脳性まひ児の発達支援2

著者:木舩憲幸

出版:北大路書房

発行:2011年8月

 

全体の目次を確認されたい場合は ”脳性まひ児の発達支援1”をクリックしてください。

こちらは第3部の全体像です。

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第8章 姿勢と運動発達支援の実際1:筋緊張障害への対応

第1節 低緊張への対応

●肢体不自由特別支援学校に筋緊張の低い脳性まひ児が在籍していることは珍しくない。

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1.伸張反射の利用

(1)伸張反射とは

●筋が急速に引き伸ばされたときに筋が一定の長さを保とうとして収縮する。これを伸張反射といい、抗重力筋や顎の筋肉によく発達している。

●伸張反射の反射中枢は脊髄レベルにあるが、同時に脳の上位中枢から抑制を受けて、適当な強さに反射がコントロールされている。そのため錐体路が障害されると抑制がとれコントロールが難しくなって反射が過剰に強く出現するようになる。

伸張反射とクローヌス(間代)は脳性まひでは痙直型にみられる特徴である。

●伸張反射が亢進しているとクローヌス(間代)がみられる。クローヌスはすべての関節で起こり得るが、臨床的には足関節(足間代)と膝関節(膝間代)でみられやすい。 

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(2)伸張反射を利用して筋緊張を高める

伸張反射を利用して伸筋の収縮を促通することができる。

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2.関節圧縮の利用

●関節圧縮は固有覚を利用するものである。

体重あるいは関節を圧縮する身体部位に日常的にかかっている以上の負荷をかける。この方法は圧縮された関節付近の筋群の同時収縮を促通して筋緊張を高める効果がある。これを肩、腰、頭などに用いると関節の近位部の固定性を高める。 

●肘位での関節圧縮:両肩から上腕の部分を支持者が保持して両肘を床に向かって垂直に押し込んで肘位を保持する。肘位でこの関節圧縮を行うと、肘と肩の関節の周辺の筋肉が同時収縮して緊張感が高まり、結果的に肢位を安定させると同時に、肩の近位部である首の固定性を高めると考えられる。

●腹臥位で頭の挙上が困難なときに肘位での関節圧縮を利用すると、両肩、両肘、腰を結ぶ三角形の姿勢となり、首を支える体幹・上肢の姿勢が安定して、頭の挙上が容易になる。

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3.キーポイント・オブ・コントロールの利用

●人間の身体は、屈曲や伸展により筋緊張がさまざまに変化する。屈曲や伸展によってある身体のポイントをコントロールすることにより筋緊張を高めたり、低めたりすることができる。このキーポイント・オブ・コントロールはボバース(1980)によって提唱されたものである。

全身の筋緊張を高めるには股関節及び膝関節を伸展させた姿勢が都合がよい。長座は股関節伸展・膝関節伸展であって下肢の筋緊張が高くなりやすい。

●あぐら座位は股関節と膝関節が屈曲しているので筋緊張を低くする効果がある。 

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4.前庭刺激の利用

前庭刺激によって、頚・背・腰部の伸筋収縮を促通することができる。

「突然、急速、非リズミカル」に入力すると興奮性、つまり筋の収縮を促進する。逆にリズミカルな入力は抑制性、つまり筋を弛緩させる。

●前庭刺激の興奮性入力の具体的な方法を例示すると、腹臥位や座位で上下に揺らす前庭刺激を用いて伸筋収縮の促通を行うやり方が考えられる。(促通とは、ここでは神経や筋などへ刺激を与えて筋の収縮をうながす意味で用いている) 

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第2節 過剰に高い筋緊張への対応

1.関節圧縮の利用

●体重またはそれ以下の力での関節圧縮を使用すると筋緊張を低減する効果がある。これは筋緊張が亢進している関節周囲筋を抑制し、その関節周囲の筋緊張を一時的に低下させる。

2.キーポイント・オブ・コントロールの利用

肩と肩甲帯を屈曲させるとその付近の筋緊張を低める効果がある。

ウェストラインの屈曲は背中・腰付近の伸筋緊張を低める効果がある。

股関節及び膝関節を屈曲させた姿勢が全身の筋緊張を低める。あぐら座位は股関節屈曲・膝関節屈曲であるので下肢の筋緊張は低くなりやすい。

3.前庭刺激の利用

リズミカルな入力は抑制性として働き筋を弛緩させる。つまり筋緊張を低減させる効果がある。

第9章 姿勢と運動発達支援の実際2:臥位と寝返り

第1節 寝返りの意義

●重度の肢体不自由児では、寝たきりの状態で身体の変形や拘縮や痛みのある子どもが多く見られる。

第2節 仰向け、うつ伏せと寝返り

1.仰向けとうつ伏せの比較

●仰向けは身体を支える面積が狭く、重みが一部に集中するため身体を変形させやすい。そのため仰向けからうつ伏せへ姿勢変換させ、過度の負担を低減する必要がある。

2.仰向けとうつ伏せの間の姿勢変換:寝返り

●自発的寝返りのためには、足を持ち上げて全身をやや屈曲させることが必要である。運動の発達は頭から足の先へと発達していくために、姿勢と運動の発達に遅れがある肢体不自由児では、この足を持ち上げる動きに困難があることが多い。 

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第3節 寝返りに関係ある姿勢反応

●デロテーション反応とは仰臥位の状態で屈曲した左足をクランクとして骨盤を回旋させる。すると体幹が回転して頭が持ち上がった姿勢になる。この反応が現われれば、次に自発的寝返りが出現する。  

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第4節 寝返りの支援の実際

●回転の動きを強くあるいは速く行うと、子ども顔が強く床にぶつかるので、ゆっくりとそっと動かす。 

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●うつ伏せから仰向けへは、腰の骨盤部分を上方に持ち上げるようにして体重を体幹と下肢に分散して回転すると容易に行うことができる。

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第10章 姿勢と運動発達支援の実際3:頸座の支援

第1節 姿勢と運動発達における頸座の意義

1.頚座の意義

●頚座は姿勢コントロールの第一歩であり、姿勢と運動発達に困難のみられる子どもの姿勢と運動発達支援の第一歩でもある。

2.頚座と姿勢発達の基本姿勢としての腹臥位の意義

●腹臥位は仰臥位とは異なり、伸展がとりやすい。伸展がとりやすい姿勢が重要なのは、肘位・手位・座位・四つ這い位・立位はすべて伸展を特徴とする姿勢だからである。

第2節 頚座の定義と要素

●頚座(首の座り)の定義は諸家によって異なっている。

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第3節 脳性まひ児の頸座獲得のための支援の実際

1.ハイガード姿勢

●ハイガード姿勢は、幼児の立位や歩行時にみられる両手を高く上げてバランスをとる姿勢であり、この姿勢は頚筋・背筋を収縮させて伸展姿勢を強化し、抗重力姿勢をとりやすくする。 

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2.肘位と関節圧縮

●腹臥位で頭の挙上をはかるときに、肘位をとらせると、両肩、両肘、腰を結ぶ三角形の姿勢となり、頚を支える体幹・上肢の姿勢が安定して、頭の挙上が容易になる。 

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3.上肢の伸展と外旋

●腹臥位で上肢を前・上方に開きぎみに伸展し外旋させると肩・頚あたりの筋が収縮して挙上を促通する。なお、この技法はキーポイント・オブ・コントロールの1つである。 

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4.頚・背・腰部の伸張による伸張反射

●腰・背・頚あたりの伸筋を急速に引き伸ばすと伸張反射により伸筋の収縮が促通されて、その結果として頭の前方からの挙上が起こりやすくなる。

伸張反射は肘位とともにかなり効果的な技法であり、肘位とあわせて用いると効果が増す。 

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5.デロテーション反応

●デロテーション反応とは仰臥位の状態で屈曲した左足をクランクとして骨盤を回旋させる。すると体幹が回転して頭が持ち上がった姿勢になる。この反応が現われれば、次に自発的寝返りが出現する。  

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6.触覚や振動覚

軽くすばやい触覚は筋の収縮をうながす。筋腹への振動覚も同様であり、前庭覚と違い、収縮させたい筋だけを刺激できるので頚筋や背筋へ直接刺激する。

第11章 姿勢と運動発達支援の実際4:座位の支援

第1節 座位の意義

●座位がとれれば健康の保持と学習面の両方でさまざま効用がある。さらに、人間関係やコミュニケーションといった社会適応や環境適応に関しても有用である。 

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第2節 座位と関係する姿勢反射・反応

1.座位の傾斜反応とパラシュート反応

(1)座位の傾斜反応

●座っている床がゆっくりと傾斜したときにバランスを保とうとして、頭・体幹が傾斜方向と反対方向へ立ち直る反応である。 

●座位の傾斜反応には3つの特徴がある。

・脊柱がカーブする。

・傾斜と反対側の下肢が挙上。

・傾斜と反対側に頭が傾斜する。

●学校や家庭でできる簡単な支援法

 

・支援者があぐら座位をとって子どもの腰辺りを両手で支えてだっこした状態(向きは自由)をとる。その状態で左右や前後にゆっくりと小さく傾けてみる。体幹のカーブもしくは頭の立ち直り反応が出ている場合は、このやり方でゆっくりと小さく傾けることをくり返す。目標は体幹のカーブであり、辛抱強く継続することが大事である。

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(2)パラシュート反応

●座位で大きくあるいは急速に傾いたときに、傾斜反応では対応しきれない場合にパラシュート反応がみられる。

●発達支援の順序として傾斜反応の支援の次に行うとよい。  

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2.座位の傾斜反応の基礎としての腹臥位の傾斜反応

●腹臥位の傾斜反応を誘発することが間接的に座位の傾斜反応を引き出すことにもなる。

●傾斜反応の特徴の1つである体幹のカーブは腹臥位でも座位でも同様である。したがって、ラージボールや傾斜台やその他の多様な教具・遊具を利用して、座位だけでなく腹臥位や他の姿勢での支援の工夫を考えることが大事である。   

●ラージボールがない場合は、大きめで硬めのクッションを重ねて使う。

 

●傾斜反応は頭と重力の方向の感覚によって誘発されることを留意して、頭をいろいろな方向に向けることができる動きや姿勢を工夫してみることが大事である。また、「バランス遊び」として楽しく行うことも大切である。

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第3節 座位を支援するためのポイント

●座位保持に必要な筋緊張のコントロールには、適切なポイントへの介助が必要になる。

座位の支援のポイントは用い方によって緊張を高めたり、あるいは緊張を低めたりするので、一人ひとりの緊張状態と支援の目標をあわせて使い分ける必要がある。全身の緊張を高めるには股関節及び膝関節を伸展させた姿勢、たとえば長座がよい。一方、あぐら座位は筋緊張を低くする効果がある。あぐら座位は全身の伸展緊張が高い場合に有用な姿勢である。

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第4節 座位から立位への姿勢変換の支援

●座位の次は立位の獲得だが、立位をとるためには座位から立位への姿勢変換が必要である。

●子どもの立ち上がる力や自発的に立ち上がる意欲を大事にした支援が求められる。

前から子どもの両手を持って支援するやり方が望ましい。

●前から子どもの両手を持って支援するやり方では、子どもの手の持ち方に注意が必要である。図11-7の持ち方がよい。 

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 ・前から両手を持って引き上げていく(膝の角度が90度以上まで)。

 ・下肢の伸展が楽になり立位に移行する。

 ・下肢の伸展とともに上肢の屈曲を意識すると立ち上がりやすい。

これは子どもが支援者の親指を握る形になっている。握るという行為は子どもの自発的参加を促す。また、握る力や握る意志が少ない場合でも、このやり方であれば介助者がそれを補助することにより安全に支援することができる。 

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第12章 姿勢と運動発達支援の実際5:立位の支援

第1節 立位の特徴

●立位は全身が伸展しているという特徴がある。

●肢体不自由児では屈曲姿勢が多く、立位の支援においては伸展姿勢の保持が重要な課題となることが多い。

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第2節 立位と関係する姿勢反射・反応:傾斜反応

●立位の獲得には立位の傾斜反応を引き出す支援が重要となる。

立位の傾斜反応は前方と後方では足関節の働きが中心になり、側方では膝関節の働きが中心になる。 

●小型トランポリンは子どもが立っている位置を変えないで前後左右の傾斜反応を誘発できるので非常に使いやすく便利な教具である。 

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画像は“mom-ma”さまより拝借しました。

第3節 立位保持と獲得の支援のポイント

伸展姿勢には全身の伸筋を収縮させる必要がある。背筋、臀部の筋、大腿四頭筋、下腿の筋など

1.立位保持の支援で大事な身体のキーポイント

●尖足の場合、股関節屈曲、膝関節屈曲で円背になりやすいため、補装靴の使用を検討する。 

①胸をはる

②背中を伸ばす

③腰と尻をやや前に出す

④膝を伸ばす

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2.立位獲得支援の経過に沿ったキーポイント

●立位獲得のための支援における介助は腰介助から肩介助へという方向が大事である。 

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第5節 歩行の獲得には立位の安定が大事

●歩行は移動することと立位を保つことの2つを同時に行うという複雑な協調を必要とする運動である。

●連続的にバランスを前方に崩していきながら、なおかつバランスを崩さないという2つの矛盾を解決しなければならない。 

この姿勢を30秒程度行った後で要介助歩行を行なうと、上体のふらつきがやや減ってしかも足が出やすくなることが多い。

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第13章 姿勢と運動発達支援の実際6:歩行の支援

第1節 歩行の完成

●歩行は中枢神経系の成熟レベル(延髄、橋、中脳、大脳)に依存しており、姿勢反射・反応の成熟過程、つまり原始反射の抑制、立ち直り反応の獲得、平衡反応の獲得が歩行獲得の基礎にある

第2節 歩行と関係する姿勢反応:ホッピング反応

●ホッピング反応は立位で重心が移動した際に、足を重心の移動方向へ踏み出す反応である。このホッピング反応は自動的な歩行を可能にするという意味で、姿勢と運動の発達支援では重要な反応である。 

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1.歩行とホッピング反応の関係

●ホッピング反応の有無は歩行を予測するための指標として有用である。ホッピング反応がみられない場合には、つかまり歩行も杖歩行もできないと考えられている。

2.歩行支援におけるホッピング反応誘発の実際

●ホッピング反応は側方ホッピング反応からスタートすべき。

●ホッピングの誘発は肩介助が原則なので、肩介助で立位をとれることが前提になる。

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第3節 歩行支援のポイント

●支援は後方腰介助→後方肩介助→前方介助→側方介助の順に支援を進めていくことがよい。

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第4節 さまざまな歩行のようすと支援の実際

1.突進様に歩いたり、ふらふらと静止できない場合

●歩行そのものを練習するのではなく、立位で安定して静止できることを目指す。

●最初に立位の姿勢アライメントを整えることが大事である。次に少しずつ前傾させ前方傾斜反応を誘発し全身の伸展が生起され「抗重力身体伸展姿勢」が保ちやすくなる。この状態で抗重力伸展立位姿勢の獲得と立位の静止状態でのバランスの向上をはかることができる。

2.体軸内回旋を活用した歩行

(1)体軸内回旋とは

立ち直り反応の影響を受けて発達する。

具体的な支援の工夫としては、たとえば座位をとった子どもの前に大好きなおもちゃをいくつか置いて、体軸を回旋させてそのおもちゃをとって遊ぶなどの活動が考えられる。

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(2)体軸内回旋を用いての歩行介助

●足が出ない場合、体軸内回旋を用いて足を一歩出させて歩行させることができる。 

図の右端の絵の状態で、介助者が右手を前方へ軽く引っ張ると、前方ホッピング反応としての右足の移動が出現しやすい。

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脳性まひ児の発達支援1

小児障害児へのマッサージに関わるようになり、『感覚統合法の理論と実践』という本で基礎ともいえる部分を勉強しました。そして、“動作法”という優れた支援方法があるのを知りました。さらに脳の可塑性に着目した“アナット・バニエル・メソッド(本は『限界を超える子どもたち 脳・身体・障害 への新たなアプローチ』)という画期的なアプローチに感銘を受け、患者さまの脳と施術者である自分の脳がつながるイメージ(B2B)をもって、メソッドである”9つの大事なこと”(ブログ中央の”目次”を参照ください)の実践を意識しています。

しかしながら、大きな壁にぶつかりました。それは、今まで担当していた患者さまの多くは、座位もとれない重度の障害をもっていたのに対し、新しい患者さまは座位あるいは四つ這い位は取れるが、安定した立位が取れないといった動くことができる患者さまだからです。

大きな何かが欠けているという実感はありましたが、モヤがかかったような状況でした。そのモヤが晴れたのは仲間の仕事ぶりを見学させてもらったこと、また、別の仲間が勧めてくれた数冊の本のお陰でした。今回のブログはその中の1冊です。

そして、“モヤ”とは、”発達段階における運動特性とリハビリテーション”というような類のものでした。これはOT(作業療法士)やPT(理学療法士)の先生が取り組むべき分野だと思いますが、この分野に踏み込まないと患者さまの現状を把握することはできません。

小児障害マッサージとしての支援内容は、過緊張あるいは低緊張の課題に取り組むことになると思いますが、発達段階に応じたリハビリテーションがどんなものか、日常生活ではどのような特徴として表れるのか、どんな問題をもっているのか、それをどのように改善していくのか。あるいは鍼という手段は使えるのか、頭鍼・頭皮鍼は有効か、脳の可塑性(アナット・バニエル・メソッド)に働きかけるにはどんな工夫をすればよいかなどについて考えていく必要があると感じました。

過去ブログ“ボイタ法・ボバース法”の中で、私は偉そうに次のようなことを言っていました。

『まず図書館から借りてきたのは「ボイタ法の治療原理 反射性移動運動と運動発達における筋活動」という本です。こちらの本の魅力は何といってもボイタ(Vaclav Vojta)自身が書いたものであるという点です。読んでみると、運動学(キネマティクス)とリハビリテーション学についての知識が不足している私には、理解するのは難しいということが分かりし、早々に断念することにしました。』

抜けていたのはまさにこの部分、避けていた部分でした。結局、ブーメランのように私自身に舞い戻ったという感じです。 

著者:木舩憲幸

出版:北大路書房

発行:2011年8月

ブログは第2部と第3部が対象です。また完全に勉強モードのブログです。そのため個人的に重要であると感じた部分の要点を列挙する形式となっており、つまみ食い状態のため、不親切な書き方になっていると思います。なお、長文のため2つに分けており、今回は“1”ということになります。

目次

第1部:肢体不自由教育と発達支援

第1章 肢体不自由とは

第2章 肢体不自由教育と発達支援

第3章 肢体不自由教育と障害の重複化

 

第2部:発達支援のための基礎知識

第4章 姿勢と運動の発達

 第1節 姿勢の発達段階

 第2節 姿勢の分類

 第3節 上肢を姿勢保持に用いる姿勢と操作に用いることができる姿勢

 第4節 体幹が直立した姿勢

 第5節 運動発達の2つの方向

 第6節 姿勢と運動発達の支援における4つの目標

 第7節 姿勢と運動発達の支援と並行して行うこと:筋緊張障害への対応

第5章 姿勢と運動を支える感覚

 第1節 姿勢と運動を支える固有覚と前庭覚

 第2節 固有覚とその機能

 第3節 前庭覚とその機能

第6章 姿勢と運動を支える姿勢反射・反応

 第1節 中枢神経系、姿勢反射・反射と姿勢と運動発達の関係

 第2節 原始反射、立ち直り反応、平衡反応

 第3節 姿勢反射・反応各論

 第4節 脳の成熟に伴う原始反射の抑制

 第5節 姿勢反射・反応と姿勢と運動の抑制・促通関係

第7章 脳性まひの筋緊張障害

 第1節 脳性まひの定義と類型

 第2節 脳性まひにみられる2つの筋緊張障害:除皮質緊張と除脳緊張

 第3節 脳性まひ痙直型の除皮質緊張と対応の原則

 第4節 痙直型の筋緊張の特性と支援センターの原則

 第5節 アテトーゼ型の筋緊張の特性と支援センターの原則

 

第3部:発達支援の実際1(姿勢と運動の支援)

第8章 姿勢と運動発達支援の実際1:筋緊張障害への対応

 第1節 低緊張への対応

 第2節 過剰に高い筋緊張への対応

第9章 姿勢と運動発達支援の実際2:臥位と寝返り

 第1節 寝返りの意義

 第2節 仰向け、うつ伏せと寝返り

 第3節 寝返りに関係ある姿勢反応

 第4節 寝返りの支援の実際

第10章 姿勢と運動発達支援の実際3:頸座の支援

 第1節 姿勢と運動発達における頸座の意義

 第2節 頸座の定義と要素

 第3節 脳性まひ児の頸座獲得のための支援の実際

第11章 姿勢と運動発達支援の実際4:座位の支援

 第1節 座位の意義

 第2節 座位と関係する姿勢反射・反応

 第3節 座位を支援するためのポイント

 第4節 座位から立位への姿勢変換の支援

第12章 姿勢と運動発達支援の実際5:立位の支援

 第1節 立位の特徴

 第2節 立位と関係する姿勢反射・反応:傾斜反応

 第3節 立位保持と獲得の支援のポイント

 第4節 立位での重心移動

 第5節 歩行の獲得には立位の安定が大事

第13章 姿勢と運動発達支援の実際6:歩行の支援

 第1節 歩行の完成

 第2節 歩行と関係する姿勢反応:ホッピング反応

 第3節 歩行支援のポイント

 第4節 さまざまな歩行のようすと支援の実際

 第5節 前方支持歩行器と後方支持歩行器

 

第4部:発達支援の実際2(学習、環境・社会適応、摂食・嚥下の支援)

第14章 学習活動の支援

 第1節 学習する姿勢としての座位の意義

 第2節 上肢の操作と知的発達

 第3節 学習活動を促進する機能的座位姿勢

 第4節 上肢を使用した学習活動のための配慮事項

第15章 環境・社会適応の支援

 第1節 自立活動における環境の把握、人間関係及びコミュニケーション

 第2節 環境の把握と姿勢と運動

 第3節 人間関係の形成と姿勢と運動

 第4節 コミュニケーションと姿勢と運動

 第5節 環境の把握、人間関係、コミュニケーションと姿勢と運動との相互関連を踏まえた支援の重要性

第16章 摂食・嚥下の支援

 第1節 自立活動における健康の保持と肢体不自由

 第2節 摂食・嚥下の支援における留意事項

 第3節 摂食・嚥下しやすい姿勢のポイント

第2部:発達支援のための基礎知識

第4章 姿勢と運動の発達

第1節 姿勢の発達段階

1.姿勢の発達段階とそれに対応した運動の発達

腹臥位→肘位→手位→座位→四つ這い位→立位となっており、この発達段階に対応して運動が発達していく。 

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2.抗重力姿勢という考え方

●通常の生活において、人間は重力を意識することは殆どないが、常に重力の影響を受けている。この重力に抵抗して姿勢を保つための重要な特徴として頭を重力方向に向けるということがあげられる。

抗重力姿勢とは適当な筋緊張が保たれて、関節が適度に固定されて重力に負けずに一定の適応的な姿勢が保たれている状態をいう。 

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第5節 運動発達の2つの方向

1.上から下への発達

首が座り、体幹がしっかりしてきて座位が可能となり、下肢の機能が高まり立位が可能となる。

●肢体不自由児にとって、頭と首や上肢に比較して下肢や下半身の動きは困難であることが多い。寝返り(姿勢変換)においても肩などの上半身から回旋しようとする。

●上から下へと発達していくという観点は、姿勢と運動の発達支援に関する長期的な目標設定とその目標設定へいたる短期的目標の設定において非常に重要なポイントである。

座位獲得の支援を行っているときから下肢、具体的には、足首・膝関節の状態に注意する。これは膝の伸展が不十分になると不安定な立位になってしまうためである。したがって、膝が屈曲した状態になるあぐら座位では、意識的に膝関節をストレッチするといった配慮が必要である。  

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2.中央から左右への発達

上肢の運動は「肩-肘-手首-指」の順番に巧緻性や分化が進んでいく。中央から末端へという発達の流れに沿った支援が重要。この順序を守らないと課題の押しつけになる。

●幼児は絵を描くとき肩を中心として大きく腕全体を動かしている。幼児が肩を大きく動かしてなぐり描きをする時期に、「線からはみ出さないように、ていねいに塗りましょう」という指導を行った場合、指を細かく動かして目と指の協応運動をする必要があり、子どもには難しく、子どもに不全感や意欲の低下をもたらすことになりやすい。  

第6節 姿勢と運動発達の支援における4つの目標

1.4つの目標と生活・学習場面との関係  

●肢体不自由とは姿勢と運動の困難であることから、姿勢と運動に関するこれらの4つの分類が姿勢と運動の発達支援における目標となる。

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2.4つの目標それぞれの内容

(1)姿勢保持

●座位、四つ這い位、立位など。自らの力で姿勢を保持できるようになることが目標である。

(2)上肢の操作

●持つ、書く、物へ手を伸ばす、食べるなど。これらは座位が保持できるようになることが前提になる。

(3)移動運動

●移動運動の獲得により子どもの活動空間は飛躍的に広がる。臥位では寝返りによる移動、肘位では這うことによる運動、四つ這い位では四つ這い移動、立位では歩行などである。

(4)姿勢変換

●あぐら座位から四つ這い位への変換では、体幹を左へ回旋させて左手を床につく。次に腰を持ち上げながら右手を床につく。こうして両手を床について腰を持ち上げた四つ這い位へと変換する。この姿勢変換では、体幹の回旋、左右の手を床につく、腰を持ち上げるという複数の運動が順序よく行われることが大事である。

3.4つの目標と自立活動の身体の動きとの関係

●自立活動の身体の動きの内容は、すべて4つの目標「姿勢保持、上肢操作、移動運動、姿勢変換」が含まれている。自立活動の身体の動きの指導にあたっては、4つの目標の観点から指導内容を選定して、総合的な課題として指導していくことが大事である。

第7節 姿勢と運動発達の支援と並行して行うこと:筋緊張障害への対応

●座位姿勢の保持には背中の抗重力作用筋の適度な緊張が必要である。

●脳の障害などにより筋緊張が低い場合には適度な緊張は難しい。このことは学習行為などに大きな影響を与える。

●過緊張に関しても運動の困難が発生する。姿勢のとり方や適切な感覚入力などの支援によって、適度な筋緊張を保つことができるようになる対応が必要である。 

第5章 姿勢と運動を支える感覚

第1節 姿勢と運動を支える固有覚と前庭覚

●固有覚と前庭覚は姿勢と運動の制御に重要な役割を果たしている。

●固有覚は筋・腱・関節の緊張に関する感覚ということができる。

●前庭覚は頭の動きと頭に対する重力の方向に関する感覚である。

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第2節 固有覚とその機能

1.固有覚とその関連用語

●身体の全体の位置、身体各部の位置、身体の動き、身体の傾きなどの位置の感覚、運動の感覚、抵抗の感覚、重さの感覚などの総合的な感覚である。

●固有覚と関連の深いことばとして、体性感覚がある。体性感覚には表在感覚(皮膚感覚)と深部感覚の2つが含まれる。表在感覚には触覚、温冷覚、痛覚があり、深部感覚には運動覚(関節の角度など)、圧覚、振動覚がある。このような感覚情報に基づいて、姿勢の保持や姿勢変換、運動が適切に行われる。

2.固有覚が姿勢と運動に果たす役割

●姿勢と運動を支える重要な感覚。

姿勢の保持や姿勢変換、あるいは各種の運動の遂行によって生じる筋肉・腱・関節の緊張に関する情報をとらえてフィードバックすることによって、適切な姿勢と運動の遂行を可能にしている。

子どもはさまざまな姿勢をとり、さまざまな運動をすることによって、自分自身の身体の各部分と全体との関係などについて学習していく。これはボディーイメージを育てることと言い換えることもできる。

第3節 前庭覚とその機能

1.「前庭」ということば及び2つの前庭覚について

●前庭覚には2つの感覚がある。1つは頭が動いている感覚、もう1つが頭に対する重力の方向の感覚。前者は内耳の蝸牛及び卵形嚢や球形嚢で受け取られ、後者は三半規管でとらえられる。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

2.前庭覚には5つの機能がある

●卵形嚢と球形嚢や三半規管が発生した信号は、前庭神経を通じて延髄内の前庭覚に伝えられ、ここには脳内を上行する経路が4つと、脊髄へ下行する経路が1つある。そしてこれらの経路に対応して5つの機能がある。  

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

3.前庭-眼球運動系

●内耳の三半規管でとらえられた頭の動きは、延髄の前庭神経核から眼球運動中枢である延髄の外転神経核、中脳の動眼神経覚と滑車神経核に伝えられる。これらの3つの核が外眼筋をコントロールして眼球を動かす。 

4.前庭-網様体系

前庭感覚や固有覚は脳幹の網様体へ集められて、脳を活性化するエネルギーに変換されて、脳の各部位へ送られる。その結果として脳の覚醒レベルを高める。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

5.前庭-視床下部系

前庭-視床下部系は自律神経系に影響する。

6.前庭-視床下部-辺縁系

●前庭-網様体系と共同して、情動を刺激して外界への関心と反応の準備状態をつくる。

7.前庭-脊髄系

内耳の迷路から脳幹の前庭神経核に入った前庭刺激は、前庭脊髄路を下降して頚筋を含む全身の伸筋の収縮を促す。

前庭刺激によって、立ち直り反応や平衡反応に必要な頚・背・腰部の伸筋収縮を促通することができる。 

●前庭・脊髄系のしくみは、パラシュート反応・ホッピング反応などの前庭刺激によって誘発される姿勢反射・反応を支える大切な経路でもある。

運動の発達支援、特に自立活動の身体の動きの指導にあたっては、前庭・脊髄系の働きを基礎知識として理解しておくことが大事である。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

こちらは「人体の正常構造と機能」という本から持ってきた図で、”前庭覚の伝導路”というタイトルがついています。これをご紹介した理由は、重要とされる前庭-脊髄系を理解するうえで良い図ではないかと思ったためです。

第6章 姿勢と運動を支える姿勢反射・反応

●姿勢反射・反応には、それらを誘発する刺激があり、これらを適切に活用することが重要である。

第1節 中枢神経系、姿勢反射・反応と姿勢と運動発達の関係

●姿勢と運動は、随意的な姿勢と運動と姿勢反射・反応の2つから構成されており、姿勢反射・反応の成熟は、中枢神経系の成熟及び姿勢と運動の発達と密接な関係がある。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

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第2節 原始反射、立ち直り反応、平衡反応

1.原始反射とは

●新生児の運動はほとんどが脳幹・脊髄レベルの反射で成立している。

2.立ち直り反応

立ち直り反応はさまざまな姿勢の保持やバランスを自動的に保つ反応であり、姿勢と運動発達支援において重要な基礎となる反応である。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

3.平衡反応

●平衡反応は立ち直り反応と同様に、さまざまな姿勢の保持や運動を自動的に可能にする反応である。

第3節 姿勢反射・反応各論

2.立ち直り反応

(1)抗重力性頭の立ち直り反応

●身体を左右や前後に傾けたときに頭が重力線上に保たれる反応。

●誘発刺激は、頭の重力の方向に対する感覚(前庭覚)と視覚がある。

●この反応は身体が傾いてバランスが崩れた際に、傾いた側と反対方向へ頭を立ち直らせて姿勢を保つ働きを担っている。

●座位を保持するための重要な反応である。

あぐら座位の子どもの脇の下や肩を保持して、ゆっくりと小さく左に傾ける。傾けることによって視覚や前庭覚が刺激されて、頭の立ち直り反応が誘発されやすくなる。その際に頭の立ち直りが少しでも出てくるかどうかに注意しながら傾けていく。頭の立ち直りがみられなかったり、少ない場合には決して大きく傾けないで元に戻すことが大事である。少しずつ何回か傾けて刺激を加えながら、辛抱強く頭の立ち直りが出てくることを待つ姿勢が大事である。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

(2)デロテーション反応(巻き戻し反応)

●デロテーション反応は仰向け(背臥位)からうつ伏せ(腹臥位)への寝返りのことである。通常、生後6か月ごろからみられる。誘発刺激は、下半身をひねった際に起こる体幹のねじれの感覚(固有覚)である。 

●寝返りは下肢を動かすことが起動となり、寝返り後は頭が無意識に挙上されている。側弯の逆方向やいつも頭を向けている側と逆側へのデロテーション反応は身体の非対称性の矯正に有効である。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

3.パラシュート反応

●パラシュート反応は「保護伸展反応」と記載されることも多い。

●座位で前方、側方、後方に倒れそうになったとき、手を伸ばして(伸展)、倒れて頭を打つのを防ぐ(頭を保護する)反応である。

あぐら座位の子どもの脇の下や肩を保持して、急速に大きく傾けることによって誘発されやすくなる。頭の立ち直り反応同様、何回か傾けて刺激を加えながら辛抱強く待つ姿勢が大事である。

●パラシュート反応は、前方、側方、後方の順番で出現する。

パラシュート反応は自動的な四つ這い移動を可能にする。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

4.平衡反応

(1)傾斜反応

●傾斜反応は座位や立位のバランスを保ち、姿勢を保持する働きを担っている。

傾斜反応は、臥位・肘位・手位・座位・四つ這い位・立位等のすべてでみられる反応である。

●身体に部分的な反応である抗重力性頭の立ち直り反応と異なり、傾斜反応は頭・体幹・下肢を含む全身の協調反応である。

●誘発刺激は抗重力性頭の立ち直り反応と同じように、視覚と前庭覚(頭の重力方向に対する感覚)の2つである。 

1人で立位が取れるようになるための発達支援において傾斜反応は最も重要な反応である。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

(2)ホッピング反応

●ホッピング反応は立位で重心が移動した際に、足を重心の移動方向へ踏み出す反応である。側方・前方・後方のホッピング反応があり、この順序で出現する。

ホッピング反応は自動的な歩行を可能にする働きを担っている。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第5節 姿勢反射・反応と姿勢と運動の抑制・促通関係

●姿勢と運動の発達支援では、姿勢と運動を促通する反射・反応と抑制する反射・反応がある。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第7章 脳性まひの筋緊張障害

第1節 脳性まひの定義と類型

1.脳性まひとは:定義

●厚生省脳性麻痺研究班(1968)によれば、脳性まひとは「受胎から新生児(4週間以内)までの間に生じた、脳の非進行性病変に基づく、永続的なしかし変化し得る運動及び姿勢の異常である。その症状は満2歳までに発現する。進行性疾患や、一過性運動障害、または将来正常化するであろうと思われる運動発達遅延は除外する」と定義されている。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

4.脳性まひの類型

●脳性まひはその類型によって神経生理学的症状等の特徴は全くといってよいほど異なっている。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

5.脳性まひと重複障害

●脳性まひ児には姿勢と運動の障害以外に多くの随伴症状がみられる。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

6.脳性まひの神経生理学的症状

●神経生理学的には、脳性まひの症状は3つに分類される。筋緊張障害、相反神経支配の障害及び姿勢反射の障害。

第2節 脳性まひにみられる2つの筋緊張障害:除皮質緊張と除脳緊張

●除皮質緊張、除脳緊張という言葉は、動物実験で動物の脳の皮質を取り去ったり(除皮質)、皮質に加えて脳内の基底核とよばれる高さ付近で脳の線維を切断したり(除脳)して、脳の働きを研究したことに基づく言葉である。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第3節 脳性まひ痙直型の除皮質緊張と対応の原則

1.除皮質緊張とは

●除皮質緊張とは、上肢屈曲・下肢伸展を最大の特徴とする筋緊張障害である。

脳性まひでは痙直型(大脳皮質や錐体路に問題)にみられる筋緊張障害である。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

2.除皮質緊張による身体の過剰な伸展と身体の変形など

除皮質緊張は下肢伸展・内転・内旋の状態のため、股関節の亜脱臼や脱臼などの障害が生じることが多い。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

3.除皮質緊張が姿勢と運動に及ぼす影響

●痙直型脳性まひ児は生活及び学習に多くの困難に直面している。したがって、除皮質緊張の影響を減少させ、これらの困難を克服する支援が重要である。  

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

4.除皮質緊張への対応

(1)除皮質緊張への対応の原則

除皮質緊張と反対の動かし方や姿勢をすることが原則である。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

(2)一か所の関節を緩めると他の関節の緊張も落ちる

一か所の関節を緩めることで、たとえば足指を背屈させることで、他の関節の屈曲・外旋・屈曲・外転も同時に起こる。それによって、下肢全体の緊張も同時に低下する。この一か所の関節を動かすことで他の関節も連動して動く作用を「共同運動」とよぶ。 

共同運動は、脳障害によって上位中枢の抑制機能が低下・消失したときに起こる。脳障害による陽性徴候の中でも重要なもので、脊髄レベルの原始的な運動が、上位中枢からの抑制が弱まったために顕在化したものである。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

5.除皮質緊張への対応におけるあぐら座の効用

あぐら座位除皮質緊張による過剰な伸展と過緊張を減少させるための効果的な姿勢であり、仰臥位の後に下肢を屈曲・外転・外旋した状態であぐら座位へ姿勢変換するとよい。  

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

6.学校や家庭であぐら座位をどれくらいの時間とればよいか

「がんばらないことが大事」「楽しく座れることを心がける」と答えている。1回の持続時間は短くてもよい。結果的に1日に数十分のあぐら座位をとっていたということが望ましい。

数か月で「股関節の開きがよくなってきた」「立位や歩行のときに下肢の交叉が軽くなってきた」などの効果が期待できる。

7.床上でのあぐら座位と座位保持いすの比較

座位保持いすはあぐら座位ほどではないが効用があるが、長時間の場合、除皮質緊張に悪影響を起こす恐れがある。特に、下肢内転による股関節の可動域低下や関節拘縮に気をつけなければならない。床でのあぐら座位やまたがることができるいすでの座位など、多様な座位を活用することが大事である。

第4節 痙直型の筋緊張の特性と支援センターの原則

1.痙直型の筋緊張

●痙直型の筋緊張は高い緊張(過緊張)で一定していることが特徴である。

2.痙直型の過緊張がもたらすこと

●静止した状態や姿勢が固定された状態で続きやすく、身体の変形や関節拘縮が進行しやすい。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

3.支援の原則:動くことの重視

姿勢と運動の支援は、自分で動くことあるいは他動的に動かすことが原則となる。(下記の表7-12に書かれた内容がとても重要だと思います)

なお、相反神経支配とは主動筋(例えば、大腿四頭筋)が収縮しているときには、反対側の拮抗筋(ハムストリングス)は弛緩するように神経が調整するというものです。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

相反神経支配と痙直型脳性まひの相反神経支配の障害左下の四角で囲んだ部分)

腕を伸ばすには上腕二頭筋が弛緩(脱力)する必要があります。そのための指示は脳から出される収縮抑制命令というものですが、その命令が不十分(抑制不全)だと、腕を伸ばすことはできません。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第5節 アテトーゼ型の筋緊張の特性と支援センターの原則

1.アテトーゼ型という用語について

●アテトーゼとは筋緊張障害の一種であり、錐体外路障害の中でも基底核障害によって起こる不随意運動を意味している。

●錐体路障害である痙直型、錐体外路障害の中でも小脳障害に起因する失調型とともに慣習的に用いられている。

●筋緊張の変動とは筋緊張が一気に高くなったり一気に低くなったりと急激に変化すること。

こちらのページのほぼ中断に、痙直型とアテトーゼ型の比較表が出ています。

官能的感触と成長 

今回のブログは、“スキンシップケア(C触覚線維)”という以前アップしたブログに関係する内容であるため、そのブログに「追記」としてご紹介することを考えていたのですが、あらためて読み返してみると、同じく過去ブログの“医療マッサージ研究”にも載せたいし、そもそもこの本の存在を教えてくれた“アナット・ダニエル・メソッド”にも追記したいという気持ちが強くなりました。そして、それであればとの思いから、短い内容ですが新しいブログとしてアップすることにしました。

なお、“アナット・ダニエル・メソッド”とは、脳の可塑性に着目した小児障害へのアプローチが有名です。私は小児障害児と向き合うときに、このメソッドを意識するようにしています。

ブログは『脳の中の身体地図』の「10章 心と身体が交わる場所」にコラムとして掲載されていた「官能的感触の大切さ」から抜き出しています。 

著者・サンドラ・ブレイクスリー、マシュー・ブレイクスリー

出版:インターシフト

発行:2009年4月

痒み、くすぐったさ、痛み、温度……官能的感触? 官能的感触は、この感覚のリストの中では浮いているように思える。情動面から見て重要な触覚と言えば、総じて一種の軽い触覚で、覚えておられると思うが、これは固有感覚情報や高分解能の触覚情報と同様に、脊髄にあるはるかに新しいほうの経路を介して脳に伝達される。ところが、官能的感触は、痛みや痒み、くすぐったさ、温度のように、いにしえから存在する経路を経て脳に流れ込む。官能的感触はそんな仲間に入って、いったい何をしているのだろう?

