ドグマチール(スルピリド)による薬剤性パーキソニズム

年始に「薬剤性パーキソニズム」が原因で、転倒された患者さまがおいでです。
お話を伺うと、平坦な道にもかかわらず、ツツツッと足が勝手に運ばれ、止まることができず転倒してしまったとのことでした。この転倒は姿勢反射障害によるものであることが懸念されました。
また、ご友人からは「〇〇さんは足を引きずるように歩いているから、注意した方がいいよ。」と言われるとのお話もされていました。これについては、足の運びだけでなく、歩行時の腕振りに問題があるのではないかということを考えました。

パーキンソン病の症状は姿勢反射障害の他、振戦(手のふるえ)、筋強剛(腕が歯車のようにカクカクした動きになる)、無動(思うように体が動かない)などが代表的な所見ですが、今回は姿勢反射障害によると思われる転倒以外の所見はありませんでした。しかしながら、万一のことを優先し、脳を診てもらえる病院に行かれることをお勧めしました。
地元の病院での診察結果は、パーキンソン病かどうかははっきりしないが、レボドパという強力なパーキンソン病の薬を2週間分渡されるというもので、原因および今後の展開は不透明な状況となっていました。
この薬は副作用の問題を抱えており、パーキンソン病やパーキンソン症候群(薬剤性を除く)の患者さま以外は服用する薬ではないと認識していました。そこで、現在の状況と問題点、更に今後の進め方について、患者さまに率直にお話したところ、ご納得いただき、後日、小平市にある国立精神・神経医療研究センター病院で診察を受けられることになりました。

診察の結果、数年前から服用していた「ドグマチール」の副作用による「薬剤性パーキソニズム」であると診断されました。そして、レボドパの服用はただちに中止されました。また、薬の代謝の問題と思われますが、ドグマチールの影響は2週間程続くので、今後2週間は特に転倒に注意してほしいとのお話があったそうです。こうして、年始の転倒の原因と今後の治療の進め方が明らかになり、一件落着となりました。

 

 

 

住所:東京都小平市小川東町4-1-1 / 予約センター:042-346-2190

 

 

「パーキンソン病の診断手順」に基づくと、今回のケースは「薬剤性パーキソニズム」になります。

せせらぎメンタルクリニック精神科・心療内科」さまのサイトをご紹介させて頂きます。

ドグマチールの特徴、副作用などについて大変分かりやすく解説されています。

補足.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これらはすべてパーキンソン症候群(パーキソニズム)の疾患です。

画像出展:「病気がみえる 〈vol.7〉 脳・神経」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほぼ中央に赤字で「スルピリド」、代表的商品名「ドグマチール」が紹介され、下段には「スルピリドが薬剤性パーキソニズムの原因となる頻度が最も多い」という説明が加えられています。

画像出展:「病気がみえる 〈vol.7〉 脳・神経」

活性酸素シグナルと酸化ストレス

今回の題材は2017年12月29日の「パーキンソン病 -進化する診断と治療-」の中で、自らに課した宿題です。これはパーキンソン病発症には「活性酸素」が深く関わっており、これをしっかり理解することが重要であるという思いからでした。
教材は下記の2冊ですが、「絵とき  シグナル伝達入門 改訂版」ついては関心がある箇所だけを拾い読みしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

監修:谷口直之

出版:羊土社

※発行は、2009年9月になります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

著者:服部成介

出版:羊土社


本題に入る前に、パーキンソン病と活性酸素との関係についてお伝えしたいと思います。

この写真と図は、「パーキンソン病 -進化する診断と治療-」の座談会で司会を務められた、京都大学大学院の高橋良輔教授が平成20年に日本内科学会講演会で発表され、日本内科学会雑誌 第97巻 第9号に掲載された資料からのものですが、ネット上にある資料でしたので閲覧できるようにさせて頂きました。

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神経変性疾患研究の進歩.pdf
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自分なりに考えた、パーキンソン病と活性酸素との関係について
1.活性酸素と抗酸化物質のアンバランスによって「酸化ストレス」は生まれ障害を起こす。
2.パーキンソン病を神経変性疾患の一つとしてとらえ、「蛋白質障害」という切り口で考える。
3.活性酸素はシグナル経路を活性化して、細胞保護、細胞分化増殖、細胞死の制御などの有益な働きもしている。

 

 

神経変性疾患はコンフォメーション病(蛋白質ミスフォールディング病)とも呼ばれており、原因タンパク質が凝集化し、病変部位に沈着することが特徴です。原因タンパク質の凝集化には酸化ストレスが関与しています。

 

 画像出展:「コンフォメーション病としての神経変性疾患」

そして、鍼灸治療について考えるならば、「自律神経系と内分泌系のバランスを調え、内臓の働きと自然治癒力を高め、酸化ストレス発現の抑制と耐性を目指す。」というものが治療の柱になると思います。非常に抽象的ではありますが、「何を、どうしたいのか」という治療イメージを持って臨むことが、良い施術の第一歩であると考えています。

『病態解明に迫る 活性酸素シグナルと酸化ストレス』では、活性酸素、酸化ストレスに加え、「シグナル伝達」というキーワードも重要なポイントになっています。そこで、まずはこの「シグナル伝達」が、いかなるものか調べました。

『絵とき  シグナル伝達入門』では「はじめに」の中で以下の2つを上げられています。
シグナル伝達研究は、さまざまな生命現象のメカニズムを分子レベルで明らかにしていこうとするものである。
“だれ”が“だれ”にシグナルを伝え、次に“だれ”がそれを受け取るのか、そして最後に何が起こるのか…この流れを捉えていくことが大切である。


著者の服部先生は、“がん研究からみつかった[がん遺伝子]はシグナル伝達研究に大きなインパクトを与えた”とお話されていますが、その説明箇所を引用させて頂きます。

なお( )内は補足説明として私の方で追記したものになります。
「シグナルを流れとして捉える-点から線へ、さらにはネットワークへ」
『細胞の受容体が受け取ったシグナルは細胞の中でどのようにプロセスされて、核、細胞質や細胞骨格(線維状のタンパク質により細胞を支えたり、動かしたりする)系に伝えられていくのだろう。シグナルを誤って伝えることは、シグナルがない時よりも悪い結果をもたらしかねない。まず受容体が刺激されたという細胞外のシグナルを細胞内のシグナルに変換しなければならない。そしてさらに正しい経路を経てさまざまな最終目的地まで間違いなく伝えなければならない。シグナル伝達は伝言ゲームにたとえることができるだろう。

 

画像出展:

「シグナル伝達入門」

どのようにして、シグナルを伝えるべき相手を選び、しかも正しく伝えていくのだろうか。
がん研究からみつかった“がん遺伝子”はシグナル伝達研究に大きなインパクトを与えた。すでに100以上もみつかっているがん遺伝子は、実は私たちの体のどの細胞ももっている遺伝子“前がん遺伝子”に変異が生じできたものである。そして前がん遺伝子の産物たちは、手に手を取り合って細胞の増殖を指令し続けさせるものだった。“だれが”“だれに”シグナルを伝え、次の“だれが”それを受け取るのか、そして最後に何が引き起こされるのか。シグナル伝達の研究はこうした点を次々と明らかにしてきたのである。
細胞の増殖を研究するにしろ、あるいは神経細胞の分化を研究するにせよ、シグナル伝達の立場は、常にシグナルを“流れ”として捉えてその流れを伝えていく役者を次々と明らかにしていくものである。その主役はタンパク質であることは間違いない。
このようにシグナル伝達はがんの研究から大きな影響を受けたけれども、もちろん生理学や遺伝学からもシグナル伝達研究の柱となるような大きな結果が出ている。

興奮するとドキドキしたり、また気合いが張ってくるのを感じることがあるだろう。これはアドレナリンの作用で、細胞の中のcAMP(サイクリック[環状]AMP[アデノシン一リン酸]:アドレナリンなど多くのホルモンや神経伝達物質などの第1メッセンジャーの細胞外からの刺激を、細胞内の標的分子に伝える第2メッセンジャーとして機能する)濃度が高められるせいである。その結果、細胞内のさまざまなタンパク質がcAMP依存性のタンパク質リン酸化酵素でリン酸化されていろいろな効果が発揮される。

 

画像出展:

「シグナル伝達入門」

さまざまな神経伝達物質の受容体からのシグナル伝達もこのような経路を用いている。こうしてみると、私たちの気持ちや心理状態もシグナル伝達の立場から説明できる日も遠くないかもしれない。』

『病態解明に迫る 活性酸素シグナルと酸化ストレス

 癌、神経変性疾患、循環・代謝異常にかかわるレドックス制御機構と最新の技術開発』

は、「序」に続き「概論」からスタートしていますが、まずは目次をご紹介します。

概論
活性酸素のシグナル伝達機能 -その生理機能の再発見と酸化ストレス研究の新展開
第1章 活性酸素・NOの生理機能
1.活性酸素シグナル生成系の制御機構
2.ミトコンドリア活性酸素生成とシグナル制御
3.チオール基の修飾による活性酸素のセンサー機能制御
4.親電子シグナル伝達
5.SNO化修飾によるシグナル伝達の新展開
6.NO・ニトロソ化シグナルと細胞死
7.活性酸素によるリン酸化シグナル制御
8.G12/13タンパク質による活性酸素シグナリング
9.植物におけるNADPHオキシダーゼの制御機構
10.植物のストレス応答・形態形成における活性酸素種の積極的生成とその制御
第2章 酸化ストレスと病態
Ⅰ.細胞分化増殖・シグナル異常と再生医療
1.ER(小胞体)と酸化ストレス
2.アポトーシスと酸化ストレス -酸化ストレス誘導性アポトーシスにおけるNoxaの役割
3.幹細胞ホメオスタシスと酸化ストレス
4.眼表面と酸化ストレス
5.グルタチオンペルオキシダーゼ4(GPx4、PHGPx)による胚発生・精子形成の制御機構
Ⅱ.炎症・発癌と変性疾患
1.酸化的翻訳後修飾タンパク質の解析でみえてきた肝・消化管炎症病態の新展開
2.チオレドキシンによる酸化ストレス防御とレドックスシグナル制御
3.酸化ストレス誘発発癌機構の解明 -フリーラジカル傷害に弱いゲノム領域を探る
4.塩基除去修復酵素MUTYHに依存したプログラム細胞死と発癌抑制機構
5.ALSにおける酸化ストレスおよび酸化型SOD1の関与
Ⅲ.呼吸・循環・代謝異常
1.H2O2が制御する血管弛緩反応の分子機構
2.慢性腎臓病における鉄の重要性
3.COPDにおける酸化ストレス病態
4.糖尿病合併症および糖尿病発症における酸化ストレスの意義
5.酸化ストレスによる貧血 -造血幹細胞の老化と赤血球の酸化
第3章 活性酸素応用研究の最前線
1.論理的設計法に基づく種選択的ROS蛍光プローブの開発
2.活性酸素シグナル分子H2O2を介したユニークなタンパク質修飾機構
3.アダクトミクス -DNAおよびタンパク質付加体の網羅的解析
4.活性酸素センサー:nucleoredoxin
5.酸化ストレス作動性TRPチャネルの化学生理学
6.親電子性リガンドセンサーとしての核内受容体PPARγ
7.活性酸素がインスリンシグナル伝達に与える影響とその二面性
8.レドックス制御に干渉する小分子のケミカルバイオロジー
9.Nrf2/Keap1酸化ストレス応答系による活性酸素シグナル制御
10.NOと植物の感染防御応答

続いて、「概論」の冒頭に書かれていた全文をご紹介します。
『活性酸素は生体内のエネルギー代謝や感染防御過程において発生する一連の活性分子種(O2⁻,H2O2など)であり、これまで酸素毒性の要因となる有害物質として取り扱われてきた。実際、活性酸素は、感染、炎症、癌、動脈硬化・糖尿病などの生活習慣病や代謝性疾患、アルツハイマー病などの神経変性疾患といった、さまざまな疾病の原因となることが示唆されている。近年本書は2009年の発行です)、活性酸素がシグナル伝達機能を発揮していることが報告されるようになり、幅広い生命科学領域において、「活性酸素による生理的なシグナル伝達機能」の解明が飛躍的に進展している。本増刊号においては、最近次々と明らかにされている活性酸素シグナルの新知見に焦点をあて、その真の生理活性を議論することにより、活性酸素の機能と病態解明の新展開を紹介する。』


以降、本文よりブログに記録しておきたい要点を抜き出し、列挙させて頂きます。
なお、ROSはreactive oxygen speciesの略で「活性酸素種」となりますが、「活性酸素」を意味します。ブログの中ではROSは「ROSシグナル」として使い、それ以外は「活性酸素・活性酸素種」という言葉を使います。
概論
活性酸素のシグナル伝達機能 -その生理機能の再発見と酸化ストレス研究の新展開
・生物は、酸素との長い付き合いが始まった太古の時代より、酸素分子の高い化学反応を利用したエネルギー代謝の代償としてその毒性を被ることとなった。
・活性酸素は生体分子の非特異的損傷をもたらす単なる毒性因子ではなく、精密に制御されたシグナル伝達の担い手であるというコンセプトが広く受け入れられつつある。
・活性酸素は、生体内のその他のシグナル伝達物質(細胞内に存在し、外部からの刺激[信号]を受け取って別の物質に伝える役割を持つ物質)と同様に、特異的なシグナル経路を活性化して、細胞保護、細胞分化増殖、細胞死の制御などを司ることがわかってきた。
・活性酸素による細胞シグナル制御(ROSシグナル)に関する関連分野からの国際誌への発表論文数は、この10年間で2倍以上の伸びを示している。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「活性酸素シグナルと酸化ストレス」

1.シグナル分子としての活性酸素(ROSシグナル)の再発見
・80年代頃から盛んに試みられた抗酸化療法は、当初期待したほどうまく臨床応用が進まず、その学術基盤が確立されぬまま、科学的に腑弱な概念に基づく民間療法として一般に普及してしまった。特に日本国内における酸化ストレス研究は、折りしも国民に広く流行した健康食品ブームに押されるようにして進展してきたともいえる。
・酸化ストレス研究は2000年前後に特に顕著に進展し沢山の成果を上げてきた。
・近年急速に進展しているROSシグナルの解明は、活性酸素研究に新たな潮流を生み出し古典的な酸化ストレス研究に革新的な扉を開こうとしている。
2.ROSシグナルの生理機能からみた酸化ストレス病態
これまでの酸化ストレスの病因論は「活性酸素」として展開してきた。この病態理論はもちろん酸化ストレスの中心的なドグマ(教義)となっている。実際、活性酸素により脂質過酸化反応が誘発され細胞の生体膜機能が損なわれること、血中の脂質・コレステロールの酸化が、動脈硬化病巣の形成を促しその発症に深くかかわること、また、高血糖が活性酸素の産生を高めることにより生活習慣病の重要な要因になることなどが報告されている。酸化ストレスが疾病病態に普遍的に関与することは、関連分野の多くの研究者に広く認められている。
・ER(小胞体)ストレス、幹細胞の分化制御、アポトーシス・細胞死制御、角膜エイジング、生殖・再生、発癌など多様な病態と酸化ストレスのクロストークに関してもそれぞれの分野の第一人者から最新の知見が紹介されている。
・酸化ストレスを活性酸素による生理的シグナル伝達経路を介する病態、あるいは、正常なシグナル伝達の制御異常という視点から捉えることも重要であろう。

・活性酸素は、酸化ストレスをもたらす病原因子としてふるまう反面、その生理機能の重要性を示す多くの科学的根拠が報告されており、しばしば「double-edged sword」として取り扱われてきた活性分子種である。その光と陰は、これまで単純にその化学的反応性と毒性により説明されてきた。しかしながら実際は毒性というより、生理的なROSシグナル活性の発現と制御信号が、活性酸素の二面性を操る本態であることが明らかにされつつある。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「活性酸素シグナルと酸化ストレス」

「酸化ストレスとは、活性酸素と抗酸化システム、抗酸化酵素との バランスとして定義されています。酸化ストレスが高いとは、生体内において活性酸素による酸化作用と、 抗酸化物質等の抗酸化作用とのバランスが崩れ、酸化反応が亢進する状況のことを言います。」

画像出展:「日本老化制御研究所

・活性酸素の生理活性として以前より感染防御作用においても、直接的な抗菌作用だけでなくROSシグナルを介する間接的な防御機構が存在することが示唆されている。
活性酸素研究の新たな潮流と裾野の広がりは生命科学領域のほとんどの分野に及んでおり、特に、メタボリックシンドローム、感染・炎症・免疫異常、老化、神経変性疾患、発癌などの酸化ストレスのかかわる疾病病態の解明とその再生医療などの先進医療への応用・展開は、高齢化が進むわが国にあっては社会的にも要請が強い重要な課題といえる。
・活性酸素は、これまではその高い反応性のため真の生理活性に不明な点が多かったが、分子イメージングや質量分析法などの優れた技術開発により、近年その実体の解明が飛躍的に進んでいる。
・活性酸素がユニークなシグナル伝達の担い手として再発見され、今まさに歴史の大舞台に登場してきた。今後さらに、新しい病態論と診断・予防・治療法が確立されるものと期待される。

第1章 活性酸素・NO(一酸化窒素)の生理機能
1.活性酸素シグナル生成系の制御機構
種々の活性酸素生成系について
・活性酸素は、歴史的にはまず、代謝系の副産物として認識された。現在ではミトコンドリアの電子伝達系の寄与が大きいと考えられている。特にミトコンドリア内膜の複合体Ⅰや複合体Ⅲから漏れ出た電子が、酸素分子に渡されスーパーオキシドが生成する。
・細胞質に存在するキサンチン酸化還元酵素(XOR)は、通常はキサンチン脱水素酵素(XDH)として存在し、活性酸素を生成しないが、酸化ストレス時にはキサンチン酸化酵素(XO)に変換され、酸素分子から過酸化水素やスーパーオキシドなどの活性酸素を生成するようになる。
・細胞質に存在するNO合成酵素(NOS)は、ストレス時にuncouplingが起こるとNO合成をやめてスーパーオキシドを生成するようになる。
・シクロオキシゲナーゼやリポキシゲナーゼなどからも活性酸素が生成しうるが、これらの活性酸素シグナリングにおける役割は小さいと、今のところ考えられている。

2.ミトコンドリア活性酸素生成とシグナル制御
ミトコンドリアは各細胞に数百存在し、肝臓、腎臓、心臓、筋肉、脳などにある代謝の活発な部位では、細胞質の約40%をも占める組織もあるほどである。
・ミトコンドリアにおいて活性酸素が産生されるという仮説は、Denham Harmanが1956年に発表した“Free radical theory”(「加齢はミトコンドリア由来のフリーラジカルによって引き起こされる細胞損傷が蓄積したものである)という理論が最初である。
・抗酸化剤のSOD(スーパーオキシドディスムターゼ)が発見されたのは1969年だった。
・1973年にBoverisらが過酸化水素が単離ミトコンドリアから産生されていることを証明し、現代に至るまで、加齢のみならず、種々の慢性疾患において、ミトコンドリア呼吸鎖由来の活性酸素が、その病態形成、伸展において重要な役割を果たしていることが知られるようになった。
ミトコンドリアにおける活性酸素種とその産生部位
・ミトコンドリア呼吸鎖における活性酸素は、複合体ⅠおよびⅢにおいて産生される。
・過酸化水素は細胞膜を自由に通過でき、細胞質内に移動できることが知られている。
ミトコンドリア内には、スーパーオキシドを消去するMn-SODのほかに、過酸化水素の消去系として、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)やペルオキシレドキシン(Prx)が存在し、産生された活性酸素はすみやかに消去される。
処理しきれない過剰な活性酸素は、タンパク質や核酸と反応し傷害を及ぼし、機能障害、細胞死へと導く。
これらの抗酸化酵素と活性酸素産生の不均衡は、発癌やアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患、動脈硬化、心不全、さらに老化など実にさまざまな慢性疾患に関与していると考えられ、抗酸化剤の投与、抗酸化酵素の過剰発現によって治療効果が得られることが、多くの実験によって裏づけられている。
・近年、いくつかのミトコンドリアに局在するリン酸化酵素がミトコンドリア由来の活性酸素によって可逆的に不活性化されることも知られてきた。
・活性酸素が細胞周期をも制御することが明らかにされている。
過酸化水素(活性酸素)はNO同様に、その濃度によって作用を異にする。
 ・0.7μM以下…細胞増殖に作用
 ・1.0~3.0μM…アポトーシス
 ・3.0μM以上…ネクローシス(壊死)
活性酸素とアポトーシス
・アポトーシスはdeath receptorにTNF-α、Fasリガンドが結合することで、カスパーゼを活性化する外因経路とミトコンドリアを介した内因経路が知られている。
・アポトーシスの内因経路は、アポトーシス促進因子として、ミトコンドリア由来の酸化ストレスと深く関連していることが知られている。
ミトコンドリアは最も重要な活性酸素の産生源であり、同時に活性酸素の標的でもある。そして、ミトコンドリア由来のスーパーオキシドおよび過酸化水素が種々の病態ひいては老化において、いわゆる“悪役”として重要な役割を果たしていることが概念として認識された。

3.チオール基の修飾による活性酸素のセンサー機能制御
・近年、活性酸素は巧妙に制御されたシグナル伝達機構の担い手であるというコンセプトが生命科学分野に広く受け入れられつつある。
・活性酸素が、防御的な酸化ストレス応答を誘導する重要なシグナル分子であることが明らかになってきた。
・活性酸素や一酸化窒素(NO)は、シグナル伝達の最も上流に位置する分子群として、細胞内のセンサータンパク質を活性化し、さらに下流のエフェクター分子へとシグナルを伝える。

7.活性酸素によるリン酸化シグナル制御
高濃度の活性酸素種は細胞死や細胞傷害を引き起こすが、生理的に産生された低濃度の活性酸素は細胞増殖、細胞運動、遺伝子発現を制御する。さらにサイトカイン刺激などの細胞外刺激に応じて産生された活性酸素がセカンドメッセンジャーとして機能することも明らかにされている。ここで問題になるのは活性酸素がどのようにしてシグナル系を駆動するのかということである。

8.G12/13タンパク質による活性酸素シグナリング
・神経伝達物質や液性因子などの受容体刺激によって生じる細胞内シグナル伝達のなかで、活性酸素の役割が注目されている。
・心臓では、アンジオテンシンⅡ刺激がAT1受容体を介してスーパーオキシドや過酸化水素をはじめとする活性酸素種を生成することが報告されている。これらの活性酸素は主に細胞膜上のNADPHオキシダーゼの活性化を介して生成され、AT1受容体シグナリングにおける細胞内情報伝達因子として重要な役割を果たしている。

筑波大学の研究情報ポータル(COTRE)に以下の図と説明がありました。ご紹介させて頂きます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私たちの体内の組織や臓器は、それらに特有の細胞によって作られています。それらの細胞がホルモン・成長因子・神経伝達物質などの情報を受け取って、シグナル伝達が稼働して細胞機能が発揮されることにより組織や臓器が正常に機能します。その結果として私たちは正常な生活を営むことができます。しかし、細胞のシグナル伝達に異常をきたすと、様々な病気になります。この異常は、シグナル伝達を行うタンパク質や酵素の性質の変化によって起こります。シグナル伝達の異常によって起こる病気には、がんやアレルギー、神経疾患などがあります。シグナル伝達がどのようなメカニズムで作動しているのかを解明して、それらの異常がどのような病気に関連しているのかを分子レベル、細胞レベル、および個体レベルで解明することが求められています。』

第2章 酸化ストレスと病態
Ⅰ.細胞分化増殖・シグナル異常と再生医療
1.ER(小胞体)と酸化ストレス
・ERは細胞内Ca2+(カルシウムイオン)の主たる貯蔵部位として、Ca2+ホメオスタシスにおいて重要な役割を演じる。
・ERの諸機能の破綻によるERストレスは、神経変性疾患や虚血性臓器傷害、糖尿病や動脈硬化症などの生活習慣病の誘因の一つと考えらえるが、近年、その分子機構とレドックス(酸化還元反応)、酸化ストレスとの関連が注目されている。
ERにおけるタンパク質の酸化的折りたたみ
・分泌・膜タンパク質の新生ポリペプチドは、ER内腔へ引き込まれた後、分子シャロペンのようなタンパク質の折りたたみ関連酵素による手助けのもとで正しく折りたたまれる。そして、ゴルジ体で糖鎖修飾などの翻訳後修飾を受けた後、細胞外あるいは膜上に運ばれる。
・ERでの折りたたみに失敗したタンパク質は細胞質に移送され、ユビキチン・プロテアソーム経路で分解される。
ERにおけるレドックスホメオスタシスとROSの生成
過剰なERでのタンパク質生合成は、酸化ストレスの発生と密接に関係する。
ERストレスとは
ERストレスは、正しく折りたたまれない変性タンパク質のERへの蓄積が起こすストレス応答である。
・ERストレスは、酸化ストレス、虚血、低酸素、ウィルス感染、栄養飢餓など種々の環境変化によってもたらされる。
・ERストレスシグナルに起因したERストレス応答では、変性タンパク質が過剰にERに蓄積しないよう、タンパク質の翻訳停止、ERシャロペンの発現誘導、ERADの亢進が起こる。
・ERストレスにより回避できない細胞傷害が起こった場合、細胞は自らアポトーシスの誘導を選択する。
ERストレスと酸化ストレスのクロストーク
・糖尿病態において、酸化ストレスとERストレスの両者が密接に関わることを示している。
酸化ストレスによるER内Ca2+制御タンパク質の機能修飾
・ERに局在するCa2+制御タンパク質は、酸化ストレスの標的となり、その生理機能が制御され、細胞・組織の酸化ストレス傷害と関係することが知られている。

2.アポトーシスと酸化ストレス -酸化ストレス誘導性アポトーシスにおけるNoxaの役割
・生体内で発生する活性酸素種は遺伝子発現やシグナル伝達因子の活性を制御し、種々の細胞応答にかかわっていることが知られている。
活性酸素種の発生量は産生と消去とのバランスにより、厳密に制御されており、その制御破綻は、老化、発癌、梗塞、神経変性疾患など、さまざまな疾患の発症に関与していることが示唆されている。とりわけ、酸化ストレスによる過剰な細胞死の誘導は、組織の機能を維持するうえで危機的であり、その分子メカニズムの解明は、生物学的な意義をもつだけではなく、医学的にも非常に重要な課題と思われる。
・活性酸素種の1つである過酸化水素による細胞死に関しては、アポトーシスとネクローシスがよく知られているが、どの細胞死機構が活性化されているかについては、細胞腫や過酸化水素の濃度によって異なっており、両者が混在するケースも知られている。
アポトーシス経路とミトコンドリア
・アポトーシスはさまざまな刺激によって誘導されるが、各刺激によって誘導されたシグナルは最終的にはミトコンドリアに集約される。

4.眼表面と酸化ストレス
・角膜を含む眼表面が、なぜこれほど環境性の酸化ストレスに強いかはまだ知られていない。角膜上皮が多くのグリコーゲンを貯蔵して、嫌気性代謝に依存する率が高いことも1つの原因としてあげられている。角膜の抗酸化機能を解明することは、酸化ストレスによるエイジングや発癌メカニズムを一部解明できるかもしれない。

Ⅱ.炎症・発癌と変性疾患
3.酸化ストレス誘発発癌機構の解明
酸化ストレスと発癌
酸化ストレスを引き起こす病態は、放射線・紫外線への曝露、鉄・銅などの遷移金属の過剰状態、ウィルス感染、あらゆる慢性炎症、ある種の抗癌剤投与(ブレオマイシン、アドリアマイシン)、臓器移植や梗塞など、実に多岐にわたっている。

Ⅲ.呼吸・循環・代謝異常
1.H2O2(過酸化水素:活性酸素の一つ)が制御する血管弛緩反応の分子機構
血管内皮細胞および血管平滑筋細胞は、多くの相互作用を及ぼしつつ血管の生理的機能を保っていることが知られている。血管内皮は各種の血管弛緩因子を産生・放出し、血管機能の恒常性の維持に重要な役割を果たしている。われわれは、生理的濃度の活性酸素(H2O2)が内皮由来過分極因子の本体として、血管弛緩作用を有することを報告した。一方、過剰な活性酸素(酸化ストレス)は心血管疾患の原因になることが知られている。われわれは最近、酸化ストレスが血管平滑筋細胞よりCyclophilin A(細胞質に大量に存在する蛋白質。CyPA はそもそも免疫抑制剤cyclosporin A(CsA)の特異的 リガンドとして発見され,ポリペプチドのプロリンのアミド結合のシスからトランスヘの異性化を触媒する活性を有する)を分泌させ、血管内皮機能障害や平滑筋増殖促進作用を有することを報告した。これらの酸化ストレスによる血管弛緩反応の分子機構の解明により、心血管疾患の新たな治療薬開発の可能性が期待される。
・血管内皮細胞は、血管平滑筋層の内側を覆うたった一層の細胞群ではあるが、血管平滑筋細胞との多くの相互作用を有し、血管機能制御の根幹を形成している。血管内皮はプロスタサイクリン(PGI2)・一酸化窒素(NO)・内皮由来過分極因子(EDHF)の3種類の血管弛緩因子を産生・放出し、これらは生理的条件下での血管機能の恒常性の維持に重要な役割を果たしている。(短期的には血管トーヌス[緊張]を弛緩優位に保ち、長期的には動脈硬化の発生・進展を抑制して、心血管系の恒常性の維持に極めて重要な働きをしている)
EDHFとしてのH2O2
・H2O2は血管弛緩反応に関する役割をNOと分担しており、大動脈などの導入血管における弛緩反応は主としてNOにより制御されているが、H2O2は微小血管、特に抵抗血管において重要な役割を果たしていると考えられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「活性酸素シグナルと酸化ストレス」

酸化ストレスとしてのH2O2
・高血圧、糖尿病や脂質異常症などの種々の動脈硬化危険因子の存在下では、過剰な活性酸素種が血管平滑筋細胞や炎症細胞(好酸球,Tリンパ球,肥満細胞[マスト細胞],好中球,好塩基球など)において大量に産生・遊離されることがわかっている。
・血管平滑筋細胞は中~大血管を構築する細胞のなかでも圧倒的な数および容積を有し、NADPHオキシダーゼなどの多くのROS産生源を有する。
・アンジオテンシンⅡ(ポリペプチドの1種で、血圧上昇[昇圧]作用を持つ生理活性物質である。アンジオテンシンII〜IVは心臓の収縮力を高め、細動脈を収縮させることで血圧を上昇させる。特にアンジオテンシンII は副腎皮質にある受容体に結合すると、副腎皮質からアルドステロンの合成・分泌が促進される)などのアゴニスト(生体内の受容体分子に働いて神経伝達物質やホルモンなどと同様の機能を示す作動薬のこと。現実に生体内で働いている物質はリガンドと呼ばれる)刺激や「ずり応力」(血流は内皮にずり応力を与える:血管壁には常に血行力学的ストレスが作用している. 一つは血圧による血管壁に垂直方向に働く法線応力で,これは内皮細胞や平滑筋細胞を引き伸ばし細胞に張力を与える.他 の一つは血流によるずり応力で,これは血管内面を覆う内皮細胞にのみ作用し,内皮細胞を流れの方向に歪ませる力となる)、低酸素などの環境因子により大量の活性酸素が平滑筋細胞内で産生され、病的高濃度(ミリモルオーダー)のH2O2は、生理的濃度(マイクロオーダー)のH2O2とは異なる役割を有していることが示唆されている。すなわち、H2O2は生理的低濃度において特に微小血管の血管機能にとって保護的に働く一方、病的高濃度においては血管リモデリング(血液循環状態の変化に伴う、血管の構造上の変化で、高血圧による圧力変化に対応する血管壁圧の変化や、腫瘍組織における血管新生などが例である)を促進する可能性がある。

2.慢性腎臓病における鉄の重要性
慢性腎臓病(CKD)では、腎障害のさらなる進行や心血管疾患(CVD)の合併が多くみられ、その病態には酸化ストレスが深く関与している。CKDの酸化ストレス亢進において、タンパク尿やレニン・アンジオテンシン系亢進に加え、鉄代謝異常の役割は大きい、鉄輸送タンパク質の発現異常による細胞内の鉄過剰状態は活性酸素産生を惹起する。また、CKDではチオシアンさんの増加による活性酸素産生がCVD発症に関連しうる。CKDあるいはCVDに関するこれらの知見から、活性酸素・遊離鉄をターゲットとした治療戦略の確立が望まれる。
・CKDの重要な点は、腎障害が悪化して末期腎不全へと至ることだけではなく、心血管疾患(CVD)などの合併がきわめて多く死亡率も高いことである。CKDでは従来からタンパク尿の程度と腎機能の予後との関連が知られており、タンパク尿による腎障害進行のメカニズムが報告されている。また、腎障害やCVDの進展においてレニン・アンジオテンシン系の亢進、酸化ストレスや慢性炎症の持続なども病態に関与している。
CVD(心血管疾患)
・CVD発症のリスク因子として、従来から喫煙や高血圧、肥満などの因子が知られているが、最大のリスク因子はCKDであることが、欧米および日本での大規模臨床試験で示されている。われわれは、CKDの病態およびCVD発症・進展には鉄代謝異常が関与していると考えている。
・透析患者は鉄輸送タンパク質の調節異常によって、細胞内では鉄が過剰に存在することが明らかとなった。

筋緊張

脳血管障害による体の異常のことを「痙縮」といいますが、時に「痙直」という言葉を使うこともあります。また、パーキンソン病などでみられる体に現われる異常の一つに「固縮」がありますが、これについては「強剛」あるいは「筋強剛」なども使われており、更に「強直」、「硬直」といった言葉も出てきます。一方、ギックリ腰は痙縮や固縮とは異なり、中枢神経が関与しない「筋スパズム」の問題とされています。「筋スパズム」は日本語では「筋攣縮」となり、痙攣性の収縮のことです。筋肉と関節の関係では「拘縮」という言葉もよく耳にします。
これらの似て非なるものを分かりやすく分類しようと思うと、例えば、筋緊張の強さと弱さ、関節と軟部組織(筋、腱、靭帯、結合組織)、神経性要素と機械的要素、疾患との関連性、特徴的な症状などがモヤッとして整理整頓困難な印象があり、その手間と難しさから着手できずにいました。

ところが、先日ネット検索している時に、「筋緊張に挑む」という本を偶然見つけ、今までモヤモヤしていた所がクリアになりそうな気がしたため、思い切って商品券を使って購入することにしました。

 

こちらは「理学療法士」の方向けの本です。

 

常任編集:斉藤秀之・加藤 浩

出版:文光堂

目次は3層の見出しのうち、大中の2層に関しては次の通りです。
PartⅠ 理学療法から見る筋緊張
1.理学療法における筋緊張の再考
2.運動・生理学からみた筋緊張
PartⅡ 筋緊張の測定・評価
1.一般的評価や検査手技について
2.動作レベルでの筋緊張評価の診かた
3.歩行分析における筋緊張の診かた
4.セルフケアにおける筋緊張の診かた
5.頸部・体幹および顎・口腔の筋緊張の診かた
6.筋緊張に影響する要因
PartⅢ 疾患別の筋緊張の特性と治療
1.脳卒中における筋緊張の特性と治療
2.脊髄損傷における筋緊張の特性と治療
3.痙直型脳性麻痺における筋緊張の特性と治療
4.二分脊椎における筋緊張の特性と治療
5.低酸素脳症(脳損傷・意識障害を含む)における筋緊張の特性と治療
6.パーキンソン病における筋緊張の特性と治療
7.筋強直性ジストロフィーにおける筋緊張の特性と治療
8.呼吸器疾患における筋緊張の特性と評価・治療
9.運動器疾患における筋緊張の特性と治療
10.慢性疼痛症候群における筋緊張の特性と治療

下の図は「筋緊張の概念図」です。今回はこの図をベースにネットで確認した情報を付け足して、一覧表を作りました(クリックすると拡大されます)。情報源が混在しているため、正確性と見やすさに課題があると思いますが、何かご参考になればと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「筋緊張に挑む」

動かないことによって生じる骨格筋の線維化の原因を探索

損傷に対する修復だけでなく、【不動】でも線維化するという記事です。

高草木 薫先生の論文「大脳基底核による運動の制御」がダウンロードされます。

こちらは「筋緊張亢進と動作障害に関する機能因子の連関サイクル」です。筋緊張の関係性、全体像を把握するのに役立つ図だと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「筋緊張に挑む」

運動器疾患における筋緊張、筋スパズム、筋硬結については詳しくご紹介したいと思います。なお、これらは全て本の内容に基づいています。

 

運動器疾患における筋緊張の特性と治療
運動器疾患における筋緊張の異常とは?
持続的な筋緊張の亢進は局所の循環不全を引き起こし、発痛物質や疼痛増強物質などを誘導し、侵害受容器の興奮を惹起する。さらに、疼痛の持続は、交感神経の活動を上昇させることから、末梢血管収縮による局所の循環不全を引き起こす。循環不全による酸素欠乏状態は、アデノシン三リン酸(ATP)産生を抑制するなど筋の弛緩不全を引き起こすような悪循環に至ってしまう。退行性変性疾患であれば、慢性疼痛や罹患関節に対する代償作用が隣接関節だけでなく全身へと波及する結果、固定化あるいはパターン化された姿勢・動作が形成される。固定化あるいはパターン化された姿勢・動作は、偏った筋の持続的な過緊張へとつながり、日常生活において習慣化される。それは、無意識に罹患関節への力学的ストレスの増加や他関節への障害を惹起する可能性がある。 


筋緊張が亢進する理由は!?
・中枢神経系に器質的異常のない運動器疾患において、筋緊張が亢進する理由は何であろうか。それは主に脊髄反射が関与していると考えられる。脊髄反射は、伸張反射と屈曲反射に大別される。「伸張反射は、外力に抗する力を発生することで関節を固定して姿勢を保持することにある。すなわち、重力に抗して姿勢を保持するための、筋の持続的な収縮である。屈曲反射は、皮膚、筋その他の深部組織が傷害されるような刺激に対して、肢節を屈曲させるような反応である」。例えば、術後の疼痛が持続することで、屈筋群の持続的な筋収縮により、股関節が屈曲・内転・内旋位で固定化されやすい状態になることは臨床上よく経験することである。これらの反射は無意識的に調整されているため、患者自身はどこに、どの程度の力が入ってるかを認識することは困難なことが多い。

運動器疾患において筋緊張が亢進する原因は?
・神経原生因子は、脳の障害の損傷箇所およびそれに関与する神経系路による問題で、痙縮、固縮、クローヌス筋肉や腱を不意に伸張したとき生じる規則的かつ律動的に筋収縮を反復する運動)の障害の損傷箇所およびそれに
などさまざまな筋緊張の異常を呈する。非神経原生因子には、①筋・皮膚などの軟部組織のバイオメカニカルな変化およびそれに起因する疼痛など。②過剰動作による代償および誤動作による関節・筋などの炎症、合併症の出現および増悪。③環境・人格(生活、家族背景、趣味など)・その他、精神面に作用する要素を挙げている。このように個人要因や環境要因、社会要因などさまざまな要因により筋緊張は影響を受けることが考えられる。

筋緊張は連鎖する
・四肢遠位の体節の筋緊張が高まると、その筋緊張は近位の体節を構成する筋へ連鎖するような現象が筋の収縮連鎖である。

上肢疾患における筋緊張の特性および治療
・術後の著明な疼痛や夜間痛による睡眠障害は、心理・精神的ストレスを増加させ肩関節・肩甲帯周囲筋の筋緊張の亢進につながることが少なくない。

筋スパズムとは?
骨格筋が急速かつ不随意に収縮すること、あるいは収縮している状態を表す。
・神経学の分野では「断続的に生じる一定の持続時間をもった異常な筋収縮状態」とされ、筋攣縮とも呼ばれる。
・理学療法領域においては「痛み刺激に対する防御作用の一環とした、反射的・持続的な筋緊張の亢進」を指していることが多い。
筋スパズムの原因としては、筋疲労や脱水、電解質異常、ホルモン・ビタミン欠乏、腎不全、薬剤の副作用、外傷や炎症などの要因が考えられる。
・筋スパズムが遷延化(長期化)することは骨格筋や関節機能障害の発生につながり、痛みを慢性化させる。
筋スパズムの発生機序
・筋や関節を構成する結合組織などが損傷すると、発痛物質(ブラジキニンなど)が放出される。また、組織修復の過程で炎症が生じ、腫脹による組織内圧の上昇や局所の発熱がみられる。それらの侵害刺激は自由神経終末(高閾値機械受容器とポリモーダル受容器)を刺激し、求心性に情報を伝導する。
損傷組織や炎症による各刺激が脊髄後角へ入力され、α運動ニューロンを興奮させることで筋活動が増加する。また、同時にγ運動ニューロンを興奮させ筋紡錘へ影響を与え、α運動ニューロンが興奮しやすい状況を作る。
筋スパズムによって生じる筋機能の障害
・筋スパズムが遷延化することで筋や関節の機能障害を生じる場合がある。特に筋の機能障害が進展することにより、疼痛が慢性化する可能性がある。
・筋緊張の亢進が持続することによりみられるもの
 ①筋内圧の増加と局所の循環障害
 ②ポリモーダル受容器の閾値低下
 ③発痛物質の血中濃度上昇
 ④相反抑制(主働筋が収縮する際に拮抗筋を収縮させない[弛緩させる]命令が出されるというような、互いに拮抗しあう筋の活動を抑制するメカニズム)によるスパズム筋の拮抗筋弱化
 ⑤痛みによる交感神経活動の亢進(末梢循環障害)が生じる
 ①~⑤によりさらに筋スパズムを強く生じさせ、疼痛を慢性化させる。加えて虚血状態の筋は収縮から弛緩への移行が障害される。
これらのことにより、筋や関節の結合組織の伸張性や粘弾性の低下が生じる。また、筋スパズムの期間が延長するのに合わせ筋短縮や拘縮が進行し、姿勢の悪化や関節アライメントの変位につながっていく。筋スパズムがある場合、過度な負荷を加えると、筋付着部や腱に微細な損傷や炎症を生じさせる可能性が高い。筋スパズムによる筋機能不全が痛みの原因となり、痛みの増悪が筋スパズムを増加させるといった悪循環を形成する(pain-spasm-pain cycle)。

 

「pain-spasm-pain cycle」で画像の検索をすると、表示されるpain cycleは一様ではなく、色々なバリエーションが出てきます。左の図はシンプルなのと、絵が気に入り拝借しました。

『筋緊張⇒循環障害⇒筋肉の炎症⇒可動域制限⇒疼痛⇒筋緊張⇒…』という感じだと思います。

筋スパズムに対する理学療法
・筋緊張が亢進が持続することにより、筋の機能不全(伸張性・粘弾性低下、拘縮、萎縮、循環障害、変位)を生じる。その状況で不適切な運動を行うと、筋や結合組織に新たな損傷を生じさせる可能性が高い。
・スパズムは関節運動のリズムを崩し、転がり運動滑り運動を破綻させる。
・無理に動かすことは周囲組織のインピンジメントを助長し組織損傷を誘発しかねない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは「肩甲上腕リズム」を説明するものです。腕を高く上げるには、肩関節に加え肩甲骨が連動することが必要です。また、筋肉も動きに伴い働く筋肉が変化します。

※この画像は、「伊豆deマッサージ◇河津ハンズblog◇」さまより拝借しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こちらは膝関節にみられる①「転がり」、②「すべり」です。スパズムはこれらの動きを抑制する可能性があり、関節可動域に悪影響を及ぼします。

※この画像は、「Adetto」さまより拝借しました。

筋硬結とは?
・「凝り」「こわばり」「しこり」の正体は筋硬結と呼ばれ、筋が硬く結節状になった状態である。
・発生の機序としては、筋損傷、過剰な筋疲労をきっかけに、筋小胞体損傷部からカルシウムイオンの放出、また筋線維細胞膜損傷により細胞外カルシウムイオンの細胞内への流入により、筋漿膜内のカルシウムイオン濃度が上昇し、局所的なアクチンフィラメントとミオシンフィラメントの滑走が膠着する。膠着解除のためにATPが必要となり、代謝は亢進するが、アクチンフィラメントとミオシンフィラメントの膠着による局所循環障害は、酸素欠乏とエネルギー欠乏を招き、さらに膠着が持続し筋硬結が形成されるといわれている。
・筋硬結は局所の循環障害を起こしている筋の中に、収縮結節が残存している状態であるといえる。

その他
筋スパズム「spasm」は攣縮を意味し筋肉の線維が持続的・不随意的に収縮しつづける状態を指します。一方、生理学では「twitch」の訳として「単収縮」と「攣縮」が使われています。
この「spasm」と「twitch」の違いを調べたのですが、なかなか見つからず、やっと見つけたのは以下のように英語の記事でした。  
なお、twitchの最も分かりやすい例は、eyelidという「まぶたがピクピクする状態(無痛)」だと思います。

Muscle Twitching vs. Spasms:the Difference?
“A twitch is a brief phenomenon that affects a small portion of a muscle, whereas a spasm may be more prolonged and affects a large muscle group. A twitch does not tend to be painful, but a spasm can be quite painful.”

