がんと自然治癒力3

前回のブログでご紹介させて頂いた「日本のがん医療を問う」の中に次のような文章がありました。

『2001年春、佐藤さんは地元の大学病院で大腸がんと診断され、手術を受けた。その後、手術をした外科医の手で再発を防ぐための抗がん剤治療が始まった。七ヵ月間続いたこの治療は、佐藤さんにとってつらいものだった。

その頃の様子を、佐藤さんは手記に記している。

「体調悪し」「副作用強くて吐き気あり」「二度吐く」

抗がん剤の投与を受けるたびに繰り返される副作用の様子が生々しく書かれている。佐藤さんは、当時のことを思い出すと今でも気分が悪くなり吐き気を催すという。

「抗がん剤治療が終わると同時に、トイレに駆け込んで嘔吐するというような状態だったんですね。それで終わりじゃないんですよ。帰って横になりますよね。体の負担がすごいですから、翌日もやっぱりご飯が食べられない。二週間に一回の抗がん剤治療だったのですが、その間ずっと吐き気があるわけです。ご飯をほとんど食べれなかったので、10キロくらいやせました。

それで、抗がん剤治療のつらさを先生に訴えたわけです。吐き気を止めてほしいとお願いしたのです。その答えというのは「大腸がんの抗がん剤治療は、ほかの抗がん剤治療に比べまだ楽なんです」と。「入門編のようなものですよ、辛抱しなさい」と。「だから抗がん剤を打ってもらった後、その苦しさに耐えて最後までがんばるしかなかったんですよ」

副作用のため、佐藤さんは生き甲斐であるカメラマンの仕事を一時中断せざる得なかった。「この治療が終わればがんが治る」と信じて、佐藤さんは抗がん剤治療に耐え続けた。

しかし、手術を受けた翌年の2002年、肝臓への転移が見つかる。さらにその翌年には肺への転移が見つかった。佐藤さんは地元の大学病院の治療に納得いかず、友人の紹介で抗がん剤に精通した東京の医師の治療を受けることを決めた。

2003年5月。東京・中央区の病院で、平岩正樹医師による治療が始まった。

平岩医師は病気の進行などに応じて、抗がん剤の量や組み合わせをきめ細かく変えていく。副作用を極力小さくした上で、最も効果がある投与方法を探っているのだという。治療方針を決めるときには、時間をかけて佐藤さんと話し合う。本人が納得して治療を受けることを大切にしてくれるのだ。

「地元の大学病院で受けてきた治療とは、何から何まで違う」

佐藤さんの実感だ。

月に数回、定期的に東京に通い平岩医師の治療を受けるようになってから、佐藤さんは抗がん剤の副作用を感じることがほとんど無くなった。また検査結果を見ると、転移したがんの勢いも抑えられているようだ。

おかげで佐藤さんは以前と変わらずに仕事ができるようになった。

堀川遊覧船の取材をしたこの日は、東京で抗がん剤治療を受けてからわずか三日後だった。佐藤さんは朝八時から夕方五時まで働き、四本のニュース取材をこなした。

「最高ですよ。仕事をしている間は、自分ががん患者であるということを忘れているんです、実は。私、進行がんの患者なんですよ。両方の肺に転移したがんがたくさんある。でも仕事ができるんです」額の汗をぬぐおうともせず、大きな瞳を輝かせながらこう語る。抗がん剤が、がんと向き合いながら生きる佐藤さんの日々を支えていた。

左の図はまさに平岩先生が取り組まれていた抗がん剤治療のノウハウの一部が、大変分かりやすく紹介されていました。

抗癌剤の投与方法抗癌剤の薬量を治療なし(中止)を含めた7段階に設定し、1回抗癌剤を投与するごとに、白血球と血小板の数が減れば次の投与で薬量を1段階減らし、白血球が減らなければ薬量を1段階増やす。こういうふうに薬量のさじ加減をしながら、抗癌剤投与がおこなわれています。

このようにして個々の薬量を7段階にバラけていきます。それをあらわしたのがこの図です。これは、抗癌剤の「適量」の個人差の大きさを示していると言えるでしょう。

画像出展:「チャートでわかる がん治療マニュアル

抗がん剤治療による副作用が、医師の処方で変わるということを初めて認識しました。抗がん剤について無知に等しかった私にはこれは驚きでした。

そこで、ここに出てくる平岩正樹医師という人を知りたくなり、ネット検索したところ、20冊以上の著書をお持ちであるということが分かりました。そして、3冊の本を入手しました。

ブログでは、『がんで死ぬのはもったいない(2002年6月初版発行)』と『抗癌剤知らずに亡くなる年間30万人(2005年3月初版発行)』を題材とさせて頂いていますが、前者は感想と目次のみとなっています。

なお、当初の予定としていた『デヴィータ がんの分子生物学』に関するブログは次週とさせて頂きます。

《カバー折り返し裏面に記載された紹介文》

『「最後の入院」―「手術は一流だが、抗癌剤治療は三流」と言っても誉めすぎで、つい最近まで「手術は一流だが、抗癌剤治療はなし」と言ったほうが正確だった。

しかたがない。日本の癌治療で最も大切なことは、患者に癌と気づかれないことだったのだから。抗癌剤を患者に気づかれないようにきちんと使うには相当の技術がいるし、危険でもある。

だから日本の外科医は、今でも「免罪符」のように5FU系経口抗癌剤を多用する。アリバイ的癌治療と呼んでもよい。

日本の癌治療のすべては、手術だけで決まった。もし不幸にして癌が再発したならば、外来でその患者を診ている外科医は、そのまま粘れるだけ粘るしかないのだ。せいぜい、家族を本人とは別に呼び出して「もう残り時間はあまりありません。一日一日を大切に過ごさせてあげてください」と言うしかないのである。でも、これがいったい何のアドバイスになるというのだ。これが医者の言う言葉か。―本書より』

 出版:講談社現代新書、初版:2002年6月

「患者と正面から向き合い、患者とともに、患者の思いを尊重しながら、決して妥協せず、卓越した抗がん剤治療の戦略をたて、常に最適な薬量を熟考する、曲がったことが嫌いな、完全プロフェッショナルな外科医である。」というのが、大変生意気ですが、私がこの本から感じた平岩正樹先生の印象です。

目次は次の通りです。

はじめに

序章 最高の笑顔

簡単に死なせるわけにはいかない…マニュキュア作戦…

「命にかけてでも」…「死んでもいい」の意味

第1章 「がんとは、どんな病気ですか?」

「癌」と「がん」…「がんという病気はない」…限りない各論の山…

肝臓癌と体重減少①…肝臓癌と体重減少②…その他の理由…

癌はなぜ転移するのか

第2章 癌の手術と抗癌剤治療

カーテンの向こうの青年患者…医者はなぜ嘘をつくのか…

国立がんセンターに救急車が来ない理由…なぜ外科医が抗癌剤治療を行うのか…

「見た癌は治らない」…「補助抗癌剤治療」とは…

「家族の人だけ来てください」…「カーテンの向こうの青年は…

「最後の入院」…青年に起こった「奇跡」…N先生のくれたヒント…

世界には充実した抗癌剤治療がある…私が受けたい抗癌剤治療…

「ジェムザール」のない病院…「混合診療」という違法行為…

先進的な癌患者…緊急手術のあとで…

「どうせ死ぬ」から治療は無意味か

第3章 自分の癌を知るということ

告知に関するアンケートのトリック…大阪から来た胆嚢癌患者…

診療情報開示システム…予期せぬ選択…「末期癌」など存在しない…

本当に恐い副作用…手足を縛られた治療…患者が主治医にすべき質問…

医者は死から逆算する…「命より意思」…そして悲劇は起こった

終章 医者が患者を看取るとき

S公園にて…二重の苦悩…誤解されている「教授回診」…

「まだ生きているんですか?」…医療は確率の勝負である…

「副作用死1%」の意味…研究段階と実用段階…

国立がんセンターの新治療法…「1ヵ月だけ待ってください」…

「やるしかないでしょう?」…死ぬまでの時間…

人間は死と接した存在…最期の小さな望みを…何もできない医者…

8ヵ月は家族とともに…昭和天皇の「手術後の治療」…私流の儀式

おわりに

こちらは、平岩先生が中心となって運営されているサイトです。なお、「ご相談」にはユーザ登録が必要になります。

 

 出版:祥伝社、初版:2005年3月

こちらも目次をすべてご紹介します。ブログに関しては、第一章 抗癌剤とは……の中から、「抗癌剤による治療と目的」と「抗癌剤治療の現実―癌難民はどこに行くのか」。そして、第二章 抗癌剤と治療法の中から、「抗癌剤治療の[五つの壁]」、第五章 「抗癌剤」最前線の中から、「やっとはじまった混合診療改正の動き」、最後に「あとがき」、以上に関してそれぞれ全文をご紹介します。

寄り道になりますが、ブログ「がんと自然治癒力2」で分かった当時の状況をお伝えします。

1963年に設立された外科医中心の日本癌治療学会、一方、2002年に内科医が中心となって発足した日本臨床腫瘍学会、2つの学会間には問題がありましたが、専門医育成の必要性から二つの学会とも認定制度による試験を2005年秋に実施しました。そして、その約4年後の2009年、日本の主要大学病院に「腫瘍内科」が設置され始めました。

したがいまして、この本が発行された2005年3月は、2つの学会が認定制度について争っていた頃であり、腫瘍内科設置という本格的抗がん剤治療が始まる4年程前に出版されたものということになります。

目次

はじめに

第一章 抗癌剤とは……

抗癌剤とは何だろう

・抗癌剤はなぜ効くのか?

・抗癌剤がもつ二つの働き

・200種もある「がん」の種類

・早期治療の鉄則は変わらない

・癌に効く薬はどこで売っている?

抗癌剤による治療と目的

・治療とは、迷いながら続けるもの

・治療の目的のどれを選択するのか

・「適量」は患者によって、まったく違う

抗癌剤治療の現実―癌難民はどこへ行くのか

・学会を支配する「癌の縮小至上主義」

・承認されていない抗癌剤

・人がいない、お金がない、薬がない

・抗癌剤治療の技術料はタダ

・抗癌剤は本当に恐いのか?

第二章 抗癌剤と治療法

抗癌剤治療と副作用

・分子標的治療薬の実体

・わずかな副作用死を問題にする社会

・抗癌剤評価の四段階

・患者にとっては結果がすべてである

・副作用があってもなくても患者は不安だ

・「癌は痛い」は昔の話

・世界最強治療vs古典的治療

・伝家の宝刀を抜く時、抜かない時

・副作用を抑える薬もある

・善玉か悪玉かは使い方しだい

・放射線治療のできる病院は少ない

抗癌剤治療には日本の掟が!

・日本で発明された薬を輸入する現実

・企業の論理と治療

抗癌剤治療の「五つの壁」

・マスコミの癌治療の認識度

・600万円と0円の差

・真っ当な治療か、医療費か

第三章 効果のある抗癌剤治療

まずは癌告知から

・癌告知をどうするか

・癌細胞は毎日生まれている

・私はけっして諦めない医者だ

・匙加減という軌道修正

・薬の投与も「米国式」と「欧州式」がある

・古くて新しいレビ博士の研究

・抗癌剤の夜間治療

・画期的な抗癌剤治療「クロノテラピー」

・仕事第一主義と抗癌剤治療

・三種類の抗癌剤治療

・目を覚ましている必要はない

第四章 抗癌剤治療の実際

肝臓癌

・肝細胞癌の治療は、もぐらたたき

・癌の「本籍」と「現住所」

大腸癌

・大腸癌治療の抗癌剤はたくさんある

・人工肛門外しに希望をつなぐ患者

・固形癌に抗癌剤は効かない?

・世界最高の治療の情報

・日本人が発明した薬が活躍

・「どうせ死ぬ」と投げやりな医者

乳癌

・内緒の「ナベルビン」

・悔いが残る乳癌の術後補助抗癌剤治療

・患者の大丈夫を信用できるか

・私の患者は消えていた

・目標は、元気な日を一日でも長く……

・「人は必ず癌になる」という覚悟

胃癌

・北陸から来た超進行癌の患者

・フルツロンから救われる

・手術を拒否し続けた人

膵臓癌

・膵臓癌は年間二万人が発症

・「膵臓癌に効く薬はありません」

・「未承認薬」という障害

・膵臓癌の治療は時間が勝敗を決する

・治療のリスクと勝算を考えて

・基本は「連射と軌道修正」

・膵臓癌のギャンブル治療

肺癌

・高速増殖癌

・たちまち効果が表れた不思議な患者

・誰にもわからない抗癌剤の働き

・肺癌は止まることがある

・余命を決定する四つの要素

・癌に対する武器は多いほどよい

・石橋を何度も叩く

胆嚢癌

・棺の用意も考えられた患者

・掟に忠実な医者、逆らう医者

・金田さんのその後

・試さないのはもったいない

・グラフから何がわかる

・「厳禁」の治療法で成果を出す

胆管癌

・ある胆管癌治療患者と死

・さまざまな患者たち

・癌闘病をホームページで紹介する患者

・十三夜の月の下で、逝く

腎臓癌

・手術を避ける病院の都合

・「診療情報提供書」

第五章 「抗癌剤」最前線

・「眼」を月に一度しか使っていない

・膵臓癌に劇的な効果のある薬なのに

・イレッサの副作用死を騒ぐ新聞

・日本の抗癌剤治療は赤字覚悟の医療だ

・タダで不利を被るのは国民だ

・妻への抗癌剤を造った夫

やっとはじまった混合診療改正の動き

・抗癌剤にも「安全第一」の国

・新しい癌の新しい治療薬

・新しい分子標的治療薬

・サリドマイドが多発性骨髄腫の薬として復活

・新たに承認される抗癌剤

・混合診療の論点

・私の患者を踏み台にした会議

・そんなに患者を選別したいか

あとがき

抗癌剤による治療と目的

治療とは、迷いながら続けるもの

「高血圧の薬は、飲みたくない。なぜなら、もし飲みはじめると癖になって一生飲み続けないといけないから……」と真顔で言う人がいる。

一生の間に病気がどうなるのか予測は難しい。だから、常に病気の状態を監視し続ける必要がある。それに薬を飲んだから、薬の必要な身体になるのではなく、薬の必要な身体になったから、医者は薬を飲むように勧めるのだ。因果関係が逆で二重にヘンだ。

「抗癌剤はずっと続けないといけないらしいから、はじめるのをためらう」と相談しにくる人がいるが、「それは、誤りです」と私は断言する。

本当にずっと続けることができるなら、幸せである。でも、「ずっと続ける」なんて、やってはいけないことなのだ。もっと言えば、ほとんどの抗癌剤治療は頑張って受けるものではないし、一大決心ではじめる必要もない。そして、迷いながら治療は続けるものなのだ。

癌の手術なら、たいてい一日で終わる。

手術を受ける決心は大変だが、目が醒めたらすべて終わっている。あとは退院に向けて、術後のリハビリを頑張るのみだ。ところが抗癌剤治療は長く続く。多くの人には頑張り続けるなんて無理だ。私が患者でも、「頑張る治療」は辛抱できないだろう。

患者は抗癌剤治療をいつでも中断できる。

中断するのかしないのか、考える材料は四つである。考えないで「ずっと続ける」ようでは、抗癌剤治療の成功はありえない。

①前回の抗癌剤治療で楽になったことはなにか

②前回の抗癌剤治療の辛かったことはなにか

③前回の抗癌剤は癌に効いているのか

④肝臓や腎臓、骨髄などに副作用の悪影響はないのか

①と②は患者が自覚する。③と④は検査でわかるのだ。

多くの癌は症状がない。症状が出にくいという意味では、癌ほど「身体に優しい」病気はない。典型的な癌の症状は、死が追ってからようやく出る。だから①がない患者は多い。もともと症状が出にくい癌だから、どんな治療をしても楽になったとは感じられないのだ。

患者が自分で①と②とを比べても、①がないなら治療を受ける気は起きない。だから、②の副作用が少ない治療が良いと考えがちだ。これは間違いではない。副作用がないにこしたことはないからだ。

ただ治療の目的は、③である。そうだとすれば、たとえ副作用があっても、副作用の大きさよりも大きな成果があれば「良い治療」になる。

①+③が②+④より大きいなら、良い治療である。

だから患者は③も知る必要がある。取材などで、なぜ日本でまともな抗癌剤治療が行われていないのかと聞かれることがある。「自分の病気がどんなものかも知らない患者が、抗癌剤治療など受けられるわけがない」と私は言い続けている。

治療の目的のどれを選択するのか

抗癌剤治療の種類には二つある。

一つ目は、3cm、5cmなど、目で確かめることができる大きさの癌へ、抗癌剤によっては小さくする治療法で、目に見える大きさなので、効果は目で見てわかる。

二つ目は、再発を抑えるための重要な療法で補助抗癌剤治療という。

手術後にも残っているかもしれない、目に見えない癌に対する治療である。癌治療の目安は5年間再発しないで生きていることで、5年間で再発しなければ完治したと考えられる。ただし乳癌では20年間となっている。

私は、癌治療の目的として

①癌の治癒(完治のこと)

②広い意味での延命、つまり一日でも長く元気な日常生活を送る

③症状の緩和

三つを挙げ、どれをめざすのかは、癌の種類、進行度、患者の価値観、その他の状況で選択する。

「適量」は患者によって、まったく違う

薬の治療は、手術の「やるか、やらないか」の二者択一とちがって、間に無数の選択肢がある。たとえば「半分の薬量を試す」こともそうである。

通常、抗癌剤の量は患者の体表面積で決める医者が多い。だから電卓を叩いて薬の量を決め、「基準量」の治療をしようとする。そのほうが科学的治療の薫りもする。でも抗癌剤の適量には「体表面積に比例」以上の要因がある。

そもそも抗癌剤の適量には「個人差」があり、患者によって約10倍もの開きがあると思ってよい。抗癌剤の「基準量」は、多数の患者の平均値に過ぎない。計算した薬量に、絶対的根拠があるわけではないのだ。半量を投与してみることは日和見主義ではないのだ。

胆嚢癌が再発した杉浦和子さん」(仮名、42歳)は、地元の病院から、もう治療法がないと告げられた。2001年7月から私が抗癌剤治療を続けているが、治療内容は、その後の一年間の間に以下のように変わった。

①5FU+LV ②ジェムザール ③ジェムザール+イリノテカン ④ジェムザール+イリノテカン+シスプラチン ⑤TS-1+シスプラチン ⑥イリノテカン

杉浦さんに使う薬が次々と変わるのは、治療の効果が長く続かないからだ。

どんな抗癌剤も、永久に続けるということはまずない。「薬剤耐性」という抗癌剤のやっかいな性質が大きな課題である。ずっと効き続けることなんて、極めてまれで、早ければ一ヵ月、長くても二年間程度で、その患者の癌に効かなくなってしまうのだ。

杉浦さんの場合も、効果が減ればすぐに薬を変える。薬の種類だけでなく、毎回のように薬の量を変えている。杉浦さん個人の「適量」を探すためだ。

一年間の治療で一貫しているのは、杉浦さんの抗癌剤の適量が一般よりも常に少ないことである。⑥イリノテカンの治療も、「基準量」の5分の1で、これで癌の成長は止まっているのだ。もし杉浦さんに「基準量」を使えば、強い骨髄抑制が出て、白血球が減少し、副作用死する可能性もある。

逆に誰にでも、杉浦さんのように規準の5分の1の抗癌剤の量で効くなら、「5分の1」が基準量になっているはずだ。それでも、「少ない量で効く人もいるから、試してみる価値はある」ことは事実で、あくまで個々の患者に試しながら適量を探すしかない。

抗癌剤治療の現実―癌難民はどこへ行くのか

学会を支配する「癌の縮小至上主義」

世間で行われている抗癌剤治療は「癌の縮小至上主義」をめざしている。「癌が縮小しなければ、抗癌剤治療の意味はない」と考えているのだ。

たしかに、縮小しないよりは縮小したほうがいいに決まっているが、私はこの「縮小至上主義」には賛同しない。癌の「休眠」という方法もある。「休眠」には世間に大きな誤解がある。

休眠療法は特別な抗癌剤治療ではなく、行なうことは通常の抗癌剤治療だが、治療の目標を「癌の縮小」に置くのではなく、「癌の成長の横ばい」に置くという概念的なものである。治療を行なう患者や医者の心構えと言っても良い。

「癌の休眠」という考え方に対して、私は抗癌剤治療における「評価」の重要性を強調している。「休眠」も「評価」も「癌の縮小至上主義」とは異なる考え方である。

休眠療法は「目的」ではなく「結果」だと考えればわかりやすいかもしれない。癌が縮小することを目標に治療するのではなく、結果的に癌が成長しなければ成功と考えて、治療を続行するのである。つまり「癌の縮小至上主義」に対するアンチテーゼだ。仮に無理なく癌が縮小するなら、もちろん「休眠」より良い結果である。

休眠療法とは、癌細胞の消滅と生成のバランスがとれている「結果」を言っているのであって、休眠させる特別な治療があるわけではない。副作用が容認できる範囲なら、縮小しないより縮小するほうが良いに決まっている。

金田芳子さん(仮名、68歳)は、胆嚢癌が肝臓の六割に転移していた。某県立がんセンターの医者に勧められたホスピスに行っていれば、今ごろは肝不全で亡くなっていたことだろう。

金田さんの場合、私の治療目的は癌を縮小させることだった。一ヵ月あまりの治療で癌の95%をなくすことができた。

私は前述の杉浦さんの場合にも、癌を極端に小さくすることを目標にしていなかった。最初からできれば「休眠」で充分だと思っていた。だが金田さんの巨大癌は、「休眠」を目標にするには大きすぎたので、癌の縮小に懸命になった。

今では癌が小さくなって、癌の位置を示すことも難しくなって、抗癌剤の量も減らしている。今度は、癌が「休眠」していてくれればよいのである。

胆嚢癌と胆管癌を合わせて胆道癌という。手強い癌だ。

私は2002年(平成14)の一年間で四人の再発した胆道癌を治療している。そのうちひとりは残念ながら亡くなった。残り三人は、仕事のかたわら癌の治療を続けている。そんなひとりに鍋島孝夫さん(63歳)がいる。

手術を受けたが一年後に癌が再発した。いったん再発した胆道癌を治すなんて難しいから、最初から治療を諦める医者は珍しくない。都内某医大病院の主治医は「もう治療はない」と鍋島さんに最後通牒を出した。

鍋島さんは「このまま終わりたくない」と思い、私を訪ねてきた。

鍋島さんの腹部CTでみると、癌性腹膜炎で溜まった腹水で灰色になっている。画面中央に胆管癌の再発がある。太く白い筋が上腸間膜動脈という血管で、その左側に灰色に写った塊が癌の再発である。癌は動脈に密着している。別な部分を切った写真にも、動脈にまとわりつく癌が写っている。

それから約二年後に撮ったCT写真では、腹水はなくなっているものの、癌の大きさはほとんど変わらない。

癌を知らない人は、鍋島さんのCTを見て、「二年も治療を続けて、癌は何も変わらないのか」と不満に思うかもしれない。「縮小至上主義」が支配する抗癌剤治療の学会に報告すれば、癌の激減した金田さんの治療は評価されるだろう。だが、癌の大きさが変わらない鍋島さんは「治療無効例」扱いになる。

でも、鍋島さんは治療に満足している。鍋島さんの癌が縮小しないからといって、別に私は鍋島さんの治療を手抜きしているわけではない。都内某医大病院を訪れれば、元気な鍋島さんは幽霊と間違われるに違いない。腫瘍マーカーのCEAは二年間で、15→8とゆっくり減少している。成長の速い胆道癌なのに、治療が元気な日常生活をもたらしてきたのだ。

このように「癌が大きくならなければよい」という場合もある。もっと言えば手強い癌なら少しずつ大きくなる治療でさえ、ありうる戦略なのだ。

癌は三週間から二ヵ月で二倍に成長する。治療の成果で、たとえば「半年で二倍に増殖」になれば、成長速度は良性腫瘍と変わらない。

ただし、気をつけることがある。癌の成長速度は厳密に計算すべきである。検査をおこたると、取り返しのつかないことになる。「癌との共存」という言葉は、世の中で安易に使われすぎている。「共存」というからには、厳密な評価が欠かせない。早すぎる臨終が近づいた時にはじめて「共存」でなかったことを悔いても仕方がない。

もう一つ、どんな抗癌剤もいつかは効かなくなる。用意された薬の数が寿命を決め、治療法は多いにかぎる。

都内の癌専門病院で、イリノテカンを毎週250㎎受けていた患者が私のところに逃げてきた。抗癌剤の投与は、5回しか我慢できなかった。

その時の医者は、「これを続けなければ、命はない」などと脅したらしい。主治医はきっと「癌の縮小至上主義」の医学者だったのだろう。毎週、四日間は嘔吐が続いたという。結局、総薬量はたった1250㎎で治療は終わった。

それだけではない。前の病院では、抗癌剤の点滴ボトルに決まってオレンジ色の袋をかぶせたそうだ。患者はそれ以来、街でオレンジ色を見るたびに吐き気をもよおすようになった。「抗癌剤トラウマ」とも呼ぶべき、医原性精神疾患に罹ってしまった。

この患者はいまは「バランスの抗癌剤治療」による成果に、満足している。ただし、オレンジ色の物だけは病室に置かないように注意している。

承認されていない抗癌剤

ニューヨーク在住の山田桂子さん(仮名、61歳)が、私を訪れてきた。

山田さんは病気知らずで健康診断など受けたこともなかったが、おなかが痛くなりニューヨークのクリニックで胃カメラの検査を受けたが異常はなかったそうだ。しかし、痛みがおさまらないので、ついにCT検査を受けた。膵臓癌だった。

膵臓の中央に黒っぽい小さな塊が写った。コロンビア大学で腹腔鏡を使って調べたら、肝臓や腹膜にも小さな転移が見つかった。この時点での手術は意味がないから、抗癌剤を勧められた。

山田さんは、長期の抗癌剤治療を受けるなら日本でと思って帰国し、東京のある大学病院に入院した。ところが、膵臓癌の第一選択薬「ジェムザール」がこの大学病院にない。主治医からも薬を使ったことがないといわれた。ジェムザールのない病院で、膵臓癌の治療など出来るわけがない。

実は医者も、どこの病院にどんな薬が用意されているのか知らない。まして「膵臓癌の治療薬がある病院」の一覧なんて見たこともない。薬がすべての病院にあるわけではない。

日本では年間に約二万人が膵臓癌になる。山田さんはいったい何のために日本に戻って、日本で受けられない、膵臓癌という病気の治療をしようとするのか。

安全第一の日本は新薬の承認作業は遅い。

膵臓癌が再発した新山義昭さん(61歳)が、広島から私のもとにやってきた。広島のどこを探しても、ジェムザールで治療してくれる病院がなかったからだ。厚生労働省がこの薬を承認していなかったこともある。

新山さんは、ジェムザールを承認しない政府は、生存権を侵害しているとして、突如署名活動をはじめた。五万人の署名を集めて、当時の坂口力厚生労働大臣に提出したのである。

その甲斐あってか、2001年4月に日本でも膵臓癌にジェムザールが堂々と使えるようになった。ジェムザールは新山さんの膵臓癌を抑え続けている。

日本の膵臓癌の治療は前進したはずなのに、山田さんは治療が受けられない。もちろん探せば、日本にも山田さんを治療してくれる病院はたくさんあるはずだ。でも膵臓癌の治療は急ぐ。病院をあちこち探すくらいなら、コロンビア大学に戻った方が早い。

山田さんは、もう一ヵ月以上も無駄に過ごしている。膵臓癌は、診断がついて三ヵ月以内に患者の半数が死亡するのだ。それに癌が進行すれば、効く薬も効かなくなる。山田さんをアメリカに追い返すことなどできないから、私が山田さんを治療することにした。

人がいない、お金がない、薬がない

医学を東洋医学と西洋医学に分けるやり方は、良い分類ではない。たとえば抗癌剤のイリノテカンやカペシタビン、オキサリプラチンなどは東洋人である日本人が発明した薬である。東洋医学の優れた産物と誇ってよい。

ところがイリノテカンは、日本より欧米で重用されている。カペシタビン(2003年発売)やオキサリプラチン(2005年発売)に至っては、今でも日本では販売されていない。東洋人のつくった薬を東洋人が使えない。日本人が使いたい場合は、わざわざ逆輸入しないといけないのである。

癌ほどありふれた成人病はない。日本では、年間に30万人近い人が癌で亡くなっている。日本人の三人に一人が癌で亡くなる計算だ。もちろん癌が完治する人は多い。でも日本の問題は、完治しない人に対する医療の貧困である。

手術治療の、高い成績レベルに比べると、「日本に抗癌剤治療はない」といっても言い過ぎではない。私はそれを「人がいない、お金がない、薬がない」と総括している。

アメリカには抗癌剤治療の専門家の医者が4000人以上もいるのだが、日本に何人いるだろうか。白血病などの治療をする血液内科を除けば、数えるほどしかいない。数人ではないにしても、全国にせいぜい数十人である。大半は新薬の治験に追われている。

抗癌剤治療の技術料はタダ

それでも、自分の専門を越えて熱心に抗癌剤治療と取り組んでいる医者がいる。

あちこちの病院で、人目を忍ぶようにひっそりと治療に当たっている。ひっそりと影を薄くしているのには、以下のような理由がある。

ある病院の事務長に訊ねてみた。

「患者が支払っている抗癌剤の治療費の内訳は、どうなっているのですか」

「ほとんどが薬代ですね」と、事務長は無表情に答える。

「点滴をするわけだから、薬代だけではないでしょう?」

「手術や検査のような、医者の技術料はいくらですか」

「技術料は、ないです」

「えっ?」私は聞き返した。

どうせ日本の医療の技術料に対する評価は小額だろう、だから医者は仕事の代価なんて知らない。だが、薬は単なる「道具」であるはずだ。手術道具が勝手に手術するわけではないように、薬が患者を治療するわけではない。医療の価格はすべて行政が決めているが、タダとは予想外だった。

事務長の返事は「技術料はないんですよ」と私にちょっと同情してくれていた。

あまり私が驚くものだから、「実際には問屋と交渉して、薬代を5%から15%くらいは値引きしてもらい、差益を出しています。消費税は病因持ちなので、5%の値引きがないと逆鞘になってしまうんですよ。この程度の値引きは抗癌剤に限りません」と事務長は言う。

少しの慰めにもならない。薬に多少の差益があったとしても、技術料はないのだ。医療経済上、日本に抗癌剤治療は存在しない。

患者は毎回、高いお金を病院の会計で払う。でも抗癌剤治療の場合、病院の会計窓口は製薬会社の料金徴収を代行しているようなものだ。お金のほとんどは、病院を通過して製薬会社に流れているのだ。「内服薬の場合は処方箋料が病院の収入になりますが、点滴の抗癌剤ではそれもないですね」と、事務長は私にダメを押してくれた。これも日本の厳しい掟なのだ。

自分が手術をした患者には充分なアフターサービスもできるが、よその病院で手術を受けた人の無料治療はやりづらい。これこそ癌難民発生の理由である。病院は「無料サービスだけ」の患者には、治療法はないと言う場面も多くなる。アメリカでは、薬代の倍くらいが技術料として病院の収入になっている。

「日本では技術料はタダだから、抗癌剤の量を間違えて、患者が亡くなっても医者に責任はない」などと暴言を吐くつもりは毛頭ない。医者は「無料の技術料」のために働いているわけではないからだ。

「タダはあんまりだから、技術料くらいは払おう」という人がいるかもしれない。でもこれは違法である。医療にエクストラ・チャージは認められないのだ。

製薬会社のアストラゼネカが肺癌の新薬イレッサを発売した。患者の足元を見るように、一錠9000円と超高額である。考える余裕が残されていない患者は、これを毎日飲み続ける。これではいかがわしい免疫療法や健康食品と変わらない。

私は製薬会社に文句を言った。「副作用の少なさを考えますと、このくらいの値段は……」と答えるから、私は怒った。

抗癌剤治療の技術料がゼロ円の日本で、医者に返す言葉ではないだろう。

抗癌剤は本当に恐いのか?

私と雑談をしていた人が、「抗癌剤って、聞いただけでも恐いですね」と、いきなり言った。私は、「いやぁ、手術と同じですよ。手術だって、恐いイメージがあるでしょう?」と、答えようかと思ったが、人を切るメスも、もともとは凶器である。外科医が使う場合に限って、道具になる。で、私は黙ってしまった。

「薬」という言葉には、聞いただけでも何か効いてくるような、和みの響きがある。「百薬の長」などの言葉は、良い例だ。抗癌剤も薬の一つではあるのだが。多くの人は、抗癌剤にぞっとするイメージしか抱かないのかもしれない。「たしかに抗癌剤には恐いイメージがありますが、癌はもっと恐いですよ」と答えてもよいが、これも説得力がない。

「抗癌剤の副作用がひどい」というのもあとを絶たない。でも「ひどい副作用」の多くは、抗癌剤を使う「匙加減」に問題がある。抗癌剤のせいにするのは、濡れ衣だ。

日本の手術は、世界一と言ってもいいくらい安全だ。2003年5月、初めて生体肝移植でドナー(肝臓提供者)の手術死が報じられた。これがニュースになる国である。2000例以上も生体肝移植で手術死を出さなかったハイレベルの国は、日本の他にはない。

癌の手術も、抗癌剤より安全なくらいである。皮肉にも、安全な日本の手術が抗癌剤の危険性を際立たせている。

抗癌剤治療の「五つの壁」

新聞社系の週刊誌の取材に応じて、私は「日本の抗癌剤治療には、制度上『五つの壁』があります」と以前未承認の問題を取り上げた。

この週刊誌は私の患者、笠松ユキさんの話を誤った事実とともに紹介している。私は「笠松さんには、まだ未承認薬を使っていません。国立のがん専門病院でホスピス行きを勧められた笠松さんに、承認薬だけで九ヵ月治療を続けています。笠松さんに限れば『超高額医療費』は当たっていません」と話した。

日本には五つの壁がある。

第一の壁は「新薬の承認」である。未承認薬を使う医者は、「何が起きても、全責任を負います」という誓約書を、厚生労働大臣に提出しないといけない。患者も医療費が全額自己負担になる。

第二の壁は「日本に存在するが、使えない抗癌剤」があるのだ。

某県立がんセンターで乳癌の抗癌剤治療を受けていた患者が、主治医に、「もう治療法はない」と言われた。同じ病院内の執刀医に相談すると、「これは内緒にしてください」と言って、ナベルビンという抗癌剤を使ってくれた。

この「内緒の薬」は良く効くし、副作用も少ない。それでも看護師までが、「この薬は肺癌の薬で、乳癌の患者に使うのは初めて」というので、患者は不安になって私を訪ねてきたのである。

ナベルビンは肺癌だけでなく、乳癌にも良く効く。国際的な常識である。でも日本では、肺癌にしか使えない。そういう厳しい掟なのだ。医者がナベルビンを乳癌の治療に使えば、「薬の乱用」と批難される。膵臓癌や胆道癌になると「乱用」しなければ、とてもまともな治療などできない。

第三の壁は「その病院に抗癌剤がない」ということだ。すべての病院にすべての薬があるわけではない。薬物治療も人間が治療をする。

薬が病院にないということは、その薬を使える人間が病院にいないということだ。胃癌の第一選択薬TS-1の治療を受けるために苦労した九州のある患者の例を書いたように、第一選択薬もなく、胃癌の治療をしている病院が、日本にはたくさんある。

第四の壁は、前述したが「抗癌剤治療の技術料や手間賃が無料」ということだ。私は次の第五の壁を話すことができなかった。その別の週刊誌は、私を「患者一人ひとりの症状に合わせた抗癌剤治療で知られる医師」と紹介した。誰でも医者は凝った治療をしたい。でも「抗癌剤治療の技術料や手間賃が無料」では、手間暇かける治療は難しい。

優れた抗癌剤治療をしている医者は全国にたくさんいる。おそらく数百人はいるだろう。でも抗癌剤治療は無料だから、医者は周囲の目を気にしながら、ほそぼそと秘かに医療をしている。良い抗癌剤治療の噂を聞き付けた患者が集まれば、その病院は財政的に逼迫するからだ。「この治療は内緒にしてください」とでも釘を刺して、自分が手術した患者だけに良い抗癌剤治療を行なう。同じ医者が「一見さん」に対しては、「どこの病院で治療を受けても同じです」と噓を言わないといけない。

世の中の人は抗癌剤治療が無料だとは知らない。現に病院の窓口で抗癌剤治療のたびにたくさんのお金を払っている。ただし、それがほとんどすべて製薬会社の取り分だとは気づいていない。良い抗癌剤治療を受けようと思う患者は、「内緒の治療」を広い日本の中から探し出さないといけない。これが第五の壁である。

やっとはじまった混合診療改正の動き

大腸癌の患者が亡くなると、私はいつもオキサリプラチンを輸入すべきではないのかと迷う。しかし、それは必ず「新しい問題」を生む。

中田さんの御主人は、優れた薬の研究者なのかもしれない。でも薬の臨床的な優劣までは知りえない。彼がオキサリプラチンの存在を知っていたなら、そしてその価値を知っていたなら、薬の合成に時間を費やすことなどなかったはずだ。中田さんのそばを離れることもなかったはずだ。情報を伝えなかった私に責任はないのか。

中田さんが亡くなってしばらくして、私は一線を越えて、輸入をはじめる決心をした。

『サンデープロジェクト』(テレビ朝日系)に、私とともに患者たちが出た。オキサリプラチンなど新しい抗癌剤を早く承認するよう活動している人たちだ。

外国から新薬を輸入して使うことは、実は簡単な手続きで可能である。欧州の薬でも、医者が注文すれば一週間で手に入る。負担といえば、せいぜい厚生労働大臣に医者が「全責任を負います」と誓約書を書くことくらいである。

ではなぜ、テレビに出た患者たちは銀座で署名活動までしているのか。

お金である。オキサリプラチン一本50,000円の薬代をどうすればよいのか。保険はきかない。誰が薬代を出すのか。患者が薬代だけを負担することもできない。それは病院の違法行為になる。保険医療に自費は許されない。朝日新聞の大好きな罪名「混合診療」だ。

薬を輸入するたびに役所に届けを出すのだから、そんな「違法行為」はすぐにバレてしまう。合法的に輸入薬を使うには、薬以外のすべての医療費を全額本人負担とする「自由診療」しかないのである。でも、これが私の心配した「新しい問題」ではない。

自由診療の莫大な医療費を何とか捻出して元気になる人の隣のベッドに、オキサリプラチンを使えない人がいる。その人に、「どうして自由診療でなければ使えないのか」と聞かれれば、私は今の医療制度をいくらでも説明できる。私に詰め寄った患者は、無念な思いで諦めるしかないのである。この残酷さをわかっていたから、私は長い間迷っていたのだ。

自由診療であろうと混合診療であろうと、患者の負担が大きいことに変わりはない。これに比べれば医療負担が二割か三割かなんて、些細な問題だ。どうしてこんな事態が起きているのか。『サンデープロジェクト』も、そこまでは踏み込んでいない。

最近になって、「自由診療+保険診療」の混合診療になれば、保険診療を取り消されるということが問題にされはじめた。このことが国会を通過するまでには、気の遠くなる時間を要することだろう。国会議員が癌患者になって、現実を体験すれば早期解決すると思われるのだが……。でも本当の問題は、新薬の承認が日本で遅いことになる。

あとがき

最近、癌の話、特に抗癌剤の話がさかんにマスメディアで注目されるようになった。確かに癌の患者は増えているし、癌で亡くなる人が日本人の死因の第一位を占めている。でも癌が死因の一位であることは、実は1980年からもう25年も変わらない不動の事実なのである。

最近大きく変わったのは、癌が患者自らの口で語られるようになったことである。昔の患者は特に進行癌の場合、闇から闇に葬り去られるように亡くなっていた。転移性肺癌は肺炎、転移性肝臓癌は肝炎と告げられ、患者は最後まで「もう少し頑張れば良くなる」と騙され続けて亡くなっていた。患者に癌とわかってしまう放射線治療や抗癌剤治療など、検討されることもなかったのである。

「元気な日を一日でも長く」という、進行癌に対するベストの治療を訴え続けてきた著者として、ようやくその環境が日本にできはじめたという楽観がある。「呑気な感慨だ」と批判されても、「問題がある」と騒がれること自体は大変な前進なのである。昔は「大問題があると大声で叫んでも、誰も振り返る人がいなかったのだから。

もう一つ、抗癌剤が話題になる大きな理由がある。ここ10年、加速度的に新しい抗癌剤が揃ってきたのである。10年前は、たとえば大腸癌や肺癌、胃癌は抗癌剤が効かない癌の代表のように言われていた。今はそうではない。手の施しようのない本当の「末期癌」の領域は、かなり狭くなってきたのである。一人でも多くの人がその恩恵を受けられるよう、この本を著した。

本書は「週刊現代」(講談社)に連載中の『読む抗ガン剤』の2002年10月~2004年12月の分に加筆して、まとめたものである。~以下省略。

がんと自然治癒力2

これは「がんと自然治癒力1」の続きですが、今回は「日本のがん医療を問う」という2005年12月に発行された、NHKがん特別取材班による本が題材です。自然治癒力とは直接関係ないのですが、まずは「がんを知ろう」ということで進めています。

 

発行:2005年12月

出版:新潮社

最も知りたかったのは、下のグラフのその後、2003年位以降のデータです。

 

画像出展:「がんは治療困難な特別な病気ではありません!」

参考とさせて頂いたのは、「がん情報サービス」さまです。

日本については2016年まで上昇続けていることが確認できました。死亡率が高い「男性」を見てみると、人口10万人に対する人数は、1958年はおよそ100人だったのが、2016年は350人を超え、約3.5倍にまで増えています

一方、米国については「CA:A Cancer Journal for Clinicians」で調べることができました。

DISCLOSURESの下にSECTIONSがあり、その右側にあるPDFをクリック頂くと「Cancer Statistics, 2018」が表示され、12ページ上段にグラフが掲載されています。

こちらも「男性」が多くなっています。1958年付近を見るとおよそ220人程ですが、2015年には200人を割っているようです。

この2つのグラフにより「男性」については、日本では上がり続け、米国では1990年頃をピークに下がり続けていることが確認できました。そして、1958年からの約60年間で、日本では約3.5倍に増え、米国では減っているという衝撃的な事実も明らかになりました。

日本は世界で最も高齢化が急速に進んでいる国です。そのため、がんの増減についてはその点を考慮する必要があるとされています。この点について、「米国はどうなんだろう?」という疑問から検索してみると、内閣府のサイトに良い情報がありました。 

グラフの直下をクリック頂くと、詳細な数値が確認できるExcel(CSV形式)の表もダウンロードできます。

このグラフによると日本の高齢化率は26.6%でトップです。一方、米国の高齢化率は14.8%と日本の半分に近い数値ではあるものの、やはり高齢化の問題を抱えています。これは医療が進歩し続けているということを考えると必然だろうと思います。

以上のことから、日米の高齢化の違いを考慮しても3.5倍に増えた日本減っている米国には極めて大きな差があると言えます。(女性の違いは更に大きなものとなっています)

この事実を踏まえ、「日本のがん医療を問う」を拝読しました。大変興味深い内容で、どうまとめたら良いのか悩みましたが、日米の比較という視点なども必要と思い、章の順番にはあまりこだわらず、特に重要と思った箇所の中味を充実するように意識しました。

目次

プロローグ

第一章 命をつなぐ世界標準薬が使えない

 命をつなぐ未承認薬

 世界標準薬が使えない

 引き継がれた命の訴え

 混合診療をめぐる攻防

 ついに承認されたオキサリプラチン

 患者の声ががん医療を変える 

第二章 揺らぐがん検診

 誰が見落としたんだ!

