不全期にあくまで限定的なものであり、対象範囲を早急に拡げていく必要があります。腎不全期患者指導加算を本来めざしていた慢性腎臓病運動療法料に今後発展させるべく、CKD2期以上や透析患者でも運動療法のエビデンスをさらに強固にして、適応拡大、増点になるように活動を継続します。

最後に、日本腎臓リハビリテーション学会さまのホームページにある「施設紹介」の中から、東京都にある2つの施設について表にしましたのでご覧ください。また、こちらの2つの病院は、腎臓リハビリテーションを積極的に推進されており、大変興味深い内容となっています。

 

 

 

「つばさクリニック」の透析患者さんが元気な理由
 理由その1「ひとりひとりに適切な透析」
 理由その2「解り易い患者指導」
 理由その3「運動療法」
 透析中のミュージックエクササイズ(運動療法)※こちらは動画です。

 

 

 

 

 

当院リハビリテーションの特色
『運動器疾患、脳血管疾患、心血管疾患、呼吸器疾患などの各種疾患別リハビリテーションを幅広く展開しています。また、当院は透析専門施設であり、透析患者さんの運動機能の維持・向上に加え、心血管疾患や腎性貧血などをはじめとする合併症予防を目的とした腎臓リハビリテーションを実施しています。入院でのリハビリテーションでは、脳血管障害による麻痺や、整形外科疾患により日常生活機能が低下した透析患者さんの在宅復帰支援に力を入れています。』

付記

中医学(中国伝統医学)に【肝腎同源】という用語があります。

これは、『肝血は腎精の滋養を受けており、腎精もたえず肝血による補充を受けている。このように精と血とは相互に資源となり滋養しあっていることから、「肝腎同源」あるいは「精血同源」といわれている、病理的な変化のうえでも肝血と腎精とは常に影響しあっており、肝血の不足は腎精の不足を、腎精の不足は肝血の不足を引き起こす。』というものです。

今回のブログでネット上の資料を調べていたところ、内科医の先生が書かれた興味深い資料がありましたので、ダウンロードできるようにさせて頂きました。

なお、その冒頭には次のようなことが書かれています。『太古から物事の要の意味で「肝腎」と言う言葉が使用されてきたように、肝臓と腎臓は、体内の恒常性維持・代謝調節の要である。エネルギー、蛋白、脂質代謝の主役は肝臓、水・電解質・酸塩基平衡調節の主役は腎臓という大まかな役割分担があるが、一部の生理的調節において相互補完関係にある。』

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内科医が知っておくべき腎臓と全身臓器とのインターラクション (肝臓と腎臓).pd
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CKD(慢性腎臓病)治療の最前線

CKDはChronic Kidney Diseaseの略称です。また、日本腎臓学会編として「CKD診療ガイド」が2007年、2009年、2012年と発行され、「CKD診療ガイド2018年」の発行準備が進んでいるようです。
ここでは、2009年版の“CKD診療ガイドの改訂に寄せて”の内容の一部をご紹介させて頂きます。
CKD(慢性腎臓病)は2002年にアメリカで提唱された全く新しい概念です。慢性に進行する腎臓の疾患は数多くあり、腎臓の疾患名はわかり難いとの批判がありました。そこで、さまざまの腎疾患を主に蛋白尿と腎機能の面より新たにCKDと定義しました。CKDという病名は腎臓専門医のためではなく、一般かかりつけ医のための病名です。日本腎臓学会では2004年に慢性腎臓病対策委員会を設置して、疫学調査研究、診療システム構築、社会への働きかけ、国際協調・貢献を4つの柱として、総合的にCKD対策を行ってきました。その中の一つの事業として、かかりつけ医と腎臓専門医の連携を深めて病診連携を行うためのツールとして2007年9月に「CKD診療ガイド」初版を発行しました。・・・』

2月23日のブログでは、慢性腎不全と診断された患者さまへの鍼治療において、改善がみられた症例をお伝えしました。そして、この症例をきっかけとして、腎・腎臓への理解を深め、より効果の高い施術を目指したいという思いが強くなりました。そこで、先月「パーキンソン病 -進化する診断と治療-」でお世話になった最新医學のバックナンバーを調べ、2016年12月号の「特集:慢性腎臓病(CKD)治療の最前線 -生活習慣病への新たなアプローチ-」で知識アップを図ることにしました。

 

出版:最新医学社

この特集は序論に続き次のような内容になっています。
【座談会】
生活習慣病治療のパラダイムシフトがCKD研究に与えるインパクト

CKDにおける生活習慣病治療のパラダイムシフト
CKDと高血圧 -レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の最新知見-
CKDと脂質異常症 -脂肪毒性の役割-
CKDと糖尿病 -細胞内栄養シグナルを標的とした病態解明と治療-
CKDと肥満 -アディポサイトカイン調節機構と腎保護-
CKDと高尿酸血症