愛情のこもった触れ合いやじゃれ合いは、ほ乳類の身体意識と脳の発達の中核をなす。成獣になると群れを作らずに単独で行動するようになるほ乳類でさえ、母親や兄弟姉妹との親密で愛情深い接触の中で生のスタートを切る。ほ乳類は授乳し、親密な絆を深めるために舐め合い、鼻をすり寄せ合い、生きていく上で何が起きても困らないようにボディ・マップに磨きをかけるために、手加減したけんかごっこに興じる動物である。要するに、ほ乳類の正常で健全な脳の発達には、幼少期に官能的感触に頻繁に触れることが不可欠なのだ。数億年前、ほ乳類時代以前、は虫類時代以降のほ乳類の祖先にも、きっと同じことが言えたはずだ。そこ頃、ほ乳類は恐竜の影に怯えながら、結束の強い家族という生存様式を発達させつつあった。つまり、この官能的感触という特徴は、ほ乳類誕生の頃までさかのぼることができるのだ。新しい感覚経路を使わず、古い感覚経路に留まっている理由もそこにある。 

画像出展:「GAHAG

ネズミの母親は子どもたちを舐めて落ち着かせる。母親に舐めてもらうという官能的感触を頻繁に味わうことがなかった赤ちゃんネズミは、せっせと舐めてもらったネズミよりも不安が強く、神経質なネズミに育つ。しかも、この循環は自然に増強していく。情動面に障害が残ったネズミが成長して母親になると、普通のネズミほど子どもを舐めようとしない。こうして情動的な問題が次世代へと受け継がれていく。モントリオールにあるマギル大学で行動・遺伝子・環境研究プログラムの責任者の任にあるマイケル・ミーニーが数年前に実施した画期的な研究で、この子育てパターンの背後に潜んでいる正確な神経・遺伝メカニズムが解明されている。

官能的感触は霊長類と人類にとってはとりわけ、決定的に重要な意味を持つ。これは、スキンシップに飢えた子どもたちが大人になってから情動面の問題を抱えるようになるということだけのことではない。それも非常に重大な問題だが、もっと深い、身体の成長や健康、恒常性のレベルにまで影響が及ぶのだ。霊長類の赤ん坊にとって官能的感触がどんな役に立つか、考えてみよう。頻繁にやさしく撫でさすられると、最低限の世話しかしてもらえなかった場合に比べて、体重が倍の速度で増加する。呼吸や心拍も健康的になるし、敏捷になり、気むずかしさがなくなり、よく眠るようになる。授乳期を過ぎてよちよち歩きを始めるまで、こうしたよい影響が続くのである。

愛情のこもった触れ合いは、栄養を摂取したり、音楽を聴いたり、おもちゃで遊んだりするのとは異質に思えるかもしれないが、確かに同じ類のことなのだ。』

画像出展:「GAHAG

まとめ

1.やさしく撫でられると情動面だけでなく、身体の成長や健康、恒常性のレベルにまで影響を及ぼす。

2.官能的感触とは食事や睡眠に匹敵するくらい大切な行為である。

共感とミラーニューロン

心の問題が疑われる“うつ症状”と異なり、“うつ病”と診断される深刻な病態は、心の問題ではなく偏桃体の暴走や神経伝達物質のセロトニンが関与する脳の問題とされています。※ご参考:“うつ病治療(TMS)”。

一方、“共感”も性格や心が関係しているものと考えがちです。しかしながら、この“共感”にも脳が関係している場合があります。それは“ミラーニューロン”に起因するものです。このミラーニューロンは大脳皮質の奥深く折りたたまれた領域に多く存在しているそうです。

共感が心の問題とは限らないということは知っておいた方が良いと思い、ブログのテーマに取り上げました。

著者・サンドラ・ブレイクスリー、マシュー・ブレイクスリー

出版:インターシフト

発行:2009年4月

他人の身になる能力 

『1926年の映画「ドクター・ノー」で、ジェームス・ボンドが目を覚ますと、タランチュラが一緒にベッド・インしていた。彼の腕をゆっくりゆっくりと這い上がって行くクモに目をくぎ付けにしながら、あなたがその毛に覆われた細長い脚を我が身に感じることができたのは、ミラーニューロンが一生懸命働いていたからである。

情動の読み取りと共感にかかわるミラーニューロンは、皮質の奥深くに折りたたまれたふたつの領域、島皮質前帯状皮質に存在している。

島皮質

『Johann Christian Reilは、1796年に Exercitationum anatomicarum fasciculus primus de structura nervorumを発表、その中で第5の葉の存在を指摘した。これが島に関する初の学術的な記述である。しかし記述は本文のみにとどめられ、図示されなかった。Reilの発見した島は、現在も重版中のGray解剖学書で初めて図示され、「Reilの島」という呼称を不朽のものとした。』

画像出展:「脳科学辞典

前帯状皮質(ACC)

『前帯状皮質は、大脳半球内側面の前方部に存在する、帯状溝周辺および帯状回の領域であり、ブロードマン24野、ブロードマン25野、およびブロードマン32野に相当する。ACCは特にヒトにおいて、担う機能の違いから、行動モニタリングおよび行動調節に関わる領域、社会的認知に関わる領域、および情動に関わる領域に大きく分かれる。』

画像出展:「脳科学辞典


他人の顔に嫌悪の表情を見て取ると、あなたの島皮質のミラーニューロンがあなた自身の身体に嫌悪感を生じさせる。嬉しそうな顔を見れば、あなたも嬉しくなる。悲しい顔を見ると、悲しくなる。痛そうな顔を見れば、自分まで痛くなる。他人の二の腕に注射針が突き立てられるのを見ると、あなたの腕の同じ筋肉が緊張して、息づかいまで速くなる。

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの神経科学者タニア・シンガーは、恋人同士のカップルを募集し、その片方(女性)を脳スキャナにかけて、痛みを伴う電気刺激を与えた。どの女性もみな、自分が刺激を受けたときだけでなく、恋人が刺激を受けるのを見たときにも前帯状皮質の反応を示した。しかも、共感に関する質問票のスコアが高かった女性ほど、この脳領域の活動は活発だった。これは、あなたが赤の他人も含めた自分以外の人の痛みに共感すると、ある程度の痛みを実際に感じることを意味している。ちょうど前頭葉と頭頂葉のミラーニューロンが行為の観察と実施を両方とも表象するのである(女性のほうが男性よりもミラーニューロンの反応が活発で、共感も強い傾向にあるが、その理由はいまだに解明されていない。男性においてはテストステロン濃度が高いことが、何らかの共感を抑えているのかもしれない。一般的には、女性は他人の心理状態に注目して適切な感情表現により対処しようとする傾向が強いエンファサイザー=emphasizerで、男性は物事を系統だてて考えようとする傾向が強いシステマタイザー=systematizerである)。

左側が前面(顔)、右側が後面(後頭)になります。

画像出展:「脳の中の身体地図」

誰かがあくびをすると、あなたもあくびをする。これはミラーニューロンが活動しているせいだ。誰かがあごを掻いているのを見ると、自分のあごもムズムズしてくる。誰かが怖がっているのに気付くと、理屈抜きに不安が心をよぎる。この感覚が闘争・逃走反応の運動準備を身体にさせることもある。危険が潜んでいると、群衆の間に不安が広がる。誰もが情動を高ぶらせて、逃げ腰になる。

自分が触れられても、他人が触れられるのを見ても、同じ神経回路が活性化する。たとえば、ケイゼルス博士は被験者を脳スキャナにかけて、むき出しにした脚を筆で刺激し、どのボディ・マップが“明るくなる”か調べた。予想どおり、一次触覚野と、それに加えて特に二次触覚マップが活性化した。次に、ほかの人が同じ場所に触れられているビデオ・クリップを見せたところ、やはり二次触覚マップが活性化した。そこで、人の脚の代わりにペーパー・タオルのロールに触っているビデオ・クリップを見せると、この回路の活動は弱くなった。筆を脚に近づけるだけで触れない場合には、触覚野は賦活しなかった。ケイゼルスによると、触覚は他の人々が生きていることを確認するための、人間社会において特権を認められた感覚だそうだ。

自閉症とミラーニューロン

自閉症の犯人捜しで今、第一容疑者と目されているのがミラーニューロンである。先天性脳障害である自閉症の主要特徴は共感、模倣、言語スキル、そして、他人の心的状態の内的モデルを形成する能力の欠如だ。言い換えるなら、ミラーニューロンが専門にしている機能がそっくり欠如しているのである。先頃、自閉症児のミラーニューロン系は脆弱ないし欠如していることをV・S・ラマチャンドランが確認した(しかも、皮質のボディ・マップがごちゃ混ぜになっていた。これが重大な意味を持つか否かはいまだ解明されていないが、何らかの形でミラーニューロン系の欠損と関係している可能性がある。自閉症児は触れられていることに過敏でもある)。彼らの精神的孤児、遊びの欠如、乏しいアイ・コンタクト、生物界に対する無関心はすべて、ミラーニューロン系の機能不全と一致している。自閉症児が顔の表情をまねしようとしても、その感情や意味は理解していない。悲しい、腹が立つ、嫌だ、びっくりした……という感情がどういうものか、周囲の人々の気持ちと結びつけることをしない。顔や身体が情動を表すのに重要であることを感じていないらしい。見て、行うことによって学ぶことができないのである。

まとめ

1.大脳皮質の奥深くに折りたたまれた島皮質と前帯状皮質には、情動の読み取りや共感に関わるミラーニューロンが存在している。

2.心の問題とされやすい情動や共感に関しては、脳のミラーニューロンが関与している可能性があり、特に自閉症児などとコミュニケーションするときは、この点を頭に入れておく必要がある。

脳の可塑性とボディ・マップ

限界を超える子どもたち』は2019年2月にアップした“アナット・バニエル・メソッド”の原本です。この本のインパクトは凄まじく、私は小児障害児へのマッサージの基礎に、このメソッドを据え置こうとしています。

本書には「9つの大事なこと」というのがあるのですが、今回のブログのきっかけとなったミラー・ニューロンは5つめの「内なる熱狂」の中に出ていました。

喜びを深める力

たとえ言葉にしなくても、あなたが心の内で熱狂すると、子どもはそれを感じとります。親子のあいだで交わされるそのような無言のやりとりを、私は何千と見てきました。心強いことに、近年、科学もこれを立証するようになりました。

1996年、イタリア・パルマ大学の神経科学者ジャコモ・リツォラッティがサルの脳のミラー・ニューロンの活動をつきとめました。彼はのちに「ミラー・ニューロンは、私たちが推論によってだけでなくシミュレーションをすることによって、考えることではなく感じることによって、他者の心をつかみとることを可能にする」と述べています。科学ライターのサンドラ・ブレイクスリーは「人間の脳には他者の行為だけでなく、その意図、また、態度や感情がもつ社会的意味を読みとるミラー・ニューロンのシステムが複数ある」と記しています。

科学研究から読みとれるのは、あなたが心を熱くすることが子どもの脳におおいに影響するということです。あなたが喜びを深め、それを熱狂にまで高めることが、子どもが自分の変化(違い)に気づき、それを感じとることを助けます。そのとき子どもがあなたから感じる前向きの感情が、その子の脳に、「この変化は大切なので刻みこむべきだ」と伝えます。子どもはあなたの熱狂―喜びや満足感、希望的な気持ち―を感じとります。その一方で忘れてはならないのは、子どもの脳は周囲の人々の落胆や失望、無力感、無関心といった感情も鏡のように写しとるということです。』

人間の脳には他者の行為だけでなく、その意図、また、態度や感情がもつ社会的意味を読みとるミラー・ニューロンのシステムが複数ある」と説いたサンドラ・ブレイクスリーの著書は、ワシントンポスト紙の2007年度ベストブック(科学・医学部門)に選ばれた『脳の中の身体地図』でした。副題には「ボディ・マップのおかげで、たいていのことがうまくいくわけ」となっています。 

著者・サンドラ・ブレイクスリー、マシュー・ブレイクスリー

出版:インターシフト

発行:2009年4月

こちらは原書ですが、発行は2007年9月なので約1年半前ということになります

この本から今回の“脳の可塑性とボディ・マップ”を含め、以下の5つに分けてブログにアップしたいと思います。

1.“脳の可塑性とボディ・マップ

2.“運動イメージ法

3.“脳卒中のリハビリテーション

4.“共感とミラー・ニューロン

5.“官能的感触と成長

知能は身体を必要とする

『脳のマップは身体のみならず身体周囲の空間も図示する、拡大、収縮して日常生活の中に存在する事物を取り込む、しかも、自分の育った文化によって形作られるという考え方は、科学にとっては極めて斬新だ。今では研究により、脳がボディ・マップだらけであることがわかっている。体表のマップ、筋系のマップ、意図のマップ、行動する能力のマップ、まわりの人々の行動と意図を自動的に追跡して列挙するマップさえある。

これらの身体中心のマップは実に可塑性に富んでいて、損傷や経験、訓練に応じて大幅な再編成を見せる。形成されるのは幼少期なのだが、経験を積むにつれて成熟し、速度こそ衰えてくるものの、生涯変化し続ける。ただし、いくら、こうしたボディ・マップが自分という存在の中心だと言っても、この我が身の化身はたいてい、意識の端をちらりとかすめる程度で終わっている。まして、そのパラメータ(変数)が年々刻々と絶えず変化し、適応しているとは思いもしない。意識の舞台裏で続けられている膨大な作業を、あなたはまるで理解していないだろう。だからこそ、身体化が実に自然に感じられるのだ。ボディ・マップの持続的な活動は、あまりに継ぎ目なく、自動的で、流れるようにしっくりなじんでいるので、それが起きているとは気づかないし、人間性や健康、学習、これまでの進化の過程、サイバネティックス[人工頭脳学]によって広がる未来に対する興味深い洞察を生み出しているとは、なおさら思うまい。

身体は脳を入れて動き回るための単なる運搬具ではない。両者の関係は完璧なまでに互恵的だ。身体と脳はお互いのために存在している。動かすことも止めることも自在で、触れるのも躱すのも可能、やけどもすれば温まりもする、凍えたり冷えたりする、緊張することもあれば休めることもできる、飢えればむさぼり食って栄養を付ける。そんな身体は感覚のレーゾン・デートル、存在理由だ。そして、皮膚と身体から感じる感覚―触覚、温覚、痛覚など、本書で取り上げるほんの数種の感じる感覚が、あなたの心の基盤となる。他の感覚はみな、相対的な利便性のために追加されたものに過ぎない。せんじ詰めて言えば、人間は視覚や聴覚が無くても、元気いっぱいに暮らしていける。両方の感覚に恵まれなかったヘレン・ケラーのような人々さえ、心身両面で力強く成長できるのだ。生まれながら耳の不自由な人々の脳は聴覚マップを構築しないし、先天的に目が不自由な人々の脳が視覚マップを形成することはないけれども、視聴覚障害がある人々もボディ・マップを持っている。それにひきかえ、景色や音を伝えるべき身体のない視覚と聴覚は、物理的に空っぽな情報パターン以外のなにものでもない。意味は動作主性(行動し選択する能力)に根差し、動作主性は身体化によって左右される。実を言うと、これこそ人工知能学会が数十年にわたってフラストレーションを味わった末に、苦労してようやく得た教訓である。真に知的なものは、身体のないメインフレームでは発達しようとしない。現実の世界には、肉体を持たない意識など存在しないのだ。

柔軟に形を変える無数のボディ・マップが全部合わさって、“私らしさ(me-ness)”という立体感のある主観的感覚と、周囲の世界を把握してうまく渡っていく能力を生み出す。ボディ・マップは、全体の模様が感情のある身体化された自己を創出する曼荼羅だと考えればよい。身体化された自己の創出には不要なその他の心的能力、つまり視力、聴力、言語、記憶はどれも、ちょうど骨格にぶら下がっているさまざまな器官のように、この身体の曼荼羅マトリックスに支えられている。発達という観点から言えば、これらのボディ・マップなしには、自己認識を持った思考する人になることはできないのである。 

『脳にある、巨大でありながらもしっかりと統合されたボディ・マップのネットワークについて説明するには、曼荼羅こそ魅力的なメタファー[隠喩]であると同時に、おあつらえ向きの縮小版だ。ボディ・マップ網を曼荼羅に例えると、周りの諸尊は皮質にある大小多数のボディ・マップで、すべて相互・複雑に関係している。中央の尊像はそれらの複合産物、つまり、全体としての不可分な身体化された自己である。』

画像出展:「ウキメディア

それは少し大げさではないかという向きには、こう考えていただきたい。たとえば子猫などの幼いほ乳類を、脳の初期発達が進む重要な時期を通して抱いて歩き、環境中のあらゆる事象を目に触れさせる一方で、自分ではけっして動き回らないでおくと、この哀れな生き物は事実上、生きるということを理解できない猫に育ってしまう。ある程度の光や色や影は知覚できるから、視覚系の最も基本的な生来の能力は備わっているわけだが、奥行き知覚力と物体認識は惨憺たる有り様になる。眼と視神経は非の打ち所なく正常で無傷でも、高次視覚系はほとんど役に立たない状態だからだ。

どうしてこんなことになってしまうのか? 動物が目で見るという行為をしながら成長すれば、脳にある視覚マップのネットワークも正常な方向に発達するはずではないか? 形状や濃淡、運動、色、視差、大きさ、距離に関する視覚情報に満遍なく触れていれば、自己可動性の欠如を十分補えるだろうに? 意外だが、答えはノーだ。別の要素が要る。世界の隅々まで探索するために自分の身体を自由に駆使する能力である。成長期にあるほ乳類の幼獣が歩き回ると、自分自身の身体運動からフィードバックがあり、それが目にしたものの意味を教えてくれるのだ。一歩ずつ歩を進め、途中で休憩し、歩くペースを上げるたびに、重要な感覚情報がボディ・マップのネットワークを介して上位の脳神経系へ伝達される。すると、目から流れ込んでくる、本来なら無意味な染みや色、影の意味を幼獣が理解するために必要な情報が、このネットワークから幼獣の発達途上の視覚系に送られてくる。ハイレベルな視覚情報に触れていても、傍観者の域を出なければ、そうした視覚情報が本当は何を意味するものなのか、脳はけっして学習しない。

ここまで言えば、視覚が実は曼荼羅の居候で、腰の低い共生者だと、うすうすわかってきたはずだ。すべての“特殊”感覚[視覚、聴覚、味覚、嗅覚、前庭感覚(平衡感覚)]に同じことが言える。身体の曼荼羅はそうした感覚の中心にある統合者であり、心の究極の基準系であり、知覚の基礎をなす単位系である。感覚は身体化された自己に照らし合わせなければ意味はなさないのだ。

さて、身体の曼荼羅の全体像をなんとなく理解していただきたいところで、そろそろ的を絞って、本題に移ることにしよう。身体の曼荼羅のほかの要素を土台のように支えている一次感覚マップと運動マップである。』

自分に身体のあることがわからない 

『触覚をベースにしたペンフィールド式ボディ・マップについては、もうご理解いただけたことと思う。 

ペンフィールドのホルムンクスとは

左が一次体性感覚野、つまり、触覚とかかわる感覚に基づいたボディ・マップ。右が一次運動野に存在する、随意運動の基本ボディ・マップ。図は、脳の右半球。左半球にもほぼ同じマップが対になって存在している。

ワイルダー・ペンフィールドは1930年代、モントリオール神経学研究所の脳外科医であった。てんかんの病変部の切除を目的とした本番手術の準備として、痛覚受容器を持たない脳に電極をあてて原因と思われる腫瘍などの異常組織を何時間も探し続けた。

ペンフィールドが尋ねる。「今、どんな感じがしますか?」メアリー(仮名)は左手がチクチクしている感じがすると答える。ペンフィールドはそのスポットにナンバーを振った小さな付箋を貼り付ける。結果は、手術室の外に座っているガラス越しに覗いている秘書にも書き取らせていく。

その後20年にわたり、ペンフィールドは脳組織の同じ帯状領域を調べて、大勢の患者から同様の反応を得た。こうして粘り強く収集したすべてのデータをもとに、ペンフィールドが作成したのが身体表面の完全な脳マップである。彼は遊び心でこのマップに中世哲学の用語で“小人”を意味するラテン語の“ホムンクルス”というニックネームを付けた。

画像は『脳の世界』さまから拝借しました。

“ロンドンの自然史博物館にあったホムンクルスの模型。赤が体性感覚野、青は運動野”

あなたの身体の表面には至るところに、優しい愛撫や圧力、疼痛、熱さ、冷たさを担当するセンサがある。ところが、身体のフェルト・センス(フェルトはfeelの過去分詞形。たとえば、“胸がしめつけられる”など、なんとなく感じられる感覚)、つまりボディ・スキーマにはさらにふたつ、ほぼ完全に意識外で機能する構成要素がある。科学者たちはこれらの感覚チャネルの存在を何十年も前から承知していたのだが、今ようやく、その源である特定の脳領域にたどり着こうとしている。ひとつは身体の内部からの信号を読み取る領域、もうひとつは内耳からの信号を読み取って、平衡感覚を生む領域である。

ここで少し時間を割いて、自分の身体を構成している筋肉、骨、関節、腱を思い浮かべてみよう。これらの組織には、筋線維の単収縮、骨にかかる機械的ストレス、関節の角変位、腱の伸展など、小さな運動を検出するための特殊化した受容器がある。こうしたセンサは変化を感知するたびに脳に情報を送り、あなたの空間内の位置や体位に関する感覚を更新する。この情報を伝える信号は、まず、一次触覚マップにマッピングされた後、分岐してフィルタをかけられ、身体の曼荼羅にある他の高次マップへと上がっていく。その高次マップが身体の運動とその運動に関する予測を誘導するわけだ。

これらのセンサは体重と姿勢を計算して、固有感覚なるものを生み出す。これは、“自分自身を認識する知覚”という意味だ。飲酒検査に引っかかったとしたら―つまり、直線上をまっすぐ歩けなかったり、自分の指で自分の鼻に触れられなかったりしたら―、それは自分が空間内のどこに位置していて、四肢をどう動かしているかを認識する感覚が正常に機能していないからである。成長スパート、つまり、成長が加速する時期には、一時的にこの身体感覚を失って、足や脚があるべきところにないように感じる小児やティーンエイジャーもいる。新しい技能やスポーツを身につけるときは、練習によってこの身体感覚を磨き直さねばならない。

ボディ・スキーマの情報源には、“マッスル(筋肉)・メモリー”という記憶の図書館もある。よく使われる用語だが、少々不正確だ。これらの記憶は、“マッスル・メモリー”、つまり筋肉の記憶という名が示すとおりに筋肉にあるのではなく、実は脳の運動マップに存在しているからである。マッスル・メモリーがあるから、自分の身体がどう動くのか、何ができるのかと直感的に悟ることができる。この暗黙の知識の例としては、身体をどこまで曲げられるか、背中のどの辺なら手が届くか、食卓に並んでいるもので、身を乗り出さなくても取れるのはどれかといったことが挙げられる。このような理解と判断の大半は無意識に行われる。身体の曼荼羅が絶えず計算し、それに基づいてボディ・スキーマを最新の状態に保っているからである(区別を明確にしておくと、身体の曼荼羅は脳にあるボディ・マップの物理的ネットワークで、ボディ・スキーマはそれらのマップによって構築された、身体が感じ取った経験である)。』

まとめ

1.ボディ・マップの形成は幼少期だが、速度こそ衰えてくるものの生涯変化し続ける。

2.身体は脳を入れて動き回るための単なる運搬具ではなく、両者の関係は互恵的であり身体と脳はお互いのために存在している。

3.皮膚と身体から感じる感覚―触覚、温覚、痛覚などの感覚が心の基盤をつくる。

4.発達という観点から言えば、ボディ・マップなしに自己認識を持った思考する人になることはできない。 

5.体を動かすことによって得られた感覚情報が脳へフィードバックされ、目から流れ込んでくる情報と統合することによって、脳は目にしたものの意味を理解する。

6.筋肉、骨、関節、腱に存在するセンサ(受容器)から脳に送られた情報が、空間内の位置や体位に関する感覚を生みだす。これは自分自身を認識する知覚であり、固有感覚と呼ばれている。

脳室周囲白質軟化症

今回は業務委託で行っている訪問の仕事の話になります。

およそ半年前、脳室周囲白質軟化症(PVL)の小児障害の患者さま(3歳)へのマッサージがスタートしました。脳室周囲白質軟化症(PVL)は早産による脳室周囲の白質に起こる虚血性脳病変です。血管の発達遅れに伴い脳血管の血流が減少することに起因していますが、脳室に近い部位には、下肢に行く神経線維が通っているため、四肢の痙攣性麻痺や弛緩性麻痺が懸念されます。 

 

こちらは『こどもの発達を考える衝動眼鏡の日常』さまのブログに掲載されていた脳室の図ですが、“脳室周囲白質軟化症 PVLとは”と題するテーマで、大変わかりやすい説明となっています。

 

今回の患者さまの場合も課題は下肢に見られました。顕著だったのは「尖足」(下図右から2番目)でした。また、患者さまとタオルを使った綱引きの遊びをしたときに、X脚(下図中央「外反膝」)になってしまうということに気がつきました。ぐっと踏ん張るためには、腰を落とし膝を外側に開く姿勢が一般的だと思いますが、そもそも腰を落とすことができないということが問題のように感じました。 

こちらの図は『東京リハビリ物語』さまのサイトの“整形外科的診断学”から拝借しました。

 

 

ここで、私は2017年3月にアップした“地に足を着ける”といブログを思い出しました。そして、特に次の内容が重要なのではないかと考えました。

土台をしっかりさせるということは、まさに”地に足を着ける”ことです。このことは”整った身体”を作るコツです。そして、情緒の安定や集中力の向上、意欲の増進につながります。”地に足を着ける”には足首の柔軟性と調整力が必要です。足首が使えていないと、つま先立ちとなり、首が緊張し前傾しやすくなり、その結果、姿勢が悪くなります。』  


足首での姿勢調節ができないと、頭(上体)で調整することになり、ボディバランスにも大きな影響が出ると思います。

なお、これらの絵は、栗本啓司先生の「自閉っ子の心身をラクにしよう!」からの転載です。

 

 

一方、脳室周囲白質軟化症(PVL)のリハビリに関する情報が何かないか調べてみました。

その時、見つけたのが『チャイルド・リサーチ・ネット(CRN)』というサイトの中にあった“運動障害をもつ子どもに対するリハビリテーション”という論文です。

クリックして頂くとダウンロード(12枚)されます。

 

 

この論文で特に注目したのは、「9.1対象と介入方法」とリハビリの様子と効果を写した「図4・図5」でした。

『対象は、新生児期のMRIでPVLと診断され上肢に明らかな麻痺のない乳児8名(表1)。一般的にPVLによって痙性両麻痺をもつCP(脳性まひ)児は、成長の過程で上肢優位の活動となり、下肢への注意や知覚、身体表象の発達不全、学習性不使用といった状態になりやすいため、出生後早期より下肢に視覚的に注意を向けさせて遊ぶことを通して、運動と随伴的に得られる視覚、聴覚、体性感覚フィードバックの統合から下肢の身体表象の獲得、足部の空間的コントロールを学習をさせた。これは、過去の下肢に対する介入の目的となることが多かった体重の“支持機能”、移動のための“推進機能”とは異なる“空間でのコントロール機能”に着目したものであり、定型発達児において、体重支持や移動を獲得する以前の早期に足部の空間的コントロールが可能になるという先行研究に基づくものである。』

これを元に思いついたのが、カスタネットを用意し椅子に腰かけ、カスタネットと自分の足をよく見てもらいながら足首の運動(足関節の背屈・底屈)によりカスタネットの音を出すという遊びです。

単純に足関節の動作を行なうより、音を出すという面白さや足首の動きを確実に目で確認するという効果を期待して、この遊びをマッサージの前か後に数分やってみようと考えました(最初に「本来は足でたたくものではないよ」と伝えました)

初回は興味をもって積極的にトライしてくれました。しかし、これは思っていた以上に難しいものでした。足関節は尖足のままほぼ固定し、膝の上げ下げ(股関節の屈曲・伸展)でカスタネットを叩こうとしてしました。ここで私は「そうではなく、こんな感じだよ」と言って(否定して)、ゆっくりと足首を上下(足関節の背屈・底屈)させてみましたが、なかなかうまくいきませんでした。

2回目は、「今日はマッサージからやろうか」と話したところ、前回と同じことをやりたいとのことだったので、前回とは少し高さの異なる椅子に変えて同様な試みをしてみました。しかしながら、やはりうまくはいきませんでした。ここで私は心の中で「これは難しい、失敗だった」と思ってしまいました。そして、次の訪問からはマッサージについても、拒否する傾向がみられるようになりました。マッサージ前後の数分という短い時間であれ、安直な気持ちでリハビリに挑戦したことが結果的にはマイナスとなりました。

レビュー

この失敗例に対し、先月学習した”アナット・バニエル・メソッド”に照らし合わせ、何が適切でなかったのかをレビューをしてみることにしました。

最初に、かなり大雑把ですが「あるべき姿」としてまとめ、続いて「9つの大事なこと」に突き合わせて問題点を個別に洗い出しました。 

 

著者:アナット・バニエル

出版:太郎次郎社エディタス

発行:2018年7月

あるべき姿

まず、患者さまの状態、状況の理解を深めることが第一です。続いて、「できないこと」を知ることも必要ですが、支援の扉は「できること」の近くにあると考えるべきです。これは“アナット・バニエル・メソッド”の中では「動きのエッジ部分」と言われているものです。また、「できること」に目を向けることは、脳にとって失敗のパターンを刻むリスクを遠ざけるという利点もあります。

そして、変化を起こすエンジンは患者さまの脳の働きです。さらに支援者とのつながり、脳と脳とのつながりが土台となります。これは支援者の影響力が大きいことを意味します。そのため支援者にはリーダーになる(いい加減なことはできない)という覚悟が求められます。

エンジンを動かすためのガソリンに相当するものは、「気づき・違い」などですが、「学びのスイッチ」がオンになっていることも非常に重要で、エンジンに大きな力を加えます。また、楽しさ、喜び、好奇心などのポジティブな心も極めて重要です】 

 「9つの大事なこと」との突合せ

1.動きに注意を向けること

脳は「失敗のパターン」も再生してしまう

『訓練を機械的・反復的に行なうとき、ある動きができない、うまく動けないという経験に加え、訓練の過程で子どもが味わう失敗に伴う感情も脳の失敗のパターンに刻まれる。』

これは、子どもの状態、状況を正しく理解するためのていねいな観察が前提であり、思いつきでの働きかけなどは慎重でなければならないということだと思います。

2.ゆっくり

スローダウンで「感じとる脳」に

何かができないときは、その能力がまだないということであり、能力を獲得するためには、脳がより細かく差異をとらえ、無数の新しい神経細胞のつながりをつくり、それが統合されなければならない。そのチャンスを最大にするためには、取り組みのペースを思いきり落とすことです。「ゆっくり」は脳の注意を引き、子どもに感じる時間を与える。

これは、新しい動きの習得には脳の対応が必須であり、「ゆっくり」を基本とし焦ることなく、じっくり取り組むことが必要であるということだと思います。

3.バリエーション

動きのエッジ部分にやさしく働きかける

お子さんがすでにできることにバリエーションをとりいれる。

間違いを活用する

子どもが何かを間違った方法でしても、修正しないことです。そう、修正はしません(もちろん、その行動が本人や周囲に危険をおよぼすときは、直ちにやめさせること)。あなたの目には間違いが明らかであっても、本人は気づいていないことが多いのです!間違いを修正しないとは、間違いをなかったことにするという意味ではなく、バリエーションをとりいれるきっかけにするということです。子どもの間違いは、バリエーションを体験するための贈り物です。子どもが間違いをしたら、その間違いに変化をつけてみましょう。

これは、「間違い」という受けとめではなく、「想定外の反応」として評価し、新たなバリエーションのための材料として活用しようというものです。このような意識は全くありませんでした。また、できることにバリエーションをつけるという着想も全くありませんでした。

4.微かな力

感情表現で力をぬく

子どもと向きあうときの感情を和らげる。声をやさしくし、気を楽にもち、子どもに対する期待を減らす。

ここでは、「子どもに対する期待を減らす」ということが大事だと思いますが、同時に「楽しい気持ち」や「つながる気持ち」などもとても大切だと思います。

5.内なる熱狂

喜びを深める力

科学研究から読みとれるのは、あなたが心を熱くすることが子どもの脳に影響を与えるということである。

自分がリーダーになる

子どもは何かをうまくできると、気分をよくし、希望を感じる。一方、あなたの期待に応えられなければ、とまどい、自信をなくし、おどおどする。

これらは、支援(施術)する者の役割の重さに関するものですが、今回の例では、私自身が心の中ではありますが、「失敗だった」と思ってしまったことが最大の問題だったのかもしれません。

6.ゆるやかな目標設定

可能性にひらかれた道

通常、ゴールを目指すときは、目標をできるだけ絞り、できるだけがんばるものです。それは、「がんばれ」「あきらめるな」「苦痛があってこその達成」といった言葉にも表れています。しかし、支援が必要な子どもの場合、このような取り組み方は逆効果のことが多いのです。柔軟性に欠ける方法で力まかせにゴールを目指すと、子どもの力をさらに制限してしまうことになりかねません。

これも3の「バリエーション」にあった「動きのエッジ部分にやさしく働きかける」という「できること」に目を向けるということに関わるものだと思います。

7.学びのスイッチ

ひとりの人間としてみる

一般的には、子どもの課題やできないことに焦点を絞った対応がなされるものだと思いますが、これにはひとつ、大きな欠点があります。そのようにするとき、ひとりの子どもの全体がみえなくなるのです。内側に豊かな経験と複雑さを抱える子どもの全体像をつかめなくなり、型にはまった見方をするようになります。そして、気づかないうちに自分の「学びのスイッチ」をオフにしてしまします。ところが、視野を広げ、自分の懸念やその子の限界にとらわれずに子どもをみるようになると、あなたの「学びのスイッチ」はふたたびオンになります。すると、子どもを総体としてとらえるようになり、以前は気づかなかったことに気づき、子どもに関わっていく新たな方法を見つけることができます。子どもに役立つチャンスが急に到来するようになり、あなたは、子どもの脳が識別し、進化をとげる手伝いを創造的に行なうようになります。このようなプロセスは、私たちの「学びのスイッチ」だけでなく子どもの「学びのスイッチ」もオンにし、脳の整理能力を全体的に引き上げてくれます。子どもは、私たちが予想もしない方法で、もっとも困難な分野の能力を伸ばしていくものです。

これは「学びのスイッチ」に関して書かれたものですが、まさにまとめになるような内容です。

8.想像すること、夢みること

遊ぶ

遊びは子どもの想像力をかき立てるもっとも手ごろな方法です。ところが、私たちが子どもとすることというのはひじょうにまじめで型にはまったものが多いのです。特別な支援を必要とする子どもがセラピーを受けるときや家庭教師にみてもらうときは、とくにそうなりがちです。そのようなときはゲームにして想像力をフルに使うようにすると、楽しく、効果も上がります。子どもの体験に喜びや好奇心が加わり、脳の処理能力が高まり、創造力が目覚めます。

ここでも、脳の活性化には楽しさ、喜び、好奇心が重要であることがわかります。

9.気づき

「気づき」は行為だ

「気づいている」ときの子どもは、脳のもつ「変化をとげる」力を活用しています。このとき子どもの脳は大きく飛躍し、つぎのレベルのさまざまな能力を獲得することができます。子どもが自分の動きや思考、感情、行為に「気づいている」と、それを続けるか、やめるか、やり方を変えるか試行錯誤するとき、その子は気づいています。言葉が出はじめるまえから、子どもは気づくことをはじめています。「気づき」のスキルもまた、発達し、進化していきます。ほかのスキルと同様に磨くことができ、磨くほどに上達し、困難を乗り越えていく力になります。

7で「学びのスイッチ」というものがありましたが、気づきとは「学びのスイッチ」より前に存在するスイッチだと思います。また、繰り返しになりますが「気づき」にとっても、楽しさ、喜び、好奇心が大きく関わっていると思います。

最後に本書の中から実践編とも言えるものを一つご紹介させて頂きます。

快適に動くために―足の遊び

特定の動きが困難で、子どもが過剰に力を使っている場合、力を減らせるよう穏やかに導く方法を探します。身体を動かすときの力を減らすためには、体位を変えることが有効かもしれません。

たとえば、歩くときに左右の脚を大きく開き、よくつまずいて転ぶ子どもには、立ったり、歩いたりするときに筋肉に余分な力が入っています。そのため、立っているときに、自分の両脚が大きく開いているか、くっついているか、腰の真下に並んでいるかの違いを感じとることができていません。余分な力が大きなノイズ(雑音)となって、関節や筋肉と脳の繊細なやりとりをじゃましていると考えてください。そのようなときは、余分な力のボリュームを下げ、わずかな違いを感じることを助けてくれる遊びをしてみましょう。』