 検診はがんを見つかられるのか?

 差が大きい検診レベル

 抽選も現れた自治体の集団検診

 予算が足りない

第三章 相次ぐ放射線治療事故

 急速に広がる放射線治療

 極端に少ない専門医

 各地で相次ぐ放射線照射ミス

 疎かだった治療機器の点検

 事故にさえ気づかない病院も?

第四章 病院で差がつく生存率

 増え続けるがん難民たち

 乳房を切る必要はなかったのに……

 まかり通る時代遅れの治療法

 病院で差がつく生存率

 受診曜日で違う乳房の温存率

 専門医制度をめぐる学会の争い

 患者不在の論争

第五章 「救える命を救う」アメリカのがん医療

 認定が厳格な抗がん剤専門医

 患者を支えるハイレベルなチーム医療

 病院の質を監視する「がん医療の番人」

第六章 がん死亡率は下げられる

 がん征圧は国家事業

 戦略の決め手「がん登録」

 問題山積の日本の登録制度

 がんサバイバーが国を動かす

 検診を後押しする米国保険会社

 国は検診普及で得をする

 受診無料の禁煙治療

 若者からたばこを取り上げろ

エピローグ

1.抗がん剤治療の副作用

●抗がん剤治療は病院あるいは医師によって副作用は同じではない。優秀な医師による抗がん剤治療では、苦薬の量や組み合わせをきめ細かく変えていく。これは最小の副作用で最大の効果を上げるため。また、患者さまが納得して治療を受けることを大切にしている。

2.未承認薬を使うと高額の治療費がかかる

クリックして頂くと、「国内で薬事法上未承認・適応外である医薬品について」というページが表示されます。表の他に下部には「関連ファイル」というボックスがあり、未承認・適応外の最新資料(2018年5月版)が置かれています。


上左図:未承認薬および適応外薬は2015年以降、特に増えています。これは米国・欧州の抗がん剤開発のスピードに日本の認可の体制がついていけていないということではないでしょうか。

上右図:「関連ファイル」に置かれている最新版(2018年5月)を調べてみると、月額の薬剤費は10万円未満が3件(2.6%)、10万円以上50万円未満が19件(16.6%)。50万円以上が全体の80.8%となっており、患者さまの費用預担は厳しいものとなっています。

また、月額が500万円を超える超高額な薬剤も少なくないという印象です。 

がん保険では未承認薬の使用にも保険がおりる?

こちらは、三原由紀さまというFP(ファイナンシャル・プランナー)の方が執筆された記事です。ここには次のようなことが書かれています。

『がん保険の[実費補償タイプ]は、高価な薬剤を使用し自由診療を行なった際の治療費をカバーすることができます。』ただし、無制限ではないので十分にチェックする必要があるようです。

3.混合診療

1)「混合診療」とは

公的な保険の適用を受ける保険診療と、適用を受けない自由診療を併用した診療。原則として禁止され、自由診療を併用した場合、保険適用を受ける部分も全額自己負担となる』(大辞林第三版の解説)

まず、患者さまの訴え(「引き継がれた命の訴え」)をご紹介します。

『私が延命すれば預金が減っていきます。私が死んだ後、家内や家族は誰が面倒を見てくれるんでしょうか。

家庭崩壊寸前なんですよ。家族は私のことを思って「ほんとに未承認薬を使っていいのよ」って言いますけども、私が死んだあとに家族に預金はない。そういうのが目に見えていますよ。

それを解決していくのは、混合診療しかないんですよ。混合診療を進めていただいて、少なくともこれまで(保険を)使っていた部分を保険診療にしていただく。そして未承認薬の部分はしょうがないから自費で払いましょう、緊急避難的に。近い将来、(薬を)認可してほしいんですけども、とりあえずこんな、ほんとに家庭崩壊寸前のような状態から脱却させてほしいのです。

私が言いたいのは混合診療(解禁)を突破口に、日本のがん医療を変えるために、やらなきゃだめなんですよ、どんなことがあっても。以上です。』

2)2003年6月の日本医師会の見解

~混合診療の意味するものと危険性~ 2003年6月 日本医師会

日本医師会は、混合診療の容認に反対します!』という立場をとっていました。

3)患者申出療養 2016年4月スタート

こちらは、「患者申出療養の概要について」というページです。

『はじめに』の中に『いわゆる「混合診療」を無制限に解禁するものではなく』との記述があり、この「患者申出療養」とは実質、「混合診療」の一部解禁であることが分かります。

また、『厚生労働大臣の定める「患者申出療養」とは』には次のような説明がされています。

未承認薬等を迅速に保険外併用療養として使用したいという困難な病気と闘う患者の思いに応えるため、患者からの申出を起点とする新たな仕組みとして創設されました。 将来的に保険適用につなげるためのデータ、科学的根拠を集積することを目的としています。

なお、下記の[患者申出療養がスタート]のダウンロードボタンは最下部にあります。


このページのほぼ中段に「臨床研究中核病院及び特定機能病院に係る患者申出療養相談窓口設置状況一覧表」というものがあり、そこをクリックして頂くと、全国にある「患者申出療養相談窓口設置病院一覧(79病院)」と「患者申出療養相談窓口設置予定病院一覧(6病院)」が確認できます。

既にサービスを提供している埼玉県の病院は、埼玉医科大学病院 臨床研究センター内 患者申出療養制度相談窓口 049-276-1354 の1つですが、東京都には16の病院があります。

米国の場合は、「混合診療」とは抜本的に異なる「統合医療」という流れが既に浸透しています。

これについては、最後にスライドで補足させて頂きます。

画像出展:「がん治療の最前線」


4.日本で抗がん剤の臨床試験が遅い主な理由

抗がん剤の専門家である腫瘍内科医が非常に少ない。

「日本のがん医療を問う」発行から約13年たった今の実状はどうなのか、まずは日本でもトップクラスの大学病院を調べてみました。

参考にさせて頂いたのは、「医学部受験マニュアル」さまに出ていた上位10校とし、各大学の病院のホームぺージで情報収集を行いました。

なかには、名古屋大学医学部附属病院さまのように「血液内科」、「小児がん治療センター」、「化学療法部」と複数お持ちの病院もありました。名称を列挙すると、「腫瘍内科」が2病院、「血液・腫瘍内科」が3病院、「腫瘍・血液内科」が1病院、「血液・腫瘍・心血管内科」が1病院、「血液内科」が2病院、「腫瘍センター」が2病院、「小児がん治療センター」が1病院、「化学療法部」が1病院となっており、10大学病院すべてにありました。

また、開設時期は概ね2009年から2014年の間であるように思われます。従いまして、日本でのがん治療の本格的普及を「腫瘍内科医」の普及と重ねるならば、その時期は2009年が一つの目安になるのではないかと思います。なお、2009年は本書の発行後約4年というところです。

腫瘍内科医育成の課題は専門医制度にあるとされています。この問題は日本のがん医療の根幹にかかわる、構造的かつ最大の問題ではないかと思います。そこで、大変長くなってしまうのですが、第四章にある「専門医制度をめぐる学会の争い」と「患者不在の論争」を全文ご紹介させて頂きます。

「専門医制度をめぐる学会の争い」

『医局の問題だけにとどまらず、学会同士の争いも表面化している。

抗がん剤の使い方に精通した専門医・腫瘍内科医。その認定制度を新たに設けることをめぐって、内科系の学会と外科系の学会がしのぎを削る状態になったのだ。

専門医の必要性が、それほどまで真剣に議論されるようになった背景には、医療事故の多発がある。

~中略(医療事故の話が書かれています)~

患者の間から専門の腫瘍内科を育成するよう求める声が高まった。

医学界でも、抗がん剤の専門医を育成しなければ国際レベルのがん医療が提供できないという危機感が強まっていた。

2002年、内科系の医師が中心になって、日本臨床腫瘍学会が発足した。抗がん剤による治療を効果的に、そして安全に行う医師を数多く育てる必要があるとして、当初から腫瘍内科医の認定制度の確立を目標に掲げた。

初代理事長に就任したのは、国立がんセンター中央病院薬物療法部の西條長宏部長(当時・国立がんセンター東病院副院長)だった。西條理事長は学会のホームページをはじめ様々なメディアを通じて、「既存の学会で行われてきた研究報告は、がん治療の向上に何の役にも立ってこなかった」と痛烈な批判を繰り返し、新しい学会による教育システムが必要だと訴えた。

発足翌年の夏、東京・築地の国立がんセンターに程近いホールで、初めての教育セミナーが開催された。若手を中心に、全国からおよそ300人の医師が集まって会場は満員となり、新しい学会に対する期待をうかがわせた。

「日本臨床腫瘍学会の目指すところ」と題して講演した西條理事長は、「既存の学会の研究報告は、単なる治療と治療法を確立するための臨床試験を混同した、経験の寄せ集めに過ぎない」とこき下ろした。その上で「正しい臨床試験ができる体制が整わなければ、日本のがん医療は世界から取り残されてしまう」と、改革への思いを熱く語りかけた。西條理事長は日本のがん医療を、データによる根拠を積み重ねた医療にシフトし、欧米に負けない国際レベルの専門医を育成する方針を前面に打ち出した。

西條理事長は、大阪大学の故・山村雄一名誉教授に師事した。山村名誉教授は国のがん対策専門家会議の委員も務めた免疫学の大家だ。西條理事長は山村名誉教授から、「臓器単位でなく、患者全体として考えよ」と教え込まれた。この戒めが、西條理事長の現在の活動の原動力になった。

医学部の授業では、がんは臓器ごとに分かれた専門科目で少しずつ習う。しかし西條理事長は、転移をともなう全身病としてのがんを治療する医師を育てるためには、統一したカリキュラムの中で、がんについて教えなければならないと考えている。がんという病気を総合的に扱う教育が、日本の大学教育では決定的に不足している。その教育機能を臨床腫瘍学会が担っていかなければならない。それが西條理事長の目指すところだ。

もう一つ、西條理事長の考え方の直接的な源流となっているのは、今から30年近く前のアメリカでの研修だ。大阪大学から国立がんセンターの呼吸器内科グループに移って5年後のことだった。30代半ばだった西條理事長は、アメリカのがん医療の一大拠点であるテキサス州ヒューストンのM.D.アンダーソン病院(当時M.D.アンダーソンがんセンター)で、最先端の医療に接するチャンスを得た。

治療開発部門の研究員として10カ月間の短期留学だったが、西條理事長は研究の面での日米のレベルの差は感じなかったという。しかし、臨床試験を厳密に行い、データをもとによりよい治療法の開発を進める病院の方針に、日本との大きなレベルの開きを感じた。

M.D.アンダーソン病院では、ほぼ毎日、正午から2時間にわたってカンファレンスと呼ばれる検討会が開かれる。会議では、患者の治療に当たっている腫瘍内科の医師と、がん細胞や免疫機能について基礎的な実験をしている研究者たちが、臨床試験のデータをもとに活発に議論する。時には外科や放射線の医師、薬剤師なども参加する。

理事長は述懐する。日本では、それぞれの医師の治療経験を持ち寄って検討することはあっても、厳密に計画された臨書試験から治療の根拠を導き出し、それをもとに治療法の優劣を比較することは、当時はほとんど皆無だった。

十分な根拠もなく、個々の医師の裁量によって治療が行われている日本に、科学的な根拠をもとに治療方針を決める専門制度を根づかせたい。カンファレンスに毎回参加しながら、西條理事長は強く感じたという。

思いは熟成し、30年後、西條理事長は日本臨床腫瘍学会で専門医制度実現に向けて動き出す。

社会も専門医を求めていた。臨床腫瘍学会の運営が軌道に乗ったのと呼応するかのように、国の「対がん10カ年総合戦略」、それに続く「がん克服新10か年戦略」が終わりを迎えようとしていた。20年にわたる対がん戦略によって、日本は、発がんの仕組みなど基礎的な研究では世界のトップレベルになった。しかし、それが実際の治療にどこまで貢献したのかというと疑問だと指摘する声が上がったのだ。西條理事長はこの指摘は正しいと認めた。そして、国のがん対策の失敗の原因は、基礎と臨床の間をつなぐ専門医の不足にあると分析した。

西條理事長は、専門医を育てる制度を作るために、いっさいの妥協を排する姿勢を強めていった。そうして作られた臨床腫瘍学会の専門医制度は、医師の質を保つために非常に厳しい要件を定めている。

まず受験資格を得られるのは、5年以上がん治療に携わり、このうち学会の認定する病院で2年以上の研修を受けた医師に限られる。さらに、がん治療に関して3つ以上の論文を執筆し過去5年間に抗がん剤治療を受け持った患者30人分の症例報告も求められる。

これらの受験資格を満たした医師に対し、筆記と口頭からなる認定試験を行って、抗がん剤治療の十分な知識と技術があるかどうかを確かめる。

試験問題のベースとなるのは、学会が2005年6月に公表した「臨床腫瘍学会コアカリキュラム」だ。このカリキュラムは、専門医に必要な研修を盛り込んだアメリカとヨーロッパの臨床腫瘍学会の共通ガイドラインに沿ったものである。欧米と同じ基準で試験を行うことで、国際レベルの専門医を育てようという考えの現れと言える。

カリキュラムには、がん発生の仕組みや死亡統計の見方などの基礎的な知識をはじめ、様々ながんの標準的な治療法、副作用への対処の仕方、どのように臨床試験を行えば良いかという計画の作り方から終末期の患者への対応の仕方まで、専門医として習得すべき知識と技術が記されている。受験する医師は、このカリキュラムで学んだ内容について問われ、評価を受けるのだ。

まさに抗がん剤のスペシャリストにだけ専門医の資格を与えようという、日本臨床腫瘍学会の専門医制度。試験は2005年11月に一回目が行われ、2006年4月に専門医第一号が誕生する予定だ。

 

外科サイドでも、頻発する抗がん剤関連の事故への対応を迫られている。

抗がん剤を専門とする腫瘍内科医のいない日本では、外科医も、というより手術を終えた外科医が、その延長線上で抗がん剤を使用しているからだ。この10年あまりの間、新しい抗がん剤が相次いで開発されたのをはじめ、複数の抗がん剤を組み合わせる治療方法が発達し、副作用への対策も世界で飛躍的な進歩を遂げた。しかし、複雑化し高度化する抗がん剤治療を担っているのは、日本では今も外科医なのだ。

この状況を受けて、日本癌治療学会が専門医の育成に名のりを挙げた。癌治療学会は1963年に設立された学会で、14000人の会員の80%近くを外科系の医師が占める。

慶應義塾大学医学部長で、消化器外科が専門の北島政樹理事長は、30代半ばの頃、アメリカ東部のマサチューセッツ総合病院に留学し、これまでアメリカ外科学会やアメリカ消化器病学会の日本支部会長を歴任している。

最終的に目指しているがん医療は、臨床腫瘍学会の西條理事長と同様に、専門医が協力し合うアメリカ型のチーム医療だ。しかし、抗がん剤治療に精通した医師がほとんどいない日本の現実を考えると、がん治療の現場を担っている外科医を中心とした医師たちの底上げを図ることが第一だと考えている点で、西條理事長とは異なっていた。

がんの治療に携わる専門医は、手術だけでなく、抗がん剤や放射線など基本的な知識を幅広く身につけるべきというのが、癌治療学会の主張だ。

学会は、急速に増えているがん患者に対応するにはどれくらいの専門医が必要なのか試算を行った。もとになったのは2002年に厚生労働省が行った患者調査で、全国のがん患者を』128万人と推計している。学会は、この半数の64万人に抗がん剤治療が必要だと仮定し、ひとりの医師が1年間に抗がん剤で治療する患者を20人から50人と設定した。

その結果、必要な医師は12800人~32000人、中間をとっておよそ20000人とはじき出した。その上で、がん治療の質を確保するためには、できるだけ多くの医師に学会の審査を受けてもらい、専門医の資格を与える必要があるとした。

どの位のレベルの医師を対象にするのか、試験問題をどうするのかなどの重要な内容を決めないまま、癌治療学会は、申請に必要な資格や手続きを定めた規則と施行細則を1年足らずの間に次々と整備した。そして、次の総会のある2005年10月に認定試験を実施すると決めた。さらに専門医第一号の登録についても、臨床腫瘍学会より早い年明け早々とした。この決定に、学会の内部からさえ「急ぎすぎではないか」といった声があがった。

学会が、必要な専門医の数として会員数を超える数字を示したことも、患者やほかの学会の間に憶測を呼んだ。この専門医制度は、外科系の医師が今後も引き続き抗がん剤治療に当たることを保証するものではないかという見方が強まった。大急ぎとしか言いようのない制度設計のやり方が憶測に拍車をかけ、“既得権益の維持”を印象付ける結果となった。

日本臨床腫瘍学会の西條理事長は、自分の学会の専門医制度は癌治療学会のものとは一線を画すという姿勢を強調し、批判を繰り返した。

「現状追認の専門医制度は、患者にとっていかなる改善ももたらしません。我々は質の高い優れた専門医の育成を目指します。我々が作るのはエビデンス(根拠)のない治療を行う医師を救済するための専門医制度ではありません。養成する専門医の数を臨床腫瘍学会の会員数の3分の1程度に抑えることで、質の維持を図ります」

これに対し、癌治療学会の北島理事長が反論する。

「患者さんから切除したがん組織を使って、抗がん剤の効き目について研究してきたのは外科医ですし、患者の体で起きていることを最も熟知しているのも外科医です。現在、がん治療に携わって抗がん剤に慣れている外科医が、ある程度の資格審査を受けて治療をやらないと、患者さんにとって不幸なことになってしまいます。抗がん剤に詳しい腫瘍内科医がいるのであれば、外科医は手術だけに専念して抗がん剤治療は任せられます。しかし現実には、日本に腫瘍内科医はいないんです」

 

次の問題の「患者不在の論争」に移る前に、米国における腫瘍内科医になるためのプロセスをご紹介します。

なお、この内容は本書発行(2005年)当時のものになります。

『腫瘍内科医は、厳しい基準で認定される。アメリアで医師免許を取るためには、主に理科系の四年制大学を卒業した後に医科大学で4年間学び、州の試験に合格しなければならない。免許を取れば医師として患者を診察、治療することができるが、この時点ではまだ専門はない。専攻する科によって違うが、医師たちは3年から7年の研修医の間に、外科や内科などの専門分野で訓練を積み、外科医や内科医となる。

さらに、抗がん剤を専門とする腫瘍内科医になるためには、フェローシップと呼ばれる特別研修コースで2年間、学ぶことが求められる。腫瘍内科医を目指す医師たちは、ここでがんと抗がん剤についての集中治療を受ける。このほかに1年間、血液学のコースを修めることが多いという。腫瘍内科のフェローシップを終えると、医師たちは初めて、抗がん剤治療の専門医を名乗ることができる。学会による認定は必須ではないが、ほとんどの医師はフェローシップを終えた後、学会の試験を受けて認定を取る。』 

「患者不在の論争」

『二つの学会が、それぞれの専門医制度にこだわるのには訳があった。

がんの専門医制度をめぐっては、10年前に日本癌治療学会が検討を始めた。しかし、すでにほかの学会の専門医資格を持っている医師たちから「屋上屋を重ねるものだ」と反発が出て、2年後の理事会で否決された。

事態が大きく動き始めたのは2002年。日本臨床腫瘍学会が発足してからだった。

医療機関が広告することは、現在の日本では厳しく規制されているが、この年、一定の条件を満たした学会が認定する専門医については広告できるようになった。また、医療機関が行った手術件数によって、診療報酬の支払いに差をつける「施設基準」が導入された。医療事故が相次ぐ中、医師の質が問われ、どうやってその質を示すかの模索が始まっていた。

がんの治療にあたる医師の間では、何らかの資格を得なければ、今のように自由に抗がん剤を使えなくなる可能性があるのではないかという観測が広まっていった。

また、新しい抗がん剤の承認申請のデータを得るための臨床試験を担う、専門医の育成が求められるようになっていた。

臨床試験は、製薬会社が医療機関に委託して行われる。委託された医療機関に所属する医師は、同意の得られた患者に薬を投与し、データを集める。毒性の強い抗がん剤の効果や安全性を確かめる試験には、薬に関する詳しい知識が必要とされる。しかし、日本では専門医が少ないため、試験をきちんと行うことができず、結果の質が保証されていないと指摘されている。

こうした中で、国内の新薬の臨床試験の届出件数は、2003年には10年前のわずか3分の1にまで減り、「臨床試験の空洞化」とまで呼ばれる事態になっていた。

それ以前の1997年、臨床試験の実施手続きに関する国際基準を国内に導入したことも、空洞化を加速させる原因となっていた。国際基準で求められているレベルの臨床試験を実施するには、準備が不十分だったのだ。専門医の不足に加え、試験に参加する患者が集まらず、試験期間が長引いていった。その上、海外で先に承認された薬の方が、国内の薬価が高く算定されるケースまで出てきたことから悪循環に陥り、まず海外で臨床試験を行うという製薬会社さえ出てきたのだ。

国内で薬の承認申請に向けたデータを集められない状況が続けば、新しい薬の提供が進まなくなる。こうした面でも、抗がん剤に詳しい専門医の必要性が高まっていた。

一方で、大学の医学教育の取り組みは遅れていた。

がんは消化器や呼吸器といった、臓器別に分けられた教育科目の中で扱われた。あくまで臓器の中の病変という位置づけにとどまり、がんの治療がひとつの教育科目として教えられることはなかった。教育を担う大学の講座と大学病院の診療科が一体化した医局講座制のもとでは、医師が所属する医局を飛び出して臓器ごとに縦割りの組織を横断し、がんの治療について学ぶことは難しかったのだ。

大学病院でも腫瘍科といったがん専門の診療科を設けるところが増えているが、腫瘍学講座を設ける大学は数えるほどしかない。医師を育てる医学部では教員に定員があり、新しい講座を増やせないといった問題や、ほかの講座との兼ね合いなどから、新たに腫瘍学講座を設けることは難しいのだ。こうした日本の医療界の縦割り体質の中で、専門医を育てるためには、学会が認定制度を作る必要があった。

この点では、内科医の臨床腫瘍学会の西條理事長も、外科系の癌治療学会の北島理事長も、認識は一致していた。しかし、西條理事長が、これまでの学会の体質と決別して医師に高い質を求めようと挑んでいたのに対し、北島理事長は様々な診療科に共通する基本的な教育を行い、一定の質を確保しようというアプローチをとった。

それぞれの学会が異なる基準で専門医を認定すると表明すると、がん治療に携わる医師の間からは「内科と外科の戦争」といった極端な表現すら飛び出した。

こうした内科と外科の対立に、患者の側も不安を感じ始めていた。

二つの専門医試験が別々に実施されれば、医療現場では、異なる基準で認定された専門医が入り交じって患者を診察することになってしまう。患者の混乱は目に見えていた。患者団体の中には、それぞれの学会の理事長と接触し、互いに協力するよう求める動きも出始めた。

第一章(「命をつなぐ世界標準薬が使えない」)に登場した「がんと共に生きる会」の佐藤均会長は、上京して厚生労働省の検討会を傍聴したときは毎回のように、会議後、委員として出席していた臨床腫瘍学会の西條理事長に話しかけた。そして、二つの専門医制度を一本化できないか打診を続けていた。

大腸がんと闘っていた佐藤会長は、地元・島根県に腫瘍内科医がいないことにショックを受け、県や国に腫瘍内科医の育成を精力的に働きかけていた。多くの患者が、専門医を探し求めて医療機関をさまよい歩く「がん難民」となっている現状を指摘し、こう訴えていた。

「専門医制度は患者のためのものであってほしい。現状では、それぞれの学会のエゴで専門医制度を作るとしか思えないんですよ。何とか一本化し、患者に分かりやすくしてほしいのです」

また、日本がん患者団体協議会の山崎文昭理事長は、癌治療学会の北島理事長への接触を続けた。癌治療学会の理事長に出席して、患者側の思いを伝えたいと申し入れたのをはじめ、厚生労働省やがん医療に関心のある国会議員にも、専門医制度を実現し患者が病院を選ぶ際の参考にできるよう求めた。

こうした活動に対し、二つの学会はいずれも自分たちの専門医制度の正当性を主張し続けた。時には逆に「相手を説得してくれ」と依頼してくることすらあったという。

山崎理事長も、患者のことを考えてほしいと訴える。

「別に自分たちは外科とか内科とか、どっちを応援しようというのではないんです。患者はよりよい病院でよりよい治療を受けたいと思っているわけですから、基準が複数あると分からなくなってしまう。学会のための専門医か、患者のための専門医か、それを考えてくださいということです」

折り合いがつかないまま、癌治療学会による試験の実施予定まで8ヵ月と迫った2005年2月、研究者の国会と形容される日本学術会議の医学・医療部門が、この問題を議題に取り上げた。学術会議は科学の各分野のトップが集まって、日本の科学技術のあり方について審議し提言を行う機関だ。こうした個別の分野を議題として取り上げるのは異例のことで、問題の深刻さを示していた。

会議では、この問題に関する専門委員会の委員長で、東京大学の鶴尾隆教授(日本がん分子標的治療学会 初代理事長)が熱弁をふるった。

「このままでは国民に大きな混乱を招いてしまいます。緊張な状態なので、至急検討が必要なんです。」

そして、数カ月間議論してまとめた提言案を示した。提言案には次のように書かれていた。

異なった基準によって認定された専門医が誕生することは、国民に不要な混乱を招く(中略)専門医制度は第一に患者のためのものであって、決して医師、学会の利益のために存在するものでないことを強く認識すべきである。

学術会議には、内科と外科がそれぞれの代表を送っている。お互いの代表が自分たちの立場からの主張を行い、議論がかみ合わないまま提言の採択は見送られた。

様々な模索が続く中、外科系の癌治療学会は2月、臨床腫瘍学会を含むがん関連の12の学会に対し、あらためて専門医制度への協力を求めた。

しかし、試験までの時間が限られていることもあって、全面的な協力を表明したのは日本泌尿器学会のみであった。臨床腫瘍学会は癌治療学会の専門医について、引き続き「必然性を感じない」として連携を拒否した。その一方で、抗がん剤に関する専門医制度を一本化することは必要だと認めて話し合いに応じる姿勢を示し、ようやく二つの学会が歩み寄りはじめたのである。

4月中旬、二つの学会は専門医制度の一本化に向け、話し合いのテーブルについた。今度は、医学関係学会の頂点である日本医学会が調整に乗り出した。しかし、基本的な考えが異なるため、どう協力していくのかという方針がなかなか決まらない。

折れたのは癌治療学会だった。北島理事長が「専門医」の看板を下ろす決断をしたのだった。

6月末、日本医学会が両学会の内諾を得た上で、二つの専門医制度の一本化に向けた提言をまとめた。提言では専門医の看板を下ろす代わりに、癌治療学会が臨床腫瘍学会や基礎系の日本癌学会 とともに合同委員会をつくり、新たに「がん治療認定医」(認定医総数:15,572名、認定医(歯科口腔外科)総数 427名 (2017年4月1日現在)がん治療認定医申請資格(2018年度)という資格を作る案を示した。そして、臨床腫瘍学会をはじめとするがん関連学会の専門医については、この認定医の資格を得た後に取得するものとした。

一方、臨床腫瘍学会も、それまでの「臨床腫瘍専門医」という名付け方では、がん医療すべての治療をするようなイメージがあるとして、診療の実態に即した「がん薬物療法専門医という名称に変更することになった。しかし、西條理事長は専門医の受験資格にがん治療認定医の取得は義務づけないと早々に表明し、本当に二つの専門医制度が一本化したと言えるのか疑問を残した。

提言をまとめた日本医学会の高久史麿会長は要望した。

「三つの学会が合同で習得すべき知識を定めるので、がん治療認定医の質の担保は図れると思います。提言に合意した臨床腫瘍学会が新しい認定医を否定することは、自らを否定することになりますので、将来的にはがん治療認定医の資格を取ることが、がん薬物療法専門医の取得条件になることを希望しています」

専門医制度をめぐる二つの学会の争いは、結局、日本のがん医療が患者不在のものであることを印象づける結果になったのである。』

5.米国での成功要因

第五章の「救える命を救う」アメリカのがん医療、および第六章のがん死亡率は下げられる では、多くの米国における成功要因が紹介されています。この中で、私が特に重要と思うものは次の3つです。

政治トップのリーダーシップ・コミットによる全米プロジェクト化

適切な施策を導くための正確な情報を収集・蓄積・分析するためのシステム化

病院単位でのがん医療に関する品質維持・改善のしくみの導入と継続

本書の中では、これらは『がん征圧は国家事業』、『戦略の決め手「がん登録」』、『病院の質を監視する「がん医療の番人」』に書かれています。

そこで、最初の2つは一部、『病院の質を監視する「がん医療の番人」』に関しては全文をご紹介させて頂きます。

「がん征圧は国家事業」

『アメリカが、がん征圧に向けて大きく踏み出したのは、1971年。当時のニクソン大統領が、国を挙げてがん対策に取り組むことを国民に約束した、いわゆる「がん戦争宣言」がきっかけだ。

ニクソン大統領は記者団を前に、厳しい表情で宣言した。

「がんで命を落とした人の数は、今や第二次世界大戦で亡くなった人の数を超えるまでになりました。私は今年、まず初めに議会にこう伝えました。がんを征圧するための治療法の開発に、国家をあげて取り組むと。そして議会も、がん対策を国家事業として推進するために必要なことは何でもすると約束してくれました。私もこれだけは申し上げたいと思います。がん患者や研究者に対して、国としてできる限りのことをすると。それを、お約束します」

「戦略の決め手「がん登録」」

『アメリカで、がん死亡率を減らすためにNCI(国立がん研究所)が最重要課題として取り組んだのが、国内のがん患者のデータベースを作ることだった。患者が、いつ、どんながんになり、どういった治療を受けたのか、全ての経過を報告するよう病院に義務づけた。いわゆる「がん登録」である。

アメリカでは、がん治療を行う主だった病院はがん登録士を雇用して、患者の情報を追跡調査している。こうした情報は、オンラインで国のがん登録センターに集められる。その数は年間130万人に達するという。

NCIのがん登録が始まったのは、1973年。その2年前に成立した国家がん法がきっかけだった。がん登録は五つの州からスタートし、年々実施する州が増えていった。

一方、1992年にはがん登録法が成立し、国家がん登録プログラムが立ち上がった。こちらは、CDC(疾病予防対策センター)という国の機関が中心になって運営した。CDCは、エイズやエボラ出血熱、鳥インフルエンザなど、どちらかというと感染症対策で名前を聞くことの多い組織だが、がん対策でも大きな役割を果たしている。』

「病院の質を監視する「がん医療の番人」」

『クリスタ・セント・マイケル病院のがん医療は、アメリカでは決して特別なものではない。アメリカ外科学会がん委員会の認定を受けた医療施設が広く行われているものだ。2005年8月現在、認定を受けた病院の数は全米で1425に上る。

委員会(アメリカ外科学会がん委員会)は、患者がどこにいても、同じようにレベルの高い治療を受けられることを目標に、1922年に設置された。がん医療を行う医療機関が満たすべき基準を定め、その基準に合格した病院を認定している。最初の認定基準が発表されたのは1930年。当時、がんの治療と言えば手術だった。以来、およそ三年おきに基準を見直してきた。

チーム医療の概念が盛り込まれたのは、抗がん剤や放射線治療の技術開発が進んだ1950年代以降という。

2004年版の認定基準では、36項目に上る条件を定めている。

まず、認定を求める病院は、腫瘍科の運営に責任を持つがん委員会を院内に設置する必要がある。がん委員会を設置することは、まさにチーム医療を行わなければならないことを意味する。委員会には放射線診断医、病理医、外科医、腫瘍内科医、放射線治療医、腫瘍看護師、ソーシャル・ワーカー、がんカンファレンスを開催する頻度を決め、専門医とスタッフに参加を義務づける。また、自分の病院で行った患者の治療について毎年分析し、その結果をスタッフに公表しなければならない。

さらに資格を持つがん登録士が、患者のデータを集めなければならない。治療の結果をきちんと把握するため、分析対象となる患者の80%について追跡調査をしなければならない。過去5年間に診断を受けた患者については、さらに基準が厳しく、対象の90%を追跡調査することが求められている。これらのデータはアメリカ外科学会がん委員会の全米がんデータベース(NCDB)に提出しなければならない。

また、放射線治療と抗がん剤治療を行うための設備とスタッフを確保することや、がん患者の看護は専門知識と技術を備えた腫瘍看護師が行い、その能力を毎年評価することなども求めている。

さらには、行院独自でも、アメリカがん協会が各地に持つ事務所などの地域組織と協力しながらでもいいが、遺伝子検査、カウンセリング、在宅介護、栄養指導など、患者やその家族への支援サービスを行うことまで求めている。

こうした認定基準が実際に満たされているかどうかについて、アメリカ外科学会がん委員会は3年に1度、認定病院に調査担当者を派遣し、立ち入り調査を行う。先ほどのクリスタス・セント・マイケル病院は、2004年11月に調査を受けた。

病院は、36項目の認定基準をどの程度満たしているかをまとめた自己評価を、調査の2週間前までに提出する。このほか、病院の年次報告書や院内のがん委員会の議事録、がんカンファレンスの開催実績報告書、治療の分析結果を示す文書などの提出を求めらることもあるという。

委員会の調査担当者は、この資料を読み込んだ上で立ち入り調査にのぞむ。クリスタス・セント・マイケル病院では、調査担当者が、まず病院のがん委員会のメンバーと面接した。そして、「抗がん剤治療を受けている患者が急に熱を出して運び込まれた際、どのように対応しているのか」や「処置を受けるまでの患者の待ち時間の長さはどのくらいか」などを質問したという。こうした質問は、直接、認定基準に盛り込まれているものではない。しかし調査担当者は、認定病院でがん医療がどのように行われているのかを把握するために、数多くの質問を行うという。

その後、調査担当者は抗がん剤治療や放射線治療の現場、マンモグラフィーなどの検査施設を視察し、問題がないかを確認した。さらに、カルテをがん登録のデータと照らし合わせ、がん登録データの収集が適切に行われているかを確認した。

その上で、調査担当者は各項目について、「可」と「不可」の二段階で評価する。項目によっては、これに「優」や「適用外」の評価も加わる。36項目すべてが可の場合は、認定を3年間継続することが認められる。すべてを満たせなかった場合も、7項目までならば再認定を受けられるが、1年以内に問題を解決し、文書で委員会に報告しなくてはならない。8項目以上が不可だった場合は、認定が取り消される。

クリスタス・セント・マイケル病院はすべての項目の条件を満たし、認定が更新された。

立ち入り調査を受ける病院は、調査担当者の旅費や宿泊費などのために3500ドルを負担しなくてはならない。なぜこうした手間をかけて認定を受けるのか。実は病院にとっても十分なメリットがあるのだ。その一つが、アメリカ外科学会がん委員会が管理、運営する全米がんデータベース(NCDB)の活用だ。

NCDBは、認定病院からこれまでに報告された1500万人を超える患者について、がん登録の情報が集められたデータベースだ。ここには毎年、全米で新たにがんと診断される患者の75%の情報が追加される。内容は患者の性別、年齢、住所などの基礎的な情報をはじめ、がんの進行の度合い、飲酒や喫煙の習慣の有無まで150項目以上に上る。受けた治療については、手術の方法から照射した放射線の量まで詳細に記録している。

これらのデータは、患者が退院しても追跡調査が行われる。電話をかけて、がんが再発していないかどうかなど治療後の経過を確認するほか、新聞の死亡欄もチェックする。追跡調査は患者が診察を受けてから亡くなるまで続けられる。

病院はこのデータベースに蓄積された情報を利用することで、自分たちの医療が全米のどの位のレベルにあるのか、自分たちの地域に多いがんの種類は何か、予防・早期発見のためにどのような取り組みが必要かなどを客観的に判断し、対策を立てることができる。