生活習慣とCKD進展とのクロストーク
新たなCKDリスクファクター -サルコペニア、フレイル-
CKDと骨代謝異常とのクロストーク
CKDと栄養とのクロストーク
CKDと睡眠障害とのクロストーク

CKD発症阻止のための母子環境へのアプローチ
母体環境がCKD進展に及ぼす影響
小児期の成育環境および生活習慣の変化とCKD発症・進展

CKD診断・治療のUp-to-Date
最新のCKDのバイオマーカー
CKD新規治療薬の開発-PHD阻害薬、Nrf2刺激薬、インクレチン関連薬、SGLT2阻害薬-

ブログに取り上げたのは【CKDにおける生活習慣病治療のパラダイムシフト】と【生活習慣とCKD進展とのクロストーク】です。
まず、要点と思ったものをそれぞれ表形式にまとめました。そして、前者は「レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAA系)」に関して、後者は、「サルコペニアとフレイル」について補足しました。
また、今回のブログを書くにあたり、ネット上にあった優れたサイトや資料もご紹介しています。特に「サルコペニア」「フレイル」の意味については『健康長寿ネット』がおすすめです。

なお、運動療法を中核とする「腎臓リハビリテーション」については次回のブログでご紹介させて頂きます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「病気がみえる 腎・泌尿器

レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAA系)
血圧や有効循環血漿量の低下が起こると腎臓はレニンを分泌し、アンジオテンシノゲンがアンジオテンシンⅠを経てアンジオテンシンⅡに変換され、アルドステロンが分泌されます。これにより、血圧、循環血漿量が調節されます。なお、血圧上昇・循環血漿量増加がネガティブフィードバック(抑制的な指示)となりレニンの分泌が抑制されます。

腎臓の傍糸球体細胞は腎血流量の変化を感知し、減少すればレニンの分泌を促進し、増加すれば抑制するという仕組みをもっています。このレニンは発見当初は活性化の仕組みがわからずホルモンかキナーゼ(リン酸化酵素)の一種ではないかと考えられていましたが、現在ではタンパク質分解酵素の一種とされています。
ACE(アンギオテンシン転換酵素)も酵素です。肺などの血管内皮細胞によって産生・放出される血圧調節に関与しており、種々の呼吸器疾患、肝、腎、甲状腺疾患、糖尿病などで変動することが知られています。アンジオテンシンとアルドステロンは尿生成に関するホルモンです。双方、血圧上昇の働きがありますが、後者は体液量増加の働きももっています。アンジオテンシンは肝臓で合成されたアンジオテンシノゲンが元になっています。一方、アルドステロンは副腎皮質から分泌されます。

 

中央の2つがアンジオテンシンⅡとアルドステロンです。他に尿生成に関するホルモンとして、バゾプレシン、ANPがあります。

画像出展:「病気がみえる 腎・泌尿器」

横道にそれますが、「神秘の巨大ネットワーク」と題するNHKスペシャルが放映されています。これは脳が関与することなく、臓器同士がメッセージのやりとりをしながら様々な働きをするというものです。この中で臓器同士のやりとりは、ホルモンやサイトカインなどの「メッセージ物質」を介して行われますが、番組では、「人体の本当の姿は脳を頂点とするタテ社会と考えられてきたが、臓器同士の会話による巨大ネットワークが人体の真の姿である。」という考え方を紹介しています。
この考えに従って、RAA系(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系)をみてみると、主な臓器は腎臓肝臓副腎です。メッセージ物質は酵素のレニンACEとホルモンのアンジオテンシンⅡアルドステロンということになり、RAA系も「巨大ネットワーク」の1つということになると思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出版:東京書籍


サルコペニアとフレイル
こちらの図は本文に掲載されている「図1 CKD患者におけるフレイルの原因」と「図2 CKD患者におけるフレイルがもたらす結果」ですが、この2つの図を説明した箇所を引用させて頂きます。なお、クリックして頂くと拡大されます。


CKD患者においては、食思不振や食事制限による栄養摂取不足はサルコペニア、フレイルの主要因である。しかし、栄養摂取不足のみならず、尿毒症、全身性の炎症、糖尿病や心血管疾患などの併存疾患、代謝性アシドーシスやインスリン抵抗性などの代謝・内分泌系的異常なども、サルコペニア、フレイルの発症に関与している(左-図1)。さらに、透析患者では、透析による栄養素の喪失(アミノ酸やタンパク質の透析中への流出)や透析治療に関連した因子(透析液中のエンドトキシンや透析膜の生体的合成など)も加わり、サルコペニア、フレイルを非常に来たしやすい。サルコペニア、フレイルは感染症、心血管疾患、虚弱や抑うつなどを引き起こし、さらにこれらの合併症がサルコペニア、フレイルを増悪させる要因となる(右-図2)。
フレイルが要介護状態の前段階とすると、この状態は日本では介護予防の二次対策予防対象者に相当する。したがって要介護状態をできるだけ予防するうえでも、このフレイルの予防・介入は喫緊の課題である。サルコペニア、フレイルに対する包括的かつ積極的な介入が、CKD患者のQOL向上や生命予後改善のために不可欠である。』

