脳性麻痺と機能訓練1

前回のブログ“小児の理学療法3”の付記に感想を書いていますが、脳性まひに対するリハビリテーションは筋骨格系に着目した理学療法と、心や脳に着目した新しい療法が両輪となって進んでいくことが求められているように思います。これはコンピューターで例えればハードウェアとソフトウェア、車でいえば自動車と運転手のような関係です。

今回の本は「小児の理学療法」と同じように「脳性まひ児の発達支援」の参考文献として紹介されていたものですが、筋骨格系に働きかける理学療法を理解するうえで、非常に優れた本ではないかと思います。そこで、長くなりますがブログを8つに分け、細かく勉強していきたいと思います。内容はすべて引用ですが、文章を短くするために箇条書きにしているもの、あるいは言い回しなどを変えているものなどが混在しています。

著者:松尾隆

出版:南江堂

発行:2002年10月(初版は1995年6月)

●脳性麻痺と機能訓練1:第1章 概論 Ⅰ.求められる機能訓練とは

●脳性麻痺と機能訓練2:第1章 概論 Ⅴ.脳性麻痺筋緊張の特性 3.運動学的なとらえ方(一部)

●脳性麻痺と機能訓練3:第2章 機能訓練概論 Ⅱ.訓練の基本的考え方

●脳性麻痺と機能訓練4:第3章 理学療法の実際 Ⅱ.ストレッチ訓練

●脳性麻痺と機能訓練5:第3章 理学療法の実際 Ⅲ.自発運動誘発訓練

●脳性麻痺と機能訓練6:第3章 理学療法の実際 Ⅳ.ダイナミック訓練の実際 3.自立坐位獲得機能訓練

●脳性麻痺と機能訓練7:第3章 理学療法の実際 Ⅳ.ダイナミック訓練の実際 4.四つ這い機能訓練

●脳性麻痺と機能訓練8:第3章 理学療法の実際 Ⅳ.ダイナミック訓練の実際 5.立位・歩行機能訓練

目次は以下の通りですが、8つのブログで取り上げた箇所を青字にしています。

第1章 概論

Ⅰ.求められる機能訓練とは

1.自発運動を中心とするダイナミックな訓練であること

2.愛護的訓練の重要性

3.訓練の本質を簡潔に要約する必要性

4.再現性が高い訓練であること

5.年長児では整形外科との補完の中で

Ⅱ.脳性麻痺の病像

Ⅲ.筋の痙縮(緊張)とは

1.一般的常識

2.実態は

Ⅳ.運動障害の本質

1.人の運動機能

 a.推進機能

 b.抗重力機能の発達

2.脳性麻痺における運動機能の破壊

Ⅴ.脳性麻痺筋緊張の特性

1.痙縮と反射の関係

 a.局所の反射

 b.反射肢位

2.神経学的なとらえ方

 a.異常な反応(各種の反射亢進、姿勢反射)

 b.正しい反応

 c.その他の誘発反応

3.運動学的なとらえ方

 a.人の筋機能の分布

 b.脳性麻痺における多関節筋の過緊張

 c.脳性麻痺における推進性障害と固縮

 d.脳性麻痺における単関節筋の麻痺

 e.多関節筋、単関節筋の概念と訓練への応用

 f.全身性緊張(緊張性反射)の運動学的特性

 g.全身性緊張と訓練

 h.その他の異常姿勢

Ⅵ.麻痺(抗重力障害)

Ⅶ.推進機能障害

1.人が内蔵する推進機能

2.脳性麻痺の推進機能障害

3.交叉推進機能の活性化

第2章 機能訓練概論

Ⅰ.各種訓練法の特徴

1.ルード(Rood)理論

2.ドーマン(Doman)法

3.ボイタ(Vojta)法

4.ボバース(Bobath)アプローチ

5.上田法

Ⅱ.訓練の基本的考え方

1.緊張の抑制と随意性・抗重力性の賦活

2.抵抗は加えない(抵抗を排除し動きやすく)

3.発達に即した訓練を

4.割り座位の採用(割り座を訓練の中心に)

5.3つの自発的坐位獲得訓練

6.交叉推進機能の活性化

7.ストレッチ訓練の活用

8.感覚刺激としての触覚と平衡感覚

9.脳の可塑性は合理的訓練の中で

第3章 理学療法の実際

Ⅰ.理学療法とは

Ⅱ.ストレッチ訓練

1.体内の痙性筋

2.ストレッチ手技の実際

 a.仰臥位ストレッチ訓練

 b.腹臥位ストレッチ訓練

 c.前腕、手のストレッチ

 d.下肢帯(足部)のストレッチ

3.ストレッチ訓練の原則

Ⅲ.自発運動誘発訓練

1.ダイナミック訓練の中心

2.正常発達児と脳性麻痺児の運動発達の差

3.脳性麻痺児特有の運動発達とその評価

 a.頭の回旋と持ち上げ

 b.寝返りの発達

 c.腹這いの発達

 d.坐位の発達

 e.四つ這いの発達

 f.立位・歩行の獲得

Ⅳ.ダイナミック訓練の実際

1.寝返り機能訓練

 a.仰臥位伸長訓練

 b.自発的寝返り機能活性化の実際

 c.寝返り訓練による異常姿勢反射の抑制と立ち直り機能の活性化

2.腹這い機能訓練

 a.対称性腹這い訓練

 b.交叉性腹這い訓練

 c.腹這い訓練による異常姿勢反射の抑制

3.自立坐位獲得機能訓練

 a.坐位と立ち直り機能

 b.坐位を阻害する筋の過緊張と麻痺

 c.自立坐位獲得訓練の実際

 d.基本運動レベルの中での自立坐位獲得機能の位置づけ

 e.自立坐位獲得訓練・四つ這い訓練と異常姿勢反射の抑制

4.四つ這い機能訓練

 a.四つ這い肢位訓練

 b.対称性四つ這い訓練(バニーホッピング)

 c.交叉四つ這い訓練

 d.交叉四つ這いと横坐り(正坐、あぐら坐り、長坐り)訓練

 e.四つ這い移動を阻害する典型的脳性麻痺パターンとその抑制

5.立位・歩行機能訓練

 a.つかまり立ちまで

 b.つかまり立位から杖歩行まで

 c.かがみ肢位歩行

 d.直立二脚歩行

 付.矯正したい不良肢位

Ⅴ.抗重力肢位訓練

1.側臥位保持訓練

2.腹臥位保持訓練

 a.上腕支持訓練

 b.肘つき支持訓練

3.四つ這い肢位訓練

4.坐位訓練

 a.床坐位訓練

 b.椅子坐位訓練

5.立位訓練

 付.立位補助具

第4章 作業療法の実際

Ⅰ.作業療法とは

 a.脊椎動物の機能(摂食と移動)

 b.人における作業機能の発達

 c.作業、上肢作業、その基本として生活能力の活性化を考える作業療法

Ⅱ.脳性麻痺の作業療法での要約的課題

 a.摂食機能の獲得・改善

 b.自力床坐位獲得訓練

 c.車椅子生活自立獲得

Ⅲ.坐位

1.重度児の椅子

 a.坐面

2.自分で漕げる車椅子

3.車椅子乗り降りの自立

Ⅳ.リーチ訓練と巧緻機能訓練

1.リーチ機能とは

2.リーチ機能障害の特徴

 a.上肢過緊張

 b.抗重力筋麻痺

3.リーチ機能の賦活

a.過緊張抑制

b.抗重力性関節周囲筋の賦活

c.手技の実際

4.上肢巧緻機能

 a.ひっかき肢位

 b.手つき支持レベル

 c.つまみ・つかみ機能

 d.離し機能

 e.巧緻機能の活性化

Ⅴ.ADL訓練

1.食事訓練

 a.口腔機能訓練

 b.姿勢保持訓練

 c.上肢機能訓練

2.衣服着脱訓練

 a.姿勢保持訓練

 b.上肢機能訓練

3.トイレット訓練

 a.便器の工夫

 b.トイレット訓練の方法

 c.トイレット・トレーニングの実際

4.車椅子の自立をはかる

第5章 運動機能の活性化と整形外科

1.寝返り機能の活性化

2.腹這い機能の活性化

3.坐位獲得機能の活性化

4.四つ這い機能の活性化

5.立位・歩行機能の活性化

第6章 機能訓練―科学に基づく医学

(再録)脳性麻痺の機能訓練―基本運動訓練の実際と整形外科手術の位置づけ―

第1章 概論

Ⅰ.求められる機能訓練とは

1.自発運動を中心とするダイナミックな訓練であること

●機能訓練として最も求められる点は、自ら参加できるダイナミックな訓練であるという点である。

●坐位を獲得するためにどう緊張を抑えて訓練するか、四つ這い獲得のためにはどう緊張を抑え、分離性の高い動きを出したら良いかなどを分かりやすく示すことが求められる。

ダイナミックな訓練とは、脳性麻痺児が持っている体内の“緊張を抑制し”、緊張のもとに隠されている“随意性が高く、かつ分離性の高い抗重力的な動きを活性化する”ことである。

体の色々な部位にある過緊張を、動きを促す際に抑制し、寝返り、腹這い、坐位獲得、四つ這いといった分離性の高い抗重力的な動きを引き出すという考え方である。このことを具現化するには、体内に散らばって存在する過緊張についてよく知る必要があるし、それを抑えるにはどのような肢位を取ったら良いかについても、十分に知る必要がある。その意味で、筋異常緊張についての勉強が求められる。

●発達レベルに応じた細かいランク付け。

●自発性を尊重した訓練をしようとすれば、まず脳性麻痺児を寝返りできないレベルから正常歩行まで多くの段階に分け、その各々のレベルでの訓練を考える必要がある(表4参照)。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

表4:”正常発達児と脳性麻痺児の運動発達の差”、P76より

 

患児がこの段階のどこに位置するかを評価し、1つあるいは2つ上のレベルを目標とした訓練を実施することによって患児が参加した自発性の高い訓練が可能になる。これらすべてのレベルで、1つ1つ具体的な訓練を考えなければならない。

例えば、腹這いの段階から四つ這いの段階までの間の訓練として、坐位、とくに割り座を入れ、割り座を訓練の中心におく(割り座が悪いという発想を改める)。そして、腹這いから割り座までの訓練を主要なものとして導入する。さらに、割り座から四つ這い肢位への訓練を展開する。

ダイナミックな訓練には、運動学的、筋機能解剖学的に合理的な訓練が求められる。脳性麻痺では、筋、特に抗重力性の高い分離運動に参加する筋の力が弱い、これらの筋が働きやすい肢位を運動学的に見つけ、気持ちよく四肢を抗重力的に動かせるように援助することが重要である。

●神経学的症状・反射はすべて運動学的・解剖学的に分析し、運動学的訓練の理論的根拠を明らかにしている。

①寝返りを阻害する3つの緊張とそれを抑制する具体的手技

②対称性推進の考え方

③交叉腹這い訓練を容易にする一側性交叉推進の考え方

④四つ這いに移るための割り座肢位の活用

⑤坐位を3つの段階に分けるという考え方

⑥四つ這い肢位からよりレベルの高い坐位の獲得

⑦動きの中での緊張性肢位の局所的とらえ方

など。

ダイナミックな訓練の基本は、あくまで患児みずからの力で誘導することであり、訓練する側は患児の力の足りないところを補うだけである。つまり、必要最小限の援助で、自発的な動きを最大限に発揮させることが大切である。訓練士は基本的手技を簡潔にまとめ、楽しい訓練を心掛けることが求められる。

2.愛護的訓練の重要性

機能訓練は徹底して愛護的に進められるべきである。これは泣くことによって起こる動きは、早い動きの緊張状態であり、訓練の効果を否定するものだからである。随意的かつ抗重力的な動きとは、泣くといった不快な状態では引き起こすことはできない、柔らかいゆっくりした動き(単関節)であり、快適な状態で初めて活性化できるものである。

●過緊張を1つの関節で抑えると、随意的な動きがその関節を中心に出やすくなるため、患児は心地よく動きはじめ、楽しみをもって訓練に参画する。

●人は誰でもスポーツをしたい、体を動かしたいという欲求をもっている。麻痺の子どもでも、少しは動く力が残されている。しかし、重力と異常な過緊張によって動くことができない。この子どもらにとっては、周囲の人がこの筋緊張の大半を抑えてくれることにより、残りの力で体を動かすことができるのである。そして、それが何よりの喜びとなるのである。

●訓練は、あくまで機能の改善を期待して行うものである。しかし、たとえ改善がなくても、スポーツとして運動をさせることの意義は大きい。

3.訓練の本質を簡潔に要約する必要性

脳性麻痺の病像は多様であり、一人ひとりの個性をもった患者を治療するため、訓練のあり方も、遊びを中心とした穏やかなものから、積極的な訓練色の強いものまである。また、当然手技そのものも多様なものが準備されている。これまで報告された治療手技も、PNF、ルード(Rood)、ボバース(Bobath)、ドーマン(Domain)、ボイタ(Vojta)、上田など、各種の方法がある。訓練士、看護師、保育士、教師、保護者は、それぞれの置かれた立場によって、色々な運動面のアプローチをすることとなるし、そのことを大事にしなくてはならない。

●訓練が科学として本質的に求められているのは、この混沌の中で何を基本的に観察し、どのように無理な力を入れない穏やかな、しかもダイナミズムにあふれた訓練を育てるかといった訓練の基本的な考え方をまとめ、公開の場で明らかにすることである。

注)“この混沌”とは次のようなことです。

『訓練の世界はまだその知見が整理させず、不用な知見と有用な知見が氾濫しており、どの理論も正しいことをいっているとしても、不用不急な知見の羅列も多い。本質的に、どのレベルではどこをどのように訓練したらよいのかが、まだわかりやすく要約されていない。このため、保育士、保護者、教師など、誰もがどこでもできる訓練の方法が示されず、特定の療法士間だけの閉鎖的な空間の中で訓練が語られるという事態がみられたりする。科学的であるための必要条件としての再現性に欠けるのである。このため、より合理的な訓練のあり方が公の場で語られることなく、訓練で患児が泣き叫ぶといった事態が発生したりする。』

●訓練の基本を知ることによって、遊び方、訓練の方法はより効果的かつ愛護的になりうるし、他の訓練法との比較のうえで、より合理的な部分を選択することも可能になる。このことによって、初めて保育士や保護者や教師といった患児に接触する人たちが、子どもたちの訓練に参画できることになる。

●本書では訓練の本質を“選択的緊張抑制と随意性、抗重力性の賦活”と要約し、多様な運動障害への応用をはかろうとしている。また、他の訓練法が合理的である限り、両立が可能である。

4.再現性が高い訓練であること

●科学としての訓練はどこで行っても効果があるはずである。家で行う、学校で行う、保育の中で行う、といったもので、訓練室だけのものであってはいけない。日々の生活の中の楽しい運動誘発の取組でなければ、科学として認知されにくい。

●最も本質的なこととして、同じ訓練手技が、生まれてしばらくした乳児でも、幼稚園児でも、学童児でも、学校を卒業した成人でも、高齢者でもまったく同様に行えるということがあげられる。同じ訓練が、どんな症状の軽い人にも、また症状の重い人にも、基本的には同様な考え方で行われえるのかどうか、という問いつめが求められよう。“この訓練は学童期や成人には効果がなく、子どもだけにしか効果がない”というのでは、科学にはならない。学校の教師らが養護学校での訓練にさいし、理学療法、作業療法による訓練を諦め、心理リハビリテーションによる養護訓練に走ったのは、医療サイドが、乳幼児にも学童児にも同じように行われえる訓練を追求し、またそのような訓練を学校の教師に指導する努力を怠ったことに、その原因の一端があることは否定できないであろう。

注)心理リハビリテーションとは

『心理リハビリテーションとは、成瀬(九州大学名誉教授)と彼の共同研究者たちが開発した、動作課題を通じて動作不自由の改善と心身の活性化を目的とした、わが国独自に開発された心理臨床の一連の技法と理論をいう(成瀬、1995)』

沖縄県における心理リハビリテーションの展開”より引用。クリック頂くとPDF22枚の資料がダウンロードされます。

5.年長児では整形外科との補完の中で

●訓練を通じて、徐々に、段階的に機能を伸ばしていくことが最善である。

●股関節脱臼の予防訓練、側弯矯正と呼吸訓練、ADL(activities of daily living,日常生活動作)訓練に必要な回旋訓練など、これまでの整形外科や機能訓練の知見をもとに体系化し、乳児期に必要な多彩な訓練体系を実現することが大切である。

●脳性麻痺にみられる過緊張は、本質的には保存的治療である機能訓練ではどんなテクニックを用いても除かれえず、加齢とともに関節や筋・腱の変形性や老齢化を早めることになる。いたずらに過緊張を訓練で抑えるという発想を年長児の治療に持ち込むことなく、整形外科領域の知見で過緊張を除き、機能訓練で随意性、抗重力性をより容易に引き出すという考え方(図8参照)が、もっとも今日的かつ合理的な治療といえるであろう。

注)一つ注意したいと思うのは、改定第2版の発行は2002年、約17年前です(初版は1995年)。そのため、手術の位置づけなども変わってきているかも知れません。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

図8:”脳性麻痺における過剰な伸張反射と相反神経支配の破壊”、P31より

●ダイナミズムをもった能動的訓練は、脳性麻痺の特性や人の運動の特徴を十分に理解したうえで初めて可能になる。

注)「整形外科領域の知見で過緊張を除き」とは

本書のⅡ脳性麻痺の病像、の中にある表1は以下の通りです。 

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

表1:”脳性麻痺の病像”、p11より

この表の“整形外科”の項目には“選択的緊張筋解離術”という記載があります。「これは何だろう?」と思い検索したところ、『東京都 南多摩保健医療圏 地域リハビリテーション支援センター』というサイトに、著者である松尾隆先生の南多摩整形外科病院(2017年12月より「まちだ丘の上病院」と病院名が変更、松尾先生は2017年11月に退任されていました)の理学療法士の方達の資料を見つけました。

痙性麻痺患者における選択的筋解離術の効果と展望 ~痙性治療に特化した病院の役割と地域の連携~”(PDF1枚)

小児の理学療法3

前回の “小児の理学療法2”で注目したのは“脳性麻痺”を詳しく知ることでした。これは良い施術を提供するための大前提と考えるためです。そして最後となる今回は第6章の運動療法を取り上げました。

著者:河村光俊

出版:医歯薬出版

初版発行:2002年6月

目次は”小児の理学療法1”を参照ください。

運動療法を学ぶうえで、我々に求められる具体的な施術(マッサージや鍼治療[刺さない鍼や円皮鍼を含む])がどのようなものになるのか、できる限り事前に想定しておいた方が望ましいと思い、あらためて第5章の脳性麻痺に戻って、洗い出した内容を整理整頓し見直すことにしました。

内容はブログ“小児の理学療法2”を書き写したものです。

細字と太字の区別がほとんどつきませんね。

狙いは脳性麻痺の種類別に整理したという点です。黒字には問題点青字には対策課題赤字には脱臼の原因が書かれています。太字は重要と思った部分であり、さらに“痙性”と“分離運動”を斜め文字にしたのは、これらが施術の柱になるのではないかと考えるためです。

続いて、この表のそれぞれの太字を全体的視点で眺め、抽出したポイントが以下になります。このポイントを頭に入れて第6章に進みます。

いずれも難題ばかりですが、何とか全体的なイメージにまとめることができました。

上の図の中で補足したいのは、ほぼ中央に書かれた”大腿筋膜張筋”です。

これは第5章 脳性麻痺ー2.痙直型両麻痺ー16)股関節脱臼 に書かれていたもので文章は次の通りです。

股関節の内転・内旋変形は同時に起きる。この変形の責任筋は大腿筋膜張筋と考えられている。』なお、これに次の文章が続いています。『また内転では長内転筋と薄筋の痙性が要因と考えられている。

大腿筋膜張筋に血液がしっかり流れ込み、筋肉が良い状態(軟らかい)になり、細い筋線維が適切なトレーニング等で太く、力強く成長させることができれば股関節脱臼のリスクは減らせるのかも知れません。

ところで、私は今まであまり大腿筋膜張筋を注目したことがありませんでした。そこで今回、その大腿筋膜張筋に焦点を当てたいと思います。

左のページは『運動療法のための 機能解剖学 触診技術』のものですが、特に注目したい3点は以下の通りです。

 

大腿筋膜張筋は腸脛靭帯の緊張度を調節し、間接的に膝関節の安定化に関与する。

●大腿筋膜張筋は中殿筋、小殿筋とともに、片脚起立時の骨盤の安定化に関与している。

●思春期脊髄分離症を発症する9割以上のケースに、腸腰筋、大腿筋膜張筋をはじめとする股関節屈筋群の拘縮が認められる。

 


次に大腿筋膜張筋と周辺の筋肉とのつながりについて確認してみます。以下の二つの画像はいずれも『改訂版第2版 骨格筋と触察法』から拝借しました。右側の図では左端中央付近に大腿筋膜張筋が出ています。これを拝見すると大腿筋膜張筋+腸脛靭帯の重要性が理解できます。


左の図は『病気がみえる vol.11 運動器・整形外科』から拝借したものです。

大腿筋膜張筋は中殿筋とともに、下肢の外転に大きく関与していることが分かります。

なお、『小児の理学療法』の中には次のような記述があります。「痙性分布には必ず左右差がある。体幹深部筋の痙性分布の非対称性により、肩甲帯と骨盤帯の位置異常が発生しやすくなる。また、体幹の表在筋、とくに内転筋と内旋筋の痙性分布により、四肢の外転運動が制限されてしまう。

第6章の目次は以下の通りです。今回はすべて網羅しています。

第6章 運動療法

1.頭のコントロールのための運動療法

1)背臥位での頭の回旋

2)腹臥位での頭の回旋

3)腹臥位での頭の挙上

4)背臥位からの頭の屈曲

5)頭の固定性を高める準備としての圧迫手技

2.上肢の挙上運動とリーチの準備

3.上肢の支持性

4.脊柱の側屈可動性の準備

5.脊柱の伸展可動性の準備

6.パラシュー反応の誘発

1)パラシュート反応誘発のための準備

2)パラシュート反応の誘発

7.減捻性立ち直り反応を応用した運動の誘発

1)体に働く頸の立ち直り反応

2)体に働く体の立ち直り反応

3)抗重力方向への体に働く体の立ち直り反応

第6章 運動療法

1.頭のコントロールのための運動療法

●未熟者の頭は前後径が長く横径が狭いため、どちらか一方を向いており頭の回旋がうまくできない。

画像出典:「小児の理学療法」

また、水頭症の子どもでは体の大きさに比較して頭部が大きいため、頭を動かすことが困難となる。脳性麻痺児も同様に中枢神経系障害のため、頭部をコントロールすることが困難である。頭のコントロールの獲得はこれからの運動発達の出発点でもあり、非常に重要な役割をもっている。そのため、頭のコントロールを促すように運動療法を計画しなければならない。ここでは基本的な頭のコントロールの刺激の方法を示す。

1)背臥位での頭の回旋

●頭の回旋を刺激する方法として、視覚、聴覚、触角を刺激し、できるだけ自発的な運動を引き出す。

●視覚刺激では明るい赤や黄色などの原色の玩具を乳児の目の位置から20~30cmの位置でまず見せるようにする。乳児が玩具を見ていると確信できた段階でゆっくりと玩具を動かし、乳児が目を動かしてくるかどうか確認しながら頭の回旋を刺激する。

 

画像出典:「小児の理学療法」

●聴覚刺激は耳の高さを中心に直径15cmの円内で行う。乳児が驚くようであれば音を優しいものに変えていく。

●触覚刺激で代表的なものは探索反応で、この反応は乳児が空腹のときに出現しやすく、満腹時には出にくくなる。なお、探索反応を誘発刺激として使用できるのは、未熟児、乳児に限定される。

体幹を側屈させることで頭の回旋を促す方法は、自発的な頭の回旋をなかなか見せてくれない乳児や脳性麻痺児に適している。セラピストは骨盤を持ち頭が回旋している側に骨盤を挙上し、ゆっくりと体幹を側屈させていく。

画像出典:「小児の理学療法」

●背臥位で後頭側の肩を床の方向に押し下げる。同時に後頭側の上肢を外転位にし、腕を引き出して刺激する。この方法は注意しないと自発的な頭の回旋ではなく、刺激の反動で頭を他動的に回してしまうだけになるため、最初はゆっくりと刺激を加え、子どもの反応をみながら段階的に刺激を強めていくことが大切である。

画像出典:「小児の理学療法」

2)腹臥位での頭の回旋

●子どもを腹臥位に置き、顔面側の上肢を屈曲し体側に沿わせ、手が乳児の口の周辺に位置するようにする。後頭側の上肢は伸展させ、体側に沿わせる。次に後頭側の肩を床から持ち上げ、顔面側の上肢の前腕に体重が移るように操作する。このとき、子どもの鼻が床に押しつけられるような位置になるが、そのまま子どもが反応するのを待つ。これは体に加えられた非対称的な圧分布が頭を正しく立ち直らせる「頭に働く体の立ち直り反応」を刺激している。

画像出典:「小児の理学療法」

3)腹臥位での頭の挙上

●子どもを腹臥位に置き、肘付き腹臥位をとらせる。続いて、両肩を広げるように下から上に向かって肩を押す。そして、ほぼ同時に広げるように下から上に向かって肩の固定性を高める目的で肘の方向に押しつける。この一連の動作を素早く繰り返し、頭の挙上を促す。子どもが頭を持ち上げてきたら刺激の間隔を広げていく。

画像出典:「小児の理学療法」

●子どもを腹臥位に置き、まず両腕を子どもの顎をすくうようにセットする。次に、子どもの頭を上方に押し上げるように両腕を動かす。このとき、頭の挙上だけではなく、脊柱の抗重力伸展も同時に促す。

画像出典:「小児の理学療法」

●子どもを腹臥位に置き、まず両上肢をまず挙上する。次に、上肢の中枢部を持ち、肩を外旋させながら、床から持ち上げ脊柱の伸展を促す。同様のことを肘や手から操作して頭の挙上を促す。脊柱の抗重力伸展が適切に促されると両下肢の外転が生じる。

画像出典:「小児の理学療法」

4)背臥位からの頭の屈曲

●子どもを背臥位に置き、両腕の前で肩を内転させる。次に、子どもを下肢の方向に両腕を内転・内旋させながら引き起こしていく。逆に子どもを座位にセットした後、徐々に背臥位へ近づけていき、頭の屈曲を保たせる。

画像出典:「小児の理学療法」

5)頭の固定性を高める準備としての圧迫手技

●子どもを腹臥位に置き、頭と骨盤を両腕で挟み込む。そして、両手で同時に体を圧縮するように軽く繰り返す。この手法は子どもの全身が低緊張のときに使えることがある。

画像出典:「小児の理学療法」

2.上肢の挙上運動とリーチの準備

●上肢の自発運動が少なかったり、運動がみられない場合、自発的な上肢の運動を誘発する必要がある。このような場合、台乗せ反応を利用することができる。とくに固有感覚性の台乗せを刺激することで上肢の運動を引き出すことができる。子どもの上肢を体側に沿わせ、手背を床に向ける。次に、手掌部から床方向に圧迫を加え、手背に固有感覚刺激を入れていく。このとき、子どもは刺激に応じて上肢を体側から上方に挙上しようとして肩を床から持ち上げ、挙上運動を開始する。この挙上運動にセラピストはついていき、挙上に伴い、手関節が背屈するまで待つ。

画像出典:「小児の理学療法」

3.上肢の支持性

●上肢の支持性が未熟な子どもをただ腹臥位に置くだけでは、上肢の支持性は改善してこない。このような場合には、子どもが頭を挙上しやすくするために、胸の下にバスタオルなどを丸めたものを入れてやり、胸部を床から離すようにする。このような姿勢を5分から20分間保てるようにする。子どもの手元に好きな玩具を置いたり、好きなテレビ番組をこの姿勢で見せるのも良い。

画像出典:「小児の理学療法」

●on elbowsはとれるがon handsまでの姿勢になれない子どもには、上肢伸展支持を促す刺激をつかう。子どもの両肩を保持し、斜め後方へ体を引き上げる。子どもが反応しない場合は保持しているセラピストの手で体を上下させて、子どもの上肢伸展を促す。子どもが反応を示したら、セラピストの介助を減らす。

画像出典:「小児の理学療法」

4.脊柱の側屈可動性の準備

●重症な脳障害をもつ乳児は早い段階から体幹の可動性の乏しさを示す。乳児の体幹は硬く、体幹の側屈、伸展、屈曲に強い抵抗を示すことがある。このような場合、他動的ではあるが乳児の体幹に側屈の可動性を体重移動と組み合わせて行うことで、体幹の柔軟性を得ることができる。

5.脊柱の伸展可動性の準備

●上肢の支持性には脊柱の重力に抗した伸展が不可欠である。しかし、痙直型両麻痺、片麻痺、四肢麻痺の体幹部の痙性により十分な伸展活動が行えない症例が存在する。そのような症例に対して、事前に脊柱の伸展の可動性を引き出しておく必要がある。

①子どもをバルーン上に背臥位でのせる。セラピストの両手を子どもの脊柱の両側に位置させる。次に、上部脊柱から順に骨盤に向かってバルーンを振動させ、脊柱全体にわたって伸展可動性を高める。十分に脊柱が伸展し、体幹に分布する屈筋痙性が減少してくると、子どもの上肢がリラックスして重力方向に挙上位をとるようになる。

画像出典:「小児の理学療法」

②子どもが年少の場合にはセラピストの膝の上でバルーンと同様に脊柱の伸展を引き出すことができる。セラピストは両手で子どもの骨盤をしっかり保持し、両膝を脊柱の両側に位置させる。次に膝を軽く上下させ脊柱に振動を与える。そして、少しずつ子どもを下降させていき、脊柱全体にわたって伸展性を引き出していく。

画像出典:「小児の理学療法」

③子どもを腹臥位に置き、顔面側の肩を床から持ち上げ、反対側から脊柱を軽く圧迫する。肩を床から持ち上げ、脊柱を固定すると、体幹の回旋と伸展が引き出される。脊柱の固定点を徐々に骨盤に向かって移動させ、脊柱全体にわたる伸展と回旋の可動性を引き出す。

画像出典:「小児の理学療法」

子どもをセラピストの両大腿部にまたがらせる。次に、両脇で上半身を抱え込み、一方の手は骨盤に当てる。そして子どもの体幹を伸展し回旋させる。このとき、骨盤に当てた手で股関節を十分に伸展させる。この手技で股関節外転制限の緩和をはかることが同時にできる。

画像出典:「小児の理学療法」

6.パラシュー反応の誘発

●上肢にある程度支持性がつき、そして、保護伸展反応に不可欠な脊柱の抗重力伸展もある程度準備できたら上肢の保護伸展反応であるパラシュート反応を誘発していく。

1)パラシュート反応誘発のための準備

①子どもを膝立ち位に置き、子どもの両手をセラピストの手で受ける。次にゆっくりと前方にセラピストの手を引き下ろしていく。ある時点で子どもの体重がセラピストの手に重くかかり始めるポイントがある。そのポイントで少しの範囲で素早く引き下ろし、そしてただちに押し返す。これを繰り返していくと子どもは上肢をしっかりと伸展・支持してくるようになる。

画像出典:「小児の理学療法」

2)パラシュート反応の誘発

●子どもをバルーン上に腹臥位で乗せて、前方にいろいろなスピードで押し出す。うまく手を出して支えることができるようになってきたら、できるだけ遠くに接地する。注意深く行い、頭部を叩打しそうな場合には素早く引き戻す。同様の方法で大きめのローラーを使ってパラシュート反応を誘発することもできる。

画像出典:「小児の理学療法」

●子どもを端座位にし、セラピストは子どもの両下肢を外転させて、子どもの前に位置する。次に子どもの両手を交差させて保持し、次にセラピストの左手を離し、右手で子どもを側方に素早く誘導する。セラピストの離した左手はすぐに子どもの腹部を支持するようにする。子どもの手の着く位置を側方から徐々に後ろへと変化させていく。後方になればなるほど、子どもに体軸内回旋が要求される。

画像出典:「小児の理学療法」

7.減捻性立ち直り反応を応用した運動の誘発

●人間の体の分節は3つあり、その一部に捻じれが加えられた場合には、その他の分節を使って元の正しい位置関係(アライメント)に戻そうとする減捻性の立ち直り反応が存在する。脳障害による発達障害児ではこの減捻性の立ち直り反応は潜在的にもっていても、自発的な首の運動が他の分節の捻じれをつくりだし、他の分節の反応が出現するまでに時間がかかる。このように反応の出現するまでに時間がかかるような現象を潜時が長いと表現する。同一の刺激部位で時間をかけて刺激することを時間加重とよび、複数の刺激部位を同時に刺激することを空間加重とよぶことがある。

1)体に働く頸の立ち直り反応

後頭部を保持する。そして一方に頸部をゆっくり回旋していく。回旋していくとある点でゆるやかな抵抗を触診することができる。そのポイントからさらに回旋を続けると、これ以上回旋できない所に到達する。その最終ポイントで頸部を保持して頭部以外の分節が出現するまで待つ。減捻性の反応が出現し胸郭、骨盤の回旋が出現し始めたら、それに合わせて頸部の回旋を続けていく。その結果、児は腹臥位にまで姿勢を変換していく。

画像出典:「小児の理学療法」

 

2)体に働く体の立ち直り反応

●胸郭部と骨盤部の捻じれを骨盤部からつくり、胸郭部が捻じれを打ち消すように骨盤部と同じ方向に回転を起こす。胸郭部の回転が頭部の回旋を誘導し、迷路性立ち直り反応や視性立ち直り反応、頭に働く体の立ち直り反応が動員されて頭を床から持ち上げてくる。

画像出典:「小児の理学療法」

 

体に働く体の立ち直り反応は体幹の一部に加わる捻じれを元に戻そうとする反応で、体幹を対称的な位置に保つように働く。減捻性反射ともよばれ、生後4カ月から出現すると考えらええている。動作の連続性の面から乳児の観察をすると、背臥位から立位に至るまで、動作中に多くの体に働く体の立ち直り反応が観察される。