パーキンソン病-進化する診断と治療【治療】

『パーキンソン病-進化する診断と治療-』という特集は【座談会】で始まっています。【治療】は4番目であり、掲載されていた寄稿は次の6つです。
●新しい薬物治療
●脳深部刺激療法(DBS)
●遺伝子治療
●パーキンソン病に対する細胞移植治療
●デュオドーパ
●ニューロリハビリテーション
ブログでは、「パーキンソン病に対する細胞移植治療」、「ニューロリハビリテーション」を取り上げました。これはiPS細胞というキーワードと鍼灸師にとって重要なリハビリテーションに着目したためです。なお、分からない用語が数多くあったため、それらの用語の後ろに( )で説明等を付け加えましたが、その結果少し見づらくなっていると思います。

【座談会】のテーマは「パーキンソン病病態の解明の進歩と疾患修飾療法」です。クリックして頂くと移動します。

出版:最新医学社

 

高橋淳先生

京都大学iPS細胞研究所 臨床応用部門 神経再生研究分野 教授

菊地哲広先生

京都大学iPS細胞研究所 臨床応用部門 神経再生研究分野  

要旨:『現在のパーキンソン病に対する主な治療である薬物療法、脳深部刺激療法では、障害された中脳ドパミン神経細胞自体を修復することはできない。失われたドパミン神経細胞を修復することはできない。失われたドパミン神経細胞を補充する治療として、細胞移植治療の研究が進められている。近年、iPS細胞は細胞移植治療の細胞源として注目されており、臨床応用に向けた研究が進められている。』

はじめに
・細胞移植治療は、胎児組織を用いた胎児腹側中脳組織移植が1980年代から行われているが、中絶胎児を治療に用いる倫理的問題もあり、治療の主流にはなっていない。
2007年のiPS細胞作製の報告以来、胎児細胞の代わりに細胞移植源としてiPS細胞を用いる研究が進められてきた。
パーキンソン病においては、中脳黒質線条体系のドパミン神経細胞の喪失により運動障害が生じるといった病態が比較的単純な部分もあり、細胞移植治療の対象になりやすいと考えられる。

パーキンソン病の病理および治療
・パーキンソン病では、振戦、固縮、無動、歩行障害、および姿勢反射障害などの運動症状が主に中脳黒質線条体系のドパミン神経細胞の脱落によって引き起こされることが知られている。
・現在行われている標準的な治療は薬物療法であり、L-ドパ、ドパミン受容体刺激薬、抗コリン作用薬などが使用される。
・L-ドパはドパミン前駆体(化学反応などで、ある物質が生成される前の段階にある物質)であり、脳内でドパミンに代謝されて作用するが、病気の進行に伴いL-ドパを代謝するドパミン神経細胞が減少することによって、その効果は低下する。
・L-ドパ以外の薬剤についても、初期には有効であるが、病状が進行するにつれて薬剤を増やす必要があり、副作用も出現しやすくなるため、長期間にわたり症状をコントロールすることは困難である。

パーキンソン病に対する細胞移植治療
細胞移植治療は、損なわれたドパミン産生能自体を改善するための治療である。1980年代後半には、スウェーデンでヒト中絶胎児の中脳組織を用いた胎児腹側中脳組織移植が開始され、以来、主に欧米で約400件の手術が行われている。幾つかのケースで劇的な効果が認められ、移植の効果は10年以上持続したとする報告もある。
・胎児組織の移植には1人の患者に4~10体の胎児が必要なこと、移植片による不随意運動の報告もあり、一般的な治療にはなっていない。
・近年、ドナー細胞として胎児の代わりに幹細胞を用いる方法が期待され、研究が進められている。

細胞移植治療のための細胞源
1.ES細胞(embryonic stem cells:万能細胞の一種。さまざまな異なる細胞に分化し増殖する能力を持つ。ES細胞の採取は受精卵を殺すことになるので倫理面の問題がある)
・ES細胞は、三胚葉(内・中・外胚葉)すべてに分化する多能性により、すべての細胞移植のための細胞源として使用され得るが、ES細胞からの標的細胞を高純度に誘導することが1つの課題となる。
未分化ES細胞が移植片に混入した場合、奇形腫などの腫瘍を形成する可能性がある。
他家移植(自己以外の個体の組織などの一部を自己の個体に移植すること)となるため免疫抑制薬が必要になる。
ES細胞を樹立するためには生命の萌芽である初期胚を破壊しなければならないため、倫理的な観点からの批判がある。
2.iPS細胞
・iPS細胞はES細胞と同等の自己複製能および多能性をもっている。
iPS細胞は体細胞から作製され、初期胚の破壊を伴わないため、ES細胞で問題となる倫理的問題を回避することが可能である。
奇形腫などの腫瘍を形成する危険性はES細胞と同じである。
・iPS細胞はもともと4つの遺伝子をゲノムDNAに不可逆的に導入することで作製されるため、ゲノムの損傷による予期せぬ腫瘍形成や悪性化の可能性が指摘されている。この点については近年、臨床化へ向けて危険性の少ないiPS細胞を作製する方法が盛んに研究されている。
・iPS細胞からドパミン神経細胞への誘導に関しては、ES細胞の研究で得られた知見をiPS細胞にも応用することで、ドパミン神経誘導が可能である。

疾患動物モデルを用いた有効性と安全性の検証
・ドパミン神経細胞移植の有効性および安全性を検証するために、疾患動物モデルが必要である。
・パーキンソン病患者脳内におけるαシヌクレイン過剰状態を模倣するαシヌクレイン過剰発現マウスモデルも複数提唱されており、パーキンソン病患者脳内での移植細胞の挙動を予測するために有用である。

これまでの研究成果
・ヒトES細胞由来のドパミン神経細胞をカニクイザルMPTP(ドーパミン作動性ニューロンを変性脱落させる神経毒)モデルに移植し、神経症状が改善したことを報告した。
・ヒトiPS細胞由来のドパミン神経細胞をカニクイザルに移植し、腫瘍形成なく生着したことを報告した。
パーキンソン病患者の皮膚線維芽細胞から樹立されたiPS細胞由来のドパミン神経細胞が、パーキンソン病モデルラットの運動機能を改善することが報告されている。

問題と展望
ヒトES/iPS細胞由来のドパミン神経細胞は、モデル動物に生着してパーキンソン病の症状を改善することができるが、臨床適用前に解決すべき幾つかの問題がある。
1.治療適応の選択
・胎児中脳細胞移植の経験から、細胞移植治療は重篤な症例では効果が少なく、初期に治療効果が高いことが知られている。効果的な症例を選択するための基準が必要である。
2.ドナー細胞の分化の誘導、選別
・移植に必要なドパミン神経細胞を高精度に誘導する分化プロトコルや細胞選別技術が求められる。
3.腫瘍形成の制御
・腫瘍形成リスクを低減するためには、iPS細胞の樹立方法や細胞選択技術の検討に加えて、ドナー細胞の分化の程度を制御することが重要である。
・腫瘍形成等の緊急事態に対する安全対策として、抗がん剤などの薬剤や放射線照射により腫瘍増殖を抑制する試みがなされている。
4.移植片と宿主との免疫応答
・胎児中脳細胞移植では多くの場合免疫抑制薬が使用されており、免疫抑制が有効であると考えられている。
・カニクイザルを用いた実験では自家移植(個体内にある組織または器官や臓器を同一の個体内の別の個所に移植すること)では他の移植よりも免疫反応が少ないことが報告されているが、患者由来のiPS細胞を細胞移植治療の細胞源として使用できるかどうかはさらなる検討が必要である。
5.iPS細胞ストック
・自家移植の問題の1つは、患者自身の細胞からiPS細胞を樹立し、ドパミン神経細胞を誘導するのにかなりの時間を要することである。そのため、あらかじめ多くのドナーからiPS細胞を作製し、安全性と有効性を確認した細胞を保存しておくストック化も進められている。
・ストック細胞の移植は他家移植であるため、HLA型(human leukocyte antigen:ヒト白血球抗原、免疫を担当する)の違いによる免疫拒絶反応が特に問題となる。

おわりに
『パーキンソン病では、胎児中脳移植の有効性が証明されていおり、細胞移植治療のターゲットとして研究が進められている。近年、移植療法の細胞源としてのiPS細胞の出現により、自家移植および細胞ストックの実現が可能になった。最初に発表された方法と比較すると、樹立方法などの改良によりiPS細胞の安全性は向上しており、臨床応用に向けてさらなる安全性および有効性の評価が行われている。』

コメント(自分なりに整理してみました)

損なわれたドパミン産生能自体を改善するための細胞移植治療は、1980年代後半にスウェーデンでヒト中絶胎児の中脳組織を用いた移植が開始され、以来、主に欧米で約400件の手術が行われています。しかしながら、中絶胎児を治療に用いるという倫理的問題もあり、治療の主流にはなっていません。
また、ES細胞に関しても、初期胚を破壊するという倫理的な問題があり、移植も自己以外の個体を移植する他家移植になるため免疫抑制薬が必要になります。
一方、iPS細胞ではES細胞のような倫理的問題はなく、移植も自己移植が可能です(ただし、ドパミン神経細胞を誘導するのにかなりの時間を要するという課題がある)。しかしながら、奇形腫などの腫瘍を形成する危険性についてはES細胞と変わりません。

パーキンソン病の病態は、ドパミン神経細胞の喪失により運動障害が生じるという比較的単純なものであり、細胞移植治療の対象になりやすいと考えられています。今までの、胎児の中脳組織を用いた移植やES細胞を用いての実績を考えると、細胞移植治療はパーキンソン病にとって、非常に期待のできる治療です。

ご参考】 

 

 

 

 

2030年までの目標
1. iPS細胞ストックを柱とした再生医療の普及
2. iPS細胞による個別化医薬の実現と難病の創薬
3. iPS細胞を利用した新たな生命科学と医療の開拓
4. 日本最高レベルの研究支援体制と研究環境の整備

 

脳内ドパミンのはたらき


市川忠先生

埼玉県総合リハビリテーションセンター神経内科 副センター長

要旨:『大規模疫学研究により、活動度が高い群でのパーキンソン病発症リスクが逓減することが明らかである。リハビリテーションや運動での介入でパーキンソン病患者の運動機能改善が報告されている。機序としては、BDNF(脳由来神経栄養因子:脳内の神経細胞の成長を促したり維持したりする作用をもつタンパク質)等の環境因子と神経可塑性(外界の刺激によって神経が機能的、構造的に変化する性質)の改善が示唆される。また、自己運動認知の改善を図るLSVT(発声発語明瞭度改善目的の訓練法)も広く実施されている。パーキンソン病リハビリテーションには、認知機能への影響、効果残存期間、有効な種目、強度、頻度等、解明すべき課題がある。』

はじめに
・パーキンソン病のリハビリは脳卒中などの疾患と異なり、リハビリの主な目標は症状進行を最小限にとどめることや、運動、日常生活動、認知機能などの長期予後を改善することになる。
ニューロリハビリテーションは、神経細胞や神経回路の可塑性に働きかけ、機能の維持・向上を図ろうとするものである。

ニューロリハビリテーションの効果
ニューロリハビリテーションを実践する手法としては。理学療法、作業療法、言語療法などの医学的リハビリに加え、負荷運動(ジムで行うトレーニング)、ダンスや太極拳なども含まれる。これらは、数ヵ月から1年程度の期間で運動機能を指標に効果判定が行われている。
・フィンランド移動クリック健康調査では、パーキンソン病未発症を対象とした6,715人、3年間の追跡で、BMIが低い群、レジャーでの活動性が高い群でパーキンソン病発症リスクが低かったとしている。
・スウェーデンでの43,368人を対象とした平均観察期間12年余りの大規模疫学調査で、家事・通勤での活動度、職業上必要な身体活動、レジャー等の活動が高い群で、パーキンソン病発症リスクが逓減していることが示されている。

ニューロリハビリテーションの機序
・機序を解明することは、パーキンソン病に対するニューロリハビリテーションを実施する根拠として重要である。機序を理解することで、リハビリテーションのより現実的な計画作成が可能となる。
・ニューロリハビリテーションの機序は現時点で、神経成長因子(神経細胞の分化・成長・増殖や大脳の神経細胞の活性化作用に関わるタンパク質)などの液性因子(液性の防御因子)と神経可塑性が挙げられる。
・液性因子は脳や神経の環境因子とも言え、神経変性から神経を保護する機能があると考えられている。
・アルツハイマー病では、血中の脳由来神経栄養因子(BDNF)値が低下しており、BDNF値の低下は海馬の萎縮と相関していることが示されている。Zoladzらは、パーキンソン病患者で8週間の定期的運動により、Unfied Parkinson's Disease Rating Scale(UPDRS:パーキンソン病患者の病態を把握するための評価尺度)が低下し、血中BDNFが上昇することを示した。
・可塑性は、神経回路のすべての部位で生じる可能性があるが、パーキンソン病では主に運動皮質、基底核での検討がなされている。
・パーキンソン病でのリハビリの重要な目標の1つに、歩行の改善がある。歩行のコントロールにはさまざまな神経回路が関与しており、可塑性の解析は困難である。主たる歩行中枢は、大脳基底核、脳幹、脊髄にあるとされ、脊髄の歩行中枢は歩行パターンの生成を行うcentral pattern generator(CPG)である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上の図は『リハビリmemo』さんの「CPGについて考えよう」から拝借しました。この記事にはCPGに関する説明が詳しくかつ分かりやすくされています。

運動に対する自己認知障害へのアプローチ
・パーキンソン病の運動障害の原因の1つには、運動の自己認知の障害があると言われている。
・近年、世界的に知られるようになったLee-Shilverman Voice Treatment(LSVT)は、身体運動や発声発語の自己運動認知を向上し、大きな運動や発語を目指すリハビリ手法である。

おわりに
『パーキンソン病における運動やリハビリテーションの効果についての報告が集積してきている。またその機序についても、動物実験による詳細な検討が進んでいる。これまでの知見から、運動・リハビリはBDNFなどの環境因子の改善や可塑性の向上などに貢献していると考えられる。パーキンソン病の運動・リハビリについては課題も多く残されている。認知機能への影響、効果の残存期間、より効果的な種目、強度、効果などを解明し、より有効で効果的な運動・リハビリを確立する必要がある。』

コメント(自分なりに整理してみました)

ニューロリハビリテーションは、神経細胞や神経回路の可塑性に働きかけ、機能の維持・向上を図ろうとするものです。具体的には理学療法、作業療法、言語療法などの医学的リハビリに加え、負荷運動(ジムで行うトレーニング)、ダンスや太極拳なども含まれるようです。
鍼灸では緊張した筋肉を緩めることが可能であり、マッサージについては触覚、固有覚への刺激を通じて脳幹の活性化が期待できます。ニューロリハビリテーションに対してプラスにはたらくことは間違いないと思います。

パーキンソン病-進化する診断と治療【診断】

『パーキンソン病-進化する診断と治療-』という特集は【座談会】で始まっています。【診断】は3番目であり、掲載されていた寄稿は次の3つです。

●「パーキンソン病の臨床診断の精度向上のためのSPECT検査」
●「Movement Disorder Societyの新たな診断基準」
●「日本におけるパーキンソン病リスクコホート研究:J-PPMI」
ブログでは、早期発見という大きな課題に関わる「日本におけるパーキンソン病リスクコホート研究:J-PPMIを取り上げました。なお、分からない用語が数多くあったため、それらの用語の後ろに( )で説明等を付け加えましたが、その結果少し見づらくなっていると思います。

【座談会】のテーマは「パーキンソン病病態の解明の進歩と疾患修飾療法」です。クリックして頂くと移動します。
出版:最新医学社

村田美穂先生

国立精神・神経医療センター病院 

病院長

要旨:『パーキンソン病の疾患修飾療法を見据えて、パーキンソン病等シヌクレイノパチー(αシヌクレインが脳内に蓄積する疾病)の強いリスク集団であるREM睡眠行動障害(RBD)患者を対象とした多施設共同前向きコホート研究(仮説として考えられる要因を持つ集団[曝露群]と持たない集団[非曝露群]を追跡し、両群の疾病の罹患率または死亡率を比較する方法)を実施中である。

ドパミントランスポーター(DAT[Dopamine transporter]:神経末端のシナプスにあるドパミントランスポーターは、役目を終えたドパミンを回収し再利用する。下図参照)SPECT(single photon emission computed tomography:コンピューター処理して断層画像を得る。この装置では形態だけでなく、血液量や代謝などの情報も得ることができる)、脳MRI、運動機能および心理機能の経年評価ととも血液・髄液等の採取を進め、長期経過観察により、運動症状発症前の細胞変性の経過とそのバイオマーカー(人の身体の状態を客観的に測定し評価するための指標。血液検査などの臨床検査値、画像診断データのほか、広義には体温や脈拍などのバイタルサインまでも含む)を明らかにする。』

 

信号Aを受けると(①)、神経終末内のドパミンは、②のように次々とシナプス間隙に放出され、次の神経終末上にあるドパミン受容体に鍵と鍵穴の関係で結合する(③)。これによって、新たな信号Bが生まれ、情報が伝達されていく(④)。その後、受容体に結合していたドパミンは、受容体から遊離し、ドパミントランスポーターから再吸収され、元の神経終末に戻る(⑤)。

 

画像出展:「依存性薬物と乱用・依存・中毒」

研究の背景
・パーキンソン病は多くの治療薬の開発により、機能予後、生命予後は格段に改善してきた。
・現在の治療は不足するドパミン刺激をできるだけ生理的に補充することであり、神経細胞変性を抑制、抑止することはできていない。
パーキンソン病は運動症状発現早期であってもドパミン細胞脱落はかなり進行している。
神経変性を改善あるいは抑止しようとする場合には臨床上の早期ではなく、神経変性過程における早期での介入が必要であり、パーキンソン病では軽度認知障害(MCI)に相当するpreclinical(前臨床)期が注目されるようになった。
・ドパミン神経細胞脱落程度はドパミントランスポーター(DAT)SPECTにより描写可能であるが、この検査は極めてコストがかかり、アルツハイマー病の1/10以下の有病率であるパーキンソン病のスクリーニング法としては実用的でない。 
・運動症状発症前に出現しうる非運動症状として、嗅覚障害、便秘、うつ症状などがパーキンソン病患者で有病率が高く、かつ運動症状に先行する症状として注目されたが、これらはいずれも正常高齢者で有病率が高く、パーキンソン病での特異度は低いといわざるを得ない。
・長期経過観察中にパーキンソン病、レビー小体型認知症(DLB:dementia with Lewy bodies)を発症する確率が極めて高いことが報告され、現在では5年で33.1%、10年で75.7%、14年で90.9%が何らかのシヌクレイパチーもしくは軽度認知障害になるとされている。
パーキンソン病患者のうちRDB(REM睡眠行動障害)が先行する割合は30~40%とされている。
日本では発症前集団の観察は倫理的な問題が大きい。一方、米国では2011年から、早期パーキンソン病、scans without evidence of dopaminergic defict(SWEDD)、健常人を対象としたパーキンソン病大規模臨床研究(Parkinson's Progression Markers Initiative:PPMI)が進行していたが、2013年からは嗅覚障害とRBDを対象とした発症前コホート研究も開始した。

 

 

     上記をクリックして頂くと、J-PPMIの詳細な内容をご確認頂けます。

J-PPMI研究の内容
・本研究は睡眠ポリグラフ検査(PSG)で確認されたRBD(REM睡眠行動障害)患者を対象に、パーキンソン病、レビー小体型認知症(DLB)、多系統萎縮症(MSA)の発症をエンドポイントとし、DAT SPECTで年1回ドパミン神経障害を評価しつつ、臨床情報(心理機能・運動機能)、画像情報(MRIなど)の評価と生体試料を収集・蓄積する。
ドパミン神経障害の出現早期には何らかの代償機構が働くと考えられ、この代償機構が破綻すると神経脱落が加速するとの仮説のもと、その間の変化を明らかにしたい。
発症前後の超早期の病態を明らかにし、新たなバイオマーカーを開発することがJ-PPMIの目的である。
・被験者は60歳以上のRDB(REM睡眠行動障害)の患者(RBDの診断はJ-PPMI参加施設あるいは関連施設の専門医によって実施)。なお、主な除外基準は次の通り。
①すでに、パーキンソン病、DLB、MSAを発症している者
②認知症患者
③本研究が不適切と考えられるうつや不安や精神疾患がある者
④6ヵ月以内にDAT SPECTに影響を及ぼす薬物の使用歴がある者
・スクリーニングでは、既往歴、家族歴、神経学的診察、一般身体所見、心理検査、嗅覚検査(OSIT-J)、DAT SPECTを実施し、30日以内に血液・尿・髄液の採取、MIBG心筋シンチグラフィ、頭部MRI等のベースライン評価を行う。6ヵ月に1回の診察や検査および、各評価の3ヵ月後には電話で状態確認を行う。DAT SPECTとMRIは毎年1回、MIBG心筋シンチグラフィは低下(遅延相の心縦隔比が1.8未満)となるまで年1回施行する。

 左はSPECT、右はMIBGを説明したものです。クリックして頂くと拡大されます。

画像出展:「病気がみえる 〈vol.7〉 脳・神経」

 


進捗と今後の展開
・参加者は75人であるが、2017年6月には10人以上が丸2年の経過観察を修了する。
・これまでのところで最も興味深い結果は、いまだパーキソニズム(安静時振戦、筋強剛、無動、姿勢反射障害などの症状)を呈していない集団であるにも関らず、通常のパーキンソン病発症者と同レベルまでDAT SPECT SBR(specific binding ratio)が落ちている参加者が少ないことである。
・DAT SPECT SBRは黒質ドパミン神経脱落とよく相関することから、研究開始前にはパーキソニズム発症はDAT SPECT SBRに依存すると考えていたが、この事実は別の要因の検討が必要であり、他の多くの項目との関連を合わせて発症予測式を設定する可能性が高いと考えられる。一方、パーキソニズム発症を抑制する因子が発見されるとすれば、それは新たな治療法開発に結びつく可能性がある。

パーキソニズム(パーキンソン症候群)に関する説明です。クリックすると拡大されます。

画像出展:「病気がみえる 〈vol.7〉 脳・神経」


おわりに
『パーキンソン病は経過、薬物反応性など異質性の高い疾患であることは、近年特に注目されている。J-PPMIではパーキンソン病(をはじめとするシヌクレイノパチー)のうち、RBD(REM睡眠行動障害)が先行する患者のみを対象としており、RBD後発例や長期に渡りRBDを合併しないパーキンソン病との差異の有無を明らかにしていく必要があり、これについては現在、当施設でのパーキンソン病患者で検討中である。今後の展開を期待している。』

コメント(自分なりに整理してみました)

パーキンソン病の難しさの一つに、運動症状発現早期であってもドパミン細胞脱落はかなり進行しているという問題があります。米国では2011年から、早期パーキンソン病や健常人を対象としたパーキンソン病大規模臨床研究が始まっています。発症前集団の観察は倫理的な問題が大きいと懸念されてきた日本でも、2014年にJ-PPMI(パーキンソン病発症予防のための運動症状発症前バイオマーカーの特定研究)がスタートしました。この研究は、「ドパミン神経障害の出現早期には何らかの代償機構が働くと考えられ、この代償機構が破綻すると神経脱落が加速するとの仮説のもと、その間の変化を明らかにしたい。」というものです。そして、新たなバイオマーカーを開発することが目的になっています。

パーキンソン病-進化する診断と治療【基礎】

『パーキンソン病-進化する診断と治療-』という特集は【座談会】で始まっています。【基礎】は2番目であり、掲載されていた寄稿は次の4つです。

●「大脳基底核の機能とドパミン神経の役割」

●「パーキンソン病の動物モデル」

●「αシヌクレイン細胞間伝播と疾患修飾療法」

●「iPS細胞を用いたパーキンソン病研究」
ブログでは、「αシヌクレイン細胞間伝播と疾患修飾療法」と「iPS細胞を用いたパーキンソン病研究」の2つを取り上げました。前者はαシヌクレインという機能不明のタンパク質がパーキンソン病発症のキーワードの1つであること、後者は注目度の高いiPS細胞による研究であることが、その理由です。

なお、分からない用語が数多くあったため、それらの用語の後ろに( )で説明等を付け加えましたが、その結果少し見づらくなっていると思います。

【座談会】のテーマは「パーキンソン病病態の解明の進歩と疾患修飾療法」です。クリックして頂くと移動します。

出版:最新医学社

長谷川隆文先生 

東北大学大学院医学系研究科 神経・感覚器病理学講座 神経内科学分野 准教授

要旨:『パーキンソン病をはじめとする神経変性疾患において、従来、異常凝集タンパク質の蓄積とこれに続く神経変性は、個々の神経細胞においてそれぞれ独立して起こるものと推定されてきた。一方、異常凝集タンパク質がプリオンのように細胞間を伝播し病変を拡大させるという細胞非自律的な病態機序が近年提唱され、病態概念が大きく変化してきている。プリオン様伝播は疾患修飾療法(進行を遅らせる治療法)のターゲットとしても注目を集めている。』

パーキンソン病分子病態のculprit(原因) -αシヌクレイン(αSYN)-
αシヌクレインはタンパク質凝集体であるレビー小体の主成分であるが、レビー小体はパーキンソン病の他、レビー小体型認知症やレム睡眠行動障害の患者脳内にも見られ、多系統萎縮症(MSA)ではオリゴデンドログリア(中枢神経系内のグリア細胞の一つで髄鞘形成を担う)内に凝集αSYN蓄積が認められる。これらの異常凝集αSYN沈着を共通病理とする神経変性疾患は、シヌクレイノパチー(リン酸化αシヌクレインが脳内に蓄積する疾病)と総称される
ヒトαSYNは140アミノ酸からなる機能不明のタンパク質で、神経細胞のシナプス前末端の他、赤血球に高発現している
αSYNは専ら細胞内で機能するタンパク質と考えらえてきたが、神経細胞内に存在するαSYNの一部は細胞外に分泌されることが確認されている。
・αSYNは、αらせん構造をとり生体膜に結合するか、あるいは不定の構造をとり細胞質に存在していると推定されるが、点変異(DNAやRNAのグアニン[G]、アデニン[A]、チミン[T]、シトシン[C」のうち一つの塩基が別の塩基に置き換わってしまう突然変異のこと)酸化的ストレスなど種々ストレス下にてクロスβシート構造(タンパク質の二次構造の一つであるβシートが積層して沈着しているもの)に富むアミロイド(ある特定の構造を持つ水に溶けないタンパク質)様線維を生じる。
αSYN線維化の過程で生じる中間産物(オリゴマー、プロトフィブリ)は、酸化的ストレス、小胞体ストレス(小胞体内のカルシウム枯渇、細胞への酸化ストレス、変異タンパク質の発現、低グルコース状態や低酸素状態などの生理的ストレス)、ミトコンドリア障害、小胞輸送障害、シナプス機能不全、神経炎症などさまざまな細胞障害を惹起し、神経細胞死に積極的に関与していることが知られている。

In vivoモデル(生体内モデル)を用いたαSYN伝播現象の検証
αSYN伝播経路に関しては、接種部位を変えると病理の出現部位も変化することや、接種部位と線維連絡のある領域に病理が確認されやすいことから、神経回路を介している可能性が示唆されている。

αSYN吸収・分泌・分解を制御する細胞内輸送機構
1.αSYN取り込み機構について
細胞外環境からのαSYN取り込み経路に関しては、エンドサイト―シス(食作用[固体を取り込む現象])、ピノサイト―シス(飲作用[溶液を取り込む現象])、細胞間ナノチューブトンネル(細胞小器官あるいは直接的な細胞膜貫通[膜を介した物質輸送])など、複数の可能性が推定されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

線維化αSYNは主にエンドサイトーシス経路(左上端)により取り込まれる。一方、モノマーαSYNは細胞膜を貫通し(エンドサイト―シス右横)、細胞内外を行き来している。このほか、プリオンと同様にエキソソーム(右上)を介したαSYN取り込みの可能性も示唆されている。

2.αSYN分泌機構について
・αSYN分泌におけるエキソソーム(細胞外小胞)の関与については賛否両論があり、一定の結論は出ていない。
αSYN分泌経路は細胞のストレス状況によって左右される可能性がある。
パーキンソン病関連遺伝子の一部がαSYN分泌に影響していることを示す興味深い報告が散見される。
・Baeらは、パーキンソン病発症リスク遺伝子であるGBAの欠損が、リソソーム障害とともにαSYN分泌および細胞間伝播を促進することを報告している。
・Tsunemiらは、家族性パーキンソン病であるPARK9原因遺伝子ATP13A2が、αSYNのエキソソーム分泌を制御している可能性を示している。

3.αSYN分解におけるリソソーム機能の重要性
αSYN分解にはリソソーム/オートファジーが重要な役割を担っていると考えられている。
・パーキンソン病病態におけるエンドソーム(食作用、飲作用によって細胞内に形成される小胞)、リソソーム機能の重要性は、LRRK2、ATP13A2、VPS35.RAB7L1、DNAJC13、GBAなど家族性パーキンソン病・パーキンソン病リスク遺伝子の多くが同機構の制御分子であることからも容易に推測される。
異常タンパク質伝播を標的とした疾患修飾療法
・パーキンソン病に対する現行の治療はドパミン補充療法を主体とした対症療法であり、同治療により患者の機能・生命予後が飛躍的に改善したという事実は、神経変性疾患治療の歴史における偉大なマイルストーンと言える。近年注目されているiPS細胞を用いたドパミン産生神経細胞の移植治療に関しても、基本コンセプトはドパミン補充であることに変わりはない。
細胞間を伝播するαSYNをターゲットとした進行抑制治療への足掛かりとして、αSYN抗体・ワクチン療法治験が進行中である。

むすび
『αSYN細胞間伝播は、Braakが提唱したレビー小体病理の topographic progression の理論的根拠としておおむね受け入れられつつある。さらに、腸管あるいは鼻粘膜からの病理進展説に関しても、消化性潰瘍に対して迷走神経遮断術を受けた例で将来のパーキンソン病発症率が半減していたという結果や、嗅覚障害がパーキンソン病発症リスク因子であるとの疫学研究の結果など、支持的証拠が示されている。ごく最近では、パーキンソン病患者由来の腸内細菌叢が、中枢神経におけるレビー小体病理形成や運動症状発現に関与していることを示唆する興味深い研究結果も報告されている。異常タンパク質伝播現象の背景にある分子メカニズムが徐々に明らかにされる中で、異常凝集タンパク質蓄積を共通病態とする神経変性疾患の進行抑制治療薬の開発が進むことを願いたい。』

コメント(自分なりに整理してみました)

αシヌクレインが脳内に蓄積する疾病をシヌクレイノパチーと呼んでいます。当初、異常凝集のαシヌクレインは細胞内で機能するものと考えられていましたが、それは誤りであり、細胞外に伝播するということが明らかになりました。そして伝播経路については神経回路を介している可能性があります。

細胞外環境からのαシヌクレイン取込み経路に関しては、複数の可能性が考えられ、αシヌクレイン分泌経路に関しては、細胞ストレス状況によって左右される可能性も指摘されています。さらに、分解にはリソソーム/オートファジーが重要な役割を担っていると考えられています。

現在、細胞間を伝播するαシヌクレインをターゲットとした進行抑制治療への足掛かりとして、αSYN抗体・ワクチン療法治験が進行中です

異常タンパク質伝播現象の背景にある分子メカニズムが徐々に明らかにされる中で、異常凝集タンパク質蓄積を共通病態とする神経変性疾患の進行抑制治療薬の開発が進むことが期待されています。

井義夫先生

福岡大学医学部 神経内科学教室 教授  

三嶋崇靖先生

福岡大学医学部 神経内科学教室

要旨:『人工多能性幹細胞(iPS細胞)を用いた疾患研究は、患者の生体内の変化を実験室内で知るために有用な手法である。現在、神経疾患を中心にiPS細胞を用いた研究報告数が増加している。本稿では、iPS細胞を用いたパーキンソン病研究を中心に述べる。』

はじめに
・iPS細胞は皮膚線維芽細胞や単核球などの体細胞に少数の細胞初期化因子を導入することにより作製され、多分化能と、ほぼ無限に増殖できる能力を持つ。

体細胞由来であることからES細胞(胚性幹細胞)と比較して倫理的課題が少ない(この倫理的課題とは、「人の生命の萌芽」であるヒト胚を滅失させること。生殖細胞(精子・卵子等)への分化を通じて個体の生成に結びつき得る。ということのようです)。そのため、目的の細胞に分化誘導し、病態研究、創薬研究、再生医療等、さまざまな研究に活用されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「最新医学」

左をクリック頂くと、iPS細胞に関する倫理問題などが掲載されています。

神経疾患における疾患特異的iPS細胞研究
・モデル動物を用いた解析では、その結果が必ずしもヒトにおいて反映されないという課題があったが、ヒトiPS細胞はその課題を取り除いた。
iPS細胞樹立の翌年2008年には、パーキンソン病、ハンチントン病、筋ジストロフィーを含むいくつかの神経疾患患者から、疾患特異的iPS細胞の樹立が報告された。

疾患特異的iPS細胞を用いたパーキンソン病研究
・パーキンソン病は、アルツハイマ―病に次いで患者の多い神経変性疾患である。
ドパミン神経細胞を疾患標的細胞としたiPS細胞研究が数多く報告されている。
・パーキンソン病患者の約10%が家族性とされ、これまで報告された疾患特異的iPS細胞を用いたパーキンソン病研究のほとんどは、家族性パーキンソン病患者を対象としたものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この表の[モデリング・解析例]を見て気付くことは、10例中4例に[酸化ストレス]が入っていること。また、[αシヌクレイン]と[ミトコンドリア]がそれぞれ2例ずつ入っていることです。前回のブログの宿題として、活性酸素の理解を自らに課しましたが、酸化ストレスは活性酸素と抗酸化システムとのバランスとして定義されますので、酸化ストレスの理解も活性酸素同様、きわめて重要です。