 

平成28年9月に一般社団法人となった、日本サルコペニア・フレイル学会さまのサイトには次のような説明がされています。

 『世界的に社会の高齢化は大きな問題となっていますが、高齢者の機能障害や要介護に至ることを予防するためには、疾病の管理とともに老年症候群の管理が重要です。なかでも生活機能障害を招き、健康長寿の妨げになるものとしてフレイルやサルコペニアが非常に注目されています。フレイルは高齢期に生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し、機能障害、要介護状態、死亡などの不幸な転機に陥りやすい状態とされ、生理的な加齢変化と機能障害、要介護状態の間にある状態として理解されており、サルコペニアは、加齢に伴って筋肉が減少し、握力や歩行速度の低下など機能的な側面をも含めて定義されています。サルコペニアが進行すると転倒、活動度低下が生じやすく、フレイルが進行して要介護状態につながる可能性が高くなり、高齢者の運動機能、身体機能を低下させるばかりでなく、生命予後、ADLを低下させてしまう場合が多く、その対策が必要です。すなわち、サルコペニアはフレイルの一つの重要な要因ともいえます。』

 

 

 

「サルコペニア診療ガイドライン2017年版」:サルコペニア診療のためのガイドラインが、国立長寿医療研究センター、日本サルコペニア・フレイル学会、日本老年医学会によって作成されました。

同研究センター副院長の荒井秀典先生が監修された「サルコペニアがいろん」の中に、サルコペニアが起こるメカニズムに関する記述がありましたので、専門的な内容ですがご紹介したいと思います。

出版:ライフサイエンス出版


●加齢による神経筋シナプスの形態変性
『筋の運動機能を維持するためには、筋組織と運動神経が連携して運動時に必要な代謝産物、エネルギー量や酸素消費量の需要増大に対応する必要があります。脊髄にある運動神経細胞の細胞体から伸びた神経線維の終末部は、筋細胞と接して神経筋シナプス(接合部)を形成しています。加齢に伴ってこの神経筋シナプスの断片化、構造の単純化、神経終末の分枝化が起こります。このような神経筋シナプスの形態変性は、運動神経終末から分泌される神経伝達分子(アセチルコリン)の作用効率を下げ、サルコペニアにおける筋力低下や筋萎縮の原因となります。さらに、ビタミンDが神経筋シナプスの構造の維持に有効との報告もあります。』

左は神経筋接合部の構造です。

画像出展:「人体の正常構造と機能」


●筋幹細胞の老化との関係
サルコペニアの筋では、筋線維の数と断面積が減少しています。発生期の筋線維の形成や筋が損傷したときの修復には、再生・分化能をもつ筋幹細胞が必要ですが、加齢により筋幹細胞の再生・分化能や修復効率は低下します。しかし、筋の単なる加齢変化では明らかな筋損傷がみられないことや、筋幹細胞が筋線維の維持に必ずしも必要でないとの報告もあり、筋幹細胞の老化とサルコペニアの因果関係は、今後の課題です。』
●代謝バランスの破綻と可塑性の喪失
『筋力や身体能力の低下は認知症を含む老年症候群、要介護や死亡のリスクと相関することが明らかになっています。加齢による全身の変化は、筋量の減少ではなく筋の質的な変化と強く関連していることを示唆しています。筋肉も他の組織と同様に、通常は筋タンパク質の同化(合成)と異化(分解)が平衡状態に保たれています。骨折や脳血管障害などによりベッドレストで筋が不活動状態になると、同化と異化のバランスが急速に崩れ、筋は2週間で萎縮します。この萎縮した筋は通常の生活に戻ればすぐに改善されますが、加齢とともにその回復力は低下し、また加齢に伴う低栄養・低タンパク質は回復をさらに阻害します。
サルコペニアの萎縮した筋では遅筋線維の割合が相対的に増えると考えられます。若い筋では、運動により筋線維が肥大するだけでなく、運動の種類(筋力/耐久トレーニング)によって速筋線維と遅筋線維の割合を変化させることができますが、加齢とともにこのような可塑性は失われます。
免疫細胞の機能制御を担う多くのサイトカインは筋からも分泌されていて、サイトカイン以外の分泌タンパク質を含めてマイオカインと総称します。マイオカインは肝臓、膵臓、脂肪組織、免疫組織、骨、脳などにも血流で運ばれ、マイオカインの分泌制御は筋の運動機能や体内の栄養環境の影響を受けるため、サルコペニアだけでなく認知症など老年症候群の成因と強い関連があると考えられます。』