画像出典:「小児の理学療法」

 3)抗重力方向への体に働く体の立ち直り反応

●体に働く体の立ち直り反応単独で起き上がりが可能になるわけではなく、視性立ち直り反応、迷路性立ち直り反応、手指の把握機能などが協調してはじめて可能となる動作である。起き上がり動作中に出現する体幹の減捻性の回旋運動は発達とともに減少していくが、初期の段階では大きな回旋運動を伴う。この回旋運動の反応速度は運動発達と密接に関係しており、反応速度は運動発達の変化を強く反映している。

 付記:下肢の痙性・分離運動

“脳性麻痺”を表形式で整理整頓し、続いて運動療法を勉強していったのですが、下肢の痙性や分離運動という問題に対し、これらに特化した運動療法はないらしいということが分かりました。

硬くなった筋肉をマッサージや鍼で緩めることは可能ですが、根本対策は別にあるように思います。そのヒントは過去ブログの“動作法(姿勢の不思議)”と“アナット・バニエル・メソッド2(症例)”の中に隠れていそうです。注目すべきキーワードは“自己弛緩”と“脳の可塑性”です。

以下に過去ブログの内容の一部をご紹介します。そして、その詳細検討は今後の宿題とさせて頂きます。

著者:成瀬悟策

発行:講談社

発行:1998年7月

まえがき

『脳性マヒで動かないはずの腕が、催眠中に挙がったという事実に直面したのがことの始まりで、それ以来30年を経て今もなお、人の「動作」というもののおもしろさに取りつかれっぱなしの状態です。

脳性マヒによるからだの強烈な緊張を、脳・神経系から筋・骨格系への生理過程によって弛めるという当初の考えは、現実には役に立ちませんでした。そのからだの持ち主の心理的な活動によって自らのからだを弛めることで、初めて治療効果が上がり始めたのです。自己弛緩さえできるようになればと努めるうちに10年ほどが過ぎました。そして、自己弛緩だけでは不充分で、自らの意図どおりにからだを動かす要領を身につけることが必要とわかり、そのための訓練を続けるうち、また10年がすぎていきました。

それからの後の10年でさらにわかったのは、重力にそってからだを大地上にタテに立てることが必要であることでした。それは、からだを立てるための心棒、すなわち体軸をまっすぐに立てて自然に無理のない姿勢がとれるということです。そしてその状態から体軸のどの部位でもそれを柔軟に屈げたり伸ばしたり、反らしたり捻ったりしながら、上体部、手腕、脚足を前後左右に使いこなせるようになることが課題となりました。

著者:アナット・バニエル

発行:太郎次郎社エディタス

発行:2018年8月

ボールのように硬く丸まってしまうリリー

『リリーと初めて会ったのは、彼女が三歳のときです。たいへん未熟な状態で生まれ、重度の脳性まひを負っていたリリーは身体が小さく、一歳といっても通用するほどでした。彼女が母親や妹とやりとりする様子は乳児のようで、のちに母親から聞いたところでは、生後五か月ていどの発達段階だと判定されたということでした。

リリーは筋肉の緊張が激しく、つねに肘をきつく折り曲げ、握りこぶしをつくっていました。両脚は膝が少し曲がった状態で交差しています。腹筋がつねに収縮しているために背が曲がり、自分の体重を支えることができません。自発的な動きがなく、寝返りを打つことも、うつぶせでいることもできません。うつぶせにすると身体を丸め、苦しそうにします。座らせるとたいへんな力を出してなんとか座るものの、背中はすっかり丸まり、数秒すると転がってしまいます。腕や手を使うことはできません。声は小さく不明瞭で、何を言っているか理解するのは困難でした。

しかし、そのような状態でも、私にはリリーがしっかり目覚めて神経を研ぎ澄ましていることがわかりました。大きな茶色の目で、興味深そうに周囲の様子を追っていたからです。

リリーを仰向けにレッスン台に寝かせましたが、その姿勢でも筋肉は収縮したままで、両脚は曲がり、台からやや浮いています。肘は折れ曲がってぴったり身体に引き寄せられ、腹筋も硬いままです。脳が、どのように力をぬけばよいのかをわからないのです。

左脚をやさしく持ち上げ、できる限り小さく動かそうとした瞬間、収縮していた筋肉がさらに強く縮み、リリーはボールのように丸まりました。私は手を止め、彼女が落ち着くのを待ちました。つぎに骨盤を、やはりできるかぎり小さく、とてもゆっくり動かそうとしましたが、今度も強く筋肉が縮みました。速度を思いきり落として、安心できるように話しかけながら、とても小さく、わずかに動かしてみても、筋肉は硬くなりました。私が動かそうとするたびに、彼女の脳は、身体をボールのように丸めるという未分化で強力な初期の動きのパターンに乗っとられるかのようでした。

十分ほどそのようにしていると、ある考えがひらめきました。ボールのように身体を丸めるのは脳性まひの影響だけでなく、学習したパターンだからではないか、と思ったのです。リリーはどう見ても動きたがっていました。彼女は彼女なりの方法で動こうとしているのに違いはありません。

リリーは二年近く、うつぶせにされ、座らされるという訓練を受けていました。訓練では握りこぶしを開かせようとしたり、立たせようとすることさえあったそうです。そのようなとき唯一リリーの脳にできたことは、強く収縮することで、そのため身体は丸まりました。自分から動こうとするとき、また、自分を動かそうとするあらゆる働きかけに対し、彼女の脳は、収縮するというパターンを結びつけることを学習したはずです。

小児の理学療法2

前回の “小児の理学療法1”で注目したのは、“セラピスト(理学療法士)に求められていることを知る”、そして“小児障害児の運動特性と関節・筋肉”の二つでした。今回は第5章の脳性麻痺を取り上げましたが、これは脳性麻痺を詳しく知ることが良い施術の大前提と考えるためです。

覚えておきたいことが多く、太字青字がやたら多くなってしまいました。太字は主に問題点、青字は主に対策や課題、なお、赤字が4箇所ありますが、これは脱臼の原因について書かれた部分になります。

※メモ:2017年1月にアップしたブログに“脳性麻痺 vs 脳性マヒ”があります。以降、“麻痺”という漢字は使わないようにしています。しかし、優先すべきは引用させて頂いた本の表記になりますので、今回のブログの中でも“麻痺”という漢字を使っています。なお、なぜ漢字ではなく“マヒ(まひ)”を使った方が良いのかについては、臨床動作法を創始された成瀬悟策先生の書『姿勢のふしぎ』の中の一文にあります。

『脳の病変によって肢体が不自由になる現象を、本書ではここまで「脳性麻痺」ではなく一貫して「脳性マヒ」と表記してきたのは、一般に「麻痺」ということばが「神経や筋の機能が停止する状態」(広辞苑)とされているためでした。これまで述べてきたように、この子たちのからだは病理学的に動かないのではなく、生理的には動く自分のからだを、その主体者が自分の思うように動かせないだけですから、「麻痺」ということばはそぐわないため用いません。

著者:河村光俊

出版:医歯薬出版

初版発行:2002年6月

全ての目次については、”小児の理学療法1”を参照ください。

第5章の目次は以下の通りですが、うすいグレーの項目については触れていません。

第5章 脳性麻痺

1.痙直型四肢麻痺

1)痙性の分布

2)関節への体重負荷、自発運動の意義

2.痙直型両麻痺

1)臨床像

2)痙直型両麻痺の病因

3)両麻痺の痙性分布

4)両麻痺の発達の特徴

5)両麻痺の頭のコントロール

6)両麻痺のキッキング

7)両麻痺の寝返り

8)両麻痺のハイハイ

9)両麻痺の起き上がり動作

10)痙直型両麻痺の割り座に対するアプローチ

11)両麻痺の移動

12)両麻痺のつかまり立ち

13)両麻痺の立位姿勢

14)両麻痺の認知障害

15)つま先歩きをする子どもたち

16)股関節脱臼

3.痙直型片麻痺

1)初期症状

2)片麻痺の発達の特徴

(1)片麻痺の正中位指向の特徴

(2)片麻痺の寝返りの特徴

(3)片麻痺のハイハイの特徴

(4)片麻痺の四つ這い

(5)片麻痺の座位

(6)片麻痺のずり這い

(7)片麻痺の起立

(8)片麻痺の歩行

(9)片麻痺の健側手

(10)患側の手の活動と代償運動

(11)片麻痺の尖足

(12)片麻痺の連合反応

(13)正常な連合運動

3)アテトーゼ型片麻痺

4)後天性片麻痺

5)片麻痺の問題行動

6)片麻痺の治療

4.アテトーゼ型脳性麻痺

1)アテトーゼ型脳性麻痺に共有する特徴

2)アテトーゼ型脳性麻痺の分類

3)アテトーゼ型脳性麻痺の治療

5.弛緩型麻痺

1)脳性麻痺の初期症状としての弛緩

2)姿勢および反応

3)アテトーゼへの移行(移行期のサイン)

4)弛緩児の治療

第5章 脳性麻痺

1.痙直型四肢麻痺

●四肢麻痺の多くは重度で、いくつかの障害を重複していることが多い。

1)痙性の分布

四肢のみならず、中枢部である体幹に硬さをもっている。

●変形や拘縮が多く発生するタイプである。

四肢麻痺の多くが他動的な体幹の側屈や屈伸、回旋運動に対して強い抵抗を示すことが多い。

●四肢麻痺に限らず、他のタイプにもいえることであるが、他動的な操作に対して抵抗を示す部位は児の自発運動が極端に低下している部位でもある。

●頸のコントロールも獲得していない児も多く、彼らは背臥位でどちらか優位に一方へ頭を回旋させている。そのため、頭部の非対称性に由来する体幹、四肢の非対称的な筋緊張分布を呈する。

頸筋には多くの固有感覚受容器である筋紡錘が分布しており、頭部の動きが全身の運動性を引き出すことを考えれば、彼らの頭部の運動性の低下は全身の運動性の低下に強く関連している。

●体幹において過剰な表在筋の痙性とは反対に深部の中枢筋の活動低下を腹臥位においたときに明らかに区別することができる。

深部筋の活動低下は3つの分節である頭部と胸郭部と骨盤部が機能的な連結を完成させていないことを示している。

頭部、胸郭部、骨盤部を連結する姿勢反応は3つある。①頭に働く身体の立ち直り反応、②身体に働く頸の立ち直り反応、③身体に働く身体の立ち直り反応(胸郭部から骨盤部へ、骨盤部から胸郭部への相互方向)。これらの基本的性質は外的に生体へ捻れが加えられたときに、捻れをつくりだすことによって捻れを打ち消し中間位へ戻るものである(減捻性立ち直り反応)。

減捻性立ち直り反応を治療に応用し、重症児の姿勢アライメントを改善することが可能であり、また、自発的な運動による姿勢アライメントの修正であるため、効果を持続することが可能となる。

※左は「頸の立ち直り反応」、右は「体の立ち直り反応」、いずれも減捻性立ち直り反応になります。


脊柱起立筋と腹筋は胸郭部と骨盤部を連結する役割をもっており、正常では身体に働く身体の立ち直り反応の成熟に伴い、寝返り運動を可能にし、さらに重力に抗して体幹を垂直位へと起こし、座位への起き上がり、起立を可能にしていく。

●正常な人は背臥位では抗重力活動により頭をまっすぐに正中位で保持できる。一方、重症児では頭は球形で転がりやすいため、頭は必ず一方に回旋する。この状態が続くと下肢の一側のより外旋、反対側の内旋、上肢の一側のより外旋と反対側の内旋が生じている。

2)関節への体重負荷、自発運動の意義

●体重負荷をしないで、さらに自発運動が制限された関節では、結合組織の基本成分である蛋白多糖類が減少することが知られている。結合組織の強化には自発運動、体重負荷刺激を行う。

2.痙直型両麻痺

1)臨床像

●軽度痙直型両麻痺では、起立直後に静止することが困難で、すぐに前方へ突進するように歩く、体幹は前傾し、股関節が屈曲・内旋し、膝関節は屈曲し踵を接地できず尖足位で歩行する。このような症例ではいかに体幹を直立位にし、股関節、膝関節の伸展を獲得するかが課題となる。

2)痙直型両麻痺の病因

●痙直型両麻痺の主要な原因は脳室周囲白質軟化症(PVL)である。軽度であれば両麻痺だが、PVLの領域が拡大して上肢や顔を支配する錐体路まで障害されてしまうと四肢麻痺になる。

画像出典:「小児の理学療法」

 

3)両麻痺の痙性分布

●両麻痺では痙性が主に骨盤帯と下肢に分布するが、体幹および上肢にも軽度の痙性分布を示す。そのため、上肢機能にも問題を持つことが多い。

画像出典:「小児の理学療法」

●痙性分布には必ず左右差がある。体幹深部筋の痙性分布の非対称性により、肩甲帯と骨盤帯の位置(アライメント)異常が発生しやすくなる。また、体幹の表在筋、とくに内転筋と内旋筋の痙性分布により、四肢の外転運動が制限されてしまう。

4)両麻痺の発達の特徴

●新生児では両麻痺の症状は目立たない。しかし、よく観察すると下肢の運動が少なく、また下肢の分離運動がほとんど見られなかったり、膝窩角が拡大することがある。

下肢の分離運動を確認する方法は、両麻痺の場合、膝を伸展位に保持すると足部の背屈運動がしにくくなる。

6)両麻痺のキッキング

●両麻痺の下肢のキッキングは一般的に少なく、新生児期では外転・外旋位をとり、不活発である。しかし、頭のコントロールや上肢の活動が増加してくる生後3~5カ月にかけて、連合反応により下肢の潜在的な痙性が出現してくる。この時期に母親は赤ちゃんのおむつ交換のときに、自分の子どもの下肢が開きにくくなっていることに気がつく。ひと昔前ではこのような症状に気がついて受診しても股関節脱臼を疑われ、X線写真の結果異常がないと、様子をみましょうといわれることが多かった時期がある。しかし、今では新生児期にすでに脳室内出血やPVLを発見されることが多く、赤ちゃんの下肢に問題が現れることを事前に伝えられるようになってきた。

下肢の運動が少ないと股関節が刺激を受けず、臼蓋形成不全が生じる。さらに股関節で体重負荷を経験しないと股関節形成不全が強まる。その結果、大腿骨頭の受け皿でもある臼蓋が浅くなり、下肢の痙性による内転・内旋で股関節は亜脱臼となり、さらに脱臼へと徐々に進行していく結果となる。

両麻痺のキッキングの特徴は定型的な伸展パターンと屈曲パターンを繰り返すことである。つまり下肢を屈曲するときには必ず股関節屈曲・外転・外旋/膝関節屈曲/足関節背屈をし、下肢を伸展するときは必ず股関節伸展・内転・内旋/膝関節伸展/足関節底屈をしてくる。

画像出典:「小児の理学療法」

また、左右差が必ず存在し、より軽度な下肢のキッキングが多くなる。その結果、より患側の下肢は健側の下肢のキッキングによって股関節の内転・内旋を強めてくる。その結果、より健側のキッキングは患側の股関節の亜脱臼や脱臼を生じる要因となる。

画像出典:「小児の理学療法」

7)両麻痺の寝返り

背臥位から側臥位になろうとするときは、頸部を強く屈曲し、上肢を前方屈曲し、体幹の屈曲を強めながら姿勢を変えようとする。それと同時に連合反応により両下肢は内転・内旋を強める。

腹臥位から背臥位には頸部の過剰な伸展と回旋により姿勢を変えようとする。

8)両麻痺のハイハイ

正常児と異なり、ハイハイを始める前にみられるピボット運動は通常みられない。これはピボット運動に必要な体幹の伸展と回旋を発達させていないためである。また、ピボットに必要な下肢の外転運動も痙性により阻止されてしまう。

正常児でみられるハイハイの上下肢の交互性も一般的にはみられない。

9)両麻痺の起き上がり動作

両麻痺では体軸内回旋を伴った床からの起き上がりができず、対称的な動作で割り座になる。

●割り座は両麻痺が両手を自由に使用できる唯一の座り方である。一度、割り座を覚えてしまうと、他の座り方を自分からはしなくなる。他の座位姿勢に置くと両手を床から離すことができず、両手活動ができなくなる。

画像出典:「小児の理学療法」

両麻痺を長座位に置くと、骨盤は後傾し、仙骨部で体重を受け、脊柱を伸展することができない。

長座位ではハムストリングスが痙性のため短縮し、骨盤を後傾させてしまう。その結果、脊柱を伸展することが困難となる。さらに膝関節を屈曲し、自分では膝伸展することはできない

画像出典:「小児の理学療法」

内側ハムストリングスの痙性がより強いため、股関節を内旋する要因となる。 

●軽度な両麻痺児で両手を離すことができる場合を除いて、この姿勢を自分からとることはない。

10)痙直型両麻痺の割り座に対するアプローチ

●割り座で足部を観察するとどちらか一方が外返し位をとり反対側が内返し位となり、非対称的な足部を示すことが多い。これは股関節の内旋の強さに影響されて生じる。痙直型両麻痺児は座位をとるまでの運動発達のなかで、骨盤の運動性を伴った腹筋の収縮や下肢の分離動作、体幹の伸展と回旋要素を獲得していない。そのため、子どもの自発性が高まってくるにつれて、下肢の機能の不十分さを上体で代償することを学習してしまう。その結果、下肢の痙性は徐々に強まり、下肢の分離動作がさらに困難になってくる。そして、下肢の全体的な屈曲パターンを利用した座り方。すなわち割り座のみが可能となる。

両麻痺児を長座位に置くと骨盤は後傾し、仙骨部で体重を受けてしまう。両側のハムストリングスは短縮し、両股関節は内転、内旋位をとる。また両膝も屈曲し、足関節は底屈位をとる。長座位姿勢を保つためには、後方に転倒しないように体幹の屈曲を強め、上体を前方に運ばねばならない。

割り座しかできない両麻痺児に対して長座位を経験させることは全身を分離することにつながる。全身の分離とは長座位のように体幹の伸展と股関節の屈曲、そして膝関節の伸展のように異なる要素が姿勢のなかに存在することを意味している。

11)両麻痺の移動

両麻痺児の体幹では伸展と回旋が不足している。また、正しい四つ這い姿勢がとれないため、割り座の姿勢から殿部を少し持ち上げ上肢に体重移動をすることを繰り返しウサギ跳びをする。また、このウサギ跳びが長期化する傾向をもっている。

画像出典:「小児の理学療法」

下肢の交互運動は少なく、両下肢を屈曲位のまま前進するため、将来の歩行に必要な下肢の交互運動を経験することが極端に少なくなる。

ウサギ跳びによる移動方法が長期化すると、立位に必要な股関節や膝関節の伸展が発達しない。そのため、早期に立位を治療に取り入れる必要がある。

●中等度~軽度両麻痺では四つ這いができることがあるが、骨盤が左右に動揺し、体重を適切に股関節で受けることができない。この動揺性は中殿筋が働かないトレンデレンブルグ歩行でみられる体幹の動揺性と類似している。また、下肢が過剰な伸展パターンに入り込むため、股関節の内転・内旋が強まる。

画像出典:「小児の理学療法」

12)両麻痺のつかまり立ち

正常児のように両下肢を分離して動かすことが困難なため、膝立ちから片膝立ちへ移ることが困難である。そのため、両腕の力で立位へと自分の体を引き上げ、両下肢はほぼ同時に突っ張り立ち上がろうとする。しかし、足部の背屈が困難なため、前足部で体重を受け尖足位で立位をとる。

画像出典:「小児の理学療法」

●正常児でも、つかまり立ちの初期の段階では両麻痺児のように直線的な起立パターンをとる。しかし、両麻痺と違って決して股関節内旋はみられない。正常児がこのような直線的な起立パターンを初期の段階でとるのは一側下肢での体重負荷の筋力が未発達のためと考えられる。また、立位での平衡反応が成熟していないため、動作を両側同時に行うことで安定を保っているともいえる。

13)両麻痺の立位姿勢

●両麻痺児の立位姿勢は大きく二分される。その1つが屈曲型とよばれる姿勢で、体幹の屈筋群の過緊張により脊柱の重力に逆らった伸展が発達していないため、脊柱は屈曲し骨盤は後傾する。

画像出典:「小児の理学療法」

●屈曲型では独歩は困難で、歩行器やクラッチに頼らなければ歩行が困難になる。また、松葉杖は体幹の屈曲を強めてしまうため、杖はロフストランド杖が好ましい。歩行器はPCW(postural control walker)を使い、脊柱の伸展を日常的に促すことが試みされている。

画像出典:整形外科疾患の病態やリハビリテーションに関する理解を深めるブログ

なお、こちらのサイトではロフストランド杖の特徴や適応などについて詳しく説明されています。」

画像出典:徳島県立 板野支援学校

この写真は、自立活動トピックスの“自立活動 P.C.Wでの歩行学習”という記事に使われていたもので、P.C.Wに関する説明も出ています。

●もう1つのタイプ伸展型である。伸展型では体幹の同時収縮は屈曲型に比べて軽度となる。体幹は股関節屈曲を代償するため、代表的伸展をする。骨盤は前傾しており、膝は屈曲位を取るため下腿の振り出しが困難となる。

画像出典:「小児の理学療法」

●歩き方は前方に突進するように歩き、ゆっくりとは歩けない。そして、体幹を左右に揺すりながら体重移動を行う。

14)両麻痺の認知障害

両麻痺児は行動の切り替えが遅く、新たな局面に向かえない特徴をもっている。このような両麻痺児に対しては目標を言語化してあげることが大切である。例えば、「これからこれとこれをやろうね」などと行う行動を事前に認識させるような働きかけが必要とされている。

15)つま先歩きをする子どもたち

尖足歩行(つま先歩き)の原因

・前庭機能の異常

・足底接触から起こる防御反応(刺激に過敏)

・先天的なアキレス腱短縮

・歩行器の使い過ぎ

16)股関節脱臼

骨盤の捻転は一側股関節の内転・内旋パターンが増強することによって生じる。この骨盤の捻転は股関節脱臼や股関節屈曲拘縮に結びついてくる。

股関節の内転・内旋変形は同時に起きる。この変形の責任筋は大腿筋膜張筋と考えられている。また、内転筋では長内転筋と薄筋の痙性が要因と考えられている。

主な股関節脱臼の原因は股関節の形成不全が背景に存在している。この形成不全は幼児期の初期において下肢運動が不足し、支持性の発達欠如により股関節形成が阻害される。この形成不全に加えて内転・内旋が脱臼を強めてしまう。

3.痙直型片麻痺

1)初期症状

●口腔周辺に現れることがあり、泣いたり、笑ったりするときに舌の非対称性や口唇の非対称性が生じることがある。

●生後2~3カ月では明らかな痙性は認められないが、上下肢の自発運動は低下している。

●片麻痺は早期から左右差をもっているため、比較的早期診断がつきやすいが、周産期医療(妊娠22週から出生後7日未満までの期間)の進歩により減少している。

●新生児期では手指の動きは少なく、下肢は未熟なパターンをとっていることが多く、下肢の障害は初期には目立たない。そのため上肢だけの障害とされて単麻痺として診断されることがある。しかし、脳性麻痺で単麻痺は非常にまれで、下肢を注意して観察すると、左右差を確認することができる。

●初期には下肢の痙性が目立たなくても、ハイハイ、起立、歩行へと下肢の活動性が高まるにつれて痙性が強くなる。

●痙性が軽度な場合、初期には上肢の自発的な運動がみられるが、治療せずに放置すると、上肢機能は未熟なリーチと把握にとどまるか、連合反応の結果、さらに悪化する危険性をもっている。

通常、母親は3カ月ごろ、患側の手の動きの少ないことに気づく、また、手を握っていることが多いことに気づく。すなわち、このころから上肢に痙性を認めるようになる。これは健側の手の自発活動が増加してくるにつれて、患側の屈筋痙性が発現してくるためである。

2)片麻痺の発達の特徴

生後1年以内は利き手は確立しないので、その時期に左もしくは右を明らかに優位に使用するとしたら片麻痺を疑うべきである。

(3)片麻痺のハイハイの特徴

健側上肢でたぐり寄せるように推進する。そのため、連合反応の影響により患側上肢の屈曲、肩後退が強まり、同時に手指の屈曲も強まる。

画像出典:「小児の理学療法」

ハイハイの際、患側の骨盤は後方へ引かれ、患側の体幹の短縮が生じてしまう。また、患側下肢の股関節内転、膝関節の伸展、足関節の底屈、足趾の鷲指が起こる。

(4)片麻痺の四つ這い

比較的上肢の障害の軽い場合に四つ這いをすることがあるが、通常、上肢を体重支持に用いることができないため四つ這いを経験しないことが多い。そのため、初期の移動は寝返りやハイハイが主体となる傾向をもっている。

(5)片麻痺の座位

正常児では四つ這い位から体軸内回旋により、座位に移行していくが、片麻痺の場合には腹臥位から四つ這い位を経由せずに起き上がってくる。

(6)片麻痺のずり這い

片麻痺児では座位を獲得すると、ずり這いを覚える可能性が高くなる。座位で体重を健側の骨盤に移動し、健側上肢を使い身体を揺すりながら移動する。子どもによっては上肢を使わずに骨盤と体幹の前後の動きでずり這うことがある。

(7)片麻痺の起立

片麻痺児は健側上肢で物につかまり、腕の力で身体を引き上げるようにして立ち上がる。そのときさらに患側上下肢の痙性は強まり、肩甲帯の後退を伴った屈曲、手指の屈曲、患側体幹の短縮、骨盤の後退が今まで以上に強まってくる。

(8)片麻痺の歩行

起立することにより、前足底部に圧刺激が加わるため病的陽性支持反応の影響により下肢の伸展パターンが強まる。しかし、股関節に屈曲が残る。その理由として次のことが考えられる。

①伸展パターンといえども体重を支持するには不十分なため。

②今までに正常な股関節の伸展が発達していないため。

③体幹の抗重力伸展の不足により、患側下肢に対して体幹を垂直に保つことができないため。

④内転筋のもつ作用として、股関節内転以外に股関節の軽度屈曲作用をもっており、股関節内転筋の痙性が強いと股関節を十分に伸展できなくなるため。

(9)片麻痺の健側手

片麻痺児は片手で持てる小さな玩具を好む。そのため、健側の手のみを使用する傾向が強まる。また、両手を使用することが困難であるため、健側手を粗大な活動に用い、より巧緻的な活動には使用しない傾向がある。

画像出典:「小児の理学療法」

(10)患側の手の活動と代償運動

患側手にある程度の随意性をもっている場合に、患側の手の動きづらさを代償する頸部、体幹の代償運動が出現する。特に患側上肢の前腕を回外するように指示すると、体幹と頸部は患側に側屈し、身体全体を使って回外運動を助けようとする。

画像出典:「小児の理学療法」

(11)片麻痺の尖足

尖足を示す場合、膝関節を伸展位で足関節背屈制限がみられ、膝関節を屈曲位にして背屈したときに正常可動域まで背屈する場合は腓腹筋の短縮が考えられる。また、膝関節を屈曲しても足関節の背屈制限がみられる場合にはヒラメ筋も短縮していることが考えらえる。児はこの尖足位の踵を接地させるために骨盤を後退させ、膝を過伸展する。そのため反張膝が徐々に強まる。

(12)片麻痺の連合反応

連合反応は健側が存在するため患側に出現する。連合反応は健側の強い随意的な努力に伴う異常な患側の定型的な運動パターンである。つまり、連合反応は痙性パターンのなかで筋緊張が高まる現象で、それはあたかも運動のようにみえるが、これは正常な動きではなく解放された緊張性反射活動のため筋緊張が変化することによる。

重度な痙性が分布していると、動きとしては現れないため、筋緊張の変化を触診することで確認することができる。

(13)正常な連合運動

連合運動は正常な運動で、両側に対称的な運動や類似した運動を引き起こす。連合運動は正常でありおよそ12歳までには自己抑制が可能となる。また、正常ではより動き強めるときに生じる。立ち直り反応、平衡反応の未熟な段階では種々の連合運動が正常発達の過程のなかでみられるが、多くは学齢前までに抑制機能を獲得していく。

6)片麻痺の治療

(1)母親の教育

片麻痺児の多くが歩行を獲得していく。そのため、粗大な運動面では一応のことができるようになるため、母親は運動に関して楽観的になりやすい傾向をもっている。しかし、将来的に両手を使用することの重要性と必要性や、片手で可能な職業の少なさを早くから知ってもらう必要がある。

(2)知覚改善

患側の手を使用できるようにするためには多くの感覚刺激が患側に加えられなければならない。そのため、多くの固有感覚刺激や表在感覚刺激を入れていき、複合感覚の改善を目指していく。とくに、片麻痺児は患側に触れられることを嫌がる。これは健側での代償の結果、患側に入る感覚刺激が減少したためである。そのため、早期から感覚刺激を入れ、のちの体重負荷の準備をしていく。

また、血管運動障害のために患側肢の循環障害を起こしやすく、寒い季節には手指の運動性が低下する。

(3)両側の協調性の改善

過剰に患側を使用させようとする必要はない。とくに早期の段階では両側活動を中心に治療を進めていく必要がある。

(4)患側の異常発達を阻止

健側での代償運動を学習する以前に治療を開始することが必要である。特に上肢の自発運動を引き出し、多様な粗大運動が可能となるように台にのせ反応などを応用した治療が必要である。

(5)連合反応の抑制

患側肢の自律的、随意的運動性を引き出すことが、結果的に連合反応を減弱していくことにつながる。そのため、他動的な操作による痙性の減弱に固執してはならない。

(6)てんかんに対する配慮

治療にはクールダウンを準備しておく。痙攣発作が頻回に起こると、獲得していたことができなくなることがある。そのため過度の疲労を避ける必要がある。また、規則正しい生活が行われているか注意を払う必要がある。

(7)年齢による特性 

3~10カ月は異常発達が進行していないため、比較的治療がしやすい時期である。この時期に両側の相互活動を多く学習できる可能性がある。

10カ月~4歳ごろまではなかなか治療に応じてくれない。そのため、たくさんの遊びと探索活動とそして成功できる課題を多く治療に導入しなければならない。

4~8歳では拒否する態度が減少してくるため治療が容易になってくる。

8~12歳では自分の障害を認めるようになり、治療の必要性を否定しようとする傾向がみられる。

12~16歳では仲間と意味のある関係を形成することに関心が強くなり、治療にも関心を持つようになる。この時期では自己抑制を学習することや現実的な状況で治療を進めることが大切となる。

付記:脳性麻痺の出現比率

本書では脳性麻痺は、両麻痺、四肢麻痺、片麻痺、アテトーゼ型脳性まひ、弛緩型麻痺に分類されています。「これらの発生比率に関するデータはないのだろうか?」と思い、ネット検索したところ、次のような情報を見つけました。これを見ると痙直型が全体の84%であり、その中では両麻痺が1番多いことが確認できます。

『ヨーロッパの研究では片麻痺 27%両麻痺 36%三肢/四肢麻痺 21%であり,失調型 CP 児が 4%,ジスキネジア/ ジストニック型脳性麻痺が 12%となっている。』

脳性麻痺 理学療法マニュアル”をクリック頂くと163枚のPDF資料がダウンロードできます。残念ながら上記の比率に関する文章はないのですが、“用語”の解説の1番目に下記の記述があります。

surveillance of cerebral palsy in Europe(SCPE)

『1998年に設立された,欧州8か国14センターからなる脳性麻痺の登録,調査に関する共同研究ネットワークであり,出生体重の傾向をモニターするためのCP児のデータベースの開発とサービス計画についての情報提供,共同研究の枠組みを提供することを目的としている*。』

そして、“surveillance of cerebral palsy in Europe”で検索して出てきたサイトが以下になります。きっとこの中に情報ソースが存在していると思うのですがそれを探すことはすぐに諦めました。

小児の理学療法1

前回、前々回は『脳性まひ児の発達支援』という本を題材にした勉強モードのブログでしたが、今回も同じく勉強モードとなっています。勉強の目的は“動くことのできる小児障害児への施術(マッサージ・鍼)を考え、一人ひとりに適した施術を提供できるようになる”ということです。

なお、ブログの内容は本をつまみ食いした項目で構成されていますが、“小児の理学療法1”で注目したのは2つです。一つは“セラピスト(理学療法士)に求められていることを知る”というものであり、もう一つは“小児障害児の運動特性と関節・筋肉”に関するものです。これらは、障害児が持つ過緊張・低緊張という問題に正面から取り組む上で重要であると考えます。

著者:河村光俊

出版:医歯薬出版

初版発行:2002年6月

『脳性まひ児の発達支援』の参考文献として紹介されていた本です。

すべての目次の中で黒色は今回の“小児の理学療法1”、その中で太字がつまみ食いした項目です。一方、うすい灰色は次回以降、“小児の理学療法2”、“小児の理学療法3”で検討する部分になります。

目次

第1章 歴史的にみた脳性麻痺

第2章 発達障害児の治療のための評価

1.事前に行うべきこと

1)両親への説明

2)評価環境

3)両親(母親)の観察

2.評価の基本

1)基本的評価の流れ

2)観察のポイント

3)仮説を立てる

4)正常運動発達要素の欠落

3.姿勢反応の評価(立ち直り反応群)

1)体に働く頸の立ち直り反応

2)頭に働く頸の立ち直り反応

3)体に働く体の立ち直り反応

4)視性立ち直り反応

5)迷路性立ち直り反応

6)平衡反応

4.姿勢緊張の評価

1)小児神経学で使われている筋緊張の検査

2)正常姿勢緊張

3)プレーシング・ホールディング

5.連合反応の評価

6.発達のギャップ

7.乳児期に問題となる姿勢と運動パターン

8.知的発達の評価

第3章 姿勢と運動の発達

1.腹臥位姿勢と運動の発達

1)新生児の腹臥位姿勢と運動

2)1カ月の腹臥位姿勢と運動

3)2カ月の腹臥位姿勢と運動

4)3カ月の腹臥位姿勢と運動

5)4~5カ月の腹臥位姿勢と運動

6)6カ月の腹臥位姿勢と運動

7)7カ月の腹臥位姿勢と運動

8)9~10カ月の腹臥位姿勢と運動

9)12~13カ月の腹臥位姿勢と運動

2.背臥位姿勢と運動発達

1)新生児の姿勢と運動

2)1カ月児の背臥位姿勢と運動

3)3カ月の背腹臥位姿勢と運動

4)4~6カ月の背臥位姿勢と運動

5)8カ月の背臥位姿勢と運動

3.座位の発達

1)第1段階~第2段階(新生児期から生後5カ月)