クリスタス・セント・マイケル病院では1999年、がん登録のデータを確認したところ、乳がんの手術で乳房をすべて摘出している割合が予想より高いことが分かった。このデータは医師に送られ、治療方法について再検討が行われた。その結果、乳房を温存する手術の割合を大幅に上昇させことができたという。

クリスタス・セント・マイケル病院のがん登録士ダイアン・ケチャムさんは言う。

「がん登録がなければ、地域のがん治療の状況はまったく分からなくなってしまうでしょう。それはまさにブラックホールのような状況です。認定病院であることの利点はたくさんありますが、最大の利点は、全国共通の基準があるので、腫瘍科をより良いものにしようという目標に向けて、私たち全員が常に努力できることなのです。」

アメリカ外科学会がん委員会が病院の認定を始めて70年余り。認定はがん医療を行う病院にとって信用の証になり、患者が病院を選ぶ際の重要な判断基準となっている。実際アメリカでは、新たにがんと診断された人の80%が、認定病院での治療を選択している。

アメリカ外科学会がん委員会のデイビッド・ウィンチェスター委員長は、認定の意義をこう語る。

「私たちの活動の目的は、病院が患者にどんな医療を提供しているのか、患者の予後の状態をどこまで把握しているのか、その詳細を知ることです。私たちはがん医療を行う病院を監視する、いわば“がん医療の番人”です。始まって70年以上になる認定制度を通して、がん医療の水準を確実に向上させてきたと確信しています。こうすることで、地方に住む患者が、自宅近くの病院で質の高いチーム医療を受けることができるのです」

日本とアメリカでは、病院の仕組みも医療費の負担の仕方も全く異なるが、参考になる点は多い。

がんの専門医を育てる教育が、アメリカでは非常に重視され、制度として確立している。こうして育成された専門医が集まり、チーム医療の拠点である腫瘍科が作られる。クリスタス・セント・マイケル病院では、がんカンファレンスだけでなく、日常の数多くの場面でチーム医療が実践されていた。腫瘍内科と放射線治療医が仕事の合間を見つけては、立ち話で、頻繁に患者についての情報や意見の交換をしている。大がかりなカンファレンスを開かなくても、ある程度の情報交換はできるのだ。それも腫瘍科という共通の場があることの大きな効果だろう。

国立がんセンターの垣添忠生総長は、日本のがん医療を変えるには、まず大学の医学部から考えていかなければならないと主張する。

「日本では、がんの手術を予定している患者さん一人一人について、外科の立場では非常に厳しい議論をして手術の方針を決めているとは思います。しかし、放射線治療や抗がん剤治療の可能性はないのかという議論がなされているかというと、医局の壁でうまくいっていないことがあると思います。ですから医学部には横断的な組織として、臨床腫瘍学のような講座が必要なのです。」』

付記1米国の統合医療

統合医療とは、左下図の「現代医療に基盤を置きながら、補完代替医療の潜在的な意義を認め、検証しながら選択的に活用しようとする立場」ということです。

日本の「患者申出療養」は未承認等の薬剤に対する措置を意識したものなので、右下の図でいえば、青箱の範囲内ということになります。

なお、この資料は日本薬科大学客員教授の安西英雄先生より、頂いた資料の一部になります。


下はスライドショーになっています。クリックして頂くとスライドが固定されます。

『PubMed(パブメド)は生命科学や生物医学に関する参考文献や要約を掲載するMEDLINEなどへの無料検索エンジンである。 アメリカ国立衛生研究所のアメリカ国立医学図書館(NLM)が情報検索Entrezシステムの一部としてデータベースを運用している。』(ウィキペディアさまより)

付記2日本のがん対策

がん対策情報」のページです。

こちらは、掲載されいた平成19年から24年までの、「がん対策関係の予算」の額を棒グラフにしたものです。残念ながら、平成25年以降のデータは出ていませんでした。

国会議員で「がん対策」に熱心な先生はどなただろう?と思い、ネット検索したところ、山本孝史先生を知りました。しかしながら、がん患者でもあった先生は2007年12月22日、胸腺がんにより他界されていました。

『二人に一人が生涯のうち、一度はがんにかかり、三人に一人ががんで死亡するという時代になって、今やがんは、誰にとっても最も身近な疾患となりました。しかし、国民のがん医療への関心は、がん検診の受診率から見ても高いとはいえません。本書が、がん医療の実態の一端を知り、理想のがん医療を語り合う契機になれば幸いです。』

出版:朝日新聞出版


がんと自然治癒力1

以前、患者さまから「がんにも鍼は効きますか?」というご質問を頂いたことがあります。自然治癒力に働きかけるという意味では、がん治療に関しても効果はあると考えますが、具体的にご説明することはできませんでした。

当時、拝読した本は素問八王子クリニックの院長である真柄俊一先生が2007年7月に出版された【がんを治す「仕組み」はあなたの体のなかにある―抗がん剤・放射線治療からの脱却!】という本でした。大変興味深い内容だったのですが、「もう一歩突っ込んで調べる必要があるなぁ。」という思いがあり、しかしながら、それは大変なエネルギーを要すると感じたため、そこでフリーズしていました。

 

出版:現代書林、2007年7月発行

 今回、ブログのネタが底をついてきたため、一念発起してこの難題に取り組む覚悟をしました。

真柄俊一先生はがん治療に関し15年の実績(開業2003年)を積み上げられており、医師でもあることから、最初の題材はやはり真柄先生の本が最良と判断しました。そこで、現時点で最も新しい本、「がんは治療困難な特別な病気ではありません!」で勉強させて頂くことにしました。

 また、真柄先生は日本の英字新聞社(1897年創刊)である、ジャパンタイムズが選ぶ「2013年アジア次世代CEO100人」にも選出されていました。

 

出版:イースト・プレス、 2016年8月発行

一番左の列のほぼ中央においでです。

浦和出身でマネックスグループの社長 松本 大氏の顔もありました。

 


ブログはページに沿って注目点を洗い出し、その内容の理解を深めるために必要な本をリストアップしました。リストアップされた本は次なるブログの題材とし、最後に「がんと自然治癒力」に関する自分なりのまとめをしたいと思います。

27ページに下記の興味深いグラフが出ています。このグラフは「国別がん粗死亡率年次推移」というタイトルで、NHKクローズアップ現代「シリーズ日本のがん医療を問う」からのものでした。

 

画像出展:「がんは治療困難な特別な病気ではありません!」

検索したところ、NHKがん特別取材班による日本のがん医療を問うという本が出版されているのを知りました。

内容は次のようなものです。『欧米先進国では、ガン死亡率が下がり始めているのにもかかわらず、我が国では依然として右肩上がりが止まらないのはなぜか。医療現場の構造的な問題や国のガン対策に疑問を抱いたNHK取材班が、米国の医療改革と比較しつつ、この問題を徹底究明する。昨春放送されたNHKスペシャル「シリーズ日本のがん医療を問う」の内容にさらに取材を加えて再構成した書。』

32ページには次のような記述があります。『米国NCI(アメリカ国立がん研究センター)は、アメリカにおけるがん研究のトップ機関が1985年、当時デヴィタ所長がアメリカ議会で証言した。「最近、がん細胞は抗がん剤をぶつけても、自分の中の遺伝子の働きで抗がん剤を無力化させてしまうことが分かった。がんのプロとしての自分は、大きなショックを受けている」彼は、抗がん剤を無力化させるその遺伝子を「反抗がん剤遺伝子」(ADG=Anti Drug Gene)と呼び、「ADGの存在により、抗がん剤でがんを治せないことが理論的にはっきりした」と結論づけました。』

凄い発表に驚きました。早速、NCI のWebサイトで、“ADG”および“Anti Drug Gene(スペースを入れない)”で検索したのですが結果は「0件」でした。

そこで、ネット上にあった情報から、「デヴィタ所長」とは、Dr. Vincent T. DeVita, Jr.であることが分かりました。

下記はウィキペディアさまの画像と一部の情報です。

ヴィンセント・デヴィータ

●アメリカ合衆国の医師、腫瘍学におけるパイオニア。元アメリカがん協会 President。イェール大学医学大学院教授。元アメリカ国立がん研究所 director。がん化学療法における研究で知られ、1972年にはAlbert Lasker Clinical Medical Research Awardを受賞した。

●アメリカ国立がん研究所(NCI)に勤務し、1980年にはNCIおよび国家癌プログラム(National Cancer Program)のdirector に任命され、1988年まで務めた。

 ここには、驚くような「アメリカ議会での証言」や「ADG」に関する記述はなく、一方、デヴィータがんの分子生物学という本が翻訳、出版されているのを見つけました。 

62ページの見出しは『WHO発「肉はアスベスト・タバコ並みの発がん性」の衝撃』というものです。調べてみると、日本経済新聞やロイターなど、このニュースを報じる記事がいくつか見つかりました。

加工肉「発がん性ある」 WHO、過剰摂取に警告 日本経済新聞 2015年10月27日 

加工肉に大腸がんリスク、WHO専門機関が報告 ロイター 2015年10月27日 

特別リポート:「加工肉に発がん性」WHOが招いた混乱の裏側 ロイター 2016年4月21日

この中で、数々の実験や大規模調査によって動物性食品の発がん性を証明し、植物性食品によるがんの予防・治療に決定的な理論を確立したのがT・コリン・キャンベル博士です(コーネル大学、栄養生化学部名誉教授。40年余りにわたり栄養学研究の第一線で活躍)。詳しい紹介もされていました。

下記の画像はウィキペディアさまから拝借しました。

彼(T・コリン・キャンベル博士)は1960年代後半に早くも、動物性タンパクの発がん性を実験によって立証しました。1982年にはアメリカ政府の依頼を受け、NAS(全米科学アカデミー)の報告書「食物・栄養とがん」をまとめましたが、そのなかで博士は、「動物性食品の過剰摂取ががんの強力な要因になっている」と明確に指摘しています。2015年10月にWHOが発表した「肉・肉加工品の発がん性」についての指摘に先立つこと、実に33年も前です。

この全米科学アカデミー報告書と同じころ、キャンベル博士は中国における大規模な疫学調査を開始しています。これはコーネル大学、オックスフォード大学、中国予防医学研究所による共同研究で、「チャイナ・プロジェクト」と呼ばれました。10年にも及ぶこの調査は「ニューヨーク・タイムズ」が「疫学史上のグランプリ」と評しましたが、その陣頭指揮をとったのがキャンベル博士です。1990年、彼はその調査結果を論文「中国における食と習慣と死亡率」にまとめました。

博士の執筆論文は300以上に及び、権威ある科学誌・医学誌に掲載されましたが、長年の研究生活の集大成として書き上げた著作が【チャイナ・スタディー】です。先ほど述べたチャイナ・プロジェクトがベースになっていますが、それだけにとどまりません。自分自身の生い立ちからさまざまな実験や調査研究、そこから得た食物と病気についての画期的な結論、それを国民に訴えた警告が、食品業界や製薬業界、医学界などからいかに妨害されたかに至るまで、詳細に書かれています。』

調べてみると、チャイナ・スタディー 葬られた「第二のマクガバン報告」(合本版)という本が販売されていました。

68ページの見出しは『上院議会に「栄養問題特別委員会」を設置したフォード大統領』となっています。

内容は以下の通りです。

ニクソンのあとを継いだフォード大統領は1975年、ある決断を下しました。当時のアメリカは、がんはもちろん心臓病をはじめ生活習慣病を患う人が急増し、国民医療費が急速に膨れ上がっていました。世界で最も医学が進歩していると考えられているアメリカで、なぜ病人が増え続けているのか?これは国民の食生活に何か根本的な間違いがあるのではないか?

そう考えた大統領はその疑問を解決すべく、上院議会に「栄養問題特別委員会」を設置し、国家的な大調査をするよう指示をしたのです。その委員会の委員長に任命されたのが、1972年の大統領選挙でニクソンに敗れた民主党のジョージ・マクガバン上院議員でした。

マクガバン委員長は「がん、心臓病をはじめ多くの病気が増えている。そして進歩したとされるアメリカの医学を活用し、巨額の医療費が注ぎ込まれているのに、アメリカは病気で滅んでしまう。われわれは何か重大なことを見落としていたのではないか。現代の医学が進歩していると考えていること自体も、間違っていたのではないか」と問題提起をおこないました。

彼の指揮のもとで、栄養問題特別委員会はまず、過去の病気と食生活の変化についての調査を開始しました。19世紀以降におけるアメリカ国民の病気の変化と、それに対応する食生活の変化についての追跡です。すると、150年前には腸チフスや結核など、細菌による伝染病で病死する人が多く、現代病と言われているがん、心臓病、脳卒中などの病気による死亡率がきわめて低いことが判明しました。

更に、ヨーロッパなどの先進国を調査しても、150年前は心臓病やがんなどはほとんど見当たりません。調査地域を広げて世界各国を見てみると、アフリカやアジア、中近東などのいわゆる発展途上国では、過去はもとより現在でも、そうした病気が少ないという事実が分かったのです。

欧米諸国の150年前と現在との違いは何か?現在の欧米諸国と発展途上国との違いは?

その謎を解決するために栄養問題特別委員会は、国内だけでなく世界中から資料を集め、他国からも証言を求めるなどして、人々の食生活と病気や健康状態との相関関係を分析しました。証人喚問に応じて資料レポートを提出した各国の医師、生物学者、栄養学者など、専門家だけでも実に3000人を超える大がかりな調査です。

しかし、膨大な資料が集まり、数多くの証言がなされるにつれ、かえって解決の糸口さえ見つからず混迷の度を増していきました。委員会発足から「マクガバン・レポート」完成まで2年かかったのも、そのためでした。』

更に74ページにも「マクガバン・レポート」に関する記述が出てきます。

『「マクガバン・レポート」の画期性は「現代病は現代医学では治らない」と明言した点です。がんは現代病の代表であり、このレポートはニクソン大統領の「がん征服戦争」に、別の視点から回答を出したとも言えます。

栄養について盲目な現代医学の欠陥を補うべく、アメリカ政府はマクガバン・レポートに基づき国民の食生活に関する新政策を矢継ぎ早に打ち出すようになりました。レポートの発表の2年後の1979年には早速、健康な食生活のための数値目標を定めた「ヘルシーピープル」を発表しました。これは1991年から始まった「ヘルシーピープル2000」へと続き、さらにその後には「ヘルシーピープル2010」が実施されました。

この「マクガバン・レポート」については、その概要を簡潔に紹介した世界の食習慣を調査した・マクガバン・レポートという冊子があるのを見つけました。

127ページからは、「植物性食品による国際医療会議」(International Plant-Based Nutrition Healthcare Conference)に登壇されたディーン・オーニッシュ博士のことが書かれています。

英語のサイトです。

ご参考まで。

また、2009年のノーベル医学生理学賞を受賞した「テロメア」に関する内容が続いています。見出しは次の3つです。「食事療法・メンタルケア 併行治療の相乗効果」「ノーベル賞受賞者と共同研究した テロメア研究」「食事療法・ライフスタイルの変更によって老化を逆転できる」

なお、テロメアがどんなものかについては、以下のNHKクローズアップ現代 2017年5月16日(火) 「生命の不思議“テロメア” 健康寿命はのばせる!」に記述されていた内容を参照ください。

 

 

 

画像出展:「クローズアップ現代


『老化を防ぎ、若さを保ちたい。そんな願いをかなえると注目されている研究がある。ノーベル賞生物学者・ブラックバーン博士らによる「テロメア」研究だ。染色体の端にあり細胞分裂のたびに短くなるため、年とともに縮むと考えられていたテロメア。ところがテロメアを伸ばして細胞から若返る方法があり、がんを防げる可能性もあるというのだ。それは日常で実践できる生活習慣。最新の研究から健康寿命を延ばす秘策と命の神秘に迫る。』

「食事療法・メンタルケア 併行治療の相乗効果」

『最近、強く印象に残っているのが「植物性食品による国際医療会議」(IPBNHC)に登壇されたディーン・オーニッシュ博士の研究です。博士は、UCSF(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)医学部臨床教授です。彼のプラントベース食事療法の研究は、エセルスティン博士と同じく冠動脈疾患の患者を対象にしてほぼ同時期に開始され、のちに、がんの研究にも及んでいます。

彼は研究を開始してわずか1年後に、それまでの研究結果を発表しました。たった1年間で、博士の研究に参加した患者たちは、対照群のメンバーたちよりも狭心症の発作が軽く、頻度も少なくなっていました。5年後の調査結果では更に回復度が高まっています。

エセルスティン博士はプラントベース(植物由来)の食事療法だけを患者に課しましたが、オーニッシュ博士はそれに加えて、瞑想(メディテーション)や、ウォーキングなどの軽い運動、更には社会奉仕活動などをおこなうように指導していました。これらは心身の緊張を解き放ち、患者さんの病気に対する不安感や恐怖感を取り除くことを目的としています。

彼のやり方は、食事療法と同時に、患者さんの気持ちの持ち方を含めたライフスタイルそのものを変えることによって、病気を克服させていることがわかります。つまり、「食事療法とメンタルケア」の併行治療によって相乗効果をあげているのですが、これは、私自身が実践してきた治療法とかなりの部分で重なっています。』

「ノーベル賞受賞者と共同研究した テロメア研究」

『エリザベス・H・ブラックバーン博士という女性生物学者がいます。彼女は、生物の寿命をコントロールすると言われていた「テロメア」を研究テーマにしていました。カリフォルニア大学バークレー校の准教授時代、彼女は教え子とともにテロメアのDNA配列を世界に先駆けて発見、さらに酵素テロメラーゼの分離に成功しました。2009年、博士は「寿命のカギを握るテロメアとテロメラーゼ酵素の仕組みの発見」によって、ノーベル医学生理学賞を受賞しました。

日本ではあまり話題になりませんでしたが、これは生物学上の大変な発見だったのです。テロメアは染色体の末端にあり、遺伝子情報を保護する役目を担っています。このテロメアが短くなることで老化現象が起こりますが、テロメラーゼ酵素は短くなるテロメアを修復する働きをします。

その仕組みを解明したことでのちにノーベル賞を受賞したのですが、1990年、博士は、UCSFに移り、オーニッシュ博士の同僚となりました。オーニッシュ博士は、ブラックバーン博士が解明したテロメア・テロメラーゼ酵素の仕組みをもとに、食事療法及びライフスタイルの変更をおこなうことで、それらがどう変化するかを研究したのです。  

 

 

 

 

 

 

画像出展:「tvrider


「食事療法・ライフスタイルの変更によって老化を逆転できる」

『ここで注目すべきデータをふたつ挙げましょう。まず図6のグラフは、食事療法・ライフスタイルの変更をおこなった患者のテロメラーゼ酵素の変化を追っています。ご覧のように、わずか3ヵ月で明らかにテロメラーゼが増えています。先ほど述べたように、この酵素は加齢や病気によって短くなったテロメアを修復する働きを担うものです。

さらに、5年間の経過をまとめたのが図7のグラフです。これは食事療法・ライフスタイルの変更プログラムに従った患者群と、同じ条件下でプログラムを受けなかった患者群を比較対照したものです。ご覧のとおり、プログラムを受けなかった患者群(対照群=Contorol Group)のテロメアの長さは「3パーセントの減少」となっています。一方、プログラムに従った患者群(実験群=Exp Group)は「6パーセント」までテロメアが伸びています。

つまり、食事療法・ライフスタイルの変更が病気や老化を食い止めるばかりか、逆転させているのです。これは健常者のアンチエイジングという希望にも、がんや心臓病患者の病気改善や治癒にもつながる画期的な実証試験結果です。

なお、これらの図は世界的評価が最高ランクの医学雑誌「ランセット」(2008年9月)に論文とともに掲載されたものです。』

画像出展:「がんは治療困難な特別な病気ではありません!」


ネットで調べたところ、日本生活習慣予防協会のサイトに、Lancet Oncologyの原文のURLとともにその概要が紹介されていました。日付は2013年9月17日になっています。日本生活習慣予防協会の日本文には『テロメア長さが平均10%増加していた。』となっていましたが、原文を開いてみると、実験は2003年から2007年の5年間で、介入グループ(食事療法・ライフスタイルの変更)は「6パーセント」増加との内容でした。

Eligible participants were enrolled between 2003 and 2007 from previous studies and selected according to the same criteria.

Relative telomere length increased from baseline by a median of 0·06 telomere to single-copy gene ratio (T/S)units (IQR–0·05 to 0·11) in the lifestyle intervention group, but decreased in the control group (−0·03 T/S units, −0·05 to 0·03, difference p=0·03).


真柄先生の「自然療法」を理解する上で、最も重要な箇所は139~143ページに書かれている、「遺伝子についての考え方を一変させたエピジェネティクスという新学説」「理論的に確認できた自然療法の正しさ」と150~152ページに書かれている、「自然体縮の謎を解明したエピジェネティクス理論」の3つだと思います。

以下、その内容をご紹介させて頂きます。

「遺伝子についての考え方を一変させたエピジェネティクスという新学説」

『ここまで、食事療法やメンタルケアによって病気が改善・回復につながることを、さまざまな研究をもとにお話してきました。正しい食事に変え、意識を変えることで、遺伝子のスイッチが「オン」になり、現代西洋医学ではできないことが可能になるということを説明してきました。

では、どのように人の遺伝子が切り替わるのでしょうか。眠っている良い遺伝子はどのように目覚めるのでしょうか。

これまでの研究でがんを進行させる方向に働く遺伝子(がん促進遺伝子)と逆にがんを治す方向に働く遺伝子(がん抑制遺伝子)の2種類が存在することはすでに明らかになっています。そして親からもらった遺伝子がその人の健康状況を支配しているので、悪い遺伝子を持っている場合には運が悪かったとあきらめるしかない、というのが従来の古い考え方です。

ところがそれが間違いであるということを解明したのが、アメリカの細胞生物学者であるブルース・リプトン博士であり、その研究成果は「エピジェネティクス」と呼ばれている新しい学説なのです。そしてこの学説を正しいと認識する学者が爆発的に増えて、すでに20年近くも前に生物学の新しい定説となり、世界中で支持されています。』

 

画像出展:「Bruce Lipton

がんの抑制遺伝子、促進遺伝子については、左をクリックして頂くと「2.多段階発がん」に出ています。

「理論的に確認できた自然療法の正しさ」

『ブルース・リプトン博士のことを私が初めて知ったのは、【こころと遺伝子】(実業之日本社、2009年)という村上和雄先生の著書でした。この本が出版された直後に偶然書店で見つけたのです。その中に記載されていたことに驚いた私は、リプトン博士の著書思考のすごい力をすぐに入手して貪り読みました。まさに私が知りたかった「遺伝子の謎」について書かれている本でした。この本によって私がそれまでやってきた自分の治療法の正しさを理論的に確認することができたのです。

「自然体縮の謎を解明したエピジェネティクス理論」

『古い科学では、「ジェネティック・コントロール」と言って、遺伝子が生命をコントロールすると教えてきましたが、接頭語の「エピ」は「その上」という意味なので、「エピジェネティクス・コントロール」とは、遺伝子を超えるコントロールを意味します。つまり、細胞の環境に対する反応が遺伝子をコントロールすることがわかったのです。

さらに、環境シグナルは「読みとるべき設計図」を選択するだけでなく、設計図から読み取られた情報を修正することまではわかりました。

がんの大半は遺伝子が悪かったわけではなく、私たちの環境に対する対応が、がんになる変異細胞を作ってしまったのが原因であるとリプトン博士は述べ、さらに「自然体縮」と呼ばれる現象についても説明がつくと言っています。死が近いという人が、自分の人生に対する信念を大きく変えた瞬間に、遺伝子の働きが突然変化して、奇跡的に回復し元気になってしまうことがあると言うのです。

組織培養皿を良好な環境から劣悪な環境へ移すと細胞は病気になります。そして細胞を健康な状態に戻すのに、薬物は必要ありません。単に培養皿を健康な環境に戻すだけで、細胞は回復し繁殖していきます。

私たちが鏡に向いたとき、1人の人間として映っていますが、実際は約50兆個の細胞から成り立っている共同体なのです。それぞれの細胞が生命を持った個体であり、人間は何兆もの細胞からなる共同体であると言えます。体内では、血液が細胞の成長培地であり、組織培養皿の中の細胞が培地に反応するように、体内の細胞は血液中のシグナルに反応します。

では、何が私たちの血液成分を調節し、細胞の運命をコントロールしているのでしょうか?

私たちは環境のなかで、光、音、におい、感触などさまざまなシグナルを知覚として脳でキャッチしています。知覚は心によって解釈され、その解釈にしたがって脳は血液中に化学物質を放出し、その化学物質が細胞の反応と遺伝子の活性をコントロールします。ですから自分の知覚、つまり信条やものの見方を変えれば、脳から出る物質は変わり、自分自身の体も変えていくことができるのです。

以上、リストアップした本は7つです。これを、多少順序を変え、次の順番で進めていきたいと思います。そして、最後に自然治癒力についてまとめたいと思います。

日本のがん医療を問う

デヴィータがんの分子生物学

世界の食習慣を調査した・マクガバン・レポート

チャイナ・スタディー 葬られた「第二のマクガバン報告」(合本版)

思考のすごい力

細胞から若返る! テロメア・エフェクト

がん治療の最前線

ご参考

過去ブログの“活性酸素シグナルと酸化ストレス”の中で、「活性酸素はシグナル経路を活性化して、細胞保護、細胞分化増殖、細胞死の制御などの有益な働きもしている。」ということは学習していたのですが、「なんだかんだ言っても、主犯は[活性酸素・酸化ストレス]なのではないか。」と思い、少しネット検索してみました。すると、逆にこれらを武器に、がん治療に利用するという情報が出ており、あらためて驚くとともに[活性酸素・酸化ストレス]には功罪があって、一方的な悪者と決めつけることは正しくないと再認識しました。

付記

ネット検索したところ、医学的には「」は上皮細胞に由来する悪性腫瘍だけを指し、一方、「がん」は悪性腫瘍全般を指すものだということが分かりました。

脈診・腹診・クレアチニン

今回のブログは2018年2月23日にアップした「慢性腎臓病が鍼治療で改善!」の続編というべきものです。この患者さまの当時のクレアチニン値は2.38でしたが、その後2.14、2.18と変化しました。そして5月の検査では、ついに2点台を下回り1.82という数値になりました。
患者さまが来院された最大の理由は、2点台前半で安定していたクレアチニン値が2ヵ月で3.64に急速に悪化したことでしたが、5月の検査値の1.82はその安定していた当時の数値をも下回るものでした。

下記はクレアチニン、eGFRの推移をグラフにしたものです。


当院では施術前、仰臥位(あお向け)での施術終了時、そして全ての施術終了時の計3回、脈診を行うと共に血圧と脈拍を計っています。

 

ムロン社製の手首で計測するタイプを使っています。

この患者さまの来院当初の脈の特徴は次の通りでした。
赤くしたところが病脈になっているもので、現在は全て中央の「平脈」に近づきつつあります。「沈」「硬」「実」の3つについては、いずれも脈診を行う鍼灸師の直観的な感じ方による判断のため、評価は主観的であり比較検討は困難です。一方、変化を客観的な数値で評価できるのは「脈拍」です。そこで、計27回の施術を9回ずつ3つのフェーズに分けて、脈拍数の状況をグラフにして、それぞれのフェーズの傾向を比較することにしました。

祖脈診です。

これ以外に緊張が強くピンと張った脈である「緊脈」があります。

 

脈診はこの写真のように、左右3本の指(示指、中指、薬指)を使って行うのが一般的です。なお、手指側から寸・関・尺といいます。

画像出展:「日本鍼灸医学(経絡治療基礎編)」

上記の表は、2017年11月25日の初診から2018年5月27日までの計27回の施術を対象にしており、1~9回(青色)10~18回(小豆色)19~27回(緑色)の3つの段階に分けて比較しています。また、「脈拍数」の数値が入ったボックスのうち、灰色にしたボックスは脈拍数が40台のものを示しています。

10~18回(小豆色)の中に、1回目の脈拍が80以上が2回ありますが、これは患者さま曰く、「遅れそうになったので急いできた。」とのお話でした。これを考慮すると「平均」の脈拍数の順位は逆転するかもしれません。

分かったこと

・脈拍数40台は最初の4回の施術では12回の計測中10回(83%)と顕著に多い。
・遅脉については5~10回程度の施術回数で改善が確認できる。
・この患者さまの平脉の脈拍数は55~60と思われる。
・鍼治療が患者さまの自然治癒力を活性化させたことにより、本来の平脉に戻ったと考えられる。

遅脉とは
代々木の日本伝統医学研修センターでは、遅脉は1分間の脈拍数が50回未満のものとされています。そして、その原因としてまず考えられることは「冷え」です。「冷え」ではない場合、もう一つの原因とされているのが「気不足大」というものです。これは「気」の中に「推動作用」とよばれる、生理的活動や新陳代謝をつかさどる働きがあり、この推動作用の機能低下によって遅脉になると考えます。特に後者の推動作用の低下を原因とする遅脉は注意が必要です。
一方、数脉(サクミャク)は遅脉に相対するもので、1分間の脈拍数が80回以上とされています。こちらの原因は「」、あるいは「気不足小」になります。気不足小の場合、気の不足を補おうとして推動作用が働き、脈が数(脈拍を増やす)になると考えます。つまり、「気不足」が原因と考えられる遅脉および数脉に関しては、推動作用自体に問題を抱えている遅脉の方がより深刻ということになります。

腹診
脈診とともに重視しているのが腹診です。理想は赤ちゃんのような柔らかく、ふっくらしたお腹です。特に注意したいのは硬さの状態や形状、部位などです。
患者さまに関しては、臍周辺および下部の面状の硬さや臍上方の線状の硬さなど、まだ完全には取れていませんが、来院時に比べるとかなり軟らかくなりました。

疑われる瘀血

瘀血は血が内邪により非生理化したもの、熱が血に入り込んで血が固まったものと考えられています。触診は手に角度をつけ、下腹部の奥の面状の硬結を探します。瘀血による硬結の場合、縁が感じられ左右非対称が特徴です。
なお、ウィキペディアさまでは、
瘀血について次のような説明がされていました。

『東洋医学では流れが悪く滞りがちな血液を「瘀血」と呼んでいる。(瘀とは停滞という意味で、文字通り血が滞ったり、血の流れが悪く、よどんだ状態を指す) ~以下省略』
瘀血が疑われる代表的な脈の特徴は「沈細硬」とされています。これは脈が沈み、細く、硬い脈ということです。患者さまに関しては細くはなかったのですが、沈み硬い脈、熱が内攻した陰実な脈でした。そして、腹診でもほぼ「瘀血」の特徴がみられました。以上の事から瘀血による病態と判断し、本治穴を肝と腎の水穴・金穴としました。

まとめ

今回の患者さまの場合、病状の指標となるクレアチニン値・eGFR値と共に脈、腹部が足並みを揃えて改善されています。これは患者さま自身の自然治癒力が強力なものだったからではないかと思われます。

また、患者さまからは食事・飲水と共に、十分な睡眠をとれるよう心掛け、改善されるというイメージをもって生活している。とのお話を頂きました。

糸球体疾患

「一次性ネフローゼ症候群」の患者さまにご来院頂いています。クレアチニン値は約半年間、3点台で安定していたとのことですが、直近2ヵ月で5点台に一気に上昇(悪化)しました。2回の鍼治療後に行われた血液検査ではクレアチニン値の上昇にブレーキをかけることはできませんでしたが、次回の血液検査までの1ヵ月、週1回の治療を継続することになりました。
今後、改善がみられ、患者さまから同意を頂くことができれば、ブログにアップしたいと考えています。

ネフローゼ症候群は、高度の蛋白尿を基本的な病態とし、浮腫、低蛋白血症、高コレステロール血症を呈する疾患群の総称です。また、一次性は原発性ということです。従って組織診断だけで治療方針が決まります。一方、二次性の場合は原因疾患の治療も必要になります。
「病気がみえる vol.8 腎・泌尿器」によると、一次性ネフローゼ症候群の代表的疾患として4つがあげられています。

 

出版:医療情報科学研究所

『腎疾患は、原因が明らかではなく腎臓に限局した病変がみられる一次性(原発性、特発性)と、腎臓以外の原因(全身性疾患、薬剤、妊娠など)に伴って腎障害が生じるに二次性(続発性)に大別できる。』


この中で患者さまの疾患は、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)というもので、難病に指定されています。また、上記の表(円グラフ)を見ると代表的な4つの中では、6.6%と最も少ない疾患と位置づけられています。
腎疾患は病変部に関しては、「糸球体疾患」、「尿細管・間質性疾患」、「腎血管系疾患」の3つに大別できますが、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)は「糸球体疾患」に含まれます。 

 

『糸球体疾患では、糸球体が様々な機序により障害され、蛋白尿や血尿、腎機能障害(糸球体濾過量[GFR]低下)をきたす。』

 

『糸球体疾患の成立には、免疫的機序、血行障害による血行力学的機序や脂質代謝異常、糖代謝異常などが関与する。多くは、免疫学的機序によるものであり、糸球体に免疫複合体(IC)や抗体(免疫グロブリン)、補体の沈着がみられる。

現在、腎臓病でご来院頂いている患者さまは、慢性腎不全であり「糸球体疾患」については、ほとんど知識がありませんでした。そこで今回は、「病気がみえる vol.8 腎・泌尿器」を題材に、「糸球体疾患」の概要を1枚の表にまとめながら、理解を高めるということを行いました。

なお、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)は下から3番目に出ています。

気になったこと
今回作成した表の中で、1つ注目したいものがあります。それが光学顕微鏡による組織診断で、細胞増殖も血管壁(係蹄壁)の肥厚もなく、顕微鏡像が正常とほとんど変わらない「微小糸球体病変」のところに記載されていた「生理的蛋白尿」という病態です。本には次のような解説が出ていました。
『腎臓に器質的な異常を認めないが、一過性あるいは可逆的に蛋白尿がみられることを生理的蛋白尿という。機能性蛋白尿は、激しい運動や発熱、ストレスなどによる蛋白尿で、血行動態の変化によって血漿蛋白の濾過量が増大することで蛋白尿が生じると考えられている。
体位性蛋白尿は、立位(起立性蛋白尿)や前彎位(前彎位蛋白尿)でみられる蛋白尿で、腎静脈の圧迫による腎のうっ血や腎血管の攣縮によるものと考えられている。
また、ネット検索により、以下のような図(「蛋白尿の鑑別診断」)がありました。なお、この図は日本臨床検査医学会にあった、「臨床検査のガイドライン2012」から拝借しました。

こちらの図(上段)にもあるように「生理的蛋白尿」は「病的蛋白尿」とは全く別のものとして位置づけられています。そして、過度な精神的ストレスは定常的に自律神経系および内分泌系に悪影響を及ぼします。

また、体位性蛋白尿の原因とされる腎静脈の圧迫は、腎静脈に流れ込む細静脈や毛細血管までに対象範囲を広げると、体位の問題だけでなく、筋肉の硬結や筋膜の柔軟性の欠如という筋肉・筋膜の問題も血管に物理的ストレスを与える要因になると思います。

病に対する不安はストレスを高め、かつ長期にわたります。運動機会の減少は筋肉、筋膜の状態を劣化させ、血液循環に悪影響を及ぼします。
もし、これらのことが実際に起こるとすれば、糸球体疾患の本態による蛋白尿に加え、生理的蛋白尿による要因も加算されてくる可能性もあると思います。そして、これは鍼刺激による物理的治療が糸球体疾患の蛋白尿の問題改善に寄与できる一つの狙いになるのではないかと考えます。

なお、特に重要となる刺鍼ポイントは腎静脈近位の第12胸椎および第1腰椎下部脊柱際とその周辺の脊柱起立筋になります。

画像出展:「人体の正常構造と機能」


追記

週1回、計6回の施術の後に行った血液検査は、クレアチニン値の上昇が前月の1.18から0.61とほぼ半減されましたが、止めることはできませんでした。ご参考まで。

飲水の重要性

サラリーマン時代は風邪で会社を休むことはほとんどなかったのですが、小学生の頃は2ヵ月に1回ぐらい、熱を出して近所の医院にお世話になっていたように思います。その時、必ずお医者さんに言われていたのが、「水を飲んでいるか!?」というフレーズでした。
今回の本を読むまで、コーヒーを水分だと思っていた私が言うものおこがましいのですが、患者さまに「水分を摂っていますか?」とたずねると、「なるべく摂るようにしている。」という回答の方が「あまり意識していない。」より多いと思います。飲水が重要だということを、うまく患者さまにお話できれば良いのですが、残念ながら知識不足でした。
そこで、今回も本に頼ることにしました。図書館から借りてきたのが「知って納得! 水とからだの健康法」であり、ネットで購入したのが「病気を治す飲水法」です。後者は本文の中から重要と思う箇所をそのまま引用させて頂きました。

民間療法に理解が深かったとされる岡田道一博士は水の正しい飲み方として、次の3箇条を紹介されています。
1.朝起きたら、コップ2、3杯の生水を飲む。
2.1日中に合計10杯の水を飲む。
3.病気になったら、薬の前にまず水を飲む。
また、京都大学名誉教授で日本水質保健研究所所長などを務めた川端愛義先生は、水は自然の健康飲料だといい、正しい飲み方をすれば健康維持に効果を発揮すると述べています。そして、川端先生は、「生水美容説」を唱え、その中でいくつかの根拠を上げられています。

 

監修:佐巻健男

出版:小学館

1.水には人体の恒常性を維持する働きがある
人間の生理の基調にあるのは恒常性で、これがあるおかげで体温は常に36~37度を保っています。この恒常性は、水によって支えられています。また、ホルモン作用や酵素作用など、人体にとって大切な働きも水が重要な役割を持っています。美しさを根本で支え、保っているのが水、というわけです。
2.水には整腸作用がある
水は胃腸内の有毒・有害物質を排除して消化器の機能を調整する働きがあります。つまり、水には便秘にも下痢にも効力があるということです。美容の大敵といえば便秘です。水の整腸作用は、便秘を解消し美容に効果を上げるのです。
3.水は栄養を補給する
美容に必要な栄養やホルモンなどは本来、消化器を通して摂取され、体内でつくり出されるものです。それらが血液やリンパ液によって体中の組織に運ばれていくのです。そのためには、体内に十分な水分がなければなりません。いくら化粧をしても、体内の水分が不足すれば美しくはならないのです。つまり、水は内側からの化粧水なのです。
4.水は老廃物を排除する
人間のからだは食物と空気からエネルギーをとり、体内で必要な形に変えて活動しています。その過程では、つねに老廃物が生まれます。これらは速やかにからだの外に排出しなければ、美容はもとより健康をそこなうもとになってしまいます。水は汗や尿、あるいは便として、体内の老廃物を外に出し、健康と美容を保つために大いに役立っています。
5.水は肥満を予防する
水飲み法によって健康的なダイエットが実現可能です。

 

画像出展:「知って納得! 水とからだの健康法」

6.水は解毒作用を促進する
お酒を飲み過ぎたり、食べ過ぎたりしたとき、体内では解毒作用が行われます。このとき必要になるのが水の摂取です。水をとることで代謝活動が活発になり、しみ、そばかす、にきび、あるいはアトピー性皮膚炎のもとになる有毒物質の分解が進みます。健全な新陳代謝なしには肉体の若々しさも肌の美しさもあり得ません。この新陳代謝を調整するのが水なのです。要するに、いちばんの美容とは健康を保つことであり、そのために水は重要な役割をはたしているということです。