 まず、子どもをイスに座らせます(立った状態だと転ばないように力を入れてしまいますが、座ると過剰な努力をしなくてすみ、感じとる力が高まります)。このとき、足が床につき、楽に座れるようにします。子どもが楽に座ったら、自分の足を見て、左右の足のあいだの距離を、胸の前で両手で示すように言います。その距離が正確かどうかは気にしません。つぎに、子どもの両手を思いっきり離し、「手が遠くに離れているね」と声をかけます。両手を近づけさせ、「近づいた」と声をかけたら、ひざの上に降ろすように言います。 

 つぎに、子どもに目を閉じてもらい、やさしく足をとり、左右の足のあいだを離します。子どもが不快に感じる距離にはしません(あくまで余分な力を減らし、動きを感じられるようにするための遊びであることを忘れないでください)。「両方の足は近くにあるかな? それとも離れているかな?」と尋ねます。回答の正否は問わず、間違っても直しません。目を閉じた子どもにただ自分の足を感じさせ、足がどこにあるかを推測させるのです。目を開けるように言い、自分の目で距離を確認させます。

 再度、子どもに目を閉じてもらいます。右足をとって左足に近づけ、「足を動かしたのを感じた?」と尋ねます。おそらく「うん」と答えるでしょう。さらに「足はもう片方の足に近づいたかな? それとも遠くに離れたかな?」と尋ねます。お子さんが幼くてまだ話せない場合は、質問をするのではなく、子どもに加えた動きをそのまま言葉にします。同じことをもう片方の足でも行ないます。動かすとき、足にかける力を一回ごとに弱めていきます。その後、本人に片方の足を動かすように言います。まず、力を強く入れて動かすように言い、つぎに力をあまり入れずに動かすように言ってください。

 この遊びを五分間ほどしたら、子どもに立ってもらいます。このとき、立っている感覚が変化したかどうか、感じる時間を与えます。子どもの脳は、脚をうまく使えるように修正がされたはずです。今度は、座って行った先ほどの動きを、立った状態で行ないます。立って行なうのが難しい場合は、ふたたび座って行ないます。

 このような遊びを冒頭からあわせて十分ほど行ったら終わりにし、好きなように歩かせます。このとき、「足の距離が近くなったね」まどと声かけしないことです。

この遊びはさまざまな動きや状態に応用できます。脳は、余分な力が減ることで「違い」を感じられるようになり、より上手に動きを組み立てるチャンスを与えられます。何年もかかると思っていたことを脳がすばやく達成してしまうことに驚くことでしょう。

アナット・バニエル・メソッド2(症例)

本の中には1歳から13歳までの19人の症例が出ていました。抱えている障害は重度の脳性まひ脳の損傷によるもの自閉症スペクトラムADHD(注意欠陥・多動性障害)LD(学習障害)診断のつかない発達遅れなどです。

今回のブログではこの中から3人の症例をご紹介させて頂きます。なお、[ ]内は私の方で追記したものです。

 

著者:アナット・バニエル

発行:太郎次郎社エディタス

発行:2018年8月

1.カシー 3歳女児 重度の脳性まひ(誕生時に脳を損傷)

両脚がくっついて離れないカシー

『カシーと出会ったのは、彼女が三歳のときでした。カシーは誕生時に脳を損傷し、重度の脳性まひがありました。両腕、両脚、お腹の筋肉が極端に硬く、痙縮がみられ、自発的な動きはほとんどありません。自分で動こうとすると、全身がさらに硬直します。

両親がカシーをレッスン台(マッサージ台のような幅広でクッション性のある安定した台)の上に座らせると、背中はすっかり丸まり、両腕は、胴体にきつくひきよせられました。ぴったりくっついた両脚は、前に向かってぴんと伸びています。カシーは転げ落ちないように必死で、どうみても怖がっていました。

数か月間にわたって定期的に「9つの大事なこと」を使ったレッスンを続けたところ、カシーは腰と両腕を自分で動かせるようになり、バランスを保ちながら怖がらずに座れるようになりました。話し方も考える力も向上し、おきまりの文をくり返し唱えるかわりに、自分の考えをまとめ、要求をはっきりと伝えるようになりました。

ところが、ひとつだけ、どのように取り組んでみても変わらないことがありました。まるで目に見えない紐で縛られているかのように、つねに両脚がぴったりとくっついていたのです。私がとてもゆっくり、やさしく動かすと、左右の脚は離れてべつべつに動くのですが、カシーが自分から脚を動かそうとしたり、自分で動かす方向を変えようとすると、そのとたんに痙縮します。身体の動かし方を学んで全身を自由に動かせるようになってきたのに、なぜか脚だけが動かないのです。

ある日、私はふと、カシーは自分に脚が二本あることを知らないのだと思いました。両脚がいつもいっしょに動くので左右べつべつのものだと感じたことがなく、右脚と左脚の「違い」を認識したことが一度もないのでしょう。認識されなければ「違い」は存在しません。だれが見てもカシーには脚が二本ありましたが、彼女の脳が経験しているのは二本ではなく、一本の脚で、「ひとつ」と「もうひとつ」(「これ」と「それ」)がないのです。

マイケル・マーゼニック[「本書によせて」を寄稿された脳神経学者]の研究チームは、実験用ラットの後ろ脚に脳性まひのような症状をつくりだしました。誕生時に左右の後ろ脚をひとつに縛ってつねにいっしょに動くようにしたところ、ラットの脳は、後ろ脚は二本ではなく一本だという身体地図を描きました。

カシーの脳が二本の脚を一本ととらえていると気づいたことは、私の取り組みの突破口となりました。子どもたちは、「違い」に気づくことができる環境を与えられると、身体地図を描きなおす脳の力を発揮させていけるのです。

「ひとつ」と「もうひとつ」を発見したカシー

『カシーの脳が左右の脚を一本とする身体地図を描いているのなら、脚が二本あることを感じ、わかるための方法が必要です。彼女の脚を片方ずつ何度も動かしてみましたが何も起きません。脚が二本あることに気づかなければならないのは、ほかでもない、カシーです。どうにかして注意を向けてもらい、脚が二本あることを知ってもらわなければなりません。

子どもの例にもれず、カシーも遊びが大好きでした。私は無害の水性マーカーを用意し、彼女をレッスン台に座らせると、後ろから抱きかかえました。彼女の右脚をやさしく持ち上げ、その膝をトントンと軽くたたいて視線を向けさせ、そこに絵を描いていいかどうかを尋ねました。返事は「イエス」です。

私は、カシーの脳が「違い」を認識しなければならないような質問をしました。

「どっちを描こうか? 犬、それとも猫?」

しばらくしてカシーは「犬」と答えました。

「赤い犬、茶色い犬、どっちがいい?」

彼女は赤を選びました。そこで、カシーの右膝に、ゆっくりと説明しながら、赤い犬の絵を描きました。「これが犬のお鼻。これが片方の耳。もうひとつの耳」といったぐあいです。

カシーはしっかりと私の声を聞き、絵に目を向け、肌を滑るマーカーの肌ざわりを感じていました。犬を描きおえるとカシーのその膝を、まず同席していた母親に見せ、つぎに自分が見てから、本人に見せました。右脚を下すと、今度はおもむろに彼女の左脚を持ち上げました。そして、わざとがっかりしてみせると、驚いた声で言ったのです。

「この膝には犬も猫もいないよ!」

その瞬間、カシーは生まれてはじめて「向こうに、同じようなものがもうひとつある」と気づいたのだと、私にはわかりました。脚は一本でなく、二本あるのです。つぎは、この目の前の膝に犬と猫のどちらかの絵を描くかを尋ねました。「猫」と答えたので、やはりゆっくり慎重に、猫の顔を描きました。

左右の膝に異なる絵を描いたことで、カシーの脳が、「一本の脚」を二本のべつべつの脚に変化させていける可能性がいっそう広がりました。たとえば、どっちの絵をだれに見せるかを選ぶことができます。また、両脚をぴったりつけて犬と猫を近づけることも、脚を広げて二匹を遠ざけることもできます。犬がカシーの手をタッチすることも、猫がカシーの母親の手をタッチすることもできます。

カシーは「猫の膝」と「犬の膝」を識別し、自分の意思で脚をべつべつに動かすことができるようになりました。生まれてはじめて、脚が二本になったのです。脚の動きはまだぎこちなく、動かせる範囲も広くありませんでしたが、それは彼女が自分で生みだした動きでした。』

カシーの脳で起きていたこと

「猫の膝」と「犬の膝」の遊びを楽しんでいるあいだに、カシーの脳はさまざまな「違い」を受けとり、集め、認識し、大量の感覚をより細かく差異化しながら整理していました。そうするうちに脚の痙縮は少しずつ減り、身体全体の動きが改善したのです。

この取り組みについて大事なことは、さまざまな「違い」を感じて受けとめるチャンスを脳に与えたということです。ふたつの異なる部位である一の脚と二の脚、「ひとつ」と「もうひとつ」が身体の動きを向上させたのであって、脚の訓練をしたわけではありません。立たせたり、歩かせたりするのではなく、カシーがまだ知らないさまざまな「違い」を感じることができるように支援することで、脳が、脚を認識し、脚の動きを組み立てるために必要な情報を得られるようにしたのです。これは、まさに脳の訓練でした。

カシーはその後も能力を伸ばしていきました。最後に会ったときには自分の力で立ち上がり、家具につかまって一歩一歩、ゆっくり歩くようになっていきました。思考もどんどん明晰になっていきました。五歳のカシーはだれの目にもとても賢い女の子でしたが、三歳の彼女をそのようにみていた人はいませんでした。』

2.ジュリアン 3歳男児 自閉症

すべてが「ぼんやり」していたジュリアン

『自閉症と診断されていた三歳のジュリアンは、レッスン初日、軽く足を引きずりながら前かがみで廊下を歩きました。ジュリアンが安心している様子だったので、私は質問をしてみました。すると、答えはすぐに返ってきましたが、発音がはっきりしないので理解できませんでした。彼がつくる文はまとまらず、言うことはなにもかもが断片的です。考えは途中で宙に浮き、終わりまでたどり着きません。よだれを大量にたらし、母親によると、細かい動作をうまくできないということでした。

レッスン室に入ると、ジュリアンはおもちゃを手に持ちましたが、持っていることを忘れたかのようにポトンと落としました。その様子は、彼が何かを考えようとするとき、それが途中で消えていくことを思い起こさせました。私が受けた印象は、脳の入り口に曇ったレンズがついているために、入ってくるものすべてがぼやけてあいまいになってしまうというものです。ジュリアンは自分や周囲の世界を理解するのに必要な「違い」を、はっきりと受けとることができないようでした。

私は、ジュリアンをレッスン台にうつぶせに寝かせると、彼の右肩の下に自分の左手を入れてやさしく、ほんの少し持ち上げてみました。すると、肩と背中がひとつの塊としていっしょに動くのがわかりました。左の肩を持ち上げてみても同じです。伸び縮みする筋肉や柔らかな関節をもつ人間ではなく、まるで丸太を動かしているようなのです。

脚、骨盤、頭の動きを確かめると、動きがあいまいで、細やかさも強さもないことがわかりました。また、周囲の音や景色を識別する力も弱く、言語活動と思考は初歩段階といえるものでした。ジュリアンの脳は、明らかに違いを受けとめることが苦手で、身体のさまざまな部位を十分に識別できていません。さまざまな形の小さなパーツが足りないのです。私はジュリアンができるかぎりたくさんの「違い」に気づくことができるように彼の身体を動かし、そのとき彼が経験している動きを言葉で説明しました。

ジュリアンは三歳でしたが、指や手の動きは生後一か月の赤ちゃんのようでした。五本の指をまだ認識していない赤ちゃんは、グーパーしかできません。ジュリアンはまだ自分の手を「ひとつの塊」と認識していて、おもちゃをつかむときはぐっと握り、ぱっと放しました。

ジュリアンの「ぼんやり」は手だけでなく、足を引きずる歩き方、ゆるんだ口もと、発音、そして、何かを考えるときの混乱ぶりにも表れていました。あらゆる面で識別する力が足りなかったのです。』

まるで霧が晴れるように

『私はジュリアンの身体に動きを与え、まず彼が頭を「ひとつのもの」、肩と背中を「もうひとつのもの」と受けとめられるようにしたところ、背中の動きがよくなり、しっかり反らせて片側から反対側へ楽にねじれるようになりました。

この日のレッスンでは、さらに、片方の前腕を持ち上げて天井に向け、手首から先が前後にぶるぶるするようにやさしく揺らしました。数秒後に揺らすのをやめると、期待するようにその手を見ながら待っていたジュリアンは、「もう一回!」と言いました。自分の手が止まったことに気づいた―揺れることと止まることの「違い」を認識したのです。ふたたび手を揺らしてから止めると、もう一度頼んできたので、さらに揺らしました。

このとき、ジュリアンはしっかり注意を払っていました。レッスン室に入ってきたときの彼は別世界にいるような感じでしたが、このときは私といっしょに、いま・ここで、自分自身に気づき、自分の経験していることに気づいていたのです。

私は、どっちの腕を揺らしてほしいかを尋ね、彼が答えたとおりにしました。動かしてほしい腕を選ばせることで、「違い」を認識する力を高め、自分に気づきやすくなるようにしたのです。ジュリアンは急速に、腕と手首の動きに気づくようになりました。この日はさらに二十分ほど、バリエーションのある動きを行ない、レッスンを終えました。

翌日、ジュリアンの母親が、よだれが大幅に減ったと報告してきました。また、避けていたゲーム遊びを自分からしたということでした。それまでは手を使うことも、考えることもたいへんだったのが、楽にできるようになったからです。いずれも、脳が上手に「違い」を受けとめ、分化し、行動を組み立てるようになったことを示す証拠でした。

その後は毎日のレッスンで、身体を新しい方法で感じ、まだ知らない、より細かい「違い」を受けとめることができるチャンスを与えるようにしました。すると四日目に、ジュリアンは私を見て、「パパは今日、オフィスで仕事をしている」と言ったのです。構文は完璧で、発音もかなり明瞭でした。

私は、「きみは、お父さんが仕事をしているときにオフィスで遊んだことがあるの?」と質問しました。最初の返事はごちゃごちゃして意味がわかりませんでした。ジュリアンは確かに考えていましたが、それをまとめることはできませんでした。そこで、言いまわしを変えて同じことを聞いてみました。すると、彼はさっきより明確に答え、さらに、父親は家にオフィスをひとつ、家でない場所に別のオフィスをひとつもっていて、自分は家にある父親のオフィスでときどき遊ぶが、家でないオフィスでは遊ばない、ということを説明してくれたのです。

私は興奮を抑えきれませんでした。ジュリアンが父親のふたつのオフィスの違いを説明できたことは重大な変化です。これは、彼の脳が「ひとつのこと」と「もうひとつのこと」の違いを受けとめ、混沌から秩序を生みだせることを示していました。先ほどのアヒルの例でいうと、ジュリアンの脳はどんどん分化し、小さなパーツをつぎつぎに増やしていました。彼の脳は、動くこと、話すこと、考えることの地図を描くための情報を急激に受けとるようになっていたのです。』

こちらは上記の”アヒルの例”の説明になります。

私は「分化」について説明するとき、ホワイトボードにアヒルの輪郭を描きます。そして、四つか五つの不規則な形のパーツを描き、これをパズルのように組み合わせてアヒルの形にすることを想像してもらいます。これだと、アヒルをつくるのはまず不可能です。

つぎに、ずっと小さな丸や三角や不規則な形の粒をたくさん描きます。そして、この粒つぶを使ってアヒルの形をつくることを想像してもらうのです。これなら簡単にアヒルをつくれますし、それ以外の好きな形もつくれます。

この説明によって、脳の中で起こる分化と統合のプロセスが理解しやすくなるのではないでしょうか。いろいろな小さなパーツがたくさんあれば、脳は思いどおりの動きをつくりだすことができます。このプロセスは、何か考えたり、理解したりするときにも当てはまります。脳は身体・認知・感情に関わるあらゆる動きを組み立てています。私たちが行なうあらゆることに秩序をもたらすパターンをつくりだす作業を脳は、自由に使用できるさまざまなパーツ(情報)を使って行ないます。このパーツのもとになるのが、脳が感知したさまざまな「違い」なのです。』

支援の視点を変える 

『一般的に、支援が必要な子どもを手助けしようとするときには、できないことに目を向けて、痙縮のある腕を訓練しようとしたり、何度も目を合わせて返事をさせようとしたりするものです。ほとんどの子どもはがんばりますし、なんらかの変化がみられることも少なくないでしょう。

しかしながら、私がくり返し見てきたのは、子どもは大人が教えようとしたことを学ぶのではなく、自分の限界(できなこと、うまくできないこと)を経験することを学んでしまっているということでした。私たちはつねに、自分が経験すること、自分に実際に起きていることを学びます。「できない」「うまくできない」という経験は脳に残り、そのときの限界とそれに関わる地図が、脳より深く刻みこまれてしまうのです。

数かぎりない「ひとつのこと」と「もうひとつのこと」が、脳に無数のつながりをつくりだします。このつながりが、経験に応じて変化を続けるダイナミックな脳のパターンとなって、子どもは立ったり、座ったり、歩いたり、話したりするようになります。

子どもは、計画的に座るようになったり、「ママ」と言うようになったりはしません。気がついたら、そうなっています。子どもにしてみれば、何かを達成するのはいつだって想定外のことです。私たちの仕事は、子どもの脳が目覚めるように助け、その脳が創造し、形成し、発見していくプロセスを支援することです。

腕がうまく動かない、寝返りを打てないといった目の前の課題に焦点をあわせるのではなく、子どもの脳それ自体が解決方法を見つけるように手助けをしていく―これは一見、わかりにくいことです。大切なのは、私たちが考え方を転換し、「動き」を可能にするパターンや能力を生みだすために脳に何が必要かを考えることです。解決方法を見つけるのは私たちの脳ではなく、子どもの脳なのです。

3.リリー 3歳女児 重度の脳性まひ(身体は1歳ほど、発達段階は生後5か月)

ボールのように硬く丸まってしまうリリー

『リリーと初めて会ったのは、彼女が三歳のときです。たいへん未熟な状態で生まれ、重度の脳性まひを負っていたリリーは身体が小さく、一歳といっても通用するほどでした。彼女が母親や妹とやりとりする様子は乳児のようで、のちに母親から聞いたところでは、生後五か月ていどの発達段階だと判定されたということでした。

リリーは筋肉の緊張が激しく、つねに肘をきつく折り曲げ、握りこぶしをつくっていました。両脚は膝が少し曲がった状態で交差しています。腹筋がつねに収縮しているために背が曲がり、自分の体重を支えることができません。自発的な動きがなく、寝返りを打つことも、うつぶせでいることもできません。うつぶせにすると身体を丸め、苦しそうにします。座らせるとたいへんな力を出してなんとか座るものの、背中はすっかり丸まり、数秒すると転がってしまいます。腕や手を使うことはできません。声は小さく不明瞭で、何を言っているか理解するのは困難でした。

しかし、そのような状態でも、私にはリリーがしっかり目覚めて神経を研ぎ澄ましていることがわかりました。大きな茶色の目で、興味深そうに周囲の様子を追っていたからです。

リリーを仰向けにレッスン台に寝かせましたが、その姿勢でも筋肉は収縮したままで、両脚は曲がり、台からやや浮いています。肘は折れ曲がってぴったり身体に引き寄せられ、腹筋も硬いままです。脳が、どのように力をぬけばよいのかをわからないのです。

左脚をやさしく持ち上げ、できる限り小さく動かそうとした瞬間、収縮していた筋肉がさらに強く縮み、リリーはボールのように丸まりました。私は手を止め、彼女が落ち着くのを待ちました。つぎに骨盤を、やはりできるかぎり小さく、とてもゆっくり動かそうとしましたが、今度も強く筋肉が縮みました。速度を思いきり落として、安心できるように話しかけながら、とても小さく、わずかに動かしてみても、筋肉は硬くなりました。私が動かそうとするたびに、彼女の脳は、身体をボールのように丸めるという未分化で強力な初期の動きのパターンに乗っとられるかのようでした。

十分ほどそのようにしていると、ある考えがひらめきました。ボールのように身体を丸めるのは脳性まひの影響だけでなく、学習したパターンだからではないか、と思ったのです。リリーはどう見ても動きたがっていました。彼女は彼女なりの方法で動こうとしているのに違いはありません。

リリーは二年近く、うつぶせにされ、座らされるという訓練を受けていました。訓練では握りこぶしを開かせようとしたり、立たせようとすることさえあったそうです。そのようなとき唯一リリーの脳にできたことは、強く収縮することで、そのため身体は丸まりました。自分から動こうとするとき、また、自分を動かそうとするあらゆる働きかけに対し、彼女の脳は、収縮するというパターンを結びつけることを学習したはずです。』

なまけものごっこ──過剰な力をぬいて

『筋肉を収縮させるときの激しい力が悪循環を招いていました。激しい力を出しているため、リリーはどんな「違い」も感知することができず、脳に動きを学ぶために必要な新しい情報が入ってこないのでしょう。

リリーが動くことを学ぶためには、動こうとするときの過剰な努力を減らさなければなりません。そのとき私は、リリーに必要なのは、動こうとしないことを学ぶ方法なのだとひらめきました。リリーは筋肉を収縮させるとき、させないときの違い、また、力をたくさん入れるとき、少しだけ入れるとき、そしてまったく入れないときの違いを感じることを学ぶ必要があるのです。

私は「なまけもの」になる方法を教えることにしました。自分の身体とその動きを感じられるように、何もしないことを学ぶのです。

「この部屋はとっても特別な場所で、“なまけものの国”といいます。“なまけものの国”なので、だれもが、とってもゆっく――り、話します。だれもが、じ――っとしてほとんど動きません」。

このように話すと、私はレッスン台に自分の頭を乗せ、リリーの横でいっしょに怠けました。リリーは大喜びです。

しばらくたってから、これから身体を動かすけれども、私たちはものすごく「なまけもの」でなければならないのだと、話しました。そして、彼女の左脚を持ちました。その瞬間、やはり、筋肉は収縮しました。私は手を止め、おどけた調子で言いました。「なまけものじゃなくなってるよ!」。このようなやりとりをいろいろな方法でくり返しました。

その後の二回のレッスンでも、彼女に「なまけもの」になるように言いつづけました。そして、ついに、無意識に全身に力を入れたすぐあとに初めてそのことに気づき、リリーはみずから力をぬくことができたのです。素晴らしい瞬間でした!

「なまけものごっこ」を続けるにつれ、リリーは少しずつ、私に動かされることを受け入れてきました。生まれてはじめて、彼女は自分の身体の動きの違いを感じていたのです。

まもなくリリーは握りこぶしを開いておもちゃをつかみ、遊ぶようになりました。一週目のレッスンの終わりには、ひとりでうつぶせにも仰向けにも寝返りを打てるようになりました。彼女の脳は、微細な違いがもたらす大量の新しい情報を統合し、能力を獲得しはじめました。

リリーはその後の三年間、一、二週間の集中レッスンを何度か受けました。レッスンのたびに彼女は成長し、ひとりでハイハイし、座るようになり、腕や手を器用に使うようになりました。声に強さと表現力が加わり、はっきり話すようになりました。そして、自分を心地よく感じられるようになってきました。

最後に会ったとき、リリーは自分の力で立つようになっていました。学校では優秀な生徒です。外では電動者イスを使用していますが、家ではほとんど使いません。両親は彼女ができるかぎり自分で身体を動かし、独立することを願っています。』

「なまけものの国」の威力

リリーの場合、太陽光の下では懐中電灯の光に気づかないように、無意識の激しい筋肉の収縮が、あらゆる働きかけを感じとることを不可能にしていました。自閉症やADHDをはじめ、私がこれまでに関わったどの子どもも、発達するためには「微かな違い」を感じとることが欠かせませんでした。リリーがそれを感じとるためには、筋肉の激しい力を弱める方法が必要でした。「なまけものの国」の住人になって、楽であること、快適であること、うれしいこと、楽しいこと、がんばらないことを体験するようにしたところ、彼女は学べるようになり、変化をとげたのです。

力や刺激を小さくすることのパワーを、あなたも利用することができます。まずは「違い」を感じとることを妨げる過剰な力、それを子どもがどのように使っているか探りあてることです。過剰な力には病状に特有のものもあれば、その子どもにしかみられないものもあります。注意欠陥障害[ADHD]の子どもは絵を描こうとすると、力を入れすぎてクレヨンを折ってしまうかもしれません。自閉症スペクトラムの子どもは、何を言われているか理解しようとしても、聞こえてくる声に圧倒されてしまうために叫びだし、いつもの動きをくり返すかもしれません。脳性まひの子どもは歩行器を使って歩こうとすると全身を硬直させてしまい、脚が動かなくなるかもしれません。そのようなときが、「微かさ」をとりいれるチャンスです。』

まずは、あなたから

『親をはじめとする支援者が子どもに注意を向けるのは当然です。しかし、これと同じぐらい大切なことは、支援者が自分自身に注意を向けることです。これは、微細さ・繊細さを自分の行動・思考・感情・動きにとりいれるということです。私を含めてどの支援者にも、不要な力をぬき、無駄な努力を減らす余地があります。私たちは安物のヴァイオリンではなく、豊かな音色をもつ名器、ストラディヴァリウスになるのです。

「微かな力」をとりいれると、感覚が鋭くなって感じとる力が高まるので、子どもの今の状態がわかり、何が必要かがみえてきます。「こうすべき」と考えて関わるのではなく、子どもの感じていることや体験していることにもとづきながら、本人にとって意味のある方法で子どもと関われるようになります。あなたは子どもからも自分の内側からもたくさんの情報を得るようになり、創造的・効果的に子どもを手助けできるようになります。』

まとめ 

症例から分かったことは次のようなものです。

まず、『子どもは、計画的に座るようになったり、「ママ」と言うようになったりはしません。気がついたら、そうなっています。』ということです。つまり、子どもが自発的に身につけるものであり、そのプロセスを支援することが“アナット・バニエル・メソッド”の基本です。

では、“何(What)”に対して支援するのか、プロセスとは何かですが、これは“アヒルの図”を使って説明されていた内容―“脳の中で起こる分化と統合のプロセス”ということです。そして、“小さなパーツ”をたくさん作り出されるような働きかけを行ないます。

次に、“どうやって作り出すのか(How)”というその方法のキーワードは「違い」です。具体的には『脳が感知したさまざまな「違い」』であり、この「違い」によって『[子どもたちは]身体地図を描きなおす脳の力を発揮させていけるのです』としています。

以上のことから、“アナット・バニエル・メソッド”とは子どもの脳が目覚めるように助け、その脳が創造し、形成し、発見していくプロセスを支援すること』というものだと思います。

アナット・バニエル・メソッド1(概要)

今回の『限界を超える子どもたち 脳・身体・障害 への新たなアプローチ』は偶然見つけました。それは、ボイタ法を勉強すべく『子どもの姿勢運動発達』という本のネット注文直後です。購買機会を増やすための仕掛け、いわゆる“お知らせ情報”の中にありました。

そのタイトルに「むむ?」と反応し、すぐさまどんな内容の本かを調べてみると非常に興味深いものでした。そこで、『子どもの姿勢運動発達』が図書館にあるのを知っていたこともあり、直ちにその注文をキャンセルし、この『限界を超える子どもたち』の注文に切り替えました。

この本の内容は衝撃的でした。受けたインパクトの破壊力は、『新・感覚統合法の理論と実践』を読んでいたことも背景にあると思います。また、ブログ“医療マッサージ研究1”での体験と“医療マッサージ研究2”で疑問について学習していたことも関係していると思います。なお、ブログは1の(概要)と2の(症例)の2つに分けました。

最初のブログでは、この本の概要をお伝するため、訳者のお一人である伊藤夏子先生の“訳者あとがき”の一部と、脳科学者であるマイケル・マーゼニック先生の“本書によせて”、全ての目次、そして著者であるアナット・バニエル先生の“はじめに”と“おわりに―限界を超えて”の一部、そしてプロフィールを集めることにしました。

 

著者:アナット・バニエル

発行:太郎次郎社エディタス

発行:2018年8月

 

画像出典:「Anat Baniel Method NEUROMOVEMENT

訳者あとがき(伊藤夏子先生)

『本書の著者であるアナット・バニエルを知ったきっかけは、私が引っ越しを機に近所の福祉施設に勤務したことでした。そこは重症心身障害者とよばれる方たちが利用する施設で、私のおもな仕事は利用者の食事と排泄の介助です。

最初に担当した二十代の男性は、腕や脚が小枝のように細く、つねに身体のどこかをカクカクと動かしていました。目は焦点が合っていません。声をかけてみても、手を握ってみても、こちらに注意を向けることはなく、カクカクと動き続けています。

彼は片方の手にミトンをはめられていました。理由は、指で自分のまぶたを突っつき、眼球を押しだしてしまうからでした。

なぜ彼はそんなことをするのか? 痛くないのか? 何を感じ、考えているのだろう? 彼と心が通じることはないのだろうか? 手当たりしだい、日本語の書籍や専門誌に目を通しましたが、答えは見つかりません。英語でインターネットを検索し、たどりついたのが本書の原書、Kids Beyond Limits でした。

 

画像出典:「amazon」

原書を読み終えた私は、この男性の食事を介助するとき、おかゆをのせたスプーンを口の手前で止めてみました。十五秒ほど待ったでしょうか。カクカク動きつづけていた身体が止まりました。目は天井を向いています。「おやっ」という表情です。

出会って九か月目にして、初めて、それまで遠い世界にいるとしか思えなかったこの男性と「つながった」と感じた瞬間でした。

アナット・バニエルは、相手とつながって「学びのスイッチ」をオンにすることができれば、まさに、だれもが能力を伸ばしていけるということを体当たりの実践で示しています。その彼女の取り組みの真髄である「9つの大事なこと」を紹介したのが本書です。「9つの大事なこと」の実践者が増え、わらにもすがる思いでいるであろう親御さんやさまざまな現場で模索を続けるみなさんが、支援を必要とする子どもや大人とともに変わり、成長の喜びを分かちあえるようになれたら、どんなに素晴らしいことかと思います。』

下記の「本書によせて」の文中に”脳の可塑性”とありますが、これは ”脳には状況に応じて変化する能力がある”という意味です。

本書によせて──マイケル・マーゼニック(脳神経学者)

『この本は、子どもを愛し支援しているすべての人への贈り物です。本書を手にとり、著者のメッセージを受け取ってください。アナット・バニエルのアプローチは、特別な支援を必要とする子どもたちとの豊かな実践から生まれました。彼女は子どもたちの脳が変わっていくことができるのを繰り返しみてきました。子どもたちは人生に目覚め、能力を獲得し、力強く生き方を変えていきました。私たちの脳には「可塑性」があります。一生を通じて脳は変化しつづけます。

ここに登場する子どもたちは、困難を抱えながらも、家族の愛情と支援者の熱意に支えられ、「脳の可塑性」を最大限に活用しています。アナットの説明は明晰です。彼女は、脳が変化するという人間が生まれながらにもつ素晴らしい力が、奇跡の材料となりうることを教えてくれます。

私は長年、「再構築する脳」の力を子どもや大人に役立てる方法を解明したいと、科学の分野で取り組んできました。数十年の研究を経て、私たち科学者は神経科学の観点から脳の可塑性を支配する「法則」を明らかにしました。そして、よりよい変化をもたらすためには脳はどのように働かせるのがよいかがわかってきました。

驚くべきことに、同じ時期、アナット・バニエルはまったく異なる方法で、ほぼ同じ法則を導きだしました。彼女はそこに留まらず、この法則を実践的なわかりやすい言葉で説明し、親をはじめ、子どもに関わる人たちの取り組みに役立つようにしています。

アナットがこの道に進んだきっかけは、すぐれた先見者だったイスラエルのモーシェ・フェルデンクライスに師事したことでした。彼女はフェルデンクライスの教えをベースに特別な支援を必要とする大勢の子どもたちと関り、注意深く観察を行い、どのように子どもとつながり、その子の力になることができるかを明確にしてきました。「希望のない子ども」を助けるというアナットの評判を聞き、いろいろな子どもがやってきました。彼女はあらゆる症状の子どもと関わることになり、その経験から二つの重大な事実を発見しました。

一つめの発見は、特別な支援が必要な子どもの能力を制限しているのは、子どもを発達させてくれるものと同じ、脳の可塑性の原理だということです。

二つめの発見はさらに重要なもので、「希望のない子ども」のケースのほとんどは、じつはそうではない(希望がないわけではない)ということです。

アナットは脳の可塑性の原理を「9つの大事なこと」として、みごとに説明します。

この本は、私が「脳の可塑性革命」と呼んでいることの、実践的でわかりやすい解説書になっています。私たちの脳は変化しつづけます。新しいことを習得するたびに脳は回路をつなぎなおし、再構築されて、専門的な処置ができるようになるのです。この素晴らしい脳の力を生活にとりいれるには、どうすればよいのでしょうか。どうすれば、これを子どもの成長に役立てることができるのでしょうか。反応することにさえ苦労し、動くことや理解することに困難があり、自分の意思で自分の世界を動かすことができない子どもは、とりわけ脳の可塑性をおおいに利用することでどんどん成長し、能力を向上させていくことができます。アナットが本書で美しく描写するように子どもたちと本当につながることができれば、そして、そこに適切なガイダンスがあれば、ほぼすべての子どもが目に見えるかたちで継続的、ときに驚くほどの成長をとげることができるでしょう。

子どもが成長の軌道に乗るまでは、困難がともなうことでしょう。もっとよく働く、もっと力強い脳にしていくためには、いま、子どもがいるところから始めましょう。それぞれの子どもに必要なアプローチがあります。みなさんの熱心な取り組みも欠かせません。本書が示す原理は、一人ひとりに応じた取り組みを実現するための新しい視点を与え、子どもの力強い歩みを手助けできるようにしてくれるものです。

毎日の脳の神経回路の小さな変化が、一年たつころには大きな歩みとなり、子ども時代を通じてとても大きな発達をもたらすということを忘れないでください。本書には素晴らしい事例がたくさん登場します。そこでは、神経の新しい回路が生まれることで、子どもにまったく新しい一連の可能性が開ける様子が描かれています。アナット・バニエルは、脳の働きを支配する原理をどのように実践に生かし、子どもを成長の軌道に乗せることができるかを説明します。この成長の道に踏みだせば、小さな歩みの一歩一歩が、子どもにとっても、あなたにとっても、心躍るものとなることでしょう。

本書のアドバイスをしっかりとりいれてみることを心からお勧めします。そうすれば、子どもの真の力になるためにはどうすればよいかが、はっきりとわかるはずです。』

目次

本書によせて──マイケル・マーゼニック(脳神経学者)

はじめに

第Ⅰ部 新しいアプローチのために

 ある女の子との出会い

  動けない赤ちゃん

  最初のレッスンでわかったこと──脳が身体を認識していない

  動きを与えることで脳が学習を開始する

  エリザベスが歩いた!

  できることに注目しつづけて──エリザベスのその後

  わが子の可能性、脳の可塑性

  既存の取り組みからの脱却

  親の力

〝直す〟ことから〝つながる〟ことへ

  子どもを「直す」ことはできるか

  子どもは、自分にできることはしている

  発達に欠かせないランダムな動き

  子どもは教えたことを学ぶのではなく、経験したことを学ぶ

  親にも子にも実りをもたらす方法への転換

 驚くべき子どもの脳

  ランダムな動きが脳に栄養を与える

  最初の一歩──「違い」を受けとめる

  両脚がくっついて離れないカシー

  「ひとつ」と「もうひとつ」を発見したカシー

  カシーの脳で起きていたこと

  アヒルをつくる──分化と統合

  すべてが「ぼんやり」していたジュリアン

  まるで霧が晴れるように

  支援の視点を変える

 

第Ⅱ部 9つの大事なこと

1つめの大事なこと*動きに注意を向けること

  動きを獲得するとき、一歳児に何が起こっているか

  子どもは注意を向けることで学ぶ

  脳は「失敗のパターン」も再生してしまう

  足で立つための支援とは

  頭を打ちつける自閉症の男の子

  ライアンの目覚め

  「息子は生まれ変わった!」

  子どもが注意を向けているときの五つの特徴

  からだ・きもち・考えの「動き」

 科学が教えてくれること

 ◎動きに注意を向けるためのヒントと方法

2つめの大事なこと*ゆっくり

  脳性まひの女の子、アリとの出会い

  こわばった筋肉へのスロータッチ

  人は体験ずみのパターンしか速くはできない

  スローダウンで「感じとる脳」に

  止まれないジョシュ──刺激を減らすことが有効な理由

  体当たりで「ゆっくり」を学ぶ

  「ぼくはバカじゃない!」

  ヒトは、その脳とともにゆっくり成長する

  終着点は未定にしておく

 科学が教えてくれること

 ◎「ゆっくり」を実践するためのヒントと方法

3つめの大事なこと*バリエーション

  バリエーションは脳の成長をうながす

  バリエーションはどこにでも

  コルセットで固められた男の子

  初めて「動くこと」を知ったマイケル

 科学が教えてくれること

 ◎バリエーションをつくるためのヒントと方法

4つめの大事なこと*微かな力

  強い刺激は感覚を鈍らせる

  ボールのように硬く丸まってしまうリリー

  なまけものごっこ──過剰な力をぬいて

  「なまけものの国」の威力

  まずは、あなたから

  数字はなんのため?──ストレスと認知能力

  「微かな力」が直観と思考力を高める

 科学が教えてくれること

 ◎微かな力を使いこなすためのヒントと方法

5つめの大事なこと*内なる熱狂

  喜びを深める力

  感激のやりとりが脳を呼び覚ます

  ジェイコブを進歩させたもの

  拍手はしないで

  「もう一度やって」と言わない

  心の内で喜びをかみしめる

 科学が教えてくれること

 ◎心を熱くするためのヒントと方法

6つめの大事なこと*ゆるやかな目標設定

  可能性にひらかれた道

  ヒヒのたとえ──目標にしがみつくということ

  動くこと、喜ぶことを学んだアレクサ

  でも、いつになったら話すの?

  イエス、ノー、イエス!

  子どもにとっての成功体験とは

  ゆるやかな目標のもつ普遍性

 科学が教えてくれること

 ◎目標をゆるやかに保つためのヒントと方法

7つめの大事なこと*学びのスイッチ

  読み書きが困難だったスコッティ

  スコッティの飛躍

  ひとりの人間としてみる

  子どもを丸ごとみる

 科学が教えてくれること

 ◎学びのスイッチを入れるためのヒントと方法

8つめの大事なこと*想像すること、夢みること

  機械的に暗唱しつづけるアリィ

  きかんしゃトーマスはどこ行った?