2)第2段階

3)第3段階

4.立位と歩行の発達

1)新生児期

2)失立・失歩行期

3)下肢への加重の始まり

4)jumping Stage

5)bilateral weight bearing

6)sequence to standing

7)1歳6カ月以降の立位・歩行の発達

5.手指機能の発達

1)hand orientation

2)hand orientationとgrope

3)hand orientation,grope,grasp

4)reach pattern

5)物の持ちかえ

6)pincer grasp

7)releaseの発達

6.移動の発達

1)移動における皮膚の役割 

2)初期の移動と視覚とリーチ

3)移動にみられる退行現象

4)移動と三点支持面

7.乳幼児のプレスピーチの発達

第4章 新生児集中治療室における理学療法

1.新生児の分類

1)出生体重による分類

2)在胎週数による分類

3)胎児発育曲線による分類

4)臨床所見による分類

2.未熟児にみられる主要な疾患

1)子宮内発育不全児

2)新生児仮死

3)未熟児無呼吸発作

4)呼吸窮迫症候群

5)未熟児の慢性肺障害

6)核黄疸

7)動脈管開存症

8)新生児低血糖症

9)新生児頭蓋内出血

10)嚢胞形成性脳室周囲性白質軟化

11)未熟児網膜症

3.未熟児の姿勢と運動の評価

1)モロー反射

2)把握反射

3)非対称性緊張性頚反射

4)足趾把握反射

5)交叉性伸展反射

6)恥骨上反射

7)ガラント反射

4.新生児神経行動学的評価

1)慣れ現象

2)運動と緊張

3)反射

4)神経行動学的指標

5)立ち直り反応

5.未熟児の運動療法

第5章 脳性麻痺

1.痙直型四肢麻痺

1)痙性の分布

2)関節への体重負荷、自発運動の意義

2.痙直型両麻痺

1)臨床像

2)痙直型両麻痺の病因

3)両麻痺の痙性分布

4)両麻痺の発達の特徴

5)両麻痺の頭のコントロール

6)両麻痺のキッキング

7)両麻痺の寝返り

8)両麻痺のハイハイ

9)両麻痺の起き上がり動作

10)痙直型両麻痺の割り座に対するアプローチ

11)両麻痺の移動

12)両麻痺のつかまり立ち

13)両麻痺の立位姿勢

14)両麻痺の認知障害

15)つま先歩きをする子どもたち

16)股関節脱臼

3.痙直型片麻痺

1)初期症状

2)片麻痺の発達の特徴

3)アテトーゼ型片麻痺

4)後天性片麻痺

5)片麻痺の問題行動

6)片麻痺の治療

4.アテトーゼ型脳性麻痺

1)アテトーゼ型脳性麻痺に共有する特徴

2)アテトーゼ型脳性麻痺の分類

3)アテトーゼ型脳性麻痺の治療

5.弛緩型麻痺

1)脳性麻痺の初期症状としての弛緩

2)姿勢および反応

3)アテトーゼへの移行(移行期のサイン)

4)弛緩児の治療

第6章 運動療法

1.頭のコントロールのための運動療法

1)背臥位での頭の回旋

2)腹臥位での頭の回旋

3)腹臥位での頭の挙上

4)背臥位からの頭の屈曲

5)頭の固定性を高める準備としての圧迫手技

2.上肢の挙上運動とリーチの準備

3.上肢の支持性

4.脊柱の側屈可動性の準備

5.脊柱の伸展可動性の準備

6.パラシュー反応の誘発

1)パラシュート反応誘発のための準備

2)パラシュート反応の誘発

7.減捻性立ち直り反応を応用した運動の誘発

1)体に働く頸の立ち直り反応

2)体に働く体の立ち直り反応

3)抗重力方向への体に働く体の立ち直り反応

第2章 発達障害児の治療のための評価

1.事前に行うべきこと

●家庭ではどのような姿勢、運動が多いかを質問し、習慣的に形成されていく異常姿勢や運動に対抗する手段を講じていかなければならない。

●家庭で使用している機器(座位保持椅子、車椅子、歩行器、立位保持用具など)を知る。

●子どもの生活リズムを知っておく。特に年少の場合、午睡、就寝、起床時間、夜中にどのくらい覚醒するか。

●どのような薬を服用しているか。

2.評価の基本

●総合評価する場合、一人ひとりの動作を観察分析することから始まる。

セラピストは運動学的に異常な動作の原因の仮説をたて、その仮説に基づき運動療法を試行し、発達障害児に触れ、観察で得られた情報と実際に触って感じる情報の違いなどを整理していく。

●治療を行いながら刺激(スピード、幅、刺激部位、刺激の強さ)を変え、適切な刺激を選択する。

1)基本的評価の流れ

発達過程にある発達障害児の異常性の出現、正常要素の欠如と異常な発達、発達の停止もしくは遅れ(発達のゆがみ)を見つけることがセラピストの課題となる。

なぜ首が座っていないのか? なぜ座れないのか? なぜ寝返りできないのか? なぜ手をうまく使えないのか? なぜつかまり立ちができないのか? なぜ歩けないのか? など獲得して欲しい機能を阻害している要因は何なのか、セラピストは自問自答する必要がある。

2)観察のポイント

観察は末梢の手足ではなく、体幹の状態をよく観察する。

●体幹の観察では胸郭の左右差や肋骨下部の突出、陥没呼吸のためにロート状になっていないかみる。

●観察だけでなく動作を真似してみることも重要。

3)仮説を立てる

できること、できないことを整理する、そしてできないことの原因の仮説を立てる。ここで考えなければならない原因とは、中枢神経系の障害部位ではなく、からだに分布する異常な筋緊張分布や獲得していない基本的な運動機能などを考えることである。

●姿勢(背臥位、腹臥位、座位、立位)と運動(寝返り、ハイハイ、四つ這い、起き上がり、つかまり歩き、歩行)のなかにみられる共通した問題点を見つけだす。

●異常と感じた姿勢や動作を文章にしてみることが必要である。

●年長になるにつれ、非対称性が徐々に変形や拘縮に発展していく。

4)正常運動発達要素の欠落

正常運動発達には順序性があり、頭のコントロールから寝返り、ハイハイ、四つ這い、つかまり立ち、つかまり歩き、独歩と続くが、この順序性に固執するのは適切ではない。寝返りができる6カ月では立位をとらせると下肢に体重を受け始める。座位をとらせると両手を前について少しのあいだ姿勢を保とうとする。このようにお互いが影響しながら同時に発達している。

●セラピストは子どもの発達経過のなかで重要な正常運動発達の要素を欠落させていないかどうか見つける必要がある。

・正中位での頭の保持

・手と足の接触

・体軸内回旋機能

・下肢の交互運動

・上肢の支持性

・手指の把握機能

・凝視・追視機能

・咀嚼・嚥下機能

・基本的な立ち直り反応

・上肢の保護反応

・下肢の保護反応

・平衡反応

運動麻痺についてご紹介します。

画像出典:「日本脳神経財団

運動麻痺とは手足や顔を動かす筋肉が随意的に動かせなくなることです。具体的には脳梗塞や脳出血などの脳血管障害、脳腫瘍、頭部外傷などで手足や体幹、顔面の随意的な運動ができなくなる状態です。

運動麻痺はその病気が身体のどこに起こるかで4つのタイプに分けられます。

①片麻痺(半身麻痺):顔面を含んで一側半身の麻痺が現れるものです。

②単麻痺:一側の手、または足が単独で麻痺するものです。

③対麻痺:両側の下肢の運動麻痺のことです。

④四肢麻痺:両側の上肢、下肢が全て麻痺してしまうものです。

4.姿勢緊張の評価

姿勢緊張テストの目的は子どもの姿勢変化に伴う筋の緊張の変化を調べることである。つまり発達障害児では姿勢によって筋緊張が高まったり、低下したりする。また、中枢神経系に障害を持っている場合には異常な筋緊張が全身に分布しており、治療計画を立てる場合に異常筋緊張分布の状態を把握する必要がある。セラピストは子どもの四肢を他動的に操作し、その時セラピストの手に感じる筋の筋緊張を評価する。

●筋緊張の評価として次の大まかな基準が参考になる。

①正常(normal):四肢の他動操作に対して素早く反応し、ただちに筋緊張を他動操作に合わせるように変化する。その結果、セラピストは四肢を非常に軽く感じる。

②痙性(spasticity):四肢の他動的操作に対して過度な抵抗を示す。抵抗は操作開始域で強く、突然抵抗が弱まることがある。これをジャックナイフ現象とよぶことがある。一般的には上肢では屈筋と内転筋の緊張が高く、下肢では伸筋と内転筋の緊張が高いのが特徴である。

③アテトーゼ(athetosis):四肢の操作に対して筋緊張が動揺し、過度な抵抗を示したり、抵抗が消失したり絶えず変化を示す。その筋緊張の変化を予測することが一般的には困難である。

④弛緩(flaccidity):四肢の操作に対してほとんど抵抗を示さず、セラピストは操作している四肢の重さを手に感じる。 

筋緊張の種類についてご紹介します。

画像出典:「LITALICO発達ナビ

このイラストを見ると、痙直型=大脳、アテトーゼ型=大脳基底核、失調型(弛緩)=小脳 ということがシンプルに分かります。なお、約80%は痙直型であるとされています。

また、こちらのサイトには貴重な情報が盛りだくさんなのですが、特に重要と思う部分をご紹介します。

◇症状と脳性麻痺の原因

1.核黄疸・ビリルビン脳症

2.低酸素性虚血性脳症

3.脳室内出血・脳室周囲白質軟化症

◇上記3つ以外の原因

1.妊娠中の脳性麻痺になる原因

・脳の中枢神経系の奇形

・遺伝子や染色体の異常

・感染症(風疹、サイトメガロウィルス、トキソプラズマなど)

2.出産時の脳性麻痺の原因

・新生児の呼吸障害やけいれん

3.出産後の脳性麻痺の原因(脳の損傷)

・中枢神経感染症

・頭蓋内出血

・頭部外傷

・呼吸障害

・心停止

・てんかんなど

おもに周産期と妊娠期間中に脳性麻痺が起きやすいことも分かっており、周産期に発生する場合が40~66%、出生前の妊娠中に起きてしまう割合が13~35%。

1)小児神経学で使われている筋緊張の検査

●筋緊張(筋トーヌス)の内容として伸張性、被動性、筋の硬さの3つがある。

(1)伸張性

伸張性とは関節をゆっくりと他動的に操作して動かしたときにどのくらいの伸びを示すかによって判定する

①window sign

手関節を掌屈する。成人では90°だが新生児ではさらに掌屈する。6カ月ではほぼ成人の可動域になるが、6カ月以降も過度な掌屈がみられる場合には低緊張であり、ダウン症などの疾患が疑われる。

画像出典:「小児の理学療法」

 

②股関節の開排角度

新生児の開排角は平均76~77°で、その後急速に角度は減少し、生後3カ月で平均71°まで減少する。その後は徐々に増加し生後2歳で再び76~77°になる。さらに歩行速度の増加と走行能力の発達に伴い股関節の固定性が増大するため内転筋の伸張性は低下する。そのため生後では74~75°になる。 

画像出典:「小児の理学療法」

 

ご参考

画像出典:「岡山の医療健康ガイド MEDICA

 

③足の背屈

成熟新生児の背屈角度は大きく、生後3カ月以降は減少していく。成人では20°。

④膝窩角

膝窩角は新生児期では約90°だが、徐々にその角度は拡大していく。しかし、中枢神経系障害のある子どもではその角度が過剰に拡大したり、狭小化したり、左右差を示す。 

画像出典:「小児の理学療法」

 

ご参考(最下部に掲載されています)

画像出典:「MUSCULOSKELETAL MEDICINE

 

⑤スカーフ兆候

上肢をスカーフのように首に巻きつけるように回して検査する。成熟新生児では手関節が肩峰の所で止まるが、未熟児では手関節が肩峰を越えてしまう。  

ご参考(ほぼ中央に掲載されています)

画像出典:「OBGYNKEY

※写真左は成熟新生児、右は未熟児です。

注)本ページには衝撃的な写真も含まれております。 

 (2)振れの度

一般的に手関節と足関節で検査する。子どもの手首もしくは足首を持ち、手先もしくは足先を振る。このとき、低緊張であれば大きく振れ、過緊張であれば振れが小さくなる。

(3)筋の硬さ

筋肉の硬さを指で圧迫して硬さを判定する。筋の硬さの判定はかなり主観的になるため、多くの症例を経験する必要がある。評価基準は-3~+3までの7段階。

2)正常姿勢緊張

正常な姿勢緊張には幅があり、日常の生活の中で状況に応じて変化している。しかし、覚醒している状態では即座に動作を起こすことができる筋緊張は保っている。

3)プレーシング・ホールディング

正常であれば支えのない空間に置かれた肢は補助する手を離しても、肢を空間に短時間保持することができる。一方、中枢神経系障害のある子どもは保持することが難しい。

 5.連合反応の評価

●痙直型両麻痺の子どもが寝返りをしようとすると、いつも上半身を過剰に使って寝返ろうとする。その結果、両下肢は伸展して内転、内旋し特徴的なはさみ状肢位をとってしまう。

痙直型片麻痺では健側を使用することで患側の上肢の屈筋痙性が高まり、上肢が典型的な肘屈曲、回内、手指屈曲の姿勢をとってしまう。

画像出典:「小児の理学療法」

 

子どもがより健側を使用するたびに、患側の緊張が高まり変形・拘縮の原因となる。この連合反応が最も子どもの発達を阻害する要因になる。

●子どもにとって何が困難か、また、連合反応が出現しない許容度と、最も著明に出現する動作を把握しておく必要がある。

第3章 姿勢と運動の発達

4.立位と歩行の発達

3)下肢への加重の始まり

●生後4~5カ月になると膝窩で支えると少しの間、体重負荷を始めてくるが、全体重を支えることはできない。

足趾は屈曲しがちで片足を持ち上げることがある。

立位姿勢では股関節と膝関節の軽度屈曲がまだみられる。

画像出典:「小児の理学療法」

 

4)jumping Stage

●生後6~7カ月になると起立位に保持をすると下肢を伸展し、十分体重を負荷するようになる。

●この時期は活発に飛び跳ねるため、jumping stageと呼ばれる。

画像出典:「小児の理学療法」

 

5)bilateral weight bearing

●生後8~9カ月では飛び跳ねることはしなくなり、両手で物をつかんで立位を保つようになる。

一人ではしゃがむことはできないのは、体重の負荷がかかる状態で、股関節、膝関節を自由に動かすことができないためである。

画像出典:「小児の理学療法」

 

6)sequence to standing

(1)pull-up sequence

生後9~10カ月になると物につかまり直線的に起立するようになる。まだ片足での体重負荷機能が十分発達していないため、両足同時に使って起立しようとする。

画像出典:「小児の理学療法」

 

また、この時期でも膝の機能が十分ではないため、つかまり立ちはできてもしゃがむことはできない。

画像出典:「小児の理学療法」

 

(2)cruising(つかまり歩き)

生後11~12カ月になると、物につかまり横へつたい歩きができるようになる。

画像出典:「小児の理学療法」

 

つかまり立ちからつかまり歩きへ乳児を促すのは、上肢のリーチ機能である。これは手を物にリーチすることにより下肢では体重移動が生じ、より一側に体重が移ると他側の下肢のステップ反応が生じ、最初の一歩となる。

乳児は初め連続した物でつかまり歩きをするが、脊柱の重力に抗した伸展機能が高まるにつれて、脊柱の伸展と回旋を組み合わせることができるようになる。この離れた物へのつかまり歩きをしているときに、偶然に両手が離れて一人立ちが出現する。離れた物へつかまり歩きができるようになると、片手を支えられれば歩くことができるようになる。それ以前では、支えられた手を支点にして身体が回転してしまうことがある。

画像出典:「小児の理学療法」

 

(3)walking(一人歩き)

生後12~13カ月ごろ一人で床から起立し、数歩あるくことができるようになる。一人歩き初期では脊柱の抗重力伸展をさらに強めるために上肢を伸展し、肩甲骨を固定しようとする。また、両下肢を広く外転して立位の基底面を広くとり安定した姿勢を確保しようとする。

画像出典:「小児の理学療法」

 

一人歩き初期では、立位から最初のステップを前に振り出すとき、他側の下肢で全体重を受けなければならないため、乳児は下肢の伸展と脊柱の伸展を高めなければ崩れてしまう。そのため上肢を挙上し、下肢の伸展を全身を使って強める。

画像出典:「小児の理学療法」

 

歩行初期には上肢を挙上した姿勢で、両下肢を外転して基底面を広くとった歩行をする。この姿勢をhigh guard postureとよぶ、次第に上肢は下がっていき、middle guardへ、そして最後にlow guardとなっていく。上肢の位置がlow guardになるのは生後18カ月である。また、low guardになると歩行中の上肢の交互の振りが出現してくる。

画像出典:「小児の理学療法」

 

床からの起立パターンでは初期には完全な回旋を背臥位から起こし、腹臥位になってから四つ這い位、高這い位をとりバランスをとりながら起立していく。

画像出典:「小児の理学療法」

 

しだいに起立パターンは変化していき、完全に腹臥位まで回旋することなく、背臥位から半回旋し、座位に起き上がり、そこから起立するが、まだいったん高這い位の姿勢をとる。

画像出典:「小児の理学療法」

 

生後2歳ごろでは起立するまで高這い位を経由しなくなり、座位から片膝を立てて起立するようになる。

画像出典:「小児の理学療法」

 

脳性まひ児の発達支援2

著者:木舩憲幸

出版:北大路書房

発行:2011年8月

 

全体の目次を確認されたい場合は ”脳性まひ児の発達支援1”をクリックしてください。

こちらは第3部の全体像です。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第8章 姿勢と運動発達支援の実際1:筋緊張障害への対応

第1節 低緊張への対応

●肢体不自由特別支援学校に筋緊張の低い脳性まひ児が在籍していることは珍しくない。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

1.伸張反射の利用

(1)伸張反射とは

●筋が急速に引き伸ばされたときに筋が一定の長さを保とうとして収縮する。これを伸張反射といい、抗重力筋や顎の筋肉によく発達している。

●伸張反射の反射中枢は脊髄レベルにあるが、同時に脳の上位中枢から抑制を受けて、適当な強さに反射がコントロールされている。そのため錐体路が障害されると抑制がとれコントロールが難しくなって反射が過剰に強く出現するようになる。

伸張反射とクローヌス(間代)は脳性まひでは痙直型にみられる特徴である。

●伸張反射が亢進しているとクローヌス(間代)がみられる。クローヌスはすべての関節で起こり得るが、臨床的には足関節(足間代)と膝関節(膝間代)でみられやすい。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

(2)伸張反射を利用して筋緊張を高める

伸張反射を利用して伸筋の収縮を促通することができる。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

2.関節圧縮の利用

●関節圧縮は固有覚を利用するものである。

体重あるいは関節を圧縮する身体部位に日常的にかかっている以上の負荷をかける。この方法は圧縮された関節付近の筋群の同時収縮を促通して筋緊張を高める効果がある。これを肩、腰、頭などに用いると関節の近位部の固定性を高める。 

●肘位での関節圧縮:両肩から上腕の部分を支持者が保持して両肘を床に向かって垂直に押し込んで肘位を保持する。肘位でこの関節圧縮を行うと、肘と肩の関節の周辺の筋肉が同時収縮して緊張感が高まり、結果的に肢位を安定させると同時に、肩の近位部である首の固定性を高めると考えられる。

●腹臥位で頭の挙上が困難なときに肘位での関節圧縮を利用すると、両肩、両肘、腰を結ぶ三角形の姿勢となり、首を支える体幹・上肢の姿勢が安定して、頭の挙上が容易になる。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

3.キーポイント・オブ・コントロールの利用

●人間の身体は、屈曲や伸展により筋緊張がさまざまに変化する。屈曲や伸展によってある身体のポイントをコントロールすることにより筋緊張を高めたり、低めたりすることができる。このキーポイント・オブ・コントロールはボバース(1980)によって提唱されたものである。

全身の筋緊張を高めるには股関節及び膝関節を伸展させた姿勢が都合がよい。長座は股関節伸展・膝関節伸展であって下肢の筋緊張が高くなりやすい。

●あぐら座位は股関節と膝関節が屈曲しているので筋緊張を低くする効果がある。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

4.前庭刺激の利用

前庭刺激によって、頚・背・腰部の伸筋収縮を促通することができる。

「突然、急速、非リズミカル」に入力すると興奮性、つまり筋の収縮を促進する。逆にリズミカルな入力は抑制性、つまり筋を弛緩させる。

●前庭刺激の興奮性入力の具体的な方法を例示すると、腹臥位や座位で上下に揺らす前庭刺激を用いて伸筋収縮の促通を行うやり方が考えられる。(促通とは、ここでは神経や筋などへ刺激を与えて筋の収縮をうながす意味で用いている) 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第2節 過剰に高い筋緊張への対応

1.関節圧縮の利用

●体重またはそれ以下の力での関節圧縮を使用すると筋緊張を低減する効果がある。これは筋緊張が亢進している関節周囲筋を抑制し、その関節周囲の筋緊張を一時的に低下させる。

2.キーポイント・オブ・コントロールの利用

肩と肩甲帯を屈曲させるとその付近の筋緊張を低める効果がある。

ウェストラインの屈曲は背中・腰付近の伸筋緊張を低める効果がある。

股関節及び膝関節を屈曲させた姿勢が全身の筋緊張を低める。あぐら座位は股関節屈曲・膝関節屈曲であるので下肢の筋緊張は低くなりやすい。

3.前庭刺激の利用

リズミカルな入力は抑制性として働き筋を弛緩させる。つまり筋緊張を低減させる効果がある。

第9章 姿勢と運動発達支援の実際2:臥位と寝返り

第1節 寝返りの意義

●重度の肢体不自由児では、寝たきりの状態で身体の変形や拘縮や痛みのある子どもが多く見られる。

第2節 仰向け、うつ伏せと寝返り

1.仰向けとうつ伏せの比較

●仰向けは身体を支える面積が狭く、重みが一部に集中するため身体を変形させやすい。そのため仰向けからうつ伏せへ姿勢変換させ、過度の負担を低減する必要がある。

2.仰向けとうつ伏せの間の姿勢変換:寝返り

●自発的寝返りのためには、足を持ち上げて全身をやや屈曲させることが必要である。運動の発達は頭から足の先へと発達していくために、姿勢と運動の発達に遅れがある肢体不自由児では、この足を持ち上げる動きに困難があることが多い。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第3節 寝返りに関係ある姿勢反応

●デロテーション反応とは仰臥位の状態で屈曲した左足をクランクとして骨盤を回旋させる。すると体幹が回転して頭が持ち上がった姿勢になる。この反応が現われれば、次に自発的寝返りが出現する。  

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第4節 寝返りの支援の実際

●回転の動きを強くあるいは速く行うと、子ども顔が強く床にぶつかるので、ゆっくりとそっと動かす。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

●うつ伏せから仰向けへは、腰の骨盤部分を上方に持ち上げるようにして体重を体幹と下肢に分散して回転すると容易に行うことができる。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第10章 姿勢と運動発達支援の実際3:頸座の支援

第1節 姿勢と運動発達における頸座の意義

1.頚座の意義

●頚座は姿勢コントロールの第一歩であり、姿勢と運動発達に困難のみられる子どもの姿勢と運動発達支援の第一歩でもある。

2.頚座と姿勢発達の基本姿勢としての腹臥位の意義

●腹臥位は仰臥位とは異なり、伸展がとりやすい。伸展がとりやすい姿勢が重要なのは、肘位・手位・座位・四つ這い位・立位はすべて伸展を特徴とする姿勢だからである。

第2節 頚座の定義と要素

●頚座(首の座り)の定義は諸家によって異なっている。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第3節 脳性まひ児の頸座獲得のための支援の実際

1.ハイガード姿勢

●ハイガード姿勢は、幼児の立位や歩行時にみられる両手を高く上げてバランスをとる姿勢であり、この姿勢は頚筋・背筋を収縮させて伸展姿勢を強化し、抗重力姿勢をとりやすくする。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

2.肘位と関節圧縮

●腹臥位で頭の挙上をはかるときに、肘位をとらせると、両肩、両肘、腰を結ぶ三角形の姿勢となり、頚を支える体幹・上肢の姿勢が安定して、頭の挙上が容易になる。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

3.上肢の伸展と外旋

●腹臥位で上肢を前・上方に開きぎみに伸展し外旋させると肩・頚あたりの筋が収縮して挙上を促通する。なお、この技法はキーポイント・オブ・コントロールの1つである。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

4.頚・背・腰部の伸張による伸張反射

●腰・背・頚あたりの伸筋を急速に引き伸ばすと伸張反射により伸筋の収縮が促通されて、その結果として頭の前方からの挙上が起こりやすくなる。

伸張反射は肘位とともにかなり効果的な技法であり、肘位とあわせて用いると効果が増す。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

5.デロテーション反応

●デロテーション反応とは仰臥位の状態で屈曲した左足をクランクとして骨盤を回旋させる。すると体幹が回転して頭が持ち上がった姿勢になる。この反応が現われれば、次に自発的寝返りが出現する。  

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

6.触覚や振動覚

軽くすばやい触覚は筋の収縮をうながす。筋腹への振動覚も同様であり、前庭覚と違い、収縮させたい筋だけを刺激できるので頚筋や背筋へ直接刺激する。

第11章 姿勢と運動発達支援の実際4:座位の支援

第1節 座位の意義

●座位がとれれば健康の保持と学習面の両方でさまざま効用がある。さらに、人間関係やコミュニケーションといった社会適応や環境適応に関しても有用である。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第2節 座位と関係する姿勢反射・反応

1.座位の傾斜反応とパラシュート反応

(1)座位の傾斜反応

●座っている床がゆっくりと傾斜したときにバランスを保とうとして、頭・体幹が傾斜方向と反対方向へ立ち直る反応である。 

●座位の傾斜反応には3つの特徴がある。

・脊柱がカーブする。

・傾斜と反対側の下肢が挙上。

・傾斜と反対側に頭が傾斜する。

●学校や家庭でできる簡単な支援法

 

・支援者があぐら座位をとって子どもの腰辺りを両手で支えてだっこした状態(向きは自由)をとる。その状態で左右や前後にゆっくりと小さく傾けてみる。体幹のカーブもしくは頭の立ち直り反応が出ている場合は、このやり方でゆっくりと小さく傾けることをくり返す。目標は体幹のカーブであり、辛抱強く継続することが大事である。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

 

(2)パラシュート反応

●座位で大きくあるいは急速に傾いたときに、傾斜反応では対応しきれない場合にパラシュート反応がみられる。

●発達支援の順序として傾斜反応の支援の次に行うとよい。  

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

2.座位の傾斜反応の基礎としての腹臥位の傾斜反応

●腹臥位の傾斜反応を誘発することが間接的に座位の傾斜反応を引き出すことにもなる。

●傾斜反応の特徴の1つである体幹のカーブは腹臥位でも座位でも同様である。したがって、ラージボールや傾斜台やその他の多様な教具・遊具を利用して、座位だけでなく腹臥位や他の姿勢での支援の工夫を考えることが大事である。   

●ラージボールがない場合は、大きめで硬めのクッションを重ねて使う。

 

●傾斜反応は頭と重力の方向の感覚によって誘発されることを留意して、頭をいろいろな方向に向けることができる動きや姿勢を工夫してみることが大事である。また、「バランス遊び」として楽しく行うことも大切である。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第3節 座位を支援するためのポイント

●座位保持に必要な筋緊張のコントロールには、適切なポイントへの介助が必要になる。

座位の支援のポイントは用い方によって緊張を高めたり、あるいは緊張を低めたりするので、一人ひとりの緊張状態と支援の目標をあわせて使い分ける必要がある。全身の緊張を高めるには股関節及び膝関節を伸展させた姿勢、たとえば長座がよい。一方、あぐら座位は筋緊張を低くする効果がある。あぐら座位は全身の伸展緊張が高い場合に有用な姿勢である。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第4節 座位から立位への姿勢変換の支援

●座位の次は立位の獲得だが、立位をとるためには座位から立位への姿勢変換が必要である。

●子どもの立ち上がる力や自発的に立ち上がる意欲を大事にした支援が求められる。

前から子どもの両手を持って支援するやり方が望ましい。

●前から子どもの両手を持って支援するやり方では、子どもの手の持ち方に注意が必要である。図11-7の持ち方がよい。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

 ・前から両手を持って引き上げていく(膝の角度が90度以上まで)。

 ・下肢の伸展が楽になり立位に移行する。

 ・下肢の伸展とともに上肢の屈曲を意識すると立ち上がりやすい。

これは子どもが支援者の親指を握る形になっている。握るという行為は子どもの自発的参加を促す。また、握る力や握る意志が少ない場合でも、このやり方であれば介助者がそれを補助することにより安全に支援することができる。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第12章 姿勢と運動発達支援の実際5:立位の支援

第1節 立位の特徴

●立位は全身が伸展しているという特徴がある。

●肢体不自由児では屈曲姿勢が多く、立位の支援においては伸展姿勢の保持が重要な課題となることが多い。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第2節 立位と関係する姿勢反射・反応:傾斜反応

●立位の獲得には立位の傾斜反応を引き出す支援が重要となる。

立位の傾斜反応は前方と後方では足関節の働きが中心になり、側方では膝関節の働きが中心になる。 

●小型トランポリンは子どもが立っている位置を変えないで前後左右の傾斜反応を誘発できるので非常に使いやすく便利な教具である。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像は“mom-ma”さまより拝借しました。

第3節 立位保持と獲得の支援のポイント

伸展姿勢には全身の伸筋を収縮させる必要がある。背筋、臀部の筋、大腿四頭筋、下腿の筋など

1.立位保持の支援で大事な身体のキーポイント

●尖足の場合、股関節屈曲、膝関節屈曲で円背になりやすいため、補装靴の使用を検討する。 

①胸をはる

②背中を伸ばす

③腰と尻をやや前に出す

④膝を伸ばす

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

2.立位獲得支援の経過に沿ったキーポイント

●立位獲得のための支援における介助は腰介助から肩介助へという方向が大事である。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第5節 歩行の獲得には立位の安定が大事

●歩行は移動することと立位を保つことの2つを同時に行うという複雑な協調を必要とする運動である。

●連続的にバランスを前方に崩していきながら、なおかつバランスを崩さないという2つの矛盾を解決しなければならない。 

この姿勢を30秒程度行った後で要介助歩行を行なうと、上体のふらつきがやや減ってしかも足が出やすくなることが多い。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第13章 姿勢と運動発達支援の実際6:歩行の支援

第1節 歩行の完成

●歩行は中枢神経系の成熟レベル(延髄、橋、中脳、大脳)に依存しており、姿勢反射・反応の成熟過程、つまり原始反射の抑制、立ち直り反応の獲得、平衡反応の獲得が歩行獲得の基礎にある

第2節 歩行と関係する姿勢反応:ホッピング反応

●ホッピング反応は立位で重心が移動した際に、足を重心の移動方向へ踏み出す反応である。このホッピング反応は自動的な歩行を可能にするという意味で、姿勢と運動の発達支援では重要な反応である。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

1.歩行とホッピング反応の関係

●ホッピング反応の有無は歩行を予測するための指標として有用である。ホッピング反応がみられない場合には、つかまり歩行も杖歩行もできないと考えられている。

2.歩行支援におけるホッピング反応誘発の実際

●ホッピング反応は側方ホッピング反応からスタートすべき。

●ホッピングの誘発は肩介助が原則なので、肩介助で立位をとれることが前提になる。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第3節 歩行支援のポイント

●支援は後方腰介助→後方肩介助→前方介助→側方介助の順に支援を進めていくことがよい。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第4節 さまざまな歩行のようすと支援の実際

1.突進様に歩いたり、ふらふらと静止できない場合

●歩行そのものを練習するのではなく、立位で安定して静止できることを目指す。

●最初に立位の姿勢アライメントを整えることが大事である。次に少しずつ前傾させ前方傾斜反応を誘発し全身の伸展が生起され「抗重力身体伸展姿勢」が保ちやすくなる。この状態で抗重力伸展立位姿勢の獲得と立位の静止状態でのバランスの向上をはかることができる。

2.体軸内回旋を活用した歩行

(1)体軸内回旋とは

立ち直り反応の影響を受けて発達する。

具体的な支援の工夫としては、たとえば座位をとった子どもの前に大好きなおもちゃをいくつか置いて、体軸を回旋させてそのおもちゃをとって遊ぶなどの活動が考えられる。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

(2)体軸内回旋を用いての歩行介助

●足が出ない場合、体軸内回旋を用いて足を一歩出させて歩行させることができる。 

図の右端の絵の状態で、介助者が右手を前方へ軽く引っ張ると、前方ホッピング反応としての右足の移動が出現しやすい。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

脳性まひ児の発達支援1

小児障害児へのマッサージに関わるようになり、『感覚統合法の理論と実践』という本で基礎ともいえる部分を勉強しました。そして、“動作法”という優れた支援方法があるのを知りました。さらに脳の可塑性に着目した“アナット・バニエル・メソッド(本は『限界を超える子どもたち 脳・身体・障害 への新たなアプローチ』)という画期的なアプローチに感銘を受け、患者さまの脳と施術者である自分の脳がつながるイメージ(B2B)をもって、メソッドである”9つの大事なこと”(ブログ中央の”目次”を参照ください)の実践を意識しています。