画像出展:「最新医学」

おわりに
『パーキンソン病研究は、iPS細胞技術により病態解明や創薬開発等において多くの進展が見られている。現在のところ、疾患特異的iPS細胞を用いたパーキンソン病研究の中心は、単一遺伝子を原因とする家族性パーキンソン病である。長期培養によって、孤発性パーキンソン病においても遺伝性パーキンソン病と同様にドパミン神経細胞で疾患表現型の一部を再現した報告もあるが、現在の培養条件で発症に数十年を要する神経変性疾患の細胞変化を再現できるかは、議論が分かれるところである。プロジェリン(早老症にみられる変異タンパク質)導入によって老化現象の再現を試みた報告もあるが、今後はより生理的な細胞の経時的変化や環境因子を忠実に再現できる培養技術の開発が期待される。』

コメント(自分なりに整理してみました)

2008年にはパーキンソン病に関しても、疾患特異的iPS細胞の樹立が報告されました。そして、現在ではドパミン神経細胞を疾患標的細胞としたiPS細胞研究が数多く報告されています。しかしながら、これまでの報告は10%以下と考えられている家族性パーキンソン病患者を対象としたものになっており、孤発性パーキンソン病に対する研究にも強い期待が寄せられています。 注)本が出版された2009年9月以前における状況です。

パーキンソン病-進化する診断と治療【座談会】

現在、週2日の業務委託で行っている訪問鍼灸・マッサージの患者さまの中に、パーキンソン病の患者さまがいます。お一人は孤発性といわれる、いわゆる普通のパーキンソン病です。もう一人は全体の10%以下とされている家族性パーキンソン病です。
前者の孤発性パーキンソン病に比べ、後者の家族性パーキンソン病の解明に関しては、病因となる遺伝子の発見などが進んでいます。その家族性パーキンソン病である、もう一人の患者さまの鍼治療の目的は痛みの軽減です。8月後半に発生した右大腿部前面近位の強い痛みについては、中間広筋を中心にした大腿四頭筋への施術により、9月中旬には概ね痛みは取れましたが、現在の主訴である強い側弯を伴う右腰痛については苦戦しています。パーキンソン病で現れるドパミンの問題は、中枢神経からの痛みの抑制も関係しており(参考「ドーパミンの鎮痛作用」)、簡単な話でないのは間違いありませんが、少しでも軽減したいと試行錯誤しています。
一方、家族性パーキンソン病に対する理解不足は明らかだったため、何はともあれ「知ること」を目的に、『パーキンソン病 -進化する診断と治療』という専門誌に挑戦することにしました。
なお、その特集は【座談会】【基礎】【診断】【治療】の4つに分かれています。今回のブログはその中の【座談会】が対象になります。

【座談会】は3人の先生によって行われています。

高橋良輔先生:京都大学大学院医学研究科 脳病態生理学講座 臨床神経学 教授(司会)
服部信孝先生:順天堂大学医学部 脳神経内科 教授
望月秀樹先生:大阪大学大学院医学系研究科 神経内科学 教授

出版:最新医学社


【座談会】は「何故、減るのか」に関して、研究テーマを3つに分けて紹介しています。ブログではこの3つを取り上げ、続いてDMT(disease modifying therapy:疾患修飾療法)、発症前診断・発症前治療の課題、弧発性パーキンソン病への展開の4つについて書いています。

内容は本文から抜き出したものを列挙するだけというものですが、それぞれに関連して見つけたサイト(記事)を添付させて頂きました。そして、最後に、分かったことをまとめ、あらたな宿題を明記しました。

1.αシヌクレインの凝集


上記の表と図は、『タンパク質の一生』という本から持ってきたものです。(参考「悪玉タンパク質」)

表内の原因タンパク質を見ると、アルツハイマー病のアミロイドβタンパク質、プリオン病(BSE)のプリオンが比較的有名だと思いますが、αシヌクレインは家族性パーキンソン病の原因タンパク質とされています。つまり、αシヌクレインは、アルツハイマー病でいえば、アミロイドβタンパク質と同じ位置づけということになります。

フォールディング異常(ミスフォールディング)とは、製品で考えれば製造ミスです。不活性とは不良品ということです。右上の図の右下の絵は[不活性]となっており、上方に描かれた元の形のようになっていません。これがミスフォールディングです。

ミスフォールディングによって不活性となったタンパク質は凝集する傾向があります。そして、凝集したタンパク質は細胞にとって非常に有害です。なお、フォールディング異常の原因とされているのは、熱、細菌感染、炎症活性酸素、紫外線、飢餓、低酸素状態などのストレスとされています。

αシヌクレインというタンパク質が異常化して、これが毒性を発揮するのではないか。
●αシヌクレイン(タンパク質凝集体であるレビー小体の主成分と考えられている)は細胞から細胞に伝播することが分かってきた。
●αシヌクレインによる線維形成と細胞毒性は3種類(フィブリル、オリゴマー、リボン)あると言われている。つまり、αシヌクレインが蓄積したときの構造によって毒性が違う可能性があり、毒性の少ないαシヌクレインに変化させるという治療戦略も考えられる。
●パーキンソン病で最初にαシヌクレインの病理が出てくる脳幹の下部にある迷走神経背側核(下図参照)は腸管をしており、その腸管を調べてみると腸管にもαシヌクレインの塊があることがわかってきた。したがって、最初に腸管にαシヌクレインの塊ができて、迷走神経の線維を伝って脳幹下部の迷走神経背側核に病理が出現するのではないか、すなわち、パーキンソン病は腸から始まるのではないかという面白い考え方が、最近提唱されている。

●Parkin変異の患者でαシヌクレインが蓄積しているのは、ほとんどが高齢者である。通常、20歳代でパーキンソン病を発症してしかるべきなのに、60歳代で発症しているケースがある。これはαシヌクレインがParkinのマイトファジーに保護的に働いている可能性があり、一方的にαシヌクレインを悪者扱いすることは正しくないかもしれない。しかしながら、αシヌクレイン遺伝子がduplicaton、triplicationになるとパーキンソン病を発症する。また、αシヌクレインの蓄積が細胞死に結びつくことは多くのエビデンスがあり、αシヌクレインをDMTのターゲットの第1候補になるだろう。


上記の2つの絵はいずれも「人体の正常構造と機能」からのものです。(クリックすると拡大されます)。

左は脳幹部に存在している脳神経核の絵ですが、迷走神経背側核は下部の延髄に、疑核(ピンク色)と舌下神経核(緑色)の間に存在しています。色は黄色なので、その働きは「一般内臓運動(GVE)」ということです。一方、右の絵では迷走神経背側核が関係している臓器が確認できます。核は右上にあり、多くの内臓の運動に関わっていることが分かります。

2.ミトコンドリアの品質管理障害

「エネルギープラント」とも言うべきミトコンドリアは、もともとは別のバクテリアで、およそ16億年前、酸素を使わない単細胞生物と共生を始めたと考えられています。そのミトコンドリアはエネルギー生産の過程で、危険な活性酸素を放出してしまう宿命を負ってしまいました。
活性酸素は反応性が強く、周囲の物質をボロボロにしてしまう危険性を孕んでいますが害ばかりではありません。

外部からの異物を殺菌するのに利用されたり、古くなったタンパク質を壊すのに使われたり、酸化力の強い刺激で細胞を元気にしたりする作用も持っています。このように、危険なはずの活性酸素が利用されているのは、私たちの体に活性酸素を無毒化する酵素が数多く備わっているからです。逆にいうと、進化の過程において活性酸素という強い毒物を無毒化できるようになったということです。

出版:新潮文庫

ミトコンドリアの品質管理の障害により、異常ミトコンドリアが毒性を発揮するのではないか。
●パーキンソン病の分子病態に関して、非常に注目されているのはミトコンドリアの品質管理障害。家族性パーキンソン病の病因遺伝子としてParkinとPINK1という分子があり、これらが欠損するとパーキンソン病になることが分かっている。そして、この2つのタンパク質は傷害を受けたミトコンドリアを処理するときにも非常に重要な役割を果たしていることが分かってきた。すなわち、ミトコンドリアが傷害を受けると、これら2つの分子の働きによってそのミトコンドリアオートファジーにより分解処理される。これをマイトファジーと言うが、それによって、傷害を受けて働けなくなったミトコンドリアが処理される。一方、PINK1、Parkinが変異を起こすパーキンソン病ではマイトファジーが機能しなくなり、傷害を受けたミトコンドリアが処理されずに残るため、活性酸素などを放出し細胞死を引き起こすという考え方がある。この知見は培養細胞を主とした実験ではあるが、かなり確かな事実として受け入れられてきている。
●新しいパーキンソン病遺伝子として、CHCHD2遺伝子がある。この分子によってミトコンドリア機能とパーキンソン病の新たな関係が明らかになるのではないかと注目されている。
●CHCHD2が電子伝達系の酸素活性に影響を与えることは、マウスやショウジョウバエの研究から多分間違いないという所まではきており、そのミトコンドリアが一次的に傷害を受けるとドパミン神経細胞死につながる可能性を考えている。
●CHCHD2はミトコンドリアの異常の問題とαシヌクレインによる問題とを結びつけるキーファクターになるかもしれない。
●PLA2G6(家族性パーキンソン病の原因遺伝子の1つ)の病理検討においてミトコンドリアの内膜にαシヌクレインがかなり増えていることを報告したが、神経細胞死は確認できなかった。
●PARK4のiPS細胞を使った研究でαシヌクレインの発現が高いという報告もある。
●ミトコンドリアの生合成を高めることによって細胞死を防げることも明らかにされている。

 

ミトコンドリアは船型の小器官で、内外2層の膜で包まれ内膜はクリスタに移行しています。クリスタの膜上には径9~10nmの基本粒子がぎっしり配列しており、ADPとリン酸からATPを合成します。

画像出展:「細胞と組織の地図帳」

3.オートファジー・リソソーム系の障害
タンパク質分解系、特にオートファジー・リソソーム系の障害が関っているのではないか。 
・オートファジー・リソソーム系の障害が注目されるようになったのは、ゴーシェ病というリソソーム蓄積病として有名な先天性代謝異常症の疾患遺伝子であるGBA変異遺伝子が、孤発性パーキンソン病の大きなリスク因子であることが示されたことによる。
・GBA遺伝子変異を持つ人は持たない人に比べ5倍以上パーキンソン病を発症しやすい。
リソソームの異常が孤発性パーキンソン病を引き起こすのではないかという強い遺伝的な証拠が出された。

【スライドショー】

下記はネット上にあった資料をお借りして、スライドショーにしました。スライドは11枚で8秒で次のスライドに切り替わります。また、停止させることも可能です。

題名:パーキンソン病の発症に関連する重要な遺伝的因子を発見・確立 ~大規模国際多施設共同研究により、人種によらないパーキンソン病の最も重要な遺伝的因子を発見・確立

下記の絵で見て頂きたいのは、リソソームです。左の絵をクリックし拡大して頂くと、先にご紹介したミトコンドリアの上方に[異物や老廃物の消化分解]としてリソソームが変化していく過程が出ています。


DMT(disease modifying therapy:疾患修飾療法)
αシヌクレインの凝集・ミトコンドリアの品質管理障害・オートファジー・リソソーム系の障害の3のことを踏まえて、我々は新たなDMTを開発しなければならない。
●現在、パーキンソン病の症状改善をもたらす対症療法は大変発達している。
●DMTはどのようなものが良いのかを考えると、最も直接的に考えられることはαシヌクレインの毒性を何とか消せないかということ。
●αシヌクレインを減らす治療薬として、αシヌクレイン抗体がある(大手製薬会社で開発中)。また、転写制御も治療薬の候補である。
●現在、αシヌクレインを減らすという方向で、核酸医薬(DNAやRNAといった遺伝情報を司る物質「核酸」を医薬品として利用するもの)が開発されている。
●スクリーニングで見つけた最適な核酸医薬をαシヌクレインのトランスジェニックマウスの脳室に投与し、運動機能の改善を認めている。現在は大型動物で有効性、安全性などの長期試験の検討が進められている。
トランスジェニックとは:外部から特定の遺伝子を受精卵に注入して発現させること。各種の疾患モデルマウスの作製等に応用されている。     
パーキンソン病にはいろいろなタイプがあるので、ターゲットをPARK4(αシヌクレインduplication:αシヌクレインの遺伝子重複がある家系)の患者として、希望があれば治験を進めている。 
●現在は、核酸医薬の他、抗体治療が世界的に行われている。
●発症したときには既にドパミン神経細胞が大分減ってしまっているので、発症してしまった患者にDMTができるのかという大きな課題がある。
●核酸医薬にしても、抗体医薬にしても、バイオマーカーを用いて効果の確認を取る必要がある。現在、この問題は難問となっているが、ミトコンドリアの代謝に関係するものが重要なマーカーになるのではないか。
●抗体医薬のバイオマーカーとしては、抗体医薬は全身に投与するので、例えば腸でバイオプシー(生検:試験切除)をして、そこでαシヌクレインが減っているかどうかを見るということも可能かもしれない。
バイオマーカーに関する話(引用):『アルツハイマー病のアミロイドβ(Aβ)タンパク質に対する抗体治療で、バイオジェン(神経疾患、神経変性疾患の治療法開発に重点を置く、世界屈指のバイオテクノロジー会社)の作ったaducanumabという抗体に効果があるという報告が2016年9月の「Nature」に出て、非常に大きなインパクトがありました。Aducanumabの場合は、蓄積したアミロイドを可視化するPETがすでに開発されていたので、治療を行うことによってアミロイドが減っていることが画像からも示されました。症状の変化もありますが、それにプラスして画像によって評価ができるということが、アルツハイマー病においては非常に強力な武器になっていると思います。』 

発症前診断・発症前治療の課題
海外ではアルツハイマー病の患者への対応と同様に、遺伝的な疾患の可能性のある患者さんを早期に診断する、いわゆる発症前診断や発症前治療をどんどん進めている。それは日本では倫理的な問題があり、非常に大事な点である。(これは、発症していないのに将来パーキンソン病になるとわかってしまうことが、非常に大きな問題になるということです)
●全家系について調べたデータでは、αシヌクレイン duplication(PARK4)の浸透率は約33%。これは遺伝子変異を持っているとパーキンソン病になる確率が33%という意味。発症する確率は家系によって違う。
●PARK4の家系は全世界で約60家系、日本では10家系位。発症しない人もおり、その人に治療するわけにいかない。
●現在、海外ではアルツハイマー病治療薬の治験で発症前診断が行われている。発症前治療の二重盲検試験(区別のつかない偽薬を用いて効果の差をみること)が海外では進んでいる。日本ではどうするのか。確かに難しい問題だが、それを乗り越えていかないとDMTは実現しないかもしれない。
●PARK4の患者は進行が早く、パーキンソン病の発症があればほぼ100%が認知症に移行する可能性高い。

弧発性パーキンソン病への展開
●PARK4を対象とした新しい治療が生まれたとして、これを弧発性パーキンソン病に広げていくためにはどうすればよいのか、理想的には前駆期パーキンソン病がきちんと診断できるようになれば、その時期から治療が可能になるのではないか。
●前駆期パーキンソン病の位置付けということに真剣に取り組まなければならない。
●RDB(REM睡眠行動障害)は前期パーキンソン病としてとらえていいのかどうかということもある。多くの疫学調査で、RBDの80%以上が数年以内、長いケースでも16年ぐらいでパーキンソン病になるということからすれば、RBDが良いターゲットになると思う。
●腸の連関現象がすごく重要。2016年、『Cell』にgerm freeとパーキンソン病由来のマイクロバイオータではパーキンソン病モデルの進展が大きく異なると発表された。専門家の間では賛否両論。もし、腸をターゲットにできれば高分子の治療薬も投与可能になる。

分かったこと
●遺伝的要因による家族性パーキンソン病は10%以下、ほとんどのパーキンソン病は弧発性パーキンソン病と呼ばれるものである。
●家族性パーキンソン病では、αシヌクレインという遺伝子が関わっている。
●家族性パーキンソン病では、ミトコンドリアの品質管理機能の破綻が関わっている。
●弧発性パーキンソン病では、GBAという遺伝子の変異が大きなリスク因子であり、特にリソソームの異常が関わっていると考えられている。


αシヌクレインの問題は、フォールディング異常によるものとされており、その原因は熱、細菌感染、炎症活性酸素、紫外線、飢餓、低酸素状態などのストレスと言われています。

炎症とはウィルスなどとの戦い、戦火に包まれた戦場です。(参考「慢性炎症」)

戦いの真っただ中」:白血球が侵略者を僕滅させます。

地上部隊の白血球は、その役割ごとに主に4つの小隊に分かれています。
B細胞:特殊なタンパク質から抗体とよばれる武器を使って、バクテリア、ウィルス、毒素を捕らえ悪行を阻止します。
好中球:寿命が3日しかない好中球は短期決戦になります。武器は強力な活性酸素で、あたかもクラスター爆弾のように周囲に存在するすべてを抹殺します。
マクロファージ:食細胞といわれるマクロファージは大蛇のように、侵略者に近づいて一気に飲みこみ、活性酸素や酵素を使って分解してしまいます。
T細胞:血液中に逃亡したり、組織の中に潜む侵略者を追跡し、容赦なく破壊します。まるでSWATのような働きですが、状況によってはより適した白血球に援軍を要請することもあります。

戦い終わってこれは治癒の段階です。病原体と免疫との戦いで体が受けた損傷を治癒させます。この局面が健康を維持する鍵となります。

活性酸素は強力な武器です。しかしながら、次のような大きな課題を持っています。

『感染や炎症によってマクロファージや好中球が活発化し、ロケット弾である活性酸素を敵めがけて発射する。しかし、この活性酸素が敵ばかりでなく、細胞の内部に存在するDNAにも損傷を与えてしまう。これは、戦場で味方の砲撃によって犠牲者が出てしまう“友軍放火”の生物版といえる。

熱、細菌感染、紫外線、飢餓、低酸素状態の各ストレスは一般的とは言いがたく、最も注目すべきは活性酸素(炎症を含む)ではないかと思います。

αシヌクレインの問題では、特に活性酸素が重要ではないかとお話しましたが、ミトコンドリアはエネルギー産生時に活性酸素を作ってしまうという問題点を抱えています。さらにリソソームも同様に活性酸素を産生するようです。万一、ミトコンドリアやリソソームが暴走し大量の活性酸素を産生するようなことが起きれば、それは由々しき問題につながります。

画像出展:「日本老化制御研究所


宿題

今回の勉強で最も気になったことは、パーキンソン病の主因の一つに活性酸素の問題があるということです。(何度も、太赤字でマークしてしまいました)

一方、鍼灸治療の効果は、「筋肉などの軟部組織を緩め、血液循環を良くすること。自律神経を調え、免疫力を高め、患者さま本来の自然治癒力を手に入れること。」と考えており、活性酸素については直接的というより間接的に働きかける何かがあると考えます。

それを見つけるには、活性酸素あるいは酸化ストレスについて学習する必要があるため、適したテキストを探し出そうと、しつこくネット検索を続けました。そして、下記のような非常に興味深い本を見つけることができました。

 

発行が2009年9月の専門雑誌ですが、頑張って勉強したいと思います。

出版:羊土社

 

追記(2018年1月21日)

患者さまの中で年始に転倒。お話を伺うといくつかパーキンソン病/パーキンソン病症候群が疑われる所見をお持ちだったため、診察内容などを説明した「親切で分かりやすいサイト」はないかと探していた時に見つけたものです。なお、このサイトは大日本住友製薬さまが運営されています。

マイオカイン(IL-6)

「月刊スポーツメディスン9・10月号 No.194」の特集は「運動、運動、運動! 誰にも運動が必要という事実と科学的根拠」がテーマです。一つめは、「安静は麻薬、運動は万能薬 -病気でも運動。誰でも運動が不可欠な理由」という、和歌山県立医科大学リハビリテーション医学講座教授 田島文博先生の寄稿でした。
そして、読み初めてまもなく出てきたキーワードは「マイオカイン」でした。これは数ヶ月前、健康番組かニュースで耳にしたもので、その時も調べようとネットにアクセスしたのですが、その時は
特に印象に残るような情報は見つかりませんでした。それ以来、ほとんど忘れた状態になっていたのですが、内容が「筋肉から健康に良い物質が分泌している」という大変興味深いものだったため、すぐに思い出しました。
ただし、今回のNo.194は2013年のNo.154の続編であり、特にマイオカインに関する詳細な内容は、そのバックナンバーに掲載されていることが分かりました。
一瞬「えっ」と思いましたが、あまり迷うことなく購入できるサイトにアクセスし発注しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月刊スポーツメディスン

出版:ブックハウス・エイチディ


バックナンバー154号の特集は、「筋肉解明! -新知見が運動・スポーツ・リハビリにもたらすもの」で、田島先生の寄稿のタイトルは、筋肉は内分泌器官である -「安静臥床は麻薬」「運動は万能薬」というものでした。
今回は「マイオカイン」を理解することが目的でしたが、3つのことが明らかになりました。

1つは、マイオカインはサイトカインの一種であること。

もう一つは、筋(myo-)で産生されるため、マイオカインと名付けられたこと。
そして3つめは、マイオカインの正体はインターロイキン-6(IL-6)が主であることです。
最初にやるべきことは、サイトカインとは何物かということですが、これについては「人体の正常構造と機能」から引用させて頂きます。(一部加筆)

 

サイトカインは細胞間情報伝達物質であり、造血・炎症・免疫・発生において活躍する
『サイトカインは、種々の細胞によって産生される分子量数百万以下の可溶性蛋白質の総称である。その多くは一過性に産生され、ごく微量で生理活性をもつ。
リンパ球が産生する生理活性物質(ホルモンも生理活性物質である)が最初に発見され、リホカインと命名された。次いで単球/マクロファージが産生する生理活性物質が見出され、モノカインと名付けられた。その後、線維芽細胞や内皮細胞、上皮細胞をはじめとして非血液細胞も同様の生理活性物質を産生することが知られ、現在ではこれらのすべてをまとめてサイトカインと呼んでいる。
サイトカインには多くの種類があり、さまざまな名前が付けられている。しかも、個々のサイトカインが多彩な作用を示す一方、複数のサイトカインが同じ作用を重複して持っている。さらに、サイトカインどうしは相乗的あるいは拮抗的に作用したり、他のサイトカインの産生を促進あるいは抑制することで、複雑なネットワークを形成している。そのため混乱しやすいが、作用によって大まかに分類すると次のようになる。
1)炎症や免疫応答の調節:IL、IFN、ケモカインなど
2)アポトーシス誘導:TNFなど

  ※アポトーシスとは、個体をより良い状態に保つために積極的に引き起こされる、管理・調節

   された細胞死
3)造血因子:GM-CSF、G-CSF、M-CSF、ILなど
4)成長因子:EGF、NGF、PDGF、TGFなど

インターロイキン(IL)は白血球間の情報伝達を行うサイトカインで、きわめて多彩な作用を示すが、多くの炎症や免疫応答の調節に関っている。また、一部のものは造血因子に属する。

 

画像出展:「人体の正常構造と機能」

出版:日本医事新報社

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

化学伝達物質による細胞間情報伝達の様式としては、

①化学伝達物質がそれを産生した細胞自身に作用する自己分泌オートクリン)、

②近傍の細胞に作用する傍分泌パラクリン)、

③血流に乗って遠隔の細胞に作用する内分泌エンドクリン)がある。

ホルモンの伝達様式は③である。これに対し、主として①と②の様式で伝達され、産生局所で効果を発揮する化学伝達物質をサイトカインと呼ぶ。

画像出展:「人体の正常構造と機能」 出版:日本医事新報社

整理すると、リホカイン、モノカインが生まれ、その後その範囲が広がり、総称してサイトカインと呼ばれるようになった。一方、新たに筋からも生理活性物質(サイトカイン)が発見されることになったが、これについては産生場所が異なることから、サイトカインではなくマイオカインとした。ということだと思います。

インターロイキン-6(IL-6)の貢献
田島先生は、「筋肉が内分泌器官である」ということはいつごろからお考えになられたのですか?

という質問に対し、次のように回答されています。


『研修医のころに遡ります。車いすマラソンに挑む重症障害者の方が見違えるようにアスリートになりますし、ベッドで弱っていた患者さんに訓練室で運動療法を行うと、どんどん元気になるのです。その理由を求めて、運動時の免疫応答の研究や、障害者スポーツの研究をしていると、骨格筋そのものが司令塔的な役割を果たしてような印象をもちました。運動している骨格筋からホルモンが出ると考えると、パズルのピースがカシャッとはまる感じがありました。しかし、何がそのホルモンの役割をしているのかわかりませんでした。われわれは、初めはプロスタグランジンがそのホルモンだという仮説をもっていましたが、実はIL-6でした(コペンハーゲン大学医学部 Dr. Bente Klarlund PedersenがIL-6が発見し、マイオカインと名付けた)。その後、われわれは障害者を対象としてその研究を進め、学会などで発表したりしました。あまりに反響があり、むしろ私の方が驚いています。』

これは、Pedersonが2000年に行った実験です。片脚で5時間運動させて、動脈血から運動している脚と運動していない脚の両方から静脈血を採血してIL-6の濃度差を比較すると、運動している方だけがIL-6が徐々に増えていきます。
筋肉に関しては運動後にIL-6のmRNA(メッセンジャーRNA)の発現が確認され、筋肉が直接IL-6を作っていることが証明されました。画像出展:「スポーツメディスンNo.154」

 

サイトカインの説明の中で、サイトカインは細胞自身に作用する自己分泌(オートクリン)、または、近傍の細胞に作用する傍分泌(パラクリン)であるとお伝えしていますが、Pedersonはマイオカインは、ホルモンと同様に「血流に入って遠隔臓器に作用する(エンドクリン)ものであると主張されています。

画像出展:「スポーツメディスンNo.154」

IL-6の炎症に関する作用は、炎症を引き起こす“bad guy”なのか、それとも炎症を抑える(抗炎症)“Good guy”なのかが議論となっていました。
それは、糖尿病やメタボではIL-6が増えているのが原因でした。これについてPedersonは、炎症性サイトカインの主たる原因はTNF-αであると説明しました。

画像出展:「スポーツメディスンNo.154」

不活動や脂質異常、高血糖、高血圧、インスリン抵抗性は全部TNF-αが上げてしまい、それを何とか収めようとしてIL-6が分泌される、いわば消防士のような役目と考えられています。
運動はTNF-αの炎症性物質を増やさないで、筋肉から直接IL-6だけを出すという意味で非常に重要です。

画像出展:「スポーツメディスンNo.154」
 

Pedersonが2000年に行った実験負荷は、片脚で5時間というハードなものでしたが、田島先生が行った健常者の上肢運動の実験では20分で増えるということが確認されています。

画像出展:「スポーツメディスンNo.154」
 


IL-6の効果について、田島先生は次のように説明されています。

『図19のように、運動すると糖尿病がよくなる、高脂血症がよくなる、高血圧症がよくなるというように、何かインチキ薬みたいですが、それを一元的に説明する何かがないと釈然としなかったのです。運動して筋肉が収縮する物理的な刺激でIL-6をつくるメッセンジャーで発現するのですが、この仕組みはだいぶわかってきています(図20)。それがたとえば脂肪細胞では、脂肪の分解を促進する。さらに肝臓に行くと糖代謝を促進するのです。さらに血管の内皮細胞も新生していくようです。』

田島先生の和歌山県立医科大学では、積極的な運動をリハビリに採用しています。それは「Intensive Exercise and Mobilization」と名づけ、「iE-Move」(アイ・イー・モブ)と呼ばれています(下段図23、24参照)。これは激しく運動し動かすという意味です。

和歌山県立医科大学のリハビリの取組にご関心があれば、左の図をクリックしてください。


付記

ハードな運動というと活性酸素が気になりますが、注意すべきは時間ではなく強度です。息が苦しくなるような無酸素運動は活性酸素を増やします。また、活性酸素は運動以上にストレス、紫外線、大食などが大敵といわれています。従って有酸素ベースのリハビリをストレスを感じることなく前向きな気持ちで取り組むことができれば、特に問題にはならないように思います。なお、これは私の見解です。

コレステロール情報

私は、昔から高脂血症というグループの入り口付近をウロウロしています。卵類は良くないということで制限していた時もありました。
一方、数年前くらいからコレステロールに対する別の見方が世間をにぎわすようになり、「一体全体何が正しいの?」という思いを持っていました。
先月、「ケトン体」と「代謝」を調べる目的で、光文社新書の「ケトン体が人類を救う(宗田哲男先生)」、「代謝がわかれば身体がわかる(大平万里先生)」という2冊の本を拝読したのですが、そのいずれの書にも、コレステロールに関する肯定的な内容の記述がありました。


一方、ネット検索では、コレステロールが重要な役割を担っているという情報が多く掲載されていることが分かりました。特に高脂血症の薬として有名なスタチンについても、少し古い記事ですが、衝撃的な内容の記事がありました。
2013年9月6‐7日 日本脂質栄養学会第22回大会「糖尿病者にスタチンは禁忌‐緊急提言

『医療現場では多くの場合、糖尿病者により厳しいコレステロールの管理を求め、多くの場合、スタチン(コレステロール低下剤)の使用を必須なものとしている。しかし糖尿病者に対しても、スタチンには心疾患予防効果は認められず、スタチン類はむしろ糖尿病を新規発症させることが確かとなった。またその生化学的基盤も明らかにされてきた。すなわち糖尿病者にスタチンは禁忌であり、医師の合理的な判断による特別なケースを除き、その使用を制限するよう提言する。』

ブログでは、この2つの書に出てくる内容をそのまま引用させて頂いています。また、厚生労働省による「コレステロールの食事での摂取制限を撤廃」など、コレステロールに関するニュースを付け加えています。

 

「ケトン体が人類を救う(p154~p157、p160~p163)」より 初版:2015年11月
コレステロールも「無実の罪」をきせられていた
『さて、ここまで見てきたような、「カロリー制限すべき」の考え方や「脂肪が糖尿病の原因」説など、間違った主張の根拠となっているのは、コレステロールが巨悪の根源と考える「コレステロール悪玉説」です。これは根強い支持を得ていて、今でもそれを信じている人が国民の大半を占めていると思います。ところが、ここへきて従来のコレステロール悪玉説が崩れつつあります。
コレステロールというのは、体内の主要成分であって、特に脳は、水分を除けば脂肪が40%を占め、さらにその30%がコレステロールでできています。
全身の3分の1のコレステロールが脳に存在しているそうですから、脳にとってどんなに重要な物質かがわかるでしょう(ですから、後述しますが、コレステロールを下げる薬を飲むと、脳の活動が低下して、認知症やうつ病などが引き起こされることもわかってきました)。
さて従来は、脳梗塞や心筋梗塞、動脈硬化などの疾患は「コレステロールが原因」とされていたのですが、最近になって、じつは梗塞の現場にコレステロールが見つかっただけで、コレステロールは犯人ではなく、血管損傷の修復係であることが明らかにされてきました。火事の現場で見つかったコレステロールは、放火犯ではなく消防士だったのです。』

 

食事でコレステロールは上がらない
『アメリカやイギリスなどでも、30年以上にわたって、総脂肪と、バターなど動物性脂肪の多い飽和脂肪酸の摂取量の制限を基本とした食事指導が行われていました。
しかし、イギリスの医学雑誌に今年(2015年)2月、「食事指導を実行してもしなくても心筋梗塞などによる死亡率は変わらない」とする研究結果が発表されたのです。健康な人と脂質異常症の患者らを対象にした複数の研究を分析した質の高い研究で、血中コレステロールを減らすことを目的におこなった従来の食事指導には根拠がないことを示した画期的な内容でした。
近年、日本の脂質栄養学会が明らかにしたデータによっても、コレステロールが低いほど死亡率が上がること、日本人に関しては、コレステロールが高いといっても、基準が欧米と比べて低すぎること、特に女性は99%が、薬でコレステロールを下げる必要のない水準であることがわかってきました。
そして、序章でも述べた通り、2015年4月1日に厚生労働省は、コレステロールの食事での摂取制限を撤廃しました。
体内のコレステロールは、食事で作られる割合が20%で、残り80%は肝臓で合成されていることは従来からわかっていたことでした。コレステロールをあまり摂取しなければ、体内合成分が増えますし、たくさん摂取すれば、合成分が減る、というバランスができているのです。
ですから、これを食事でとらないようにすることに意味がないことは、何年も前から言われてきたことでしたが、これまでの「コレステロール悪玉説」が、まさにさまざまなしがらみの中で、訂正できなくなっていたのでした。
今年2月になって、アメリカ政府の「食生活ガイドライン諮問委員会」が、食事でのコレステロールの摂取制限は必要ないと報告したことにより、なぜか急に日本もこれを踏襲して撤廃したのです。』

コレステロールの抑制は危険!

『先ほども書きましたように、脳はほとんどが脂肪であり、コレステロールの集積です。脳に必要なコレステロール値を下げてしまうとどうなるのか?
順天堂大学 奥村康特任教授は、ご本人のブログでこんな怖いことを書いています。
「医者に行くと、コレステロール220以上で異常だといってコレステロール降下薬を飲まされる。すると、まずいことに鬱になるんですね。非常に多弁だった人が無口になったりする。そういう人が電車に飛び込んだという話をしていたら、実際に帝京大学の精神科の先生とJR東日本が協力して、JR中央線で自殺した人を調べたんです。その結果、9割が55~60歳で、ほとんどが男だった。それが見事に全員、コレステロール降下薬を飲んでいたという」
また、こんな気になることも書いています。「コレステロール降下薬の年間売り上げは3,000~4,000億円ともいわれている。その7割は女性が飲まされている。女性は閉経後に必ずコレステロールが上がるからです。』

 

そもそも「コレステロール神話」はどうしてできたのか
『1913年、ロシアの病理学者ニコライ・アニチコワが、ウサギにコレステロールを与える実験をおこなったところ、大動脈にコレステロールが付着して動脈硬化が起こったことから、コレステロールが動脈硬化の原因であるとして発表しました。
しかし、その後の研究で、ウサギは草食動物であり、普段はコレステロールなどはまったく摂取しない動物であるため、コレステロールを投与した場合、それがそのまま血中コレステロールを急上昇させてしまうことがわかりました。
一方、人間はそもそも肉食だったと考えられ、普段から肉などを食べてコレステロールを摂取しており、摂取量に応じて体内で合成する量を調節し、コレステロール値を一定に保つ仕組みができているため、ウサギの実験がそのまま当てはまるわけではないことがわかっています。
100年前の低レベルな動物実験の結果を、検証することなくそのまま信用した最初の「コレステロール悪玉説」が間違いなのですが、じつは、間違いだとわかってからも、薬の販売や普及での利権とつながっていますから、修正が効かない状況に陥っていたのでした。
コレステロールのとりすぎが健康に悪いと言われ始めたのは1960年ごろから、それまで血管に血栓などを作ると考えらえていたコレステロールが、じつは損傷した血管を修復していることがわかり、コレステロールを「善玉」(HDLコレステロール)と「悪玉」(LDLコレステロール)の2種類に分けて評価するようになりました。
しかし、最近では、この「善玉」と「悪玉」の区別もおかしいと言われており、LDL(悪玉)が多くても死亡率に変化はなく、逆にLDLが低すぎると死亡率が上がる、ということもわかっています。
東海大学名誉教授の大櫛陽一先生によれば、細胞にコレステロールを運ぶのがLDLで、古くなった細胞からコレステロールを肝臓に戻す役割をしているのがHDLで、その両方が必要だとしています。
また、前にも述べましたが、コレステロールの8割は体内で合成されており、食事の種類を変えても体内のコレステロール量は変化がないことがわかっており、また、コレステロールが減るとがんや認知症の発病率が跳ね上がる可能性も示唆され、「コレステロールは悪」から「コレステロールは必須なもの」に変わってきているのです。
しかし、コレステロール降下薬の売り上げは3000億円とも言われ、莫大な利益を生む構造があるため、「コレステロール悪玉説」の否定は大きく遅れてしまったのでした。』

「代謝がわかれば身体がわかる(p218~p222、p228~p231)」より 初版:2017年8月
第2の脂質、コレステロール
『同じ人物でも、いる場所によって立ち位置が変わることがある。別に内弁慶とかそういうことでなく、当人は変わっているつもりがなくても、周囲の環境によって、その人の他者との相対的な関係が変わるのである。
たとえば、会社では非常に几帳面な仕事ぶりで通っているある人が、彼(彼女)の配偶者が超絶に潔癖症であるために、家庭では「相当にだらしない人」という烙印を押されてしまっているようなことはありえる。
コレステロールという誘導脂質(疎水性化合物。他に「脂肪酸」「ステロイド」など)もまた、「いる場所によって存在価値の変わる」存在である。いきなり「コレステロールの存在意義」とあるから、何をいっているのかと思ったかもしなない。ほとんどの人は、コレステロールといえば、健康診断で悪者扱いされているイメージかもしれない。
しかしハッキリいって、それは誤解である。相当に見当違いといってもよい。では、コレステロールとは何なのか。何のために身体にあるのか。』

 

コレステロールは細胞膜のコーディネーター
『ずばり、コレステロールは、「細胞膜の流動性を調節する脂質」である。他にも、脂質の消化吸収の補助やホルモンの合成材料となるなど、コレステロールには様々な役割があるが、量的に見ても、メインの機能はここにある。
細胞膜の流動性は、リン脂質を構成する脂肪酸の種類によって調節されている。つまり、合成する脂肪酸の組成を微調整しながら、細胞膜の安定性をある程度まで維持しているのである。
しかしながら、細胞は常に変化し続ける。大きさが変化して、急遽、細胞膜が大量に必要になる場合もあるだろうし、細胞が分裂して、新たな環境に置かれる場合だってあるだろう。
そのような変化の中で、リン脂質の構成だけで、細胞膜の安定性を維持するのは至難の技である。脂肪酸合成のあの手間を思い出してほしい。臨機応変に対応するのは大変そうだ。
そこで、コレステロールである。まず、コレステロールは、親水基が1つしかなく、水に溶けない。脂肪酸とは分子の構造がかなり違っている。脂肪酸がうどんのような「線」の構造なら、コレステロールは「みみ」で数枚つながったような南部せんべいのような「面」の構造なのだ

 

 

画像出展:「代謝がわかれば身体がわかる」

そして大きさも重要である。細胞膜を作る脂質二重層の厚み、つまりは細胞膜の疎水性の片側に、ほぼすっぽり隠れる程度の大きさである。小さすぎても、大きすぎても、細胞膜の疎水性の構造を不安定にし、下手をすると細胞膜の機能を大幅に変質させてしまう危険性がある。コレステロールは、その化学性的性質も、分子の構造も、細胞膜の流動性を制御するのによくできた化合物なのである。
では、実際にどのように流動性に関与するのか。たとえば、流動性があまりない細胞膜の場合、その状況を変えるには、きっちりと密に詰まった細胞膜に「くさび」を打ち込むように、コレステロールがハマってゆくことが有効である。