  想像力のリアリティ

  あなたの子どもに潜む天才

  「この子は天才だ」

  空想が脳にもたらすマジック

 科学が教えてくれること

 ◎想像力をはばたかせるためのヒントと方法

9つめの大事なこと*気づき  

  赤ちゃんは観察している

  「気づき」は行為だ

 科学が教えてくれること

 私、そうしてた?──母ジュリアの「気づき」

 自分のなかの観察者を目覚めさせる

 「気づき」は波及する

 ◎気づきを増やすためのヒントと方法

おわりに──限界を超えて

よくある質問と答え

訳者あとがき

はじめに

『この仕事を始めた三十年ほどまえ、親たちが、レッスンを通して変わっていく子どもを見て奇跡だと言うのを聞き、びっくりしました。しかし当時の私は、子どもの変化が本物だと気づいていましたが、レッスンとの因果関係を理解できていませんでした。それから歳月を重ね、私は目にする成果が「まぐれ」ではないこと確信しました。自発的に回復したとか、もとの診断が間違いだったという説明が当てはまらないほど、さまざまな症状の子どもたちにくり返し成果がみられたからです。

私は何千人もの子どもたちと関り、そのみごとな変化を観察してきました。けれども、奇跡を起こしたと思うことは一度もありません。子どもたちの変化はその脳の中で起こっていることで、すべては脳の力によってもたらされたと理解しています。自閉症、脳性まひ、注意欠陥・多動性障害(ADHD)ほか、さまざまな診断を受けた子どもが飛躍するのを見るたびに、できるだけ多くの子どもたちにこの取り組みを伝えなければと感じてきました。親御さんと介助をしているみなさんに、簡単で実践しやすい方法をお教えしたいと思います。

これからご紹介する方法は、パラダイムの転換をもたらし、支援のあり方を一変させるものです。お子さんは大きな変化を体験するはずです。子どもたちは、フタがされている能力を活用できるようになるのです。

私は、モーシェ・フェルデンクライス博士の教え、子どもたちとの取り組み、脳神経学の知見にもとづき、理解を明確にしてきました。科学は日進月歩で人間の脳の可能性を解き明かしています。古い概念をうちやぶり、限界を押し広げ、健康な脳も傷を負っている脳も、よりよく働くことのできる新しい道がつぎつぎと開けています。驚くべき可能性を実現させるためには、脳は変わることができるということ、「脳の可塑性」を理解する必要があります。お子さんがどんな状況であっても、どんなに個性的な生育であっても、実践できる簡単な原理が必要です。それを示すことが本書の目的です。

第Ⅰ部は、子どもの脳がどのようにしてよくなる方向に変化し、その子の人生までもが変わりうるか、ということを理解してもらうために書きました。

第Ⅱ部(9つの大事なこと)は、眠っている子どもの能力を引き出すために、脳が何を必要としているかを説明しました。各章の終わりには、毎日の生活のなかで子どもと取り組むことができる具体的な方法とヒントを紹介しています。「9つの大事なこと」と取り組みのヒントは、子どもの脳の可能性を引き出し、まさに実現させていくものです。

まず、第Ⅰ部から読むことをお勧めします。そこで基本的な考え方をつかんだあと、第Ⅱ部の「1つめの大事なこと 注意を向けて動くこと」を読んでください。あとにつながる大事な鍵です。その後は本の順番どおりに読んでも、気になる章から読んでもいいでしょう。ひとつの章がすっかり自分のものになるまでに数日かかると思います。スキルを習得し、理解を深める時間が必要です。ひと通り読んだら、折りにふれて読み返し、さらに学びを深めてください。

お子さんが限界を超えていく手助けをするための力強い方法が見つかるはずです。それでは、子どもたちの脳のとてつもない可能性を引き出す旅へ、いっしょに踏みだしましょう。』 

おわりに―限界を超えて

『子どもが特別な課題に直面するとき、そこに関わる人たちは、その子に何が必要かを見きわめ、最善の支援方法を見つけださなければなりません。私は本書で、ほぼどんなときも目覚めさせることのできる豊かな可能性を明らかにし、これを実現する方法を示そうと試みました。そして、限界を超えるとはどういうことか、全力で挑戦するとはどういうことか、また、問題の解決法はつねにこれから生みだされるものだということについて、私の考えをお伝えしました。

三十年以上におよぶ取り組みを通じて、私は、本書に示した「9つの大事なこと」が子どもの状況を変え、その子が限界を超えていくために役立つことをくり返し経験してきました。「9つの大事なこと」は、あなたとお子さんの脳の無限の可能性を探り、目覚めさせるためのガイドです。これは脳が上手に働くようになるための支援の方法であり、その核となるのは、子どもの脳という奇跡です。実践を通して、子どもの脳はたえず識別を細かくし、動き・感覚・考え・行ないを洗練させるチャンスを得ることができます。子どもはつねに能力を高め、成長を続けることができるのです。

特別な支援が必要な子どものための目標がひとつあるとするなら、それは、その子が「充実した意味ある人生を送ること」でしょう。これはすべての子どもにとっての目標でもあるはずです。最後に、テンプル・グランディン(米国の動物学者、自閉症をもつ)の言葉をご紹介したいと思います。

「親や教師は、子どものレッテルではなく、子ども自身をみるべきです。(中略) 現実的な期待を抱きながらも、その子の内に静かに潜み、表出するチャンスを持っているかもしれない才能の芽を見過ごしてはなりません。』

テンプル・グラディンの著書に関しては、過去に「自閉症の脳を読み解く」というブログをご紹介していました。

アナット・バニエルのプロフィール

『米国在住。科学者の父と芸術家の母のもと、イスラエルで育つ。大学では統計学を専攻。人間の脳への関心から、身体運動の意識化を探究したM・フェルデンクライス博士(1904~1984)に師事。

脳性まひをはじめとするスペシャル・ニーズの子どもたちとの30年以上にわたる取り組みを通じて、脳の可塑性を利用して本人の能力をひきだす手法(アナット・バニエル・メソッド)を編みだす。動き、感じ、考えるひとりの人間として子どもを総体的にとらえるそのアプローチは、自閉症スペクトラム、脳性まひ、ADHD、腕神経叢損傷、傾頸などさまざまな症状をもつ子どもたちへの取り組みを可能にさせた。

同時に、科学にもとづくメソッドを発展させ、幅広い年齢・職業の大人たちへのレッスンを通じて、ニューロ・ムーブメントを提唱。指揮者・演奏家・アスリートに数多くの実践者がおり、人びとが痛みや限界を超え、新しい次元のパフォーマンスに到達できるための取り組みを展開している。臨床心理士であり舞踏家でもある。

現在、カリフォルニア州マリン郡のアナット・バニエル・メソッド・センターを運営。後進のプラクティショナーの育成に励み、レッスンを希望する人びとを世界中から受け入れている。』 

ボイタ法・ボバース法

「ボイタ法」、「ボバース法」という訓練・リハビリテーションの方法は、小児障害に係わる中で知りました。しかし、これらは主とする対象が乳児期のものということもあり、そこまでは必要ないだろうと思いスルーしていました。

一方、訪問の仕事(業務委託)は高齢者から小児にシフトし始めており、ご家族との接点が増える傾向にあるため、これらに関しても、ある程度は知っていた方が良いと思うようになりました。

調べてみると、「ボイタ法」は人間の反射を利用する方法「ボバース法」は反射を抑制する方法ということで、全く正反対なアプローチのようです。個人的には前者の反射を利用する方法の方が興味深かかったため、まずはボイタ法について勉強することにしました。

こちらのサイトに、ボイタ法、ボバース法についての説明が出ています。書かれている内容は難しいのですが、簡潔にまとめられていますのでご紹介させて頂きます。

ともに脳性麻痺に対する代表的な訓練・リハビリテーション方法です。

ボイタ法は、7つの姿勢反射(引き起こし、パイパー逆さ吊り上げ、ランドー反応、コリスの水平吊り下げ・片脚吊り下げ、ボイタ反射、腋下支持垂直挙上)をスクリーニング方法とし、早期乳児期に脳性麻痺症状の出現する以前に中枢性神経障害(ZKS)を示す患者さんを発見し、原始反射を応用した腹這い・寝返り運動を誘発し脳性麻痺の発症を阻止します。しかし、ZKSの脳性麻痺への移行についての根拠が明らかではない、時に治療が必要な児を見落とす、などの問題点も指摘されています。

一方、ボバ-ス法は、姿勢反射を含めた正常乳児の発達の知識から、脳性麻痺の症状が形成されてくる異常発達を神経生理学的に定義し、それを積極的に予防していこうとするアプローチです。実証的治療結果(療法士である妻の経験を医師である夫が理論化)に基づく、異常反射抑制肢位(RIP)やKey point of controlを用いた訓練により、協調運動や日常生活動作に結びつく基礎的運動能力の改善をめざします。』

まず図書館から借りてきたのは「ボイタ法の治療原理 反射性移動運動と運動発達における筋活動」という本です。こちらの本の魅力は何といってもボイタ(Vaclav Vojta)自身が書いたものであるという点です。

 

著者:Vaclav Vojta、Annegret Peters

訳者:富 雅男

出版:医歯薬出版

発行:2002年3月

読んでみると、運動学(キネマティクス)とリハビリテーション学についての知識が不足している私には、理解するのは難しいということが分かりし、早々に断念することにしました。

ただ、雰囲気だけでもお伝えすることは悪くないと思い、断片的ですが以下にご紹介します。なお、“矢状面”と“膝窩筋”の後ろの( )は私による加筆です。

足関節の運動:後頭側下肢の立脚相と踏み切り相における距踵関節の軸(図38)

1.新生児の足は回内している。踵骨の長軸は距骨の長軸に対して外側に変位している。

2.踵骨は高位にあり、また距骨の下には移動していない。

身体全体の姿勢が変化することによる起き上がり機能が発達し、それによって負荷がかかり筋機能が変化したときに、初めて踵骨は距骨の下に位置してくる。独歩が獲得されても、まだ子供の足は外反している。全骨格筋の筋機能の分化のもとに3歳になって初めて足のアーチが発達しはじめる。脳性運動障害に侵される危険があったり、小児脳性麻痺に発展しているならば、距骨と踵骨に関しては足は新生児の運動発達段階のままである。踵骨と距骨について上述した病的肢位は、小児脳性麻痺の患者では脛骨内旋を合併しているのがほとんどである。反射性腹這いの出発肢位において、足は下腿に対して直角である。

 

画像出展:「ボイタの治療原理」

踵の誘発帯を刺激して、距踵関節を矢状面(体を左右に分ける面[矢状面の運動は底屈・背屈]。水平面は上下、前額面は前後)で踵骨と距骨の長軸が重なるポジションにもってくる。

 

9個の赤丸が「誘発帯」という非常に重要なポイントです。

なお、こちらの画像は「からだ相談室」さまから拝借しました。

また、足の外反は変形を踵の誘発帯によって矯正すると、最初は後足部が他動的に矯正されることになるが、前進運動の経過中に長短腓骨筋、前脛骨筋そして非常に重要な後脛骨筋の共同運動機能によって能動的に後足部の矯正位が保たれる。踵誘発帯を圧迫すると下腿の膝窩筋にも遠隔作用が及ぶ(図40参照)。 

 

画像出展:「ボイタの治療原理」

踵誘発帯を圧迫すると距腿関節を介して下腿の長軸に伝わり、膝窩筋(膝窩筋の筋力低下は膝の過伸展につながる)が伸長状態になる。膝窩筋が収縮すると、膝窩筋は固定点である尾側に牽引され大腿は外旋する。脳性運動障害の場合、外反尖足の問題ではほとんどいつも脛骨の内転と大腿骨の内旋を合併していることを考えると、このことは重要である。

反射性腹這いの後頭側下肢では膝窩筋は大腿骨の外旋だけに働くのではなくて、足の負荷にも影響を与える。後脛骨筋との共同運動では、膝窩筋は間接的に踵骨の外反と立脚相で良好な踵の負荷に寄与する。

要約すると後頭側下肢の足に関しては、足は反射性腹這いの全運動過程で能動的に、そして単独で回外位さらに地面に対して直角位で支えているといえる。この際、踵骨と距骨は下腿の長軸にある。これらの筋活動は反射性腹這いの運動パターンにおいて新生児に誘発可能で、筋肉の共同運動によって筋活動が起こる。セラピストが他動運動に足を矯正して保持する必要はない。新生児や成人の患者も歩行サイクルと比較すると立脚相と踏切り相にあたるとろでこの下肢を動かし、その際、下腿三頭筋も運動に参加する。

足関節について

足関節には“内反”・“外反”という用語と、“内返し”・“外返し”という用語があります。「これは同じなのか?」と思いながら、調べてみると内反・外反は「変形」を意味する用語であり、一方、内返し・外返しは「運動」の名称であるということが分かりました。なお、下記は「足関節の運動」を示した図です。

 

REGUARDさまのサイトに掲載されていた『知ってトクする豆知識:足首編』から拝借しました。

 

続いて、図書館から借りてきたのは「子どもの姿勢運動発達」という本です。1985年発行の本ですが現在も購入することができます。

 

著者:家森百合子、神田豊子、弓削マリ子

出版:ミネルヴァ書房

初版発行:1985年9月

目次は次の通りです。

序文

はじめに

第1章 保育園で発達診断してみたら

第2章 正しい姿勢とその発達

第3章 発達診断に用いられる姿勢反応

第4章 発達診断に用いられる反射検査

第5章 調和のとれた発達とは

第6章 障害のある子の療育と訓練効果

第7章 ボイタによる診断学と境界線域の子どもたち

第8章 ボイタによる訓練と必要な配慮

第9章 こんな子に役立つ育児体操

そして、【付図 運動発達と姿勢反応】という1枚物の付録が付いています。

ブログでは、第8章の「ボイタによる訓練と必要な配慮」と付録の付図をご紹介したいと思います。

第8章 ボイタによる訓練と必要な配慮

1 ボイタ法による治療の概要

ボイタ法の治療はふつう、お母さん(家族)に対して、PT(理学療法士)が訓練を指導し、お母さんが家庭で1日4回行うようになっています。1回の訓練時間は15分~30分位、特に体力的に問題のある場合は、5分位に短くすることも可能です。まず、正常なムスタ(パターン:筋肉の使い方の組み合わせ)を誘発しやすい出発肢位をとらせます。

反射性ねがえりⅠ相は仰臥位、Ⅱ相は側臥位、反射性腹這いとエルステポジションは腹臥位です。

次に特定の部位にある誘発体を決められた方向に向かって刺激します。

例えば反射性腹這いの時の誘発帯は図に示すように、主誘発帯が4つ、補助誘発帯が5つあります。

主誘発帯は主に骨膜への刺激、補助誘発帯は骨膜刺激と筋膜伸長とからなっています。誘発帯をどのように組み合わせて使うかは、その子の障害の内容によって違ってきます。 

 

画像出展:「子どもの姿勢運動発達」

PTは自分で反応を出してみて、一番正常パターンを誘発しやすい組み合わせにより訓練の処方を決めます。このようにして、決められた肢位で、決められた誘発帯を決められた方向へ向かって刺激して待っていると、反応が返って来ます。その時、出来るだけ初めの出発肢位に止めておくようにすると、腕ずもうの時のように、反応は強まり、全身の筋肉へ段々と拡がって行きます。

その起こってきた反応は、正しい起き上がりと、正しい相同運動、正しい姿勢反応性の三つの要素を含んだ、協調性複合運動と理解されています。前頸筋や胸筋、腹筋などの動きで顎をひき、肩が下り、背中全体がのびて、骨盤が後傾するような正しいパターンになった時に、それら三つの要素が正しく起こります。この時、脳の中でもそれまで働けていなかった、新しい経路に働きが起こっているはずです。もちろん、非常に重症な脳性麻痺児が初めから簡単に正常なパターンを出せるはずはありません。そこでその子の本来のパターンより、少しでもよくなるように、毎日積み重ねて行くわけです。脳の中で新しく働き始めた経路は、初めの内3~4時間位たつと、働かなくなってしまうと考えられています。実際の訓練の直後にはよくねがえりするのに、訓練が1~2回抜けると余りねがえらなくなってしまうこともあります。少しでも正常に近づけるための訓練は少ない日でも3回は必要です。特に乳幼児は発達が早いので4回必要です。脳性麻痺はふつう放置することによって段々重症化して行きますが、1日2回の訓練は現状維持、1回は重症化を少しくいとめるための訓練と考えられています。5回もすると一日中訓練ばかりしていることになり、遊びの時間や、動きまわる時間がありません。

訓練は基本問題、日常生活はその応用問題と考えて、動きやすくなった手足や口をしっかりと使わせて下さい。以上のことから、日常生活経験と訓練をどのように組み込んで行くかが、訓練の効果を上げるための鍵になることがおわかりいただけると思います。 

 

画像出展:「子どもの姿勢運動発達」

2.ボイタ法の訓練は何をしているのか

ボイタ法の訓練は、赤ちゃんの姿勢や運動のパターンを少しでも正常に近づけることにより軽症化させることを目的としています。どんなやり方でもよいから立って歩けばよいと考えているのではありません。ねがえりや這い這いの時に使われる筋肉の組み合わせは、歩く時にも使われています。

正常な寝返りのパターンでの、上下肢の位置や体軸のねじり方は、正常な法の訓練は歩行での上下肢の位置や体軸のねじり方と似ています。脳性麻痺児の寝返りのパターンと似ているわけです。従ってねがえりのパターンが少しでも正常なパターンになることは、歩行のパターンが正常なパターンに近づくことを意味しています。

筋肉は、ふつう、よく使った筋肉ほど太く強くなり、使わない筋肉ほど細く弱くなりますから、正常なパターンで毎日動いているのと、異常なパターンで無理して動いているのとでは、筋肉のつき方が段々違って来るわけです。そして強い筋肉は増々強く、弱い筋肉は増々弱くなります。そしてこのことは、脳の中でも起こっていることが予想されるわけです。

ボイタ法の訓練は出発肢位に出来るだけ止めておくことによって筋肉の等尺性収縮(注.筋肉の長さが変わらない収縮の仕方。例えば腕ずもうの相手がほとんど同じ強さを持っている時、筋肉は強く収縮しているにもかかわらず、同じ長さに保たれている。一方、動きの速い運動の時は筋肉の長さは常に変化していることになる。)の方が、筋肉は太く強くなりやすいわけで、反射性ねがえりの時に正常パターンの反応を起こし続けることが出来れば、ただ単に正常パターンでくるっとねがえった時よりは、正常パターンを強めることが出来ることになるのです。特に脳性麻痺児の場合、肩甲骨をしっかり固定させ、骨盤を安定させるための体幹の筋肉が弱いことが、姿勢や運動パターンのくずれる大きな原因となっています。

また、胸筋や腹筋の弱さのために風邪を治す力も弱いことが多いのです。ですから、頭の方へひきあげられたようになっている肩甲骨が、体幹の筋肉によってしっかりとひきさげられ、肩巾が広くなるような反応(この時必ず、顎ひきを伴う)や、胸筋や腹筋が弱いために、横へ間のびしてとび出した肋骨下縁が、腹筋によってひきさげられるとともに、大きく深い呼吸によって胸郭がふくらむような反応が起こることが必要なのです。また、背筋が強いために後ろからひきあげられ、前傾している骨盤が、背筋を伸ばし腹筋を働かせることによって、後傾するようになることが求められます。このようにして、肩が安定すると頭の位置も安定し、口の使い方、目の使い方が良くなります。また、肩の安定は手の使い方を良くします。胸筋腹筋の働きは、呼吸や排便・排尿の機能を改善するようですし、骨盤の安定は、坐位・立位の安定と共に腰の強さを促します。

まとめていうと、ボイタ法の訓練は、特定の出発肢位において誘発帯を刺激し、そのまま止めておくことで、ねがえりや這い這いの時に使う筋肉のパターンを正しく誘導し、体幹を安定させ、結果として、目や口、手足などを安定して使え、呼吸や内臓の働きを改善しながら、移動に必要な体幹のねじりと四肢交互性を誘導することを行っていると言えます。従って使いやすくなった目口手足を実際に使わせる指導や環境が必要になるわけです。

付図 

 

画像出展:「子どもの姿勢運動発達」

さらにネットで調べていると、愕然とする情報を見つけました。

誤解があると良くないので、前後しますが、ボバース記念病院さまの現在の取り組みを最初にお伝えします。

『私たちが行っているのは、むしろこの論文で推奨された「目的志向型トレーニング」や「両手動作トレーニング」「家庭療育プログラム」に近いものです。

ボバース夫妻はもともと、全ての患者さんに決まった方法で治療するべきではないと主張していました。個々の患者さんの状態に応じた個別のリハビリテーションが必要で、その方法は医学や技術の進歩とともに変化していくべきだという考え方を持っていたのです。

1980年代から医療は劇的に進歩し、同じ脳性まひという病名でもその原因や症状は大きく変わっています。また、手術や薬も進歩しており、以前はなかった様々な選択肢が使えるようになりました。私たちはボバース夫妻の考え方に従い、患者さんの病状に応じて現代の医学を根拠とした個別の治療を提供しています。

ボバース記念病院は、一律の「ボバース法」をする病院ではなく、当時は革新的であったボバース夫妻の考え方を引き継ぐ病院なのです。実際に私たちは、ノバック教授をはじめとする海外の著名な研究者を日本に招き、最新の知見を学んで常に治療方法を進化させるように努力しています。

そして、問題の ”情報” は次のような内容です。

2013年にオーストラリアのノバック教授は、脳性まひに対する様々な治療法の効果を詳しく検討し、ボイタ法は「しない方がよい」、ボバース法は「するべきではない」治療であると結論づけました。この意見は世界中で支持され、今や専門家の間では常識となっています。しかし、その論文の根拠となったのは、ボバース夫妻が提唱した治療技術の一部を様々なお子さんに対して一様に「ボバース法」として行った1980年代の研究でした。

1980年代の研究とはいえ、これは凄い事実であると思い、いろいろ探してみたところ、関係する文献を見つけました。

 

クリック頂くとPDFファイル(26ページ)がロードされます。

こちらの文献は執筆者の先頭がノバック教授(IONA NOVAK)になっており、発行日(左下)は2013年6月5日です。また、「ボバース記念病院」さまのサイトに掲載されているグラフの元データと思われるグラフも含まれています。以上のことから、これが関係する文献であるのは間違いないと思います。

グラフの説明

●上段左端の矢印↕は「有効性」を表しています。破線の上が“有効”です。1番上の緑の“S+”は“Do it”です。1番下の“S-(Don’t do it)”と下から2番目の“W-(Probably don’t do it)の2つは破線の下に位置しているので、有効でないという評価になります。

●それぞれの〇(円)の中にそれが何かということが明記されています。「ボイタ」は「Vojta」になりますが、「ボバース」は「NDT」になります。このNDTとはNeuro Developmental Treatmentの略で、日本語では「神経発達学的治療法」とよばれています。『Mindsガイドラインライブラリ』という公益財団法人日本医療機能評価機構(厚生労働省委託事業)というサイトに“神経発達学的治療法(NDT)-Bobath法は有効か?(脳性麻痺リハビリテーション)”という題名の記事が出ています。

●ブログでは「Vojta」もしくは「NDT」が評価に入ってるグラフだけを掲載させて頂いていますが、「Voja」は“Improved muscle strength”と“Improved motor activities”が有効でないという評価をされており、「NDT(ボバース法)」は“Contracture(拘縮) management”、“Improved motor activities”、“Improved function & self care”の3つが有効でないとなっています。 

以下は『Canchild』というサイトの中で紹介されていた、ノバック教授(Dr. Iona Novak)の情報です。

 

写真をクリック頂くとノバック教授のページに移動します。 

 

まとめ

1.「ボイタ法」、「ボバース法(NDT)」は、それらが発表された当時の内容については、有効性が否定されている。

2.「目的志向型トレーニング」、「両手動作トレーニング」、「家庭療育プログラム」など、進化したものがどんどん出てきている。

3.治療技術の一部を一様に適用するのではなく、患者さまの病状に応じた個別治療を行うことが求められている。

スキンシップケア(C触覚線維)

業務委託による週二日の訪問の仕事は、少しずつ小児障害の患者さまが増えてきています。こちらはすべてマッサージですが、なかにはじっくり手技をすることが難しい元気な子もおり、マッサージの基本ともいえる「スキンシップ」について詳しく知りたいと思い、今回の本を見つけました。

 

著者:山口 創

出版:草思社

初版発行:2017年7月

表題の「スキンシップケア」とは著者である山口創先生の言葉ですが、次のような説明がされていました。

人は親しい人と一緒にいるだけで、周囲の見え方や苦痛の感じ方さえも変わってしまう。本書では、人に直接触れることだけでなく、人と一緒にいることも含めて、人を癒す行為は「スキンシップケア」と定義し、これまでのスキンシップの概念をあらためて捉えなおしたい。そしてなぜ親しい人との触れあいや関りが、生きづらさや抑うつを防ぎ、幸福感を高め元気を回復されるのか、とうことも考えていきたい。』

ブログは目次に続き、太字にした箇所についてのみ取り上げていますが、それぞれ章の一部をそのままご紹介しています。

目次

はじめに

第1章 コミュニケーションする皮膚

触れなくても肌は感じている

「直接触れ合う」と何が起こるか

ストレスを癒す身体のメカニズム

もっとも大事な役割は体温調節

 ストレスを感じる皮膚

 皮膚を温めると心が温まる

 うつ病は体温制御ができないことが原因

 触覚は感情に直結している

  摂食障害は胎児期のうぶ毛が原因か

  自閉症も皮膚の神経線維が原因か

  自尊感情が低い人ほど有効なタッチ

「寄りそう」ことで何が起こるか

 動物が群れる理由

 パートナーの有無による心理の変化

 自己が他者にも膨張する

 皮膚が他者を判断していた

幼少期の触れ合いが人間の礎をつくる

 触れ合いの原点

 温かい感触の記憶

 母親と赤ちゃんの体は同調している

 不安定の人が疲れやすい理由

 寂しい人は太る?

 

第2章 触れないと皮膚は閉ざされる

失われた皮膚の交流

 人間の心理的境界はどこにあるのか

 二つの境界

 日本人独特の「あわい」の境界感覚

 肌と皮膚

 なぜ日本人は対人関係に悩むのか

人の「なわばり」感覚

 ぺリパーソナルスペースとパーソナルスペース

 世界の見え方は文化に依存する

 視覚優先の欧米人、触覚優先の日本人

 抱きしめ細胞の存在

触覚を大切にしてきた日本の育児

 日本と欧米、抱っこの違い

 背中の感触が大事なおんぶ

 生きづらさの原因は皮膚が閉ざされているから

 過去の親子関係から自由になるために

 皮膚が拓かれている多良間島の子どもたち

 

第3章 病気やストレスが劇的に改善、スキンシップの驚くべき力

スキンシップが持つ癒しの力

境界が拓かれることで人は癒される

現在の介護施設と病院の難しい現状

 「人の手」で触れる意味

効果が実証された触れる癒しの技法

 ユマニチュード

 セラピューティック・ケア

 タクティールケア

スキンシップの効果が期待されるこれからの領域

 ホスピス・緩和ケア

 発達障害者へのケア

触れられるとなぜ心が癒されるのか

 心理療法としての触れるケアの有効性

 触れるケアは長く続けるほど効果的

 たった1回の触れるケアでもOK

 人間関係を改善する皮膚コミュニケーション

 

第4章 皮膚を拓いて、元気な自分を取り戻す

皮膚を拓いてつながりを拓く

笑うこと

 卒業写真で笑顔の人は幸福になる

 子どもの笑顔は温かいタッチから

心を開くこと

 人に語ることの意味

 ネガティブな気分を和らげる筆記療法

皮膚を共振させること

 マッサージからみる共振

 カップル・親子の共振

 集団の感情を利用する

感謝すること

親切にすること

許すこと

 許すことの効果

 相手の立場に立つ

ストレスを癒す身体のメカニズム

 人は他者から触れることで、安心したりストレスが癒されたり、元気をもらえたりする。そもそもそのような心の変化はなぜ起こるのだろうが。

広くいろいろな学問分野の研究をひもといていくと、そこには数百万年もの長い進化の歴史の中で獲得してきた、人間が持つ奥深い身体のメカニズムが潜んでいることがわかる。

スキンシップが持つ意味について、進化の時間軸で考えていきたい。

スキンシップのもっとも原初的な意味は、生まれたばかりの赤ん坊の体温が低下しないように、養育者が触れて保温することだった。もともとスキンシップは生命を維持するために必要だったのだ。一方でそのように温かい身体で触れられることは、情動レベルでは赤ん坊にとって、養育者に守られて安心できる快の体験でもあった。抱かれるたびに安心することを幾度となく繰り返す経験をした結果、それは不安や恐怖、ストレスなどの不快な心を癒す行為と結びついていった。さらにそこから発展して、触れて安心させてくれる人に特別な愛情の絆である愛着関係を築いて、その関係を強め、そういう人を信頼するようになった。これが認知レベルである。

このように自己の生命を維持するといったもっとも基本的なレベルから、絆を強めるといった社会的なレベルまで階層構造を成していて、下から順に進化してきた。』 

 

下から、”身体レベル”→”情動レベル”→”認知レベル”となっていきます。

画像出展:「人は皮膚から癒される」

 もっとも大事な役割は体温調節 

 『いうまでもなく、人は体温を維持しないと生きていくことはできない。外界の温度が大きく変化しても、身体の体温の変化はわずかにしか変化しない。厳密にいえば、体温には皮膚温と深部体温の2種類がある。皮膚温は環境の温度に応じて変化するが、深部体温の方は環境の変化によらずある程度一定である。深部体温はおよそ30度~44度の間であり、それ以下あるいはそれ以上になると死に至ることになる。

また、深部体温と皮膚温には温度の落差があり、深部から皮膚表面に至るまで、温度勾配がある。この温度の落差が適度にあることが生存にとってとても重要だ。そしてこの温度勾配を一定に保つために、身体は常に深部で代謝活動をすることで熱を産出し、皮膚から熱を逃がしている。

体温を保つことは、代謝にとっても、生殖活動にとってもとても重要だ。たとえば代謝については、体温が1度下がると基礎代謝は12%、体内酵素の働きは5割も低下してしまう。また動物の場合、気温が下がると生殖活動も低下する。体温の低下は、自己の生存にも生殖にとってもデメリットばかりだ。』

 

画像出展:「人は皮膚から癒される」

 『多くの動物では、危険が迫っていたり病気になったりしたときに仲間同士で身を寄せ合うことがある。これも肌をくっつけ合うことで、体温を調節するために必要なエネルギーの消耗を防いでいるのだ。イヌなども、赤ちゃんのときは同じように身を寄せ合っている。肌を触れ合うことは生き残るためのもっとも基本的な戦略なのだ。

とりわけ人間の赤ちゃんは、この体温調節機能が極端に未熟な状態で生まれてくる。だから生まれたらすぐに養育者に抱かれて体温を保つようにしなければいけない。何らかの理由ですぐに抱かれることがなければ、保育器で体をしっかり温める必要がある。

こうして先の図1(触れ合い効果の階層構造)のベースの部分をしっかりと築いてあげないと、将来的にはその上の安心感や、さらにその上の愛着の絆にまでも悪影響が出てしまう。』

 

画像出展:「人は皮膚から癒される」

 

皇帝ペンギンは厳寒の南極で生き抜くために身を寄せ合います。

画像出展:「カラパイア

 触覚は感情に直結している

『皮膚には4種類の触覚の受容器があり、それぞれ異なる物理的な性質に反応しそれを脳に送り知覚している。

ところが最近、皮膚にはもう一つ、性質の異なる触覚の受容器があることがわかってきた。それはC触覚線維と呼ばれ、神経線維の末端が枝分かれして皮膚に入り込んで触覚を直接知覚している神経線維の束である。これは、「触れて気持ちいい」とか「触れた感触が気持ち悪い」といった感情に関わる神経線維である。

左上に書かれた”自由神経終末”が、上記の説明(「神経線維の末端が枝分かれして皮膚に入り込んで…」)の部分の図になります。

画像出展:「看護roo!

興味深いことに、このC触覚線維が興奮するための物理的な条件というのがある。それは触れるものの速度柔らかさが重要な要素である。速度に関しては、秒速3cm~10cm(ピークは5cm)ほどの速度で動く刺激に対してもっとも興奮する。また柔らかさに関しては、ベルベットのような柔らかい物質に興奮する。だから人の手でゆっくりと手を動かしてマッサージをするような刺激に対して、興奮することになる。

そして脳では島皮質や線条体といった、情動や自己の感覚や身体感覚に関わる部位に到達する。

またこのC触覚線維の興奮は脳内ではセロトニン神経を活性化させることもわかっている。だから抑うつや不安の高い人にゆっくりした速度でマッサージをしてあげると、脳内でセロトニンがつくられて症状が軽くなるのだ

実際に、著者が行った実験でも、相手の背中に秒速5cmほどのゆっくりと触れてあげると、抑うつも不安も顕著に低下した。逆に手を動かす速度が、速すぎたり遅すぎたりすると、自律神経の交感神経が優位になって、覚醒水準が上がってしまったのだ。』

こちらはネット上にある『Pain Relief-痛みと鎮痛の基礎知識』というサイトです。この内容を基に、”神経線維”と”受容器”について補足したいと思うのですが、一つご注意頂きたいのは、C線維に関してはまだ未解明なことも多いという点です

このページのほぼ中断に”体性感覚神経の神経線維の分類”という見出しがあり、そこに表形式で神経の説明が出ています。

有髄無髄は髄鞘(神経の軸索を覆う膜のようなもので、この髄鞘があると神経の伝導速度がアップします)の有無を表しています。

有髄にはA線維B線維があり、AにはAαがあります。この3つはそれぞれ”太さ”、”速さ”、”機能(役割)”が異なります。B線維は”交感神経節前線維”と呼ばれ、自律神経系に属するものです。

一方、無髄には2種類のC 線維があります。1つ”交感神経節後線維”というB線維と同じ、自律神経系の働きを持っています。もう1つが”痛覚、温冷覚”となっていますが、まさにこの部分の解明が進み、”触覚”としての機能やセロトニン、オキシトシンとの関連性など、いろいろな発見がされてきているということになります。

”受容器”に関する説明はこのページの上のほうにあります(【皮膚の受容器】というボックスの中にあります)。これによるとC線維の受容器は一般的にはポリモーダル受容器”であることが分かります。

また、よく見ると下段に「その他のC線維」とあり、そこには次のような説明も加えられています。

かゆみを伝える受容器、触覚刺激に反応するものもある。*pleasant touchを伝えるC線維もある!”