次の本は、今回購入したものです。著者の紹介などはブログの最後にある、訳者の林先生が書かれた『訳者あとがき』をご参照ください。

『関節痛、各種ヘルニア、アンギナ、喘息、うつ病、潰瘍、肥満、腫瘍、エイズに至るまで、元をたどれば、体細胞の内外の決定的水不足による代謝障害が原因であり、同一の原因にたどれる体内水不足の「叫び声」が痛覚となって現れ、もろもろの病名がつけられているというのです。その見事な説明がこの一冊に収められています。
収められている多くの治療レポートは、不安になっている病人に勇気を与えてくれるものです。細胞膜を通しての水の浸透メカニズムにおいて、水の分子だけが細胞内に浸透するため、治療に使うのは水道水で十分であると博士は説明しています。これも大切な点です。ペットボトルを買う必要はありません。飲みづらければ浄水器を付ければいいだけです。今日から水道水の蛇口をひねりましょう。』

著書:Fereydoon  Batmanghelidj(バトマンゲリジ)

原版の題名:Your Body's Many Cries for Water

訳者:林 陽

出版:中央アート出版

目次は次の通りですが、太字の項目には説明をつけています。

CONTENTS(目次)
各界の賛辞
序 薬で渇きを処理するな
CHAPTER1 なぜ薬で病気が治らないのか
 基本
 変えるべきパラダイム
 医学の誤診のもとを探る
CHAPTER2 新しいパラダイム
 ライフステージごとの水の制御
 理解を徹底させる
 その他の作用
CHAPTER3 消化不良痛
 結腸炎の痛み
 盲腸の痛み
 裂孔ヘルニア
 要約
CHAPTER4 リウマチ痛
 腰痛
 首の痛み
 胸の痛み
 頭痛
CHAPTER5 ストレスとうつ病
 水不足に関係する代償メカニズム
 エンドルフィン
 コルチゾン
 プロラクチン
 バソプレッシン
 アルコール
 RA(レニン・アンギオテンシン)系
CHAPTER6 高血圧
 高血圧の原因としての水不足
CHAPTER7 高コレステロール血症
 考慮すべき証言
CHAPTER8 肥満
 過食を定義し直す
 ダイエットソーダ
CHAPTER9 アレルギーと喘息
CHAPTER10 糖尿病
 インシュリン非依存性糖尿病
 トリプトファンと糖尿病
 インシュリン依存性糖尿病
CHAPTER11 エイズ
 エイズ研究の新展開
CHAPTER12 最も簡単な治療法
 快眠
 めまいの予防
 心臓発作の予防
 尿の色
 病気治療に役立てる方法
 塩ぬきダイエットの間違い
 医療制度と私たちの責任
 医療費の節減
 おわりに
訳者あとがき

CHAPTER1 なぜ薬で病気が治らないのか
基本
・『体のどんな働きも、水の流れに監視され、それと一体になっている。それで、「水管理」だけが、適切な量の水と水に乗って動く栄養素を最重要器官に真先に届かせる、唯一の手段になる。このメカニズムは天敵と捕食動物に対抗するためにますます強化された。それは生死をかけた究極のシステムであり、今の競争社会においても同じように働いている。
体内水分配において避けられないプロセスの一つが、あらかじめ決められた量以上の水を受け取らないように、特定部位が厳しく管理されることである。それは体のどの器官にもいえることだ。
水を充当する系の中で最も優先されるのは脳である。脳は体重全体の50分の1を占め、血液の18.20%を受け取っている。水の制御と供給をあずかる因子が活発になれば、水不足の警報が鳴りはじめる。それは冷却水の不足した車がオーバーヒートを起こすようなものだ。』
・『文明社会では、茶、コーヒー、アルコール、製造飲料が水の代わりになると考えられているが、この考えが致命的なミスを生んでいる。これらの飲料には確かに水が含まれているが、脱水成分も含まれている。それが飲料水分だけではなく、体に貯蔵されている水まで排除してしまうのである。』
医学の誤診のもとを探る
・『現時点では、喉の渇きが体の水不足の唯一受け止められている信号である。しかし、この信号は極度の水不足が発する最後のサインであり、喉の渇きを示さない段階で、すでに慢性水不足が起きているのである。ビタミンC欠乏から起きる懐血症、ビタミンB不足から起きる脚気、ビタミンD欠乏から起きるくる病、鉄不足が起こす貧血症等、どんな欠乏障害とも同じく、その症状をもっとも有効に治療する方法は、欠乏した成分を補うことである。慢性水不足の合併症が認められれば、その予防と初期療法はきわめて単純である。
この研究は、私が1987年の国際癌学会に講演者として招かれ、パラダイム転換の情報を提供する前から医師仲間に評価されていた。次のページに載せるベリー・ケンドラー博士の手紙は、慢性水不足を病の発生源とする科学的見解の正しさを確認している。大部分の変形性疾患の原因が慢性水不足にあることを説明するために、私は多くの文献を参照したが、彼はそれも調べている。
医学書を参照するとなれば、千ページを超える書物に目を通さなければならない。だが、人間の主だった病の理由を述べる段になれば、どの説明も同じである。「原因不明」の一語で、すべてが片づけられているのである。

 

画像出展:「病気を治す飲水法」

CHAPTER2 新しいパラダイム
その他の作用(水には溶媒と運搬以外にも多くの性質がある)
・『体のすべての代謝機能に欠かせない加水分解の働き。化学反応が頼っているのは水である。種子を発芽させ、新しい植物へ成長させるのにも似た生化学作用がそれである。』
・『細胞膜での働き。細胞膜に浸透する水の流れから電力(ボルト)がつくられ、ATP(アデノシン三燐酸)とGTP(グアノシン三燐酸)という、二大細胞バッテリーに蓄えられる。ATPとGTPは人体の化学的エネルギー源であり、特に神経伝達のさいに分子交換に使われる。』
・『細胞の構造を繋ぐ接着剤に似た働き。水はニカワのように細胞膜の固形部を結合し、高い体温の下でも「氷」のように固める作用を持っている。』
・『体内蛋白質と酵素は、あまり粘り気の無い溶液の中で、有効に働く。細胞膜に存在する受容器(受容点)も同じである。蛋白質と酵素は、粘り気の多い(水不足状態にある)溶液の中では有効に働かない。』
・『脳で生産された物質は、水に乗って、神経終末部の目標地点にたどり着き、情報の伝達に使われる。神経には、情報を梱包して流す「極微細管」と呼ばれる微細な水路が存在する。

 

画像出展:「病気を治す飲水法」

この非常に興味深い神経線維内の水路について、ネット検索したのですが水路として解説されたサイトを見つけることはできませんでした。しかしながら、東京大学で「研究のショーウィンドウ」とされる、UTokyo Researchの中に、「細胞内輸送の解明にかける思い」という記事があり、そこに出ていた図が、よく似ているのでお紹介させて頂きます。用語が微妙に違うのは原文を翻訳しているからかも知れません)

 

 細胞内輸送の解明にかける思い

『これまで、記憶や学習の研究では、シナプスの受容体や、電位を調節するイオンチャンネルなど、神経細胞の表面にあるものばかりが注目されていたのですが、実は、細胞内部の輸送も大きく効いていることがわかりました」と廣川特任教授は胸を張ります。

画像出展:「UTokyo Research」

このように、体のあらゆる機能を調節しているのは水である。体の溶媒たる水が、そこに含まれる溶質の働きを含め、体内のあらゆる機能を調節しているのである。この新しい科学的真理(パラダイム転換)を、未来のあらゆる医学研究の基礎とすべきなのである。』

CHAPTER3 消化不良痛
裂孔ヘルニア
・『水を飲むと、飲んだ量に応じて、モチリンと呼ばれるホルモンが分泌される。水を飲めば飲むほど、腸からモチリンが生産される。モチリンが腸に与える効果は、腸のリズミカルな収縮、上から下へと向かう蠕動運動を起こすことにあり、腸の中身を流す弁を、随時開閉することも含まれる。
このように、体内に十分な量の水があれば、すい臓は重炭酸液を生産し、胃の酸性物を受けとれるよう腸を準備できる。この理想的条件の下で、幽門は開き、胃の内容物を吐き出せるのだ。モチリンはこの働きを調節する中心的伝令である。』 (モチリンについてはブログ「便秘(大蠕動)」でも触れています)
・『重度の水不足合併症で、かなり誤解されているのが、過食症である。 ~中略~ 過食症の人は、食べものを胃にとどめられず、すぐに吐き出す抑えがたい衝動に駆られる。それで「非社交的症状」と呼ばれる。彼らの「空腹感」は、実際には、渇きの信号であり、吐きたくなる衝動は、先ほど説明した保護のメカニズムからくる。過食症の人が十分に水を補給し、食事をとる前に水を飲むようにすれば、この問題は解消する。

CHAPTER4 リウマチ痛
・『リウマチ関節炎とその痛みは、まずもって、患部の軟骨の表面が水不足に陥っている信号と見るべきである。関節痛は体の局所の渇きの信号であり、塩分の不足が一因を成していることもある。
関節の軟骨の表面には水分が多く含まれている。その潤滑機能のおかげで、関節が動くときに、対抗する面同士が自由に擦れ合う。骨細胞はカルシウムの層に浸っているが、軟骨細胞は水の豊富な基質に浸っている。軟骨の表面が擦れ合うと、細胞の一部が摩滅して剥がれ、骨表面の成長突起から新しい細胞が補充される。水の多い軟骨では摩滅する度合いは少ないが、水不足状態にある軟骨ではその割合が大きくなる。軟骨の再生と摩滅の割合が関節が有効に働く指標になる。
骨髄で活発に成長する血の細胞は、骨の中を通る水を軟骨に優先させる。血量を増やそうと血管を膨らませるときに、骨の硬い穴を通る支脈が十分に広がらないことがある。水と栄養を血管に頼る細胞には決まった割り当てがある。この状態で、より多くの水を運べるよう血が希釈されていなければ、軟骨に必要な血清を、関節嚢の血管から補給せざるを得なくなる。どの関節にもいえることだが、神経がつかさどるこの迂回メカニズムが痛みの信号を出す。
関節痛は関節が十分に水和されるまで圧力に耐えられない合図である。この種の痛みは飲む水の量を増やすことによって扱うべきである。そうすれば、一帯に流れる血は希釈され、軟骨に十分に水が行き渡り、骨に接する基礎から修復される。

画像出展:「病気を治す飲水法」

CHAPTER5 ストレスとうつ病
水不足に関係する代償メカニズム
・『水不足から起きてくる体内プロセスはストレスのそれと変わらない。水不足はストレスに等しいのである。ストレスが起きれば、それに関係する基本物質が体の貯蔵庫から引き出され、蓄えられている水も引き出される。水不足がストレスを、ストレスがさらに水不足を起こす悪循環がここにはじまる。
・『ストレス状態にあるといくつかのホルモンが過剰になる。体は「戦いか逃走か」の反応に向かって動き出し、危険な状態になる。体は人間の社会的変化とは無関係に、職場のストレスを含め、どんなストレス状態にあっても、「戦いか逃走か」の体制をとろうとする。ここで、いくつかの強いホルモンが分泌され、体がストレスからぬけ出すまで発動状態になる。その主なものが、エンドルフィン、コルチゾン解放因子、プロラクチン、バソプレッシン、レニン・アンギオテンシンだ。』
RA(レニン・アンギオテンシン)系
・『RA系は脳内ヒスタミンの発動に従属するメカニズムである。RA系は腎臓でも活発に動いているが、発動するのは体水量が減少したときである。RA系は水を保つために発動し、それに必要な塩分の吸収をうながす。水でもナトリウム(塩)でも、体に不足すれば、RA系が非常に活発になる。
RA系は、水とナトリウムが十分に使える量になるまで、毛細血管床と脈管系を収縮させる。それは血管系が淀みを起こさないためだ。測定可能なほど収縮が進めば「高血圧」と呼ばれる。血圧200で高いと思われるだろうか。私の診たイラン人は、高血圧の病歴がなかったが、政治犯収容所に送られたときに、血圧は300を超えていた。
ストレスが血管を縮ませる理由は簡単だ。人体の機能はすべてが絡み合っている。ストレスが起きれば、蛋白質、でんぷん(グリコーゲン)、脂肪などの貯蔵物質を出すために、水が使われる。その不足した水を補うために、RA系はバソプレッシン等のホルモンと力を合わせて、血管を収縮させる。
腎臓はRA系が活動する主な部位である。尿を生産し、余分な水素、カリウム、ナトリウム、老廃物を排出する責任を負っている。腎臓は、尿を生産するのに十分な水量に応じて、その働きを保つ必要がある。腎臓には尿を濃縮する力があるが、常時濃縮されていれば、腎臓を壊す原因になる。
・『腎臓障害は、長期的な水不足と塩分の欠乏により、RA系が発動している結果かもしれないのである。今まで、血管の収縮が体の水不足のサインと見られることはなかったが、いまや、体液のアンバランスを、移植も含む一部の腎臓疾患の主な原因と見なすべきときにきているのである。一度RA系が動き出せば、自然な停止装置が働くまで止むことはない。自然な停止装置の成分が水と若干の塩である。
・『コーヒー、紅茶、コーラを水の代用にしていればどうなるか。コーヒーと紅茶の天然刺激物には、大量のカフェインと、やや少ないセオフィリンが含まれている。これらは中枢神経系を刺激するだけではなく、腎臓に強い利尿作用を起こす水不足の因子である。コーヒー一杯には85mg、紅茶には約50mgのカフェインが含まれている。このように、カフェインは体内エネルギーを解放する力に作用する。その結果は誰でも知っているが、問題は体が望まないのに無理にエネルギーを解放することを知ることである。貯蔵エネルギーは減少し、一部のホルモンと神経伝達物質の働きが制御できなくなる。カフェインは、体の貯蔵エネルギーが低下するまで徹底的に作用する。』
・『カフェインはよい働きをすることもあるが、水の代用にばかりしていれば、水力エネルギーを生む力を体から奪ってしまうのである。カフェインのとりすぎは脳と体のATP貯蔵エネルギーを枯渇させる。これがコーラ世代の若者の注意散漫、コーヒー世代の大人に慢性疲労を起こす一因になっている。また、カフェインをとりすぎれば、心筋を刺激しすぎて疲労を起こす。』

下の資料は、こちらページの下段にある「ファイル」をクリックしたものです。

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日常生活の中におけるカフェイン摂取.pdf
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CHAPTER6 高血圧
高血圧の原因としての水不足
・『水を十分に飲み、体の要求すべてに応じるようにしなければ、体内の水の一部が血管にとられ、一部の細胞が水不足になる。それまで緩んでいた血管床は、収縮し、閉鎖に追い込まれる。体の水が不足すれば、細胞内で66%、細胞外で26%、血液では8%水が失われる。血管が血を失わないためには管腔を閉じるしかない。あまり使われていない毛細血管を閉じることによりこのプロセスが始動する。毛細血管を常時開かせるにはどうすればよいのか、水を外部から補うしかない。
毛細血管床がどれほど働いているかが、そこに流れる血の量を決定する。筋肉を使えば使うほど、その部分の毛細血管も開き、血流も増大する。高血圧の患者に運動が最も欠かせない理由がそこにある。毛細血管床を常に開き、血の流れを円滑にする必要がある。血管床を閉ざすもう一つの原因が水不足である。飲んだ水は最後には細胞に入る。水は細胞の体積を内側から調節し、塩は細胞外の水の量を調節する。それは細胞を囲む海のようなものである。』 

画像出展:「病気を治す飲水法」

訳者あとがき(冒頭の部分になります)
『この本はイラン革命で政治犯収容所に送られた医師が、薬の得られない環境の中で三千人の患者を水だけで治療した経験を基礎に、医学、生理学の見地から、本格的に体内水代謝の複雑な機構と、水による各種疾患の治癒プロセスを解明し、世界に先がけて公表したものです。
著書のバトマンゲリジ博士は、イラン生まれの医師で、イギリスの大学で医学を学び、医師の資格を得ました。祖国にもどり、各地に診療所をつくる仕事に従事した頃に、イラン革命が勃発し、政治犯収容所で病人の世話をすることになりました。
薬が満足に手に入らない収容所の生活で、重い胃潰瘍の患者に水を飲ませただけで痛みが消えたのに、非常な驚きを感じます。「医師としていろいろな臨床の場に接してきたが、このようなことははじめてである。」と、回想しています。
博士はこのできごとを機に、三年間にのべ三千人を超える患者に、薬のかわりに水を処方し、痛みを消して治癒させることに成功しました。そして、この予想もしない経験に医療の重要な突破口を見い出し、アメリカで本格的研究に入ります。賛同する医師仲間を集めて、「シンプル・イン・メディシン財団」を創始、飲水による症状の解消と無用な医薬品の常用への抵抗運動を推進しました。
博士がまっ先にはたらきかけたのは、全米医師会と国立衛生研究所でした。しかし、製薬産業と切っても切れない仲である二つの機関が、博士の提案を受け入れるはずもありません。医師会に絶望した博士は、自費で財団から機関誌を刊行し、著書も次々に出して、国民に直接訴えかける仕事に着手しました。ペルシャ語版と英語版で製作に着手した記念すべき最初の一冊が本書です。~以下省略~』

こちらが、バトマンゲリジ先生(Fereydoon Batmanghelidj)です。

英語になりますが、”watercure”というサイトに多くの情報が掲載されています。

重症五十肩(肩関節周囲炎)

重症五十肩の患者さまに来院頂いています。初診のときに肩関節の可動域を確認させて頂いたところ、屈曲(腕を前に振り上げる)については何とか30°程度ありましたが、伸展(腕を後ろに振り上げる)も外転(腕を横に上げる)も、自力ではほとんど動かすことができませんでした。人とのすれ違いでは、肩が軽くぶつかっただけで激痛のためうずくまってしまうということです。夜間痛は最も何とかしたい痛みでしたが、仰臥位(あお向け)になっただけで肩がずれるような感じがあり辛いとのことでした。そのため、施術では肘から下を小さな枕に乗せて頂くようにしました。家事や日常生活では、シャツの着替え、洗濯物を干すこと、髪を後ろで結ぶことなどはひとりではできないため、家族の方に手伝ってもらっていたそうです。
痛みの強さなどから、亜脱臼や腱板損傷も考えられましたが、二つの病院でのX線による診断はいずれも五十肩とのことでした。

下記の4つの絵は、“「肩」に痛みを感じたら読む本”からの出展です。左上は前方の「屈曲」と後方の「伸展」ですが、それぞれ可動域は180°と60°と定義されています。右上は外側に開く「外転」と内側にクロスする「内転」を示しています。「外転」の可動域は180°です。

下段は「水平内転」・「水平外転」、および「内旋」・「外旋」の説明となっています。すべて、クリックして頂くと拡大されます。



左は肩関節、右は肩甲骨に関する動作です。

画像出展:「改訂版 ボディ・ナビゲーション」


初診は昨年10月後半、治療回数は4月末の段階で25回に達しており、成果については十分とは言い難いのですが、夜間痛はなくなり痛みは我慢できる程度に改善されたため、家事および日常生活に関しては、家族の方に手伝ってもらうことなく、すべてご自分でできるようになりました。
そして、今一番何とかしたいことは、バスや電車のつり革を握って体を支えられるようになることです。
四十肩、五十肩は何もしなくても1年程度で治癒すると言われていますが、この患者さまの状態を拝見した時、「本当にそうだろうか?どうやって自然治癒するのだろうか?」という疑問を持ちました。そこで、1冊は図書館、1冊は購入と2冊の本から学ぶことにしました。

最初に読んだ本は“肩が痛い、腕が上がらない 五十肩”です。ポイントになると考えた部分をまとめました。

 

監修:加藤文雄(西東京警察病院院長)

出版:NHK健康Qブック

早い人で3ヶ月~半年。長い人は1年ぐらい。運動制限が非常に強い人は、さらに長くかかる傾向がある(急性期[炎症期]1~2ヵ月ー慢性期[拘縮期]2~4ヵ月―回復期3~6ヵ月)。
ある日突然くることもあるし、じわじわくることもある。どちらかといえば後者がほとんど。
・痛みと同時に肩の腫れや熱っぽさを伴うこともある。痛む場所は肩から上腕にかけてが多い。

・初めは肩を動かすときに痛むだけだが、症状が進むと動かさなくても肩が疼くように痛み思うように腕が上がらなくなる。
時間がたつと炎症は治まってくるが、その過程で線維性の物質が出てきて、腱板の周囲が癒着し肩の動きが悪くなってしまう。
・原因ははっきりわかっていないが、腕を上げた状態で長時間の作業をしたあとに起こりやすい病気だということは言える樹木の手入れや大掃除で高い場所を拭き続けたあとに発症することがよくある。ものを持ち上げようとした瞬間や、テニス、ゴルフのスイングなどの最中に突然激痛におそわれ、それ以降、肩を動かすたびに痛むケースも多い。また、無理な姿勢をとったり、打ち身を起こしたことから五十肩になったという場合もある。
腱板は痛みやすい環境にある。線維組織は加齢とともにちょっとした力で傷ついて、炎症を引き起こしやすくなる。しかも、もともと血管が少ない部位で、いったん傷つくと修復されにくい性質がある。
・腱板の中でも棘上筋の腱板は構造的に炎症を起こしやすくなっている。腱板が炎症を起こすと、滑液包や関節の内部にも炎症が波及するのが五十肩の原因であろうと考えられている。
・重症のケースで、治療期間を短縮したい場合は手術を選択することもある。(関節鏡視下受動術) 

 

この絵は棘上筋の場合を説明したものです。

画像出展:“肩が痛い、腕が上がらない 五十肩”

 

本の中では、60°を超えて外転動作ができない五十肩を「重症」とされています。

画像出展:“肩が痛い、腕が上がらない 五十肩”

 

 

急性期のリハビリです。ここでは利用する重りにアイロンが使われています。

画像出展:“肩が痛い、腕が上がらない 五十肩”

 

 

「寝るとき」の姿勢が紹介されていました。

画像出展:“肩が痛い、腕が上がらない 五十肩”

もう1冊は、“「肩」に痛みを感じたら読む本”です。

 

著者:鈴木一秀

出版:幻冬舎

こちらの本は5つの章に分かれていますが、その5つは以下の通りです。
第1章 わずかな肩の痛みでも“手術”につながるリスクが潜む
第2章 知らないでは済まされない「肩」の基礎知識
第3章 手遅れになる前に、まずはチャック!「Yes/Noチャート」で“実は気づいていない重症度”を30秒診断
第4章 今すぐ実践!重症度別「肩治療&ケア」
第5章 早期に治して痛みのないアクティブライフを送る

この中で、今回のブログに取り上げたのは第1章と第2章に関する項目になります。こちらもブログに残しておきたいと思った個所の要点を書き出しています。

第1章 わずかな肩の痛みでも“手術”につながるリスクが潜む
肩の痛みを訴える人が低年齢化している
・現在も原因は不明であるが、その発症によって肩関節の組織に変性が起きてくること(退行変性)と、それによって肩関節の周囲に炎症が起きることが影響していると考えられている。
ほとんどの場合、1年前後で自然と治ってしまうが理由は解明されていない。
・自然治癒が期待される疾患のため、来院されることが少ないため患者数の把握が難しい。
・最近では30代で肩の痛みを訴える人が増えている。肩凝りは四十肩・五十肩の予備軍である。
・肩凝りは筋肉疲労によるが、四十肩・五十肩は関節の周囲で起こる炎症が原因の症状。両者を見極めるポイントの一つが肩を動かせるかどうかということ。
多くの場合、肩関節への負担が長期にわたって蓄積されることで炎症を引き起こすので、姿勢の問題やパソコンやスマホのように肩関節に負担を強いるような日常生活は将来的な発症につながるリスクになる。
・肩凝りと四十肩・五十肩は別物だが深く関わっているため、肩が痛くて腕が上がらなくても肩凝りと勘違いしている人も多く、肩凝りで医療機関を受診するのは気が引けると思って放置してしまうことが多い。
対処法を間違えると肩が硬くなって動かなくなる。
・[専業主婦Aさんの事例]:『~~中略~~ ところが、痛みは取れたものの、ずっと肩を動かさずにいたことで硬くなり、腕が上がりづらくなってしまったのです。洗髪やドライヤーをかけたり、エプロンを後ろで結ぶことができないなど、日常生活動作(ADL)に難儀するようになりました。それでも、五十肩がまだ完全には治っていないからだと思い込み、回復すれば腕が上がるようになると信じて、無理に動かして再発しないようにと不自由な生活を続けていました。
そんな生活が1年半ほど続いた頃、一向に良くなる気配がなく、むしろ肩が固まって完全に動かなくなったため、さすがに「これはおかしい」と感じて来院されました。
Aさんの話から、罹患期間が2年近くに及ぶことからMRIを撮って確認したところ、骨には異常がなく、確かに五十肩ではありました。しかし、拘縮を起こしている状態で、いわば五十肩の終末像といえる状態ですので、もはやリハビリだけで治すのは困難となり、年齢的なことを考えると手術をしたほうが良いとお勧めしました。
人生80年の時代ですから、Aさんの人生もまだ30年以上あります。残りの人生を有意義に過ごすためにも、ここは手術を受けるのがベストと考えたAさんは、手術を受けることにしたのです。
幸い、Aさんの場合は内視鏡による手術で済みましたので比較的負担も少なく、その後もリハビリのために通院し、半年後には肩の柔軟性が回復して腕が上がるようになりました。
Aさんは、ただの五十肩だと軽く見て対処法を間違えたために、手術をしなければならない事態にまで進んでしまいました。』
自然には治らない四十肩・五十肩がある
・四十肩・五十肩は、年齢に関係なく仕事の内容や生活習慣によっては、誰でも起こり得る疾患である。自然に治る人がいる一方、Aさんのように初期の段階で適切な治療を行なわないと、肩が固まって動かなくなるケースがある。
自然には治らない四十肩・五十肩には、腱板が部分的あるいは完全に断裂しているために、痛みが取れないケースがある。これはX線画像では軟部組織である腱の状態を正しく判断するのが難しいためである。従って、痛みが強い場合はMRI検査の実施が望ましい。また、腱板が損傷する原因の中には、四十肩・五十肩において、肩を動かさないと硬くなってしまうからと、痛みが残っているのに無理な運動を続けたことで症状が悪化し、ついには腱板が切れてしまうこともある。
肩関節の専門医は意外と少ない
・当院(麻生総合病院)には肩の痛みを訴えて受診する人が年間約1200名、その1割が腱板断裂である。罹患期間も2年以上という人が多い。
・日本肩関節学会に所属している肩関節の専門医は全国で1600人しかいない。
専門医でなかったり、MRI装置を持っていない場合はX線画像だけの判断となるため、腱板損傷を発見できず、通常の四十肩・五十肩と診断されることもある。

四十肩五十肩では、特に肩があがらない症例(広範囲腱板断裂)に対してはリバース型人工肩関節置換術という最新の手術も行なっています。』

『肩関節に関する基礎および臨床研究の発表、連絡、提携及び研究の促進をはかり肩関節医学の進歩普及に貢献し、もって人類の福祉に寄与することを目的とする。』 

第2章 知らないでは済まされない「肩」の基礎知識
頼りない肩関節を補強しているインナーマッスル
・肩関節は広い可動域がもつが、骨格による支えはすくなく安定性に問題がある。そのため、その問題を回避するために活躍しているのが筋肉や腱、靭帯、関節包などの軟部組織である。深層にあって肩関節を安定させると共に、微妙な動きをコントロールしているのがインナーマッスルの棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋である。これらの筋肉の両端から出ている「腱(結合組織)」は、他の部分の腱よりも長く、板状をしているため腱板といわれているが、これらの4つの筋群は上腕骨を取り巻いているため、「ローテーターカフ(回旋筋腱板)」とも呼ばれている。

 

画像出展:「人体の正常構造と機能」

肩甲骨を前(腹側)から補強する「肩甲下筋」、後ろ(背側)から補強する「棘下筋」と「小円筋」、前後から補強する「棘上筋」のローテーターカフに「三角筋」を加えた5つの筋が治療の基本です。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

加齢に伴い腱板機能が劣化したり、姿勢や生活習慣の影響で肩甲骨機能が低下すると、肩関節の中が不安定になり、ちょっとした動作が関節包を刺激し傷つけ、炎症を起こすことがある。この状態がいわゆる四十肩・五十肩の痛みの強い時期になる。炎症が治まると傷ついた関節包は縮こまった状態で治癒するが、この時期が四十肩・五十肩の動かなくなった時期(拘縮期)になる。また、加齢によって皮膚の弾力性が失われ、たるみやシワができるように、肩の軟部組織も年齢とともに弱くなって傷つきやすくなる。ちょっとした刺激でも傷つき、狭い空間で炎症を起こして腫れる。そうなると、痛くて腕を上げることは困難になる。ときには弱くなったインナーマッスルが切れる、腱板断裂にいたる。
体の表面を覆っているアウターマッスル
アウターマッスルはインナーマッスルの筋群を覆って肩の強度を高めているおり、三角筋や僧帽筋などがある。
・日常生活では、肩を大きく動かす動作をすることは少ない。また、肩甲骨を支えて腕を引き上げる働きをしている僧帽筋は、腕の重さを支えるために、ある程度の力で常に収縮し緊張した状態にある。そのため血液循環が悪くなりがちであり、筋膜の癒着が起こりやすい。
四十肩・五十肩は関節包やインナーマッスルに起こる炎症であり、肩凝りはアウターマッスルに起こる血行不良と筋膜の癒着といえる。
筋肉が緊張するとなぜ血流が悪くなるか
筋線維が緊張すると、筋線維の1本1本が太く短くなって筋線維を包んでいる筋膜を圧迫し、筋肉はパンパンになる。このため筋膜の中では筋線維どうしの押し合いとなるが、その圧力で押しつぶされるのは筋線維の中を通っている血管や神経である。そのために血流が悪くなり筋肉は硬くなる。特に静脈の血管は力強い動脈とは異なり柔らかいパイプである。そのため、筋線維の圧力で簡単に押しつぶされ、うっ血を起こす。しかしながら、筋肉が緊張と弛緩を繰り返す場合においては、この圧迫と解放の連続は静脈に流れる血液を心臓に送り返す働きとなる。もし、緊張だけが一方的に続くと、新鮮な血液を送ることも、老廃物を回収することも困難になる。
炎症が起こるとなぜ痛みが生じるのか
・炎症が起こっている肩周囲には、免疫に関わるたくさんの細胞が集まっている。四十肩・五十肩の場合は、病原体が原因で起こる疾患ではないが、炎症が起きているところには異変を察知した免疫細胞が集まっており、治そうと働いている。この免疫に関わる細胞には色々な種類があり、それぞれに役割が異なる。中には、炎症や発熱を促す働きをしている細胞や、痛みを誘発する物質(発痛物質)を分泌させる細胞もある。その一方では、炎症や痛みに関わる物質を中和し、鎮静化させる働きを持った細胞もある。炎症が起きて痛いときには、それに関わる細胞が優位に働いており、炎症が治まり痛みが和らいできたときには鎮静化させる細胞が活発に働いているのである。つまり、炎症は一種の防御反応であり、治る過程で起こる現象ともいえる。

付記1「臨床家のためのトリガーポイントアプローチ」

トリガーポイントを広められた黒岩先生の著書である「臨床家のためのトリガーポイントアプローチ」の中に五十肩の治療に関する記述がありましたので、一部をご紹介させて頂きます。

 

著書:黒岩共一

出版:医道の日本社

・五十肩は、治療一回目に劇的改善が得られることがまれな難しい症状である。試行錯誤的刺鍼を繰り返した結果、治りにくい理由として言えることは、大量の責任トリガーポイントの広範囲な分布である。責任トリガーポイントの形成頻度の高い筋は三角筋、肩甲下筋であるが、慢性化・重症化して来院した患者であれば、肩甲間部、肩甲帯(特に腋窩後壁を走行する回旋筋群)、上肢、さらには前胸部の筋にも処置の必要な責任トリガーポイントが認められる。
五十肩の治療で最も重要なことは肩以上に頚と背中、特に大椎近傍の夾脊穴などの刺入である。これは夜間痛がある場合は必須である。(「大椎近傍の夾脊穴」とは、第7頚椎棘突起と第1胸椎棘突起間にあるのが大椎というツボですので、このツボの上[頚]と下[背中]にも刺鍼するということです)
五十肩で一番多いのは、自発性に肩の前方が痛むタイプである。腕を挙げたり(屈曲・外転)、内旋しても痛む、すなわち運動痛もある。増悪すれば夜間痛も発現し苦しむことになる。
本来はこの前部の痛みが三角筋トリガーポイントによるものか棘下筋からの関連痛かを鑑別する必要があるが、現実的にこの作業は非常に難しいため、臨床では拘らない。実際は、まず棘下筋を徹底的に攻めて棘下筋トリガーポイントを探すことである。そのためには、肩甲骨外縁とほぼ平行に内下方外上方に走る索状硬結と、その内側にある500円硬貨位の円盤状硬結を丁寧に触擦する。次に肩甲棘の外1/3あたり下縁から、三角筋粗面に向かって走る三角筋後部線維中の硬結とその中のトリガーポイントを検索する。この2つの硬結部のトリガーポイントに刺鍼して、肩の前の痛みが再現されたら、三角筋の後部線維、棘下筋を中心に治療する。もし、関連痛が起こらなかったり、関連痛が肩前面に放散しない場合には、三角筋の前部線維と肩甲下筋形成トリガーポイントを疑う必要がある。

 

最も多い、肩の前方が痛むタイプに関して、施術に迷ったならば、まず棘下筋に注目することを黒岩先生は推奨されています。

画像出展:「臨床家のためのトリガーポイントアプローチ」

付記2: fasciaリリース治療 (ブログ参照:「エコーガイド下fasciaリリース」)

注)当院ではエコー(超音波診断装置)を利用した治療は行っておりません。
Fascia(ファシア)とは、線維性結合組織の総称であり。皮膚、皮下組織、筋膜、腱、靭帯、脂肪体、腹膜、髄膜、骨膜すべてが含まれる。とされています。そして、fasciaリリース治療は原因となっている癒着部位に働きかけ解放するというものです。
 

 

画像出展:「Fasciaリリースの基本と臨床」

例えば、四十肩・五十肩は関節包周囲での癒着は可動域に制限をもたらしますが、それは上図のように筋膜どうしだけでなく、筋膜と骨膜、筋膜と浅筋膜(皮下組織)、腱と骨膜など様々な組織間で癒着が生じる可能性があります。 

エコーで画像を確認しながら鍼を使ってfasciaリリースを行っている先進的な鍼灸院はすでにありますが、より効果的な処置は、医師による注射(生理食塩水など)を用いる方法です。 

鍼はGrade2、注射はGrade3となっています。  画像出展:「Fasciaリリースの基本と臨床

下の写真は棘下筋に対するfasciaリリースを行っている様子です。いずれも「Fasciaリリースの基本と臨床」の画像です。クリックすると拡大されます。


課題は「fasciaリリース」を行っている整形外科がまだまだ極めて少ないことです。
埼玉県では羽生総合病院の和漢診療科などで行われています。以前からfasciaリリースに関心が高かったこともあり、疲れがたまってくると不穏なギックリ腰対策のため、昨年12月、約1時間の東北道をドライブし和漢診療科で治療を受けてきました。患部が腰部のため、残念ながらエコーに映し出された自分自身の画像を見ることはできませんでしたが、刺針時の痛みはほとんど無く、注射液が注入される感覚を体験できました。その後4ヵ月、気になるレベルの不穏な状態は発生していません。

『腰痛、膝痛、五十肩などの痛みに対して、最新の治療である「筋膜注射」や仙腸関節ブロックを行っている。』

なお、「fascia」と「トリガーポイント」をどう位置づけて理解したら良いのかについては、「Fasciaリリースの基本と臨床」の中で次のような説明がされています。

『トリガーポイントはあくまで生理学的に定義された用語(過敏となった侵害受容器)であり、治療“部位”検索としての解剖学的な位置を示す用語としては適切ではない。トリガーポイントが存在する場所は基本的にfasciaであると想定しているため、治療部位検索の上でトリガーポイントという用語は本書では用いていない。さらに、fasciaの異常(例:炎症性、mechanically-insensitive afferentsによる機械的痛覚過敏、滑走性・伸張性障害)による症状を包括するための概念としてもトリガーポイントだけでは不十分である。』

腸内フローラ(腸内細菌叢)

腸内フローラと腸内細菌叢は同じものですが、「細菌叢」とは「多種多様な細菌の集まり」ということです。
「専門学校時代に習ったかなぁ?」というのが感想でした。そこで、久々に生理学の教科書を広げたところ、次のような内容が別々に掲載されていたのを確認できました。
1.大腸内の消化と吸収―腸内細菌
大腸内には、大腸菌をはじめとして多数の細菌が常在している。腸内細菌は小腸で消化しきれなかったものを分解する。食物線維は腸内細菌の働きにより発酵されて、酪酸・酢酸やCO2、H2、メタンなどのガスを発生する。アミノ酸は腸内細菌によりインドール、スカトールなどを生成し、糞便臭の原因となる。
2.生体の防衛機構に働く組織と因子―生体表面のバリア
皮膚や粘膜表面には、病原性のない常在菌が細菌叢を形成しており、病原菌が生育しづらい環境に保たれている。

 

絵もありました。腸のところにも「常在菌の細菌叢」とありますが、やはり学んだ記憶がありません。

画像出展:「第2版 生理学」

一方、「人体の正常構造と機能」でも同じように調べてみたところ、次のような記述がありました。
腸内の常在細菌叢は、消化管粘膜免疫系の維持と制御に深く関っている。
これを見て、「腸内細菌」と「消化管粘膜免疫系」のそれぞれの働きを把握できていないこと。あやふやな知識がぐちゃぐちゃになっていることが分かりました。

消化管粘膜免疫系(腸管免疫系)について、ネット検索すると「ライフサイエンス 領域融合レビュー」という学術サイトの中に関連する記事がありました。専門的な内容ですが、その記事の「要約」の部分をご紹介させて頂きます。なお、「ライフサイエンス 領域融合レビューは、大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 ライフサイエンス統合データベースセンター から発信・公開される日本語コンテンツのひとつ」とのことです。
腸内細菌と腸管免疫  
要約:『消化管はユニークな免疫系を構築している。そこでは、強い炎症活性をもつ免疫細胞と同時に抑制能の強い免疫細胞がバランスよく生み出されている。これは、消化管がさまざまな微生物の侵入という危険につねにさらされているのと同時に、日常的に接する無害な食物や腸内フローラに対しては不必要に免疫応答しないよう制御される必要があるためである。こうしたバランスよく制御された消化管免疫系の構築において、腸内フローラが重要なはたらきをしていることが徐々に明らかになってきている。腸内フローラを構成する個々の細菌種は、それぞれ異なる様式により消化管免疫系に影響をあたえる。たとえば、セグメント細菌とよばれる消化管に常在する細菌はマウスの小腸の粘膜固有層においてTh17細胞の分化を強力に誘導する。一方で、クロストリジアに属する消化管に常在する細菌は制御性T細胞の数を増加させその機能を高める。そして、腸内フローラの細菌種の構成の異常は免疫の異常へとつながり、さまざまな疾患を誘発する。ここでは,腸内細菌に影響をうけて構築されているユニークな消化管免疫系について紹介する。』

今回、勉強のために参考にさせて頂いた本はこちらです。

 

著者:藤田紘一郎

出版:ワニブックス

「はじめに」に続いて、目次でもある「30の方法」をご紹介しています。その後、特にブログに残しておきたい要点を書き出しています。なお、目次で太字になっているところが、それぞれの要点の元になった「方法」です。

 

はじめに
『わずか数年の間に、腸内細菌をとりまく環境は激変しました。近年の遺伝子研究とコンピュータの発達を受けて、腸内細菌の大規模な遺伝子解析が行われたことが一つのきっかけとなっています。
以前は、腸内細菌の研究は、培養によって種類を特定する方法しかありませんでした。このとき、腸内細菌の数は500種類、100兆個と推定されていました。ところが、遺伝子解析によって、腸内細菌は3万種、1000兆個もいるとわかってきました。
また、かつては「善玉菌が腸によいことをして、悪玉菌が悪いことをする」と単純に語られていた腸の世界が、実は非常に複雑であり、体と心の状態を支配するほどの影響力を持っていることが明らかになってきたのです。