コレステロールは脂肪酸とは形が違うから、コレステロールがハマった部位は、細胞膜を形成するリポ脂質の配置が多少攪乱される。攪乱されるということは、流動性が増すということである。
逆に、流動性の高い細胞膜を構成する脂肪酸は、一般的にまとまりにくいから、リン脂質それぞれは、好き勝手にふらふらしている。それを引きとめる安定した存在が必要だ。
コレステロール、今度は、リン脂質のまとめ役となる。コレステロール自身は「面」の構造をしていて、かつ疎水性だから、お互いに自然と集まる特性を持っている。ふらふらしたリン脂質は、ぴちっと整列しないために余った空間があるので、コレステロールが集まって、安定した島のような構造を作ることになる。ふらふら移動していたリン脂質に、いわば「まとめ役」が登場し、細胞膜の流動性は低くなり、膜は安定する。

 

 

画像出展:「代謝がわかれば身体がわかる」

このように、コレステロールは、細胞膜のコーディネータのような存在であり、すべての細胞で必須の誘導脂質である。
また、コレステロールは、後述するが、脂質の消化吸収の補助をする胆汁酸の材料でもある。また、量的にはわずかだが、腎臓・副腎や生殖細胞においてはステロイドホルモン、皮膚ではビタミンDの合成の材料としてそれぞれ必要である。そして、脂肪酸と同じように、コレステロールは体内で合成することができる。』

 

悪玉コレステロールとは何者か?
『通常、成人病向けの医療情報などでは、「LDLは悪玉コレステロール、HDLは善玉コレステロール」という表現になっており、ここまで読んで「いったい何が本当の悪者なのか」と疑問を持った人もいることだろう。
LDLもHDLも、コレステロールや中性脂肪を輸送する媒体の名称であって、コレステロールそのものではない。そもそも、略称にどこにもコレステロール(Choresterol)のCがないではないか。
LDLやHDLなどをまとめてコレステロールと呼ぶのは、「帰省客を乗せた新幹線」や「観光客を乗せた寝台列車」などをすべてまとめて「人間」と呼んでいるような奇妙な言い回しだ。新幹線や寝台列車は人間ではない。それにさらに「悪玉」とか「善玉」とかの形容をつければ、あたかも「悪いコレステロール」「良いコレステロール」があるかのように錯覚してしまうだろう。というか、そう思っている人が大半だろうと想像する。
では何をもって、「悪玉」「善玉」と呼んでいるのか。それは、変性または変形して血管の内皮に付着して動脈硬化などを起こす可能性をもったLDLを「悪玉」、そうなる可能性が低く、むしろそういったLDLを回収する働きもあるHDLを「善玉」といっているにすぎない。
といっても、LDLが絶対的に悪い存在かといえばそんなことはない。あえていえば、場合によってはLDLが事故を起こす可能性があるということである。それは、「それは新幹線も事故を起こすかもしれない」と言っているようなものである。
安全運行が前提の新幹線に事故が起きるためには、相応の原因を想定しないといけない。たとえば、経済性のみを優先して少人数スタッフで超過密な運行スケジュールを強行したり、テロリストによる破壊工作がなされたりする場合などである。LDLも、その血中濃度や様々なきっかけによって、小型化して血管内皮に侵入してしまうことがある(脱線)。あるいは、血中に存在する活性酸素や余剰の糖と反応し、変質したLDLになり、その結果コレステロールを配達すべき細胞がわからなくなってしまって、血管内皮の常駐組になってしまう場合もある。いわば行先不明の暴走列車が線路脇で脱線しまっくている状況である。
そういった、血管内皮に定着してしまった変質LDLは、やがてマクロファージなどの免疫系の細胞にまとめて捕食され、輸送媒体そのものも崩壊する。その状況が慢性的に進行すれば、血管内皮が膨潤・糊化して、いわゆる動脈硬化となる。

 

 

画像出展:「代謝がわかれば身体がわかる」

動脈硬化の現場に行けば、乗客であったコレステロールが、本来の機能を果たせずに死屍累々である。
しかし、乗客に罪はない。たまたまその列車に乗っていたにすぎないのである。まだまだ研究途中の部分も多いので、一概にいえないが、LDLを暴走させるに至ったのは、余剰の糖質や活性酸素などの、LDL以外の外部要因の可能性が濃厚であり、本来の姿のLDL自体に大きな欠陥があるわけではないと考えられている。テロリストの工作によって、新幹線が暴走し大事故を起こしたからといって、新幹線そのもの、ましてや乗客を非難する人はいない。悪いのは新幹線に破壊工作を行ったテロリストに決まっている。
つまり、真の悪玉は、余剰の糖質や活性酸素である可能性が極めて高い。しかしながら、「悪玉コレステロール」という表現だと「テロ被害にあった乗客(新幹線)が悪い」と言っているようなことになってしまうのである。繰り返しになるが、コレステロールそのものは別に悪くない。』

代謝と恒常性(ホメオスタシス)

先月、「ケトン体エンジン」というブログをアップしていますが、その時、代謝のことをしっかり理解しなければ。という感想をもちました。そこで、挑戦した本は「代謝がわかれば身体がわかる」という今年の8月に出版された最新の新書でした。

 

著者:大平万里

出版:光文社

下の図はこの本の最後に出てくる「総まとめ代謝マップ」です。これを見ると登場する物質などが多く、詳細まで理解することは難しいと実感します。その一方で、代謝とは化学反応による変化の集積という印象をもちます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「代謝がわかれば身体がわかる」

それでは、「代謝」を簡潔に説明するとしたらどのような内容が良いのか、これは言い換えれば、「代謝」を説明する場合に、絶対に抜けてはいけないポイントは何かということになると思います。

 

そこでまず、重要と感じた内容、抜けてはいけないポイントを時系列的に洗い出してみました。

そして、キーワードとなるのは青字にした8つではないかと思います。

生命とは、生物が生物でありつづける根源とされる。 
生きているとき、身体は全体が変化しないように部分が変化し続けている 
変化にはエネルギーが必要であり、エネルギー産生には化学反応が利用されている。 
代謝には化学反応の2つの側面がある。1つは体内での物質の変化。もう1つはエネルギー発生と呼吸である。なお、物質の変化に着目した場合を「物質代謝」といい、エネルギーの流れがどうなっているのかという視点で代謝を見た場合を「エネルギー代謝」という。 
代謝には2つの代謝系がある。
 異化(複雑な物質を分解してエネルギー物質を合成する流れ)
 ②同化(エネルギーを消費してより複雑な化合物を合成する流れ)

・化学反応を劇的に促進するのは酵素の働きによるが、そのためには適切な環境が必要である。
  ①充分な水(水に囲まれていること
  ②適切な温度(35~40℃)
  ③適切はpH(pH10付近) 

中学で「代謝」を勉強したのかどうか全く記憶にないのですが、少なくとも高校の化学か生物に出てきたであろうことは確かです。この時は、どんな説明をされていたのだろうという疑問が浮かび、ネット検索しているうちに、「NHK高校講座|生物基礎」というサイトに遭遇しました。中を見ていくと、「代謝」に触れているのは、1学期 4回目でそのタイトルは「代謝を進める酵素」というものでした。これにより、代謝では酵素の働きを知ることが非常に大切であることが確認できました。今まで、理解がモヤッとしていたのは酵素という影の主役を見逃していたことも一因ではないかと思いました。

酵素は触媒の働きをします。触媒とは「化学反応において、それ自身は変化せず、化学反応の進み方を変える物質」と解説されていますが、大平先生が例をあげて、分かりやすく説明されています。


『修学旅行の班決めは難航するのが常である。ただし、これは担任触媒)がいない場合の話である。生徒どうしだと、得てして近視眼的にしか考えられないことも多いので、目先の人間関係に溺れて班決めに何日もかかることもあるわけだ。
ところが、修学旅行の班決めに担任がそれなりに深く介入すると、なんともあっさりと決まってしまうことも多いのである。結束の強い班をバラバラにするのも、新しいメンバーの組み合わせの班を作るのも、担任のちょっとした一言や、生徒が思いもしなかった条件提示などで、生徒の強い抵抗も消え、難なく決まってゆく。
もちろん、担任自身は班のメンバーにならない。つまり、第三者の視点で、生徒たちの班構成を眺めることができるからこそ、生徒が抱くであろう新しい班構成への抵抗や不安を担任は和らげてゆくことができるのだ。
担任触媒)の介入によってできた班は、当初の班とは違う構成になったから、各班の状態が変わる(反応熱)ことに変わりないが、担任が介入することで、そこに至るまでの労力(活性化エネルギー)が大幅に軽減するのである。つまり、担任触媒)がやったことといえば、班分けに介入して、班分けの作業時間を変えただけである。そして、担任は一人で充分である。』

 

一方、本書の中では、「体内環境とは、酵素が働ける職場環境にすること」という説明があり、これは「恒常性(ホメオスタシス)」との関係や位置づけを意識することも必要だと感じました。
そこで、ネットで参考となるようなものは何かないか検索したのですが、出てくる恒常性の構成要素は、「自律神経」「内分泌系」「免疫」の3つであり、「代謝」という言葉が出てくるものは、私が調べた範囲ではありませでした。

「本はどうだろう?」ということで、同様に調べたところ少し期待できる本を見つけました。また、さいたま市内の図書館に所蔵されていることも分かり、さっそく取り寄せることにしました。その本のタイトルは、「生物科学入門 -代謝・遺伝・恒常性-」というものでした。

 

著者:白木賢太郎

出版:東京化学同人

本書の中で白木先生は、“生物とは何か”という問いに対して、『代謝、遺伝、恒常性の三つに集約できる。この三つの概念で説明できるものが生物である』と説明されていました。

つまり、白木先生の説から考えると、「代謝」は「恒常性」の1つの構成要素ではなく、同列に位置づけられるもの。そして、酵素が働くための安定した環境は「恒常性」によって実現、提供維持される一方で、代謝によってつくられる物質やエネルギーが、恒常性を支えているという相互補完の関係ということだと認識しました。

なお、代謝と恒常性について、白木先生は次のようなお話をされています。

代謝

『私はじっとしているようで、分子や原子のレベルでは常に置き換わっている。1年前から現在までずっと自分を構成していた原子はほとんどない。骨でさえ7年ですべて入れ替わるといわれている。ラーメンを食べると、そのラーメンだった原子が自分をつくっていく。そして吐き出した息の中に含まれる二酸化炭素は、糖やタンパク質など、さっきまで自分の一部だったものである。このような生体内に起こる一連の化学反応が代謝である。』

恒常性
『赤ん坊として誕生し、やがて老人にいたる1世紀近い年月の中で、私たちの体を構成する細胞は数日から数十日で入れ替わる。原子レベルでみると、呼吸や食事をするたびに入れ替わっている。しかしそれらがつくりだしている状態、たとえば血液のpHやイオン濃度、体温などは、ほとんど変化しない。外部の情報をフィードバックし自己を一定に保つ、こうした生物現象を、恒常性(ホメオスタシス)という。恒常性は生物を特徴づける性質の一つである。』

 

恒常性(ホメオスタシス)はアメリカの生理学者であるキャノン(Walter Bradford Cannon)が提唱したものであり、1932年に出版された「Wisdom of the Body(からだの知恵)」の中で語られています。目次だけになりますがご紹介させて頂きます。ちなみに、文庫本で344ページです。

 

著者:W・B・キャノン

出版:講談社学術文庫

 

画像出展:「Harvard University Library

はじめに
 不安定な開放系としての生命
 自然治癒力
 からだにおける恒常性の維持(ホメオスタシス)
第一章:からだを満たしている
 生命の環境としての水
 血液とリンパ液
 心臓
 リンパ液の循環
 血液の循環
 からだの内的環境
第二章:血液やリンパ液を良好な状態に保つからだの自衛機構
 出血と血液の凝固
 血液の予備アルカリ分
 出血に伴う生理的変化
 出血と水
第三章:物質の供給する確保する手段としての渇きと飢え
 消費と貯蔵
 渇き
 空腹
第四章:血液に含まれる水の量の恒常性
 貴重な水
 水分の不足と過剰
 からだから出ていく水
 血液の水
 過剰の水と腎臓
 水の貯蔵
 血液からの水の移動
第五章:血液中に含まれている塩分の量の恒常性
 塩類の調節
 塩化ナトリウム
 塩分の貯蔵
 塩分の貯蔵場所
 塩分の恒常性維持
第六章:血液中の糖の恒常性
 ブドウ糖とインシュリン
 糖の貯蔵
 血糖の増加と生理的変化
 低血糖反応
 肝臓からの糖の放出
第七章:血液中のタンパク質の恒常性
 タンパク質とその貯蔵
 血漿中のタンパク質
 血漿中のタンパク質濃度の調節
 血漿中のタンパク質の恒常性
第八章:血液中の脂肪の恒常性
 脂肪とレシチン及びコレステロール
 脂肪の貯蔵
 貯蔵された脂肪の放出
第九章:血液中のカルシウムの恒常性
 カルシウム濃度
 骨とカルシウムの恒常性
第十章:充分な酸素の供給を維持すること
 酸素の供給
 酸素負債
 呼吸の調節
 血液循環の調節
 心臓の拍動
 血圧の調節
 ガスの交換
第十一章:血液がつねに中性に維持されていること
 血液の酸性とアルカリ性
 水素イオン濃度
 炭酸と乳酸
 血液の緩衝作用
第十二章:体温の恒常性
 「温血」と「冷血」
 熱量と代謝
 体温の調節
 寒冷に対する生理的反応
 熱負債と副腎
第十三章:生物に自然に備わる防衛手段
 からだの防衛手段としての反射
 からだの防衛手段としての適応
 感染と炎症
 怒りと恐れ
第十四章:からだの構造と機能の安全性の限界
 からだの安全係数
 循環機能の安全係数
 呼吸機能の安全係数
 スペアのある器官
 スペアのない器官の安全度
 安全性の保証
 近代医学と自然治癒力
第十五章:神経系の二つの大きな区分とその一般的な機能
 体外と体内
 感覚と「運動神経」
 反射
 「随意神経系」と「不随意神経系」
 自律神経系
 交感神経
 内臓の神経支配
 自律神経系の働き
第十六章:恒常性維持に占める交感神経‐副腎系の役割
 からだに加わる外部からの刺激
 からだの内部で起こる変化
 自律神経系の除去
 交感神経系除去の生理的影響
 交感神経系除去の長期的影響
 交感神経系除去と寒冷に対する反応
第十七章:からだの安定性の一般的な特徴
 「内的環境」の恒常性
 恒常性を維持する機構
 恒常性維持と貯蔵
 恒常性維持と「あふれ出し」
 反応速度による恒常性維持
 交感神経‐副腎系
 からだの恒常性維持に関する仮説
 恒常性維持と進化
 生物の活動の基盤としての内部環境
エピローグ:生物学的恒常性と社会的恒常性
 安定性維持の一般的な原理
 単細胞生物と多細胞生物
 からだ全体の統合
 社会活動の安全性
 社会的な動揺と反作用
 社会における流通機構
 からだの仕組みから見た社会的安定性の要因
 社会組織の進歩
 自由基盤としての恒常性維持
 

うつ病治療(TMS)

先月アップしたブログ「交流磁気治療器」の中で知ることになったTMS(経頭蓋磁気刺激法)について、どんなものなのか詳しく知りたいと思い、NHKスペシャルで放映された「ここまで来た!うつ病治療」の本を格安で購入しました。最初はTMSのことが分かればと思っていたのですが、そもそも「うつ病」も非常に重要であり、一方、うつ病に関する知識はあやふやなものだったため、「うつ病治療」としてまとめることにしました。
ブログは、うつ病と双極性障害(躁うつ病)に関する箇所以外は、すべて、「アメリカ発 薬に頼らない最新治療」と「脳科学が解明する“うつ病のメカニズム」からの引用(『』で囲んでいます)になりますが、それに関連して調べたことや見つけた情報などを加えています。

目次は次の通りです。

第1時限目:アメリカ発 薬に頼らない最新治療

第2時限目:脳科学が解明する“うつ病のメカニズム”
第3時限目:最新の検査で誤診を防ぐ
第4時限目:言葉の力でうつを治す、予防する
第5時限目:変わるか?日本のうつ病治療

 

出版:宝島

 

画像出展:Clinical TMS Society

画像出展:マイナビニュース ヘルスケア

 

こちらの機器を使用されているのは、新宿ストレスクリニックさまになります。

1.磁気刺激による回復のメカニズム
『それにしても、DLPFC(背外側前頭前野)に磁気刺激を与えるだけで、なぜうつ病の症状が改善するのだろうか。その理由を探るため、私たちは、アメリカ・ボストンにあるハーバード大学のベス・イスラエル病院を訪ねた。院内の脳刺激研究センターのアルバロ・パスカルレオーネ教授は、15年以上にわたり磁気刺激の研究を行ってきた脳神経学者だ。これまでにも数百人に対して磁気刺激の治療を行い、その効果を研究してきた第一人者である。さっそく、磁気刺激がうつ病にどう作用するのかを尋ねた。
「うつ病では認知問題、記憶問題、悲しみなどのいろいろな症状が出ますが、これらの症状は脳のさまざまな部分の機能障害によって起こります。磁気刺激で行うことは、うつ病で障害が出る「感情」と「認知」に関わる脳の特定の神経回路の活動を変更することです。磁気刺激では、抗うつ薬と違い、脳のほかの領域に影響を及ぼさないで、特定の神経回路を狙って治療を行うことができるのです
脳の中では、情報が神経細胞を通って伝わるが、そこは基本的に電気信号の世界だ。磁気刺激の信号も、脳の中で電気刺激となり、神経細胞に伝わっていく。磁気刺激は、そのなかでも、うつ病に関係する回路を活性化させることができるというのだ。
パスカルレオーネ教授は、磁気刺激の治療を行った患者の脳の血流の変化を表した画像を出し、「多少単純化しすぎですが……」と前置きしつつ、説明を続けた。
「うつ病の人では、この前頭前野のDLPFCの活動が落ちていることがわかっています。もし、うつ病特有の意欲や注意力の低下の向上、認知機能の障害を改善したかったら、DLPFCの活動を増大させればよいのです。脳の血流を調べて、その血流量が増大していれば、そうした意欲や認知などの症状が改善していると考えられます
うつ病患者の脳では、このDLPFCの働きが落ちていることが研究によって明らかになっているという。DLPFCは、脳の中で認知や意欲、判断などに関係する場所であるため、うつ病でこの機能が落ちると、ミッチェルさんのように、何にも興味を持てなくなったり、物事を考えたり判断したりすることができなくなってくるというのだ。つまり磁気刺激は、DLPFCの働きを回復させ、うつ病の症状を改善させる治療法ということになる。
しかし、それだけではないと、パシカルレオーネ教授は続けた。「磁気刺激は、脳の奥にある感情に関係する領域にも影響を及ぼします」
DLPFCを刺激することで、磁気刺激の信号は、より脳の奥深くまで伝わるという。その伝わる先のひとつに、「扁桃体」がある。扁桃体は、不安や悲しみを生み出す場所である。うつ病患者の脳では、何か嫌なことが起きた時に、この扁桃体が過剰に反応し続け、いわば暴走状態になると言われている。そのため、不安や焦燥感に襲われたり、ジョシュアさんのように、わけもわからず泣いてしまうという症状が起きるという。そして、この扁桃体の暴走にブレーキをかける役割は、DLPFCにあると考えられているというのだ。パスカルレオーネ教授は、「磁気刺激によってDLPFCの活動を強化すればするほど、うつ病の症状を改善する効果は高くなる」と考えている。
話が少しややこしくなったので、まとめておくと、うつ病患者の脳では、判断や意欲に関わるDLPFCの働きが落ちて、不安や悲しみを生む扁桃体が暴走している。そのため、思考や意欲に問題が出て、また不安な気持ちに襲われてしまう。磁気刺激は、DLPFCを活性化させ、その機能を回復するとともに、DLPFCが持っている扁桃体のブレーキ機能によって、扁桃体の暴走を抑えるということだ。
だから、ミッチェルさんのように、意欲が湧かないといった典型的なうつ病だけでなく、ティアラさんのような不安に苛まれるタイプにも効果があると、考えられているのである。』

パスカルレオーネ教授の講義のビデオがありました。

タイトルは ”Learning about Seeing from the Blind”

「盲目の人から見ることを学ぶ」という感じでしょうか。

 

出展:University of Wisconsin School of Medicine and Public Health

以下の2つの図は、健康な人とうつ病患者を比較したものです。キーワードは「血流」です。


画像出展:NHKスペシャル「ここまで来た!うつ病治療」

2.うつ病の鍵を握る新たな“場所”の発見
『患者に劇的な変化をもたらす脳深部刺激だが、なぜ電極を埋め込み、刺激することでうつ病の症状が治まるのだろうか。いったいどこを刺激しているのだろうか。実はそれはDLPFCでも扁桃体でもないという。その説明はちょっと難しくなるが、ご容赦願いたい。
脳深部刺激で、メイバーグ教授がターゲットとしているのは、「25野」と呼ばれる脳の領域である。これは、帯状回膝下野と呼ばれるアーモンド粒程度の小さな場所だ。この25野、今ではうつ病に関わる重要な領域とされ、世界中で研究者の注目を集めているのだが、その機能がわかってきたのはごく最近のことだ。

 

画像出展:NHKスペシャル「ここまで来た!うつ病治療」

メイバーグ教授が25野に注目するようになったのは、うつ病の症状に関わる脳の神経回路を調べていた時だったという。脳の血流量の変化を捉えて、その働きを見る装置であるfMRI(機能的磁気共鳴画像)などを使い、うつ症状が出ている状態から、回復するまでに患者の脳のどの場所にどんな変化が出ているかを調べる研究だった。
まず、うつ病患者の脳の様子を調べてみると、第1時限目で見たように、DLPFCを含めた前頭葉の働きが低下していたり、扁桃体の活動が異常になっていたりしたという。メイバーグ教授は、そこから抗うつ薬を使い、薬によって症状が回復した人たちと、プラセボ薬、つまり効果のない偽物の薬を与えて回復していない人たちとの間で、何が違うのか調べたのだ。すると、症状が回復した人では、予想通りDLPFCの働きが回復したのだが、もうひとつ、大きく変化した場所があった。それが25野だったのだ。逆に回復しなかった患者では、25野に変化は見られなかった。メイバーグ教授は、この発見を興奮気味に話してくれた。
「うつ病患者の25野に関する症例研究は見たことがありませんでした。私たちはうつ病患者の脳のまったく新しい領域への手がかりをつかみ始めたのです」
こうして25野に注目したメイバーグ教授は、その機能を調べ始めた。教授によれば、25野は、不安や悲しみを生み出す扁桃体ともつながっているという。実際、研究に参加した患者も、25野の活動が変化したことで、扁桃体の暴走は収まった。さらに、25野は睡眠や食欲、ストレス反応を制御する視床下部、そしてうつ病において重要な役割を持っているとされる神経伝達物質、セロトニンを産生する縫線核という場所ともつながりがあるそうだ。
メイバーグ教授はさらに、25野がうつ病のどんな症状に強く関係しているのかも調べた。「私たちは、うつ病の症状のなかでも、やっかいな気分の落ち込みや悲しみに焦点を当てて調べることにしました。扁桃体とつながっているのだから、25野への刺激でこうした症状が改善すると考えたのです」
こうして、うつ病独特の悲しみの感情と25野が関連しているのかを突き止めるための研究が始まった。まず健康な人に悲しかった出来事、たとえば「愛する人を失った」、「ペットが死んだ」といったことを思い出してもらい、その時の脳の様子をMRIで見た。実験で悲しい気分になり、涙を浮かべる被験者の脳画像を見て、メイバーグ教授は興奮を覚えたという。
「それは仮説を裏づける素晴らしい結果でした。彼らの心がニュートラルな状態から悲しみへと変化する間に、脳の領域のなかで25野が最も活発になっていたのです。さらに、25野の活動が上昇しただけでなく、25野とつながりのある領域も大きく変化したのです」
研究を続けたメイバーグ教授は、25野が、うつ病の症状を引き起こしている神経回路のなかでも重要な役割を果たしていると、確信するに至ったのだという。
うつ病の原因回路のハブ(基点)は、25野にあることがわかってきました。25野の活動を正常に戻すほど、DLPFCの活動は上がり、うつ病の症状も治まったのです。25野を標的にすれば、側坐核、扁桃体やDLPFCなど、つながっている領域を正常に戻すことができるのです。鍵は25野にあったのです」』

ブロードマンの脳地図(内側)

区切られた領域は、それぞれ大脳皮質を構成する細胞の構造の違いや特性によって区分されています。「25野」は中央やや左下方にあります。

 

画像出展:「病気がみえる vol.7 脳・神経」

 上の図と下の図は別々の本からもってきているため、比較が少し難しいのですが、日本生物学的精神医学会誌の「経頭蓋磁気刺激によるうつ病治療」では、膝下部帯状回と梁下野を同一としています。膝下部帯状回と帯状回膝下野が同一かどうかは未確認なのですが、同一と仮定してコメントさせて頂きます。

メイバーグ教授は「25野」を原因回路のハブと指摘されたわけですが、この図の梁下野にある「中隔核」は海馬、視床下部、扁桃体とのつながりを表しており、まさにハブのような姿となっています。この中隔核こそが、25野のまさに核なのではないかと思われます。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

3.明らかになってきた磁気刺激と神経伝達物質との関係
『さて、脳深部刺激の話を読んで、みなさんはどう思われただろうか。25野への刺激でDLPFCを活性化することができるなら、磁気刺激によってDLPFCを刺激することで、25野も刺激されるのではないかと思った方もいるかもしれない。第1時限目で登場いただいたハーバード大学のパスカルレオーネ教授は、実際に磁気によるDLPFCへの刺激は、神経回路を伝わって25野にも届き、その活動に影響を与えることができると言っている。こうした、うつ病に関係する脳内の神経回路を調節することが治療につながるのだ。
では、磁気刺激で25野を直接狙えばいいのではないかというと、そう簡単にはいかない事情もある。磁気刺激は、頭蓋骨の表面から2cmほどの深さまでしか届かないため、脳の奥深くにある25野を直接刺激することができないのだ。
一方で、番組では割愛してしまったが、磁気刺激による作用は、ほかにもあるとパスカルレオーネ教授は言う。
「うつ病の人に磁気刺激を与えると、脳の奥深くでドーパミンが増えることが確認できるのです。」
ドーパミンは、第1時限目で紹介したセロトニンと同様、うつ症状に大きく関係するとされている物質である。報酬や快楽に関係する神経伝達物質であり、意欲に関係していると考えられている。神経細胞から出るこのドーパミンを増やし、神経細胞自体を活性化することも、磁気刺激がうつ病を回復させる理由として考えられるのだ。磁気刺激を受けた患者が、新たなことに挑戦したり、自分の喜びを見出し、「自分を取り戻した」と表現していたのは、こうしたメカニズムに関係しているかもしれない。
ドーパミンに関連して、日本でうつ病を脳科学の視点から研究している数少ない研究者の1人、広島大学の山脇成人教授が興味深い説を唱えている。抗うつ薬・SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を飲んでもなかなか症状が回復しない患者は、ドーパミンの機能が低下していると考えられるというのだ。山脇教授によれば、SSRIが効きにくい患者の多くが、ドーパミンが関与するとされている意欲の低下や無気力といった症状を示している。セロトニンは、ドーパミンを調整して作用しているため、調整する相手であるドーパミン機能が低下している場合には、いくらSSRIを投与してセロトニンを増やしても意欲低下に効果がないということを示しているというのである。第1時限目で紹介したニューヨークのクリニックが、驚異的な患者の治癒率を誇っているのも、単に磁気刺激によってDLPFCを活性化させて、扁桃体の暴走を抑えるという効果以上に、薬の作用を補強していることとも関係しているのかもしれない。
せっかくなのでセロトニンについて、ついでにご紹介しておくと、山脇教授によれば、セロトニンは脳のなかでも、「長期報酬予測」、つまり目先のことにはあまり関係していないという。だからうつ病になり、セロトニンが少なくなると、長期的な視点で「未来のこと」を考えられなくなり、先々に希望が持てなくなる。そして、短期的な目先のことしかできなくなってしまうという。』

 

ネット上に、山脇先生の文献を見つけましたので、ご紹介します。

脳科学を応用したうつ病の 革新的診断法・治療法開発に向けて

4.うつ病発症のメカニズムに迫る
『こうした脳の機能ごとの変化は少しずつ明になり、うつ病の正体に迫りつつあるものの、その原因にたどり着くまでの道のりはまだ遠い。脳の血流の変化を見ても、それはあくまでも、うつ病の人の脳で起きていることであって、なぜそうした変化が起きているのかの説明がなされていないからだ。セロトニンが減っていること、あるいは薬によって増えることと、脳の機能のこうした変化との関わりも、はっきりとはわかっていない。

うつ病を発症し、何がこうした変化をもたらしたのか、一本の道筋で説明ができないかと、日米のさまざまな研究者に尋ねたが、一つひとつのことが仮説の段階なので、その確証を得る研究をしている最中であり、まだそれを結びつけて考える前の段階にあるようだった。取材のなかで私たちが唯一確認できたのは、SSRIは、扁桃体に直接作用し、それを鎮めるということくらいだ。
それでも、いくつかのヒントになりそうな事実はある。うつ病は、たいてい過剰なストレスに去らされることでなると考えられている。ストレスを受けると、人間の体は当然それに備えようとして反応を起こす。

ひとつは、交感神経を活発にして、戦闘態勢に入ること。もうひとつは、脳の視床下部が活動し、そこから最終的に腎臓のそばにある副腎から、コルチゾールというホルモンを出す。このホルモンは、炎症を止めたりして体をストレスにならしてくれるが、一方で出過ぎると神経細胞を壊したりと悪い影響も及ぼしてしまう。

そこで、コルチゾールが出た時に、出過ぎないように自ら視床下部に働きかけるのだが、その役割は、記憶に強く関係する海馬が担うことになる。しかし、重度のうつ病の人では、この海馬が萎縮しているというのだ。つまり、コルチゾールの過剰分泌を止められず、神経を壊してしまった可能性があるかもしれないということだ。
マウスの実験では、ストレスによってコルチゾールが過剰になると、皮質や海馬の神経が壊されるという。また、ストレスを与えられた結果、大脳皮質では樹状突起のとげ(スパイン)が減り、扁桃体では増えたという研究もある。とすれば、うつ病は、過剰なストレスによって、脳のDLPFCや海馬の神経細胞が壊され、逆に扁桃体が過剰になるというメカニズムなのだろうか。残念ながら、そこまで確たることはまだわからないが、少しずつうつ病発症のメカニズムの一端に触れられるようにはなってきている。
ストレスによってコルチゾールが過剰に分泌されることで影響を受ける、脳内の物質も発見されている。それは、神経細胞が萎縮したり、壊れてしまうことに関わる物質とされるBDNF(脳由来神経栄養因子)だ。このBDNFは、ストレスを受けると減り、逆に抗うつ薬を飲んだ人や磁気刺激治療を受けた人では増えているという。しかし、抗うつ薬以外の精神病薬では増えないため、セロトニンを介してBDNFが増やされていると考えられるようになった。
このことは、セロトニンが原因であるとすれば、なぜそれを増やす薬を飲んでも、2週間しないと効果が現われないのかという謎を説明してくれる。また動物実験の話で恐縮だが、マウスに抗うつ薬を飲ませると、セロトニン自体の量はすぐに増えるというのだ。つまり、効くまでに時間がかかるのは、セロトニンがBDNFを増やし、その結果、神経細胞が新生されたり、あるいは樹状突起が伸びるなど脳内の細胞に変化が起き、そのことがうつ病の症状の改善につながっているのではないかと考えられるというのだ。
そうだとすると、やはりセロトニンが主犯ではないように思える。さらに、神経が新生されるということが、不安や気分の落ち込みなどのうつの症状にどう関係しているのかは、謎のままだ。
それでも、こうした仮説を積み重ねるなかで、新たな検査も生まれつつある。最近では、血中のBDNFを調べる検査も出てきている。もちろん、末梢の血液と脳の状態では違うかもしれないので、現段階では参考程度に使っているということだったが、うつ病患者では、末梢の血液でもBDNFが少ないという。今後、さらに研究が進み、うつ病のメカニズムが明らかになって、効果的な治療へつながるようになるのではないかと思える取材であった。』

こちらのサイトにBDNFの詳細な情報が整理されていました。

5.うつ病と双極性障害(躁うつ病)
2009年のドイツの研究機関による調査では、初診で「うつ病」と診断された患者の41.4%の人が、実際は「双極性障害(躁うつ病)であることが判明したというデータがあります。
本書の中でも10年にわたり、しかも複数の医師が診察したにも関らず、双極性障害をうつ病と誤診された患者さまの例が出ています。双極性障害は「うつ状態」と「躁状態」が交互に訪れるので、見分けるのは難しくないように思うのですが、現実はそうではありませんでした。

その理由は双極性障害の患者さまが受診されるのは、気分の落ち込みが激しい、つらい「うつ状態」の時が圧倒的に多いためです。さらに双極性障害にはⅠ型とⅡ型があり、Ⅱ型の特徴は気分の高揚する躁状態が長く続かないタイプであり、特に「うつ病」との区別が非常に難しいという実状があります。患者の方も、まず「うつ病」を意識し、気分の高揚は抗うつ薬による効果であると考える傾向が強く、あるいは調子がいいと感じる時期を、あえて病気ではないかと疑うことはほとんどないというのが一般的です。

Ⅱ型の患者さまの中には、1ヵ月、2ヵ月通ってもらっても、躁の兆候を見ることができるのが1、2回というケースもあるようです。しかしながら、この2つはまったく違う病気で治療薬も異なります。
双極性障害の患者に、気分を押し上げる「抗うつ薬」を処方した場合、気分が極端に高揚することがあり、ときに自殺などの衝動的な行動に駆り立てられる危険があります。
また、本書の中に次のような一文がありました。『もっとも避けなければならないのは、気分安定薬と三環系の抗うつ薬を同時に服用することである。万一、こうした処方を行う医師がいれば基本的な技能を疑い、転院することをお勧めしたい。』
このような無視できない内容だったため、「三環系抗うつ薬」について調べてみました。
古い抗うつ薬。SSRIやSNRIに反応しない重症例や効果不十分例に使用される。セロトニン、ノルアドレナリン以外の神経伝達物質が受容体と結合する働きも阻害してしまうため、抗コリン作用による口の渇きや便秘、抗ヒスタミン作用による眠気などの副作用が強い。主な薬剤は、アモキサピン、アミトリプチリン、イミプラミン、クロミプラミン、ドレスピン、トリミプラミン、ノルトリプチリン、ロフェプラミン』
この情報を含め、うつ病および双極性障害については、以下の2つのサイトが非常に参考になります。


 

 

 

  磁気刺激治療(TMS)治療の特徴とメリット・デメリット【医師が教えるTMS治療】

こちらのサイトは豊富な情報を非常に分かりやすく、見やすくまとめられています。

感想

今回、最も印象的だったことは、「脳の血流を調べて、その血流量が増大していれば、そうした意欲や認知などの症状が改善していると考えられます」というとてもシンプルな一言でした。

脳も、筋肉や臓器と同様に、その健康は血液が運ぶ酸素と栄養素によって維持されているということがわかります。血液が滞ることは病気の入り口に近づくということです。清々と流れる血流こそ自然治癒力の本流のように思います。そして、それは現代医学、東洋医学に共通する健康のキーワードでもあると感じました。

交流磁気治療器

数年前から、起床時にジクジクとした腹痛で、辛い思いをしている70歳代の患者さまがおいでです。この痛みは起床後、お昼までには消えていくとのことです。
病院での診察は過敏性腸症候群とのことなのですが、便通はやや便秘ぎみではあるものの特に困っている状況にはなく、年齢面、ストレスの状態など、過敏性腸症候群の代表的特徴と比べても疑問点が多いというのが率直な感想でした。
ウィキペディアの「過敏性腸症候群」に関するページには、診断について、『まずは炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病など)及び大腸癌ならびに虚血性大腸炎、感染性胃腸炎、大腸憩室症などの腸疾患、さらに婦人科系疾患、泌尿器系疾患、後腹膜疾患など器質的疾患などの可能性を除外した上で診断される』ということが書かれていました。
この中の「虚血性大腸炎」については素通りできず、さらに調べてみることにしました。

 

一方、患者さまからは「交流磁気治療器の購入を考えている。」とのお話がありましたが、私自身は交流磁気治療器に関する知識がなかったため、埼玉県内の市立図書館に所蔵されていた「磁気治療が好き!」(著者は日下史章先生と上村晋一先生、出版会社はコスモの本)という本を借りることにしました。また、なるべく客観的、中立的に評価をしたいと思い、ネット検索で色々な情報にアクセスしました。


1.厚生労働省(厚生省)による認可
以下は、株式会社ソーケンメディカルさまの会社概要に掲載されているものです。

・昭和47年頃:開発者石渡弘三が、家族の健康回復のため交流磁気治療器の開発に着手
・昭和49年:交流磁気治療器の臨床試験(いすゞ病院院長・中川恭一医学博士)を依頼
・昭和54年 2月:神奈川県総合リハビリテーションセンター(内科部長・和合健二医学博士)にて交流磁気治療器の臨床試験開始
・昭和54年 4月:通産省より交流磁気治療器の甲類電気用品形式承認を取得
・昭和55年 3月:中川恭一・和合健二両博士の臨床データを添えて、厚生省に交流磁気治療器の認可申請
昭和55年 11月:中央薬事審議会の審査を受け、厚生省の製造並びに販売の認可を取得する。認可申請の元になった論文は、中川恭一先生の「皮膚貼付用磁気治療具の治療効果について」であるという情報がありました。

なお、この中川先生の論文は「メディカルオンライン」というサイトで購入できます(648円)。資料は13ページですが、有料の資料のため、1ページ目上段の「はじめに」の部分のみ添付させて頂きます。

平成10年には「厚生省告示第118号」で家庭用電気磁気治療器基準を定めています。こちらは、「明治大学科学コミュニケーション研究所 疑似科学とされるものの科学性評定サイト」というサイトの中に見つけることができました。

なお、「効能又は効果」に関しては「装着部位のこり及び血行とする。」と明記されています。

2.否定的な情報
BRITISH MEDICAL JOURNAL(BMJ)」が、磁気について、血行促進、痛み、こりの緩和ともに効果なしとする報告がある。という情報がネット上のサイトにあったため、検索を試みましたが、私の英語力に問題もあり、見つけることができませんでした。

3.磁気は医療に有効なのか
「磁気」は本当に医療に役立つものなのか? 本では第2章 磁気治療の未来を変える「交流磁気」革命!の中で、「全米400カ所が実施するうつ病磁気治療」というタイトルに続き、次のような説明がされていました。

磁気治療の中でも現在、世界的に注目されているのが、パルス磁気で脳を直接刺激する経頭蓋磁気刺激(TMS)療法です。そもそも脳の異常を探る診断法として使われていた技術ですが、1995年、アメリカの国立保健研究所のマーク・ジョージらが「大脳皮質前頭葉を強いパルス磁気で刺激し、同部位の血流循環を高めて脳細胞の機能を活性化させることにより、うつ病治療に成功した」と発表。それをきっかけに、病気の治療にも活用されるようになったのです。』
日本では、うつ病ではありませんが、脳卒中後遺症に対する治療として、東京慈恵会医科大学など全国で11のTMS施行施設があります。

 