愛知県理学療法士会誌第18巻第2号に掲載されている『痛みのメカニズムと理学療法』という資料がダウンロードできます。この資料に”ポリモーダル受容器”に関する記述が出ていますので、ご興味あればご参考にしてください。

こちらの『触れることの科学』の中にもC触覚線維に関する記述がありました。

『機械受容器(メルケル盤、パチニ小体など)の活動に対するAβ線維の活動を記録してみると、C触覚線維とは反応のしかたが異なることが分かる。Aβ線維は、前腕を撫でても、模様のある面や角や震動で接触刺激を与えても、どちらでも反応する。もちろん、手のひらや指の無毛皮膚でも反応は起こる。C触覚線維と比較して最も重要で顕著な違いは、強い刺激ほど効率的に活性化するという点である。撫でる速度が速いほど、反応も強くなる。Aβ線維は触覚刺激のさまざまな性質を弁別できる。

これに対してC触覚システムは、特定のタイプの接触、すなわち、一定の範囲の速度で軽く撫でられた場合のみを感知するようだ。最適な速度に合わせるこの性質は、知覚にとって決定的に重要な要素となる。健常者の前腕や大腿を速度を変えて撫でる実験で、被験者が最も心地よいと報告した速度は、毎秒3~10センチの範囲だった。この範囲は、C触覚線維が最も強く活動する範囲と正確に一致している。

健常者の脳画像を撮影してみると、前腕を撫でられると1次、2次の体性感覚野(Aβ線維由来の情報により、細かい形や質感を識別する)とともに、感覚処理の感情的側面に関わる島皮質後部が活動することが分かる。これに対してG・L(患者)の脳では、前腕を撫でると島皮質後部は活動するが、1次、2次体性感覚野は活動しない。つまり、C触覚線維は島皮質は強く活性化するが、体性感覚野は活性化しないと考えられる。それだけではない。C触覚線維を最も強く活性化し、最も心地よいと報告されるほどよい速度の撫で方は、やはり島皮質後部を最も強く活性化していた。これはG・Lでも健常者でも同じ結果だった。』

 

C触覚線維は ”島皮質” にたどり着きます。なお、島皮質は知覚や情動に関係した大脳皮質の一部です。

画像出展:「触れることの科学」

 なぜ日本人は対人関係に悩むのか

『俗に、日本人は集団主義だといわれることがある。しかし社会学者の濱口惠俊は、日本人の人間関係の特徴について、西洋型の「個人主義」に対する「集団主義」ではない、と述べている(“日本型信頼社会の復権”東洋経済新報社)。

彼によればたとえば職場では、個人を集団の中に埋没させて仕事の集団を優先するというのではなく、各人が互いに仕事上の職分を超えて協力し合い、それを通じて組織の目標の達成をはかり、それが翻って自分の欲求を満たして、集団としての充実につながるのが「日本的集団主義」なのだという。

彼の主張する間人主義については、本書のこのあとの議論でも重要な位置を占めているので、西欧の個人主義と比べながら、「スキンシップ」の立場からもう少し深く解説したい。

西欧の文化は、すべてを個人の力と責任で成し遂げることに価値を置くものであり、それには自己を律する強い自我が必要である。このように西洋の「個人主義」では、人に依存するよりも個々人が独立して社会を生き抜くことに価値を置く、頼みとできるのは自分以外にないことを前提にするため、他人との関係も自分の欲求を満たすための手段であると捉え、人間関係それ自体に無条件に価値を置くものではない。

それに対して日本人は、自己を他から独立した「個人」ではなく、「間人」として捉えている。自分を、人と人との「間柄」に位置づけられた相対的な存在であると感じ、社会生活を自分一人の力で営むのは不可能だと感じている。自立ではなく、相互依存こそ人間の本態だという価値観なのだ。この相互に信頼し助け合う価値観こそが「間人主義」なのだ。これは、対人関係を自己の生存のための手段として捉える「個人主義」とは、対照的な価値観だろう。

それらの違いはたとえば職場の人間関係で如実に表れると思う。西欧の人間関係は、互いに独立した個人間での契約関係が基本である。そこでは職務を超えてまで個人的な人間関係が発展していくことはあまりない。だから定時には仕事を終えて、そのあとはプライベートな時間を楽しもうとする。それに対して日本人は、定時に自分だけ仕事を終えてさっさと帰ってしまうことはないだろうし、せっかくの有給も消化しきれない人も多い。どちらも仕事仲間との関係性を第一に考えているからだ。

濱口はこのような関係を図にしてわかりやすく解説している。図10左の個人主義は、独立したAとBがそれぞれの領域を守りながら相互作用をする。それに対して図右の間人主義の場合、AとBの生活空間は互いに重なり合っており、重なり合った部分を含めて自己のアイデンティティと感じている。

だから日本人は主体性がないとか個人のアイデンティティが希薄だ、ということではなく、他者との相互に包摂するような関わりの中で、個人個人が主体性を確立し、そこにアイデンティティを感じているのだ。

 

画像出展:「人は皮膚から癒される」

日本人は、「個人主義」でもなく、「集団主義」でもなく、「間人主義」の価値観に基づいて社会や組織に関わっている。人間は互いに依存しあって生きざるを得ないのだから、その関係を前提にして、自他を生かしていこうというのが、日本人の基本的価値観であり人間観であるといえる。そのためには、境界の感覚がきちんと拓かれている必要がある。

人との境界に対して持つこうした日本人の独特の価値観においては、人間関係の中に溶け込めなかったり、対人関係の軋轢に悩まされたり、人間関係の中で自己を見失う人も当然のことながら出てくるだろう。対人関係にこそ無条件の生きがいや幸福感を見出す日本人にとって、対人関係の問題は、すなわち自己の価値そのものに直結する問題となるからである。

西洋で生まれた心理学では、そのような人間関係の問題は、たとえば社会的スキルを身につけて解決しようと考える。つまり個人としての自己を確立することが重視されるため、相手を尊重しながら自己を主張するといった、対等で独立した個と個の関係を目指すことが主眼に置かれる。もちろんそのような技術を身につけることも、問題解決のための一助となるであろうが、日本人にとっては、本質は違うところにあるだろうと思う。』

以下は私の個人的考えです。

約29年間、外資系企業で働いた経験から感じる外国人と日本人の働き方の違いは、“合理性”の中身と重みの違いのように思います。外国人の”合理性”は、その中身はシンプルでビジネスの基本です。また、“責任”と表裏一体になっているように感じます。

一方、日本人の合理性は、その中に“人間関係がもたらす価値”が含まれており、外国人の協業が1+1=2であるのに対し、日本人の協業は1+1≧2というイメージです。そこにはポジティブな面だけでなく、表面には表れにくい“暗黙の奉仕”のようなものが混じってくる場合もあります。この協業モデルは通常、素晴らしい成果を産み出す原動力になるのですが、注意すべき点としては、“評価”と“責任”が分かりづらくなるというところです。また、これがこの章の表題である「なぜ日本人は対人関係に悩むのか」の原因の一つになってくる場合もあると思います。

 境界が拓かれることで人は癒される

『私たちの多くは、心身の不調があると病院に行く。病院で検査をして、医者に治してもらおとする。その行為自体は何ら問題はない。しかし私たちは、病気や不調は医者に治してもらうものだと無意識に考え、そのような態度を当たり前のようにとってしまっていることから、次のような問題を抱えてしまうことになる。

第1は、身体が持つ自然治癒力の存在を忘れ、最終的には自分の身体が自ずと治っているのだという視点が抜け落ちてしまうことである。私たちは、医者の言う通りに服薬し、栄養さえ取っていればよいのだと信じ、受け身的に治してもらおうとする。しかし実際に治しているのは、紛れもなく自分の身体である。だから身体が持つ自然治癒力を発揮しやすいように、自分でも努力すべきだということを忘れがちである。

自然治癒力を働かせるためには、自分の身体の感覚に耳を傾け、身体が欲するようにしてあげることが重要だ。身体は常に快を求める「快の法則」があるから、まずは身体の感覚かとして心地よいことをするのがよいだろう。それはたとえば運動をすることだったり、触れるケアを受けることだったり、身体を温めることであったり、人それぞれだ。受け身の姿勢ではなく、不調をそれ以上悪化させずに、治癒を早めるためにも、そういった努力が大切だ。

第2は、特にこの章で主張したいことであり、第1の視点よりもさらに気づかれにくい点であるが、心身の不調は対人関係の中でこそ癒されるということである。どんな不調や病だったとしても、それを一人で抱え込むのではなく、人に言うだけでも、多少なりとも心が解放される。すると免疫力が高まり自律神経が整う結果、自然治癒力も高まる。第1章(「コミュニケーションする皮膚」)でも述べたように、困難に感じることでも、寄りそってくれる人がいるだけで、困難に感じなくなることもある。自分一人で辛苦と闘わなければならないと思うと、心が折れて生きる気力もなくなるかもしれない。しかし他者とともにいるだけで境界が拓かれ、他者の身体も自分のものであるかのごとく感じられ、病気や不調を治そうとするエネルギーが倍増するのだ。

もともと「癒し」という概念は、未開社会で呪術によって患者を治癒していた呪術医が、人々の病気を治す悪魔祓いの行為を指すものだという。

文化人類学の上田紀行は、癒しの意味について、次のように述べている。

「(癒しとは)なんらかの原因で、地域社会や共同体から、孤立してしまった人を再び、みんなの中に仲間として迎い入れること、そのための音楽や劇、踊りを交えて、霊的なネットワークのつながりを再構築すること(である)」(“覚醒ネットワーク”講談社プラスアルファ文庫)。

このように他者や社会と「つながること」こそが、病を癒すための重要なポイントだといえる。逆にいえば、周りにいる人は、そのような困難な状況にある人を決して孤立させてはならないのである。』 

効果が実証された触れる癒しの技法

ユマニチュード

『ユマニチュードとは約35年前、体育学を専攻するフランス人、イヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティが作った認知症のケアの技法であり、日本でもテレビなどで紹介され、話題になっている。

ユマニチュードという言葉は、フランス領の植民地出身の黒人が「黒人らしさを取り戻そう」と始めた文化運動「ネグリチュード(黒人であること、黒人らしさ)を基に、人(ヒューマン、フランス語でユマン)とかけ合わせたものである。

ユマニチュードは「ケアする人とは何か」「人とは何か」という基本命題を根底に置いた、知覚・感覚・言語によるコミュニケーションを軸としたケアである。

その方法は、実に150以上の多岐にわたる細かい実践技術と同時に、その技法を支える「人とは何か」「ケアをする人とは何か」を問う哲学に裏付けされている点が興味深い。

ユマニチュードの哲学

ユマニチュードを導入すると、患者に劇的な変化が起こることから、何か特別な魔法のようなことをするのだろうか、と注目されることが多い。しかしそのような特別なことは行わない。ただ「人間らしさ」を尊重し続ける、つまり「個人として尊重する」ことを理念に置いて接するだけである。

ユマニチュードのケアの柱となるのは、「見る」「話す」「触れる」「立つ」ことによる援助である。

このうち、「触れる」というのは、本書の中心的なテーマであるため、少し詳しく述べたい。ユマニチュードでは、相手を人として尊重するために、触れる技術についても非常に細かく定められている。一例をあげると、相手の腕に触れて体を起こそうとするとき、相手の腕を上から「つかむ」のではなく、下から「支える」ようにして触れることを教える。あるいは、相手が動こうとする意志を慮りながらそれを援助する方向で支えるのである。上からつかもうとすると、どうしてもこちらの意思で、力ずくで相手をコントロールしているように感じられてしまうため、相手を尊重したことにならないのである。

画像出展:「人は皮膚から癒される」


さらには、相手の体に触れる瞬間、そして手を離す瞬間の手の角度にもルールがある。相手の体に垂直に触れると、触れられた相手にとっては少なからず衝撃を伴うからである。手を垂直に離す場合も同じだ。飛行機が離陸するときや着陸するときに、斜めの角度で離発着するように、手が触れる角度も斜めの角度が衝撃が少ないのだ。

また、「触れる」という動作も、単独で行ってはならない。私たちも人に触れられる際、事前に何もコミュニケーションせずに無言で触れられたとしたら、それは不気味な恐怖心さえ覚えるだろう。触れる際には、必ず事前に十分なコミュニケーションをとっておかなければならない。ユマニチュードでは、それはたとえば「見る」「話す」といった行為を十分に行って、境界としての皮膚の感覚を拓いてから「触れる」のでなければならないと教える。

ここまで読んでこられた方は、「当たり前だ」と思われるかもしれない。

しかしたとえば「見る」とはどのようなことをいうのか、考えたことはあるだろうか。私たちは普段、会話をする相手の姿や表情を見ることはあっても、きちんと目を「見つめる」ことは少ないのではないだろうか。看護師の方も、ユマニチュードで「見ることが大切だ」、と教えられると、「当たり前だ。患者のことはよく見ているよ」というような反応が多いという。しかし、それは患者の患部だけを見ていたり、病状や表情を一方的に見ている。あるいは監視しているといったように、観察しているのであって、心の交流を目指して見つめているのとは違うことが多いのではないだろうか。アイコンタクトというように、目を見つめて心の交流を起こすことは、まさに境界の感覚を解くスキンシップの大事な要素だと思う。

こちらはユマニチュードのサイトです。

セラピューティック・ケア

『セラピューティック・ケア(Therapeutic Care)は、1996年英国赤十字社が開発した手技であり、もともとは病気で入院中の女性にとって、メーキャップなどをすることが回復の助けになるとのアイデアから生まれた。』 

タクティールケア

『1960年代、スウェーデンで未熟児のケアを担当していた看護師シーヴ・アーデビーやグニック・ビルシェスタッドらによって考案された触れるケアである。彼女らは母親に代わって、乳児の小さな体に毎日優しく触れたところ、子どもの体温は安定し、体重増加が見られるようになったという。そこで彼女らは触れることの有効性を確信し、経験に基づいてこの技法をつくったという。』

実は、以前マッサージと体重増加についてブログで記述したことがありました。ご参考までにブログリンクさせて頂きます。”医療マッサージ研究1

マッサージからみる共振

『マッサージを受けるのは、どのような施術者でもよいわけではない。前述のように施術者と受け手との間に身体的な共振が起こり、身体レベルでの交流を起こしてくれるような施術者に触れてもらうことで、初めて効果が期待できる。

そのような意味で、単に技術が優れている施術者がよいということにはならない。受け手の境界を拓き、深い部分で身体を共振させ、その結果として心の変化も起こしてくれのが本物のマッサージ師だと思う。だから本当の意味での腕のある施術者は、優れた心理カウンセラーであるといえる。

それはあたかも、赤ん坊が母親の身体を、しがみつくことができ、体温で温めてくれて、両手で抱きしめてくれるものとして認識するのと似ている。他者に対して、境界を拓くことができず、他者の身体に対しても、「近づきたくない」「触れたくない」というような、不安定な愛着を持っている人でも、本物の施術者に触れられているうちに、身体レベルの共振が起こるようになる。そしてそれは温かい心の交流を生み、不安定だった愛着関係も、安定したものに変化していくだろう。

もう一つ、見逃してはならない視点がある。

前述のようにオキシトシンの高い施術者に触れられると、触れられた人のオキシトシンレベルも高まることがわかっている。このようにオキシトシンの分泌量が多く、かつエネルギーも強い施術者であればよいが、逆の関係になることもあるという。すなわち、受け手の「悪いもの」が施術者に移ってくるという現象である。受け手が「悪いもの」(それが何かは科学的に突き止められていないが)を持っており、なおかつエネルギーが強い場合に移ってくるのだろう。仮に共振といった現象が、単に神経学的な現象として起こるのだとしたら、それを防ぐ手立ては見込めない。しかし自律神経や運動神経、そしてオキシトシンといったホルモンもすべて、心と無関係に動いているわけではない。施術者の心の持ち方を変えることで、患者から「もらってしまう」ことを防ぐことができる。』

オキシトシンは”幸せホルモン”などと言われ、テレビの健康番組でもよく登場するキーワードの1つです。検索してみると、”「タッチケアで絆を育む」…安らぎの物質オキシトシン”という詳しい記事が見つかりました。

なお、ページは5ページにわたっています。

まとめ

1.安心される存在、そして信頼される存在になること。

2.施術の基本は、「見つめて、話して、そして触れる」。(”ユマニチュード”より)

3.触れ合いの原点とは、”体温”を守ること。

4.”オキシトシン”や”セロトニン”の活性化は、秒速5cm前後のソフトな軽擦で得られる。

5.豊富な”オキシトシン”で充足されるように、施術者が自らの生活習慣を見直すこと。

医療マッサージ研究2(脳のはたらき)

今回のブログは「医療マッサージ研究1」の続編になります。

最初に参考とさせて頂いた2冊の本についてお伝えします。

出版:共立出版

発行:2002年2月

大変高度な内容である一方、外側膝状体という視覚の中継核に関し、外側膝状体背側核と外側膝状体腹側核という説明がされています。しかし、現在では『小細胞層と大細胞層の神経線維は、以前はUngerleider-Mishkinの腹側系と背側系に対応すると考えられていた。しかし、近年の研究では、2つの処理経路は両者の神経線維をともに含んでいることが示されている(ウィキペディアさまより)』との説に見直されており、情報が古いと判断させて頂きました。


 

出版:新曜社

発行:2012年3月発行

まず、1章以降の大項目、中項目の目次をご紹介します。

1章 発達心理学における疑問と考え方

Ⅰ 発達をどう考えるか? ―疑問と論争

Ⅱ 発達の2つの要因

Ⅲ 子どもの年齢に関する概念

2章 認知発達を研究する方法

Ⅰ 行動を心理学的に研究するための科学的基準

Ⅱ データ収集の方法

Ⅲ 実験的アプローチ

3章 出生前の発達

Ⅰ 胎児の発達段階

Ⅱ 出生前の聴覚的学習

Ⅲ 胎児への母親の行動の影響

4章 運動の発達

Ⅰ 新生児の反射

Ⅱ 運動能力の発達

Ⅲ 利き手の発達

5章 知覚の発達

Ⅰ 視覚能力

Ⅱ 身体運動と視覚の協応 ―奥行き知覚

Ⅲ 聴覚能力

Ⅳ 味覚と嗅覚の発達

Ⅴ 皮膚感覚の発達

Ⅵ 複数の感覚モダリティの対応関係

6章 認知発達の理論

Ⅰ ピアジェの知能の発達理論

Ⅱ 情報処理的理論

Ⅲ コア知識理論

Ⅳ 表象書き換え理論

7章 モノの知識と因果関係

Ⅰ モノの永続性の再検討

Ⅱ 因果

8章 カテゴリー化

Ⅰ 乳幼児のカテゴリー化の研究

Ⅱ カテゴリー表象の性質とプロセス

9章 空間の認知

Ⅰ 空間の自己中心的符号化

Ⅱ 空間の客観的符号化の研究

Ⅲ 幾何学的手がかりと非幾何学的手がかりに対する乳幼児の感受性

10章 数の認知

Ⅰ 数の弁別

Ⅱ 乳幼児と計算

11章 記憶

Ⅰ 乳幼児の記憶研究の方法

Ⅱ 乳幼児の記憶の性質

Ⅲ 記憶の発達と幼児期健忘

12章 音声知覚から最初のことばへ

Ⅰ 言語と言語習慣の一般性

Ⅱ 音声カテゴリーの知覚とプロソディの知覚

Ⅲ 喃語から語彙の獲得へ

13章 終わりに

Ⅰ 早期発達の研究方法とその限界

Ⅱ 現在の認知発達の理論

ブログでは、3章Ⅰの「胎児の発達段階」と5章Ⅰの「視覚能力」について触れています。

胎児の発達段階

画像出展:「乳幼児の発達 運動・知覚・認知」

 

患者さまに見られる、「口の開閉」や「舌の動き」は10-11週で、「目の動き」はそれより遅れ16-23週となっていますが、いずれも胎児期から見られます。

 

感覚の機能的発達では、「皮膚感覚」が11週と最も早く、「平衡感覚」、「嗅覚と味覚」と進みます。「聴覚」は構造的発達は8週と他の感覚と変わりませんが、機能的発達は32週とかなり遅くなります。さらに遅いのが「視覚」になります。

 

視覚能力

『長い間、小児科医や心理学者は、生まれたばかりの赤ちゃんは目が見えないと信じていました。実際には、赤ちゃんの視覚系は、誕生時には機能できる状態になっています。ただし、見えてはいますが、おとなと同じように機能しているわけではありません。たとえば、中心窩の細胞はまだ完全には成熟していません。細胞の密度は、生後1年半をかけて高くなってゆきます。こうした細胞の変化は、視力や形の知覚の発達に影響をおよぼします。新生児の瞳孔はかなり小さく、視覚を制御する脳の中枢もまだ十分には成熟していません。たとえば、生後1ヵ月の新生児では、脳の視覚野の大きさは相対的にまだ小さく、ほぼ完全になるまでに12ヵ月を要します。これらの要因は、視力、レンズ調節、両眼視の点で、新生児の視覚能力に影響を与えます。』

1.視力

・選好注視法という方法を用いると、生後4週ぐらいから測定することができる。

・生後1ヵ月児の視力はおとなの4分の1ほどで、その後急速に向上し8ヵ月にはほぼ完成する。

2.レンズ調節(焦点合わせ)

・乳児は、生後2ヵ月まではレンズ調節がほとんどできない。

・3ヵ月までは、21~24センチの距離に置かれたモノに焦点が合った状態にある。

・レンズ調節は生後6ヵ月までの間に急速にできるようになる。

3.両眼視

・新生児は単にモノの網膜像の大きさの変化に反応するのではなく、モノの実際の大きさの変化に反応している。

4.色の知覚

・色の知覚は生後1ヵ月までは貧弱であるが、その後急速に発達し、生後2~3ヵ月には、おとなと同様、青、黄や赤といった基本色を区別できるようになる。

5.動くモノの追視

・新生児は動くモノを目で追いかけることができる(およそ90度動く間)。

・新生児は静止しているモノを目で探すことができるが、視力がよくないので図の輪郭をなぞる程度になる。

新生児の視力について「こそだてハック」さまのサイトに分かりやすい情報がありましたのでご紹介させて頂きます。

新生児は「目が見えていない」といわれることがありますが、まったく見えていないわけではありません。視力は0.01~0.02ほどで、「まぶしい」「暗い」といった明暗を認識することができます。色は黒・白・グレーのみで、ものや色、輪郭を認識するほどではなく、両目の焦点を定める能力も備わっていないことから、目的もなく眼球を動かしていることがほとんど。

ブログのタイトルでもある「脳のはたらき(視・聴・運動)」については、「人体の正常構造と機能」、「感覚の地図帳」、「病気がみえる vol.7 脳・神経」を参考にしてまとめましたが、ほとんどが「人体の正常構造と機能」からの引用となっており、記述された内容は極めて専門的なものです。また、思っていた以上に長いブログになってしまいました。

そこで、最初に「まとめ」をお伝えしたいと思います。ご興味あれば、その下の内容をご覧ください。

まとめ

1.視覚は一次視覚野に加え、視覚前野、さらに側頭葉および頭頂葉の視覚連合野も関与しており、大脳皮質全体の1/3という大きな面積を占めると言われています。

2.患者さまは聴覚に問題はないとされていますので、隣接する視覚の伝導路である外側膝状体についても問題はないものと推測します。従いまして、視覚が機能していない原因は後頭葉視覚野が関係していると思われます。

3.患者さまは、眼、口、舌を随意に動かせますので、脳神経のⅢ動眼神経、Ⅳ滑車神経、Ⅵ外転神経、Ⅻ舌下神経、Ⅴ-3三叉神経(下顎神経)に関しては問題はないと思われます。

4.「医療マッサージ研究1」の中でお伝えした、「低反応だった患者さまの眼、口、舌の動きが活発化した」という変化は、触覚・固有覚・聴覚への刺激が脳幹への刺激となって伝わり、脳幹に存在する各脳神経核(Ⅲ、Ⅳ、Ⅵ、Ⅻ、Ⅴ-3)の働きが活性化したためではないかと思います。

1.目が見えるということ

眼球からの光(像)が脳神経の1つでもある視神経の線維を伝わり、[視交叉]-[視索]を経て脳幹の視床にある[外側膝状体]という中継核にたどり着きます。(左下図)

網膜の神経節細胞には大・小2型があり、大型のものが網膜の黄斑領域以外からの視覚情報を集めるほか、視覚対象の動きを外側膝状体(やはり大・小2型の神経細胞あり)の大型細胞(M細胞)に伝えます。小型神経節細胞は、視野中心近くにある静止したものの情報を、外側膝状体の小細胞(P細胞)に詳しく伝えます。外側膝状体は6層構造からなり、対側眼からの神経線維は1、4、6層に、同側眼からは2、3、5層に入ります。1層と2層だけは大型のニューロンからなる大細胞(M細胞)層であり、残りは全て小細胞(P細胞)層になっています。(右下図)

こうして網膜からの信号は、主に動きに関する情報を伝えるM経路と、詳細な形や色に関する情報を伝えるP経路とに分かれて中継され、視放線となって一次視覚野へ投射されます。(左下図)

画像出展:「人体の正常構造と機能」

画像出展:「感覚の地図帳」


一次視覚野は後頭葉の内側面で鳥距溝の上下にあります。視野の上半は鳥距溝の下縁へ、視野の下半は鳥距溝の上縁へ投射します。また、黄斑からの投射が後方の広い範囲を占めます。

上記以外の伝導路として、上丘から視床枕核に至る経路があり、眼球運動の制御に必要な情報を伝えます。また、一部は視床下部の視交叉上核に至り、概日リズムの形成に関与します。

なお、大脳皮質の中で視覚情報を主に処理する領域は全体の約1/3もの広い範囲を占めます。

 

画像出展:「人体の正常構造と機能」

この領域にあるニューロンの多くは、単純なスポット状の光にほとんど反応しません。

一次視覚野には特定の方向を向いた細長いスリット状の光に反応する単純型細胞や、スリット光が特定の方向に動くときに反応する複雑型細胞、特定の長さと方向を持つスリット光に反応する長複雑型細胞などが存在します。これらは視覚情報を線分の傾きや長さ、移動方向といった要素に分解し、物体の輪郭を抽出していると考えられます。

一次視覚野では、同じ方向の刺激に選択性を持つ単純型細胞や複雑型細胞が集まって垂直方向の機能単位を形成します。これを方位コラムといいます。隣り合うコラムは、視野上の同じ位置で約10°異なる方位選択性を持つ細胞群からなっています。方位コラムの列とほぼ直交する向きに皮質をたどっていくと、1つのコラムは主に一側の眼から入力を受け、その隣のコラムは視野上の位置は同じですが主に対側の眼から入力を受けています。これを眼優位コラムといいます。

一次視覚野の約1㎟の部分には全方位をカバーする18の方位コラムが2セット含まれ、それぞれ右眼優位と左眼優位です。この1㎟の部分は、視野のある1点を分析するのに十分な要素を持つことから超コラムと呼ばれます。また、超コラムの中にブロッブblobと呼ばれる斑状の細胞集団が存在し、それらは色に選択性を持ちます。逆に単純型細胞や複雑型細胞は色選択性がありません。したがって色情報は、形や動きの情報とは別途に分析されています。

超コラムで抽出された視覚情報は、一次視覚野の前方に位置する視覚前野においてさらに詳細に分析されたのち、側頭葉および頭頂葉の視覚連合野へ送られます。側頭連合野は形や色の情報を統合して物体認知を行い、頭頂連合野は動きや奥行きの情報に基づいて空間認知を行いますそれらの部位に障害を受けると、色覚を失う、立体感を失う、動きの認識ができない、などの特異な症状が現れます。

 

画像出展:「人体の正常構造と機能」

以上のように一次視覚野は、構造も機能も非常に複雑です。色情報と形や動きの情報は分かれており、視覚情報は一次視覚野前方の視覚前野において分析が進み、さらに側頭葉および頭頂葉の視覚連合野に送られます。まさに大脳皮質の1/3を使って視覚の働きを支えています。

2.耳が聞こえるということ

右下は外耳・中耳・内耳の図です。聴覚の受容器であるコルチ器は蝸牛管の中にあり、コルチ器には蝸牛神経が分布しています。蝸牛神経は平衝覚をつかさどる前庭神経と内耳道底で合流し、内耳神経(脳神経Ⅷ)となり、中枢に向います。

聴覚の伝導路には側副経路もあります。蝸牛神経核からの出力の一部は延髄上部の同側および対側の上オリーブ核に投射されます。なお、上オリーブ核では音源の方向に関する情報を抽出して上位中枢に送っています。一般的な経路は外側毛帯を通って下丘に至ります。下丘は最初の統合的処理を行う神経核で、側副路を含め上行性投射はすべて下丘を経由します。下丘ニューロンは内側膝状体に、内側膝状体ニューロンは聴放線を通って聴覚野に投射されます。(左下図)

画像出展:「人体の正常構造と機能」

画像出展:「人体の正常構造と機能」


下図は脳幹を横から見たものです。脳幹は下(体側)から延髄-橋-中脳となります。中脳の背側面には上丘・下丘という隆起があり、それぞれ内部に神経核を有しています。上丘は視覚の視床核とされる外側膝状体に続き、下丘は聴覚の内側膝状体に続きます。

 

中央上部に内側膝状体(聴覚)と外側膝状体(視覚)が出ています。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

3.視床と大脳皮質

こちらは視床核を詳細に説明したものです。

外側膝状体はLG(lateral geniculate body)となっており、右側の図の下部に見られる小さな2つの突起のうちの右側(緑色)の部分になります。一方、内側膝状体はMG(medial geniculate body)となっており、左側(茶色)の突起になります。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

下の表は視床核の機能的区分を示すものです。LG(外側膝状体)の出力先は「後頭葉視覚野」になっており、MG(内側膝状体)の出力先は「側頭葉聴覚野」となっています。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

下記のブロードマンの脳地図では側頭葉聴覚野は【41・42】と狭い領域です。一方、後頭葉視覚野は一次視覚野(V1)が【17】、二次視覚野(V2)が【18】、視覚連合野(V3)が【19】となり、視覚野の方が聴覚野に比べ明らかに広い面積を取っています。詳細な情報はウィキペディアさまにありました。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

下の図を見ると視床が大脳へと繋がる中継核のかたまりなっていることがよく分かります。(この図の中では、MG[内側膝状体]から側頭回へのラインがありませんが、これはラインがクロスしてしまうため省略されているのではないでしょうか)

画像出展:「人体の正常構造と機能」

以上、視床核である外側膝状体と内側膝状体について詳しく見てきました。ここでお伝えしたかったことは、視覚の中継核である外側膝状体と聴覚の中継核である内側膝状体は、近接して存在しているということです。

4.眼・口・舌が動くということ

左下図は濃い緑色の皮質脊髄路と黄緑色の皮質延髄路を示したものです。前者は大脳皮質から脊髄に投射する神経細胞の軸索がまとまって線維束を形成した脳内最大の下行路(遠心性)で、大脳皮質からの運動指令を脊髄に伝えます。後者の皮質延髄路は頭や顔の運動指令を伝える経路で、各脳神経の運動核に至ります。

図を見ると、中脳ではⅢ、Ⅳ、橋ではⅤ、Ⅵ、Ⅶ、延髄上部ではⅨ、Ⅹ、Ⅻ、延髄下部ではⅪの各脳神経が口や顔面などに向かいます。

右下図は脳幹をお腹側から見た図です。この図では中脳より上に位置するⅠ嗅神経、Ⅱ視神経を含め、12対の脳神経を確認できます。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

画像出展:「人体の正常構造と機能」


12対の脳神経は運動だけでなく感覚や自律(副交感)にも関わっており、複数の機能を持つ脳神経もあります。

右下の表は脳神経の詳細を説明したものです。薄茶色の特殊感覚神経は感覚に関する脳神経で、視覚はⅡ、聴覚はⅧなります。続いて薄緑色の体性運動神経はⅢ動眼神経、Ⅳ滑車神経、Ⅵ外転神経の3つが眼球を動かすために筋肉へ指令を出します。また、Ⅻの舌下神経は舌を動かします。薄紫色の鰓弓神経の中のⅤ三叉神経は眼神経、上顎神経、下顎神経に分かれますが下顎神経は口を動かす咀嚼筋に指令をだします。

左下図は「脳神経」の概要説明です。分かりやすいので添付させて頂きました。

画像出展:「人体の正常構造と機能」


 

下顎神経(V3)が咀嚼筋群(咬筋、頬筋、内側翼突筋、外側翼突筋)に遠心の神経(体性運動神経)を送っているのが確認できます。筋肉が収縮・弛緩することで顎が動きます。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

医療マッサージ研究1

乳児期に起きた事故によって重症障害者となり、現在、青年期を迎えている患者さまにマッサージを行っています。スタートは2017年4月、頻度は週2回です。開始から15ヶ月が経ち3つの変化がありました。これらがマッサージの効果であるとは断言できませんが、関係しているものと思います。なお、施術では次のことを心掛けています。

 

◆無理をせず、安全第一(特に他動による関節運動)。

◆脳幹への感覚刺激入力として、声かけ(聴覚)、擦る・圧迫する(触覚)、各関節の他動運動(固有覚)という3つの感覚刺激が関連づけられて脳幹に届くことをイメージしています。乳児期の障害だったため言葉は理解できないと認識していますが、何度も何度も繰返すことで、何かが変わることを期待し、声かけでは「部位」と「動作」を伝えています。(例えば、「肩を動かすよー、前…後…。」とか、「腕をさするよー。腕を握るよー。等々)

◆免疫力アップを狙って、肩関節の他動運動では腋窩リンパ節、股関節では鼡径リンパ節への刺激を意識しています。

拡大して頂くと、脇と脚のつけねに円で囲われた部分のリンパ節が確認できます。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

リンパは、感染防止の必要に応じて毛細血管から滲み出し、リンパ管に集められます。リンパ管は静脈にほぼ寄り添うかたちで全身に分布し、胸管などの太い主リンパ管となって首のつけ根で静脈に注ぎます。リンパ管の中のリンパは、体の動き、筋肉の収縮などによって太い方へ送られます。リンパ管の各所にあるリンパ節はリンパの濾過装置で、大きさも形も様々であり、ここで末梢からのリンパは濾過されて病原体、異物、毒素などが取り除かれます。また、異物から体を守る免疫の担い手であるリンパ球(Tリンパ球、Bリンパ球)もリンパ節で作られます。

 


3つの変化

1.健康アップ(免疫力アップ)

2017年4月から9月までの6ヶ月間は、入院を含め、発熱等による体調不良のため施術が休みとなることが多く、予定通り実施できたのは約58%でした。一方、2017年10月以降、2018年6月までの9ヶ月間に関しては、体調不良により休みとなったケースはありませんでした。

2.体重増

施術の最初に側臥位の向きを変えてから始めるのですが、数ヶ月前から体を抱えたときの腕への負荷が明らかに高まったように感じました。ご家族の方も同様な認識であり、体重増は間違いないと思います。しかし、この患者さまにとって体重増加が良いことなのか把握できていません。基本的には健康度の指標となる各種検査値や栄養管理、あるいは衛生管理などの面から総合的に評価するべきものではないかと思います。

 

左の資料、「重症心身障害児の栄養管理」はJ-Stageさまからのものです。

『栄養摂取量に関してはこれまでさまざまな方法が提唱されているが確立された方法はない。我々は麻痺のタイプや筋緊張の変動の状態、呼吸状態などの臨床所見を参考に、年齢別体重当たり基礎代謝量の1~2倍程度の範囲に当面の総エネルギー量を設定し、その後の栄養評価を反復して行って、エネルギー摂取量を調節していく方法が実際的であると考えている。』

3.顔の反応(目、口、舌、頭、笑い、息み)

最も印象的なことはこの3番目です。施術を始めた頃に印象的だった反応は、「ニコッ―と笑う」、「う~~と息む」の2つであり、全体的には低反応な感じでした。

日報を見返すと2017年12月頃からになるのですが、顔の表情、顔の動きや反応に変化が表れてきました。長く施術をしていることから、思い入れや期待が強すぎる部分はあるかもしれません。

:以前は虚ろな目の印象が多かったのですが、動きがスローなのはほとんど変わらないものの、動く頻度が多くなり、勢いというか生気というか、何かを感じているような雰囲気が出てきているように思います。また、瞬きする回数も増えたと思います。

:いくつかのパターンがあります。「口を縦に開ける」、「口を最大限に開ける」、「少し緊張したように口をやや突き出すようにすぼめる」、「何かを噛むかのように、下顎を小さく上下に動かす」。これらの反応の発生頻度は徐々に変化してきています。

:こちらもいくつかのパターンがあります。「舌を口の中で動かす」、「舌を少し出す」、「舌をべローンと大きく突き出す」、「舌を上歯の裏に当てるようにして、チュッ、チュッと音を出す」。

:以前は十分な観察ができていなかったので、何とも言えないのですが、少なくとも最近は目の動きと連動するように、動かす頻度が多くなっているような気がします。

笑い:笑うことは以前から見られましたが、少し変化があります。まずは、「嬉しそうな表情」という中間的なものも見られることです。また、笑う頻度が多くなったようと思います。笑い声が出るときは、「アー」という感じでしたが、最近は時々「ハハハ」という笑い方をすることが多くなっているように思います。

息み:息みもマッサージを始めた頃から頻繁に見られた反応です。かなり大きな声を出し長い時間息んでいるので最初は驚きました。マッサージが痛いのか、不快なのか、何かネガティブな反応ではないかと心配しましたが、どうもそういう事ではなさそうです。

 今回、あらためて調べてみると興味深い資料がネット上に存在するのを見つけました。なお、こちらは「窪谷産婦人科」さまのホームページからになります。

9ページに、「1ヵ月を過ぎた赤ちゃんのうなり、いきみは肺が圧迫された状態であり、まだ深呼吸ができないため、うなったり、いきんだりする。」との内容が書かれています。

「生後1ヵ月」には該当しませんが、肺が圧迫された状態、深呼吸できない状態という意味では患者さまも同様です。確かに、患者さまの長い息みの後に、肺に空気がスーッと入っていく様子が確認できます。また、この行為が深呼吸の代わりだとすると、この行為には肩の力を抜いたり(リラックス)、あるいはストレス解消の効果もあるのかもしれません。

 

 

次に顔の反応、特に口と舌の頻繁な動きは何なのだろうと考えてみました。そして、この患者さまの障害が乳児の時だったことを考えると、そして、仮に患者さまの時計(脳の発達)がその時から大きく進んでいないとすると、これらの仕草は赤ちゃんが見せるものではないかと思うに至り、ネット検索してみました。

そこで、特に気になったものは次のようなものでした。

◆『赤ちゃんはまだ自分の意志で自由に動かせるところが少ないので、動かせる舌などを動かして「確認している」と本で読みました。』

◆『赤ちゃんは、成長過程で舌を出す仕草をすることがあります。生まれてからしばらくは舌を上手に動かすことができませんが、成長とともに徐々に動かせるようになり、舌を動かすのが楽しくなるので頻繁に出しますよ。』

なお、赤ちゃんの舌出しについては下記のサイトに詳しく出ていました。

こちらの記事の監修はなごみクリニック 院長の武井智昭先生によるものとなっています。

このような赤ちゃんの仕草も、「脳」が大きく関わっていることは明らかなので、「脳」と「赤ちゃんの仕草」の関係が知りたくなり1冊の本を購入しました。

『本書では、全ての大人が必ず通過する赤ちゃん時代の「不思議」について、脳科学・認知科学における最新の研究成果を参照しながら紹介するとともに、目まぐるしく変化する赤ちゃんの養育環境が発達とどう関連するのかについて論考していきます。』 

出版:岩波新書

大変興味深い内容だったのですが、期待していたイメージの本ではありませんでした。しかしながら、赤ちゃんの成長にとって、「目が見えること」、視覚が極めて重要だということを再認識しました(この本に出てくる各種テストのほとんどは、目が見えていることが前提となっていました)。

患者さまは口や舌を動かすことはできます。目(眼球)を動かすこともできます。そして、耳も聞こえています。しかしながら、見ることはできません。眼球自体に問題がないとすれば、脳が関係しているのは明らかです。では、「何が、どこが悪いからなんだろう?」、「医学が革新的に進歩したならばどうなんだろう?」。この疑問を前に進めたいという気持から、2冊の本を借りることにしました。

1.『脳と視覚 -何をどう見るか-』

2.『乳幼児の発達 -運動・知覚・認知-』

 

なお、ブログについては【続く】ということにさせて頂きたいと思います。

感覚過敏・感覚刺激

昨日、お電話で感覚過敏に関するご質問を頂きました。そこで、情報の整理整頓を目的に「感覚過敏」「感覚刺激」「マッサージ」をキーワードに洗い出してみました。その結果、あらためてお伝えしたいポイントは次の2点になります。また、今回洗い出した内容も列挙させて頂きま
1.視覚や聴覚に加え、基本的な感覚ともいうべき触覚、固有覚、前庭覚の働きと様々な感覚間の情報統合が、子どもたちの発達の基礎となる。
2.自宅でできる対策として「五感のバランスのための乾布摩擦」がお勧めである。

感覚過敏は発達全体に影響を及ぼす可能性をもっている
自閉症と感覚過敏
・感覚過敏とは、最近になって自閉症に一般に認められるものとなった症状です。感覚が非常に敏感になっている状態で、刺激を恐れる場合と求める場合があります。たとえば、嫌な音を恐れて耳をふさいだり、音のする部屋に入らなかったりします。また、水路を見つめ小石を落とす行為をいつまでも続けたり、ビデオの同じ箇所を何度も見続けたりします。感覚過敏は視覚や聴覚など、あらゆる感覚に現れ、また、敏感性としてだけでなく鈍感性としても現れる、非常に多様な側面をもつ症状です。
・感覚過敏があると、刺激に対する反応が大きくなり、好きな物は非常に好んで求め、嫌いな物は恐れて避けるようになります。そのため、外界の捉え方が通常とは異なり、行動の仕方も通常と異なってくると考えらえます。このため、人々と共に生活することや学ぶことが難しくなってきます。ことばを学び、人々とコミュニケーションができないと、社会に参加することができなくなります。このように、感覚過敏は発達全体に影響を及ぼす可能性をもっています。