しかしながら、大きな壁にぶつかりました。それは、今まで担当していた患者さまの多くは、座位もとれない重度の障害をもっていたのに対し、新しい患者さまは座位あるいは四つ這い位は取れるが、安定した立位が取れないといった動くことができる患者さまだからです。

大きな何かが欠けているという実感はありましたが、モヤがかかったような状況でした。そのモヤが晴れたのは仲間の仕事ぶりを見学させてもらったこと、また、別の仲間が勧めてくれた数冊の本のお陰でした。今回のブログはその中の1冊です。

そして、“モヤ”とは、”発達段階における運動特性とリハビリテーション”というような類のものでした。これはOT(作業療法士)やPT(理学療法士)の先生が取り組むべき分野だと思いますが、この分野に踏み込まないと患者さまの現状を把握することはできません。

小児障害マッサージとしての支援内容は、過緊張あるいは低緊張の課題に取り組むことになると思いますが、発達段階に応じたリハビリテーションがどんなものか、日常生活ではどのような特徴として表れるのか、どんな問題をもっているのか、それをどのように改善していくのか。あるいは鍼という手段は使えるのか、頭鍼・頭皮鍼は有効か、脳の可塑性(アナット・バニエル・メソッド)に働きかけるにはどんな工夫をすればよいかなどについて考えていく必要があると感じました。

過去ブログ“ボイタ法・ボバース法”の中で、私は偉そうに次のようなことを言っていました。

『まず図書館から借りてきたのは「ボイタ法の治療原理 反射性移動運動と運動発達における筋活動」という本です。こちらの本の魅力は何といってもボイタ(Vaclav Vojta)自身が書いたものであるという点です。読んでみると、運動学(キネマティクス)とリハビリテーション学についての知識が不足している私には、理解するのは難しいということが分かりし、早々に断念することにしました。』

抜けていたのはまさにこの部分、避けていた部分でした。結局、ブーメランのように私自身に舞い戻ったという感じです。 

著者:木舩憲幸

出版:北大路書房

発行:2011年8月

ブログは第2部と第3部が対象です。また完全に勉強モードのブログです。そのため個人的に重要であると感じた部分の要点を列挙する形式となっており、つまみ食い状態のため、不親切な書き方になっていると思います。なお、長文のため2つに分けており、今回は“1”ということになります。

目次

第1部:肢体不自由教育と発達支援

第1章 肢体不自由とは

第2章 肢体不自由教育と発達支援

第3章 肢体不自由教育と障害の重複化

 

第2部:発達支援のための基礎知識

第4章 姿勢と運動の発達

 第1節 姿勢の発達段階

 第2節 姿勢の分類

 第3節 上肢を姿勢保持に用いる姿勢と操作に用いることができる姿勢

 第4節 体幹が直立した姿勢

 第5節 運動発達の2つの方向

 第6節 姿勢と運動発達の支援における4つの目標

 第7節 姿勢と運動発達の支援と並行して行うこと:筋緊張障害への対応

第5章 姿勢と運動を支える感覚

 第1節 姿勢と運動を支える固有覚と前庭覚

 第2節 固有覚とその機能

 第3節 前庭覚とその機能

第6章 姿勢と運動を支える姿勢反射・反応

 第1節 中枢神経系、姿勢反射・反射と姿勢と運動発達の関係

 第2節 原始反射、立ち直り反応、平衡反応

 第3節 姿勢反射・反応各論

 第4節 脳の成熟に伴う原始反射の抑制

 第5節 姿勢反射・反応と姿勢と運動の抑制・促通関係

第7章 脳性まひの筋緊張障害

 第1節 脳性まひの定義と類型

 第2節 脳性まひにみられる2つの筋緊張障害:除皮質緊張と除脳緊張

 第3節 脳性まひ痙直型の除皮質緊張と対応の原則

 第4節 痙直型の筋緊張の特性と支援センターの原則

 第5節 アテトーゼ型の筋緊張の特性と支援センターの原則

 

第3部:発達支援の実際1(姿勢と運動の支援)

第8章 姿勢と運動発達支援の実際1:筋緊張障害への対応

 第1節 低緊張への対応

 第2節 過剰に高い筋緊張への対応

第9章 姿勢と運動発達支援の実際2:臥位と寝返り

 第1節 寝返りの意義

 第2節 仰向け、うつ伏せと寝返り

 第3節 寝返りに関係ある姿勢反応

 第4節 寝返りの支援の実際

第10章 姿勢と運動発達支援の実際3:頸座の支援

 第1節 姿勢と運動発達における頸座の意義

 第2節 頸座の定義と要素

 第3節 脳性まひ児の頸座獲得のための支援の実際

第11章 姿勢と運動発達支援の実際4:座位の支援

 第1節 座位の意義

 第2節 座位と関係する姿勢反射・反応

 第3節 座位を支援するためのポイント

 第4節 座位から立位への姿勢変換の支援

第12章 姿勢と運動発達支援の実際5:立位の支援

 第1節 立位の特徴

 第2節 立位と関係する姿勢反射・反応:傾斜反応

 第3節 立位保持と獲得の支援のポイント

 第4節 立位での重心移動

 第5節 歩行の獲得には立位の安定が大事

第13章 姿勢と運動発達支援の実際6:歩行の支援

 第1節 歩行の完成

 第2節 歩行と関係する姿勢反応:ホッピング反応

 第3節 歩行支援のポイント

 第4節 さまざまな歩行のようすと支援の実際

 第5節 前方支持歩行器と後方支持歩行器

 

第4部:発達支援の実際2(学習、環境・社会適応、摂食・嚥下の支援)

第14章 学習活動の支援

 第1節 学習する姿勢としての座位の意義

 第2節 上肢の操作と知的発達

 第3節 学習活動を促進する機能的座位姿勢

 第4節 上肢を使用した学習活動のための配慮事項

第15章 環境・社会適応の支援

 第1節 自立活動における環境の把握、人間関係及びコミュニケーション

 第2節 環境の把握と姿勢と運動

 第3節 人間関係の形成と姿勢と運動

 第4節 コミュニケーションと姿勢と運動

 第5節 環境の把握、人間関係、コミュニケーションと姿勢と運動との相互関連を踏まえた支援の重要性

第16章 摂食・嚥下の支援

 第1節 自立活動における健康の保持と肢体不自由

 第2節 摂食・嚥下の支援における留意事項

 第3節 摂食・嚥下しやすい姿勢のポイント

第2部:発達支援のための基礎知識

第4章 姿勢と運動の発達

第1節 姿勢の発達段階

1.姿勢の発達段階とそれに対応した運動の発達

腹臥位→肘位→手位→座位→四つ這い位→立位となっており、この発達段階に対応して運動が発達していく。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

2.抗重力姿勢という考え方

●通常の生活において、人間は重力を意識することは殆どないが、常に重力の影響を受けている。この重力に抵抗して姿勢を保つための重要な特徴として頭を重力方向に向けるということがあげられる。

抗重力姿勢とは適当な筋緊張が保たれて、関節が適度に固定されて重力に負けずに一定の適応的な姿勢が保たれている状態をいう。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第5節 運動発達の2つの方向

1.上から下への発達

首が座り、体幹がしっかりしてきて座位が可能となり、下肢の機能が高まり立位が可能となる。

●肢体不自由児にとって、頭と首や上肢に比較して下肢や下半身の動きは困難であることが多い。寝返り(姿勢変換)においても肩などの上半身から回旋しようとする。

●上から下へと発達していくという観点は、姿勢と運動の発達支援に関する長期的な目標設定とその目標設定へいたる短期的目標の設定において非常に重要なポイントである。

座位獲得の支援を行っているときから下肢、具体的には、足首・膝関節の状態に注意する。これは膝の伸展が不十分になると不安定な立位になってしまうためである。したがって、膝が屈曲した状態になるあぐら座位では、意識的に膝関節をストレッチするといった配慮が必要である。  

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

2.中央から左右への発達

上肢の運動は「肩-肘-手首-指」の順番に巧緻性や分化が進んでいく。中央から末端へという発達の流れに沿った支援が重要。この順序を守らないと課題の押しつけになる。

●幼児は絵を描くとき肩を中心として大きく腕全体を動かしている。幼児が肩を大きく動かしてなぐり描きをする時期に、「線からはみ出さないように、ていねいに塗りましょう」という指導を行った場合、指を細かく動かして目と指の協応運動をする必要があり、子どもには難しく、子どもに不全感や意欲の低下をもたらすことになりやすい。  

第6節 姿勢と運動発達の支援における4つの目標

1.4つの目標と生活・学習場面との関係  

●肢体不自由とは姿勢と運動の困難であることから、姿勢と運動に関するこれらの4つの分類が姿勢と運動の発達支援における目標となる。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

2.4つの目標それぞれの内容

(1)姿勢保持

●座位、四つ這い位、立位など。自らの力で姿勢を保持できるようになることが目標である。

(2)上肢の操作

●持つ、書く、物へ手を伸ばす、食べるなど。これらは座位が保持できるようになることが前提になる。

(3)移動運動

●移動運動の獲得により子どもの活動空間は飛躍的に広がる。臥位では寝返りによる移動、肘位では這うことによる運動、四つ這い位では四つ這い移動、立位では歩行などである。

(4)姿勢変換

●あぐら座位から四つ這い位への変換では、体幹を左へ回旋させて左手を床につく。次に腰を持ち上げながら右手を床につく。こうして両手を床について腰を持ち上げた四つ這い位へと変換する。この姿勢変換では、体幹の回旋、左右の手を床につく、腰を持ち上げるという複数の運動が順序よく行われることが大事である。

3.4つの目標と自立活動の身体の動きとの関係

●自立活動の身体の動きの内容は、すべて4つの目標「姿勢保持、上肢操作、移動運動、姿勢変換」が含まれている。自立活動の身体の動きの指導にあたっては、4つの目標の観点から指導内容を選定して、総合的な課題として指導していくことが大事である。

第7節 姿勢と運動発達の支援と並行して行うこと:筋緊張障害への対応

●座位姿勢の保持には背中の抗重力作用筋の適度な緊張が必要である。

●脳の障害などにより筋緊張が低い場合には適度な緊張は難しい。このことは学習行為などに大きな影響を与える。

●過緊張に関しても運動の困難が発生する。姿勢のとり方や適切な感覚入力などの支援によって、適度な筋緊張を保つことができるようになる対応が必要である。 

第5章 姿勢と運動を支える感覚

第1節 姿勢と運動を支える固有覚と前庭覚

●固有覚と前庭覚は姿勢と運動の制御に重要な役割を果たしている。

●固有覚は筋・腱・関節の緊張に関する感覚ということができる。

●前庭覚は頭の動きと頭に対する重力の方向に関する感覚である。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第2節 固有覚とその機能

1.固有覚とその関連用語

●身体の全体の位置、身体各部の位置、身体の動き、身体の傾きなどの位置の感覚、運動の感覚、抵抗の感覚、重さの感覚などの総合的な感覚である。

●固有覚と関連の深いことばとして、体性感覚がある。体性感覚には表在感覚(皮膚感覚)と深部感覚の2つが含まれる。表在感覚には触覚、温冷覚、痛覚があり、深部感覚には運動覚(関節の角度など)、圧覚、振動覚がある。このような感覚情報に基づいて、姿勢の保持や姿勢変換、運動が適切に行われる。

2.固有覚が姿勢と運動に果たす役割

●姿勢と運動を支える重要な感覚。

姿勢の保持や姿勢変換、あるいは各種の運動の遂行によって生じる筋肉・腱・関節の緊張に関する情報をとらえてフィードバックすることによって、適切な姿勢と運動の遂行を可能にしている。

子どもはさまざまな姿勢をとり、さまざまな運動をすることによって、自分自身の身体の各部分と全体との関係などについて学習していく。これはボディーイメージを育てることと言い換えることもできる。

第3節 前庭覚とその機能

1.「前庭」ということば及び2つの前庭覚について

●前庭覚には2つの感覚がある。1つは頭が動いている感覚、もう1つが頭に対する重力の方向の感覚。前者は内耳の蝸牛及び卵形嚢や球形嚢で受け取られ、後者は三半規管でとらえられる。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

2.前庭覚には5つの機能がある

●卵形嚢と球形嚢や三半規管が発生した信号は、前庭神経を通じて延髄内の前庭覚に伝えられ、ここには脳内を上行する経路が4つと、脊髄へ下行する経路が1つある。そしてこれらの経路に対応して5つの機能がある。  

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

3.前庭-眼球運動系

●内耳の三半規管でとらえられた頭の動きは、延髄の前庭神経核から眼球運動中枢である延髄の外転神経核、中脳の動眼神経覚と滑車神経核に伝えられる。これらの3つの核が外眼筋をコントロールして眼球を動かす。 

4.前庭-網様体系

前庭感覚や固有覚は脳幹の網様体へ集められて、脳を活性化するエネルギーに変換されて、脳の各部位へ送られる。その結果として脳の覚醒レベルを高める。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

5.前庭-視床下部系

前庭-視床下部系は自律神経系に影響する。

6.前庭-視床下部-辺縁系

●前庭-網様体系と共同して、情動を刺激して外界への関心と反応の準備状態をつくる。

7.前庭-脊髄系

内耳の迷路から脳幹の前庭神経核に入った前庭刺激は、前庭脊髄路を下降して頚筋を含む全身の伸筋の収縮を促す。

前庭刺激によって、立ち直り反応や平衡反応に必要な頚・背・腰部の伸筋収縮を促通することができる。 

●前庭・脊髄系のしくみは、パラシュート反応・ホッピング反応などの前庭刺激によって誘発される姿勢反射・反応を支える大切な経路でもある。

運動の発達支援、特に自立活動の身体の動きの指導にあたっては、前庭・脊髄系の働きを基礎知識として理解しておくことが大事である。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

こちらは「人体の正常構造と機能」という本から持ってきた図で、”前庭覚の伝導路”というタイトルがついています。これをご紹介した理由は、重要とされる前庭-脊髄系を理解するうえで良い図ではないかと思ったためです。

第6章 姿勢と運動を支える姿勢反射・反応

●姿勢反射・反応には、それらを誘発する刺激があり、これらを適切に活用することが重要である。

第1節 中枢神経系、姿勢反射・反応と姿勢と運動発達の関係

●姿勢と運動は、随意的な姿勢と運動と姿勢反射・反応の2つから構成されており、姿勢反射・反応の成熟は、中枢神経系の成熟及び姿勢と運動の発達と密接な関係がある。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第2節 原始反射、立ち直り反応、平衡反応

1.原始反射とは

●新生児の運動はほとんどが脳幹・脊髄レベルの反射で成立している。

2.立ち直り反応

立ち直り反応はさまざまな姿勢の保持やバランスを自動的に保つ反応であり、姿勢と運動発達支援において重要な基礎となる反応である。 

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3.平衡反応

●平衡反応は立ち直り反応と同様に、さまざまな姿勢の保持や運動を自動的に可能にする反応である。

第3節 姿勢反射・反応各論

2.立ち直り反応

(1)抗重力性頭の立ち直り反応

●身体を左右や前後に傾けたときに頭が重力線上に保たれる反応。

●誘発刺激は、頭の重力の方向に対する感覚(前庭覚)と視覚がある。

●この反応は身体が傾いてバランスが崩れた際に、傾いた側と反対方向へ頭を立ち直らせて姿勢を保つ働きを担っている。

●座位を保持するための重要な反応である。

あぐら座位の子どもの脇の下や肩を保持して、ゆっくりと小さく左に傾ける。傾けることによって視覚や前庭覚が刺激されて、頭の立ち直り反応が誘発されやすくなる。その際に頭の立ち直りが少しでも出てくるかどうかに注意しながら傾けていく。頭の立ち直りがみられなかったり、少ない場合には決して大きく傾けないで元に戻すことが大事である。少しずつ何回か傾けて刺激を加えながら、辛抱強く頭の立ち直りが出てくることを待つ姿勢が大事である。

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(2)デロテーション反応(巻き戻し反応)

●デロテーション反応は仰向け(背臥位)からうつ伏せ(腹臥位)への寝返りのことである。通常、生後6か月ごろからみられる。誘発刺激は、下半身をひねった際に起こる体幹のねじれの感覚(固有覚)である。 

●寝返りは下肢を動かすことが起動となり、寝返り後は頭が無意識に挙上されている。側弯の逆方向やいつも頭を向けている側と逆側へのデロテーション反応は身体の非対称性の矯正に有効である。

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3.パラシュート反応

●パラシュート反応は「保護伸展反応」と記載されることも多い。

●座位で前方、側方、後方に倒れそうになったとき、手を伸ばして(伸展)、倒れて頭を打つのを防ぐ(頭を保護する)反応である。

あぐら座位の子どもの脇の下や肩を保持して、急速に大きく傾けることによって誘発されやすくなる。頭の立ち直り反応同様、何回か傾けて刺激を加えながら辛抱強く待つ姿勢が大事である。

●パラシュート反応は、前方、側方、後方の順番で出現する。

パラシュート反応は自動的な四つ這い移動を可能にする。

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4.平衡反応

(1)傾斜反応

●傾斜反応は座位や立位のバランスを保ち、姿勢を保持する働きを担っている。

傾斜反応は、臥位・肘位・手位・座位・四つ這い位・立位等のすべてでみられる反応である。

●身体に部分的な反応である抗重力性頭の立ち直り反応と異なり、傾斜反応は頭・体幹・下肢を含む全身の協調反応である。

●誘発刺激は抗重力性頭の立ち直り反応と同じように、視覚と前庭覚(頭の重力方向に対する感覚)の2つである。 

1人で立位が取れるようになるための発達支援において傾斜反応は最も重要な反応である。

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(2)ホッピング反応

●ホッピング反応は立位で重心が移動した際に、足を重心の移動方向へ踏み出す反応である。側方・前方・後方のホッピング反応があり、この順序で出現する。

ホッピング反応は自動的な歩行を可能にする働きを担っている。

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第5節 姿勢反射・反応と姿勢と運動の抑制・促通関係

●姿勢と運動の発達支援では、姿勢と運動を促通する反射・反応と抑制する反射・反応がある。 

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第7章 脳性まひの筋緊張障害

第1節 脳性まひの定義と類型

1.脳性まひとは:定義

●厚生省脳性麻痺研究班(1968)によれば、脳性まひとは「受胎から新生児(4週間以内)までの間に生じた、脳の非進行性病変に基づく、永続的なしかし変化し得る運動及び姿勢の異常である。その症状は満2歳までに発現する。進行性疾患や、一過性運動障害、または将来正常化するであろうと思われる運動発達遅延は除外する」と定義されている。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

4.脳性まひの類型

●脳性まひはその類型によって神経生理学的症状等の特徴は全くといってよいほど異なっている。 

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5.脳性まひと重複障害

●脳性まひ児には姿勢と運動の障害以外に多くの随伴症状がみられる。

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6.脳性まひの神経生理学的症状

●神経生理学的には、脳性まひの症状は3つに分類される。筋緊張障害、相反神経支配の障害及び姿勢反射の障害。

第2節 脳性まひにみられる2つの筋緊張障害:除皮質緊張と除脳緊張

●除皮質緊張、除脳緊張という言葉は、動物実験で動物の脳の皮質を取り去ったり(除皮質)、皮質に加えて脳内の基底核とよばれる高さ付近で脳の線維を切断したり(除脳)して、脳の働きを研究したことに基づく言葉である。 

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第3節 脳性まひ痙直型の除皮質緊張と対応の原則

1.除皮質緊張とは

●除皮質緊張とは、上肢屈曲・下肢伸展を最大の特徴とする筋緊張障害である。

脳性まひでは痙直型(大脳皮質や錐体路に問題)にみられる筋緊張障害である。 

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2.除皮質緊張による身体の過剰な伸展と身体の変形など

除皮質緊張は下肢伸展・内転・内旋の状態のため、股関節の亜脱臼や脱臼などの障害が生じることが多い。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

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3.除皮質緊張が姿勢と運動に及ぼす影響

●痙直型脳性まひ児は生活及び学習に多くの困難に直面している。したがって、除皮質緊張の影響を減少させ、これらの困難を克服する支援が重要である。  

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

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画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

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4.除皮質緊張への対応

(1)除皮質緊張への対応の原則

除皮質緊張と反対の動かし方や姿勢をすることが原則である。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

(2)一か所の関節を緩めると他の関節の緊張も落ちる

一か所の関節を緩めることで、たとえば足指を背屈させることで、他の関節の屈曲・外旋・屈曲・外転も同時に起こる。それによって、下肢全体の緊張も同時に低下する。この一か所の関節を動かすことで他の関節も連動して動く作用を「共同運動」とよぶ。 

共同運動は、脳障害によって上位中枢の抑制機能が低下・消失したときに起こる。脳障害による陽性徴候の中でも重要なもので、脊髄レベルの原始的な運動が、上位中枢からの抑制が弱まったために顕在化したものである。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

5.除皮質緊張への対応におけるあぐら座の効用

あぐら座位除皮質緊張による過剰な伸展と過緊張を減少させるための効果的な姿勢であり、仰臥位の後に下肢を屈曲・外転・外旋した状態であぐら座位へ姿勢変換するとよい。  

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

6.学校や家庭であぐら座位をどれくらいの時間とればよいか

「がんばらないことが大事」「楽しく座れることを心がける」と答えている。1回の持続時間は短くてもよい。結果的に1日に数十分のあぐら座位をとっていたということが望ましい。

数か月で「股関節の開きがよくなってきた」「立位や歩行のときに下肢の交叉が軽くなってきた」などの効果が期待できる。

7.床上でのあぐら座位と座位保持いすの比較

座位保持いすはあぐら座位ほどではないが効用があるが、長時間の場合、除皮質緊張に悪影響を起こす恐れがある。特に、下肢内転による股関節の可動域低下や関節拘縮に気をつけなければならない。床でのあぐら座位やまたがることができるいすでの座位など、多様な座位を活用することが大事である。

第4節 痙直型の筋緊張の特性と支援センターの原則

1.痙直型の筋緊張

●痙直型の筋緊張は高い緊張(過緊張)で一定していることが特徴である。

2.痙直型の過緊張がもたらすこと

●静止した状態や姿勢が固定された状態で続きやすく、身体の変形や関節拘縮が進行しやすい。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

3.支援の原則:動くことの重視

姿勢と運動の支援は、自分で動くことあるいは他動的に動かすことが原則となる。(下記の表7-12に書かれた内容がとても重要だと思います)

なお、相反神経支配とは主動筋(例えば、大腿四頭筋)が収縮しているときには、反対側の拮抗筋(ハムストリングス)は弛緩するように神経が調整するというものです。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

相反神経支配と痙直型脳性まひの相反神経支配の障害左下の四角で囲んだ部分)

腕を伸ばすには上腕二頭筋が弛緩(脱力)する必要があります。そのための指示は脳から出される収縮抑制命令というものですが、その命令が不十分(抑制不全)だと、腕を伸ばすことはできません。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第5節 アテトーゼ型の筋緊張の特性と支援センターの原則

1.アテトーゼ型という用語について

●アテトーゼとは筋緊張障害の一種であり、錐体外路障害の中でも基底核障害によって起こる不随意運動を意味している。

●錐体路障害である痙直型、錐体外路障害の中でも小脳障害に起因する失調型とともに慣習的に用いられている。

●筋緊張の変動とは筋緊張が一気に高くなったり一気に低くなったりと急激に変化すること。

こちらのページのほぼ中断に、痙直型とアテトーゼ型の比較表が出ています。

官能的感触と成長 

今回のブログは、“スキンシップケア(C触覚線維)”という以前アップしたブログに関係する内容であるため、そのブログに「追記」としてご紹介することを考えていたのですが、あらためて読み返してみると、同じく過去ブログの“医療マッサージ研究”にも載せたいし、そもそもこの本の存在を教えてくれた“アナット・ダニエル・メソッド”にも追記したいという気持ちが強くなりました。そして、それであればとの思いから、短い内容ですが新しいブログとしてアップすることにしました。

なお、“アナット・ダニエル・メソッド”とは、脳の可塑性に着目した小児障害へのアプローチが有名です。私は小児障害児と向き合うときに、このメソッドを意識するようにしています。

ブログは『脳の中の身体地図』の「10章 心と身体が交わる場所」にコラムとして掲載されていた「官能的感触の大切さ」から抜き出しています。 

著者・サンドラ・ブレイクスリー、マシュー・ブレイクスリー

出版:インターシフト

発行:2009年4月

痒み、くすぐったさ、痛み、温度……官能的感触? 官能的感触は、この感覚のリストの中では浮いているように思える。情動面から見て重要な触覚と言えば、総じて一種の軽い触覚で、覚えておられると思うが、これは固有感覚情報や高分解能の触覚情報と同様に、脊髄にあるはるかに新しいほうの経路を介して脳に伝達される。ところが、官能的感触は、痛みや痒み、くすぐったさ、温度のように、いにしえから存在する経路を経て脳に流れ込む。官能的感触はそんな仲間に入って、いったい何をしているのだろう?

愛情のこもった触れ合いやじゃれ合いは、ほ乳類の身体意識と脳の発達の中核をなす。成獣になると群れを作らずに単独で行動するようになるほ乳類でさえ、母親や兄弟姉妹との親密で愛情深い接触の中で生のスタートを切る。ほ乳類は授乳し、親密な絆を深めるために舐め合い、鼻をすり寄せ合い、生きていく上で何が起きても困らないようにボディ・マップに磨きをかけるために、手加減したけんかごっこに興じる動物である。要するに、ほ乳類の正常で健全な脳の発達には、幼少期に官能的感触に頻繁に触れることが不可欠なのだ。数億年前、ほ乳類時代以前、は虫類時代以降のほ乳類の祖先にも、きっと同じことが言えたはずだ。そこ頃、ほ乳類は恐竜の影に怯えながら、結束の強い家族という生存様式を発達させつつあった。つまり、この官能的感触という特徴は、ほ乳類誕生の頃までさかのぼることができるのだ。新しい感覚経路を使わず、古い感覚経路に留まっている理由もそこにある。 

画像出展:「GAHAG

ネズミの母親は子どもたちを舐めて落ち着かせる。母親に舐めてもらうという官能的感触を頻繁に味わうことがなかった赤ちゃんネズミは、せっせと舐めてもらったネズミよりも不安が強く、神経質なネズミに育つ。しかも、この循環は自然に増強していく。情動面に障害が残ったネズミが成長して母親になると、普通のネズミほど子どもを舐めようとしない。こうして情動的な問題が次世代へと受け継がれていく。モントリオールにあるマギル大学で行動・遺伝子・環境研究プログラムの責任者の任にあるマイケル・ミーニーが数年前に実施した画期的な研究で、この子育てパターンの背後に潜んでいる正確な神経・遺伝メカニズムが解明されている。

官能的感触は霊長類と人類にとってはとりわけ、決定的に重要な意味を持つ。これは、スキンシップに飢えた子どもたちが大人になってから情動面の問題を抱えるようになるということだけのことではない。それも非常に重大な問題だが、もっと深い、身体の成長や健康、恒常性のレベルにまで影響が及ぶのだ。霊長類の赤ん坊にとって官能的感触がどんな役に立つか、考えてみよう。頻繁にやさしく撫でさすられると、最低限の世話しかしてもらえなかった場合に比べて、体重が倍の速度で増加する。呼吸や心拍も健康的になるし、敏捷になり、気むずかしさがなくなり、よく眠るようになる。授乳期を過ぎてよちよち歩きを始めるまで、こうしたよい影響が続くのである。

愛情のこもった触れ合いは、栄養を摂取したり、音楽を聴いたり、おもちゃで遊んだりするのとは異質に思えるかもしれないが、確かに同じ類のことなのだ。』

画像出展:「GAHAG

まとめ

1.やさしく撫でられると情動面だけでなく、身体の成長や健康、恒常性のレベルにまで影響を及ぼす。

2.官能的感触とは食事や睡眠に匹敵するくらい大切な行為である。

共感とミラーニューロン

心の問題が疑われる“うつ症状”と異なり、“うつ病”と診断される深刻な病態は、心の問題ではなく偏桃体の暴走や神経伝達物質のセロトニンが関与する脳の問題とされています。※ご参考:“うつ病治療(TMS)”。

一方、“共感”も性格や心が関係しているものと考えがちです。しかしながら、この“共感”にも脳が関係している場合があります。それは“ミラーニューロン”に起因するものです。このミラーニューロンは大脳皮質の奥深く折りたたまれた領域に多く存在しているそうです。

共感が心の問題とは限らないということは知っておいた方が良いと思い、ブログのテーマに取り上げました。

著者・サンドラ・ブレイクスリー、マシュー・ブレイクスリー

出版:インターシフト

発行:2009年4月

他人の身になる能力 

『1926年の映画「ドクター・ノー」で、ジェームス・ボンドが目を覚ますと、タランチュラが一緒にベッド・インしていた。彼の腕をゆっくりゆっくりと這い上がって行くクモに目をくぎ付けにしながら、あなたがその毛に覆われた細長い脚を我が身に感じることができたのは、ミラーニューロンが一生懸命働いていたからである。

情動の読み取りと共感にかかわるミラーニューロンは、皮質の奥深くに折りたたまれたふたつの領域、島皮質前帯状皮質に存在している。

島皮質

『Johann Christian Reilは、1796年に Exercitationum anatomicarum fasciculus primus de structura nervorumを発表、その中で第5の葉の存在を指摘した。これが島に関する初の学術的な記述である。しかし記述は本文のみにとどめられ、図示されなかった。Reilの発見した島は、現在も重版中のGray解剖学書で初めて図示され、「Reilの島」という呼称を不朽のものとした。』

画像出展:「脳科学辞典

前帯状皮質(ACC)

『前帯状皮質は、大脳半球内側面の前方部に存在する、帯状溝周辺および帯状回の領域であり、ブロードマン24野、ブロードマン25野、およびブロードマン32野に相当する。ACCは特にヒトにおいて、担う機能の違いから、行動モニタリングおよび行動調節に関わる領域、社会的認知に関わる領域、および情動に関わる領域に大きく分かれる。』

画像出展:「脳科学辞典


他人の顔に嫌悪の表情を見て取ると、あなたの島皮質のミラーニューロンがあなた自身の身体に嫌悪感を生じさせる。嬉しそうな顔を見れば、あなたも嬉しくなる。悲しい顔を見ると、悲しくなる。痛そうな顔を見れば、自分まで痛くなる。他人の二の腕に注射針が突き立てられるのを見ると、あなたの腕の同じ筋肉が緊張して、息づかいまで速くなる。

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの神経科学者タニア・シンガーは、恋人同士のカップルを募集し、その片方(女性)を脳スキャナにかけて、痛みを伴う電気刺激を与えた。どの女性もみな、自分が刺激を受けたときだけでなく、恋人が刺激を受けるのを見たときにも前帯状皮質の反応を示した。しかも、共感に関する質問票のスコアが高かった女性ほど、この脳領域の活動は活発だった。これは、あなたが赤の他人も含めた自分以外の人の痛みに共感すると、ある程度の痛みを実際に感じることを意味している。ちょうど前頭葉と頭頂葉のミラーニューロンが行為の観察と実施を両方とも表象するのである(女性のほうが男性よりもミラーニューロンの反応が活発で、共感も強い傾向にあるが、その理由はいまだに解明されていない。男性においてはテストステロン濃度が高いことが、何らかの共感を抑えているのかもしれない。一般的には、女性は他人の心理状態に注目して適切な感情表現により対処しようとする傾向が強いエンファサイザー=emphasizerで、男性は物事を系統だてて考えようとする傾向が強いシステマタイザー=systematizerである)。

左側が前面(顔)、右側が後面(後頭)になります。

画像出展:「脳の中の身体地図」

誰かがあくびをすると、あなたもあくびをする。これはミラーニューロンが活動しているせいだ。誰かがあごを掻いているのを見ると、自分のあごもムズムズしてくる。誰かが怖がっているのに気付くと、理屈抜きに不安が心をよぎる。この感覚が闘争・逃走反応の運動準備を身体にさせることもある。危険が潜んでいると、群衆の間に不安が広がる。誰もが情動を高ぶらせて、逃げ腰になる。

自分が触れられても、他人が触れられるのを見ても、同じ神経回路が活性化する。たとえば、ケイゼルス博士は被験者を脳スキャナにかけて、むき出しにした脚を筆で刺激し、どのボディ・マップが“明るくなる”か調べた。予想どおり、一次触覚野と、それに加えて特に二次触覚マップが活性化した。次に、ほかの人が同じ場所に触れられているビデオ・クリップを見せたところ、やはり二次触覚マップが活性化した。そこで、人の脚の代わりにペーパー・タオルのロールに触っているビデオ・クリップを見せると、この回路の活動は弱くなった。筆を脚に近づけるだけで触れない場合には、触覚野は賦活しなかった。ケイゼルスによると、触覚は他の人々が生きていることを確認するための、人間社会において特権を認められた感覚だそうだ。

自閉症とミラーニューロン

自閉症の犯人捜しで今、第一容疑者と目されているのがミラーニューロンである。先天性脳障害である自閉症の主要特徴は共感、模倣、言語スキル、そして、他人の心的状態の内的モデルを形成する能力の欠如だ。言い換えるなら、ミラーニューロンが専門にしている機能がそっくり欠如しているのである。先頃、自閉症児のミラーニューロン系は脆弱ないし欠如していることをV・S・ラマチャンドランが確認した(しかも、皮質のボディ・マップがごちゃ混ぜになっていた。これが重大な意味を持つか否かはいまだ解明されていないが、何らかの形でミラーニューロン系の欠損と関係している可能性がある。自閉症児は触れられていることに過敏でもある)。彼らの精神的孤児、遊びの欠如、乏しいアイ・コンタクト、生物界に対する無関心はすべて、ミラーニューロン系の機能不全と一致している。自閉症児が顔の表情をまねしようとしても、その感情や意味は理解していない。悲しい、腹が立つ、嫌だ、びっくりした……という感情がどういうものか、周囲の人々の気持ちと結びつけることをしない。顔や身体が情動を表すのに重要であることを感じていないらしい。見て、行うことによって学ぶことができないのである。