以上のことから、少なくとも「磁気」には血行を改善する働きがあると考えます。

現在のところ、TMS治療は各施設の倫理委員会が承認した臨床研究として位置付けられています。

4.メカニズム
第2章の中の「磁場の種類で効果も変わる」で説明されている内容をお伝えします。
『磁気治療は、磁石が作った磁場を体に作用させる治療です。磁場には磁力が常に一定の状態にある定常磁場と、時間とともに磁力の強さや方向が変化する変動磁力の二種類があります。このうち定常磁場は永久磁石によって作られます。磁気バンソウコウや磁気ネックレスが定常磁場治療器に相当しますが、作用の範囲は狭く、磁力も皮下の約1.5~2cm程度しか届きません。
もう一つの変動磁場は、電磁石に電流を流して人工的に作った磁場です。日本の磁気治療を支える交流磁気治療と、世界の磁気治療として本章の冒頭でご紹介したパルス磁気治療は、この人工的に作り出した変動磁場を利用しています。交流磁気治療に用いられるのは、電磁石に交流(一定時間ごとに交互に逆方向に流れる)電流を流し、N極とS極が交互に入れ替わることで発生する交番磁場です。N極とS極の入れ替わりに伴い、磁力の強さが変化する交番磁場は広範囲に磁場が発生し、全身に安定した強力な刺激を与えられるのが特長です。体の奥深くまで磁力線が届くので、格段に大きな治療効果が得られるのです。
一方、パルス磁場は、2~3秒間に1回、N極またはS極の方向に瞬間的に磁力線が走る磁場です。周波数を自在に変えることができ、小さなエネルギーで大きな効果を引き出すことができるため、ピンポイントの局所治療に使われます。』

 

5.磁気の安全性
平成10年の「厚生省告示第118号(家庭用電気磁気治療器基準)」では、最大磁束密度は35mT~180mTと定められています(「T」はテスラ。昔はガウスが使われていた)。一般的な交流磁気治療器は70mT前後です。一方、最新の高性能MRIは3.0Tになりますので、この3.0Tを1として、2つを比較すると磁気の強さは1:0.023ということになり、交流磁気治療器の数値が非常に小さいものであることが分かります。また、MRI検査は一般的には1ヶ月に何回受けても、身体への影響は無いとされているようです。(検査を受ける上での注意事項はあります)
これらを踏まえると、交流磁気治療器は使用上の注意点を守るという前提で、副作用はないと思われます。

 

 

左の写真は(株)ソーケンメディカル社の交流磁気治療器です。

6.交流磁気治療とともに歩んだ30年間 
・本の中には、多くの疾患の改善事例が掲載されておりますが、効果には個人差がありますので個別の症例ではなく、著者のお一人である上村晋一先生が先代から開院されている熊本県 阿蘇立野病院における30年におよぶ取組みをご紹介させて頂きます。


『今後、日本の医療が歩むべき道は、病気の急性期に鋭い切れ味を発揮する西洋医療と、体に負担をかけずに自然治癒力を引き出す代替医療とを併用する医療、すなわち「統合医療」であると思います。そして、その統合医療を最も必要としているのが、お年寄りたちがさまざまな不調を訴えて集まってくる、地域医療の現場なのです。
わが阿蘇立野病院も地域医療に携わる医療機関の一つです。昭和54年に立野病院として設立されて以来、同地区唯一の総合病院として一般診療から救急診療、さらには乳幼児健診、学校医、介護保険の認定審査にまで至る、あらゆる保健医療に関わりながら地域住民の健康を支えてきました。
しかし、そんな地方病院の一つでありながら、当院には、すでに30年近く統合医療を実践してきた歴史があります。その歴史は、実は交流磁気治療とともに始まりました。
南阿蘇は熊本でも屈指の高齢地域です。設立時にはすでに過疎化も進んでいましたが、前院長の上村順一は、まだ医学の中に代替医療や統合医療という言葉も発想もなかった時代から、保険点数のつかない交流磁気治療を導入し、地域医療の中に根づかせてきたのです。そんなわが父でもある前院長の先見の明に、私も頭が下がる思いです。
磁気ベッドは病院だけでなく自宅にも設置され、当時寮生活を送る学生だった私も、休暇で帰省するたびに利用していました。ベッドに寝ているだけで、体がポカポカと心地よく温まり、まったりと眠くなってくる……。初めて試したときは、その抜群のリラックス効果に驚きました。
ですから、父から院長職を引き継ぐ際にも、磁気治療を継続することに迷いはありませんでした。むしろ高齢化社会、ストレス社会において、磁気治療は非常に価値の高い医療であり、守り続けるべき医療の一つだと思っています。』

ケトン体エンジン

1ヵ月以上前だと思いますが、ニュース番組か健康番組の中で、「脳を栄養する物質はブドウ糖だけではなかった!」という放送を耳にしました。そして、その物質は「ケトン体」というものでした。
「え~!?」と思ったのは、専門学校の授業では、「脳の栄養はグルコース(ブドウ糖)のみ」と繰り返し教わっていたためです。
単糖類の小さなグルコース(ブドウ糖)はグルコース輸送体を使って、脳を守る血液脳関門を通過し、脳に到達して栄養します。一方、多糖類のグリコーゲンは大きく、血液脳関門を通ることはできません。このようにグリコーゲンが脳のエネルギーにはならないことを理解させるため、あえて「脳の栄養はグルコース(ブドウ糖)のみ!」と強調されていたのかもしれません。
ケトン体についてはほとんど知識はなく、ネガティブな印象を持っていましたが、ネット検索でいくつかのサイトに目を通してみると、どうやらそうではないことが分かってきました。そこで、『ケトン体が人類を救う』という本を読んでみることにしました。著者は宗田マタニティクリニックの宗田哲男先生です。

 

著者:宗田哲男

出版:光文社

 

血液脳関門は他の毛細血管に比べ、強固な構造になっており、通過させる物質を厳しく限定しています。これにより、中枢神経系の恒常性を高度に維持します。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

内容は次のようになっています。
序章 本書で伝えたいことのあらかじめのまとめ
第1章 私が糖尿病になったころ
第2章 妊婦の糖尿病に、はじめての糖質制限
第3章 ケトン体物語・前編―学会での非難から、新発見へ
(1)簡易ケトン体測定装置との出会い、そして江部先生からの手紙
(2)私たちのケトン体研究
(3)翌年の学会発表会は、まるで戦争だった!
(4)日本産婦人科学会での発表(2014年3月、東京)
第4章 ケトン体物語・中編―さらに勇気のある妊婦の登場!
第5章 ケトン体物語・後編―こんなにすごい「ケトン体エンジン」
第6章 栄養学の常識は、じつは間違っている!
(1)栄養指導は間違いだらけ
(2)コレステロール悪玉説の終焉
第7章 妊娠糖尿病とはいったい何か―妊娠期の人体が教えてくれること
(1)妊娠糖尿病とはどんな病気なのか?
(2)では、妊娠糖尿病とはなぜ起こるのでしょう?
第8章 さらば、白米幻想!
(1)ヒトは何を食べてきたのか?
(2)白米中毒から脱出せよ!
第9章 学会というおかしな世界―糖質制限批判を考える
(1)日本糖尿病学会誌からのなさけない告発状
(2)糖尿病治療の不思議―マッチポンプの医学
第10章 「たくましき妊婦たち」と「ケトン体」が日本を救う!《体験談》
最終章 ケトン体がつくる未来
(1)ケトン体が人類を救う!―認知症、がん、…etc.への効果
(2)ケトジェニックな医師たち、ケトジェニックの達人たち
(3)Facebookグループの活躍と発展、人気ブログやHPからの発信

ブログでは、主にエネルギーのエンジンとしてのケトン体について書いており、妊娠糖尿病糖尿病
あるいはケトン食など、栄養に関する件については特に触れておりません。そのため、お役に立つを思われるホームページをご紹介させて頂きます。クリックすると該当するサイトに移動します。


宗田哲男先生
宗田マタニティクリニック 
いい、お産したい 

 

江部康二先生
ドクター江部の糖尿病徒然日記  
人類史からひもとく糖質制限食(毎日新聞 医療プレミアムより)

 サッカーファンには、興味深い記事も載っていました。 
 ・長友選手が目指す「ケトン体体質」の利点

 

その他
中鎖脂肪酸サロン(日清オイリオ)

糖質とは
主に生命活動のエネルギーとして働きます
グリコーゲンとして貯蔵されます(グリコーゲンの貯蔵量は数百g。1日で枯渇)。
余った分は脂肪に合成されて貯蔵されます(中性脂肪は数kg。数週間生き延びられる)。
・糖質は3つに分類されます。単糖類は最小単位のグルコース(ブドウ糖)など。二糖類は単糖類が2個結合したもの。多糖類は単糖類が多数結合したもの、グリコーゲンなど。

 

グリコーゲン量算出
・少し脇道にそれますが、retu27.com というサイトに「体内貯蔵エネルギー(グリコーゲン貯蔵量)推測ツール」というものを見つけましたので、ここでグリコーゲンについて補足したいと思います。

体重56kg、体脂肪20%として、計算すると下記の数値が算出されました。
 筋肉量: 22.4kg
 グリコーゲン量: 436g
 グリコーゲン貯蔵エネルギー: 1744kcal
 マラソンに必要なエネルギー: 2363kcal
 [貯蔵エネルギー] - [必要エネルギー]: -619kcal
フルマラソンは42.195kmですので、手持ちのグリコーゲンでは足りず、途中の給水に加え、糖質の補給が必須であることが分かります。
レースでは、たまに35km過ぎあたりで、バテバテ状態となり完走が困難な選手を見かけることがありますが、あれはグリコーゲンが枯渇した状態だと思います。

左の写真は、JogNote(走るなら食べよう!)さんから拝借しました。こちらも素晴らしいサイトです。

栄養素の流れ
以下の図は糖質に脂質、蛋白質を加えた三大栄養素が消化・吸収を経て、どのようなものに変化するのかを説明したものです。
・摂取された栄養素は分解され、エネルギー(主にATP)になります。
・グリコーゲン、中性脂肪、蛋白質などに合成され、エネルギー源として貯蔵されるほか、細胞を構成する成分などになります。
・栄養素などの高分子化合物を単純な低分子に分解してエネルギーを産生することを異化(下図では左→右)、エネルギーを使って物質を合成することを同化(右→左)といい、異化と同化をあわせて代謝といいます。

 

画像出展:「病気がみえるvol3 糖尿病・代謝・内分泌」

ここで大きな疑問が浮かんできます。
①「グリコーゲンは1日も持たないけれど、中性脂肪があれば安心ということ?? 中性脂肪は生活習慣病に関係している悪役だが問題だろう。」
・中性脂肪は運ばれる先によって「皮下脂肪型」と「内臓脂肪型」の2つの肥満タイプに分かれますが、問題となるのは内臓脂肪です。内臓脂肪では、動脈硬化や生活習慣病に結びつく「悪玉」の生理活性物質が分泌される一方、「善玉」のアディポネクチンの分泌は低下します。従って内臓につく中性脂肪は健康にとって明らかに望ましいものではありません。

 

画像出展:「病気がみえるvol3 糖尿病・代謝・内分泌」

②「数百年前の粗食な庶民は、メタボに通ずる大量の中性脂肪など、体内に持ち合わせてはいないだろう!?」
・過剰に摂取した中性脂肪は、エネルギー消費が追いつかないと、脂肪細胞に貯蔵されます。現代では精製された白米やパン、お酒(日本酒やビール)、スイーツ、ソフトドリンクなどにより、糖質は過剰摂取されやすく、その一方で、交通網の整備やエレベータ、エスカレータ、歩く歩道などにより、エネルギーを消費する機会は減りました。
カロリーを燃焼する褐色脂肪細胞運動が活発で、太らないタイプの人も中にはいますが、多くの現代人は糖質過剰に加え、運動不足などの不摂生、過度なストレスなどにより中性脂肪が増加傾向にあり、メタボ予備軍が増えています。それに比べ、質素な食生活に自分の足で移動していた大昔の庶民にとっては、中性脂肪など無縁の話だと思います。


以上のことから、健康にとってマイナスな中性脂肪とは別に、持久力のある健康的な、正統派のエネルギー供給システムがあると考えた方が自然だと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こちらの画像は、東京の新宿にある「ともながクリニック(糖尿病・生活習慣病センター)院長:朝長 修先生」より拝借しました。こちらのサイトも非常に充実したものになっています。

糖質、脂質、蛋白質の代謝
これは、上の「栄養素の流れ」に関し、主な物質と異化同化の流れを現わしたものです。
・図の下部右側にある「アセチルCoA」から「ケトン体」の表記が確認できます。
・左上部の脂肪酸から赤線が出ています。これは、「β酸化」とよばれ、アセチルCoAという物質を経てケトン体を産生します。なお、「β酸化」はミトコンドリアで分解され、回路が一巡するごとに脂肪酸から2個の炭素が除去され、アセチルCoAが1分子産生されるという仕組みです。

 

画像出展:「病気がみえるvol3 糖尿病・代謝・内分泌」

「アセチルCoA」⇒「ケトン体」については、もう少し詳しい図がありました。

 

画像出展:「人体の正常構造と機能」

ケトン体とは
下記の内容は【脂肪が燃焼するとケトン体ができる】に基づいています。2つの図もお借りしました。なお、こちらを書かれたのは、銀座東京クリニックの福田一典先生です。

①肝細胞では、脂肪酸が分解されてできたアセチルCoAの一部はアセトアセチルCoAになり、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoA(HMG-CoA)を経てアセト酢酸が生成されます。そして、一部は脱炭酸によってアセトンとなり、一部は還元されてβヒドロキシ酪酸へと変換されます。このアセト酢酸、βヒドロキシ酪酸、アセトンの3つをケトン体と言います。なお、アセトンについてはエネルギー源にはならず呼気から排出されます(アセトン臭) 。

 

グルコース(ブドウ糖)が枯渇した状態で、脂肪酸が燃焼するとき肝臓ではケトン体(アセト酢酸とβ-ヒドロキシ酪酸)ができます。ケトン体は水溶性で細胞膜や血液脳関門を容易に通過し、骨格筋や心臓や腎臓や脳など多くの臓器に運ばれます。これらの細胞内でケトン体は再びアセチル-CoAに戻され、ミトコンドリアのTCA回路と電子伝達系で使われ、エネルギーとなるATPを作り出します。特に脳にとって、ケトン体はグルコース(ブドウ糖)が枯渇したときの唯一のエネルギー源となります。


絶食時やインスリン欠乏による糖尿病などで、グルコースが利用できない場合、ケトン体が重要なエネルギー源となります。体重60kg、体脂肪率20%の場合、約12kgの脂肪があるので総カロリーは108,000kcalになります。仮に1日の消費カロリーを2,000kcalとすると50日以上生活できるという計算になります。


ケトン体は一部の脂肪酸だけでなく、アミノ酸からも産生されます。

この図は[細胞質]内を表したものです。

画像出展:「銀座東京クリニック

 

こちらの図は[ミトコンドリア]内を表したものです。

ケトン体の安全性
ケトン体のアセト酢酸とβヒドロキシ酪酸は酸性が強いため、ケトン体が血中に多くなると血液や体液のpHが酸性になります。このようにケトン体が増えて血液や体液が酸性になった状態をケトアシドーシスと言います。そして、最も問題となるのが糖尿病性ケトアシドーシスだと思います。
しかしながら、ここで注意すべきは、糖尿病性ケトアシドーシスの原因はケトン体ではなく、インスリン作用の欠乏にあります。断食や糖質制限に伴うケトン体産生の亢進の場合は、生理的なものであり、インスリン作用が正常であれば何の問題もないと言えます。
「病気がみえるvol3 糖尿病・代謝・内分泌」には「糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)」に関して、次のような説明がされています。
高度なインスリン作用不足に、インスリン拮抗ホルモン上昇が加わって生じる代謝失調状態である。糖利用低下、脂肪分解亢進に起因して、高血糖と著しいケトン体の蓄積が生じる。これを受けて生じる脱水とアシドーシスが本態であり、意識障害(重症では昏睡)をきたす。1型糖尿病に多いが、2型糖尿病患者のソフトドリンク多飲によって生じることもある(ソフトドリンクケトーシス)』
そして、以下のような図を使って説明が加えられています。

 この図は、上部には原因となる問題が明記され、[糖はあるが末梢組織は全く取り込めない]という問題が発生。下部にその事態への緊急対応が示されています。

 

エネルギー欠乏に対応すべく動き出すのは肝臓です。シンプルな反応としてグリコーゲン分解が起こりグルコースを増やします。また、興味深いのは脂肪がFFA(遊離脂肪酸)に分解され、さらに「β酸化」とによりケトン体が産生されるルートです。

また、グリセロールも脂肪から分解されたものですが、こちらは「β酸化」ではなく「糖新生」という働きによりグルコースが産生されます。ただし、この緊急対応によって血液酸性化→ケトアシドーシス、および血症浸透圧上昇→脱水というトレードオフの問題点が発生します。

 

注目すべきは「ケトン体」と「グルコース」が並列に明記され、ともに緊急事態へのエネルギー供給で上昇している点です。

 

画像出展:「病気がみえるvol3 糖尿病・代謝・内分泌」

 

宗田先生は著書の中で次のような説明をされています。
『インスリンが不足してグルコース(ブドウ糖)をエネルギーにできない火事の現場で、ケトン体は自らがエネルギーとなって必死に体を助けていました。ケトン体は火事を消そうとしていた消防士だったにもかかわらず、その後もずっと犯人にされてしまったのでした。「糖尿病ケトアシドーシス」とは、本来「インスリン不足高血糖制御不能状態」というべきであって、インスリンを投与して高血糖を抑えればケトン体は消えるが、これは消防士が引き上げて正常任務に戻ったのであり、「ケトン体さんご苦労様でした」というべきところです。』
きれいな例ではないのですが、「便秘」と「胃腸のはたらき」の関係にも似ているように思います。溜まった便は原因ではありません。出るに出られない被害者とも言えます。最初に考えるべきは胃腸の状態です。


残暑の季節

マンション駐車場のうち、私が使っているのは1台だけのスペースなのですが、そこでセミの抜け殻を見つけました。下はコンクリートなので、上から地上に這い出して、このポジションを選択したと思われます。写真上部の土っぽい所が半円状に散らかっている辺りが怪しく、そこから登場したのかもしれません。7月~9月上旬は普通に見られるようなので、少々で遅れ気味ですが、この夏に何とか間に合ったということだと思います。

側弯症は治る

今回のブログは「側弯症は治る!」の内容に基づいています。

 

著書:大塚乙衛氏(大塚整体治療院院長)

監修:青木晴彦氏(青木整形外科院長)

出版:マキノ出版

本は図書館から借りて読んだのですが、「側弯エクササイズ」を理解し、活用したいと思ったため、中古本ですが購入しました。

ウサイン・ボルト選手は196cmの長身に加え、先天性側弯症のため背骨はS字状に曲がっており、アメリカ合衆国のようなスポーツ理論の発達している国であれば、短距離選手になることはなかったと言われています。
ジャマイカにおいては、常識に縛られない新しい発想で、背中、おなか、腰、お尻、そして足の抗重力筋を独自の方法で徹底的な筋力強化を行い、新しい走法を編み出し、100m・200m走で、オリンピック3連覇を達成しました。

 

画像出展:「側弯症は治る!」(マキノ出版)

特発性脊柱側弯症は治る
これは[「側弯症は治らない」という常識がくつがえった瞬間]の冒頭部分の引用です。
『側弯症(特発性脊柱側弯症)で曲がった背骨は、いったん進行すると、何をしても元には戻らない。医学書にはそう書いてあります。医師はもちろんのこと、多くの医療従事者たちも、みなそう信じています。
1997年8月27日。おそらく、私も側弯症の専門家だったら、そうした知識にしばられて、不安そうな面持ちで私の前に座っていたY子さんに何もしてあげられなかったでしょう。しかし、幸いなことに、私はそうした知識とは無縁の存在でした。治す方法がないとされている難病を前にして、素直に考えることができました。「背骨がねじれているのなら、そのねじ曲がっている背骨を真っすぐに伸ばせばいいじゃないか」と。

もちろん、この場合のねじれた背骨を伸ばすというのは、背骨を支えている背中やおなか、お尻の硬くなった筋肉のバランスをよく整えるという意味です。これが私の行っている整体の理屈だからです。背骨を乱暴に押したり、伸ばしたりということでは決してありません。』

 

これを拝見すると、大塚先生の施術は骨や関節に直接アプローチするのではなく、筋肉にはたらきかけるものであることが分かります。これは「手技のみ」と「道具(鍼・灸)を使う」の違いはありますが、本質的には現代鍼灸と同様です。ただし、後から出てきますが、大塚先生は施術に加え、患者自らが行う体操、「側弯エクササイズ」を真剣に取り組むことが重要であり、装具についても十分な配慮が必要であると指摘されています。


医療の現場の問題点
これは[側弯症は手術でしか治せないと思い込んでいる]からの引用です。
『M子さんの話は、決して特殊な例ではありません。状況は多少異なるでしょうが、進行性の側弯症であれば、ほとんど例外なくM子さんと同じコースをたどって、最後に手術を受けるか否かの決断を迫られるのです。実際、私の治療院へ全国から訪ねてくる患者さんの多くがこのパターンでした。
これらの経過を見ていくと、最終的にどこに問題があるのかが明瞭になっていきます。それは、側弯症の治療が「手術の好きな医師」の手にゆだねられていることです。側弯症の場合、整形外科の中でも、背骨の手術を専門としている脊椎外科が治療を担当しているのです。
たとえば、アトピー性皮膚炎や気管支ぜんそくなどの病気は子供に多いので、小児科でも診てくれます。実際、小児科にはそれらの治療の得意な医師がたくさんいます。
ところが、側弯症は子供に発症するのが大部分ですが、小児科で治療されることはなく、主に大きな病院の整形外科のみが担当しています。もし、側弯症が整形外科に限られず、他の科の医師も診ることができたら、状況は大きく変わっていたのではないでしょうか。
整形外科では、保存療法を手術と同等の治療法とは見なしていません。保存とは現状維持のことであり、もともと体操や装具などの保存法は側弯症を治すための方法だとは考えられていないのです。側弯症を治せるのは手術だけというのが、日本の整形外科の基本的な考え方です。』


側弯症は一時的な「機能性側弯症」と不治とされている「構築性側弯症」に分かれています。この本で取り上げられている、「特発性側弯症」は「構築性側弯症」の中の原因不明の側弯症になります。しかしながら、この「特発性側弯症」こそが80~90%の圧倒的多数を占めています。
ところが、現在の医学では、原因が特定できる10~20%の「構築性側弯症」が主役であり、原因不明であるが故に脇役にされた80~90%の「構築性側弯症の中の特発性側弯症」は、十分な調査、研究がなされることなく、通例的に主役と同じ脊椎外科に任されているという印象を持ってしまいます。
従いまして、大塚先生がご指摘されているように、特発性側弯症については小児科でも治療をできるようにすることが有効な対策になると思います。また、特発性側弯症は小児だけでなく、小学校高学年や中学生にも多いとされるため、理想的には、「特発性側弯症専門外来」ができ、優れた保存療法や中長期に渡る装具計画を含めた、個別かつ総合的な治療とリハビリが提供されることがあるべき姿ではないかと思います。


側弯エクササイズの心得
「側弯エクササイズ」は「リラックス体操」と「ドリル体操」から構成されています。詳細は本をご購読頂きたいと思いますが、ここでは「七つの心得」の各項目をお伝えします。

 1.家族で行う
 2.手軽にできる体操ではないことを自覚する
 3.楽しくなるように導く
 4.時間を確保する
 5.体の伸びる力を育てる
 6.継続する
 7.身長を測る
繰り返しになりますが、特発性側弯症の治療において、側弯エクササイズは施術と同等以上に重要なものとされています。

 

そして、効果に関しては冒頭にある[体の「伸びる力」を育てる]をご紹介します。
『本章では、側弯症(特発性脊柱側弯症)治療のために私が考案した体操「側弯エクササイズ」をはじめとする方法が、高い成果をあげている理由を説明します。ただし、これまでの医学ではほとんど考察されていないことにあえて踏み込んで話を進めていきます。これは、すべて私が3500人を超える患者さんから教えていただいたもので、決して独断から生まれたものではありません。
まず、これまでのおさらいをしておきましょう。
私が行っている側弯症治療の目的は、若い人の場合では、ひとことでいえば「体をきれいにする」こと。ゆがんだ体形を改善して、薄着ができたり、水着になれたりするような美しい体に戻すことです。具体的には、肋骨隆起(背中の盛り上がり)や腰部隆起(腰部の盛り上がり)を改善することです。これらの隆起が改善すると、左右の肩の高さが同じになり、ウエストラインの非対称もなくなっていきます。これは多くの症例によって証明された事実です。
ただし、美しい体形に必ずしも背骨の弯曲の改善が伴うとは限りません。もちろん、若い患者さんでは背骨が真っすぐになることも多いのですが、背骨の変形の大きな改善がなくても、肋骨隆起や腰部隆起がなくなると、体形は美しくなります。
一方、中高年の場合、治療の目的は体の痛みから解放されること。その場合、肋骨隆起や腰部隆起などが目に見えて改善されることもありますが、そうならないこともあります。しかし、いずれにしても腰や背中の痛みは大幅に改善されます。また、中高年は背中に隆起があると、隆起のある部分が痛んで、あおむけになって寝ることができなくなります。ところが、側弯エクササイズを実施している人では、隆起のある部位が軟らかくなり、あおむけになって寝られるようになります。
では、これらの目的を達成するにはどうしたらよいのでしょうか。現代医療では、その手段を手術による背骨の矯正に求めています。つまり、背骨を鉄棒でつないで真っすぐにさせようとするわけです。
それに対して、私たちは背骨そのものを真っすぐさせようとはしていません。側弯エクササイズによって、体の伸びる力を育てているのです。背骨の弯曲の改善はその結果の一つだと考えています。
私たちの体を支えている体幹筋(腹直筋、腹横筋、広背筋、脊柱起立筋など)は、重力に抵抗して体を地面に立たせている抗重力筋です。これらの筋肉が伸びたり縮んだりしてバランスよく働くことで、私たちは重力に抵抗しながら、天に伸びるように真っすぐに立つことができるのです。
もちろん、背骨は体の支える支柱として大事な役割を果たしています。しかし、私たちの体を支えているのは背骨だけではありません。抗重力筋の働きも大きな力になっているのです。
ところが、抗重力筋のバランスがくずれ、筋肉が真っすぐに伸びることができず、さらにその働きが衰えると、本来真っすぐ伸びるはずの背骨がねじれてくると考えられます。加えて、脊柱起立筋や肩の僧帽筋が弱いと、頭部の重さを支えられず、弯曲はさらに大きくなります。成長期の子供の背骨がどんどん真っすぐ伸びようとしているのに、それが押さえられたら、軟らかい構造を持つ背骨はねじれて伸びるしかありません。』

 

鍼灸師として特発性側弯症にどう向き合うか
特発性側弯症が不治の病とされる「構築性側弯症」に含まれていることに違和感を感じます。切り離して考えるべきではないでしょうか。
従って、特発性側弯症は不治ではないと考えます。特発性とは原因不明ということですが、下出真法先生が「子どもの背骨の病気を治す 脊柱側彎症と子どもの病気」の中で原因の可能性として示唆された「身体の平衡機能」に注目します。そして、特発性側弯症が小児から思春期までの成長期にみられるという限定された時期に注目します。

つまり、心と体が発達する成長期に、或るきっかけが脳を混乱させ、その混乱が前庭感覚と深部感覚の精緻なコントロールに誤差を生み、真っすぐに伸びていくはずの脊柱に乱れを作るというイメージを頭に入れておきたいと思います。
一方、治療については、筋肉のバランスが非常に重要ですが、筋肉に加え、ボディスーツに例えられる筋膜に対しても適切な施術を行う必要があるのではないかと考えます。

そして、「側弯エクササイズ」をご紹介できるようにしたいと思います。

特発性側弯症と機能性側弯症

今回のブログで参考にさせて頂いた本は、「子どもの背骨の病気を治す 脊柱側彎症と子どもの病気」著者:下出真法氏(講談社)と専門学校時代の教科書「臨床医学各論」(医歯薬出版)です。
ネット検索してみると、側弯症に関する本は思ったより少なく、日本側彎症学会編集の「改訂版 知っておきたい脊柱側弯症」は 2003年12月発行でした。
ただし、日本側彎症学会からは、2013年4月に「側弯症治療の最前線―基礎編」が、2014年7月に「側弯症治療の最前線 手術編」が出版されていました。

 

著者:下出真法氏

出版:講談社

発行は2000年10月です。 

「脊柱側弯症」に対する正しい理解と治療の為に作られました。

側弯症とは 
側弯症は背骨が曲がったり、ねじれたりする状態をいいます。
コブ角が10°未満は正常範囲、10~19°は要定期的観察、20°以上は何らかの治療を要すると考えられています。

X線画像の患者さまのコブ角52°です。

測定は、水平面に対してもっとも傾いている頭側終椎の上縁(このケースでは、第7胸椎)と尾側終椎の下縁(同、第1腰椎)を結ぶ線のなす角度がコブ角になります。

側弯は裸になれば確認しやすいのですが、コブ角30°位でもシャツを着てしまうと見分けるのは困難です。トレーナーやセーターの上からではコブ角50~60°でもなかなか分かりません。また、同じ角度でも、曲がり方や曲がる部位によって目立つ場合とそうでない場合があります。

このようなことから、コブ角40~50°の側弯症になってはじめて気づくこともめずらしくはありません。

画像出展: 「子どもの背骨の病気を治す」(講談社)

側弯症はまず、機能性側弯と構築性側弯の2つに分けられます。そして構築性側弯は原因が特定できる側弯症(症候性側弯)と原因不明の側弯症(特発性側弯)の2つに区別されます。
この3つの側弯症のそれぞれの特徴は次の通りです。
Ⅰ.機能性側弯:一時的に生じた側弯、原因が取り除かれれば側弯はなくなります。
  ・姿勢不良による小児の側弯
  ・脚長差を解消するための代償性側弯
  ・坐骨神経痛などの痛みのための疼痛性側弯
  ・心因性のヒステリー性側弯
  ・筋炎や筋膜炎などによる炎症性側弯
Ⅱ.構築性側弯:弯曲、捻じれに加え、椎間板の変形を伴い元に戻ることはないとされています。
Ⅱa.特発性側弯:原因が分かっていない構築性側弯症  
  ・乳児期側弯症:男児に多く、3歳までに発症
  ・学童期側弯症:性差なく、4歳から9歳に発症
  ・思春期側弯症:10歳~成長期修了までに発症。ほとんどが女児
Ⅱb.症候性側弯:原因となる病気がわかっている構築性側弯症
  ・先天性側弯:半椎など椎体の奇形によるもの
  ・神経性側弯:脊髄空洞症、ポリオなどによるもの
  ・筋性側弯:筋ジストロフィーなど筋肉疾患によるもの
  ・神経線維腫症:フォン・レックリングハウンゼン病によるもの
  ・間葉性側弯:マルファン症候群などによるもの
  ・外傷性側弯:脊椎の脱臼骨折などによるもの
  ・リウマチ性:若年性関節リウマチなどによるもの

 

側弯症の原因疾患については、1987年の全国調査で、原因不明である特発性が79%、先天性が10%、ポリオ、脊髄空洞症など神経性が2%、神経線維腫症が2%、マルファン症候群が2%などとなっています。最も多くを占める特発性側弯では大半は思春期側弯症であり、女性が約80%を占めます。
また、2016年度東京都発行の予防医学年報には、2014年度のデータで、小中学校の生徒を対象に行った側弯度調査でコブ角15度以上の人数は、男子は29,561人中27人(0.09%)、女子は30,306人中335人(1.11%)でした。これによると男女差は10倍以上ということがわかります。
なお、この資料はとても良くできた資料でしたので添付させて頂きました。

ダウンロード
脊柱側弯症検診_東京都予防医学協会年報2016年版第45号.pdf
PDFファイル 6.6 MB

特発性側弯症の原因(「子どもの背骨の病気を治す 脊柱側彎症と子どもの病気」より引用)
特発性側弯症の原因の一つとして古くから身体の平衡機能の指摘がされています。平衡機能というのは身体のバランスを調整する神経機能のことで、脳幹という脳の部分でコントロールしています。この脳幹に異常がおこると側弯症がおこるのではないかといわれています。脳の異常といっても、脳の一部が欠損しているような異常ではなく、成長期にだけおこる平衡機能のわずかな異常が積みかさなって、背骨の成長に悪影響をおよぼし、その結果、背骨が曲がるのではないかと考えられているのです。
 ただ、このような考えも推論の域をでていません。脳幹の一部を破壊された動物の背骨が人間の特発性側弯症に似た曲がり方をしたというかつての動物実験の結果や、特発性側弯症の患者の一部に脳幹を調べる検査で異常を示すことがたまにあるという臨床経験から推論されているもので、脳幹のどの部分のどのような機能に異常がおこると成長期の骨が曲がってくるのかは、まったくわかっていません。今後、脳の機能、特に成長期の平衡機能の研究がすすみ、背骨との関係が明らかにされ、それを評価する新しい診断技術が開発されれば、特発性側彎症の本当の原因も、わかるようになるかもしれません。』

 

この本は2000年10月発行のため最新情報とは言えません。しかしながら、この文章を読んで、昨年12月のブログ「動作法について」の中で「大丈夫! すくすくのびたよ自閉っ子」(花風社)に書かれていた「脳が混乱している状態」ということを思い出しました。


『支援センターからいただいた個別支援計画を見ると、桃子の重点取り組み事項は、「前庭系・固有系をしっかり入れていく」となっている。何のことだかさっぱりわからない。
先生からのお話によると、桃子は、「感覚統合療法を必要とする子ども」なのだそうだ。感覚には、次の三つがあるらしい。
一つ目は、前庭覚である。これに何らかの問題があると、揺れ動く遊具や高いところを非常に怖がったり、誰かに動かされると恐れや不安、苦痛などを感じたりするようだ。いくら回転しても目が回らない、高いところや不安定なところを好む、などの特徴もあるらしい。公園の遊具なども三つ年下の妹は平気で登っているのに、桃子は怖がってできないものがある。桃子は怖がりだなあと思っていたが、原因は前庭覚なのか。また、桃子が椅子に持続して座っていられないのもこのためか。
二つ目は、固有覚である。これに問題があると、すぐ疲れてしまったり、力加減のコントロールが難しかったりするらしい。物をどのように操作してよいかわからず、衣服の着脱がうまくできないこともあるようだ。桃子が不器用なのは、この固有覚のせいなのか。
三つ目は、触覚である。べたべたした感覚が苦手だったり、手をつなぐ、抱きしめられたりするのが苦手だったり、裸足で園庭を歩けなかったりするらしい。散髪や爪きり、耳かきを極端に嫌がる子どももいるようである。以前、桃子はスライムが苦手で、触るのを嫌がっていたが、この触覚に問題があったせいか。そういえば、爪きりも苦手であった。
もし、感覚統合がうまく働かないと、感覚が洪水のように入ってきたり、逆に必要な情報が入ってこなくなったりして、脳が混乱している状態になるのです」と、先生はおっしゃった。』

 

 画像出展:「続 自閉っ子、こういう風にできてます!」(花風社)

私が会った発達障害の児童数はまだまだ多くはありませんが、発達障害を持っていない児童に比べ、側弯症は多いように感じていました。
また、滋賀県立小児保健医療センター小児整形外科のホームページには、発達障害にも位置づけられているダウン症について、次のような記述がありました。
『欧米の教科書には側彎症は約50%の頻度とされています』ただし、こちらの病院では、『それほどの高い頻度ではない様に思います』との記述がされていました。50%という数値はともかく、ダウン症では側弯症が代表的症状のひとつであるということです。

こちらのセンターには「ダウン症外来」があります。

以上のことから、下出先生がご指摘になられた「特発性側弯症の原因と平衡機能」は非常に重要ことに言及されているように思います。

 

 

機能性側弯症の鍼灸治療
機能性側弯症は一時的に生じた側弯とされており、こちらは症候性側弯症とは異なり、鍼灸治療の対象になります。
今までは、背中の脊柱起立筋を対象に面状や棒状、線状の硬結を触診で探し、刺鍼していましたが、今回のブログを書いていく中で、脊柱起立筋をもっと詳しく理解する必要があると感じました。そこで、手持ちの本を見直して重要と思ったものを列挙してみました。
なお、治療においては機能性側弯症の原因を考えることが第一です。また、脊柱起立筋以外では骨盤と脊柱や骨盤と大腿骨に関与する筋肉(腸腰筋、腰方形筋、殿筋群、梨状筋など)に関しても重要だと思います。

 

解剖
脊柱起立筋は中央より、棘筋、最長筋、腸肋筋に分かれますが、これらは1本の筋ではなく数本の筋が集まっています。ただし、「骨格筋の形と触察法」(大峰閣)には次のような説明があります。『腸肋筋は、腰腸肋筋、胸腸肋筋および頚腸肋筋の3部から構成されるが、各々の境界は不明瞭である。また、最長筋も胸最長筋、頚最長筋および頭最長筋の3部から構成されているが、各々の境界は不明瞭である』このように、明確には区分けされていないようです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「3D踊る肉単 」(エヌティーエス)

こちらは、脊柱の高さと筋肉の厚みを確認できる写真です。上位胸椎(下左写真のD:第7胸椎)から頭部に上がっていくと筋は薄い板状になります。


左は、「骨格筋の形と触察法」(大峰閣)より。上からE、F、Gの右端に位置する筋肉が腰腸肋筋です。

右は、「肉単」(エヌティーエス)より。全体像をイメージできるように添付しました。

以上のことから背骨を弯曲させることを考えると脊柱の外側にあって、筋肉量の多い腰部にある筋肉が主役になると思います。
従って、腰腸肋筋の付着部とL1・L2の筋腹を中心に、丁寧な触診により硬結、圧痛点を探し、刺鍼ポイントを決めるというのが治療の基本と考えます。(胸最長筋も決して無視はできません!)