その影響力とは、私たち人間が感じているよりもすさまじいものです。健康も病気も腸からつくり出されるといっても過言ではないほどです。腸内細菌の乱れが起こす病気は、風邪や食中毒などの感染症にとどまらず、がんや肥満、動脈硬化症、糖尿病、脳卒中、心筋梗塞などの生活習慣病、認知症、うつ病、アレルギー疾患、自己免疫疾患にまで及んでいるのです。しかも、最近の研究では、自閉症などの発達障害や、パーキンソン病にまで関与している可能性が示されています。(以下省略)』

1.私たちの腸にすむ「もうひとりの自分」を意識せよ
2.あなたにはあなただけの腸内細菌叢があることを知ろう
3.病原体を退治する“免疫の武器”が腸内細菌の選別を行っている
4.腸内フローラは数日あれば変わる!生かすも枯らすも毎日の生活しだい
5.細菌を殺しては健康になれない!おおらかにつきあう気持こそ「菌活」「腸活」の基本
6.人類は細菌のおかげで立派な脳を持てた。うぬぼれてはいけない
7.がんやアレルギー、うつ病は人類の衰退を示す「退化病」
8.納豆な土壌菌の塊。毎日食べておけば腸内フローラも男性力も衰えない
9.食物繊維を食べていると、腸内細菌が善玉物質をつくり出す
10.「おデブ菌」をおとなしくさせれば、肥満は治る
11.食の好みは、腸内細菌に操られている。「酢玉ネギ」で腸内環境の改善を
12.食物繊維をエサにしていれば悪玉菌は悪さをしない
13.除菌活動に熱心になってくると感染症や食中毒にかかりやすくなる
14.免疫システムは腸内細菌にコントロールされている
15.土壌菌は食べなければいけない。ピロリ菌は除菌してはいけない。
16.酵素食品をとっても体内の酵素は増えない。腸内細菌が多くの消化酵素をつくり出す
17.サプリメントを飲んでも腸内細菌が働かなければビタミンは得られない
18.腸内細菌を増やし、小麦粉・牛乳を遠ざける食事療法で自閉症が改善される可能性
19.腸を鍛えればうつ病はよくなる!人の幸福感をつくるのは腸内細菌だ
20.イライラや不安、カッとなりやすい心は、汚れた腸からつくられる
21.認知症は「腸内細菌」と「水」で予防できる
22.腸にすむ「マイ乳酸菌」はオリゴ糖で増やせる
23.ヨーグルトは、菌が生きたまま腸に届かなくてもよい
24.医者に金を払うよりも味噌屋に払え
25.「白い炭水化物」は腸内細菌を疲れさせる
26.病気にならない体づくりには肉や油も必要だ
27.保存料、食品添加物、抗生物質は腸内細菌を減らし免疫力を低下させる
28.冷凍機キノコ、ニンニク酢、昆布酢で活性酸素の害を消す
29.腸に開いた穴を塞げば大人の食物アレルギーはよくなる
30.日本人の腸内フローラは世界で最低水準。毎日の大便チェックを状態改善に役立てよう

おわりに ~笑う者の腸には福来る~

1.私たちの腸にすむ「もうひとりの自分」を意識せよ
・腸内細菌は約2kg、腸内の壁にくっついている。
・米国では2007年から1億5000万ドル以上と5年間の歳月をかけ、国立衛生研究所が「ヒト・マイクロバイオーム・プロジェクト」を実行した。腸内細菌一つ一つのDNA配列の全般にわたる解読を目指した。マイクロバイオームとは「細菌叢」のことで、微生物の生態系を意味する。

・腸内細菌から見れば、人間は「宿主」になる。宿主とは寄生生物に寄生される側の生物のこと。私たちと腸内細菌は共生関係にある。 
・善玉菌と呼ばれる菌だけが体に必要なのではなく、悪玉菌も日和見菌もとても大事な働きを担っている。
・微生物の世界は壮大で複雑なため、有用なものを選び、不要なものは排除する、という選別を宿主ができるものではない。

2.あなたにはあなただけの腸内細菌叢があることを知ろう
・一卵性双生児や親子であっても、両者の類似性はさほど高くない。
・人間の遺伝子は20,000~25,000個。腸内細菌の遺伝子数は、3,300,000個にも上る。
生後わずか1年間のうちに、生涯にわたる腸内細菌の組成は決定づけられてしまう。母親の胎内は完全なる無菌状態。菌の洗礼は産道を通る時、そして外界に産み落とされた瞬間から、赤ちゃんは膨大な細菌を浴び、腸や皮膚、気道などで細菌たちが繁殖していくことになる。生後1年間で、赤ちゃんはまるでスポンジのように細菌を取り込んでいく。
・赤ちゃんがなんでもなめたがるのは、多種多様な細菌をとり込んで立派な腸内細菌叢をつくろうとする本能である。

3.病原体を退治する“免疫の武器”が腸内細菌の選別を行っている
・免疫の主な働きは、「感染からの防衛」「健康の維持と増進」「老化と病気の予防」。その免疫力のおよそ70%を腸がつくっている。
・腸が人体の免疫の大半を担うのは、病原体が腸から侵入するからである。腸は「内なる外」である。人の消化管は口から肛門まで9メートルにも及ぶ一本の管になっており、腸には多くの免疫組織が集まるようになった。

この絵をご覧になると、中央の消化管が「内なる外」(体内にあるようで、実は体の外側、皮膚と同じ位置づけ)であることがご理解いただけると思います。

画像出展:「イラスト解剖学」

・腸管の免疫では「自己」と「非自己」がたえず識別されている。食べたり飲んだりしたものも、腸にとっては外から侵入してきた非自己である。そこで、腸は食べたものを分解してブドウ糖やアミノ酸、脂肪酸などの最小粒子にし、非自己物質としての機能を失わせる。これが腸の行う「消化」の働きである。消化されたものは、腸管の表面を覆う上皮細胞から体内に吸収される。
・腸の上皮細胞の表面には粘液がある。この粘液には、消化された栄養素にまぎれて病原体が体内に侵入しないように殺菌物質やウィルスを不活化する物質が含まれている。また、「IgA抗体」という免疫物質も大量に存在している。
・抗体とは、特定の非自己物質にくっついて、その異物を排除する分子のことである。つまり、異物を退治するための武器だと考えるとよいだろう。私たちの免疫は、どんな異物に対してもぴったりの抗体をつくり出すことができるのである。
・これまで、IgA抗体は腸粘膜の中にあって、侵入してくる病原体を殺す物質と知られてきた。しかし、実際には腸内細菌の選別にも働くことが明らかにされた。
・IgA抗体は、腸の粘液でつくられる。また、母乳の中にも含まれる。とりわけ母乳が初めて出す初乳には、たくさんのIgA抗体がある。初乳の重要性は昔から伝えられていることであるが、それは生後まもない時期の感染症を防ぐためといわれてきた。ところが、初乳は細菌を腸にとり込むために必要だったのである。

4.腸内フローラは数日あれば変わる!生かすも枯らすも毎日の生活しだい
・体は自分ひとりだけのものではなく、1000兆個の腸内細菌たちと共有している。成人の体はおよそ60兆個の細胞から構成されているが、私たちの腸には、人体の全細胞より16倍以上もの数の細菌がすみついている。
・食生活が乱れて腸の状態が悪ければ腸内フローラは荒れる。体に悪さをする細菌が爆発的に増えてしまえば、優良な菌たちはとたんに数を減らす。ただし、腸内フローラには野生の花畑と決定的に違う点がある。腸内バランスはひとたび崩れても、野生の花畑ほど再生に多くの時を必要とはしない。細菌の増殖力は植物よりずっと強いからである。つまり、宿主が腸内フローラの乱れをいち早く察知して適正な努力を行えば、わずか数日間のうちに美しく整えられるのである。
消化のしくみは、はじめから腸内細菌との共生ありきで組み立てられている。腸だけの消化能力では、体が欲するように栄養素をとり入れることはできない。
・便のうち食べカスは5%、60%が水分で、20%が腸内細菌とその死骸、15%は腸粘膜細胞の死骸である。

免疫機能も腸内細菌との共同作業によって初めて成り立つものである。腸にたくさんの細菌がすむのは、病原体の侵入を防ぐためでもあるが、腸内細菌は縄張り争いをしながら腸の中に自分の生息場所を守っている。外から新たな細菌が侵入してくると、いっせいに攻撃してその排除に働くのである。しかも、腸内細菌は、腸にいる免疫細胞を活性化する力もある。つまり、免疫システムだけでは十分な免疫力を発揮できず、免疫力を高めるには腸内細菌を増やすことが大事なのである。

6.人類は細菌のおかげで立派な脳を持てた。うぬぼれてはいけない
・脳も腸から分化した臓器である。腸にはもともとニューロンなどの神経細胞が存在していた。また、心の状態を築くセロトニンやドーパミンなどは、脳内で分泌される神経伝達物質と思われているが、その起源は腸にある。腸内細菌が腸の多くの働きを肩代わりする中で、腸内細菌は仲間どうしでの情報伝達が必要になっていった。セロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質は、腸内細菌間の交流のために必然的に生まれたものだったのである。たとえば、「ビタミンを生成しましょう」「外敵が来たぞー!」などといった情報の伝達を、神経伝達物質を介して行っていたのである。

12.食物繊維をエサにしていれば悪玉菌は悪さをしない
・腸内細菌たちの大好物は水溶性の食物繊維

14.免疫システムは腸内細菌にコントロールされている
・マクロファージは「自己」と「非自己」を見極める力の特にたけている。

15.土壌菌は食べなければいけない。ピロリ菌は除菌してはいけない。
免疫力が低下すると、システムの統制をとれなくなり、免疫細胞は何が本当の「非自己」なのか見極められなくなる。
・ピロリ菌は日和見菌である。宿主の免疫力がしっかり働いている時には体に良い働きをする共生菌である。ピロリ菌が悪さを始めるのは、宿主がストレス過剰の状態にあって免疫力が低下しているときである。こうなると、ピロリ菌は胃を荒らす方に働いてしまう。細菌とはそもそもそういうものである。細菌自身は、自分が宿主にとって悪玉か善玉かなど考えていない。環境に応じて自分の居心地の良い環境を築こうと、せっせと働いているだけである。

17.サプリメントを飲んでも腸内細菌が働かなければビタミンは得られない
・私たちの腸はビタミン類を合成する機能を持っていない。食べたものからビタミン類を合成するのも腸内細菌たちの働きである。
・腸が元気ならば体が若返る理由の一つは、腸内細菌のビタミン合成力に隠されていたのである。
・ホルモンの一部も腸内免疫がつくっている。消化管ホルモンのセクレチン、コレシストキニン、インクレチンなど。
・強力な抗がん作用をもつエクオールも腸内細菌が大豆イソフラボンからつくり出す成分。ただし、このエクオールをつくれるのは、イソフラボンと相性のよい腸内細菌をもった人だけ。

 

画像出展:「腸内細菌を味方につける30の方法」

18.腸内細菌を増やし、小麦粉・牛乳を遠ざける食事療法で自閉症が改善される可能性
・自閉症の子どもは、そうでない子と比べて、腸内細菌の多様性が乏しいという報告がされている。

19.腸を鍛えればうつ病はよくなる!人の幸福感をつくるのは腸内細菌だ
・腸内フローラの組成は、生後だいたい1年間で決まってしまうが、腸にすみついた細菌たちの数はたえず変動している。たとえ乳児になんらかの問題により腸内フローラの多様性を十分に築けなかったとしても、今ある腸内細菌を増やす生活を送ることで、腸内環境は変わってくる。そうした変動が、脳や心の状態にまで影響を与えることがわかってきた。
・セロトニンとドーパミンはあわせて「幸せホルモン」と呼ばれるが、その原料となる前駆体は、実は腸でつくられている。そのため、腸内環境が悪化すると、幸せホルモンの分泌量は著しく減ってしまう。腸の健康は脳の健康であり、脳の健康は腸の健康である。生物にとってもっとも重要な臓器である腸と脳は、強く影響を及ぼしあいながら動いている。そうした両者の関係を「脳腸相関」という。
・トリプトファンからセロトニンの前駆体がつくられる際は、ビタミンB6が使われる。また、ドーパミンはフェニルアラニンという必須アミノ酸からドーパミンの前駆体になるまで葉酸やナイアシン、ビタミンB6が必要とされる。
・腸内細菌たちがつくり出した幸せホルモンの前駆体を、脳へと送り出しているのも腸内細菌である。

20.イライラや不安、カッとなりやすい心は、汚れた腸からつくられる
・九州大学の須藤信行教授らのグループは、系統的な研究により、人間の体は有害なストレスを受けたときに、「視床下部—下垂体—副腎」という流れを介して腸内細菌に悪影響を与えることを明らかにしている。有害なストレスを脳が察知すると、消化管の局所で「カテコラミン」が放出され、腸内フローラに直接的な影響を与えていることがわかったのである。カテコラミンとは、アドレナリンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質の総称である。これらはストレスホルモンとも呼ばれており、ストレスを感じると発生し、動悸や血圧の上昇、発汗、血糖の上昇、覚醒などの不安な変化を体に与える。須藤教授の研究では、このカテコラミンが腸内で発生すると、大腸菌の増殖が進み、腸管局所での病原性が高まることが認められた。カテコラミンが腸内細菌の病原性を強めさせる作用は、大腸菌以外の細菌でも観察されている。このように、不安や緊張によるストレスは、腸内細菌のバランスを著しく乱す。その乱れた腸内環境が脳へ情報を送ると、脳内ではストレスホルモンがつくり出される一方、セロトニンやドーパミンなどの幸せホルモンの量を減少させる。それによって脳が不安と緊張を増強させるという循環ができあがっているのである。

21.認知症は「腸内細菌」と「水」で予防できる
・人間の脳は、活性酸素の害を非常に受けやすい臓器である。人体を形づくる成分のうち、もっとも酸化しやすいのは脂質である。人間の脳は、約80%が水であるが、水分を除いた部分のうち、約60%が脂質からできている。その脂質が活性酸素に過剰にさらされ続けると、褐色の色素沈着を起こす。これが脳内で蓄積されてくると、「アミロイドβ」や「タウタンパク」などのゴミタンパクが大量につくり出され、さらに活性酸素を過剰に発生させるようになる。こうなってくると、脳の神経細胞が変性し、萎縮するようになるのである。つまり、活性酸素の過剰発生を防ぐことが最大の予防法といえる。

22.腸にすむ「マイ乳酸菌」はオリゴ糖で増やせる
・最近の研究により、腸にはその人特有の乳酸菌がすみついていることが明らかになった。

24.医者に金を払うよりも味噌屋に払え
・匂いが強いというのは、発酵力が高くて、菌が元気だという表れである。たくさんの種類の細菌が数多くいる発酵食品のほうが、腸内フローラの活性化には効果的である。

25.「白い炭水化物」は腸内細菌を疲れさせる
・たしかに白米や、白い小麦粉を使かったパンやうどんなどの麺類は、おいしいものである。しかし、そのおいしさは、腸が感じているのではなく、脳が感じるものである。脳がブドウ糖をとくに必要とするのは、とっさの判断やストレス時の反応など、瞬発的な活動をするときである。現代社会のようにストレスフルな状況にあると、脳はたえずブドウ糖を要求することになる。体が疲れているときにもブドウ糖を欲する。こうしたときにブドウ糖が入ってくるから、脳は「おししい」と感じるのである。ところが腸は白い炭水化物が大量に入ってくるのを嫌がる。

・小腸の直接の栄養源はグルタミン酸というアミノ酸の一種である。昆布やチーズ、緑茶、シイタケ、トマト、魚貝類に豊富な「うま味」成分である。

・大腸の栄養源は、腸内細菌が食物繊維を発酵させてつくる短鎖脂肪酸である。

・小腸も大腸も、白い炭水化物を必要としていないのである。それにもかかわらず、白い炭水化物が大量に入ってくると、腸はまっさきに消化吸収のために働かなければならない。脳がブドウ糖を執拗に欲するからである。

27.保存料、食品添加物、抗生物質は腸内細菌を減らし免疫力を低下させる
腸内細菌に特に悪影響を与える化学物質は防腐剤と抗生物質である。
・体に生じる風邪の症状は、免疫細胞が病原体を排除する際に起こる炎症である。

28.冷凍機キノコ、ニンニク酢、昆布酢で活性酸素の害を消す
過剰な活性酸素は腸内フローラにもダメージを与え、細菌数を大きく減らしてしまう。

29.腸に開いた穴を塞げば大人の食物アレルギーはよくなる
・腸内フローラが“いい子”に育てば、健康を増進する物質をどんどんつくり出すとともに、免疫力を高めてくれる。
・腸の消化吸収能力を超えて食べることも、腸内細菌に混乱を起こす元凶である。
・「人+腸内細菌」で人間である。

おわりに ~笑う者の腸には福来る~
腸内フローラを元気にする生活習慣
1.朝起きたら外に出て深呼吸をする
2.疲れない程度の適度な運動をする(朝のラジオ体操でもOK)
3.ぬるめのお風呂にゆっくり浸かって腸を温める
4.夜更かしをせず、寝室は真っ暗にして寝る
5.休日には自然の中に出かけていく
『腸内細菌によい生活習慣とは、宿主である私たちにとって楽しいこととわかります。楽しいという気持ちが腸内環境を整えてくれるのです。腸内細菌を人生の味方につけてください。より楽しく充実した人生を築くためのベストパートナーは、あなたのおなかの中にいるのです。

花粉症と自律神経

「適応疾患」内の「花粉症」でも触れているのですが、私の花粉症は30年以上前、会社の集合寮に入って3年目の1985年だったと思います。同期のS君がティッシュを持って歩いているのを見て、大笑いしていたら自分にも舞い降りたという予期せぬ出来事でした。長い間お世話になったアゼプチンという薬は、私には合っていたようです。症状は10が2程度に抑えることができていたため、それほど困ることはありませんでした。
一方、鍼灸師になったこともあり、一昨年の2016年からお臍の周囲に刺鍼する「内ネーブル4点」という長野式の花粉症治療を自らに行っています。
治療効果はアゼプチン服用時とほぼ同等、施術回数は月1回、計3回程度の回数です。ちなみに敵はスギ・ヒノキ。「花粉よ来るならこい!」という馬鹿げた対抗心と、人体実験を兼ねるという思いから、花粉シーズン中も訪問の仕事以外はマスクをせず、部屋の窓や洗濯物のとり込みもノーケア、車の運転中も窓全開で花粉と共に生活しています。
そして、問題の今年ですが、昼間はこの2年間同様、10が2程度で困ることはなかったのですが、自宅に帰ると、特に夜になると何とかしたいレベルで症状が表れました。以前から昼に比べると夜は症状が出やすい傾向はあったのですが、今年はその度合いが強くなっていました。感覚的には5程度という感じです。5程度というのは、「症状の強さと症状が表れる頻度」の2点から「こんなもんでは」と直観的に判断した値です。なお、今シーズンの施術回数は過去2年の3倍弱、7、8回くらいになったと思います。
原因を調べてみると、スギもヒノキも昨年より飛散量が多いようなので、これが一つの要因であるたことは確かです。そして、もう一つ気になる点がありました。それは介護に伴うストレス、特に睡眠の質の問題です。睡眠時間は6時間程度なのですが、夜中に数回起こされるということもめずらしくなく、そのため、このストレスと睡眠の質の問題も、症状を悪化させている原因ではないかと考えました。
そして、それを調べるため、新しい本ではないのですが、図書館から花粉症関連の本を3冊借りてきました。これらは共著の本を含め「スギ花粉症」を命名された(論文報告は1964年)斎藤洋三先生の本です。もう1冊は「ストレスと免疫」という題名の中古本を購入しました。また、ネット検索で見つけたサイトも参考にさせて頂きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

著者:斎藤洋三

出版:主婦と生活社

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

著書:斎藤洋三、佐藤紀男

出版:少年写真新聞


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

著者:斎藤洋三、井出 武、村山貢司

出版:化学同人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

著者:星 恵子

出版:講談社


ブログは、花粉症がおこる仕組みや自律神経との関係、制御性B細胞についても少し触れています。

1.花粉症のおこる仕組み
アレルギー反応も免疫反応も体内でのしくみは同じです。いずれも「抗原抗体反応」といわれているものです。この反応が体にとって都合のよいように働く場合を「免疫」といいます。人が病気から体を守るために欠かすことができないシステムです。

ところが、体を守るための抗原抗体反応が、からだにとって都合の悪い結果をおこすことがあります。これが「アレルギー」反応です。
「抗原」とは異物、花粉症であれば「花粉」です。一方、「抗体」とは白血球(リンパ球)の中のB細胞(他にT細胞、NK細胞がある)から産生・放出されるタンパク質です。体内に侵入した異物に結合します。タンパク質名としては免疫グロブリン(immunoglobulin) と呼ばれ、「Ig」と略されます。抗原抗体反応に関与している抗体は、IgE、IgM、IgA、IgG、IgDの5種類あるのですが、花粉症にかかわる抗体はIgEであり、それ以外のIgMIgAIgGIgDの4つの抗体は免疫として働きます。なお、無害な花粉に対してIgE抗体がつくられるのはアレルギー体質の人だけです。

 

左が【免疫】、右が【アレルギー】です。いずれも【抗原抗体反応】になります。

画像出展:「花粉症」

出版:少年写真新聞

花粉が目、鼻、口から侵入するとその粘膜に花粉がとりつき粘膜の中に溶けだします。粘膜に溶けだした抗原は、白血球の一つであるマクロファージ(食細胞)にとりこまれ、異種タンパク質の異物として認識されます。この情報がT細胞を介してB細胞に伝えられると、花粉抗原に対するIgE抗体がつくりだされます。また、IgE抗体肥満細胞と結合しやすい性質があり、肥満細胞の表面にIgE抗体が付着し蓄積されます。そして、再び侵入してきた花粉抗原IgE抗体と反応すると、細胞からアレルギー症状を起こす化学伝達物質(ヒスタミン、ロイコトリエンなど)が放出されます。
化学伝達物質であるヒスタミンやロイコトリエンは、「ケミカル・メディエーター」ともいわれるもので、これらが神経や血管を刺激することによって、花粉症のさまざまな症状が引き起こされます。まず最初にヒスタミンが働き、それから少し遅れてロイコトリエンが作用を再現します。

 

画像出展:「花粉症」

出版:少年写真新聞

花粉が目や鼻の粘膜に付着し、水分を吸収すると花粉の中から抗原が溶け出し、肥満細胞の表面に付いているIgE抗体と結合します。(下左図)
肥満細胞からアレルギー症状をおこす化学伝達物質が放出され、それが神経や血管を刺激して、症状が現れます。(下右図) 

図はいずれも、「花粉症」からの出展ですが、中央の見開き部分が見にくくなっています。(すみません)


以下は症状に着目して説明されたものになります。内容はかなり専門的です。なお、下に図を添付しました。
くしゃみの発現には、ケミカルメディエーターのヒスタミンが重要な働きをしています。ヒスタミンは鼻粘膜の知覚神経である三叉神経終末のヒスタミン受容体と結合して、求心性インパルスを脳幹のくしゃみ中枢へ伝えます。そして中枢からの遠心性インパルスは脊髄神経、舌咽神経、迷走神経、顔面神経などを介して呼吸筋、咽頭筋、顔面筋などに伝わり、爆発的な呼気としてのくしゃみが起こります。くしゃみは生理的にも異物を呼気により体外へ排除しようとする生体防御反射で、下気道(気管、気管支)の咳反射に相当します。
鼻水もヒスタミンの作用で起こります。ヒスタミンによって三叉神経終末が刺激されて、分泌中枢にインパルスが伝えられ、遠心性に分泌神経(副交感神経)に伝わり、副交感神経からのアセチルコリンの分泌を促します。このアセチルコリンが神経伝達物質となって鼻腺細胞のムスカリン受容体に作用して、鼻汁分泌を起こします。
普通の人では花粉を吸いこんでも花粉は粘液膜に付着して、上皮細胞の線毛運動でベルトコンベア式に咽頭へと送られ、痰と一緒に排出されるだけです。これに対し、花粉症の人では入ってきた花粉を早く鼻の外へ流し出そうとして多量の鼻水をだします。これも生体防御反射ですが、花粉症の人にはつらい防御反射となります。
鼻づまりはヒスタミンやロイコトリエンなどが直接に鼻粘膜血管系に作用し、海綿静脈洞の拡張によるうっ血、血管透過性亢進作用による組織の浮腫などにより、鼻粘膜が全体として腫脹することで起こります。
眼の結膜も血管系、リンパ組織に富み、涙液によって覆われています。異物が侵入すると、まばたきと涙によって洗い流しだします。鼻と同様に異物に対する防御反射機構です。結膜におけるⅠ型アレルギー反応も、鼻粘膜におけるのと同様に、結膜表層の肥満細胞での抗原抗体結合によって始まります。そして肥満細胞から遊離したヒスタミンが知覚神経である三叉神経終末を刺激してかゆみを起こし、また血管系への直接作用で結膜の充血、浮腫を起こします。涙腺からの涙液分泌もヒスタミンの作用で反射的に起こり、流涙となります。

 

画像出展:「花粉症の科学」

出版:化学同人

下の棒グラフは2004年のものですが、花粉症患者へのインターネットによるアンケートの集計結果です。

 

「のどの症状」が少ないのは意外でした。というのも、私にとって最も気になるのが、のどの症状だったからです。

画像出展:「花粉症の科学」

出版:化学同人

 

耳のかゆみ、消化不良・食欲不振などの症状が出ることもあるようです。

画像出展:「花粉症」

出版:少年写真新聞

2.花粉症と自律神経
1)花粉症と自律神経はどう関係するか
自律神経には交換神経と副交感神経があり、お互いに拮抗しながら、さまざまな身体機能を、私たちの意思とは関係なく、自律的にコントロールしています。
鼻の自律神経は、特に分泌腺と血管に分布していますが、分泌腺にきているのは、自律神経のうち副交感神経だけです。鼻にアレルギー反応が起きたとき、症状を出現させる役割を果たします。まず、ヒスタミンが鼻の知覚神経を刺激すると、その刺激は自律神経の中枢を経由して副交感神経に伝わります。そして、副交感神経が緊張することによって、鼻の分泌腺から鼻水が出るようになるのです。
知覚神経は粘膜や皮膚などにも分布しています。そこに冷たい空気が触れたりすると、その刺激が反射路に伝わって、やはり鼻水やくしゃみが出るようになります。
血管には交感神経と副交感神経が分布しています。鼻でアレルギー症状が起きると、交感神経が働きにくくなり、逆に副交感神経が緊張して、鼻粘膜の血管は拡張します。それによって、うっ血が起き、鼻づまりの原因となるのです。
2)全身の自律神経のバランスも症状に影響する
自律神経のバランスは昼夜で逆転し、活動的な昼間は交感神経が優位に働き、安静にしている夜間の睡眠時は副交感神経が優位になります。夜半に鼻づまりが起きやすくなかなか解消しないのは、交感神経が働きにくくなっているために鼻粘膜の血管が拡張し、鼻にうっ血が起きているからです。
また、花粉症など鼻のアレルギーを持っている人は、朝の起きがけに、くしゃみと鼻水が発作的に起こることがあります。モーニング・アタックと呼ばれる症状です。これはアレルギー反応ではなく、夜間の副交感神経の状態から、昼間の交感神経優位の状態に変わるとき、自律神経のバランスがくずれるために起ります。
3)体の反射現象
くしゃみ、鼻水、鼻づまり、涙などは、人間の体にそなわった反射現象だといえます。しかし、これがむやみに出ても困るので、さらに上位中枢の抑制機構が設けられています。誰でも年をとると涙もろくなり、鼻水などが出やすくなりますが、それは上位中枢からの抑制機構がゆるんでしまうためだと考えられます。
花粉症の症状で困っているときでも、精神的に非常に緊張すると、症状が抑えられることがあります。たとえば、花粉症の俳優さんが、舞台の上ではくしゃみ一つしないのに、幕が降りたとたん一気に症状がぶり返すというようなことがあります。アナウンサーなどテレビに出る人も同様で、出演中は症状が抑えられるといいます。

4)情動のパターンと自律神経機能の関係
 この表は現在も活用されている、山下格先生が作成されたものです。山下先生は北海道大学医学部精神医学教室第五代教授を務められ、2014年12月にご逝去されました。
ここでは「ストレスと免疫」に記述された表に関する説明分をそのままご紹介させて頂きます。

 

画像出展:「ストレスと免疫」

出版:講談社

『一番目のパターンは、驚きや恐怖、憤怒などで交感神経の機能の亢進によるものです。
第二のパターンは、持続的な不安や緊張、怒り、興奮などの情動変化で、このパターンは、情動が比較的持続するのが特徴です。たとえば、ストレスが加わると、胃酸の分泌が亢進したり、消化管の動きが活発になり、これが持続すると胃粘膜にびらんや潰瘍が形成されることがあります。
このような消化管の異常は副交感神経の機能亢進によって起こると考えられています。しかし、不安や怒りなどは交感神経の亢進によるもので、ここでは、交感神経と副交感神経系の両者の興奮が同時に起きていることになります。
三番目のパターンですが、これは一番目、二番目のパターンと、次の第四番目のパターンとの中間に位置するもので、緊張などから解放されて、休息や平安といったような気分になることを意味します。
生命を維持していくうえで、交感神経が絶えず一定の緊張を保つことは必要ですが、とりたてて危険であるとか恐怖に陥った状態でない場合には、相対的に副交感神経が優位の状態に保たれると考えられます。したがって、他のパターンに移り変わる前段階の状態として、この第三のパターンが存在することが考えられます。
第四のパターンは、失望、抑うつ、悲哀、憂愁といった情動のものです。これは交感神経、副交感神経、両者がともに抑制された状態です。
抑うつ状態や失望したときなどは、胃酸の分泌が減り、消化管の動きも弱くなり、これにともなって食べたものの通過時間も長くなります。さらに、悲しみが強くなったり悲観すると、心拍数の低下ならびに血圧の低下もみられます。』

こちらの病院では、山下先生の表に基づき、独自に調査された結果を拝見することができます。

まとめ
今回のブログは、「夜間、花粉症の症状が出てくるのは何故か」、「ストレス、特に睡眠の質は花粉症の症状悪化の原因になっているのではないか」という疑問が発端でした。そして、私なりの結論は次のようなものです。
1)夜間、花粉症の症状が出てくるのは何故か
これは、免疫機能が副交感神経で優位になるのと同様に、免疫と似て非なる「アレルギー」の花粉症も副交感神経が優位になる時、つまり表に照らし合わせれば「平安、休息」が優位になる時に症状が亢進することを意味しており、夜間や自宅でくつろいでいる時に花粉症の症状が出てくるのはこのためと考えます。
2)ストレス、特に睡眠の質は花粉症の症状悪化の原因になるのではないか
表を見ると、「持続的な不安、緊張、怒り、興奮」に関しては交感神経だけでなく、副交感神経も強く関わっていることが分かります。この事実は大きな驚きでした。介護に伴うストレスや睡眠の質の問題は「不安、イライラ、緊張」が主なものになると思いますので、表にある四つの情動に含まれます。したがって、ストレスや睡眠の質の問題は、花粉症の症状を悪化させる要因になると考えます。

なお、ストレスや睡眠が花粉症の症状に影響を与えることは、本やサイトにも出ていました。

 

こちらは、花粉症対策です。(1)は「皮膚を鍛えておく」、(2)は「運動を積極的に行う」となっています。

画像出展:「花粉症」

出版:少年写真新聞

●睡眠が不足するとホルモンのバランスが乱れ、免疫力が落ちます。免疫力が落ちると、花粉などのアレルゲンの侵入に対して体が過剰反応するのです。

●ストレスも睡眠不足と同様に免疫力を落とすため、花粉に対する体の過剰反応が起きやすくなります。

副交感神経が優位なときは、体の免疫力は上がります。しかし、副交感神経が優位な状態が長く続くと、白血球のなかのリンパ球が過剰に分泌されてしまいます。そうなると免疫が過剰になってしまい、この過剰な反応がアレルギー症状の正体です。「花粉症」などのアレルギー症状が過多に出るのは、「副交感神経が優位な状態」が続いていることが考えられます。アレルギーの原因物質をなるべく排除するだけでなく、交感神経を優位に働かせながら、副交感神経とのバランスを保つことが、「花粉症」と上手くつきあうコツといえるでしょう。

3.制御性B細胞
こちらは「ライフサイエンス領域レビュー」に掲載されていた『馬場義裕(大阪大学免疫学フロンティア研究センター 分化制御研究室).免疫反応を抑制するB細胞:制御性B細胞領域融合レビュー, 5, e002 (2016)』のご紹介となります。

『2015年でB細胞の発見からちょうど50年がたつ。抗体を産生するリンパ球として同定されたことからもわかるように、B細胞は液性免疫において中心的な役割をはたす.また、T細胞に対する抗原の提示やサイトカインの分泌により免疫反応を制御することもB細胞の重要な役目である。これらのはたらきにより、B細胞は病原体の感染に対し生体防御の一翼を担う一方で、自己免疫疾患、炎症、アレルギーの原因となったり病態を悪化させたりすることが知られている.しかし,それとは逆に,免疫反応を抑制するB細胞として制御性B細胞の存在が明らかにされ注目されている。』

付記

お臍の周囲の4ヵ所に刺鍼する「内ネーブル4点」は長野式に基くものですが、その長野潔先生の著書である「鍼灸臨床 わが三十年の軌跡 -東西両医学融合への試み-」の中に記述がありましたので、その内容をご紹介させて頂きます。
ネーブル周囲四点の刺鍼とアレルギー性疾患
『ネーブル周囲四点の刺鍼は、当院では五年間、五回に亘り研修したボストン(アメリカ)在住の松本岐子氏の発想によるものである。彼女は筆者の扁桃原病説からヒントを得た類推的発想によるネーブル周囲四点の刺鍼によって、アレルギー性疾患に対して好成績を挙げている。
筆者(長野潔先生)もこの方法を追試したところ、予想以上の成果をみることができた。この四点の刺鍼はアレルギー性疾患のみならず、自律神経の全身的調節や、諸種の痛みに対して有効であることが実証された。
この刺鍼が何故効くのか。これは筆者(長野潔先生)の、あくまでも推論の域を出ないものであるが、ひとつは、この部が門脈のうっ血の起こりやすい場所であり、この部に刺鍼をすることにより、胃、小腸、大腸、膵臓、胆のう、脾臓から栄養を持った血液を充分肝臓に送ることができるということである。このことは肝臓の賦活作用を促し、二次的に粘膜下のリンパ組織を活性化し、抗体産生を増大させることによってアレルギー性疾患に著効を奏するのではないだろうか。例えば鼻水、鼻づまり、眼瞼の痒み等刺鍼にその症状が消失してゆくことが多いからである。
事実、ネーブル周囲四点を刺鍼することによって、それまで激しかった症状が劇的に消失することが多い。』

慢性疼痛と心療内科

高齢の患者さまの中には、「この慢性疼痛は心因性なのではないか?」と思うことがたまにあります。しかしながら、心因性の疼痛にはどんな特徴や傾向があるのかなど、ほとんど理解できていなかったこともあり、軽々に心因性を原因と考えることはできませんでした。

そこで、まずは何か1冊本を読んでみようと思い、ネット検索していると、作家の夏樹静子先生がご自身の凄まじい慢性疼痛の闘病を綴った「腰痛放浪記 椅子がこわい」という本があることを知りました。「これかなぁ。」と思いつつ、さらに調べていくと、夏樹先生のその慢性疼痛を完治させた心療内科の医師、平井英人先生ご自身も本を出されていることを知りました。そして、30年以上のキャリアをお持ちであることも分かりました。こうして、『慢性疼痛―「こじれた痛み」の不思議』を購入することに決めました。

 

著者:平木英人

出版:筑摩書房

ブログでは、心因性の慢性疼痛の特徴や傾向を理解することと、心療内科がどんな診療科なのかを知ることを目的とています。内容は全て本書に従うもので、重要と思う個所を抜き出し、列挙する形式のため断片的になっています。

慢性疼痛の治療
1.一般的な痛みのメカニズム
外因性の痛み刺激(切り傷、打撲、炎症など)が侵害受容器に入ることで信号が発生し、脊髄内にある知覚神経を伝わって脊髄後角、シナプス、ニューロン、脊髄視床路を順に通って大脳皮質の視床に到達し、認識されます。痛みが脳に認識されると、それに対する反応として副腎髄質からアドレナリンが分泌され、血管の収縮筋肉の緊張が生じます。この反応で局所的な乏血が起こります。この乏血が起こると組織内の酸素が足りなくなるため、今度は内因性の発痛物質が生じます。こうなると、外因性の痛み刺激が消えても痛みを感じるようになるのです。

画像出展:「疼痛コントロールのABC」日本医師会

2.心が痛がっているとは
痛みの解明に取り組んでいる米ノースウェスタン大学(シカゴ)生理学バニア・アプカリアン教授(A. Vania Apkarian)らが行った研究で、慢性疼痛患者の脳MRIを撮影しながら痛み刺激を与えたところ、通常の痛み刺激で活性化するはずの大脳皮質の視床ではなく、思考や感情を司る前頭葉の部分が活性化するのが分かりました。特に前頭葉のなかでも前部―ストレスや不安など、ネガティブな感情を司る部分でした。
この知見に対し、1000例近い慢性疼痛患者を診療されてきた平木先生は、「通常の痛み止めが効かない」という単純な事実からしても、慢性疼痛には何かしら通常の痛みのルートとは別のルートが存在すると考えていた。よってこの研究結果は腑に落ちるものであるとお話されています。

3.螺旋階段をのぼるように
薬物治療を先行させながらその効果をみつつ、「ある時期」がきたらその患者さんに合った指導を少しずつ並行して進めていきます。この「ある時期」というのは、患者さんが訴える症状の表現が少し変わってきたころです。何かしらの手ごたえを少し感じ始めたときともいえます。
たとえば、それまで「まだ痛いです」「ちっとも変りません」「痛くて何もできません」といっていた人が、「痛みはまだありますが、少し動けています」「ときどき痛みがやわらぐときがあります」というようになるなど、痛みに対するグチが減ったとき。そうしたかすかな心の変化をとらえて、新たな技法を導入するとっかりとするのです。
また、この第一の段階では、症状には「波」があることがこの病気の特徴であると教えることも重要です。一直線に治癒に向かって進むのではなく、波打ちながら、よかったり悪かったりしながら治っていくことを教えます。「まだ治らないのか」と焦らせないということです。患者さんは、よかったり悪かったりを繰り返すと、堂々めぐりでいっこうに治療が進まないと感じるものです。
しかし、治療は螺旋階段をのぼるようなものです。本人は同じところを回っているように思えても、外で見ている第三者には、少しずつ上へと昇っていく姿がみえています。螺旋階段も、上っている本人はずいぶん上までいってから下を眺めて、初めて「高いところまできた」と実感します。
治療も同じイメージです。ずいぶん進んでから「ああ、以前よりはよくなっているなと実感するものなのです。