まとめ

1.大脳皮質の奥深くに折りたたまれた島皮質と前帯状皮質には、情動の読み取りや共感に関わるミラーニューロンが存在している。

2.心の問題とされやすい情動や共感に関しては、脳のミラーニューロンが関与している可能性があり、特に自閉症児などとコミュニケーションするときは、この点を頭に入れておく必要がある。

脳の可塑性とボディ・マップ

限界を超える子どもたち』は2019年2月にアップした“アナット・バニエル・メソッド”の原本です。この本のインパクトは凄まじく、私は小児障害児へのマッサージの基礎に、このメソッドを据え置こうとしています。

本書には「9つの大事なこと」というのがあるのですが、今回のブログのきっかけとなったミラー・ニューロンは5つめの「内なる熱狂」の中に出ていました。

喜びを深める力

たとえ言葉にしなくても、あなたが心の内で熱狂すると、子どもはそれを感じとります。親子のあいだで交わされるそのような無言のやりとりを、私は何千と見てきました。心強いことに、近年、科学もこれを立証するようになりました。

1996年、イタリア・パルマ大学の神経科学者ジャコモ・リツォラッティがサルの脳のミラー・ニューロンの活動をつきとめました。彼はのちに「ミラー・ニューロンは、私たちが推論によってだけでなくシミュレーションをすることによって、考えることではなく感じることによって、他者の心をつかみとることを可能にする」と述べています。科学ライターのサンドラ・ブレイクスリーは「人間の脳には他者の行為だけでなく、その意図、また、態度や感情がもつ社会的意味を読みとるミラー・ニューロンのシステムが複数ある」と記しています。

科学研究から読みとれるのは、あなたが心を熱くすることが子どもの脳におおいに影響するということです。あなたが喜びを深め、それを熱狂にまで高めることが、子どもが自分の変化(違い)に気づき、それを感じとることを助けます。そのとき子どもがあなたから感じる前向きの感情が、その子の脳に、「この変化は大切なので刻みこむべきだ」と伝えます。子どもはあなたの熱狂―喜びや満足感、希望的な気持ち―を感じとります。その一方で忘れてはならないのは、子どもの脳は周囲の人々の落胆や失望、無力感、無関心といった感情も鏡のように写しとるということです。』

人間の脳には他者の行為だけでなく、その意図、また、態度や感情がもつ社会的意味を読みとるミラー・ニューロンのシステムが複数ある」と説いたサンドラ・ブレイクスリーの著書は、ワシントンポスト紙の2007年度ベストブック(科学・医学部門)に選ばれた『脳の中の身体地図』でした。副題には「ボディ・マップのおかげで、たいていのことがうまくいくわけ」となっています。 

著者・サンドラ・ブレイクスリー、マシュー・ブレイクスリー

出版:インターシフト

発行:2009年4月

こちらは原書ですが、発行は2007年9月なので約1年半前ということになります

この本から今回の“脳の可塑性とボディ・マップ”を含め、以下の5つに分けてブログにアップしたいと思います。

1.“脳の可塑性とボディ・マップ

2.“運動イメージ法

3.“脳卒中のリハビリテーション

4.“共感とミラー・ニューロン

5.“官能的感触と成長

知能は身体を必要とする

『脳のマップは身体のみならず身体周囲の空間も図示する、拡大、収縮して日常生活の中に存在する事物を取り込む、しかも、自分の育った文化によって形作られるという考え方は、科学にとっては極めて斬新だ。今では研究により、脳がボディ・マップだらけであることがわかっている。体表のマップ、筋系のマップ、意図のマップ、行動する能力のマップ、まわりの人々の行動と意図を自動的に追跡して列挙するマップさえある。

これらの身体中心のマップは実に可塑性に富んでいて、損傷や経験、訓練に応じて大幅な再編成を見せる。形成されるのは幼少期なのだが、経験を積むにつれて成熟し、速度こそ衰えてくるものの、生涯変化し続ける。ただし、いくら、こうしたボディ・マップが自分という存在の中心だと言っても、この我が身の化身はたいてい、意識の端をちらりとかすめる程度で終わっている。まして、そのパラメータ(変数)が年々刻々と絶えず変化し、適応しているとは思いもしない。意識の舞台裏で続けられている膨大な作業を、あなたはまるで理解していないだろう。だからこそ、身体化が実に自然に感じられるのだ。ボディ・マップの持続的な活動は、あまりに継ぎ目なく、自動的で、流れるようにしっくりなじんでいるので、それが起きているとは気づかないし、人間性や健康、学習、これまでの進化の過程、サイバネティックス[人工頭脳学]によって広がる未来に対する興味深い洞察を生み出しているとは、なおさら思うまい。

身体は脳を入れて動き回るための単なる運搬具ではない。両者の関係は完璧なまでに互恵的だ。身体と脳はお互いのために存在している。動かすことも止めることも自在で、触れるのも躱すのも可能、やけどもすれば温まりもする、凍えたり冷えたりする、緊張することもあれば休めることもできる、飢えればむさぼり食って栄養を付ける。そんな身体は感覚のレーゾン・デートル、存在理由だ。そして、皮膚と身体から感じる感覚―触覚、温覚、痛覚など、本書で取り上げるほんの数種の感じる感覚が、あなたの心の基盤となる。他の感覚はみな、相対的な利便性のために追加されたものに過ぎない。せんじ詰めて言えば、人間は視覚や聴覚が無くても、元気いっぱいに暮らしていける。両方の感覚に恵まれなかったヘレン・ケラーのような人々さえ、心身両面で力強く成長できるのだ。生まれながら耳の不自由な人々の脳は聴覚マップを構築しないし、先天的に目が不自由な人々の脳が視覚マップを形成することはないけれども、視聴覚障害がある人々もボディ・マップを持っている。それにひきかえ、景色や音を伝えるべき身体のない視覚と聴覚は、物理的に空っぽな情報パターン以外のなにものでもない。意味は動作主性(行動し選択する能力)に根差し、動作主性は身体化によって左右される。実を言うと、これこそ人工知能学会が数十年にわたってフラストレーションを味わった末に、苦労してようやく得た教訓である。真に知的なものは、身体のないメインフレームでは発達しようとしない。現実の世界には、肉体を持たない意識など存在しないのだ。

柔軟に形を変える無数のボディ・マップが全部合わさって、“私らしさ(me-ness)”という立体感のある主観的感覚と、周囲の世界を把握してうまく渡っていく能力を生み出す。ボディ・マップは、全体の模様が感情のある身体化された自己を創出する曼荼羅だと考えればよい。身体化された自己の創出には不要なその他の心的能力、つまり視力、聴力、言語、記憶はどれも、ちょうど骨格にぶら下がっているさまざまな器官のように、この身体の曼荼羅マトリックスに支えられている。発達という観点から言えば、これらのボディ・マップなしには、自己認識を持った思考する人になることはできないのである。 

『脳にある、巨大でありながらもしっかりと統合されたボディ・マップのネットワークについて説明するには、曼荼羅こそ魅力的なメタファー[隠喩]であると同時に、おあつらえ向きの縮小版だ。ボディ・マップ網を曼荼羅に例えると、周りの諸尊は皮質にある大小多数のボディ・マップで、すべて相互・複雑に関係している。中央の尊像はそれらの複合産物、つまり、全体としての不可分な身体化された自己である。』

画像出展:「ウキメディア

それは少し大げさではないかという向きには、こう考えていただきたい。たとえば子猫などの幼いほ乳類を、脳の初期発達が進む重要な時期を通して抱いて歩き、環境中のあらゆる事象を目に触れさせる一方で、自分ではけっして動き回らないでおくと、この哀れな生き物は事実上、生きるということを理解できない猫に育ってしまう。ある程度の光や色や影は知覚できるから、視覚系の最も基本的な生来の能力は備わっているわけだが、奥行き知覚力と物体認識は惨憺たる有り様になる。眼と視神経は非の打ち所なく正常で無傷でも、高次視覚系はほとんど役に立たない状態だからだ。

どうしてこんなことになってしまうのか? 動物が目で見るという行為をしながら成長すれば、脳にある視覚マップのネットワークも正常な方向に発達するはずではないか? 形状や濃淡、運動、色、視差、大きさ、距離に関する視覚情報に満遍なく触れていれば、自己可動性の欠如を十分補えるだろうに? 意外だが、答えはノーだ。別の要素が要る。世界の隅々まで探索するために自分の身体を自由に駆使する能力である。成長期にあるほ乳類の幼獣が歩き回ると、自分自身の身体運動からフィードバックがあり、それが目にしたものの意味を教えてくれるのだ。一歩ずつ歩を進め、途中で休憩し、歩くペースを上げるたびに、重要な感覚情報がボディ・マップのネットワークを介して上位の脳神経系へ伝達される。すると、目から流れ込んでくる、本来なら無意味な染みや色、影の意味を幼獣が理解するために必要な情報が、このネットワークから幼獣の発達途上の視覚系に送られてくる。ハイレベルな視覚情報に触れていても、傍観者の域を出なければ、そうした視覚情報が本当は何を意味するものなのか、脳はけっして学習しない。

ここまで言えば、視覚が実は曼荼羅の居候で、腰の低い共生者だと、うすうすわかってきたはずだ。すべての“特殊”感覚[視覚、聴覚、味覚、嗅覚、前庭感覚(平衡感覚)]に同じことが言える。身体の曼荼羅はそうした感覚の中心にある統合者であり、心の究極の基準系であり、知覚の基礎をなす単位系である。感覚は身体化された自己に照らし合わせなければ意味はなさないのだ。

さて、身体の曼荼羅の全体像をなんとなく理解していただきたいところで、そろそろ的を絞って、本題に移ることにしよう。身体の曼荼羅のほかの要素を土台のように支えている一次感覚マップと運動マップである。』

自分に身体のあることがわからない 

『触覚をベースにしたペンフィールド式ボディ・マップについては、もうご理解いただけたことと思う。 

ペンフィールドのホルムンクスとは

左が一次体性感覚野、つまり、触覚とかかわる感覚に基づいたボディ・マップ。右が一次運動野に存在する、随意運動の基本ボディ・マップ。図は、脳の右半球。左半球にもほぼ同じマップが対になって存在している。

ワイルダー・ペンフィールドは1930年代、モントリオール神経学研究所の脳外科医であった。てんかんの病変部の切除を目的とした本番手術の準備として、痛覚受容器を持たない脳に電極をあてて原因と思われる腫瘍などの異常組織を何時間も探し続けた。

ペンフィールドが尋ねる。「今、どんな感じがしますか?」メアリー(仮名)は左手がチクチクしている感じがすると答える。ペンフィールドはそのスポットにナンバーを振った小さな付箋を貼り付ける。結果は、手術室の外に座っているガラス越しに覗いている秘書にも書き取らせていく。

その後20年にわたり、ペンフィールドは脳組織の同じ帯状領域を調べて、大勢の患者から同様の反応を得た。こうして粘り強く収集したすべてのデータをもとに、ペンフィールドが作成したのが身体表面の完全な脳マップである。彼は遊び心でこのマップに中世哲学の用語で“小人”を意味するラテン語の“ホムンクルス”というニックネームを付けた。

画像は『脳の世界』さまから拝借しました。

“ロンドンの自然史博物館にあったホムンクルスの模型。赤が体性感覚野、青は運動野”

あなたの身体の表面には至るところに、優しい愛撫や圧力、疼痛、熱さ、冷たさを担当するセンサがある。ところが、身体のフェルト・センス(フェルトはfeelの過去分詞形。たとえば、“胸がしめつけられる”など、なんとなく感じられる感覚)、つまりボディ・スキーマにはさらにふたつ、ほぼ完全に意識外で機能する構成要素がある。科学者たちはこれらの感覚チャネルの存在を何十年も前から承知していたのだが、今ようやく、その源である特定の脳領域にたどり着こうとしている。ひとつは身体の内部からの信号を読み取る領域、もうひとつは内耳からの信号を読み取って、平衡感覚を生む領域である。

ここで少し時間を割いて、自分の身体を構成している筋肉、骨、関節、腱を思い浮かべてみよう。これらの組織には、筋線維の単収縮、骨にかかる機械的ストレス、関節の角変位、腱の伸展など、小さな運動を検出するための特殊化した受容器がある。こうしたセンサは変化を感知するたびに脳に情報を送り、あなたの空間内の位置や体位に関する感覚を更新する。この情報を伝える信号は、まず、一次触覚マップにマッピングされた後、分岐してフィルタをかけられ、身体の曼荼羅にある他の高次マップへと上がっていく。その高次マップが身体の運動とその運動に関する予測を誘導するわけだ。

これらのセンサは体重と姿勢を計算して、固有感覚なるものを生み出す。これは、“自分自身を認識する知覚”という意味だ。飲酒検査に引っかかったとしたら―つまり、直線上をまっすぐ歩けなかったり、自分の指で自分の鼻に触れられなかったりしたら―、それは自分が空間内のどこに位置していて、四肢をどう動かしているかを認識する感覚が正常に機能していないからである。成長スパート、つまり、成長が加速する時期には、一時的にこの身体感覚を失って、足や脚があるべきところにないように感じる小児やティーンエイジャーもいる。新しい技能やスポーツを身につけるときは、練習によってこの身体感覚を磨き直さねばならない。

ボディ・スキーマの情報源には、“マッスル(筋肉)・メモリー”という記憶の図書館もある。よく使われる用語だが、少々不正確だ。これらの記憶は、“マッスル・メモリー”、つまり筋肉の記憶という名が示すとおりに筋肉にあるのではなく、実は脳の運動マップに存在しているからである。マッスル・メモリーがあるから、自分の身体がどう動くのか、何ができるのかと直感的に悟ることができる。この暗黙の知識の例としては、身体をどこまで曲げられるか、背中のどの辺なら手が届くか、食卓に並んでいるもので、身を乗り出さなくても取れるのはどれかといったことが挙げられる。このような理解と判断の大半は無意識に行われる。身体の曼荼羅が絶えず計算し、それに基づいてボディ・スキーマを最新の状態に保っているからである(区別を明確にしておくと、身体の曼荼羅は脳にあるボディ・マップの物理的ネットワークで、ボディ・スキーマはそれらのマップによって構築された、身体が感じ取った経験である)。』

まとめ

1.ボディ・マップの形成は幼少期だが、速度こそ衰えてくるものの生涯変化し続ける。

2.身体は脳を入れて動き回るための単なる運搬具ではなく、両者の関係は互恵的であり身体と脳はお互いのために存在している。

3.皮膚と身体から感じる感覚―触覚、温覚、痛覚などの感覚が心の基盤をつくる。

4.発達という観点から言えば、ボディ・マップなしに自己認識を持った思考する人になることはできない。 

5.体を動かすことによって得られた感覚情報が脳へフィードバックされ、目から流れ込んでくる情報と統合することによって、脳は目にしたものの意味を理解する。

6.筋肉、骨、関節、腱に存在するセンサ(受容器)から脳に送られた情報が、空間内の位置や体位に関する感覚を生みだす。これは自分自身を認識する知覚であり、固有感覚と呼ばれている。

脳室周囲白質軟化症

今回は業務委託で行っている訪問の仕事の話になります。

およそ半年前、脳室周囲白質軟化症(PVL)の小児障害の患者さま(3歳)へのマッサージがスタートしました。脳室周囲白質軟化症(PVL)は早産による脳室周囲の白質に起こる虚血性脳病変です。血管の発達遅れに伴い脳血管の血流が減少することに起因していますが、脳室に近い部位には、下肢に行く神経線維が通っているため、四肢の痙攣性麻痺や弛緩性麻痺が懸念されます。 

 

こちらは『こどもの発達を考える衝動眼鏡の日常』さまのブログに掲載されていた脳室の図ですが、“脳室周囲白質軟化症 PVLとは”と題するテーマで、大変わかりやすい説明となっています。

 

今回の患者さまの場合も課題は下肢に見られました。顕著だったのは「尖足」(下図右から2番目)でした。また、患者さまとタオルを使った綱引きの遊びをしたときに、X脚(下図中央「外反膝」)になってしまうということに気がつきました。ぐっと踏ん張るためには、腰を落とし膝を外側に開く姿勢が一般的だと思いますが、そもそも腰を落とすことができないということが問題のように感じました。 

こちらの図は『東京リハビリ物語』さまのサイトの“整形外科的診断学”から拝借しました。

 

 

ここで、私は2017年3月にアップした“地に足を着ける”といブログを思い出しました。そして、特に次の内容が重要なのではないかと考えました。

土台をしっかりさせるということは、まさに”地に足を着ける”ことです。このことは”整った身体”を作るコツです。そして、情緒の安定や集中力の向上、意欲の増進につながります。”地に足を着ける”には足首の柔軟性と調整力が必要です。足首が使えていないと、つま先立ちとなり、首が緊張し前傾しやすくなり、その結果、姿勢が悪くなります。』  


足首での姿勢調節ができないと、頭(上体)で調整することになり、ボディバランスにも大きな影響が出ると思います。

なお、これらの絵は、栗本啓司先生の「自閉っ子の心身をラクにしよう!」からの転載です。

 

 

一方、脳室周囲白質軟化症(PVL)のリハビリに関する情報が何かないか調べてみました。

その時、見つけたのが『チャイルド・リサーチ・ネット(CRN)』というサイトの中にあった“運動障害をもつ子どもに対するリハビリテーション”という論文です。

クリックして頂くとダウンロード(12枚)されます。

 

 

この論文で特に注目したのは、「9.1対象と介入方法」とリハビリの様子と効果を写した「図4・図5」でした。

『対象は、新生児期のMRIでPVLと診断され上肢に明らかな麻痺のない乳児8名(表1)。一般的にPVLによって痙性両麻痺をもつCP(脳性まひ)児は、成長の過程で上肢優位の活動となり、下肢への注意や知覚、身体表象の発達不全、学習性不使用といった状態になりやすいため、出生後早期より下肢に視覚的に注意を向けさせて遊ぶことを通して、運動と随伴的に得られる視覚、聴覚、体性感覚フィードバックの統合から下肢の身体表象の獲得、足部の空間的コントロールを学習をさせた。これは、過去の下肢に対する介入の目的となることが多かった体重の“支持機能”、移動のための“推進機能”とは異なる“空間でのコントロール機能”に着目したものであり、定型発達児において、体重支持や移動を獲得する以前の早期に足部の空間的コントロールが可能になるという先行研究に基づくものである。』

これを元に思いついたのが、カスタネットを用意し椅子に腰かけ、カスタネットと自分の足をよく見てもらいながら足首の運動(足関節の背屈・底屈)によりカスタネットの音を出すという遊びです。

単純に足関節の動作を行なうより、音を出すという面白さや足首の動きを確実に目で確認するという効果を期待して、この遊びをマッサージの前か後に数分やってみようと考えました(最初に「本来は足でたたくものではないよ」と伝えました)

初回は興味をもって積極的にトライしてくれました。しかし、これは思っていた以上に難しいものでした。足関節は尖足のままほぼ固定し、膝の上げ下げ(股関節の屈曲・伸展)でカスタネットを叩こうとしてしました。ここで私は「そうではなく、こんな感じだよ」と言って(否定して)、ゆっくりと足首を上下(足関節の背屈・底屈)させてみましたが、なかなかうまくいきませんでした。

2回目は、「今日はマッサージからやろうか」と話したところ、前回と同じことをやりたいとのことだったので、前回とは少し高さの異なる椅子に変えて同様な試みをしてみました。しかしながら、やはりうまくはいきませんでした。ここで私は心の中で「これは難しい、失敗だった」と思ってしまいました。そして、次の訪問からはマッサージについても、拒否する傾向がみられるようになりました。マッサージ前後の数分という短い時間であれ、安直な気持ちでリハビリに挑戦したことが結果的にはマイナスとなりました。

レビュー

この失敗例に対し、先月学習した”アナット・バニエル・メソッド”に照らし合わせ、何が適切でなかったのかをレビューをしてみることにしました。

最初に、かなり大雑把ですが「あるべき姿」としてまとめ、続いて「9つの大事なこと」に突き合わせて問題点を個別に洗い出しました。 

 

著者:アナット・バニエル

出版:太郎次郎社エディタス

発行:2018年7月

あるべき姿

まず、患者さまの状態、状況の理解を深めることが第一です。続いて、「できないこと」を知ることも必要ですが、支援の扉は「できること」の近くにあると考えるべきです。これは“アナット・バニエル・メソッド”の中では「動きのエッジ部分」と言われているものです。また、「できること」に目を向けることは、脳にとって失敗のパターンを刻むリスクを遠ざけるという利点もあります。

そして、変化を起こすエンジンは患者さまの脳の働きです。さらに支援者とのつながり、脳と脳とのつながりが土台となります。これは支援者の影響力が大きいことを意味します。そのため支援者にはリーダーになる(いい加減なことはできない)という覚悟が求められます。

エンジンを動かすためのガソリンに相当するものは、「気づき・違い」などですが、「学びのスイッチ」がオンになっていることも非常に重要で、エンジンに大きな力を加えます。また、楽しさ、喜び、好奇心などのポジティブな心も極めて重要です】 

 「9つの大事なこと」との突合せ

1.動きに注意を向けること

脳は「失敗のパターン」も再生してしまう

『訓練を機械的・反復的に行なうとき、ある動きができない、うまく動けないという経験に加え、訓練の過程で子どもが味わう失敗に伴う感情も脳の失敗のパターンに刻まれる。』

これは、子どもの状態、状況を正しく理解するためのていねいな観察が前提であり、思いつきでの働きかけなどは慎重でなければならないということだと思います。

2.ゆっくり

スローダウンで「感じとる脳」に

何かができないときは、その能力がまだないということであり、能力を獲得するためには、脳がより細かく差異をとらえ、無数の新しい神経細胞のつながりをつくり、それが統合されなければならない。そのチャンスを最大にするためには、取り組みのペースを思いきり落とすことです。「ゆっくり」は脳の注意を引き、子どもに感じる時間を与える。

これは、新しい動きの習得には脳の対応が必須であり、「ゆっくり」を基本とし焦ることなく、じっくり取り組むことが必要であるということだと思います。

3.バリエーション

動きのエッジ部分にやさしく働きかける

お子さんがすでにできることにバリエーションをとりいれる。

間違いを活用する

子どもが何かを間違った方法でしても、修正しないことです。そう、修正はしません(もちろん、その行動が本人や周囲に危険をおよぼすときは、直ちにやめさせること)。あなたの目には間違いが明らかであっても、本人は気づいていないことが多いのです!間違いを修正しないとは、間違いをなかったことにするという意味ではなく、バリエーションをとりいれるきっかけにするということです。子どもの間違いは、バリエーションを体験するための贈り物です。子どもが間違いをしたら、その間違いに変化をつけてみましょう。

これは、「間違い」という受けとめではなく、「想定外の反応」として評価し、新たなバリエーションのための材料として活用しようというものです。このような意識は全くありませんでした。また、できることにバリエーションをつけるという着想も全くありませんでした。

4.微かな力

感情表現で力をぬく

子どもと向きあうときの感情を和らげる。声をやさしくし、気を楽にもち、子どもに対する期待を減らす。

ここでは、「子どもに対する期待を減らす」ということが大事だと思いますが、同時に「楽しい気持ち」や「つながる気持ち」などもとても大切だと思います。

5.内なる熱狂

喜びを深める力

科学研究から読みとれるのは、あなたが心を熱くすることが子どもの脳に影響を与えるということである。

自分がリーダーになる

子どもは何かをうまくできると、気分をよくし、希望を感じる。一方、あなたの期待に応えられなければ、とまどい、自信をなくし、おどおどする。

これらは、支援(施術)する者の役割の重さに関するものですが、今回の例では、私自身が心の中ではありますが、「失敗だった」と思ってしまったことが最大の問題だったのかもしれません。

6.ゆるやかな目標設定

可能性にひらかれた道

通常、ゴールを目指すときは、目標をできるだけ絞り、できるだけがんばるものです。それは、「がんばれ」「あきらめるな」「苦痛があってこその達成」といった言葉にも表れています。しかし、支援が必要な子どもの場合、このような取り組み方は逆効果のことが多いのです。柔軟性に欠ける方法で力まかせにゴールを目指すと、子どもの力をさらに制限してしまうことになりかねません。

これも3の「バリエーション」にあった「動きのエッジ部分にやさしく働きかける」という「できること」に目を向けるということに関わるものだと思います。

7.学びのスイッチ

ひとりの人間としてみる

一般的には、子どもの課題やできないことに焦点を絞った対応がなされるものだと思いますが、これにはひとつ、大きな欠点があります。そのようにするとき、ひとりの子どもの全体がみえなくなるのです。内側に豊かな経験と複雑さを抱える子どもの全体像をつかめなくなり、型にはまった見方をするようになります。そして、気づかないうちに自分の「学びのスイッチ」をオフにしてしまします。ところが、視野を広げ、自分の懸念やその子の限界にとらわれずに子どもをみるようになると、あなたの「学びのスイッチ」はふたたびオンになります。すると、子どもを総体としてとらえるようになり、以前は気づかなかったことに気づき、子どもに関わっていく新たな方法を見つけることができます。子どもに役立つチャンスが急に到来するようになり、あなたは、子どもの脳が識別し、進化をとげる手伝いを創造的に行なうようになります。このようなプロセスは、私たちの「学びのスイッチ」だけでなく子どもの「学びのスイッチ」もオンにし、脳の整理能力を全体的に引き上げてくれます。子どもは、私たちが予想もしない方法で、もっとも困難な分野の能力を伸ばしていくものです。

これは「学びのスイッチ」に関して書かれたものですが、まさにまとめになるような内容です。

8.想像すること、夢みること

遊ぶ

遊びは子どもの想像力をかき立てるもっとも手ごろな方法です。ところが、私たちが子どもとすることというのはひじょうにまじめで型にはまったものが多いのです。特別な支援を必要とする子どもがセラピーを受けるときや家庭教師にみてもらうときは、とくにそうなりがちです。そのようなときはゲームにして想像力をフルに使うようにすると、楽しく、効果も上がります。子どもの体験に喜びや好奇心が加わり、脳の処理能力が高まり、創造力が目覚めます。

ここでも、脳の活性化には楽しさ、喜び、好奇心が重要であることがわかります。

9.気づき

「気づき」は行為だ

「気づいている」ときの子どもは、脳のもつ「変化をとげる」力を活用しています。このとき子どもの脳は大きく飛躍し、つぎのレベルのさまざまな能力を獲得することができます。子どもが自分の動きや思考、感情、行為に「気づいている」と、それを続けるか、やめるか、やり方を変えるか試行錯誤するとき、その子は気づいています。言葉が出はじめるまえから、子どもは気づくことをはじめています。「気づき」のスキルもまた、発達し、進化していきます。ほかのスキルと同様に磨くことができ、磨くほどに上達し、困難を乗り越えていく力になります。

7で「学びのスイッチ」というものがありましたが、気づきとは「学びのスイッチ」より前に存在するスイッチだと思います。また、繰り返しになりますが「気づき」にとっても、楽しさ、喜び、好奇心が大きく関わっていると思います。

最後に本書の中から実践編とも言えるものを一つご紹介させて頂きます。

快適に動くために―足の遊び

特定の動きが困難で、子どもが過剰に力を使っている場合、力を減らせるよう穏やかに導く方法を探します。身体を動かすときの力を減らすためには、体位を変えることが有効かもしれません。

たとえば、歩くときに左右の脚を大きく開き、よくつまずいて転ぶ子どもには、立ったり、歩いたりするときに筋肉に余分な力が入っています。そのため、立っているときに、自分の両脚が大きく開いているか、くっついているか、腰の真下に並んでいるかの違いを感じとることができていません。余分な力が大きなノイズ(雑音)となって、関節や筋肉と脳の繊細なやりとりをじゃましていると考えてください。そのようなときは、余分な力のボリュームを下げ、わずかな違いを感じることを助けてくれる遊びをしてみましょう。』

 まず、子どもをイスに座らせます(立った状態だと転ばないように力を入れてしまいますが、座ると過剰な努力をしなくてすみ、感じとる力が高まります)。このとき、足が床につき、楽に座れるようにします。子どもが楽に座ったら、自分の足を見て、左右の足のあいだの距離を、胸の前で両手で示すように言います。その距離が正確かどうかは気にしません。つぎに、子どもの両手を思いっきり離し、「手が遠くに離れているね」と声をかけます。両手を近づけさせ、「近づいた」と声をかけたら、ひざの上に降ろすように言います。 

 つぎに、子どもに目を閉じてもらい、やさしく足をとり、左右の足のあいだを離します。子どもが不快に感じる距離にはしません(あくまで余分な力を減らし、動きを感じられるようにするための遊びであることを忘れないでください)。「両方の足は近くにあるかな? それとも離れているかな?」と尋ねます。回答の正否は問わず、間違っても直しません。目を閉じた子どもにただ自分の足を感じさせ、足がどこにあるかを推測させるのです。目を開けるように言い、自分の目で距離を確認させます。

 再度、子どもに目を閉じてもらいます。右足をとって左足に近づけ、「足を動かしたのを感じた?」と尋ねます。おそらく「うん」と答えるでしょう。さらに「足はもう片方の足に近づいたかな? それとも遠くに離れたかな?」と尋ねます。お子さんが幼くてまだ話せない場合は、質問をするのではなく、子どもに加えた動きをそのまま言葉にします。同じことをもう片方の足でも行ないます。動かすとき、足にかける力を一回ごとに弱めていきます。その後、本人に片方の足を動かすように言います。まず、力を強く入れて動かすように言い、つぎに力をあまり入れずに動かすように言ってください。

 この遊びを五分間ほどしたら、子どもに立ってもらいます。このとき、立っている感覚が変化したかどうか、感じる時間を与えます。子どもの脳は、脚をうまく使えるように修正がされたはずです。今度は、座って行った先ほどの動きを、立った状態で行ないます。立って行なうのが難しい場合は、ふたたび座って行ないます。

 このような遊びを冒頭からあわせて十分ほど行ったら終わりにし、好きなように歩かせます。このとき、「足の距離が近くなったね」まどと声かけしないことです。

この遊びはさまざまな動きや状態に応用できます。脳は、余分な力が減ることで「違い」を感じられるようになり、より上手に動きを組み立てるチャンスを与えられます。何年もかかると思っていたことを脳がすばやく達成してしまうことに驚くことでしょう。

アナット・バニエル・メソッド2(症例)

本の中には1歳から13歳までの19人の症例が出ていました。抱えている障害は重度の脳性まひ脳の損傷によるもの自閉症スペクトラムADHD(注意欠陥・多動性障害)LD(学習障害)診断のつかない発達遅れなどです。

今回のブログではこの中から3人の症例をご紹介させて頂きます。なお、[ ]内は私の方で追記したものです。

 

著者:アナット・バニエル

発行:太郎次郎社エディタス

発行:2018年8月

1.カシー 3歳女児 重度の脳性まひ(誕生時に脳を損傷)

両脚がくっついて離れないカシー

『カシーと出会ったのは、彼女が三歳のときでした。カシーは誕生時に脳を損傷し、重度の脳性まひがありました。両腕、両脚、お腹の筋肉が極端に硬く、痙縮がみられ、自発的な動きはほとんどありません。自分で動こうとすると、全身がさらに硬直します。

両親がカシーをレッスン台(マッサージ台のような幅広でクッション性のある安定した台)の上に座らせると、背中はすっかり丸まり、両腕は、胴体にきつくひきよせられました。ぴったりくっついた両脚は、前に向かってぴんと伸びています。カシーは転げ落ちないように必死で、どうみても怖がっていました。

数か月間にわたって定期的に「9つの大事なこと」を使ったレッスンを続けたところ、カシーは腰と両腕を自分で動かせるようになり、バランスを保ちながら怖がらずに座れるようになりました。話し方も考える力も向上し、おきまりの文をくり返し唱えるかわりに、自分の考えをまとめ、要求をはっきりと伝えるようになりました。

ところが、ひとつだけ、どのように取り組んでみても変わらないことがありました。まるで目に見えない紐で縛られているかのように、つねに両脚がぴったりとくっついていたのです。私がとてもゆっくり、やさしく動かすと、左右の脚は離れてべつべつに動くのですが、カシーが自分から脚を動かそうとしたり、自分で動かす方向を変えようとすると、そのとたんに痙縮します。身体の動かし方を学んで全身を自由に動かせるようになってきたのに、なぜか脚だけが動かないのです。

ある日、私はふと、カシーは自分に脚が二本あることを知らないのだと思いました。両脚がいつもいっしょに動くので左右べつべつのものだと感じたことがなく、右脚と左脚の「違い」を認識したことが一度もないのでしょう。認識されなければ「違い」は存在しません。だれが見てもカシーには脚が二本ありましたが、彼女の脳が経験しているのは二本ではなく、一本の脚で、「ひとつ」と「もうひとつ」(「これ」と「それ」)がないのです。

マイケル・マーゼニック[「本書によせて」を寄稿された脳神経学者]の研究チームは、実験用ラットの後ろ脚に脳性まひのような症状をつくりだしました。誕生時に左右の後ろ脚をひとつに縛ってつねにいっしょに動くようにしたところ、ラットの脳は、後ろ脚は二本ではなく一本だという身体地図を描きました。

カシーの脳が二本の脚を一本ととらえていると気づいたことは、私の取り組みの突破口となりました。子どもたちは、「違い」に気づくことができる環境を与えられると、身体地図を描きなおす脳の力を発揮させていけるのです。

「ひとつ」と「もうひとつ」を発見したカシー

『カシーの脳が左右の脚を一本とする身体地図を描いているのなら、脚が二本あることを感じ、わかるための方法が必要です。彼女の脚を片方ずつ何度も動かしてみましたが何も起きません。脚が二本あることに気づかなければならないのは、ほかでもない、カシーです。どうにかして注意を向けてもらい、脚が二本あることを知ってもらわなければなりません。

子どもの例にもれず、カシーも遊びが大好きでした。私は無害の水性マーカーを用意し、彼女をレッスン台に座らせると、後ろから抱きかかえました。彼女の右脚をやさしく持ち上げ、その膝をトントンと軽くたたいて視線を向けさせ、そこに絵を描いていいかどうかを尋ねました。返事は「イエス」です。