長寿科学振興財団 健康長寿ネット

 

「高齢者の病気」の先頭の2つに「フレイル」と「サルコペニア」があります。それぞれ、原因・診断・治療・予防などが丁寧に説明されています。

協和発酵キリンさまの運営サイトです。

とても親切なサイトで、マンガによる解説も付いています。

いま,なぜ睡眠と全身性疾患か?? ―全身性疾患を睡眠からとらえる

睡眠との関係を知りたいと思い検索して発見した資料です。

「おわりに」の冒頭は次のような内容です。『睡眠時間の減少や睡眠時の呼吸異常は、全身性炎症や心血管系疾患、代謝性疾患と密接に関連すること、さらに癌の進展リスクにもつながり得ることを示した。とりわけ、肥満に伴う閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)ではIH(間歇的低酸素[Intermittent Hypoxia])やそれに伴う全身性炎症が生活習慣病の発症進展に重要な役割を担っている。……』

慢性腎不全が鍼治療で改善!

慢性腎不全の患者さまへの施術で、クレアチニン値3.64から2.38に改善された症例がありましたのでご紹介させて頂きます。なお、体調も良くなり通常のお仕事に復帰されました。
・施術期間:2017年11月-2018年1月
・施術回数:9回
・クレアチン値:3.643.022.502.38

今回、ブログを書くにあたり患者さまにご相談したところ、検査結果もお見せ頂けることになりました。下記がその検査結果ですが右上に日付が出ています。なお、クリックして頂くと拡大されます。



CKD診療ガイド2012を元に、内臓トレーニング協会さまが作成されたグラフです。これを拝見すると、クレアチニン値が3.5以上になると手術が必要になってきます。

画像出展:「内臓トレーニング協会

 

 

 
腎移植手術を行う場合、医療費助成制度適用には、「腎機能障害の身体障害認定」が必要となります。4級の評価基準は右端にある「クレアチニンクリアランス(Ccr)20以上30未満」もしくは「クレアチニン値3.0以上5.0未満」のいずれかを満たすという条件です。つまり、3.0という数値は日常生活活動の制限を覚悟しなければなりません。

 

画像出展:「腎援隊

疾患-慢性腎臓病」でも触れていますが、「鍼治療が慢性腎臓病(CKD:chronic kidney diseas)に有効ではないか」ということを考えるようになったのは、静岡トレーニングクリニック 廣岡院長の著書、「腎臓病を自分でなおす -私たちはクレアチニン値を自分で下げた-」を拝読させて頂いたことによります。仮説ということではありますが、「クレアチニン値の下がる理由(特に青字箇所)」鍼治療の可能性を確信した理由です。

注)静岡トレーニングクリニックさまで行われている「内臓トレーニング療法」は鍼治療ではありません。 「低周波パルス印加装置」を使用されています。

 

発行は、2015年4月です。

出版:アイシーアイ出版

クレアチニン値の下がる理由(仮説) 
a 人体を細胞レベルで見ると
『体を細胞レベルで見ると、約60兆個の細胞からできています。全ての細胞は、酸素を取り入れて二酸化炭素を排出し、アミノ酸やブドウ糖などの栄養を取って老廃物を排出しています。細胞に栄養と酸素を届けるのは血液であり、二酸化炭素と老廃物も血液によって回収されます。ですから、細胞は血液が届けば健康ですが、届かなければ衰弱し、もし酸素が届かなくなれば10分ほどで死んでしまいます。つまり、細胞にとって血液は生命線であり、全身の細胞に血液が行き届いていれば人間の体は元気でいることができます。
b 細胞も生き物、その健康状態はさまざま
細胞は生き物です。生き物は単純に生か死に二分することは出来ません。元気な細胞、疲れた細胞、病気の細胞などがあり、徐々に弱って寝込んだり倒れたりして最後に死を迎えます。一般的にクレアチニン値1.00を超え、腎機能に支障があると診断されたときには、その機能の半分が不全に陥っています。しかし、1.00の時、半分の細胞が死滅し、残りの半分の細胞が元気というわけではありません。細胞は活発に活動しているものから、瀕死の状態のものまでさまざまな健康状態で混在しています。腎臓の機能の回復を図ろうとするなら、弱っている細胞に新鮮な酸素と栄養をたっぷり与えれば、人間と同じように元気になるはずです。それには腎臓の血流を活発化すればよいのです。』
c 血液が届けば細胞は元気になれる
全身の血流を活性化し、臓器に血液を送りこめば、元気な細胞は今まで以上に元気になり、疲れた細胞は疲労を回復し、病気の細胞も治癒し、瀕死の細胞も息を吹き返すはずです。そして、疲労しきった腎臓の機能全体が回復してクレアチニンの数値も下がるはずです。現に、内臓トレーニングでクレアチニンを下げたり、数値の上昇を抑えている人は7割を超えています。内臓トレーニングが、クレアチニンは下がらないという医療界の常識に反して効果を挙げている理由は、ここにあると考えています。ただし、この考え方は科学的に証明されたものではありません。あくまでも細胞生理学的な見地からの仮説です。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「内臓トレーニング協会