トリガーポイント
伊藤和憲先生の「はじめてのトリガーポイント鍼治療」(医道の日本社)では、脊柱起立筋の中で関連痛を起こしやすいのは腸肋筋であると書かれています。写真にマークされたポイントも腰腸肋筋になっています。この点からもこの筋肉の優先順位を高くすることは妥当であると思います。

 

画像出展:「はじめてのトリガーポイント鍼治療」(医道の日本社)

触察
この写真は「骨格筋の形と触察法」(大峰閣)からのもので、体に直接書き込んでいるのでとても分かりやすくなっています。

これを見て感じることは、腰腸肋筋の外縁は考えているより外側にあるということです。今までは、硬結重視で触診していましたが、意識する筋肉の全体像をイメージした上で、硬結を探すという方法の重要性をあらためて認識しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「骨格筋の形と触察法」(大峰閣)

付記
このブログの下書き完成後、数日して「側弯症は治る!」が入庫したとの連絡メールが図書館から届きました。こちらの本も興味深い内容ですので、次回のブログでご紹介させて頂きます。

心臓リハビリテーション

NHKの「ためしてがってん」で心臓リハビリテーションを紹介する放送がありました。
番組自体は観ることはできなかったのですが、「心臓リハビリテーション」というキーワードが気になり1冊の本を購入しました。私には新しかった「心臓リハビリテーション」も10年以上前から行われているものだということを知り、ちょっと意外でした。なお、ブログは「歩く、昇る、伸ばす からだ若返り法」という本の内容に基づいて書いています。

 

著者:木庭新治氏 

出版:角川MG

健康 STOP突然死!強い心臓をめざせSP
2017年4月19日(水)午後7時30分

2003年頃までは、心臓手術後は安静にするのが一般的でしたが、安静は極度の体力低下を生み、術後の回復を遅らせることが明らかになりました。そして今日では手術の翌日にはベッドの上でのリハビリが行われています。2012年2月に心臓バイパス手術を受けられた天皇陛下も手術の翌日にリハビリを開始されたそうです。

 

心臓リハビリテーションの効果
心臓リハビリテーションとは「軽い運動」を行うことです。木庭先生の評価では25~30%、死亡リスクを減らすことができるとのことです。
これは、心筋梗塞の患者さんが一般的に服用する、抗血小板薬(血液をサラサラにするタイプの薬)による死亡リスク低減が20%と言われていますので、「心臓リハビリテーション」の方がより優れているということになります。しかも、必要な道具さえそろえてしまえば、特にお金を掛けなくても実行可能です。
そして、心臓病だけでなく、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病にも効果があります。さらに体力アップ、免疫力アップにより、個々の健康力を高めることが可能です。

 

心臓リハビリテーションの方法
最初は始めることが何よりも大事だと思います。そして、本格参戦となれば木庭先生のガイドラインに従って挑戦頂くのが良いと思います。
期間:まずは、12週間。これは12週続けると血中脂質が改善されるというデータがあるためです。

頻度:休みは2日まで。3日以上空いてしまうと、前に行った効果がなくなってしまいます。
強度:目安1日15分以上。少し汗をかく程度。ハアハアしない。自分のペースで無理をしない。
運動:ウォーキング、スロージョギング、踏み台昇降など。

雨の日には室内で踏み台昇降を使うという手もあります。このような立派な「踏み台」でなくても良いですが。

画像出展:「歩く、昇る、伸ばす からだ若返り法」 (角川MG)

 

「運動」ができなくても、「生活活動」で体を動かせば同様の効果が期待できます。

METS(メッツ)とは安静時を1とした時に、活動が何倍のエネルギーを消費するかを示したものです。

老化のカギはミトコンドリア
老化とは突きつめれば、細胞の老化です。十分な解明がされていない細胞の老化ですが、最も有力な説はミトコンドリアが鍵を握っているだろうということです。細胞1億個の中に数百のミトコンドリアがあり、体で使われるエネルギーの元(ATP)を作っています。この役割は極めて重要です。

 

軽い運動がミトコンドリアを増やす
細胞内でエネルギー生産の仕事をしているのはミトコンドリアです。そして作られるエネルギーはATPと呼ばれています。

 

画像出展:「20代の大腸がん闘病記」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この図は心臓の筋肉、心筋です。外側の基底膜のすぐ内側に多くのミトコンドリア(紫色)が密集して配列しています。これらは生涯稼動し続ける心臓の収縮運動に必要なエネルギーを提供します。

画像出展:「細胞と組織の地図帳」講談社

ここに一つ問題があります。それは、ATPの製造工程で「活性酸素」が作られてしまうことです。
活性酸素とは「活性」という名前の通り、動きやすく反応しやすい酸素で、どんどん動いて周囲にとりつき、それを酸化させてしまいます。酸化とは、例えば鉄だったら「錆びる」こと。食べ物なら「腐る」ことです。そして、これらの悪事のことを「酸化ストレス」と言っています。
例えは良くないと思いますが、「泥棒」という人を活性酸素とするなら、「空き巣に入って金品を盗む」という悪事が酸化ストレスです。

しかしながら、元気なミトコンドリアは、活性酸素を取締る酵素(SOD)や抗酸化物質(UCP)の支援(中和という作用)により、酸化ストレスに対抗することができます。
ところが、警察官のような役割の酵素や抗酸化物質も加齢により支援パワーが低下するという問題があります。この支援パワーが低下した中で、ミトコンドリアが仕事をすると、活性酸素はこれはチャンスとばかりに、どんどん増え、ついにはミトコンドリア自身も活性酸素の悪事(酸化ストレス)によって、数が減っていきます。これは老化の原因となる事件です。


たばこはミトコンドリアの数を減らします。また、食べすぎ、飲みすぎも消化吸収や栄養素を代謝するために大量のエネルギー(ATP)が必要となり、結果的に大量の活性酸素を発生させます。強い運動も同様に、大量の活性酸素が発生するためミトコンドリアにとっては危険です。
一方、ミトコンドリアを増やすのが軽い運動、有酸素運動です。軽い運動は強い運動と異なり、大量の活性酸素を作り出すことなく、消費エネルギーを増やします。そして、この消費エネルギーは臓器の細胞にたまる異所性脂肪や慢性炎症の原因ともなる内臓脂肪という、深刻な問題につながる悪名高い脂肪を減らします。また、運動により取り込まれた酸素はATPを作る材料になるため、ミトコンドリアのATP生産能力は向上します。
こうして、豊富になったATPにより、今まで15分がいっぱいいっぱいだった人も、20分、25分と運動することが可能になります。この好循環が継続されていくと、ミトコンドリアは更に元気になり、やがてミトコンドリアの数が増えていきます。ミトコンドリアが元気に、活性化していくと、酵素や抗酸化物質の支援パワー(中和という作用)も増大するため、酸化ストレスを恐れる必要はありません。
さらに、運動は体を動かしているときは交感神経が主役ですが、運動を終えたときには必ず副交感神経が働くようになっています。つまり運動をしていると、副交感神経の働きを確実に得られるということになります。ストレス社会で交感神経に片寄りがちな生活習慣を整える意味でも、軽い運動は素晴らしい効果をもたらします。
他にも、善玉(HDL)コレステロールの増加、血圧低下、心拍数の低下、骨密度の上昇などの効果が期待できます。

PPS(ポストポリオ症候群)

ポリオによる運動麻痺をおもちの患者さまがおいでです。

 

ポリオ
ポリオは急性灰白髄炎ともよばれ,ポリオウイルスが中枢神経系に感染して引き起こされる急性ウイルス感染症です。ポリオウィルスには1型、2型、3型があり、感染のタイプは経口感染(飲食物など口から感染するもの)です。
感染者のうち中枢神経症状が出るのは0.5~1%。そして、麻痺型は約0.1%と考えられており、麻痺型には脊髄に問題を起こす「脊髄型」と延髄、橋、視床下部に問題を起こし、嚥下や呼吸などの症状を発生させる「球麻痺型」の2つがあります。多くは四肢や体幹に運動麻痺を発生させる「脊髄型」で、75%以上を占めています。
日本では1940年代の後半頃から1960年初頭に大流行しましたが、1961年に不活化ワクチン接種が開始され新規発生は激減しました。その後、不活化ワクチンの供給量の問題から、経口生ポリオワクチンが採用され、まれに麻痺性ポリオを発症するケースがあり、2012年9月よりポリオの定期接種は経口生ポリオワクチンから不活化ワクチンに切り替えられました。
現在、ポリオの常在国はパキスタン、アフガニスタンの2カ国のみとなり、世界レベルでのポリオ根絶に向けた努力が続いています。

 

PPS(ポストポリオ症候群)
数か月前、患者さまから「PPSになってないか? 気になっている」というお話がありました。

その時、私はPPSの認識・理解が全くなかったため、PPSではなく、PTS(Post Traumatic Stress:外傷後ストレス)のことをだと聞き間違えてしまいました。

患者さまの頑固な首こりは改善され、次なる施術テーマとして「今の状態が維持され、悪化することがないようにしたい」というご要望を頂きました。
大変お粗末な話ですが、この時の学習でポリオによる麻痺が末梢神経性の弛緩性麻痺であり、PPSとはポストポリオ症候群のことであったことを理解しました。

わが国の調査では、ポリオの有病率は人口10万人中、24.1人、ポリオ経験者のPPS発症率はおよそ75%とみられていますが、検診受診者は年々高齢化しPPSと診断される割合は増えています。ポリオ経験者で身体障害者手帳保持者(肢体不自由)が約5万人であることから予想すると、PPS患者は少なくとも約4万人はいると考えられています。

 

発症のメカニズムと治療方針
ポリオウィルスの攻撃で一部の運動ニューロンは死滅します。一方、生き残った運動ニューロンはウィルスに対抗するかのように、生存している軸索と機能を失った筋細胞に再接続し、機能を蘇らせます。そして、完全復活
とはいえませんが筋力は回復します。

安定期は通常15年、20年と続きますが、加齢やオーバーワークなどにより、再び軸索と運動ニューロンに危機が訪れ、ついにそれらが機能不全に陥る時、安定していた筋力は低下や萎縮という問題に直面します。そして、ポストポリオ症候群、PPSの症状が表れます。
例えば、代表的な症状である「普通でない疲労」は新たに起こった筋力低下の影響で、その近辺の末梢神経や筋・関節に余分な負担がかかるためと考えられています。
PPSは、例えると、10人でやってきた仕事を、5人で処理しなければならなくなり、残業の連続で何とか対応してきたが、年齢やストレスから5人の中に体調不良で休みがちになるメンバーが出て、生産性低下の問題が出てきた。という話に似ていると思います。治療方針は、この例でいえば、残され、奮闘努力してきたこの「5人の健康」、本題のポリオの話に戻れば、「死滅を免れた運動ニューロンと過重負担に耐えてきた筋肉」に着目し、必要な栄養などを十分に補給するとともに、オーバーワークを控え、無理のない運動療法によって補強を行なう。抽象的ですが、これがPPS治療の柱になると思います。

 

2016年7月16日の「ポリオの会」定例会で、九州労災病院門司メディカルセンター院長の蜂須賀研二先生が講演された「古くて新しい話題:ポリオ」の資料の中から、特に気になったものを列挙させて頂きます。

『ポリオの会は、ポリオ体験者やご家族、医療関係者、応援して下さる方々の集まりで、 体験者同士の情報交換を主な目的にしています。』


ポリオとは
 『ポリオ後症候群(PPS)の本態は末梢神経の先っぽが壊れて筋が萎縮するということ
疲労感の評価の仕方
・突然の膝折れ、立ち上がりの困難さ、階段昇降、散歩、水溜りを飛び越える動作などでも、

 過去との比較による情報は客観性が高い。
理学的診察
・感覚神経の障害(痺れや知覚鈍麻)はポリオには無いものなので、これがある場合はポリオ

 以外を考える必要がある。
臨床検査
・筋電図のF波:上下肢の神経の伝導速度を測り、F波に異常な波形が出ていないか確認する。

 ※F波とは、電気刺激が中枢側に伝って前角細胞にガツンと当たってまた降りてくる時の波。ポリオは

  前角細胞の障害なので、ここの障害によりF波に何らかの異常が出る。
ポリオ後症候群の治療
・筋力低下対策
 ・廃用予防は活動的な生活を行うこと(過用を避ける)
 ・徒手筋力テスト4(6段階。5が正常で100%、4は75%、0が最下位で0%。「4」は重力

  +ある程度の抵抗に対抗できる筋力)であれば筋トレは可能
 ・遠心性収縮は筋障害のリスクがあるので避ける(筋が縮みながら引き伸ばされる運動で、

  アスリートが瞬発力強化などに用いる手法、プライオメトリクスともいう)。例えば階

  段昇降、山登りなどは遠心性収縮。平地歩行については問題なし!
 ・自分のペース配分を守る
・薬物療法
 ・確立していない。
 ・使いすぎや酸化的ストレスによる悪化には、神経や酸化的ストレス防止として、ビタミ

  ンEやビタミンCが良い。
 ・神経再生促進には、ビタミンB12が良い。
・ライフスタイルの再構築
 ・頑張りすぎない。ただし、生きがいになっているような楽しいことは無理をしない範囲

  でやった方がよい。
 ・適度に休みをいれる(末梢神経障害で再生した筋肉は、筋疲労を生じやすい
 ・補装具を活用して肉体的な負荷を減らす

 

今回のブログは、ポリオとポストポリオ症候群(PPS)の特徴などを知るというものでした。

命題である、患者さまへの治療については、「ポリオの会」の会員になったこともあり、生きた情報を学び、鍼灸治療に反映させたいと考えています。

仙腸関節障害

「月刊スポーツメディスン4月号 No.189」の特集は「アスリートの骨盤を守る」がテーマで、5つの寄稿は次のような内容でした。
1.仙腸関節機能障害の病態…坂本飛鳥氏 
2.3D-MRIに基づく骨盤の歪み(マルアライメント)…小椋浩徳氏
3.骨盤マルアライメントと原因因子の臨床評価…杉野伸治氏
4.骨盤マルアライメントの治療…蒲田和芳氏
5.“挫滅マッサージ”によって出現した副作用について…蒲田和芳氏

 

「月刊スポーツメディスン4月号 No.189」

(ブックハウス・エイチディ)

小椋先生の寄稿の中には、『骨盤に由来する疼痛として知られる仙腸関節障害は腰臀部痛・下肢痛症状を有し、腰痛者の約10~30%程度が罹患していると言われます』とのことが書かれていました。

 

また、“仙腸関節スコア”という判断のための指針には、「座位での疼痛増悪」が指針の中の一つになっています。一方、現在行っている当院の治療では、患者さまから「座っているのがつらい」とのお話があった場合、筋肉へのアプローチとして、体幹伸筋群で深層にあり脊柱と骨盤にまたがる多裂筋を中心にした治療を行っています。多裂筋は以下のように位置的なものだけでなく、骨盤の高さでは厚みのある大きな筋肉であり、着目する筋肉としては間違ってはいません。ただし、骨盤の歪み(マルアライメント)という視点も重要で、考慮するべきではないかと感じていました。


画像出展:【左】「肉単」(エヌ・ティー・エス)    【右】「骨格筋の形と触察法」(大峰閣)

このような背景から今回のテーマとして取り上げたのですが、何をどうまとめるかについては、かなり難しく、悩んだ末に骨盤と仙腸関節に関する基本的な理解を高めることと、従来型腰痛と仙腸関節由来の腰痛との鑑別ができる知識をもつことを目的として進めることにしました。


仙腸関節由来の腰痛
・腰痛は1934年にWilliam Jason Mixterと Joseph Seaton Barrによる椎間板ヘルニアの報告以来、多くは椎間板が原因と考えられるようになりました。それ以前は、仙腸関節が原因というのが整形外科医の常識だったのですが、その発見以来、流れは大きく変わりました。
そして、現代の画像検査技術の進歩により、MRI画像の所見でヘルニアと腰痛との関係性が不確かであることが明らかになり、あらためて仙腸関節が注目されるようになりました。

 

骨盤
・骨盤は左右の寛骨と仙骨・尾骨とでつくられる「骨の器」です。前方は恥骨結合によって軟骨性の連結をしています。一方、後方は仙骨と寛骨とが仙腸関節をつくり、仙腸靱帯・仙棘靱帯・仙結節靱帯によって強く固定され、画像では確認が難しい3~5mmほど動くのみです(これを半関節といいます)。
これは骨盤が体の重さを1本の脊柱から2本の脚(下肢)に伝える支持骨格であると同時に、「骨の器」の中に膀胱・子宮・卵巣・直腸などの臓器を収める保護骨格でもあるため、高い安定性を求められたことにより作られた構造といえます。
そして、わずかに動く半関節であることは、骨盤にかかる力をうまく逃がすクッションの役割を担っています。



画像出展:【上段】「人体の正常構造と機能」(日本時事新報社)

     【下段左】「イラスト解剖学」(中外医学社)

     【下段右】「経絡マップ」(医歯薬出版)

仙腸関節
日本仙腸関節研究会の代表幹事である、村上栄一先生は仙腸関節をビルの免震構造に例え、『日常生活の動きに対応できるよう、根元から脊椎のバランスをとっている』とされ、さらに次のように説明されています。
『人類が四足から二足歩行になる過程で最も変化したのが骨盤構造である。上半身(体重の約2/3を占める)を支えつつ、地面からの衝撃を仙腸関節が数ミリの可動域で緩和している。 解剖学的に、荷重を受ける椎間板や股、膝、足関節の関節面は全て荷重線と直交し、衝撃緩和には不利な構造である。その中で、唯一荷重線と平行なのが仙腸関節である。これは衝撃緩和の主役が仙腸関節であることを示している
そして、仙腸関節の問題点について補足されています。『少ない可動域の関節に不意や過度の負荷が加わると、関節に微小な不適合(仙腸関節障害)を生じやすく、その痛みの多くが関節後方の靭帯に由来すると考えられる』


・下記は免震構造を紹介した図です。ビルの地下で地震による地盤の上下左右捻じれの動きをこの免震構造が吸収します。確かに脊柱をビルとすれば、免震構造に相当する骨盤が機能しないと、地面からの衝撃は脊柱を通じて上半身にある各臓器にまでおよび、健康への影響が懸念される事態が生じます。

一方、免震構造の力を吸収する、積層ゴム、空気ばね、スライダー(せん断力伝達装置)は骨盤でいえば、靱帯、筋・筋膜、結合組織などの軟部組織に相当します。従って、仙腸関節ではこれらの軟部組織がきわめて重要な役割をしており、過度な負荷は組織を傷つけ、炎症を起こしたり硬くなる等の原因となり機能低下を発生させます。

 

画像出展:「構造計画研究所」

“仙腸関節スコア”
仙腸関節障害と腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などとの鑑別をするためのもので、村上栄一先生、黒澤大輔先生が開発されました。
1.指さしテスト
患者に人差し指を使って、痛みがある場所を指してもらいます。指した場所がPSIS(上後腸骨棘)上か、PSISから2cm以内の場所であれば陽性と判断します。
2.鼠径部痛
鼠径部に疼痛があるかどうか尋ねます。ある場合は陽性と判断します。
3.座位での疼痛増悪 
背もたれなしの椅子座位にて、疼痛が増悪する場合を陽性と判断します。坐骨支持での座位姿勢では、仙腸関節が開くため、仙腸関節障害がある場合、疼痛が出現・増悪すると考えられています。
4.誘発テスト(ニュートンテスト変法)
腹臥位(うつ伏せ)をとり、検査者の手掌は患者の腸骨翼におき、仙腸関節をスライドさせるように押します。疼痛が出現したら陽性と判断します。
5.圧痛
触診する前に、閉眼にて、親指を使って4kgの圧で押す感覚を練習します。3回閉眼にて実施し、4kgで押す感覚を取得したら、実際にテストします。親指で4kgの圧で両側のPSIS(上後腸骨棘)と仙結節靱帯を圧迫し、疼痛の有無をみます。疼痛が出現したら、陽性と判断します。

 

画像出展:「月刊スポーツメディスン4月号 No.189」(ブックハウス・エイチディ)

 

自律神経失調症

自律神経失調症のことは、それなりに知っているつもりでしたが、この本を読んで自分の理解が心もとないものだったことが分かりました。今回も、本の内容に則して概要をまとめたいと思います。なお、『』内は本文からの完全な引用です。

 

『「心臓は私達が意識していなくても適切に拍動を続け。全身に血液を送り続ける」、「胃は食べ物が降りて来たら、すぐ動き出して食べ物を砕き腸へ送る」。これら内臓の働きは自律神経が調節しているのです。当たり前のように私達は思っていますが、自律神経がもしヘソを曲げたら、内臓の営みは崩れてしまうのです。』

 

著者:渡辺正樹

出版社:南山堂

自律神経とは

循環、呼吸、消化、分泌、排泄、体温調節など、基本的な生命活動(自律機能)の維持に働いている神経系を自律神経系といいます。

 

自律神経系は内臓、心筋、平滑筋、腺など、ほぼ全身に分布します。

 

自律神経系は、生体の恒常性(ホメオスタシス)の維持に重要な役割を果たしています。

 

 

 

画像出展:「病気がみえる vol7 脳・神経」(メディックメディア)

自律神経には交感神経と副交感神経の2種類あり、互いに相反する役割を担っています。

交感神経は「エネルギーを消費する変化」を、副交感神経は「エネルギーを確保する変化」を担います。

画像出展:「病気がみえる vol7:脳・神経」(メディクメディア)

自律神経失調症とは
自律神経失調症は交感神経が強いか、副交感神経が弱くなるか、いずれかの状態で、それにより内臓が十分な休息をとれない事態になることです

その結果、動悸、立ちくらみ、ふらつき、発汗過多、血圧上昇(変動)、片頭痛、肩こり、手足の冷え、易疲労など多彩な症状が出現します。
原因不明、内臓に問題があり、しかも精神的なストレスが強いとなると、自律神経失調症と診断される症例は少なくありません。このことは、自律神経失調症が不定愁訴の受け皿になっているためと考えられます。

 

発症のメカニズム
1.ストレスが脳の疲労を生む
ストレスは身体的要因と精神的要因があります。前者のストレスは、身体への負担により、知らず知らずに蓄積されるものです。睡眠不足などの生活に関わるもの以外に、寒すぎる、暑すぎる、騒音がうるさいなど環境面によるストレスも含みます。一方、精神的なストレスは「イヤ」という感情によって生まれるもので、通常、ストレスはこの精神的なものを指している場合が多いと思います。
これらがまず脳にダメージを与え、脳の疲労が生まれます。身体は元気でも、脳(精神)は疲れ果てているということもあります。そして、脳の疲労はまず「不安」として現れます。全般性不安障害、強迫性障害、パニック障害、うつ状態などは、不安が脳の中に広がった状態であり神経症と呼ばれています。

注)以降に添付されている画像はすべて、「自律神経失調症を知ろう」からの出展です。


2.脳と内臓を結ぶ自律神経
脳の下方に位置する視床下部や脊髄から、自律神経が電線のように伸びて、体内の内臓が円滑に動くように指令が出されます。生命維持には末梢神経である自律神経の働きが不可欠です。脳に疲労が溜まっても、自律神経が正常なら疲労は身体へは伝わりません。
交感神経が副交感神経を圧倒した状態では、体内でエネルギーを蓄えることができず、身体は少しずつ消耗していきます。つまり、自律神経失調症が長く続くということは、身体のエネルギーがどんどん少なくなっていくということです。そして、その影響が最も出るのは脳です。脳は約1.5kgしかない臓器でありながら、体全体の20%もの酸素を使います。つまり、自律神経失調症は大食漢の脳にとって特に深刻であり、自律神経失調症の更なる長期化の原因にもなります。


 

 

 

 

 

 

 

 

左の2つの図は、脳の疲労だけであれば、疑われるのは「神経症」

これが体内の内臓に及んでしまうと「自律神経失調症」の可能性が高まります。

自律神経失調症と片頭痛
・首こり、肩こりが原因の筋緊張性頭痛と異なり、片頭痛は脳周辺の血管の異常な収縮と拡張のギャップで生じる拍動性の頭痛で、一般に月に1~2度の頭痛発作が襲ってくる傾向があるとされています。青少年期にみられる自律神経失調症によることが多いと考えられています

 

片頭痛の患者さんは、ストレスなどのために、日常的に血管は縮み気味です。

自律神経失調症と認知症
中高年の自律神経失調症では認知症との関連性に注目すべきです。アルツハイマー病は脳内にアミロイドというタンパク質の変性した物質が蓄積して、神経細胞を障害するために発症する疾患です。本来は溜まるべきでないアミロイドというゴミが脳に溜まるのは、副交感神経の働きである体外への排泄機能が低下するからとも考えられます。さらに交感神経が強くなると、脳内で活性酸素が産生されやすくなるため、神経細胞に与えるダメージが増幅されます。

 

 

「加齢」と「メタボ」はアミロイドを脳に蓄積させる原因になります。

自律神経失調症への対応
1.生活習慣からのアプローチ
仕事をしている人にとって、生活習慣を見直すということは容易なことではありませんが、心がけて欲しい4つの対策をお伝えします。
・自然食品を食べる
精神安定剤では自律神経は治せません。むしろ魚貝類などに多く含まれるビタミンB12の摂取が有効です。
・スローライフに戻る
スローライフとは時間に追われない生活スタイルです。歩く時間を増やす、朝型生活に変える、ゆっくり食事する、ゆったり入浴するなど、一つでも変えることができれば素晴らしいと思います。
我慢しないで吐き出す
副交感神経は体内の老廃物や分泌物などを吐き出す働きをする神経です。日頃あまり弱音を吐かず頑張っている人は副交感神経もおとなしいのではないかと思います。笑い、泣く、怒るという感情を抑えすぎないということが大切です。
休息を恐がらない
忙しい人にとっては難問で、工夫する必要がありますが、特に50歳を越え「疲れがたまって抜けないなぁ。」と感じることがあるとすれば、積極的に有給休暇を取ってリフレッシュすることを考えてください

2.「もくもく」と「ワクワク」
ストレスに強くなるための脳内物質セロトニンを増やすには、「もくもく」と作業を続けること
ストレスを力に変える脳内物質ドパミンを増やすには、積極的に楽しいことを行うこと
セロトニンは疲労した脳、特に古い脳である大脳辺縁系を直接癒し、ドパミンは大脳の前頭葉を元気にし、それにより大脳辺縁系を癒す効果があるとされています。


頚筋症候群(頚筋性うつ)

不安や強いストレスがあると頚に痛みが出やすい患者さまがおいでです。また、心臓の関連痛ではないかと気にされていました。
一般的には心臓病の関連痛は左肩から左手(小指)に出るとされていますが、もし、心臓病による関連痛だとすると、鍼灸治療は適切ではないため、念のためネットで調べてみました。すると、例外的に頚に関連痛が出ることもあり、完全に否定することはできないようですが、通常では考えにくいということが確認できました。

では、頚に症状が出る疾患や病気は何かないかという視点で、あらためて調べてみると、
「パニック障害」、「不安神経症(全般性不安障害)」、そして「うつ病」、これらと頚のこりや痛みとの関連性について、「書き込み」や「情報提供」が数多くあるのを見つけました。
特に印象的だったのは、著書を数多く出版されている、松井病院および東京脳神経センターの理事長でもある、松井孝嘉先生の「頚筋症候群(頚筋性うつ)」というものでした。

東京、大阪、福岡、横浜、大宮などに「すっきりセンター」という提携治療院があるようです。

調べてみると『新型「うつ」原因は首にあった!』という、まさにこのタイトルの本が出版されていたため、購入して読んでみることにしました。『』内は本文からの100%引用です。

以下の内容は特に重要な部分と思います。

頚筋症候群の発見と治療法の確立
『首のこりが原因で起こるうつ症状「頚筋性うつ」について理解していただくために、ここでは「頚筋症候」を発見したきっかけと治療法の確立に至るまでの経緯、症状発生のメカニズム、首の構造、首のこりなどについて述べましょう。
私は、1968年からムチウチ症の研究をライフワークとして続けてきました。なぜなら、それまでの医学界の常識では「首の筋肉が原因で起こる病気はない」といわれており、そのなかで唯一、ムチウチ症だけが「首の軟部組織の異常から起こる病気なのではないか?」と疑われていたからです。
私は、30年間さかのぼって、世界のムチウチ症の研究発表を調べました。しかし、首の筋肉が原因でムチウチ症が起きたという発表も、首の筋肉を治療してムチウチ症が治ったという発表もありませんでした。
ムチウチ症は、首の痛み、頭痛、めまい、耳鳴り、吐き気などの症状を引き起こします。うつ症状を伴うこともあり、患者さんはこれらの不定愁訴に悩まされながらも、根治する治療法を見つけられないまま病院を転々とし、症状を抑えるような一時しのぎの薬物療法を受けていました。症状が少し良くなったところで、あきらめざるを得ないというのが現状でした。
「これらの不快な症状を根本的に治療する方法を見つけたい」と研究に没頭しました。そして1978年、ムチウチ症でさまざまな不定愁訴が出ているのは、首の筋肉が異常を起こし、二次的に神経(主に自律神経)に異常が起きているのが原因であることを突き止めたのです。』


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うつ症状」の精神症状だけをとらえ治療を試みても、「頚筋症候群」から発生した自律神経の問題、数々の不定愁訴を起因とする「頚筋性うつ」の場合は、大きく治療内容が異なるため、いつまでも改善されないという事態に直面します。

画像出展:「新型[うつ]原因は首にあった!」(大和書房)

「首のこり→身体症状→精神症状」の順に症状は出る
頚筋症候群は、首のこりからくる頚筋の異常が自律神経を失調させ、さまざまな不定愁訴を引き起こす病気です。首の筋肉に異常があると、頭痛、めまいと自律神経の症状、つまり不定愁訴が出てきます。不定愁訴を全身に抱えた状態が長く続くと、そこから二次的にうつ症状である頚筋性うつが誘発されるのです。
ここで、頚筋症候群の主な症状、症状のメカニズムについて述べておきましょう。
交通事故や転倒などにより頭部に外傷や衝撃を受けたり、うつむき加減の姿勢を続けたりすると、首の筋肉へ過度な負担がかかり、疲労して過労状態となり、変性が生じて、さらに硬縮を起こします。それにより、頚筋症候群の三大症状である、頭痛、めまい、自律神経失調症が起こります。
自律神経失調の症状は、いわゆる不定愁訴と呼ばれるもの。症状には、静かにしているのに心臓がドキドキする心悸亢進、血圧の不安定、暖かいところに長くいられない体温調節障害、いつまでも続く原因不明の微熱、下痢や便秘、腹痛などの胃腸障害、涙の量が減って目が乾燥するドライアイなどがあります。
また、全身がだるくなる全身倦怠感、吐き気、異常に汗がダラダラと出る発汗異常、目が見えにくくなる視力障害、瞳孔が開きっぱなしで閉じない瞳孔拡大、天気が悪くなり始めると調子が悪くなる症状の天候依存、手足が冷えているのに、頭がのぼせて顔が熱くなる冷えのぼせ、胸が苦しく圧迫されているような感じのする胸部圧迫感もあります。
こうした不定愁訴が全身に出てくる状態が長く続くと、うつ症状、つまり頚筋性うつが出てきます。頚筋症候群では、比較的軽度の状態では不定愁訴がたくさん出て、重症になると、うつ症状が出てくるのです。同じように二次症状として、パニック障害、慢性疲労症候群も起こります。』

 

頭の重さはスイカ1個分とのこと。そう考えると、確かに首への負担は想像以上です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「新型[うつ]原因は首にあった!」(大和書房)

交感神経です。いわゆる「闘争」や「逃走」など、戦うピリピリした時に活性化する神経です。そして、副交感神経です。こちらは「リラックス」した状態の時に活発になります。

交感神経の神経核は体の「胸部」、「腰部」の高さの脊髄から出ているため、胸腰系とも呼ばれます。一方、副交感神経は「脳」と「仙骨部」の高さの脊髄から出るため、頭仙系と呼ばれます。

頭と体の架け橋である頚が、過労やダメージ等により筋が硬くなった場合、特に副交感神経に影響を与えることは、この図からも想像できると思います。

 

 

 

 

 

画像出展:「人体の正常構造と機能」(日本医事新報)

首の上半分は、脳の一部
『首の筋肉は、複雑に寄り合わさるようにして、頚椎を囲んでいます。
頚椎の中心の芯にあたる部分に脊髄があります。脊髄は脳から背骨の中を通って伸びている中枢神経です。脊髄から末梢神経や自律神経が出て、身体中のいろいろな部位にはり巡らされています。人間の身体を動かす脳のさまざまな指令は、脳からこの脊髄を通って全身に伝わります。脊髄の上部は脳とつながっているため、構造的には脊髄は脳が下に伸びた部分であり、人間の脳と体をつなぐ大切な役目を果たしています。この脊髄を首の位置で保護しているのが頚椎です。そして、頚椎の間から神経根と一緒に出て、末梢神経の一部となって消化管や心臓など体中に分布しています。
自律神経は、身体全体に神経ネットワークを巡らしていて、自分の意思とは関係なく、内臓や血管などの働きをコントロールし、消化や呼吸、発汗などを促し、運動神経や感覚神経以上に大切な神経です。自律神経は交感神経と副交感神経から成り立っていて、この二つの神経がバランスよく働くことで、身体を健康的に維持します。
首の筋肉が異常を起こすと、この自律神経に影響を及ぼします。首の筋肉の異常が、どのように自律神経に影響を及ぼすのかについては、まだ完全には解明されていませんが、私の臨床でのたくさんの患者さんが実際に実証してくれました。
首、とくに首の上半分の筋肉異常が自律神経失調を起こすことが私の臨床経験でわかってきました。そして、常に交感神経が強く、副交感神経が弱くなってアンバランスな状態になります。首は、人間の身体のなかで、脳と身体の各部位をつなぐ唯一の架け橋です。脳の指令を身体の各部位に伝える、脳の一部ともいえる大切な器官です。それだけに、複雑かつ繊細な構造になっていて、トラブルを起こしやすいともいえるのです。 私たちが、首のこりを器質的疾患として取り組む理由はここにあります。』


画像出展:「経絡マップ」(医歯薬出版)

誤診されやすい関連した病気
1.初老期のうつ
2.若年性アルツハイマー、認知症状
3.パニック障害
4.仮面うつ
5.更年期障害
6.男性更年期障害(燃え尽き症候群)
7.慢性疲労症候群
8.線維筋痛症

 

鍼灸師として
本文の中に「首こりを治す最新の物理療法」の解説が出ています。これを拝見すると概要は以下のようになります。
治療は東洋医学と西洋医学を併用させたものである。
・一人ひとりの症状に合わせたオーダーメイドの治療である。
・定期的に再診察を行い、症状の経過をみながら、首の治療ポイントを変えていく、ピンポ

 イント治療を行う。
・筋肉の深いところにも効果がでる特殊な【低周波治療器】(2種類)を用いる。
・低周波治療器の治療中に【遠赤外線】で首を温める。
・補助的に神経を調整する【ビタミンB】を点滴する。また、我慢できないほどの激しい痛

 みを伴う場合、対症療法として一時的に痛みを鎮静させる薬や注射を処方することもある。
・長年の研究から見つけ出した首のポイントに【(電気)】を打つ。このポイントは東洋医

 学の経絡のツボとは異なる。

 

本1冊を読んだだけでコメントすることは、適切ではないかもしれませんが、「首のこり」を取る、筋肉を緩めるという点に着目すれば、この4つ(【低周波治療器】【遠赤外線】【ビタミンBの点滴】【鍼】)の中で、【鍼】は重要な位置づけになるだろうと思います。どのポイントに鍼をするかが生命線ではありますが、鍼灸師は「頚筋症候群(頚筋性うつ)」の治療に大きく貢献できると思います。

ここから先は、特に鍼灸師の方向けに書いています。

医道の日本社が1986年4月に発行した「創刊500号記念特集-特集:圧痛点による診断と治療及び指頭感覚-」は鍼灸師にとって、目から鱗が落ちるような内容をたくさん含んだ、154名のベテラン鍼灸師や医師などによる寄稿で、A5サイズではありますが、763ページからなる力作となっています。その中には首/頚を取り上げているものもあり、今回はその中から、6つをご紹介させて頂きます。

 

時々、オークションに出品されています。

井垣博夫氏:「圧痛(反応)点の重要性と実際」
パーキンソン病の振戦麻痺患者のT1~T2左外方1㎝(大杼の脊柱寄り)に筋硬結部があり、これを緩解させたところ(単刺でまとわりつく感じが取れない場合は置鍼)、数日後に振戦が止った。これが意味するところ(理論的理解)を求め色々な資料に目を通していたところ、大村恵昭教授(Oリングテストで有名)の脳循環に関する記述を見つけた。これは「首および肩に異常があると80%以上のケースが脳循環に異常があると出ている(医道の日本469号)」と話され、Oリングテストでは椎骨動脈の診断点としてC6棘突起外方をあげている。今回経験した反応点はこの椎骨動脈の診断点よりかなり下であるが、振戦麻痺の原因が脳の特定部位の変性(黒質等)によるものであり、脳の血液循環は重要な意味をもっていると考えられる。従って、この刺鍼が何らかの機序をもって脳の血流異常を正常化する方向に働いたものと推測される。


角貝醸計氏:「後頭部に出現する硬結圧痛による診断と治療」
現代医学的に後頭部と脳の循環について…脳の循環は総頚動脈から分かれた内頚動脈(分岐部は頚動脈三角に当たる。頭蓋底で頚動脈管を通ったのち頭蓋腔に入る)と鎖骨下動脈の枝である左右の椎骨動脈の吻合してできた脳底動脈とが大脳動脈輪をつくる。そこから、前・中・後大脳動脈が出て脳に血液を供給する。つまり、脳に血液を供給する椎骨動脈は、天柱、風池、完骨の下側を通り脳底蓋より脳に入る。従って、この天柱、風池付近の硬結は脳に血液を送る大変重要な血管を圧迫し、虚血現象を起こす原因となる。
後頭部、天柱、風池、完骨付近に出現する硬結・圧痛の治療法…いずれも頚椎に向かって斜め45°の角度で刺入するとグリグリとした骨状の硬結に触れる時、ゴム粘土状の硬さの硬結に触れる時など、患者の病態によって所見に違いがあるが、多くは天柱の深部に硬結に触れる。寸3 1番鍼を目的の硬結付近まで鍼先を静かに進め、ゆっくり雀啄し、気持ちよい微かに重い響きを発生させる。これで抜鍼し、これを2、3回行うと硬結は消失する。慢性的に硬く全体が緊張している時は5~10分置鍼するとよい。この部位は血管、神経が数多く分布し、大変敏感な所なので細い鍼で丁寧を行うことが基本である。


城戸勝康氏:「圧痛点による診断と治療」
臨床家が時に見逃してるブラックホールともいうべき大穴…頚部は頭部と全身をつなぐ、文字通りネックとなる要所であって、組織解剖学的な見地からも神経系(体性神経や自律神経)、血管系(頚動脈や椎骨動脈など)、筋肉系という軟部組織の多重構造を持つ要部である。中でも胸鎖乳突筋の前後、筋腹中央、後縁の縦ラインは神経支配、血管分布、自律神経節という点から、最も重要なところであろう。この点については「霊枢」第二本論篇にも見られる通りである。すなわち、人迎、扶突、天窓、天容、天柱、風池などをピックアップすることができる。胸鎖乳突筋周辺のこれらの穴はよく反応を現すばかりでなく、刺鍼部位としても著効をもたらす要穴である。なお、主な適応例を上げると、頚肩腕症候群、自律神経失調症、高血圧・低血圧、歯・耳・喉等の疾患、頑固な肩こりなどである。


高島文一氏(医師):「圧痛点による診断と治療」
頚部、後頭部の天柱付近の圧痛を静かに圧を加えながら慎重に探る必要がある。この場合左右何れかに圧痛が著明であると、その半側の躯幹部の膀胱経に相当する部分に圧痛を認めることが多い。臀部の仙腸関節部から外下方にかけての圧痛は、同側の肓門、志室の圧痛、更には天柱の圧痛と連動することが多く、階段の昇降、山歩きなどの後にみられる。ところが一側の天柱、肝兪、肓門、志室に圧痛がありながら仙腸関節部から下肢の承扶、殷門、委中、飛揚、豊隆にかけて反対側の圧痛を認める事がよくある。比率は50%をこえるのではないかと思われるが、これらは躯幹と下肢の対称性を示すものと思われる。


橋本正博氏:「診断点治療点としての圧痛」
「霊枢」の本輪篇(第2)と根結篇(第5)に頚部周囲にあたる経穴として盛絡穴をとらえている記載がある。任脈を基準として、一次から七次の督脈に至るまでそれぞれの頚部穴を構成しており、面白いことは手足の陽脈の盛絡穴が比較的隣同士で仲よく並んでいることである-任脈…天突、足陽明(一次の脈)…人迎、手陽明(二次の脈)…扶突、手太陽(三次の脈)…天窓、足少陽(四次の脈)…天容、手少陽(五次の脈)…天牖、足太陽(六次の脈)…天柱、督脈(七次の脈)…風府-。おぼえやすく選穴しやすく、応用にはもってこいの経穴を構成している。この頚部の盛絡穴の主な筋肉系は胸鎖乳突筋と僧帽筋で直立生物たる人間が腰部と頚に負担のかかる最重要地点の一つにもなっている。また、人間の活動面での重力の場であり、疾病成立の主要部でもある。顔部の五器官の酷使と熱脳、それを支柱とする頚筋は注目すべき位置を占める。この盛絡穴の圧痛を診察することによって、証決定の有力な診断の一つになりえることであり、同時に、治療穴と直結する情報を我々に与えてくれるものがある。病症(主訴)と脈診は診断の決定権をもっているのであるが、証決定の思案にくれるとき、頚部の圧痛点、頚部の盛絡穴圧痛診察法は大きな助けとなりうるものである。


福島弘道氏:「反応点と指頭感覚」
この部は手足三陽経が、欠盆より胸腔腹腔内に入り、諸臓器に歴絡している。また、ここより分かれた枝は、頭部、頚部の臓器、即ち、眼・耳・鼻・口腔・咽頭等に絡っているので、言うならばこの部は経絡流注の重要点である。西洋医学的にも、深部に頚腕神経叢や自律神経の星状神経節があり、この影響下に現われる病症を頚肩腕症候群、或いは交感神経反射症候群などと称して、上肢や胸内、及び腹腔内の諸内臓に複雑な影響を及ぼす所となっている。また、星状神経の反回ニューロンは、広く頭部顔面部の眼・耳・鼻・咽頭等の諸器官に影響を及ぼしている。従って、鍼灸家に縁の深い肩凝り、頭重や上肢の疼痛・痺れ感、或いは動悸・めまい・むかつき・不眠・イライラ等の不定愁訴は、この部に入念な処置をすることによって特効を上げることができる。この他、肺・心等の胸部内臓の慢性症や、消化器、婦人科疾患等の難症痼疾は、この部の所見を的確に処理することによって好成績を上げることが出来るものである。その内、婦人科、肝胆疾患は右側に多くあらわれ、心臓疾患は左側に現われるが、その他総ての病症は現在苦痛を訴えている側、或いは両側に現われるものである。

悪玉タンパク質

ヒトの体は水分が最も多く、成人では50~70%と言われています。そして、次に多いのはタンパク質でおおよそ15~20%です。コラーゲンは総タンパク質の約1/3もあり、筋肉よりも多いとされています。申すまでもなく、タンパク質はなくてはならない物質です。
ところが、その不可欠なタンパク質が、時に原因不明の病の材料になってしまうことが多々あります。以下はその代表的な疾患です。

 

画像出展:「タンパク質の一生」(岩波新書)

何故こんなことになるのか? 何が起きているのか? どうしたら避けられるのか? 