私は、カシーの脳が「違い」を認識しなければならないような質問をしました。

「どっちを描こうか? 犬、それとも猫?」

しばらくしてカシーは「犬」と答えました。

「赤い犬、茶色い犬、どっちがいい?」

彼女は赤を選びました。そこで、カシーの右膝に、ゆっくりと説明しながら、赤い犬の絵を描きました。「これが犬のお鼻。これが片方の耳。もうひとつの耳」といったぐあいです。

カシーはしっかりと私の声を聞き、絵に目を向け、肌を滑るマーカーの肌ざわりを感じていました。犬を描きおえるとカシーのその膝を、まず同席していた母親に見せ、つぎに自分が見てから、本人に見せました。右脚を下すと、今度はおもむろに彼女の左脚を持ち上げました。そして、わざとがっかりしてみせると、驚いた声で言ったのです。

「この膝には犬も猫もいないよ!」

その瞬間、カシーは生まれてはじめて「向こうに、同じようなものがもうひとつある」と気づいたのだと、私にはわかりました。脚は一本でなく、二本あるのです。つぎは、この目の前の膝に犬と猫のどちらかの絵を描くかを尋ねました。「猫」と答えたので、やはりゆっくり慎重に、猫の顔を描きました。

左右の膝に異なる絵を描いたことで、カシーの脳が、「一本の脚」を二本のべつべつの脚に変化させていける可能性がいっそう広がりました。たとえば、どっちの絵をだれに見せるかを選ぶことができます。また、両脚をぴったりつけて犬と猫を近づけることも、脚を広げて二匹を遠ざけることもできます。犬がカシーの手をタッチすることも、猫がカシーの母親の手をタッチすることもできます。

カシーは「猫の膝」と「犬の膝」を識別し、自分の意思で脚をべつべつに動かすことができるようになりました。生まれてはじめて、脚が二本になったのです。脚の動きはまだぎこちなく、動かせる範囲も広くありませんでしたが、それは彼女が自分で生みだした動きでした。』

カシーの脳で起きていたこと

「猫の膝」と「犬の膝」の遊びを楽しんでいるあいだに、カシーの脳はさまざまな「違い」を受けとり、集め、認識し、大量の感覚をより細かく差異化しながら整理していました。そうするうちに脚の痙縮は少しずつ減り、身体全体の動きが改善したのです。

この取り組みについて大事なことは、さまざまな「違い」を感じて受けとめるチャンスを脳に与えたということです。ふたつの異なる部位である一の脚と二の脚、「ひとつ」と「もうひとつ」が身体の動きを向上させたのであって、脚の訓練をしたわけではありません。立たせたり、歩かせたりするのではなく、カシーがまだ知らないさまざまな「違い」を感じることができるように支援することで、脳が、脚を認識し、脚の動きを組み立てるために必要な情報を得られるようにしたのです。これは、まさに脳の訓練でした。

カシーはその後も能力を伸ばしていきました。最後に会ったときには自分の力で立ち上がり、家具につかまって一歩一歩、ゆっくり歩くようになっていきました。思考もどんどん明晰になっていきました。五歳のカシーはだれの目にもとても賢い女の子でしたが、三歳の彼女をそのようにみていた人はいませんでした。』

2.ジュリアン 3歳男児 自閉症

すべてが「ぼんやり」していたジュリアン

『自閉症と診断されていた三歳のジュリアンは、レッスン初日、軽く足を引きずりながら前かがみで廊下を歩きました。ジュリアンが安心している様子だったので、私は質問をしてみました。すると、答えはすぐに返ってきましたが、発音がはっきりしないので理解できませんでした。彼がつくる文はまとまらず、言うことはなにもかもが断片的です。考えは途中で宙に浮き、終わりまでたどり着きません。よだれを大量にたらし、母親によると、細かい動作をうまくできないということでした。

レッスン室に入ると、ジュリアンはおもちゃを手に持ちましたが、持っていることを忘れたかのようにポトンと落としました。その様子は、彼が何かを考えようとするとき、それが途中で消えていくことを思い起こさせました。私が受けた印象は、脳の入り口に曇ったレンズがついているために、入ってくるものすべてがぼやけてあいまいになってしまうというものです。ジュリアンは自分や周囲の世界を理解するのに必要な「違い」を、はっきりと受けとることができないようでした。

私は、ジュリアンをレッスン台にうつぶせに寝かせると、彼の右肩の下に自分の左手を入れてやさしく、ほんの少し持ち上げてみました。すると、肩と背中がひとつの塊としていっしょに動くのがわかりました。左の肩を持ち上げてみても同じです。伸び縮みする筋肉や柔らかな関節をもつ人間ではなく、まるで丸太を動かしているようなのです。

脚、骨盤、頭の動きを確かめると、動きがあいまいで、細やかさも強さもないことがわかりました。また、周囲の音や景色を識別する力も弱く、言語活動と思考は初歩段階といえるものでした。ジュリアンの脳は、明らかに違いを受けとめることが苦手で、身体のさまざまな部位を十分に識別できていません。さまざまな形の小さなパーツが足りないのです。私はジュリアンができるかぎりたくさんの「違い」に気づくことができるように彼の身体を動かし、そのとき彼が経験している動きを言葉で説明しました。

ジュリアンは三歳でしたが、指や手の動きは生後一か月の赤ちゃんのようでした。五本の指をまだ認識していない赤ちゃんは、グーパーしかできません。ジュリアンはまだ自分の手を「ひとつの塊」と認識していて、おもちゃをつかむときはぐっと握り、ぱっと放しました。

ジュリアンの「ぼんやり」は手だけでなく、足を引きずる歩き方、ゆるんだ口もと、発音、そして、何かを考えるときの混乱ぶりにも表れていました。あらゆる面で識別する力が足りなかったのです。』

まるで霧が晴れるように

『私はジュリアンの身体に動きを与え、まず彼が頭を「ひとつのもの」、肩と背中を「もうひとつのもの」と受けとめられるようにしたところ、背中の動きがよくなり、しっかり反らせて片側から反対側へ楽にねじれるようになりました。

この日のレッスンでは、さらに、片方の前腕を持ち上げて天井に向け、手首から先が前後にぶるぶるするようにやさしく揺らしました。数秒後に揺らすのをやめると、期待するようにその手を見ながら待っていたジュリアンは、「もう一回!」と言いました。自分の手が止まったことに気づいた―揺れることと止まることの「違い」を認識したのです。ふたたび手を揺らしてから止めると、もう一度頼んできたので、さらに揺らしました。

このとき、ジュリアンはしっかり注意を払っていました。レッスン室に入ってきたときの彼は別世界にいるような感じでしたが、このときは私といっしょに、いま・ここで、自分自身に気づき、自分の経験していることに気づいていたのです。

私は、どっちの腕を揺らしてほしいかを尋ね、彼が答えたとおりにしました。動かしてほしい腕を選ばせることで、「違い」を認識する力を高め、自分に気づきやすくなるようにしたのです。ジュリアンは急速に、腕と手首の動きに気づくようになりました。この日はさらに二十分ほど、バリエーションのある動きを行ない、レッスンを終えました。

翌日、ジュリアンの母親が、よだれが大幅に減ったと報告してきました。また、避けていたゲーム遊びを自分からしたということでした。それまでは手を使うことも、考えることもたいへんだったのが、楽にできるようになったからです。いずれも、脳が上手に「違い」を受けとめ、分化し、行動を組み立てるようになったことを示す証拠でした。

その後は毎日のレッスンで、身体を新しい方法で感じ、まだ知らない、より細かい「違い」を受けとめることができるチャンスを与えるようにしました。すると四日目に、ジュリアンは私を見て、「パパは今日、オフィスで仕事をしている」と言ったのです。構文は完璧で、発音もかなり明瞭でした。

私は、「きみは、お父さんが仕事をしているときにオフィスで遊んだことがあるの?」と質問しました。最初の返事はごちゃごちゃして意味がわかりませんでした。ジュリアンは確かに考えていましたが、それをまとめることはできませんでした。そこで、言いまわしを変えて同じことを聞いてみました。すると、彼はさっきより明確に答え、さらに、父親は家にオフィスをひとつ、家でない場所に別のオフィスをひとつもっていて、自分は家にある父親のオフィスでときどき遊ぶが、家でないオフィスでは遊ばない、ということを説明してくれたのです。

私は興奮を抑えきれませんでした。ジュリアンが父親のふたつのオフィスの違いを説明できたことは重大な変化です。これは、彼の脳が「ひとつのこと」と「もうひとつのこと」の違いを受けとめ、混沌から秩序を生みだせることを示していました。先ほどのアヒルの例でいうと、ジュリアンの脳はどんどん分化し、小さなパーツをつぎつぎに増やしていました。彼の脳は、動くこと、話すこと、考えることの地図を描くための情報を急激に受けとるようになっていたのです。』

こちらは上記の”アヒルの例”の説明になります。

私は「分化」について説明するとき、ホワイトボードにアヒルの輪郭を描きます。そして、四つか五つの不規則な形のパーツを描き、これをパズルのように組み合わせてアヒルの形にすることを想像してもらいます。これだと、アヒルをつくるのはまず不可能です。

つぎに、ずっと小さな丸や三角や不規則な形の粒をたくさん描きます。そして、この粒つぶを使ってアヒルの形をつくることを想像してもらうのです。これなら簡単にアヒルをつくれますし、それ以外の好きな形もつくれます。

この説明によって、脳の中で起こる分化と統合のプロセスが理解しやすくなるのではないでしょうか。いろいろな小さなパーツがたくさんあれば、脳は思いどおりの動きをつくりだすことができます。このプロセスは、何か考えたり、理解したりするときにも当てはまります。脳は身体・認知・感情に関わるあらゆる動きを組み立てています。私たちが行なうあらゆることに秩序をもたらすパターンをつくりだす作業を脳は、自由に使用できるさまざまなパーツ(情報)を使って行ないます。このパーツのもとになるのが、脳が感知したさまざまな「違い」なのです。』

支援の視点を変える 

『一般的に、支援が必要な子どもを手助けしようとするときには、できないことに目を向けて、痙縮のある腕を訓練しようとしたり、何度も目を合わせて返事をさせようとしたりするものです。ほとんどの子どもはがんばりますし、なんらかの変化がみられることも少なくないでしょう。

しかしながら、私がくり返し見てきたのは、子どもは大人が教えようとしたことを学ぶのではなく、自分の限界(できなこと、うまくできないこと)を経験することを学んでしまっているということでした。私たちはつねに、自分が経験すること、自分に実際に起きていることを学びます。「できない」「うまくできない」という経験は脳に残り、そのときの限界とそれに関わる地図が、脳より深く刻みこまれてしまうのです。

数かぎりない「ひとつのこと」と「もうひとつのこと」が、脳に無数のつながりをつくりだします。このつながりが、経験に応じて変化を続けるダイナミックな脳のパターンとなって、子どもは立ったり、座ったり、歩いたり、話したりするようになります。

子どもは、計画的に座るようになったり、「ママ」と言うようになったりはしません。気がついたら、そうなっています。子どもにしてみれば、何かを達成するのはいつだって想定外のことです。私たちの仕事は、子どもの脳が目覚めるように助け、その脳が創造し、形成し、発見していくプロセスを支援することです。

腕がうまく動かない、寝返りを打てないといった目の前の課題に焦点をあわせるのではなく、子どもの脳それ自体が解決方法を見つけるように手助けをしていく―これは一見、わかりにくいことです。大切なのは、私たちが考え方を転換し、「動き」を可能にするパターンや能力を生みだすために脳に何が必要かを考えることです。解決方法を見つけるのは私たちの脳ではなく、子どもの脳なのです。

3.リリー 3歳女児 重度の脳性まひ(身体は1歳ほど、発達段階は生後5か月)

ボールのように硬く丸まってしまうリリー

『リリーと初めて会ったのは、彼女が三歳のときです。たいへん未熟な状態で生まれ、重度の脳性まひを負っていたリリーは身体が小さく、一歳といっても通用するほどでした。彼女が母親や妹とやりとりする様子は乳児のようで、のちに母親から聞いたところでは、生後五か月ていどの発達段階だと判定されたということでした。

リリーは筋肉の緊張が激しく、つねに肘をきつく折り曲げ、握りこぶしをつくっていました。両脚は膝が少し曲がった状態で交差しています。腹筋がつねに収縮しているために背が曲がり、自分の体重を支えることができません。自発的な動きがなく、寝返りを打つことも、うつぶせでいることもできません。うつぶせにすると身体を丸め、苦しそうにします。座らせるとたいへんな力を出してなんとか座るものの、背中はすっかり丸まり、数秒すると転がってしまいます。腕や手を使うことはできません。声は小さく不明瞭で、何を言っているか理解するのは困難でした。

しかし、そのような状態でも、私にはリリーがしっかり目覚めて神経を研ぎ澄ましていることがわかりました。大きな茶色の目で、興味深そうに周囲の様子を追っていたからです。

リリーを仰向けにレッスン台に寝かせましたが、その姿勢でも筋肉は収縮したままで、両脚は曲がり、台からやや浮いています。肘は折れ曲がってぴったり身体に引き寄せられ、腹筋も硬いままです。脳が、どのように力をぬけばよいのかをわからないのです。

左脚をやさしく持ち上げ、できる限り小さく動かそうとした瞬間、収縮していた筋肉がさらに強く縮み、リリーはボールのように丸まりました。私は手を止め、彼女が落ち着くのを待ちました。つぎに骨盤を、やはりできるかぎり小さく、とてもゆっくり動かそうとしましたが、今度も強く筋肉が縮みました。速度を思いきり落として、安心できるように話しかけながら、とても小さく、わずかに動かしてみても、筋肉は硬くなりました。私が動かそうとするたびに、彼女の脳は、身体をボールのように丸めるという未分化で強力な初期の動きのパターンに乗っとられるかのようでした。

十分ほどそのようにしていると、ある考えがひらめきました。ボールのように身体を丸めるのは脳性まひの影響だけでなく、学習したパターンだからではないか、と思ったのです。リリーはどう見ても動きたがっていました。彼女は彼女なりの方法で動こうとしているのに違いはありません。

リリーは二年近く、うつぶせにされ、座らされるという訓練を受けていました。訓練では握りこぶしを開かせようとしたり、立たせようとすることさえあったそうです。そのようなとき唯一リリーの脳にできたことは、強く収縮することで、そのため身体は丸まりました。自分から動こうとするとき、また、自分を動かそうとするあらゆる働きかけに対し、彼女の脳は、収縮するというパターンを結びつけることを学習したはずです。』

なまけものごっこ──過剰な力をぬいて

『筋肉を収縮させるときの激しい力が悪循環を招いていました。激しい力を出しているため、リリーはどんな「違い」も感知することができず、脳に動きを学ぶために必要な新しい情報が入ってこないのでしょう。

リリーが動くことを学ぶためには、動こうとするときの過剰な努力を減らさなければなりません。そのとき私は、リリーに必要なのは、動こうとしないことを学ぶ方法なのだとひらめきました。リリーは筋肉を収縮させるとき、させないときの違い、また、力をたくさん入れるとき、少しだけ入れるとき、そしてまったく入れないときの違いを感じることを学ぶ必要があるのです。

私は「なまけもの」になる方法を教えることにしました。自分の身体とその動きを感じられるように、何もしないことを学ぶのです。

「この部屋はとっても特別な場所で、“なまけものの国”といいます。“なまけものの国”なので、だれもが、とってもゆっく――り、話します。だれもが、じ――っとしてほとんど動きません」。

このように話すと、私はレッスン台に自分の頭を乗せ、リリーの横でいっしょに怠けました。リリーは大喜びです。

しばらくたってから、これから身体を動かすけれども、私たちはものすごく「なまけもの」でなければならないのだと、話しました。そして、彼女の左脚を持ちました。その瞬間、やはり、筋肉は収縮しました。私は手を止め、おどけた調子で言いました。「なまけものじゃなくなってるよ!」。このようなやりとりをいろいろな方法でくり返しました。

その後の二回のレッスンでも、彼女に「なまけもの」になるように言いつづけました。そして、ついに、無意識に全身に力を入れたすぐあとに初めてそのことに気づき、リリーはみずから力をぬくことができたのです。素晴らしい瞬間でした!

「なまけものごっこ」を続けるにつれ、リリーは少しずつ、私に動かされることを受け入れてきました。生まれてはじめて、彼女は自分の身体の動きの違いを感じていたのです。

まもなくリリーは握りこぶしを開いておもちゃをつかみ、遊ぶようになりました。一週目のレッスンの終わりには、ひとりでうつぶせにも仰向けにも寝返りを打てるようになりました。彼女の脳は、微細な違いがもたらす大量の新しい情報を統合し、能力を獲得しはじめました。

リリーはその後の三年間、一、二週間の集中レッスンを何度か受けました。レッスンのたびに彼女は成長し、ひとりでハイハイし、座るようになり、腕や手を器用に使うようになりました。声に強さと表現力が加わり、はっきり話すようになりました。そして、自分を心地よく感じられるようになってきました。

最後に会ったとき、リリーは自分の力で立つようになっていました。学校では優秀な生徒です。外では電動者イスを使用していますが、家ではほとんど使いません。両親は彼女ができるかぎり自分で身体を動かし、独立することを願っています。』

「なまけものの国」の威力

リリーの場合、太陽光の下では懐中電灯の光に気づかないように、無意識の激しい筋肉の収縮が、あらゆる働きかけを感じとることを不可能にしていました。自閉症やADHDをはじめ、私がこれまでに関わったどの子どもも、発達するためには「微かな違い」を感じとることが欠かせませんでした。リリーがそれを感じとるためには、筋肉の激しい力を弱める方法が必要でした。「なまけものの国」の住人になって、楽であること、快適であること、うれしいこと、楽しいこと、がんばらないことを体験するようにしたところ、彼女は学べるようになり、変化をとげたのです。

力や刺激を小さくすることのパワーを、あなたも利用することができます。まずは「違い」を感じとることを妨げる過剰な力、それを子どもがどのように使っているか探りあてることです。過剰な力には病状に特有のものもあれば、その子どもにしかみられないものもあります。注意欠陥障害[ADHD]の子どもは絵を描こうとすると、力を入れすぎてクレヨンを折ってしまうかもしれません。自閉症スペクトラムの子どもは、何を言われているか理解しようとしても、聞こえてくる声に圧倒されてしまうために叫びだし、いつもの動きをくり返すかもしれません。脳性まひの子どもは歩行器を使って歩こうとすると全身を硬直させてしまい、脚が動かなくなるかもしれません。そのようなときが、「微かさ」をとりいれるチャンスです。』

まずは、あなたから

『親をはじめとする支援者が子どもに注意を向けるのは当然です。しかし、これと同じぐらい大切なことは、支援者が自分自身に注意を向けることです。これは、微細さ・繊細さを自分の行動・思考・感情・動きにとりいれるということです。私を含めてどの支援者にも、不要な力をぬき、無駄な努力を減らす余地があります。私たちは安物のヴァイオリンではなく、豊かな音色をもつ名器、ストラディヴァリウスになるのです。

「微かな力」をとりいれると、感覚が鋭くなって感じとる力が高まるので、子どもの今の状態がわかり、何が必要かがみえてきます。「こうすべき」と考えて関わるのではなく、子どもの感じていることや体験していることにもとづきながら、本人にとって意味のある方法で子どもと関われるようになります。あなたは子どもからも自分の内側からもたくさんの情報を得るようになり、創造的・効果的に子どもを手助けできるようになります。』

まとめ 

症例から分かったことは次のようなものです。

まず、『子どもは、計画的に座るようになったり、「ママ」と言うようになったりはしません。気がついたら、そうなっています。』ということです。つまり、子どもが自発的に身につけるものであり、そのプロセスを支援することが“アナット・バニエル・メソッド”の基本です。

では、“何(What)”に対して支援するのか、プロセスとは何かですが、これは“アヒルの図”を使って説明されていた内容―“脳の中で起こる分化と統合のプロセス”ということです。そして、“小さなパーツ”をたくさん作り出されるような働きかけを行ないます。

次に、“どうやって作り出すのか(How)”というその方法のキーワードは「違い」です。具体的には『脳が感知したさまざまな「違い」』であり、この「違い」によって『[子どもたちは]身体地図を描きなおす脳の力を発揮させていけるのです』としています。

以上のことから、“アナット・バニエル・メソッド”とは子どもの脳が目覚めるように助け、その脳が創造し、形成し、発見していくプロセスを支援すること』というものだと思います。

アナット・バニエル・メソッド1(概要)

今回の『限界を超える子どもたち 脳・身体・障害 への新たなアプローチ』は偶然見つけました。それは、ボイタ法を勉強すべく『子どもの姿勢運動発達』という本のネット注文直後です。購買機会を増やすための仕掛け、いわゆる“お知らせ情報”の中にありました。

そのタイトルに「むむ?」と反応し、すぐさまどんな内容の本かを調べてみると非常に興味深いものでした。そこで、『子どもの姿勢運動発達』が図書館にあるのを知っていたこともあり、直ちにその注文をキャンセルし、この『限界を超える子どもたち』の注文に切り替えました。

この本の内容は衝撃的でした。受けたインパクトの破壊力は、『新・感覚統合法の理論と実践』を読んでいたことも背景にあると思います。また、ブログ“医療マッサージ研究1”での体験と“医療マッサージ研究2”で疑問について学習していたことも関係していると思います。なお、ブログは1の(概要)と2の(症例)の2つに分けました。

最初のブログでは、この本の概要をお伝するため、訳者のお一人である伊藤夏子先生の“訳者あとがき”の一部と、脳科学者であるマイケル・マーゼニック先生の“本書によせて”、全ての目次、そして著者であるアナット・バニエル先生の“はじめに”と“おわりに―限界を超えて”の一部、そしてプロフィールを集めることにしました。

 

著者:アナット・バニエル

発行:太郎次郎社エディタス

発行:2018年8月

 

画像出典:「Anat Baniel Method NEUROMOVEMENT

訳者あとがき(伊藤夏子先生)

『本書の著者であるアナット・バニエルを知ったきっかけは、私が引っ越しを機に近所の福祉施設に勤務したことでした。そこは重症心身障害者とよばれる方たちが利用する施設で、私のおもな仕事は利用者の食事と排泄の介助です。

最初に担当した二十代の男性は、腕や脚が小枝のように細く、つねに身体のどこかをカクカクと動かしていました。目は焦点が合っていません。声をかけてみても、手を握ってみても、こちらに注意を向けることはなく、カクカクと動き続けています。

彼は片方の手にミトンをはめられていました。理由は、指で自分のまぶたを突っつき、眼球を押しだしてしまうからでした。

なぜ彼はそんなことをするのか? 痛くないのか? 何を感じ、考えているのだろう? 彼と心が通じることはないのだろうか? 手当たりしだい、日本語の書籍や専門誌に目を通しましたが、答えは見つかりません。英語でインターネットを検索し、たどりついたのが本書の原書、Kids Beyond Limits でした。

 

画像出典:「amazon」

原書を読み終えた私は、この男性の食事を介助するとき、おかゆをのせたスプーンを口の手前で止めてみました。十五秒ほど待ったでしょうか。カクカク動きつづけていた身体が止まりました。目は天井を向いています。「おやっ」という表情です。

出会って九か月目にして、初めて、それまで遠い世界にいるとしか思えなかったこの男性と「つながった」と感じた瞬間でした。

アナット・バニエルは、相手とつながって「学びのスイッチ」をオンにすることができれば、まさに、だれもが能力を伸ばしていけるということを体当たりの実践で示しています。その彼女の取り組みの真髄である「9つの大事なこと」を紹介したのが本書です。「9つの大事なこと」の実践者が増え、わらにもすがる思いでいるであろう親御さんやさまざまな現場で模索を続けるみなさんが、支援を必要とする子どもや大人とともに変わり、成長の喜びを分かちあえるようになれたら、どんなに素晴らしいことかと思います。』

下記の「本書によせて」の文中に”脳の可塑性”とありますが、これは ”脳には状況に応じて変化する能力がある”という意味です。

本書によせて──マイケル・マーゼニック(脳神経学者)

『この本は、子どもを愛し支援しているすべての人への贈り物です。本書を手にとり、著者のメッセージを受け取ってください。アナット・バニエルのアプローチは、特別な支援を必要とする子どもたちとの豊かな実践から生まれました。彼女は子どもたちの脳が変わっていくことができるのを繰り返しみてきました。子どもたちは人生に目覚め、能力を獲得し、力強く生き方を変えていきました。私たちの脳には「可塑性」があります。一生を通じて脳は変化しつづけます。

ここに登場する子どもたちは、困難を抱えながらも、家族の愛情と支援者の熱意に支えられ、「脳の可塑性」を最大限に活用しています。アナットの説明は明晰です。彼女は、脳が変化するという人間が生まれながらにもつ素晴らしい力が、奇跡の材料となりうることを教えてくれます。

私は長年、「再構築する脳」の力を子どもや大人に役立てる方法を解明したいと、科学の分野で取り組んできました。数十年の研究を経て、私たち科学者は神経科学の観点から脳の可塑性を支配する「法則」を明らかにしました。そして、よりよい変化をもたらすためには脳はどのように働かせるのがよいかがわかってきました。

驚くべきことに、同じ時期、アナット・バニエルはまったく異なる方法で、ほぼ同じ法則を導きだしました。彼女はそこに留まらず、この法則を実践的なわかりやすい言葉で説明し、親をはじめ、子どもに関わる人たちの取り組みに役立つようにしています。

アナットがこの道に進んだきっかけは、すぐれた先見者だったイスラエルのモーシェ・フェルデンクライスに師事したことでした。彼女はフェルデンクライスの教えをベースに特別な支援を必要とする大勢の子どもたちと関り、注意深く観察を行い、どのように子どもとつながり、その子の力になることができるかを明確にしてきました。「希望のない子ども」を助けるというアナットの評判を聞き、いろいろな子どもがやってきました。彼女はあらゆる症状の子どもと関わることになり、その経験から二つの重大な事実を発見しました。

一つめの発見は、特別な支援が必要な子どもの能力を制限しているのは、子どもを発達させてくれるものと同じ、脳の可塑性の原理だということです。

二つめの発見はさらに重要なもので、「希望のない子ども」のケースのほとんどは、じつはそうではない(希望がないわけではない)ということです。

アナットは脳の可塑性の原理を「9つの大事なこと」として、みごとに説明します。

この本は、私が「脳の可塑性革命」と呼んでいることの、実践的でわかりやすい解説書になっています。私たちの脳は変化しつづけます。新しいことを習得するたびに脳は回路をつなぎなおし、再構築されて、専門的な処置ができるようになるのです。この素晴らしい脳の力を生活にとりいれるには、どうすればよいのでしょうか。どうすれば、これを子どもの成長に役立てることができるのでしょうか。反応することにさえ苦労し、動くことや理解することに困難があり、自分の意思で自分の世界を動かすことができない子どもは、とりわけ脳の可塑性をおおいに利用することでどんどん成長し、能力を向上させていくことができます。アナットが本書で美しく描写するように子どもたちと本当につながることができれば、そして、そこに適切なガイダンスがあれば、ほぼすべての子どもが目に見えるかたちで継続的、ときに驚くほどの成長をとげることができるでしょう。

子どもが成長の軌道に乗るまでは、困難がともなうことでしょう。もっとよく働く、もっと力強い脳にしていくためには、いま、子どもがいるところから始めましょう。それぞれの子どもに必要なアプローチがあります。みなさんの熱心な取り組みも欠かせません。本書が示す原理は、一人ひとりに応じた取り組みを実現するための新しい視点を与え、子どもの力強い歩みを手助けできるようにしてくれるものです。

毎日の脳の神経回路の小さな変化が、一年たつころには大きな歩みとなり、子ども時代を通じてとても大きな発達をもたらすということを忘れないでください。本書には素晴らしい事例がたくさん登場します。そこでは、神経の新しい回路が生まれることで、子どもにまったく新しい一連の可能性が開ける様子が描かれています。アナット・バニエルは、脳の働きを支配する原理をどのように実践に生かし、子どもを成長の軌道に乗せることができるかを説明します。この成長の道に踏みだせば、小さな歩みの一歩一歩が、子どもにとっても、あなたにとっても、心躍るものとなることでしょう。

本書のアドバイスをしっかりとりいれてみることを心からお勧めします。そうすれば、子どもの真の力になるためにはどうすればよいかが、はっきりとわかるはずです。』

目次

本書によせて──マイケル・マーゼニック(脳神経学者)

はじめに

第Ⅰ部 新しいアプローチのために

 ある女の子との出会い

  動けない赤ちゃん

  最初のレッスンでわかったこと──脳が身体を認識していない

  動きを与えることで脳が学習を開始する

  エリザベスが歩いた!

  できることに注目しつづけて──エリザベスのその後

  わが子の可能性、脳の可塑性

  既存の取り組みからの脱却

  親の力

〝直す〟ことから〝つながる〟ことへ

  子どもを「直す」ことはできるか

  子どもは、自分にできることはしている

  発達に欠かせないランダムな動き

  子どもは教えたことを学ぶのではなく、経験したことを学ぶ

  親にも子にも実りをもたらす方法への転換

 驚くべき子どもの脳

  ランダムな動きが脳に栄養を与える

  最初の一歩──「違い」を受けとめる

  両脚がくっついて離れないカシー

  「ひとつ」と「もうひとつ」を発見したカシー

  カシーの脳で起きていたこと

  アヒルをつくる──分化と統合

  すべてが「ぼんやり」していたジュリアン

  まるで霧が晴れるように

  支援の視点を変える

 

第Ⅱ部 9つの大事なこと

1つめの大事なこと*動きに注意を向けること

  動きを獲得するとき、一歳児に何が起こっているか

  子どもは注意を向けることで学ぶ

  脳は「失敗のパターン」も再生してしまう

  足で立つための支援とは

  頭を打ちつける自閉症の男の子

  ライアンの目覚め

  「息子は生まれ変わった!」

  子どもが注意を向けているときの五つの特徴

  からだ・きもち・考えの「動き」

 科学が教えてくれること

 ◎動きに注意を向けるためのヒントと方法

2つめの大事なこと*ゆっくり

  脳性まひの女の子、アリとの出会い

  こわばった筋肉へのスロータッチ

  人は体験ずみのパターンしか速くはできない

  スローダウンで「感じとる脳」に

  止まれないジョシュ──刺激を減らすことが有効な理由

  体当たりで「ゆっくり」を学ぶ

  「ぼくはバカじゃない!」

  ヒトは、その脳とともにゆっくり成長する

  終着点は未定にしておく

 科学が教えてくれること

 ◎「ゆっくり」を実践するためのヒントと方法

3つめの大事なこと*バリエーション

  バリエーションは脳の成長をうながす

  バリエーションはどこにでも

  コルセットで固められた男の子

  初めて「動くこと」を知ったマイケル

 科学が教えてくれること

 ◎バリエーションをつくるためのヒントと方法

4つめの大事なこと*微かな力

  強い刺激は感覚を鈍らせる

  ボールのように硬く丸まってしまうリリー

  なまけものごっこ──過剰な力をぬいて

  「なまけものの国」の威力

  まずは、あなたから

  数字はなんのため?──ストレスと認知能力

  「微かな力」が直観と思考力を高める

 科学が教えてくれること

 ◎微かな力を使いこなすためのヒントと方法

5つめの大事なこと*内なる熱狂

  喜びを深める力

  感激のやりとりが脳を呼び覚ます

  ジェイコブを進歩させたもの

  拍手はしないで

  「もう一度やって」と言わない

  心の内で喜びをかみしめる

 科学が教えてくれること

 ◎心を熱くするためのヒントと方法

6つめの大事なこと*ゆるやかな目標設定

  可能性にひらかれた道

  ヒヒのたとえ──目標にしがみつくということ

  動くこと、喜ぶことを学んだアレクサ

  でも、いつになったら話すの?

  イエス、ノー、イエス!

  子どもにとっての成功体験とは

  ゆるやかな目標のもつ普遍性

 科学が教えてくれること

 ◎目標をゆるやかに保つためのヒントと方法

7つめの大事なこと*学びのスイッチ

  読み書きが困難だったスコッティ

  スコッティの飛躍

  ひとりの人間としてみる

  子どもを丸ごとみる

 科学が教えてくれること

 ◎学びのスイッチを入れるためのヒントと方法

8つめの大事なこと*想像すること、夢みること

  機械的に暗唱しつづけるアリィ

  きかんしゃトーマスはどこ行った?