五感のバランスのための乾布摩擦(皮膚刺激で五感の感受性のバランスがよくなる)
発達障害児の言語獲得
乾布摩擦について
・遅れてことばが発達する子どもに共通して、感覚器官のダイナミズムに大きな変化があります。赤ちゃん時代からずっと口は飲む、食べるだけしかしていません。それ以外は泣き声だけで、自分の声を意識していません。少しことばが出はじめると、口の中の感覚が大きく変わりはじめます。同時に、聴覚や視覚にも変化が生じ、耳ふさぎや眼球擦りなどが生じることがあります。赤ちゃんはだれでも、五感の感受性にアンバランスがあり、たくさんの皮膚刺激で、五歳までにバランスがよくなります。
通常、聴覚優位なので、人の話を聞くだけでことばの学習が進みます。優位性がさらに過剰だと、耳ふさぎを示します。皮膚刺激の過敏、鈍感、味覚や嗅覚にこだわりや偏りを示す子もいます。
五感のバランスのために、乾布摩擦をして下さい。全身、朝、晩、服の着換えの時に、擦ってやってください。健康増進のためではなく、五感のバランスのための乾布摩擦なので子どもの顔を見ながら気持ちよさそうな表情を手がかりに、最適な擦り方を見つけてください。頭から足の裏まで、指の一本一本まで、嫌がる所はアンタッチャブルゾーンとして擦らないように、その境界線は特に丁寧に擦っていると、ゾーンは縮小していくはずです。消えるまで朝晩続けていると、ゆっくりと五感のバランスがよくなるはずです。

触覚敏感性問題の対策
自閉症の脳を読み解く
・じわじわと圧力をかけると触角が鈍くなることがある。マッサージは、思いやりを教える役にも立つ。自閉症の人のほとんどが、加重ベストを着たり、重いクッションの下にもぐりこんだり、しっかりマッサージを受けたりして、触覚を鈍らせると、ハグされることに耐えられるようになる。
・ちくちく、ヒリヒリする衣類に対する感受性を鈍くするのは困難だが、新しい衣類はすべて、肌に触れる前に何回か洗濯する。タグは全部取り除く。下着を裏返しに着る(継ぎ目が肌に触れないように)。
・診察に対する敏感性は、ときには、診察で触れられる部分にじわじわと圧力をかけると、鈍くすることができる。

ボディイメージを育てるためには触覚と固有受容覚が特に重要である。
発達障害について(発達障害の子どもたち)
・ボディイメージを育てるためには触覚と固有受容覚が特に重要になります。いわばボディイメージを育てる栄養です。もちろん、マッサージなどで他動的に触覚や固有受容覚を刺激することは効果的かもしれません。ただし、ボディイメージを高めるためには、能動的体験の中で触覚、固有受容覚を体験することも必要です。お風呂の中では、お湯の抵抗がありますので、身体を動かすと触 覚と固有受容覚のフィードバックがあるために身体を意識しやすくなります。同じ理由からスイミングもいいと思います。アスレチック遊具とかクライミングウォールにチャレンジすることもお勧めです。要は能動的に触覚刺激や固有受容刺激を感じて動きを作り出すことが大切なんです。しかも、いつもやらないような未経験の運動をやったほうがボディイメージは育ちやすいと思います。
・マッサージ:ブラシや素手でマッサージして、だんだんと感覚を受け入れられるようにします。治療者との関係を作ってから、「こうやって触れられれば、こういう感覚が入ってくるのだ」と覚えていってもらいます。身体の中では背中が受け入れやすい場所ですので、そこからマッサージを始めます。腹部、首、顔などは過敏反応が出やすいので、最初はやりません。マッサージはまず受け入れられる部分だけ行ったほうが良いでしょう。

体の内側に入る感覚刺激が足りないから、感覚を入れたい
療育
・多動といわれる状態は、動きたいという身体の内側にある感覚的な欲求が働いていることが原因の一つといわれています。「お腹がすいてご飯を食べたい」という生理的な欲求と似ていて、「体の内側に入る感覚刺激が足りないから、感覚を入れたい」という行動です。私たちが、窮屈な乗り物に長い時間乗っていると動きたいという気持ちにかられますが、それに似ています。
体の内側に感じる感覚は「固有覚」(筋肉や関節に感じる感覚)と「前庭感覚」(体の傾きや動いているスピードを感じる感覚)があります。どちらも感じにくいと跳びたくなったり、走りたくなったり、回転したくなったりします。ですから、我慢させすぎることのないように、内的な感覚欲求を満たしてあげることを考えましょう。
外遊びで、跳びはねたり、回ったりするといった遊びが少ない現代、この内的な感覚が足りないことと、子どもたちの行動に落ち着きがないと感じることは関係が深いと考えられます。

感覚間の情報統合が子どもたちの発達の基礎となる
感覚統合法の理論と実践
赤ちゃんは当初は生まれつき持っている反射や反応が助けてくれますが、徐々に感覚運動体験を積み、この多様性に富む複雑な世界に対し、柔軟に行動できるよう、自らの反応を複雑化していきます。赤ちゃんの学習は感覚刺激への反応に始まり、動きの形で反応し、母親やその他の人々も含めた広い意味での環境との相互作用で成長します。基盤となる感覚運動発達は、姿勢、手指の巧緻運動と各部位(首、肩、肘など)の固定、感覚-運動-感覚間の統合(話を聞きながらノートに正しく書き取る等の総合的動作)などです。
脳の研究やリハビリテーション学の進歩により、視覚や聴覚に加え、基本的な感覚ともいうべき触覚、固有覚、前庭覚の働きと様々な感覚間の情報統合が、子どもたちの発達の基礎となることが分かってきました。    
動物が運動する場合、運動に関連して常に二つの感覚が必要です。一つは環境と自分との関係、一つは自分の中心と体の他の各部分との関係を教える感覚です。前者が前庭覚、後者が固有覚であり、これにより空間の中での運動が可能になります。
50cm幅の溝を跳び越すとき、大げさに身構えて、1mも2mも跳ぶということはしません。視覚は溝の幅と接地点の状況を教え、足底は今踏んでいる地面の硬さを教えます。私たちは前庭覚や固有覚などから得た記録に基づき運動の計画を立て実行します。もし、この溝が2mであれば、運動はもっと慎重に計画されます。接地したときに、倒れないのは重力空間に対する頭部の位置関係、その位置を支える足の頭部に対する位置と運動の関係が入力により絶えずコントロールされているからです。
・運動活動を通して経験される固有感覚は、触覚とも関連しながら、子どもの筋緊張を適正にするとともに、興奮を鎮め、触覚の敏感性を低減します。したがって、固有感覚刺激は、覚醒水準が高く多動性を示す子どもに対しても、反対に注意機能が低下して寡動な子どもに対しても、必須な感覚刺激といえます。
発達障害児では、感覚の基本的な調節作用がうまく働いていないことが多く、感覚入力に非常に敏感であったり、逆に鈍感であったりします。その結果、覚醒水準の障害や注意の障害、あるいは多動や寡動などの動きの問題が目立ちます。

脳性麻痺リハビリテーションガイド

訪問の仕事(業務委託)は鍼灸とマッサージが半々というところですが、マッサージについては小児障害、特に脳性マヒの患者さまが増えています。
一方、特に発達障害児へのマッサージを考える際に勉強した「新・感覚統合法の理論と実践」では、そのブログの中で、マッサージのポイントを次のようにまとめました。
1.人は最も大きな刺激源であり、人に対する感情によって、刺激の感じ方もずいぶん違ってくると言われています。従って、子どもとの信頼関係を築くことが第一歩です。  
2.触覚防衛反応などの感覚調整の障害については、「感覚調整機能評価表」を利用し、触覚系と前庭-固有覚系の過反応と低反応の実態を把握します。
3.筋緊張の強い子には、抑制的な触圧の刺激などにより、緊張部位のリラクセーションをはかり、屈筋群と伸筋群の拮抗をバランスよく保ち、筋肉の柔軟性を高めます。
4.筋緊張の低い子には、促通的な触圧の刺激などにより、屈筋群の活性化をはかります。また、関節への抵抗運動により筋緊張を高めるとともに拘縮を予防します。              
5.ボディイメージが弱い子には、関節の抵抗運動により、それぞれの筋肉の動かし方を繰り返し学習します。 

この中で3~5の筋の低緊張、過緊張およびボディイメージの弱さに関する改善は、脳性マヒ患者さまにも当てはまるものと考えています。しかしながら、本当にそうなのか、注意すべきは何なのかを把握するため、図書館から「脳性麻痺リハビリテーションガイド第2版」を借用し、第6章の運動障害と治療(リハビリテーション)を中心に、その内容を確認しました。

 

監修:公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
出版
金原出版

 

 

こちらのサイトをクリック頂くと、「脳性麻痺リハビリテーションガイドライン第2版」の目次が確認できるだけでなく、PDFファイルをダウンロードすることもできます。

以下の表が、確認した内容をまとめたものです。結論としては、脳性マヒ患者さまの筋の緊張状態やボディイメージを改善することは、推奨グレードAおよびBの漸増負荷トレーニング・サーキットトレーニング(筋力トレーニング)、有酸素トレーニング、歩行訓練、それぞれの効果を高めるための土台作り(筋肉、関節などの運動器系の状態を良くすること)として間接的に貢献することができる。ということだと考えています。

また、順序が逆になりましたが、「ガイドライン」がどのようなものかについてご紹介させて頂きます。

目的
本ガイドライン策定の目的は、最新のエビデンスに基づき、わが国で推奨される標準的な脳性麻痺リハビリテーションの診療方針を提示するとともに、将来に向けてあるべき理想の診療方法を明らかにすることである。
本ガイドライン策定に関しては、脳性麻痺の疾患特性を考慮し、医学的観点のみならず、脳性麻痺患者のライフサイクル全般にわたる問題点(家族支援、成人期の問題、就学と社会参加など)も含め、より包括的なリサーチクエスチョンで全体を構成するように努めた。

読者対象
脳性麻痺リハビリテーション診療に関る、すべての医療・福祉従事者はもとより、患者本人とそのご家族、学校教育関係者にも、広く利用されることを想定して作成した。

 

また、ガイドラインには「推奨グレード」の他に「エビデンスレベル」という観点からも考察されています。ブログでは分かりやすさを優先し「推奨グレード」一本に絞りましたが、ご参考として「エビデンスレベル」の内容をご紹介させて頂きます。

今回のブログの中で、私自身は「脳性麻痺」ではなく「脳性マヒ」という言葉を用いています。その理由に関してはブログ(「脳性麻痺 vs 脳性マヒ」)を参照頂ければと思いますが、ポイントは成瀬悟策先生の著書「姿勢のふしぎ」という本に出ていた次の一文に基づいています。

『脳の病変によって肢体が不自由になる現象を、本書ではここまで「脳性麻痺」ではなく一貫して「脳性マヒ」と表記してきたのは、一般に「麻痺」ということばが「神経や筋の機能が停止する状態」(広辞苑)とされているためでした。これまで述べてきたように、この子たちのからだは病理学的に動かないのではなく、生理的には動く自分のからだを、その主体者が自分の思うように動かせないだけですから、「麻痺」ということばはそぐわないため用いません。』    

療育-ほめ方・しかり方・言葉かけ

発達障害児に対し、潜在的な部分まで幅広く理解できることは大切です。一方、現場では、その時、その場で、その子に対し、もっとも適切な1番・2番を直感的に選択し、行動することが求められるのだろうと思います。また、これが「療育」のポイントではないかと思います。
11月に「はじめての療育」という本で勉強させて頂きましたが、咄嗟の判断ができるレベルはまだまだ先にあり、自信に満ちた対応、実践力を磨いていかないといけないなぁと思っていました。
そこで、まずは図書館より、今回の「発達障害の子どもが伸びる ほめ方・しかり方・言葉かけ」という本を借りることにしました。A4サイズと大きめで、111ページと手頃なボリュームであり、「これはいいね!」という印象でした。

amazonでは似たような内容の本を数多く紹介してくれるので、良くも悪くも迷ってしまうのですが、この本にはあまり安いものはなく、また、カスタマレビューが全くありませんでした。
ちょっとに気になり他の本もチェックしたのですが、最終的にこの本を手元に置いておきたいという気持になりました。

特に、内容紹介に出ていた「発達障害の子どもは、どんな言葉をかけてあげれば喜び、自信を持ち育つことができるのかを、シミュレーション。」とあったのが、決めたポイントです。というのは、過去ブログの「ありがとう ヘンリー」の中で、発達障害児にとって極めて大切なことは「自信と自尊心」であるということを頭にたたき込まれていたためでした。
なお、ブログは土台になると思われる第1章~3章について触れています。

 

監修:塩川宏郷

出版:河出書房新社

第1章 発達障害ってどんな障害なの?
『発達障害とは、言語・コミュニケーション・社会性などの発達になんらかの特性(偏りやゆがみ)があることによって生じる不適応状態をさします。生まれながらの(生来的な)脳機能障害と考えられており、個人によりその特性の強さが違います。最近では「障害」ではなく、本人の「個性」としてとらえることで、その特性を伸ばす方法が模索され、さまざまな支援が行われるようになってきています。』


発達障害は、大きく3つのタイプに分けられる
精神遅滞(知的障害)
 全般的な知的機能の発達の停滞をさします。
自閉症スペクトラム障害(ASD)
 ASDには自閉症、アスペルガー症候群、その他の広汎性発達障害が含まれます。ASDの典型的な特性としては、「社会的な対人関係を築きにくい」、「コミュニケーションがとりにくい」、「こだわりが強い」という、広汎性発達障害の3つの特性が認められます。
特異的発達障害
 知的能力に全般的な遅れはないものの、「読む」「聞く」「話す」「書く」「計算する」「推論する」などの学習と関連する部分的な能力や機能で著しい遅れ見られるのが特徴です。読み、書き、計算など学習能力の習得に時間がかかるLD(学習障害)や、集中力がなく、衝動的で落ち着きや注意力がないADHD(注意欠如/多動性障害)も特異的発達障害に含まれます。
これらは、重なり合う部分が多くあり、また2つ以上の機能障害を併存している場合もあります。

 

発達特性は2~3歳ごろから見られ始める

子どもの発達は個人差が大きく、人によって発達特性が目立ってくる時期も違ってきます。自閉症スペクトラムは、典型的な子どもの場合2~3歳ぐらいで特性が見られるようになります。もっとも分かりやすいのは言葉の遅れです。アーウーといった声(喃語)は出しても、パパ、ママといった意味ある単語などが出てこない、指をさして教えないなどといった言動が特徴です。一方、ADHDの特性は5歳ぐらいから強くあらわれてきます。
発達障害の診断が確定的となるのは3~4歳ごろが一般的です。それまでの発達の経過は個人差が大きく、健常と病的な区別をつけることは困難です。従いまして、確定診断は急がず3歳を過ぎてから考えるのが妥当です。

 

画像出展:「発達障害の子どもが伸びる-ほめ方・しかり方・言葉かけ」

自閉症スペクトラム(ASD)の基本的な3つの特性
1.人との関わり方が苦手(社会的なやり取りの障害)
・人と目を合わせない
・名前を呼ばれても反応しない
・相手や状況に合わせた行動が苦手(マイペースな対人行動)
・自己主張が強く一方的な行動が目立つ
2.コミュニケーションがうまくとれない(コミュニケーションの障害)
・言葉の遅れ
・言われた言葉をそのまま繰り返す(オウム返し)
・相手の表情から気持ちを読み取れない
・ことわざや、皮肉、たとえ話を理解することが苦手
3.想像力が乏しい・こだわりがある(こだわり行動)
・言われたことを定義通りに受け取りやすい
・「ままごと遊び」「役割遊び」をあまりしない
・決まった順序や道順にこだわる
・急に予定が変わるとパニックをおこす


ADHDの基本的な3つの特性
1.不注意
・モノをよくなくす
・細かいことに気がつかない
・忘れ物が多い
・話し声や教室外の音が気になって集中できない
・整理整頓が苦手
2.衝動性(よく考えずに行動する)
・順番を待てない
・先生にあてられる前に答える
・他の児童に干渉する
3.多動性(落ち着きがない)
・じっとしていられない
・授業中も席を立ってウロウロする
・静かに遊んだり、読書をしたりすることが苦手
・手や足を動かしそわそわしている
・授業中でも物音をたてたりする


LDの基本的な特性は6つの学習能力の問題
1.「聞く」ことの障害
・会話が理解できない
・文章の聞き取りができない
・書き取りが苦手
・単語や言葉の聞き誤りが多い
・長い話しを理解するのが苦手
・長い話しに集中できない
・言葉の復唱ができない
2.「話す」ことの障害
・筋道を立てて話すことが苦手
・文章として話すことが苦手
・話しに余分な内容が入ってしまう
・同じ内容を違う言い回しで話せない
・話が回りくどく、結論までいかない
3.「計算する」ことの障害
・数字の位どりが理解できない
・繰り上がり、繰り下がりが理解できない
・九九を暗記しても計算に使えない
・暗算ができない
4.「推論する」ことの障害
・算数の応用問題・証明問題・図形問題が苦手
・因果関係の理解・説明が苦手
・長文読解が苦手
・直接示されていないことを推測することが苦手
5.「読む」ことの障害
・文字を発音できない
・間違った発音をする
・単語を発音できない
・文字や単語を抜かいして読む
・読むのが遅い
・文章の音読はできるが、意味が理解できない
6.「書く」ことの障害
・文字が書けない
・誤った文字を書く
・漢字の部首を間違う
・単語が書けない、誤った文字が混じる
・単純な文章しか書けない
・文法的な誤りが多い(「てにをは」の誤りが多い)

早めに気づいて、早めに支援を考える
発達障害は、3~5歳ぐらいまではなかなか確定診断できないといわれています。しかし、その特性の一部は赤ちゃんのうちからあらわれてくることが少なくありません。できるだけ早く特性に気づいてあげることが重要です。
こんな赤ちゃんの反応を見逃さないで
『発達障害の場合、顕著にあらわれていなくても赤ちゃんは生まれながらに特性を持っています。赤ちゃんの様子や反応を注意深く観察しましょう。
自閉症児を持つ母親などに赤ちゃんのときの状態を聞くと「人見知りをしない子だった」「夜泣きをしない子だった」というように「手のかからない子だった」という声が少なくありません。反対に「いくらあやしても泣き止まなかった」とか「特定のおもちゃしか興味を持たなかった」という「困った子だった」という声もあります。
発達障害の特性は、その子どもの個性でもあるので、あらわれ方は子どもによってそれぞれ違ってきます。しかし、いくつかの傾向があります。もし、子どもの動向が気になったら、なるべく早めに保健所や病院に相談しましょう。』
3歳を過ぎたら「かんしゃく」に注意
『3歳を過ぎたころになると、自閉症スペクトラムの特性を持っている子どもは、しばしば急に奇声を発したり、自分の腕をかんだり、自分の頭を壁に打ちつけたりすることがあります。「かんしゃく」や「パニック」と呼ばれる行動です。こうした行動には子どもなりの理由があります。
自閉症スペクトラムの子どもには「感覚の過敏性」があるといわれています。これは、身の回りの音や光が非常に強く感じられたり、温度やにおいという感覚について私たちとは違う感じ方をしたりいている状態をいいます。
感覚の過敏性を持っている子どもたちは、私たちが体験している世界とはまったく違った感覚の世界に住んでいると考えてみましょう。そしてその世界はしばしば不安や緊張に満ちあふれた世界なのです。また、他人の話している言葉が理解できず、相手の表情がなにを意味しているのかを読み取れないという状態も「特性」の一つです。ちょうど私たちが外国にたったひとりで放り出された状態を想像してみるとわかりやすいでしょう。
このような状況で、自分が対処しきれないできごとが発生してしまったときや、不安や恐怖を強める刺激が加わったときにパニックやかんしゃくが起こります。つまり、パニックやかんしゃくは不安や恐怖が自分ではどうすることもできない極限に達してしまっている、誰か助けてほしい、というサインなのです。
したがって、パニックやかんしゃくそのものを止めようとするのではなく、パニックを引き起こしてしまうような子どもをとりまく環境要因を調べることが大切になります。』

第2章 子どもが伸びる「言葉かけ」7つの基本
言葉かけの基本は、「ほめて」伸ばす
ほめられることで、落ち着いてくる
・ほめられることで成長し、「自分は生きている価値がある」「自分は必要とされている」という自分を肯定する気持ち(自己肯定感)を高めていくことができる。
・自己肯定感が高まってくると、少しずつパニックが減り、落ち着いていく。
・特性がある子どもは家庭でも学校でもほめられることより、しかられることが多く、大きな劣等感を抱えている場合が多く、いつまでも自分に自身が持てない。
ほめることは、子どもの将来につながっている
・ほめるとは、小さくとも子ども自身が一つの壁を越えたことを認めることである。
・普通の子どもにとっては何気なくできることでも特性をもっている子どもには、大きな壁であることを理解する。

 

画像出展:「発達障害の子どもが伸びる-ほめ方・しかり方・言葉かけ」

指示は短く、わかりやすい言葉で具体的に
長い指示が苦手な場合がある
・特性を持つ子どもは一般的に長い文章(指示)が苦手である。例えば「手を洗ってからご飯を食べよう」という指示に対して、前半部分の「手を洗って」を忘れてしまう。
指示は、短くわかりやすい単語で一つひとつはっきりと伝える
・特性をもっている子どもに話しかけるときは、できるだけ短く、わかりやすい言葉を使う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「発達障害の子どもが伸びる-ほめ方・しかり方・言葉かけ」


「ダメ!」と否定的で強い言葉でしからない
否定的にしかるより、やるべきことを具体的に指示する
・特性を持っている子どもは、「いけません」と言われても、そのあとに自分が何をすればいいのかわからないと、とまどってしまう。例えば「ドアを開けっ放しにしてはダメ」という表現は「ドアを閉めて」に言い換えると、理解および行動がしやすくなる。

 

画像出展:「発達障害の子どもが伸びる-ほめ方・しかり方・言葉かけ」

しかったり注意したりする回数を減らす
注意する回数を減らすことで気持ちを安定させる
・ADHDの子どもは「不注意」「落ち着きがない」「衝動的」という特性を持っている。お母さんが怒っていることは理解できるが、どうしても行動を抑えられないのがADHDの特性であり、その事実を理解してあげる。
一度、子どもの注目を引きつける工夫をする
・ADHDの子どもは、何かに夢中になっているときは、お母さんの声が「聞こえていない」場合もあるので、一度、子どもの近くへ寄って注目を引いてから注意する。また、注意するときは感情的になって大きな声を出したり、命令口調で注意したりしない。
子どもがとまどう言葉かけを避ける
皮肉や冗談は通じないことが多い
・自閉症スペクトラムの子どもの中には、よくおしゃべりする子どももいるが、直接的でない表現を理解することは難しい。「直接的でない表現」とは、慣用的表現、比喩、暗示、反語、まわりくどい表現など。

 

画像出展:「発達障害の子どもが伸びる-ほめ方・しかり方・言葉かけ」

毎日の予定表を作って声をかけて確認しよう
スケジュール表で次にやることを確認させる
・特性を持っている子どもは、次になにをやるのかわからないと不安を感じる。そこで、目で見て確認できるように1日のスケジュール表を作り、できあがったスケジュール表を親子で確認しながら行動する。
体罰は、百害あって一利なし
体罰には有害な作用しかない
・体罰では特性は治らない。体罰は、親とのきずな、のびのびとした心、おとなへの信頼感、周りの人を好きになる気持ちなど子どもが本来持っている大切なものを壊してしまう。
・「がんばったね」とほめてあげることが子どもを伸ばすことにつながる。


第3章 子どもの気になる行動を減らす言葉かけ
パニックを起こしたときに落ち着かせる言葉
・パニックは、突然、奇声を発したり自分や他人に噛みついたり、物を投げつけたりする行動であるが、パニックには、必ず理由や原因がある。
・子どもがパニックを起こしたときはしからないことが基本。子どもの気持ちになって「いつものと違うから嫌なの?」というように言葉にしてあげると落ち着くことがある。

 

画像出展:「発達障害の子どもが伸びる-ほめ方・しかり方・言葉かけ」

前もって変更や変化を説明しておく
・普段から子どもがパニックを起こす状況や傾向を把握するようにする。
・特性を持っている子どもにとっては、「あらゆる変化」が大きなストレスになる。
・パニックを減らすためには、何か変化が予定されていたり、予測できる場合はあらかじめ説明して心の準備をさせることが役に立つが、子どもがうまく行動できたときには、「ありがとう」「えらいよ」と言葉をかけてあげることが重要。子どもはほめられることで自分自身でパニックを回避する行動を少しずつ覚えていく。

しかっても聞かないときは、しかり方を変えてみる
長いお説教には効果がない!
・特性によっては相手の話していることが理解できない場合もある。
・以前の失敗を蒸し返すようなしかり方は、特に理解が難しい。
・しかる場合
 ・そのときその場でしかる
 ・短いことばで具体的にしかる
 ・どうすればしかられないかを具体的に教える etc
子どもの気持ちを想像してみる
・「6年生なんだからこのくらいはわかるだろう」と思うのではなく「6年生になったけど、これくらいはわかっているかな?」と考えながら行動を観察することが大切である。

食事時の気になる行動-①
同じおかずしか食べないのはこだわりのため
・特性を持つ子どもの偏食は単なる好き嫌いによるものではなく、食べ物の味、色合い、におい、食感などの感じ方が通常と異なっているために起きていると考えられている。
残したことをしかるより食べたことをほめてあげる
・偏食はどうしようもないものと切り替え、好きなものを全部食べたことをほめることが大切。子どもはほめられることで食事が楽しくなり、もっとほめられたいと思うようになる。

 

画像出展:「発達障害の子どもが伸びる-ほめ方・しかり方・言葉かけ」

食事時の気になる行動-②
まわりが気になって食事に集中できない
・多動傾向の特性をもつ子どもにとっては、食事中に他のことが気になることはどうすることもできない部分があると理解してあげる。
食事に集中できるような環境をつくる
・食事に関係ないもの(テレビ、おもちゃなど)は食卓から遠ざける。
・「7時になったらテーブルにつこう」とか「この番組が終わったら食事だよ」、あるいは「7時半までに食べたら、お父さんとゲームをしよう」などと子どもが準備できるように声をかけてあげる。

 

画像出展:「発達障害の子どもが伸びる-ほめ方・しかり方・言葉かけ」

ルールやマナーが理解できないときは
ルールやマナーを覚えることが難しい
・ルールやマナーをある程度理解できたとしても、順番を守ることやその場の雰囲気を読み取って行動すること、「暗黙の了解」などは苦手な子どもが多い。
言葉よりも「可視化」でルールを理解しやすくする
・「目に見える形」にすることは理解の助けになる。「絶対にこれだけは守る」ということをいくつか選び、壁や机に紙をはったり、手帳などにメモしたりすると良い。

 

「ほどほど」がわからないときにかける言葉
極端な行動をとってしまうのは「ほどほど」が理解できないから
・「おなかがいっぱいになったらやめる」「暑くなったら上着は着ないよ」「そろそろ遊ぶのをやめよう」といったあいまいな指示は特性のある子どもはうまく理解できず、なかなか従うことはできない。
・ポイントは「ほどほど」をお母さんや周囲の人が決めてあげること。お茶碗2杯、気温が10度といった数値や、時計の針がここまできたら次の遊びをする。など目で見てわかるように工夫する必要がある。
「ほどほど」がわからないのは「こだわり」のせいかも
・一つのことにこだわると他に注意を向けることは難しい。
・こだわり行動は好きでやっている場合以外に、不安に感じたり緊張したりする場面で見られることが多い。この場合、不安や緊張の原因やきっかけがあるはずなので、それを見つけてあげることが最初にすることである。原因が見つからない場合には、子どもが「不安を感じているんだな、緊張しているんだな」と」理解してあげるようにする。
・こだわり行動は、成長・発達とともに目立たなくなっていくことが多いので、あせって行動を何とかしようと頑張らず、しばらく見守ることも大切である。

 

画像出展:「発達障害の子どもが伸びる-ほめ方・しかり方・言葉かけ」

「こだわり行動」がエスカレートしたときにかける言葉
こだわり行動に対する考え方
・こだわり行動が強くなる場合としては、環境の変化やスケジュールの変化、年齢があがることで期待されることが増えることへのプレッシャー、引越しや就園・就学などの「ライフイベント」などがきっかけになることが多い。
・環境変化を点検することが第一。まずは子どもとその周囲の環境をよく観察する。観察のポイントは今までとの違いは何かということ。また、観察したことをノートに記録することが非常に重要。記録しておかないと分析ができず、適切な対策につながらない。

付記

「発達障害ポータル」さまから配信される「コラム」で勉強させて頂いているのですが、「療育」には以下のような側面もあるようです。 

発達障害児の言語獲得

ありがとう、ヘンリー」というブログは、発達障害児と介助犬の実話に基づくものですが、その本から「自信」、「自尊心」とともに言語に問題を抱えた子供にとって、「言語」が非常に重要であることを知りました。
言語といえば、言語聴覚士が専門とされている分野ですが、言語障害、特に言語獲得ということについては、ある程度の知識を持っていた方が良いと思い、主に実践的な内容が書かれた本を探すことにしました。

 

左が今回、勉強させて頂いた本です。

著者:石原幸子・佐久間 徹

出版:二瓶社

 

 

 

応用行動分析学について解説されています。

 

 

 

ABA専門用語の説明がされています。


まず、本書の趣旨を知っていただくのが良いと思いますので、著者のお一人である石原先生が書かれた「はじめに」を掲載させて頂きます。
『今から14年前、三歳直前のあいちゃん(仮名)は、さくま先生の指導する障害児の相談室に来ました。自閉症と診断された他の多くの子どもたち同様に、あいちゃんも重度の言語発達遅滞を示していて、お父さん、お母さんはとても心配されていました。さくま先生は、以前からずっと、応用行動分析を柱とするフリーオペラント法での指導を実践し、今も続けています。
フリーオペラント法は、ロバース[O. Ivar Lovaas]のオペラント条件づけの原理を応用した、自閉症児の言語獲得のための行動療法を出発点にしたものです。コスト面の改善、般化の貧弱さの改善、脳障害説へのこだわりからの脱却、などを目指して辿り着いたセラピーです。

さくま先生は、多くの論文、翻訳本などを出していますが、フリーオペラント法については、“広汎性発達障害児への応用行動分析(フリーオペラント法)”(2013、二瓶社)がはじめてのものです。
「障害児に関する本は、読み手が誤解しても、書き手が誤解を生むような記述をしても、障害児がその愚かさの犠牲になる。それを考えると、本の執筆は、どうしても慎重になる。しかし、障害児からたくさんのことを教えてもらいながら、それをそのまま墓場まで持っていっては、子どもたちに申し訳ない。もっと勉強して、誤解されない記述が身に付いてから本にまとめるべきなのだが、すでに日本人男性の平均寿命を超える年齢になってしまった。折りに触れ、認知症のキザシを自覚するまでになっている。本を書くのはいまでしょう!」との思いで書いたものだそうです。

さくま先生は、この本がどのように読まれるか、とても心配していました。応用行動分析の行動変容力は結構強力なのです。今後さらに技術の改善が進むでしょう。それに引き替え、現在の私たちは、それを間違いなく正しく使う哲学を持ち合わせていない。本を読み、自分勝手に都合よくつまみ食いしたのでは、子どもたちは応用行動分析の犠牲者になってしまう。先生はいささか考えすぎと思われるほどの悩みようです。しかし私は、この本で一人でも多くの障害児に言語獲得してほしいと思っています。
相談室に来られたお父さん、お母さんに、さくま先生はことばの指導法だけでなく、子育ての知恵についてもいろいろなお話をします。たくさんの方に知ってもらえれば、障害児だけでなく、多くの子どもたちの子育てや成長に、きっと役立つはずです。さくま先生のたくさんのことばを、きちんとした形で残すことが、あいちゃんをはじめ、相談室に通ってくれた子どもたち、保護者の方々、これから子育てをされる世代への贈り物になると思います。

フリーオペラント法によるあいちゃんの言語獲得指導の要所要所で、さくま先生のお話を挿入しながら事例報告を書きました。本書は“広汎性発達障害児への応用行動分析(フリーオペラント法)”の実践編でもあります。言語獲得指導に取り組んでおられる皆さまのお役に立つことを心から願っています。』

 

ブログでは、目次のご紹介に続き、「フリーオペラント法」の1、2。続いて、あいちゃんへの2回目と69回目のセッションの様子。さらに、「あいちゃんの指導のまとめ」と「現在のあいちゃん」の前半部をご紹介しています。
また、最後に復習のような感じで、印象に残った個所をつまみ食い的に列挙させて頂きました。

目次
第一章 あいちゃんの言語指導のはじまり
 上手に教えてもらうのではなく、自分の経験から学ぶ
 あなたの声を聞いているよ
 よくわからないけど、こうしたほうがよさそうだ(知恵)
 人と同じことをすれば楽しい
 ことばの発達が最優先
 がまんする子どもは親や指導者が楽なだけ
 成長日記をつける
 療育は化学か?
 遊んで育つ、後片付けは遊びにブレーキ
 発達に大きく影響するものを優先
 静かな抱っこ20分
 社会性は実体験から身に付く
 教えなくてもできること
 親は見ているだけの方がいい


第二章 ことばの出現/発声模倣の拡大/遊びの発達
 ことばの訂正は御法度
 皮膚感覚の成長
 「手で食べる」は指先の運動発達に効果大
 集中とこだわり
 「叩く」は楽しく遊びたい気持ちの表れ
 不安の緩和

 

第三章 ことばの増加/人との関わり/自発的遊び
 社会への適応
 人の気持ちを理解する
 がまんできたらえらい?
 不適応行動の大半は好奇心から
 五感のアンバランス
 自力で学ぶ力を育てる
 「オカアチャ」と呼びました
 語彙数は増加速度より変化率に注目
 お兄ちゃんと遊びたい
 活発な喃語が発話に続く
 「オハヨウ」と入室

 

第四章 自発後の増大/認知的遊び/人とのやりとりへの発展
 不適応行動への対処
 子どもは自分の気持ちを伝えたい
 集団行動への参加
 お口もぐもぐで自主トレ
 パニックへの対処
 「親ばか」はそんなに悪くない

 

第五章 安定したことばの使用 ― 現在のあいちゃん
 好きなことを増やしていく
 食べ物の変化
 多彩な反応
 就学について
 あいちゃんの指導のまとめ
 現在のあいちゃん

フリーオペラント法―その1 
『無言語の自閉症児に言語獲得の道を開いたのは、1970年頃のロバースです。カルフォルニア大学の教授で、当時、世界中から注目を浴びました。しかし、子どもは連日、ロバースのセラピールームに親子で通い、週に30時間も訓練を受けるものでした。
若い頃、ロバースの本を読んでいて、訓練時間の長さにびっくりし、指導の人件費の概算をしてさらに驚き、日本でこんな事はできないと思いました。それが、フリーオペラント法を思いつくきっかけになりました。そして、この訓練時間の長さには基礎理論の応用の仕方に欠陥があるはずだと考えました。どんなに障害が重症でも、自分の経験から学ぶということをするはずです。野生の動物はみな、指導者なしで、生きる術を学んでいます。そんなに長時間の指導は明らかに非能率的です。
家庭でも強化随伴性が維持され、模倣行動の自発性を高める操作を加えると、1週間に1時間の指導で、遜色のない成果を出し得ることがわかったのです。
セラピー関係では、能率について議論されることはほとんどないようですが、セラピーは趣味や道楽の類ではなく、仕事です。能率を考えるべきです。
学ぶ力の弱い動物に教えるには、コツや技術が必要です。私たちの指導の拠り所は、動物実験の成果である行動分析です。指導のポイントを動物から教えてもらったのです。そのために、初期の頃には、障害児を動物扱いしているとの批判がひどかった。しかし、ことばの発達指導が絶望的だった頃、ちゃんと言語を獲得させることと、獲得できないままにしているのと、どちらが人間的か、議論の余地はないはずです。』

 

画像出展:「Alchetron

 

フリーオペラント法―その2 

『フリーオペラント法の大きな特徴は、言語理解に関して完全手抜きで進めることです。
これまでの言語に関する基礎研究では、言語能力は言語理解と言語表出の二面からできているとされています。しかも、言語理解が先行し、その後追いで、言語表出が発達するといわれてきました。
しかし、言語発達遅滞児たちは、逆を示しています。言語理解はかなりいいのに言語表出がゼロ、あるいは、かなり悪い子が大勢いる。それに引き替え、言語表出が良好な子どもたちに言語理解が悪い子どもは一人もいない。言語表出レベルに相当する言語理解を持ち合わせている。
この目の前の事実に注目するならば、言語発達促進の指導は、言語表出の方に注目すべきであり、言語理解は手抜きでいいことになる。事実、30歳代半ば頃、フリーオペラント法で音声模倣を形成しただけで、家庭で自発的に単語が出だす子どもを幾人も経験し、以来、言語理解を完全手抜きでやっています。その方が経過がいいのです。
障害児指導に模倣行動を取り入れる研究が内外に少しずつ出はじめています。モデルを示し模倣を誘導して強化子を随伴させるという手続きです。
1970年代はじめに模倣を取り入れたわれわれとしては嬉しい限りですが、それよりも、ここで紹介しているように、子どもの発声、子どもの動作をセラピストが模倣して子どもの模倣行動の自発を待つ方が、手間はかかりますが、はるかに良好な自発的模倣行動が出てきます。
あいちゃんも、ことばの意味に関しては一切教えるということなしです。化粧品会社のホームページを見て漢字をお母さんにたくさん聞きましたが、誰も積極的に教えていません」』

 

あいちゃんへの2回目のセッション(あなたの声を聞いているよ)
『お正月が明けて、二週間ぶりにあいちゃんがやってきました。布をかじっています。汽車のおもちゃを動かし、汽笛のボタンを押しました。おもちゃに全く興味がないわけではありません。アンパンマンの電話を鳴らすと、受話器を持って、「アイ」と小さな声が聞こえました。はじめて聞いた声です。セラピストもすぐに「あい」と繰り返します。

次にあいちゃんは滑り台に向います。滑り台を滑ったときに、くすぐりますが、なかなか声は出ません。抱っこしてジャンプしてみます。目が合って、ニコッとしますが、発声はありません。お母さんが座っている椅子によじ登ろうとするので、セラピストが抱っこで乗せてあげると、次は手を広げて待っています。座っているあいちゃんから見えないように隠れ、「あいちゃん」と呼んで、いないいないばぁのように顔を出すと、「アハハ」とはじめて大きな声を出して笑いました。顔を出したときにくすぐることを何度も繰り返すと、自分から出てきて、顔を押し付けたり、体をねじったりします。この間、かじっていた布が落ちましたが、全く気にしません。セラピストはあいちゃんからの要求にすぐに応じます。

ー お父さんとお母さんはさくま先生とお話です。
「ことばについて、もう少し詳しくお話しします。ことばは自分の声に対して相手から反応が返ってくるから発達します。その時、子どもを理解しようとする気持ちがマイナスに働いてしまいます。つまり、子どもの顔を見たり、目の動きを見て、“嬉しいのかな”“これが欲しいのかな”と考えていると、子どもの発声を聞き逃してしまう。子どもにとっては、声が無視されていることになる。ことばに敏感になって、“あなたの声を聞いてるよ”ということを子どもに伝えるにはどうしたらいいでしょうか。子どもが「アアア」と言ったら、「あああ」と答えれば、自分の声が相手に伝わっていることが、子どもにわかる。これが、音声フィードバックです。音声模倣ともいいます。これをここだけでなく、生活の中でもしてもらえたらと思います。