4.自律訓練法のコツ
心理療法には自律訓練法、交流分析、行動療法という三本柱があります。それでも効果が十分でないときに加えるかたちで用いられるのが森田療法絶食療法(後述)という特殊な技法です。
とくに慢性疼痛の患者さんに対しては、積極的に「自律訓練法」を習得するようにすすめています。
自律訓練法は世界的によく知られたリラクゼーションの技法で、17世紀にヨーロッパで試みられた催眠療法の流れを汲むものです。催眠によるトランス状態(理性が弱まっている状態)が病気を治すというこの療法は、当時盛んに脚光を浴びましたが、奇術・魔術的なイメージが強く、強い批判も浴びてそれ以上発展しませんでした。その後フロイトらが催眠療法をもう一度研究し、トランス状態が平衡を作り出すことを明らかにしていったのです。
自律訓練法は自らトランス状態に入るもので、自己催眠法とも呼ばれ、1932年にドイツの精神科医シュルツによって開発されました。日本には1952年に紹介されましたが、以来急速に広まり、いまでは心療内科の必須の技法のひとつとなっています。
ベッドに仰向けになったり椅子に座ったりした姿勢で目をつぶり、「両腕が重たい」「両腕が暖かい」・・・・・・など「公式」を繰り返し唱えるという、自己催眠による治療技法です。
自律訓練法は、スポーツ選手や一部の教育現場でも取り入れられているリラクゼーションの方法です。正しく行われれば効果絶大で、成績の向上や人間関係の改善につながります。一見、心療内科とは無関係に思える病気も改善するなど幅広い適応があります。それだけ、あらゆる病気にとって「心身相関」の存在感は大きいともいえますが。
その実際は非常に簡単で、子どもでもマスターできる方法なのですが、本や雑誌、通信販売のDVDを買って自己流でやろうとしても、なかなか身につきません。独学ではなく、きちんとした指導者のもとで習得されることが近道です。

絶食療法は入院して個室で行います。訓練された看護師らスタッフによるチーム医療も必要です。患者さんには二週間のあいだ、外部との連絡を完全に絶ち、病院内の一室に籠もっていただく必要があります。治療前の検査や治療後の経過観察を含めると、一か月半から二か月ほど入院していただくことになります。

この「絶食」という状態は、何もしないようでいて、人間の身体にすさまじいストレスを与えます。
人間の体のエネルギー代謝には、ブドウ糖を燃料とするグルコース代謝と、脂肪酸を燃料とするケトン体代謝の二通りがあります。普通に食事をする生活では、身体はグルコース代謝を中心に動いており、ケトン体代謝が働くことはありません。
絶食に入ると、糖分の摂取が途絶されるために、グルコース代謝が枯渇して、ケトン体代謝にスイッチされます。脂肪を燃焼してエネルギーとして使うのです。この状態になると人間の身体はホメオスタシス(生体恒常性:身体を環境に適応させ、状態を一定に保とうとする力)の作用でインスリンの分泌がコントロールされ、血糖値が下げ止まります。食物を摂取しなくても低血糖になることはありません。空腹は当初はありますが徐々に感じなくなります。身体の状態は維持されますが、代謝やホルモン系が変動することによって、自律神経系や免疫系にも影響が及びます。
絶食によりケトン体代謝に入った身体では、脳内でα波が著明に増加し、生体恒常性(ホメオスタシス)の状態に入ります。この状態で過ごす絶食期には、前半は自己対峙の結果としての意識の変性(変化)が、後半には心理的な退行(抵抗の放棄など)や被暗示性の亢進(医師の話を素直に受け入れるなど)が起こってきます。
この状態のなかで、患者は極限状態や嫌悪刺戟を乗り越え、新たな自信と喜びをつかみます。また、自己洞察を深め、認識が変わっていくなかで、症状が変わり始めます。そして、代謝系の変化というストレスが、情動を司る自律神経系や関連する内分泌系、免疫系の再調整を促すのです。
こうした絶食療法の奏功メカニズムは、ハーバード医科大学のジョージ・ F・カーヒル (George F. Cahill Jr.) 博士によって解明されました。

画像出展:「慢性疼痛ーこじれた痛みの不思議」

5.自分自身の心で治していける 
慢性疼痛のほとんどすべての患者さんには、共通の心理があります。まず、「自分こそが世界で一番苦しんでいる」「この痛みはいつ治るのだろうか」「なにかいい方法はないだろうか」「このままで本当に治るのだろうか」という不安と疑念です。
それから毎朝起きるたびに「今日の腰の具合はどうかな?」と、腰に意識を集めて点検します。病状に固着すればするほど、局所の神経は過敏になりますから、わずかな症状や痛みもキャッチしがちになります。その結果として「ああ、今日もまた痛い」と感じ、また、痛みにとらわれるという悪循環に陥るのです。
痛みゼロを求めれば求めるほど、「まだ治らない」「まだ残っている」「まだまだ……」という思いは強くなります。無間地獄(むけんじごく:最悪の地獄という意味)に入ってしまうのです。痛みの共存とは、言うは易く行うは難しで、本当に体得することは難しいことです。
くすりだけで治すと、効果は薬効の時間に限られます。患者さんによっては、くすりが切れるとまた痛みだすのではと、くすりが切れる前から不安がり、痛みを増幅させて、くすりの量がどんどんと多くなっていく人もいるでしょう。しかし、薬物療法と心理療法を併用して行うことによって、くすりである程度治したあとは、自分自身の心で治していけるようになるのです。

6.ステイ・アクティブ
痛いけれど痛いまま帰って、普段の生活をする。そうしているうちに痛みが減っていく―。
森田療法や絶食療法という日本古来の心理療法が示すこの結論は、実は興味深いことに、近年、米国整形外科学会(AAOS)で提唱されている最新の治療概念、「ステイ・アクティブ」とも通底するのです。
なかでも、森田療法とステイ・アクティブとは、考え方が驚くほど似ています。米国発の「ステイ・アクティブ」とは、日常生活で行動ができる状態に身体があるのなら、アクティブ(行動的)でいられるのならばそれでよい、それを第一目標にし、患者には行動させよう。痛いからといって、「鎮痛剤を飲んで安静にしておけ」という昔ながらの考え方は捨てようという発想です。
なぜ安静にしていてはダメなのでしょうか。それは、痛みの悪循環に陥らないようにするためです。
慢性疼痛の患者さんは、一般に痛みに敏感です。器質的な痛みではなく、自分の心が100倍にも1000倍にも増幅させた「修飾された痛み」に敏感なのです。その修飾された痛みにとらわれて、ちょっとした体調の変化も痛みに結びつけ、膨らませて苦しみます。
また、痛いのだから安静にしていなければと長期間寝たり起きたりの生活を続けていると、筋力低下や体力不足になり、気分転換のためにちょっとした運動や旅行をしただけで筋肉痛になりやすくなります。
さらには過食と運動不足から肥満し、実際に筋や関節に負担がかかるようになる人もいます。運動不足が、身体の神経系に存在する疼痛を抑制する機能を低下させることにもなります。廃用症候群といって、心肺機能が低下したり、骨粗鬆症が進行したり、筋を傷めやすくなったり、落ち込みやすくなるなど精神的に弱ってきたりもします。その結果、家庭不和や社会生活不適応といった状態が生まれます。これが痛みの悪循環です。
痛いのに動けば余計悪くなるではないか、という患者さんに向け、AAOS(米国整形外科学会)はとくに腰痛患者に対してこう述べています。
「腰痛を発症したばかりの急性期には運動はすべきではありませんが、すでに慢性化した痛みの場合には、運動によって全身の筋肉を鍛えることでむしろ痛みが和らぎます。さらには症状の悪化を予防することになります。急性期にも寝ているのではなく、起きて動き回りましょう。ベッドに寝て運動不足でいると回復が遅くなります」
痛くても痛いなりに動きなさい、といっているのです。
言葉や言い回し、またその意味の深さにおいて、いささかの差はありますが、このステイ・アクティブの概念と、森田療法の「あるがまま」という考え方は、根本理念で通底しているように見えるのです。

7.心因性の慢性疼痛患者の心得
平木先生が私案として、心因性の慢性疼痛患者の心得なるものを8つ挙げられています。ポイントは、頑張らない、焦らない、進み続けるということです。
①「ステイ・アクティブ」を目標とすること
②毎日の疼痛記録はやめること
③根性論で頑張ろうとしないこと
④自律訓練法をマスターすること
⑤「あるがまま」を実践すること
⑥すっかり治そうと焦らないこと
⑦治りたいがための悪あがきはしないこと
⑧薬物治療の場合、症状が改善されてきたら、できるだけ長く服薬を続け、その後徐々に減量し、早々の中止や中断をしないこと

8.悩みを相談する人の心理
多くの場合、問題をかかえている本人は、「うまい策があるわけではないし、この人が解決できるものでもない」ということを頭の隅で無意識に分かっていると思います。恋の悩みも経済的なトラブルでも家庭内の問題でも、健康問題でも、悩みの相談の心理とはそのようなものです。
分かっていながら、誰かに、どうしてもいわずにはいられない。ただ聞いてほしいというのが、悩みを訴える人の本心だと思います。つまり、相談を受けた方の役割で重要なのは、なにかもっともらしいアドバイスをしようと努力することではありません。
その人がどれほど悩んでいるか、苦しんでいるかということを、温かく共感をもって理解、共有しようという態度が、いちばん大切なのです。共感し、共有しようという態度を感じられることによって、苦しんでいる人は心の負担が軽くなります。
それが患者さん本人の自己解決力のアップにつながり、物事を客観的にみることができる余裕につながり、最終的に自分なりの解決法を見出していくのです。

9.心因性疼痛障害を疑うヒント
六か月(三か月とも)以上続く慢性の痛み
少なくとも二か所以上の医療機関での精密検査で、痛みに相当する病変が見あたらない
一般的な鎮痛剤が効かない、効きにくい
痛み方が独特で、周囲の人になかなか理解してもらえない
これまでに1000人以上の慢性疼痛患者さんを診療してきた平木先生のご経験に基づくキーワードです。慢性疼痛があって、これらの項目にあてはまるならば、一度はその原因として心因性を考えてみる必要があると思います。

心療内科
1.患者さんの多くは、「心因性」という診断に納得しない傾向がある。ここには「こんな激痛が心因であるはずがない」という強い思い込みも要因である。
2.日本で最初に心療内科という診療科を掲げたのは、九州大学医学部の池見酉次郎先生で、1963年に講座として、「心療内科」を冠するようになった。(看板を出せる標榜科として認められたのは1996年であり、30年以上先だった)
3.平木先生が一般内科に加えて心療内科を併設されたのは1983年であり、個人病院として心療内科を設置した例としては、全国でも最初に近いほうだった。
4.治ったかどうかは、患者さんの言葉のニュアンスから医師が判断する。平木先生のクリニック では痛みの評価を5点満点の六段階評価で表現してもらっている。同じ2点でも「だいぶよくなってきたけれど、まだ痛い。2点くらいは痛みがあります」という人と、「もうだいぶよくなってきて、2点くらいの痛みはあるけど何とかやっています」という人がいる。同じ2点でも前者はまだまだ時間がかかり、後者はそろそろ卒業というほどにニュアンスは異なる。患者さんの話を聞かないと点数だけでは判断できない。
5.心療内科のカルテは他の診療科とは少し異なる。カルテは日本語で書かれ、患者さんの言ったこと、医師が言ったこと、一言一句そのまま記載する。
6.診察の中でお話を聞きながら受ける第一印象がとても大事である。患者さんの痛みの背景に何があるのか。その物語が、患者さんの口から医師に話されること、そして医師と患者がともに物語への認識を深めていくことから、治療が始まっていく。
7.各種心理テストを行っている。その分析結果は病気を理解するのに参考になるが、診察で病歴を聞きながら、問診を行い、その中で性格傾向や心理状態、不安やうつなどを把握することが大切である。
8.人体図へのマーク」「痛さの程度の数値化」「痛みの言語化という患者さん自身による三段階の作業を通して、患者さんの痛みが明らかになっていく。
9.処方した薬が効かず、頑固な痛みを抱えた難治性の患者さんの場合、あらためて時間をとって面接し、生い立ちから現在までの人生、家族関係、趣味、宗教、恋愛観、結婚観、職場での問題、家庭内の問題などを、手順に従って、より詳しくうかがっていく。そこに、本人もはっきりとは気付いていない何らかの、痛みを生じるに至った「物語」が多々潜んでいることが多い。

付記

時々勉強させて頂いているサイトで、偶然、「心療内科」に関するコラムを見つけましたので、ご紹介させていただきます。

「腎臓が寿命を決める」とは

現在、NHKでは『神秘の巨大ネットワーク 人体』という全8回のNHKスペシャルが放送されています。その初回となる、第1集は「“腎臓”が寿命を決める」というタイトルでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

NHKスペシャル「人体」取材班

出版:東京書籍


『「なぜ、腎臓を第1集に選んだのか?」
「人体」のメインディレクターとして、最も多く聞かれた質問です。じつは、番組をつくる前、全8回のラインナップを決めた段階から、ずっとこの質問をされていました。NHKスペシャルでもめったにない超大型シリーズ、その第1集は、特別な重要性を持っています。質問の裏には「本当に腎臓で大丈夫?」という意味が隠れていたと思います。脳や心臓といった、誰もが興味をもつスーパースターではなく、腎臓という“ちょっと地味”なキャラクターを主役に抜擢するのは、大きな賭けでした。
しかし、だからこそ、第1集で腎臓をやりたいと思いました。本書を読んでいただけば分かるとおり、腎臓は人体のネットワークの中で要となる存在です。「腎臓はじつは、スーパースターだった」そのことに驚き、納得してもらうことが、そのまま“人体は神秘の巨大ネットワークである”という、このシリーズのメインテーマを深く感じてもらうことに繋がると考えました。ネットワークという視点で人体を捉え直すことで、これまでの常識が大きく覆る、そんな劇的な瞬間を味わってもらいたいと思ったのです。
これは、書籍版第1巻の「あとがき」の冒頭部分です。
第1回のテレビ放送を拝見して、「“腎臓”が寿命を決める」というテーマは、私には今ひとつ消化できるものではありませんでした。「そうなのかなぁ?」という印象が残りました。そして、その時はそれ以上のことを考えることはなかったのですが、慢性腎不全の患者さまへの鍼治療の効果が明らかになったことで、今一度、NHKスペシャルの「“腎臓”が寿命を決める」を勉強しなおしたいという思いが強くなり、調べたところ書籍版が出ていることを知りました。

162ページのこの本は、前半の「プロローグ 神秘の巨大ネットワーク」と後半の「第1集“腎臓”が寿命を決める」に分かれています。目次は下記の通りですが、ブログは酸素をコントロールし、血液を管理し、寿命を決めるとされる腎臓の働きを詳しく知ることを目的にしています。

プロローグ
神秘の巨大ネットワーク 生命を支える「臓器同士の会話」
1.人体がここまで見えてきた! 驚異の技術革新
2.心臓からのメッセージががん治療に革命をもたらす! 
   ANP、発見と進化の物語(サイズ14)
3.“1滴の血液”で13種類のがんを早期診断
4.人体ネットワークの会話が人生を変える

 

番組では、「メッセージ物質」という言葉が使われています。テレビ放送の時は、この言葉が腑に落ちず混乱の原因となっていたように思うのですが、これは書籍版によって解決しました。以下はその説明個所です。
『「臓器同士の会話」がもたらすもの
腸の細胞が発するメッセージは、「臓器同士の会話」のほんの一例に過ぎない。いま、こうしたメッセージを伝える物質が、腸に限らず、全身のあらゆる臓器から放出されていることが明らかになってきた。
体を支えているだけだと思われがちな、「骨」。血液を全身に巡らせるための通路というイメージが強い、「血管」。現代では“やっかいもの”として扱われている「脂肪」までもが、全身に向けたメッセージを発しているという。
そうした、メッセージとなる物質には、古くから知られていた「ホルモン」や、その後に発見が相次いだ「サイトカイン」、さらに近年急速に研究が進む「マイクロRNA」など、非常にたくさんの種類がある。そこでNHKスペシャル「人体」では、これらの物資をまとめて「メッセージ物質」と呼ぶことにした。人体を「ネットワーク」として捉えるに至った背景には、多くの科学者たちによる、長年の研究の積み重ねがある。その全体像を俯瞰して見たいと考えたのだ。
そして、メッセージ物質の役割が明らかになるにつれて、医療の世界に起きた大きな変革にも注目する。メッセージ物質を人工的につくって投与したり、逆に、その作用を抑えたりすることで、これまで治療が困難とされてきた病気にも希望の光が差し込むようになった。
体の中で交わされる臓器たちの会話に、より一層耳を傾けることが重要になっている。メッセージ物質を理解することは、人体の神秘に迫ることであると同時に、病の克服という切実なテーマにも直結しているのだ。

後半部分の目次です。
第1集 “腎臓”が寿命を決める
1.金メダルの獲得を陰で支えた腎臓のメッセージ
   EPO精製への道
   EPO産生細胞の発見
2.腎臓の手術で重症の高血圧が治る! 大注目の最新治療
3.血液の管理者:腎臓
   腎臓の構造と働き
4.老化や寿命のカギを握る腎臓
5.腎臓を守れ! 命の現場

 

酸素をコントロールする
人間にとって生きるために最も必要な物質は酸素です。カーラーの救命曲線によると、心臓停止後3分で死亡率約50%となっています。このように酸素供給の完全停止は直ちに死に直結します。この重要な酸素の供給に関るメッセージ物質がEPO(エリスロポエチン)と呼ばれる物質です。私が専門学校で習ったときは、ホルモンとされていましたが、昨年(平成29年)3月発行の「病気がみえる vol.8 腎・泌尿器 第2版5刷」では、EPO(エリスロポエチン)は赤血球の「造血因子」と書かれています。
このEPOは腎臓から放出され、「酸素が欲しい」というメッセージを伝えますが、その存在は2008年、日本人研究者によって明らかにされました。そして、尿を運ぶ膨大な数の尿細管、その管と管の隙間、「間質」と呼ばれる部分にEPO産生細胞が存在していることが特定されました。

 

1981年にフランスのカーラー(Morley Cara)が作成した曲線。数値は目安とされています。

画像出展:「宇部・山陽・小野田消防局

 

中央に見えるのが糸球体。その糸球体は複雑に絡み合った毛細血管の塊のようです。周囲にあるホースのような管のほとんどは尿細管で、EPO産生細胞が存在する「間質」は管と管の間です。

画像出展:「人体 神秘の巨大ネットワーク」

『全身に酸素を行き渡らせるためのメッセージである、EPO。体内に酸素を取り込む「肺」や、血液を全身に巡らせる「心臓」ではなく、一見、酸素と関わりがなさそうな「腎臓」が、こうしたメッセージを出す役割を担っているのは、一体どうしてなのだろうか。』
これは本書の中で指摘されている疑問ですが、私も全くその通りだと思います。何故、腎臓なのか不思議です。
そして、その答えは次のようなものでした。
『腎臓の間質は、もともと酸素の供給量が高くなく、低酸素の状態にあります。また、隣にいる尿細管の細胞は尿をつくるためにたくさんのエネルギーが必要で、多くの酸素を消費することが分かっています。そのため、EPO産生細胞の周辺では急速に酸素濃度が下がりやすい。腎臓の中の、この場所は、体に酸素が足りなくなったときに、いち早く感知できる環境になっているのです。つまり、EPO産生細胞がいる場所は、全身の中でも最も酸素が不足しやすい場所であり、だからこそ、酸素の“見張り番”として働くのに最適だというわけだ。』

EPO産生細胞の場所(尿細管のすき間で赤・緑に光っているのがEPO産生細胞。赤色の細胞はEPOをつくっていないOFF(オフ)の状態で、緑色の細胞はEPOをつくっているON(オン)の状態を示す。)
画像出展:「人体 神秘の巨大ネットワーク」

『研究グループは、顕微鏡で観察するとEPO産生細胞が光って見えるように、栄光物質を組み込んだEPO遺伝子をマウスに導入した。すると、EPO産生細胞は尿細管と尿細管のすき間を埋める間質という組織で見つかった。EPOをつくっていたのは、糸球体や尿細管といった腎臓の主体をなす細胞ではないという事実は、世界中の研究者を驚かせた。

EPOによる赤血球の増産
腎臓は体内の酸素が不足していると、EPO(エリスロポエチン)を大量に出し始めます。そして、血液の流れに乗って全身に広がっていきます。
本書では貴重な写真だけでなく、CGによる絵が豊富に使われています。ここでは、EPOによる赤血球の増産の流れをCGのスライドショーでご紹介させて頂きます。下に解説が付いています。また、画像中央のマークをクリックすると停止します。

血液を管理する
『人間の血液の量は、体重の約13分の1(約7.7%)といわれる。体重60キログラムの人なら、血液4.6キログラム。血液1リットルの重さは約1キログラムなので、体の中には約4.6リットルの血液が流れている計算だ。
そして驚くべきことに、心臓が送り出す血液のおよそ4分の1は、2つでわずか300グラムほどの小さな腎臓に流れているのである。その血流量は、毎分800~1,200ミリリットルにもなる。なぜ、こんなにも多くの血液が腎臓に集まるのか。それは、誰もが知る腎臓の役割である「尿をつくる」ことの裏に隠されたもう1つの仕事に関係している。
尿は、体を巡る老廃物を含んだ汚れた血液からつくられる。老廃物を含んだ血液は腎臓に流れ込み、腎臓を通過する中できれいな血液と老廃物などを含む尿に分けられ、尿は体外へ出ていく。
この一連の腎臓の働きを見ると、つい尿の生成のほうへ目が行きがちだ。しかし、体にとって尿の生成と同じくらい、もしくはそれ以上に重要なのは、“きれいな血液”をつくることだ。
ここでいう“きれいな血液”とは、老廃物が除去されているということだけではない。血液中の塩分、カルシウム、カリウムといったさまざまな成分が、すべて適正な濃度になっていることが大切である。実は、これらをきめ細かく調節するのが腎臓の大きな役割だ。』

 

『腎臓は尿をつくるだけではなく、血液中の成分を調節するという重要な役割を担っている。』

画像出展:「人体 神秘の巨大ネットワーク」

 

『腎臓は塩分やカリウムなど、体に必要な成分を一定の割合に保つように管理・調節している。』

画像出展:「人体 神秘の巨大ネットワーク」

画像出展:「人体 神秘の巨大ネットワーク」

小さくて見ずらいですが、上の絵には番号が①~⑤までふられています。それについて説明します。

汚れた血液は腎動脈から腎臓に入り、輸入細動脈を経て糸球体を形成する毛細血管に流れ込む。
糸球体の毛細血管で、血液はろ過される。
血液中の小さな成分(老廃物や水分、ミネラルなど)は毛細血管の穴をすり抜け、ボーマン嚢の内側に入って尿の元となる。
残りの血液成分(赤血球やたんぱく質など)は輸出細動脈から出ていく。輸出細動脈は再び毛細血管となって尿細管に寄り添うように走行する。
体に必要な成分(水分やミネラルなど)が、尿細管で再吸収され、毛細血管に戻される。その後、尿細管周囲の毛細血管が集まって最終的に太い腎静脈となり、成分調節された“きれいな血液”が腎臓から出ていく。

『こうして行われる血液の成分調節は、実は、腎臓だけの判断で行っているわけではない。腎臓は、体中の臓器からのメッセージをしっかり聞き、情報を集める。例えば、カルシウムを調節する際には、喉の近くにある「副甲状腺」という小さな臓器や「骨」から出されたメッセージを受け取っている。これらの情報を基に、腎臓はポンプを制御して、原尿から再吸収する量を変化させているのだ。全身から情報を集め、体調や周囲の状況に応じて血液の成分を常に調整する。まさに、体の中に広がる巨大な情報ネットワークの要といえるだろう。

『腎臓は体中の臓器からのメッセージを分け隔てなく聞き、情報を集めて血液中の成分調節を行う人体ネットワークの要といえる臓器だ。』

画像出展:「人体 神秘の巨大ネットワーク」

『腎臓がろ過する原尿の量は1日約180リットルにもなる。人間の血液量が4~5リットルなので、腎臓は1日のうちに何度も血液のろ過を繰り返している。一方、1日に排泄される尿の量は1~2リットル。原尿の99%は尿細管で再吸収されていることになる。』

画像出展:「人体 神秘の巨大ネットワーク」

 

腎臓というと、まず「尿」、そして次に思い浮かぶのは、「ろ過」でした。今回、様々な臓器と会話しつつ、命のライフラインともいうべき血液成分をきめ細かく調節する「血液管理者」としての腎臓を認識できたことが、最大の収穫だったように思います。

寿命を決める
『日本人科学者が偶然生み出した不思議なマウスの研究から、私たちの寿命を大きく左右する、「ある物質」が明らかになった。その物質とは、リン。血液中のリン濃度が高すぎると老化が加速してしまう。そして、血液中のリン濃度を絶妙に調節しているのが腎臓だ。腎臓は他の臓器と連携しながらリンを調節し、寿命を決めていることが分かってきたのだ。
リンは生命維持に欠かせない栄養素で、魚介類や肉類、大豆などの食品に豊富に含まれている。リンが足りないと、骨軟化症、くる病などの病気の原因になるほか、呼吸不全、心機能低下を引き起こして生命に関わることもある。ところが、最新の研究では、血液中のリンが過剰になると、老化を加速させてしまうことが分かってきたのだ。』

 

上の図は、寿命と体の大きさの関係性を見たものです。これを見ると、体の大きさだけが寿命を決定しているものではないことが分かります。

 

下の図の横軸は、体の大きさではなく、血液中のリンの量によるものです。これにより寿命の長さに関係しているのは、血液中のリンの量であることが分かります。

画像出展:「人体 神秘の巨大ネットワーク」

血液中のリンの調節には、体を支える「骨」と、「腎臓」の会話が重要な役割を果たしている。骨の主成分は、リン酸カルシウム。リンもカルシウムも、体にとっては重要な栄養素であり、骨にはその貯蔵庫としての働きもある。それも、“ただためこんでいる”だけではない。骨は血液中のリン濃度を監視し、腎臓に報告する役割も果たしている。
そのために骨が出しているメッセージ物質がFGF23(線維芽細胞成長因子23)だ。骨は、血液中のリン濃度が高くなると、FGF23を盛んに放出する。いわば「リン、足りてますよ」というメッセージだ。腎臓にはFGF23を受け取る受容体がある。実は、この受容体をつくるための設計図となっているのが、クロトー遺伝子(老化抑制遺伝子)だったのだ。
「受容体はメッセージを受け取る郵便箱のようなものです。クロトー遺伝子が壊れたマウスの腎臓には郵便箱がないので骨からのメッセージが来ても受け取れない。その結果、腎臓がリンをうまく調節できなくなって、老化が加速してしまうのです」と黒尾博士は説明する。
腎臓が骨からのメッセージを受け取ることができれば、その情報に基づいて尿細管での再吸収量を変化させ、血液中のリン濃度を絶妙に調節することができる。逆に、メッセージを受け取れなくなると、謎の老化加速マウスのように血液中のリンが過剰となり、寿命が一気に縮んでしまうこともあるのだ。骨と腎臓の会話が、リンの濃度を決め、それがそのまま寿命にも大きな影響を与えている―。黒尾博士の研究から明らかになってきた、腎臓の新たな真実だ。』

 

骨からの「リン、足りてます」というメッセージにより、腎臓の尿細管の微絨毛にあるポンプが再吸収を停止すれば、寿命は正常ということです。画像出展:「人体 神秘の巨大ネットワーク」

 

付記1:EPO産生細胞とCKD(慢性腎臓病)
CKD(慢性腎臓病)では5段階あるステージの3(中程度)から、夜間多尿、血圧上昇、むくみ等に加え貧血(腎性貧血)が生じてくる可能性が高くなるとされていますが、これは腎臓の機能低下が進行するとEPOが作れなくなるためであると考えられています。
一方、EPO産生細胞は腎臓でみられる「線維化」という病態に深く関っていることも明らかになりました。さらにEPO産生細胞は善悪2つの顔をもっており、CKDの発症・進行を抑制する治療法の開拓に大きなヒントになると期待されています。下記はその詳細を説明した箇所です。
『腎臓病が慢性化する主な原因として、糖尿病や高血圧、慢性糸球体腎炎などが挙げられるが、原因疾患にかかわりなく、腎臓病が進行すると、線維化が生じ、腎臓の機能が損なわれていく。腎臓の線維化が生じる際、そのもとになる細胞は何なのか。
この研究で先鞭をつけたのは、京都大学大学院医学研究科の柳田素子博士の研究グループだった。柳田博士らは、東北大学で開発した遺伝子改変マウス(EPO産生細胞が蛍光を発するマウス)を用いた研究により、EPO産生細胞が硬い線維状の細胞、いわば「悪玉細胞」に変化することで腎臓の線維化が生じることを突き止めた。
一方、山本博士らは、遺伝子改変マウスを貧血状態にし、さらに尿管を縛って腎臓に炎症を誘発させるという実験を行った。すると、炎症でマウスの腎臓に線維化が起こり、線維成分であるコラーゲンが著明に増加するとともに、炎症性物資がさらに増加するという悪循環をきたした。しかも、高度な貧血で低酸素状態にあるにもかかわらず、EPOの産生力は大きく低下した。そしてこのとき、EPO産生細胞は「悪玉細胞」へと変化していた。
これらの研究により、腎臓に炎症のような有害刺激が加わると、EPO産生細胞が「善玉」から「悪玉」に変わってしまうことが分かった。悪玉化した細胞は「筋線維芽細胞」と呼ばれているが、このように細胞の持つ本来の特徴が大きく変化し、異なる性質を持った細胞になることを「形質転換」という。
EPO産生細胞が形質転換するだけでなく、さらに興味深い事実も判明した。尿管を縛って炎症を誘発させたマウスで、完全に線維化する前に縛りを解除したのである。すると驚いたことに、低下していたEPOの産生力が、正常マウスと同じレベルまで回復した。また、抗炎症薬のステロイドを投与すると、EPO産生細胞の産生力はさらに促進されたのだ。
つまり、炎症によりEPO産生細胞が「悪玉細胞」に変化して腎臓に障害をきたしても、炎症を抑制するとEPO産生細胞は本来の「善玉細胞」に復帰するというのである。
山本博士は、「EPO産生細胞は環境に応じて善悪両方向に変化することが分かりました。さらに、EPO産生細胞は高い回復力を持っており、炎症をコントロールしてEPO産生細胞の『善玉』の性質を維持していくことが、腎臓の線維化を抑えるには重要であることが示されました。これは慢性腎臓病の発症・進行を抑制する治療法を探索するうえで大きなヒントになると思います」と語る。
現在、腎臓病の進行を食い止めるためにEPO産生細胞の機能を回復させる治療法を探索されている。EPO産生細胞の発見から始まった研究は、さらなるステージに進もうとしている。』

『EPO産生細胞は低酸素状態になるとEPOをつくり始め、赤血球が増産される。一方、腎臓が障害されて炎症が起こると、EPO産生細胞は「悪玉細胞」に変化し、線維化が進行する。炎症を抑制すると、EPO産生細胞のEPO産生力は回復する。』

画像出展:「人体 神秘の巨大ネットワーク」

『EPO産生細胞が「悪玉細胞」に変化すると、EPOを産生する力が大きく減少する。同時に、線維化のもとになるコラーゲンやさらなる炎症を引き起こす物質が大量につくられる。』

画像出展:「人体 神秘の巨大ネットワーク」

病気の腎臓ではEPO産生細胞のEPO産生力は著しく衰えるが、炎症を抑えると本来の力が蘇った。

画像出展:「人体 神秘の巨大ネットワーク」

腎臓の炎症と慢性腎臓病の関係性を示す資料などは無いかネット検索したところ、「日本医療研究開発機構」さまのサイトに興味深い研究が発表されていました。

付記2:“腎”とは
経絡治療においては、“腎”は五臓(肝・心・脾・肺・腎)の中でも1、2位を争う最も重要な臓器と考えられています。ここでは、専門学校の教科書、東洋医学概論(東洋療法学校協会編)から、腎の中核ともいえる“腎精”についてご紹介させて頂きます。
“腎は、精を蔵し、生命力の根源である原気をもたらす。”
『父母から受け継いだ先天の精は、腎に内蔵されている。この精は、飲食物から造られる後天の精によって、常に補充されている。精は、生命力と、成長、生殖力の根源である。この精が、腎により活性化されたものが、原気(生命活動の原動力となるもの)である。人間は、腎の働きが盛んになるにつれて成長し、生殖能力を生みだす。腎精が充実していれば、原気も盛んで、活動的で、疾病にもかかりにくく、また、根気がいる細かい作業を、やり抜き通す力もわいてくる。そこで、「作強(サキョウ)の官、伎巧これより出づ」といわれる。腎気が衰えると原気がなくなり、活動が低下し、身体が冷える。また、生殖能力も低下し、疾病にかかりやすく、治りにくくなり、さまざまの老化現象を呈する。』
生命力・成長・生殖力・老化に深くかかわるとする東洋医学の“腎”は、現代医学の“腎臓”とは似て非なるものというイメージを持っていました。ところが、今回の勉強を通して、”腎臓”は尿をつくるだけではなく、酸素をコントロールし、血液を管理し、老化にかかわり寿命を決めるという極めて重要な働きを行っていることが分かりました。そして東洋医学の“腎”と現代医学の“腎臓”はかけ離れたものではないという新たな認識を持ちました。

腎臓リハビリテーション

過去ブログ、「CKD(慢性腎臓病)治療の最前線」の宿題になっていた「腎臓リハビリテーション」ですが、入手した情報をベースにまとめてみました。
参考とさせて頂いたのは、日本腎臓リハビリテーション学会さまの各種資料(保存期CKD患者に対する腎臓リハビリテーションの手引き、学会広報誌 腎臓リハ NEWS LETTER、施設紹介)と、日本腎臓リハビリテーション学会の理事長である上月正博先生が執筆された「CKDにおけるリハビリテーション(日本内科学会雑誌105巻7号)」になります。ブログはこれらの内容を組み合わせ、はり付けたようなものになっています。なお、上月先生の「CKDにおけるリハビリテーション」はダウンロードできるようにさせて頂きました。

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CKDにおけるリハビリテーション.pdf
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コペルニクス的転換
『腎臓病といえば、かつて安静にすることが治療の1つであった。しかし、CKD(chronic kidney disease)患者においても、身体活動の低下は心血管疾患による死亡のリスクであることや、軽い運動がCKDを悪化させないことが明らかになり、CKD患者にも運動療法が適用されるようになってきた。運動療法は腎臓リハビリテーション(腎臓リハ)の中核として考えられ、最近ではCKD患者における心大血管疾患発生予防効果や透析導入時期遅延効果の役割も期待されている。』
「CKD(慢性腎臓病)治療の最前線」の中では、「運動制限から運動療法へのコペルニクス的転換」との表現があり、「腎臓病=運動制限」が当たり前と思っていた私にも、これは大きな驚きでした。
 

画像出展:「保存期 CKD 患者に対する腎臓リハビリテーションの手引き」

腎臓リハビリテーションとは
『腎疾患や透析医療に基づく身体的・精神的影響を軽減させ、症状を調整し、生命予後を改善し、心理社会的ならびに職業的な状況を改善することを目的として、運動療法、食事療法と水分管理、薬物療法、教育、精神・心理的サポートなどを行う、長期にわたる包括的なプログラムである。腎臓リハの中核的役割を担う運動療法は、透析患者の運動耐容能改善、Protein Energy Wasting改善、たんぱく質異化抑制(「異化」とは分解すること。栄養状態の悪化によりエネルギーを作り出すための分解が進む)、QOL改善などをもたらす。さらに、最近になって、保存期CKD患者が運動療法を行うことで腎機能(糸球体濾過量:GFR)が改善するという報告が相次いでいる。腎臓リハにより、保存期CKD患者の腎機能改善や腎機能低下速度遅延が確実となれば、透析導入を先延ばしすることができ、多くのCKD患者にとって朗報となる可能性がある。2011年に日本腎臓リハビリテーション学会も設立され、CKD患者における腎臓リハのさらなる発展が期待される。』
なお、Protein Energy Wastingに関しては、「透析患者における protein-energy wasting(PEW)の評価」を参照頂ければと思いますが、「PEWは透析患者に対する低栄養状態の呼称として、海外では広く普及してきている。」とのことです。

CKD患者の抱える問題
『CKD発症あるいは腎障害進行のリスクファクターは、高血圧、糖尿病、脂質異常症、高齢などで、超高齢社会の我が国では今後ますますCKD患者数の増加が懸念される。CKDの進行に伴い、心血管疾患の発症率は加速的に高まる。』
心血管疾患との関係は非常に重要で、日本心臓リハビリテーション学会学術集会においては、2013年の第19回のシンポジウムでは「心臓と他臓器のコミュニケーション(臓器連関)を知る」が、続く第20回のシンポジウムでは「リハビリテーションの心腎連関:慢性腎臓病や透析患者への適応を考える」がテーマとなっています。

臓器連関の病態生理
脳を加えた、脳・心・腎の関係について書かれたものがありましたので、ご紹介させて頂きます。
『脳・心・腎の間には密接で、かつ、精巧な機能的連関があります。この連関には、細胞外液、すなわち、内部環境の恒常性と循環の維持が重要な役割を果たしています。しかし、いったん、脳・心・腎のいずれかが障害されると、この臓器連関により単一臓器の機能不全への進展のみならず、互いの臓器を障害していく負の連鎖を形成します。
腎臓は心臓から拍出された多くの血液量を受け、全身の血行動態に応じたさまざまな神経体液性因子に反応して体液量や電解質を調節し、その結果、心血管機能に影響を与えています。近年、心疾患患者の生命予後は腎機能により大きく影響を受ける一方、腎機能障害患者の主要な死因は心血管病であることが明らかにされ、心腎連関という概念で注目を集めています。心不全では交感神経系やレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系、バゾプレッシンなど神経体液性因子が活性化され、糸球体濾過量やナトリウム利尿の低下が生じ、体液が増加します。一方、心臓より分泌されるナトリウム利尿ペプチドは体液増加の阻止に作用します。また、糖・脂質のエネルギー代謝も脳・心・腎などの機能調節に関わっていることが明らかになっています。
このような臓器連関の病態生理を理解するとともに、各患者の主要疾患への検査や治療などが、他の臓器に与える影響を理解することはきわめて重要です。』

脳心腎・糖代謝連関における腎交感神経の役割

『脳・心血管疾患と腎臓病は密接に関連し、「脳 心腎連関」と呼ばれる概念が提唱されている。しかし、そのような臓器連関の臨床症状に頻繁に遭遇するものの、詳細な発症・進展メカニズムについてはほとんど明らかとなっていない。これに対し、交感神経と腎臓内レニン・アンジオテンシン系の活性化が、脳心腎連関の病態に深く関わっていることが、最近明らかとなってきている。例えば、心不全では心拍出量の低下による腎虚血のみならず、遠心性に腎交感神経が活性化されて糸球体輸入細動脈と輸出細動脈に分布する交感神経終末からカテコラミンが分泌され、腎血流の低下を招く。また、腎神経の活性化は、尿細管のα1 受容体、β2受容体の活性化を介し、ナトリウム再吸収を増加させて体内へのナトリウム貯留を生じ、さらに心不全を悪化させる。……』

心臓リハビリテーションと腎臓リハビリテーション
『2つのリハビリテーションの共通の効果として、最大酸素摂取量の増加、左心室収縮能の亢進、心臓副交感神経系の活性化、炎症の改善、不安・うつ・QOLの改善、ADLの改善、死亡率の低下などがあります。また、慢性腎臓病を伴う心筋梗塞患者にリハを行うと腎機能が改善したとの報告や、冠動脈バイパス術を受けた透析患者がリハを行うと全死亡率や心死亡率が大きく減少したとの報告もあります。超高齢社会では、このような心腎連関の病態生理とリハの効果や影響を理解することはきわめて重要です。』
心臓リハビリテーション」については、2017年5月にブログにアップしていましたので、こちらもご紹介させて頂きます。