  想像力のリアリティ

  あなたの子どもに潜む天才

  「この子は天才だ」

  空想が脳にもたらすマジック

 科学が教えてくれること

 ◎想像力をはばたかせるためのヒントと方法

9つめの大事なこと*気づき  

  赤ちゃんは観察している

  「気づき」は行為だ

 科学が教えてくれること

 私、そうしてた?──母ジュリアの「気づき」

 自分のなかの観察者を目覚めさせる

 「気づき」は波及する

 ◎気づきを増やすためのヒントと方法

おわりに──限界を超えて

よくある質問と答え

訳者あとがき

はじめに

『この仕事を始めた三十年ほどまえ、親たちが、レッスンを通して変わっていく子どもを見て奇跡だと言うのを聞き、びっくりしました。しかし当時の私は、子どもの変化が本物だと気づいていましたが、レッスンとの因果関係を理解できていませんでした。それから歳月を重ね、私は目にする成果が「まぐれ」ではないこと確信しました。自発的に回復したとか、もとの診断が間違いだったという説明が当てはまらないほど、さまざまな症状の子どもたちにくり返し成果がみられたからです。

私は何千人もの子どもたちと関り、そのみごとな変化を観察してきました。けれども、奇跡を起こしたと思うことは一度もありません。子どもたちの変化はその脳の中で起こっていることで、すべては脳の力によってもたらされたと理解しています。自閉症、脳性まひ、注意欠陥・多動性障害(ADHD)ほか、さまざまな診断を受けた子どもが飛躍するのを見るたびに、できるだけ多くの子どもたちにこの取り組みを伝えなければと感じてきました。親御さんと介助をしているみなさんに、簡単で実践しやすい方法をお教えしたいと思います。

これからご紹介する方法は、パラダイムの転換をもたらし、支援のあり方を一変させるものです。お子さんは大きな変化を体験するはずです。子どもたちは、フタがされている能力を活用できるようになるのです。

私は、モーシェ・フェルデンクライス博士の教え、子どもたちとの取り組み、脳神経学の知見にもとづき、理解を明確にしてきました。科学は日進月歩で人間の脳の可能性を解き明かしています。古い概念をうちやぶり、限界を押し広げ、健康な脳も傷を負っている脳も、よりよく働くことのできる新しい道がつぎつぎと開けています。驚くべき可能性を実現させるためには、脳は変わることができるということ、「脳の可塑性」を理解する必要があります。お子さんがどんな状況であっても、どんなに個性的な生育であっても、実践できる簡単な原理が必要です。それを示すことが本書の目的です。

第Ⅰ部は、子どもの脳がどのようにしてよくなる方向に変化し、その子の人生までもが変わりうるか、ということを理解してもらうために書きました。

第Ⅱ部(9つの大事なこと)は、眠っている子どもの能力を引き出すために、脳が何を必要としているかを説明しました。各章の終わりには、毎日の生活のなかで子どもと取り組むことができる具体的な方法とヒントを紹介しています。「9つの大事なこと」と取り組みのヒントは、子どもの脳の可能性を引き出し、まさに実現させていくものです。

まず、第Ⅰ部から読むことをお勧めします。そこで基本的な考え方をつかんだあと、第Ⅱ部の「1つめの大事なこと 注意を向けて動くこと」を読んでください。あとにつながる大事な鍵です。その後は本の順番どおりに読んでも、気になる章から読んでもいいでしょう。ひとつの章がすっかり自分のものになるまでに数日かかると思います。スキルを習得し、理解を深める時間が必要です。ひと通り読んだら、折りにふれて読み返し、さらに学びを深めてください。

お子さんが限界を超えていく手助けをするための力強い方法が見つかるはずです。それでは、子どもたちの脳のとてつもない可能性を引き出す旅へ、いっしょに踏みだしましょう。』 

おわりに―限界を超えて

『子どもが特別な課題に直面するとき、そこに関わる人たちは、その子に何が必要かを見きわめ、最善の支援方法を見つけださなければなりません。私は本書で、ほぼどんなときも目覚めさせることのできる豊かな可能性を明らかにし、これを実現する方法を示そうと試みました。そして、限界を超えるとはどういうことか、全力で挑戦するとはどういうことか、また、問題の解決法はつねにこれから生みだされるものだということについて、私の考えをお伝えしました。

三十年以上におよぶ取り組みを通じて、私は、本書に示した「9つの大事なこと」が子どもの状況を変え、その子が限界を超えていくために役立つことをくり返し経験してきました。「9つの大事なこと」は、あなたとお子さんの脳の無限の可能性を探り、目覚めさせるためのガイドです。これは脳が上手に働くようになるための支援の方法であり、その核となるのは、子どもの脳という奇跡です。実践を通して、子どもの脳はたえず識別を細かくし、動き・感覚・考え・行ないを洗練させるチャンスを得ることができます。子どもはつねに能力を高め、成長を続けることができるのです。

特別な支援が必要な子どものための目標がひとつあるとするなら、それは、その子が「充実した意味ある人生を送ること」でしょう。これはすべての子どもにとっての目標でもあるはずです。最後に、テンプル・グランディン(米国の動物学者、自閉症をもつ)の言葉をご紹介したいと思います。

「親や教師は、子どものレッテルではなく、子ども自身をみるべきです。(中略) 現実的な期待を抱きながらも、その子の内に静かに潜み、表出するチャンスを持っているかもしれない才能の芽を見過ごしてはなりません。』

テンプル・グラディンの著書に関しては、過去に「自閉症の脳を読み解く」というブログをご紹介していました。

アナット・バニエルのプロフィール

『米国在住。科学者の父と芸術家の母のもと、イスラエルで育つ。大学では統計学を専攻。人間の脳への関心から、身体運動の意識化を探究したM・フェルデンクライス博士(1904~1984)に師事。

脳性まひをはじめとするスペシャル・ニーズの子どもたちとの30年以上にわたる取り組みを通じて、脳の可塑性を利用して本人の能力をひきだす手法(アナット・バニエル・メソッド)を編みだす。動き、感じ、考えるひとりの人間として子どもを総体的にとらえるそのアプローチは、自閉症スペクトラム、脳性まひ、ADHD、腕神経叢損傷、傾頸などさまざまな症状をもつ子どもたちへの取り組みを可能にさせた。

同時に、科学にもとづくメソッドを発展させ、幅広い年齢・職業の大人たちへのレッスンを通じて、ニューロ・ムーブメントを提唱。指揮者・演奏家・アスリートに数多くの実践者がおり、人びとが痛みや限界を超え、新しい次元のパフォーマンスに到達できるための取り組みを展開している。臨床心理士であり舞踏家でもある。

現在、カリフォルニア州マリン郡のアナット・バニエル・メソッド・センターを運営。後進のプラクティショナーの育成に励み、レッスンを希望する人びとを世界中から受け入れている。』 

ボイタ法・ボバース法

「ボイタ法」、「ボバース法」という訓練・リハビリテーションの方法は、小児障害に係わる中で知りました。しかし、これらは主とする対象が乳児期のものということもあり、そこまでは必要ないだろうと思いスルーしていました。

一方、訪問の仕事(業務委託)は高齢者から小児にシフトし始めており、ご家族との接点が増える傾向にあるため、これらに関しても、ある程度は知っていた方が良いと思うようになりました。

調べてみると、「ボイタ法」は人間の反射を利用する方法「ボバース法」は反射を抑制する方法ということで、全く正反対なアプローチのようです。個人的には前者の反射を利用する方法の方が興味深かかったため、まずはボイタ法について勉強することにしました。

こちらのサイトに、ボイタ法、ボバース法についての説明が出ています。書かれている内容は難しいのですが、簡潔にまとめられていますのでご紹介させて頂きます。

ともに脳性麻痺に対する代表的な訓練・リハビリテーション方法です。

ボイタ法は、7つの姿勢反射(引き起こし、パイパー逆さ吊り上げ、ランドー反応、コリスの水平吊り下げ・片脚吊り下げ、ボイタ反射、腋下支持垂直挙上)をスクリーニング方法とし、早期乳児期に脳性麻痺症状の出現する以前に中枢性神経障害(ZKS)を示す患者さんを発見し、原始反射を応用した腹這い・寝返り運動を誘発し脳性麻痺の発症を阻止します。しかし、ZKSの脳性麻痺への移行についての根拠が明らかではない、時に治療が必要な児を見落とす、などの問題点も指摘されています。

一方、ボバ-ス法は、姿勢反射を含めた正常乳児の発達の知識から、脳性麻痺の症状が形成されてくる異常発達を神経生理学的に定義し、それを積極的に予防していこうとするアプローチです。実証的治療結果(療法士である妻の経験を医師である夫が理論化)に基づく、異常反射抑制肢位(RIP)やKey point of controlを用いた訓練により、協調運動や日常生活動作に結びつく基礎的運動能力の改善をめざします。』

まず図書館から借りてきたのは「ボイタ法の治療原理 反射性移動運動と運動発達における筋活動」という本です。こちらの本の魅力は何といってもボイタ(Vaclav Vojta)自身が書いたものであるという点です。

 

著者:Vaclav Vojta、Annegret Peters

訳者:富 雅男

出版:医歯薬出版

発行:2002年3月

読んでみると、運動学(キネマティクス)とリハビリテーション学についての知識が不足している私には、理解するのは難しいということが分かりし、早々に断念することにしました。

ただ、雰囲気だけでもお伝えすることは悪くないと思い、断片的ですが以下にご紹介します。なお、“矢状面”と“膝窩筋”の後ろの( )は私による加筆です。

足関節の運動:後頭側下肢の立脚相と踏み切り相における距踵関節の軸(図38)

1.新生児の足は回内している。踵骨の長軸は距骨の長軸に対して外側に変位している。

2.踵骨は高位にあり、また距骨の下には移動していない。

身体全体の姿勢が変化することによる起き上がり機能が発達し、それによって負荷がかかり筋機能が変化したときに、初めて踵骨は距骨の下に位置してくる。独歩が獲得されても、まだ子供の足は外反している。全骨格筋の筋機能の分化のもとに3歳になって初めて足のアーチが発達しはじめる。脳性運動障害に侵される危険があったり、小児脳性麻痺に発展しているならば、距骨と踵骨に関しては足は新生児の運動発達段階のままである。踵骨と距骨について上述した病的肢位は、小児脳性麻痺の患者では脛骨内旋を合併しているのがほとんどである。反射性腹這いの出発肢位において、足は下腿に対して直角である。

 

画像出展:「ボイタの治療原理」

踵の誘発帯を刺激して、距踵関節を矢状面(体を左右に分ける面[矢状面の運動は底屈・背屈]。水平面は上下、前額面は前後)で踵骨と距骨の長軸が重なるポジションにもってくる。

 

9個の赤丸が「誘発帯」という非常に重要なポイントです。

なお、こちらの画像は「からだ相談室」さまから拝借しました。

また、足の外反は変形を踵の誘発帯によって矯正すると、最初は後足部が他動的に矯正されることになるが、前進運動の経過中に長短腓骨筋、前脛骨筋そして非常に重要な後脛骨筋の共同運動機能によって能動的に後足部の矯正位が保たれる。踵誘発帯を圧迫すると下腿の膝窩筋にも遠隔作用が及ぶ(図40参照)。 

 

画像出展:「ボイタの治療原理」

踵誘発帯を圧迫すると距腿関節を介して下腿の長軸に伝わり、膝窩筋(膝窩筋の筋力低下は膝の過伸展につながる)が伸長状態になる。膝窩筋が収縮すると、膝窩筋は固定点である尾側に牽引され大腿は外旋する。脳性運動障害の場合、外反尖足の問題ではほとんどいつも脛骨の内転と大腿骨の内旋を合併していることを考えると、このことは重要である。

反射性腹這いの後頭側下肢では膝窩筋は大腿骨の外旋だけに働くのではなくて、足の負荷にも影響を与える。後脛骨筋との共同運動では、膝窩筋は間接的に踵骨の外反と立脚相で良好な踵の負荷に寄与する。

要約すると後頭側下肢の足に関しては、足は反射性腹這いの全運動過程で能動的に、そして単独で回外位さらに地面に対して直角位で支えているといえる。この際、踵骨と距骨は下腿の長軸にある。これらの筋活動は反射性腹這いの運動パターンにおいて新生児に誘発可能で、筋肉の共同運動によって筋活動が起こる。セラピストが他動運動に足を矯正して保持する必要はない。新生児や成人の患者も歩行サイクルと比較すると立脚相と踏切り相にあたるとろでこの下肢を動かし、その際、下腿三頭筋も運動に参加する。

足関節について

足関節には“内反”・“外反”という用語と、“内返し”・“外返し”という用語があります。「これは同じなのか?」と思いながら、調べてみると内反・外反は「変形」を意味する用語であり、一方、内返し・外返しは「運動」の名称であるということが分かりました。なお、下記は「足関節の運動」を示した図です。

 

REGUARDさまのサイトに掲載されていた『知ってトクする豆知識:足首編』から拝借しました。

 

続いて、図書館から借りてきたのは「子どもの姿勢運動発達」という本です。1985年発行の本ですが現在も購入することができます。

 

著者:家森百合子、神田豊子、弓削マリ子

出版:ミネルヴァ書房

初版発行:1985年9月

目次は次の通りです。

序文

はじめに

第1章 保育園で発達診断してみたら

第2章 正しい姿勢とその発達

第3章 発達診断に用いられる姿勢反応

第4章 発達診断に用いられる反射検査

第5章 調和のとれた発達とは

第6章 障害のある子の療育と訓練効果

第7章 ボイタによる診断学と境界線域の子どもたち

第8章 ボイタによる訓練と必要な配慮

第9章 こんな子に役立つ育児体操

そして、【付図 運動発達と姿勢反応】という1枚物の付録が付いています。

ブログでは、第8章の「ボイタによる訓練と必要な配慮」と付録の付図をご紹介したいと思います。

第8章 ボイタによる訓練と必要な配慮

1 ボイタ法による治療の概要

ボイタ法の治療はふつう、お母さん(家族)に対して、PT(理学療法士)が訓練を指導し、お母さんが家庭で1日4回行うようになっています。1回の訓練時間は15分~30分位、特に体力的に問題のある場合は、5分位に短くすることも可能です。まず、正常なムスタ(パターン:筋肉の使い方の組み合わせ)を誘発しやすい出発肢位をとらせます。

反射性ねがえりⅠ相は仰臥位、Ⅱ相は側臥位、反射性腹這いとエルステポジションは腹臥位です。

次に特定の部位にある誘発体を決められた方向に向かって刺激します。

例えば反射性腹這いの時の誘発帯は図に示すように、主誘発帯が4つ、補助誘発帯が5つあります。

主誘発帯は主に骨膜への刺激、補助誘発帯は骨膜刺激と筋膜伸長とからなっています。誘発帯をどのように組み合わせて使うかは、その子の障害の内容によって違ってきます。 

 

画像出展:「子どもの姿勢運動発達」

PTは自分で反応を出してみて、一番正常パターンを誘発しやすい組み合わせにより訓練の処方を決めます。このようにして、決められた肢位で、決められた誘発帯を決められた方向へ向かって刺激して待っていると、反応が返って来ます。その時、出来るだけ初めの出発肢位に止めておくようにすると、腕ずもうの時のように、反応は強まり、全身の筋肉へ段々と拡がって行きます。

その起こってきた反応は、正しい起き上がりと、正しい相同運動、正しい姿勢反応性の三つの要素を含んだ、協調性複合運動と理解されています。前頸筋や胸筋、腹筋などの動きで顎をひき、肩が下り、背中全体がのびて、骨盤が後傾するような正しいパターンになった時に、それら三つの要素が正しく起こります。この時、脳の中でもそれまで働けていなかった、新しい経路に働きが起こっているはずです。もちろん、非常に重症な脳性麻痺児が初めから簡単に正常なパターンを出せるはずはありません。そこでその子の本来のパターンより、少しでもよくなるように、毎日積み重ねて行くわけです。脳の中で新しく働き始めた経路は、初めの内3~4時間位たつと、働かなくなってしまうと考えられています。実際の訓練の直後にはよくねがえりするのに、訓練が1~2回抜けると余りねがえらなくなってしまうこともあります。少しでも正常に近づけるための訓練は少ない日でも3回は必要です。特に乳幼児は発達が早いので4回必要です。脳性麻痺はふつう放置することによって段々重症化して行きますが、1日2回の訓練は現状維持、1回は重症化を少しくいとめるための訓練と考えられています。5回もすると一日中訓練ばかりしていることになり、遊びの時間や、動きまわる時間がありません。

訓練は基本問題、日常生活はその応用問題と考えて、動きやすくなった手足や口をしっかりと使わせて下さい。以上のことから、日常生活経験と訓練をどのように組み込んで行くかが、訓練の効果を上げるための鍵になることがおわかりいただけると思います。 

 

画像出展:「子どもの姿勢運動発達」

2.ボイタ法の訓練は何をしているのか

ボイタ法の訓練は、赤ちゃんの姿勢や運動のパターンを少しでも正常に近づけることにより軽症化させることを目的としています。どんなやり方でもよいから立って歩けばよいと考えているのではありません。ねがえりや這い這いの時に使われる筋肉の組み合わせは、歩く時にも使われています。

正常な寝返りのパターンでの、上下肢の位置や体軸のねじり方は、正常な法の訓練は歩行での上下肢の位置や体軸のねじり方と似ています。脳性麻痺児の寝返りのパターンと似ているわけです。従ってねがえりのパターンが少しでも正常なパターンになることは、歩行のパターンが正常なパターンに近づくことを意味しています。

筋肉は、ふつう、よく使った筋肉ほど太く強くなり、使わない筋肉ほど細く弱くなりますから、正常なパターンで毎日動いているのと、異常なパターンで無理して動いているのとでは、筋肉のつき方が段々違って来るわけです。そして強い筋肉は増々強く、弱い筋肉は増々弱くなります。そしてこのことは、脳の中でも起こっていることが予想されるわけです。

ボイタ法の訓練は出発肢位に出来るだけ止めておくことによって筋肉の等尺性収縮(注.筋肉の長さが変わらない収縮の仕方。例えば腕ずもうの相手がほとんど同じ強さを持っている時、筋肉は強く収縮しているにもかかわらず、同じ長さに保たれている。一方、動きの速い運動の時は筋肉の長さは常に変化していることになる。)の方が、筋肉は太く強くなりやすいわけで、反射性ねがえりの時に正常パターンの反応を起こし続けることが出来れば、ただ単に正常パターンでくるっとねがえった時よりは、正常パターンを強めることが出来ることになるのです。特に脳性麻痺児の場合、肩甲骨をしっかり固定させ、骨盤を安定させるための体幹の筋肉が弱いことが、姿勢や運動パターンのくずれる大きな原因となっています。

また、胸筋や腹筋の弱さのために風邪を治す力も弱いことが多いのです。ですから、頭の方へひきあげられたようになっている肩甲骨が、体幹の筋肉によってしっかりとひきさげられ、肩巾が広くなるような反応(この時必ず、顎ひきを伴う)や、胸筋や腹筋が弱いために、横へ間のびしてとび出した肋骨下縁が、腹筋によってひきさげられるとともに、大きく深い呼吸によって胸郭がふくらむような反応が起こることが必要なのです。また、背筋が強いために後ろからひきあげられ、前傾している骨盤が、背筋を伸ばし腹筋を働かせることによって、後傾するようになることが求められます。このようにして、肩が安定すると頭の位置も安定し、口の使い方、目の使い方が良くなります。また、肩の安定は手の使い方を良くします。胸筋腹筋の働きは、呼吸や排便・排尿の機能を改善するようですし、骨盤の安定は、坐位・立位の安定と共に腰の強さを促します。

まとめていうと、ボイタ法の訓練は、特定の出発肢位において誘発帯を刺激し、そのまま止めておくことで、ねがえりや這い這いの時に使う筋肉のパターンを正しく誘導し、体幹を安定させ、結果として、目や口、手足などを安定して使え、呼吸や内臓の働きを改善しながら、移動に必要な体幹のねじりと四肢交互性を誘導することを行っていると言えます。従って使いやすくなった目口手足を実際に使わせる指導や環境が必要になるわけです。

付図 

 

画像出展:「子どもの姿勢運動発達」

さらにネットで調べていると、愕然とする情報を見つけました。

誤解があると良くないので、前後しますが、ボバース記念病院さまの現在の取り組みを最初にお伝えします。

『私たちが行っているのは、むしろこの論文で推奨された「目的志向型トレーニング」や「両手動作トレーニング」「家庭療育プログラム」に近いものです。

ボバース夫妻はもともと、全ての患者さんに決まった方法で治療するべきではないと主張していました。個々の患者さんの状態に応じた個別のリハビリテーションが必要で、その方法は医学や技術の進歩とともに変化していくべきだという考え方を持っていたのです。

1980年代から医療は劇的に進歩し、同じ脳性まひという病名でもその原因や症状は大きく変わっています。また、手術や薬も進歩しており、以前はなかった様々な選択肢が使えるようになりました。私たちはボバース夫妻の考え方に従い、患者さんの病状に応じて現代の医学を根拠とした個別の治療を提供しています。

ボバース記念病院は、一律の「ボバース法」をする病院ではなく、当時は革新的であったボバース夫妻の考え方を引き継ぐ病院なのです。実際に私たちは、ノバック教授をはじめとする海外の著名な研究者を日本に招き、最新の知見を学んで常に治療方法を進化させるように努力しています。

そして、問題の ”情報” は次のような内容です。

2013年にオーストラリアのノバック教授は、脳性まひに対する様々な治療法の効果を詳しく検討し、ボイタ法は「しない方がよい」、ボバース法は「するべきではない」治療であると結論づけました。この意見は世界中で支持され、今や専門家の間では常識となっています。しかし、その論文の根拠となったのは、ボバース夫妻が提唱した治療技術の一部を様々なお子さんに対して一様に「ボバース法」として行った1980年代の研究でした。

1980年代の研究とはいえ、これは凄い事実であると思い、いろいろ探してみたところ、関係する文献を見つけました。

 

クリック頂くとPDFファイル(26ページ)がロードされます。

こちらの文献は執筆者の先頭がノバック教授(IONA NOVAK)になっており、発行日(左下)は2013年6月5日です。また、「ボバース記念病院」さまのサイトに掲載されているグラフの元データと思われるグラフも含まれています。以上のことから、これが関係する文献であるのは間違いないと思います。

グラフの説明

●上段左端の矢印↕は「有効性」を表しています。破線の上が“有効”です。1番上の緑の“S+”は“Do it”です。1番下の“S-(Don’t do it)”と下から2番目の“W-(Probably don’t do it)の2つは破線の下に位置しているので、有効でないという評価になります。

●それぞれの〇(円)の中にそれが何かということが明記されています。「ボイタ」は「Vojta」になりますが、「ボバース」は「NDT」になります。このNDTとはNeuro Developmental Treatmentの略で、日本語では「神経発達学的治療法」とよばれています。『Mindsガイドラインライブラリ』という公益財団法人日本医療機能評価機構(厚生労働省委託事業)というサイトに“神経発達学的治療法(NDT)-Bobath法は有効か?(脳性麻痺リハビリテーション)”という題名の記事が出ています。

●ブログでは「Vojta」もしくは「NDT」が評価に入ってるグラフだけを掲載させて頂いていますが、「Voja」は“Improved muscle strength”と“Improved motor activities”が有効でないという評価をされており、「NDT(ボバース法)」は“Contracture(拘縮) management”、“Improved motor activities”、“Improved function & self care”の3つが有効でないとなっています。 

以下は『Canchild』というサイトの中で紹介されていた、ノバック教授(Dr. Iona Novak)の情報です。

 

写真をクリック頂くとノバック教授のページに移動します。 

 

まとめ

1.「ボイタ法」、「ボバース法(NDT)」は、それらが発表された当時の内容については、有効性が否定されている。

2.「目的志向型トレーニング」、「両手動作トレーニング」、「家庭療育プログラム」など、進化したものがどんどん出てきている。

3.治療技術の一部を一様に適用するのではなく、患者さまの病状に応じた個別治療を行うことが求められている。

スキンシップケア(C触覚線維)

業務委託による週二日の訪問の仕事は、少しずつ小児障害の患者さまが増えてきています。こちらはすべてマッサージですが、なかにはじっくり手技をすることが難しい元気な子もおり、マッサージの基本ともいえる「スキンシップ」について詳しく知りたいと思い、今回の本を見つけました。

 

著者:山口 創

出版:草思社

初版発行:2017年7月

表題の「スキンシップケア」とは著者である山口創先生の言葉ですが、次のような説明がされていました。

人は親しい人と一緒にいるだけで、周囲の見え方や苦痛の感じ方さえも変わってしまう。本書では、人に直接触れることだけでなく、人と一緒にいることも含めて、人を癒す行為は「スキンシップケア」と定義し、これまでのスキンシップの概念をあらためて捉えなおしたい。そしてなぜ親しい人との触れあいや関りが、生きづらさや抑うつを防ぎ、幸福感を高め元気を回復されるのか、とうことも考えていきたい。』

ブログは目次に続き、太字にした箇所についてのみ取り上げていますが、それぞれ章の一部をそのままご紹介しています。

目次

はじめに

第1章 コミュニケーションする皮膚

触れなくても肌は感じている

「直接触れ合う」と何が起こるか

ストレスを癒す身体のメカニズム

もっとも大事な役割は体温調節

 ストレスを感じる皮膚

 皮膚を温めると心が温まる

 うつ病は体温制御ができないことが原因

 触覚は感情に直結している

  摂食障害は胎児期のうぶ毛が原因か

  自閉症も皮膚の神経線維が原因か

  自尊感情が低い人ほど有効なタッチ

「寄りそう」ことで何が起こるか

 動物が群れる理由

 パートナーの有無による心理の変化

 自己が他者にも膨張する

 皮膚が他者を判断していた

幼少期の触れ合いが人間の礎をつくる

 触れ合いの原点

 温かい感触の記憶

 母親と赤ちゃんの体は同調している

 不安定の人が疲れやすい理由

 寂しい人は太る?

 

第2章 触れないと皮膚は閉ざされる

失われた皮膚の交流

 人間の心理的境界はどこにあるのか

 二つの境界

 日本人独特の「あわい」の境界感覚

 肌と皮膚

 なぜ日本人は対人関係に悩むのか

人の「なわばり」感覚

 ぺリパーソナルスペースとパーソナルスペース

 世界の見え方は文化に依存する

 視覚優先の欧米人、触覚優先の日本人

 抱きしめ細胞の存在

触覚を大切にしてきた日本の育児

 日本と欧米、抱っこの違い

 背中の感触が大事なおんぶ

 生きづらさの原因は皮膚が閉ざされているから

 過去の親子関係から自由になるために

 皮膚が拓かれている多良間島の子どもたち

 

第3章 病気やストレスが劇的に改善、スキンシップの驚くべき力

スキンシップが持つ癒しの力

境界が拓かれることで人は癒される

現在の介護施設と病院の難しい現状

 「人の手」で触れる意味

効果が実証された触れる癒しの技法

 ユマニチュード

 セラピューティック・ケア

 タクティールケア

スキンシップの効果が期待されるこれからの領域

 ホスピス・緩和ケア

 発達障害者へのケア

触れられるとなぜ心が癒されるのか

 心理療法としての触れるケアの有効性

 触れるケアは長く続けるほど効果的

 たった1回の触れるケアでもOK

 人間関係を改善する皮膚コミュニケーション

 

第4章 皮膚を拓いて、元気な自分を取り戻す

皮膚を拓いてつながりを拓く

笑うこと

 卒業写真で笑顔の人は幸福になる

 子どもの笑顔は温かいタッチから

心を開くこと

 人に語ることの意味

 ネガティブな気分を和らげる筆記療法

皮膚を共振させること

 マッサージからみる共振

 カップル・親子の共振

 集団の感情を利用する

感謝すること

親切にすること

許すこと

 許すことの効果

 相手の立場に立つ

ストレスを癒す身体のメカニズム

 人は他者から触れることで、安心したりストレスが癒されたり、元気をもらえたりする。そもそもそのような心の変化はなぜ起こるのだろうが。

広くいろいろな学問分野の研究をひもといていくと、そこには数百万年もの長い進化の歴史の中で獲得してきた、人間が持つ奥深い身体のメカニズムが潜んでいることがわかる。

スキンシップが持つ意味について、進化の時間軸で考えていきたい。

スキンシップのもっとも原初的な意味は、生まれたばかりの赤ん坊の体温が低下しないように、養育者が触れて保温することだった。もともとスキンシップは生命を維持するために必要だったのだ。一方でそのように温かい身体で触れられることは、情動レベルでは赤ん坊にとって、養育者に守られて安心できる快の体験でもあった。抱かれるたびに安心することを幾度となく繰り返す経験をした結果、それは不安や恐怖、ストレスなどの不快な心を癒す行為と結びついていった。さらにそこから発展して、触れて安心させてくれる人に特別な愛情の絆である愛着関係を築いて、その関係を強め、そういう人を信頼するようになった。これが認知レベルである。

このように自己の生命を維持するといったもっとも基本的なレベルから、絆を強めるといった社会的なレベルまで階層構造を成していて、下から順に進化してきた。』 

 

下から、”身体レベル”→”情動レベル”→”認知レベル”となっていきます。

画像出展:「人は皮膚から癒される」

 もっとも大事な役割は体温調節 

 『いうまでもなく、人は体温を維持しないと生きていくことはできない。外界の温度が大きく変化しても、身体の体温の変化はわずかにしか変化しない。厳密にいえば、体温には皮膚温と深部体温の2種類がある。皮膚温は環境の温度に応じて変化するが、深部体温の方は環境の変化によらずある程度一定である。深部体温はおよそ30度~44度の間であり、それ以下あるいはそれ以上になると死に至ることになる。

また、深部体温と皮膚温には温度の落差があり、深部から皮膚表面に至るまで、温度勾配がある。この温度の落差が適度にあることが生存にとってとても重要だ。そしてこの温度勾配を一定に保つために、身体は常に深部で代謝活動をすることで熱を産出し、皮膚から熱を逃がしている。

体温を保つことは、代謝にとっても、生殖活動にとってもとても重要だ。たとえば代謝については、体温が1度下がると基礎代謝は12%、体内酵素の働きは5割も低下してしまう。また動物の場合、気温が下がると生殖活動も低下する。体温の低下は、自己の生存にも生殖にとってもデメリットばかりだ。』

 

画像出展:「人は皮膚から癒される」

 『多くの動物では、危険が迫っていたり病気になったりしたときに仲間同士で身を寄せ合うことがある。これも肌をくっつけ合うことで、体温を調節するために必要なエネルギーの消耗を防いでいるのだ。イヌなども、赤ちゃんのときは同じように身を寄せ合っている。肌を触れ合うことは生き残るためのもっとも基本的な戦略なのだ。

とりわけ人間の赤ちゃんは、この体温調節機能が極端に未熟な状態で生まれてくる。だから生まれたらすぐに養育者に抱かれて体温を保つようにしなければいけない。何らかの理由ですぐに抱かれることがなければ、保育器で体をしっかり温める必要がある。

こうして先の図1(触れ合い効果の階層構造)のベースの部分をしっかりと築いてあげないと、将来的にはその上の安心感や、さらにその上の愛着の絆にまでも悪影響が出てしまう。』

 

画像出展:「人は皮膚から癒される」

 

皇帝ペンギンは厳寒の南極で生き抜くために身を寄せ合います。

画像出展:「カラパイア

 触覚は感情に直結している

『皮膚には4種類の触覚の受容器があり、それぞれ異なる物理的な性質に反応しそれを脳に送り知覚している。

ところが最近、皮膚にはもう一つ、性質の異なる触覚の受容器があることがわかってきた。それはC触覚線維と呼ばれ、神経線維の末端が枝分かれして皮膚に入り込んで触覚を直接知覚している神経線維の束である。これは、「触れて気持ちいい」とか「触れた感触が気持ち悪い」といった感情に関わる神経線維である。

左上に書かれた”自由神経終末”が、上記の説明(「神経線維の末端が枝分かれして皮膚に入り込んで…」)の部分の図になります。

画像出展:「看護roo!

興味深いことに、このC触覚線維が興奮するための物理的な条件というのがある。それは触れるものの速度柔らかさが重要な要素である。速度に関しては、秒速3cm~10cm(ピークは5cm)ほどの速度で動く刺激に対してもっとも興奮する。また柔らかさに関しては、ベルベットのような柔らかい物質に興奮する。だから人の手でゆっくりと手を動かしてマッサージをするような刺激に対して、興奮することになる。

そして脳では島皮質や線条体といった、情動や自己の感覚や身体感覚に関わる部位に到達する。

またこのC触覚線維の興奮は脳内ではセロトニン神経を活性化させることもわかっている。だから抑うつや不安の高い人にゆっくりした速度でマッサージをしてあげると、脳内でセロトニンがつくられて症状が軽くなるのだ

実際に、著者が行った実験でも、相手の背中に秒速5cmほどのゆっくりと触れてあげると、抑うつも不安も顕著に低下した。逆に手を動かす速度が、速すぎたり遅すぎたりすると、自律神経の交感神経が優位になって、覚醒水準が上がってしまったのだ。』

こちらはネット上にある『Pain Relief-痛みと鎮痛の基礎知識』というサイトです。この内容を基に、”神経線維”と”受容器”について補足したいと思うのですが、一つご注意頂きたいのは、C線維に関してはまだ未解明なことも多いという点です

このページのほぼ中断に”体性感覚神経の神経線維の分類”という見出しがあり、そこに表形式で神経の説明が出ています。

有髄無髄は髄鞘(神経の軸索を覆う膜のようなもので、この髄鞘があると神経の伝導速度がアップします)の有無を表しています。

有髄にはA線維B線維があり、AにはAαがあります。この3つはそれぞれ”太さ”、”速さ”、”機能(役割)”が異なります。B線維は”交感神経節前線維”と呼ばれ、自律神経系に属するものです。

一方、無髄には2種類のC 線維があります。1つ”交感神経節後線維”というB線維と同じ、自律神経系の働きを持っています。もう1つが”痛覚、温冷覚”となっていますが、まさにこの部分の解明が進み、”触覚”としての機能やセロトニン、オキシトシンとの関連性など、いろいろな発見がされてきているということになります。

”受容器”に関する説明はこのページの上のほうにあります(【皮膚の受容器】というボックスの中にあります)。これによるとC線維の受容器は一般的にはポリモーダル受容器”であることが分かります。

また、よく見ると下段に「その他のC線維」とあり、そこには次のような説明も加えられています。

かゆみを伝える受容器、触覚刺激に反応するものもある。*pleasant touchを伝えるC線維もある!”