理由はよくわからないのですが、子どもは自分の発声と同じ発声が相手から返ってくると、楽しい気分になります。軽い躁状態を示します。何度も繰り返すと、楽しくなるために、次に、自分の方から大人と同じ声を出すようになります。動作に関しても同じです。動作模倣と呼んでいます。

自発的に発声模倣をするようになると、ことばの発達がはじまります。これを絵カードなどで発声を強要すると、必要以上に力のいった声になることがあります。余分な力の入っていない声はコントロールしやすい声になり、発話獲得の重要条件です」

このお話の途中で、あいちゃんの笑い声が聞こえ、お父さんたちもあいちゃんの様子をじっと見ています。プレイルームには水場があります。水を出して、スポンジを絞ってみるとあいちゃんも触ります。セラピストもすぐに水を出します。この後ずっと、水を出す、スポンジを絞る、を繰り返しました。セラピストは一切指示を出しません。
さくま先生のお話が続きます。
「ここでは叱ることはほとんどありません。お家でもできるだけ叱らないで、好きなことをさせてください。叱らないとわがままな子になると思われていますが、わがままは、後でいくらでも修正できます。ことばの発達を最優先にしましょう
さくま先生のことばにお父さんとお母さんはうなずかれました。ただ、このことは思ったより大変です。それをお父さんとお母さんはこの後ずっと守って下さいました。』

 

あいちゃんへの69回目のセッション(多彩な反応)
『11月の下旬になりました。69セッション目になりました。走って、あいちゃんがやってきました。ニコニコして、机の上の洗面器を見て「コエ」「アッタ」と言いながら、手で中の水を混ぜます。すぐに「イタ、イタ」「イコカ」と言いながら、キティちゃんを持ち、お母さんの手を引きます。おもちゃのレンジを触るので、「冷蔵庫もあるよ」とセラピストが見せると「ウィ、キティチャン」「アコ」と言いながら、マットの上に置きました。

セラピストがベビーカーも持って来ると、あいちゃんがキティちゃんを乗せました。「キティちゃん、行ってきます」とセラピストが声をかけ、押しはじめると「バイバイ」と言ってくれました。

お母さんに掃除機を持たせ「スースー」と掃除をするように要求します。あいちゃんもベビーカーに乗り「バイバイ、バイバイ」と繰り返します。「バイバイやね」とセラピストはすぐに答えます。「アイチャン、キティチャン」と言っています。「あいちゃん、キティちゃん、乗ってます」と返事をします。

セラピストがキティちゃんのスティック糊を持ってくるとそれを持って「アーイ、アーイ」と机に向います。「キティちゃん、猫こか」とセラピストが言うと「アーイ」と返事をしてから、お母さんの手を引いて、机に来るよう要求します。お母さんの手を紙に持っていき、ペンも置き「キティチャン、コエ、コリキ」と発語します。黒ペンを持って、お母さんの手を持って「ハーイ」と言います。お母さんがキティちゃんの輪郭と目を描いてくれます。黄色のペンを持ち、お母さんの手を持って「ハーイ」と発語すると、お母さんがリボンや口を描いてくれました。「イーシャ」とニコニコします、「ヨイショ」と言いながら、平均台を持ってこようとするので、セラピストも「よいしょ、よいしょ」と手伝います。

あいちゃんは平均台に座って「デキタ、キティチャン」「カキカキ、ヤッテ」「ハーイ、カキヤッテ」と発語が続き、セラピストもすぐに模倣します。平均台に立つと「タカーイ、ハイーネ」「デキター」「オカアサンガコッチと言いながら、お母さんを呼びます。セラピストの顔も見て「アーイ、デキタ」と手をあげてくれます。

次の紙をお母さんに渡します。黄色のペンも渡します。「オーアイチャ、ハイ、オカーシャン」とずっと喋っています。セラピストがキティちゃんの輪郭に切った紙をあいちゃんに渡すと、あいちゃんが目と豚の鼻と口を描きました。「あいちゃん、ぶたさん、上手、上手」と褒めました。

もじもじするので、お母さんが着替えを出すと、おしっこをして、トランポリンに行きました。「ウアイヤー、ピョンピョン」と言っています。セラピストもあいちゃんと一緒に「ぴょん、ぴょん、うまい、うまい」と飛んでみます。着替えが途中だったので、お母さんがボタンに手をかけると、外して全部自分でやり直します。10分前でしたが、「バイバイ、バイバイ」とずっと言いながら、帰りました。
あいちゃんは、お家でも何でも自分でやりたがること、ことばをいろいろなリズムで言ったり、いろいろな声で言ったりして、楽しんでいるとお母さんからお話がありました。』

 

あいちゃんの指導のまとめ
あいちゃんが相談室に来所して、二年が経ちました。この間の発語は経過記録でお伝えしましたが、一度口から出たことばは完全に定着し、再三、遊びの場面、生活場面で使用されています。
第四章以降の相談室での指導と家庭での様子についてまとめると、あいちゃんの要求行動の増加に対し、セラピストは可能な限りそれに応じ、無意味発声に対しては無視、無反応で対応し、動作や行動の言語化、有意味語と思われる発声に対しては拡充模倣で応じました。
また、いわゆる声掛けなどの行動指示(先行刺激操作)を少しずつ増やしていきました。これはフリーオペラント技法の基本方針からずれるのですが、あいちゃんの行動変容(例えば、声掛けによく反応するようになっていた)に合わせたものでした。
発語頻度の増加に伴い、発語の反応トポグラフィーが正確でなくても、その場の文脈に適合していれば、強化操作を続けました。例えばあいちゃんの発語「ハーデー」(混ぜて)に対して、発音の修正、訂正は一切していません。発語頻度の方を重視したからです。発語が高頻度で続けば、構音の明瞭度は自動的に改善が進むためです。
さらに、ことばが社会的行動である以上、遊戯室だけでの発声では意味がありません。家族も来所当初から、発語を強化するメディエーターとしての役割を担えるように、遊戯室での指導者の指導を観察し、スーパーバイザーのさくま先生から、日常でのさまざまな助言を受けました。
あいちゃんは、遊戯室で感覚的な遊びからお母さんの家事行動そのままに、お料理、お掃除、お洗濯の遊びが続きました。ご両親はそれを可能な限り受容し、冷蔵庫はあいちゃんに全面解放の状態だったそうです。
指導場面での強化随伴性はそのまま家庭でも維持されました。つまり、人の応答が発語の強化子となるためには、日常場面でも強制・指示をできるだけ控えてもらう必要がありました。記録を拝見すると、実に忍耐強くやっていただいたことがうかがえます。』

 

現在のあいちゃん
『あいちゃんは、その後も継続して相談室に来ています。小学校、中学校といろいろな問題がありましたが、その都度さくま先生にご相談をされて対処しました。そして現在、特別支援学校の高等部に在籍し、隔週で相談室に来ています。それは、問題があるからではなく、あいちゃんが相談室に来るのを楽しみにしているからです。

出かける前には、お父さんの用意が遅いと「オトウサン、ネテイルバアイジャナイデショ」と言ったり、「オカアサン、ワスレモノナイノ?」と声をかけたりします。
あいちゃんの言語発達は、お母さんのことばをお借りすれば、「こんな口の悪い自閉症児は知りません」と言われるほどにおしゃべりになっています。ケンカになると「クソババー、アイチャンハ、イエヲデテイキマス」と言ったり、一般の中学生・高校生となんら変わらないレベルのやりとりをするほどになっています。

お母さんと一緒に買い物に行けば、一人で「〇〇ハドコデスカ?」と店員に聞く社会性もあり、欲しいものがあると、お母さんがレジに来るのを待っていて、直前にレジカゴにすっと商品を滑り込ませるのだそうです。「物を買ってもらう策略には困ります」とお母さんはおっしゃいます。
相談室では、持ってきたカレーせんべいを皆に配って一緒に食べたり、遊びの邪魔をする小さな子にもことばで注意します。実習の大学生やスタッフを相手のゲームでは、負けしらずです。ところが最近、彼女ばかり勝つと、三度に一度の割合でわざと負けるようになった、とスタッフの一人が言うのです。意識してのことかどうかを確認する方策を、スタッフ間で頭を悩ませているところです。ゲームが苦手な私には「右ボタン、赤押して」と厳しく(?)教えてくれながら、グループで勝ち負けを競い、「あなたは第三回スターアタック決定戦に優勝したことを表彰します」という自分で書いた表彰状を作りました。また勝負の結果。負けたチームに罰ゲームでものまねをさせ、それをビデオカメラに記録して自分で編集します。DVDや動画サイトを見たり、スマホでAKB48の新曲の検索もします。絵を描くのも好きで、女の子を沢山描いて、難しい漢字の名前(例えば愛羅)をつけ(漢字は自分で調べて覚えました)、人形の服を手縫いで縫って遊びます。
特別支援学校高等部では役員に立候補し、行事で挨拶ができるほどですが、欠席することも多いようです。現在、不登校が続いています。好きなことへの集中力は療育園の頃から変わらないため、学校で、とても細かい刺繍に集中している時など、「時間だよ。終わりにして」と言われると今でも嫌なようです。ただ、集団が全て嫌いなわけではなく、デイサービスには喜んで行き、好きなDVDに時間制限を加えられてもがまんできるようになりました。』

特に印象に残ったこと
第一章 
●子どもの声に敏感に反応する→子どもは声が相手を動かすものだとわかる。
●大人が子どもと同じ声を出す→「あなたの声を聞いているよ」ということを子どもに知らせる。
●ことばは自分の主張なので、わがまま、甘えが大事である。「しつけが大事」は順調に育つ強靭な力の健常児に対してである。
●障害児の難しさは、自分で何かをしようとする力や、何かをしたいと人に訴える力が弱いこと。
●ことばは自分の声に対して相手から反応が返ってくるから発達する。
●叱らない。わがままは後でいくらでも修正できるので、ことばの発達を最優先させる。
●物より人に興味をもつようになることが大事。気に入った物で遊んでいる状況に大人が加わると一人で遊ぶより面白くなる。それが繰り返されると好きな物よりも好きな人の方が重要になり、物よりも人を優先させることになる。
●社会性は、人と楽しく交わりたいというモチベーションが大切。
●社会性は年齢とともに変わる。従って、自分の社会的体験から自力で学べるようにしなければ問題の解決にならない。(相槌が1秒と0.5秒では意味は異なる。これは教えて身につくものではない)

第二章 

●人の様子を見てまねをする、それが蓄積されて社会性の発達につながる。
●子どもの発達の過程は依存と自立が揺れ動いている。自立は催促せず、邪魔せず、子どものペースでつきあうのがベスト。
●ことばの訂正は言語発達を妨げる。
●自立を促す必要はない。発達すれば必ず自立するものである。
●依存と自立は対立関係のものではなく、依存の延長線状に自立があるという認識をもつ
第三章 
●しつけは幼い方が楽なことは確かだが、ことばの発達は年齢が後になるほど困難、不可能になる
●適応性が未熟な障害児にとって、禁止と強制がいきすぎると、無気力状態にしてしまう。
重度の自閉症の子どもは、きょうだい、親にも無関心なことが多い。それが改善されてくると今度は一緒に遊びたい。けれど、遊び方がわかっていない。さしあたり、叩いてみる。それには憎しみや、嫌悪、憎悪などの感情は含まれない。重度の自閉症で人を叩いたというエピソードを聞くと、改善の徴候なので嬉しくなる。

第四章 

●子どもの話は、子どものことばのわかった部分を反唱しながら聴くのがコツ。お母さんにわかってもらえるように子どもが努力する。親に分かるように話せるまでゆっくり待ってあげる。

 

乾布摩擦について
私は発達障害児へのマッサージが仕事になりますので、「乾布摩擦」については特に関心がありますが、これは佐久間先生が考える、「感覚統合訓練法的な五感のバランス改善のための手段」いうことではないかと想像します。

『「遅れてことばが発達する子どもに共通して、感覚器官のダイナミズムに大きな変化があります。赤ちゃん時代からずっと口は飲む、食べるだけしかしていません。それ以外は泣き声だけで、自分の声を意識していません。少しことばが出はじめると、口の中の感覚が大きく変わりはじめます。同時に、聴覚や視覚にも変化が生じ、耳ふさぎや眼球擦りなどが生じることがあります。赤ちゃんはだれでも、五感の感受性にアンバランスがあり、たくさんの皮膚刺激で、五歳までにバランスがよくなります。

通常、聴覚優位なので、人の話を聞くだけでことばの学習が進みます。優位性がさらに過剰だと、耳ふさぎを示します。皮膚刺激の過敏、鈍感、味覚や嗅覚にこだわりや偏りを示す子もいます。

五感のバランスのために、乾布摩擦をして下さい。全身、朝、晩、服の着換えの時に、擦ってやってください。健康増進のためではなく、五感のバランスのための乾布摩擦なので子どもの顔を見ながら気持ちよさそうな表情を手がかりに、最適な擦り方を見つけてください。頭から足の裏まで、指の一本一本まで、嫌がる所はアンタッチャブルゾーンとして擦らないように、その境界線は特に丁寧に擦っていると、ゾーンは縮小していくはずです。消えるまで朝晩続けていると、ゆっくりと五感のバランスがよくなるはずです」』


付記
本の出版が2015年のため、本の中で紹介されている「キリスト教ミード会舘」に問い合わせたところ、現在は下記の「西宮たんぽぽ」にて行われているとのことでした。特に右の写真をクリックして頂くと詳しい内容が確認できます。


療育

『もしタイムマシンを使えたら、あなたは過去に戻ってみたいですか?未来に進んでみたいですか?
ある女の子は言いました「赤ちゃんからやり直したい」と。ある男の子は言いました「先生、時間を戻して!最初からやるから」と。二人とも小学校1年生でした。過去に戻りたいと願っていました。うまくいかない自分を抱えて、その理由もわからず、苦しんでいました。
私たちがその子たちにできることは、その子のありのままを慈しみ、発達を支えることなのです。「苦手があっても、かけがえのない存在」、そう子どもに感じてもらえる関わりを用意することなのです。子どもたちには、未来を見つめていてほしい。そう思います。自分のありのままを大切に、歩んでいってほしいと。』これは、著者である藤原先生の「あとがき」の前半部分です。

 

著者:藤原里美

出版:学研

そして、療育とは特別なスキルを要するものではないということを伝えています。

「療育」とは特別な場所や特別の人がするだけのものではなく、お母さん、お父さん、保育士さん、学校の先生など誰にもできる子供の発達と支援の方法論です。
例えば、よい行動をしたら褒めて子供のよい行動を増やすということや、集中できない場合は静かな環境の中で勉強させる、不安になったら好きなぬいぐるみに触れて落ち着かせるなど、その場に応じた適した方法を使って子供を指導することです。』

なお、この本は以下の6つのパートから構成されています。
漫画:発達障害のある子どもたちのエピソードを紹介する。
対応:エピソードで紹介した子どもの行動の理由や対応を紹介する。
子ども発達相談室:お母さんがよく抱えている子どもの悩みに対してアドバイスをする。
解説:発達特性についてより専門的に解説する。
大切なあなたへのメッセージ:子どもに読み聞かせして、子ども自身の特性を共通理解する。
コラム:子どもを理解し、よりよい療育のために知ってほしいことなど。

 

そして、目次は次の通りです。
第1章 完璧な子どもはいない
 どの子も発達の凸凹がある
 発達の凸凹をその子の特性と捉える
 その特性により生活に大きく支障をきたす場合、発達障害と診断される

第2章 多動と不注意
1.じっとしていられない
2.やるべきことを忘れる
3.先に考えずに行動する
4.忘れ物が多い
5.突然、怒りだす
6.イライラしやすい
7.小さな失敗で過度に落ち込む

第3章 こだわり・コミュニケーション・社会性
8.自分勝手にふるまう
9.相手の気持ちになれない
10.こだわりが強い その①
11.こだわりが強い その②
12.こだわりが強い その③
13.考えが極端にせまい
14.言葉の意味は一つだけ
15.二つのことが同時にできない
16.いじめられているのに気づかない

第4章 感覚と身体運動
17.自分の体はどこ?
18.力の入れ方がわからない
19.見えているけど正しく見えない

第5章 特性を生かす
20.ぼくはダメな子?
21.みんなと違っている
22.1番じゃなきゃやだ!

コラム
 診断は大切?
 立派な大人も小さいころは…
 理想の子ども
 子どもへ伝えるときのコツ
 お父さんも理解者になるために
 おじいちゃん・おばあちゃんを味方にするには

大切なあなたへのメッセージ
 失敗は成功のもと
 おなじということ
 いじめからあなたを守るために
 大人に伝えて相談しよう
 自分について

わたしのきょうだいへのメッセージ
 好きなところ・きらいなところ

 

私の発達障害児との関わりはマッサージと動作法になりますので、ブログでは子どもとの信頼関係づくりに関わる「コミュニケーション」と今までのブログで度々登場してきた「ボディイメージ」を、療育の視点から考えてみました。

コミュニケーション
1.シングルフォーカス(参照ページ:p42-p45)
シングルフォーカスとは興味あるものだけが頭を占領し、くぎ付けになってしまうことです。
本文では次のような「解説」が書かれています。
『子どもは少なからず、興味あるものを目の前にすると他が見えなくなる傾向があります。大人でも、恋愛すると「あなたしか見えない」などといいますが、シングルフォーカスを象徴した言い回しですね。
年齢や体験を重ねることで、やるべきことは意識して、順を追って行動できるようになります。いくつかのやるべきことが多画面のようになって、意識できるようになります。しかし、浩太くんのように、小学生になっても、興味のあることに出くわすとそのことが全画面表示になり、「今を生きる」状態にスイッチが入る子には、まだまだ大人のマネジメントが必要です。
まずは、自分のクセを理解させましょう。興味のあることに夢中になりやすいということを理解させます。そのうえで、複数の画面にする工夫をします。やるべき二つのスケジュールを同時に映像として提示するのです。ランドセルと学校、帰宅と手洗い・うがい、宿題というように。これも、習慣になると行動がつながるようになるでしょう。』

 

2.ストレスと怒り(参照ページ:p60-p63)
怒りとは、瞬間湯沸かし器のように急に怒りだすようにみえる場合でも、徐々にたまったストレスがコップからあふれ出す瞬間に起こるものとされています。また、怒りだすとなかなか止まらない、一度怒りが収まったと思ったらまた急にぶり返すなど、怒りのコント―ルができないところにも大きな問題があります。ストレスは個々の特性によって異なりますので、その子の傾向を知り、日常生活の中で注意深く観察して、生活の工夫を試みることが大切になります。
「解説」の内容は次のようなものです。
『私たちは誰でも「怒り」の感情をもちます。この感情はもってはいけないものではなく、もったうえでマネジメントするものと考えましょう。つまり、「アンガー(怒り)マネジメント(管理する)ということです。アンガーマネジメントでは、「怒り」は第二次感情といわれます。怒りの感情に至る前には第一次感情が影響しているのです。第一次感情とは負の感情で、不安や、ストレス、悲しみ、ねたみなどです。
私たちは日常生活の中で、さまざまな負の感情を抱きます。この感情が、コップの水のようにたまります。この水をじょうずに抜いていかないとコップの水はあふれ出します。このあふれ出した感情が、「怒り」として表現されます。
感覚の過敏さ、ネガティブな思考のクセ、こだわりを強くもつ、シングルフォーカスなどの発達特性をもつ場合、コップの水はたまりやすくなります。この水をためない、また、たまった水を抜くための工夫をしていくことが必要なのです。

 

3.言葉どおりにしか受け取らない(参照ページ:p106-p111)


「言葉どおりにしか受け取らない」ということは上記の漫画に出てくるような出来事です。
会話は前後の状況や場の雰囲気を理解して、言葉の裏の意味を直感的に解釈すること、「暗黙の了解」が求められますが、この抽象的な概念は発達障害児にとって非常に厄介なものです。「1を知って10を知る」は望ましいものとされていますが、発達障害児においては、まさに「1は1でしかない」というのが特性です。
これらは自然に身につくものではないので、まずは正確に伝えるという配慮が必要です。例えば、「お風呂見てきてね」→「お風呂にお湯がたまったかどうか見てきてね」。「お昼は何にする?」→「お昼ご飯は何を食べる?」という具合です。そして、その都度その言葉の背景を教えていくことが必要です。このフォローを地道に行うことにより、言葉の背景や暗黙の了解をつかむコツが分かってきます。

4.シングルタスク(参照ページ:p114-p118)
先生の話を聞きながらメモを取れない。テーブル上のお皿を持ち上げてテーブルを拭けない。このようなことは発達障害児の特性の一つです。お母さんからは「右手と左手がまるで別の生き物のように、協調して動かない。目と耳と口も同じです。一人の人間が操作していると思えない。そんな感じです。」といった思いを抱くことも多いようです。

これらは子どもたちの心の問題でも、意思の問題でもなく、脳の処理の問題です。子ども自身もそうしたくても、できないもどかしさを強く感じています。
私たちの脳は同時に複数のことができるものですが(マルチタスク)、1つのことしかできない(シングルタスク)という特性が発達障害児には見受けられます。この難しい問題に対し、著者の藤原先生は「解説」の中でこの問題に対しどのように向き合うのが良いのかについて語られています。
『私たちは、いくつかの作業を映像に描いて行動します。でも、その作業が1つしか描けない子どももいます。いくつかの作業を描いて行動できるには、作業を同時に処理していく能力が必要です。たとえば下の絵のように、朝のしたくでは「コップと、タオルとノートと……を入れて」というように進めます。

 

画像出展:「はじめての療育」

しかし、一つの作業しか浮かばないと、下の絵のような作業になります。

 

画像出展:「はじめての療育」

 

前者を「同時処理」、後者を「継次処理」といいます。
継次処理の方が効率が悪いのは否定できませんが、丁寧で着実であるという利点もあります。早くないけれど確実、そこがよさです。丁寧に一つずつこなしていけるようにします。こうした日ごろの支援が、一つから二つと同時にできる作業を増やすことにつながります。欲張らず、あせらず、子どもの情報処理の発達特性に合わせて、支援を考えましょう。』

 

5.「子どもへ伝えるときのコツ」(参照ページ:p170-p171)
こちらは「コラム」として掲載されているものです。発達障害の子どもと接するうえで、とても有効だと思いますのでそのまま掲載させて頂きます。
①脅かさない
『「〇〇しないと〇〇できない」、たとえば「勉強しないとおやつが食べられないよ」だと、おやつが食べられない状況のみが強調されて伝わります。否定的な言い回しの繰り返しではなく、肯定的にやるべきことを伝えましょう。「勉強したら、おやつです」と。』

②叱らずにアドバイスする
『「〇〇するとうまくいくよ」、たとえば「失敗は成功のもとと考えると、気持ちが楽になるよ」というようにしましょう。うまくいかないとき、イライラする場面なども「イライラしない」「もうあきらめなさい」などと叱らずに、「深呼吸してみよう」「楽しいことを考えて」など、肯定的に今やってほしい行動を伝えましょう。』

③よかったところを強調する
『「〇〇は失敗したけど、〇〇はよかったよ」のように言います。大人も子どももうまくいかなかったところに目を向けがちです。そんな考え方を切り替えるためにも、よかったところ、できたところを確認して伝えましょう。』

④共感する
『「なるほど、そういうふうに考えるんだ。おもしろいね。」「その感じ方は、苦しいよね。よくわかったよ」といったように、どんな考え方でも、たとえそれが間違っていると感じても、まずは共感しましょう。なぜなら、その考え方は本人にとって「大切な考え方」であるからです。そのうえで、ほかの意見を受け入れられるように導きましょう。』

⑤希望をもたせる
『「次はうまくいくと思うよ」、「きみを理解してくれる人にこれから出会えるよ」、「きみは成長しているよ」など。子どもが自分を信じて、頑張るためには将来に希望がもてなければなりません。今、つらい状況であっても、身近にいる大人が希望をもてるようなメッセージを伝え続けることが必要です。』

⑥味方だと伝える
『「いつでもあなたの味方だからね」「身近なサポーターだから忘れないでね」「きみのファンだよ」というように、一人じゃないということを感じられるようにします。心の支えになれるように、伝えたいですね。』

ボディイメージ
1.じっとしていられない(参照ページ:p32-p39)
「子ども発達相談室」の母と先生のやりとりは次のような内容で始まっています。
:うちの子は、とにかくじっとしていられません。
先生:そうですね。体の内側から動きたい欲求が出ているので、注意してもおさまらないですね。
:体の内側から……それはどういうことですか?
先生私たちは、体の中に感じる感覚を二つもっています。その一つが「固有覚」といって、筋肉や関節に感じる感覚です。鉄棒にぶら下がると手首が引っ張られる、物を持つときに重さを感じる…そんな感覚です。この感覚を頼りに、私たちは動作や運動をするときに適切な力の入れ方、自分の体の部位の動かし方を調整しています。この感覚をうまく受けとめないと力を入れすぎて、バナナやおにぎりを食べるときに握りつぶしてしまったり、体の動きがぎこちなく見えたりします。
また、「対応」では、子どもの欲求を満たす方法として、子どもの体に触れて筋肉や関節に感覚刺激を入れる関わりや遊びを取り入れることを推奨しています。
具体的には以下の事柄が紹介されています。
①座りながら感覚を満たす
手や腕など、ギュッギュッと握ってみよう
肩や背中、ひざなどトントンとたたいてみよう
頭を指でマッサージしてみよう
②運動遊びで感覚を満たす
・指相撲や腕相撲、鉄棒にぶら下がる、前回りをする、マットででんぐりがえし、木登り、ジャングルジム、うんてい
③道具を使った工夫
・バランスボールを座ってピョンピョン
・一人用のトランポリンで繰り返しジャンプ
・マッサージチェアで筋肉や関節をモミモミ
・回転いすに座ってくるくる回る
そして、「解説」では詳しい説明がされています。
『多動といわれる状態は、動きたいという身体の内側にある感覚的な欲求が働いていることが原因の一つといわれています。「お腹がすいてご飯を食べたい」という生理的な欲求と似ていて、「体の内側に入る感覚刺激が足りないから、感覚を入れたい」という行動です。私たちが、窮屈な乗り物に長い時間乗っていると動きたいという気持ちにかられますが、それに似ています。
体の内側に感じる感覚は「固有覚」(筋肉や関節に感じる感覚)と「前庭感覚」(体の傾きや動いているスピードを感じる感覚)があります。どちらも感じにくいと跳びたくなったり、走りたくなったり、回転したくなったりします。ですから、我慢させすぎることのないように、内的な感覚欲求を満たしてあげることを考えましょう。
外遊びで、跳びはねたり、回ったりするといった遊びが少ない現代、この内的な感覚が足りないことと、子どもたちの行動に落ち着きがないと感じることは関係が深いと考えられます。』

 

2.自分の体はどこ?(参照ページ:p128-p133)


「自分の体はどこ?」というものは、問題を持っていない人にとってはとても理解しずらいものです。本の中では「子ども発達相談室」の母と先生のやり取りがとても分かりやすいので、前半部分を引用させて頂きます。
:着替えはとにかく時間がかかります。そでにうまく腕が通せなかったり、かかとの位置を合わせられなかったりで、私の方がイライラしてつい怒る。本人はさらに体が動かなくなる……そんな繰り返しで。
先生:私たちはそでを通す時も、かかとの位置を合わす時も、最初はその部分を見ますが、その後は見ないで身体の感覚を使って着替えをします。見ないでできると、早いんですね。ところが、自分の体の位置や動かし方がわからないといちいち見ないといけない、そして見ても服のその部分に体を合わせるのに時間がかかるという二重苦です。自然に理解するのは難しいので、どうしてうまくいかないのか、お母さんがなんで怒っているのかもわからないということになります。
:見ないとできない? なるほど、私たちは見ないでそでを通したり、ボタンをはめたりしていますね。それができないのですね。
先生:ボディイメージを持てないということが大きいですね。自分の体の実感がうまくもてないということだと思います。体に意識が向きにくいのです。


そして、「解説」では支援の方法などについても言及されています。
『子どもは、3、4か月のころになると、自分の手を眺めながら動かすようになります。これは「ハンド・リガード」という行動で、自分の手を見つめることで自分に体があるということを知り、体が動く時の感覚をつかむのです。つまり「手を動かす」のを見ながら確認して、体の感覚と一致させ、その感覚を利用して、見ないでも体を動かせるようになっていきます。
しかし、この体の感覚、固有覚などの内的な感覚が育ちにくいと、見ないで体を動かすことが難しくなります。また、見えない部分を想像する力も弱いのでさらに動かすのは大変です。ですから、「ハンド・リガード」と同じ視点で、見て自分の体を知ることと、動く時の体の感覚をつかめるように、大人が支援します。その時は手取り足取りになることもありますが、繰り返すうちに体の感覚をつかめるようになります

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

乳児は「ハンドリガード」で身体感覚を学びます。そのプロセスは以下の通りです。
①脳が「指をしゃぶれ」という「動作信号」を発信する。
②指の動きが「体性感覚」として脳にフィードバックされる。

③指の動きを見たり、口に含んだり時の味覚などが「特殊感覚」として脳にフィードバックされる。
④動作信号・体性感覚・特殊感覚が脳の中で統合されて、身体感覚が学習される。

画像出展:「立命館大学映像学部

3.力の入れ方がわからない(参照ページ:p134-p139)


力の加減が分からないとどんな事が起きるのでしょうか。これについて、「対応」にいくつかの例や役立つ遊びが紹介されています。
ドアをバタンと閉める、物をドンッと置く、人を力強くたたく、どたどたと歩くなど、力を入れすぎる行動は、落ち着かない子、乱暴な子と誤解されやすく、本人も損をします。これは、力を緩める感覚をつかみにくいことが原因となっています。
力を緩める感覚を練習するための「紙風船」を使った遊びを紹介しましょう。「紙風船」を下からたたいて繰り返し飛ばします。力を入れてたたくとつぶれてしまうので、力のコントロールが必要です。いきなり「紙風船」が難しい場合は、「ゴム風船」でもよいです。なるべく数多くポンポンと手でついて繰り返せるようになるといいですね。
「風船」でのキャッチボールも楽しい遊びです。力強くキャッチすると、風船が弾んで逃げていくので、そっと捕るという感覚がわかります。
力を抜いて操作するのがわかったら、ドアを閉める時や物を置く時は「風船をつかむ力で」と伝えると、体験が生活にいきるようになりますね。』


また、「解説」でも、力を緩める感覚は言葉だけの説明では身につかないということが書かれています。
『力が入りすぎて、体の動かし方が不器用というのは、体の中に感じる固有覚の鈍感さがやはり原因だと思います。この感覚の中でも、物の重さや固さを感じる感覚がうまく働かないと無駄な力が入りすぎたり、逆に入らなかったりして、不器用な働きになります。
重さや固さが感じにくく、物をつかむ時や持つ時に指の関節や手首にどのくらい力を入れるのか、どれくらいの角度を保つのかがわかりません。また、筋肉の使い方の加減もうまく調整できません。「ゆっくり持つ」「そっと置く」など、言葉だけで説明するだけでは、いくら繰り返し練習してもできないということになります。
ですから、見て、感じて、具体的な力の入れ方を練習するということで、子どもが少しずつ変化していきます。ここでも、根気よくというのがキーワードになりますね。』

 

今回、「はじめての療育」を勉強させて頂き、特にボディイメージの理解(「じっとしていられない」、「自分のからだはどこ?」、「力の入れ方がわからない」)を深めることができたことは、とても良かったと思います。

「ありがとう、ヘンリー」

今回のきっかけもテレビの番組でした。それは、海外では自閉症を支援する介助犬が活躍しているという内容です。興味をもった私は、さっそくネットで調べましたが、検索の仕方が悪かったためか、その時はこれといったサイトを見つけることはできませんでした。
そのような状況で、何とか見つけたのが「ありがとう、ヘンリー 自閉症の息子とともに育った犬の物語」というスコットランドの母親が書いた実話でした。
以下はamazonの商品説明です。
『重度の自閉症にとらわれた息子デールをかかえ、途方にくれていた一家のもとに、1匹の子犬、ヘンリーがやってきた。それまで誰とのコミュニケーションも拒んでいるかのように見えたデールは、ヘンリーとだけは奇跡的に心を通わせはじめる。母親のヌアラは、その無邪気な子犬にすべての希望を託し、デールを世界へ導きだす試みに乗り出した―絶え間ない努力で自閉症に挑み続け、息子の成長を支えてきた母親が、その18年間を振り返って綴る感動のノンフィクション。』 

 

ヘンリーという犬にだけ心を通わせることができたのは何故か、何がヒトと違うのか、この事に強い関心をもった私はこの本が格安だったということもあり、躊躇なく購入することにしました。

 

者:ヌアラ・ガードナー

訳者:入江真佐子

出版:早川書房

※下段の4枚の写真は本からの転載です。


 

 

 

 

 

 

 

 

デールが描いたヘンリーの絵ですが、ヘンリーと出会う前は、模様やシミのような絵しか描いていなかったとのことです。

 

こちらは青年となったデールが描いたヘンリーの絵です。


 

こちらは原版です。

 

映画化されDVDも出ていました。Thomasとは、「機関車トーマス」のことだと思います。


デールは20歳のあるインタビューで次にように語っています。
『自分はまだ自閉症を抱えていることはわかっています。それからは決して逃れられないけれど、なんとか克服することはできると思います。』
つまり、自閉症はなくなるものではなく、受けいれ、共存するもの、コントロールするものなんだと思います。
下の図は自閉症にのみ込まれていたデールが、それを克服し、自分の一部として受け入れるために何が必要だったのかを考えてみたものです。以下にその説明を付けました。

①愛情と成長のための教育
この主役は母親のヌアラ父親のジェイミーです。デールは早産であり、逆子のため頭部に変形がありました。はじめての言葉は「木!(Tree)」で生後26ヵ月の時でした。
2歳4ヶ月の時には、聴力検査を受け正常と判定されましたが、自閉症ではないかというヌアラの懸念はデールの成長とともに強くなっていきました。
ヌアラの最初の苦闘は、医学的に「自閉症」の診断を勝ち取るというものでした。これは自閉症と診断されることによって、デールがその時に必要だったサポートや教育を受けることができるようになるという理由からでした。
その判定はデールが3歳11ヶ月(最初の診察から16ヵ月後)の時でした。13人の各専門家によるデールの最終診断は、典型的な自閉症であり、1番の問題はボディランゲージを含む全般的な種類の言語障害という結果でした。
物語の根底にあるのは、「自閉症に対する配慮、サポート、教育」のように思いますが、それは、時には自閉症児に対する特別な教育、支援を受けるものであり、時には健常者が通う学校の中に身を置き、学習すること、経験することでした。特にヌアラが卓越していたのは、「今」と「近い将来」において、デールが必要とするものは何かを見極める洞察力と、それを実現させる行動力だったと思います。ヌアラがデールに対して行ったことは、デールの成長のためであり、常に教育という開かれた、客観性、多様性を兼ね備えた場を求めていました。 
一方、父親のジェイミーはデールを理解し、ヌアラを支えることに迷いはなく、二人にとって素晴らしい父親でした。そのジェイミーの覚悟が一線を超えたのはデールが4歳の時の交通博物館の出来事だったように思います。それは次のような出来事でした。


『ある夜のこと、わたしたちはみんなでフィッシュ・アンド・チップスの夕食のテーブルを囲んでいた。デールはおとなしいモードに入っているようだった。ジェイミーはイースト・キルブライドの職場から帰ってきたばかりで、わたしたちは二人とも疲れていた。わたしがデールの食事を切り分けはじめると、彼が突然「蒸気機関車、蒸気機関車、蒸気機関車」と歌うようにいいはじめた。ジェイミーの心はがくんと沈んだ。彼にはこれが何を意味するかわかっていたからだ。交通博物館は閉まっていると彼は説明しようとしたが、デールは「蒸気機関車」とますますしつこく繰り返した。「この子には[閉まっている]という概念がわからないのよ」とわたしはやさしくジェイミーに思い出させた。

ジェイミーはこの問題を解決するためには何をしなければならないかをすぐに悟った。「これから2時間ほど、この子をグラスゴーまで車で連れていってもどってくるほうがよさそうだな。行かなかったらまたすごいかんしゃくと格闘しなきゃならないだろうからな」とジェイミーがいった。そんなわけで、彼はデールに往復100km近いドライブに行く準備をさせた。わたしは手を振って二人を見送り、「グッバイ、ダーリン」とデールにいった。彼はすぐにオウム返しに「グッバイ、ダーリン」といって、わたしのほうを一度も振り返らずに車のほうに歩いていった。

自分だけの時間が2時間あることに気づいて、わたしはバスルームに走った。今回だけは平和に静かに入浴を楽しめるのだ。

ジェイミーから後で聞いたところによると、デールはグラスゴーに行く途中はいつものように何もいわずおとなしかったが、ときどき無表情な顔のままジェイミーの手を握ったそうだ。いま思えば、これはジェイミーが自分のやりたいことをしてくれていることへの彼なりの感謝を示していたのだろう。

彼らが空っぽの駐車場に車を止めたときには、暗くなっていた。交通博物館への階段を登っていき、デールがドアを引っ張ったが、ドアは開かなかった。ジェイミーはデールの目の高さになるようにしゃがみこみ、こう説明した。「わかるだろ、デール、入れないんだよ。博物館は閉まってるんだ」デールがだまったままなので、ジェイミーは話しつづけた。「いまは暗くて、夜なんだよ、デール。だれもここにはいない」デールはそれでも黙っていたが、また博物館のドアを開けようとした。ジェイミーは、「博物館は閉まっているんだよ。蒸気機関車は休んでるんだ。また明日働くためにね」ジェイミーがデールを車のほうに向かせたとき、彼の説明に満足したのか、デールが「明日働く」と繰り返した。「そうなんだよ、デール。だからおうちに帰って、ぼくたちも休もう。汽車みたいにね」ジェイミーはこのままこの場をうまく切り抜けられるだろうかと思いながら、ぴりぴりしていった。デールがまたオウム返しにいった。「汽車みたいに」それから、二人がちょうど車までもどってきたとき、ジェイミーをほっと安心させる一言がデールから発せられた。「閉まってる」この言葉と共に、二人は帰途についたのだった。

二人が家に帰ってきたとき、わたしはバスローブに身を包み、お気に入りの赤ワインのグラス片手にくつろいでいた。「どうだった?」とわたしはきいた。「だいじょうぶだよ」とジェイミーは疲れきってはいるがうれしそうにいった。