腎臓リハビリテーションの運動療法
『運動処方の考え方としては、基本的には慢性心不全患者や高血圧患者の運動療法メニューに準じたものである。運動の種類としては、有酸素運動、レジスタンストレーニング、またはそれらを組み合わせたプログラムを推奨する。身体機能やADL 能力が低下している者は、バランストレーニングなどと適宜組み合わせて、個別のプログラムを作成することが望ましい。運動の負荷は、疲労の残らない強度で短時間、少ない回数から導入し、心拍数や自覚症状に基づいて徐々に強度時間、回数を増加させることが望ましい。また、自宅で行うことができるようなプログラムにすることも効果を上げるためには重要である。』

 

こちらの絵はストレッチングを含む準備体操となる「腎臓体操」と呼ばれるものです。

 

画像出展:「保存期CKD患者に対する腎臓リハビリテーションの手引き」

下の表はCKD患者に推奨されている運動処方です。

 

画像出展:「看護roo!(「保存期CKD患者に対する腎臓リハビリテーションの手引き」を一部改変)」
 

こちらは、CKD透析患者に対する運動療法による効果を示したものです。

 

画像出展:「CKDにおけるリハビリテーション」

「保存期CKD患者に対する腎臓リハビリテーションの手引き」には、運動療法の注意点、腎臓保護効果判定指標、更には日常生活での工夫について記述されていました。
運動療法の注意点
・関節痛など運動器障害や息切れ、胸痛など循環器障害の症状の出現や進展に注意する。
・尿毒症の症状の出現や進展に注意する。
・運動することで腎機能が低下していないかをチェックする。

腎臓保護効果判定指標
運動療法の介入前と介入後3ヵ月程度の成果としては、
1.血清クレアチニン又はシスタチンCの不変・低下
2.尿蛋白排泄量の軽減(20%以上)
3.血清クレアチニン推定GFR(eGFRcr)又は血清シスタチンC推定GFR(eGFRcys)の低下率の軽減(30%以上)(3では介入3 ヵ月前、介入開始時、介入後3ヵ月の3回の採血検査が必要)を目標とするため、これらの検査を必須とすることが望ましい。
日常生活での工夫

平成28年度診療報酬改定 「腎不全期患者指導加算」認定と今後の対応
平成28年度は、一定水準以上の成果を出している保険医療機関に対して糖尿病透析予防指導管理料に「腎不全期患者指導加算(月1回100点)」が設けられましたが、あくまで限定的なものであり、対象範囲を保存期CKD一般や透析患者に拡げていく必要があるとされています。以下は『腎臓リハ NEWS LETTER No5』(最下段がNo5になります)の内容の一部をご紹介させて頂きます。


『本年度、腎不全期の糖尿病性腎症の患者に運動指導を行い、一定水準以上の成果を出している保険医療機関に対して糖尿病透析予防指導管理料に「腎不全期患者指導加算(月1回100点)」が設けられました。算定要件として、腎不全期(eGFR 30mL/分/1.73m2 未満)の患者に対し、専任の医師が、当該患者が腎機能を維持する観点から必要と考えられる運動について、その種類、頻度、強度、時間、留意すべき点などについて指導し、また既に運動を開始している患者についてはその状況を確認し、必要に応じてさらなる指導を行います。施設基準の条件として、運動療法の介入前と介入後3ヵ月程度のアウトカムとして、1)血清クレアチニンもしくはシスタチンCの不変・低下、2)尿蛋白排泄量の軽減、3)血清クレアチニンもしくは血清シスタチンCによる推定GFRの低下率の軽減を確認する、の3条件のうちいずれか1つを満たす症例が5割を超えていることが必要です。

さらに、糖尿病透析予防指導管理料の算定要件に、保険者による保健指導への協力に関する事項を追加する。すなわち、保険者から保健指導を行う目的で情報提供などの協力の求めがある場合に、患者の同意を得て、必要な協力を行います。具体的な運動内容、禁忌、中止基準などに関しては、本学会ホームページの「保存期CKD患者に対する腎臓リハビリテーションの手引き」を参考にしてください。

本学会が要求してきた「慢性腎臓病運動療法料」は、本来は保存期糖尿病性腎症のみならず、保存期CKD一般や透析患者をも含む出来高のリハ料・運動療法料です。今回認定された腎不全期患者指導加算は、わずか4年の交渉で獲得に成功した成果であるとはいえ、認定された対象は糖尿病性腎症で腎不全期にあくまで限定的なものであり、対象範囲を早急に拡げていく必要があります。腎不全期患者指導加算を本来めざしていた慢性腎臓病運動療法料に今後発展させるべく、CKD2期以上や透析患者でも運動療法のエビデンスをさらに強固にして、適応拡大、増点になるように活動を継続します。

最後に、日本腎臓リハビリテーション学会さまのホームページにある「施設紹介」の中から、東京都にある2つの施設について表にしましたのでご覧ください。また、こちらの2つの病院は、腎臓リハビリテーションを積極的に推進されており、大変興味深い内容となっています。

 

 

 

「つばさクリニック」の透析患者さんが元気な理由
 理由その1「ひとりひとりに適切な透析」
 理由その2「解り易い患者指導」
 理由その3「運動療法」
 透析中のミュージックエクササイズ(運動療法)※こちらは動画です。

 

 

 

 

 

当院リハビリテーションの特色
『運動器疾患、脳血管疾患、心血管疾患、呼吸器疾患などの各種疾患別リハビリテーションを幅広く展開しています。また、当院は透析専門施設であり、透析患者さんの運動機能の維持・向上に加え、心血管疾患や腎性貧血などをはじめとする合併症予防を目的とした腎臓リハビリテーションを実施しています。入院でのリハビリテーションでは、脳血管障害による麻痺や、整形外科疾患により日常生活機能が低下した透析患者さんの在宅復帰支援に力を入れています。』

付記

中医学(中国伝統医学)に【肝腎同源】という用語があります。

これは、『肝血は腎精の滋養を受けており、腎精もたえず肝血による補充を受けている。このように精と血とは相互に資源となり滋養しあっていることから、「肝腎同源」あるいは「精血同源」といわれている、病理的な変化のうえでも肝血と腎精とは常に影響しあっており、肝血の不足は腎精の不足を、腎精の不足は肝血の不足を引き起こす。』というものです。

今回のブログでネット上の資料を調べていたところ、内科医の先生が書かれた興味深い資料がありましたので、ダウンロードできるようにさせて頂きました。

なお、その冒頭には次のようなことが書かれています。『太古から物事の要の意味で「肝腎」と言う言葉が使用されてきたように、肝臓と腎臓は、体内の恒常性維持・代謝調節の要である。エネルギー、蛋白、脂質代謝の主役は肝臓、水・電解質・酸塩基平衡調節の主役は腎臓という大まかな役割分担があるが、一部の生理的調節において相互補完関係にある。』

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内科医が知っておくべき腎臓と全身臓器とのインターラクション (肝臓と腎臓).pd
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CKD(慢性腎臓病)治療の最前線

CKDはChronic Kidney Diseaseの略称です。また、日本腎臓学会編として「CKD診療ガイド」が2007年、2009年、2012年と発行され、「CKD診療ガイド2018年」の発行準備が進んでいるようです。
ここでは、2009年版の“CKD診療ガイドの改訂に寄せて”の内容の一部をご紹介させて頂きます。
CKD(慢性腎臓病)は2002年にアメリカで提唱された全く新しい概念です。慢性に進行する腎臓の疾患は数多くあり、腎臓の疾患名はわかり難いとの批判がありました。そこで、さまざまの腎疾患を主に蛋白尿と腎機能の面より新たにCKDと定義しました。CKDという病名は腎臓専門医のためではなく、一般かかりつけ医のための病名です。日本腎臓学会では2004年に慢性腎臓病対策委員会を設置して、疫学調査研究、診療システム構築、社会への働きかけ、国際協調・貢献を4つの柱として、総合的にCKD対策を行ってきました。その中の一つの事業として、かかりつけ医と腎臓専門医の連携を深めて病診連携を行うためのツールとして2007年9月に「CKD診療ガイド」初版を発行しました。・・・』

2月23日のブログでは、慢性腎不全と診断された患者さまへの鍼治療において、改善がみられた症例をお伝えしました。そして、この症例をきっかけとして、腎・腎臓への理解を深め、より効果の高い施術を目指したいという思いが強くなりました。そこで、先月「パーキンソン病 -進化する診断と治療-」でお世話になった最新医學のバックナンバーを調べ、2016年12月号の「特集:慢性腎臓病(CKD)治療の最前線 -生活習慣病への新たなアプローチ-」で知識アップを図ることにしました。

 

出版:最新医学社

この特集は序論に続き次のような内容になっています。
【座談会】
生活習慣病治療のパラダイムシフトがCKD研究に与えるインパクト

CKDにおける生活習慣病治療のパラダイムシフト
CKDと高血圧 -レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の最新知見-
CKDと脂質異常症 -脂肪毒性の役割-
CKDと糖尿病 -細胞内栄養シグナルを標的とした病態解明と治療-
CKDと肥満 -アディポサイトカイン調節機構と腎保護-
CKDと高尿酸血症

生活習慣とCKD進展とのクロストーク
新たなCKDリスクファクター -サルコペニア、フレイル-
CKDと骨代謝異常とのクロストーク
CKDと栄養とのクロストーク
CKDと睡眠障害とのクロストーク

CKD発症阻止のための母子環境へのアプローチ
母体環境がCKD進展に及ぼす影響
小児期の成育環境および生活習慣の変化とCKD発症・進展

CKD診断・治療のUp-to-Date
最新のCKDのバイオマーカー
CKD新規治療薬の開発-PHD阻害薬、Nrf2刺激薬、インクレチン関連薬、SGLT2阻害薬-

ブログに取り上げたのは【CKDにおける生活習慣病治療のパラダイムシフト】と【生活習慣とCKD進展とのクロストーク】です。
まず、要点と思ったものをそれぞれ表形式にまとめました。そして、前者は「レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAA系)」に関して、後者は、「サルコペニアとフレイル」について補足しました。
また、今回のブログを書くにあたり、ネット上にあった優れたサイトや資料もご紹介しています。特に「サルコペニア」「フレイル」の意味については『健康長寿ネット』がおすすめです。

なお、運動療法を中核とする「腎臓リハビリテーション」については次回のブログでご紹介させて頂きます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「病気がみえる 腎・泌尿器

レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAA系)
血圧や有効循環血漿量の低下が起こると腎臓はレニンを分泌し、アンジオテンシノゲンがアンジオテンシンⅠを経てアンジオテンシンⅡに変換され、アルドステロンが分泌されます。これにより、血圧、循環血漿量が調節されます。なお、血圧上昇・循環血漿量増加がネガティブフィードバック(抑制的な指示)となりレニンの分泌が抑制されます。

腎臓の傍糸球体細胞は腎血流量の変化を感知し、減少すればレニンの分泌を促進し、増加すれば抑制するという仕組みをもっています。このレニンは発見当初は活性化の仕組みがわからずホルモンかキナーゼ(リン酸化酵素)の一種ではないかと考えられていましたが、現在ではタンパク質分解酵素の一種とされています。
ACE(アンギオテンシン転換酵素)も酵素です。肺などの血管内皮細胞によって産生・放出される血圧調節に関与しており、種々の呼吸器疾患、肝、腎、甲状腺疾患、糖尿病などで変動することが知られています。アンジオテンシンとアルドステロンは尿生成に関するホルモンです。双方、血圧上昇の働きがありますが、後者は体液量増加の働きももっています。アンジオテンシンは肝臓で合成されたアンジオテンシノゲンが元になっています。一方、アルドステロンは副腎皮質から分泌されます。

 

中央の2つがアンジオテンシンⅡとアルドステロンです。他に尿生成に関するホルモンとして、バゾプレシン、ANPがあります。

画像出展:「病気がみえる 腎・泌尿器」

横道にそれますが、「神秘の巨大ネットワーク」と題するNHKスペシャルが放映されています。これは脳が関与することなく、臓器同士がメッセージのやりとりをしながら様々な働きをするというものです。この中で臓器同士のやりとりは、ホルモンやサイトカインなどの「メッセージ物質」を介して行われますが、番組では、「人体の本当の姿は脳を頂点とするタテ社会と考えられてきたが、臓器同士の会話による巨大ネットワークが人体の真の姿である。」という考え方を紹介しています。
この考えに従って、RAA系(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系)をみてみると、主な臓器は腎臓肝臓副腎です。メッセージ物質は酵素のレニンACEとホルモンのアンジオテンシンⅡアルドステロンということになり、RAA系も「巨大ネットワーク」の1つということになると思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出版:東京書籍


サルコペニアとフレイル
こちらの図は本文に掲載されている「図1 CKD患者におけるフレイルの原因」と「図2 CKD患者におけるフレイルがもたらす結果」ですが、この2つの図を説明した箇所を引用させて頂きます。なお、クリックして頂くと拡大されます。


CKD患者においては、食思不振や食事制限による栄養摂取不足はサルコペニア、フレイルの主要因である。しかし、栄養摂取不足のみならず、尿毒症、全身性の炎症、糖尿病や心血管疾患などの併存疾患、代謝性アシドーシスやインスリン抵抗性などの代謝・内分泌系的異常なども、サルコペニア、フレイルの発症に関与している(左-図1)。さらに、透析患者では、透析による栄養素の喪失(アミノ酸やタンパク質の透析中への流出)や透析治療に関連した因子(透析液中のエンドトキシンや透析膜の生体的合成など)も加わり、サルコペニア、フレイルを非常に来たしやすい。サルコペニア、フレイルは感染症、心血管疾患、虚弱や抑うつなどを引き起こし、さらにこれらの合併症がサルコペニア、フレイルを増悪させる要因となる(右-図2)。
フレイルが要介護状態の前段階とすると、この状態は日本では介護予防の二次対策予防対象者に相当する。したがって要介護状態をできるだけ予防するうえでも、このフレイルの予防・介入は喫緊の課題である。サルコペニア、フレイルに対する包括的かつ積極的な介入が、CKD患者のQOL向上や生命予後改善のために不可欠である。』

 

平成28年9月に一般社団法人となった、日本サルコペニア・フレイル学会さまのサイトには次のような説明がされています。

 『世界的に社会の高齢化は大きな問題となっていますが、高齢者の機能障害や要介護に至ることを予防するためには、疾病の管理とともに老年症候群の管理が重要です。なかでも生活機能障害を招き、健康長寿の妨げになるものとしてフレイルやサルコペニアが非常に注目されています。フレイルは高齢期に生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し、機能障害、要介護状態、死亡などの不幸な転機に陥りやすい状態とされ、生理的な加齢変化と機能障害、要介護状態の間にある状態として理解されており、サルコペニアは、加齢に伴って筋肉が減少し、握力や歩行速度の低下など機能的な側面をも含めて定義されています。サルコペニアが進行すると転倒、活動度低下が生じやすく、フレイルが進行して要介護状態につながる可能性が高くなり、高齢者の運動機能、身体機能を低下させるばかりでなく、生命予後、ADLを低下させてしまう場合が多く、その対策が必要です。すなわち、サルコペニアはフレイルの一つの重要な要因ともいえます。』

 

 

 

「サルコペニア診療ガイドライン2017年版」:サルコペニア診療のためのガイドラインが、国立長寿医療研究センター、日本サルコペニア・フレイル学会、日本老年医学会によって作成されました。

同研究センター副院長の荒井秀典先生が監修された「サルコペニアがいろん」の中に、サルコペニアが起こるメカニズムに関する記述がありましたので、専門的な内容ですがご紹介したいと思います。

出版:ライフサイエンス出版


●加齢による神経筋シナプスの形態変性
『筋の運動機能を維持するためには、筋組織と運動神経が連携して運動時に必要な代謝産物、エネルギー量や酸素消費量の需要増大に対応する必要があります。脊髄にある運動神経細胞の細胞体から伸びた神経線維の終末部は、筋細胞と接して神経筋シナプス(接合部)を形成しています。加齢に伴ってこの神経筋シナプスの断片化、構造の単純化、神経終末の分枝化が起こります。このような神経筋シナプスの形態変性は、運動神経終末から分泌される神経伝達分子(アセチルコリン)の作用効率を下げ、サルコペニアにおける筋力低下や筋萎縮の原因となります。さらに、ビタミンDが神経筋シナプスの構造の維持に有効との報告もあります。』

左は神経筋接合部の構造です。

画像出展:「人体の正常構造と機能」


●筋幹細胞の老化との関係
サルコペニアの筋では、筋線維の数と断面積が減少しています。発生期の筋線維の形成や筋が損傷したときの修復には、再生・分化能をもつ筋幹細胞が必要ですが、加齢により筋幹細胞の再生・分化能や修復効率は低下します。しかし、筋の単なる加齢変化では明らかな筋損傷がみられないことや、筋幹細胞が筋線維の維持に必ずしも必要でないとの報告もあり、筋幹細胞の老化とサルコペニアの因果関係は、今後の課題です。』
●代謝バランスの破綻と可塑性の喪失
『筋力や身体能力の低下は認知症を含む老年症候群、要介護や死亡のリスクと相関することが明らかになっています。加齢による全身の変化は、筋量の減少ではなく筋の質的な変化と強く関連していることを示唆しています。筋肉も他の組織と同様に、通常は筋タンパク質の同化(合成)と異化(分解)が平衡状態に保たれています。骨折や脳血管障害などによりベッドレストで筋が不活動状態になると、同化と異化のバランスが急速に崩れ、筋は2週間で萎縮します。この萎縮した筋は通常の生活に戻ればすぐに改善されますが、加齢とともにその回復力は低下し、また加齢に伴う低栄養・低タンパク質は回復をさらに阻害します。
サルコペニアの萎縮した筋では遅筋線維の割合が相対的に増えると考えられます。若い筋では、運動により筋線維が肥大するだけでなく、運動の種類(筋力/耐久トレーニング)によって速筋線維と遅筋線維の割合を変化させることができますが、加齢とともにこのような可塑性は失われます。
免疫細胞の機能制御を担う多くのサイトカインは筋からも分泌されていて、サイトカイン以外の分泌タンパク質を含めてマイオカインと総称します。マイオカインは肝臓、膵臓、脂肪組織、免疫組織、骨、脳などにも血流で運ばれ、マイオカインの分泌制御は筋の運動機能や体内の栄養環境の影響を受けるため、サルコペニアだけでなく認知症など老年症候群の成因と強い関連があると考えられます。』

長寿科学振興財団 健康長寿ネット

 

「高齢者の病気」の先頭の2つに「フレイル」と「サルコペニア」があります。それぞれ、原因・診断・治療・予防などが丁寧に説明されています。

協和発酵キリンさまの運営サイトです。

とても親切なサイトで、マンガによる解説も付いています。

いま,なぜ睡眠と全身性疾患か?? ―全身性疾患を睡眠からとらえる

睡眠との関係を知りたいと思い検索して発見した資料です。

「おわりに」の冒頭は次のような内容です。『睡眠時間の減少や睡眠時の呼吸異常は、全身性炎症や心血管系疾患、代謝性疾患と密接に関連すること、さらに癌の進展リスクにもつながり得ることを示した。とりわけ、肥満に伴う閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)ではIH(間歇的低酸素[Intermittent Hypoxia])やそれに伴う全身性炎症が生活習慣病の発症進展に重要な役割を担っている。……』

慢性腎不全が鍼治療で改善!

慢性腎不全の患者さまへの施術で、クレアチニン値3.64から2.38に改善された症例がありましたのでご紹介させて頂きます。なお、体調も良くなり通常のお仕事に復帰されました。
・施術期間:2017年11月-2018年1月
・施術回数:9回
・クレアチン値:3.643.022.502.38

今回、ブログを書くにあたり患者さまにご相談したところ、検査結果もお見せ頂けることになりました。下記がその検査結果ですが右上に日付が出ています。なお、クリックして頂くと拡大されます。



CKD診療ガイド2012を元に、内臓トレーニング協会さまが作成されたグラフです。これを拝見すると、クレアチニン値が3.5以上になると手術が必要になってきます。

画像出展:「内臓トレーニング協会

 

 

 
腎移植手術を行う場合、医療費助成制度適用には、「腎機能障害の身体障害認定」が必要となります。4級の評価基準は右端にある「クレアチニンクリアランス(Ccr)20以上30未満」もしくは「クレアチニン値3.0以上5.0未満」のいずれかを満たすという条件です。つまり、3.0という数値は日常生活活動の制限を覚悟しなければなりません。

 

画像出展:「腎援隊

疾患-慢性腎臓病」でも触れていますが、「鍼治療が慢性腎臓病(CKD:chronic kidney diseas)に有効ではないか」ということを考えるようになったのは、静岡トレーニングクリニック 廣岡院長の著書、「腎臓病を自分でなおす -私たちはクレアチニン値を自分で下げた-」を拝読させて頂いたことによります。仮説ということではありますが、「クレアチニン値の下がる理由(特に青字箇所)」鍼治療の可能性を確信した理由です。

注)静岡トレーニングクリニックさまで行われている「内臓トレーニング療法」は鍼治療ではありません! 「低周波パルス印加装置」を使用されています。

 

発行は、2015年4月です。

出版:アイシーアイ出版

クレアチニン値の下がる理由(仮説) 
a 人体を細胞レベルで見ると
『体を細胞レベルで見ると、約60兆個の細胞からできています。全ての細胞は、酸素を取り入れて二酸化炭素を排出し、アミノ酸やブドウ糖などの栄養を取って老廃物を排出しています。細胞に栄養と酸素を届けるのは血液であり、二酸化炭素と老廃物も血液によって回収されます。ですから、細胞は血液が届けば健康ですが、届かなければ衰弱し、もし酸素が届かなくなれば10分ほどで死んでしまいます。つまり、細胞にとって血液は生命線であり、全身の細胞に血液が行き届いていれば人間の体は元気でいることができます。
b 細胞も生き物、その健康状態はさまざま
細胞は生き物です。生き物は単純に生か死に二分することは出来ません。元気な細胞、疲れた細胞、病気の細胞などがあり、徐々に弱って寝込んだり倒れたりして最後に死を迎えます。一般的にクレアチニン値1.00を超え、腎機能に支障があると診断されたときには、その機能の半分が不全に陥っています。しかし、1.00の時、半分の細胞が死滅し、残りの半分の細胞が元気というわけではありません。細胞は活発に活動しているものから、瀕死の状態のものまでさまざまな健康状態で混在しています。腎臓の機能の回復を図ろうとするなら、弱っている細胞に新鮮な酸素と栄養をたっぷり与えれば、人間と同じように元気になるはずです。それには腎臓の血流を活発化すればよいのです。』
c 血液が届けば細胞は元気になれる
全身の血流を活性化し、臓器に血液を送りこめば、元気な細胞は今まで以上に元気になり、疲れた細胞は疲労を回復し、病気の細胞も治癒し、瀕死の細胞も息を吹き返すはずです。そして、疲労しきった腎臓の機能全体が回復してクレアチニンの数値も下がるはずです。現に、内臓トレーニングでクレアチニンを下げたり、数値の上昇を抑えている人は7割を超えています。内臓トレーニングが、クレアチニンは下がらないという医療界の常識に反して効果を挙げている理由は、ここにあると考えています。ただし、この考え方は科学的に証明されたものではありません。あくまでも細胞生理学的な見地からの仮説です。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「内臓トレーニング協会

また、次のご指摘も納得のいくものでした。
血液の流れる仕組み
『血液の大循環を考えてみましょう。心臓から押し出された血液は動脈を伝って全身に届けられ、静脈から心臓に戻ります。血液循環で一番難しいのは下半身に降りた血液を引力に逆らって心臓に戻ることです。心臓から足のつま先まで約1メートルの高さがあります。下半身の血液は、主として第2の心臓と呼ばれるふくらはぎの筋肉が動かします。ふくらはぎの筋肉がしっかり動けば、下半身の血液は尺取虫にように押し上げられて、心臓に戻ります。日常生活の中でふくらはぎを動かすには歩くことです。しかし、現在は車社会で歩くことが極端に少なくなっています。このため、下半身に汚れた血液が溜まり、さまざまな病気になりがちです。
次に毛細血管の血液の流れを説明しましょう。毛細血管は筋肉の中にあり、毛細血管の血液も筋肉の収縮によって体の隅々まで流れます。やはり、運動が必要です。ですから、歪んだ姿勢で生活したり、肩こりや腰痛で筋肉を固めてしまうと、筋肉の収縮頻度が少なくなり、毛細血管の血液の流れまで悪くなってしまいます。血液の流れを円滑に保つことは、健康な人でもなかなか大変なことです。ましてや腎臓を患っている人は、当然血液の流れが滞りがちです。』

 

画像出展:「腎臓病を自分でなおす」

 


警告のための名称
廣岡先生は、2012年5月に発行された「腎臓病をなおす-内臓トレーニングでクレアチニン値は下がる-」の中では、次のようなお話もされています。
腎臓の働きが衰えてくると、一般に慢性腎臓病とか慢性腎不全と診断される。しかし、この名称は「腎臓の機能が衰えてきています」と腎臓の働きの状態を表した病名で、いわゆる「警告のための名称」と考えるとわかりやすい。

 

 

 

 

廣岡先生が実施されている治療は「内臓トレーニング」とよばれ、ホームページにも詳しく紹介されています。

ご参考1

ホームページに紹介されている「田坂定孝教授著[低周波脊髄・頭部通電療法]中外醫學社刊」は、「国立国会図書館デジタルコレクション」の中にありました。資料は「図書館向けデジタル化資料 送信サービス参加館」に登録されていれば、その図書館にある専用端末で閲覧およびコピーが可能です。添付は、「田坂定孝教授著[低周波脊髄通電療法]」です。これは[低周波脊髄・頭部通電療法]の2年前の1958年に発行されたものです。実は、間違ってこちらを閲覧・コピーしてしまいました。なお、『本通電法を一応低周波脊髄通電法(以下低脊通電と略す)と命名して昭和30年8月20日に(日本医事新報,第1634号)に報告したものである。』と記されていました。

右側は「低脊通電の臨床効果」が書かれた最初のページですが、見ずらいため冒頭の一部を書き出しました。

 

『低脊通電は諸種中枢性神経疾患ことに脳卒中後片麻痺にみられる運動障害に有効であるばかりでなく、視覚障害・言語障害・拘攣・自律神経障害および精神障害などにたいしても有効であり、約15%くらいの無効例および15%くらいの微効例はあるが、その他の70%においては効果がはっきり認められ、しかもこのうち約20%においては卓効または劇的な効果がみられた。・・・』


鍼治療の概要
当院の鍼灸治療は経絡治療になりますが、日本伝統医学研修センターにて相澤良先生よりご教授いただいた経絡治療になります。これは、岡部素道先生が昭和20年~39年の第2期に行っていたもので、陰陽論を具体化するものであり、「祖脈診」による脈診は病理を鑑別します。これに問診、腹診などを考慮して総合的に判断します。今回の患者さまは、瘀血が疑われる熱型で、肝経の金穴(中封)・水穴(曲泉)、腎経の金穴(復溜)・水穴(陰谷)を本治としました。なお、腹部の中脘、左右天枢、関元の4穴も本治に加えています。

下図は祖脈診の概要です。右の写真は現場で使うシャーレと寸3-1番の40本の鍼です。殿筋など長い鍼が必要な場合は、寸6-3番や2寸-5番を使っています。 


「内臓トレーニング」では、ふくらはぎ、足裏、背中(脊柱際)を治療ポイントとしています。

今回は足の浮腫みがあったため、腓腹筋ヒラメ筋をターゲットにツボを意識しつつ、触診により刺鍼点を決めました。
また、軟らかい印象があった背中ですが、刺鍼してみると少し深いところに顕著な硬さがあり、曲がってしまう鍼もありました。この硬さは普通ではなく最重要の刺鍼エリアであると判断しました。置鍼時間は20~30分を目安とし、必要に応じて、単刺や抜鍼時の雀啄を行い、硬さをつくっている熱が外に排出されるイメージで鍼を抜きました。

 

夾脊(華佗夾脊)」は、経絡治療、中医学ともに使われる奇穴です。教科書には主治として「胸腹部の慢性疾患」とあります。

画像出展:「新版 経絡経穴概論」

神経リンパ反射療法でご紹介した「チャップマンによる内臓器官反射点」です。この反射点を活性化すると、『自律神経系を通して反射点と連結する内臓に影響を与えることが可能である。反射点の治療を通して交感神経緊張の制御が切り替わり、関係する内臓の血流が良くなり代謝推移が素早く正常化する。』との解説がされています。

Dr. Frank Chapman, DO(Doctor of Osteopathic Medicine)

画像出展:「神経リンパ反射療法」

整理をすると、今回の標治ヒラメ筋腓腹筋T1(第1胸椎)~L2(第2腰椎)の脊際、さらに、脳への血流を意識し、後頚部を加えたものが刺鍼部位になります。

ご参考2

五行説:陰陽と並ぶ古代中国の自然哲学の思想。陰陽五行説という捉え方もされる。万物は「木火土金水」という五つの要素により成り立つとする。

相撲は日本古来の神事とされていますが、ここには「五行」が存在します。
・土(土表)
・金(白ぶさ)
・水(黒ぶさ)
・木(青ぶさ)

・火(赤ぶさ)

画像出展:「ウィキペディア

腎臓の働き
・腎臓の働きは大きく分けると、「尿生成」と「ホルモン産生・調節」の2つですが、臨床的には尿生成を腎機能としています。
。その尿生成に関しては、「よくわかる生理学の基本としくみ」という本の中に、例をあげて分かりやすく説明がされていましたので、こちらをご紹介させて頂きます。(右側の腎機能の図は「病気がみえる vol8 腎・泌尿器」からのものです)

 

出版:秀和システム


 

こちらは、腎動脈に造影剤を注入してX線撮影した腎動脈造影です。「病院の検査の基礎知識」さまより拝借しました。

なお、腎動脈の直径は5~6mmとされています。

『細胞が出す代表的な代謝産物には、酸素の消費の結果出てくる二酸化炭素のほか、タンパク質やアミノ酸を分解することで生じる尿素や硫酸など、それに、DNAやATPなどに使われる核酸を分解して生じる尿酸などがあります。これらの物質は、細胞から血液に出されてきます。したがって、ゴミは、血液によって体中から回収されているわけです。血液は、なんと、ゴミ収集車の役わりをしているのです。

 

尿素や尿酸などのゴミを回収したごみ回収車は血液を通って処理センターの腎臓に向かいます。

画像出展:「よくわかる生理学の基本としくみ」

血液は、あくまで収集をしているだけなので、どこかに捨てなければなりません。一つのごみ処理場は、肺です。ここで二酸化炭素が出されることを、第3章(息をすること[呼吸器系])でお話しました。しかし、他の物質は、気体にならないので、肺からは出ません。気体にならないゴミを除去するのが、腎臓の役割です。つまり腎臓は、ゴミを水に溶かした状態で体外に出します。これがおしっこです。
だから、体が少々水不足の状態であっても、ゴミを溶かすために水が必要で、おしっこはやっぱり出てくることになります。こうして見ると、腎臓が壊れることの恐ろしさが分かると思います。腎不全が進んでしまった患者さんは、腎臓移植をするか、人工血液透析を行って、血液から直接ゴミを取り除く方法をとらなければならなくなります。
血液の中に溶けている“ゴミ”を体の外に出すためには、どうしたらよいでしょうか。一番簡単なのは、血液をそのまま捨てることです。しかし、これは出血ですね! 体の中の血液の量は、体重の約8%ですので、体重60kgの人では約5Lです。おしっこの1日量から考えると、3日で空っぽになってしまいます。また、おしっこに血液が混じるのは血尿といって、病気の兆候です。結局、血液の中から、ゴミを選んで出す必要があるのです。
血液の主な成分といえば、赤血球や白血球や血小板が思いつくことでしょう。この3つは、細胞、あるいはその一部で、血球成分と呼ばれます。血球成分は、もちろんゴミではありません。ですから、血球を出さずにゴミを除去しなければなりません。
ゴミは、血液の液性成分である血漿の中に溶けている分子です。そうすると、血液の中から、血漿だけを取り出せばよさそうです。血球は細胞成分ですから、比較的大きいので、理科の実験などでよく使う濾紙(フィルター)であれば、濾しとることができそうです。腎臓には、この濾紙の役わりをするものがあります。それが糸球体です。糸球体は、両側の腎臓に合わせて、200万個以上もあるといわれています。糸球体は、毛細血管が糸くずのように丸まった状態のものです。つまり血管ですから。この中を血液が流れています。
この血液は、大動脈から直接枝分けれしている腎動脈が、さらに数回枝分かれしてきた輸入細動脈から注がれます。そして、糸球体を通過した血液は、輸出細動脈として出ていきます。こうして、糸球体には、血液が絶えず流れています。

糸球体の壁は、内側から、血管内皮細胞、基底膜、上皮細胞の順で層を成しています。血管内皮細胞と上皮細胞は、それぞれ細胞どうし密着しておらず、ちょうどタイルのように並んでいます。そして、細胞どうしの間はすき間になっています。また、基底膜は、膜とはいっても均一なものではなく、網状の構造をしています。網の上に細胞がバラバラに載っているようすは、網の上でお餅を焼いているようすに似ています。内皮細胞の大きさは赤血球より小さいので、内皮細胞や上皮細胞のすき間を、血球成分は通過できません。では、基底膜はどうでしょう。基底膜の網の目はかなり細かいので、血漿の中の巨大分子であるたんぱく質は、ほとんど通過できません。
こうして、血漿成分からタンパク質を除いた比較的小さな分子と水だけ、糸球体の壁を通過することができ、中に入っている比較的小さな分子であるゴミを血管の外に出すことができるのです。このしくみを糸球体ろ過といいます。こうして糸球体から、いわばしみ出てきた液を原尿と呼びます。原尿はボーマン嚢に受け止められて、次のルートである尿細管に流れてゆきます。

 

画像出展:よくわかる生理学の基本としくみ」

糸球体の壁からしみ出た原尿は、血漿からタンパク質を除いたものです。ところで、そもそも血漿には何が含まれていたでしょうか。
第一はタンパク質です。タンパク質にはアルブミンと呼ばれるグループと、グロブリンと呼ばれるそれより大きな分子のグループがあります。それと、血液内で脂質を輸送する役わりがあるリポタンパクがあります。健康を気にしてる人は、LDLとかHDLとかいう名前を聞いたことがあるでしょう。それがリポタンパクです。こうした血漿に含まれているタンパク質は、しみ出しません。
タンパク質は栄養素でもありますが、第2章(食べること[消化器系])で、他の栄養素も、腸で吸収されて、血液に入ってくることをお話しました。そう、グルコースなどの単糖類とアミノ酸です。これらは比較的小さな分子なので、糸球体の壁からしみ出してしまいます。そのほか、ナトリウムやカリウム、カルシウム、塩素などの電解質も、血漿の中にしみ出します。また、もちろん水もしみ出します。こうした栄養素や電解質、水は、ヒトの体に必要なものです。
これらが、糸球体からどんどん失われたとすると、まったくムダなことをしていることになります。ですから、これらのものは、最終的に、おっしことして出してしまう前に回収しなければなりません。尿細管では、原尿中の必要物質を回収し、血液に戻しています。

 

画像出展:「よくわかる生理学の基本としくみ」

では、どうして、糸球体からいったんだしてしまったものを、また回収するというような、一見ムダに見えることを行っているのでしょうか?それは、“ゴミ”を出すために必要な作業だからなのです。血液中のゴミは小さな分子で、栄養素などと大きさがさほど変わりません。だから、ろ過では、栄養素とゴミの区別をつけることはほぼ不可能です。
ならば、ろ過という方式をとらず、ゴミだけ、血液の中から選択的に取り出す方法も考えられます。これなら、尿素や尿酸といったゴミだけ捨てて、栄養素を捨てなくてすみます。
でも、この方法は、自然界では危険な方法です。なぜなら、体の中には、栄養素とゴミ以外の物質が、いつも入り込んでくる可能性があるからです。典型的なものは毒物です。毒物は、ヒトが持っている物質ではありませんので、ヒトとしては、どんな物質なのか予想がつきません。ですから、血液中から毒物だけを選んでうまく捨てることができるかどうかは、不確実です。おまけに、これを失敗すると、生命の危険にさらされるわけです。具体的な例として、新薬の話があります。新薬は、人工的に合成された化学物質ですから、それまで地球上に存在するはずのない物質です。しかし、新薬がヒトに投与されると、みごとに体の中から除去され、おしっこに出てゆきます。

 

捨てる&回収は、最も安全です。

画像出展:「よくわかる生理学の基本としくみ」

もし、腎臓が、ゴミだけ選んで捨てていたら、新薬はいつまでたっても体の中にとどまって、深刻な副作用を引き起こすでしょう。毒物も新薬もゴミも確実に排出するには、考え方を変えなければなりません。タンパク質より小さな分子は、とりあえず、いったん血管の外に出してしまうのです。そうすれば、どんな毒物も開発したての新薬も、出て行ってしまいます。ゴミももちろんそうです。これが糸球体のろ過のやり方です。
同時に出て行った栄養素や電解質ですが、これは生体がよく知っているもので、その数も限られているので、こちらを選んで回収するほうが、結局、効率がよいわけです。たとえば、ゴミ箱に誤って必要なものを捨ててしまって、ゴミ箱からそれを探し出すときのようなものです。ゴミ箱の中身を、新聞紙か何かにいったん拡げて、必要なものを見つけ出し、残りをまたゴミ箱に捨てる方が、ゴミ箱の中に手をつっ込んで探すより、簡単ですよね!