また、次のご指摘も納得のいくものでした。
血液の流れる仕組み
『血液の大循環を考えてみましょう。心臓から押し出された血液は動脈を伝って全身に届けられ、静脈から心臓に戻ります。血液循環で一番難しいのは下半身に降りた血液を引力に逆らって心臓に戻ることです。心臓から足のつま先まで約1メートルの高さがあります。下半身の血液は、主として第2の心臓と呼ばれるふくらはぎの筋肉が動かします。ふくらはぎの筋肉がしっかり動けば、下半身の血液は尺取虫にように押し上げられて、心臓に戻ります。日常生活の中でふくらはぎを動かすには歩くことです。しかし、現在は車社会で歩くことが極端に少なくなっています。このため、下半身に汚れた血液が溜まり、さまざまな病気になりがちです。
次に毛細血管の血液の流れを説明しましょう。毛細血管は筋肉の中にあり、毛細血管の血液も筋肉の収縮によって体の隅々まで流れます。やはり、運動が必要です。ですから、歪んだ姿勢で生活したり、肩こりや腰痛で筋肉を固めてしまうと、筋肉の収縮頻度が少なくなり、毛細血管の血液の流れまで悪くなってしまいます。血液の流れを円滑に保つことは、健康な人でもなかなか大変なことです。ましてや腎臓を患っている人は、当然血液の流れが滞りがちです。』

 

画像出展:「腎臓病を自分でなおす」

 


警告のための名称
廣岡先生は、2012年5月に発行された「腎臓病をなおす-内臓トレーニングでクレアチニン値は下がる-」の中では、次のようなお話もされています。
腎臓の働きが衰えてくると、一般に慢性腎臓病とか慢性腎不全と診断される。しかし、この名称は「腎臓の機能が衰えてきています」と腎臓の働きの状態を表した病名で、いわゆる「警告のための名称」と考えるとわかりやすい。

 

 

 

 

廣岡先生が実施されている治療は「内臓トレーニング」とよばれ、ホームページにも詳しく紹介されています。

ご参考1

ホームページに紹介されている「田坂定孝教授著[低周波脊髄・頭部通電療法]中外醫學社刊」は、「国立国会図書館デジタルコレクション」の中にありました。資料は「図書館向けデジタル化資料 送信サービス参加館」に登録されていれば、その図書館にある専用端末で閲覧およびコピーが可能です。添付は、「田坂定孝教授著[低周波脊髄通電療法]」です。これは[低周波脊髄・頭部通電療法]の2年前の1958年に発行されたものです。実は、間違ってこちらを閲覧・コピーしてしまいました。なお、『本通電法を一応低周波脊髄通電法(以下低脊通電と略す)と命名して昭和30年8月20日に(日本医事新報,第1634号)に報告したものである。』と記されていました。

右側は「低脊通電の臨床効果」が書かれた最初のページですが、見ずらいため冒頭の一部を書き出しました。

 

『低脊通電は諸種中枢性神経疾患ことに脳卒中後片麻痺にみられる運動障害に有効であるばかりでなく、視覚障害・言語障害・拘攣・自律神経障害および精神障害などにたいしても有効であり、約15%くらいの無効例および15%くらいの微効例はあるが、その他の70%においては効果がはっきり認められ、しかもこのうち約20%においては卓効または劇的な効果がみられた。・・・』


鍼治療の概要
当院の鍼灸治療は経絡治療になりますが、日本伝統医学研修センターにて相澤良先生よりご教授いただいた経絡治療になります。これは、岡部素道先生が昭和20年~39年の第2期に行っていたもので、陰陽論を具体化するものであり、「祖脈診」による脈診は病理を鑑別します。これに問診、腹診などを考慮して総合的に判断します。今回の患者さまは、瘀血が疑われる熱型で、肝経の金穴(中封)・水穴(曲泉)、腎経の金穴(復溜)・水穴(陰谷)を本治としました。なお、腹部の中脘、左右天枢、関元の4穴も本治に加えています。