「あの子はほんとうに意味がわかったと思うよ」うれしくなってわたしは彼を励ました。「こういうふうにやればできるのよ。これからもすごくたいへんだろうけど、でもやれるわよ―一緒にがんばりましょう」「そうだな、できるよね」とジェイミーは答えた。「でも、ぼくたちに他の生活はなくなるけど」もちろん彼のいうとおりだった。デールの世話をしていると他の何をする時間も残らなかった。それでも、ジェイミーがこんな突破口を開いてくれてわたしはすごくうれしかった。ジェイミーはほんとうに疲れていたし、この解決策には時間も距離も労力もかかった。だがこれ以来「閉まっている」という概念が定着したのだ。デールはこの言葉がきらいになったが、わたしたちは大好きだった。いつでも必要なときにはわたしたちに有利なようにこれを使うことができたからだ。

その夜、ジェイミーがソファに寝転がっていると、デールがジェイミーの胸の上に乗った。彼はときどきこういうことをする。ジェイミーはわたしのほうを見てこういった。「この子が新しい言葉を覚えたのはすごいことだよ。だけど、ぼくたちがこの子に名前をきいて、この子がちゃんと答えてくれたらすばらしいと思わないか?」

この説を証明するようにジェイミーはデールのほうに顔を向け、デールにこうたずねた。「きみの名前はなんていうの?」わたしたちの息子が生まれて初めて「デール」と答えたときの、ジェイミーの仰天した顔をわたしは決して忘れないだろう。それはまるで、彼らの交通博物館までの突拍子もないドライブを通じて、デールがすばらしい父親との特別の絆をつくったかのようだった。

 

②自閉症は脳幹部での各感覚信号が混線したような状態
・これはこの本に書かれているものではありません、ブログ「感覚統合の理論と実践」で学んだことで、それは次のようなものです。
『エアーズ(Anna Jean Ayres:アメリカの作業療法士)は感覚の中でも、前庭覚、固有覚、触覚の三つが子どもの運動、情緒、認知、および言語発達の上で最も重要な初期の刺激であるとし、そのためには脳幹レベルの統合が重要であり、脳幹を感覚統合の中枢として位置付けています。』
ここで、あえてこの事を引っ張り出してきた理由は、自閉症は脳を原発とする問題であり、脳の機能改善、混線した感覚の信号が整理整頓されるイメージを頭に入れておくことは大切ではないかと考えたためです。
添付した図は網様体の働きと脳の中の場所をお伝えするためのものです。

 

画像出展:「感覚統合の理論と実践」

 

画像出展:「人体の正常構造と機能」

③言葉の習熟
デールは、1番の問題はボディランゲージを含む全般的な種類の言語障害と診断されました。
言語障害はコミュニケーションや社会性の問題に関わるのは当然ですが、イライラなど情緒や健康面にも影響してくる最重要課題の一つであると思います。これは、私が訪問させて頂いている小さな障害児センターの言語障害をもつ子どもたちと接して感じるものでもあります。

物語では、デールがかんしゃくを爆発させたある日、父、ジェイミーの咄嗟な機転から、デールとの会話の間にヘンリーという存在を挟むことで、デールが抱える会話に対する恐れや緊張感などの高いハードルを下げる、不思議な三者方式の会話が展開されるようになりました。(一言でいうと話者がヘンリーになりすますという方法です)
たいへん長文にはなりますが、この説明だけではどんなものかをイメージするのは困難なため、その経緯や何が行われたのかについてご紹介させて頂きます。


『1995年の春ごろには、デールはヘンリーと同じようにわたしたちを彼の人生に立ち入らせてくれる気になるまでにはまだ何年もかかるだろう、とわたしたちも冷静に受け入れられるようになっていた。スピーチ・セラピー、学校での特別プログラム、わたしたちも家族の努力にもかかわらず、デールが社会にうまくなじんでやっていくまでにはまだまだ時間がかかりそうだった。デールはまだ顔の表情と、言葉以外のコミュニケーション全般の解釈が大の苦手で、語調にも問題があった。まちがった調子で話したり、不適切なところで笑ったりするだけではなく、ある特定の言葉を耳にすると際立った苦痛を感じるのだった。わたしたちが「オーケー」とか「学校」のように彼が聞きたくない言葉を口にすると、突然激怒することがあった。
わたしたちは注意していたが、しょっちゅう使う言葉だったので、ときどきふと漏らしてしまうのはしかたのないことだった。わたしたちのうっかりミスでデールがかんしゃくを起こしてしまわないように、口にする言葉をいちいち気にしなければならないのは容易なことではなかった。だが、まさにこの問題ゆえに、デールとヘンリーと一緒のわたしたちの人生にとんでもないねじれが生じることになろうとは、とても予想できなかった。
ある一見ごくふつうの日のこと、デールがヘンリーを脇に従えてうれしそうにダイニング・ルームにいるあいだに、わたしは宿題に関してなにか先生からのお知らせがあるかどうかを見るために彼の通学かばんを調べていた。連絡帳を見つけ、彼の字がずいぶん上達したのに気づいたので、わたしはデールのところに行き、わたしが見てうれしかったページを見せた。
「デール、字がすごく上手になったわね。あなたのこと、すごく誇りに思うわ」とわたしは彼にいった。
とたんにデールがこの言葉にすごく腹を立てたので、「誇りに思う」という言葉が彼が聞くに堪えない言葉のひとつだったことを思い出したが、もう遅すぎた。彼は荒れて部屋を走り回り、「[誇りに思う]っていうな」と叫びながら、自分の頭をつかもうとした。
わたしは彼を安心させようとしてこういった。「あなたのことを誇りに思うっていうのは、いいことなのよ。オーケーなのよ」
こんなにあわてている時でなかったら、わたしも「オーケー」という言葉を避けたはずだった。だが、またしても気づくのが遅すぎたために、デールの苦悩はさらに大きくなった。
「[オーケー]っていうな!」と叫ぶと、デールが怒り狂って頭を壁に打ちつけはじめたので、彼が最大級のかんしゃくに突入したのがわかった。こうなると、過去にわたしがいつもしなければならなかった方法を使って、彼を抑制するしか他になかった。
わたしは彼の上に馬乗りになり、頭を保護して手で包みこみながら、彼を安心させようとした。ヘンリーはそのころにはこんなデールを見るのには慣れていて、ただ彼の横にねそべって見守っていた。デールの怒りはたいへんなものだったので、わたしはこうして40分以上もすわっていなければならなかった。その間にわたしはブラウスの袖をデールに引きちぎられた。仕事から帰ってきたジェイミーを待っていたのは、こういう光景だった。ジェイミーを見てほっとしたわたしは、まだ暴れ、泣き叫んでいる息子に向かってこういった。「デール、誰だか見てごらんなさい。パパよ」
同じように彼を安心させようとして、ジェイミーがいった。「デール、パパは庭を走ろうかなと思っていたんだけどな。走るかい?」だが、この言葉も役には立たず、デールは怒りで顔を真っ赤にし、目は飛び出さんばかりだった。
わたしはジェイミーにこうぼそぼそいったのを覚えている。「まったくひどいわ。犬でさえいまでは心配そうにしている」どういうわけか、この言葉がジェイミーの中に一瞬の霊感を生み出した。

彼は突然低い、気どった声で息子に話しかけた。

「デール、ヘンリーだよ。ぼく、きみが泣いているのはいやだよ。すごく心配だもの。お願いだから泣き止んでくれないかな?」(青字はヘンリーになりすましての会話)
これを聞くと、デールはすぐに落ち着きをとりもどし、犬に向かっていった。「わかったよ、ヘンリー、ごめんね」
ジェイミーとわたしはほっとしながらもわずかに戸惑ったように顔を見合わせた。やがてジェイミーがまた同じ低い声でいった。「じゃあ、デール、外に出て駆けっこするかい?」
この言葉に、息子は起き上がり、ほとんどわたしを押しどけるようにしてこういった。「いいよ、ヘンリー。行こう。」デールはヘンリーの首輪をひっぱって、庭に出て行った。
その夜になり、わたしたちは二人とも、さっき起こったことをよく考える間もないまま、来るべきベッドタイム・バトルにそなえて気持ちを引き締めていた。
ジェイミーが「デール、パジャマ。寝る時間だよ」と、先に用件を切り出した。ヘンリーは暖炉の前に寝そべって、気持ちよさそうに眠っていた。デールは自分の犬を見て、それからジェイミーのほうに行くと、顔を見ずに彼のジャンパーを揺すってこういった。「ちがうよ、パパ。ヘンリーみたいにしゃべって」
再び、ジェイミーとわたしは顔を見合わせた。それからわたしは犬のほうを向いてうなずき、デールがいうとおりにするべきだとジェイミーに身振りで示した。彼は了解し、これ以後ひじょうに馴染み深いものとなる声でいった。 「デール、ヘンリーだよ。お願いだからパジャマを持ってきて。もう寝る時間だよ。ぼく、疲れちゃったから、ぼくも自分のベッドに行くよ」
これを聞いて、デールは満足げに答えた。「わかったよ、ヘンリー」そして急いで自分の部屋に走っていった。
わたしたちは困惑してすわりながら、これからまだバトルが待ち構えていると考えていた。だが、デールは実際にパジャマに着替えてもどってきた。こんなことはそれまで一度もしたことはなかったのに。ボタンまで自分でかけようと努力していた。もっとも、ボタンはかわいらしくかけちがえてあったが。

彼(デール)は一瞬ヘンリーを見て、それから断固とした調子でいった。「ヘンリー、寝る時間だよ。ベッドへお行き」

ジェイミーとわたしは唖然としてそこにすわっていたが、やがてジェイミーがようやく声を―彼本来の声をとりもどしていった。「おやすみ、デール」またもや前代未聞のことが起こった。デールが「おやすみ、パパ」といって、ついにわたしたちの言葉に反応したのだ。
これがあまりにも耳に心地よかったので、わたしも思い切っていってみた。「おやすみ、デール」
その結果返ってきた「おやすみ、ママ」という言葉は、わたしがそれまで聞いた中で最高に甘い音楽だった。


ヘンリーがしゃべりはじめたあの記念すべき日から、その効き目はほとんど奇跡といってもいいほどのものになった。デールは彼の犬が「頼んだ」ことならほとんどなんでもやるようになった。
わたしたちがあの声を発見したまさに翌日の朝、わたしがその声を使ってもデールが反応してくれるかどうか不安を感じながらも、その機会をつかまえた。いつものように、デールはぐずぐずしていて、もうすぐスクール・タクシーがやってきそうだった。ふつうならわたしがあいだに入って急がせると、彼は腹を立ててしまう。だから、その朝はかわりにヘンリーがデールにこう頼んだ。

「デール、靴をはいて、コートを着て。タクシーがやってくる音が聞こえるよ」わたしはジェイミーが使った低くて気どった声をできるだけ真似しようとした。すると驚いたことに、デールはすぐに準備をして、タクシーがやってきて止まるまでに、もうヘンリーをつれて玄関ドアのところで待っていた。
デールが帰ってくると、わたしはいつものように学校日誌をチェックした。わたしがこうするのは、彼自身の口から何があったのかを話してくれるよう励まそうとしてのことだったが、たいていの場合、ひとことで片付けられるか、あるいはすごく腹を立てて「[学校]っていわないで!」と不機嫌に怒鳴られるかのどちらかだった。
だが、きょうは、デールがヘンリーをそばにおいて遊ぼうかと落ち着いたところで、わたしは手に日誌を持って用心深く近づいていき、ヘンリーの声できいた。「デール、きょうは学校で何をやったの?」
間髪をおかず、デールはきっぱりと答えた。「劇だよ、ヘンリー」
「デール、劇ってなに?」ヘンリーが気をよくしてつづけてきいた。「おもしろい?」
「うん、ヘンリー、すごくおもしろいよ。ボートに乗って島に行くんだ」
「デール、濡れなかった?」
「ううん、ばかだなあ、ヘンリー。ふりをしただけだよ。劇ではふりをしてお芝居するんだよ」
デールと話すときのいつものルール ―たとえば、ものごとを単純にする、など― に従っているかぎり、ヘンリーの助けを借りればこういうふうなごく初歩的な三者会話ができるということがわかった。こんなふうに会話ができることにわくわくしたが、これがデールとのコミュニケーションのやり方として適切なのかどうか心配になってきた。帰宅したジェイミーに、わたしはデールがあの声だとどれほどうまく反応するかを話したが、この方法を使い続ける前にアドバイスを得たほうがいいだろうということでわたしたちの意見は一致した。


さいわい、セント・アンソニー校でデールを担当しているクリスティン・カスバートというスピーチ・セラピストが家庭訪問に来ることになっていた。彼女は優秀なスピーチ・セラピストで、学校でオデッセイ・ドラマ・プログラムを実践しており、子どもたちに人気があった。彼女はまたソシアル・ユース・ランゲージ・プログラム(SULP)というスピーチ・セラピー・プログラムも使っていたが、これはとくに自閉症児向けにつくられたもので、社会言語のルールを説明するために音声と絵で描いたキャラクターが使われていた。リスニング・リジー、バッティング・イン・ベティ、ルッキング・ルークなどのキャラクター・ネームを使ったこのプログラムは、デールや他の子どもたちにほんとうによく役立ったが、皮肉なことにこのテクニックはわたしたちがずっと昔にトーマスの仲間たちを使って考案したのと同じようなものだった。
クリスティンが学校でデールと一緒にやっているすばらしい仕事にけちはつけたくなかったので、彼女が家に来てくれたときには、ヘンリーに関する状況を説明するだけにした。そして彼女のアドバイスを聞いてほっとした。

わたしがデールの自閉症にひじょうに理解を示していることを知っているので、彼女は「このテクニックを建設的に、かつ責任をもって使うかぎりは、このままやってだいじょうぶです」といってくれたのだ。わたしたちがやっとデールに心地よいコミュニケーションの手段をみつけだしたこと、やがて時間がたってデールが進歩したときには、もちろんヘンリーの声を使うのをやめることを目指していることを、クリスティンはわかってくれていた。当然それがわたしたちの最終的な目標だし、それまでの過程でもヘンリーの声をどのように使うかについては細心の注意を払うつもりだといって、わたしは彼女を安心させた。


この家庭訪問直後の1995年の夏に、ジェイミーとわたしはジム・テイラーが発表者の一人となっている自閉症に関する会議に出席した。なんとか彼と話す機会をつくって、わたしたちのこの珍しい発見をどう思うかときいてみると、「不思議なことではないですよ。第三者は面と向かった会話に伴う不安を軽減させますからね」といった。
ジムは犬がしゃべるという例には出会ったことはなかったが、ストルーアン・ハウス校で、不安感の強い男の子がジムに背を向けて電話をとりあげ、受話器に向かっているときにだけ何で困っているかをジムに話すことができた、ということがあった。彼らは二人とも同じ部屋にいたのだが、この間接的なコミュニケーション手段が、面と向かった会話のときにはどうしても現れてくる言葉以外のプレッシャーをまったく感じずに、自分を表現することを可能にしたのだった。
わたしたちにはジムがいわんとすることがよくわかった。ヘンリーがデールの電話になったのだった。ヘンリーの穏やかな顔と目は、人間だったら強要してしまうある種の社会的要求をデールに求めないのだった。ヘンリーはまた、人間の友達にはつきもののプレッシャーをまったく感じさせずに、デールにいかにすれば関係がうまくいくかを教えてくれ、デールの初めてのほんとうの友達になったのだった。
家に帰ると、いかにジムが正しいかがわかった。わたしたちがヘンリーの声を使うと、デールはヘンリーの顔を見るのだった。まっすぐ目をみつめ、ヘンリーのそばに寄っていった。わたしたちが普通の声でしゃべるときには、彼はわたしたちの顔を見るのを避けるか、前やったように、わたしたちの顔の間近まで顔を近づけてくるかのどっちかだったのに。
この声を使い始めた最初のころ、とっさに何かを伝えなければならないときから、三人での会話を続けるときまで、わたしはヘンリーの声を出しどおしで声がしゃがれてしまった。デールと一緒に宿題をやるときも、彼と遊ぶときも、夜寝る前に本を読んであげるときもそうだった。ヘンリーはまるで「自分の」声に興味津々とでもいうように首をかしげながら、その間ずっと注意を払っていた。わたしの側からすれば、ヘンリーがそんなふうに熱心に参加してくれるので、まるで彼がほんとうにわたしの二番目の子どものような気になってきた。デールはまだかんしゃくを起こしていたが、回数も少なくなり、一回の長さも短くなってきた。彼が動転しているときにヘンリーが話しかけると、わたしやジェイミーがやるよりずっと早く彼が安心するようになったからだ。

デールがもうすぐ七歳になるというころ、彼自身がヘンリーをどれほど大切に思っているかを痛切にわたしに語ってくれることがあった。「ぼく、あの柔らかくてかわいい犬が大好きだよ。ヘンリーはすばらしい。もし、ヘンリーがいなくなったら、ぼく、いつまでも泣いて悲しむと思う」と。
このころ、デールの絵にも励みになるような変化が起こった。以前からトーマスと仲間の機関車の絵ばかりを描いていたのだが、いまではそこに明らかにそれぞれちがう、楽しそうだったり、悲しそうだったりする顔の表情がつくようになった。さらにわたしたちを驚かせたのは、デールはまだわたしたちと目を合わせることに苦労していたのだが、機関車がお互いしっかりと目を見合っている絵を描くようになったことだ。それに続けて、デールは機関車だけでなく、おそらく彼とヘンリーだと思われる人や動物の姿も描くようになってきた。これは彼の想像力が進歩しはじめたことを示すものだろう。

 

この本の最後の章は「デール自身の言葉」として25の事柄について語られています。その冒頭に上記のデールとヌアラ・ジェイミーが取り組んできた特別な言語習得法について、ヌアラがデールの言葉を次のように紹介しています。

『子どもたちがコミュニケーションをとっていないとき、ついつい彼らは何もわかっていないと思ってしまいがちだ。だが、デールが10歳のとき、彼はわたしにこう話した。「もしぼくたちがヘンリーを通じて話していなかったら、ぼくはママたちとは絶対に話さないことを選んでいたよ」』

 

④手にしなければならないものは“自信・自尊心”
「言葉」は生きていくうえで必要な武器、手段といえると思いますが、デール自身が自閉症を乗り越え、コントロールしていくために最も重要だったものは、この自信と自尊心だったようです。それは本の中で度々出てくることで分かります。断片的に書き出すだけでは不十分なのは明らかですが、ご参考として列挙させて頂きます。
.p198:ヌアラ曰く、『「5分、5年反応」(5分間、ヘンリーをひとりで家にほっておくと、その後は5年ぶりに会ったようにお喜びすること)はデールの自信自尊心を高める上で驚異的な働きをした。』
.p350:ヌアラ曰く、『目前の困難を前に、あらゆる機会をとらえてはデールが自信を持てるように励まし、普通の子どもたちの中でやっていく経験をさせるようにした。』
.p351:ヌアラ曰く、『彼の自尊心を高めるこのようなこと(最優秀作品に選ばれたこと)がなかったら、デールはグーロック・ハイスクールでどうやっていけただろうかと思う。』
.p452:デール曰く、『プロスペクツの協力はなくてはならないものだった。彼らの協力がなかったら、カレッジに関して自分の目の前の問題すべてに対処できなかったはずだ。ワークショップや彼らがぼくと一緒にやってくれた個々の作業がすごく役立ち、おかげでリラックスでき、カレッジでの勉強にも自信が持てた。』

 

⑤助けてくれるのは“友”の存在
言うまでもなく、ひとつはヘンリーの存在です。ヘンリーについては「デール自身の言葉」の中で「ヘンリーが特別な理由」として次のように解説しています。(これが私の疑問の回答です)

『ヘンリーはとにかくやさしく、人なつっこく、社交的だった。かしこそうな顔をしているところが好きだったし、ぼくはいつも彼を信頼していた。だから、彼といるととても居心地がよかった。目を見ればすべてがわかる。かわいい目や顔の表情によって、彼の気持ちが理解できた。ヘンリーの表情は単純だったので、それもぼくにはわかりやすかった。それがぼくの自信につながり、彼といると安心できた。ヘンリーがいつもみんなの注目を求めたがっていたところがすごく好きだった。みんなが彼のことを褒めてくれて、ぼくにあれこれ話しかけてくるのは気分がよかった。』
また、下記はヘンリーがガードナー家に来た時のヌアラの感想です。
『1994年5歳8ヶ月ヘンリーが我が家にやってきた瞬間からデールにほんとうの変化が出てきたのを目にしていた。彼は迷子のひとりぼっちの子どもから幸せな少年にとつぜん変身してしまった。ついに彼に目的を与えてくれる友達ができたのだ。ヘンリーが我が家の敷居をまたぎ、彼の特別の魔法を発揮しはじめる前には考えられなかったほど我が家は活気づいてきた。ヘンリーが来て二日の終わりには、彼なしではやっていけないとみんなが感じていた。』


そして、もうひとつ非常に重要だったことは、ヘンリーだけでは十分でないと考えたことです。
『いまではデールも進歩をつづけ、わたしたちと会話ができるようになってきたが、ほんとうの友達がいないために生活に物足りないところがあるのは否定しようがなかった。もちろん彼には特別大切な犬の友達はいたが、それ以外には生活を分かち合う人がだれもいなかった。彼がずっとひとりぼっちなのだとしたら、どれだけ勉強しても、あまりに悲しく目的がないように思われた。』
この課題を解決してくれたのが、セント・アンソニー校の同じユニット入ってきて、デールが相談係となったライアンとテレビゲーム(ソニック・ザ・ヘッジホッグ)を通じて友になった健常者のロバートの二人でした。そして、これをきっかけにデールの社交性は徐々に広がっていくことになります。

 

画像出展:「SEGA

今回、あらためてネット検索したところ、いくつか興味深いサイトを見つけましたのでお伝えします。

付記

先月22日の日曜日は驚きの解散による総選挙の投票日でした。野党の突貫工事による成果は凸凹があり、既存政権の大勝という結果で終わりました。

ところで、同じ日、注目されていた村田諒太選手の世界タイトルマッチの再選が行われました。試合は村田選手の7回TKOにより、念願の世界チャンピオンベルトは村田選手の手に渡りました。
『自信とは努力と結果が結びついた時に生まれるもの』これは村田選手の言葉です。そして、「自信」とは安泰なものではなく、常に掴み取るものであると言っていました。

私は、何となく、「自信」は一つのゴールという認識をもっていたので、この言葉はとても新鮮でした。そして、「結果」とは「努力」による小さな変化であっても良いのではないかと思いました。

 

カザフスタンのゲンナジー・ゴロフキン選手が、ミドル級では世界最強といわれているチャンピオンです。今後、村田選手の目標となる選手のようです。

写真:USA TODAY Sports

「おこだでませんように」

「発達ナビ」という発達障害について様々な情報提供をされている優れたサイトがあります。
その中に、「大人の一方的な注意は、子どもにどんな影響を与えるのだろう」というコラムを目にする機会がありました。下記『』はその一部です。

『クラスではいつも1人で過ごし、授業中に脱走しても放置され、校庭の片隅に座っているところを、よく見かけました。ボランティアの帰りに体育館を覗くと、「〇〇君は悪い子です」と名指しで先生から怒られているのを、見たこともありました。
娘は彼のことが好きだったそうです。「だって〇〇君は、私がいじめられているとき助けてくれた」「あの子はいい子だ」と、私に教えてくれました。
ある日の読み聞かせの時でした。読み始めたとき、最初はいつものように、落ち着きなさそうにゴソゴソし、顔もそっぽを向いていた彼。話が進むにつれ、いつの間にか食い入るような目をし、聞いていました。

なかなか関心を示さない子が、興味を持った絵本とはどんなものだろうか?という疑問がわき、この絵本を購入してみることにしました。
今回のブログでは作者である、くすのき しげのり先生の「あとがき」の全文をご紹介し、その後に石井聖岳先生の5枚の絵を掲載させて頂きます。

あとがき
おこだでませんように
『そう書かれた小さな短冊を見たとき、私は涙が出そうになりました。短冊を書いた男の子は、いつも怒られているのでしょう。この子が、楽しいと思ってしたことや、いいと思ってしたことも、やりすぎてしまったり、その場にそぐわなかったり、あるいは大人の都合に合わないからと、結果として怒られることになってしまうのかもしれません。
でも、この子は、だれよりもよくわかっているのです。自分は怒られてばかりいることを。そして、思っているのです。自分が怒られるようなことをしなければ、そこには、きっとお母さんの笑顔があり、ほめてくれる先生や、仲間に入れてくれる友だちがいるのだと。
そんな思いをもちながら、それをお母さんや先生や友だちに言うのではなく、七夕さまの短冊に、一文字一文字けんめいに書いた「おこだでませんように」。この子にとって、それは、まさに天に向けての祈りの言葉なのです。
子どもたちひとりひとりに、その時々でゆれうごく心があります。そして、どの子の心の中にも、このお話の「ぼく」のような思いがあるのです。どうか、私たち大人こそが、とらわれのない素直なまなざしをもち、子どもたちの心の中にある祈りのような思いに気づくことができますように。』   

くすのき しげのり

 

作:くすのき しげのり

絵:石井聖岳

出版:小学館

ページ数は32ページ、上の文章は抜粋です。

 

ぼくは いつも おこられる。

いえでも がっこうでも……。

 

 

きのうも おこられたし……。

きょうも おこられてる……。

きっと あしたも おこられるやろ……。

 

 

ぼくは どないしたら おこられへんのやろ。

ぼくは どないしたら ほめてもらえるのやろ。

ぼくは……「わるいこ」なんやろか……。

 

ぼくは、しょうがっこうに にゅうがくしてから おしえてもらった ひらがなで、 たなばたさまに おねがいをかいた ひらがなで ひとつずつ こころを こめて……。

くすのき先生からのメッセージであるとらわれのない素直なまなざしをもち、子どもたちの心の中にある祈りのような思いに気づくことができますように」 

このことを大切にしたいと思いました。

感覚統合法の理論と実践

今回は『新・感覚統合法の理論と実践』の再チャレンジです。前回(2016年11月)は「前庭系と筋緊張」というタイトルで、前庭系を説明する時に参考としましたが、この本に対する全体の理解は低く、明らかに消化不良状態でした。 全編の理解度を高めるため、そして発達障害児へのマッサージを行ううえでの基礎知識を増やすため、あらためて読み直しました。

 

著者:坂本龍生・花熊 暁
出版:学習研究社
 
※掲載されている図、イラストに関し、「画像出展」の明記がないものは、全て『新・感覚統合法の理論と実践』からの出展になります。

目次

1.子どもの発達と感覚運動 (第1章の概要です)
2.感覚統合法理解の基礎 (第2章、3章より感覚統合理論を支える神経生理学について。他の本からも図などをもってきました)
3.触覚のしくみとその働き (第4章~6章については、触覚と固有覚を取り上げました)

4.固有覚のしくみとその働き
5.神経生理学を意識したマッサージ 
(脳幹、固有覚、触覚、前庭覚の視点からマッサージをどのように行えばよいか考えました)

ちなみに、この本の見出しは次の通りです。
理論編 
第1章 子どもの発達と感覚運動の指導 
 感覚運動指導の意義

 障害児の感覚運動課題
 生物としてのヒトの発達
 ヒトの運動系の発達と感覚統合
 ヒトの認知系の発達と感覚統合
第2章 感覚統合法理解の基礎 
 感覚統合法の背景
 感覚統合とは何か
 感覚統合過程
 感覚統合障害
 感覚統合指導の原理と方法

第3章 神経系のしくみとその働き 
 神経系の概要
 感覚統合の中枢としての脳幹
 感覚統合理論を支える神経生理学
第4章 前庭系のしくみとその働き 
 前庭系のしくみ
 前庭系の働き
 前庭系の特徴と指導上の意義
 前庭機能の評価
 前庭刺激指導の留意点

第5章 触覚系のしくみとその働き 
 日常生活を支える触覚情報
 体性感覚系のしくみと働き
 触覚系の発達
 触覚の異常と評価
 触覚系の異常への指導
第6章 固有感覚系のしくみとその働き 
 固有感覚系の働き
 固有感覚系の神経学的理解
 固有感覚系の臨床観察
 固有感覚系の指導

 

実践編 
第7章 発達の遅れた子どもへのアプローチ 
 精神遅滞児の感覚運動の特徴
 症例別に見た指導の実際

第8章 体の不自由な子どもへのアプローチ 
 臨床観察のポイント
 臨床像の理解と指導プログラム
 症例別に見た指導の実際

第9章 自閉的な子どもへのアプローチ 
 感覚の調整の障害とその評価
 症例別に見た指導の実際
第10章 感覚運動指導における認知とコミュニケーション 
 遅れの重い子どもへの配慮点
 認知面への配慮
 コミュニケーション面への配慮
終章 感覚統合法の研究動向とこれからの課題 
 感覚統合法の動向
 米国での論争
    障害児教育における意義と課題

1.子どもの発達と感覚運動       
 子宮の中は羊水の中に漂う無重力の世界。単調な母体の心音、腸音などの音の世界も、ほの暗くぼんやりとした光の世界も、劇的に変化します。羊水の感触は、温覚や触覚など種々の皮膚感覚が刺激される世界へと変わります。

 赤ちゃんは当初は生まれつき持っている反射や反応が助けてくれますが、徐々に感覚運動体験を積み、この多様性に富む複雑な世界に対し、柔軟に行動できるよう、自らの反応を複雑化していきます。 赤ちゃんの学習は感覚刺激への反応に始まり、動きの形で反応し、母親やその他の人々も含めた広い意味での環境との相互作用で成長します。基盤となる感覚運動発達は、姿勢、手指の巧緻運動と各部位(首、肩、肘など)の固定、感覚-運動-感覚間の統合(話を聞きながらノートに正しく書き取る等の総合的動作)などです。

 脳の研究やリハビリテーション学の進歩により、視覚や聴覚に加え、基本的な感覚ともいうべき触覚、固有覚、前庭覚の働きと様々な感覚間の情報統合が、子どもたちの発達の基礎となることが分かってきました。     

 動物が運動する場合、運動に関連して常に二つの感覚が必要です。一つは環境と自分との関係、一つは自分の中心と体の他の各部分との関係を教える感覚です。前者が前庭覚、後者が固有覚であり、これにより空間の中での運動が可能になります。

 50cm幅の溝を跳び越すとき、大げさに身構えて、1mも2mも跳ぶということはしません。視覚は溝の幅と接地点の状況を教え、足底は今踏んでいる地面の硬さを教えます。私たちは前庭覚や固有覚などから得た記録に基づき運動の計画を立て実行します。もし、この溝が2mであれば、運動はもっと慎重に計画されます。接地したときに、倒れないのは重力空間に対する頭部の位置関係、その位置を支える足の頭部に対する位置と運動の関係が入力により絶えずコントロールされているからです。

 

2.感覚統合法理解の基礎       
感覚統合法の背景
 感覚統合理論を支える神経生理学 
エアーズ(Anna Jean Ayres)は感覚の中でも、前庭覚、固有覚、触覚の三つが子どもの運動、情緒、認知、および言語発達の上で最も重要な初期の刺激であり、そのためには脳幹レベルの統合が重要であるとして、脳幹を感覚統合の中枢と位置付けています。

 

脳幹は下位の中枢神経で延髄・橋・中脳を含んでいます。また、脳幹網様体は脳幹の背中側にあり、白質でも灰白質でもなく、神経細胞体と神経線維が入り 交じって網目状をなしています。

脳幹は感覚の情報を受け、運動系、意識状態、情緒、自律調節に関わる、生命維持に不可欠な機能に関わっています。     

 

この絵では、青線は脳幹網様体に入ってくる情報、赤線は主な働きを示しています。そして、●は「神経核」を表しています。

網様体に存在している神経核から発する指令のうち、下行する橋網様体脊髄路(内側網様体脊髄路)伸筋の活動を高めます。同じく、下行する、外側の延髄網様体脊髄路(背側網様体脊髄路)屈筋の活動を高めます。

これらの指令は、γ運動ニューロンに接続し、筋肉の活動を調節することで歩行リズムの調節などを含む随意運動を円滑にさせます。

画像出展:「人体の正常構造と機能」 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上記3つの絵についてご説明します。

左上の図は、ブログ「前庭系と筋緊張」で使用したもので、『新・感覚統合法の理論と実践』の図を一部加筆したものです。また、他の2つは『人体の正常構造と機能』からの画像です。ここでは、前庭神経核についてご説明します。

この前庭神経核は脳幹の橋~延髄にまたがっており、対になっています。核は上核・下核・外側核・内側核と4つあり、内側核は頚髄から頚部の筋に、外側核は頚髄から腰髄の抗重力筋(脊柱起立筋など)に働きます。

耳にある前庭器官(半規管・耳石器)からの重力に関わる情報は、前庭神経核に伝わり、前庭脊髄路を興奮させ脊髄の反射回路を活性化させます。これにより、わずかな姿勢の崩れなどを認識し、抗重力筋に働きかけることで、姿勢を保持してくれています。

また、前庭神経核は眼球運動核(外転神経核・滑車神経核・動眼神経核)にもつながっています。これらの神経は眼を動かす筋肉、外眼筋(上斜筋・下斜筋・上直筋・下直筋・内側直筋・外側直筋)に作用します。

前庭覚・触覚・固有覚刺激の意義     
 前庭覚・触覚・固有覚の感覚系は、発達の初期段階で重要な役割を果たし、視覚と聴覚の発達や学習能力の発達の基礎を形成します。感覚統合法で問題とする脳幹の働きの改善にあたっては、これらの三つの感覚系からの入力は特に重要になります。
   
感覚統合指導      
 ヒトは、通常、運動したり遊んだりしているうちに刺激を感覚として入力しながら脳神経系が成熟していくので、そのための訓練を必要としているわけではありません。しかし、感覚と運動の不統合性が生じたときは、乳幼児であればあるほど適応反応がうまくいきませんし、発達が総じて遅れがちになります。したがって、そういう子どもたちの発達を支援するために、特別に構造化された環境を提供することが求められます。

     
感覚統合法の指導の中心原理     
 感覚統合の指導の基本的な原理は、感覚の入力、特に前庭覚や筋肉、関節などに存在する固有覚、あるいは触覚からの入力をできるだけ統合し、自発的な適応反応に高めるよう配慮し、それを制することを学ばせていくものです。指導していくための手掛かりとして、少なくとも次の6つの系列が重視されてきました。  
 ①触覚系と前庭系の健常化をはかること。    
 ②原始的姿勢反射(無意識に出る赤ちゃんの反応や姿勢)の統合を進めること。    
 ③平衡反応を発達させること。    
 ④視運動を正常化すること。    
 ⑤身体両側の感覚運動機能の協調性を高めること。    
 ⑥視覚的形態と空間知覚を発達させること。    
 感覚統合の指導は、ともすると遊戯療法と間違えられますし、学校では体育の授業ではないかという批判をよく受けます。しかし、感覚統合の指導は、活動のしかたや運動の技術を教えようとするものではありませんし、いわゆる教科的にいう体育でもありません。その根幹は、感覚入力のよりよい統合をはかるという目的的な治療行為であり、そのための観察、診断、指導プログラムが確立されています。

3.触覚系のしくみとその働き
日常生活を支える触覚情報                  
 私たちは周りの環境を知るためだけではなく、姿勢、情緒、覚醒状態などを調節するためにも、日常生活の中で触刺激をむしろ積極的に使っています。触覚は人が社会生活を維持するための基礎として働き、日常生活全般に影響を及ぼしています。

            

感覚の種類と感覚器                 
 「体性感覚」は、皮膚の表面で感じられる表在感覚と、もう少し深いところで感じる深部感覚を含めたものです。一方、「痛み」は痛みという刺激があるのではなく、圧迫や熱さなどの刺激が皮膚や深部の組織を損傷し、その時に出る発痛物質が痛みの感覚器に作用して痛みとして感じられます。

主な内因性発痛物質には、カリウムイオン、ブラジキニン、ヒスタミン、アセチルコリンなどがあります。カプサイシンは外因性発痛物質、PG(プロスタグランジン)は発痛増強物質となり、内因性発痛物質とは異なる物質です。

 

この表は、「触覚線維」と2つの「痛覚線維」を説明したものです。

触覚線維の特徴は、痛覚線維に比べ太くて(有髄Aβ線維)、速いというものです。

痛覚を伝える線維には鋭い痛みの一次痛を伝える高速タイプ(有髄Aα線維)と、鈍い痛みの二次痛を伝える低速タイプ(無髄C線維)の2種類があります。

これらの痛覚線維は、触覚線維と異なり、興奮性または抑制性に作用する神経伝達物質を伴います。表で紹介されている、Glu、SP、CGRPの3つはいずれも興奮性神経伝達物質です。抑制性伝達物質には、GABAやグリシンなどがあります。なかには受容体が興奮性か抑制性かを決める神経伝達物質もあり、これにはセロトニンやノルアドレナリンなどが該当します。

画像出展:「痛みと鎮痛の基礎知識[上]基礎編」

深部感覚に関係する筋肉からの情報は意識されにくく、圧迫、振動、運動覚、位置覚などは、筋肉の伸張状態を感知する筋紡錘や関節の感覚器(固有受容器)からの情報と皮膚の感覚の複合産物といえます。この他、触るだけでなく、指先を動かすことによって初めてわかる手触りや、物の形の弁別なども、指先の皮膚と指が動くときの筋肉および関節からの情報が、脳で統合されたことにより生じた感覚です。  

              
体性感覚の経路
意識できる体性感覚の経路-脊髄視床路と後索毛帯路                
意識できない体性感覚の経路                
原始感覚系と識別感覚系   

             
触覚系の発達

 胎生期の神経発達                 
 神経系の形成と組織化                
 受精後、四肢の出現に先立って、数週で神経系が形成され始め、3カ月目で口腔周辺への触刺激に対して、頭や体を後ろにのけ反らせる回避反射が出現します。反射は最も単純な感覚の処理のされ方ですが、この反射の出現は感覚入力と運動が結びつく回路ができていることを指しています。

回避反射はやがて吸啜・嚥下反射に変化し、生後の哺乳行動を準備します。この反射の防衛的なパターンから適応的なものへの変化は、神経系のフィードバック機構にその説明を求めることができます。刺激の入力によって引き起こされた運動反応は、最初の刺激に加え、筋肉からの新たな刺激を加えます。この繰り返しが神経線維の樹状突起の数を増やし、神経線維の髄鞘化を促進し、近隣のニューロンとの結びつきを密にします。その結果、反射の内容が変化していきます。    

 触覚と固有受容覚との統合                
 胎児は子宮内で、羊水、脂肪の膜などで何重にも保護されています。生後、これらの保護は突然取り外され、新生児にとって過剰な重力と刺激の溢れる世界で活動することになります。

して、まず体の内外の境界となる皮膚に保護機制が強く働くことになりますが、保護機制だけではうまく環境に適応していけません。反射の中には環境に積極的にかかわっていく運動パターンもいくつか身につけています。モロー反射や非対称性緊張性頚反射、緊張性迷路反射は屈曲優位な新生児期の姿