ご参考3

こちらは糸球体の写真です。

まさに毛細血管の糸くずですが、1つのパーツではありません。ミクロの細胞を1つの部品とすれば、物凄い部品点数の巨大「ろ過装置」です。

もし、この「ろ過装置」が1個のスイッチで操作されるのであれば、その働きは、1(稼働)0(停止)というデジタル的といえます。

しかしながら、実際は常にスイッチはオンです。ただし、その稼働状況は一定とは限りません。取るべき睡眠をとっていなかったり、食べるべき食事を抜いていたり、あるい、暴飲暴食などの不摂生を繰り返していると、生み出されるストレスは「ろ過装置」が必要とする燃料(血液が運ぶ酸素と栄養素)の安定的供給に影響を及ぼし、稼働環境を悪化させます。

このように、細胞という無数の部品で組み立てられた巨大な「ろ過装置」を不十分な燃料で長期に渡って稼働させなければならないとすれば、その「ろ過装置」の稼働状況は、絶好調瀕死状態にある細胞群に支えられることになります。そして時間の経過とともに各細胞の健康状態は徐々に悪化してゆき、不良部品が増えていく「ろ過装置」の性能は低下していきます。

つまり、「低酸素や虚血という環境は腎臓のろ過機能を低下させるが、その変化はアナログ的であり、酸素と栄養素などが血液によって安定供給されれば、細胞の健康状態も改善され、そして、ろ過機能も改善される。」と考えることは不自然ではないと思います。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

再登場の絵です。

上記の「絶好調~~瀕死状態」はこの絵をイメージしたものです。

ご参考4

臓器は血液が運ぶ酸素と栄養素などで健康を維持していますが、特に腎臓にとって低酸素状態は重大な問題です。ネット上にあった第113回日本内科学会講演会の資料によると、糸球体の硬化の問題以上に、尿細管間質の慢性低酸素状態が特に重要と考えられること、腎臓は生体が必要とする酸素の30を消費する非常に酸素需要の高い臓器となっており、低酸素や虚血が病態に影響を及ぼすことなどが論じられています。なお、本資料はダウンロードできるようにさせて頂きました。

ダウンロード
腎臓病の新たな視点-低酸素とepigenetics.pdf
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ドグマチール(スルピリド)による薬剤性パーキソニズム

年始に「薬剤性パーキソニズム」が原因で、転倒された患者さまがおいでです。
お話を伺うと、平坦な道にもかかわらず、ツツツッと足が勝手に運ばれ、止まることができず転倒してしまったとのことでした。この転倒は姿勢反射障害によるものであることが懸念されました。
また、ご友人からは「〇〇さんは足を引きずるように歩いているから、注意した方がいいよ。」と言われるとのお話もされていました。これについては、足の運びだけでなく、歩行時の腕振りに問題があるのではないかということを考えました。

パーキンソン病の症状は姿勢反射障害の他、振戦(手のふるえ)、筋強剛(腕が歯車のようにカクカクした動きになる)、無動(思うように体が動かない)などが代表的な所見ですが、今回は姿勢反射障害によると思われる転倒以外の所見はありませんでした。しかしながら、万一のことを優先し、脳を診てもらえる病院に行かれることをお勧めしました。
地元の病院での診察結果は、パーキンソン病かどうかははっきりしないが、レボドパという強力なパーキンソン病の薬を2週間分渡されるというもので、原因および今後の展開は不透明な状況となっていました。
この薬は副作用の問題を抱えており、パーキンソン病やパーキンソン症候群(薬剤性を除く)の患者さま以外は服用する薬ではないと認識していました。そこで、現在の状況と問題点、更に今後の進め方について、患者さまに率直にお話したところ、ご納得いただき、後日、小平市にある国立精神・神経医療研究センター病院で診察を受けられることになりました。

診察の結果、数年前から服用していた「ドグマチール」の副作用による「薬剤性パーキソニズム」であると診断されました。そして、レボドパの服用はただちに中止されました。また、薬の代謝の問題と思われますが、ドグマチールの影響は2週間程続くので、今後2週間は特に転倒に注意してほしいとのお話があったそうです。こうして、年始の転倒の原因と今後の治療の進め方が明らかになり、一件落着となりました。

 

 

 

住所:東京都小平市小川東町4-1-1 / 予約センター:042-346-2190

 

 

「パーキンソン病の診断手順」に基づくと、今回のケースは「薬剤性パーキソニズム」になります。

せせらぎメンタルクリニック精神科・心療内科」さまのサイトをご紹介させて頂きます。

ドグマチールの特徴、副作用などについて大変分かりやすく解説されています。

補足.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これらはすべてパーキンソン症候群(パーキソニズム)の疾患です。

画像出展:「病気がみえる 〈vol.7〉 脳・神経」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほぼ中央に赤字で「スルピリド」、代表的商品名「ドグマチール」が紹介され、下段には「スルピリドが薬剤性パーキソニズムの原因となる頻度が最も多い」という説明が加えられています。

画像出展:「病気がみえる 〈vol.7〉 脳・神経」

活性酸素シグナルと酸化ストレス

今回の題材は2017年12月29日の「パーキンソン病 -進化する診断と治療-」の中で、自らに課した宿題です。これはパーキンソン病発症には「活性酸素」が深く関わっており、これをしっかり理解することが重要であるという思いからでした。
教材は下記の2冊ですが、「絵とき  シグナル伝達入門 改訂版」ついては関心がある箇所だけを拾い読みしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

監修:谷口直之

出版:羊土社

※発行は、2009年9月になります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

著者:服部成介

出版:羊土社


本題に入る前に、パーキンソン病と活性酸素との関係についてお伝えしたいと思います。

この写真と図は、「パーキンソン病 -進化する診断と治療-」の座談会で司会を務められた、京都大学大学院の高橋良輔教授が平成20年に日本内科学会講演会で発表され、日本内科学会雑誌 第97巻 第9号に掲載された資料からのものですが、ネット上にある資料でしたので閲覧できるようにさせて頂きました。

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神経変性疾患研究の進歩.pdf
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自分なりに考えた、パーキンソン病と活性酸素との関係について
1.活性酸素と抗酸化物質のアンバランスによって「酸化ストレス」は生まれ障害を起こす。
2.パーキンソン病を神経変性疾患の一つとしてとらえ、「蛋白質障害」という切り口で考える。
3.活性酸素はシグナル経路を活性化して、細胞保護、細胞分化増殖、細胞死の制御などの有益な働きもしている。

 

 

神経変性疾患はコンフォメーション病(蛋白質ミスフォールディング病)とも呼ばれており、原因タンパク質が凝集化し、病変部位に沈着することが特徴です。原因タンパク質の凝集化には酸化ストレスが関与しています。

 

 画像出展:「コンフォメーション病としての神経変性疾患」

そして、鍼灸治療について考えるならば、「自律神経系と内分泌系のバランスを調え、内臓の働きと自然治癒力を高め、酸化ストレス発現の抑制と耐性を目指す。」というものが治療の柱になると思います。非常に抽象的ではありますが、「何を、どうしたいのか」という治療イメージを持って臨むことが、良い施術の第一歩であると考えています。

『病態解明に迫る 活性酸素シグナルと酸化ストレス』では、活性酸素、酸化ストレスに加え、「シグナル伝達」というキーワードも重要なポイントになっています。そこで、まずはこの「シグナル伝達」が、いかなるものか調べました。

『絵とき  シグナル伝達入門』では「はじめに」の中で以下の2つを上げられています。
シグナル伝達研究は、さまざまな生命現象のメカニズムを分子レベルで明らかにしていこうとするものである。
“だれ”が“だれ”にシグナルを伝え、次に“だれ”がそれを受け取るのか、そして最後に何が起こるのか…この流れを捉えていくことが大切である。


著者の服部先生は、“がん研究からみつかった[がん遺伝子]はシグナル伝達研究に大きなインパクトを与えた”とお話されていますが、その説明箇所を引用させて頂きます。

なお( )内は補足説明として私の方で追記したものになります。
「シグナルを流れとして捉える-点から線へ、さらにはネットワークへ」
『細胞の受容体が受け取ったシグナルは細胞の中でどのようにプロセスされて、核、細胞質や細胞骨格(線維状のタンパク質により細胞を支えたり、動かしたりする)系に伝えられていくのだろう。シグナルを誤って伝えることは、シグナルがない時よりも悪い結果をもたらしかねない。まず受容体が刺激されたという細胞外のシグナルを細胞内のシグナルに変換しなければならない。そしてさらに正しい経路を経てさまざまな最終目的地まで間違いなく伝えなければならない。シグナル伝達は伝言ゲームにたとえることができるだろう。

 

画像出展:

「シグナル伝達入門」

どのようにして、シグナルを伝えるべき相手を選び、しかも正しく伝えていくのだろうか。
がん研究からみつかった“がん遺伝子”はシグナル伝達研究に大きなインパクトを与えた。すでに100以上もみつかっているがん遺伝子は、実は私たちの体のどの細胞ももっている遺伝子“前がん遺伝子”に変異が生じできたものである。そして前がん遺伝子の産物たちは、手に手を取り合って細胞の増殖を指令し続けさせるものだった。“だれが”“だれに”シグナルを伝え、次の“だれが”それを受け取るのか、そして最後に何が引き起こされるのか。シグナル伝達の研究はこうした点を次々と明らかにしてきたのである。
細胞の増殖を研究するにしろ、あるいは神経細胞の分化を研究するにせよ、シグナル伝達の立場は、常にシグナルを“流れ”として捉えてその流れを伝えていく役者を次々と明らかにしていくものである。その主役はタンパク質であることは間違いない。
このようにシグナル伝達はがんの研究から大きな影響を受けたけれども、もちろん生理学や遺伝学からもシグナル伝達研究の柱となるような大きな結果が出ている。

興奮するとドキドキしたり、また気合いが張ってくるのを感じることがあるだろう。これはアドレナリンの作用で、細胞の中のcAMP(サイクリック[環状]AMP[アデノシン一リン酸]:アドレナリンなど多くのホルモンや神経伝達物質などの第1メッセンジャーの細胞外からの刺激を、細胞内の標的分子に伝える第2メッセンジャーとして機能する)濃度が高められるせいである。その結果、細胞内のさまざまなタンパク質がcAMP依存性のタンパク質リン酸化酵素でリン酸化されていろいろな効果が発揮される。

 

画像出展:

「シグナル伝達入門」

さまざまな神経伝達物質の受容体からのシグナル伝達もこのような経路を用いている。こうしてみると、私たちの気持ちや心理状態もシグナル伝達の立場から説明できる日も遠くないかもしれない。』

『病態解明に迫る 活性酸素シグナルと酸化ストレス

 癌、神経変性疾患、循環・代謝異常にかかわるレドックス制御機構と最新の技術開発』

は、「序」に続き「概論」からスタートしていますが、まずは目次をご紹介します。

概論
活性酸素のシグナル伝達機能 -その生理機能の再発見と酸化ストレス研究の新展開
第1章 活性酸素・NOの生理機能
1.活性酸素シグナル生成系の制御機構
2.ミトコンドリア活性酸素生成とシグナル制御
3.チオール基の修飾による活性酸素のセンサー機能制御
4.親電子シグナル伝達
5.SNO化修飾によるシグナル伝達の新展開
6.NO・ニトロソ化シグナルと細胞死
7.活性酸素によるリン酸化シグナル制御
8.G12/13タンパク質による活性酸素シグナリング
9.植物におけるNADPHオキシダーゼの制御機構
10.植物のストレス応答・形態形成における活性酸素種の積極的生成とその制御
第2章 酸化ストレスと病態
Ⅰ.細胞分化増殖・シグナル異常と再生医療
1.ER(小胞体)と酸化ストレス
2.アポトーシスと酸化ストレス -酸化ストレス誘導性アポトーシスにおけるNoxaの役割
3.幹細胞ホメオスタシスと酸化ストレス
4.眼表面と酸化ストレス
5.グルタチオンペルオキシダーゼ4(GPx4、PHGPx)による胚発生・精子形成の制御機構
Ⅱ.炎症・発癌と変性疾患
1.酸化的翻訳後修飾タンパク質の解析でみえてきた肝・消化管炎症病態の新展開
2.チオレドキシンによる酸化ストレス防御とレドックスシグナル制御
3.酸化ストレス誘発発癌機構の解明 -フリーラジカル傷害に弱いゲノム領域を探る
4.塩基除去修復酵素MUTYHに依存したプログラム細胞死と発癌抑制機構
5.ALSにおける酸化ストレスおよび酸化型SOD1の関与
Ⅲ.呼吸・循環・代謝異常
1.H2O2が制御する血管弛緩反応の分子機構
2.慢性腎臓病における鉄の重要性
3.COPDにおける酸化ストレス病態
4.糖尿病合併症および糖尿病発症における酸化ストレスの意義
5.酸化ストレスによる貧血 -造血幹細胞の老化と赤血球の酸化
第3章 活性酸素応用研究の最前線
1.論理的設計法に基づく種選択的ROS蛍光プローブの開発
2.活性酸素シグナル分子H2O2を介したユニークなタンパク質修飾機構
3.アダクトミクス -DNAおよびタンパク質付加体の網羅的解析
4.活性酸素センサー:nucleoredoxin
5.酸化ストレス作動性TRPチャネルの化学生理学
6.親電子性リガンドセンサーとしての核内受容体PPARγ
7.活性酸素がインスリンシグナル伝達に与える影響とその二面性
8.レドックス制御に干渉する小分子のケミカルバイオロジー
9.Nrf2/Keap1酸化ストレス応答系による活性酸素シグナル制御
10.NOと植物の感染防御応答

続いて、「概論」の冒頭に書かれていた全文をご紹介します。
『活性酸素は生体内のエネルギー代謝や感染防御過程において発生する一連の活性分子種(O2⁻,H2O2など)であり、これまで酸素毒性の要因となる有害物質として取り扱われてきた。実際、活性酸素は、感染、炎症、癌、動脈硬化・糖尿病などの生活習慣病や代謝性疾患、アルツハイマー病などの神経変性疾患といった、さまざまな疾病の原因となることが示唆されている。近年本書は2009年の発行です)、活性酸素がシグナル伝達機能を発揮していることが報告されるようになり、幅広い生命科学領域において、「活性酸素による生理的なシグナル伝達機能」の解明が飛躍的に進展している。本増刊号においては、最近次々と明らかにされている活性酸素シグナルの新知見に焦点をあて、その真の生理活性を議論することにより、活性酸素の機能と病態解明の新展開を紹介する。』


以降、本文よりブログに記録しておきたい要点を抜き出し、列挙させて頂きます。
なお、ROSはreactive oxygen speciesの略で「活性酸素種」となりますが、「活性酸素」を意味します。ブログの中ではROSは「ROSシグナル」として使い、それ以外は「活性酸素・活性酸素種」という言葉を使います。
概論
活性酸素のシグナル伝達機能 -その生理機能の再発見と酸化ストレス研究の新展開
・生物は、酸素との長い付き合いが始まった太古の時代より、酸素分子の高い化学反応を利用したエネルギー代謝の代償としてその毒性を被ることとなった。
・活性酸素は生体分子の非特異的損傷をもたらす単なる毒性因子ではなく、精密に制御されたシグナル伝達の担い手であるというコンセプトが広く受け入れられつつある。
・活性酸素は、生体内のその他のシグナル伝達物質(細胞内に存在し、外部からの刺激[信号]を受け取って別の物質に伝える役割を持つ物質)と同様に、特異的なシグナル経路を活性化して、細胞保護、細胞分化増殖、細胞死の制御などを司ることがわかってきた。
・活性酸素による細胞シグナル制御(ROSシグナル)に関する関連分野からの国際誌への発表論文数は、この10年間で2倍以上の伸びを示している。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「活性酸素シグナルと酸化ストレス」

1.シグナル分子としての活性酸素(ROSシグナル)の再発見
・80年代頃から盛んに試みられた抗酸化療法は、当初期待したほどうまく臨床応用が進まず、その学術基盤が確立されぬまま、科学的に腑弱な概念に基づく民間療法として一般に普及してしまった。特に日本国内における酸化ストレス研究は、折りしも国民に広く流行した健康食品ブームに押されるようにして進展してきたともいえる。
・酸化ストレス研究は2000年前後に特に顕著に進展し沢山の成果を上げてきた。
・近年急速に進展しているROSシグナルの解明は、活性酸素研究に新たな潮流を生み出し古典的な酸化ストレス研究に革新的な扉を開こうとしている。
2.ROSシグナルの生理機能からみた酸化ストレス病態
これまでの酸化ストレスの病因論は「活性酸素」として展開してきた。この病態理論はもちろん酸化ストレスの中心的なドグマ(教義)となっている。実際、活性酸素により脂質過酸化反応が誘発され細胞の生体膜機能が損なわれること、血中の脂質・コレステロールの酸化が、動脈硬化病巣の形成を促しその発症に深くかかわること、また、高血糖が活性酸素の産生を高めることにより生活習慣病の重要な要因になることなどが報告されている。酸化ストレスが疾病病態に普遍的に関与することは、関連分野の多くの研究者に広く認められている。
・ER(小胞体)ストレス、幹細胞の分化制御、アポトーシス・細胞死制御、角膜エイジング、生殖・再生、発癌など多様な病態と酸化ストレスのクロストークに関してもそれぞれの分野の第一人者から最新の知見が紹介されている。
・酸化ストレスを活性酸素による生理的シグナル伝達経路を介する病態、あるいは、正常なシグナル伝達の制御異常という視点から捉えることも重要であろう。

・活性酸素は、酸化ストレスをもたらす病原因子としてふるまう反面、その生理機能の重要性を示す多くの科学的根拠が報告されており、しばしば「double-edged sword」として取り扱われてきた活性分子種である。その光と陰は、これまで単純にその化学的反応性と毒性により説明されてきた。しかしながら実際は毒性というより、生理的なROSシグナル活性の発現と制御信号が、活性酸素の二面性を操る本態であることが明らかにされつつある。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「活性酸素シグナルと酸化ストレス」

「酸化ストレスとは、活性酸素と抗酸化システム、抗酸化酵素との バランスとして定義されています。酸化ストレスが高いとは、生体内において活性酸素による酸化作用と、 抗酸化物質等の抗酸化作用とのバランスが崩れ、酸化反応が亢進する状況のことを言います。」

画像出展:「日本老化制御研究所

・活性酸素の生理活性として以前より感染防御作用においても、直接的な抗菌作用だけでなくROSシグナルを介する間接的な防御機構が存在することが示唆されている。
活性酸素研究の新たな潮流と裾野の広がりは生命科学領域のほとんどの分野に及んでおり、特に、メタボリックシンドローム、感染・炎症・免疫異常、老化、神経変性疾患、発癌などの酸化ストレスのかかわる疾病病態の解明とその再生医療などの先進医療への応用・展開は、高齢化が進むわが国にあっては社会的にも要請が強い重要な課題といえる。
・活性酸素は、これまではその高い反応性のため真の生理活性に不明な点が多かったが、分子イメージングや質量分析法などの優れた技術開発により、近年その実体の解明が飛躍的に進んでいる。
・活性酸素がユニークなシグナル伝達の担い手として再発見され、今まさに歴史の大舞台に登場してきた。今後さらに、新しい病態論と診断・予防・治療法が確立されるものと期待される。

第1章 活性酸素・NO(一酸化窒素)の生理機能
1.活性酸素シグナル生成系の制御機構
種々の活性酸素生成系について
・活性酸素は、歴史的にはまず、代謝系の副産物として認識された。現在ではミトコンドリアの電子伝達系の寄与が大きいと考えられている。特にミトコンドリア内膜の複合体Ⅰや複合体Ⅲから漏れ出た電子が、酸素分子に渡されスーパーオキシドが生成する。
・細胞質に存在するキサンチン酸化還元酵素(XOR)は、通常はキサンチン脱水素酵素(XDH)として存在し、活性酸素を生成しないが、酸化ストレス時にはキサンチン酸化酵素(XO)に変換され、酸素分子から過酸化水素やスーパーオキシドなどの活性酸素を生成するようになる。
・細胞質に存在するNO合成酵素(NOS)は、ストレス時にuncouplingが起こるとNO合成をやめてスーパーオキシドを生成するようになる。
・シクロオキシゲナーゼやリポキシゲナーゼなどからも活性酸素が生成しうるが、これらの活性酸素シグナリングにおける役割は小さいと、今のところ考えられている。

2.ミトコンドリア活性酸素生成とシグナル制御
ミトコンドリアは各細胞に数百存在し、肝臓、腎臓、心臓、筋肉、脳などにある代謝の活発な部位では、細胞質の約40%をも占める組織もあるほどである。
・ミトコンドリアにおいて活性酸素が産生されるという仮説は、Denham Harmanが1956年に発表した“Free radical theory”(「加齢はミトコンドリア由来のフリーラジカルによって引き起こされる細胞損傷が蓄積したものである)という理論が最初である。
・抗酸化剤のSOD(スーパーオキシドディスムターゼ)が発見されたのは1969年だった。
・1973年にBoverisらが過酸化水素が単離ミトコンドリアから産生されていることを証明し、現代に至るまで、加齢のみならず、種々の慢性疾患において、ミトコンドリア呼吸鎖由来の活性酸素が、その病態形成、伸展において重要な役割を果たしていることが知られるようになった。
ミトコンドリアにおける活性酸素種とその産生部位
・ミトコンドリア呼吸鎖における活性酸素は、複合体ⅠおよびⅢにおいて産生される。
・過酸化水素は細胞膜を自由に通過でき、細胞質内に移動できることが知られている。
ミトコンドリア内には、スーパーオキシドを消去するMn-SODのほかに、過酸化水素の消去系として、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)やペルオキシレドキシン(Prx)が存在し、産生された活性酸素はすみやかに消去される。
処理しきれない過剰な活性酸素は、タンパク質や核酸と反応し傷害を及ぼし、機能障害、細胞死へと導く。
これらの抗酸化酵素と活性酸素産生の不均衡は、発癌やアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患、動脈硬化、心不全、さらに老化など実にさまざまな慢性疾患に関与していると考えられ、抗酸化剤の投与、抗酸化酵素の過剰発現によって治療効果が得られることが、多くの実験によって裏づけられている。
・近年、いくつかのミトコンドリアに局在するリン酸化酵素がミトコンドリア由来の活性酸素によって可逆的に不活性化されることも知られてきた。
・活性酸素が細胞周期をも制御することが明らかにされている。
過酸化水素(活性酸素)はNO同様に、その濃度によって作用を異にする。
 ・0.7μM以下…細胞増殖に作用
 ・1.0~3.0μM…アポトーシス
 ・3.0μM以上…ネクローシス(壊死)
活性酸素とアポトーシス
・アポトーシスはdeath receptorにTNF-α、Fasリガンドが結合することで、カスパーゼを活性化する外因経路とミトコンドリアを介した内因経路が知られている。
・アポトーシスの内因経路は、アポトーシス促進因子として、ミトコンドリア由来の酸化ストレスと深く関連していることが知られている。
ミトコンドリアは最も重要な活性酸素の産生源であり、同時に活性酸素の標的でもある。そして、ミトコンドリア由来のスーパーオキシドおよび過酸化水素が種々の病態ひいては老化において、いわゆる“悪役”として重要な役割を果たしていることが概念として認識された。

3.チオール基の修飾による活性酸素のセンサー機能制御
・近年、活性酸素は巧妙に制御されたシグナル伝達機構の担い手であるというコンセプトが生命科学分野に広く受け入れられつつある。
・活性酸素が、防御的な酸化ストレス応答を誘導する重要なシグナル分子であることが明らかになってきた。
・活性酸素や一酸化窒素(NO)は、シグナル伝達の最も上流に位置する分子群として、細胞内のセンサータンパク質を活性化し、さらに下流のエフェクター分子へとシグナルを伝える。

7.活性酸素によるリン酸化シグナル制御
高濃度の活性酸素種は細胞死や細胞傷害を引き起こすが、生理的に産生された低濃度の活性酸素は細胞増殖、細胞運動、遺伝子発現を制御する。さらにサイトカイン刺激などの細胞外刺激に応じて産生された活性酸素がセカンドメッセンジャーとして機能することも明らかにされている。ここで問題になるのは活性酸素がどのようにしてシグナル系を駆動するのかということである。

8.G12/13タンパク質による活性酸素シグナリング
・神経伝達物質や液性因子などの受容体刺激によって生じる細胞内シグナル伝達のなかで、活性酸素の役割が注目されている。
・心臓では、アンジオテンシンⅡ刺激がAT1受容体を介してスーパーオキシドや過酸化水素をはじめとする活性酸素種を生成することが報告されている。これらの活性酸素は主に細胞膜上のNADPHオキシダーゼの活性化を介して生成され、AT1受容体シグナリングにおける細胞内情報伝達因子として重要な役割を果たしている。

筑波大学の研究情報ポータル(COTRE)に以下の図と説明がありました。ご紹介させて頂きます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私たちの体内の組織や臓器は、それらに特有の細胞によって作られています。それらの細胞がホルモン・成長因子・神経伝達物質などの情報を受け取って、シグナル伝達が稼働して細胞機能が発揮されることにより組織や臓器が正常に機能します。その結果として私たちは正常な生活を営むことができます。しかし、細胞のシグナル伝達に異常をきたすと、様々な病気になります。この異常は、シグナル伝達を行うタンパク質や酵素の性質の変化によって起こります。シグナル伝達の異常によって起こる病気には、がんやアレルギー、神経疾患などがあります。シグナル伝達がどのようなメカニズムで作動しているのかを解明して、それらの異常がどのような病気に関連しているのかを分子レベル、細胞レベル、および個体レベルで解明することが求められています。』

第2章 酸化ストレスと病態
Ⅰ.細胞分化増殖・シグナル異常と再生医療
1.ER(小胞体)と酸化ストレス
・ERは細胞内Ca2+(カルシウムイオン)の主たる貯蔵部位として、Ca2+ホメオスタシスにおいて重要な役割を演じる。
・ERの諸機能の破綻によるERストレスは、神経変性疾患や虚血性臓器傷害、糖尿病や動脈硬化症などの生活習慣病の誘因の一つと考えらえるが、近年、その分子機構とレドックス(酸化還元反応)、酸化ストレスとの関連が注目されている。
ERにおけるタンパク質の酸化的折りたたみ
・分泌・膜タンパク質の新生ポリペプチドは、ER内腔へ引き込まれた後、分子シャロペンのようなタンパク質の折りたたみ関連酵素による手助けのもとで正しく折りたたまれる。そして、ゴルジ体で糖鎖修飾などの翻訳後修飾を受けた後、細胞外あるいは膜上に運ばれる。
・ERでの折りたたみに失敗したタンパク質は細胞質に移送され、ユビキチン・プロテアソーム経路で分解される。
ERにおけるレドックスホメオスタシスとROSの生成
過剰なERでのタンパク質生合成は、酸化ストレスの発生と密接に関係する。
ERストレスとは
ERストレスは、正しく折りたたまれない変性タンパク質のERへの蓄積が起こすストレス応答である。
・ERストレスは、酸化ストレス、虚血、低酸素、ウィルス感染、栄養飢餓など種々の環境変化によってもたらされる。
・ERストレスシグナルに起因したERストレス応答では、変性タンパク質が過剰にERに蓄積しないよう、タンパク質の翻訳停止、ERシャロペンの発現誘導、ERADの亢進が起こる。
・ERストレスにより回避できない細胞傷害が起こった場合、細胞は自らアポトーシスの誘導を選択する。
ERストレスと酸化ストレスのクロストーク
・糖尿病態において、酸化ストレスとERストレスの両者が密接に関わることを示している。
酸化ストレスによるER内Ca2+制御タンパク質の機能修飾
・ERに局在するCa2+制御タンパク質は、酸化ストレスの標的となり、その生理機能が制御され、細胞・組織の酸化ストレス傷害と関係することが知られている。

2.アポトーシスと酸化ストレス -酸化ストレス誘導性アポトーシスにおけるNoxaの役割
・生体内で発生する活性酸素種は遺伝子発現やシグナル伝達因子の活性を制御し、種々の細胞応答にかかわっていることが知られている。
活性酸素種の発生量は産生と消去とのバランスにより、厳密に制御されており、その制御破綻は、老化、発癌、梗塞、神経変性疾患など、さまざまな疾患の発症に関与していることが示唆されている。とりわけ、酸化ストレスによる過剰な細胞死の誘導は、組織の機能を維持するうえで危機的であり、その分子メカニズムの解明は、生物学的な意義をもつだけではなく、医学的にも非常に重要な課題と思われる。
・活性酸素種の1つである過酸化水素による細胞死に関しては、アポトーシスとネクローシスがよく知られているが、どの細胞死機構が活性化されているかについては、細胞腫や過酸化水素の濃度によって異なっており、両者が混在するケースも知られている。
アポトーシス経路とミトコンドリア
・アポトーシスはさまざまな刺激によって誘導されるが、各刺激によって誘導されたシグナルは最終的にはミトコンドリアに集約される。

4.眼表面と酸化ストレス
・角膜を含む眼表面が、なぜこれほど環境性の酸化ストレスに強いかはまだ知られていない。角膜上皮が多くのグリコーゲンを貯蔵して、嫌気性代謝に依存する率が高いことも1つの原因としてあげられている。角膜の抗酸化機能を解明することは、酸化ストレスによるエイジングや発癌メカニズムを一部解明できるかもしれない。

Ⅱ.炎症・発癌と変性疾患
3.酸化ストレス誘発発癌機構の解明
酸化ストレスと発癌
酸化ストレスを引き起こす病態は、放射線・紫外線への曝露、鉄・銅などの遷移金属の過剰状態、ウィルス感染、あらゆる慢性炎症、ある種の抗癌剤投与(ブレオマイシン、アドリアマイシン)、臓器移植や梗塞など、実に多岐にわたっている。

Ⅲ.呼吸・循環・代謝異常
1.H2O2(過酸化水素:活性酸素の一つ)が制御する血管弛緩反応の分子機構
血管内皮細胞および血管平滑筋細胞は、多くの相互作用を及ぼしつつ血管の生理的機能を保っていることが知られている。血管内皮は各種の血管弛緩因子を産生・放出し、血管機能の恒常性の維持に重要な役割を果たしている。われわれは、生理的濃度の活性酸素(H2O2)が内皮由来過分極因子の本体として、血管弛緩作用を有することを報告した。一方、過剰な活性酸素(酸化ストレス)は心血管疾患の原因になることが知られている。われわれは最近、酸化ストレスが血管平滑筋細胞よりCyclophilin A(細胞質に大量に存在する蛋白質。CyPA はそもそも免疫抑制剤cyclosporin A(CsA)の特異的 リガンドとして発見され,ポリペプチドのプロリンのアミド結合のシスからトランスヘの異性化を触媒する活性を有する)を分泌させ、血管内皮機能障害や平滑筋増殖促進作用を有することを報告した。これらの酸化ストレスによる血管弛緩反応の分子機構の解明により、心血管疾患の新たな治療薬開発の可能性が期待される。
・血管内皮細胞は、血管平滑筋層の内側を覆うたった一層の細胞群ではあるが、血管平滑筋細胞との多くの相互作用を有し、血管機能制御の根幹を形成している。血管内皮はプロスタサイクリン(PGI2)・一酸化窒素(NO)・内皮由来過分極因子(EDHF)の3種類の血管弛緩因子を産生・放出し、これらは生理的条件下での血管機能の恒常性の維持に重要な役割を果たしている。(短期的には血管トーヌス[緊張]を弛緩優位に保ち、長期的には動脈硬化の発生・進展を抑制して、心血管系の恒常性の維持に極めて重要な働きをしている)
EDHFとしてのH2O2
・H2O2は血管弛緩反応に関する役割をNOと分担しており、大動脈などの導入血管における弛緩反応は主としてNOにより制御されているが、H2O2は微小血管、特に抵抗血管において重要な役割を果たしていると考えられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「活性酸素シグナルと酸化ストレス」

酸化ストレスとしてのH2O2
・高血圧、糖尿病や脂質異常症などの種々の動脈硬化危険因子の存在下では、過剰な活性酸素種が血管平滑筋細胞や炎症細胞(好酸球,Tリンパ球,肥満細胞[マスト細胞],好中球,好塩基球など)において大量に産生・遊離されることがわかっている。
・血管平滑筋細胞は中~大血管を構築する細胞のなかでも圧倒的な数および容積を有し、NADPHオキシダーゼなどの多くのROS産生源を有する。
・アンジオテンシンⅡ(ポリペプチドの1種で、血圧上昇[昇圧]作用を持つ生理活性物質である。アンジオテンシンII〜IVは心臓の収縮力を高め、細動脈を収縮させることで血圧を上昇させる。特にアンジオテンシンII は副腎皮質にある受容体に結合すると、副腎皮質からアルドステロンの合成・分泌が促進される)などのアゴニスト(生体内の受容体分子に働いて神経伝達物質やホルモンなどと同様の機能を示す作動薬のこと。現実に生体内で働いている物質はリガンドと呼ばれる)刺激や「ずり応力」(血流は内皮にずり応力を与える:血管壁には常に血行力学的ストレスが作用している. 一つは血圧による血管壁に垂直方向に働く法線応力で,これは内皮細胞や平滑筋細胞を引き伸ばし細胞に張力を与える.他 の一つは血流によるずり応力で,これは血管内面を覆う内皮細胞にのみ作用し,内皮細胞を流れの方向に歪ませる力となる)、低酸素などの環境因子により大量の活性酸素が平滑筋細胞内で産生され、病的高濃度(ミリモルオーダー)のH2O2は、生理的濃度(マイクロオーダー)のH2O2とは異なる役割を有していることが示唆されている。すなわち、H2O2は生理的低濃度において特に微小血管の血管機能にとって保護的に働く一方、病的高濃度においては血管リモデリング(血液循環状態の変化に伴う、血管の構造上の変化で、高血圧による圧力変化に対応する血管壁圧の変化や、腫瘍組織における血管新生などが例である)を促進する可能性がある。

2.慢性腎臓病における鉄の重要性
慢性腎臓病(CKD)では、腎障害のさらなる進行や心血管疾患(CVD)の合併が多くみられ、その病態には酸化ストレスが深く関与している。CKDの酸化ストレス亢進において、タンパク尿やレニン・アンジオテンシン系亢進に加え、鉄代謝異常の役割は大きい、鉄輸送タンパク質の発現異常による細胞内の鉄過剰状態は活性酸素産生を惹起する。また、CKDではチオシアンさんの増加による活性酸素産生がCVD発症に関連しうる。CKDあるいはCVDに関するこれらの知見から、活性酸素・遊離鉄をターゲットとした治療戦略の確立が望まれる。
・CKDの重要な点は、腎障害が悪化して末期腎不全へと至ることだけではなく、心血管疾患(CVD)などの合併がきわめて多く死亡率も高いことである。CKDでは従来からタンパク尿の程度と腎機能の予後との関連が知られており、タンパク尿による腎障害進行のメカニズムが報告されている。また、腎障害やCVDの進展においてレニン・アンジオテンシン系の亢進、酸化ストレスや慢性炎症の持続なども病態に関与している。
CVD(心血管疾患)
・CVD発症のリスク因子として、従来から喫煙や高血圧、肥満などの因子が知られているが、最大のリスク因子はCKDであることが、欧米および日本での大規模臨床試験で示されている。われわれは、CKDの病態およびCVD発症・進展には鉄代謝異常が関与していると考えている。
・透析患者は鉄輸送タンパク質の調節異常によって、細胞内では鉄が過剰に存在することが明らかとなった。

筋緊張

脳血管障害による体の異常のことを「痙縮」といいますが、時に「痙直」という言葉を使うこともあります。また、パーキンソン病などでみられる体に現われる異常の一つに「固縮」がありますが、これについては「強剛」あるいは「筋強剛」なども使われており、更に「強直」、「硬直」といった言葉も出てきます。一方、ギックリ腰は痙縮や固縮とは異なり、中枢神経が関与しない「筋スパズム」の問題とされています。「筋スパズム」は日本語では「筋攣縮」となり、痙攣性の収縮のことです。筋肉と関節の関係では「拘縮」という言葉もよく耳にします。
これらの似て非なるものを分かりやすく分類しようと思うと、例えば、筋緊張の強さと弱さ、関節と軟部組織(筋、腱、靭帯、結合組織)、神経性要素と機械的要素、疾患との関連性、特徴的な症状などがモヤッとして整理整頓困難な印象があり、その手間と難しさから着手できずにいました。

ところが、先日ネット検索している時に、「筋緊張に挑む」という本を偶然見つけ、今までモヤモヤしていた所がクリアになりそうな気がしたため、思い切って商品券を使って購入することにしました。

 

こちらは「理学療法士」の方向けの本です。

 

常任編集:斉藤秀之・加藤 浩

出版:文光堂

目次は3層の見出しのうち、大中の2層に関しては次の通りです。
PartⅠ 理学療法から見る筋緊張
1.理学療法における筋緊張の再考
2.運動・生理学からみた筋緊張
PartⅡ 筋緊張の測定・評価
1.一般的評価や検査手技について
2.動作レベルでの筋緊張評価の診かた
3.歩行分析における筋緊張の診かた
4.セルフケアにおける筋緊張の診かた
5.頸部・体幹および顎・口腔の筋緊張の診かた
6.筋緊張に影響する要因
PartⅢ 疾患別の筋緊張の特性と治療
1.脳卒中における筋緊張の特性と治療
2.脊髄損傷における筋緊張の特性と治療
3.痙直型脳性麻痺における筋緊張の特性と治療
4.二分脊椎における筋緊張の特性と治療
5.低酸素脳症(脳損傷・意識障害を含む)における筋緊張の特性と治療
6.パーキンソン病における筋緊張の特性と治療
7.筋強直性ジストロフィーにおける筋緊張の特性と治療
8.呼吸器疾患における筋緊張の特性と評価・治療
9.運動器疾患における筋緊張の特性と治療
10.慢性疼痛症候群における筋緊張の特性と治療

下の図は「筋緊張の概念図」です。今回はこの図をベースにネットで確認した情報を付け足して、一覧表を作りました(クリックすると拡大されます)。情報源が混在しているため、正確性と見やすさに課題があると思いますが、何かご参考になればと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「筋緊張に挑む」

動かないことによって生じる骨格筋の線維化の原因を探索

損傷に対する修復だけでなく、【不動】でも線維化するという記事です。

高草木 薫先生の論文「大脳基底核による運動の制御」がダウンロードされます。

こちらは「筋緊張亢進と動作障害に関する機能因子の連関サイクル」です。筋緊張の関係性、全体像を把握するのに役立つ図だと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「筋緊張に挑む」

運動器疾患における筋緊張、筋スパズム、筋硬結については詳しくご紹介したいと思います。なお、これらは全て本の内容に基づいています。

 

運動器疾患における筋緊張の特性と治療
運動器疾患における筋緊張の異常とは?
持続的な筋緊張の亢進は局所の循環不全を引き起こし、発痛物質や疼痛増強物質などを誘導し、侵害受容器の興奮を惹起する。さらに、疼痛の持続は、交感神経の活動を上昇させることから、末梢血管収縮による局所の循環不全を引き起こす。循環不全による酸素欠乏状態は、アデノシン三リン酸(ATP)産生を抑制するなど筋の弛緩不全を引き起こすような悪循環に至ってしまう。退行性変性疾患であれば、慢性疼痛や罹患関節に対する代償作用が隣接関節だけでなく全身へと波及する結果、固定化あるいはパターン化された姿勢・動作が形成される。固定化あるいはパターン化された姿勢・動作は、偏った筋の持続的な過緊張へとつながり、日常生活において習慣化される。それは、無意識に罹患関節への力学的ストレスの増加や他関節への障害を惹起する可能性がある。 


筋緊張が亢進する理由は!?
・中枢神経系に器質的異常のない運動器疾患において、筋緊張が亢進する理由は何であろうか。それは主に脊髄反射が関与していると考えられる。脊髄反射は、伸張反射と屈曲反射に大別される。「伸張反射は、外力に抗する力を発生することで関節を固定して姿勢を保持することにある。すなわち、重力に抗して姿勢を保持するための、筋の持続的な収縮である。屈曲反射は、皮膚、筋その他の深部組織が傷害されるような刺激に対して、肢節を屈曲させるような反応である」。例えば、術後の疼痛が持続することで、屈筋群の持続的な筋収縮により、股関節が屈曲・内転・内旋位で固定化されやすい状態になることは臨床上よく経験することである。これらの反射は無意識的に調整されているため、患者自身はどこに、どの程度の力が入ってるかを認識することは困難なことが多い。

運動器疾患において筋緊張が亢進する原因は?
・神経原生因子は、脳の障害の損傷箇所およびそれに関与する神経系路による問題で、痙縮、固縮、クローヌス筋肉や腱を不意に伸張したとき生じる規則的かつ律動的に筋収縮を反復する運動)の障害の損傷箇所およびそれに
などさまざまな筋緊張の異常を呈する。非神経原生因子には、①筋・皮膚などの軟部組織のバイオメカニカルな変化およびそれに起因する疼痛など。②過剰動作による代償および誤動作による関節・筋などの炎症、合併症の出現および増悪。③環境・人格(生活、家族背景、趣味など)・その他、精神面に作用する要素を挙げている。このように個人要因や環境要因、社会要因などさまざまな要因により筋緊張は影響を受けることが考えられる。

筋緊張は連鎖する
・四肢遠位の体節の筋緊張が高まると、その筋緊張は近位の体節を構成する筋へ連鎖するような現象が筋の収縮連鎖である。

上肢疾患における筋緊張の特性および治療
・術後の著明な疼痛や夜間痛による睡眠障害は、心理・精神的ストレスを増加させ肩関節・肩甲帯周囲筋の筋緊張の亢進につながることが少なくない。

筋スパズムとは?
骨格筋が急速かつ不随意に収縮すること、あるいは収縮している状態を表す。
・神経学の分野では「断続的に生じる一定の持続時間をもった異常な筋収縮状態」とされ、筋攣縮とも呼ばれる。
・理学療法領域においては「痛み刺激に対する防御作用の一環とした、反射的・持続的な筋緊張の亢進」を指していることが多い。
筋スパズムの原因としては、筋疲労や脱水、電解質異常、ホルモン・ビタミン欠乏、腎不全、薬剤の副