下図は祖脈診の概要です。右の写真は現場で使うシャーレと寸3-1番の40本の鍼です。殿筋など長い鍼が必要な場合は、寸6-3番や2寸-5番を使っています。 


「内臓トレーニング」では、ふくらはぎ、足裏、背中(脊柱際)を治療ポイントとしています。

今回は足の浮腫みがあったため、腓腹筋ヒラメ筋をターゲットにツボを意識しつつ、触診により刺鍼点を決めました。
また、軟らかい印象があった背中ですが、刺鍼してみると少し深いところに顕著な硬さがあり、曲がってしまう鍼もありました。この硬さは普通ではなく最重要の刺鍼エリアであると判断しました。置鍼時間は20~30分を目安とし、必要に応じて、単刺や抜鍼時の雀啄を行い、硬さをつくっている熱が外に排出されるイメージで鍼を抜きました。

 

夾脊(華佗夾脊)」は、経絡治療、中医学ともに使われる奇穴です。教科書には主治として「胸腹部の慢性疾患」とあります。

画像出展:「新版 経絡経穴概論」

神経リンパ反射療法でご紹介した「チャップマンによる内臓器官反射点」です。この反射点を活性化すると、『自律神経系を通して反射点と連結する内臓に影響を与えることが可能である。反射点の治療を通して交感神経緊張の制御が切り替わり、関係する内臓の血流が良くなり代謝推移が素早く正常化する。』との解説がされています。

Dr. Frank Chapman, DO(Doctor of Osteopathic Medicine)

画像出展:「神経リンパ反射療法」

整理をすると、今回の標治ヒラメ筋腓腹筋T1(第1胸椎)~L2(第2腰椎)の脊際、さらに、脳への血流を意識し、後頚部を加えたものが刺鍼部位になります。

ご参考2

五行説:陰陽と並ぶ古代中国の自然哲学の思想。陰陽五行説という捉え方もされる。万物は「木火土金水」という五つの要素により成り立つとする。

相撲は日本古来の神事とされていますが、ここには「五行」が存在します。
・土(土表)
・金(白ぶさ)
・水(黒ぶさ)
・木(青ぶさ)

・火(赤ぶさ)

画像出展:「ウィキペディア

腎臓の働き
・腎臓の働きは大きく分けると、「尿生成」と「ホルモン産生・調節」の2つですが、臨床的には尿生成を腎機能としています。
。その尿生成に関しては、「よくわかる生理学の基本としくみ」という本の中に、例をあげて分かりやすく説明がされていましたので、こちらをご紹介させて頂きます。(右側の腎機能の図は「病気がみえる vol8 腎・泌尿器」からのものです)

 

出版:秀和システム


 

こちらは、腎動脈に造影剤を注入してX線撮影した腎動脈造影です。「病院の検査の基礎知識」さまより拝借しました。

なお、腎動脈の直径は5~6mmとされています。

『細胞が出す代表的な代謝産物には、酸素の消費の結果出てくる二酸化炭素のほか、タンパク質やアミノ酸を分解することで生じる尿素や硫酸など、それに、DNAやATPなどに使われる核酸を分解して生じる尿酸などがあります。これらの物質は、細胞から血液に出されてきます。したがって、ゴミは、血液によって体中から回収されているわけです。血液は、なんと、ゴミ収集車の役わりをしているのです。

 

尿素や尿酸などのゴミを回収したごみ回収車は血液を通って処理センターの腎臓に向かいます。

画像出展:「よくわかる生理学の基本としくみ」

血液は、あくまで収集をしているだけなので、どこかに捨てなければなりません。一つのごみ処理場は、肺です。ここで二酸化炭素が出されることを、第3章(息をすること[呼吸器系])でお話しました。しかし、他の物質は、気体にならないので、肺からは出ません。気体にならないゴミを除去するのが、腎臓の役割です。つまり腎臓は、ゴミを水に溶かした状態で体外に出します。これがおしっこです。
だから、体が少々水不足の状態であっても、ゴミを溶かすために水が必要で、おしっこはやっぱり出てくることになります。こうして見ると、腎臓が壊れることの恐ろしさが分かると思います。腎不全が進んでしまった患者さんは、腎臓移植をするか、人工血液透析を行って、血液から直接ゴミを取り除く方法をとらなければならなくなります。
血液の中に溶けている“ゴミ”を体の外に出すためには、どうしたらよいでしょうか。一番簡単なのは、血液をそのまま捨てることです。しかし、これは出血ですね! 体の中の血液の量は、体重の約8%ですので、体重60kgの人では約5Lです。おしっこの1日量から考えると、3日で空っぽになってしまいます。また、おしっこに血液が混じるのは血尿といって、病気の兆候です。結局、血液の中から、ゴミを選んで出す必要があるのです。
血液の主な成分といえば、赤血球や白血球や血小板が思いつくことでしょう。この3つは、細胞、あるいはその一部で、血球成分と呼ばれます。血球成分は、もちろんゴミではありません。ですから、血球を出さずにゴミを除去しなければなりません。
ゴミは、血液の液性成分である血漿の中に溶けている分子です。そうすると、血液の中から、血漿だけを取り出せばよさそうです。血球は細胞成分ですから、比較的大きいので、理科の実験などでよく使う濾紙(フィルター)であれば、濾しとることができそうです。腎臓には、この濾紙の役わりをするものがあります。それが糸球体です。糸球体は、両側の腎臓に合わせて、200万個以上もあるといわれています。糸球体は、毛細血管が糸くずのように丸まった状態のものです。つまり血管ですから。この中を血液が流れています。
この血液は、大動脈から直接枝分けれしている腎動脈が、さらに数回枝分かれしてきた輸入細動脈から注がれます。そして、糸球体を通過した血液は、輸出細動脈として出ていきます。こうして、糸球体には、血液が絶えず流れています。