ということを以前から疑問に思っていました。
先日、他の本を探していたときに、ふと「タンパク質」のこの疑問を思い出し、2008年と少し古い本ですが、「タンパク質の一生―生命活動の舞台裏」を買って読んでみることにしました。

 

著者は永田和宏氏です。

わかったこと
何故起こるか、何が起きているのかという疑問は、アミノ酸を1個の部品(例えば自動車のハンドル)とすれば、タンパク質は部品が集まったユニット、そしてユニットが集まった製品(自動車そのもの)であるため、時に、組立工程での間違い、前工程の設計段階で起きていた間違い、間違った部品が納品されていたなど、単体の部品ではない、部品の集合体の製品だから、問題が起きやすいということに気が付きました。
明確なルールはないようですが、一般的には50個以上のアミノ酸で構成されたものはタンパク質というようです。ちなみに血液に含まれるヘモグロビンはアミノ酸574個から出来ています。

 

画像出展:「国立研究開発法人産業技術総合研究所」

 

消化の話はここでは関係ないのですが、タンパク質という大きな分子が、様々な消化液によって、ポリペプチド→オリゴペプチド→ジペプチド→アミノ酸という小さな分子に分解されることを確認頂くために掲載しました。

 

画像出展:「人体の正常構造と機能」(医事新報社)

そして、最も気になっているタンパク質が原因物質とされている病は、「フォールディング異常病」とされています。つまり、タンパク質という製品を組み立てる際の組み立てミスということです。正確には、フォールディングとはアミノ酸を巧妙に折り畳んでタンパク質の構造を作っていくプロセスのことをいいます。

何故、このプロセスで問題が発生するのかは明らかになっていませんが、原因とされているのは、熱、細菌感染、炎症、活性酸素、紫外線、飢餓、低酸素状態などのストレスです。なお、フォールディングに失敗したタンパク質は凝集する傾向があり、凝集したタンパク質は細胞にとって非常に有害なものとなります。
下図の中に書かれた「分子シャペロン」は、タンパク質が正常な構造・機能を獲得するのを介添えするのですが、その対象は細胞内タンパク質では約30%といわれています。

また、HSP(Heat Shock Protein)は「ストレスタンパク質」と呼ばれ、その働きは「分子シャペロン」と同じ「介添え人」です。違うのは平常時に作られて機能しているものが「分子シャペロン」、ストレス条件下にさらされた際に機能するのが「ストレスタンパク質」ということになります。

 

画像出展:「国立研究開発法人産業技術総合研究所」

「フォールディング異常病」の原因とされるストレスを避けることができないとしたら、それらに強くなる耐性をつけることが求められます。1つの答えは免疫力を高めることだと思います。
また、それに関連して自律神経のバランスを整えることも同様に必要です。このように考えると、「過度なストレスと乱れた生活習慣を見直し、適切な睡眠・食事・運動を心がける」という対策に導かれてしまいます。

新しい治療法に向けて(本文からの引用です)
『こうした病態は、従来の遺伝病の概念からは理解できない新しい概念である。ある特定の遺伝子に変異が起こり、それによってそのタンパク質の担っていた機能が損なわれるために病気になるというのが、大きく考えれば従来の遺伝病の考え方であった。もちろんそれにはおさまりきれない病態は数多くあるわけだが、この最後の章でみてきた病気は、それらとは大きく様相が違っている。特定のタンパク質の機能が損なわれたのではなく、そのタンパク質の機能とは関係なく、そのタンパク質の不安定性のためにタンパク質の凝集体を作り、それが細胞に毒性を与えることによって神経細胞脱落などの症状を呈することになるというものであった。フォールディング異常病という命名は、そのような病因を端的に示している。
これらを見てみると、タンパク質の品質管理が生命体にとっていかに重要かということに改めて注目しないわけにはいかない。フォールディング異常病、そして遺伝病としてだけでなく、プリオン病のような、DNAを介さない新しい感染症の様態も見え始めてきた。
ファールディングや品質管理は、タンパク質が正しく働くために精緻に構成された細胞のシステムであるが、そのシステムは、当然のことながら、うまく働いているあいだは私たちの目に止まることは比較的少ないものの、いったんそれが破綻すると、あるいは品質管理機構がオーバーフローすると、目に見える病態として私たちの前に立ち塞がる。それは元々が私たちの身体の一部を構成しているタンパク質であるだけに、その治療が難しいのである。それは、ある意味ではがんの治療が難しいのに似ている。
がんも元をただせば、私たちの個体を構成していた細胞に何らかの変異が生じて、悪性化したものである。抑制が効かなくなってどんどん増殖してしまうという困った特質、またその細胞本来の機能を喪失しているという性質の他は、私たち自身の細胞と変わるところは少ない。だからこそ、他から侵入してきた細菌などを攻撃するようには、うまくがん細胞だけを殺すことができないのである。抗がん剤などによる化学療法では、正常細胞を殺す副作用と折り合いをつけながら治療しなくてはならなくなる。
フォールディング異常病の場合も、元々は体内にふんだんにあるタンパク質が「違法化」していくのであり、現段階では、それらに特異的な治療法をみつけることは困難な状況にあると言わざるをえない。その有効な治療法のためにも、フォールディングの特質をより深く知り、また品質管理の機構をより詳細に研究することは、将来におけるそれらの疾患の克服のためには避けて通ることのできない重要なステップなのである。』

Muse細胞と自然治癒力の関係を考える

数日前、夜のニュース番組だったと思いますが、「Muse細胞」という我々の体内にあって、組織などの修復のために働いてくれる細胞のことが放送されていました。
ノーベル賞を取ったIPS細胞、物議をかもしたSTAP細胞、そして今回のMuse細胞と、創薬や再生医療などの発展に期待できるものが新たに出てきたことは、とてもありがたいことです。
今回のMuse細胞がもっている治療効果は高いとされており、血液の中を移動し、傷害臓器で生着して、その組織に応じた細胞に自発的に分化するとのことです。そして、遺伝子導入などの高度な操作を必要としない庶民的なもののようです。
「天然」かつ「手軽」とは失礼な言い方かもしれませんが、こうなると、東洋医学でいう、自然治癒力との関係を考えてみたくなります。

 

そこで、ネット検索により3つの論文を見つけました。この中から東北大学大学院の出澤真理先生がご講演された、第50回日本人工臓器学会大会 特別講演 「ヒト生体に内在する新たな多能性幹細胞 Muse細胞:細胞治療、予後の判断、創薬、病態解析への展開の可能性」、2013年の「人工臓器42巻1号」から概要をご紹介し、その後、自分なりの考えを付け加えさせて頂きたいと思います。なお、ネットで見つけた論文はいずれも興味深いものなので添付させて頂きました。
Muse細胞は成人ヒトの皮膚、骨髄などの間葉系組織から採取可能である。生体の間葉系組

 織の場合、例えば骨髄液では、3,000個の骨髄単核球細胞のうち1細胞の割合で存在する。
・生体内でのMuse細胞の局在を組織学的に検討すると、真皮、脂肪組織や他の様々な臓器で

 は結合組織内に孤立性・散在性に存在し、特定の組織構造との関連はみられなかった。ま

 た、市販の間葉系の培養細胞では、多少の増減はあるものの大体1%ないし数%程度の割合

 で含まれている。
Muse細胞は生体に投与されると組織修復機能をもたらす:ヒト細胞を拒絶しない免疫欠損

 マウスを用いて劇症肝炎、筋変性、脊髄損傷、皮膚損傷などの様々なモデルを作製し、GFP

 で標識したヒトMuse細胞を尾静脈から投与すると(ただし皮膚損傷の場合は局所注入を行

 った)、移植4週後でMuse細胞は傷害部位に生着し、肝細胞、筋細胞、神経細胞、角化細胞

 にそれぞれ分化することが確認されている。
 このように、投与されたヒトMuse細胞は生体内で損傷部位を認識して生着し、機能的な細

 胞に分化すること、さらに三胚葉性の細胞に生体内でそれぞれ分化することが示された。
 一方Muse細胞を除いたヒト間葉系幹細胞、すなわち非Muse細胞群を同様の方法で生体に投

 与しても、Muse細胞で見られたような損傷組織への生着や各組織の細胞への分化は観察さ

 れない。従って、Muse細胞は損傷部位を認識し、組織を構成する細胞となりうる組織修復

 機能を持つが、Muse細胞以外の間葉系幹細胞にはこのような機能が備わっていない、すな

 わち間葉系幹細胞移植においてこれまで見られてきた組織再生、組織修復はMuse細胞が担

 っていると考えられる。

 

画像出展:「IPS Trend」(科学技術振興機構)

自然治癒力(現代医学的解釈)とMuse細胞
・東洋医学では自然治癒力を高めるとは、からだの気・血・津液のバランスを整えるというこ

 とですが、これをベースにすると、話を進めることができないため、現代医学的解釈をもっ

 て考えたいと思います。
 鍼による機械刺激は、細胞レベルのダメージを伴うため、血液流出の確認後、問題なければ

 直ちに損傷組織の復旧作業が開始され、修復材料の酸素と栄養素を運ぶ血液の流れを増大さ

 せます。一方、「闘争モード」は穏やかな「休息モード」に切り替えます。これは交感神経

 優位に偏っていた状態を副交感神経を高めるということです。自律神経の統合中枢である視

 床下部は、内分泌系(ホルモン)を総合的に調節する重要な中枢でもあるため、内分泌系に

 とっても好材料になります。
 さらに、副交感神経を優位な状態にすることができれば、免疫を担当しているリンパ球が増

 加することになり免疫力が向上します。
 話はそれますが、「口内炎」の付記のところで鍼治療効果、自然治癒力についてコメントして

 います。口内炎の修復が早まるということは、損傷部の粘膜細胞の再生がスピードアップする

 ことを意味していると思いますが、ここで、Muse細胞の「傷害組織に生着し分化する」とい

 う機能が発揮されていると考えることは不自然ではないように思います。鍼の機械刺激による

 細胞レベルに起きた損傷を、Muse細胞活性化のためのストレスであると考えれば、この点も

 辻褄は合います。
 いずれにしも、あくまで想像の世界で結論には至らないのですが、鍼灸師としては、鍼効果

 の一つにMuse細胞の活性化があるという事実を期待したいと思う次第です。

 

交感神経の緊張はリンパ球の減少に加え、顆粒球の増加をもたらし、その結果、無差別攻撃を行う活性酸素によって、問題のない組織の破壊を生みだしてしまいます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「安保徹の病気にならない免疫のしくみ」(ナツメ社)

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パーキンソン病の音楽療法と歩行の筋肉

パーキンソン病のマネジメントと最新リハビリテーション」というブログの中で、「パーキンソン病に効くCDブック」という本をご紹介していますが、今回はその件と、歩行における筋肉という2つを取り上げています。

 

左の写真より新しい本が、2012年6月発行の「パーキンソン病に効く音楽療法CDブック」 (ビタミン文庫) になります。

 

1.パーキンソン病の音楽療法
音楽療法の研究が開始されたのは1997年で、その後、国際シンポジウム「Science for music」など国内外で発表が行われ、2000年には英語の論文として報告されています。そして、2002年には「第2回パーキンソン病フォーラム」での講演で大きな反響があり、現在に至っています。

パーキンソン病は歩行障害を伴いますが、視覚や聴覚などの外部からの刺激により、歩数や速度、歩幅が改善されます。ここにはパーキンソン病がもつ脳内の歩行リズムの障害という問題が存在しています。
聴覚、音によるリズム刺激は、脳内の歩行リズムの正常化を狙っており、歩行訓練を行わなくても、音楽を聴くだけで歩行が改善されることを目指しています。
これは、1分間に120回のメトロノームが刻む一定のリズムに、クラシックや童謡の旋律にのせた音楽を聴いてもらうことにより、一定のリズムが脳を刺激し、その結果歩きやすくなり、さらに気分も明るくなるという効果を得ています。

 

格安の中古本でCDは付属していない商品でした。

約してしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「パーキンソン病に効くCDブック」(マキノ出版)

視覚刺激の例としては、例えばすくみ足の起こりやすい患者さまは、目の前に一定の間隔でを引いておけば、スムーズに歩くことが可能です。また、平地を歩くのが難しい患者さまでも階段は問題ない場合もあります。足がすくんでいるときは、会議などで使うレーザーポインターなどで足元に光線を照射し、それを目印にすると足が前に出てきます。
このような、階段光線などの視覚刺激に脳が反応し、それらを指標にすることで、歩行リズムが整ってくるというわけです。そして、リズムが整うと、外部からの刺激がなくてもある程度は歩けるようになります。
また、「1、2、1、2」と号令や手拍子など、一定のによるリズム刺激に合わせて歩くと、すくみ足が起こりにくく、歩行に調子もついて歩きやすくなります。つまり、脳は視覚だけでなく、聴覚の刺激にも反応し歩行リズムを整えることができます

 

次は、音楽療法の実験についてのご紹介です。
対象者は25名(男性10名、女性15名)、平均年齢70歳、ヤール重症度Ⅱ~Ⅲ度、病歴平均7年というパーキンソン病の患者さまに対して行われた調査結果です。

 

 

ヤール重症度を説明した表です。

パーキンソン病は厚生労働省が定める特定疾患の一つであり、ヤール重症度がⅢ以上の場合、医療費の補助が受けられます

 

 

 

画像出展:「パーキンソン病に効くCDブック」(マキノ出版)

歩行速度…音楽療法開始前は平均50.0m/分だったが、終了後は平均58.2mに、改善率は20.7%

      なお、5%以上改善は19人(75%)、10%以上は14人(56%)だった。
歩幅…音楽療法開始前は平均41.7cmだったが、終了後は平均47.2cmに、改善率は20%
1分間の歩数…音楽療法開始前は平均117歩だったが、終了後は平均120.8歩に、改善率は4.2%
また、実験結果の分析により、歩行状態が良くない人ほど、改善率が高いこと。前向きな気持ちになることが実証された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「パーキンソン病に効くCDブック」(マキノ出版)

2.歩行の筋肉
歩行では膝を上げる筋肉と骨盤を安定させる筋肉が重要な働きをしています。前者は股関節屈曲を担当するインナーマッスルとして有名な腸腰筋で、後者は中殿筋というおしりの筋肉(殿筋)の一つで、上層の大殿筋と下層の小殿筋にはさまれています。
また、この両筋は筋肉の酷使などで発生するしこり(トリガーポイント)により、腰部に関連痛を起こす原因筋にもなります。つまり、腰痛の治療においては、腰背部の筋肉だけでなくこの2筋への治療も見逃すことはできません。 そして、同じくとても大切な筋肉が大腿四頭筋と呼ばれる太ももの大きな筋肉です。
以下の表は、歩行を支える下肢の筋肉群について、それぞれの筋肉がどのような働きをしているかをまとめたものです。
大腿四頭筋は、上体を前方に移動させる際に膝折れを防ぎ、そしてまた、膝関節への衝撃を吸収するという非常に重要な働きをしています。大腿四頭筋はその名の通り、4つの筋で構成され、前面に大腿直筋、内側に内側広筋、外側に外側広筋、そして大腿直筋の下で大腿骨に付着している中間広筋となっています。
この4つの筋肉の中で、伸展モーメント(膝を伸展させる力)が最大なのは中間広筋で、40~50%をカバーしていると考えられています

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリックして頂くと拡大されます。上段は「推進力の生成」、下段は「歩行時の衝撃の吸収」で、上から足関節、膝関節、股関節となっています。また、筋肉は表の左端から大腿四頭筋(中間広筋)、前脛骨筋、ヒラメ筋、腓腹筋、股関節外転筋群となっており、最後がアキレス腱です。

表の図は大腿部の断面です。これを見ると表面の皮下脂肪と大腿直筋を合算した厚さはかなりあることが分かります。一般的には、大腿骨までの深さは男性では6cm程度とされており、その深さを参考に適した鍼を選択することが大切です。

パーキンソン病患者さまで、大腿部の硬さが著しく痛みも伴う場合は、この中間広筋への処置が非常に重要と考えており、この場合の置鍼時間は20~30分を目安にしています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「アトラスとテキスト 人体の解剖」(南江堂)

慢性炎症について

脂肪は冷えである。という認識でいたのですが、「脂肪は慢性炎症の原因」という記事をネットで見つけて以来、「どっちだろう?」と疑問に思っていました。そして先日、同じくネットで以下の記事を目にしました。

左をクリックすると、『脂肪慢性炎症の引き金となる分子を同定』という記事が確認できます。

こうして、1冊の本を購入して勉強をスタートさせました。
拝読させて頂いたのは、生田 哲(いくた さとし)先生の『青魚を食べれば病気にならない 万病の元「慢性炎症」を防ぐ』です。その、まえがきとなる「万病の元 慢性炎症の発見」は、インパクトのある内容となっていますので、先生のプロフィールに続いて、その「まえがき」をご紹介させて頂きます。
ちなみに、冒頭の「脂肪は冷え」に関しての疑問ですが、【皮下脂肪】は冷え、慢性炎症に関係するのは【内臓脂肪】。ということになります。

なお、今回の内容は以下の通りです。

・まえがき
・炎症について(炎症の定義とプロセス)
・慢性炎症の原因と特徴

・炎症の局面「攻撃」と「治癒」
・慢性炎症と心筋梗塞
・慢性炎症と糖尿病
・慢性炎症とがん
・付記1:非ステロイド消炎鎮痛剤の問題点 
・付記2:東洋医学における「熱」

 

生田 哲:1955年 函館市生まれ。東京薬科大学卒業。

がん、糖尿病、遺伝子研究で有名なシティ・オブ・ホープ研究所、カルフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)、カルフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)などの博士研究員を経て、イリノイ工科大学助教授(化学科)。

まえがき

『わたしたち日本人が苦しむ病気といえば、がん、心臓病、糖尿病、アルツハイマー病、アレルギー性疾患がその代表である。これらの病気の発生する原因は、個別に深く研究されてきた。研究者は、みずからの専門性の中だけで、すなわち、仲間うちで情報交換し、他の分野との交流はほとんどないに等しかった。
がん専門の研究、心臓病専門の研究、糖尿病専門の研究、アルツハイマー病専門の研究、アレルギー性疾患専門の研究…というふうに。
たとえば、がんの専門家は、がんは遺伝子のミススペリング(突然変異)で発生すると主張する。心臓発作は、血管の内部に蓄積したコレステロールでできたプラーク(塊)が大きくなり、血液の通りを悪くすることで発生すると理解されてきた。要するに、心臓病は「配管の問題」とされ、配管を詰まらせるとされたコレステロールを下げることが声高に叫ばれてきた。
糖尿病は、血糖が異常に高くなることで発生し、インスリンの効きが下がることが原因であることまではわかっていたが、この段階でとどまっていた。
アルツハイマー病は、脳の神経細胞が急速に死んでいくことで記憶を失うことがわかっていたが、神経細胞の死ぬ原因は諸説あって確定していなかった。
どの専門家も、彼らの専門性の範囲内で細分化された深い研究にいそしんできた。当然、論文が山のように発表されてきた。学問研究はミクロの世界で飛躍的に向上したが、人の健康の増進にはあまり役立たなかった。
しかし、1990年代半ばに心臓病の分野に画期的な発見があった。突破口を開いたのは、ハーバード大学のポール・リドカー教授である。彼は、それまで配管の問題とされてきた心臓発作は、じつは、血管の炎症によってプラークが破裂することで発生することを明らかにした。
これで、心臓発作の発症者の半数が正常なコレステロールレベルの人であるという矛盾も、プラークがそんなに大きくなくても心臓発作が起こるという不思議な現象も説明できる。血管の炎症によるプラークの破裂が問題であるからだ。
この発見を突破口に、各国の医学部でそれまでバラバラに研究を進めていた、心臓、慢性関節リウマチ、がん、アレルギー、神経を専門とする科学者たちは、はじめて互いに話し合うようになった。そして彼らは、自分たちが共通の原因を追跡していることを発見した。それが「炎症」だったのである
ケガをしたときや病原体に感染したときに発生する炎症は、傷を負った組織を修復した直後、あるいは、病原体をやっつけるとただちに止まる。しかしこれが止まらずに、知覚できない程度に低いレベルでいつまでもつづくのが、「慢性炎症」である。
慢性炎症は、健康な神経細胞や組織や血管に長期にわたって傷つける。脳の神経細胞を殺すとアルツハイマー病、血管の炎症が止まらないと心臓病を引き起こす。また、遺伝子にダメージを与えるとがん、インスリンの効きを悪くすると肥満や糖尿病が発生する
がんの152万人、糖尿病の237万人、虚血性心疾患の81万人、慢性関節リウマチの34万人、ぜんそくの89万人、高血圧の797万人、肥満の約2300万人、花粉症の約2000万人。これは、わたしたち日本人を苦しめる病気と患者数だ。そのうえ、慢性の病に苦しむ人は毎年のように増えつづけている。』

炎症について
炎症といえば、普通は急性炎症をさすと思います。「はれる」、「赤くなる」、「痛い」、「熱っぽい」などの特徴がありますが、「炎症の5主徴」として定義されています。

 

「医学の父」、「医聖」などと呼ばれるヒポクラテス(BC460〜BC377)は、炎症のことを「phelegmone(燃えるもの)」としました。

4主徴から「機能喪失」が加わり、5主徴となったのは、紀元後2世紀の頃です。

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「痛みと鎮痛の基礎知識」(技術評論社)

炎症は、「生体組織に何らかの有害な刺激を起こす物質(起炎物質)が作用したときに、生体が示す局所の反応であり、生体防御反応の一過程である。」となるのですが、重要なポイントは、炎症には「攻撃」と「治癒」の二つの局面があるというところです。
攻撃

免疫系が体に侵入してきた病原体と戦います。痛み、腫れ、発熱し、赤みが発生します。
治癒

病原体と免疫との戦いで受けた損傷を治癒させます。健康を維持する鍵となります。

 

3つの絵のうち、上段は外敵からの侵入を察知し、戦闘準備に入る様子。

中段は激しい戦い、下段は戦い後の様子で、きれいに掃除し元のように戻せれば健康を完全に取り戻すことができます。

家の中と同じで、後片付けがしっかりできていれば面倒な問題は発生しません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「青魚を食べれば病気にならない」(PHP新書)

ここで、炎症のプロセスを整理したいと思います。
病原体の侵入を防ぐ防衛網
病原体の侵入を防ぐ防衛網は1つではなく、何層にもわたって敷かれています。1層目は皮膚です。皮膚は抗菌性物質を放出してバクテリアの侵入を防ぎます。皮膚におおわれていない眼、口、鼻には粘膜が張りめぐらされ、バクテリアを捕らえて破壊し、血液の流れに入らないように阻止します。


侵略者をみつけ全身に知らせる監視部隊
病原体が第1線の防衛網をかいくぐり、血液の流れに入ったとすると、体の結合組織の中にあって敵の監視を担当する肥満細胞がヒスタミンを放出することで警報を鳴らし、侵略者の存在を全身に知らせます。さらに肥満細胞は多くの物質を全身に送り、侵略者との戦いのために援護を要請します。これに応えて免疫系は白血球を地上部隊として戦場に送り込みます。なお、ここでいう侵略者とはバクテリアやウィルスなどの病原体だけでなく、がん細胞など体内で発生した異物も対象となります


白血球が侵略者を僕滅する
地上部隊の白血球は、その役割ごとに主に4つの小隊に分かれています。
B細胞
 特殊なタンパク質から抗体とよばれる武器を使って、バクテリア、ウィルス、毒素を捕らえ悪行

 を阻止します。
好中球
 寿命が3日しかない好中球は短期決戦になります。武器は強力な活性酸素で、あたか

 もクラスター爆弾のように周囲に存在するすべてを抹殺します。
マクロファージ
 食細胞といわれるマクロファージは大蛇のように、侵略者に近づいて一気に飲みこみ、活性酸素

 や酵素を使って分解してしまいます。
T細胞
 血液中に逃亡したり、組織の中に潜む侵略者を追跡し、容赦なく破壊します。まるでSWATのよ

 うな働きですが、状況によっては、より適した白血球に援軍を要請することもあります。

慢性炎症の原因と特徴
・炎症をコントロールするエイコサノイドには、「炎症性エイコサノイド(燃やしのエイコ)」
と「抗炎症性エイコサノイド(火消しのエイコ)」が存在し、この2つのバランスが健康維持には非常に重要です。慢性炎症は病原体を撃退した後や、傷が治癒した後に炎症という爆撃が完全に停止されず、くすぶり続け、健康な細胞、組織、血管へのダメージが終結せず続いている状態です。
・慢性炎症は穏やかであり、脳に痛みのシグナルを送る神経細胞の末端を刺激するほどの強さはあ
りませんが、最近の研究の積み重ねからさまざまな方法で体に深刻な障害を与えることが判明しています。長年にわたって深く進行し毒薬のように身体に忍び込み、細胞分裂、免疫系、心臓、脳などの主要な臓器に影響を与えます

「火消しのエイコ(抗炎症性エイコサノイド)」が過剰であれば、慢性炎症には罹りにくいものの、攻撃力が落ち、感染症を防いだり、回復させたりするパワーが低下し、そのリスクが高まります。

一方、「燃やしのエイコ(炎症性エイコサノイド)」が過剰になれば、慢性炎症が深く静かに進行に慢性の病気を招くことになります。

 

 

画像出展:「青魚を食べれば病気にならない」(PHP新書)

注)「エイコサノイド」は生理活性物質(動物体内で産生され微量で生理・薬理作用を示す物質)の、ホルモン・神経伝達物質・サイトカイン以外の総称である「オータコイド」の1つで、不飽和脂肪酸の代謝物の総称です。

生田氏は著書の中で、エイコサノイドを「ホルモン」とされていますが、調べた範囲ではホルモンと定義しているものはなく、ホルモンと同じく生理活性物質の中の「オータコイド」としているケースが多く見られました。

また、オータコイドはホルモンのように血液を介して全身に影響を及ぼすことはなく、局所的に作用するものです。半減期もホルモンが数分~数十分と長いのに比べ、オータコイドは数秒~数分と考えられています。ちなみにドパミンやアドレナリンなどの神経伝達物質の半減期は1秒以内です。

炎症の第一の局面「攻撃」
・病原体が体に侵入してときに最初に反応するのは、免疫細胞である白血球の好中球やマクロファ
ージで、病原体を飲み込み猛毒の活性酸素を使って分解します。

「燃やしのエイコ(炎症性エイコサノイド)」は炎症プロセスを促進するアクセルの働きをし、好中球やマクロファージを戦場に速く送り込めるように血管から外へ出やすくします。さらに、免疫系に関わる細胞に炎症性物質を放出させるので炎症は激しさを増します。戦場に到着した免疫細胞は、病原体や病原体の攻撃で被害にあった組織を破壊します。
主な炎症性エイコサノイド(燃やしのエイコ) 
 ・プロスタグランジン

  傷口のそばの血管を拡張することによって、血管中の白血球が戦場にすばやく辿りつけるよう

  にします。このとき、血管から漏れ出てくる血液によって、組織は腫れて赤くなり、痛みのシ

  グナルを脳に送信する神経細胞の末端を刺激し、痛みを生じさせます。痛みは不快なものです

  が、それ自体が体を守るための強力なメッセージになっています

  また、酸分泌を抑制したり、粘液の分泌を促して粘膜を保護するという働きもしています。消

  炎鎮痛剤の服用で胃腸症状が出てしまうのは、このプロスタグランジンに対して、一斉攻撃を

  加えているためです。
 ・ロイコトリエン

  その役割は、白血球を援助することです。まず、白血球を呼び寄せ、駆けつけた彼らに戦場の

  位置、出陣すべき兵隊の人数を伝えます。これは攻撃によって発生する戦場周辺の問題ない細

  胞や組織の破壊を最小にするようにコントロールするためです。これをロイコトリエンが担当

  しています。

  また、白血球に敵を攻撃するための活性酸素の使用を許可し、そのうえ、白血球の寿命を格段

  に伸ばすという役割もしています。

 

炎症の第二の局面「治癒」
「治癒」こそが本当の意味での「抗炎症」ということになります。「抗炎症エイコサノイド(火

 消しのエイコ)」はブレーキ役となり、第一の「攻撃」によってダメージを受けた組織などを

 元通りに戻します。
・治癒のプロセスはリコール、掃除、再生、修復という4段階から構成されています。
 ①リコールは、免疫系の戦いを止めることです。副腎皮質から抗炎症性物質であるコルチ
ゾール(ストロイド)が放出され、「炎症性エイコサノイド(燃やしのエイコ)」による攻を止めます。

  ②掃除は、まだ戦場に散乱してる攻撃で使用した武器を取り除き、戦場をきれいにするこで、担当するのはマクロファージで、飲み込んだ病原体の残骸や傷ついた組織、戦場に漏出た赤血球などは、すべて活性酸素で分解されます。マクロファージの働きが不十分で、戦場に残骸が残ると弱いながらも炎症は続いてしまいます

  ③再生は、損傷を元に戻す作業です。血管壁が再びつくられ、できた血管の中を流れる血が酸素と栄養素を運び込み、ダメージを受けた組織の再生が始まります。
 ④修復は、新しい組織が生まれる、治癒の最終段階です。傷跡は組織が正しく配列されす
修復された場合に見られますが、これは「抗炎症エイコサノイド(火消しのエイコ)」が十分に機能しなかったために起こります。
主な抗炎症性エイコサノイド(火消しのエイコ)
 ・リポキシン

  「炎症性エイコサノイド(燃やしのエイコ)」を調整する(減らす)パワーは、コルチゾール

  よりもずっと強力です。

  また、コルチゾールとは異なり、「抗炎症エイコサノイド(火消しのエイコ)」を停止しな

  いという特筆すべき大きな利点を持っています。さらに、新しい組織を秩序立てて再構築する

  のに必要な成長ホルモンを放出させます。

ここからは、慢性炎症と「心臓病」、「糖尿病」、「がん」の関係を、本文からの完全引用にてご紹介させて頂きます。
慢性炎症と心臓病
『なぜ、心臓発作が起こるのか。多くの医師は、心臓発作を次のように理解してきた。年月がたつにつれて、脂肪が動脈の血管の内部にじわじわ蓄積していき、これが塊(プラーク)となって、血流を流れなくする心筋梗塞が起こり、その先の心筋の組織が壊死し、心臓発作が発生する、と。
プラークの大部分はコレステロールでできているから、血液中のコレステロールレベルが高くなれば、心臓病のリスクが高まるはずである。しかし、ここに問題がある。それは、すべての心臓発作の50%は、コレステロールが正常の人に発生すること、そして、心臓発作を防ぐことでは最高の薬であるアスピリンは、コレステロールレベルを少しも下げないことである。
さらに、最新の画像研究からわかったことは、心臓発作を発生させやすい、もっとも危険なプラークは、大きなものではなくて、破裂しやすいものである。これを「ソフトプラーク」と呼んでいる。そうなると、心臓発作にはコレステロール以外の別の因子がかかわっていることになる。それは、いったい何なのか。
今から150年以上も前の1848年、ドイツの著名な病理学者ルドルフ・ウィルショーは、心臓病で亡くなった患者の心臓を丹念に調べ、「心臓病は炎症である」と発表した。しかし、彼の鋭い洞察はまったく注目されることなく、埋もれてしまった。当時、炎症の有無や程度を測定する有効な手段が存在しなかったからである。
一方、血液中のコレステロールは、測定する方法があったので、たちまちのうちに心臓病の原因に祭りあげられた。
その後、炎症と心臓病を関連づける研究は、しばらくとだえていたが、1970年代に、ワシントン大学のラッセル・ロス教授が、心臓病は炎症が原因で起こると主張したことで、生物医学界で論争を呼んだ。しかし、このときすでに、高コレステロールが心臓病のおもな原因であると声高く叫ばれていたため、ロスの主張は聞き入れられなかった。このときもまた、炎症、とりわけ慢性炎症を測定する精密な手段がなかったため、コレステロール値の低下が心臓病を予防するための金科玉条とされたのである。
そしてついに1990年代になって、ハーバード大学のポール・リドカー教授は、CRPを慢性炎症の程度を測定する血液中の指標(これを血液マーカーと呼ぶ)として開発し、血液中のCRPが高まると心臓発作のリスクが4.5倍に跳ね上がる事を発見した。CRPは炎症のマーカーであるが、それと同時に炎症を発生させる炎症性物質でもある。そして、CRPは最強の炎症性物質であるIL-6(インターロイキン-IL6)から作られている。』

慢性炎症と糖尿病
『炎症、インスリン抵抗性、過剰な体脂肪の三者は切り離せない関係にある。
脂肪細胞は免疫細胞と同じように、炎症を強力に推進するIL-6とCRPを放出する。そして、放出されるIL-6とCRPは脂肪量に比例する。言い換えると、太れば太るほど、慢性炎症は激しさを増す。
細胞は、インスリンのはたらきによってブドウ糖をその内部に取り込んで利用することで生きている。しかしIL-6は、細胞がブドウ糖を取り込むのを妨げる。つまり、IL-6は、インスリンの効きめを弱めるのだ。これでは細胞は困る。この細胞のピンチを救うために、膵臓は、さらにインスリンをつくり、血液中に大量に放出する。こうしてインスリンが血液中に大量に存在するが、今ひとつ効きめが薄い状態となる。これがインスリン抵抗性で、長引くと、2型糖尿病が発生しやすくなる。
また、過剰のインスリンは、ブドウ糖を脂肪細胞に取り込ませ、体脂肪を増やす。上述したように、脂肪組織はIL-6やCRPを放出するから、炎症は悪化することになる。
では、炎症が先なのか、それとも増加したインスリンが先なのか。わたしは、炎症が原因であると信じている。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「青魚を食べれば病気にならない」(PHP新書)

慢性炎症とがん
『がんと炎症は密接に関係している。まさかと思われるだろう。第一線の科学者でさえこの事実をまだ理解していない人が多いくらいだから、無理もない。しかし、発がんの研究で著名なカリフォルニア大学のブルース・エームス教授は、約30%のがんが慢性炎症か慢性の感染症に関係していると語っている。
じつは130年くらい前から、がんは慢性炎症の起こっている箇所に多発することが知られている。そして多くの研究の積み重ねから、遺伝子の突然変異と慢性炎症が、がんの原因であることがわかってきている。
こういうことだ。感染や炎症によってマクロファージや好中球が活発化し、ロケット弾である活性酸素を敵めがけて発射する。しかし、この活性酸素が敵ばかりでなく、細胞の内部に存在するDNAにも損傷を与えてしまう。これは、戦場で味方の砲撃によって犠牲者が出てしまう“友軍放火”の生物版といえる
次に、DNAダメージが原因となってDNAの並びが変わってしまうミススペリング(突然変異)が起こり、成長と増殖に異常のみられる細胞、すなわち良性腫瘍となる。この良性腫瘍に炎症によって発生した成長因子というタンパク質が注がれることで、悪性腫瘍、すなわち、がん細胞ができる。
このようにがん細胞は、正常細胞が突然変異によって変身したものである。これで腸の慢性炎症から大腸がんが、肝臓の慢性炎症から肝臓がんが起こることが説明できる。
医学の分野で権威ある「実験医学雑誌」の編集者は、2001年3月号で、以下のように述べている。慢性炎症が起こることで、ヒトの肺、肝臓、大腸、膀胱、前立腺、胃粘膜、卵巣、皮膚にがんが発生しやすくなる。これまでの多くの研究から、アスピリンなどの抗炎症薬を服用することで、大腸がんのリスクを40~50%下げ、肺、食道、胃に発生するがんを予防できる可能性が高い、と。
それから、炎症がかかわるもう一つのがんに子宮頸がんがある。子宮頸がんは、ウィルスが子宮の入り口に感染することによって発生する。このがんでは、まず、子宮の入り口に炎症が発生することに注目したい。感染したウィルスを撃退しようと免疫系がはたらいて炎症が起こり、組織の損傷、DNAダメージ、ミススペリングとつづき、がんの引き金が引かれる。
正常細胞ががん細胞に変身するには、まず、遺伝子DNAにミススペリングが起こらねばならない。炎症の際の活性酸素がDNAにミススペリングを起こさせることは先に述べた。
DNAダメージは、通常、うまく修復されているから問題ないが、修復がうまくいかなくなると、ミススペリングが発生する。ミススペリングが細胞をコントロールする遺伝子に蓄積すると、最終的に、死ぬことなく分裂、成長をつづけるがん細胞に変身する。しかも燃やしのエイコは、がん細胞の発生を助長するだけでなく、できたがん細胞を他の箇所に移動させる転移能力も兼ね備えている。
研究者たちは、燃やしのエイコをつくるコックス2(サイクロキシゲナーゼ2)という酵素の性質を夢中になって調べている。この酵素は、炎症時や多くの癌が発生するときにも増える。だから、この酵素のはたらきを止めれば、炎症やがんの発生を抑えられるのでは、と期待されている。
いくつもの研究から、抗炎症薬のアスピリンを毎日飲んでいる人は、ポリープと呼ばれる前がん状態になりにくいことが確認されている。アスピリンは、コックス2のはたらきを阻害し、燃やしのエイコの生産を妨げるため、がんの発生を抑える。しかし、アスピリンには胃粘膜から出血を起こすという深刻な副作用がしばしば発生するため、理想のがん予防薬にはなりえないのである。』