愛知県理学療法士会誌第18巻第2号に掲載されている『痛みのメカニズムと理学療法』という資料がダウンロードできます。この資料に”ポリモーダル受容器”に関する記述が出ていますので、ご興味あればご参考にしてください。

こちらの『触れることの科学』の中にもC触覚線維に関する記述がありました。

『機械受容器(メルケル盤、パチニ小体など)の活動に対するAβ線維の活動を記録してみると、C触覚線維とは反応のしかたが異なることが分かる。Aβ線維は、前腕を撫でても、模様のある面や角や震動で接触刺激を与えても、どちらでも反応する。もちろん、手のひらや指の無毛皮膚でも反応は起こる。C触覚線維と比較して最も重要で顕著な違いは、強い刺激ほど効率的に活性化するという点である。撫でる速度が速いほど、反応も強くなる。Aβ線維は触覚刺激のさまざまな性質を弁別できる。

これに対してC触覚システムは、特定のタイプの接触、すなわち、一定の範囲の速度で軽く撫でられた場合のみを感知するようだ。最適な速度に合わせるこの性質は、知覚にとって決定的に重要な要素となる。健常者の前腕や大腿を速度を変えて撫でる実験で、被験者が最も心地よいと報告した速度は、毎秒3~10センチの範囲だった。この範囲は、C触覚線維が最も強く活動する範囲と正確に一致している。

健常者の脳画像を撮影してみると、前腕を撫でられると1次、2次の体性感覚野(Aβ線維由来の情報により、細かい形や質感を識別する)とともに、感覚処理の感情的側面に関わる島皮質後部が活動することが分かる。これに対してG・L(患者)の脳では、前腕を撫でると島皮質後部は活動するが、1次、2次体性感覚野は活動しない。つまり、C触覚線維は島皮質は強く活性化するが、体性感覚野は活性化しないと考えられる。それだけではない。C触覚線維を最も強く活性化し、最も心地よいと報告されるほどよい速度の撫で方は、やはり島皮質後部を最も強く活性化していた。これはG・Lでも健常者でも同じ結果だった。』

 

C触覚線維は ”島皮質” にたどり着きます。なお、島皮質は知覚や情動に関係した大脳皮質の一部です。

画像出展:「触れることの科学」

 なぜ日本人は対人関係に悩むのか

『俗に、日本人は集団主義だといわれることがある。しかし社会学者の濱口惠俊は、日本人の人間関係の特徴について、西洋型の「個人主義」に対する「集団主義」ではない、と述べている(“日本型信頼社会の復権”東洋経済新報社)。

彼によればたとえば職場では、個人を集団の中に埋没させて仕事の集団を優先するというのではなく、各人が互いに仕事上の職分を超えて協力し合い、それを通じて組織の目標の達成をはかり、それが翻って自分の欲求を満たして、集団としての充実につながるのが「日本的集団主義」なのだという。

彼の主張する間人主義については、本書のこのあとの議論でも重要な位置を占めているので、西欧の個人主義と比べながら、「スキンシップ」の立場からもう少し深く解説したい。

西欧の文化は、すべてを個人の力と責任で成し遂げることに価値を置くものであり、それには自己を律する強い自我が必要である。このように西洋の「個人主義」では、人に依存するよりも個々人が独立して社会を生き抜くことに価値を置く、頼みとできるのは自分以外にないことを前提にするため、他人との関係も自分の欲求を満たすための手段であると捉え、人間関係それ自体に無条件に価値を置くものではない。

それに対して日本人は、自己を他から独立した「個人」ではなく、「間人」として捉えている。自分を、人と人との「間柄」に位置づけられた相対的な存在であると感じ、社会生活を自分一人の力で営むのは不可能だと感じている。自立ではなく、相互依存こそ人間の本態だという価値観なのだ。この相互に信頼し助け合う価値観こそが「間人主義」なのだ。これは、対人関係を自己の生存のための手段として捉える「個人主義」とは、対照的な価値観だろう。

それらの違いはたとえば職場の人間関係で如実に表れると思う。西欧の人間関係は、互いに独立した個人間での契約関係が基本である。そこでは職務を超えてまで個人的な人間関係が発展していくことはあまりない。だから定時には仕事を終えて、そのあとはプライベートな時間を楽しもうとする。それに対して日本人は、定時に自分だけ仕事を終えてさっさと帰ってしまうことはないだろうし、せっかくの有給も消化しきれない人も多い。どちらも仕事仲間との関係性を第一に考えているからだ。

濱口はこのような関係を図にしてわかりやすく解説している。図10左の個人主義は、独立したAとBがそれぞれの領域を守りながら相互作用をする。それに対して図右の間人主義の場合、AとBの生活空間は互いに重なり合っており、重なり合った部分を含めて自己のアイデンティティと感じている。

だから日本人は主体性がないとか個人のアイデンティティが希薄だ、ということではなく、他者との相互に包摂するような関わりの中で、個人個人が主体性を確立し、そこにアイデンティティを感じているのだ。

 

画像出展:「人は皮膚から癒される」

日本人は、「個人主義」でもなく、「集団主義」でもなく、「間人主義」の価値観に基づいて社会や組織に関わっている。人間は互いに依存しあって生きざるを得ないのだから、その関係を前提にして、自他を生かしていこうというのが、日本人の基本的価値観であり人間観であるといえる。そのためには、境界の感覚がきちんと拓かれている必要がある。

人との境界に対して持つこうした日本人の独特の価値観においては、人間関係の中に溶け込めなかったり、対人関係の軋轢に悩まされたり、人間関係の中で自己を見失う人も当然のことながら出てくるだろう。対人関係にこそ無条件の生きがいや幸福感を見出す日本人にとって、対人関係の問題は、すなわち自己の価値そのものに直結する問題となるからである。

西洋で生まれた心理学では、そのような人間関係の問題は、たとえば社会的スキルを身につけて解決しようと考える。つまり個人としての自己を確立することが重視されるため、相手を尊重しながら自己を主張するといった、対等で独立した個と個の関係を目指すことが主眼に置かれる。もちろんそのような技術を身につけることも、問題解決のための一助となるであろうが、日本人にとっては、本質は違うところにあるだろうと思う。』

以下は私の個人的考えです。

約29年間、外資系企業で働いた経験から感じる外国人と日本人の働き方の違いは、“合理性”の中身と重みの違いのように思います。外国人の”合理性”は、その中身はシンプルでビジネスの基本です。また、“責任”と表裏一体になっているように感じます。

一方、日本人の合理性は、その中に“人間関係がもたらす価値”が含まれており、外国人の協業が1+1=2であるのに対し、日本人の協業は1+1≧2というイメージです。そこにはポジティブな面だけでなく、表面には表れにくい“暗黙の奉仕”のようなものが混じってくる場合もあります。この協業モデルは通常、素晴らしい成果を産み出す原動力になるのですが、注意すべき点としては、“評価”と“責任”が分かりづらくなるというところです。また、これがこの章の表題である「なぜ日本人は対人関係に悩むのか」の原因の一つになってくる場合もあると思います。

 境界が拓かれることで人は癒される

『私たちの多くは、心身の不調があると病院に行く。病院で検査をして、医者に治してもらおとする。その行為自体は何ら問題はない。しかし私たちは、病気や不調は医者に治してもらうものだと無意識に考え、そのような態度を当たり前のようにとってしまっていることから、次のような問題を抱えてしまうことになる。

第1は、身体が持つ自然治癒力の存在を忘れ、最終的には自分の身体が自ずと治っているのだという視点が抜け落ちてしまうことである。私たちは、医者の言う通りに服薬し、栄養さえ取っていればよいのだと信じ、受け身的に治してもらおうとする。しかし実際に治しているのは、紛れもなく自分の身体である。だから身体が持つ自然治癒力を発揮しやすいように、自分でも努力すべきだということを忘れがちである。

自然治癒力を働かせるためには、自分の身体の感覚に耳を傾け、身体が欲するようにしてあげることが重要だ。身体は常に快を求める「快の法則」があるから、まずは身体の感覚かとして心地よいことをするのがよいだろう。それはたとえば運動をすることだったり、触れるケアを受けることだったり、身体を温めることであったり、人それぞれだ。受け身の姿勢ではなく、不調をそれ以上悪化させずに、治癒を早めるためにも、そういった努力が大切だ。

第2は、特にこの章で主張したいことであり、第1の視点よりもさらに気づかれにくい点であるが、心身の不調は対人関係の中でこそ癒されるということである。どんな不調や病だったとしても、それを一人で抱え込むのではなく、人に言うだけでも、多少なりとも心が解放される。すると免疫力が高まり自律神経が整う結果、自然治癒力も高まる。第1章(「コミュニケーションする皮膚」)でも述べたように、困難に感じることでも、寄りそってくれる人がいるだけで、困難に感じなくなることもある。自分一人で辛苦と闘わなければならないと思うと、心が折れて生きる気力もなくなるかもしれない。しかし他者とともにいるだけで境界が拓かれ、他者の身体も自分のものであるかのごとく感じられ、病気や不調を治そうとするエネルギーが倍増するのだ。

もともと「癒し」という概念は、未開社会で呪術によって患者を治癒していた呪術医が、人々の病気を治す悪魔祓いの行為を指すものだという。

文化人類学の上田紀行は、癒しの意味について、次のように述べている。

「(癒しとは)なんらかの原因で、地域社会や共同体から、孤立してしまった人を再び、みんなの中に仲間として迎い入れること、そのための音楽や劇、踊りを交えて、霊的なネットワークのつながりを再構築すること(である)」(“覚醒ネットワーク”講談社プラスアルファ文庫)。

このように他者や社会と「つながること」こそが、病を癒すための重要なポイントだといえる。逆にいえば、周りにいる人は、そのような困難な状況にある人を決して孤立させてはならないのである。』 

効果が実証された触れる癒しの技法

ユマニチュード

『ユマニチュードとは約35年前、体育学を専攻するフランス人、イヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティが作った認知症のケアの技法であり、日本でもテレビなどで紹介され、話題になっている。

ユマニチュードという言葉は、フランス領の植民地出身の黒人が「黒人らしさを取り戻そう」と始めた文化運動「ネグリチュード(黒人であること、黒人らしさ)を基に、人(ヒューマン、フランス語でユマン)とかけ合わせたものである。

ユマニチュードは「ケアする人とは何か」「人とは何か」という基本命題を根底に置いた、知覚・感覚・言語によるコミュニケーションを軸としたケアである。

その方法は、実に150以上の多岐にわたる細かい実践技術と同時に、その技法を支える「人とは何か」「ケアをする人とは何か」を問う哲学に裏付けされている点が興味深い。

ユマニチュードの哲学

ユマニチュードを導入すると、患者に劇的な変化が起こることから、何か特別な魔法のようなことをするのだろうか、と注目されることが多い。しかしそのような特別なことは行わない。ただ「人間らしさ」を尊重し続ける、つまり「個人として尊重する」ことを理念に置いて接するだけである。

ユマニチュードのケアの柱となるのは、「見る」「話す」「触れる」「立つ」ことによる援助である。

このうち、「触れる」というのは、本書の中心的なテーマであるため、少し詳しく述べたい。ユマニチュードでは、相手を人として尊重するために、触れる技術についても非常に細かく定められている。一例をあげると、相手の腕に触れて体を起こそうとするとき、相手の腕を上から「つかむ」のではなく、下から「支える」ようにして触れることを教える。あるいは、相手が動こうとする意志を慮りながらそれを援助する方向で支えるのである。上からつかもうとすると、どうしてもこちらの意思で、力ずくで相手をコントロールしているように感じられてしまうため、相手を尊重したことにならないのである。

画像出展:「人は皮膚から癒される」


さらには、相手の体に触れる瞬間、そして手を離す瞬間の手の角度にもルールがある。相手の体に垂直に触れると、触れられた相手にとっては少なからず衝撃を伴うからである。手を垂直に離す場合も同じだ。飛行機が離陸するときや着陸するときに、斜めの角度で離発着するように、手が触れる角度も斜めの角度が衝撃が少ないのだ。

また、「触れる」という動作も、単独で行ってはならない。私たちも人に触れられる際、事前に何もコミュニケーションせずに無言で触れられたとしたら、それは不気味な恐怖心さえ覚えるだろう。触れる際には、必ず事前に十分なコミュニケーションをとっておかなければならない。ユマニチュードでは、それはたとえば「見る」「話す」といった行為を十分に行って、境界としての皮膚の感覚を拓いてから「触れる」のでなければならないと教える。

ここまで読んでこられた方は、「当たり前だ」と思われるかもしれない。

しかしたとえば「見る」とはどのようなことをいうのか、考えたことはあるだろうか。私たちは普段、会話をする相手の姿や表情を見ることはあっても、きちんと目を「見つめる」ことは少ないのではないだろうか。看護師の方も、ユマニチュードで「見ることが大切だ」、と教えられると、「当たり前だ。患者のことはよく見ているよ」というような反応が多いという。しかし、それは患者の患部だけを見ていたり、病状や表情を一方的に見ている。あるいは監視しているといったように、観察しているのであって、心の交流を目指して見つめているのとは違うことが多いのではないだろうか。アイコンタクトというように、目を見つめて心の交流を起こすことは、まさに境界の感覚を解くスキンシップの大事な要素だと思う。

こちらはユマニチュードのサイトです。

セラピューティック・ケア

『セラピューティック・ケア(Therapeutic Care)は、1996年英国赤十字社が開発した手技であり、もともとは病気で入院中の女性にとって、メーキャップなどをすることが回復の助けになるとのアイデアから生まれた。』 

タクティールケア

『1960年代、スウェーデンで未熟児のケアを担当していた看護師シーヴ・アーデビーやグニック・ビルシェスタッドらによって考案された触れるケアである。彼女らは母親に代わって、乳児の小さな体に毎日優しく触れたところ、子どもの体温は安定し、体重増加が見られるようになったという。そこで彼女らは触れることの有効性を確信し、経験に基づいてこの技法をつくったという。』

実は、以前マッサージと体重増加についてブログで記述したことがありました。ご参考までにブログリンクさせて頂きます。”医療マッサージ研究1

マッサージからみる共振

『マッサージを受けるのは、どのような施術者でもよいわけではない。前述のように施術者と受け手との間に身体的な共振が起こり、身体レベルでの交流を起こしてくれるような施術者に触れてもらうことで、初めて効果が期待できる。

そのような意味で、単に技術が優れている施術者がよいということにはならない。受け手の境界を拓き、深い部分で身体を共振させ、その結果として心の変化も起こしてくれのが本物のマッサージ師だと思う。だから本当の意味での腕のある施術者は、優れた心理カウンセラーであるといえる。

それはあたかも、赤ん坊が母親の身体を、しがみつくことができ、体温で温めてくれて、両手で抱きしめてくれるものとして認識するのと似ている。他者に対して、境界を拓くことができず、他者の身体に対しても、「近づきたくない」「触れたくない」というような、不安定な愛着を持っている人でも、本物の施術者に触れられているうちに、身体レベルの共振が起こるようになる。そしてそれは温かい心の交流を生み、不安定だった愛着関係も、安定したものに変化していくだろう。

もう一つ、見逃してはならない視点がある。

前述のようにオキシトシンの高い施術者に触れられると、触れられた人のオキシトシンレベルも高まることがわかっている。このようにオキシトシンの分泌量が多く、かつエネルギーも強い施術者であればよいが、逆の関係になることもあるという。すなわち、受け手の「悪いもの」が施術者に移ってくるという現象である。受け手が「悪いもの」(それが何かは科学的に突き止められていないが)を持っており、なおかつエネルギーが強い場合に移ってくるのだろう。仮に共振といった現象が、単に神経学的な現象として起こるのだとしたら、それを防ぐ手立ては見込めない。しかし自律神経や運動神経、そしてオキシトシンといったホルモンもすべて、心と無関係に動いているわけではない。施術者の心の持ち方を変えることで、患者から「もらってしまう」ことを防ぐことができる。』

オキシトシンは”幸せホルモン”などと言われ、テレビの健康番組でもよく登場するキーワードの1つです。検索してみると、”「タッチケアで絆を育む」…安らぎの物質オキシトシン”という詳しい記事が見つかりました。

なお、ページは5ページにわたっています。

まとめ

1.安心される存在、そして信頼される存在になること。

2.施術の基本は、「見つめて、話して、そして触れる」。(”ユマニチュード”より)

3.触れ合いの原点とは、”体温”を守ること。

4.”オキシトシン”や”セロトニン”の活性化は、秒速5cm前後のソフトな軽擦で得られる。

5.豊富な”オキシトシン”で充足されるように、施術者が自らの生活習慣を見直すこと。

医療マッサージ研究2(脳のはたらき)

今回のブログは「医療マッサージ研究1」の続編になります。

最初に参考とさせて頂いた2冊の本についてお伝えします。

出版:共立出版

発行:2002年2月

大変高度な内容である一方、外側膝状体という視覚の中継核に関し、外側膝状体背側核と外側膝状体腹側核という説明がされています。しかし、現在では『小細胞層と大細胞層の神経線維は、以前はUngerleider-Mishkinの腹側系と背側系に対応すると考えられていた。しかし、近年の研究では、2つの処理経路は両者の神経線維をともに含んでいることが示されている(ウィキペディアさまより)』との説に見直されており、情報が古いと判断させて頂きました。


 

出版:新曜社

発行:2012年3月発行

まず、1章以降の大項目、中項目の目次をご紹介します。

1章 発達心理学における疑問と考え方

Ⅰ 発達をどう考えるか? ―疑問と論争

Ⅱ 発達の2つの要因

Ⅲ 子どもの年齢に関する概念

2章 認知発達を研究する方法

Ⅰ 行動を心理学的に研究するための科学的基準

Ⅱ データ収集の方法

Ⅲ 実験的アプローチ

3章 出生前の発達

Ⅰ 胎児の発達段階

Ⅱ 出生前の聴覚的学習

Ⅲ 胎児への母親の行動の影響

4章 運動の発達

Ⅰ 新生児の反射

Ⅱ 運動能力の発達

Ⅲ 利き手の発達

5章 知覚の発達

Ⅰ 視覚能力

Ⅱ 身体運動と視覚の協応 ―奥行き知覚

Ⅲ 聴覚能力

Ⅳ 味覚と嗅覚の発達

Ⅴ 皮膚感覚の発達

Ⅵ 複数の感覚モダリティの対応関係

6章 認知発達の理論

Ⅰ ピアジェの知能の発達理論

Ⅱ 情報処理的理論

Ⅲ コア知識理論

Ⅳ 表象書き換え理論

7章 モノの知識と因果関係

Ⅰ モノの永続性の再検討

Ⅱ 因果

8章 カテゴリー化

Ⅰ 乳幼児のカテゴリー化の研究

Ⅱ カテゴリー表象の性質とプロセス

9章 空間の認知

Ⅰ 空間の自己中心的符号化

Ⅱ 空間の客観的符号化の研究

Ⅲ 幾何学的手がかりと非幾何学的手がかりに対する乳幼児の感受性

10章 数の認知

Ⅰ 数の弁別

Ⅱ 乳幼児と計算

11章 記憶

Ⅰ 乳幼児の記憶研究の方法

Ⅱ 乳幼児の記憶の性質

Ⅲ 記憶の発達と幼児期健忘

12章 音声知覚から最初のことばへ

Ⅰ 言語と言語習慣の一般性

Ⅱ 音声カテゴリーの知覚とプロソディの知覚

Ⅲ 喃語から語彙の獲得へ

13章 終わりに

Ⅰ 早期発達の研究方法とその限界

Ⅱ 現在の認知発達の理論

ブログでは、3章Ⅰの「胎児の発達段階」と5章Ⅰの「視覚能力」について触れています。

胎児の発達段階

画像出展:「乳幼児の発達 運動・知覚・認知」

 

患者さまに見られる、「口の開閉」や「舌の動き」は10-11週で、「目の動き」はそれより遅れ16-23週となっていますが、いずれも胎児期から見られます。

 

感覚の機能的発達では、「皮膚感覚」が11週と最も早く、「平衡感覚」、「嗅覚と味覚」と進みます。「聴覚」は構造的発達は8週と他の感覚と変わりませんが、機能的発達は32週とかなり遅くなります。さらに遅いのが「視覚」になります。

 

視覚能力

『長い間、小児科医や心理学者は、生まれたばかりの赤ちゃんは目が見えないと信じていました。実際には、赤ちゃんの視覚系は、誕生時には機能できる状態になっています。ただし、見えてはいますが、おとなと同じように機能しているわけではありません。たとえば、中心窩の細胞はまだ完全には成熟していません。細胞の密度は、生後1年半をかけて高くなってゆきます。こうした細胞の変化は、視力や形の知覚の発達に影響をおよぼします。新生児の瞳孔はかなり小さく、視覚を制御する脳の中枢もまだ十分には成熟していません。たとえば、生後1ヵ月の新生児では、脳の視覚野の大きさは相対的にまだ小さく、ほぼ完全になるまでに12ヵ月を要します。これらの要因は、視力、レンズ調節、両眼視の点で、新生児の視覚能力に影響を与えます。』

1.視力

・選好注視法という方法を用いると、生後4週ぐらいから測定することができる。

・生後1ヵ月児の視力はおとなの4分の1ほどで、その後急速に向上し8ヵ月にはほぼ完成する。

2.レンズ調節(焦点合わせ)

・乳児は、生後2ヵ月まではレンズ調節がほとんどできない。

・3ヵ月までは、21~24センチの距離に置かれたモノに焦点が合った状態にある。

・レンズ調節は生後6ヵ月までの間に急速にできるようになる。

3.両眼視

・新生児は単にモノの網膜像の大きさの変化に反応するのではなく、モノの実際の大きさの変化に反応している。

4.色の知覚

・色の知覚は生後1ヵ月までは貧弱であるが、その後急速に発達し、生後2~3ヵ月には、おとなと同様、青、黄や赤といった基本色を区別できるようになる。

5.動くモノの追視

・新生児は動くモノを目で追いかけることができる(およそ90度動く間)。

・新生児は静止しているモノを目で探すことができるが、視力がよくないので図の輪郭をなぞる程度になる。

新生児の視力について「こそだてハック」さまのサイトに分かりやすい情報がありましたのでご紹介させて頂きます。

新生児は「目が見えていない」といわれることがありますが、まったく見えていないわけではありません。視力は0.01~0.02ほどで、「まぶしい」「暗い」といった明暗を認識することができます。色は黒・白・グレーのみで、ものや色、輪郭を認識するほどではなく、両目の焦点を定める能力も備わっていないことから、目的もなく眼球を動かしていることがほとんど。

ブログのタイトルでもある「脳のはたらき(視・聴・運動)」については、「人体の正常構造と機能」、「感覚の地図帳」、「病気がみえる vol.7 脳・神経」を参考にしてまとめましたが、ほとんどが「人体の正常構造と機能」からの引用となっており、記述された内容は極めて専門的なものです。また、思っていた以上に長いブログになってしまいました。

そこで、最初に「まとめ」をお伝えしたいと思います。ご興味あれば、その下の内容をご覧ください。

まとめ

1.視覚は一次視覚野に加え、視覚前野、さらに側頭葉および頭頂葉の視覚連合野も関与しており、大脳皮質全体の1/3という大きな面積を占めると言われています。

2.患者さまは聴覚に問題はないとされていますので、隣接する視覚の伝導路である外側膝状体についても問題はないものと推測します。従いまして、視覚が機能していない原因は後頭葉視覚野が関係していると思われます。

3.患者さまは、眼、口、舌を随意に動かせますので、脳神経のⅢ動眼神経、Ⅳ滑車神経、Ⅵ外転神経、Ⅻ舌下神経、Ⅴ-3三叉神経(下顎神経)に関しては問題はないと思われます。

4.「医療マッサージ研究1」の中でお伝えした、「低反応だった患者さまの眼、口、舌の動きが活発化した」という変化は、触覚・固有覚・聴覚への刺激が脳幹への刺激となって伝わり、脳幹に存在する各脳神経核(Ⅲ、Ⅳ、Ⅵ、Ⅻ、Ⅴ-3)の働きが活性化したためではないかと思います。

1.目が見えるということ

眼球からの光(像)が脳神経の1つでもある視神経の線維を伝わり、[視交叉]-[視索]を経て脳幹の視床にある[外側膝状体]という中継核にたどり着きます。(左下図)

網膜の神経節細胞には大・小2型があり、大型のものが網膜の黄斑領域以外からの視覚情報を集めるほか、視覚対象の動きを外側膝状体(やはり大・小2型の神経細胞あり)の大型細胞(M細胞)に伝えます。小型神経節細胞は、視野中心近くにある静止したものの情報を、外側膝状体の小細胞(P細胞)に詳しく伝えます。外側膝状体は6層構造からなり、対側眼からの神経線維は1、4、6層に、同側眼からは2、3、5層に入ります。1層と2層だけは大型のニューロンからなる大細胞(M細胞)層であり、残りは全て小細胞(P細胞)層になっています。(右下図)

こうして網膜からの信号は、主に動きに関する情報を伝えるM経路と、詳細な形や色に関する情報を伝えるP経路とに分かれて中継され、視放線となって一次視覚野へ投射されます。(左下図)

画像出展:「人体の正常構造と機能」

画像出展:「感覚の地図帳」


一次視覚野は後頭葉の内側面で鳥距溝の上下にあります。視野の上半は鳥距溝の下縁へ、視野の下半は鳥距溝の上縁へ投射します。また、黄斑からの投射が後方の広い範囲を占めます。

上記以外の伝導路として、上丘から視床枕核に至る経路があり、眼球運動の制御に必要な情報を伝えます。また、一部は視床下部の視交叉上核に至り、概日リズムの形成に関与します。

なお、大脳皮質の中で視覚情報を主に処理する領域は全体の約1/3もの広い範囲を占めます。

 

画像出展:「人体の正常構造と機能」

この領域にあるニューロンの多くは、単純なスポット状の光にほとんど反応しません。

一次視覚野には特定の方向を向いた細長いスリット状の光に反応する単純型細胞や、スリット光が特定の方向に動くときに反応する複雑型細胞、特定の長さと方向を持つスリット光に反応する長複雑型細胞などが存在します。これらは視覚情報を線分の傾きや長さ、移動方向といった要素に分解し、物体の輪郭を抽出していると考えられます。

一次視覚野では、同じ方向の刺激に選択性を持つ単純型細胞や複雑型細胞が集まって垂直方向の機能単位を形成します。これを方位コラムといいます。隣り合うコラムは、視野上の同じ位置で約10°異なる方位選択性を持つ細胞群からなっています。方位コラムの列とほぼ直交する向きに皮質をたどっていくと、1つのコラムは主に一側の眼から入力を受け、その隣のコラムは視野上の位置は同じですが主に対側の眼から入力を受けています。これを眼優位コラムといいます。

一次視覚野の約1㎟の部分には全方位をカバーする18の方位コラムが2セット含まれ、それぞれ右眼優位と左眼優位です。この1㎟の部分は、視野のある1点を分析するのに十分な要素を持つことから超コラムと呼ばれます。また、超コラムの中にブロッブblobと呼ばれる斑状の細胞集団が存在し、それらは色に選択性を持ちます。逆に単純型細胞や複雑型細胞は色選択性がありません。したがって色情報は、形や動きの情報とは別途に分析されています。

超コラムで抽出された視覚情報は、一次視覚野の前方に位置する視覚前野においてさらに詳細に分析されたのち、側頭葉および頭頂葉の視覚連合野へ送られます。側頭連合野は形や色の情報を統合して物体認知を行い、頭頂連合野は動きや奥行きの情報に基づいて空間認知を行いますそれらの部位に障害を受けると、色覚を失う、立体感を失う、動きの認識ができない、などの特異な症状が現れます。

 

画像出展:「人体の正常構造と機能」

以上のように一次視覚野は、構造も機能も非常に複雑です。色情報と形や動きの情報は分かれており、視覚情報は一次視覚野前方の視覚前野において分析が進み、さらに側頭葉および頭頂葉の視覚連合野に送られます。まさに大脳皮質の1/3を使って視覚の働きを支えています。

2.耳が聞こえるということ

右下は外耳・中耳・内耳の図です。聴覚の受容器であるコルチ器は蝸牛管の中にあり、コルチ器には蝸牛神経が分布しています。蝸牛神経は平衝覚をつかさどる前庭神経と内耳道底で合流し、内耳神経(脳神経Ⅷ)となり、中枢に向います。

聴覚の伝導路には側副経路もあります。蝸牛神経核からの出力の一部は延髄上部の同側および対側の上オリーブ核に投射されます。なお、上オリーブ核では音源の方向に関する情報を抽出して上位中枢に送っています。一般的な経路は外側毛帯を通って下丘に至ります。下丘は最初の統合的処理を行う神経核で、側副路を含め上行性投射はすべて下丘を経由します。下丘ニューロンは内側膝状体に、内側膝状体ニューロンは聴放線を通って聴覚野に投射されます。(左下図)

画像出展:「人体の正常構造と機能」

画像出展:「人体の正常構造と機能」


下図は脳幹を横から見たものです。脳幹は下(体側)から延髄-橋-中脳となります。中脳の背側面には上丘・下丘という隆起があり、それぞれ内部に神経核を有しています。上丘は視覚の視床核とされる外側膝状体に続き、下丘は聴覚の内側膝状体に続きます。

 

中央上部に内側膝状体(聴覚)と外側膝状体(視覚)が出ています。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

3.視床と大脳皮質

こちらは視床核を詳細に説明したものです。

外側膝状体はLG(lateral geniculate body)となっており、右側の図の下部に見られる小さな2つの突起のうちの右側(緑色)の部分になります。一方、内側膝状体はMG(medial geniculate body)となっており、左側(茶色)の突起になります。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

下の表は視床核の機能的区分を示すものです。LG(外側膝状体)の出力先は「後頭葉視覚野」になっており、MG(内側膝状体)の出力先は「側頭葉聴覚野」となっています。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

下記のブロードマンの脳地図では側頭葉聴覚野は【41・42】と狭い領域です。一方、後頭葉視覚野は一次視覚野(V1)が【17】、二次視覚野(V2)が【18】、視覚連合野(V3)が【19】となり、視覚野の方が聴覚野に比べ明らかに広い面積を取っています。詳細な情報はウィキペディアさまにありました。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

下の図を見ると視床が大脳へと繋がる中継核のかたまりなっていることがよく分かります。(この図の中では、MG[内側膝状体]から側頭回へのラインがありませんが、これはラインがクロスしてしまうため省略されているのではないでしょうか)

画像出展:「人体の正常構造と機能」

以上、視床核である外側膝状体と内側膝状体について詳しく見てきました。ここでお伝えしたかったことは、視覚の中継核である外側膝状体と聴覚の中継核である内側膝状体は、近接して存在しているということです。

4.眼・口・舌が動くということ

左下図は濃い緑色の皮質脊髄路と黄緑色の皮質延髄路を示したものです。前者は大脳皮質から脊髄に投射する神経細胞の軸索がまとまって線維束を形成した脳内最大の下行路(遠心性)で、大脳皮質からの運動指令を脊髄に伝えます。後者の皮質延髄路は頭や顔の運動指令を伝える経路で、各脳神経の運動核に至ります。

図を見ると、中脳ではⅢ、Ⅳ、橋ではⅤ、Ⅵ、Ⅶ、延髄上部ではⅨ、Ⅹ、Ⅻ、延髄下部ではⅪの各脳神経が口や顔面などに向かいます。

右下図は脳幹をお腹側から見た図です。この図では中脳より上に位置するⅠ嗅神経、Ⅱ視神経を含め、12対の脳神経を確認できます。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

画像出展:「人体の正常構造と機能」


12対の脳神経は運動だけでなく感覚や自律(副交感)にも関わっており、複数の機能を持つ脳神経もあります。

右下の表は脳神経の詳細を説明したものです。薄茶色の特殊感覚神経は感覚に関する脳神経で、視覚はⅡ、聴覚はⅧなります。続いて薄緑色の体性運動神経はⅢ動眼神経、Ⅳ滑車神経、Ⅵ外転神経の3つが眼球を動かすために筋肉へ指令を出します。また、Ⅻの舌下神経は舌を動かします。薄紫色の鰓弓神経の中のⅤ三叉神経は眼神経、上顎神経、下顎神経に分かれますが下顎神経は口を動かす咀嚼筋に指令をだします。

左下図は「脳神経」の概要説明です。分かりやすいので添付させて頂きました。

画像出展:「人体の正常構造と機能」


 

下顎神経(V3)が咀嚼筋群(咬筋、頬筋、内側翼突筋、外側翼突筋)に遠心の神経(体性運動神経)を送っているのが確認できます。筋肉が収縮・弛緩することで顎が動きます。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

医療マッサージ研究1

乳児期に起きた事故によって重症障害者となり、現在、青年期を迎えている患者さまにマッサージを行っています。スタートは2017年4月、頻度は週2回です。開始から15ヶ月が経ち3つの変化がありました。これらがマッサージの効果であるとは断言できませんが、関係しているものと思います。なお、施術では次のことを心掛けています。

 

◆無理をせず、安全第一(特に他動による関節運動)。

◆脳幹への感覚刺激入力として、声かけ(聴覚)、擦る・圧迫する(触覚)、各関節の他動運動(固有覚)という3つの感覚刺激が関連づけられて脳幹に届くことをイメージしています。乳児期の障害だったため言葉は理解できないと認識していますが、何度も何度も繰返すことで、何かが変わることを期待し、声かけでは「部位」と「動作」を伝えています。(例えば、「肩を動かすよー、前…後…。」とか、「腕をさするよー。腕を握るよー。等々)

◆免疫力アップを狙って、肩関節の他動運動では腋窩リンパ節、股関節では鼡径リンパ節への刺激を意識しています。

拡大して頂くと、脇と脚のつけねに円で囲われた部分のリンパ節が確認できます。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

リンパは、感染防止の必要に応じて毛細血管から滲み出し、リンパ管に集められます。リンパ管は静脈にほぼ寄り添うかたちで全身に分布し、胸管などの太い主リンパ管となって首のつけ根で静脈に注ぎます。リンパ管の中のリンパは、体の動き、筋肉の収縮などによって太い方へ送られます。リンパ管の各所にあるリンパ節はリンパの濾過装置で、大きさも形も様々であり、ここで末梢からのリンパは濾過されて病原体、異物、毒素などが取り除かれます。また、異物から体を守る免疫の担い手であるリンパ球(Tリンパ球、Bリンパ球)もリンパ節で作られます。

 


3つの変化

1.健康アップ(免疫力アップ)

2017年4月から9月までの6ヶ月間は、入院を含め、発熱等による体調不良のため施術が休みとなることが多く、予定通り実施できたのは約58%でした。一方、2017年10月以降、2018年6月までの9ヶ月間に関しては、体調不良により休みとなったケースはありませんでした。

2.体重増

施術の最初に側臥位の向きを変えてから始めるのですが、数ヶ月前から体を抱えたときの腕への負荷が明らかに高まったように感じました。ご家族の方も同様な認識であり、体重増は間違いないと思います。しかし、この患者さまにとって体重増加が良いことなのか把握できていません。基本的には健康度の指標となる各種検査値や栄養管理、あるいは衛生管理などの面から総合的に評価するべきものではないかと思います。