糸球体の壁は、内側から、血管内皮細胞、基底膜、上皮細胞の順で層を成しています。血管内皮細胞と上皮細胞は、それぞれ細胞どうし密着しておらず、ちょうどタイルのように並んでいます。そして、細胞どうしの間はすき間になっています。また、基底膜は、膜とはいっても均一なものではなく、網状の構造をしています。網の上に細胞がバラバラに載っているようすは、網の上でお餅を焼いているようすに似ています。内皮細胞の大きさは赤血球より小さいので、内皮細胞や上皮細胞のすき間を、血球成分は通過できません。では、基底膜はどうでしょう。基底膜の網の目はかなり細かいので、血漿の中の巨大分子であるたんぱく質は、ほとんど通過できません。
こうして、血漿成分からタンパク質を除いた比較的小さな分子と水だけ、糸球体の壁を通過することができ、中に入っている比較的小さな分子であるゴミを血管の外に出すことができるのです。このしくみを糸球体ろ過といいます。こうして糸球体から、いわばしみ出てきた液を原尿と呼びます。原尿はボーマン嚢に受け止められて、次のルートである尿細管に流れてゆきます。

 

画像出展:よくわかる生理学の基本としくみ」

糸球体の壁からしみ出た原尿は、血漿からタンパク質を除いたものです。ところで、そもそも血漿には何が含まれていたでしょうか。
第一はタンパク質です。タンパク質にはアルブミンと呼ばれるグループと、グロブリンと呼ばれるそれより大きな分子のグループがあります。それと、血液内で脂質を輸送する役わりがあるリポタンパクがあります。健康を気にしてる人は、LDLとかHDLとかいう名前を聞いたことがあるでしょう。それがリポタンパクです。こうした血漿に含まれているタンパク質は、しみ出しません。
タンパク質は栄養素でもありますが、第2章(食べること[消化器系])で、他の栄養素も、腸で吸収されて、血液に入ってくることをお話しました。そう、グルコースなどの単糖類とアミノ酸です。これらは比較的小さな分子なので、糸球体の壁からしみ出してしまいます。そのほか、ナトリウムやカリウム、カルシウム、塩素などの電解質も、血漿の中にしみ出します。また、もちろん水もしみ出します。こうした栄養素や電解質、水は、ヒトの体に必要なものです。
これらが、糸球体からどんどん失われたとすると、まったくムダなことをしていることになります。ですから、これらのものは、最終的に、おっしことして出してしまう前に回収しなければなりません。尿細管では、原尿中の必要物質を回収し、血液に戻しています。

 

画像出展:「よくわかる生理学の基本としくみ」

では、どうして、糸球体からいったんだしてしまったものを、また回収するというような、一見ムダに見えることを行っているのでしょうか?それは、“ゴミ”を出すために必要な作業だからなのです。血液中のゴミは小さな分子で、栄養素などと大きさがさほど変わりません。だから、ろ過では、栄養素とゴミの区別をつけることはほぼ不可能です。
ならば、ろ過という方式をとらず、ゴミだけ、血液の中から選択的に取り出す方法も考えられます。これなら、尿素や尿酸といったゴミだけ捨てて、栄養素を捨てなくてすみます。
でも、この方法は、自然界では危険な方法です。なぜなら、体の中には、栄養素とゴミ以外の物質が、いつも入り込んでくる可能性があるからです。典型的なものは毒物です。毒物は、ヒトが持っている物質ではありませんので、ヒトとしては、どんな物質なのか予想がつきません。ですから、血液中から毒物だけを選んでうまく捨てることができるかどうかは、不確実です。おまけに、これを失敗すると、生命の危険にさらされるわけです。具体的な例として、新薬の話があります。新薬は、人工的に合成された化学物質ですから、それまで地球上に存在するはずのない物質です。しかし、新薬がヒトに投与されると、みごとに体の中から除去され、おしっこに出てゆきます。