付記1:非ステロイド消炎鎮痛剤の問題について
非ステロイド消炎鎮痛剤は一般的には鎮痛薬やNSAIDs(non-steroidal antiinflammatory drugs)と呼ばれ、アスピリン、インドメタシン、ボルタレン、フェルビナク、イブプロフェン、ロキソニンなど多くが製品化され市販されています。本の中にも、非ステロイド消炎鎮痛剤の問題点を詳細に指摘されてる個所がありましたので、引用させて頂きます。

 『すべての鎮痛薬が燃やしのエイコの生産を妨げるという共通のしくみによって、痛み止めの効果を発揮するからである。しかしこれらの薬には、火消しのエイコの生産をも妨げるという弱点がある。火消しのエイコは、免疫系と病原体の戦いの場で組織が受けた損傷を修復するだけでなく、筋肉運動をしたときに筋細胞に発生した傷の修復もしているから、健康の維持には欠かすことができない。つまり、非ステロイド系抗炎症薬は敵味方の区別なく無差別に殺傷する愚かな爆弾なのである。また、これらの抗炎症薬を長期間飲み続けると、胃潰瘍や消化管の内層が機能しない腸管浸漏症候群を起こしたり、心臓の不調から死にいたることさえある。アメリカでは30種類以上の非ステロイド系抗炎症薬が流通し、毎年、7000万件も処方され、300億個が薬局で大衆薬として販売されている。「ニューイングランド医学雑誌」によれば、抗炎症薬の処方によって毎年、出血性潰瘍が7,500件、入院が103,000件、死亡が16,500件、発生しているという。抗炎症薬の推奨された使用法と服用量を守っていながら、1年間に死亡するアメリカ人は、エイズによる年間の死者とほぼ同数の16,500人に達している。抗炎症薬の服用は、慢性炎症を抑えるための最適の手段でないことは明白である。』
  
付記2:東洋医学の「熱」について
・経絡治療の6.に「寒熱」について記した項目があります。「熱」については現代医学的な視点として、「代謝異常」の可能性を考えるようにしていますが、今回、新たに「慢性炎症」という病態も東洋医学の「熱」を考える際に外せないのではないかと思い、ネット検索で調べてみました。
 すると、以下のようなサイトを見つけることができました。ここにはまさに代謝異常と慢性炎症との関係性が書かれています。このことから、東洋医学の「熱」の病態を考える場合には、代謝異常と慢性炎症という2つの病態にも注目し、患者さまの病状把握の精度を高めたいと思います。

 

 

 

 

上記をクリックすると、「メタボリックシンドロームを引き起こす鍵因子を発見」という記事があり、この中に、『これまでの研究により肥満の際の脂肪組織では慢性炎症が生じており、そのことが糖尿病や全身の代謝異常などの原因となることが明らかになってきていますが、脂肪組織に慢性炎症が生じる機構については不明な点が多く残されていました。』との記述があります。

脳細胞再生の研究

『兵庫医科大(兵庫県西宮市)のグループが、脳梗塞の組織の中に神経細胞を作る細胞があることを発見し、それを採取、培養して移植することで、脳梗塞で死んでしまった脳細胞を再生させる研究を始めた。』という神戸新聞のニュースを知りました。

患者さまの中には脳血管障害の後遺症の方もいるため、詳しい内容を知りたいと思い、ネット検索すると、

『兵庫医科大学は、多能性細胞「iSC細胞」を使って、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)や各製薬会社との研究を開始します。』というサイトを発見しました。

そして、このiSC細胞は図と共に、次のように説明されていました。
『虚血誘導性多能性幹細胞:iSCs(ischemia-induced multipotent stem cells)の略。脳梗塞などで脳の組織を養うために必要な血液が回らなくなると、脳機能が傷害され脳細胞は死に至ります。その際、失われた組織を修復し、再生させるために「iSC細胞」が生み出されることを、兵庫医科大学 先端医学研究所 神経再生研究部門 教授の松山知弘と准教授の中込隆之が中心になって平成27年に発見しました。』

左をクリックすると、「iSC細胞」による研究についてのページが表示されます。

極めて画期的な研究だと驚きましたが、添付されている図の中には「Neurovascular unit」と「ペリサイト」とあり、まずはこの2つを調べることにしました。
調べたのは、3つの論文と「人体の正常構造と機能」という本です。3つの論文は古いものから「脳ペリサイトの重要性と脳血管障害における役割」、「脳血管ペリサイトの生理的役割と脳虚血応答」、「脳梗塞病態における周皮細胞の挙動とその重要性」になります。なお、1番新しい論文はPDF資料として添付させて頂きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「iSC細胞とは」(兵庫医科大学 最新情報)

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脳梗塞病態における周皮細胞の挙動とその重要性.pdf
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神経細胞から神経血管単位(NVU:Neurovascular unit)へ
・脳機能は神経細胞によるものであり、脳血管障害においても神経細胞に対する保護薬の開発が数

 多く試みられてきましたが、多くの薬剤の開発が失敗に終わっています。
 そこで、神経細胞だけに注目するのではなく、これを支える周囲の細胞、すなわち、アストロサ

 イト(星状膠細胞)、血管内皮細胞、ペリサイト(周皮細胞)を含めて一つの単位としてとらえ、

 これらを一体として保護・修復する方策をとる必要があるという考え方が出てきました。
 この一つの単位のことを、神経血管単位(NVU:Neurovascular unit)と呼んでいます。
・これらの細胞は互いに密接かつ複雑に関わっており、血液脳関門や微小循環の調節など多彩な脳

 機能の維持を担っていますが、なかでもペリサイト(周皮細胞)は内皮細胞を被覆して血管を物

 理的に安定化させるだけでなく、内皮細胞と相互に作用し、微小血管の成熟、安定化、血液脳関

 門の維持などに重要な役割を果たしています

 

 

左上に神経細胞、下方に星状膠細胞(アストロサイト)、この図には記載されていませんが、毛細血管の構成要素として、内皮細胞、周皮細胞(ぺリサイト)があり、神経血管単位(NVU:Neurovascular unit)を含んだ図であると言えます。

画像出展:「人体の正常機能と構造」(日本医事新報社)

ペリサイト(周皮細胞)の特徴
・ペリサイトは間葉系の細胞であり,大~中サイズの動脈血管壁に存在する平滑筋細胞から移行

 し、全身の細小動脈→毛細血管→細小静脈レベルにおいて内皮細胞を覆うように存在する血管壁

 細胞です
・細小血管における内皮細胞に対するペリサイトの存在比率は臓器によって大きく異なっており、

 例えば骨格筋では内皮細胞100に対してペリサイト(周皮細胞)1程度しか存在しませんが、脳お

 よび網膜では内皮細胞1に対してペリサイト(周皮細胞)1の割合で存在しています。
・加齢、高血圧・糖尿病などの生活習慣病では、しばしばペリサイト機能が減弱化していると考え

 られています。
・ペリサイトはNVU(神経血管単位)の保護や修復過程において中心的な役割を果たしている可能

 性が考えられ、脳虚血や認知症など種々の中枢神経疾患に対する新たな治療標的として期待され

 ています。


周皮細胞となっているものがぺリサイトです。右は血液脳関門であり、星状膠細胞(アストロサイト)の突起で覆われています。また、基底膜の下がタイトジャンクションになっています。

画像出展:「人体の正常機能と構造」(日本医事新報社)

脳梗塞時における血液脳関門の維持と修復
・血液脳関門は脳の毛細血管ですが、内皮細胞の小孔(窓)が少なく、表面は星状膠細胞(アスト

 ロサイト)の突起で覆われています。また、内皮細胞間もタイトジャンクションを形成してお

 り、血液と脳の間の物質移動が制限されます。水、酸素、二酸化炭素は容易に通過できますが、

 ナトリウムイオンなどの電解質は通過しにくく、脳の重要なエネルギー源であるグルコースは、

 グルコース輸送体を介して通過します。このようにして、中枢神経系の神経細胞を取り巻く環境

 は、血液脳関門により一定に保たれます。また、生体内外からの様々な毒素から脳を守ることも

 しています
・脳梗塞発生時はいかに血液脳関門の破綻を最小限にとどめ、速やかに修復できるかが重要な課題

 となります。
・血液脳関門の破綻が長く続くと、血管内物質の漏出により組織障害が進行するため、脳梗塞は拡

 大悪化し、出血性変化も伴いやすくなります。
脳梗塞発生時にどの程度ペリサイトが健全な状態にあったか、そして、傷害発生後はいかに速や

 かにペリサイトを内皮細胞周囲に動員させ血液脳関門を維持・修復できるかが重要になります

 

まとめ
・急性脳虚血のみならず認知症を含む種々の中枢神経疾患において、血液脳関門・NVU(神経血管

 単位) の機能維持は極めて重要なものです。加齢や生活習慣病によりペリサイトの機能破綻から

 血液脳関門・NVU(神経血管単位)の機能破綻が生じることが明らかとなっています。

 また、近年は加齢・生活習慣病と認知機能低下の関連が力説されるようになってきましたが、

 これらを神経細胞ではなく、NVU(神経血管単位) の視点から捉えることが重要です。

・鍼灸治療の直接的効果を明らかにすることはできませんが、東洋療法学校協会のサイトに掲載さ

 れている「鍼灸は何故効くのですか?」の回答にあるように、鍼灸は循環系と神経系に作用する

 ものなので、ぺリサイトとNVU(神経血管単位)にとってプラス要因に働くものと思います。

左をクリックすると表示されます。

便秘(大蠕動)

患者さまの中に症候性便秘(甲状腺機能低下症)に苦しんでいる方がいます。鍼灸治療により自然排便(直腸の収縮力、腹圧、重力の3つの働きにより、自然に排便すること)の頻度は増えているものの、残念ながら、まだまだ良い状態とはいえません。そこで、数ある本の中から松生クリニック、松生恒夫先生の著書である、『「排便力」をつけて便秘を治す本(マキノ出版)』を拝読し勉強させて頂きました。
なお、患者さまは冷え型の脈なので、肺脾の土穴(太淵・太白)を中心に、腹部は中脘(胃)・天枢(大腸)・関元(小腸)の各募穴(臓腑の気が集まる所)、そして足三里と三陰交には台座灸を使っています。

便意が起こるしくみ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「排便力をつけて便秘を治す本」(マキノ出版)

 

①胃の中に食べ物が入り、胃壁が伸びると反射的に結腸が動きはじめます。(胃・結腸反射)

②便が直腸に送られると、直腸の壁が刺激され、便意が起こります。(直腸反射)

③直腸からの信号が脊髄を経て脳に伝わり、排泄の指令が出されます。

④大脳に信号が伝わると、そのときの状況によって、「がまんする」か「いきむ」かが選択されます。

 「いきむ」の指示によって排泄の指令が出ると、腹筋が収縮し腹圧がかかって直腸が収縮し排便します。

一般的な便秘の分類

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「排便力をつけて便秘を治す本」(マキノ出版)

 

症候性便秘

・全身疾患に伴う腸管運動障害による便秘を指します。全身疾患として、内分泌代謝異常、中枢・末梢神経

 疾患、膠原病が主なものとして上げられます。中枢神経の代表的な疾患は、脳血管障害、パーキンソ

 病、自律神経疾患、変性疾患などが知られています。(「症状からアプローチするプライマリケア」

常習性便秘(慢性便秘は医学的には、常習性便秘と呼ばれています)

直腸性便秘は直腸までは便が降りてきているのに、便意が起こらないために便秘になります。

けいれん性便秘はストレスから結腸の緊張が異常に高まって起こります。便秘と下痢をくり返すのが特徴

 です。

弛緩性便秘は大腸全体の運動機能が低下して起こるタイプ。「お腹が張っているのに排便できない」のが

 特徴です。

ポイント
・便秘治療は「腸のリハビリテーション」です。

便秘は腸の機能が障害されている状態であり、失われた機能を取り戻すための訓練を行うことが便

 秘治療の本質です
・便秘治療で何よりも重要となるのが、日々の生活習慣の改善です。
・便秘は1000万人を越えていると推計されます。年代は10代後半~30代前半の女性に多く、この年

 代では40~50%が便秘であることを自覚しています。
・専門医の共通認識では、2~3日に一度排便があり、その他の症状がなければ便秘とは言いません。
便秘により老廃物をため込むと、老廃物の蓄積から、血流の悪化や代謝(体内での物質の処理)の

 悪化が起こってきます。これが引き金となって、腹部の膨満感や腹痛が現れやすくなります。ま

 た、症状は腹部だけにとどまらず、浮腫みや冷え、肌荒れやニキビ、体臭など全身に及んでいきま

 す。
・便秘は腸内環境が悪化したサインであり、腸が正常に働くことができていない状態です。
大腸の働きの中心は「蠕動運動」という収縮活動で、消化管のなかでも、便秘と最も直接的にかか

 わっています
・大腸の入口である結腸に送られてくる食べカスはドロドロの液状になっていて、約18時間以上かけ

 て結腸を通過します。その間に少しずつ水分やミネラル(ナトリウム、カリウムなど)が吸収さ

 れ、未消化成分がだんだんと固まって便になっていきます。便として固形化した残渣(必要な栄養

 分が取り除かれた残り)はS状結腸に送られ、ここに貯留することになります。そして、S状結腸に

 ある程度の便がたまると、大蠕動という腸の収縮活動によって直腸に押し出されます。
結腸全体、特に下行結腸からS状結腸にかけての強い蠕動運動のことを「大蠕動」といいます。大

 蠕動は、1日3~4回、食べ物や水分を摂ると胃・結腸反射が起こり、それに伴って引き起こされま

 す
大蠕動で直腸上の収縮運動が反射的に起こります。これを「直腸反射」といいます。直腸反射と同

 時に、移動した便が、骨盤内臓神経などの知覚神経を介して脳の中枢に伝達され、便意として自覚

 されます。

 この胃・結腸反射には、胃・小腸・結腸・直腸等の周囲に約1億個も存在する腸神経が関与してい

 ると考えられています。脳の指令によって便意が起こると、腹筋が持続的に収縮し、横隔膜の働き

 によって、腹腔内が便をさらに肛門に向けて前進させるように動きます。
・便が直腸を進んでいく段階で、直腸の収縮や肛門の周囲にある肛門挙筋という筋肉の収縮が起こり

 ます。こうして、便は肛門に向って押し出されることになります。


大蠕動
モチリン
 モチリンとは睡眠中に周期的に放出されるホルモンで、十二指腸粘膜のMo細胞から分泌されます

 が、十二指腸におけるアルカリの存在、空腹状態、副交感神経によって亢進されると考えられてい

 ます。
 このホルモンは、胃と小腸に「空腹期伝播性強収縮」と呼ぶ収縮運動を起こし、腸内の内容物を自

 動的に肛門側へとゆっくり送り出します。これはかなり強い運動で、消化酵素や消化管ホルモンの

 分泌も刺激します。このようにして消化管内はきれいに掃除され、翌朝の排便と朝食への準備をし

 ています。このことにより、モチリンは「housekeeper of the gut (消化管の清掃係)」と呼ば

 れています
 ところが、モチリンは胃腸が空にならないと十分に働いてくれないという課題があります。つま

 り、モチリンが機能するためには、夕食は眠る2~3時間前には終わらせることが必須になります

 また、ストレスがあるとモチリンの分泌は低下するので、夜は体のリズムに合わせ、脳への過剰な

 刺激を避け、リラックスを心がけることが大切です

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:日経Gooday 30+ 「最近おなかがよく鳴る 健康それとも不健康?」

・腹圧

 便秘は生活習慣の食事、睡眠、運動がとても大切です。そして、腹圧を高める筋肉は排便力を高め

 てくれます
 腹直筋
 排便するときは、下腹部に力を入れていきみます。このようにいきむと腹圧が掛かって腸が刺激さ

 れ、排便が促されます。この時に最も使う筋肉がお腹の中央を縦にはしる「腹直筋」です。
 腹直筋などの腹筋は運動不足や加齢によって明らかに衰えていきます。また、女性は男性に比べて

 筋肉量が少ないので、日頃から鍛えておくことが望まれます。腹筋の運動は筋力を高めることが目

 的ではありませんので、リラクスした状態で「ゆっくり、じっくり」行います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「排便力をつけて便秘を治す本」(マキノ出版)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「人体の正常構造と機能」(日本医事新報社)

腹直筋は体幹前面の中央にあります。下方は恥骨、上方は肋骨に付着する大きな筋肉です。

まとめ

便秘対策の中で、「大蠕動」に着目した改善ポイントは以下の3つです。

1.夕食は眠る2~3時間前には終わらせ、胃腸を空にする

2.夜は体のリズムに合わせ、脳への過剰な刺激を避け、リラックスを心がける

3.1日1回、腹筋運動でお腹に刺激を与える

付記

下行性疼痛抑制経路が脊髄排便中枢を刺激する」これは、日本生理学会のサイエンストピックに掲載されている内容です。なお、この下行性疼痛抑制経路とは、「ドーパミンの鎮痛作用」の中に登場しているメカニズムです。

『過敏性腸症候群(IBS)のようなストレスによる排便障害や、パーキンソン病における便秘など、中枢神経系が関わる排便障害が大きな問題となっている。しかしながら、詳しい病態が明らかになっておらず、治療法が確立されていない。排便の中枢性の制御は、腰仙髄部にある脊髄排便中枢と脳にある上脊髄排便中枢の二つの中枢によって行われる。これまで我々は、脊髄排便中枢に着目した研究を行ってきた。今回我々は、ノルアドレナリンおよびドパミンを脊髄排便中枢に投与すると、結直腸の運動が亢進することを発見した。この作用は、ノルアドレナリン、ドパミンがそれぞれα1アドレナリン受容体、D2様ドパミン受容体を介して、仙髄副交感神経の節前神経を興奮させることで起こる。

脊髄において、ノルアドレナリン、ドパミンは痛みの制御に深く関わっている。また、そのほとんどが脳から下行性に投射する軸索に由来するため、下行性疼痛抑制経路と呼ばれている。我々の結果は、この下行性疼痛抑制経路が痛みだけでなく、大腸運動も制御している可能性を示唆している(下図)。この経路が立証されれば、IBSにおける排便障害の病態解明につながるものと期待できる。IBSでは大腸における過敏症が起きているので、これによって下行性疼痛抑制経路が過剰に活性化され、消化管運動の異常が起きると考えられる。また、パーキンソン病ではドパミン神経が変性するが、脊髄排便中枢におけるドパミンの減少がパーキンソン病における便秘の原因の一つになり得る。我々はこの研究結果が、中枢神経系が関わる排便障害の病態解明および、新規治療戦略の立案につながると考えている。』

左をクリックすると、上記のサイエンストピックスに移動します。

毛細血管と循環調節

通常の血管の先には細い毛細血管がありますが、その毛細血管の直径は通常0.005~0.01mmとされ肉眼では見えません。また、毛細血管の全長は約10万kmと言われ全血管の約95%を占めています。

鍼灸治療の効果の1つに血液循環を良くするということがありますが、血液が毛細血管の中を進んでいけないと、臓器や組織に酸素などを十分に届けることはできません。
そこで、今回は毛細血管を中心に血液循環や血圧のしくみの理解を深め、より良い治療ノウハウにつなげたいと思います。

 

1.毛細血管の構造と機能
・毛細血管は内皮細胞とそれを取り囲む基底膜からできています。内腔の直径は動脈側で約0.005mm

 (5μm)、静脈側で約0.009mm(9μm)のため、赤血球(直径0.007.5mm、厚さ0.002mm)は毛

 細血管内を変形しながら通過していくという容易ではない環境にあります。
・毛細血管の内皮細胞は3種類あります。

 1つは連続型内皮細胞であり、脳や肺、筋肉にみられます。内皮細胞どうしが結合しています(タ

 イト結合)。

 2つめは非連続型内皮細胞といい内皮細胞どうしはつながっておらず、30~500nm(1nmは

 1/1000μm、1μmは1/1000mm。従って30nmは0.00003mmです)の隙間があり、ここからイオ

 ン、水、タンパク質、細胞が透過できます。

 3つめは内皮細胞自体が特殊に変化しているもので、内分泌腺、腎糸球体、小腸粘膜などにみられ

 る有窓型内皮細胞です。これは内皮細胞の一部が薄くなって直径20~100nmの小孔(窓)が多数あ

 いており、この孔を通って、血液と組織との間で物質交換が行われます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「生理学第2版」(東洋療法学校協会)

 

内腔の直径をmmにしてみると以下のようになり、太い大静脈は毛細血管の約3750倍にもなります。
大動脈:25mm
動脈:4mm
細動脈:0.03mm
毛細血管:0.008mm
細静脈:0.02mm
静脈:5mm
大静脈:30mm

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「人体の正常構造と機能」(日本医事新報社)

上段は細動脈で、中膜が平滑筋になっています。一方、下段左が連続型毛細血管ですが、左の方に前毛細血管括約筋が付いています。右は内皮細胞が特殊に変化した有窓型内皮細胞です。

 


画像出展:「細胞と組織の地図帳」(講談社)

 

右から細動脈、連続型毛細血管、有窓型毛細血管の全体イメージになります。 

続いて毛細血管の働きをご説明したいと思いますが、その前に大元ともいえる、血液循環と循環調節(血圧)について触れたいと思います。

 

血液循環
・体循環は酸素化した赤血球(ヘモグロビン)を末梢臓器に運び、その末梢臓器から二酸化炭素を回

 収します。
・肺循環は肺で回収した二酸化酸素を放出し、赤血球(ヘモグロビン)を再度、酸素化します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「人体の正常構造と機能」(日本医事新報社)

 

安静時には心臓は1分間に約5l(リットル)の血液を送り出しています。このうち約1500mlは肝臓へ、1200mlは腎臓に送られ、脳へは約750mlが送られます。血液量は一定ではなく、運動時には心拍数、心臓収縮力が増加し、骨格筋には通常の30倍もの血流が流れます。脳に関しても血流は一定ではなく、活動の盛んな部位により多くの血液が送り込まれます。このように血液量は組織の必要に応じて変化しますが、これらの変化は自律神経の活動組織代謝物によって制御されています。

 

2.循環調節
・全身循環は主として心臓と血管と血液量を調節することによって維持されます。また、調節には局

 所性、神経性、ホルモン性(液性)の3つの方法があります。毛細血管に直接作用する調節は局所

 性になります。
神経性調節:心臓と血管は自律神経によって調節されています。神経性の最大の特徴は秒単位で反

 応するところです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「生理学第2版」(東洋療法学校協会)

 

交感神経の血管収縮神経は安静時においても血管平滑筋に作用し、常時自発性に活動しています。これをトーヌスといいます。トーヌスは脳幹の自律神経中枢の支配を受けて微妙に変化し調節を行ないます。多くの血管は通常、トーヌス下では軽度の収縮状態にありますが、交感神経が活発になると血管は更に収縮し、その部分の血流は減少します。一方、交感神経の亢進活動が低下すると、血管は拡張し血流は増加します。

鍼灸治療の血行改善のしくみは、活性化した交感神経に働き、トーヌスを安定した状態にすることです

 

ホルモン性調節:ホルモン性の調節は分単位あるいは時間および日単位にわたって循環を調節しま

 す。これは血管の収縮状態や血流量を変えることにより行います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「人の正常構造と機能」(日本医事新報社)

 

血圧の調節は心臓以外に脳や腎臓も深く関係します。なお、図中の赤実線は交感神経で、脳と心臓を結ぶ青実線オレンジ実線は副交感神経です。また、各破線はホルモン性(液性)調節を表しています。

 

毛細血管の収縮と弛緩
・毛細血管には筋肉はありません。代わりに毛細血管の結合部に前毛細血管括約
筋と呼ばれる平滑筋

 があり、その開閉によって血流を調節します。これは組織が血流を保とうとする自己調節の機能で

 す。つまり、血流が減少すると組織の代謝産物が局所に蓄積し、それらの物質によって血管が拡張

 し血液が増加するというしくみです

画像出展:「人の正常構造と機能」(日本医事新報社)

局所性調節:例えば止血においては、傷害部位に血小板が凝集して血小板血栓を形成しますが、血
 小板は血管収縮作用をもつセロトニン等を含む顆粒を放出します。血管収縮作用をもつ物質として
 は他にエンドセリンがあります。
 一方、血管を拡張させる代謝産物には乳酸や二酸化炭素、アデノシン、ヒスタミンなどがありま
 す。

病的血管によるしつこい痛み

以下のニュースはエムスリーという医療情報を提供しているサイトから送られてくる医療ニュースの中にあった記事で、配信元は西日本新聞さまです。https://www.m3.com/

 

『[五十肩に新治療法 患部から新たに増えた血管除去 久留米大病院が九州初導入]

 久留米大学病院(久留米市旭町)は10月から、中高年に多い五十肩に対し、患部に増えた新生血管をカテーテルで除去する新たな治療法を導入した。五十肩は肩関節周辺に炎症が起き、症状が重い場合、日常生活に支障を来す。病院によると、この治療法の導入は九州で初めて。
 放射線医学講座の小金丸雅道准教授によると、五十肩のうち消炎鎮痛剤などによる薬物療法や、筋肉をほぐすといった一般的治療で症状が改善しない患者が相当数いた。
 最近の研究で、こうした強い痛みが慢性的に続く人の患部を血管造影検査で調べたところ、炎症が引き金になって新たに細かく枝分かれした血管が生じ、同時に神経も伸びていることが判明。この神経が痛みの原因とみられる。
 新たな治療法は、局所麻酔後に、手首か、肘の内側の動脈から直径1ミリ以下のカテーテルを差し入れて新生血管まで通し、薬剤でふさいで除去。並走する神経を鎮める。治療は1時間程度で終わり、日帰りできる。自由診療のため費用は約17万円。
 小金丸准教授によると、2012年に都内の病院で初めて導入され、現在までに500件を超える治療実績がある。約60人の患者への調査では術後3カ月で9割の痛みが消失し、特に夜間の痛みに効果が大きかった。別の長期調査では3年間、再発は確認されていないという。』

 

この記事は、江戸川病院整形外科 奥野祐次先生の著書、「長引く痛みの原因は血管が9割」の内容と重なります。奥野先生が始められたのが2012年とのことなので、記事内の「都内の病院」とは、まさに先生が勤務されている江戸川病院のことではないでしょうか。


私の場合、テニス肘の治療において慢性化したしつこい痛みの原因を調べていた時にこの本に出会いました。また、下記右側の写真の矢印が病的血管、モヤモヤ血管になります。


まず、本の中では、正常な血管を「生理的血管」とし、病気を悪化させてしまう異常な血管を「病的血管」としています。そして「病的血管」はモヤモヤした状態になっていることから、「モヤモヤ血管」と呼ばれています。
このブログでは「病的血管」がどのように生まれ、どのような対策をするのか等についてご紹介させて頂きます。

1.病的血管の姿              
 ・ぐちゃぐちゃとした塊のような血管。栄養分や酸素を運ぶ血液本来の仕事はしない。              
 ・「血管を新しく作りなさい」という指令が炎症部位で活発化する。なお、指令を出す物質は

  「血管内皮増殖因子(VEGF)」と呼ばれるペプチドホルモンであり低酸素状態の時に線維芽細胞

  から分泌される。


2.何故痛みがでるのか
 ・炎症細胞(白血球の顆粒球やリンパ球)を呼び込んでしまう。
 ・病的血管の周りに神経線維が増え、この神経から痛みの信号が出されると考えられる。   
 ・病的血管は酸素や栄養素を運ばないだけでなく、正常な毛細血管に届くはずの血液をその手前で

  奪ってしまうため(「盗み取り現象」)組織が酸素不足となり、不適切な「血管内皮増殖因子

  (VEGF)」が分泌され悪循環に陥ってしまう。なお、血管造影の検査により「盗み取り現象」が

  長引く痛みの患者さまに見られることが分かっている。 

                           
3.病的血管を減らす生活習慣
 ・有酸素運動が有効:運動不足は体の中の軽微な炎症を長引かせる原因になる。有酸素運動を継続

  することによって、全身の組織の軽微な炎症が改善されることで病的血管は減る。              
 ・高カロリーの食事はやめる:高カロリー食が病的血管を増やしてしまうということことが、東京

  医科歯科大学の研究者がマウスを使った実験で明らかにされた。そして実験では更に時間が経過

  すると関節に変形が生じてくることも分かった。
 ・糖尿病に注意:糖尿病に起こる問題は「小さな血管の異常」である。そしてこれは病的血管がで

  きるということである。目の網膜に出ると糖尿病性網膜症であり、腎臓にできれば糖尿病性腎症

  である。そして糖尿病患者は関節にも病的血管ができやすく、肩関節周囲炎を例にとると

  10~20%の人が肩関節周囲炎になる。これは一般の人よりはるかに多い数字である。              
 ・ストレッチが有効:ドイツの解剖学者が腱の細胞に機械的なストレスを加えた実験を行ったとこ

  ろ、血管を新しく作らせないようにする物質の一つであるエンドスタチンが豊富に出ることが分

  かった。なお、ストレッチが効果的なのは腰、肘、膝、腱であり、痛みの方向へ負荷をかけると

  いう方法である。 
 ・動かす:3ヶ月も4ヶ月も痛いような長引く痛みの場合、痛くない範囲で動かした方がよい。これ

  は急性期と異なり、すでに修復は完了している状態なので、安静にする必要はなく、むしろ痛み

  の原因となる病的血管を作ってしまう。
 ・温める:血液が正常な血管に流れると、相対的に病的血管への流れを減少させるため痛みは改善

  される。体を温めると痛みが和らぐのはこのためである。寒い場所では皮膚への血液の流れが減

  り、内部に位置する病的血管への流れが増え痛みがでる。
 ・急な炎症は冷やす:怪我をした直後に、人間の体は必要以上に血管をたくさん増やすように反応

  する。こんなときに生じた余計な血管が長引く痛みの原因になったり、後々の「古傷の痛み」の

  原因になったりする。従って、怪我した直後はじっくりと冷やし、かつ圧迫することで余計な血

  液の流れを作り出さないようにすることが重要である。
 ・圧迫する:長引く痛みは「圧迫して治る」という性質がある。圧迫法はテニス肘や膝の痛み、五

  十肩の痛みにも効果がある。長引く圧痛には病的血管ができており、圧痛部位を10秒前後圧迫す

  ることで一時的に病的血管への流れが遮断される。圧迫以外でも病的血管は色々な刺激に弱いと

  いう特徴があるので、普段と違う刺激を受けることで、速やかに減る性質がある。 
 ・筋力トレーニング:筋力トレーニングは痛みを治すというよりも再発予防に効果的である。まず

  は病的血管を減らして痛みの原因を除去したのちに、再発を防ぐために筋トレを行うのが良い方

  法であると考える。    

         
4.運動器カテーテル治療とは
 ・ターゲットの血管は「盗み取り血管」である。これは医学的には動静脈短絡と呼ばれるが、
これ

  があることで正常な血液の流れが奪われ、本来送り届けられるはずの酸素や栄養は供給され

  ず、病的血管が作られ続けるという悪循環を生む。この「盗み取り血管」は非常に細くて直径

  50μm(0.05mm)程と考えられる。薬剤の滞在時間は数時間、長くて1日くらいである。

  これは異常な血管はすぐに退縮する性質があるためである。つまり、このような短期間の塞栓で

  も、異常な血管は減少していく。体内の異物を貪食するマクロファージに食べられてしまうと考

  えられている。これにより悪循環が改善され、病的血管は徐々に減少してく。痛みが十分に取

  れるタイミングは人によって様々である。その場で良くなった患者は25%である。最も多いの

  は治療してから約1ヶ月後に痛みが改善するというパターンである。          
              
「痛みをとろう.COM」で、運動器カテーテル治療の外来予約や問い合わせができます。

期待される鍼灸治療の効果

1.病的血管が作られる前の段階

 ・自律神経を整え、硬くなった筋肉を緩め、血液の流れを正常化することにより、病的血管の発現

  を抑制することが可能と思います。

2.病的血管が作られてしまった段階

 ・鍼の刺激や灸の熱刺激は普段の生活では受けない刺激であるので、これらの刺激が病的血管の消

  退につながる可能性があると思います。

膝痛にはまず荷重X線撮影

これはエムスリー(https://www.m3.com)という医療情報等を提供されているサイトの医療ニュースになります。

『40代以上の患者の膝の痛みの初期診断にはMRIよりも荷重X線撮影が最も良いとのだとの研究結果が明らかになった。整形外科医の診察前に撮影されたMRIのうち、実際に変形性関節炎の診断治療に役立ったのは半数程度だったとも指摘されている。米国整形外科学会(AAOS)が9月8日、Journal of American Academy of Orthopaedic Surgeons誌9月号の掲載論文を紹介した。
 研究グループは、40歳以上の患者の膝のMRI 100件を検証した。最も多い診断は変形性関節炎で39%、次いで半月板損傷が29%だった、MRIのほぼ4件に1件が荷重X線撮影の前に実施されていた。整形外科医による診察前に撮影されたMRIのうち、実際に変形性関節炎の診断と治療に役立ったのは半数にとどまっていた。
 その上で、多くの場合は単純X線撮影が最善の診断ツールであり、時間とコストを抑えることができると結論。「関節炎が疑われる場合は、荷重X線撮影のみで診断と治療計画の決定を行えるケースがほとんどであり、適時に整形外科の診察を受けることが、まずMRI撮影を行うよりもコスト効率が高いと考えられる。」などと述べている。
 

左をクリック頂くと、原文が表示されます。

このニュースの要点は、変形性膝関節炎の画像検査は、時間とコストの両面から荷重X線撮影がMRIより優れているというものです。
私自身は「荷重X線撮影」というものを知らなかったので、ネットで検索したところ、奈良県立医科大学附属病院  安藤英次氏から発信された詳しい情報を発見しましたのでご紹介します。

 

 

要点は以下になります。

・撮影技師は、変形性膝関節症の病態解剖を理解し、病態に適切した撮影肢位とX線解剖について熟

 知が必要となる。
・変形性膝関節症による関節軟骨の退行変性は加齢だけでなく機械的負荷などで変性が進行する。
・変形性膝関節症の関節軟骨の変性や関節間隙を評価するには、臥位(あお向け又はうつ伏せ)画像

 でなく立位(荷重)撮影による荷重画像が有用となる。

脳脊髄液とめまい(メニエール病)

めまいが1番つらい症状であり、メニエール病と診断された患者さまの治療について、治療の要点をブログに残しておきたいと思います。
患者さまは高齢に属しますが、締め切りのある仕事もされており、忙しい時は深夜まで頑張っているという方です。
治療方針は3点。

①ストレス低減→自律神経を整えること 

②頚部および耳周辺の硬さを取り除くこと

③腰仙骨部の硬さを取り除くこと
結果は4回目の治療の際に、めまいはほぼ無くなり体調が良くなったことを確認しました。顔色や表情も戻ったと思います。治療効果については薬も服用されていたため、薬と鍼治療がそれぞれどれ程改善に寄与したのかは不明です。
自律神経の改善についてはストレス軽減が一つの指標になると思います。また、頚と腰仙骨部の硬さが改善されたことが、めまいの改善に貢献したと考えることは問題ないと思います。

 

1.耳の構造
耳は外耳、中耳、内耳の3つ分けられます。めまいで問題となるのは内耳ですが、内耳はさらに蝸牛と半規管と前庭に分けられます。半規管は体の回転運動を感じ体のバランスをとる役目をしています。前庭は体の直線運動を感じ、こちらも体のバランスをとります。めまいと関係が深いのは蝸牛であり、内部は成分の異なるリンパ液に満たされた内リンパと外リンパがあります。

骨迷路は緻密骨で囲まれた複雑な形の管腔で、蝸牛、前庭、半器官から構成されています。一方、膜迷路は骨迷路の中にある軟らかい膜性の閉鎖管で、その中に内リンパを満たしています。

 

 

 

 

 

 

画像出展:「人体の正常構造と機能」(日本医事新報)

蝸牛の内部、断面図です。これを見ると膜性の閉鎖管にある内リンパは外リンパに挟まれており、影響を受けやすいことが想像されます。

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「人体の正常構造と機能」(日本医事新報)

2.内リンパ水腫とめまい
メニエール病は内リンパ水腫が原因と考えられています。ただし、内リンパ水腫があっても症状が出ない場合もあります。また、なぜ内リンパ水腫が起こるのかは解明されていません。
一方、特発性脳脊髄液減少症による耳症状の内容とその頻度は,めまい30%,耳閉感20%,耳鳴20%,難聴3%となっています。
特発性脳脊髄液減少症では、脳脊髄液の減少により脳脊髄圧が低下し、くも膜下腔と交通をもつ外リンパ圧の低下をひきおこし,内リンパ圧と外リンパ圧の不均衡が生じて、相対的な内リンパ水腫をおこすと考えられています。
以上のことから、内リンパ水腫がめまいに関係していること、そして内リンパ水腫の原因には脳脊髄圧の低下による内リンパ圧と外リンパ圧の不均衡によるものがあることが分かります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:メニエール病と薬物療法 内リンパ水腫とは(予防から治療まで見つかる Eisai.jp) 

3.脳脊髄液の影響
解剖学の見地から、膜迷路と骨迷路の間は外リンパで満たされており、蝸牛小管を介して脳脊髄液が満ちているクモ膜下腔と交通していることが分かっています。

左上に蝸牛小管がクモ膜下腔に開口していることを示しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「イラスト解剖学」(中外医学社)

4.脳脊髄液に関する新見解(従来の説を否定)

左のロゴをクリックすると、「流れない脳脊髄液 ─Time-SLIP法 CSF dynamics imagingからの観察─」という論文を確認することができます。

上記の論文の中で特に重要と思う点は次の通りです。
・脳脊髄液の動態が可視化され詳細が解明されつつある。すでに脳脊髄液の動態は、従来の脳脊髄液

 循環の概念とは全く異なるものである。   
・脳脊髄液は心拍動だけでなく、深呼吸、体位や姿勢の変化によっても動く。
・脳脊髄液は川のようには流れず循環してもおらず、ただ上下に拍動(心臓の拍動によって脳脊髄液

 の圧力が変動することから生じる)しているだけと考えられる。
・脳脊髄液の排液ルートは、従来考えられてきたクモ膜顆粒にあるのではなく、深頚部リンパ節へ通

 じるリンパ系あるいは脊髄根周辺からのリンパ系などのルートが考えられる。

深頚リンパ節とは上深頚リンパ節、下深頚リンパ節、鎖骨上リンパ節の3つがあり、いずれも内頚静脈に沿うように存在しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「イラスト解剖学」(中外医学社)

脊髄根は延髄根の下方にあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「イラスト解剖学」(中外医学社)

5.頚および腰仙骨部と脳脊髄液の関係
まず、頚部は脳脊髄液の排液ルートの可能性があり、頚の硬さが深頚部リンパ節や脊髄根周辺部に影響を及ぼすとすれば、頚の硬さは脳脊髄液の動きの悪さにつながると思います。
また、頭蓋オステオパシー(クラニオセイクラルセラピー、クラニアル)とよばれる治療法では、頭蓋骨に動きの制限があると脳脊髄液に影響すること。また頭蓋の動きは脊柱全体に影響を及ぼすこと が指摘されています。
下記は「アプライドキネシオロジーシノプス」という本とp15の「椎間孔5つの因子」の引用です。