 

捨てる&回収は、最も安全です。

画像出展:「よくわかる生理学の基本としくみ」

もし、腎臓が、ゴミだけ選んで捨てていたら、新薬はいつまでたっても体の中にとどまって、深刻な副作用を引き起こすでしょう。毒物も新薬もゴミも確実に排出するには、考え方を変えなければなりません。タンパク質より小さな分子は、とりあえず、いったん血管の外に出してしまうのです。そうすれば、どんな毒物も開発したての新薬も、出て行ってしまいます。ゴミももちろんそうです。これが糸球体のろ過のやり方です。
同時に出て行った栄養素や電解質ですが、これは生体がよく知っているもので、その数も限られているので、こちらを選んで回収するほうが、結局、効率がよいわけです。たとえば、ゴミ箱に誤って必要なものを捨ててしまって、ゴミ箱からそれを探し出すときのようなものです。ゴミ箱の中身を、新聞紙か何かにいったん拡げて、必要なものを見つけ出し、残りをまたゴミ箱に捨てる方が、ゴミ箱の中に手をつっ込んで探すより、簡単ですよね!

ご参考3

こちらは糸球体の写真です。

まさに毛細血管の糸くずですが、1つのパーツではありません。ミクロの細胞を1つの部品とすれば、物凄い部品点数の巨大「ろ過装置」です。

もし、この「ろ過装置」が1個のスイッチで操作されるのであれば、その働きは、1(稼働)0(停止)というデジタル的といえます。

しかしながら、実際は常にスイッチはオンです。ただし、その稼働状況は一定とは限りません。取るべき睡眠をとっていなかったり、食べるべき食事を抜いていたり、あるい、暴飲暴食などの不摂生を繰り返していると、生み出されるストレスは「ろ過装置」が必要とする燃料(血液が運ぶ酸素と栄養素)の安定的供給に影響を及ぼし、稼働環境を悪化させます。

このように、細胞という無数の部品で組み立てられた巨大な「ろ過装置」を不十分な燃料で長期に渡って稼働させなければならないとすれば、その「ろ過装置」の稼働状況は、絶好調瀕死状態にある細胞群に支えられることになります。そして時間の経過とともに各細胞の健康状態は徐々に悪化してゆき、不良部品が増えていき「ろ過装置」の性能は低下していきます。

つまり、「低酸素や虚血という環境は腎臓のろ過機能を低下させるが、その変化はアナログ的であり、酸素と栄養素などが血液によって安定供給されれば、細胞の健康状態も改善され、そして、ろ過機能も改善される。」と考えることは不自然ではないと思います。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

再登場の絵です。

上記の「絶好調~~瀕死状態」はこの絵をイメージしたものです。

ご参考4

臓器は血液が運ぶ酸素と栄養素などで健康を維持していますが、特に腎臓にとって低酸素状態は重大な問題です。ネット上にあった第113回日本内科学会講演会の資料によると、糸球体の硬化の問題以上に、尿細管間質の慢性低酸素状態が特に重要と考えられること、腎臓は生体が必要とする酸素の30を消費する非常に酸素需要の高い臓器となっており、低酸素や虚血が病態に影響を及ぼすことなどが論じられています。なお、本資料はダウンロードできるようにさせて頂きました。

ダウンロード
腎臓病の新たな視点-低酸素とepigenetics.pdf
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ドグマチール(スルピリド)による薬剤性パーキソニズム

年始に「薬剤性パーキソニズム」が原因で、転倒された患者さまがおいでです。
お話を伺うと、平坦な道にもかかわらず、ツツツッと足が勝手に運ばれ、止まることができず転倒してしまったとのことでした。この転倒は姿勢反射障害によるものであることが懸念されました。
また、ご友人からは「〇〇さんは足を引きずるように歩いているから、注意した方がいいよ。」と言われるとのお話もされていました。これについては、足の運びだけでなく、歩行時の腕振りに問題があるのではないかということを考えました。

パーキンソン病の症状は姿勢反射障害の他、振戦(手のふるえ)、筋強剛(腕が歯車のようにカクカクした動きになる)、無動(思うように体が動かない)などが代表的な所見ですが、今回は姿勢反射障害によると思われる転倒以外の所見はありませんでした。しかしながら、万一のことを優先し、脳を診てもらえる病院に行かれることをお勧めしました。
地元の病院での診察結果は、パーキンソン病かどうかははっきりしないが、レボドパという強力なパーキンソン病の薬を2週間分渡されるというもので、原因および今